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関連審決 不服2002-1564
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  優先権 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 237号 審決取消請求事件
原告 ザイブナーコーポレーション
訴訟代理人弁理士 小堀益
同 堤隆人
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 千葉輝久
同 吉村宅衛
同 小曳満昭
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-1564号事件について平成15年1月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「コンピュータ・システム」とする発明について,1996年(平成8年)8月29日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,平成9年3月24日に特許出願(平成9年特許願第70220号。以下「本件出願」といい,願書に添付した明細書及び図面を「本願明細書」という。)をしたが,平成13年10月31日に拒絶査定を受けたので,平成14年1月31日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求を不服2002-1564号として審理し,その結果,平成15年1月22日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年2月7日に原告に送達した。出訴期間として90日が付加された。
2 特許請求の範囲(平成13年8月23日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1) 「電源と,取り外し可能なモバイル・コンピュータ装置を備えたベース・コンピュータを有し, 前記モバイル・コンピュータ装置は,取り外されたとき,前記ベース・コンピュータから離れた状態またはそれと結合した状態でコンピュータとして完全に機能するものであり, 前記モバイル・コンピュータ装置は,音声起動手段,脳波起動手段,眼球追跡手段,及びそれらの混合手段から選択されたハンドフリー起動手段と,単一のハウジング内に一般用途のコンピュータのコンポーネントと,ユーザーの身体に取り付けるための手段を有し, 前記ベース・コンピュータは,前記モバイル・コンピュータ装置が取り外される前と後においても,完全に機能するための手段を有するコンピュータ・システム。」(以下「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平4-275612号公報(甲第4号証。以下,審決と同じく「引用文献1」という。)に記載された発明と特開平7-249006号公報(甲第5号証。以下,審決と同じく「引用文献2」という。)に記載された発明とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と引用文献1記載の発明(以下「引用発明1」という。)との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「電源と,取り外し可能なモバイル・コンピュータ装置を備えたベース・コンピュータを有し, 前記モバイル・コンピュータ装置は,取り外されたとき,前記ベース・コンピュータから離れた状態またはそれと結合した状態でコンピュータとして完全に機能するものであり, 前記モバイル・コンピュータ装置は,起動手段と,単一のハウジング内に一般用途のコンピュータのコンポーネントとを有し, 前記ベース・コンピュータは,前記モバイル・コンピュータ装置が取り外される前と後においても,完全に機能するための手段を有するコンピュータ・システム。」 (相違点) 「本願発明においては,モバイル・コンピュータ装置が有する起動手段が,音声起動手段,脳波起動手段,眼球追跡手段,及びそれらの混合手段から選択されたハンドフリー起動手段であるのに対し,引用文献に記載された発明(判決注・引用発明1)においては,ノート型パソコンが有する入力装置(本願発明の「モバイル・コンピュータ装置が有する起動手段」に相当)がハンドフリーであるのかどうかは明らかではない点。」(以下,審決と同じく「相違点1」という。)。
「本願発明においては,モバイル・コンピュータ装置がユーザーの身体に取り付けるための手段を有するのに対し,引用文献1に記載された発明(判決注・引用発明1)では,ノート型パソコン(本願発明の「モバイルコンピュータ装置」に相当)は,ユーザーの身体に取り付けるための手段を有するものではない点。」(以下,審決と同じく「相違点2」という。)。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明1との対比において,一致点・相違点の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1),自らが認定した相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りが,それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) (1) 審決は,本願発明と引用発明1とを対比して,引用発明1の「収納・接続ができるノート型パソコン」が本願発明の「取り外し可能なモバイル・コンピュータ装置」に相当する,と認定し(審決書3頁29行〜34行),この認定を前提として,「取り外し可能なモバイル・コンピュータ装置を備えた」点を本願発明と引用発明1との一致点として認定した。
しかしながら,引用発明1の「収納・接続ができるノート型パソコン」と,本願発明の「取り外し可能なモバイル・コンピュータ」とは異なる。審決のした上記一致点の認定は誤りである。
(2) 本願明細書において,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」の用語は,極めて小さい型の身体装着用のものであり,身体装着式又は頭部装着式のディスプレイ手段とともに,使用者に装着することができる,持ち運び可能なコンピュータを意味するものと定義されている。
すなわち,本願明細書(甲第6号証はその内容を示す公開公報である。)において,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」の用語は,「両手が自由になるユーザー支持型のポータブル・コンピュータ」,「コンパクトなモバイル・コンピュータ」(段落【0002】),「当該モバイル・コンピュータ装置は,必要な身体装着式又は頭部装着式のディスプレイ手段と共に,・・・ユーザーの身体に取付けるための手段を有する。」(段落【0014】)と定義されている。
これに対し,引用発明1の「収納・接続ができるノート型パソコン」は,本願発明のモバイル・コンピュータ装置として必要な,身体装着式又は頭部装着式のディスプレイ手段,ユーザーの身体に取り付けるための手段,のいずれも有しない。引用発明1の「収納・接続ができるノート型パソコン」は,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」とは異なる。
「日経パソコン用語辞典2004年版」(甲第8号証)には,「ノート型パソコン」と「ラップトップコンピュータ」とが同義であることが示されている。
同文献によれば,引用文献1記載の「ノート型パソコン」は,本願明細書に従来技術として挙げられたラップトップ・コンピュータに相当する。同明細書において,ラップトップ・コンピュータは,本願発明のベース・コンピュータの代表例として記載されている。
本願明細書には,ラップトップ・コンピュータについて,「ラップトップ・コンピュータは,ポータブルなものであるが,モバイル・アシスタントの程度と融通性に達するほどにポータブルなものではない。即ち,それらは,モバイル・アシスタントの場合がそうであるように,身体装着されるものとしては意図されていず,両手が自由になる用途のためのものとしては不適当なのである。」(段落【0003】)と記載されている。この記載からも,「ラップットップコンピュータ」に相当する引用発明1の「ノート型パソコン」は,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」に相当しないことが明らかである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 本願発明におけるモバイル・コンピュータ装置の構成そのものは,引用文献2に記載されている。
しかしながら,引用文献1及び2のいずれをみても,このモバイル・コンピュータ装置をラップトップ・コンピュータ(又はその他のベース・コンピュータ)と組み合わせてシステム化し,モバイル・コンピュータ装置の機能を展開するという考え方はない。
本願発明は引用発明1及び引用発明2に基づいて容易に発明をすることができた,との審決の判断は,誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) コンピュータ技術の分野において,「モバイル」の語は,一般に,「移動可能な」,「携帯型の」との意味で用いられている。「モバイル」の語には,身体に装着するかどうかに関する意味は,一般には含まれていない。
原告が本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」の用語の定義についての記載であると指摘する本願明細書の段落【0002】や【0014】には,米国特許第5305244号に記載されたモバイル・コンピュータ装置,あるいは,本願発明のモバイル・コンピュータ装置が,身体に装着する手段を有することなどが記載されている。しかし,これらの記載は,「モバイル・コンピュータ装置」の用語について定義したものではない。仮に,これらの記載が「モバイル・コンピュータ装置」の用語を定義したものであり,「モバイル・コンピュータ装置」の語がそこに記載されたような意味を有するのであれば,請求項1には,審決が相違点として挙げた,身体に装着する手段を有する,といった要件について明示するまでもなく,単に,「モバイル・コンピュータ装置」の用語を使用するだけで足りたはずである。ところが,請求項1は,「モバイルコンピュータ装置」の用語を使用した上で,同装置が身体に装着する手段を有する,などの要件を別途明示している。このことからみて,原告の指摘する上記各記載が「モバイルコンピュータ装置」という用語を定義したものでないことは,明らかである。
(2) 引用発明1の「ノート型パソコン2」は,携帯ないし持ち運びすることを目的としたものであって,携帯型のコンピュータ,すなわち,モバイル・コンピュータ装置であるということができる。
引用文献1には,従来技術について,「比較的小型の,一般的にはパーソナルコンピュータ(以下,「パソコン」と称する。)と呼ばれる種類の電子計算機は,デスクトップ形からラップトップ形,ブック形,ノート形,パームトップ形へと小型化が進んでいる。また,一方では電子手帳と呼ばれる種類の電卓感覚で使える情報処理装置が出現してきている。そして,この種の装置のユーザは,会議や外出には電子手帳またはパームトップパソコンを使い,仕事場に戻ってはラップトップ型またはデスクトップ型のパソコンを使うと言った作業形態となってきている。」(甲第4号証・段落【0002】,【0003】)との記載がある。同記載によれば,「ノート形」は,「デスクトップ形」や「ラップトップ形」とは区別され,携帯することができるものとされている。
「ノートパソコン」が「モバイルコンピュータ」であることは,「超図解 パソコン用語辞典2003-04年版 第1019頁」(株式会社エクスメディア 2002年9月26日発行)(乙第1号証)からも明らかである。
引用発明1の「収納・接続ができるノート型パソコン」が本願発明の「取り外し可能なモバイル・コンピュータ装置」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
身体へ装着する手段などの有無の看過をいう原告の主張は,失当である。
審決は,この点を相違点として認定し,これに対する判断を行っているからである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について ノートパソコンは携帯用の計算機であるから,引用文献1記載の「ノートパソコン2」に,引用発明2が備えているような身体に取り付けるための手段やハンドフリー起動手段を備えさせることは,当業者が容易になし得ることである。
本願発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 原告は,本願明細書において,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」の用語は,極めて小さい型の身体装着用のものであり,身体装着式又は頭部装着式のディスプレイ手段とともに,使用者に装着することができる,持ち運び可能なコンピュータを意味するものと定義されているのに対し,引用発明1の「収納・接続ができるノート型パソコン」は,身体装着式又は頭部装着式のディスプレイ手段,ユーザーの身体に取り付けるための手段,のいずれも有しないから,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」とは異なる,と主張する。
「モバイルコンピュータ」は,一般に,「携帯可能な小型コンピュータ」を意味する語であるとされており(「超図解 パソコン用語辞典2003-04年版辞典」1019頁。乙第1号証。2003〜4年より前においては,この語が別の意味で用いられていた,と考えさせる資料はない。),身体に装着するための手段を有することは,その一般的な意味には含まれていない。
本願発明における「モバイル・コンピュータ装置」の用語が,上記の一般的な意味とは異なり,身体に装着するための手段を有することを含んだ意味で用いられているというためには,本願明細書中に,この語をそのようなものとして定義した記載など,明確な根拠となる記載があることが必要である。ところが,本願明細書中には,そのような記載は見当たらない。
原告は,上記主張の根拠として,本願明細書の,「両手が自由になるユーザー支持型のポータブル・コンピュータ」,「コンパクトなモバイル・コンピュータ」(甲第6号証・段落【0002】),「当該モバイル・コンピュータ装置は,必要な身体装着式又は頭部装着式のディスプレイ手段と共に,・・・ユーザーの身体に取付けるための手段を有する。」(同号証・段落【0014】)などの記載を挙げる。しかしながら,上記各記載は,米国特許第5305244号に記載されたモバイル・コンピュータ装置,あるいは,本願発明のモバイル・コンピュータ装置が,身体に装着する手段等を有することなどを述べたものにすぎない。上記各記載によっては,本願発明における「モバイル・コンピュータ装置」の用語が,身体に装着する手段等を有するとの意味を含むものとして用いられている,と認めることはできない。他に,原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
上に述べたところによれば,審決が,本願発明における「モバイル・コンピュータ装置」の語を身体に装着する手段等を有するとの意味を含まないものとしてとらえた上で,引用発明1の「ノート型パソコン」と対比し,両発明の一致点を認定したことに誤りはない。
仮に,原告主張のとおり,本願明細書において,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」の語が身体に装着する手段等を有するとの意味を含むものとして用いられていると解することができ,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」と引用発明1の「ノート型パソコン」とが身体に装着する手段等を有するか否かにおいて相違するとしても,審決は,身体に装着する手段等を有するか否かについては,相違点として認定し,これに対する判断をしている。
いずれにせよ,この点について,審決に相違点の看過はない。
(2) 原告は,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」は,身体装着式の極めて小さい型のものであること,本願明細書において,「ラップトップ・コンピュータ」は,身体に装着するのに適するほどコンパクトではないベース・コンピュータを意味するものとして使用されていること,一般に,「ノート型パソコン」の語は,「ラップトップ・コンピュータ」の語と同義に用いられていること,を理由に,引用発明1の「ノート型パソコン」は,本願発明の「ベース・コンピュータ」に相当するものであり,「モバイル・コンピュータ装置」に相当するものではない,と主張する。
本願明細書には,「コンパクトなモバイル・コンピュータ」(甲第6号証段落【0002】),「ラップトップ・コンピュータは,ポータブルなものであるが,モバイル・アシスタントの程度と融通性に達するほどにポータブルなものではない。即ち,それらは,モバイル・アシスタントの場合がそうであるように,身体装着されるものとしては意図されていず,両手が自由になる用途のためのものとしては不適当なのである。」(同号証段落【0003】)との記載がある。この記載によれば,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」は身体に装着することができる程度に小型のものであるのに対し,ラップトップ・コンピュータは身体に装着することができるほどには小型のものでない,とされていることが明らかである。
しかしながら,本願明細書の上記記載は,「ラップトップ・コンピュータ」が,本願発明で用いるモバイル・コンピュータ装置,としてふさわしくないことをいうだけであり,それ以上に出るものではない。本願発明におけるベースコンピュータを特定したり,本願発明におけるモバイル・コンピュータの語の意味について述べたりする記載を,本願明細書中に見いだすことはできない。
原告は,一般に,「ノート型パソコン」の語は,「ラップトップ・コンピュータ」と同義に用いられており,「モバイル・コンピュータ」を意味しない,と主張する。
「日経パソコン用語事典2004年版第976頁」(甲第8号証)には,ラップトップパソコンについて,「1980年代後半に製品化された携帯型パソコン。液晶ディスプレイの採用により小型・軽量化を図り,ひざの上(ラップトップ)でも使用できることから,この呼び名が付いた。・・・その後小型化が進み,従来のラップトップ型と同等の性能を,A4ファイルサイズの製品で実現できるようになると,ノートパソコンという呼び方が主流になった。日本ではラップトップという言葉は使わなくなったが,欧米では今でもノートパソコンをラップトップと呼ぶ場合が多い。」との記載がある。
「超図解パソコン用語辞典2003-04年版第1019頁」(乙第1号証)には,モバイル・コンピュータについて,「携帯可能な小型のコンピュータの総称。ノートパソコンやPDAなどがこれに当たる。」との記載がある。
上記各文献の記載内容によれば,「ノートパソコン」(ノート型パソコン)の語は,「ラップトップパソコン」(ラップトップ・コンピュータ)と同義に用いられる場合もあれば,「モバイル・コンピュータ」と同義に用いられる場合もある,ということができる。「ノート型パソコン」の語が「ラップットップ・コンピュータ」のみを意味するものであって「モバイル・コンピュータ」を意味するものではないとの原告の主張は失当である。
引用文献1には,「【従来の技術】比較的小型の,一般的にはパーソナルコンピュータ(以下,パソコンと称する。)と呼ばれる種類の電子計算機は,デスクトップ形からラップトップ形,ブック形,ノート形,パームトップ形へと小型化が進んでいる。また,一方では電子手帳と呼ばれる種類の電卓感覚で使える情報処理装置が出現してきている。」(甲第4号証・段落【0002】),「【発明が解決しようとする課題】上記したように,OA機器も小型化,パーソナル化が進み,一般に会議のような場所では電子手帳を使い,外出や出張のときはノート形パソコンを携帯し,事務所など自分の仕事場に戻るとラップトップまたはデスクトップ型パソコンを使うと言った使用形態が一般的となってきている。」(同・段落【0006】)との記載がある。上記記載においては,ノート型パソコンは,ラップトップ型パソコンよりも小型のものであり,外出や出張のときに携帯して使用するものであるのに対し,ラップトップ型パソコンは,事務所など仕事場に置いて使用するものであるとされている。しかし,引用文献1には,上記以外に,ノート型パソコンの大きさを特定する記載はない。
そうである以上,審決が,引用発明1の「ノート型パソコン」が,本願発明の「モバイル・コンピュータ装置」に相当するとして,この点を一致点として認定したことに誤りはない。
(3) 以上のとおりであるから,審決に原告主張の相違点の看過はない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 原告は,引用文献1にも同2にも,モバイル・コンピュータ装置をラップトップ・コンピュータ(又はその他のベース・コンピュータ)と組み合わせてシステム化し,モバイル・コンピュータ装置の機能を展開するという考え方はないから,本願発明は,引用発明1,2から,当業者が容易に発明できたとすることはできない,と主張する。
しかしながら,引用文献1には、「デスクトップコンピュータ1」と「ノート型パソコン2」について,次の記載がある。
ア「【発明が解決しようとする課題】上記したように、OA機器も小型化、パーソナル化が進み、一般に会議のような場所では電子手帳を使い、外出や主張のときはノート型パソコンを携帯し、事務所など自分の仕事場に戻るとラップトップまたはデスクトップ型パソコンを使うと言った使用形態が一般的になってきている。
この際、電子手帳にある情報はノート型パソコン使用時にも必要な情報であることが多く、またノート型パソコンの持つ情報はデスクトップ形パソコンでも必要な情報となるのが普通である。もちろん、これと逆の方向の情報共用も要求される。」(甲第4号証・段落【0006】) イ「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明においては、下位機器を上位機器に内蔵可能とし、上位機器から下位機器の資源をアクセス可能としたことにある。」(同・段落【0014】) ウ「図1は本発明の構造例を示したものである。1は例えば最上位機器としての32ビット構成のデスクトップ形のパーソナルコンピュータである。これは入力装置としてはキーボードKBを有し、出力装置としてCRTディスプレイ装置DSPを備えている。そして、補助記憶装置EMとしては大容量のハードディスクとフロッピーディスクを装備している。2は中位機器としての、バッテリー駆動可能な、いわゆるノート型パソコンと呼ばれるもので、16ビット構成のマイクロコンピュータを使用し、出力装置として液晶型平面表示装置を、入力装置として内蔵型キーボードを、補助記憶装置として3.5インチフロッピーディスク装置を装備している。いずれもオプションの入出力機器としてマウスやプリンタを接続することが可能なものである。」(同・段落【0019】) エ「コンピュータ1の本体には下位コンピュータ2の本体を収納するための収納部1gと接続用コネクタ1fを設ける。コンピュータ2の本体には、コンピュータ1の本体と接続するための接続用コネクタ1f’を設け、更に下位コンピュータ3を収納する収納部2gと接続用コネクタ2fを設ける。」(同・段落【0021】) オ「これらコンピュータ1,2,3はそれぞれ単独で機能する独立したコンピュータとして使用することができ、またそれぞれが結合された状態では下位の機器は上位の機器の一部分として組み込まれて機能する。」 (同・段落【0028】) 上に認定した引用文献1の記載と,1で述べたとおり,引用発明1の「ノート型パソコン」が本願発明の「モバイル・コンピュータ」に相当するとの事実とを総合すると,引用文献1には,「取り外し可能なノート型パソコン(モバイル・コンピュータ)」を「ベース・コンピュータ」に組み込む,という本願発明と共通する技術思想が記載されているということができる。
引用文献2には,モバイル・コンピュータ装置の構成が記載されている。引用発明1と2とが技術分野を共通にすることは明らかである。引用発明1のノート型パソコンに,引用文献2に記載されたハンズフリー起動手段や身体に装着するための手段を適用することは容易であるというべきである。このように述べることを妨げる事情は,本件全資料を検討しても見いだすことができない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決の認定判断にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久