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関連審決 異議2000-71706
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 104号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社東芝
訴訟代理人弁理士 大胡典夫
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 東森秀明
同 平井良憲
同 山口由木
同 高木進
同 大橋良三
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-71706号事件について平成13年1月24日にした特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「液晶表示素子」とする特許第2967810号の特許(平成8年12月2日,昭和63年4月19日にした特許出願(以下「本件原出願」という。)の一部を新たな特許出願(以下「本件出願」という。)としたもの,平成11年8月20日に特許権設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許の請求項1,2について,特許異議の申立てがなされた。特許庁は,これを異議2000-71706号事件として審理し,その結果,平成13年1月24日に,「特許第2967810号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年2月13日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 「【請求項1】 一主面上に複数個の能動素子とこれに接続された画素電極とがそれぞれ配設され且つ前記能動素子及び前記画素電極の周りには配線が形成された能動素子基板と,この能動素子基板と対向して配置された共通電極を一主面上に有する対向基板と,前記能動素子基板と前記対向基板との間に挟持された液晶分子を含む液晶組成物とを有し,前記能動素子基板と前記対向基板の一主面上に互いの配向軸が概略90°をなし前記液晶分子に所定のプレチルトを付与するよう配向処理がそれぞれ施された液晶表示素子において,前記対向基板は,前記能動素子基板に対して概略平行な横方向電界が前記液晶分子の前記プレチルトに逆らう領域に生じるディスクリネーションラインに沿って少なくとも前記領域を遮光する遮光部を備えたことを特徴とする液晶表示素子。」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】 前記遮光部は前記能動素子基板の前記能動素子及び前記配線と平面的に重なるマトリクス状であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示素子。」(以下「本件発明2」という。) 3 決定の理由の要点 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明1,2は,いずれも特開昭62-116921号公報(甲第3号証。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。),特開昭62-262026号公報(甲第4号証。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。),特開60-260020号公報(甲第5号証。以下「刊行物3」という。)記載の発明(以下「刊行物3発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件発明1と刊行物1発明との一致点・相違点は,次のとおりである(この認定については,当事者間に争いがない。)。
(一致点) 「一主面上に複数個の能動素子とこれに接続された画素電極とがそれぞれ配設され且つ前記能動素子及び前記画素電極の周りには配線が形成された能動素子基板と,この能動素子基板と対向して配置された共通電極を一主面上に有する対向基板と,前記能動素子基板と前記対向基板との間に挟持された液晶分子を含む液晶組成物とを有し,前記能動素子基板と前記対向基板の一主面上に互いの配向軸が概略90°をなし前記液晶分子に所定のプレチルトを付与するよう配向処理がそれぞれ施された液晶表示素子である点」 (相違点) 1「本件発明1では,「能動素子基板に対して概略平行な横方向電界が前記液晶分子の前記プレチルトに逆らう領域」に生じるディスクリネーションラインに沿って少なくとも前記領域を遮光しているのに対して,刊行物1に記載の発明(判決注・刊行物1発明)では,「エッジドメイン現象による不良表示部」を視野から消している点」(以下「相違点1」という。)。
2「本件発明1は,対向基板に遮光部を形成しているのに対して,刊行物1発明は,薄膜トランジスタ(能動素子)を不良表示部に重なるように配置している点」(以下「相違点2」という。)。
本件発明2についての判断も,上記一致点及び相違点の認定を前提としてなされたものである。
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「1.手続の経緯」,「2.本件発明」,「3.異議申立の理由の概要」,「4.取消理由通知に引用した刊行物に記載の発明」は認める。
「5.対比・判断」のうち,本件発明1と刊行物1発明との一致点及び相違点の認定(決定書5頁1行〜25行)は認め,相違点の判断(同5頁26行〜7頁9行)は争う。「4.むすび」は争う。
決定は,刊行物1の記載内容の認定を誤り,その結果,相違点1,2についての判断を誤ったものであり,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 刊行物1記載の「エッジドメイン現象による不良表示部」の発生原因についての認定の誤り 決定は,刊行物1には,「エッジドメイン現象による不良表示部」が電極エッジ部分での垂直方向の電気力線の拡がりに起因したものであるとの記載もこれを示唆する記載もない,と認定した(決定書6頁15行〜24行)。
刊行物1には,「エッジドメイン現象」が,いかなる原因に基づき,いかなる領域に生じるものであるかについての直接的な記載はない。同刊行物にいう「エッジドメイン現象」がいかなるものであるかは,本件出願時(正確には,本件原出願時である。以下,時期に係る事項につき用いられる「本件出願」は,「本件原出願」を意味する。)における当業者の認識を前提にして認定すべきである。
本件出願前に公開された特開昭54-159196号公報(甲第6号証)及び特開昭59-202433号公報(甲第7号証)には,エッジドメイン現象が,液晶表示素子において,液晶層を挟んで対向する電極間の電極エッジ部分での垂直方向の電気力線の拡がりに起因するものであることが記載されているから,本件出願当時刊行物1に接した当業者は,そこに記載された「エッジドメイン現象」も同じ原因に基づき発生するものであると認識したはずである。
本件出願当時,当業者においては,液晶の配向不連続性は,表示電極の端部における電気力線分布のうち垂直方向の電気力線の拡がりによってのみ引き起こされると認識されていたのであり,このような現象が横方向電界によって引き起こされるとは全く認識されていなかった(甲第8ないし第10号証参照)。
このような本件出願当時の技術水準からすると,当業者は刊行物1に記載の「エッジドメイン現象」を電極エッジ部分での垂直方向の電界の拡がりに起因して液晶の配向不連続性が生起されるものと把握したと考えるべきである。
決定の上記認定は誤りである。
2 刊行物1発明の「エッジドメイン現象による不良表示部」と本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」とが同様の位置関係にあるとの認定の誤り 決定は,上記1の認定に基づき,刊行物1発明における「エッジドメイン現象による不良表示部」は,本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」と同様の位置関係にあると認定した(決定書5頁28行〜6頁3行)。
しかしながら,1で述べたとおり,刊行物1発明の「エッジドメイン現象」は電極のエッジ部分での垂直方向の電気力線の拡がりに起因したものであるのに対し,本件発明1における「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」は能動素子基板に対して概略平行な横方向電界に起因したものであるから,両者は,その発生の原因を全く異にする。
刊行物1発明における垂直方向の電気力線の拡がりに起因する「エッジドメイン現象」は,電極の角部分で生じ,画素内部に大きく拡がりを見せるものではない。
これに対し,本件発明1における,「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」は,角部に限定されず,例えば配線に隣接する画素電極の端部に沿って延在するものである。さらに,横方向電界は,面内方向での強制的な配列とともに,垂直方向での配列の両方に影響を及ぼすことから,電界の大小にもよるが,弾性エネルギーの集中が大きくなり,このため画素電極内部まで大きく拡がる。
このように刊行物1発明における「エッジドメイン現象による不良表示部」と本件発明1における「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」とは,全く異なる。
刊行物1に,本件発明1と同様の位置関係の領域が図示されているとした決定の認定は誤りである。
3 まとめ(相違点1,2についての判断の誤り) 以上のとおり,刊行物1記載の「エッジドメイン現象による不良表示部」と本件発明1における「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」とは,その発生原因が異なり,これに伴って,発生する領域も全く異なる。
(1) 相違点1の判断について 上に述べたところによれば,決定が,本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」には,刊行物1記載の「エッジドメイン現象による不良表示部」が含まれる,として,本件発明1と刊行物1発明との相違点1は格別なものではない(決定書6頁4行〜8行),と判断したのは,誤りである。
(2) 相違点2の判断について 刊行物1発明の「エッジドメインによる不良表示部」を刊行物2発明の遮光部により遮光することを考えることができるとしても,上記のとおり,刊行物1発明の「エッジドメインによる不良表示部」は本件発明1とはその発生原因及び領域を全く異にするものであるから,その組合せによって遮光されるのはせいぜい電極の角部分にのみ生起される「エッジドメインによる不良表示部」にすぎず,本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」まで遮光されることはない。
刊行物1及び2を組み合わせたとしても,本件発明1に容易に想到することはできないから,決定の相違点2の判断は誤りである。
(3) 本件発明2について 上に述べたところによれば,本件発明2についての判断も誤りであることが明らかである。
被告の反論の骨子
1 刊行物1記載の「エッジドメイン現象による不良表示部」の発生原因についての認定の誤り,の主張について 刊行物1記載の「エッジドメイン現象」は,特開昭54-159196号公報(甲第6号証)及び特開昭59-202433号公報(甲第7号証)に記載された「エッジ・ドメイン現象」を引き起こすのとは全く異なる電気力線分布によって引き起こされる現象であるから,「電極エッジ部分での垂直方向の電気力線の拡がりに起因して液晶の配向不連続性が生起される現象」であると解釈することはできない。
2 刊行物1発明の「エッジドメイン現象による不良表示部」と本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」とが同様の位置関係にあるとの認定の誤り,の主張について 刊行物1記載の液晶表示素子の基板の構成及び配向処理は,本件発明1のそれと一致している。刊行物1は,このような液晶表示素子において「表示電極のエッジ部と重複する位置に生ずる液晶分子配向の反転現象」(甲第3号証1頁左下欄14行〜15行参照)そのものを「エッジドメイン現象」と表現しているのである。この現象は,本件発明1の画素端部における「液晶分子の配列不整に関係する現象」(甲第2号証2頁右欄【0009】参照)である「画素端部におけるチルトリバース」と,現象として全く同じものである。
本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」は,刊行物1の「エッジドメイン現象による不良表示部」と同様の位置関係にある。
3 まとめ(相違点1,2についての判断の誤り)の主張について 本件発明1で遮光する領域と,刊行物1発明で視野から消している領域とは,実質的に差異がない。決定の相違点1,2についての判断に誤りはない。
本件発明2についての判断に誤りがないことは,上述したところから明らかである。
当裁判所の判断
1 本件発明1の概要 本件出願の願書に添付した明細書及び図面(以下,明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲第2号証は,これに対応する特許公報である。)には,次の記載がある。
(1)「【発明の属する技術分野】この発明は液晶表示素子についてのものであり,特に,アクティブマトリクス型液晶表示素子のブラックマトリクス及びアレイ構成に関する。」(甲第2号証1頁2欄7行〜10行) (2)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述の液晶表示素子のうち例えば個々の画素を直接駆動するスイッチング素子としてTFTを用いたタイプでは,表示上で次のような点に問題があった。即ち,例えばノーマリホワイト表示(2枚の基板に被着した偏光板の透過軸を互いに直交させる)を行なったときには,黒レベルが十分に下がらず,コントラストの低下につながる。また,ノーマリブラック表示(2枚の基板に被着した偏光板の透過軸を互いに平行にする)を行なったときでも,視角によって表示の見え方が異なったりしていた。
この発明はこのような従来の事情に鑑みなされたものであり,優れた表示性能を有する液晶表示素子を提供することを目的とする。」(同2頁3欄19行〜31行) (3)「【課題を解決するための手段】この発明は,一主面上に複数個の能動素子とこれに接続された画素電極とがそれぞれ配設され且つ前記能動素子及び前記画素電極の周りには配線が形成された能動素子基板と,この能動素子基板と対向して配置された共通電極を一主面上に有する対向基板と,前記能動素子基板と前記対向基板との間に挟持された液晶分子を含む液晶組成物とを有し,前記能動素子基板と前記対向基板の一主面上に互いの配向軸が概略90°をなし前記液晶分子に所定のプレチルトを付与するよう配向処理がそれぞれ施された液晶表示素子であって,前記対向基板は,前記能動素子基板に対して概略平行な横方向電界が前記液晶分子の前記プレチルトに逆らう領域に生じるディスクリネーションラインに沿って少なくとも前記記領域(判決注・「前記領域」の誤記と認める。)を遮光する遮光部を備えたことを特徴としている。」(同2頁3欄33行〜47行) (4)「アクティブマトリクス型の液晶表示素子では,能動素子基板上においてマトリクス状の配線が上下左右に設けられ,それから僅か数μmのところに例えばITO(Indium Tin Oxide)からなる画素電極が形成されている。そして,マトリクス状の配線と画素電極との間には,強い電場が生じ,液晶分子の配列を乱す。この液晶分子の配列不整に関係する現象は,「画素端部におけるチルトリバース」と呼ばれている。
この発明は,「画素端部におけるチルトリバース」が限定された領域のみに現われることを利用し,他の表示性能に影響を与えない範囲で遮光部の配置を工夫することにより「画素端部におけるチルトリバース」の光学特性への影響を低減している。」(甲第2号証2頁4欄1行〜13行) (5)「【発明の実施の形態】以下,この発明の詳細を図面を参照して説明する。・・・図2(判決注・別紙図面1参照)はこの実施例についての「画素端部におけるチルトリバース」と呼ばれる現象(液晶分子の配列不整)の発生機構を示すための図である。この「画素端部におけるチルトリバース」は,図2において,能動素子基板(14)上でラビング開始方向に相当する部分(30)に,液晶分子(31)のプレチルトに逆らう方向に電界がかかるため発生すると考えられる。この点に関し,より詳細に述べれば,まず動作時には,マトリクス状の配線(13)と画素電極(12)との間におけるガラス基板(10)に概略平行な横方向電界(32)により,液晶分子(31)がもともとの配向方向と異なる配列を強制される。そして,ここに歪みが生じ,弾性エネルギーの集中が起こる。更に,液晶分子(31)間の相互作用によって,歪みによるエネルギーが画素内にも及んでくることがあるため,画素内の大部分の配列と異なる部分が生じる。この現象が「画素端部におけるチルトリバース」であり,この領域と正常な領域との境界部がディスクリネーションラインとなり輝線が発生する。
図3(判決注・別紙図面1参照)はこの実施例の一画素部において上述の「画素端部におけるチルトリバース」が発生する領域を示す概略平面図である。同図からわかるように,「画素端部におけるチルトリバース」は画素電極(12)全体に広がることはほとんどなく,極めて限定された領域(33)にのみ発生する。
この大きさは配向膜(18)の材料にもよるが,低温キュア型PIの場合,信号線(25)のL字形に曲がっている角(28)から20μm程度であり,これ以上広がることは極めて希である。・・・ 「画素端部におけるチルトリバース」は,液晶分子(31)の配向方向と,マトリクス状の配線(13)と画素電極(12)との間の電界との相関で発生するため,能動素子基板(14)側のラビング方向と強い関連があり,画素電極(12)のラビング開始方向側に大きくなる。この部分は,液晶分子(31)の配向方向と,マトリクス状の配線(13)と画素電極(12)との間の電界方向が最も角度を有する部分,即ち,最も弾性エネルギーの歪みが大きくなる部分だからである。故に,この実施例では,遮光部(19)を配置するに際し,この方向に大きく設けている。・・・ 遮光部(19)を配置する際には,遮光部(19)における角部(27)を被服する部分の端辺は,開口率をあまり減少させないようにするため,図1(b)(判決注・別紙図面1参照)に示したように,ラビング方向(26)と概略直交させることが望ましい。・・・」(同2頁4欄15行〜16行,同3頁5欄21行〜47行,同3頁6欄6行〜16行,22行〜26行) (6)「【発明の効果】この発明は,「画素端部におけるチルトリバース」領域を遮光部で重ねることにより,表示上,「画素端部におけるチルトリバース」が目立たなくて,コントラスト比が高くて且つ視野角の広いアクティブマトリクス型の液晶表示素子を得ることができる。」(同3頁6欄28行〜32行) 本件明細書の上記認定の記載によれば,本件発明1は,アクティブマトリクス型の液晶表示素子において,液晶分子の配列が乱される現象(画素端部におけるチルトリバース)によって,表示不良が発生することから,これを,マトリクス状の配線と画素電極との間に生じる横方向の電界が引き起こすものとした上で,画素端部におけるチルトリバースの発生する領域(特許請求の範囲にいう,横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域)の画素電極を遮光する遮光部を設けることによって不良表示部を覆う構成を採用したものである,ということができる。
2 本件発明1と刊行物1発明とは,「一主面上に複数個の能動素子とこれに接続された画素電極とがそれぞれ配設され且つ前記能動素子及び画素電極の周りには配線が形成された能動素子基板と,この能動素子基板と対向して配置された共通電極とを一主面上に有する対向基板と,前記能動素子基板と前記対向基板との間に挟持された液晶分子を含む液晶組成物とを有し,前記能動素子基板と前記対向基板の一主面上に互いの配向軸が概略90°をなし前記液晶分子に所定のプレチルトを付与するよう配向処理がそれぞれ施された液晶表示素子」であるという点で一致することは,当事者間に争いがない。すなわち,本件発明1と刊行物1発明とは,いずれも,いわゆるアクティブマトリクス型の液晶表示素子(「複数個の能動素子とこれに接続された画素電極とがそれぞれ配設され且つ前記能動素子及び画素電極の周りには配線が形成された能動素子基板を備えた液晶表示素子」)であり,基板の構成及び配向処理において一致するものである。
刊行物1には,刊行物1発明について,次の記載がある。
(1)「ところでこのような液晶表示装置においては,電圧を印加した表示電極23と共通電極25との間に位置する液晶分子であって,且つ表示電極23の一隅に対応して位置する液晶分子が第5図(ハ)(判決注・別紙図面2参照)に示す如く液晶分子の配方向が反転する,所謂エッジドメイン現象が発生し,第5図(ニ)(判決注・別紙図面2参照)に示す如く表示電極23の一隅に表示状態の不良部分23aが発生することが知られている。」(甲第3号証1頁右欄下から2行〜2頁左上欄6行) (2)「本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって,その目的とするところは,表示電極に対する信号のスイッチング素子として構成されている薄膜トランジスタはSi等を素材とする被晶質シリコン層,Al,Au等を素材とするゲート電極,ソース電極,ドレイン電極等にて構成されており,それ自体は不透明であることに着目し,エッジドメインによる不良表示部がこの薄膜トランジスタ上にオーバラップして形成されるように設定することにより本来的に不透明な薄膜トランジスタの存在を利用して表示電極上に不良表示部が占める面積を可及的に低減し,表示画質の向上を図れるようにした液晶表示装置を提供するにある。」(同2頁左上欄下から3行〜右上欄10行) (3)「エッジドメインにより表示電極3上の一隅に現れる不良表示部は配向膜5,8における配向処理方向と一定の関係にあり,これは第3図(判決注・別紙図面2参照)に示すとおりである。第3図(イ)〜(ニ)は液晶分子が左遷性を示す場合の配向処理方向と不良表示部発生位置との関係を示す説明図であり,左側に下側の配向膜5に対する配向処理方向を破線で,また上側の配向膜8に対する配向処理方向を実線で夫々示し,また右側には表示電極3上に生じる不良表示部3aを夫々を示してある。
これから明らかなように左遷性の液晶の場合第3図(イ)に示す如く下側の配向処理を右下がり,上側の配向処理を右上がりとした場合は不良表示部3aは左側上隅に生じ,また第3図(ロ)に示す如く下側の配向処理を左下がり,上側の配向処理を右下がりとした場合には不良表示部3aは右側上隅に生じ,また第3図(ハ)に示す如く下側の配向処理を右上がり,上側の配向処理を左下がりとした場合は不良表示部3aは右下隅に生じ,更に第3図(ニ)に示す如く下側の配向処理を右上がり,下側の配向処理を左上がりとした場合は不良表示部3aは左側下隅に生じることが解る。」(同3頁左上欄6行〜右上欄7行) (4)「以上の如く本発明装置にあっては,エッジドメイン現象による不良表示部が薄膜トランジスタと重なる位置に形成するようにしたから表示電極に占める正常表示部の面積が低減されることがなく,しかも不良表示部の殆どを視野から消すことが可能となって開口数の低減もなく表示が可能となるなど本発明は優れた効果を奏するものである。」(同3頁左下欄14行〜20行) 刊行物1の上記認定の記載によれば,刊行物1発明は,いわゆるアクティブマトリクス型の液晶表示素子において,表示電極の一隅に対応して位置する液晶分子の配方向が反転するエッジドメイン現象により,不良表示部が発生することから,エッジドメイン現象による不良表示部を不透明の薄膜トランジスタで覆うことによって,不良表示部を視野から消す構成を採用したものである。
以上のとおり,本件発明1及び刊行物1発明は,いずれも,基板の構成及び配向処理を同じくするアクティブマトリクス型の液晶表示素子において,表示電極ないし画素電極上に生じる不良表示部を覆うなどして表示不良を解消することを目的とするものである,ということができる。
3 原告は,本件発明1における不良表示部である「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」と刊行物1発明における不良表示部の「エッジドメイン現象による不良表示部」とは,発生領域が異なる,と主張する。
(1) 本件発明1の特許請求の範囲は,第2の2に記載されたとおり「一主面上に複数個の能動素子とこれに接続された画素電極とがそれぞれ配設され且つ前記能動素子及び前記画素電極の周りには配線が形成された能動素子基板と,この能動素子基板と対向して配置された共通電極を一主面上に有する対向基板と,前記能動素子基板と前記対向基板との間に挟持された液晶分子を含む液晶組成物とを有し,前記能動素子基板と前記対向基板の一主面上に互いの配向軸が概略90°をなし前記液晶分子に所定のプレチルトを付与するよう配向処理がそれぞれ施された液晶表示素子において,前記対向基板は,前記能動素子基板に対して概略平行な横方向電界が前記液晶分子の前記プレチルトに逆らう領域に生じるディクリネーションラインに沿って少なくとも前記領域を遮光する遮光部を備えたことを特徴とする液晶表示素子。」というものである。
ここにいう「前記能動素子基板に対して概略平行な横方向電界が前記液晶分子の前記プレチルトに逆らう領域」の範囲については,上記の記載自体からは明確でなく,本願出願当時において,その範囲が当業者において自明であったと認めるに足りる証拠もない。したがって,その意義を特許請求の範囲の記載から一義的に確定することはできず,本件明細書中の発明の詳細な説明の記載を参酌する必要がある。
前記1(5)で認定したところによれば,本件明細書の発明の詳細な説明中には,本件発明1の実施例に関する説明として,「以下,この発明の詳細を図面を参照して説明する。・・・図2(判決注・別紙図面1参照)は,この実施例についての「画素端部におけるチルトリバース」と呼ばれる現象(液晶分子の配列不整)の発生機構を示すための図である。この「画素端部におけるチルトリバース」は,図2において,能動素子基板(14)上でラビング開始方向に相当する部分(30)に,液晶分子(31)のプレチルトに逆らう方向に電界がかかるため発生すると考えられる。この点に関し,より詳細に述べれば,まず動作時には,マトリクス状の配線(13)と画素電極(12)との間におけるガラス基板(10)に概略平行な横方向電界(32)により,液晶分子(31)がもともとの配向方向と異なる配列を強制される。そして,ここに歪みが生じ,弾性エネルギーの集中が起こる。更に,液晶分子(31)間の相互作用によって,歪みによるエネルギーが画素内にも及んでくることがあるため,画素内の大部分の配列と異なる部分が生じる。この現象が「画素端部におけるチルトリバース」であり,この領域と正常な領域との境界部がディスクリネーションラインとなり輝線が発生する。
図3(判決注・別紙図面1参照)はこの実施例の一画素部において上述の「画素端部におけるチルトリバース」が発生する領域を示す概略平面図である。同図からわかるように,「画素端部におけるチルトリバース」は画素電極(12)全体に広がることはほとんどなく,極めて限定された領域(33)にのみ発生する。
この大きさは配向膜(18)の材料にもよるが,低温キュア型PIの場合,信号線(25)のL字形に曲がっている角(28)から20μm程度であり,これ以上広がることは極めて希である。・・・ 「画素端部におけるチルトリバース」は,液晶分子(31)の配向方向と,マトリクス状の配線(13)と画素電極(12)との間の電界との相関で発生するため,能動素子基板(14)側のラビング方向と強い関連があり,画素電極(12)のラビング開始方向側に大きくなる。この部分は,液晶分子(31)の配向方向と,マトリクス状の配線(13)と画素電極(12)との間の電界方向が最も角度を有する部分,即ち,最も弾性エネルギーの歪みが大きくなる部分だからである。故に,この実施例では,遮光部(19)を配置するに際し,この方向に大きく設けている。・・・ 遮光部(19)を配置する際には,遮光部(19)における角部(27)を被服する部分の端辺は,開口率をあまり減少させないようにするため,図1(b)(判決注・別紙図面1参照)に示したように,ラビング方向(26)と概略直交させることが望ましい。・・・」(同2頁4欄15行〜16行,同3頁5欄21行〜47行,同3頁6欄6行〜16行,22行〜26行)との記載があり,同明細書中の図3(別紙図面1参照)には,上記画素端部におけるチルトリバースが発生する「極めて限定された領域(33)」として,画素電極の角の隅の部分が図示されている。本件明細書のこれらの記載によれば,この「極めて限定された領域(33)」が,本件発明の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」に当たることは明らかである。
前記2(3)で認定したとおり,刊行物1発明においては,同刊行物中の第3図(別紙図面2参照)に,エッジドメイン現象による「不良表示部3a」として,画素電極の角の隅の部分が図示されている。
上記の本件明細書中の図3の「極めて限定された領域(33)」と刊行物1中の第3図の「不良表示部」とは,同様の位置関係にあることが明らかである。
決定が,本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」には,刊行物1に記載の「エッジドメインによる不良表示部3a」が含まれるから,相違点1は格別のことではない,と判断したのは正当である。
(2) 原告は,@刊行物1発明における「エッジドメイン現象による不良表示部」は垂直方向の電気力線の拡がりによるものであるから,本件発明1の「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」とは発生原因を異にする,Aこの発生原因の違いにより,刊行物1発明における「エッジドメイン現象による不良表示部」は,電極の角部分で生じ,画素内部に大きく拡がりを見せるものではないのに対し,本件発明1における「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」は,電極角部分に限定されず,画素電極の端部に沿って延在し,画素電極内部まで大きく拡がるものである,と主張する。
しかしながら,本件発明1と刊行物1発明とは,基板の構成及び液晶分子の配向処理の点において構成が一致していることは前記のとおりであるから,そもそも,両発明における表示不良の発生原因が異なることは,客観的には,あり得ず,したがって,発生する表示不良の範囲が異なることもあり得ない。そして,両発明は,いずれも,発生する不良表示部に着目し,これを前提としてこれに対処する方法を考えたものであり,表示不良の発生原因を消滅させることによって対処しようとするものではない。そうだとすると,仮に,本件発明1が横方向電界について考えているものであるのに対し,刊行物1発明はこれについて考えるところのないものであったとしても,そのことは,両発明の構成の相違に結び付くものでないことが,明らかである。
仮に,アクティブマトリクス型の液晶表示素子において,「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」が,客観的には,原告の主張するとおり,電極角部分に限定されず,画素電極内部まで大きく拡がるものであったとしても,本件明細書中に,そのような記載は見当たらず,そのことが当業者において自明であったともいえないことは前記のとおりである。かえって,本件明細書は,本件発明1の実施例として「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」について,「極めて限定された領域(33)」であるとして,電極角部分に限定された領域を示し,これが本件発明1にいう「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」に当たることを明示しているのである。
原告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものというほかなく,刊行物1発明の「エッジドメイン現象による不良表示部」の発生原因について論ずるまでもなく,原告の主張に理由がないことは明らかである。
4 原告は,本件発明1における「横方向電界が液晶分子のプレチルトに逆らう領域」と刊行物1発明における「エッジドメイン現象による不良表示部」とが発生領域を異にすることを前提に,相違点2の判断の誤りを主張する。
原告の同主張に理由がないことは,上述したところから明らかである。
5 本件発明1について上に述べたことが,同発明を「遮光部は能動素子基板の能動素子及び配線と平面的に重なるマトリクス状である」点に限定した本件発明2においても妥当することは,明らかというべきである。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由は理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸