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関連審決 審判1998-35394
関連ワード 使用方法 /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  実質的に同一 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の理由 /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 /  相当期間 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 264号 審決取消請求事件
原告 株式会社新井機械製作所
訴訟代理人弁理士 箕浦清
被告 株式会社オオヤマフーズマシナリー
訴訟代理人弁理士 鈴木正次
同 涌井謙一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第35394号事件について平成13年5月8日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「かき餅生地の製造装置」とする特許第2002526号の特許(平成3年11月13日出願(以下「本件出願」という。),平成7年12月20日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は,平成10年8月25日,本件特許を請求項1,3及び4に関して無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,この請求を平成10年審判第35394号事件として審理し,平成11年8月23日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件第1次審決」という。)をした。被告は,東京高等裁判所に対し,この審決の取消しを求める訴えを提起し,同裁判所は,平成12年10月11日,上記審決を取り消すとの判決を言い渡した。原告は,この判決に対し,最高裁判所に上告及び上告受理の申立てをした。最高裁判所は,平成13年2月27日,上告を棄却し,上告受理の申立てについては不受理とした。特許庁は,本件第1次審決が東京高等裁判所により取り消されたのを受けて,本件の請求について改めて審理し,平成13年5月8日に「特許第2002526号の請求項1,3および4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本を平成13年5月18日に原告に送達した。
2 特許請求の範囲(別紙図面参照) 【請求項1】蒸練された米粉等を所定の断面形状に成形した長尺生地種の両側面を案内するガイド板を有して該生地種を長手方向にピッチ送りするピッチ駆動コンベア装置と,該ピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部上面を押さえる押し板を有し,さらに該押し板が上記生地種を押さえた際に該生地種先端部を所定の厚さに切断する,コンベア先端の下部に設けた下刃と上記生地種の送り方向と直角にクランク機構により往復移動する回転刃とを有する切断装置と,切断された未乾燥生地を自動搬送する,先端エッジ状ベルトコンベアを中間に設けたベルト式搬送コンベアと,自動搬送された未乾燥生地を自動乾燥させる金網式多段コンベア乾燥炉とからなることを特徴とするかき餅生地の製造装置。(以下「本件発明1」という。) 【請求項3】上記押し板の長尺生地種への押さえ力を可変とし,且つガイド板の間隔を可変とした切断装置を有する請求項1又は2記載のかき餅生地の製造装置。(以下「本件発明2」という。) 【請求項4】生地種方向に対する上記回転刃の取り付け設定角度を可変とした切断装置を有する請求項1,2又は3記載のかき餅生地の製造装置。(以下「本件発明3」という。) 3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,被告(審判請求人)が,平成11年2月10日付け審判事件理由補充書(以下「本件理由補充書」という。)によりなした,審判請求の理由を補充あるいは変更する補正は,平成10年法律第51号附則2条1項の規定により適用される,同法律改正前の特許法131条2項ただし書きの規定に該当するものであり,適法である,と判断した上で,@本件発明1及び本件発明2は,株式会社みながわ製菓(本店:新潟県上越市中田原111番地。以下「みながわ製菓」という。)において昭和47年ころから公然と試運転及び営業運転されたかき餅生地製造機械(以下「本件装置」といい,同機械に具現された発明を「引用発明1」という。),及び,実願昭47-67156号(実開昭49-23583号)のマイクロフィルム(本訴甲第8,第23号証,審判の甲第8号証。
以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,A本件発明3は,引用発明1及び引用発明2並びに実願昭51-120717号(実開昭52-65195号)のマイクロフィルム(本訴乙第2,第7号証,審判甲第4号証。以下「刊行物3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,請求項1,3及び4のいずれについても,特許法29条2項に違反してなされたものであり,無効とすべきである,と認定判断した。
上記の結論を導くに当たり,審決が認定した本件発明1ないし本件発明3(以下,これら3発明をまとめて呼ぶときは,「本件発明」という。)と引用発明1との一致点・相違点は,次のとおりである。
一致点 「蒸練された米粉等を所定の断面形状に成形した長尺生地種の両側面を案内するガイド板を有して該生地種を長手方向にピッチ送りするピッチ駆動コンベア装置を有し,該生地種先端部を所定の厚さに切断する,コンベア先端の下部に設けた下刃と上記生地種の送り方向と直角にクランク機構により往復移動する回転刃とを有する切断装置と,切断された未乾燥生地を自動搬送する,ベルト式搬送コンベアと,自動搬送された未乾燥生地を自動乾燥させる金網式多段コンベア乾燥炉とからなることを特徴とするかき餅生地の製造装置。」 相違点 「前者(判決注・本件発明)がピッチ駆動コンベアのピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部上面を押さえる押し板を有し,該押し板が上記生地種を押さえた際に生地種先端部を所定の厚さに切断するのに対し,後者(判決注・引用発明1)は,そのような「押し板」を具備しない点。」(相違点1) 「前者(判決注・本件発明)の未乾燥生地を搬送するベルト式搬送コンベアが先端エッジ状ベルトコンベアを中間に設けているのに対し,後者(判決注・引用発明1)の切断されたかき餅生地を搬送する布コンベアが中間に先端エッジ状ベルトコンベアを設けていることは不明である点。」(相違点2) 本件発明2と引用発明1との上記相違点以外の相違点は,次のとおりである。
本件発明2は,「長尺生地種への押さえ力を可変とし,かつガイド板の間隔を可変とした」ものであるのに対し,引用発明1は,このような構成となっていない点(本件発明2との相違点3) 本件発明3と引用発明1との上記相違点以外の相違点は,次のとおりである。
本件発明3は,「生地種方向に対する上記回転刃の取り付け設定角度を可変とした」ものであるのに対し,引用発明1は,このような構成となっていない点(本件発明3との相違点3)
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件理由補充書による補正が不適法なものであるのにこれを却下しなかった誤りを犯し(取消事由1),引用発明1は公然実施された発明ではないのにこれを公然実施された発明であると認定し(取消事由2),本件装置に具現された引用発明1の構成の認定を誤った結果,本件発明と引用発明1との相違点を看過し(取消事由3ないし5),本件発明と引用発明1との相違点1及び2についての判断を誤り(取消事由6及び7),本件発明2と引用発明1との相違点3の判断を誤り(取消事由8),本件発明3と引用発明1との相違点3の判断を誤った(取消事由9)ものであり,これらの誤りは,いずれも,請求項1,3及び4のすべて(取消事由1ないし7),又は一部(取消事由8は請求項3,取消事由9は同4)についての結論に影響を及ぼすものであるから,全部,違法として,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件理由補充書をもってする補正による要旨変更) 被告(審判請求人)は,本件の無効審判の「審判請求書」(甲第4号証の1)においては,請求の理由を,本件装置の切断装置は,チェーン方式により往復移動する回転刃を備えたものである,この種の切断装置において,本件発明のようなクランク機構により往復移動する回転刃を使用することは,当業者が適宜実施しており,本件装置のチェーン方式により往復移動する回転刃に代えて,上記のクランク機構によるものを採用することは,容易に想到し得るところである,と主張していたにもかかわらず,本件理由補充書(甲第4号証の2)により,その請求の理由を,本件装置の切断装置は,当初納入されたときは,チェーン方式により往復移動する回転刃を備えたものであったけれども,納入した数か月後に,これがクランク機構により往復移動する回転刃を備えたものに切り換えられた,引用発明1は,この後者のものであるから,切断装置の構成において,本件発明と実質的に同一である,と変更する補正をした。
本件理由補充書は,無効審判の請求の理由を本質的に変更するものである。
審判長は,特許法第133条の2第1項の規定に基いて,本件理由補充書による補正を,不適法な手続であってその補正をすることができないものとして,却下すべきであった。審決は,本件理由補充書による補正を却下しなかった点において,手続き上の重大な誤りを犯しており,取り消されるべきである。
2 取消事由2(引用発明1を公然実施された発明であると認定した誤り) 審決は,みながわ製菓の平成10年7月8日付けの証明書(本訴甲第3号証の1。審判甲第1号証-1。以下「本件証明書」という。)と証人A(以下「A証人」という。)及び証人B(以下「B証人」という。)の各証言に基づき,本件装置は,「昭和47年に株式会社みながわ製菓に納入され,試運転及びその後の営業運転が公然と行われたものであり,・・・との心証が得られた。」(審決書5頁第6段落)と認定した。
しかし,審決のこの認定は,誤りである。
(1) 本件証明書には,次のような矛盾,不可思議な点があり,証拠としての価値はなく,これにより引用発明1が公然実施されたものと認めることはできない。
(ア) 本件証明書は,1種類の「かき餅生地の製造機械」が据え付けられ,公然と運転されたことをその内容とするものである。ところが,本件証明書に付された写真には,チェーン方式により往復移動する回転刃を備えた切断装置と,クランク方式により往復移動する回転刃を備えた切断装置を備えた2種類の「かき餅生地の製造機械」が撮影されている。このような状況で,本件証明書の記載内容を信用することは,許されないというべきである。
(イ) 本件証明書添付の1-20の写真は,作業者の着衣が他の写真のものとは異なっているから,他の写真とは,撮影の場所も時間も異なり,その被写体は,本件装置ではない。また,1-20の写真とその下の写真は,「煎餅生地の乾燥装置」の写真であるから,本件証明書に,「かき餅生地の乾燥装置」が据え付けられたと記載されているからといって,これによって,「かき餅生地の乾燥装置」が存在していたことを認めることはできない。
(ウ) 本件装置は,売主である被告にとっても,買主であるみながわ製菓にとっても,いずれも大掛かりで高価な製造機械であるから,真実,被告の主張するように本件装置の売買が行われたのであるならば,その設計原図,納入伝票,支払伝票その他関連資料などが,たとい一部であるにもせよ残っているはずである。ところが,現実には,本件証明書に用いられた12枚の写真(ネガ)及び2枚の写真のコピーが残っていただけであるとして,本件証明書が提出されている。極めて不自然である。
(2) 公然実施について (ア) 本件証明書には,本件装置を昭和47年ころ設置し,公然とこれを試運転した,と記載されているだけであり,営業運転されたとの記載はない。みながわ製菓の平成13年12月28日付けの証明書(甲第20号証。以下「甲20証明書」という。)及び平成14年3月25日付けの証明書(甲第21号証。以下「甲21証明書」という。)によれば,みながわ製菓は,昭和47年5月に本件装置の試運転を開始はしたものの,製品の厚みが不揃いであったため,昭和48年5月に生地切断機を改良型のものにする設置替えを行い,それでも製品に不良品が多かったため,結局,本件装置を営業運転をするには至らないままに,本件装置を解体したことになる。本件装置が営業運転されたとの審決の認定は,証拠に基づかないものである。
(イ) 工場には一般人が自由に出入りすることができるわけではない。仮に,本件装置がみながわ製菓の工場に設置され,営業運転されたとしても,当然には引用発明1が公然実施されたことにはならない。
3 取消事由3(引用発明1のクランク機構による回転刃の認定の誤りによる相違点の看過) 審決は,本件装置は,「上記棒状餅の送り方向と直角にクランク機構により往復移動する回転刃とを有する切断機械」(審決書6頁第1段落)であると認定した。
しかし,本件証明書に付された写真のいずれをみても,クランク機構は撮影されておらず,回転刃も明りょうには撮影されていない。これらにより,クランク機構により往復移動する回転刃の存在を確認することはできない。移動速度の速い回転刃などは,それと分かるようには写真に写らないことがあり得るとしても,クランク機構及びこれを据え付ける架台は,高速で移動するわけではないから,当然撮影されて然るべきである。本件装置が,クランク機構により往復移動する回転刃を備えるものであることを,本件証明書により確認することはできない。
4 取消事由4(引用発明1のガイド板の認定の誤りによる相違点の看過) 審決は,「後者(判決注・引用発明1)における隣り合う棒状の餅を分離する堰板は各棒状の餅の両側面をガイドするものと認められるので,前者(判決注・本件発明)における「ガイド板」に相当し,」(審決書6頁第3段落)と認定した。
しかし,本件証明書添付の写真1-6をみると,本件装置の左右の堰板で案内されているのは,2本1組の棒状餅である。したがって,引用発明1の堰板は,棒状餅の一方の側面を案内しているだけであり,本件発明における「長尺生地種の両側面を案内するガイド板」に相当するということはできない。審決の上記認定は誤りである。
5 取消事由5(引用発明1の乾燥機の認定の誤りによる相違点の看過) 審決は,本件装置の乾燥装置について,「後者(判決注・本件装置)におけ多段コンベア乾燥機も熱源を必要とするものであり,ネットは通常金網が用いられるものと解されるので,前者(判決注・本件発明)における「金網式多段コンベア乾燥炉」に相当する」(審決書6頁第3段落)と認定した。
しかし,本件証明書添付の1-20の写真に示される「煎餅生地の乾燥装置」を「かき餅生地の乾燥装置」に代用することができるとしても,この乾燥装置が,多段コンベア乾燥機であるか,金網式多段コンベア乾燥炉であるかは,同写真からは不明である。審決の上記認定は誤りである。
6 取消事由6(相違点1についての判断の誤り) 審決は,相違点1について「甲第8号証(判決注・刊行物2)に記載された帯状食料品生地の切断の技術分野において本件出願前公知の上記構成を食料品生地であるかき餅生地を製造する機械である甲第1号証機械の生地の切断部に適用することは当業者が容易に想到しうる事項であり,それによって奏する効果も格別のものとは認められない。」(審決書7頁第3段落)と判断した。
(1) 引用発明2は,切断台上で,クッション部43により麺帯を上から確実に押圧保持した状態で,切断刃により麺帯を切断する構成である。一方,本件発明は,かき餅の厚さ分だけ下刃から外方に突出した長尺生地種の最先端部を除いた生地種先端部が,左右のガイド板,下方の下刃及びベルト先端部,上方の押し板により,四方から囲まれている状態で,前記のかき餅の厚さ分だけ,その突出最先端部を切断するとの構成である。両者は,切断機構も,クッション部と押し板の機能も異なるものである。
(2) 引用発明2は,麺帯の切断時に切断刃に付着した麺線を払い板で切断台下に払い落とすもので(甲第23号証の実用新案登録請求の範囲,5頁4行〜16行及び10頁7行〜10行),切断台上での麺帯の切断と切断された麺線の切断台下への払い落としという2工程を必要とするものである。これに対し,引用発明1は,コンベア先端に設けた下刃と,この下刃の前面を移動する回転刃とによって,下刃よりかき餅の厚さ分だけ突出した最先端部を回転刃によって下刃より削り落とすようにして切断しており,1工程で棒状の餅からかき餅生地を下刃に沿って削り落としているのである。切断に2工程を必要とする引用発明2の押し板を引用発明1に適用することを,当業者が容易に想到し得る事項ということはできない。
(3) 本件装置には,回転刃を往復移動させるクランク機構等が据え付けられ,同クランク機構等で切断部上方が占有されている。また,切断されたかき餅生地を自動搬送する布コンベアは,切断機械の真下から約30度程度上方に向ってせり上り状に移行しており,切断部前方の空間も占有されている。これらが障害となって,引用発明2のクッション部材に係る発明を本件装置に適用することはできない。これを適用することを当業者が容易に想到し得る事項とすることはできない。
7 取消事由7(相違点2についての判断の誤り) 審決は,相違点2について,「甲第7号証(判決注・本訴甲第24号証)には菓子生地の移しかえ装置として先端エッジ状ベルトコンベアを用いることが記載されているように,食料品生地のベルト式搬送装置において,中間に先端エッジ状ベルトコンベアを設けることは,本件出願前周知の技術事項であり,該本件出願前周知の先端エッジ状ベルトコンベアを甲第1号証機械(判決注・本件装置)の切断されたかき餅生地搬送する布ベルトに適用することは当業者が適宜なし得る設計的事項と認められ,それによって奏する効果も格別なものではない。」(審決書7頁第4段落)と判断した。
しかし,この判断も誤りである。実公昭51-50879(本訴甲第24号証。審判甲第7号証。以下「甲24文献」という。)に記載されている先端エッジ状ベルトコンベアは,切断されたかき餅生地等の未乾燥生地を金網式乾燥炉に自動搬送するベルト式搬送コンベアの中間に,先端エッジ状ベルトコンベアを設けるものとは,その構成においても作用効果においても,全く異なるものである。したがって,かき餅生地等の未乾燥生地を金網式乾燥炉に自動搬送するベルト式搬送コンベアの中間に,先端エッジ状ベルトコンベアを設けることが,本件出願前周知の技術事項であるということはできない。本件装置における切断されたかき餅生地を搬送する布ベルトに,先端エッジ状ベルトコンベアを適用することを,当業者が適宜なし得る設計的事項であるとすることはできない。
8 取消事由8(本件発明2と引用発明1との相違点3についての判断の誤り) 審決は,「(ガイド板の)生地種への押さえ力やガイド板の間隔を可変とすることは当業者が適宜採用しうる常套手段に過ぎないので,本件第2発明も本件第1発明と同様の理由によって,甲第1号証機械及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,」(審決書8頁第2段落)と判断した。
しかし,ガイド板の生地種への押さえ力やガイド板の間隔を可変とすることは,当業者が適宜採用しうる常套手段にすぎないことを根拠付ける具体的な証拠はない。したがって,当業者が本件発明2に容易に想到することができたということはできない。
9 取消事由9(本件発明3と引用発明1との相違点3についての判断の誤り) 審決は,「所定の断面形状を有する長尺物の先端部を所定の厚さに切断する場合,被切断物に作用する刃物の角度を必要とされる厚みに対応して設定することは常套手段であり,甲第4号証(判決注・本訴乙第2,第7号証)には,クランク機構により往復動する回転カッターで棒状餅を切断する装置において回転刃の角度を変更することが記載されていることから,甲第1号証機械における回転刃の取り付け角度を棒状餅の方向に対して変更可能となし,取り付け設定角度を可変とすることも当業者が容易に想到しうる事項と認められるので,本件第3発明は,甲第1号証機械並びに甲第3号証(判決注・「甲第4号証」の誤記である。)及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,」(審決書8頁第4段落)と判断した。
しかし,所定の断面形状を有する長尺物の先端部を所定の厚さに切断する場合,被切断物に作用する刃物の角度を必要とされる厚みに対応して設定することが常套手段であることを根拠付ける具体的証拠はない。したがって,当業者が本件発明3に容易に想到することができたということはできない。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本件理由補充書をもってする補正による要旨変更)について 本件無効審判の請求に適用される,平成10年法律第51号による改正前の特許法131条2項ただし書きによれば,原告の主張に理由がないことは明らかである。
2 取消事由2(引用発明1を公然実施された発明であると認定した誤り)について 本件証明書の信用性に関する原告の主張はすべて失当である。
原告によって用意された甲21証明書によっても,本件機械は,昭和47年5月にみながわ製菓に設置されて試運転が開始され,昭和48年5月に新しい切断機2台が交換設置され,これにより,かき餅製品が製造されたことになるのであるから,本件機械については,試運転に続き営業運転されたことが明らかである。みながわ製菓は,このように,その工場において,本件機械の試運転と営業運転を1年又はそれ以上の期間継続したのであり,これらの運転をすべて秘密裡に行うことはあり得ないことである。引用発明1が公然実施されたことは明らかである。
3 取消事由3(引用発明1のクランク機構による回転刃の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告の主張はすべて争う。
4 取消事由4(引用発明1のガイド板の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告の主張はすべて争う。
5 取消事由5(引用発明1の乾燥機の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告の主張はすべて争う。
6 取消事由6(相違点1についての判断の誤り)について 刊行物2には,引用発明2,すなわち,「ピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部を押さえる押し板」との技術思想が,記載されているのであり,この技術思想を引用発明1に適用することは当業者が容易に想到しうる事項である。刊行物2に実施例として記載されたものをそのまま引用発明1に適用することができるかどうかは,問題にならない。
7 取消事由7(相違点2についての判断の誤り)について 原告の主張はすべて争う。
8 取消事由8(本件発明2と引用発明1との相違点3についての判断の誤り)について 原告の主張はすべて争う。
9 取消事由9(本件発明3と引用発明1との相違点3についての判断の誤り)について 原告の主張はすべて争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件理由補充書をもってする補正による要旨変更)について 被告(審判請求人)は,本件無効審判の「審判請求書」においては,その請求の理由を,本件装置の切断装置は,チェーン方式により往復移動する回転刃を備えたものである,この種の切断装置において,本件発明のようなクランク機構により往復移動する回転刃を使用することは,当業者が適宜実施しており,本件装置のチェーン方式により往復移動する回転刃に代えて,上記クランク機構によるものを採用することは,容易に想到し得るところである,と主張していた(甲第4号証の1)。その後,被告は,本件理由補充書により,その請求の理由を,本件装置の切断装置は,当初納入されたときは,チェーン方式により往復移動する回転刃を備えたものであったけれども,納入した数か月後に,これがクランク機構により往復移動する回転刃を備えたものに切り換えられた,引用発明1は,この後者のものであるから,切断装置の構成において,本件発明と実質的に同一である,と変更する補正をした(甲第4号証の2)。
しかし,本件無効審判の請求がなされたのは,平成10年8月25日であるから,平成10年法律第51号附則2条1項の規定により,同法律による改正前の特許法が適用されることになる。同改正前の特許法131条2項ただし書きによれば,請求の理由の要旨を変更する審判請求書の補正は,許容されているから,仮に,被告が本件理由補充書により請求の理由の要旨を変更したことになるとしても,これを違法ということができないことは明らかである。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(引用発明1を公然実施された発明であると認定した誤り)について 審決は,審判手続における証人A及び証人Bの各証言(本訴乙第1号証の2・3。以下,審判手続における証言を単に「証言」という。)及び本件証明書(本訴甲第3号証の1)に基づき,本件装置は,「昭和47年に株式会社みながわ製菓に納入され,試運転及びその後の営業運転が公然と行われたものであり,その構造は以下のとおりのものであったことの心証が得られた。
「搗餅を成形してなる棒状の餅を間欠駆動される布ベルトに乗せて,隣り合う棒状の餅を堰板で分離して切断機械へと送り,該棒状の餅の先端部を所定の厚さに切断する,布コンベア先端の下部に設けた下刃と上記棒状餅の送り方向と直角にクランク機構により往復移動する回転刃とを有する切断機械と,切断されたかき餅生地を自動搬送する布コンベアと,自動搬送されたかき餅生地を自動乾燥させるネットコンベアからなる多段コンベア乾燥機械とからなることを特徴とするかき餅生地の製造機械。」」(審決書5頁第7段落)と認定した。
当裁判所も,この認定判断に誤りはない,と判断する。すなわち,証人A及び証人Bの各証言(本訴乙第1号証の2・3)及び本件証明書(本訴甲第3号証の1)によれば,本件装置は,昭和47年中ころに,みながわ製菓に設置され,数か月の試運転後,営業運転され,その設置から1年以内に,その切断装置の回転刃が,チェーン方式により往復移動するものから,クランク方式により移動するものに交換され,この回転刃に係る部分が交換された本件装置が,その後営業運転されたものと認められる。また,本件装置がみながわ製菓に設置され,営業運転されたことにより,本件装置に具現されていた引用発明1は,公然実施されたものと認められる。その理由は,次のとおりである。
(1) 本件証明書の信用性について (ア) 原告は,本件証明書に添附された写真には,チェーン方式により往復移動する回転刃を備えた切断装置を備えたものと,クランク方式により往復移動する回転刃を備えた切断装置を備えたものとの2種類の「かき餅生地の製造機械」が撮影されていることを挙げ,これを根拠に,本件証明書は信用することができない,と主張する。
しかし,本件装置は,設置されてから1年以内に,その切断機の回転刃が,チェーン方式により移動するものから,クランク方式による移動するものに交換されたものであることが,A証人及びB証人の証言により認められる。そうだとすれば,本件証明書に両方の切断機を撮影した写真が付されていたとしても,そのことにより本件証明書の信用性が損なわれるものではない。
(イ) 原告は,本件証明書添付の1-20の写真は,作業者の着衣が他の写真のものとは異なっているから,他の写真とは,撮影の場所も時間も異なり,その被写体は,本件装置ではない,また,同写真とその下の写真は,「煎餅生地の乾燥装置」の写真である,と主張する。
確かに,本件証明書添付の1-20の写真に写されている作業者(男性)の着衣は,本件証明書の他の写真のものとは異なる。しかし,同写真に写されている女性の着衣が,他の写真に写されている,みながわ製菓で作業をしている者の着衣と同じであるとの事実,及び,弁論の全趣旨からすれば,この男性は,本件装置の試運転,整備等のために,本件装置の製造元である被告からみながわ製菓に一時派遣された者であると認められ,そうだとすれば,この男性の着衣等が他の者の着衣等と異なることは何ら不自然なことではない。本件証明書添付の1-20の写真が,本件証明書添付の他の写真に撮影されている装置と異なる装置を撮影したものであるとする理由を発見することはできず,同写真は,本件装置の乾燥装置を撮影したものであると認められる(甲第3号証の1)。原告の主張は,失当である。
本件証明書添付の1-20の写真の下の写真には,乾燥装置上に付された「PBD煎餅生地運行乾燥装置」との表示が撮影されており,本件装置の乾燥装置として,煎餅生地用の乾燥装置が使用されていたことが認められる。しかし,煎餅とかき餅とは,材料の相違及びその製造段階における乾燥温度等の相違はあるにしても,焼き菓子である点では同じであり(甲第6号証),乾燥装置は,その操作により乾燥温度,乾燥時間などの条件を自在に変えることができるのは当然のことであるから(弁論の全趣旨),かき餅生地の乾燥に煎餅生地用の乾燥装置を使用することができることは明らかなことであるというべきである。したがって,本件装置の乾燥装置として,本件証明書添附の写真(1-20の写真の下の写真)に示される「PBD煎餅生地運行乾燥装置」が使用されていることを根拠に,本件装置は「かき餅生地の製造機械」ではない,とか,本件証明書自体に信用性がない,とかいうことができないことは明らかである。
(ウ) 原告は,本件装置は,大掛かりで高価な製造機械であるから,その設計原図,納入伝票,支払い伝票その他関連資料などがたとい一部にもせよ残っていないのは,極めて不自然である,と主張する。しかし,被告が本件装置をみながわ製菓に設置したのは昭和47年のことであり,本件証明書が作成された平成10年の26年前のことである。本件証明書に添附されている写真(ネガ)とそのコピーしか残っていなかったとしても,何ら不自然なことではない。
(エ) 以上のとおり,本件証明書の信用性を弾劾する原告の主張は,いずれも採用することができず,前記各証言と本件証明書とにより,本件装置がみながわ製菓に設置されたことを認定した審決の前記認定に誤りはない(本件装置の各部の構成についての審決の認定については,後に述べるとおりである。)。
(2) 本件装置の営業運転について 原告は,本件証明書には,試運転されたとの記載があるだけで,営業運転されたとの記載がない,と主張する。しかし,試運転は,もともと,営業運転をするためになされるものである。試運転がなされただけで営業運転に進まなかった,と考えさせる事情が認められない限り,試運転の後に営業運転がされたと考えるのが自然である。試運転の後に営業運転がなされたとの証人A及び証人Bの各証言(本訴乙第1号証の2・3)は信用できるというべきである。
原告は,甲20証明書及び甲21証明書を提出して,みながわ製菓は,昭和47年5月に本件装置の試運転を開始しはしたものの,製品の厚みが不揃いであったため,昭和48年5月に生地切断機を改良型のものにする設置替えを行い,それでも製品に不良品が多かったため,みながわ製菓は,結局,本件装置を,営業運転をするには至らないままに,解体したものである,と主張する。
甲21証明書(平成14年3月25日付けのみながわ製菓の作成に係る証明書)には,昭和47年5月に本件装置の設置工事が完了し,その試運転を開始し,昭和48年5月に,生地切断機を改良型の生地切断機と設置替えを行ったこと,改良型の生地切断機によりかき餅製品を製造販売したこと,しかし,厚みの不揃いによる不良品の発生が多かったこと,その後本件装置を解体したことが記載されている(甲第21号証)。この甲21証明書には,本件装置を解体した時期については明記されておらず(甲第21号証),かえって,みながわ製菓が本件装置を使用してかき餅製品を製造販売したことがあったことが明記されており,同証明書は,本件装置を営業運転していたことを認める内容となっている,また,昭和48年5月に,生地切断機を改良型の生地切断機と設置替えを行ったとの同証明書の記載内容は,本件装置を設置してから1年以内に,本件装置の生地切断機をチェーン方式の回転刃から,クランク方式の回転刃に切り換えたとの証人A及び証人Bの各証言とも符合するものである。これらのことからすると,同証明書は,クランク方式の回転刃に切り換えた時期以降に,かき餅製品を製造販売したことを証明している内容となっていると理解し得るものである。したがって,甲21証明書によっても,チェーン方式からクランク方式により移動する回転刃に切り換えられた本件装置が営業運転された,との事実が認定できるのである。原告が主張するように,本件装置は,大掛かりで高価な装置であることからすれば(このことは,甲第3号証の1から推認することができる。),甲21証明書に記載されているように,「不良品の発生(厚みの不揃いにより製品の均一化が達成できず)が多く,発売を中止した。」り,その後本件装置を解体したりしたとしても,それは,みながわ製菓が,相当期間営業運転を継続し,製品を発売したことを前提に,その後,不良品が発生するとの問題が解決しなかったため,やむを得ず本件装置を解体したとの趣旨と理解することができるのであり,本件装置を全く営業運転をすることなく,解体したというようなことは,本件装置が大掛かりで高価なものであることからすれば,極めて考えにくいことという以外にないのである。
(3) 引用発明1の公然実施について 原告は,工場には一般人が自由に出入りすることができるわけではないから,本件装置がみながわ製菓の工場に設置され,営業運転されたとしても,当然には引用発明1が公然実施されたことにはならない,と主張する。
証人Aの証言によれば,本件装置が設置されていたみながわ製菓の工場は,公道から,門と工場の入り口を経由して,その中へ自由に出入りすることができる物理的客観的状況にあり,入口等に守衛が置かれ,工場へ出入りする者を管理しているような状況ではなかったため,少なくとも同工場に正当な用事がある者は,工場内に自由に出入りし,本件装置とその稼働状況を観察することが可能な状況であったことが認められる。また,みながわ製菓が,製造元等に対し,本件装置の内容を秘密として管理すべき法的義務を負っていた,あるいは,その技術内容を秘密にするための何らかの措置を取っていたことを認めるに足りる証拠はない。
もっとも,本件装置は,みながわ製菓の工場内にあり,同工場敷地は私有地であるから,不特定多数の一般人がいつでも自由に工場敷地内に立ち寄るという状況にあったわけではなく,同工場に立ち入る者が特定の者に限定されていた可能性もないわけではない(同工場において本件装置が営業運転されていたときに,どのような者が同工場に立ち入ったかどうかについては,証拠上,明らかでない。)。しかし,このような場合でも,工場内に設置された機械装置に具現された発明が公然実施されていたと認め得るかどうかについては,その工場の管理者が,工場内に立ち入る者に対し,当該機械装置に具現された技術内容を,原則として秘密にするとの方針の下に,何らかの必要な措置を取り,例えば,一般人による当該機械装置の見学は,原則として認めない,との方針を取っていたか,それとも,工場内に立ち入る者に対し,当該機械装置に具現された技術内容を,原則として秘密にするとの措置を取らず,見学の希望があれば,不特定多数の一般人に対しても,当該機械装置を公開し,その機械装置の見学を自由に許すとの方針を取っていたかどうかを基準として区別すべきである。前者であれば,当該機械装置に具現された発明を公然実施していたと認めることはできないというべきである。しかし,後者であれば,実際に工場に出入りした者が少数の特定の者にすぎなかったかどうか,あるいは,実際に希望をして見学に来た者がいたかどうかを問わず,当該機械装置を秘密にすることなく公開するとの方針を取ってこの機械装置を営業運転してきたということだけで,この機械装置に具現された発明は,公然実施されてきたものと認めるに十分というべきである。
そして,前記認定事実によれば,本件は,後者の場合に当たるのであるから,本件装置に具現された引用発明1は,公然実施されてきたものと認められる。
原告の主張は,いずれも採用することができない。
3 取消事由3(引用発明1のクランク機構による回転刃の認定の誤りによる相違点の看過)について 審決が,本件装置は,「上記棒状餅の送り方向と直角にクランク機構により往復移動する回転刃とを有する切断機械」(審決書6頁第1段落)であると認定したのに対し,原告は,本件証明書に付された写真1-6,2-31及び2-36によっては,クランク機構により往復移動する回転刃の存在を確認することはできない,移動速度の速い回転刃などはそれと分かるようには写真に写らないことがあり得るとしても,クランク機構及びこれを据え付ける架台は,高速で移動するわけではないから,当然撮影されて然るべきである,と主張する。
しかし,本件装置の切断機械が,当初は,チェーン方式により往復移動する回転刃であったものが,不具合が発生したため,クランク方式により往復移動する回転刃に交換されたものであることは,証人A及び証人Bの証言により認められる。また,本件装置の切断機械が交換されたことは,原告が提出した甲21証明書にも記載されているところである。本件証明書に添附された写真は,昭和47年に納入された本件装置を撮影した写真のうち,26年後の平成10年現在において残っていたものを集めたものであり,これを撮影した当時,クランク機構などを撮影することが可能であったとしても,どの部分をどのように撮影するかは,撮影者のその当時の撮影意図により決まることであるから,クランク機構などの部分を撮影した写真がなかったとしても,何ら不自然ではない。すなわち,これらの写真の撮影者は,その撮影当時,本件特許の存在も,本件訴訟の争点も知らずに,これを撮影しているのであるから,クランク機構等を撮影した写真がなかったとしても,何ら不自然と考える必要はない。原告の主張は採用することができない。
4 取消事由4(引用発明1のガイド板の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告は,本件証明書添付の写真1-6をみると,本件装置の左右の堰板で案内されているのは,2本1組の棒状餅であるから,引用発明1のガイド板は,本件発明における「長尺生地種の両側面を案内するガイド板」に相当するということはできない,と主張する。
しかし,本件証明書添付の写真2-36及び2-31をみると,本件装置の左右の堰板が,1本の棒状餅を案内している状況が撮影されている(甲第3号証の1)。したがって,本件装置の左右の堰板が,本件発明のガイド板に当たると認定した審決に誤りはない。本件証明書添付の写真1-6は,本件装置の堰板に,たまたま2本一組の棒状餅を組み入れても差し支えない場合において,そのような使用方法を取っただけのものであると解すべきである。原告の主張は失当である。
5 取消事由5(引用発明1の乾燥機の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告は,本件証明書添付の1-20の写真に示される「煎餅生地の乾燥装置」が多段コンベア乾燥機であるか,金網式多段コンベア乾燥炉であるかは,同写真からは不明である,と主張する。
しかし,本件装置の乾燥装置は,多段式のPBD煎餅生地運行乾燥装置であり(甲第3号証の1),昭和47年ころに存在していた煎餅生地運行乾燥装置において,ネットコンベアが金網で構成されていることはごく通常のことであるから(本訴乙第4号証(審判甲第5号証),本訴乙第5号証(審判甲第6号証)),審決が,本件装置の乾燥装置について,「後者(判決注・本件装置)における多段コンベア乾燥機も熱源を必要とするものであり,ネットは通常金網が用いられるものと解されるので,前者(判決注・本件発明)における「金網式多段コンベア乾燥炉」に相当する」(審決書6頁第3段落)と認定したことに誤りはない。
6 取消事由6(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明2は,切断台上で,クッション部43により麺帯を上から確実に押圧保持した状態で,切断刃により麺帯を切断する構成である,一方,本件発明は,かき餅の厚さ分だけ下刃から外方に突出した長尺生地種の最先端部を除いた生地種先端部が,左右のガイド板,下方の下刃及びベルト先端部,上方の押し板により,四方から囲まれている状態で,前記のかき餅の厚さ分だけ,その突出最先端部を切断するとの構成である,両者は,切断機構も,クッション部と押し板の機能も異なるものである,と主張する。
しかし,引用発明2において左右のガイド板がないことが,左右の堰板を備える引用発明1において,引用発明2の押し板の技術思想を適用することを困難ならしめる理由となるということはできない。引用発明2の押し板は,切断の対象となる麺帯を上方から押圧するものであるから,これを引用発明1に適用する場合,引用発明1における左右の堰板に衝突しないように押し板を構成すべきことは当業者であれば容易に想到し得る事柄であるからである。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,引用発明2は,切断台上での麺帯の切断と切断された麺線の切断台下への払い落としという2工程を必要とするものであるのに対し,引用発明1は,コンベア先端に設けた下刃と,この下刃の前面を移動する回転刃とによって,下刃よりかき餅の厚さ分だけ突出した最先端部を回転刃によって下刃より削り落とすようにして切断しており,1工程で棒状の餅からかき餅生地を下刃に沿って削り落としているのである,切断に2工程を必要とする引用発明2の押し板を引用発明1に適用することは,当業者が容易に想到し得る事項とはいえない,と主張する。
しかし,引用発明2の押し板は,切断の対象となる麺帯を,切断による変形が生じないように,切断時に上方から押さえるものであるから(甲第23号証),引用発明2と引用発明1において,切断後の生地種の払い落とし方法に上記のような差異があるとしても,このような切断後の処理の差異が,引用発明2の押し板の技術思想を引用発明1に適用することを困難にさせる理由となると解することはできない。原告の主張は失当である。
(3) 原告は,本件装置においては,切断部上方がクランク機構等で占有されており,かつ,切断されたかき餅生地を自動搬送する布コンベアは,切断機械の真下から約30度程度上方に向ってせり上り状に移行していて,切断部前方の空間も占有されていることを挙げ,これらが,引用発明2のクッション部材に係る発明を本件装置に適用することの障害となるから,引用発明2を引用発明1に適用することを当業者が容易に想到し得る事項とすることはできない,と主張する。
しかし,引用発明2は,技術思想として「ピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部を押さえる押し板」を示すものであり(甲第23号証),これを適宜工夫して引用発明1に適用することは,いわゆる設計的事項の範囲内のことであり,当業者が容易に想到しうる事項である,というべきである。原告の主張は採用することができない。
7 取消事由7(相違点2についての判断の誤り)について 原告は,甲24文献に記載されている先端エッジ状ベルトコンベアは,切断されたかき餅生地等の未乾燥生地を金網式乾燥炉に自動搬送するベルト式搬送コンベアの中間に,先端エッジ状ベルトコンベアを設けるものとは,その構成においても作用効果においても,全く異なるものである,したがって,かき餅生地等の未乾燥生地を金網式乾燥炉に自動搬送するベルト式搬送コンベアの中間に,先端エッジ状ベルトコンベアを設けることが,本件出願前周知の技術事項であるとはいうことはできない,と主張する。
しかし,甲24文献には,「移送コンベヤー3の先端(第1図中右側のエツジ部分)」(甲第24号証3欄22行〜23行)と記載され,その第1図において,金網式乾燥炉に自動搬送するために,移送コンベア3の右側先端部分に,エッジ部分が設けられていることが,当業者にとって自明な技術として示されていることが認められる(甲第24号証)。このことから明らかなように,食料品生地のベルト式搬送装置において,中間に先端エッジ状ベルトコンベアを設けることは,本件出願前周知の技術事項であるということができる。原告の主張は失当である。
8 取消事由8(本件発明2と引用発明1との相違点3についての判断の誤り)について 原告は,ガイド板の生地種への押さえ力やガイド板の間隔を可変とすることは,当業者が適宜採用しうる常套手段にすぎないことを根拠付ける具体的な証拠はない,と主張する。
しかし,引用発明1に,「ピッチ送りに同期して上下動することにより生地種の先端部を押さえる押し板」との引用発明2を適用したものにおいて,これにより製造するかき餅生地の大きさを多様のものとするために,左右のガイド板の間隔を多様なものとすることは,当業者が適宜になし得る設計事項にすぎないこと,また,生地種を適正に押さえるために,押し板の押さえ力を可変とすることも,当業者が,機械設計上,普通になし得る事項であることは,具体的証拠を待つまでもなく,明らかである。原告の上記主張は,採用することができない。
9 取消事由9(本件発明3と引用発明1との相違点3についての判断の誤り)について 原告は,所定の断面形状を有する長尺物の先端部を所定の厚さに切断する場合,被切断物に作用する刃物の角度を必要とされる厚みに対応して設定することが常套手段であることを根拠付ける具体的証拠はない,したがって,当業者が本件発明3に容易に想到することができたということはできない,と主張する。
しかし,引用発明3は,「成型餅を高性能で切断する為に回転カッターで往復路共に切断するようにした成型餅の切断装置に関する」(本訴乙第2,第7号証1頁17行〜19行)考案であり,刊行物3は,この引用発明3において,「前記カッター装置へその往復運動における方向変換動作を検出し,この検出指令毎にカッターの軸を水平方向へ所定角度宛変化させる装置を連結してなる成型餅切断装置」との構成を備えることを,その実用新案登録請求の範囲において明示しているものである(同1頁9行〜15行)。そして,刊行物3においては,被切断物に対し,上記回転刃の取り付け設定角度を可変とすること自体は,昭和51年当時において,公知の技術であったとの前提の下に,これを回転カッターで往復路共に切断する装置に採用したことが記載されているのである(同4頁6行〜5頁1行参照)。したがって,長尺物の先端部を所定の厚さに切断する場合,被切断物に作用する刃物の角度を必要とされる厚みに対応して設定すること自体は,本件特許の出願前に既に周知の技術であったいうことができ,これを常套手段と表現している審決の判断に誤りはない,というべきである。原告の主張は採用することができない。
結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久