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事件 平成 15年 (行ケ) 116号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 清原義博
同 坂戸敦
被告 ライオン株式会社
訴訟代理人弁護士 中村稔
同 田中 伸一郎
同 渡辺光
同 外村玲子
訴訟代理人弁理士 箱田篤
同 平山孝二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が再審2002-95004号事件について平成15年2月17日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成4年7月23日,発明の名称を「アイシング材」とする特許出願をし,平成10年6月26日,特許第2795782号として特許権の設定登録(以下,この特許を「本件特許」といい,その特許権を「本件特許権」という。)を受けたが,平成12年3月22日,本件特許権について,B(以下「B」という。)に対し移転登録(以下「本件移転登録」という。)がされた。
(2) 被告は,平成12年7月27日,Bを被請求人として,本件特許を無効にすることについて審判の請求をした(無効2000-35412号事件,以下「原審判事件」という。)。原告は,同年11月2日,原審判事件において,被請求人を補助するため参加の申請をし,特許庁は,平成13年4月23日,上記参加の申請を許可する旨の決定をした。
特許庁は,原審判事件について審理した上,平成14年1月22日,「特許第2795782号の請求項1,請求項3,請求項6〜9に係る発明についての特許を無効とする。特許第2795782号の請求項2,請求項4,請求項5,請求項10〜13に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「原審決」という。)をし,その謄本は,同月29日,当事者である被告及びB並びに参加人である原告に送達され,原審決は,特許法178条1項の訴えが提起されることなく,同年2月28日確定した。
(3) 原告は,同年4月19日,確定原審決に対し,本件再審を請求した。特許庁は,同請求を再審2002-95004号事件として審理した上,平成15年2月17日に「本件再審の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本審決」という。)をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成11年8月6日付け訂正請求に係るもの)の特許請求の範囲の記載 【請求項1】基材とこの基材中に充填されるゲル剤とからなり,前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール,ゲル化剤,水とが含有され,前記ゲル化剤の含有量が0.1〜1.2重量%であることを特徴とするアイシング材。
【請求項2】前記ゲル剤が5〜15重量%のポリビニルアルコール,0.2〜1.2重量%のプロピルパラベン,0.2〜1.2重量%のメチルパラベン,0.1〜1.2重量%のゲル化剤,82〜94重量%の水から構成されてなることを特徴とする請求項1に記載のアイシング材。
【請求項3】基材とこの基材に充填されるゲル剤とからなり,前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール,ゲル化剤,グリコール,水とが含有されて,前記ゲル化剤の含有量は0.1〜1.2重量%であることを特徴とするアイシング材。
【請求項4】前記ゲル剤が4〜15重量%のポリビニルアルコール,0.2〜1.2重量%のプロピルパラベン,0.2〜1.2重量%のメチルパラベン,0.1〜1.2重量%のゲル化剤,2〜10重量%のグリコール,80〜90重量%の水から構成されてなることを特徴とする請求項3に記載のアイシング材。
【請求項5】前記基材が複数の細孔部を有する伸縮性発泡合成樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至4に記載のアイシング材。
【請求項6】前記基材が不織布からなることを特徴とする請求項1乃至4に記載のアイシング材。
【請求項7】前記アイシング材が開閉自在な密閉容器内に収納されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項8】前記アイシング材がシート状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項9】前記アイシング材がテープ状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項10】前記アイシング材が靴内底に配設されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項11】前記アイシング材がベスト状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項12】前記アイシング材がフェイスマスク状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。
【請求項13】前記ゲル剤にL-メントールとdL-カンフルが混合されてなることを特徴とする請求項1乃至12に記載のアイシング材。
(以下,【請求項1】〜【請求項13】記載の発明を「本件発明1」〜「本件発明13」といい,これらを一括して「本件発明」という。) 3 本審決の理由 本審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,請求人(注,原告)の主張する再審事由,すなわち,@本件原告を原告,Bを被告とする大阪地裁平成12年(ワ)第11763号特許権登録抹消手続請求事件(以下「別件訴訟」という。)の判決(平成14年3月4日言渡し,同月20日確定。以下「別件判決」という。)に基づき,同年4月18日付けで本件移転登録の抹消登録を申請し,同年5月9日にその登録(以下「本件抹消登録」という。)がされ,これにより,原審決の基礎となった行政処分(本件移転登録)が,後の行政処分(本件抹消登録)により変更されたから,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項8号に該当する再審事由があり,ABが刑事上罰すべき他人の行為により作成された譲渡証書及び単独申請承諾書によりした本件移転登録により,原審決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたから,同項5号に該当する再審事由があり,B原審判事件の被請求人であるBの代理人は,本件特許権の正当な権利者である原告の授権を一切受けずに手続を行ったものであるから,同項3号に該当する再審事由があるとの主張に対し,@本件移転登録の行政処分は,原審決の基礎となったものではないから,同項8号に該当せず,A上記刑事上罰すべき他人の行為について,同条2項に規定する有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき,又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないことについて主張立証がなく,また,再審の理由を知った日が到来していないから,同条1項5号を理由として再審を請求することができず,B請求人は,上記Bの事実を知っており,それを主張して原審決の取消訴訟を提起できたにもかかわらず,これを提起しなかったものであるから,同条1項ただし書の規定により,上記Bを理由として再審を請求することはできず,また,上記Bを理由とする再審の請求は,特許法173条1項所定の請求期間内にされたものではないから,許されず,請求人の再審の請求には理由がないとした。
原告主張の審決取消事由
本審決は,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項8号該当性の判断を誤り(取消事由1),同項5号該当性の認定判断を誤り(取消事由2),同項3号該当性の判断を誤った(取消事由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(民訴法338条1項8号該当性の判断の誤り) (1) 本審決は,「『判決の基礎になった』とは,(i)裁判又は行政処分が,再審の対象となっている判決に対して拘束力を有する場合と,(A)その裁判又は行政処分により事実認定をし右事実に基づき判決をしている場合をいう,とされている。・・・ところで,原審判事件の審決(注,原審決)は,原審判事件の審判官合議体が審判請求人が提出した刊行物の記載及び審判請求人が不備と指摘した本件特許明細書の記載について,事実認定をし,この事実に基づいて本件特許の無効の理由の有無について判断したものであり,『平成12年3月22日付け本件特許権の移転登録(注,本件移転登録)』の行政処分はこの判断に何の影響も与えておらず,『平成14年5月9日付け該移転登録の抹消登録(注,本件抹消登録)』の行政処分がなされたことが当該審決の結論に影響を及ぼす(結論の異なる審決のなされる)可能性もない。・・・『平成12年3月22日付け本件特許権の移転登録』の行政処分が原審判事件の『審決の基礎となった』ものではない」(審決謄本5頁〜6頁Aの(2)の項)と判断したが,誤りである。
(2) 原審決は,本件移転登録を有効とした上,本件特許権の権利者をBとし,同人を被請求人としてされたのであるから,本件移転登録は,原審決の基礎となったところ,その後,本件移転登録は,本件抹消登録により,平成14年4月18日付けで,平成12年3月22日にさかのぼって抹消され,本件特許権の正当な権利者は終始一貫して原告であることが確認されたものである。無効審判手続における当事者の確定は審決の事実認定にほかならないのであり,原審決は,本件特許権の正当な権利者に審判請求に対する答弁,訂正請求権などの攻撃防御権を付与することなく,権利者を結果的に誤って認定したことに帰する。したがって,原審決には,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項8号に該当する再審事由がある。
2 取消事由2(民訴法338条1項5号該当性の認定判断の誤り) (1) 本審決は,「再審請求人(注,原告)自身,この『刑事上罰すべき他人の行為』について,『有罪の判決若しくは過料の裁判が確定』したものであること,あるいは,『証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定判決を得ることができない』ものであることを,本件再審における審理の終結の通知・・・時までに何ら主張も立証もしていない。そうすると,再審請求人の主張する事実が特許法第171条第2項で準用する民訴法第338条第1項第5号に該当するか否かについて判断するまでもなく,特許法第171条第2項で準用する民訴法第338条第2項の規定により,同号を理由として本件再審を請求することができない」(審決謄本6頁〜7頁Bの(2)の項)と認定判断したが,誤りである。
(2) 本件移転登録が,刑事上罰すべき他人の行為,すなわち,原告作成名義の譲渡証書及び単独申請承諾書の偽造によりされたものであることは,別件判決の認定するところであり,当該刑事事件(後記の本件告訴事件)の有罪確定などの民訴法338条2項所定の事実は,調査嘱託の結果により明らかになるはずである。
3 取消事由3(民訴法338条1項3号該当性の判断の誤り) (1) 本審決は,「再審請求人(注,原告)は原審判事件の審決(注,原審決)に対し審決取消訴訟を提起することができ,そこで本件再審の理由第3号(すなわち被請求人代理人への授権の欠缺)に基づく審決の取消しを主張し得たにもかかわらず,そもそも審決取消訴訟を提起しなかったのであるから,特許法第171条第2項で準用する民訴法第338条第1項ただし書の規定により,第3号を再審の理由として本件再審を請求することができない」(審決謄本10頁第2段落)と判断したが,誤りである。
原告は,原審判事件においては,参加人の地位にとどまり,参加人が特許法178条1項の訴えを提起しても,本件発明の訂正請求権がなく,適正な攻撃防御ができなかったものである。そして,原審決に対する上記訴えの提起期間内には,原告の正当な攻撃防御権は回復しておらず,再審の理由のあることが法的に確定せず,したがって,訴えの提起によってこれを主張することができなかったものである。
(2) 本審決は,「再審請求人(注,原告)は参加人として平成14年1月29日に原審判事件の審決の謄本の送達を受けているから,本件再審の請求期間は平成14年2月28日(審決確定日と同じ)までとなる。しかし,本件再審の請求日は平成14年4月19日であるから,本件再審の請求は適法な再審請求期間内になされたものではない」(審決謄本10頁第4段落)と判断したが,誤りである。
上記再審事由は,別件判決が確定した平成14年3月20日に発生したのであるから,本件再審の請求は,特許法173条1項の期間内にされている。
被告の反論
本審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(民訴法338条1項8号該当性の判断の誤り)について 原審決は,原審判事件の請求人(被告)が提出した刊行物の記載及び不備と指摘した本件発明の明細書の記載について事実認定をし,同事実に基づいて本件特許を無効とする理由について審理,判断したものであり,本件特許権の帰属いかんは,その認定判断を何ら左右しない。したがって,本件移転登録は,この判断に何らの影響もないから,原審決の基礎となった行政処分ということはできない。
2 取消事由2(民訴法338条1項5号該当性の認定判断の誤り)について 民訴法338条1項5号の刑事上罰すべき他人の行為は,有罪の判決若しくは過料の裁判が確定しているか,又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないものでなければならないが,その点について何ら具体的な主張はなく,主張自体失当である。
3 取消事由3(民訴法338条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 原審判事件において,原告の利害関係が認められて参加が許可され,十分に防御を尽くし,その上で,原審決は確定したのであり,かつ,原告はその主張に係る再審事由についても明確に認識していたことが明らかであるから,民訴法338条1項ただし書に従い,再審の請求は許されないというべきである。原告は,本件発明の訂正請求権がなく,適正な攻撃防御ができなかったと主張するが,原審判事件において,原告は,Bの訂正請求を否定し,本件発明は当該訂正がなくとも特許性を有すると主張し,訂正が必要であるとは考えていなかったことが明らかである。
(2) 原告の再審請求期間についての主張は,特許法173条3項の規定に反するものであり,理由がない。同項によれば,再審請求期間は,原審決送達日である平成14年1月29日の翌日から30日後の同年2月28日に満了したことが明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(民訴法338条1項8号該当性の判断の誤り)について (1) 原審決(甲3)は,原審判事件において,請求人(被告)の主張する本件特許の無効理由,すなわち,@本件発明1,3,6は,特開昭62-215520号公報(原審判甲1)に実質的に記載されているから,特許法29条1項3号に該当し,A本件発明1,3,6〜9は,原審判甲1,特開昭64-2647号公報(原審判甲2),昭和63年9月25日共立出版発行「高分子新素材 One Point 高吸水性ポリマー」20頁〜23頁(原審判甲3),昭和56年1月23日経営開発センター出版部発行「水溶性高分子・水分散型樹脂の最新加工・改質技術と用途開発総合技術資料集」220頁〜222頁,474頁〜479頁(原審判甲4),特開昭64-83024号公報(原審判甲5)及び特開昭60-260513号公報(原審判甲6)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,B本件発明1〜13に係る特許は,特許法36条4項及び5項の規定により,無効とされるべきであるとの主張に対し,@本件発明1,3は,実質的に原審判甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,なお,本件発明1,3の「アイシング材」が参加人(原告)のいうような「自己接着性軟質含水ゲル中に可及的多量に含まれる水分が人体の外方向へ揮散することによる気化熱の作用により人体局部の熱を長時間に亘り放散する」「再利用可能な治療剤」であるとしても,原審判甲1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,A本件発明2,4,5,10〜13に係る特許が特許法36条4項及び5項の規定に違反するものであるということはできず,B本件発明6〜9は,原審判甲1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件発明1,3,6〜9に係る特許は無効とすべきであり,本件発明2,4,5,10〜13に係る特許は請求人の主張する理由及び証拠によっては無効とすることはできないとしたものである。
(2) 原告は,原審決は,本件移転登録を有効とした上,本件特許権の権利者をBとし,同人を被請求人としてされたが,これが後に本件抹消登録によりさかのぼって抹消され,本件特許権の正当な権利者は終始一貫して原告であることが確認されたものであるところ,無効審判手続における当事者の確定は審決の事実認定にほかならないのであり,原審決は,本件特許権の正当な権利者に審判請求に対する答弁,訂正請求権などの攻撃防御権を付与することなく,権利者を結果的に誤って認定したことに帰するから,本件移転登録が原審決の基礎となっており,原審決には,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項8号に該当する再審事由がある旨主張する。
そこで,検討すると,上記第2の1の当事者間に争いのない事実及び証拠(甲3〜6,乙1〜3)並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,本件特許について,平成12年3月22日B名義で本件移転登録がされていることを同年6月ころに特許原簿の閲覧で知り,同月21日,大阪府豊中警察署に,本件移転登録が原告作成名義の譲渡証書及び単独申請承諾書の偽造によりされたものであるとして,偽造私文書行使,公正証書原本不実記載罪により告訴(以下「本件告訴事件」という。)をし,特許庁に権利回復の要請を行っていたところ,この間に被告がBを被請求人として無効審判請求をし原審判事件が特許庁に係属したことを同年9月ころに知ったこと,そこで,原告は,同年10月27日,本件移転登録の抹消を求めてBに対する別件訴訟を提起する一方,本訴の原告訴訟代理人でもある清原義博弁理士を代理人として,同年11月2日,原告が本件特許権の正当な権利者であることを主張して,原審判事件の被請求人を補助するため特許法148条3項による参加の申請をし,特許庁は,平成13年4月23日,上記参加の申請を許可する旨の決定をしたこと,原審判事件において,参加人(原告)代理人の清原義博弁理士は,同年8月16日付け審判事件答弁書をもって,本件移転登録に係る本件告訴事件及び別件訴訟が係属中であることを指摘するとともに,本件発明につきBのした平成12年11月1日付け訂正請求を否定し,平成11年8月6日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載(上記第2の2)を前提とした上,請求人(被告)の主張に係る本件特許の無効理由に逐一反論して,本件発明1が新規性及び進歩性を有し,本件発明3,6〜9が進歩性を有する旨主張し,口頭審理においても同旨の陳述をしたが,特許庁は,平成14年1月22日,本件発明1,3は新規性及び進歩性を欠き,本件発明6〜9は進歩性を欠くとの理由でこれらの発明に係る特許を無効とすべき旨の原審決をし,その謄本は,同月29日,当事者である被告及びB並びに参加人である原告に送達され,原審決は,特許法178条1項の訴えが提起されることなく,同年2月28日に確定したこと,別件訴訟については,同年3月4日,本件移転登録を抹消すべき旨の原告勝訴の判決(別件判決)が言い渡され,これが同月20日に確定したところ,それによれば,Bは,原告代理人Cから本件特許権外2件の特許権についての原告作成名義の譲渡証書及び単独申請承諾書を徴して原告に貸し付けた3000万円の譲渡担保として上記各特許権の移転登録を受けた旨主張したが,上記判決は,原告作成名義の上記書類はCが偽造したものであり,同人の行為は無権代理行為であるとして,Bの主張を排斥したものであること,同年5月9日,別件判決に基づき本件移転登録が抹消がされ,原告が本件特許権の登録名義を回復したことが認められる。
ところで,特許の無効審判の被請求人となるべき者は,審判請求時における特許権者であるから,通常は,審判請求時における特許原簿に権利者として表示されている者と一致するが,無効な移転登録がされたことにより,特許原簿上,特許権者から移転登録を受けたとして表示されている者が全くの無権利者である場合においては,無効な移転登録により権利者として表示されている者ではなく,実体上の権利者が被請求人となるべきものである。上記認定事実によれば,本件移転登録は無効な移転登録であり,原審判の審判請求時における本件特許権の実体上の権利者はBではなく原告であったのであるから,Bを被請求人としてされた原審決は,本件特許権の権利者の認定を誤ったものである。しかしながら,上記のとおり実体上の権利者を表示していない本件移転登録が,原審決における被請求人の確定についての当該審判体の判断を法律上拘束していたというわけではないのであるから,原審決は,本件移転登録が抹消されると否とにかかわらず,被請求人を原告としなければならないところ,これを誤ったにすぎず,本件移転登録の行政処分が原審決の基礎となっているということはできない。
また,本件移転登録は,それ自体,本件特許について発明の新規性ないし進歩性及び明細書の記載要件に係る無効理由の有無を審判の対象とした原審決の上記結論を導く認定及び判断の基礎となっているものでないことは明らかである。加えて,原告は,原審判事件において,本訴の原告訴訟代理人でもある清原義博弁理士を代理人として特許法148条3項による参加をし,本件移転登録の譲渡証書等に係る本件告訴事件が係属中であることを指摘すると共に,Bのした平成12年11月1日付け訂正請求に係る訂正を否定し,平成11年8月6日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載を前提とした上,本件発明1が新規性及び進歩性を有し,本件発明3,6〜9が進歩性を有する旨主張し,口頭審理においても同旨の陳述をしたことは上記の認定のとおりであるから,原審判事件において,原告の攻撃防御が実質的に妨げられたということもできない。
(3) したがって,本件移転登録の行政処分は,原審決の基礎となったものではないとした本審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(民訴法338条1項5号該当性の認定判断の誤り)について 原告は,刑事上罰すべき他人の行為により作成された譲渡証書及び単独申請承諾書によりした本件移転登録により,原審決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたから,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項5号に該当する再審事由があるとの主張に対し,同じく準用する同条2項の規定により,同号を理由として本件再審を請求することができないとした本審決の認定判断を誤りであると主張する。
しかしながら,大阪府豊中警察署に対する調査嘱託の結果によれば,原告主張に係る刑事上罰すべき他人の行為に関する偽造私文書行使,公正証書原本不実記載告訴事件(本件告訴事件)については,平成15年10月17日現在,捜査中であることが認められるのであって,上記行為について,有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき,又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに当たるものと認めるに足りないばかりでなく,本件移転登録が刑事上罰すべき他人の行為によるものであるとしても,それにより原告が原審決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたということができないことは,上記1(2)の認定に照らして明らかである。したがって,原告主張に係る上記再審事由を理由がないとした本審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 取消事由3(民訴法338条1項3号該当性の判断の誤り)について 原告は,原審判事件の被請求人であるBの代理人は,本件特許権の正当な権利者である原告の授権を一切受けずに手続を行ったものであるから,民訴法338条1項3号に該当する再審事由があるとの主張に対し,同理由に基づく審決の取消しを主張し得たにもかかわらず,そもそも審決取消訴訟を提起しなかったのであるから,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項ただし書の規定により,同項3号を再審事由として再審を請求することができず,また,再審請求人(原告)は参加人として平成14年1月29日に原審決の謄本の送達を受けているから,本件再審の請求は適法な再審請求期間内にされたものではないとした本審決の判断を誤りであると主張する。
確かに,本件移転登録の名義人であるBを被請求人としてされた原審決が,被請求人となるべき本件特許権の権利者の認定を誤ったものであることは上記のとおりであり,原審判事件の被請求人とされたBの代理人は,本件特許権の実体上の権利者である原告の授権を一切受けずに手続を行ったものであることが認められる。しかしながら,上記1に認定したとおり,原告は,原審判事件において,本訴の原告訴訟代理人でもある清原義博弁理士を代理人として特許法148条3項による参加をした上,攻撃防御の方法を提出するとともに,被請求人とされたBの代理人が原告との関係で無権代理行為を行っている事実を原審判事件の係属中に知っており,かつ,それを理由に参加人として原審決に対する取消訴訟を提起し得る立場にあったにもかかわらず,その訴訟を提起しなかったものである。
原告は,参加人が特許法178条1項の訴えを提起しても,本件発明の訂正請求権がなく,適正な攻撃防御ができなかったとも主張するが,訂正審判の請求人は,特許権者であり(同法126条1項),本件移転登録が抹消されると否とにかかわらず,原告が本件特許権の実体上の権利者として訂正審判を請求することは妨げられないばかりでなく,原告が,原審判事件において,本件発明につきBのした平成12年11月1日付け訂正請求を否定し,平成11年8月6日付け訂正請求に係る特許請求の範囲の記載(上記第2の2)を前提とした上,請求人(被告)の主張に係る本件特許の無効理由に逐一反論しているところからすると,そもそも原告がその主張するような訂正を必要としたかは疑わしいから,原告の上記主張は失当である。
したがって,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項ただし書の規定により,同項3号を再審事由として再審を請求することができないとした本審決の判断に誤りはないから,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴