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関連審決 審判1999-35209
関連ワード 新規性 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  下位概念 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  実質的に同一 /  共有 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  訂正審判 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 483号 審決取消請求事件
原告 大同特殊鋼株式会社
訴訟代理人弁理士 岡崎謙秀
同 西澤利夫
同 西義之
被告 アルクメットテヒノロギィー ゲーエム ベーハー
訴訟代理人弁理士 谷義一
同 阿部和夫
同 佐藤久容
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が平成11年審判第35209号事件について平成12年10月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文第1,2項と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「シャフト状装填材料予熱装置付き溶解プラント」とする特許第2135799号(1989年3月2日及び同年12月7日にドイツ国でした出願による優先権を主張して平成2年2月28日に特許出願(以下「本件出願」といい,願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。),平成10年4月10日登録。以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は14である。)の特許権者である。原告は,平成9年7月17日,本件特許を請求項1ないし14のすべて関して無効とすることにつき審判を請求した。特許庁は,これを平成11年審判第35209号事件として審理し,その結果,平成12年10月30日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし,同年11月20日にその謄本を原告に送達した。
被告は,本件訴訟の係属中に,本件特許のうち請求項10及び11を削除し,これに伴い請求項12ないし14の項番号を請求項10ないし12に繰り上げること等を内容とする訂正審判の請求をし,特許庁は,平成13年9月18日,これを認めるとの審決をした(以下,この訂正を「本件訂正」という。) 2 特許請求の範囲(本件訂正後のもの。請求項1ないし9は,本件訂正の前後を通じて同一である。) 「【請求項1】 炉床(4)、炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)と前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し、該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており、前記予熱装置は、さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて、前記装填材料予熱装置(2)の壁は、その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され、その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており、かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器3)は互いに移動可能であることを特徴とする溶解プラント。」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】 前記容器蓋(6)は解放可能に前記保持構造体(27)に取り付けられていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明2」という。) 「【請求項3】 前記保持構造体(27)が昇降装置(56)によって前記炉容器に対して上昇可能であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明3」という。) 「【請求項4】 前記炉容器(3)が前記保持構造体(27)に対して下降可能であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明4」という。) 「【請求項5】 前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)が相互に水平方向に変位可能であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかの項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明5」という。) 「【請求項6】 前記相互の水平方向の変位の方向が前記炉容器蓋(6)の中央と前記シャフトの中心線との間を結ぶ線に平行であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明6」という。) 「【請求項7】 前記シャフト(10)中には、少なくとも1個のブロッキング部材(51)が、該部材が前記装填材料の支持手段を形成する閉成位置から前記装填材料を前記炉容器(3)内へ装填するための解放位置へ移動可能な様に配設され、該解放位置においては前記ブロッキング部材は前記装填材料が前記シャフト(10)を通過させることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第6項のいずれかの項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明7」という。) 「【請求項8】 電極昇降旋回装置(8)が前記炉容器(3)の傍で前記装填材料予熱装置(2)と反対側に配設されていることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第7項のいずれかの項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明8」という。) 「【請求項9】 前記シャフト(10)の保持構造体(27)を移動させるための手段(23)が前記炉容器(3)の傍の前記装填材料予熱装置(2)の側に設けられていることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第8項のいずれかの項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明9」という。) 「【請求項10】(判決注・本件訂正前の請求項12) 前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が移動可能であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第9項のいずれかの項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明10」という。) 「【請求項11】(判決注・本件訂正前の請求項13) 前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、昇降部材(70,71)は装填材料予熱装置(2)の中央線と炉床(4)の中心を結ぶ線(22)の両側に配置され、一方の側の1個または複数の昇降部材71)はフレーム(61)および支持構造体(63)中で線(22)に平行な回転軸のまわりに旋回可能に取り付けられ、一方、他方の側の1個または複数の昇降部材は垂直案内部材を有することを特徴とする請求の範囲第10項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明11」という。) 「【請求項12】(判決注・本件訂正前の請求項14) 前記炉容器(3)がフレーム昇降装置(62)を通って支持構造体(63)上に支持された上部フレーム(61)に取り付けられ、かつ、前記支持構造体(63)が二つの平行横断受台(67,68)および該横断受台と接続する縦断受台(69)を含むことを特徴とする請求の範囲第10項あるいは第11項に記載の溶解プラント。」(以下「本件発明12」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本件発明1は,ヨーロッパ特許公開第0291680号公報(審判甲第1号証,本訴甲第4号証。以下「甲4刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲4刊行物発明」という。),特開昭61-134578号公報(審判甲第2号証,本訴甲第5号証。以下「甲5刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲5刊行物発明」という。),特表昭56-501810号公報(審判甲第3号証,本訴甲第6号証。以下「甲6刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲6刊行物発明」という。)及び「第3版 鉄鋼便覧 第U巻 製銑・製鋼」(日本鉄鋼協会編)534,535頁(審判甲第4号証,本訴甲第11号証の1,2。以下「甲11刊行物」という。)に記載された発明(以下「甲11刊行物発明」という。)に基づいて容易に想到し得たものとすることはできない,A本件発明1は,甲5刊行物発明と同一であるということはできない,B本件発明2ないし12は,本件発明1に更に構成要件を付加したものであるから,甲第4ないし第6号証刊行物発明及び甲11刊行物発明に基づいて容易に想到し得たものとすることも,甲5刊行物発明2と同一であるということもできないから,本件特許を無効とすることはできない,として,いずれの請求項についても,原告主張の無効理由をすべて排斥するものである。
(1) 審決が上記結論を導くに当たり認定した本件発明1と甲4刊行物発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「炉床(4),炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と,炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)と,前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し,該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており,前記予熱装置は,さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて,前記装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されていることを特徴とする熔解プラントである点」 (相違点) 「本件発明1は,装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており,かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であるのに対し,甲第1号証(判決注・甲4刊行物)には,これらの点が記載されていない点」 (2) 審決が上記結論を導くに当たり認定した本件発明1と甲5刊行物発明の一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「炉床(4),炉容器壁(5)および移動可能な炉容器蓋(6)を具えた炉容器(3)を含む電気アーク炉(1)と,装填材料予熱装置(2)を有する溶解プラントである点」 (相違点) 「本件発明1は,炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)を有し,前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し,該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており,前記予熱装置は,さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて,前記装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており,かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であることを特徴とする溶解プラントであるのに対し,甲第2号証(判決注・甲5刊行物)には,これらの点が記載されていない点」
原告主張の審決取消事由の要点
審決は、甲4刊行物発明の認定を誤った結果,同刊行物発明と本件発明1との相違点の認定を誤り,甲5,6刊行物発明の認定を誤り,本件発明1の作用効果を誤認した結果,本件発明1の進歩性の判断を誤り,本件発明1の新規性の判断を誤り,本件発明2ないし12の進歩性の判断を誤ったものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 甲4刊行物発明の認定の誤りによる,本件発明1と甲4刊行物発明との相違点の認定の誤り (1) 審決は,本件発明1と甲4刊行物発明とは,「本件発明1は,装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており,かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であるのに対し,甲第1号証(判決注・甲4刊行物)には,これらの点が記載されていない点」において相違する,と認定した。
上記両発明が,本件発明1は,「前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能である」のに対し,甲4刊行物にはこの点が記載されていない点で相違することは,事実である。
しかしながら,審決のなした上記相違点の認定のうち,残りの部分は誤りである。
甲4刊行物のFig.1,3(以下,図1,3のように記載する。別紙図面2参照)において,予熱器(7)の左方の側面は,炉容器の一部によって形成されており,溶湯境面(19)は,予熱室底部に至っていることは,明らかであるから,甲4刊行物発明において,予熱室底部は炉床の一部で形成されているということができる。同刊行物発明において,予熱装置は炉容器上にあり,予熱装置の下部外壁は炉容器の壁の一部によって共有の形で形成されていることは,明らかである。
このように,甲4刊行物には,装入物予熱器(7)の壁が,その下部において炉容器(2)の壁の一部分によって形成され,その上部領域においては,装入物予熱器(7)の壁によって形成されたものであること,が明確に示されている。
(2) 審決は,本件発明1と甲4刊行物発明との一致点として,「前記装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されていることを特徴とする溶解プラントである点で一致し」(審決書14頁29行〜32行)と認定しながら,他方で,両発明は,「本件発明1は,装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されて」いる点で相違する,とも認定している(同14頁33行〜36行)。
審決の上記相違点の認定は,上記一致点の認定と矛盾するものであって,誤りであることは,このことからも明らかである。
2 甲5刊行物発明の認定の誤り等による,本件発明1の進歩性についての判断の誤り (1) 審決は,甲5刊行物発明について,「スクラップ原料を予熱するスクラッププリヒータ自体を分割するものでなく,また,排ガスダクト13は,炉体2内の高温排ガスをスクラッププリヒータ15内に導入するためのものであり,排ガスダクト13内に装填材料を保持し,予熱するものでなく,また,シュート14は,スクラップ原料16の加熱時においてこの排ガスダクト13と相俟って該排ガスをスクラッププリヒータ15内に導入するためのものであり,また,加熱終了後は予熱されたスクラップ原料16を炉体2内に装入するためのシュートとして機能するものであるから,甲第2号証(判決注・甲5刊行物)に記載されたものは,シャフト内に装填材料を保持し,予熱する本件発明1と装填材料予熱装置の構成を相違するものである。」(審決書15頁10行〜19行),「スクラップ原料を予熱するスクラッププリヒータ自体を分割するものでなく」(16頁7行〜8行)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
ア 甲5刊行物発明の記載内容及び添付の第1図,第2図(別紙図面3参照)の記載によれば,炉体内に生成した溶融物4は排ガスダクト13の下部にまで到っていることが認められるから,排ガスダクト13は炉体の炉壁の一部を構成しているということができる。
甲5刊行物発明において,装填材料予熱装置は,スクラッププリヒータ15,シュート14及び排ガスダクト13とから成る。甲5刊行物発明のスクラッププリヒータ15及びシュート14は,本件発明1の装填材料予熱装置の上部であるシャフト10に相当する。甲5刊行物発明は,スクラッププリヒータ15及びシュート14から成る,装填材料予熱装置の上部に相当する部分を,その下部である炉体に備えた排ガスダクト13に対して互いに移動可能としたものである。
審決は,甲5刊行物発明における装填材料予熱装置は,スクラッププリヒータ15であり,排ガスダクト13及びシュート14はこれに当たらないとの誤った前提の下に,甲5刊行物発明は,装填材料予熱装置自体を分割するものではない点において,本件発明1と相違する,との誤った判断をしたものである。
スクラップ原料の加熱は,スクラップ原料の種類,特性,形状等に応じて最適な制御方法を採用することにより行われるものである。本件発明1は,スクラップ原料の加熱手段及び方法については,全く開示していない。本件発明1においてスクラップ原料を加熱することが可能であるならば,本件発明1と構成が異ならない甲5刊行物発明における排ガスダクト13部分及びシュート14内でも,スクラップ原料を加熱することが当然可能であると解すべきである。
審決が,甲5刊行物発明について,「ガスダクト内に装填材料を保持し,予熱するものでな」い,と認定したのは誤りである。
イ 本件特許の請求項1には,「シャフト内に装填材料を保持し,予熱する」ことは規定されていない。本件発明1は,甲5刊行物発明の排ガスダクト13に相当する部分でスクラップ原料を加熱することを必須の構成要件とするものではない。本件発明1における装填材料予熱装置を「シャフト内に装填材料を保持し,予熱する」というものに限定して解釈することは許されない。本件発明1における装填材料予熱装置は,装填材料を予熱するものであればよいものと解すべきである。
本件発明1が,装填材料予熱装置における,装填材料を保持し,予熱する部分に関して,甲5刊行物の図1に示されるものと同様のものを包含することは,本件発明7をみることにより,より明らかとなる。すなわち,本件発明7は本件発明1に包含される下位概念の発明であるから,本件発明7の態様のもの(5図に示す実施例。別紙図面1参照)も,本件発明1のシャフト状装填材料予熱装置(2)に包含されることになり,その本件発明7の態様のものにおいては,装填材料は,予熱装置の下部において保持されることはなく,そこで予熱されることもない。本件発明7を包含する本件発明1と甲5刊行物発明とは,装填材料予熱装置の構成において相違しないのである。
本件発明1は,「シャフト内に装填材料を保持し,予熱する」ものであるとする審決は,請求項1に記載された構成要件を離れて,本件発明1の要旨を認定したもので,審決には,本件発明1の要旨認定について誤りが存在する。
(2) 審決は,「本件発明1は,シャフト状装填材料予熱装置の上部を分割して移動できるように構成したことにより,炉容器上部に十分な空間を確保することができ,操業切り替え時に炉の継続運転上必要とされる炉内への装填材料の直接装入を容易に実施することができる(本件公告公報第4欄第40〜第5欄第12行)ものであるところ,甲第2号証(判決注・甲5刊行物),摘示ロによれば,甲第2号証に記載のもの(判決注・甲5刊行物発明)は,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動させ,予熱したスクラップ原料16をシュートを介して炉体2内に装入するというものであるから,甲第2号証に記載のもの(判決注・甲4刊行物発明)は,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動とする理由が本件発明1と相違する。」(審決書15頁20行〜28行),「甲第2号証に記載のもの(判決注・甲5刊行物発明)は,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動とする理由が本件発明1と相違するものであり,」(審決書16頁5行〜6行)と認定判断した。
しかし,上記認定は,本件発明1の構成に基づかないものである。
また,甲5刊行物発明においても,プリヒータを炉体に対して水平移動することにより,炉容器上部に十分な空間を確保でき,さらに,操業切替時における炉内への装填材料の直接装入が可能となることは,その構成からみて明らかであるから,この点において本件発明1と甲5刊行物発明との間に差異はない。
炉容器上に十分な空間が確保できる点,炉内への装填材料の直接装入が可能となる点を本件発明1の特有の作用効果とする審決の上記認定は誤りである。
(3) 審決は,「本件発明1は,「装填材料予熱装置のシャフトは炉蓋が取り去られるときに,炉蓋と同時に取り去ることができ,炉容器の内部に材料を直接装填するのに十分な空間が供給される。保持構造体に固定された上部シャフト内の予熱装置と容器壁の一部により形成されたその下部とを再分割することは,さらに選択の余地が与えられることになり,特にシャフトが蓋と構造的に連結しているときに,装填作業と溶解処理に対して効果がある。炉蓋と炉容器間は水平に相対移動し,一方,炉容器は蓋により十分に覆われるので装填作業において環境汚染を最小にすることができるとの理由で,シャフト自身が特に炉容器の中に材料を装填するのに役立たせることができる。」(本件公告公報第5欄9行〜21行),「第1実施例の電極9は装填材料予熱装置2に向かう方向に置換えられる。これにより,アークから発生した放射熱は装填材料予熱装置2から供給される装填材料の温度を高めることができ,また同時にアーク炉の自由壁部分上に付加される放射熱を減少させることができる」(本件公告公報第8欄第40〜45行),「シャフト10内にある装填材料の予熱は精錬段階の期間においても効果を受けることができる。蓋6は炉容器3の移動のため僅かの範囲持ち上げなくてはならないだけなので,その装置配列は予熱期間および装入期間の間も環境破壊が生ずることはないことを保証する。」(本件公告公報第12欄第21〜26行)という明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。」(審決書16頁15行〜35行)と認定した。
しかし,審決が本件発明1の顕著な作用効果とするものは,本件特許の請求項1に記載された構成自体によっては達成することができないものである。
また,上記の作用効果は,甲4刊行物発明において当然具有するものであり,本件発明1の顕著な作用効果であるということはできない。
(4) 甲4刊行物発明は,炉容器の上端縁の高さが特に区画されていない点,シャフトが保持構造体に固定され,保持構造体および前記炉容器を互いに移動可能にした構成を具備していない点で本件発明1と相違するだけである。甲5刊行物には,予熱装置付きという点で本件発明1と同じである溶解炉において,装填材料予熱装置のシャフトに相当するスクラッププリヒータ,シュートを炉体(炉容器)に対して,炉容器上端部において,互いに移動可能にしたものが記載されている。甲5刊行物発明は,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動自在に設けるという技術思想を教示するものであるから,当業者は,この教示を甲4刊行物に記載されたシャフト状装填材料予熱装置に適用することにより,本件発明1に容易に想到することができたというべきである。
3 甲6刊行物発明の認定の誤りによる,本件発明1の進歩性判断の誤り (1) 審決は,「甲第3号証(判決注・甲6刊行物)に記載の金属溶解精製装置は,電気アーク炉でなく,第1及び第2のノズルから吹き込まれる燃料噴出するものであるから,甲第3号証に記載のものは,予備加熱器の構造及び金属溶解精製装置の種類を本件発明1と相違する。」(審決書15頁38行〜16頁2行)と認定した。しかし,甲6刊行物に記載されたものは,アーク電極(14)を有しており,明らかに電気アーク炉の一形態の炉であるから,上記認定は誤りである。
(2) 甲6刊行物には,溶解炉の排ガスを利用する鉄くず用予備加熱装置(27)および炉室本体(2)を互いに移動可能にしたアーク炉による 溶解装置が記載され,予備加熱装置(27)に,少なくとも1個のブロッキング部材である鉄格子部分(30),(31)または(51)〜(54)を設け,装入材料を容器内に装填するために開閉可能にした構造が記載されている。
甲6刊行物に記載されたものと同じく,溶解炉の排ガスを利用するアーク炉の鉄くず用予備加熱装置である甲4刊行物記載の溶解炉において,シャフト状装填材料予熱装置を,甲6刊行物のものと同様に,予備加熱装置および炉室本体を互いに移動可能にするとともに,ブロッキング部材を設け,装入材料を容器内に装填するために開閉可能にすること,すなわち,本件特許の請求項7記載の溶解プラントのシャフト状装填材料予熱装置に相当する構成とすることは,当業者が容易に想到することができたことというべきである。
4 本件発明1の新規性についての判断の誤り 審決は,本件発明1と甲5刊行物発明との相違点として,「本件発明1は,炉容器(3)の傍に配置されかつ炉容器蓋(6)を通して炉容器(3)に導入される電極(9)を搬送する電極昇降旋回装置(8)を有し, 前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し, 該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において,連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており,前記予熱装置は,さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解ブラントにおいて,前記装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており,かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であることを特徴とする溶解プラントであるのに対し,甲第2号証(判決注・甲5刊行物)にはこのような点が記載されていない点で相違する。」(審決書17頁6行〜21行)と認定した。しかし,審決が本件発明1のものとして認定している上記各事項は,いずれも甲5刊行物に記載されている。審決の上記認定は,誤りである。
本件発明1と甲5刊行物発明とを対比すると,甲5刊行物には,電極昇降旋回装置,装填入口及びガス出口,保持構造体について具体的に記載されていない点で本件発明1と相違する。しかし,これらの点は,すべて,甲5刊行物に記載された溶解プラントにおいても当然備えられている手段であり,実質的な相違点となるものではない。甲5刊行物には本件発明1と実質的に同一の構成が記載されている。
5 本件発明2ないし12の進歩性についての判断の誤り 本件発明2ないし12についての審決の判断は,本件発明1についての判断が正しいことを前提とするものである。本件発明1についての審決の判断が誤りであることは,上記のとおりであるから,本件発明2ないし12についての判断も誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定,判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき誤りはない。
1 甲4刊行物発明の認定の誤りによる,本件発明1と甲4刊行物発明との相違点の認定の誤り,の主張について 原告は,甲4刊行物発明における予熱装置の下部外壁は炉容器の壁の一部によって共有の形で形成されている,と主張する。
甲4刊行物中の「炉容器2の内部空間11から装入物予熱器7の内部空間8まで」(翻訳文4頁下から4行〜3行)との記述は,明らかに距離を示すものである。甲4刊行物発明において,溶湯境面19のレベルは接続ゾーン(10)までしかない(甲4刊行物の図1。別紙図面2参照)。原料装填材料の予熱のための予熱室底部は,これに隣接して存在している。すなわち,甲4刊行物発明の電気炉における予熱室は,シャフト状の予熱室がその電気炉の横に炉容器から離れて設けられている。
そうである以上,甲4刊行物発明における予熱室は炉容器壁の一部を炉容器と共有するものではない。
2 甲5刊行物発明の認定の誤り等による,本件発明1の進歩性判断の誤り,の主張について (1)ア 甲5刊行物発明のスクラッププリヒータ15は,排ガスダクト13の上部にシュート14を介して設けられている。スクラッププリヒータ15内には炉体2内に装入するスクラップ原料16が収容され,排ガスダクト13からシュート14を介して炉体2内の高温排ガスが,スクラッププリヒータ15内に導入されるようになっている(甲5刊行物2頁右上欄17行〜左下欄4行)。
スクラッププリヒータ15は,スクラップ原料16を収容するための容器でもあり,スクラッププリヒータ15は,独立した一体構造のもので,それ自体が分割されるものではない。
甲第5刊行物発明がスクラッププリヒータ15自体を分割するものではない,とした審決の認定に誤りはない。
甲5刊行物発明の排ガスダクト13は,あくまでも炉体2内の高温排ガスをスクラッププリヒータ15内に導入するためのものである。シュート14は,スクラップ原料16の加熱時には、この排ガスダクト13とあいまって排ガスをスクラッププリヒータ15内に導入するために機能し,加熱終了後はスクラッププリヒータ15が炉体2の上方に上記シュートとともに移動させられて,予熱されたスクラップ原料16を炉体2内に装入するためのシュート(荷すべらし)として機能するものである。
排ガスダクト13及びシュート14にはスクラップ原料16が装填されていないから,これらは,装填材料予熱装置に当たらない。
イ 本件発明1において,シャフト(10)がシャフト状装填材料予熱装置(2)の一部(保持構造体(27)に固定されたシャフト状装填材料予熱装置(2)の上部領域)を構成することは本件特許の請求項1の記載から明白である。
本件発明1において,装填材料(装入原料)の溶解時に,装填材料が,シャフト状装填材料予熱装置で保持され,予熱されて炉容器(3)内に装填されるものであることは,本件特許の特許請求の範囲請求項1の「シャフト状装填材料予熱装置」との記載及び本件明細書中の「しかしながら,拡大した連結区域において装填材料予熱装置の床が30度から60度までの傾斜角で炉容器の方に向かって下がるように設計されている事実のお陰で,促進もされる。」(甲第2号証3頁右欄3行〜8行)等の記載から明白である。
本件発明7は,請求項1の発明に所要の構成要件を付加して,すなわちシャフト(10)内に開閉位置に移動可能なブロッキング部材(51)を設けて,溶解段階においてはそのブロッキング部材を開放位置として請求項1の発明と同様に装填材料予熱装置(2)中に柱状に装填されている装填材料を予熱し,この装填材料が全部溶解された後の精錬段階においてはブロッキング部材を閉成位置として,ブロッキング部材上に装填材料を戴置して精錬中の炉からの廃熱をも利用できるようにしたものである(甲第2号証4頁左欄7行〜18行,5頁右欄35行〜41行,6頁左欄47行〜右欄6行)。
(2) 甲5刊行物発明のスクラッププリヒータ15は,加熱されたスクラップを炉内に投下するために,一加熱毎にシュート14とともに炉容器上部に移動するものである。本件発明1においては,操業切り替え時に炉容器上にシャフトに邪魔されることのないスペース(作業空間)を確保し炉内への直接スクラップの装入を容易にするために,シャフト状予熱装置の上部を分割し炉容器に対して相互移動させるものである。この点において,両発明は,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動する理由を異にするものである。
3 甲6刊行物発明の認定の誤りによる,本件発明1の進歩性判断の誤り,の主張について 甲6刊行物の図1及び図2は,アーク電気炉に関するものである。しかし,この図1及び図2には,図3(別紙図面4参照)に記載されているような予備加熱装置27について何ら記載がない。また,図1及び図2に示されているものに,図3に記載されているように予備加熱装置27を設置することはできない。すなわち,甲6刊行物には,予熱装置を持たず電極(14)を持つ電気アーク炉(図1及び図2)と,第1のノズル24および第2のノズル25から吹き込まれる燃焼ガスにより加熱溶解されるタイプの,予熱装置を持ち電極(14)をもたない溶解炉(図3から図6)とが,別のものとして記載されているのである。
このことは,甲6刊行物中の「溶解装置が電極なくして構成される場合には,必要とする上室の高さが低くてよく,また上記装置は容易に置換,修理,管理することができる。さらに,低い投資費用であるため,現存の溶解装置に他の溶解装置を容易に再装備することができ,且つ装入材料又はエネルギー供給の変化条件にも適応し得る。また,上記の溶解精製装置は装入材料のための予備加熱装置を容易に設けることができる。」(甲6刊行物2頁右下欄下から3行〜第3頁左上欄5行)と記載されていることからも明らかである。
甲6刊行物には,原告の主張するような「炉床(12),炉容器壁および移動可能な炉容器蓋体(3)を具えた炉室本体(2)を含む溶解装置(1)と前記炉室本体(2)上に配設された予備加熱装置(27)を有する電気アーク炉において,炉室本体(2)に対し予備加熱室(27)は炉室本体(2)の上端縁において移動可能である金属溶解装置」は記載されていない。そのように記載されていると解釈すべき根拠もない。
4 本件発明1の新規性についての判断の誤り,の主張について 本件発明1と甲5刊行物発明とを同一とすることができないことは,上述したところから明らかである。
5 本件発明2ないし12の進歩性についての判断の誤り,の主張について 本件発明2ないし12は,本件発明1に更に構成要件を付加したものであるから,甲4ないし6刊行物発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることも,甲5刊行物に記載された発明と同一であるとすることもできない。
当裁判所の判断
1 甲4刊行物発明の認定の誤り等による本件発明1と甲4刊行物発明との相違点の認定の誤り,の主張について (1) 審決は,本件発明1と甲4刊行物発明とは,「本件発明1は,装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器(3)の上端縁の高さまでは前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては保持構造体(27)に固定されたシャフト(10)の壁によって形成されており,かつ前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能であるのに対し,甲第1号証(判決注・甲4刊行物)には,これらの点が記載されていない点」(審決書14頁33行〜38行。下線部は判決において付した。)において相違する,と認定した。
原告は,審決の上記相違点の認定は,本件発明1における,装填材料予熱装置(2)の壁が,その下部において炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においては,シャフト(10)の壁によって形成されているとの構成を,甲4刊行物発明が有しない,との意味であると解した上で,甲4刊行物発明も上記構成を有するから,審決の上記相違点の認定はこの点で誤りである,と主張する。
しかしながら,審決は,「装填材料予熱装置(2)の壁は,その下部において前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されている」(審決書14頁29行〜31行)点を,本件発明1と甲4刊行物発明の一致点として認定している。この一致点の認定と上記相違点の認定とを対比するならば,審決は,本件発明1においては,装填材料予熱装置(2)の壁が炉容器(3)の上端縁の高さにおいて,上部と下部に分割され(上記相違点の認定中の下線部参照),分割された上部領域と下部領域とが互いに移動可能であるのに対し,甲4刊行物発明はこのような構成を有しない点のみを相違点として認定したものであり(上記点のみを相違点とする一致点・相違点の認定に誤りがあるか否かは,別の問題である。),上記一致点として認定した部分まで,相違点と認定したものではない,と解するのが相当である。
このことは,審決が,上記相違点についての検討(審決書15頁1行〜16頁下から3行)において,主として,装填材料予熱装置の分割や水平移動の構成について論じており,「装填材料予熱装置(2)の壁がその下部において炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されている」構成の点については全く論じていないことからも明らかというべきである。
以上のとおりであるから,審決の本件発明1と甲4刊行物発明との相違点の認定に原告主張の誤りはない。
(2) 原告は,審決の,本件発明1と甲4刊行物発明との一致点の認定相違点の認定とは矛盾している,と主張する。しかしながら,審決の一致点・相違点の認定が矛盾しないことは,(1)で述べたところから明らかである。
原告の主張は採用することができない。
2 甲5刊行物発明の認定の誤り等による,本件発明1の進歩性判断の誤り,の主張について (1) 審決は,本件発明1と甲4刊行物発明との相違点の判断において,甲5刊行物発明について,「スクラップ原料を予熱するスクラッププリヒータ自体を分割するものでなく,また,排ガスダクト13は,炉体2内の高温排ガスをスクラッププリヒータ15内に導入するためのものであり,排ガスダクト13内に装填材料を保持し,予熱するものでなく,また,シュート14は,スクラップ原料16の加熱時においてこの排ガスダクト13と相俟って該排ガスをスクラッププリヒータ15内に導入するためのものであり,また,加熱終了後は予熱されたスクラップ原料16を炉体2内に装入するためのシュートとして機能するものであるから,甲第2号証(判決注・甲5刊行物)に記載されたものは,シャフト内に装填材料を保持し,予熱する本件発明1と装填材料予熱装置の構成を相違するものである。」(審決書15頁10行〜19行),「スクラップ原料を予熱するスクラッププリヒータ自体を分割するものでなく,またシャフト内に装填材料を保持し,かつ,予熱する本件発明1と装填材料予熱装置の構成を相違するものであり,」(16頁7行〜9行)と認定し,これを前提として,本件発明1は,甲4,5刊行物発明から容易に想到し得たものとすることができない,と判断した。
審決が,検討の対象となるべき本件発明1と甲4刊行物発明との相違点として認定したのが,甲4刊行物発明は,本件発明1と異なり,装填材料予熱装置(2)の壁が炉容器(3)の上端縁の高さにおいて,上部と下部に分割され,分割された上部領域と下部領域とが互いに移動可能であるとの構成を有しない,という点であることは,前記のとおりである。
この点について,審決が,@本件発明1における「装填材料予熱装置」の構成要素となるためには,その中に装填材料であるスクラップ原料を保持し,かつ,そこで予熱するものでなければならない,と解した上で,A甲5刊行物発明において,スクラップ原料を保持し,予熱するのは,スクラッププリヒータ15であり,排ガスダクト13,シュート14は,それ自体では,スクラップ原料を保持,予熱するものではないから,「装填材料予熱装置」に当たるのはスクラッププリヒータのみである,A甲5刊行物発明は,装填材料予熱装置に当たるスクラッププリヒータを上下に分割するものではないから,上記相違点に係る構成を有するものではない,と認定判断したものであることは,上に記した審決書の記載自体から明らかである。
ア そこで,まず,本件発明1における「装填材料予熱装置」の構成要素となるためには,その中に装填材料であるスクラップ原料を保持し,かつ,そこで予熱するものでなければならないものであるかについてみる。
本件発明1の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2で示したとおりであり,その中には,装填材料の予熱態様を限定する記載は見当たらない。本件明細書の発明の詳細な説明中には,「装填材料予熱装置のシャフト内に装填された材料の保持は,装填材料予熱装置の床が30度から60度までの傾斜角で炉容器の方に向かって下がるように設計されている事実のお陰で,促進もされる。」(甲第2号証3頁右欄4行〜8行)として,シャフト状装填材料予備装置(2)のシャフトを通じて装填された材料が,シャフト底部である炉床上に柱状に保持され炉からの熱ガス等により予熱され,溶融し供給される態様(甲第2号証添付の第1図等。別紙図面1参照)が記載されている。しかし,他方,本件発明1の実施態様の一つである本件発明7の特許請求の範囲には「前記シャフト(10)中には,少なくとも1個のブロッキング部材(51)が,該部材が前記装填材料の支持手段を形成する閉成位置から前記装填材料を前記炉容器(3)内へ装填するための開放位置へ移動可能な様に配設され,該開放位置においては前記ブロッキング部材は前記装填材料が前記シャフト(10)を通過させることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第6項にいずれかの項に記載の溶解プラント」との記載があり,発明の詳細な説明中には,「装入材料の柱を溶解する作業に続く精錬段階の間に,必要な特性を有する溶解したメタルバス(金属浴)を製造するために,その溶解したメタルバスに装填材料は追加されない。第5図(判決注・別紙図面1参照)に示した溶解プラントを用いて,キャリヤー53がそのキャリヤーの閉じ位置にあるときに,装填材料をシャフト10内に導入することが可能である。その充填材料は,精錬段階の期間に,炉容器3からは発生してシャフト10内に通過する熱いガスにより予熱される。装填材料は湯出しの後で,炉容器3に装填するのに利用できる,」(甲第2号証6頁左欄下から4行〜右欄6行),「第5図を参照して記述された様なブロッキング部材がシャフト10内に設置されるならば,そのためシャフト10内に保持され続け,さらにまた精錬段階を通じて加熱された装填材料が,炉容器の湯出し作業の後の所望の期間に炉容器内に装填されるであろう。」(7頁右欄24行〜28行)として,シャフト内にブロッキング部材を備え,この部材を閉成しブロッキング部材上に材料を保持して予熱,供給する態様も記載されている。
本件明細書中のこれらの記載によっても,本件発明1におけるシャフト状装填材料予熱装置について装填材料の予熱態様は限定されていないと解するのが相当である。
そうである以上,本件発明1において「装填材料予熱装置」がその中に装填材料であるスクラップ原料を保持し,かつ予熱するものでなければならない,とする審決の解釈は誤りである,というべきである。
イ 甲5刊行物(甲第5号証)には,「炉体2には排ガスダクト13が設けられ,排ガスダクト13の上部にシュート14を介してスクラッププリヒータ15が設けられる。このスクラッププリヒータ15内には炉体2内に装入するスクラップ原料16が収容され,排ガスダクト13からシュート14を介して炉体2内の高温排ガスが,スクラッププリヒータ15内に導入されるようになっている。」(2頁右上欄16行〜左下欄4行)との記載がある。この記載と同刊行物の第1図ないし第3図(別紙図面3参照)の記載内容とに照らすと,甲5刊行物においては,炉容器からの熱ガスが排ガスダクト13,シュート14を介してスクラッププリヒータ15内の装填材料を予熱するものとされていることが明らかであるから,排ガスダクト13,シュート14及びスクラッププリヒータ15を一体としてみたとき,これが装填材料の予熱をする装置である,ということができる。
甲5刊行物の第1図ないし第3図の記載によれば,上記予熱をする装置のうち,スクラッププリヒータ15及びシュート14は,溶解炉に対してその上端縁の高さのところで,互いに水平移動自在に設けられていることが明らかであるから,甲5刊行物発明は,「予熱をする装置」の上部に相当するスクラッププリヒータ15及びシュート14から成る部分と,その下部に相当する部分である排ガスダクト13とを分割して互いに移動可能としたものであるということができる。
上記認定によれば,甲5刊行物発明における排ガスダクト13及びシュート14が,装填材料であるスクラップ原料を保持し,そこで予熱するものでないこと自体は,審決の認定するとおりである。しかしながら,本件発明1において,装填材料の予熱態様は限定されていないことは上記のとおりであるから,装填材料を保持し,そこで予熱するものでないことを理由に,排ガスダクト13及びシュート14を本件発明1における「装填材料予熱装置」の構成要素にならないものとした審決の認定は誤りであり,審決が,この認定を前提として,スクラッププリヒータ15のみが「装填材料予熱装置」に当たるとして,これが分割されるか否かを問題にしたのも誤りである,というべきである。
(2) 審決は,本件発明1と甲4刊行物発明との相違点の判断において,「本件発明1は,シャフト状装填材料予熱装置の上部を分割して移動できるように構成したことにより,炉容器上部に十分な空間を確保することができ,操業切り替え時に炉の継続運転上必要とされる炉内への装填材料の直接装入を容易に実施することができる(本件公告公報第4欄第40〜第5欄第12行)ものであるところ,・・・甲第2号証(判決注・甲5刊行物)に記載のものは,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動させ,予熱したスクラップ原料16をシュートを介して炉体2内に装入するというものであるから,甲第2号証に記載のものは,溶解炉の炉体又はプリヒータを水平移動とする理由が本件発明1と相違する。」(審決書15頁20行〜28行)としている。
しかしながら,本件発明1に係る特許請求の範囲には,移動に関しては,「前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能である」と記載されているだけであり,「互いに移動可能である」ものとする理由を特定したことを反映する構成要件を示すことは何も記載されていない。そうである以上,仮に,水平移動とする理由が本件発明1におけると,甲5刊行物発明におけるとで異なるとしても,そのこと自体は,甲4刊行物発明を出発点として上記相違点に係る本件発明1の構成に至ることを困難とする要素とはなり得ないことが明らかである。異なる目的(技術的課題)の下に同じ構成に至ることは,十分にあり得ることだからである。甲5刊行物において水平移動とされている理由は,同発明を甲4刊行物発明に組み合わせることを困難にする要素を有するならば,そのことを通じて,上記相違点に係る本件発明1の構成の想到容易性を否定する方向に働く力を有することになるであろう。しかし,このことは,甲5刊行物発明における水平移動の理由が本件発明1におけるものと同じか異なるかとは別の問題である。問題にすべきは,甲4刊行物発明と甲5刊行物発明との組合せの容易性であって,甲5刊行物発明と本件発明1とにおける水平移動の理由の異同ではない。
上記の点を離れて,水平移動とする理由(技術的課題)の点で本件発明1と甲5刊行物発明とを比較してみても,両者間には共通するところがあるということができる。
本件発明1の特許請求の範囲には,シャフト状装填材料予熱装置の上部であるシャフト(10)が固定された保持構造体の移動について,「前記保持構造体(27)および前記炉容器(3)は互いに移動可能である」と記載されている。本件発明1は,この構成により,スクラップ籠からスクラップを受け容れる際,シャフト(10)を移動することにより容器開口部の予熱装置部分を開放し,シャフトに邪魔されることなく装填材料をスクラップ籠によって導入することすることができる,という本件明細書に記載された上記効果を奏することができることは明らかである。
しかし,本件発明1は,シャフト(10)が炉容器(3)と移動可能に設けられているとの上記構成により,シャフト(10)内に保持され予熱された材料を移動して炉容器内の適切な場所に供給することができるという作用効果をも奏することは明らかであり,この作用効果の点において,甲5刊行物発明と異ならない。本件発明1と甲5刊行物発明とは,予熱装置を移動させる理由が重複するものであるから,両者の技術的課題が異なるとしてしまうことはできない。
(3) 審決は,@「本件発明1は,「装填材料予熱装置のシャフトは炉蓋が取り去られるときに,炉蓋と同時に取り去ることができ,炉容器の内部に材料を直接装填するのに十分な空間が供給される。保持構造体に固定された上部シャフト内の予熱装置と容器蓋の一部により形成されたその下部とを再分割することは,さらに選択の余地が与えられることになり,特にシャフトが蓋と構造的に連結しているときに,装填作業と溶解処理に対して効果がある。炉蓋と炉容器間は水平に相対移動し,一方,炉容器は蓋により十分に覆われるので装填作業において環境汚染を最小にすることができるとの理由でシャフト自身が特に炉容器の中に材料を装填するのに役立たせることができる。」(本件公告公報第5欄9〜21行), A「第1実施例の電極9は装填材料予熱装置2に向かう方向に置換えられる。これにより,アークから発生した放射熱は装填材料予熱装置2から供給される装填材料の温度を高めることができ,また同時にアーク炉の自由壁部分上に付加される放射熱を減少させることができる。」(本件公告公報第8欄40〜45行), B「シャフト10内にある装填材料の予熱は精錬段階の期間においても効果を受けることができる。蓋6は炉容器3の移動のため僅かの範囲持ち上げなくてはならないだけなので,その装置配列は予熱期間および装入期間の間も環境破壊が生ずることはないことを保証する。」(本件公告公報第12欄第21〜26行)という明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。」(審決書16頁15行〜35行)と認定判断した。
しかしながら,@のうち,炉容器開口部を広く開けることができるという効果は,シャフト状の予熱装置を炉容器の上に横に設けた場合において,予熱装置を移動可能したことにより奏する当然の効果にすぎない。@のうち,「保持構造体に固定された上部シャフト内の予熱装置と容器壁の一部により形成されたその下部とを再分割することは,さらに選択の余地が与えられることになり,特にシャフトが蓋と構造的に連結しているときに,装填作業と溶解処理に対して効果がある。炉蓋と炉容器間は水平に相対移動し,一方,炉容器は蓋により十分に覆われてるので装填作業において環境汚染を最小にすることができるとの理由でシャフト自身が特に炉容器の中に材料を装填するのに役立たせることができる。」との効果は,シャフトが水平移動すること自体の効果ではなく,水平移動に際し更に炉蓋の移動とを共動させることによる効果であり,本件発明1の効果ということはできない。Aの効果は,シャフト状の予熱装置を炉容器の上に横に設けた場合において,その予熱装置を更に移動可能にした場合に奏する予測可能な効果にすぎない。Bの効果のうち,「シャフト10内にある装填材料の予熱は精錬段階の期間においても効果を受けることができる。」という効果は,ブロッキング部材を設けシャフトを予熱装置として用いた場合の効果であって,本件発明1の一態様の効果にすぎず,本件発明1の効果であるということはできない。Bの効果のうち,「蓋6は炉容器3の移動のため僅かの範囲持ち上げなくてはならないだけなので,その装置配列は予熱期間および装入期間の間も環境破壊が生ずることはないことを保証する。」という効果は,シャフトが水平移動すること自体の効果ではなく,水平移動に際しさらに炉蓋の移動とを共動させることによる効果であって,本件発明1の一態様の効果にすぎず,本件発明1の効果であるということはできない。
上に述べたところによれば,審決が本件発明1の顕著な作用効果であると認定判断した効果は,いずれも,本件発明1の構成から予測可能な効果であるか,特定の一態様の効果にすぎないものであって,顕著な作用効果であるということはできない。
審決の上記判断は誤りであるというべきである。
3 上に述べた審決の認定判断の誤りが,本件発明1の進歩性の判断及びこの判断を前提とする本件発明2ないし12の進歩性の判断に影響を及ぼすことは明らかである。
4 なお,審決は,甲4刊行物発明について「甲第1号証(判決注・甲4刊行物)に記載された発明の装入物予熱器は,アーク炉の炉容器上に横に配置されているものと認められる。」(審決書13頁25行〜27行)と認定した上で,本件発明1と甲4刊行物発明との一致点として「前記炉容器(3)上に横に配設されたシャフト状装填材料予熱装置(2)を有し,該予熱装置の内部(15)は該予熱装置の床(13)の隣接領域において連絡区域(17)を介して前記電気アーク炉(1)の内部(31)と連絡しており,前記予熱装置は,さらにその上部領域において材料装填のための閉じ可能な装填入口(18)およびガス出口(19)を有する溶解プラントにおいて,前記装填材料予熱装置の壁は,その下部において前記炉容器壁(5)の一部分によって形成され,その上部の領域においてはシャフト(10)の壁によって形成されていることを特徴とする溶解プラントである点」(審決書14頁22行〜31行)を認定している。しかしながら,甲4刊行物発明においては,「図2に示すように円形の断面を有する炉容器の側面に,装入物のための収容空間(内部空間)8を有する縦穴状の装入物予熱器7が配置され」(甲第4号証訳文3頁6行〜7行)として,装入物予熱器は炉容器の「側面」に配置されるものとされていること,甲4刊行物記載の図1ないし4によれば,同刊行物発明の装入物予熱器は,少なくとも上部においては,炉容器壁に囲まれた範囲の外側に容器壁とは離れて設けられているものと認められる。審決は,甲4刊行物の上記記載内容にもかかわらず,同刊行物発明の装入物予熱器はアーク炉の炉容器上に横に配置されており,予熱器の壁はその下部において炉容器壁の一部分によって形成されていると認定することができる根拠について何ら示していない。この点において,審決には,少なくとも,説明において不備があるといわざるを得ない。上記の点については,審判手続において,改めて,審理,判断されるべきである。
結論
以上のとおりであるから,審決は,その余の点について判断するまでもなく取消しを免れないことが明らかである。よって,原告の請求を認容して審決を取り消すこととし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久