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事件 平成 12年 (ネ) 4200号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 アッセ株式会社
訴訟代理人弁護士 池原毅和
補佐人弁理士 田辺恵基
被控訴人 マイクロソフト株式会社
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 池田知美
訴訟復代理人弁護士 大島崇志
同 大岩直子
同 上山浩
補佐人弁理士 谷義一
同 新開正史
同 香島拓也
同 南条雅裕
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,3億2931万5067円及びこれに対する平成11年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,平成11年1月23日から,被控訴人製品であるマイクロソフトオフィスに含まれる原判決(別紙)目録一ないし三記載の各物件につき,上記各物件の製造販売停止に至るまで,同目録一及び二の各物件につきそれぞれ年7500万円の割合による,同目録三の物件につき年1億円の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨。
事案の概要
控訴人は,特許番号第2613766号の特許(キャラクタ弓形配列に関する特許。以下「第1特許」といい,その発明を「第1特許発明」という。),特許番号第2627886号の特許(多重キャラクタパターンに関する特許。以下「第2特許」といい,その発明を「第2特許発明」という。)及び特許番号第2799499号の特許(最終キャラクタ消去に関する特許。以下「第3特許」といい,その発明を「第3特許発明」という。)の特許権者である。
控訴人は,第1ないし第3特許の特許権に基づき,被控訴人が製造販売する原判決(別紙)目録一ないし三記載の各物件(以下,まとめて呼ぶときは「イ号各物件」という。)が,これらの特許権を侵害しているとして,被控訴人に対し損害賠償を求める訴えを提起した。原判決は,控訴人の請求を全部棄却した。
特許庁は,平成12年8月24日,第3特許を請求項1及び2のいずれについても無効とするとの審決をした。控訴人はこれを不服として東京高等裁判所に審決取消訴訟(同庁平成12年(行ケ)第393号)を提起し,同裁判所は,平成14年6月13日,控訴人の請求を棄却した。同判決に対し,上告受理の申立てがなされたが,平成14年10月24日,上告不受理の決定がなされ,同判決は確定した。控訴審における第12回口頭弁論期日において,控訴人は,第3特許の特許権に基づく訴えを取り下げると述べ,被控訴人は,これに同意しないと述べた。
特許庁は,平成12年8月24日,第1特許を無効とするとの審決をした。
控訴人は,これを不服として東京高等裁判所に審決取消訴訟(同庁平成12年(行ケ)第392号)を提起した。同裁判所は,平成14年9月12日,控訴人の請求を棄却した。同判決に対し,上告受理の申立てがなされ,同申立てに基づく事件は,最高裁判所に係属中である。控訴人は,控訴審における第12回口頭弁論期日において,第1特許の特許権に基づく訴えの取下げを検討していると述べた。
事案の概要及び当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
なお,当裁判所も「イ号物件1」,「イ号物件2の1ないし3」を,原判決の用法に準じて用いる。
1 当審における控訴人の主張の要点 (1) 第1特許の特許権に基づく請求について ア 原判決は,イ号物件1の構成は,第1特許発明の採用する,3点の入力データを用いてキャラクタ配列軌跡を演算する構成と異なる,と認定判断した。
しかしながら,イ号物件1において,描画始点から高さ点を通って,描画終点に至るまでの楕円軌跡上に,入力されたキャラクタを割り付けるためのデータの処理が順次なされていることは,そのプログラムの解析結果から明らかである。
イ 第1特許について無効事由が存在することが明白であるとは認められない。
(2) 第2特許の特許権に基づく請求について ア イ号物件2の1について 原判決は,イ号物件2の1が,@幅比率を求めること,A第1のキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のキャラクタデータを求めること,B第2の原点データを求めること,の構成要件を充足していることを,認めることができない,と認定し,その根拠として,@ないしBの構成要件は画面表示からは必ずしも明らかでないこと,ワード97の発売時に,第2特許発明以外の描画方法(一定の太さの丸いペンで描画する(Display Postscript))が公知であったこと,を挙げている。
しかしながら,イ号物件2の1は,表示画面上,変化幅「0」を選定することにより,幅比率として「1」を求め,第1のキャラクタパターンに幅比率1を乗算して第2のキャラクタパターンを得,これを第1のキャラクタパターン上に重ね合わせて表示している。イ号物件2の1は,第1のキャラクタに幅比率1を乗じた第2,第3のキャラクタを演算し,その原点を1ドットずつ移動する演算を繰り返している。したがって,イ号物件2の1は,第2特許の構成要件を充足している。
イ号物件2の1が@ないしBの構成要件が有するのと実質上同一の機能をアプリケーションソフト「WinWord」のプログラムによって実行していることは,そのプログラム解析結果(甲第39,第42号証等参照)から明らかである。
イ イ号物件2の2について 原判決は,イ号物件2の2が,@幅比率を求めていること,A第1のキャラクタパターンデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めること,の構成要件を充足していることを,認めることができない,と認定し,その根拠として,@,Aの構成要件は画面表示からは必ずしも明らかでないこと,幅比率が「1」であるから乗算をしなくとも第2のキャラクタを得ることができること,公知技術(Display Postscript)によっても線幅が広い点線を描画することができること,を挙げている。
しかしながら,イ号物件2の2は,表示画面上,変化幅を「0」として幅比率「1」を求め,赤文字の輪郭である第1のキャラクタパターンにこの幅比率1を乗算して点線の配列位置を決め,点線となる多角形を配列して,多角形に黒色を塗ることにより第2のキャラクタパターンを得,これを第1のキャラクタパターンの上に重ね合わせて表示しているから,第2特許の構成要件を充足している。
イ号物件2の2が@,Aの構成要件を充足していることは,そのプログラム解析結果(甲第40,第43,第50号証等参照)から明らかである。
ウ イ号物件2の3について 原判決は,イ号物件2の3が,@変化幅だけ離間した位置を指定して幅比率を求めること,A第1のキャラクタパターンデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること,の構成要件を充足していることを,認めることができない,と認定し,その根拠として,@,Aの構成要件は画面表示からは必ずしも明らかではないことを挙げている。
しかしながら,イ号物件2の3は,表示画面上,変化幅を決めて,幅比率「1.25」を求め,赤色の文字の輪郭である第1のキャラクタパターンに幅比率1.25を乗算して第2のキャラクタパターンを求め,第1のキャラクタパターンの左上方にずらせた位置に第2のキャラクタパターンの原点データをずらすとともに,第1のキャラクタデータの後ろ左上方に第2のキャラクタパターンを重ね合わせて表示しているから,第2特許の構成要件を充足している。
イ号物件2の3が@,Aの構成要件が有するのと実質上同一の機能をアプリケーションソフト「WinWord」のプログラムとして実行していることは,そのプログラム解析結果(甲第34,第44,第49号証等参照)から明らかである。
(3) 第3特許の特許権に基づく請求について 第3特許を請求項1及び2のいずれについても無効とした審決が確定したことは認める。
2 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 第1特許の特許権に基づく請求について ア 控訴人が提出した主張及び証拠は,およそ,イ号物件1が第1特許の構成要件を充足することを立証することができるようなものではない。
イ 第1特許は,明らかな無効事由を有しており,このように明らかな無効事由を有する特許権に基づく請求は,権利の濫用に当たり許されない(最高裁判所平成10年(オ)第364号事件平成12年4月11日第3小法廷判決)。
特許庁は,第1特許の無効審判請求事件について,平成12年8月24日,同特許を無効とするとの審決をした。控訴人は,同審決の取消訴訟を提起したが(東京高等裁判所平成12年(行ケ)第392号),東京高等裁判所は,平成14年9月12日,第1特許は,特開昭61-95952号公報に記載された事項に基づいて容易に推考し得たとした審決の認定判断に誤りがないとの理由により,控訴人の請求を棄却する判決をした。
上記の事実に照らせば,第1特許が進歩性を欠くという無効事由を有していることは明らかというべきであり,このような特許権に基づく控訴人の請求は権利の濫用に当たり,許されない。
(2) 第2特許の特許権に基づく請求について ア イ号物件2の1について (ア) イ号物件2の1が第2特許の構成要件を充足しないことは,控訴人提出のプログラム解析結果等の証拠を検討するまでもなく明らかである。
(イ) 控訴人が解析結果として列挙した関数の,どの部分が,どうして,第2特許の構成要件である「幅比率を求める」及び「幅比率を乗算する」に該当するか,についての説明は,控訴人が提出した主張及び証拠のどこにも記載されていない。むしろ,逆に,例えば,甲第42号証の7頁25行〜26行には,「結論としては,太線に関するものは倍率計算を実行している処理に関してはここでは見つけられていない。」との記載があり,控訴人自身,イ号物件2の1において用いられているのが「太さという変数」であることを自認し,そこで「幅比率を求める」という処理が行われていることを見つけていないことを認めている。
控訴人が提出した主張及び証拠は,およそ,イ号物件2の1が第2特許の構成要件を充足することを立証することができるようなものではない。
イ イ号物件2の2について (ア) イ号物件2の2が第2特許の構成要件を充足しないことは,控訴人提出のプログラム解析結果等の証拠を検討するまでもなく明らかである。
(イ) 控訴人が解析結果として列挙した関数のどの部分が,どうして,第2特許の構成要件である「幅比率を求める」及び「幅比率を乗算する」に該当するか,についての説明は,控訴人が提出した主張及び証拠のどこにも記載されていない。
控訴人が提出した主張及び証拠は,およそ,イ号物件2の2が第2特許の構成要件を充足することを立証することができるようなものではない。
ウ イ号物件2の3について (ア) イ号物件2の3が第2特許の構成要件を充足しないことは,控訴人提出のプログラム解析結果等の証拠を検討するまでもなく明らかである。
(イ) イ号物件2の3は,第1のキャラクタパターンの内側又は外側に所定の変化幅だけ離間した位置を指定したり,第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めたり,ということは行っていない。
控訴人が提出した主張及び証拠は,およそ,イ号物件2の3が第2特許の構成要件を充足することを立証することができるようなものではない。
(3) 第3特許の特許権に基づく請求について 特許庁は,平成12年8月24日,第3特許を請求項1及び2のいずれについても無効とするとの審決をした。控訴人は,同審決の取消訴訟を提起したが(東京高等裁判所平成12年(行ケ)第393号),東京高等裁判所は,平成14年6月13日,控訴人の請求を棄却する判決をした。控訴人は同判決について,上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成14年10月24日,同申立てを受理しないとの決定をした。これにより,第3特許を無効とした審決は確定し,この結果,第3特許は初めから存在しなかったことになる(特許法125条本文)。控訴人の第3特許に基づく請求は,存在しない権利に基づく請求であるから,理由がない。
当裁判所の判断
1 第1特許の特許権に基づく請求について 特許庁は,平成12年8月24日に第1特許を無効とするとの審決をしたこと,控訴人は,これを不服として東京高等裁判所に審決取消訴訟(同庁平成12年(行ケ)第392号)を提起し,同裁判所は,平成14年9月12日,控訴人の請求を棄却したこと,同判決に対し,上告受理の申立てがなされ,同申立てに基づく事件は最高裁判所に係属中であること,は当事者間に争いがない。
上記審決(乙第50号証)は,第1特許発明と特開昭61-95952号公報(審判甲第1号証。本訴乙第57号証)記載の発明(以下「引用発明」という。)とを対比して, 両者は,描画すべきキャラクタ列の各キャラクタデータを入力する手段と,上記キャラクタ列を弓型に配列すべきことが指定されているとき,データを入力する手段と,上記キャラクタ配列軌跡上に上記キャラクタ列の各キャラクタを割り付けるとともに,当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段と,上記キャラクタ列の上記割り付けられた一つのキャラクタと,次のキャラクタとの関係で,間隔を変更するか否かを判断する手段と,間隔の変更が必要であるとの判断結果が得られたとき,次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段とを備えることを特徴とする版下デザイン装置である点 において一致し, @第1特許発明では上記キャラクタ列のうち最初のキャラクタの描画始点を表す第1点の位置と,上記キャラクタ列のうち最後のキャラクタの描画終点を表す第2点の位置と,描画すべき弓型配列の高さを表す第3点の位置とを指定するデータを入力するのに対し,引用発明では,円弧の半径とセグメントSの長さとを入力する点(相違点A),A第1特許発明は,上記第1点から第3点を通って上記第2点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算する手段であるのに対して,引用発明ではそのような記載がない点(相違点B) で相違する,と一致点及び相違点を認定した。その上で,同審決は,相違点Aについては,第1特許発明と引用発明とでは,数学的な手法に差異はあるものの,いずれの手法を選択するかは当業者が適宜決定できる設計的な事項にすぎないから,実質的な差異は認められず,引用発明には相違点Aに係る第1特許発明の構成が開示されているといい得る,相違点Bについては,引用発明では,既に円弧が定まっているから,改めて,軌跡を演算する必要がないにすぎず,格別の技術的意義があるわけではない,と述べて,引用発明から第1特許発明を推考することは,当業者が容易になし得たことである,等として,第1特許発明進歩性を否定したものである。
第1特許発明進歩性を否定した審決の上記判断の内容自体,及びこの判断が東京高等裁判所の判決によって支持されている事実を併せ考慮すると,反対の結論に導く特別の事情が認められない限り,第1特許が無効事由を有していることは明らかというべきである。本件全証拠を検討しても,上記事情を見いだすことはできない。
このような明らかな無効事由を有する第1特許の特許権に基づく請求は,権利の濫用に当たり許されないというべきである。
2 第2特許の特許権に基づく請求について 第2特許の特許権に基づく請求については,次のとおり付加するほか,原判決74頁8行ないし83頁9行に記載のとおりであるから,引用する。
(1) イ号物件2の1について ア 第2特許の構成要件を分節すると,次のとおりである。
(ア) 基準の第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を表すキャラクタデータでなる第1のデザインデータに基づいて上記第1のキャラクタパターンの内側又は外側に所定の変化幅だけ離間した位置を指定し, (イ) 上記第1のキャラクタパターンの幅を表す第1のキャラクタ幅とこの第1のキャラクタ幅から上記変化幅を減算し又は加算して得られる第2のキャラクタ幅との幅比率を求め, (ウ) 上記第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を表すキャラクタデータに上記幅比率を乗算することにより上記第1のキャラクタパターンの内側又は外側に重複する第2のキャラクタパターンの表示点の位置を表すキャラクタデータでなる第2のデザインデータを求めるとともに, (エ) 上記第1のキャラクタパターンの原点を表す第1の原点データと上記変化幅を表す変化幅データとに基づいて上記第2のキャラクタパターンの原点を表す第2の原点データを求め, (オ) 上記第1の原点データに基づいて描画される上記第1のキャラクタパターン上に重複して上記第2の原点データに基づいて上記第2のキャラクタパターンを描画することにより上記第1及び第2のキャラクタパターンでなる多重キャラクタパターンを作成する (カ) ことを特徴とする版下デザインデータ作成方法 イ 控訴人は,@イ号物件2の1は,表示画面上,変化幅「0」を選定することにより,幅比率として「1」を求め,第1のキャラクタパターンに幅比率1を乗算して第2のキャラクタパターンを得,これを第1のキャラクタパターン上に重ね合わせて表示している,と主張する。
しかしながら,変化幅「0」を選定することが,構成要件(ア)の「第1のキャラクタパターンの内側又は外側に所定の変化幅だけ離間した位置を指定し」との要件を充足しないことは,文言上,明らかである。変化幅を「0」とした場合に,「内側又は外側に」,「離間」した位置を指定した,ということはできないからである。文言から導かれるこのような解釈の妨げとなるものは,第2特許に係る明細書及び図面(甲第3号証参照)を始めとする本件全資料を検討しても,見いだすことができない。したがって,原告がイ号物件2の1が採用していると主張する上記方法は,第2特許の構成要件(ア)を充足しない。
控訴人は,イ号物件2の1は,第1のキャラクタに幅比率1を乗じた第2,第3のキャラクタを演算し,その原点を1ドットずつ移動する演算を繰り返している,と主張する。しかしながら,幅比率が1であれば,変化幅は0となり(構成要件(イ)),第1のキャラクタパターンの原点と第2のキャラクタパターンの原点とを表すそれぞれの原点データとは一致することになる(構成要件(エ))。原点データが一致するということは,第2のキャラクタパターンは第1のキャラクタパターンと同一の原点データに基づき描かれることになる(構成要件(オ))。控訴人がイ号物件2の1が採用していると主張する,幅比率を1としながら,原点を移動する演算を繰り返す,との方法は,第2特許の構成要件(エ)及び(オ)を充足しない。
ウ このように控訴人がイ号物件2の1が採用していると主張する方法は,そもそも第2特許の構成要件を充足しないから,イ号物件2の1が第2特許を侵害するとの控訴人の主張は,主張自体失当であり,その余の点について検討するまでもなく理由がないことが明らかである。
(2) イ号物件2の2について 控訴人は,イ号物件2の2は,表示画面上,変化幅を「0」として幅比率「1」を求め,赤文字の輪郭である第1のキャラクタパターンにこの幅比率1を乗算して点線の配列位置を決め,点線となる多角形を配列して,多角形に黒色を塗ることにより第2のキャラクタパターンを得,これを第1のキャラクタパターンの上に重ね合わせて表示しているから,第2特許の構成要件を充足している,と主張する。
しかしながら,変化幅「0」を選定することが,構成要件(ア)の「第1のキャラクタパターンの内側又は外側に所定の変化幅だけ離間した位置を指定し」との要件を充足しないことは,文言上,明らかである。変化幅を「0」とした場合には,「内側又は外側に」,「離間」した位置を指定した,ということはできないからである。文言から導かれるこのような解釈の妨げとなるものは,第2特許に係る明細書及び図面(甲第3号証参照)を始めとする本件全証拠によっても,見いだすことができない。したがって,原告がイ号物件2の2が採用していると主張する上記方法は,第2特許の構成要件(ア)を充足しない。
イ号物件2の2が第2特許を侵害するとの控訴人の主張は,イ号物件2の2についての控訴人の主張は,主張自体失当であり,その余の点について検討するまでもなく理由がないことが明らかである。
(3) イ号物件2の3について ア イ号物件2の3において影文字を指定する方法は,影指定アイコン(弁論の全趣旨によれば,イ号物件の2の3における影指定アイコンは,別紙2のとおりのものであることが認められる。)により,第1のキャラクタパターンに対して種々の影を付けるためにあらかじめ用意された複数の影スタイルの中から特定の影スタイルを選択する,というものである。
控訴人は,イ号物件2の3は,変化幅を決めて,幅比率を求め,赤色の文字の輪郭である第1のキャラクタパターンに幅比率を乗算して第2のキャラクタパターンを求め,第1のキャラクタパターンの左上方にずらせた位置に第2のキャラクタパターンの原点データをずらすとともに,第1のキャラクタデータの後ろ左上方に第2のキャラクタパターンを重ね合わせて表示している,と主張する。
イ 第2特許の特許請求の範囲の記載は,前記のとおりである。そこには,「変化幅」,「幅比率」及び「第2の原点データ」の関係について,変化幅を設定し,この設定した変化幅に基づき幅比率(第1のキャラクタ幅に変化幅を加算又は減算した第2のキャラクタ幅と第1のキャラクタ幅との幅比率を求める。)及び第2の原点データ(第1のキャラクタパターンの原点を表す第1の原点データと変化幅データとに基づいて第2のキャラクタパターンの原点を表す第2の原点データを求める。)を求めることは記載されているものの,それにとどまり,その具体的な内容,方法については,特許請求の範囲の記載自体から一義的に明らかであるとすることはできない。
第2特許の明細書(甲第3号証の特許公報参照)の発明の詳細な説明の記載中には,多重文字の作成の実施例(甲第3号証13欄13行〜18欄9行)について,次のとおりの記載がある。
(ア)「例えば第4図について上述したように入力された文字列のうち,第2文字「T」が例えば3つの文字パターンを重複させてなる3重文字である場合,CPU2は・・・文字「T」を処理する際に,・・・文字本体D1の大きさ(すなわち第1のキヤラクタパターン幅)XN及びY Nが設定された文字パターンCA1の内側に,第2の文字パターンCA2及び第3の文字パターンCA3を順次隅取りしたような文字をデザインする。ここで,第1の文字パターンCA1のX方向のキヤラクタパターン幅XN及びY方向のキャラクタパターンY Nに基づいて,重複幅ΔNX及びΔN Yのデータを入力すると共に,多重数K=3を設定入力することによって第2及び第3の文字パターンCA2及びCA3のデータを演算により作成する。・・・やがてデザイナが多重数K(=3)を入力し,続くステツプSP44Cにおいて重複幅ΔNX,ΔN Yを入力し,さらに続いてステツプSP44Dにおいて重複文字パターンを内側に形成すべきであるか,又は外側に形成すべきであるかを表す重複方向データ「-」又は「+」を入力すると・・・・」(13欄13行〜14欄7行) (イ)「このステツプSP44Eは,重複幅データΔNX,ΔNYから,各文字パターン相互間のX方向の変化幅ΔX及びY方向の変化幅Δ Y(第11図・判決注・別紙1参照)を,次式 を演算することによって求める。」(14欄30行〜13欄40行) (ウ)「続いてCPU2は,ステツプSP44Fに移って現在処理している K1番目の文字パターンのX及びY方向の大きさの比率を求める。この演算は,先ず現在作成しようと(し)ている文字パターンのX方向のキヤラクタ幅(すなわち横幅)XNK1 を次式 XNK1=XN±(K1 -1)×2ΔX ……(3) によつて求めると共に,Y方向のキヤラクタ幅(すなわち縦幅) YNK1 を次式 XNK1 =X N±(K 1 -1)×2Δ Y ……(4) (判決注・式(4)中の,XNK1 はY NK1 の,X NはY Nの誤記と認める。) によつて求め,その演算結果に基づいて基準の文字パターンCA1のX方向のキヤラクタ幅に対する比率(すなわち横比)RXNK1 を次式 によつて求めると共に,Y方向のキヤラクタ幅に対する比率(すなわち縦比)RYNK1 を次式 によつて求める。」(13欄41行〜15欄4行) (エ)「続いてCPU2はステツプSP44Hに移つて現在処理している文字パターンの原点ONK1 を求める。この処理は,基準の文字パターンCA1の原点OK1 に対してX方向に次式 XSFK1 = (K 1-1)Δ X ……(7) で表される原点シフト量XSFK1 を求めると共に,Y方向の原点シフト量YSFK1 を次式 YSFK1 = (K 1-1)Δ Y ……(8) によつて求め,この原点シフト量XSFK1 及びY SFK1 を基準の文字パターンCA1の原点OX1 の位置座標に加算又は減算することにより,原点O NK1 の位置座標を求めることができる。
かくしてCPU2は現在処理しているK1回目の文字パターンを描画するためのデータを得ることができ,そのデータを用いて基準の文字パターンデータに対してX方向の比率RXNK1 及びY方向の比率R YNK1 を乗算することによつて原点ONK1 に基づく描画データを演算してデザインデータレジスタ2Bに書き込む。」(15欄5行〜21行) (オ)「(e)他の実施例 (1)上述の実施例においては,X方向の変化幅ΔX及びY方向の変化幅ΔYを互いに等しい値に選定した場合について述べたが,Δ X及びΔ Yの値を互いに異なる値に選定しても良い。
(2)上述の実施例においては,第1の文字パターンCA1及び第2の文字パターンCA2間の変化幅と,第2の文字パターンCA2及び第3の文字パターンCA3間の変化幅とを互いに等しい値に選定した実施例について述べたが,これを必要に応じて異なる値に選定しても上述の場合と同様の効果を得ることができる。
(3)上述の実施例においては標準の文字パターンCA1に対して内側に第2及び第3の文字パターンCA2及びCA3を重複させるようにした実施例について述べたが,これに代え基準の文字パターンCA1の外側に第2及び第3の文字パターンCA2及びCA3を重複させるようにしても上述の場合と同様の効果を得ることができる。
(4)上述の実施例においては,アルファベツト文字,数字,記号でなる文字列について多重文字を形成するようにした実施例について述べたが,本発明はこれに限らず,アルファベツト文字,数字,記号は勿論のこと,平がな,片かな,図形などのデザイン要素を含んだキヤラクタでなるキヤラクタ列を用いてデザインする場合に広く適用し得る。
(5)上述の実施例においては,本発明をスポーツシヤツにキヤラクタをデザインする場合の実施例を述べたが,本発明はこれに限らず,版下をデザインする場合に広く適用し得る。
(6)上述の実施例においては,設定重複数KをK=3とした実施例について述べた,Kの値は必要に応じて2以上に設定し得る。」(17欄13行〜18欄9行) ウ 第2特許の明細書中には,上に認定した発明の詳細な説明中の実施例の記載以外には,第2特許における,「変化幅」,「幅比率」及び「第2の原点データ」の具体的関係について説明した記載はない(甲第3号証)。
そうだとすると,第2特許に係る構成要件技術的意義が,上記実施例記載の方法以外の方法についても存し得ることが当業者に自明であることが,明らかにされない限り,上記実施例に該当する方法以外の方法を,第2特許の構成要件を充足するものと認めることは,できないというべきである。実施例によってしかその技術的意義が明らかにされていない事項につき,当該実施例に関する記載を含む明細書の記載から当業者に自明な範囲を越えて特許権の効力を及ぼすことは,情報の開示に見合う範囲で独占権を与えることにより特許権者と第三者との利害を調整しようとする特許法の目的に沿わないことが明らかであるからである。
ところが,第2特許に係る構成要件技術的意義実施例記載の方法以外の方法についても存し得ることも,そのことが当業者に自明であることも,本件全証拠によっても認めることができない。
別紙2記載のイ号物件2の3における影指定アイコンに記載された影文字の配置は,いずれも,上記実施例記載の方法では実現できないことは明らかである。上記実施例において,作成された文字パターンの中心点は基準の文字パターンの中心点と重複し,イ号物件2の3の影文字のように中心点がずれることはないからである。
控訴人は,変化幅を決めて,幅比率を求め,第1のキャラクタパターンに幅比率を乗算して第2のキャラクタパターンを求め,第1のキャラクタパターンの左上方にずらせた位置に第2のキャラクタパターンの原点データをずらすとともに,第1のキャラクタデータの後ろ左上方に第2のキャラクタパターンを重ね合わせれば,イ号物件2の3の影文字を作成することができる,と主張する。しかしながら,このような方法が上記実施例記載の方法に当たらないことは,上述したところに照らし明らかである。
以上のとおりであるから,その余の点について検討するまでもなく,イ号物件2の3が第2特許を侵害するとの控訴人の主張は理由がないことが明らかである。
3 第3特許の特許権に基づく請求について 特許庁は,平成12年8月24日に第3特許を請求項1及び2のいずれについても無効とするとの審決をしたこと,控訴人はこれを不服として東京高等裁判所に審決取消訴訟(同庁平成12年(行ケ)第393号)を提起し,同裁判所は,平成14年6月13日,控訴人の請求を棄却したこと,同判決に対し,上告受理の申立てがなされたが,平成14年10月24日に上告不受理の決定がなされ,同判決が確定したことは,当事者間に争いがない。
このように,第3特許については,これを無効とした審決が確定したのであるから,第3特許の特許権に基づく控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。
結論
以上のとおり,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久