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関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 313号 審決取消請求事件
原告 安部ガナイト工業株式会社
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男,辻居幸一,弁理士 井野砂里,弁護士 竹内麻子
被告 東興建設株式会社
訴訟代理人弁理士 小島高城郎,河合典子,佐藤卓也
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/12/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2002−35466号事件について平成15年6月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は各自の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件特許第3060175号「壁面の表層剥離方法」の特許権者である。本件特許は,平成10年11月6日に出願され,平成12年4月28日に設定の登録がされた。被告がした本件特許についての無効審判請求(無効2002-35466号)において,平成15年1月21日付けで原告から訂正請求書が提出され,平成15年6月9日,「平成15年1月21日付け訂正を認める。本件特許の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決があり(登録時の請求項4は,上記訂正により削除された。),その謄本は平成15年6月19日原告に送達された。
2 設定登録時の特許請求の範囲の記載【請求項1】 建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において,壁面を切断機で壁強度層近くまでの深さに格子状に切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け,次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。
【請求項2】 壁面が垂直面であり,回転刃で切削する切断機をワイヤ下端に吊下げた物品の重さを相殺するワイヤ巻取式のバランサーで吊り下げ支持しながら縦横に動かして格子状に切溝を設ける請求項1記載の壁面の表層剥離方法。
【請求項3】 切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと,飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた請求項1又は2記載の壁面の表層剥離方法。
【請求項4】 壁面が,鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面である請求項1〜3何れか記載の壁面の表層剥離方法。
3 平成15年1月21日付け訂正による特許請求の範囲の記載(下線部分が訂正箇所。請求項4は削除)【請求項1】 建造物の駆体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において,壁面は,鉄皮 の壁強度層 の内側表面 に耐火材を厚く表層 として 付着 させた 煙突又 は煙道 の壁面 であり ,この 壁面を,空気圧 ・油圧・電気 を駆動源 として 作動 する 回転刃 である 切断機で壁強度層近くまでの深さに,表層の内部 に鉄筋 ,金網 があれば 一緒 に切断 して 格子状に切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け,次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。
【請求項2】 壁面が垂直面であり,回転刃で切削する切断機をワイヤ下端に吊下げた物品の重さを相殺するワイヤ巻取式のバランサーで吊り下げ支持しながら縦横に動かして格子状に切溝を設ける請求項1記載の壁面の表層剥離方法。
【請求項3】 切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと,飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた請求項1又は2記載の壁面の表層剥離方法。
4 後記訂正審決による特許請求の範囲の記載(下線部分が前記3との対比における訂正箇所。請求項2,4は削除。請求項3を訂正後の請求項2に繰上げ)【請求項1】 建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において,壁面は,鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり,この壁面を,空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で壁強度層近くまでの深さに,表層の内部に鉄筋,金網があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け, 前記縦横の切溝 の形成 は,煙突又 は煙道内 に吊り下げられた ゴンドラ 式足場 の上方に水平 に設けられた 横杆 に,この 横杆 に沿って 滑って 移動可能 な吊りフック を介して バランサー 機能 を有する バランサー を取付 け,バランサー のワイヤ の下端 の連結フック を,回転刃 が取付 けられた 保護 ケーシング から コ字状 に突出 させた ワイヤ吊り杆のワイヤ 吊り部に掛けて 切断機 をバランサー によって 吊り下げて 行い,前記縦の切り溝は,連結 フック をワイヤ 吊り杆に設けられた 2つの ワイヤ 吊り部のうちの一方 のワイヤ 吊り部に掛けて ,切断機 の回転刃 を縦にして ,所定間隔毎 に形成し,横の切溝 は,連結 フック をワイヤ 吊り杆の他方 のワイヤ 吊り部に掛け,切断機を水平 にし ,水平 に切削 して 形成 し, 次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。
【請求項2】切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと,飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた請求項1に記載の壁面の表層剥離方法。
5 審決の理由の要点 平成15年1月21日付け訂正は適法であり,その訂正後の請求項1に係る発明は,下記審判甲第1,2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,請求項2に係る発明は,下記審判甲第1,2,5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,請求項3に係る発明は,下記審判甲第1,2,5,6号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができ,いずれも特許法29条2項の規定に違反するものであるから,特許法123条1項2号の規定により無効とすべきものである。
記 審判甲第1号証:特公平4-19350号公報 審判甲第2号証:特開平6-235512号公報 審判甲第3号証:特開昭61-158569号公報 審判甲第4号証:特開平6-294220号公報 審判甲第5号証:特開平8-259142号公報 審判甲第6号証:特開平8-270229号公報 6 訂正審決の確定 原告は,本訴提起後の平成15年8月29日,本件特許につき,特許請求の範囲減縮等を目的として,明細書の訂正をする審判を請求したところ(訂正2003-39182号),平成15年11月6日,当該訂正を認める旨の審決があって,その謄本が原告に送達され,訂正審決は確定した。
原告主張の審決取消事由
審決は,訂正審決による訂正前の請求項に基づき(平成15年1月21日付け訂正請求に基づき)請求項1〜3の発明の要旨を認定し,これに基づき上記審判甲号証に記載の発明との対比において請求項1〜3の発明の進歩性を否定しているが,訂正審決による訂正後の特許請求の範囲の構成は平成15年1月21日付け訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の構成よりも限定されたものであるから,特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正を認める審決が確定したことにより,審決は,結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったことになり,違法となったものである。
当裁判所の判断
原告主張の事由により審決は取り消されるべきものであり,本訴請求は理由がある。よって,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法62条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実