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関連審決 審判1999-20825
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  上位概念 /  下位概念 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 253号 審決取消請求事件
原告 世韓情報システム株式会社
原告 株式会社デジタルカスト
原告ら訴訟代理人弁理士 大川譲
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 橋本恵一,林栄二,高橋泰史
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第20825号事件について平成13年12月26日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本願発明の出願人である原告らが,本件出願につき拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁により請求は成り立たないとの審決がされたため,審決の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本願発明 出願人:世韓情報システム株式会社,株式会社デジタルカスト(原告ら) 発明の名称:「MPEG方式を用いた携帯用音響再生装置及び音響再生方法」 出願番号:特願平10-116444号 出願日:平成10年4月27日 (パリ条約による優先権主張1997年11月24日,韓国) (1-2) 本件手続 拒絶査定:平成11年10月5日(発送) 審判請求:平成11年12月24日(平成11年審判第20825号) 手続補正:平成11年8月17日,同12年1月24日,同年12月13日 審決日:平成13年12月26日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達:平成14年1月16日(原告らに対し) (2) 発明の要旨 本件特許請求の範囲請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)の要旨は,上記手続補正後のものによれば,次のとおりである。
「【請求項6】 携帯用音響再生装置のメインプログラムをローディングして実行環境を設定する過程と;コンピュータ又は無人情報自動販売手段等の外部機器と連結されて,MPEG方式で圧縮された音源データを受信する過程と;受信した音源データを内蔵の不揮発性メモリに保存する過程と;2次電池からなる電源供給手段から供給された動作電源により,保存した音源データを復元して再生する過程とを含むことを特徴とするMPEG方式を用いた携帯用音響再生装置の音響再生方法。」 (3) 審決の理由 審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」(ただし,「第3【当審の判断】」以下の部分の抜粋)に記載のとおりである。要するに,本件出願の特許請求の範囲請求項6に係る発明は,引用例1(特開平8-84315号公報,本訴甲3)及び同2(特開平5-36293号公報,本訴甲4)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないので,本願は拒絶すべきものである,というものである。
2 原告らの主張(審決取消事由)の要点 (1) 取消事由1(不揮発性メモリを内蔵した点に関する一致点・相違点の認定の誤り) 審決は,引用例1に記載されたメモリーカートリッジが「内蔵」といえるものではないのに,「内蔵」と認定した。その結果,「内蔵の不揮発性メモリ」との点は,本願発明6と引用例1記載の発明との相違点として認定されるべきであるところを,一致点であると誤って認定した。
(1-1) メモリ(記憶装置)を有するパソコン等の電子機器分野において,内蔵メモリとは,カートリッジ式等の外部記憶装置とは明確に区別されている。科学技術用語大辞典(甲7)の「内蔵プログラム」の項を参照すれば,内蔵か否かは,「内部記憶装置」か「外部記憶装置」かの相違に等しく,さらに,「内部記憶」の項を参照すれば,「人間の介在なしで」自動的にアクセスすることが,内部記憶の要件であることがわかる。
引用例1のメモリは,メモリカートリッジのような装置であって,このようなカートリッジ式の記憶装置は,人間の介在を要するものであり,内部記憶装置,内蔵記憶装置にはなり得ないものである。
(1-2) 確かに,引用例1には,「このメモリを固体メモリとすれば薄型のカード状のものとすることができるから装置本体と一体構造(例えば内蔵,着脱自在に装置本体内に収納可能)とすることができ,軽量で小型な携帯型AV装置を提供することができ」との記載があり,「内蔵」との記載がある。
そこで,上記記載の直前に記載された「そして例えば装置本体に着脱自在あるいは内蔵のメモリ(例えばメモリカートリッジ)にメモリされている…」との記載を併せて考慮すると,引用例1においては,メモリが一時的に本体内部に組み込まれた状態を指して,その状態にある時を「内蔵」と称していると解される。しかし,このような用語の用い方は,一般的なものではなく,全く特殊な引用例1独特の用い方であって,本願発明6が属する技術分野においては使用されない用法である。
単に,「内蔵」という用語が存在するからといって,通常の意味での「内蔵メモリ」が開示されているとはいえない。
さらに,引用例1に記載の発明は,その主要な目的として,「本発明は,通信回線より配信されるAVソフト,あるいは,パッケージAVソフトの双方を記録/再生可能な固体メモリを用いたメモリカートリッジを備え,このメモリカートリッジから…」と記載されているように(「AV」とは,Audio Videoの省略形である),メモリカートリッジのような外部記憶装置を用いることなく,その目的を達成することができないタイプのものである。内蔵のメモリを用いることによっては,パッケージAVソフトを再生できない。引用例1に記載の「メモリカートリッジ」は,単なる例示にすぎないが,そうだからといって,引用例1に記載の発明の所期の目的を達成することが不可能な種類のメモリまでが開示されていると拡張して解釈できないことは当然のことである。
(1-3) 本願発明6においては,「不揮発性メモリ」について,一般的技術用語を用いて「内蔵」のものに限定したものである。そして,引用例1には「内蔵」といえるメモリの開示はない。不揮発性メモリを内蔵した点は,本願発明6と引用例1記載の発明との間の相違点として認定されるべきものである。本願発明6は,不揮発性メモリを内蔵させることにより,さらに小型軽量化を図ることができる。
(2) 取消事由2(音源データをMPEG方式で圧縮した点に関する一致点・相違点の認定の誤り) 審決は,本願発明6と引用例1に記載の発明との相違点1として,「音源データ」と「AVデータ」の相違を認定しているものの,一致点として,「MPEG方式で圧縮されたデータ」を挙げている(「MPEG」とは,Moving Picture Image Coding Expert Groupの省略形)。確かに,引用例1に記載のAVデータも,本願発明6の音源データも「データ」の下位概念に属するものであり,これらのいずれもが,「MPEG方式で圧縮され」ていることは間違いがない。しかし,審決が,MPEG方式で圧縮された「データ」について,引用例1のオーディオデータまでも,「MPEG方式で圧縮され」ているかのごとく認定するのは誤りである。単なるデータ種別の相違ではなく,オーディオデータをMPEG方式で圧縮処理することについても,相違点に挙げてその容易性を判断すべきであった。
(2-1) 審決は,一致点・相違点1を認定するに際して,本願発明6の「音源データ」について,引用例1に記載の「オーディオデータのみ,ビデオデータのみ,オーディオデータ及びビデオデータの3態様」を意味する「AVデータ」のうちの一態様である「オーディオデータ」に相当するということを根拠にしていると解される。しかし,その論理は間違いである。
すなわち,引用例1のAVデータは,オーディオデータのみ,ビデオデータのみ,オーディオデータ及びビデオデータの3態様のいずれか1つではなく,すべての態様を採り得るものである。引用例1に記載の発明は,あくまでもAVデータに対応するためにそれを処理するものであって,純粋なオーディオデータを処理することまでも包含するものではない。純粋のオーディオデータをAVデータということはできない。
むしろ,引用例1には,オーディオデータがCDフォーマットで記録されるのに対して,AVデータがDVDフォーマットで記録されることの記載がある(甲3,第10欄)。そして,このDVDフォーマットについてはMPEG方式で処理することの記載がある一方,CDフォーマットについてはMPEG方式で処理することの記載はない(同第11欄,第12欄)。引用例1の開示によれば,引用例1記載の発明は,オーディオデータについてはMPEG方式で圧縮しない技術であると事実上明記されているのである。この点は,一実施例の記載にとどまるものではなく,引用例1の記載全体を通して一貫しており,それに反する記載はない。このように,引用例1に記載の技術は,AVデータとオーディオデータを明確に区別して扱っているし,オーディオデータをMPEG方式で圧縮することなど全く開示されておらず,むしろ,オーディオデータはMPEG方式で圧縮しないことが開示されているのである。
また,引用例1(甲3)の段落【0004】の記載によれば,引用例1記載の発明は,「携帯型オーディオ装置」は存在したが,未だ存在していなかった「携帯型AV端末」を提供しようとするものである。このことを考慮すれば,引用例1記載の発明において,新たに提供しようとしている「AV端末」が,純粋オーディオデータをも対象にするということは,非常に不自然で,あり得ないことである。
なお,引用例1に記載のAVデータは,ビデオデータだけでなくオーディオデータを含むものであり,このAVデータをMPEGによる圧縮処理をする以上,AVデータに含まれるオーディオデータについてもMPEGによる圧縮処理がされているということは,否定しない。しかし,それは,あくまでもAVデータを圧縮処理しているのであって,オーディオデータを圧縮処理することとは意味を異にする。
MPEG方式によるデータ圧縮技術は,動画像(Moving Picture Image)を対象としたものであり,引用例1に記載のようなビデオデータを含むAVデータを処理するために使用することは考えても,純粋なオーディオデータに対して適用することなど通常は考えない。本願発明6は,ひたすら小型化を追求するために,オーディオデータをMPEG方式で圧縮処理したものである。
(2-2) 以上のように,審決は,引用例1の「MPEG方式で圧縮されていないオーディオデータ」と本願発明6の「MPEG方式で圧縮された音源データ」との相違を相違点として認定し,音源データをMPEG方式を用いて圧縮することの容易性を判断する必要があった。それにもかかわらず,審決は,この点の判断を行わず,本願発明6の「音源データ」は,引用例1のMPEG方式で圧縮されたAVデータの一態様であり,その一態様に単に限定することについて単純に判断したものであるから,誤りがあったというべきである。
(3) 取消事由3(本願発明6の格別の効果の看過による進歩性の判断の誤り) 審決が相違点1ないし相違点4についての判断に際して行った認定自体に間違いがあるとはいえないとしても,審決は,本願発明6の個々の構成を一体に組み合わせたことによって得られた小型軽量化及び再生時間の長時間化という格別の効果を看過し,本願発明6の構成要件をバラバラに分解して,それぞれに公知ないしは周知の証拠があると個々に判断して,本願発明6の進歩性を否定したものであり,この点に誤りがある。
(3-1) 本願発明6は,外部でMPEG方式により圧縮済みの所望の音源データを外部機器から不揮発性メモリにダウンロードして保存し再生するので,従来の携帯用プレーヤで必須であったカセットテープやCD等の記録媒体を必要としない。このため,記録媒体の格納スペースや記録媒体の駆動メカニズムが不要となり,装置を一層小型軽量化することができるという従来にない特有の効果を奏する。
さらに,本願発明6は,CD(コンパクトディスク)等を駆動するモータ等の駆動メカニズムが不要であるので,装置を小型軽量化できるだけでなく,従来の携帯型音響再生機器よりも再生時間を長くできる,という従来にない特有の効果を奏することができる。
ところで,携帯型の音響再生機器は,充電なしでも長時間連続再生できなければ,携帯型のメリットが半減してしまう。一方,再生時間を長くするためにバッテリを大きくしたのでは,小型軽量化の妨げになってしまう。特に,2次電池による再生時間の長時間化という効果は,携帯型であってこそ初めて重要な意味を持つものであり,携帯型のメリットを十分に発揮するために必要な性能である。
このような小型軽量化及び再生時間の長時間化は,本願発明6の要件のどの一つを欠いても達成できない。すなわち,本願発明6は,CD等の装着を前提とした記録媒体を使わないために,不揮発性メモリを内蔵させることが不可欠になる。
この点で,確かに,引用例1にはメモリとして薄型のカード状の固体メモリを用いることが記載されている。しかし,この引用例1に記載の技術は,記録したものを再生するだけでなく,パッケージAVソフトをも再生しようとする従来の発想を出るものではなく,記録媒体として,カセットテープやCDに代えて,「カード状の固体メモリを用いたメモリカートリッジ」方式のものを選択したにすぎないものである。しかし,本願発明6は,このような技術とは全く発想を異にし,従来では考えられなかったことであるが,不揮発性メモリを内蔵させたものである。
そして,本願発明6において用いる不揮発性メモリは,CD等に比べて記憶容量が極めて小さいため,保存される音源データは,MPEG方式により圧縮されたものであることが必要になる。さらに,CDなどの記録媒体を使用しない代わりに,圧縮された音源データを送受信する機能が必要になる。そして,携帯機器の電源としての2次電池が必要になる。
本願発明6を世界で最初に商用化した製品であるMPEG3オーディオファイル再生装置は,「MPman」という商標で全世界的に商業的な大成功をおさめている。この事実は,本願発明6が,従来の携帯用音響再生装置とは根本的に異なる画期的なものであることを証明している。
(3-2) 引用例1の発明は,オーディオデータとともにビデオデータを再生するAV装置である。携帯型の装置においてビデオデータを再生するには,画像表示装置が必要になるが,画像表示装置が電力を消費するため,単に音響再生だけを行う場合に比べて,AVデータの再生には,大きな電力が消費されることになる。さらに,引用例1の発明では,小型軽量化を実現できる程度の小さな2次電池で音響及び画像を長時間再生することは困難である。引用例1には,2次電池等の駆動電源についての記載はなく,再生時間については全く考慮されていない。また,長時間再生についても何ら記載も示唆もない。さらには,メモリを内蔵することについての記載がない。メモリカートリッジ方式とすれば,パッケージ部,コネクタ部などのための余分なスペースを必要とする。
加えて,引用例1に記載の装置は,通信回線に接続した状態で使用することを意図した受信再生モードをも有している。このような受信再生モードで再生中には,容易には携帯できない。
(3-3) 2次電池を用いること自体が周知・慣用手段ではあるが,本願発明6は,2次電池を動作電源とするような携帯用音響再生装置に用いることを前提とするものであることを明確にしたものである。さらに,本願発明6は,携帯用音響再生装置のメインプログラムをローディングして実行環境を設定するものであること,外部機器と連結されて,MPEG方式で圧縮された音源データを受信するものであること,受信した音源データを内蔵の不揮発性メモリに保存するものであることを明確にしたものである。このような構成にすることによって,本願発明6は,上記した格別の効果を奏するものであり,十分に進歩性が認められるべきである。
3 被告の主張の要点 (1) 取消事由1(不揮発性メモリを内蔵した点に関する一致点・相違点の認定の誤り)に対して 引用例1(甲3)には,「メモリを固体メモリとすれば薄型のカード状のものとすることができるから装置本体と一体構造(例えば内蔵,着脱自在に装置本体内に収納可能)とすること」が記載されている。
この記載によると,薄型のカード状のメモリを装置本体と一体構造とする例示として,内蔵して一体構造とすること,着脱自在にして一体構造とすることが開示されている。内蔵して一体構造とは,装置本体に内蔵されて組み込ませることであり,着脱自在にして一体構造とは,装置本体に着脱自在に一時的に組み込ませることである。したがって,本願発明6と引用例1に記載の発明とは,不揮発性メモリを「内蔵」した点で一致しているから,一致点に関する審決の認定に誤りはない。
また,原告らは,引用例1の「装置本体に着脱自在あるいは内蔵のメモリ(例えばメモリカートリッジ)にメモリされている」との記載を指摘し,内蔵のメモリはメモリカートリッジであると主張しているが,上記記載は,着脱自在あるいは内蔵のメモリとして,メモリカートリッジが例示されているのであって,内蔵のメモリがメモリカートリッジであると限定的に解釈する原告らの主張は誤りである。
(2) 取消事由2(音源データをMPEG方式で圧縮した点に関する一致点・相違点の認定の誤り)に対して 引用例1(甲3)には,「AVデータに基づくオーディオ信号,ビデオ信号(AVデータに応じた再生信号,いわゆる二重化圧縮されたAVデータを再生用デコーダ8にて二重化伸張して得たMPEG圧縮されたAVデータ)を夫々,MPEGによる伸張処理を施して出力する。」と記載されている。
この記載によると,オーディオ信号とビデオ信号にそれぞれMPEG伸張処理を施しているから,オーディオ信号とビデオ信号は,いずれもMPEGによる圧縮処理が施されていることは明らかである。したがって,引用例1には,オーディオデータをMPEG方式による圧縮処理することについて開示されており,引用例1に記載の発明は,オーディオデータをMPEG方式で圧縮している。よって,本願発明6と引用例1に記載の発明とは,「音源」データか「AV」データかの点で相違するが,両発明は,ともに「MPEG方式で圧縮されたデータを受信する過程」を有する点で一致していると認定した審決に誤りはない。
そして,審決は,MPEG方式で圧縮されたデータが,本願発明6では,「音源」データであるのに対して,引用例1に記載の発明は,「AV」データである点を相違点として挙げて,その相違点について容易想到性を判断しているのであるから,原告らの主張は妥当でない。
また,引用例1には,「オーディオデータ及び/又はビデオデータ(即ち,オーディオデータのみ,ビデオデータのみ,オーディオデータ及びビデオデータの3態様を意味し,以下,「AVデータ」と記す)」と記載されているから,引用例1における「AVデータ」とは,オーディオデータ及びビデオデータのみの略称ではなく,オーディオデータ又はビデオデータの略称でもあるから,引用例1に記載の「AVデータ」はオーディオデータ(原告らが主張する純粋なオーディオデータ)の略称でもある。したがって,引用例1には,純粋なオーディオデータをMPEG方式で圧縮することが開示されている。
なお,引用例1には,一実施例として「オーディオデータ」をCDフォーマットで記録することが記載され,「オーディオデータ」をMPEG方式で圧縮する実施例は記載されていない。しかし,「AVデータ」はMPEG方式で圧縮され,「AVデータ」は「オーディオデータ」でもあるから,「オーディオデータ」をMPEG方式で圧縮することは,引用例1に開示されている。そして,「オーディオデータ」をMPEG方式で圧縮して記録することを排除する記載はない。
(3) 取消事由3(本願発明6の格別の効果の看過による進歩性の判断の誤り)に対して 駆動電源については,引用例1に記載はないが,引用例1に記載の発明を実施する際には駆動電源が必要なことは明らかで,この種の発明を記述するに当って,駆動電源は省略される場合が多いことも明らかである。
再生時間については,引用例1に記載の発明において,固体メモリが採用されているから,駆動メカニズムが不要であり,再生時間を長くできることは明らかである。そして,駆動電源として2次電池を用いた場合に,2次電池が高性能化されるに伴い,長時間再生が可能となることも明らかである。
原告らの主張する本願発明6の効果は,カセットテープやCD等を駆動するモータ等の駆動メカニズムを有する音響再生機器と対比したものであり,引用例1に記載の発明と対比すると,本願発明6の構成に基づく効果は,格別顕著なものではない。
また,原告らは,審決が本願発明6の構成要件をバラバラに分解して個々に判断したと論難するが,各相違点に係る構成を得ることが容易であり,その相違点相互に,組合せを妨げる事情がある等の特段の事情がない本件においては,本願発明6の全体の構成を得ることも容易であることは明らかである。
なお,本願発明6を商品化した製品が商業的な成功をおさめたからといって,容易性の判断に影響を与えるものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(不揮発性メモリを内蔵した点に関する一致点・相違点の認定の誤り)について (1) 本願発明6は,受信した音源データを「内蔵の不揮発性メモリ」に保存するとの構成を有するものであるところ,引用例1(甲3)の段落【0095】【発明の効果】欄には,@「このメモリを固体メモリとすれば薄型のカード状のものとすることができるから装置本体と一体構造(例えば内蔵,着脱自在に装置本体内に収納可能)とすることができ,軽量で小型な携帯型AV装置を提供することができ…」との記載や,A「そして例えば装置本体に着脱自在あるいは内蔵のメモリ(例えばメモリカートリッジ)にメモリされている…」との記載がある。
したがって,引用例1においても,不揮発性メモリを内蔵するものであることが認められる。
(2) 原告らは,上記引用例1の「内蔵」との記載については,一般的技術用語として記載された本願発明6の内蔵とは異なり,引用例1独特の全く特殊な用い方であって,メモリが一時的に本体内部に組み込まれた状態を指して,その状態にある時を「内蔵」と称していると主張し,単に,「内蔵」という用語が存在するからといって,通常の意味での「内蔵メモリ」が開示されているとはいえないと主張する。そして,引用例1には,「通信回線より配信されるAVソフト,あるいは,パッケージAVソフトの双方を記録/再生可能な固体メモリを用いたメモリカートリッジを備え」と記載されているが,内蔵のメモリを用いることによっては,パッケージAVソフト再生という目的を達成することができず,メモリカートリッジのような外部記憶装置を用いる必要があるとし,引用例1に記載の発明の所期の目的を達成することが不可能な種類のメモリまでが開示されていると拡張して解釈できないことは当然のことであると主張する。
そこで,引用例1記載の発明におけるメモリについて検討するに,上記(1)に認定した引用例1の記載によれば,「装置本体と一体構造」の「内蔵メモリ」と,「装置本体と一体構造」の「着脱自在なメモリ」が例示されていることは明らかである。そして,上記の@「内蔵,着脱自在」,A「着脱自在あるいは内蔵」という記載を引用例1の明細書全体の記載に照らしてみれば,「内蔵又は(若しくは)着脱自在」という意味であり,この二つの構成を示していることが明らかである(「内蔵」と「着脱自在」とが同義のものとして言い換えられているものとは解されない。)。そうすると,引用例1における「内蔵」は,「着脱自在」に対置するものとして記載されているのであるから,原告ら主張のように,引用例1記載の「内蔵」が「一時的に本体内部に組み込まれた状態」を意味するものとは認められない(ちなみに,Aの記載における「メモリカートリッジ」は,「内蔵メモリ」の例として記載されたものではなく,「装置本体に着脱自在あるいは内蔵」の「メモリ」の例であることは明らかであり,具体的には,「着脱自在のメモリ」が念頭におかれているものと解される。)。
次に,パッケージAVソフト(CD,DVD等)の再生の点について検討するに,引用例1の「発明の詳細な説明」欄では,通信回線から配信されるAVソフトを記録/再生する点に重点が置かれて記載されており,パッケージAVソフトについては,その記録/再生を可能とするということは記載されているものの,その具体的な方法までは記載されていない。そして,引用例1(甲3)を精査しても,パッケージAVソフトを引用例1記載の発明にかかる装置本体に直接に装着して再生することは記載されていない。むしろ,引用例1における「通信回線から配信される圧縮伝送されたAVデータ,これ以外の外部装置(例えばビデオカメラ…AVデータが出力される外部装置)に接続されることにより,ここから再生(伝送)されるAVデータ」(段落【0095】【発明の効果】)など,引用例1の明細書全体の記載に照らしてかんがみれば,パッケージAVソフトについても,外部装置に装着され,この外部装置に引用例1記載の発明に係る装置を接続して,その外部装置から出力されたAVデータを引用例1記載の発明に係る装置に取り込んで再生したり,これを着脱自在あるいは内蔵のメモリに記録し,さらには,記録されたメモリから再生するなどのことが行われるものと認めるのが自然である。したがって,原告らが主張するように,引用例1記載の発明においては,内蔵のメモリを用いることによっては,パッケージAVソフト再生という目的を達成することができず,メモリカートリッジのような外部記憶装置を用いる必要があるものと断定することは困難である。いずれにしても,パッケージAVソフトの再生ということが,引用例1記載の発明において,内蔵メモリを採用することの決定的な支障となるものとは認められない。
以上によれば,引用例1記載の発明における「内蔵」は,原告らが本願発明6における内蔵について主張するところと異なるものとは認められず,結局,引用例1記載の発明における「内蔵」の意味を原告らの上記主張のように解することはできないから,原告らの取消事由1に関する主張は,前提を欠くものである。
なお,引用例1における「内蔵」を上記のように解釈することは,引用例1における他の記載,例えば,「CPU17の内蔵メモリにセーブする。」(【0041】),「内蔵のハードウェアを共用しながら受信したAVデータを再生可能とする…」(【0095】)などにおける「内蔵」という用語法とも矛盾しない。
(3) したがって,審決が,本願発明6と引用例1記載の発明との一致点として「内蔵の不揮発性メモリ」を認定し,この点を相違点としなかったことに誤りがあるとはいえない。
2 取消事由2(音源データをMPEG方式で圧縮した点に関する一致点・相違点の認定の誤り)について (1) 審決は,引用例1のAVデータには「ビデオデータのみ」,「オーディオデータのみ」及び「ビデオデータ及びオーディオデータ」の3態様があり,かつ,これらAVデータを構成する3態様のいずれもがMPEG方式で圧縮されていることを前提として,引用例1記載の発明が「MPEG方式で圧縮されたAVデータを受信する携帯型AV装置」であるのに対し,本願発明6が「MPEG方式で圧縮された音源データを受信する携帯用音響再生装置」であることに着目し,それらの上位概念である「MPEG方式で圧縮されたデータを受信する…MPEG方式を用いた携帯用再生装置」を一致点とし,受信データの内容の相違については相違点1として「本願発明は,「音源」データを受信し,…引用例1記載のものはAVデータを受信し,…」と認定したものである。「オーディオデータのみ」の態様のAVデータにおけるオーディオデータがMPEG方式で圧縮されていることは明らかであるから(この限度では原告らも争う趣旨ではない。),上記一致点の認定及び相違点の認定に誤りはない。
(2) 原告らは,引用例1について,AVデータとオーディオデータを明確に区別して扱っていること,AVデータがDVDフォーマットで記録され,オーディオデータがCDフォーマットで記録されると記載され,DVDフォーマットについてはMPEG方式で処理すると記載される一方で,CDフォーマットについてはMPEG方式で処理することの記載はないこと,したがって,引用例1記載の発明は,オーディオデータについてはMPEG方式で圧縮しない技術であると事実上明記されていると主張する。
確かに,引用例1の記載(第10欄ないし第12欄)をみれば,実施例としてではあるが,オーディオデータがCDフォーマットで記録されると記載され,その圧縮方式がMPEG方式であるとの記載はない。しかしながら,審決は,本願発明6と引用例1記載の発明とを対比するに際し,引用例1記載の発明における「CDフォーマットによるオーディオデータ」によって対比したのではなく,「オーディオデータのみ」の態様を含む「AVデータ」によって対比を行ったものである。すなわち,審決は,「オーディオデータのみ」の態様のAVデータを「オーディオデータ」とみなして対比判断をしたもので,オーディオデータに関して対比判断を怠ったものではない上,他方で,「音源」データであるか,「AV」データであるかは,相違点であると認定したのであるから,審決に誤りがあるとはいえない。
(3) そこで,原告らは,AVデータに含まれるオーディオデータの圧縮(MPEG方式)は,あくまでもAVデータの圧縮であって純粋オーディオデータの圧縮とは意味が異なると主張する。
しかし,本件全証拠を検討しても,AVデータにおけるオーディオデータのMPEG方式の圧縮の仕方と,本願発明の音源データのMPEG方式の圧縮の仕方とが,同じMPEG方式といいながら異なるものであることを示す証拠はない。結局は,引用例1の「オーディオデータのみ」の態様のAVデータを受信することは,本願発明6の「MPEG方式で圧縮された音源データを受信する過程」と異ならないといわざるを得ない。原告らの主張は,採用することができない。
(4) 原告らは,引用例1記載の発明が,「携帯型オーディオ装置」は存在したものの,未だ存在していなかった「携帯型AV端末」を提供しようとするものであることを考慮すれば,引用例1記載の発明において,新たに提供しようとしている「AV端末」が,純粋オーディオデータをも対象にするということは,非常に不自然で,あり得ないことであること,MPEG方式によるデータ圧縮技術は,動画像(Moving Picture Image)を対象としたものであり,引用例1に記載のようなビデオデータを含むAVデータを処理するために使用することは考えても,純粋なオーディオデータに対して適用することなど通常は考えないことなどを主張する。
上記主張は,相違点1について容易に想到し得るとした審決の判断を争う趣旨であるとも解し得るので,念のため,この進歩性の点についても判断しておく。
AV装置とは,オーディオ装置の機能とビデオ装置の機能の双方の機能を有する複合装置であることは明らかである。引用例1(甲3)によれば,引用例1記載のAV装置は,CD規格(楽音)及びDVD規格(MPEGオーディオのみ)というオーディオデータと,DVD規格(MPEGビデオ及びオーディオ)及びDVD規格(MPEGビデオのみ)というビデオデータが送信されるAVソフト配信ネットワークの存在を前提とし,同AVソフト配信ネットワークに対応して各規格データ及び各データ態様の記録・再生が可能である装置として構成されている(それ以外の規格データに対しては再生不能と表示される)ことが認められる。
そうすると,引用例1記載のAV装置は,CD規格(楽音)及びDVD規格(MPEGオーディオのみ)というオーディオデータに対応する音響再生装置であり,DVD規格(MPEGビデオ及びオーディオ)及びDVD規格(MPEGビデオ)というビデオデータに対応する機能を追加した音響再生装置であるということができる。
一方,引用例2(甲4)によれば,音楽,ニュースなどのビデオを除く音響ディジタル信号を受信して記録・再生する携帯型のプレーヤは,本件出願時,周知であったことが認められる。また,引用例1の「通常の記録/再生(即ち,記録専用,再生専用,記録再生の3態様を意味しており,…)」(甲3【0001】)との記載によれば,引用例1には動作機能について専用機とすることが開示されており,特定の信号を対象とした専用機にすることも,引用例1の開示の範囲内であるというべきである。さらに,引用例1の図1において,最低限「VIDEO IN」,「VIDEO OUT」の回路部分を不使用(削除)とするだけでオーディオ専用とすることが可能であることは明らかであるから,回路構成上の阻害要因も認められない。
原告らは,上記のとおり主張するが,配信される音響ディジタル信号を受信・再生する携帯型プレーヤは周知であり,特定の信号を対象とした専用機にすることが引用例1の開示の範囲内であり,回路構成上の阻害要因もないことも上記のとおりであって,引用例1記載のAV装置が,オーディオデータ又はビデオデータ(ビデオデータ及びオーディオデータ)を提供するAVソフト配信ネットワークに対応する構成である以上,オーディオデータのみを対象とした専用機構成とすることは容易になし得ることであるというべきである。
そうすると,本願発明6は,引用例1記載のAV装置をオーディオ専用に特化することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。審決の判断に誤りはなく,原告らの上記主張は,採用の限りではない。
3 取消事由3(本願発明6の格別の効果の看過による進歩性の判断の誤り)について 検討するに,駆動メカニズムが不要となることや,2次電池を用いたことなどによる長時間再生が可能となる効果は,引用例1及び引用例2の記載から予測可能な事項であり,格別のものではない。また,相違点に記載された構成の相互の組合せによるいわゆる相乗的効果も格別顕著であるとはいえない。
原告らは,引用例1のカートリッジ方式は,小型化には適さないと主張するが,「薄型のカード状のものとすることができ…軽量で小型な携帯型AV装置を提供することができ…」(甲3【0095】)との記載もあり,小型化についても予測することができる。
また,原告らの主張する商業的な成功については,いかなる商業的な成功をおさめたとしても,直ちに進歩性を理由づけるものではなく,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
よって,原告ら主張の取消事由3は,理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告らの審決取消事由の主張は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】審決の理由平成11年審判第20825号事件,平成13年12月26日付け審決(下記は,上記審決の理由中の「第3【当審の判断】」以下の部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由第3【当審の判断】1[対比]本願発明と引用例1に記載の発明とを対比すると、引用例1には、相手局は下り方向(AVソフトサービスセンタ等→装置A)の高速データチャンネルを通じて同局が保有しているCDやDVDのデコードデータ(CDの場合は圧縮伝送データ、
DVDの場合は圧縮伝送データ,MPEGデータ)をそのまま伝送し、携帯型AV装置ではCDやDVDのデコードデータをそのまま受信できることが記載されており(引用例1の上記5の記載参照)、また受信記録モードで、この携帯型AV装置は、通信回線20を介して相手局から伝送されるAVデータをメモリカートリッジ1に記録することが記載されており(引用例1の上記6、7の記載参照)、さらにメモリ部1aは半導体(固体)メモリであるいわゆるフラッシュメモリ(例えばF-EEPROM)を用いて構成されることが記載され(引用例1の上記2の記載参照)、このような固体メモリとすれば薄型のカード状のものとすることができるから装置本体と一体構造(例えば内蔵)とすることができることも記載されている(引用例1の上記8の記載参照)。
これらの記載によれば、引用例1に記載の発明も、本願発明でいう「MPEG方式で圧縮されたデータを受信する過程」と「受信したデータを内蔵の不揮発性メモリに保存する過程」を有するものといえる。
また、引用例1には、スイッチ回路23の次段の信号処理部11は再生用デコーダ8を介してメモリカートリッジ1から供給されるAVデータに基づくオーディオ信号、ビデオ信号を夫々、MPEGによる伸張処理を施して出力し、オーディオ信号は出力アナログ系回路12を介して音声出力端子から外部へ出力されることが記載されており(引用例1の上記3、4の記載参照)、引用例1に記載の発明も、本願発明でいう「保存したデータを復元して再生する過程」を有するものといえ、さらに「MPEG方式を用いた携帯用再生装置の再生方法」といえる点でも、本願発明と変わりがない。
2[一致点]・[相違点]以上の点を踏まえると、両発明は、
「MPEG方式で圧縮されたデータを受信する過程と;受信したデータを内蔵の不揮発性メモリに保存する過程と;保存したデータを復元して再生する過程とを含むことを特徴とするMPEG方式を用いた携帯用再生装置の再生方法。」である点で一致し、次の点1ないし4で相違する。
相違点1本願発明は、「音源」データを受信し、保存・再生する過程を含む携帯用「音響」再生装置の「音響」再生方法であるのに対して、引用例1に記載のものは、AVデータを受信し、記録・再生する携帯型AV装置の再生方法である点。
相違点2本願発明は、「携帯用音響再生装置のメインプログラムをローディングして実行環境を設定する過程」を有するものであるのに対して、引用例1には、このことが記載されていない点。
相違点3本願発明では、「コンピュータ又は無人情報自動販売手段等の外部機器と連結されて」、MPEG方式で圧縮された「音源」データを受信しているのに対して、引用例1では、相手局から通信回線を介してMPEGデータを受信している点。
相違点4本願発明では、「2次電池からなる電源供給手段から供給された動作電源により」、保存した「音源」データを復元して再生しているのに対して、引用例1には、そのような動作電源について記載がない点。
3[相違点の検討]そこで、上記各相違点について検討する。
相違点1について引用例1には、オーディオデータ及び/又はビデオデータ(即ち、オーディオデータのみ、ビデオデータのみ、オーディオデータ及びビデオデータの3態様を意味し、以下、「AVデータ」と記す)の通常の記録/再生(即ち、記録専用、再生専用、記録再生の3態様を意味しており、以下、「記録/再生」と記す)だけでなく、公衆,専用通信回線を介して相手局から伝送されるAVデータをも記録/再生可能な一体構造の携帯型AV装置に関すると記載されており(引用例1の上記1の記載参照)、ここには引用例1に記載の携帯型AV装置におけるAVデータとして、オーディオデータ及びビデオデータに限らず、オーディオデータのみを用いることが一態様として示されており、また音楽プログラムなどのディジタル信号を受信し、記録・再生し得る携帯可能な音楽プレーヤ(本願発明の「携帯用音響再生装置」に相当)自体は、引用例2にも示されているように周知であること(引用例2の上記1ないし3の記載参照)を勘案すると、引用例1に記載の携帯型AV装置におけるAVデータとして、本願発明のように「音源」データを用いて、その「音源」データを受信し、保存・再生する過程を含む携帯用「音響」再生装置の「音響」再生方法を想到する程度のことは当業者が容易になし得ることといえる。
相違点2について一般に、CPUによって制御される装置において、その実行動作を行う際に、メインプログラムを主記憶装置にローディング(格納)し、実行環境を設定することは情報処理技術の常識的事項であり、引用例1に記載のようなCPUによって制御される携帯型AV装置において、メインプログラムをローディングして実行環境を設定すること、すなわち本願発明が、上記相違点1についての判断で述べたような携帯用音響再生装置であることに伴い、本願発明のように「携帯用音響再生装置のメインプログラムをローディングして実行環境を設定する過程」を設ける程度のことは当業者が適宜になし得ることといえる。
相違点3について携帯用音響再生装置の音響再生方法において、自動販売機などの端末装置から音楽プログラムなどのディジタル信号を受信することは引用例2にも示されているように周知の事項であり(引用例2の上記1ないし4の記載参照)、引用例1に記載の携帯型AV装置の再生方法において、MPEG方式で圧縮されたデータを、自動販売機などの端末装置から受信する程度のこと、すなわち本願発明が、上記相違点1についての判断で述べたように「音源」データを受信することに伴い、本願発明のように「コンピュータ又は無人情報自動販売手段等の外部機器と連結されて」、
MPEG方式で圧縮された「音源」データを受信するようになす程度のことは当業者が適宜になし得ることといえる。
相違点4について携帯用音響再生装置における再生動作の動作電源を、2次電池からなる電源供給手段から供給することは、例えば、引用例2にも示されているように周知・慣用手段であるから(引用例2の上記5の記載参照)、引用例1に記載の携帯型AV装置の再生方法における動作電源を、2次電池からなる電源供給手段から供給する程度のこと、すなわち本願発明が、上記相違点1についての判断で述べたように「音源」データを復元して再生するものであることに伴い、本願発明のように「2次電池からなる電源供給手段から供給された動作電源により」、保存した「音源」データを復元して再生するようになす程度のことは当業者が適宜になし得ることといえる。
そして、本願発明の構成に基づく効果についてみても格別顕著なものがあるとはいえない。
第4【むすび】したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項1ないし5、請求項7ないし11に係る発明について、検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
平成13年12月26日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利