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関連審決 不服2001-11472
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 324号 審決取消請求事件
原告 株式会社鶴弥
訴訟代理人弁理士 西山聞一
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 鈴木憲子
同 木原裕
同 大橋良三
同 大野克人
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/05/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2001-11472号事件について平成14年5月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年7月29日,発明の名称を「防災瓦」とする発明につき特許出願(平成11年特許願第214606号。以下「本願出願」という。)をし,平成13年6月5日拒絶査定を受けたので,同年7月5日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2001-11472号事件として審理し,その結果,平成14年5月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月31日,その謄本を原告に発送し,そのころ,原告に送達した。
2 特許請求の範囲(別紙図面1参照) 「【請求項1】瓦本体の両側端部に葺合時重合される桟と差込部を形成した平板状の瓦であって,千鳥葺き合わせ時に,瓦本体に設けた係合凸部と係合差込部が係合する防災瓦において,瓦本体の尻側水返し上面の中央付近に,立上部と該立上部から桟側への水平部を連続した係合凸部を設けて,水返し上面と係合凸部の水平部下面の間に差込空間を設け,上記差込空間に差し込まれる係合差込部を,差込部の水返しの外側に設けたことを特徴とする防災瓦。」(以下「本願発明1」という。) (【請求項2】ないし【請求項5】は省略。) 3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願発明1は,公開日を平成8年4月9日とする特許出願に係る特開平8-93141号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面2参照。)から,当業者が容易に発明をすることができたものである,と認定判断した。 審決が,上記認定判断において,本願発明1と引用発明との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「瓦本体の両側端部に葺合時重合される桟と差込部を形成した平板状の瓦であって,千鳥葺き合わせ時に,瓦本体に設けた係合凸部と係合差込部が係合する防災瓦において,瓦本体の尻側水返し上面の中央付近に,立上部と該立上部から桟側への水平部を連続した係合凸部を設けて,係合凸部の水平部下面下に差込空間を設け,上記差込空間に差し込まれる係合差込部を,差込部の水返しの外側に設けた防災瓦」 相違点 「差込空間を,本願発明1では,水返し上面と係合凸部の水平部下面の間に設けているのに対し,引用例1記載の発明では,係止突起の水平部下面下には,尻切欠部が形成されていて,差込空間を係止突起の水平部下面下ではあるが,水返し上面との間に設けているとは明記されていない点。」
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,「引用例1の図13,14,特に図13をみると,引用例1記載の発明においても,斜め上段側の瓦Z1の係止受部2cの上面は係止突起3cの水平部下面下に配置されるとともに,瓦Z1の尻切欠部からはずれた部分の係止受部2cの下面は,差し込まれる瓦Zの尻部側水返し上面上に配置されるようになっており,防水性を考慮して尻切欠部を設けずに差込空間を水返し上面と係止突起の水平部下面の間に設けるようにすることは,当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。そして,本願発明1によってもたらされる効果も,引用例1に記載された発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。」(審決書2頁第3段落,3頁第1,第2段落)と判断した。しかし,審決は,本願発明1と引用発明との上記相違点についての判断を誤ったものであり,この誤りが結論に影響することは明らかであるから,違法なものとして取消しを免れない。
1 引用発明の防災瓦は,係止突起を形成するために尻切欠部8を設けているため,尻切欠部8の部位から雨漏りがするとの欠陥がある。すなわち,引用発明においては,斜め上段側の瓦Z1の係止受部2cの上面が差し込まれる瓦Zの係止突起3cの水 平部下面下に配置されるとともに,瓦Z1の係止 受部2cの下面中,瓦Zの尻切欠部8からはずれた部分が瓦Zの尻部側水返し上面上に配置されるよう にはなっているものの,瓦Zに係止突起3cの裏面に尻切欠部8があること,及び,この係止突起3cが上下方向にぐらついて,係止受部2cと係止突起3cとが完全な状態で面接触することは不可能であ ることにより,尻切欠部8の部位から雨漏りが発生する。係止受部2cと係止突起3cとが完全な状態で面接触することができないことは,引用例1の図10,図11からも 明らかなとおり,引用発明においては,尻切欠部8と導水帯1とを区割する水返しの幅が,係止突起3c下部においては,他の部分の約3分の1程度しか形成されていないことからも生ずることである。 このように,引用発明の防災瓦は,雨漏りが発生するため,産業上利用することができない発明である。
2 防災瓦は,従来から上下金型を使用してプレス成形により製造するものであるため,本願出願時には,本願発明1のように,尻切欠部を設けずに,防災瓦表面に係合凸部を形成するとの発明に当業者が考え及ぶことはなかった。発明の進歩性の判断基準はあくまで当業者である。伝統工芸の一つ でもある防災瓦業界においては,現場を知らない有識者がいかに優れた構成の防災瓦を着想しても,現実的に製造することができない防災瓦では,当業者はこれを一笑に付すだけである。本願出願当時の当業者にとっては,係止突起のある 防災瓦を製造するために,尻切欠部の存在は避けることができないものであったため,係止突起があり,尻切欠部がない防災 瓦を製造することができるとは考え及びもしなかったことである。
本願発明1は,このような防災瓦の製造上の問題を解決したことにより成されたものであり,その実施品である防災瓦は,需要者間で好評を博し,商業的成功を得ているものである。これに対し,引用発明は,係止突起はあるものの,上記1のとおり,雨漏りがするため,産業上利用することができない欠陥品である,と当業者において認識されていたものにすぎない。
被告の反論の骨子
1 審決は,本願発明1が水返し上面と係合凸部の水平部下面の間に差込空間を設けているのと同様に,引用発明においても,係止受部2cが,係止突起3cの水平部下面下と尻部側水返し上面との間に差し込まれるのであるから,尻部側水返し上面と係止突起の水平部下面の間に差込空間を設けているものと認定し,その上で,「防水性を考慮して尻切欠部を設けずに差込空間を水返し上面と係止突起の水平部下面の間に設けるようにすることは,当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。」(審決書3頁第1段落)と判断したのである。
2 原告は,引用発明の防災瓦は,係止突起を形成するために尻切欠部8を設けており,尻切欠部8の部位より雨漏りがするとの欠陥がある,と主張している。
しかし,雨漏りを防止するとの課題を達成するために,引用発明の防災瓦において,尻切欠部を設けずに差込空間を水返し上面と係止突起の水平部下面の間に設けるようにすることは,当業者なら,当然に考えつくことであり,この点を「当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。」とした審決の判断に誤りはない。
3 原告は,本願発明1は,このような防災瓦の製造上の問題を解決したことにより成されたものである,と主張する。しかし,本願発明1は,物の発明であり,製造方法の発明ではない,また,その請求項において,製造方法を特定事項としたものでもない。原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 引用発明の防災瓦においては,係止突起の下に尻切欠部があるために,そこから雨漏りが生じやすいとの欠陥があった(甲第4号証【0006】)。本願発明1は,防災瓦の防水性能を向上させるために,係合凸部(係止突起)の下にあった尻切欠部をなくし,「水返し上面と係合凸部の水平部下面の間に差込空間を設け」との構成としたものである(甲第5号証【請求項1】,【0012】)。審決は,引用発明と本願発明1とのこの相違点について,「防水性を考慮して尻切欠部を設けずに差込空間を水返し上面と係止突起の水平部下面の間に設けるようにすることは,当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。」(審決書3頁第1段落)と判断した。
2 原告は,引用発明は,雨漏りが発生するため,産業上利用することができない発明である,と主張する。しかし,引用発明の防災瓦が,屋根瓦としての基本的性能を有しないことを認めるに足りる証拠はない。引用発明の防災瓦がたとい本願発明1の防災瓦より防水機能において劣るとしても,このことから直ちに,これを,産業上利用することができない発明とすることはできない。原告の主張は採用することができない。
3 原告は,防災瓦は,従来から上下金型を使用してプレス成形により製造するものであるため,本願出願時には,本願発明1のように,尻切欠部を設けずに,その表面に係合凸部を形成するとの防災瓦の発明に当業者が考え及ぶことはなかった,本願出願当時の当業者にとっては,係止突起のある 防災瓦を製造する上で,尻切欠部の存在は不可欠であったため,係止突起があり,尻切欠部がない防災 瓦を製造することができるとは考え及びもしなかったことである,と主張する。
確かに,本願発明1の願書に添附した明細書(以下「本願明細書」という。)の【発明の詳細な説明】には,引用発明の防災瓦では,尻切欠部があるため,防水性能が不十分であったこと(甲第4号証【0005】,【0006】,【0008】),及び,「従来の瓦成形方式は,上下型(金型)が鉛直方向上下に移動して原料を加圧することによって成形していたため,上下方向の中間に空間部が存在する形状(鉤状等)の成形は,空間部を成形する部分形成型が,加圧成形後の金型上昇時に鉤部における空間部の上方成形部に当接し,引っ掛かることになり,鉤部成形は不可能であった。」(同【0007】)こと,すなわち,係合凸部(係止突起)の下に尻切欠部を設けずに防災瓦を製造することは,製造工程上困難であったことが記載されている(本願明細書の【発明の詳細な説明】では,このこととの関連で,【0027】,【0028】等において,係合凸部の下に尻切欠部を設けずに防災瓦を製造する製造方法についての発明が詳しく記載されている。甲第4号証)。
しかしながら,尻切欠部を設けることにより原告主張のような不都合が生じることは,むしろ自明というべき事項であるから,これを設けることなく同じ目的が達成できるならば,そのようにしたいということは,当業者として当然考えることというべきである。すなわち,尻切欠部を設けずにその表面に係合凸部を形成するという構成自体は,物の発明の形を採るにせよ,方法の発明の形を採るにせよ,何らの困難なく想到できることというべきである。したがって,出願された発明がこのような構成のものにとどまる限り,これに進歩性を認める余地はない。出願された発明が,上記のような構成のものにとどまることなく,それまで困難とされていた,尻切欠部を設けずにその表面に係合凸部を形成することを実現するための手段をその構成要件としているとき,初めて,進歩性が認められる可能性が生まれることになる。
ところが,本願明細書の【請求項1】には,係合凸部の下に尻切欠部を設けずに防災瓦を製造するための製造方法を特定するための記載はない。すなわち,本願明細書には,本願発明1の構成の防災瓦の製造方法について,上記のとおり,その発明の詳細な説明には詳しい方法が開示されているものの,本願発明1を特定するために必要と認める事項のすべてが記載されているべき【請求項1】は,このような構成の防災瓦を製造する方法を特定する記載は一切ない。
したがって,本願発明1の進歩性を判断するに当たり,その【請求項1】により特定された本願発明を公知技術である引用発明と対比し,その相違点を上記のとおり認定した上,防水性能が不十分であった引用発明の防災瓦の防水性能を高めるために,その原因となっていた尻切欠部を設けないようにしたとの本願発明1の構成は,当業者であれば,その構成を容易に想到し得るものであるとした審決に何ら誤りはない。
本願明細書に記載された本願発明1の構成の防災瓦を製造する方法については,これを特定する事項を特許請求の範囲に記載することにより,すなわち,上下の金型を使用して,係合凸部を備えた防災瓦を大量生産する場合に生じる困難を克服した発明として,特許出願がされていれば,これについては,この点についての公知技術を調査するなどした上で,その進歩性を判断することになる。しかし,本願発明1の構成の防災瓦の発明の進歩性については,あくまでも,その特許請求の範囲に記載された発明として,その進歩性の判断をすべきである。原告の上記主張は,尻切欠部を設けずにその表面に係合凸部を形成すること自体の容易想到性と,尻切欠部を設けずにその表面に係合凸部を形成するめの具体的方法の容易想到性とを区別せず,両者を同一視して,後者が認められないことをもって,前者が認められないこととしようとするものであり,採用することができない。原告の主張が認められることになれば,課題自体は当業者にとって自明であるとき,その課題を解決するための一つの手段を発明したにすぎない者が,そのことを理由に同一課題を解決するための手段の全部につき特許を取得するという結果を認めなければならないことになる。このような結果を認めなければならなくなる主張が不合理であることは,論ずるまでもないところである。
4 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由には理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久