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追加

関連審決 無効2020-800025
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事件 令和 4年 (行ケ) 10022号 審決取消請求事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/04/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2020-800025号事件について令和3年11月5日にした審決のうち、特許第6522072号の請求項1〜12に係る部分を取り消す。
事案の概要
本件は、特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は、優先権に関する認定判断の誤り並びに実施可能要件違反、サポート要件違反、明確性要件違反及び進歩性についての各認定判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は、平成29年10月4日、発明の名称を「イズロン酸-2-スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物」とする特許出願(特願2017-194348号。以下「本件出願」といい、本件出願がされた上記の日を「本件出願日」という。本件出願は、平成23年6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年2月11日、2010年7月1日、2010年9月29日、
2011年1月24日、2010年6月25日、2011年6月9日、2011年4月15日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願(特願201 3-516845号)の一部を新たな特許分割出願として平成27年12月17日にされた特許出願(特願2015-246244号)の一部を新たな特許分割出願としたものである。)をし、令和元年5月10日、その設定登録を受けた(特許第6522072号。請求項の数12。以下「本件特許」といい、本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。甲1)。
(2) 原告は、令和2年3月6日、本件特許の無効審判の請求(以下「本件審判請求」という。)をし(無効2020-800025号事件)、被告は、令和2年10月6日付けで本件特許の請求項1〜12についての訂正請求(特許請求の範囲のみを訂正対象とするもの)をした(甲50)。
特許庁は、令和3年11月5日、本件審判請求について、上記訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)を認めた上で、「特許第6522072号の請求項1〜12についての審判請求は成り立たない。」との審決(以下、同審決を「本件審決」という。)をし、本件審決の謄本は、同月12日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(甲50。
以下、本件特許について「請求項」という場合、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項をいい、また、本件訂正後の各請求項に係る発明を請求項の番号に応じてそれぞれ「本件発明1」などといい、本件発明1〜12を併せて「本件発明」という。。
) 【請求項1】 ハンター症候群を治療するための安定製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記安定製剤は、5mg/ml〜100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤。
【請求項2】 (i)塩、または、
(ii)ポリソルベート界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の安定製剤。
【請求項3】 請求項1〜2のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記製剤の前記脳室内投与が、標的脳組織への前記I2Sタンパク質の送達を生じさせ、
(a)前記脳標的組織が、白質および/または灰白質内のニューロンを含む、
かつ/または、
(b)前記I2Sタンパク質が、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される、
(ii)前記I2Sタンパク質が、脊髄内のニューロンにさらに送達される、
(iii)前記製剤の前記脳室内投与が、肝臓、腎臓および心臓から選択される末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせる、
(iv)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のリソソーム局在化を生じさせる、
(v)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させる、ならびに/または、
(vi)前記製剤の前記脳室内投与が、ニューロンの空胞化を減少させる、
安定製剤。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のI2S酵素活性の増加を生じさせる、安定製剤。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記脳室内投与が、静脈内投与と併せて用いられる、あるいは、
(ii)前記脳室内投与が、静脈内投与の不在下で用いられる、ならびに/あるいは、
(iii)前記脳室内投与が、2週間に1回、1ヶ月に1回、または、2ヶ月に1回実施される、ならびに/あるいは、
(iv)前記脳室内投与が、併用の免疫抑制療法の不在下で用いられる、
安定製剤。
【請求項6】 10mg/ml〜100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、塩と、ポリソルベート界面活性剤とを含む、脳室内投与のための安定製剤であって、前記製剤は、5.5〜7.0のpHを有し、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含む、安定製剤。
【請求項7】 前記I2Sタンパク質が、30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度で、または、その濃度までで存在する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の安定製剤。
【請求項8】 前記I2Sタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の安定製剤。
【請求項9】 請求項6〜8のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記塩がNaClである、安定製剤。
【請求項10】 請求項6〜9のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記ポリソルベート界面活性剤が、ポリソルベート20である、安定製剤。
【請求項11】 請求項1〜10のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記製剤が液体製剤である、安定製剤。
【請求項12】 請求項1〜11のいずれか一項に記載の安定製剤の単回投与形態を含む容器。
3 本件審決の理由の要旨(本件訴訟で原告が主張する取消事由に関する部分に限る。) (1) 無効理由1(明確性)について 原告は、請求項1〜5及び7〜12にリン酸塩の濃度の下限値が記載されていないことを問題とするが、請求項1の記載から、本件発明1の医薬組成物にリン酸が含まれ、その濃度が50mMまでであることが明確であり、濃度の下限がないことによって発明が不明確になるものでもない。原告が発明の詳細な説明の記載から適切なリン酸塩の濃度があるはずであると主張している点は、むしろサポート要件に関わる内容であり、明確性とは別の問題である。
(2) 無効理由2(実施可能要件)について ア 本件発明1について (ア) 本件明細書の記載内容 a 製剤化に関する記載 (a) 本件明細書の【0091】には、従来、CSFに近い組成を有するエリオットのB溶液(人工CSF)が、典型的には髄腔内腔内送達のために用いられていたが、緩衝剤濃度極度に低いために、長期間に亘ってタンパク質を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ず、また、同溶液中に存在するカルシム塩は、タンパク質沈降を媒介し、それにより製剤の安定性を低減し得るものであることが記載されている。
(b) 実施例4の【0246】〜【0248】には、イズルスルファーゼの髄腔内腔内送達についての製剤開発のため、全身的送達のためのI2S製剤と等価な安定性も維持すると同時に、リン酸塩およびポリソルベート20レベルを低減すること に焦点を当て、凍結融解、振盪ストレス、および熱ストレスに対する試験を行った結果、生理食塩水製剤が、低タンパク質濃度(2mg/ml)で凍結融解ストレスに対してより安定であり、高タンパク質濃度(100mg/ml)では、凍結融解ストレスは、生理食塩水含有製剤およびリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかったこと、振盪ストレス試験は、0.005%ポリソルベート20が振盪関連ストレスに対してタンパク質を保護すること、生理食塩水製剤のpHは、
2〜8℃で24カ月間、 0で維持されることを確認したことが記載され、
6. また、
タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められたとの記載がある。
また、
【0273】には、製剤原料のイズルスルファーゼを50mg/mlに濃縮し、次いで150mMの生理食塩水中に透析濾過したところ、10XDF後において、通過液が約0.07mMのリン酸塩であったが、タンパク質保持物質は約0.16mMのリン酸塩を含有し、リン酸塩がタンパク質に結合して約0.2mMのリン酸塩残基が、製剤原料中に残留していることを示し、これが生理食塩水製剤が6.0のpHを維持していることに寄与していると思われることが記載されている。
b 脳室内(ICV)投与の実施例 本件明細書には、補充酵素を含む製剤のICV投与が行われた以下の実施例が記載されている。
(a) 実施例5には、124I標識化I2SをICV経路、IT-L経路、IV経路によって試験動物に投与し、PETスキャンを実施した結果が図62に示されている(【0284】、図62)。
(b) 実施例6には、ビーグル犬にI2Sの単回ボーラス1mL注射(20mMリン酸ナトリウム、pH6.0;137mM塩化ナトリウム;0.02%ポリソルベート-20中30mg/mL)がITまたはICVで投与し、投与後24時間で致死させ、脳および脊髄組織について、ELISA、I2S酵素活性およびIHCによって定量的I2S分布を試験群間で比較したことが記載されている(【0289】 〜【0290】。
) 本件明細書には、実施例6の結果について、I2Sは、ITおよびICV群の双方の灰白質全体に広く分布し、IHCでは、大脳皮質では、図47(AおよびB)に示されるように、ITおよびICV群の双方で、ニューロンは、表面の分子層から深部の内層までの6つのニューロンでI2Sについて陽性であり、ITおよびICV群の大脳皮質では、図47(CおよびD)で示されるように、I2Sは、プルキンエ細胞を含むニューロンで検出され、ITおよびICV群の双方において、図47(EおよびF)に示されるように、海馬内のニューロンの大集団が、I2Sに陽性であり、I2S陽性ニューロンはまた、図47(GおよびH)で示されるように、両群において、視床および尾状核でも確認されたことが記載されている(【0291】〜【0292】。
) c 髄腔内(IT)投与の実施例の記載 本件明細書には、補充酵素を含む製剤のIT投与が行われた以下の実施例が記載されている。
(a) 実施例1には、髄腔内腔内-腰椎経路によって、組換え体ヒトI2Sが成体MPS IIマウス(IKOマウス)の脳に送達されることができるかどうかを判定するための試験を行ったことが記載されている 【0196】。
( ) 実施例1において試験に使用した組換え体ヒトI2Sは、リン酸塩緩衝生理食塩水に対して透析し、
濃縮・再懸濁後に濾過滅菌したもので、最終濃度は、51mg/mlであったことが記載されている(【0196】。この試験により、IKOマウスでは、髄腔内腔内 )-腰椎経路によって組換え体ヒトI2Sが脳に送達され、注射されたI2Sは、髄膜細胞および脳のニューロンで検出、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方での脳全体の細胞空胞化の減少、注射されたI2Sは、脳の種々の領域において広範囲の組織病理学的改善、脳全体のLAMP-1リソソームマーカーの減少、髄腔内腔内注射されたI2Sは、末梢循環に入り、肝臓の形態学的および組織学的マーカーの改善を生じさせることを示す結果が得られたことが記載されている(【020 6】〜【0211】。
) (b) 実施例2には、154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20、pH5.3〜6.1中に、I2Sタンパク質を3mg/ml、30mg/ml、100mg/mlまたは150mg/mlの濃度で含む製剤をカニクイザルにIT投与した試験が記載され(【0212】〜【0220】、このI2S製剤の投与により、
)臨床的徴候の発生率は最小であったこと 【0222】、
( ) 髄膜近くの表面での層Iから白質に隣接したより深い層IV内のニューロンに至る脳内ニューロンにおいて、
注射されたI2Sの広範囲な分布が明らかにされたことが記載され(【0227】、
)毎月の間隔で送達される150mgまでの用量でのイズルスルファーゼのIT投与は、副作用を示さず、CNSのほか、肝臓、腎臓および心臓においても全身的レベルをもたらしたことが記載されている(【0234】。
) (c) 実施例5には、組換え体ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)製剤を、6.0のpHで、154mMのNaCl、0.005%のポリソルベート20のビヒクル中で調製かつ製剤化し、非ヒト霊長類に、I2Sの3mg、30mg、
または100mgのいずれかを月単位で、移植した髄腔内腔内ポートによって、6ヶ月間継続して投与したことが記載されている(【0278】〜【0279】。
) 実施例5において、IT投与されたI2Sは脳室近くの白質脳組織の希突起グリア細胞内で検出され、リソソームへ局在化が確認されたことから、脳の組織の深部に分布することが可能であり、ならびに細胞内局在化が可能であることを確認したとの記載がある(【0285】〜【0286】、図46)。
また、送達されたI2Sが生物学的活性を保持しているかどうかを明らかにするために、脳におけるI2Sのレベルを、比活性アッセイを用いて測定したところ、
30mgおよび100mgのIT投与動物の脳における酵素活性は、死体解剖時(投与後24時間)ではベースライン以上であったことが記載されている【0287】。
( ) (d) 実施例7には、ハンター症候群の動物モデルとして、イズロン酸-2-スルファターゼノックアウト(IKO)マウスモデルを市販のI2S(Elapras e(登録商標))を濃縮し、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させたI2S濃度26mg/mlの製剤でI2Sの260μg用量を髄腔内投与で処置したところ、3回目の注射後に、ビヒクル処置マウスに比べてI2S処置マウスで、表面大脳皮質、尾状核、視床および小脳における細胞内空胞化の広範囲の減少が白質で確認されたことが記載されている(【0293】〜【0295】。
) (イ) 本件発明1の医薬組成物の効果について 上記を踏まえ、本件発明1の医薬組成物の効果につき、検討する。
a I2Sによる治療効果について I2Sを有効成分とする医薬品は、ムコ多糖症II型の治療薬として、本願特許の出願日前である2006年7月24日に米国食品医薬品局(FDA)で、また2007年1月8日には欧州医薬品庁(EMEA)で承認され、日本では、2007年10月に承認されており(甲8)、I2Sがムコ多糖症II型、すなわち、ハンター症候群を治療することのできる生理活性を有するものであることは、本件特許の出願日において、当業者に周知の事項であると認められる。
そして、本件明細書の実施例1には、ハンター症候群のモデル動物であるMPSIIマウス(IKOマウス)に対して、リン酸塩緩衝生理食塩水に対して透析し、
濃縮・再懸濁後に濾過滅菌した51mg/mlの濃度のI2Sを髄腔内腔内-腰椎経路で投与すると、脳全体の細胞空胞化の減少、脳の種々の領域において広範囲の組織病理学的改善、脳全体のLAMP-1リソソームマーカーの減少、肝臓の形態学的及び組織学的マーカーの改善が観察されたことが示され(本件明細書の【0196】【0206】〜【0211】、実施例7にも、IT投与による脳脊髄液への 、 )I2Sの注入によって、IKOマウスの表面大脳皮質、尾状核、視床及び小脳における細胞内空胞化の減少が確認されたことが示されている(【0293】〜【0295】。
) そうすると、当業者は、本件明細書の記載から、I2Sを脳脊髄液へ注入することにより、脳組織や肝臓において、ハンター症候群に対して治療効果を発揮できる ことを理解するといえる。
b S2の分布と深部組織への浸透について 実施例2、実施例5及び実施例6では、I2S製剤のICV投与及びIT投与のいずれによっても、I2Sが深部脳組織に浸透し、ニューロンで検出されることが示されている(本件明細書の【0212】 【0220】 〜 、
【0227】、
【0278】、
【0279】【0284】〜【0286】【0289】〜【0292】 、 、 、図46、図47、図62)。
また、実施例5において、IT投与により、脳におけるI2Sのレベルを、比活性アッセイを用いて測定したところ、投与後24時間の30mg及び100mgのIT投与動物の脳における酵素活性は、ベースライン以上であったことが記載されている(【0287】。
) c 製剤の安定性について 実施例4においては、高タンパク質濃度(100mg/ml)では、凍結融解ストレスは、生理食塩水含有製剤及びリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかったことが示されている。タンパク質に結合された残留リン酸塩の量及びタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示され、
タンパク質に結合して製剤原料中に残留するリン酸塩が生理食塩水製剤が6.0のpHを維持していることに寄与していると思われることが記載されている。また、
0.005%ポリソルベート20は、振盪関連ストレスに対してタンパク質を保護することが記載されている(以上について、本件明細書の【0246】〜【0248】【0273】。浸透関連ストレスは、液体状態で製剤を保存運搬する場合にの 、 )み問題となるものであるところ、請求項1を引用して限定する請求項11に凍結乾燥製剤の態様が記載されるように、本件発明1の製剤は、必ずしも液体製剤として提供されるものでないことからすると、脳室内等や髄腔内投与により脳脊髄液を介して補充酵素を送達させる製剤に、リン酸塩やポリソルベート20を敢えて添加しない場合であっても、脳脊髄液への注入に適する安定な製剤が得られることが理解 できる。
(ウ) 臨床試験に関する宣誓書について ハンター症候群患者へのイデュルスルファーゼ(I2S)のIT投与の臨床試験に関する宣誓書(乙1)には、I2S製剤のIT投与により、重篤な有害事象は認められず、またCSFでのGAGレベルの減少がみられ、中等度の罹患患者では、
認知障害に対する臨床的有効性の有望な結果が観察されたことが記載されている。
本件明細書において、本件発明1の組成物のICV投与がIT投与と同等の補充酵素の分布をもたらしたことを踏まえると、乙1の臨床試験の結果からも、ヒトの治療に実際にICV投与を行った場合に治療効果を示すであろうと推認することができる。
(エ) 小括 以上のとおり、本件明細書の記載から、当業者は、I2Sがハンター症候群に対して治療効果を示す酵素であると理解するとともに、脳脊髄液への注入に適する安定な製剤を製造することができ、リソソーム酵素の脳室内投与が、リソソーム蓄積症に対する治療効果を示すこと、脳室内投与及び髄腔内投与がいずれも、製剤中へのリン酸塩やポリソルベート20の添加の有無を問わず脳の深部組織に治療標的の濃度でリソソーム酵素を送達可能であることを理解するといえる。
そうすると、本件明細書の記載から、当業者は、本件発明1の医薬組成物が、安定な製剤であり、ハンター症候群の対象に脳室内投与することで治療効果が得られるものであることを理解するといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである イ 本件発明2〜12について 次の記載からすると、発明の詳細な説明の記載は、本件発明2〜12についても、
当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分なものである。
(ア) 本件発明2について、実施例4などには、塩化ナトリウムやポリソルベート 80を含む製剤が記載されている。
(イ) 本件発明3について、前記ア(イ)のとおり、実施例において、本件発明3の構成に係る効果が得られることが確認されて記載されている。
(ウ) 本件発明4について、本件明細書において、本件発明の製剤のICV投与により、脳組織や末梢標的組織である肝臓へのI2Sの到達が示されていることは、
前記ア(イ)aのとおりであり、脳脊髄液を介して送達されたI2Sが送達部位で酵素活性を有することが示されていることは、同bのとおりである。
(エ) 本件発明5について、I2Sは、本件特許出願の前に、週1回の静脈注射用の製剤として承認され実用化されていたものであり(甲8) 当業者は静脈注射と脳 、
室内投与を併用することが可能であると理解でき、本件明細書の【0164】にも、
脳室内投与と静脈注射の併用、採用可能な投与間隔について説明する記載がある。
(オ) 本件発明6について、本件明細書には、実施例4などに、塩化ナトリウムやポリソルベート20を含む製剤が記載されており、本件発明6の構成に係る範囲内の組成を有する製剤を投与した実施例(実施例1、2、5〜7)が記載されている。
(カ) 本件発明7について、実施例4には、I2Sを100mg/mlの濃度で含有する製剤の例が記載され、I2Sを本件発明7の範囲内の濃度で含有する製剤を投与した実施例(実施例1、2、5〜7)が記載されている。
(キ) 本件発明8について、I2Sタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を有するものであることは、本件明細書の【0074】に記載されている。
(ク) 本件発明9〜12について、本件明細書には、塩化ナトリウムとポリソルベート20をともに含む液体の製剤を用いた試験が記載されており(【0289】〜【0290】、液体の医薬組成物を単回投与形態で容器に収容することも当業者に )はよく知られた手段である。
(3) 無効理由3(サポート要件)について 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の【0002】〜【0008】の記載からみて、本件発明の課題は、グリコサミノグリカンの蓄積によりCNS障害を生じる リソソーム蓄積障害に対して、血液能関門(判決注「血液脳関門」 : の誤記と認める。)及び脳表面でのバリアの存在などの障害物を克服し、脳に治療薬を有効に送達させることであると認められる。
前記(2)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1〜12が、いずれも、脳室内投与により、補充酵素を脳深部組織に有効に送達させ、
脳リソソーム蓄積障害を治療することができるものであると理解できる。したがって、本件発明1〜12は、発明の詳細な説明の記載から、上記の発明の課題を解決可能であると当業者が認識可能な範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。
(4) 無効理由5(進歩性)について ア 甲6の2(「INTRATHECAL DELIVERY OF PROTEIN THERAPEUTICS TO TREATGENETIC DISEASES INVOLVING THE CNS 」 INJECTABLE DRUG DELIVERY 2010:FORMULATIONS FOCUS, Issue No.19, pages 16-20(2010年)。本件審決における「甲6」。以下、枝番を付することなく単に「甲6」という場合、甲6の2を指すものである。)の先行技術文献としての適格性について (ア) 甲6が公衆に利用可能となった日 甲6における記載のほか、乙12(A Statement(2014年7月))及び乙22(甲6のPDFファイルのプロパティ)からすると、甲6は2010年7月2日になってから公衆に利用可能となったと認められる。
(イ) 優先権主張の利益について a 20 10年 7月 2日より 前の優 先基 礎出願は 、 甲1 4( 優先権証 明書(US61/358,857 2010年6月25日出願)に係る米国特許出願第61/358、
: )857号(以下、この出願を「基礎出願1」という。)と、甲15(優先権証明書(US61/360,786:2010年7月1日出願))に係る米国特許出願第61/360、
786号(以下、この出願を「基礎出願2」という。)である。
b(a) 基礎出願2の明細書である甲15の9頁5〜22行には、
「本発明は、CN S投与用の治療剤を製剤化するための医薬組成物や溶液の緩衝液濃度やpHのわずかな変化が、投与される溶液やそこに含まれる治療剤の忍容性やin vivoの安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づいている。本発明の医薬組成物及び製剤は、高濃度の治療剤(例えば、タンパク質又は酵素)を可溶化することができ、
そのような治療剤をCNS成分及び/又は病因に送達するのに適している。本発明の組成物は、それを必要とする対象のCNSに投与された場合(例えば、髄腔内に投与された場合)、安定性が改善され、忍容性が改善されることをさらに特徴とする。」と記載され、本件発明が、CNS投与のための製剤の緩衝剤濃度及びpHの小さな変化が、忍容性及びin vivoの安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づくものであり、本件発明の製剤は、治療用酵素を高濃度で製剤化することが可能であることの記載がある。また、甲15の12頁の1〜15行の「発明の医薬組成物は、治療薬を脳室内でCNSに送達する(すなわち、脳室に直接投与する)ために使用することもできる。脳室内への投与は、Ommayaリザーバー又は他の同様のアクセスポートを介して容易に行うことができ、これらのアクセスポートは、脳室内に直接配置されたリードカテーテルとともに、被験者の頭頂部の頭皮と骨膜との間のポケットに移植され得る。また、小脳髄液槽(cisterna magna)も考えられており、これは、小型のネズミでの髄液内又は脳室内投与と比較して物流が容易であることから、例えば動物種で使用することができる。 との 」記載や、同18頁26行〜19頁4行の「発明の医薬組成物、製剤、及び関連する方法は、様々な治療剤を対象者のCNSに送達し(例えば、髄腔内、脳室内、又は脳槽内)、関連する疾患の治療に有用である。本発明の医薬組成物は、リソソーム記憶障害を患っている被験者にタンパク質及び酵素を送達する(例えば、酵素置換療法)ために特に有用である。」との記載のように、甲15には、当該医薬組成物は、
髄腔内のほか、脳室内への直接投与により送達することができるものであることが記載されている。そして、投与されたリソソーム酵素は、甲15の図2に示されるように、脳深部組織の一つである尾状核(caudate nucleus)の神経細胞に分布する ことが示されている。甲15の図1に示されるように、ICV注射は脳室空間に直接注射するのに対し、IT注射は脊髄に注射する。例えば、甲3(特表第2009-525963号公報)の【0034】にも記載されるように、脳脊髄液(CSF)が脳室を満たし、脳と脊髄を取り囲んでおり、ICV投与とIT投与では、異なる注入部位を介して同じCSFに注入されることは、基礎出願2の出願時において周知の事項であったことも考慮すると、甲15の上記記載に接した当業者は、甲17に記載されている処方がIT投与とICV投与の両方に適用されると理解する。
(b) 甲15には、医薬組成物のタンパク質の濃度として、
「少なくとも50mg/ml、・・・、少なくとも30mg/ml、・・・、少なくとも10mg/ml少なくとも5mg/ml」という記載があり(甲15の23頁7〜14行)、医薬組成物のpH及びリン酸塩濃度が「低pH及び低リン酸塩濃度」であることが記載され(甲15の5頁1〜3行)、「約10mM未満、約20mM未満又は約30mM未満のリン酸塩」の実施態様の記載がある(甲15の5頁5〜8行)。
また、甲15には、CNS送達に適した製剤を実現するために必要な組成とpHの関係についても記載され、実施例3では、動物実験に基づいて、
「リン酸塩濃度が低く、pHが5.5〜7.0の製剤は、良好な忍容性を示した」と記載され、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.005%のポリソルベート20を含むpH7.0のビヒクルが特に溶解性及び安定性に優れ、このビヒクルによってタンパク質14mgを1.0mL中に含む製剤を調製して4回の髄腔内投与を行ったところ、臨床上有害な兆候は見られなかったことが記載され、図5に示すように、
「CNS-Tolerated Formulation」の処方設計空間が定義されたと結論付けるとともに、CNSへのタンパク医薬の送達のためには、医薬組成物が適切な溶解性、忍容性、安定性のバランスがとれたものとする必要であると記載している(甲15の27頁6行〜28頁3行、図5、図6)。
ICV注射とIT注射は、両方とも脳脊髄液に治療用酵素を直接注入する投与方法であり、基礎出願1及び2の明細書の5頁及び請求項41及び84には、治療用 酵素として、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)が記載され、請求項49及び54に疾患としてハンター症候群についても記載されていることから、基礎出願1及び2の明細書には、ハンター症候群のための治療用酵素のであるイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のICV注射とIT注射の両方を対象とする記載があると認められる。
(c) これらの基礎出願2の明細書の記載全体から、本件発明が、当該明細書に記載されているといえるから、本件出願は、基礎出願2に基づく優先権主張の利益を享受することができる。したがって、甲6は、本件出願に対する特許法29条先行技術文献とはならない。
c そこで、以下の無効理由5a、5bの判断において、甲6は除外して検討する。
イ 無効理由5a(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について (ア) 本件発明1について a 甲2に記載された発明 甲2の請求項38並びに【0001】及び【0038】の記載から、甲2には、
次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸-2-スルファターゼであり、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含むものであり、該組成物は、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、
グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」 b 対比 本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
(一致点) ハンター症候群を治療するための製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記製剤は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点) 本件発明1は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、
かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であることを特徴とするのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
c 判断 (a) 相違点に関する甲2の記載について 甲2発明の組成物は、適する医薬キャリアとして、リン酸塩を含む緩衝液であるリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用可能なものであるが、そのpHについて、甲2には記載されていない。また、甲7(「PARENTERAL FORMULATION FOR PEPTIDES,PROTEINS, AND MONOCLONAL ANTIBODIES DRUGS: A COMMERCIAL DEVELOPMENT OVERVIEW」Drug Delivery: Principles and Applications, John Wiley & Sons, Inc., pages321-339(2005年))には、医薬品製剤に用いる緩衝液は、米国薬局方に挙げられたものから選択されるべきであるとして、そのうちのいくつかの緩衝液が示されているが、甲7に記載されているリン酸緩衝液のpHは6.2〜8.2であるから、
技術常識を考慮しても、直ちに甲2発明の組成物をpH5.5〜7.0とすることに到達するとはいえない。
さらに、甲2の記載全体を検討しても、次のとおり、甲2発明の脳室内投与のた めの組成物を、補充酵素を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が5.5〜7.0のpHを有するとすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
甲2の請求項38の実施の態様として、実施例2(【0056】〜【0058】)には、ASMKOマウスへの組み換えヒトASM(rhASM)の連続的注入実験が記載され、凍結乾燥されたrhASMを人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させ、
0.250mgのhASMを4日連続で脳室内にカニューレで注入し、合計1mgのhASMを注入した結果、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を示したことが記載されている。
甲2の実施例2で用いられた人工脳脊髄液(aCSF)に関し、甲20(ElliottsB Solutionデータシート改訂10版(2015年))には、代表的な人工脳脊髄液であるエリオットB溶液が、10mL中にリン酸塩である二リン酸ナトリウム7水和物2mgを含み、リン酸の濃度が1.5mEq/Lであり、pH6.0〜7.5であることが記載されている。リン酸は3価の酸であるから、エリオットB溶液のリン酸塩の濃度は、0.5mMであり、50mMまでの範囲内にあると認められる。
これを考慮すると、甲2の実施例2の人工脳脊髄液(aCSF)が、代表的なエリオットB溶液とした場合に請求項38の具体的な実施の態様として、0.5mMのリン酸塩を含む組成物が想定されるということはできる。しかし、そのpHは、本件発明1のpH値とは一部重複するものの、pH7を超え7.5までの範囲も含むものであって、本件発明1におけるpH5.5〜7.0とは相違する。
甲2の実施例2にも、別の実施例である実施例3にも、溶液中のhASMの濃度や投与液量の記載がなく、甲2の記載は、脳室内投与される医薬組成物中の補充酵素の濃度について、
【0038】において広範な濃度範囲が例示的に記載されるにとどまるものである。
また、リソソーム酵素を始めとするタンパク質を含む医薬組成物の投与により免疫原性の問題が生じ得ることは、技術常識である(乙5(「Intrathecal enzyme replacement therapy reduces lysosomal storage in the brain and meninges ofthe canine model of MPS I」Molecular Genetics and Metabolism, Vol. 83, pages163-174(2004年)。乙24も同一文献である。)の172頁左欄8〜34行目及び173頁左欄6〜24行目)。タンパク質は高濃度では凝集する傾向があること、
及び、凝集タンパク質は免疫原性が高まることは、本件出願の優先日における技術常識であると認められる(乙7(「Challenges in the Development of High ProteinConcentration Formulations」JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, VOL.93, NO.6,pages 1390-1402(2004年6月)。乙25も同一文献である。)の1393頁右欄3〜29行目、乙8(「Aggregation of Therapeutic Proteins」John Wiley & Sons,Inc., Hoboken, New Jersey(2010年))の155頁22〜31行目、乙9( 「Useof excipients to control aggregation in peptide and protein formulations.」J. Excipients and Food Chem. 1(2), pages 40-49(2010年))の41頁右欄1〜26行目)そして、
。 本件明細書に記載の実施例1によれば、I2Sについては、
タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示され、タンパク質に結合して製剤原料中に残留するリン酸塩が生理食塩水製剤のpHの維持に寄与し、製剤を安定に保つという技術的意義を有するものであると認められるところ、甲2には、I2Sを含む脳室内投与のための医薬組成物について、免疫原性の問題を回避することのできる製剤に関する記載もない。
したがって、組成物中の酵素濃度を甲2に示される広範な濃度範囲のうち、5mg/ml〜100mg(判決注:「100mg/ml」の誤記と認める。)とすること、及び、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤とすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
(b) 相違点に関する他の証拠の記載について 次のとおり、甲3〜5、7〜10のいずれの記載によっても、甲2発明について、
イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100m g/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であるという相違点に係る構成を備えるものに変更することが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
甲3には、
「典型的な医薬組成物は100mMリン酸ナトリウム、150mMNaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される」 ([0021]、
)「本組成物は、例えば約10〜50mMの濃度でリン酸ナトリウムを含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってもよい。( 」[0022])との記載があるが、甲3には、具体的なpHの範囲については記載されておらず、医薬組成物中の補充酵素の濃度としては、本件発明1における5mg/mL〜100mg/mLよりもはるかに低濃度である0.58/mLが例示されるのみである。
甲4には、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mL(判決注:原文ママ)の組成を有する脳室内投与するための組成物が記載されているが、当該組成物は、I2S、リン酸塩を含むものではなく、甲2発明の組成物を5mg/ml〜100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、pH5.5〜7.0とすることについて、何ら示唆を与えるものではない。
甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオットB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され、脳脊髄液中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度を、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。そうすると、甲5の記載は、補充酵素の濃度を5mg/ml以上とすることに対する示唆を与えるものであるとはいえない。また、甲21(判決注: 「甲20」の誤記と認める。)によると、
エリオットB溶液は、pH6.0〜7.5であるから、甲5の記載は、本件発明1のpH範囲であるpH5.5〜7.0に保つことに対する示唆を与えるものでもな い。
甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、甲2発明の組成物のpHを本件発明1における5.5〜7.0とすることに対する示唆を与えるものでないことは、既に上記で検討したとおりである(甲7の324頁)。
甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の医薬品インタビューフォームである。当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデュルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、当該製剤は、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重当たりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされていることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml〜100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲3発明(判決注:「甲2発明」の誤記と認める。)を5mg/ml〜100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものではない。
甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)【000 、
7】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50〜300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載があるが、
これは皮下注射のためのもので、甲9には、脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されていない。したがって、甲9は、甲2発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。
甲10は、静脈注射や皮下注射に使われる生理食塩水「マイラン」の添付文書であり、補充酵素を含まない製剤に関するものであるから(甲10の1〜2頁)、甲2発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。
(c) 原告の主張について 原告は、甲2の実施例2には、マウス投与量として10mg/kgと記載されているところ、FDAガイドライン(甲23(「Guidance for Industry: Estimatingthe Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeuticsin Adult Healthy Volunteers」(2005年7月))によると、それはヒト投与量 )0.8mg/kgと換算でき、60kg成人の場合の投与量は48mgとなり、さらに、甲6には、ヒトへの脳室内投与における投与堆積(原文ママ)は3mL以下に制限されることが記載されているから、仮に甲2の実施例に記載のマウス投与量をヒト投与量に換算し、3mLで投与しようとすると、組成物の酵素濃度は16mg/mLとなるため、この点からも、甲2発明の組成物の酵素濃度を本件発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択し得た事項にすぎないと主張する。
原告の上記主張は、甲6の記載を根拠にヒトへの脳室内投与における投与体積は3mL以下に制限されることを前提とするが、前記アのとおり、甲6は、本件出願に対する特許法29条先行技術文献とはならないので、原告の主張は前提を欠いている。また、仮に、ヒトへの脳室内投与における投与体積は3mL以下に制限されることが、本件出願の優先日における技術常識であり、甲43(判決注:「甲23」の誤記と認める。 に記載の換算式によって、
) 甲2の実施例に記載のマウス投与量をヒト投与量に換算した補充酵素を3mLで投与する場合の酵素濃度が16mg/mLとなるとしても、前記(a)のとおり、本件発明1は、50mMまでのリン酸塩濃度とpH5.5〜7.0の製剤は、中枢神経を囲む脳脊髄液への投与において、良好な忍容性を示すという技術的意義を有するものであると認められるところ、前記(a)及び(b)のとおりであるから、甲3〜10の記載によっても、甲2発明の医薬組成物を、5mg/ml〜100mg/mlの補充酵素を含み、50mMまでのリン酸塩を含む脳室内投与のための医薬組成物のpHをpH5.5〜7.0とすることは、
当業者が容易になし得たとはいえない。
また、原告は、甲25(ウェブサイトClinicalTrails.govの臨床試験NCT00920647の情報(2009年6月15日掲載))に、10、30、又は100mgのイデュル スルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び6に記載された事項を参照して、甲2〜3のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを本件発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張するが、甲25には、補充酵素の濃度は明らかにされていないし、また、仮に、原告の主張するとおり、甲25の臨床試験で使用された製剤が高濃度の補充酵素を含む髄腔内投与のための製剤であるとしても、当該製剤が含む添加剤や、製剤のpHは不明である。甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオットB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載されており、甲20によると、エリオット社のB溶液は、pH6.0〜7.5であるから、甲5の記載は、本件発明1のpH範囲であるpH5.5〜7.0に保つことに対する示唆を与えるものでもない。また、甲6は、前記アのとおり、本件特許の先行技術文献とはならないものである。
そして、本件明細書に記載の実施例1によると、I2Sについては、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示され、タンパク質に結合して製剤原料中に残留するリン酸塩が生理食塩水製剤のpHの維持に寄与し、製剤を安定に保つという技術的意義を有するものであると認められるところ、甲2発明のI2Sを含む脳室内投与のための医薬組成物について、タンパク質を高濃度に含み安定化された製剤を免疫原性の問題を回避することのできる製剤に関する記載もない。
(d) 小括 以上のとおり、甲2、3〜5、7〜10のいずれも、甲2発明の組成物として、
本件発明1に規定される、pH5.5〜7.0であり、酵素濃度5mg/ml〜100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2又は甲2及び3〜5、7〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明6について a 本件発明6と甲2発明を対比する。
(一致点) イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む、脳室内投与のための製剤。
(相違点) 本件発明6は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、
かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有することを特徴とする安定製剤であるのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
b 本件発明6と甲2発明との相違点は、前記(ア)bの本件発明1と甲2発明の相違点と同じものであり、前記(ア)cのとおり、当該相違点に関し、甲2、3〜5、
7〜10のいずれも、甲2発明の組成物として、本件発明1に規定される、pH5.5〜7.0であり、酵素濃度5mg/ml〜100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、本件発明6は、甲2、又は甲2及び甲3〜5、7〜10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(ウ) 本件発明2〜5及び7〜12について 本件発明2〜5及び7〜12は、本件発明1又は6を更に限定した発明であるから、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件発明1及び6が甲2又は甲2及び3〜5、7〜 10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件発明2〜5及び7〜12が甲2又は甲2及び3〜5、7〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
ウ 無効理由5b(甲3を主引用例とする進歩性欠如)について (ア) 本件発明1について a 甲3に記載された発明 甲3の実施例2の記載から、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「MPS Iのラットモデルに酵素を脳室内投与するための組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)を含む組成物。」 b 対比 本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
(一致点) ハンター症候群を治療するための製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記製剤は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点) 本件発明1は、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるのに対し、甲3発明は、
50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるとは特定されていない点。
c 判断 (a) 相違点に関する甲3の記載について 甲3には、
「典型的な医薬組成物は100mMリン酸ナトリウム、150mMNaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58/mLのイ ズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される」 ([0021]、
)「本組成物は、例えば約10〜50mMの濃度でリン酸ナトリウムを含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってもよい。( 」[0022])との記載がある。
このように、甲3には、補充酵素を含む医薬組成物がリン酸塩を含む緩衝液である実施態様に関する記載があるが、具体的なpHの範囲については記載されておらず、実施例で用いた組成物についても、緩衝液の成分やpHは記載されていない。
また、甲3には、医薬組成物中の補充酵素の濃度としては、0.58/mLが例示されるのみである。
そして、甲3と同時期の2004年に発行された論文である乙5には、酵素の髄腔内投与は、タンパク質が抗体形成や炎症反応といった免疫応答のリスクを有することが記載されている(乙5(乙24)の172頁左欄8〜34行目)。また、タンパク質は高濃度では凝集する傾向があり、凝集タンパク質は免疫原性が高まることは、本件出願の優先日における技術常識であると認められる(乙7(乙25)の1393頁右欄3〜29行目、乙8の155頁22〜31行目、乙9の41頁右欄1〜26行目)。
甲3においても、
「組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、
タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。」と記載され([0088]、補充酵素による )免疫応答の問題を回避すべきことが記載されている。
このような技術常識と甲3の記載を踏まえると、脳室内投与に用いる医薬組成物 の補充酵素の濃度を高濃度とすることを示唆する記載もない甲3において、[0021]に例示された0.58/mLから、あえて免疫応答の危険が増す高濃度に変更することを当業者が考えるとはいえない。
したがって、甲3発明を、5mg/ml〜100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有するものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(b) 相違点に関する他の証拠の記載について 次のとおり、甲2、4、5、7〜10のいずれの記載によっても、甲3発明について、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であるという相違点に係る構成を備えるものとすることが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
甲2の記載から、脳室内投与のための医薬組成物について、補充酵素を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有するものとすることを当業者が容易に想到し得たということはできないことは、前記イ(ア)c(a)のとおりである。
甲4には、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、及びTween80 100mg/mL(判決注:原文ママ)の組成を有する脳室内投与するための組成物が記載されているが、当業者は、甲4に記載された発明の50mMクエン酸ナトリウムを、
50mMまでのリン酸塩に置き換えられるとは考えないから、甲4の記載によって、
甲3発明の組成物を5mg/ml〜100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有するものとすることが容易想到であるとはいえない。
甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオットB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され、脳脊髄液 中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度を、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。また、甲21(判決注:「甲20」の誤記と認める。)によると、エリオットB溶液はpH6.0〜7.5であり、本件発明1における医薬組成物のpH5.5〜7.0とはpHの範囲が異なる。そうすると、甲5の記載は、甲3発明の組成物を、5mg/ml〜100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、
5.5〜7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものであるとはいえない。
甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、一般的な緩衝液が記載されているだけであり(甲7の325頁) 甲3発明の組成物を5mg/ml〜100mg 、
/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、
5.5〜7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものでない。
甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の医薬品インタビューフォームである。当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデュルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、当該製剤は、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重当たりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされていることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml〜100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲3発明を5mg/ml〜100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものではない。
甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)【000 、
7】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50〜300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載がある。しかし、甲9に記載されている医薬組成物は皮下注射のためのものである。甲9には、
脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されておらず、皮下注射では、
皮下組織に薬剤が直接注射されるのに対し、脳室内注射では、緩衝能が低い脳脊髄液中に薬物が注入されるという相違があり、甲9の医薬組成物の濃度を甲3発明の脳室内投与のための医薬組成物にただちに適用できるとはいえない。
甲10は、静脈注射や皮下注射に使われる生理食塩水「マイラン」の添付文書であり、補充酵素を含まない製剤に関するものであるから(甲10の1〜2頁)、甲3発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。
(c) 原告の主張について 前記イ(ア)c(c)のとおり、原告は、甲25に、10、30、又は100mgのイデュルスルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、
高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び6に記載された事項を参照して、
甲2〜3のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを本件発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張するが、甲25の内容を参酌しても、原告が主張するように、
甲3に記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを本件発明1の範囲に調整することが、容易想到であったということはできない。
(d) 小括 以上のとおり、甲3、2、4、5、7〜10のいずれも、甲3発明の組成物として、本件発明1に規定される、pH5.5〜7.0であり、酵素濃度5mg/ml〜100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲3及び甲2、4、5、7〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(イ) 本件発明6について a 本件発明6と、前記(ア)aの甲3発明を対比する。
(一致点) イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点) 本件発明6は、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるのに対し、甲3発明は、
50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるとは特定されていない点。
b 本件発明6と甲3発明との相違点は、前記(ア)aの本件発明1と甲3発明の相違点と同じものであり、前記(ア)cのとおり、当該相違点に関し、甲2、4、5、
7〜10のいずれも、甲2発明の組成物として、本件発明1に規定される、pH5.5〜7.0であり、酵素濃度5mg/ml〜100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、本件発明6は、甲3及び甲2、4、5、7〜10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(ウ) 本件発明2〜5及び7〜12について 本件発明2〜5及び7〜12は、本件発明1又は6を更に限定した発明であるから、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件発明1及び6が甲3及び甲2、4、5、7〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件発明2〜5及び7〜12が甲3及び2、4、5、7〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り) (1) 優先権の利益を享受できないこと ア(ア) 優先権の利益を享受できるか否かに関し、まず、後の出願におけるクレームが、文言としては先の出願に記載されているものの、先の出願では産業上の利用可能性の要件又は記載要件に瑕疵があり、後の出願において発明の詳細な説明を補充すること(実施例を補充すること等)によりその瑕疵が治癒される場合について、
優先権の利益を認めるとすれば、出願人に対し、先の出願では本来享受できなかった利益まで与えることになって不合理である。この場合、第一国出願(先の出願)に、優先権主張を伴う第二国出願(後の出願)に係る発明と実質的に同一の発明が記載されていたとはいえない。
(イ) また、後の出願におけるクレームが、文言としては先の出願に記載されているものの、発明の詳細な説明を補充することにより発明の要旨に影響が及ぶ場合には、先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項が後の出願に記載されているか否かという観点から、すなわち、新規事項の追加の判断と同様の観点から、優先権の利益を享受できるか否かが判断されるべきところ、発明の詳細な説明を補充することにより、クレームの用語の解釈には影響が生じないとしても、その用語の技術的意義に新たな技術的事項が導入される場合(実施例の追加によりクレームについて新たな効果が追加される場合等)には、優先権の利益は否定されるべきである。通常の出願では、審査の過程において、出願後の証拠の補充及び新たな効果の立証には一定の制約が課されているにもかかわらず、優先権主張を伴う第二国出願(後の出願)では、第一国出願(先の出願)の明細書に対し無制限に記載の補充を認めるとするならば、優先権主張を伴う出願人に対し過剰な保護を与えることになる。
イ(ア) 基礎出願1及び2に係る甲16及び17の実施例をみると、まず、実施例1は、pH及びイオン強度(具体的にはNaCl濃度)が酵素の溶解性に及ぼす影響に関するもので、図3に示されたその結果は、酵素の溶解度に関するものにすぎず、生物への投与による効果及び忍容性とは無関係である。しかも、高濃度の酵素の溶液において、安定性は何ら検証されていない。まして、安定性を実現するため の手段も記載されていない。さらに、酵素は特定されていない。いずれの酵素でも同じ結果が生じるのか、明らかではない。
(イ) 次に、実施例2ではIT投与が使用されたところ、pHは本件発明の範囲外にあるから、実施例2は本件発明の実施例ではない。しかも、用量応答(doseresponse)がなかったとの記載は、実施例2が失敗であり、実質的には実施例ではないことを示している。
(ウ) そして、実施例3は、主にビヒクル(補充酵素は含まれていない。)のIT投与による忍容性に関するもので、また、
「最初のビヒクル」のpHの値は、本件発明のクレームの範囲外であって、本件発明には適用できない。そして、忍容性のあるビヒクルの中から選択されたビヒクルに酵素が溶解されてIT投与されているが、
酵素の具体名は特定されていない。しかも、有害な臨床兆候がなかったことが確認されたにすぎず、治療効果は検証されていない。
ウ(ア) このように、甲16及び17には、ビヒクルのIT投与での忍容性の結果は含まれているものの、治療効果及び脳組織への酵素の浸透については何ら記載がない。また、ICV投与の結果は記載されておらず、ましてや補充酵素であるI2SのICV投与の実験結果は含まれていない。ICV投与について、具体的な記載は皆無であり、中枢系神経系への投与方法の例として一般的な記載があるにすぎない。I2Sに関する具体的な記載もない。しかるに、本件明細書により、IT投与とは異なる技術的意義を有するI2SのICV投与に係る事項を持ち込むことは、
新規事項の追加に当たるといえ、本件発明と実質的に同一と認められる発明が甲16及び17に記載されているとはいえず、本件出願は、基礎出願1及び2について優先権の利益を享受することはできない。
(イ) また、甲16及び17では、ICVに関するものでもI2Sに関するものでもない実施例1〜3の3つが記載され、発明の詳細な説明の部分は相対的に短く、
実験データは図2〜5の僅か4つであったにもかかわらず、日本での出願に当たり、
大量の記載(多数の実施例が含まれる。)が追加され、実施例が29個となり、発明 の詳細な説明は長くなり、図の数は192を超えるようになったもので、その結果、
明細書を踏まえた発明の技術的意義が変質し、同一性が失われたものである。
甲16及び17の記載の下では、当業者はI2SのICV投与による本件発明を過度の試行錯誤なしに実施することはできないのであって、本件出願は、基礎出願1及び2に係る優先権の利益を享受することはできない。
(ウ) それにもかかわらず、本件出願が優先権の利益を享受できると判断して甲6を進歩性の判断から排除した本件審決には、誤りがある。
(2) 甲6を考慮しなかったことが取消事由に当たること 審決取消訴訟の審理範囲は、審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するものに限られるところ、進歩性欠如の無効理由における審理範囲は、主引用発明及び副引用発明の組合せによって画されるべきである。
審判手続において審理対象から排斥された副引用発明を審決取消訴訟において考慮することは、審判手続において審理判断されていない無効理由を判断するものであり、審決取消訴訟における審理範囲を超えるものというべきである。それが許されるとしたら、当事者から、訴訟の前段階において専門行政庁による慎重な審理判断を受ける利益(前審経由の利益)が奪われることにもなる。
したがって、原告が、甲2〜3を主引用例とする無効理由のいずれにおいても甲6を副引用例として主張していたにもかかわらず、甲6を副引用例とする場合について何ら判断を示さなかった本件審決は、前記(1)の誤りにより、直ちに取り消されるべきである。
2 取消事由2(実施可能要件違反) (1) 本件発明は、次のとおり、安定性を欠く態様に及ぶもので、当業者は、クレームの全範囲にわたって、本件発明の「安定製剤」を製造し使用することができない。
ア 本件明細書には、
「エリオットB溶液は、極度に低い緩衝剤濃度を含有し、したがって、特に長期間に亘って(例えば、貯蔵状態の間)、治療薬(例えばタンパク 質)を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ない。 との記載が 」ある(【0091】)にもかかわらず、本件発明のリン酸塩濃度及びpHは、エリオットB溶液の条件を含んでいる。したがって、本件発明は、不安定な製剤にも及ぶ。
イ 本件明細書では、各種のタンパク質濃度において、生理食塩水製剤及びリン酸塩含有製剤について、凍結融解試験、浸透試験及び熱安定性試験が行われた(実施例4(【0246】〜【0272】。特に【0258】〜【0269】 )ところ、
)その結果は、次のとおり、リン酸塩の共存によって、酵素がむしろ不安定化することを示している。本件明細書の実施例によっても、本件発明は、凝集の生じやすい態様に及んでおり、したがって、本件発明は、不安定な製剤にも及ぶ。この点、本件明細書の【0057】 「安定性な」 の の意義を踏まえるとしても、
「安定」製剤は、
長期間にわたって、少なくとも「意図された生物学的活性及び/又は物理学的完全性の全て又は大部分」を保持する必要があるが、本件明細書の実施例は、それを保持できないことを示している。
(ア) 凍結融解試験 100mg/mLのタンパク質濃度では、生理食塩水含有製剤及びリン酸塩含有製剤のいずれについても、凍結融解の後、凝集体の増加は観測されなかった(【0258】の表11)が、2mg/mLのタンパク質濃度では、リン酸塩製剤では、凍結融解の後、凝集体の濃度が増加したもので(【0258】の表10)、本件明細書にも、上記の結果に関し、生理食塩水製剤は、リン酸塩含有製剤と比較して、より高い安定性を有すると記載されている(【0258】。
) したがって、本件発明1のI2S濃度範囲(5mg/mL-100mg/mL)及び本件発明6のI2S濃度範囲(10mg/mL-100mg/mL)のうち、
低濃度の領域(少なくとも下限(5mg/mL)付近)では、凝集体が生じるか否かが明らかでない。リン酸塩の共存により、凝集体の生成が促進されるおそれがある。このように、本件発明の全範囲にわたり(とりわけ、I2S濃度範囲全体にわたり)、凍結融解試験での安定性が実証されたとはいえない。
(イ) 振盪試験 振盪試験では、生理食塩水製剤及びリン酸塩含有製剤のいずれについても、ポリソルベート20が存在しない場合には、凝集体が生成した(【0259】;表12〜表14)ところ、本件発明1、3〜5及び7〜12は、界面活性剤を含有しない態様に及ぶものである。したがって、本件発明1、3〜5及び7〜12は、安定性の確保されていない態様に及ぶ。
(ウ) 熱安定性 a 本件明細書において、熱安定性の試験は、-65℃以下(凍結条件) 2-8℃ 、
(リアルタイム保存)、25℃(加速試験)及び40℃(負荷試験)の4つの温度条件で行われたところ、まず、OD320の測定(混濁度;凝集物の生成により製剤の混濁度が上昇する。)の結果について、リン酸塩含有製剤では、生理食塩水製剤と比較して、OD320値が増加した(【0264】、表17)。この結果は、凝集物が生成したことを示す。とりわけ25℃では、リン酸塩含有製剤は、OD320値の著しい増加を示した。この結果に関し、本件明細書には「これらの結果は、生理食塩水製剤が、熱ストレスに対してより安定であることを示唆している。 などといっ 」た記載がある(【0264】。
) b また、SEC-HPLC(分子サイズの違いを測定対象とする。)による試験では、リン酸塩含有製剤では、25℃の加速条件及び2―8℃のリアルタイム保存条件にて、12分ピークと呼ばれるピークが現れた(【0269】の表18。この名称は、溶出時間が12分であることに由来する。。12分ピークは、高分子種に帰 )属され(表18の脚注)、不純物の生成を意味する。
c 以上のとおり、本件明細書において、本件発明の安定性は実証されておらず、
本件発明は、むしろ、安定性を欠く態様に及ぶ。
ウ 「安定製剤」には、安全性と忍容性が要求される。甲15の図5を参照すると、
ビヒクルの安全性及び忍容性は、リン酸塩濃度及びpHに強く依存している。同図は、限られた領域でのみ、副作用がないことが確認されたことを示す。
しかるに、請求項1の範囲は、安全性及び忍容性が確認されなかった領域を含む。
仮に、リン酸塩濃度範囲及びpH範囲による特定のみでは、5-100mg/mLのI2Sを安定化できない場合があるとしたら、いずれの製剤が「安定」であるのかを網羅的に調査するために、当業者において、過度の試行錯誤をしなければ、十分な安全性と忍容性を有する「安定製剤」を調製することができない。
エ 本件特許の特許請求の範囲には、リン酸塩の上限は規定されているが、下限は規定されていない。本件審決の認定によると、リン酸塩は、製剤中に含まれていなければならず、その濃度範囲は極めて低く僅かな量をも含むこととなるが、そのような極低濃度のリン酸塩の下で「安定製剤」が得られるかどうかは明らかではない。
オ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合しない。本件発明2〜12も、いずれも安定製剤に関するから、本件発明1と同様、
発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合しない。
(2) 被告の主張について ア 実施可能要件に関しては、当業者が、特許請求の範囲の全体にわたって、過度の試行錯誤なしに物を製造し使用できなければならず、特許請求の範囲の一部の態様についてであっても、過度な実験や試行錯誤を要する場合には、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合しないところ、被告は、一部の実施態様についてのみ、当業者が物を製造し使用できると主張しているにすぎず、被告の主張は失当である。
イ 本件発明が不安定な製剤にまで及ぶことについて (ア) 凍結融解試験について、被告は、実施例4での100mg/mLの結果を挙げるが、特許請求の範囲のタンパク質濃度のうち上限値の試験のみで、広い濃度範囲の安定性が裏付けられるものではない。しかも、特許請求の範囲の上限値と下限値とでは、95mg/mLもの差がある。したがって、100mg/mLの結果は、
低濃度(例えば、5mg/mL)での安定性の根拠とはなり得ない。5mg/mL の場合については、むしろ、凝集体が生じた2mg/mlの場合の実験結果を参考にすべきである。
(イ) 振盪試験について、被告は、凍結乾燥製剤では凝集体は生じない、液体製剤では界面活性剤を添加すればよいと主張するが、特許請求の範囲の「安定製剤」は、
凍結乾燥製剤に限定されておらず、界面活性剤は必須の成分ではない。
すなわち、請求項1では、製剤の形状について何らの限定もされておらず、本件発明1の製剤は、液体製剤にも及ぶ。このことは、請求項12からも裏付けられている。同様に、請求項1は、界面活性剤を含有しない液体製剤にも及ぶ。
また、被告は、界面活性剤フリーのリン酸塩含有製剤の実験において、タンパク質濃度を増やすとSEC(単量体%)が増加したと主張するが、8mg/mLのSEC(単量体%)から5mg/mLのSEC(単量体%)を予測することはできない。しかも、本件明細書の表13には、8mg/mLのタンパク質濃度でも「タンパク質様粒子が観察された」ことが明記されている。被告の主張のとおり、タンパク質が高濃度になるほど凝集体の量が低減するのであれば、5mg/mLでも、当然、凝集体が生成するから、この点でも、被告の主張は誤っている。
(ウ)a 熱安定性について、被告は、凍結保存条件(―65℃)ではリン酸含有製剤にて凝集物が見られなかったと主張するが、凍結保存条件の結果のみに基づいて、
発明の詳細な説明実施可能要件に適合することを立証できるわけではない。しかも、凍結保存条件ですら、5mMのリン酸塩を含有する製剤では、24月後にはSEC-HPLCでの「12分ピーク」が出現した(100mg/mLのタンパク質、
150mMのNaCl、5mMのNaPO4の製剤)から、この点でも、被告の主張は誤っている。
b また、被告は、本件明細書の図8及び表18(【269】)を引用し、40℃のストレス条件下において安定性は失われていないと主張するが、当該試験でも、
少なくとも2週間経過時点において、凝集体が確認されている。実際の保存中にも、
一定期間において凝集体が生成し、その製剤が凝集体を含有する状態でヒトに投与 されることが予想される。したがって、12分ピークが消失したことは、被告の主張の根拠となるものではない。上記の試験がいずれのタンパク質について行われたのかについても、本件明細書には記載が見当たらない。
さらに、40℃のストレス条件での結果(SEC(単量体%)の値)は、タンパク質に不可逆的な変化が生じたこと、製剤が不安定であることを示している。
すなわち、40℃のストレス条件において、SEC-HPLCでのベースラインと2週経過後とを比較すると、2週経過後の単量体の量は、ベースラインと比較して減少した。1月経過後の単量体%は、2週間経過後の値とほぼ一致し、ベースラインには回復しなかった。この結果は、
「12分ピーク」が消滅しても、その凝集体が単量体には戻らなかったこと、すなわち、単量体には不可逆な変化が生じたことを示している。
タンパク質における部分的な変性は、凝集体の生成に寄与するところ、凝集体が見かけ上は消失したとしても、各タンパク質(単量体)の変性は保持されているおそれがある。
(エ) 被告は、生理食塩水製剤(リン酸塩を含有しない。)は、リン酸塩含有製剤と比較してより安定であるものの、リン酸塩含有製剤が不安定というわけではないと主張するが、本件明細書でも、リン酸含有製剤は、生理食塩水製剤と比較して、否定的に評価されている(【0269】、表18の脚注)から、被告の主張は失当である。
ウ 極低濃度のリン酸塩の下で安定製剤が得られるか明らかでないことについて (ア) 被告は、本件明細書の実施例4の凍結融解試験において、100mg/mLのタンパク質濃度では、生理食塩水単独製剤及びリン酸塩含有製剤(20mM)の両方について、可溶性凝集体が観測されなかったと主張する。
しかし、タンパク質濃度が低いリン酸塩含有製剤は、タンパク質濃度の高いリン酸塩含有製剤よりも不安定であった(【0241】 【0258】 、 、表10、表11)。
被告は、I2Sの濃度範囲のうち、上限のみを議論し、それ以外の領域について何 ら説明しておらず、被告の主張は失当である。
また、振盪試験では、高いタンパク質濃度(100mg/mL)であっても、界面活性剤フリーかつリン酸塩フリーの生理食塩水製剤にて、「大きなタンパク質様粒子が観測された」 (表14)もので、リン酸塩濃度が低い製剤では、高いタンパク質濃度であっても、凝集体が生成することが示唆されている。後記(イ)のとおり、被告の主張によると、タンパク質濃度が低いほど凝集体が生成しやすいはずであり、
表14の振盪試験について、タンパク質濃度を下げると、更に多量の凝集体が生成するはずである。
(イ) 被告は、本件明細書の実施例4の凍結融解試験(表10及び表11)及び振盪試験(表12及び表13)によると、タンパク質濃度が高濃度になるほど、可溶性凝集体の生成が抑制されると主張するが、実施例4において、本件発明1のI2S濃度範囲のうち低濃度の領域については、実験は行われておらず、低濃度の領域について、凝集体生成の抑制は裏付けられていない。しかも、生理食塩水製剤の振盪試験では、100mg/mLのタンパク質濃度があっても、
「タンパク質様粒子が観察された」のであり、高いタンパク質濃度であっても凝集体の生成を防ぐことはできない。
エ 安全性及び忍容性が確認されなかった領域を含むことについて 被告は、当業者であれば、甲15及び本件明細書の記載に基づき、十分な安全性と忍容性を有するリン酸塩濃度とpHの範囲に含まれる「安定製剤」を過度な試行錯誤をすることなく調製できると主張するが、甲15は、優先権書類であって、本件明細書ではない。実施可能要件は、明細書の記載に基づいて判断されるべきであり、甲15は、実施可能要件の判断に用いることはできない。
また、被告の主張は、請求項1のリン酸塩濃度及びpH濃度の組合せでは「安定」ではない製剤が生じることを認めたに等しい。当業者は、個別の態様について実験を行って、安定な製剤を選別する必要があり、
「安定製剤」との用語は、達成すべき機能又は目的を表しており、本件発明1は、広すぎる機能的クレームに当たる。
3 取消事由3(サポート要件違反) (1) 高い酵素濃度での凝集の抑制 ア 本件審決は、本件発明の課題を、
「グリコサミノグリカンの蓄積によりCNS障害を生じるリソソーム蓄積障害に対して、血液脳関門及び脳表面でのバリアの存在などの障害物を克服し、脳に治療薬を有効に送達させること」であると認定したが、本件明細書の【0010】の記載からすると、本件発明の課題としては、
「リソソーム病のための補充酵素が高濃度での治療を要する対象の脳脊髄液(CSF)中に導入すること」も含まれる。
本件審決が、進歩性の判断において、高濃度のタンパク質は凝集しやすく免疫原性が高まることを認定し、副引用例には「高濃度のタンパク質を含む脳室内投与のための医薬組成物について、免疫原性の問題を回避し得るような組成に関する記載もない」と判断したことに照らしても、本件発明の課題は、
(免疫原性の問題を回避して)高濃度の酵素濃度を実現することをも含むはずである。
イ 本件明細書の【0091】によると、エリオットB溶液をビヒクルとして使用する場合、タンパク質を長期間にわたって安定に保持できない【0105】 ( 参照)が、本件発明は、エリオットB溶液にタンパク質を溶解させた組成物にまで及んでおり、課題を解決できない領域にまで及んでいる。
ウ 前記2(1)イのとおり、本件明細書の実施例によると、本件発明は、凝集の生じやすい態様にまで及ぶ。例えば、5-20mMのリン酸塩が添加された製剤では、
生理食塩水製剤と比較して、むしろ凝集が生じやすい。この点でも、本件発明は、
課題の解決されていない範囲に及ぶ。
エ さらに、甲15によると、酵素濃度は、リン酸濃度及びイオン強度に依存するため(図4)、高い酵素濃度を得るためには、高いリン酸濃度及び高いイオン強度が必要である(ただし、高い酵素濃度の製剤が調整できたとしても、当該製剤が長期間の保存中に不安定である場合もある。)が、本件発明では、イオン強度がそもそも構成要件となっておらず、本件発明のリン酸塩濃度は、濃度が極めて薄い態様(例 えば0〜5mM)にも及ぶ。したがって、仮にリン酸塩濃度及びイオン強度が特定の範囲にあることが課題解決手段であったとしても、本件発明は、課題解決手段を反映していない。
オ したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載には、高濃度の補充酵素を実現するための手段が反映されておらず、サポート要件に適合しない。
(2) 「安定」製剤 本件発明1は、
「安定製剤」に関する発明であるが、安定製剤を提供することが課題であるとすると、本件発明1の「安定製剤」とのクレームの記載は、達成すべき課題ないし目的をそのまま記載したものにすぎない。
「安定製剤」が、投与経路、酵素濃度、リン酸塩及びpHで特定された製剤のうち、
「安定」な製剤のみを指すとしたら、
「安定製剤」との構成要件は、達成すべき課題ないし目的によって発明を特定している。
したがって、「安定製剤」の記載は、過度の上位概念化に当たる。
(3) 安全性及び忍容性 「安定製剤」には、安全性と忍容性が要求される。安定製剤の提供が課題であるとすれば、安定性と忍容性を備えた安定製剤の提供が不可欠である。
しかし、請求項1の範囲は、安全性及び忍容性が確認されていない領域を含む。
つまり、甲15の図5を参照すると、ビヒクルの安全性及び忍容性は、リン酸塩濃度及びpHに強く依存する。同図は、限られた領域でのみ、副作用のないことが確認されたことを示すにとどまる。それ以外の領域では、安全性及び忍容性は、何ら検証されていない。
したがって、当業者は、本件発明1の課題がクレームの全範囲にわたって解決できるとは認識できず、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しない。
(4) 被告の主張について ア(ア) 被告は、リン酸塩濃度が極めて薄い実施態様(例えば、リン酸塩濃度0mM〜5mM)は、実施例2及び5に裏付けられていると主張する。
しかし、実施例2及び5は、安定性とは異なる目的で実施された実験であり、実験条件及び評価項目に照らし、本件発明の課題の解決(高い酵素濃度での凝集の抑制及び「安定製剤」の実現(安全性及び忍容性の実現が含まれる。)を裏付けるも )のとはなりえない。
(イ) 実施例2及び5に関し、製剤の投与前の保存条件について何ら記載は見当たらず、凝集体が生じたか否かも評価されていないから、それらの実施例によって、
安定性を評価することはできない。
しかも、タンパク質製剤では、微量の凝集物が生成する場合であっても、投与を繰り返す過程で抗薬物抗体が生じ、治療効果が低下するのであり、凝集体のもたらす悪影響は、急性の症状のみではない。有効成分のタンパク質の大半が正常な単量体の状態にあり、凝集体を形成していない場合であっても、少量の凝集体により、
免疫原性の問題が生じるところ(甲70、71、74、75参照)、その場合、正常な状態にあるタンパク質は、脳組織に浸透し、治療効果を発揮するから、脳組織の浸透に基づいて免疫原性を議論することはできない。また、免疫原性は、凝集体の含有する製剤を繰り返し投与することにより、有効成分を抗原とする抗薬物抗体(ADA)が生じ、それによって有効成分の働きが損なわれることによって生じる(甲71〜73)。
したがって、実施例2及び5では、凝集体による抗薬物抗体の生成を評価することはできない。
そして、本件明細書には、タンパク質の凝集を防ぐ手段及び凝集体を除去する手段は何ら記載されておらず、まして、特許請求の範囲には、そうした手段は反映されていない。
イ 本件明細書の表4において、NaClが、高いタンパク質濃度を実現する役割に加え、等張化剤としての役割も果たしているとしても、高いタンパク質濃度を実現する役割が消えるわけではない。酵素の高濃度を実現する手段として、クレームにイオン強度(又は、具体的手段としてのNaCl濃度)が反映されるべきであ る。
ウ 被告は、エリオットB溶液自体のpHとエリオットB溶液で希釈後の薬学的組成物のpHが同じになるとは限らないなどと主張する。
しかし、エリオットB溶液は、緩衝液として販売されている(甲20参照)ところ、そもそも緩衝液とは、酸又は塩基の添加又は除去にかかわらず、ほぼ一定のpHを保つ作用(緩衝作用)を有する溶液をいうから(甲77)、エリオットB溶液に溶質を添加しても、そのpHは、概ね6.0-7.5の範囲内に保たれる(甲6の図3、乙34(「Evaluation of some pharmaceutical aspects of intrathecalmethotrexate sodium, cytarabine and hydrocortisone sodium succinate」 Am JHosp Pharm 35: 402-406(1978年)) )。
この点、被告は、乙32では、エリオットB溶液自体のpHの実測値が「7.0-7.4」と明記されていると主張するが、乙32は、個別具体的な実験でのpHの測定値が6.0-7.5の範囲内にあることを示すものにすぎない。エリオットB溶液の各ロットのpHには、製造バッチごとに小さな変動があるが、そのpHは、
6.0-7.5の範囲内にある。そして、乙32において、メトトレキサートを希釈した後のpHが「7.2-7.3」(これも6.0-7.5の範囲内である。)と記載されていることは、エリオットB溶液が緩衝液として作用し、溶質添加後もpHに大きな変化がないことを示している(このことは、エリオットB溶液によるシタラビンの希釈においても同様である(甲78、乙32)) 。。これに対し、ラクトリンゲル液及び塩化ナトリウム水溶液は、緩衝液とはいえないため、pHに関して、
それらに基づいて議論することは適切でない。
4 取消事由4(明確性要件違反) 本件発明1では、リン酸塩の下限値は特定されていない。
しかし、前記2及び3のように、どのようなリン酸濃度にて本件発明の「安定」製剤が実現するのか(例えば、ごくわずかなリン酸塩濃度でも「安定」製剤が実現するのか)、リン酸塩の存在形態によらずに(例えば、タンパク質に結合していない リン酸塩によっても)本件発明の「安定」製剤が実現するのか、製造及び精製方法によることなく(例えば、本件明細書の【0273】以外の製造及び精製方法でも)、
本件発明の「安定」製剤が実現するのかは、明確でない。リン酸塩が必須の構成としてクレームに明記されている以上、その濃度は、何らかの技術的な意義又は効果が奏される程度に達している必要があり、不純物レベルでは足りないが、その下限は、本件明細書を参照しても、理解できない。
したがって、本件発明1について、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり、明確性要件に適合しない。
同様の理由により、本件発明2〜12も、明確性要件に適合しない。
5 取消事由5(甲2発明を基礎とする進歩性の判断の誤り) 本件審決が認定した甲2発明との相違点に係る本件発明1の構成は、甲6発明(製剤)若しくは甲6発明(ビヒクル)を適用することや、甲2中の示唆及びエリオットB溶液のリン酸塩濃度及びpHの範囲に係る技術常識を適用すること又は甲5に記載された技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであった。
容易想到性について、具体的には、次のとおりである。
(1) 甲6に記載された発明の適用 ア 甲6に記載された発明 (ア) 甲6の19頁には、製剤に係る次の発明(以下「甲6発明(製剤)」という。)が記載されている。
「14mg/mLのリソソーム酵素、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム及び0.05%のポリソルベート80を含有し、pHは7.0である、IT投与されるリソソーム酵素含有製剤」 (イ) 甲6の19頁の図9には、ビヒクルに係る次の発明(以下「甲6発明(ビヒクル)」という。)が記載されている。
「5〜20mMのリン酸ナトリウムを含有し、 さらに塩化ナトリウム及びポリソルベート20を含有し、 pHが5.5〜7.0である、CNS送達用のビヒクル」 イ 相違点の容易想到性 (ア) リソソーム酵素の特定について 甲2には、I2S及びその欠損によって生じるハンター症候群(MPS II)に関し、【0002】(表1)及び【0050】に記載されており、【0037】には、
治療(リソソーム酵素のICV投与)の対象として、表1に記載された疾患(MPS IIを含む。)が記載されている。
このような甲2中の示唆に従って、当業者は、リソソーム酵素をI2Sに容易に特定することができた。
(イ) 甲6発明(製剤)の適用 次の点からすると、当業者は、甲2発明に甲6発明(製剤)を適用するよう強く動機付けられるのであり、甲2発明に甲6発明(製剤)を適用して相違点の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。なお、甲6発明(製剤)の補充酵素濃度、リン酸塩濃度及びpHは、本件発明1の構成の範囲内にあるから、
甲2の示唆に従ってリソソーム酵素をI2Sに特定し、甲2発明に甲6発明(製剤)を適用すれば、本件発明1との相違点は解消する。
a(a) CSFへの投与においては、患者への負担を軽減できることから、製剤の量を少なくすること、つまり補充酵素の濃度を高めることが望ましい(甲6によると、CSFへの投与量は3mLが上限である。。静脈投与と比較すると、血液が体 )重の約8%を占めているのに対し、CSFの量は、60〜150mL(甲55)、すなわち血液の約1.5〜3.8%にすぎず、CSFへの投与では、製剤全体の量には制約があるから、補充酵素の濃度を高めることは当業者が当然に採用する事項である(以下「高濃度化の技術常識」ということがある。 。従前も、補充酵素の濃度 )が本件発明1の範囲にある組成物は公知であったもので(例えば甲5) 補充酵素の 、
濃度を高めて本件発明1の範囲とすること自体は、何ら困難を伴うものではないというべきである。
(b) 甲6発明(製剤)のビヒクルは、CNS送達において優れた忍容性を示す。
また、甲6の3(甲6の3は、甲6の2と同一の文献であるが、添付の訳文において訳出されている範囲が甲6の2とは異なっているものである。 には、
) ヒトに対するCNS投与のための製剤には高濃度の酵素(具体的には10mg/mL以上) が求められることが記載されている。CSF量の比較から、ヒトを投与対象とするCNS投与によって治療効果を得るためには、投与される補充酵素の量をマウスを投与対象とする場合よりも大幅に高める必要がある(甲3の[0081]甲22の2、

甲63、64)一方で、ヒトに対する投与量は、3mL以下とするべきであり、その結果、補充酵素の濃度は高くなる(日本でも、ヒトのCNS投与のための製剤としては、2mLの製剤が上市済みであった(甲65、66、85〜87)) 。。したがって、甲6発明(製剤)は、ビヒクルの優れた忍容性及びヒトへの投与のための高い補充酵素濃度の要請という観点から、CNS送達に適している。
(c) 被告の主張によると、IT投与とICV投与とは投与部位が異なるだけで、
IT投与の知見をICV投与に適用する動機付けが当然に肯定されることになる。
b 本件明細書に記載された実施例の結果は、次のような従前のモデル動物に対するIT又はICV投与による酵素補充療法の結果及びヒトに対するIT投与による酵素補充療法の結果から予想された範囲内にある。
(a) モデル動物を用いたIT及びICV投与による酵素補充療法 モデル動物に対するIT又はICV投与による酵素補充療法については、本件出願日前(本件出願の優先日前)に既に多数の報告例があった。治療効果が得られること、補充酵素が脳内に広く分布すること、そして脳組織に浸透することも報告済みであった(甲2の実施例3(ニーマン-ピック病;マウス;rhASM)、甲3の実施例2及び3(ムコ多糖症I型(MPSI);ラット及びイヌ;rhIDU)、甲4(クラッベ病;マウス;GALC)、甲67(MPSI;イヌ;rhIDU)、甲68(MPSI;イヌ;rhIDU)、甲69(LINCL;マウス;TPP1)。
)この点、上記先行文献の実験において、IT及びICV投与にてリソソーム酵素が脳組織に浸透し細胞に取り込まれた理由としては、投与された酵素の濃度勾配と、
マンノース-6-リン酸(M6P)受容体の存在とが挙げられる(甲68の62頁、
甲69の654頁)。リソソーム酵素は、翻訳後修飾の際に、オリゴ糖の末端にあるマンノースの6位がリン酸化される。トランスゴルジ網にはM6P受容体が存在し、
マンノース-6-リン酸化を受けたリソソーム酵素を選択的に結合する。それにより、リソソーム酵素は、トランスゴルジ網から後期エンドソームへ輸送される(甲53)。
(b) ヒトを対象としたIT投与による酵素補充療法の先行例 本件出願の優先日前に、IT投与による酵素補充療法がヒトに適用され、その結果が報告されていた(甲76)。具体的には、MPSIの患者に対し、ラロニダーゼ(α-L-イズロニダーゼ)がIT投与され、症状の改善がみられた。
(イ) 甲6発明(ビヒクル)の適用 リソソーム酵素の特定については、甲2に示唆があり、リン酸塩濃度及びpHは、
甲2発明に甲6発明(ビヒクル)を適用することにより解消する。その動機付けは、
前記(ア)で忍容性に関して説明したとおりである。
補充酵素濃度について、甲6には、ヒトに対するCNS投与の際には高濃度(具体的には10mg/mL以上)が必要とされるとの記載があり、甲6の示唆に従って、補充酵素濃度を本件発明1の範囲内とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
以上のとおり、甲2の示唆に従ってリソソーム酵素を特定するとともに、甲2発明に甲6発明(ビヒクル)を適用し、更に甲6の示唆に従って補充酵素濃度を調整することにより、相違点の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。
ウ 本件発明6について (ア) 甲2における用語「キャリア」は、緩衝液又はpH調整剤を含み、その例として、リン酸緩衝液が挙げられている 【0027】。
( )「医薬上許容されるキャリア」の例として、リン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS)が挙げられている 【0028】 ( 。
【0038】も参照)。キャリアは、界面活性剤を含んでもよく、その例として、TWEEN 20及びTWEEN 80などのポリソルベートが挙げられている【0 (027】。したがって、本件発明6との対比において、甲2に記載された発明は、
)より適切に、次のように認定されるべきである。
(甲2発明’) 「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含むものである、組成物であって、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、
リン酸緩衝食塩水(PBS) 他の食塩水、
、 デキストロース溶液、グリセロール溶液、
水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、
医薬キャリアは、TWEEN 20及びTWEEN 80などのポリソルベートを含有し、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」 (イ) 本件発明6と甲2発明’とを対比すると、その相違点は、本件発明1と甲2発明との相違点と一致する。
したがって、本件発明1について述べた理由により、本件発明6は進歩性を欠く。
エ 本件発明2〜12について 本件審決は、本件発明2〜12に関して、本件発明1の認定判断を単に繰り返すのみで、固有の認定判断をしていないから、本件発明2〜12についても、本件審決が取り消されるべきである。
オ 被告の主張について (ア) 承認された多くのIT投与用の製剤において、pHの下限は酸性側にあり、
他方でpHの上限が7.5を超えるものも少なくなく、しかも、大半の製剤において、希釈材は食塩水であって緩衝剤は使用されていない(甲6の図4)。それらの製剤においては、投与量が少量であるため、製剤がCSFによって希釈されてpHの 変動は小さく、また、1日当たり約500mLのCSFが産生される(乙29)ことから、製剤のpHがCSFから離れていても問題が生じないものと解される。また、同図には、ボーラス投与(短時間の急速投与)に用いられる製剤も多く記載され、製剤の量が少ない場合、短時間の投与が可能であって、長時間の投与が不可欠であるかのような被告の主張は、誤っている。
(イ) 被告は、リソソーム外(細胞内液と細胞外液)のpHを中性〜ややアルカリ性領域(約7〜7.4)に維持する必要があったと主張するが、細胞内における議論と製剤における議論を同列に扱っている点で誤っている。本件発明は、製剤に関するもので、製剤と細胞内の環境とは異なり、製剤では、酵素によって分解される成分が存在するわけではない。
(2) 甲2中の示唆及びエリオットB溶液に係る技術常識の適用 ア 次のとおり、甲2発明に、甲2中の示唆及びエリオットB溶液に係る技術常識(甲5、20、56、57)を適用して、5〜100mg/mlの濃度の補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、pHの範囲を5.5〜7.0とすることは、
当業者が容易に想到し得たものである。
(ア) リソソーム酵素の特定について 前記(1)イ(ア)のとおり、当業者は、甲2中の示唆に従って、リソソーム酵素をI2Sに容易に特定することができた。
(イ) 補充酵素濃度について 甲2の【0038】の記載から、甲2に記載の組成物中のリソソーム加水分解酵素の濃度は、全組成物の少なくとも約0.01重量%〜20重量%又はそれ以上である。また、甲2発明の医療キャリアには、生理食塩水及びリン酸緩衝食塩水(PBS)が含まれるところ、それらを用いた組成物の密度が水の密度(すなわち1000mg/ml)に非常に類似していることは、周知の事実である。そうすると、
甲2発明の組成物の補充酵素の濃度は、約0.1〜約200mg/mlと換算できる。したがって、本件発明1の補充酵素濃度(5mg/ml〜100mg/ml) は、甲2発明の組成物における補充酵素濃度の範囲に含まれている。
また、ICVでは、製剤の量を小さくする(酵素濃度を高める)ことが望ましいから、補充酵素の濃度を高めることは、当業者が当然に採用する事項である。しかも、甲4には、リソソーム酵素濃度が10mg/mLの製剤が記載されている。
したがって、甲2発明の補充酵素を本件発明1の範囲(5〜100mg/ml)とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
(ウ) pH及びリン酸塩濃度について 甲2の実施例2では、人工CSFが用いられているところ、代表的な人口CSFであるElliotts B Solution(エリオットB溶液)は、リン酸塩として、Na2HPO4・7H2Oを含み、そのリン濃度(液中でリン酸塩として解離して存在するイオンの濃度)は、1.5mEq/L(これは、0.5mMに当たる。)であり、pHは、
6.0-7.5である(甲20。以下、このエリオットB溶液のリン酸塩濃度及びpHの範囲に係る技術常識を「エリオットB溶液の技術常識」という。 。また、リ )ソソーム内部は酸性であり、リソソーム酵素は生体内では酸性環境に置かれるのだから、リソソーム酵素のビヒクルも酸性(すなわち、pHが7.0以下)であることが望ましい。
したがって、本件発明1のリン酸塩濃度の範囲及びpHの範囲は、エリオットB溶液の値を包含している。そのため、甲2発明のリン酸塩濃度及びpHを本件発明1の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
(ウ) 安定製剤 なお、本件明細書を精査しても、「安定製剤」が何を意味するのか、「安定」は、
投与経路、酵素濃度、リン酸塩及びpHで特定された製剤の発明を更に限定するのか、明らかではなく、
「安定製剤」は、相違点に実質的な貢献をしていない(本件審決は、相違点に関し、「安定製剤」については判断していない。。
) イ 甲6を踏まえると、前記ア(ア)及び(イ)の点は、いずれも、より一層明らかである。
ウ 被告の主張について (ア) 被告は、甲2発明の酵素濃度が本件発明1の酵素濃度範囲内であるとすると、
現実的ではない投与態様となると主張するが、甲2発明ではなく、甲2の実施例を前提とした主張であって、失当である。
(イ) 被告は、甲2の実施例3〜6について、本件発明1の補充酵素の濃度5mg/mL以上で投与するためには、0.05mL以下の液体で6時間にわたって注入する必要があると主張する。
しかし、甲2では、実際には、5mg/mLを大きく超える高濃度の製剤が使用されたと推測されるから、被告の上記主張は適切ではない。すなわち、ヒトでのCNS投与では、投与される製剤の量は、CSFの量の10%以下であるところ、マウスのCSFの量は0.04mL(40μL)であるから、CNS投与される製剤の量は0.004mL(4μL)とすることが適切である。そして、0.25mgのhASAを0.004mLの製剤に溶解させる場合、その濃度は、62.5mg/mLとなる。
(3) 甲2中の示唆及び甲5に記載された技術の適用 ア 甲5に記載された技術 甲5の酵素調整(Enzyme preparation)の項には、ムコ多糖症VI型(MPS-VI)を有するネコモデルに組換えヒトN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(rhASB)緩衝溶液(rhASB 5mg/ml、リン酸ナトリウム 10mM、塩化ナトリウム 150mM、ポリソルベート80 0.025%、pH5.8)を髄腔内投与したことが記載されている。
すなわち、甲5には、補充酵素の濃度として5mg/ml、リン酸塩濃度として10mM、pHとして5.8の組成物に係る技術(以下「甲5技術」という。)が開示されており、これは、本件発明1のリン酸塩濃度の範囲及びpHの範囲に包含される。
イ 相違点の容易想到性 (ア) リソソーム酵素の特定については、前記(1)アイ(ア)のとおりである。
(イ) 甲5は、IT投与に関するものであるが、本件審決の優先権に関する認定判断のとおり本件出願が優先権主張の利益を享受できるとしたら、IT投与に関する甲5技術をICV投与に関する甲2発明に適用することは、当業者が容易になし得たはずである。本件審決の認定によると、IT投与とICV投与とで忍容性に違いはない。
(ウ) また、補充酵素の濃度については、前記(2)ア(ア)のとおり、甲2中にも示唆がある(約0.1〜約200mg/ml)。
(エ) したがって、甲2発明に、甲2中の示唆及び甲5技術を適用して、5〜100mg/mlの濃度の補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、pHの範囲を5.5〜7.0とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
(オ) 本件審決は、エリオットB溶液のpHと本件発明1のpHの範囲が異なると判断したが、エリオットB溶液のpHの範囲(pH6.0〜7.5)の大半は、本件発明1のpHの範囲(pH5.5-7.0)と重なる。また、リソソーム酵素のビヒクルは酸性(すなわち、pHが7.0以下)であることが望ましい。したがって、エリオットB溶液のpHの範囲(pH6.0〜7.5)と本件発明1のpHの範囲(pH5.5-7.0)との違いは、進歩性の判断に当たって問題となるものではない。
また、本件審決は、甲2には、高濃度のタンパク質を含む脳室内投与のための医薬組成物について、免疫原性の問題を回避し得るような組成に関する記載はないと判断した一方、本件明細書において、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量及びタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示されたと認定したが、本件明細書においては、実施例において、特定の製造方法及び精製方法で得られた生理食塩水製剤について、そのpHの経時変化が測定されるなどしたにすぎず(【0273】〜【0277】 、それ以外の製造方法、リン酸の濃度及 )びリン酸のタンパク質との結合態様について、何ら検証は行われていない。それゆ え、本件発明は、免疫原性の回避という効果を奏しない(少なくとも、当該効果の立証されていない)範囲に及ぶ。したがって、当該効果は、進歩性の判断において考慮されるべきではない。
しかも、本件明細書のうち上記の実施例は、優先権書類には何ら記載されていない。仮に、本件発明の酵素濃度、リン酸塩濃度及びpHについて、本件審決の認定した技術的意義を認めるとしたら、優先権書類に対し、新たな技術事項が導入されることになる。この結論は、本件特許の出願が優先権の利益を享受するとの本件審決の判断と矛盾する。この点でも、本件審決の認定判断は誤っている。
さらに、本件審決は、甲5では、rhASB濃度を5mg/mlからその1/3の濃度に低下させているから、甲5の記載は補充酵素の濃度を5mg/ml以上とすることに対する示唆を与えるものではないと判断したが、甲5の組成物が投与時に希釈されるとしても、保存時は、タンパク質が高濃度で維持されており、高濃度のタンパク質製剤を製造すること自体は容易である。CNSへの投与(とりわけ、
ICV投与)では、製剤の量を小さくする(酵素濃度を高める)ことが望ましい。
ウ 本件発明6について 本件発明6と甲2発明’とを対比すると、本件発明1と甲2発明との相違点と一致するところ、本件審決は、本件発明6に関し、本件発明1の認定判断を単に引用するのみであるから、本件審決は、本件発明6についても、本件発明1と同じ誤りにより、取り消されるべきである。
エ 本件発明2〜5及び7〜12について 本件審決は、本件発明2〜5及び7〜12に関し、本件発明1の認定判断を単に引用するのみであるから、本件審決は、本件発明2〜5及び7〜12についても、
本件発明1と同じ誤りにより、取り消されるべきである。
オ 被告の主張について (ア) 被告は、甲5の組成物の最終濃度は、1/3の濃度に希釈した1.67mg/mlであり、甲2発明の組成物とは補充酵素濃度が異なるから、甲2発明のpH を変更する動機付けがないと主張するが、補充酵素濃度とpHはそれぞれ独立して設定されるものであるから、補充酵素濃度が異なることは、pHを変更する動機付けを否定する根拠となり得ない。
(イ) また、次の点からして、甲2発明に希釈前の製剤に係る甲5技術を適用することは適切である。
a 甲2では、モデル動物としてのマウスに対し、GALCがICV投与されたところ、マウスのCSFの量及び脳の重量は、ヒトよりも非常に少ないから(甲63)、ヒトの治療のためには、より多量の補充酵素が必要である。しかし、被験者に対する負担を考慮すると、製剤の量には限界がある。したがって、製剤中の酵素濃度をマウスへの投与に使用された値よりも増やすことが望ましい。
b 甲5では、モデル動物としてのネコに対し、rhASBがIT投与されたが、
ネコのCSFの量及び脳の重量は、ヒトよりも少ないから(甲84)、甲5における投与時の製剤ではなく、保存時の製剤を使用することが望ましい。甲5の組成物では、保存時はタンパク質が高濃度で維持されており、高濃度のタンパク質製剤の製造は容易である。
しかも、甲4には、リソソーム酵素濃度が10mg/mLの製剤が記載されている。
(ウ) 被告は、CSF中での薬物濃度の急激な増加(免疫原性の亢進やたんぱく質の凝集)を避けるために、低濃度で微量ずつ長時間投与する必要があると主張するが、前記3(4)ア(イ)でタンパク質の凝集について述べたところに照らし、被告の主張は誤っている。
なお、被告が指摘する乙5(乙24)においては、組換えヒトIDU(rhIDU)がイヌに対して投与されたもので、異種タンパク質による免疫原性である。異種のタンパク質を投与すると免疫応答が起きやすいことは良く知られており(甲73) ヒトにはヒト由来のタンパク質を投与し、
、 免疫応答を抑制することが一般的である(乙5(乙24)でも、rhIDUをヒトに投与すると抗体価が低かったこと が記載されている。。したがって、乙5(乙24)に基づく被告の主張は、的外れ )である。
(エ) 被告は、補充酵素を高濃度で投与するような臨床的に安全かつ有効な酵素補充療法は確立されていなかったと主張するが、本件明細書においても、ヒトの試験は行われていない。
6 取消事由6(甲3発明を基礎とする進歩性の判断等の誤り) 本件審決が認定した本件発明1と甲4発明との相違点には誤りがある。また、当該誤りの有無にかかわらず、甲4発明との相違点に係る本件発明1の構成は、甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)や、高濃度化の技術常識及びエリオットB溶液の技術常識などを適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであった。本件審決が本件発明1の認定判断を単に引用するのみである本件発明2〜8及び12についても、同様である。
容易想到性について、具体的には、次のとおりである。
(1) 甲3に記載された発明等 ア 本件審決は、甲3発明の認定の前提として、ヒトα-L-イズロニダーゼ(rhIDU)はイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)と同じであると認定したが、α-L-イズロニダーゼ(IDU)はイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)と同じではない。
甲3は、リソソーム病(LSD)の酵素補充療法に関し([0011]、具体的な )投与経路として、脳室内投与も記載されている([0094]及び[0095]。補 )充される酵素として、MPS II(ハンター症候群)の治療のためのイズロン酸スルファターゼも挙げられている([0015])ところ、リソソーム病として、ハンター症候群が知られており、その欠損酵素は、イズロン酸-2-スルファターゼである(甲2の【0002】の表2)から、甲3のイズロン酸スルファターゼは、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)を指す。したがって、甲3には、次の発明が記載されているというべきである。
(甲3発明’) 「ハンター症候群の治療のために酵素を脳室内投与するためのイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)を含む組成物。」 イ 本件発明1と甲3発明’とを対比すると、両者は、次の点で相違する。
(相違点) 「本件発明1は安定製剤に関し、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の濃度が5mg/mL-100mg/mLに特定され、当該安定製剤が50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、5.5〜7.0のpHを有するのに対し、甲3発明’では、これらが特定されていない点。」 (2) 進歩性の判断の誤り 前記(1)イの相違点に係る本件発明1の構成については、甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)を適用することや、甲6における示唆を踏まえるなどして補充酵素濃度を高めること、エリオットB溶液の技術常識や甲5技術を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであった。具体的には、次のとおりである。
ア 甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)の適用等 (ア) 前記5(1)と同様、甲3発明’に甲6発明(製剤)を適用して相違点の構成を採用することや、甲3発明’に甲6発明(ビヒクル)を適用し、更に甲6中の示唆に従って補充酵素濃度を調整することにより、相違点の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項である(なお、イヌのCSFの量がヒトのCSFの量の約10%にすぎないこと、イヌの脳の重量がヒトの脳の重量より少ないことについて、甲67参照)。
イ 高濃度化の技術常識及びエリオットB溶液の技術常識の適用等 (ア) 補充酵素濃度について ICVでは、高濃度化の技術常識より、補充酵素の濃度を高めることは、当業者が当然に採用する事項である。
先行技術には、酵素濃度が10mg/mLの製剤の例が開示されている(甲4)。
したがって、甲3発明’の補充酵素の濃度を高めて本件発明1の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
(イ) pH及びリン酸濃度について 相違点におけるリン酸塩濃度及びpHの範囲は、エリオットB溶液のリン酸塩濃度及びpHの範囲を包含する。リソソーム酵素のビヒクルも酸性であることが望ましいことは、前記のとおりである。
したがって、本件発明1のリン酸塩濃度の範囲及びpHの範囲は、エリオットB溶液の値を包含している。そのため、甲3発明のpHを本件発明1の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
(ウ) 安定製剤 前記5(2)ア(ウ)のとおり、「安定製剤」は、相違点に実質的な貢献をしていない。
ウ 甲5技術の適用 (ア) 甲5は、ITに関するものであるが、本件審決の優先権に関する認定判断のとおり本件出願が優先権主張の利益を享受できるとしたら、ITに関する甲5技術をICVに関する甲3発明’に適用することは、当業者が容易になし得たはずである。本件審決の認定によると、ITとICVとで忍容性に違いはない。
(イ) また、補充酵素の濃度については、甲3中にも示唆がある。
(ウ) したがって、甲3発明’に甲5技術を適用して、5〜100mg/mlの濃度の補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、pHの範囲を5.5〜7.0とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
ウ 甲6を踏まえると、前記イ(ア)及び(イ)の点は、いずれも、より一層明らかである。
エ 本件審決は、甲3発明の補充酵素の濃度をあえて免疫原性のリスクが増す高濃度に変更することを当業者が考えるとはいえないと判断したが、前記5(3)イ(オ)のとおり本件明細書にも免疫原性の問題を解決する手段は開示されていないから、
本件審決の判断は、一貫性及び整合性を欠くものである。
また、本件審決は、甲5ではrhASB濃度を1/3の濃度に低下させていると判断したが、それに係る本件審決の判断が誤りであることは、前記5(3)イ(オ)のとおりである。エリオットB溶液のpHが本件発明1のpH範囲と異なるとの本件審決の判断の誤りについても、前記5(3)イ(オ)のとおりである。
オ 本件発明6 (ア) 本件発明6と甲3発明’とを対比すると、両者は、次の点で相違する。
(相違点1) 「本件発明6は安定製剤に関し、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の濃度が10mg/mL-100mg/mLに特定され、当該安定製剤が50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、5.5〜7.0のpHを有するのに対し、甲3発明’では、これらが特定されていない点。」 (相違点2) 「本件発明6の製剤は、塩及びポリソルベート界面活性剤を含有するのに対し、
甲3発明’では、これらが特定されていない点。」 (イ) 相違点1は、本件発明1に係る相違点と同一であり、本件発明1について述べた理由により、相違点1は、当業者が容易に想到し得た事項である (ウ) 相違点2については、次のとおりである。
a 甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)は、いずれも、塩化ナトリウム及びポリソルベート20を含有するため、そのいずれを適用しても、相違点2は解消する。
b エリオットB溶液の技術常識等を適用するその他の場合には、次のとおり、
塩の存在は、相違点1の解消に伴って解消し、界面活性剤の存在は、タンパク質製剤における界面活性剤の技術常識に照らし、当業者が容易に想到し得た事項である。
(a) 塩 エリオットB溶液は、各種成分の中でも、Na+及びCl-の濃度が高い(それぞれ149mEq/L、132mEq/L)。つまり、エリオットB溶液は、塩化ナト リウムを含有する。さらに、甲5技術でも、酵素含有溶液中に塩化ナトリウム150mMが含まれる。
したがって、甲3発明’に対し、エリオットB溶液の技術常識又は甲5技術を適用する際、塩の相違点も自ずと解消する。
(b) 界面活性剤 タンパク質製剤において、凝集の防止のため、界面活性剤を添加することは技術常識である(甲2(ポリソルベート(商品名としてTWEEN20及びTWEEN80。【0027】、甲4(ポリソルベート80。2521頁右欄のMaterial and )Methods)、甲5(ポリソルベート80。133頁右欄のMaterial and Methods)。甲3にも、酵素組成物の含有する成分として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられている [0099]。
( ) ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、商品名をTWEENとする界面活性剤である(甲58)) 。。
したがって、タンパク質製剤における界面活性剤の技術常識に照らし、甲3発明’に界面活性剤を添加することは、当業者が容易に想到し得た事項である。
カ 本件発明2〜5及び7〜12 本件審決は、本件発明2〜5及び7〜12に関し、本件発明1の認定判断を単に引用するのみであるから、本件審決は、本件発明2〜5及び7〜12についても、
本件発明1と同じ誤りにより、取り消されるべきである。
オ 被告は、免疫原性の問題やエリオットB溶液のpH等について主張するが、
いずれも誤りであることは、前記のとおりである。
被告の主張
1 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について (1) 優先権の利益を享受できること ア 次のとおり、基礎出願1及び2の明細書の記載全体から、本件発明は、当該明細書に記載されているといえる。
(ア) 本件発明は、製剤(組成物)という物の発明であるところ、本件発明と甲1 4及び15に記載の発明とは製剤(組成物)として同一である。そして、甲14及び15には、当該製剤の投与部位としてIT投与とICV投与の両方について適用可能であることが記載されており、IT投与の実施例が記載されている。この点、
甲14及び15の実施例2は、対照群と酵素群を複数使用した本件発明の実施例である。実施例2についての「酵素投与群」の記載及び実施例3についての記載から、
甲6と同じく、
「14mg/mLのリソソーム酵素のほか、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム及び0.05%のポリソルベート20を含有し、
pHは7.0である、IT投与されるリソソーム酵素含有製剤」が記載されているといえる。そして、その製剤が実際にIT投与によりCNSに直接送達されて酵素が脳組織内に分布したとの効果が記載されている(図2及び4。図2には、投与されたリソソーム酵素が脳深部組織の一つである尾状核の神経細胞に分布することを示している。乙44も参照)。
(イ) 甲14及び15は、その記載内容において、ICV投与を十分具体的に開示しており、具体的な実施例の記載がないにすぎない。
この点、本件明細書には、本件発明の製剤を脳室内に注射できること(例えば、
実施例5及び6参照)や、IT投与はCNS送達の一例にすぎないことが明確に記載されているが、このことは、本件出願の優先日当時における当業者の技術常識ともよく一致する。すなわち、ICV注射もIT注射も、CSFで満たされた同じ環境に薬物を送達していることは、よく知られていた(甲14及び15の図1。同図は、ICV投与とIT投与は、いずれも脳脊髄液に薬物(治療用酵素)を直接注入することが可能であり、両者は投与部位が異なるだけであって、いずれかによる薬物のCNSデリバリーにより治療効果が得られたならば、同じ薬物を用いれば、他方においても同様に治療効果が得られることを当業者が認識できるという意義を有するものである。。また、
) CSFは、脳室を満たし、脳と脊髄を取り囲んでいる(甲2の【0034】参照)。それゆえ、ICV注射とIT注射は、ICV注射が脳室腔に直接注射するのに対し、IT注射は脊髄に注射するという、注射部位を異にする にすぎない。基礎出願1及び2の当時、ITの知見がICVに適用できることは、
明らかであった。
IT投与とICV投与のいずれの投与経路も脳脊髄液の循環経路に投与される点に鑑みると、同じ製剤をいずれの投与部位に投与しても同様の効果を奏することは、
甲14及び15の記載全体及び当該技術分野における技術常識から容易に理解することができる。
したがって、当業者が、当該分野における技術常識に照らして、甲14及び15を読めば、それらに記載の製剤は、IT注射及びICV注射の両方に適した製剤として等しく適用され得ることを容易に理解することができる。
(ウ) I2Sに関しては、甲17の請求項41及び84などには、治療用酵素として、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)が記載され、請求項49及び54に疾患としてハンター症候群についても記載されている。ハンター症候群が、α-イズロン酸スルファターゼ(すなわち、I2S)の酵素欠損に起因する疾患であることは本件優先日当時の技術常識であるから、当業者は甲17の実施例の記載から、
I2Sを補充酵素として含有する製剤のICV投与も理解できる。
イ(ア) 原告は、甲14及び15の実施例1〜3がいずれも医薬組成物としての効果に関するものではないと主張するが、それらの実施例に記載されている「薬学的(医薬)組成物」「酵素投与群」「治療効果」等の文言を無視したものであって失 、 、
当である。
(イ) 原告は、甲14及び15の実施例2が本件発明の実施例ではないと主張するが、原告が指摘する「pH7.5の水性溶液」は「対照群」に係るものであって、
「酵素投与群」についてのものではない。
(ウ) 原告は、甲14及び15の実施例3がビヒクルの忍容性の効果に関するものであって医薬組成物としての効果に関するものではないと主張するが、前記ア(ア)で指摘したとおりであって、原告の主張は失当である。
(オ) 原告は、甲14及び15の記載の下では、当業者はICVによる本件発明を 過度の試行錯誤なしに実施することができないと主張するが、前記アのとおり、IT投与の実施例とICV投与についての記載をもってすれば、甲14及び15には、
ICV投与も含めて十分にサポートされ、物(組成物)に係る本件発明が実施可能な程度に記載されているといえる。
(カ) 優先権の利益の判断は、記載や実施例の量に基づく判断ではなく、実質的に同一の発明が記載されているか否かの質的判断であるところ、原告が指摘するモデル動物に対する酵素のIT投与の結果等の追加実施例の記載は、甲14及び15に記載された発明の効果を確認的に記載するものにすぎず、それらの記載があることによって、甲14及び15に記載されていた実施例等に裏付けられる発明の効果が変更されたり否定されたりするものではない。
(キ) 原告の主張は、後記(2)のとおり、甲14及び15の記載や図表が明らかに甲6のものと同一であるにもかかわらず、甲14及び15には発明の記載がないと解釈する一方で甲6にはその記載があると解釈する恣意的な解釈に基づくものであって、失当である。
(2) 甲6が甲14及び15と実質的に同一の内容を開示していること ア 甲6の著者は、基礎出願2に係る発明の発明者の1人である Zahra Shahrokhを含み、甲6の図1〜3、6〜8、10及び11は、それぞれ、甲14及び15の図1、2、表1、2、図3〜6に対応し、甲6の図9は、甲14及び15の実施例2、3に対応している。また、その他の記載内容も、甲6の図5において具体的な先行技術として挙げられている参考文献8、19〜30も、全て甲14及び15に開示されている。甲6の図4に記載されているのは、補充酵素を薬物として含有する製剤ではなく、全て疎水性の低分子薬物を含有するIT投与用製剤の公知例にすぎない。
甲6と甲14及び15の記載が非常によく似ているのは、本件発明の発明者が、
先願主義の原則に従い米国仮出願を行って特許権利化のための出願日をまず確保した上で、出願後に研究成果の論文発表を行ったためである。
したがって、甲6の記載は、甲14及び15の開示内容と実質的に同一である。
イ 本件明細書の【0001】で援用されるように、甲14及び15の明細書全体について、優先権主張されているのであるから、本件特許が甲14及び15の出願後に同内容について公開された甲6により不利な取扱いを受けないこと(甲6が先行技術文献になり得ないこと)は、特許法41条2項の規定からも明白である。
2 取消事由2(実施可能要件違反)について (1) 発明の詳細な説明の記載は、本件発明1〜12について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(2) 前提として、本件明細書における「安定性」等の定義(【0057】)に従うと、本件発明の安定製剤は、長期間にわたってI2Sの治療効力が保持される治療薬である。
(3) 本件製剤が不安定な製剤にまで及ぶ旨の原告の主張は、次のとおり、その前提を欠くものであって、実施可能要件に適合しない理由にはならない。
ア(ア) 本件明細書の【0091】の記載は、エリオットB溶液のみを高濃度の補充酵素の緩衝剤兼ビヒクルとして使用した場合について言及したもので、本件発明1の発明特定事項の全てを充足する製剤(組成物)についての記載ではない。特に、
原告の主張は、エリオットB溶液で高濃度の補充酵素を希釈するだけで、希釈後の製剤のpHがエリオットB溶液自体の添付文書(甲20)に記載の下限のpHに近い範囲になることを前提とする点で誤っている。
(イ) この点、まず、甲20には、エリオットB溶液のpHが「6.0-7.5」、
脳脊髄液のpHが「7.31」と記載されているが、甲20に「REFERENCES」として唯一挙げられている乙32の表3には、エリオットB溶液自体のpHの実測値が「7.0-7.4」と明記されている。したがって、まず、エリオットB溶液自体のpHを、どのようにして、本件発明のクレームの範囲(5.5―7.0)に調整するのかが不明である。
(ウ) また、次の点からすると、@エリオットB溶液をIT注射の希釈剤として使 用する場合には、薬物希釈後の製剤(すなわち組成物)のpHをCSFのpHに適合させることが副作用軽減の観点から求められていることや、A希釈剤として使用され得る緩衝液自体のpHは、薬物希釈後の製剤(すなわち組成物)のpHとは必ずしも一致せず、pH値として2以上(水素イオン濃度に換算すると100倍以上)の差が見られる場合があることから、人工CSFで希釈後の製剤のpH範囲を予測することは難しく、CSFへの直接注射に適した安全な製剤の提供には更なる課題があったことを当業者は理解することができる。それにもかかわらず、エリオットB溶液自体のpH範囲以外、何ら具体的な根拠を示すことなく、本件発明のリン酸塩濃度及びpHには、エリオットB溶液の条件を含んでいるという原告の主張は、
その前提を欠くものであって失当である。
a 乙32には、
「エリオットB液は、電解質組成及び緩衝能において、CSFと類似しており、メトトレキサート及びシタラビンの希釈液のpHを7.2〜7.8に維持する唯一のビヒクルであった」こと、
「エリオットB液は、メトトレキサート及びシタラビンのpHを有意に変化させる唯一のビヒクル体であった(表3) もの 」で、
「試料は、通常報告されたCSFのpHの0.2単位以内の範囲にあった」こと、
「エリオットB液の緩衝能は他のビヒクルより優れており、酸性製剤(シタラビン)及び塩基性製剤(メトトレキサート)の最終pHに影響を及ぼすのに十分であった」ことが記載され、実際に、凍結乾燥されたメトトレキサート(50mg)をエリオットB液で希釈した製剤(Methotrexate (1))のpHは、7.2又は7.3であり、
CSFのpH(7.31)とほぼ同じであったことが読み取れる。
b 他方で、乙32の表3によると、エリオットB溶液以外の希釈剤として試験されたラクトリンゲル注射液(ビヒクルのみ)のpHの実測値が6.5-6.8、
塩化ナトリウム注射液(ビヒクルのみ)のpHの実測値が6.0-6.4であったのに対し、凍結乾燥されたメトトレキサート(50mg)をそれらで希釈した製剤(Methotrexate (1))のpHは7.1-7.6であったこと、凍結乾燥していない市販のメトトレキサート2.5mg/ml溶液をそれらで1mg/mlに希釈した もの(Methotrexate (3))のpHは8.3-8.5であったこと、それらを使用したシタラビン製剤のpHは5.3、5.6であったことが分かる。他方で、そのようにエリオットB溶液以外のビヒクルでは酸性製剤(シタラビン)又は塩基性製剤(メトトレキサート)となるような非中性製剤も、エリオットB溶液では脳脊髄液(CSF)のpHに近い、pH7.2〜7.8の中性の製剤にすることができたことが分かる。
この点、メトトレキサートやシタラビンのような低分子医薬をエリオットB溶液に溶解させた場合、pHが若干シフトすることはあり得るかもしれないが、その100倍以上の分子量を持ち、強塩基でも強酸でもない補充酵素(タンパク質)を仮にメトトレキサートやシタラビンと同質量含んだとしても、その酸又は塩基としてのグラム当量数(質量/グラム当量;いわゆる規定濃度(N))は、メトトレキサートやシタラビンと比較して無視できる程度となるため、エリオットB溶液に溶解させた場合には、エリオットB溶液自体の実測値とほぼ同じpHになることを、当業者であれば容易に推認することができる。
なお、甲6の図4に記載されている製剤の有効成分は、全て低分子化合物であり、
その物理化学的性質(分子量、コンフォメーションの変化、安定性、溶解性、薬物動態等)、免疫原性を含めた安全性、投与量、投与速度等に特段の対応を要する生物の生体機能を利用して生産及び使用される酵素(タンパク質)であるI2Sとは、
全く別物である。
c 乙34には、抗腫瘍剤のIT投与方法の副作用が、嘔吐、発熱、頭痛等から分かる化学的髄膜炎から、脚の痛み、麻痺、白質脳症等の多岐にわたり、IT投与するための注射液のpH、イオン組成又は抗菌防腐剤が、これら副作用を生じさせる毒性のいくつかに関与している可能性も示唆されている。
イ(ア) 有効成分のタンパク質の凝集が免疫原性に影響を及ぼすかどうかは、単量体か凝集体(不可逆な沈殿物)かの二者択一で決まるのではなく、単量体との間に平衡関係(又は2つ以上の会合状態間での可逆的な会合平衡)が成り立つ可逆的な 凝集体であるか、不可逆的な凝集体(目視可能な粒子又は沈殿物)であるかが重要であることが、本件出願の優先日前に公知であった(乙40)。仮に薬学的組成物の溶液の時点で可逆性の二量体又はオリゴマーが形成されたとしても、CSF中に投与され、CSFで希釈される際に、単量体と平衡状態にあるものであれば、免疫原性の問題は生じない蓋然性が高いことを、当業者であれば当然に理解できる。本件明細書の【0022】及び【0069】の記載から、本件発明においては、免疫原性の問題は生じない蓋然性が高い。
(イ) 本件明細書の実施例4の試験において観察された凝集体は、可溶性凝集体であり、本件明細書の【0266】【0267】並びに【図8】及び【図9】による 、
と、可溶性凝集体は時間経過とともに減少しており、6か月後又は24か月後に最小となっていることからして、不可逆な凝集体(乙40の図4)へと移行するのではなく、単量体との平衡状態を保っており、当該酵素濃度における安定な平衡状態に落ち着いていると理解することができる。そして、そのような可溶性凝集体は、
単量体と平衡状態にあり、CSF中に投与され、CSFで希釈される際に、単量体を生じる方向に平衡が移動し得るものであるから、少なくとも「意図された生物学的活性及び/又は物理的完全性の全て又は大部分」が損なわれるものでないことは、
当業者であれば理解できる。
(ウ) その他、 原告がその主張の根拠として取り上げる実施例の記載については、
次のとおりである。
a 凍結融解試験について (a) タンパク質濃度が低濃度(5mg/mL以上)のリン酸塩含有製剤が凍結融解に対して不安定であると主張する根拠として、2mg/mLのタンパク質濃度のリン酸塩含有製剤の結果を採用することは、当該タンパク質濃度が本件発明の範囲に達していない以上、適切ではない。そして、高濃度である100mg/mLのタンパク質濃度のリン酸塩含有製剤では、本件明細書の表11に示されるように、凍結融解の後、凝集体の増加は観測されなかったこと、また、表12のP20濃度0% のサンプル(すなわち、PS-20を含まないサンプル) (2mg/mLのタンパク質濃度)のSEC(単量体%)が95.2%だったのと比較して、表13におけるPS-20を含まないサンプル(8mg/mLのタンパク質濃度)では、振盪されているため、タンパク質様粒子が観察されてはいるが、SEC(単量体%)が99.3%と高い単量体比率を示し、タンパク質濃度が高濃度になるほど顕著に単量体比率が向上するという予期せぬ安定化効果を奏していることを考慮すると、タンパク質濃度が5mg/mL以上のリン酸塩含有製剤では、2mg/mLのリン酸塩含有製剤に比べて凝集体の量がより低減している、すなわち、治療効力を保持することができ、安定化していると当然に理解することができる。
(b) 本件明細書において、I2S濃度が2mg/mLの場合の製剤が不安定であるとは全く記載されていない(【0258】参照)。
また、原告が主張する2mg/mLで生じた凝集体とは、前記(イ)のように、可溶性凝集体である(本件明細書の表10)。
(c) したがって、本件発明の全範囲にわたり(とりわけ、I2S濃度範囲全体にわたり)、凍結融解試験での安定性が実証されたとはいえないとの原告の主張は失当である。
b 振盪試験について (a) ポリソルベート等の界面活性剤は、液体製剤の保存運搬時に発生する振盪関連ストレスからタンパク質を保護する必要がある場合にのみ問題となり、例えば、
凍結乾燥製剤の態様や輸送ストレスなしの態様(例えば、本件明細書の表15参照)では問題にならない。したがって、必ずしも液体製剤として提供されるものでない本件発明の製剤に、界面活性剤をあえて添加しない場合であっても、脳脊髄液への注入に適する安定な製剤が得られることは、当業者であれば当然に理解でき、安定性が確保されていないとはいえない。
そして、本件発明がタンパク質濃度を増加させた液体製剤に関する場合、製剤の保存運搬の際に振盪関連ストレスがかかることは当然のことであるところ、本件発 明2以降及び本件明細書(【0248】)には、振盪関連ストレスから保護するために界面活性剤(ポリソルベート20)を使用することが記載されているから、液体製剤に係る本件発明の実施に過度の試行錯誤を要するとはいえない。
(b) また、原告が主張する凝集体は、前記(イ)のように、可溶性凝集体である 【0 (259】。
) (c) したがって、ポリソルベート20を含有しなければ安定性が確保されないことを前提とした、本件発明が安定性の確保されていない態様に及ぶとの原告の主張は、失当である。
c 熱安定性について (a) 熱安定性に関する本件明細書の実施例4では、凍結保存条件のリン酸塩含有製剤では凝集物が見られないことが実証されている(【0264】【0265】。ま 、 )た、40℃のストレス条件下であっても、凝集体レベルは2週間後が最も高く、それ以降、凝集体は消失していることが確認されている(【0266】。したがって、
)最も温度の低い凍結保存状態や最も温度の高い40℃条件下であっても、リン酸塩含有製剤の安定性が失われているとはいえない。
また、本件明細書の実施例4に記載された熱安定性は、リン酸塩を含まない生理食塩水製剤もリン酸塩含有製剤も熱ストレスに対して十分に安定性が確認できたことを示しているにすぎない。生理食塩水単独製剤との比較でリン酸塩含有製剤においてOD320値の増加が確認されたとしても、そのことをもって、リン酸塩含有製剤が熱ストレスに対して安定であることが否定されるわけではない。事実、本件明細書の【0264】の記載は、生理食塩水単独製剤がより安定であることを示すものであって、リン酸塩含有製剤が安定でないことを意味するものではない。
(b) 原告が指摘する12分ピークについて、本件明細書の表18の脚注の記載並びに【0275】及び表22の記載からして、12分ピークに係る高分子種は、可溶性凝集体にリン酸塩が結合したものと考えられる。そして、
【0266】の記載を踏まえると、当該可溶性凝集体にリン酸塩が結合したものも、単量体と平衡状態に あり、CSF中に投与され、CSFで希釈される際に、単量体を生じる方向に平衡が移動し得るものである。
(c) 原告が主張するとおり、単量体%が回復しなかったとしても、そのI2S濃度における単量体とオリゴマー間の平衡状態に保たれているだけである。1か月後に消失した12分ピークの高分子種の凝集体が、単量体%から検出されていないとすれば、当該高分子種の凝集体は、単量体と高分子種の中間体(二量体、三量体等のオリゴマー)に変化したため、単量体としても12分ピークの高分子種の凝集体としても検出されなかったと考えるのが合理的であり、単量体と不可逆な凝集体の二者択一的な原告の主張は、技術常識に照らして妥当でない。
また、当該高分子種は、前記(イ)のように、可溶性凝集体である。
(4) いずれの製剤が安定製剤として得られるのか、特に極低濃度のリン酸塩の下で安定製剤が得られるかどうか明らかでない旨の原告の主張は、次のとおり、失当である。
ア 前記(3)アのとおり、リン酸塩濃度範囲及びpH範囲による特定のみでは、5-100mg/mLのI2Sを安定化できない場合があるとの原告の主張は、その前提を欠くものである。また、いずれの製剤が「安定」であるのかを網羅的に調査するためには過度の試行錯誤を要するとの原告の主張も、本件発明の製剤が安定化されていないとの前提に基づくものであるから、失当である。
イ(ア) そして、例えば、本件明細書の実施例4の凍結融解試験では、高濃度である100mg/mLのタンパク質濃度の生理食塩水単独製剤及び20mMのリン酸塩含有製剤の両方において、可溶性凝集体が観測されなかったことを考慮すると、
100mg/mLのタンパク質濃度では微量リン酸塩含有製剤であっても、凝集体増加はないと判断できる。
(イ) また、本件明細書の表12のP20濃度0%のサンプル(すなわち、20mMのリン酸塩存在下、PS-20を含まないサンプル) (2mg/mLのタンパク質濃度)のSEC(単量体%)が95.2%だったのと比較して、表13におけるP S-20を含まないサンプル(8mg/mLのタンパク質濃度)では、振盪されているため、タンパク質様粒子が観察されてはいるが、SEC(単量体%)が99.3%と高い単量体比率を示していることも合わせて考慮すると、生理食塩水単独製剤及び20mMのリン酸塩含有製剤の両方において、タンパク質濃度が高濃度になるほど可溶性凝集体の生成が抑えられることが予想される(ただし、このように、
低いタンパク質濃度で生じた現象が、直ちに高いタンパク質濃度でも生じるとはいえない。 ことから、
) 5mg/mLのタンパク質濃度のI2Sを含む微量リン酸塩含有製剤でも、2mg/mLのタンパク質濃度の微量リン酸塩含有製剤と比較して、
凝集体量はより少なくなると、当業者であれば理解することができる。
(ウ) さらに、可溶性凝集体について、不安定化しているともいえない。
(エ) 生理食塩水製剤の振盪試験について、SEC(単量体%)は、100%であるから、観察されたタンパク質様粒子が凝集体であるということはできない。
(5) 原告は、本件発明が安全性及び忍容性が確認されなかった領域を含むと主張する。
しかし、甲15の図5では、pH5.5〜6.0の範囲ではリン酸塩0mM〜20mMの範囲、pH6.0〜7.0の範囲ではリン酸塩0mM〜20mMの範囲で、
忍容性が確認されている。一方で、pH7.0以上の範囲で、リン酸塩10mM〜20mMの範囲で副作用が確認されている。当業者であれば、当該忍容性と副作用のリン酸塩濃度とpHの範囲をみれば、明らかな副作用を生じさせない範囲で、忍容性が確認されたリン酸塩濃度とpHの範囲に近く、かつ副作用が確認されたリン酸塩濃度とpHの範囲を避ける範囲のリン酸塩濃度とpHを有する製剤を採用しようとするものである。この点、本件明細書では、
【0001】において甲15に言及し、その記載を援用することを明記している。このような記載も日本国特許庁の現実の実務において広く行われており、多くの米国特許出願人が通常採用する記載であるから、甲15の明細書や図面の記載を援用して本件発明をより良く理解できる以上、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて発明を実 施できるように発明の詳細な説明を記載したものといえる。そして、実施例4において、本件発明の製剤の安全性及び忍容性について、代表的な実施例を挙げている。
また、本件明細書の緩衝剤に関する【0099】の記載では、リン酸塩による忍容性の制御のためのリン酸塩濃度として50mMが例示されている。
甲15及び本件明細書の上記の記載に鑑みれば、当業者であれば、十分な安全性と忍容性を有するリン酸塩濃度とpHの範囲に含まれる「安定製剤」を過度な試行錯誤をすることなく調製できるものである。
3 取消事由3(サポート要件違反)について (1) 本件発明の課題及び課題解決のための手段 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の【0003】〜【0009】の記載からみて、本件発明の課題は、グリコサミノグリカンの大きな蓄積により、種々の型のCNS症候を生じさせるリソソーム蓄積障害の処置のために、血液脳関門及び脳表面でのバリアの存在などの障害物を克服し、脳に治療薬を有効に送達するための製剤を提供することである。
(2) 原告の主張するサポート要件違反がないこと ア 高い酵素濃度での凝集の抑制について (ア) 前記2(3)アのとおり、専らエリオットB溶液自体のpH範囲を根拠とする原告の主張は、その前提を欠くものである。
そして、エリオットB溶液にリソソーム補充酵素を溶解させた製剤であっても、
最終的に本件発明1に規定される発明特定事項の全てを充足する製剤(組成物)であれば、本件発明の課題を解決できることは、明らかである。
(イ) 前記2(3)イのとおり、原告が取り上げる凍結融解試験、振盪試験及び熱安定性に関する本件明細書の記載を勘案すると、本件発明が、課題が解決できない範囲にまで及ぶといえないことは明らかである。
凍結融解試験では、I2S(2mg/mL又は100mg/mL)含有生理食塩水製剤(すなわち、リン酸塩濃度が極めて薄い実施態様)では凝集体は生じていな い(本件明細書の表10、11)。また、振盪試験において、I2S(90〜100mg/mL)含有生理食塩水製剤では「大きなタンパク質粒子が観察された」 (本件明細書の表14)との記載や、熱安定性試験において、一部の製剤に「12分ピーク」が観察されたことについては、可溶性凝集体に係るものである。当業者においては、むしろ、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量及びタンパク質濃度の増加が最終製剤におけるpH安定性に関与することを理解でき、0〜5mMまでのリン酸塩を含む製剤もまた、技術常識を踏まえて前記(1)の課題が解決できるであろうとの合理的な期待を得ることができる。
(ウ) 原告の主張するイオン強度は、本件発明において必須の構成要件に当たらない。
本件明細書の表4において、NaClは、等張化剤の一例として開示されており、
このことは、等張化剤として用いたNaCl自体が本件発明の効果(すなわち、50mMまでのリン酸塩を含むI2Sタンパク質含有製剤で酵素が熱安定性を有し、
沈殿も生じないという効果)に寄与しておらず、本件発明の製剤が本件発明の課題を解決する上でNaCl等の等張化剤を必要としないことを示すことが明らかである。
また、本件発明がICV投与されることを特徴とする以上、本件発明の課題と関係なく、ICV投与の際にCSFとの等張化を目的として等張化剤を含むものを本件発明に係る製剤として使用することは、当業者であれば、当然に理解できる。等張化剤に関し、注射液等が体液と等張であることが望ましいこと(乙43)は技術常識であり、脳室内投与用製剤において、等張化剤は、CSFとの等張化、CSFの組成の平衡及び対象の頭蓋内圧を保持する必要から、当業者であれば、必要に応じて普通に適用するものである。
甲15の図3(右)は、タンパク質の溶解度に寄与し得る許容可能なNaCl濃度が広範囲にわたることを示すもので、図3(左)もまた、タンパク質の溶解度に寄与し得る許容可能なpHが広範囲にわたることを示すものである。そして、それ らが別々の図として示されていることからも明らかなように、それぞれの条件単独でタンパク質の溶解度への貢献が実現されているところ、本件発明では、
「5.5〜7.0のpH」及び「50mMまでのリン酸塩」によって高い酵素濃度が実現されているのであり、イオン強度を必ずしも必要とするものではない。
(エ) また、リン酸塩濃度が極めて薄い本件発明(例えば、0〜5mM)については、本件明細書の実施例5により裏付けられており、リン酸塩を含まない組換えヒトI2Sタンパク質含有製剤(pH6.0)を非ヒト霊長類にIT投与及びICV投与し、その結果、脳組織の深部にI2Sタンパク質が分布したことが実証されている(【0278】【0284】 、 、表26、図62)。また、実施例2でも裏付けられており、リン酸塩を含まない組換えヒトI2Sタンパク質含有製剤(3mg/ml、
30mg/ml、100mg/mlまたは150mg/ml)をカニクイザルにIT投与し、その結果、脳組織の深部及び末梢組織にI2Sタンパク質が分布したことが実証されている(【0212】【0215】〜【0217】【0227】〜【0 、 、
231】、表7、図16〜39)。このように、リン酸塩を含まない製剤において高いI2Sタンパク質濃度を実現し、脳室内投与によってI2Sタンパク質の脳組織への浸透が実証されている。
したがって、0〜5mMの範囲のリン酸塩製剤であっても、高いI2Sタンパク質濃度を実現し、脳室内投与によってI2Sタンパク質の脳組織への浸透が可能であり、課題解決手段が含まれるものである。
上記に関し 、 本件明細書の実施例2及び5は、凝集体の生成について何ら記載していない。そして、有効成分のタンパク質の凝集が免疫原性に影響を及ぼすかどうかは、単量体か凝集体(不可逆な沈殿物)かの二者択一で決まるのではなく、単量体との間に平衡関係(又は2つ以上の会合状態間での可逆的な会合平衡)が成り立つ可逆的な凝集体であるか、不可逆的な凝集体(目視可能な粒子又は沈殿物)であるかが重要であることが、本件出願の優先日前に公知であった(乙40)。仮に薬学的組成物の溶液の時点で可逆性の二量体又はオリゴマーが形成されたとしても、C SF中に投与され、CSFで希釈される際に、単量体と平衡状態にあるものであれば、免疫原性の問題は生じない蓋然性が高いことを、当業者であれば当然に理解できる。本件明細書の【0022】及び【0069】の記載から、本件発明においては、免疫原性の問題は生じない蓋然性が高い。
イ 安全性及び忍容性について 甲15の図5は、pH7.0以上の範囲で、リン酸塩10mM〜20mMの範囲で副作用が確認され、また、pH5.5〜6.0の範囲ではリン酸塩0mM〜20mMの範囲、pH6.0〜7.0の範囲ではリン酸塩0mM〜20mMの範囲においては忍容性及び安全性を有することが、例示的に確認されたことを示すにすぎない。残りの範囲についてみても、本件明細書の【0016】の記載により、本件発明における安定製剤を構成するリン酸塩濃度の上限値やpHの範囲は、本件明細書の上記記載により十分にサポートされているといえる。
4 取消事由4(明確性要件違反)について 本件発明1の安定製剤にリン酸塩が含まれ、その濃度が50mMまでであることが明確である以上、濃度の下限がないことによって発明が不明確になるものではない。原告の主張は、サポート要件に関わる内容であって明確性とは別の問題である。
5 取消事由5(甲2発明を基礎とする進歩性の判断の誤り)について (1) 甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)の適用等について ア 甲6発明(製剤)の適用について 甲14及び15の図1の存在にもかかわらず、甲14及び15にはICV投与に関する記載はないとの原告の主張によって優先権が否定される場合、甲14及び15と実質的に同一の内容を開示する甲6にも、同様にICV投与に関する記載はないと判断されなければならない。
そうであれば、甲6に、IT投与の知見をICV投与に適用する動機付けはないこととなり、当業者においては、本件発明に容易に想到し得るものではないと判断されるべきである。
イ 甲6発明(ビヒクル)について 前記アと同様、甲2発明に甲6発明(ビヒクル)を適用する動機付けはない。
なお、原告が提出する証拠のうち、甲65、66、70〜74、80及び82は、
いずれも本件出願後に発行されたものであり、タンパク質製剤である本件発明に関する本件出願日当時の技術水準(技術常識)を示す文献としては、不適切であり、
それらの証拠に基づく原告の主張は、失当である。また、甲65及び66に関し、
メトトレキサート及びシタラビンは、高濃度での使用において凝集が懸念される分子量が数万以上のタンパク質(高分子)医薬ではなく、分子量がそれぞれ454.44及び243.22である低分子医薬であるから、これら低分子医薬の製剤に関する証拠のみに基づいて、高濃度のタンパク質含有医薬を含むヒトのCNS投与のための製剤全般として、2mLの製剤が上市済みであったとは到底いえない。さらに、甲82については、表2(Table 2)と、その引用元とされる文献(乙38)とが整合していないことからも、本件出願日当時の技術水準を示す文献として不適切である。
(2) 甲2中の示唆及びエリオットB溶液の技術常識の適用について ア リソソーム酵素の特定について 甲2において、ハンター症候群(MPS II)とI2Sは、公知の代表的なリソソーム蓄積症とその欠損酵素のほぼ全て(38種類)が例示列挙されている中の一例にすぎない。そして、甲2の具体的な実施例では、ASMKOマウスに対して組み換えヒト酸スフィンゴミエリナーゼ酵素(ASM)が脳室内投与され、その効果が確認されているのみである。リソソーム酵素としてI2Sを選択する強い示唆があるとはいえない。
イ 補充酵素濃度について (ア) 甲2発明の組成物の補充酵素の濃度について、約0.1〜約200mg/mlと換算できるという原告の主張は誤りである。
甲2には、実施例において、数時間、連続する数日間にわたる人工CSF中のリ ソソーム酵素の脳室内低速注入によるニーマン・ピック病A型の治療方法が開示されている(甲2の実施例2、【0057】参照)。仮に、甲2発明の製剤における酵素濃度が本件発明1のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質濃度範囲内(5mg/ml〜100mg/ml)であると仮定すれば、酵素1mgは、
最大量200μlから最小量10μlの緩衝液に溶解していなければならず、最大量200μlから最小量10μlに溶解した酵素を24時間×4日間(約2μl/h)投与し続ける必要がある。しかし、上記のような投与量で投与コントロールすることは、注入量の調節の精度からして現実的ではなく、実際にはかなりの大用量の溶液が使用されていると理解するのが妥当である。
(イ) CSFは、その総量が通常90〜150mLであって(乙29)、血液の総量に比べてはるかに少ないことから、血液に比べて緩衝能力がはるかに低く、pHの小さな変化が大きな影響を与える可能性があること、実際、モルヒネ(pH4付近)のような酸性薬剤がCSFのpHを低下させ、ミオクローヌス発作、知覚過敏、タキフィラキシー(薬剤の反復投与により薬剤が急速に効果を失うこと)の原因となることが、本件特許の優先日前に知られていた(乙6)。
したがって、CSFのpH値の急激な変化を招く大用量の緩衝用溶液に溶解された低濃度製剤が短時間に投与されるべきでないことは、本件出願の優先日前の技術常識であった。
(ウ) 乙32では、製剤のpH(製剤のpHを脳脊髄液(CSF)と同等の範囲に維持すること)やイオン組成等がIT注射における副作用の毒性に関与していることが示唆されており、甲2の【0003】には、
「直接注射による脳への補充酵素を導入する試みは、一部には局所的な高濃度による酵素の毒性及び脳における限られた柔組織への拡散割合のために限定されている」と記載され、脳脊髄液への補充酵素の投与は低濃度が望ましいことが示唆されていた。さらに、乙5(乙24)には、
送達されるタンパク質の濃度と量を増やすと脳への透過が増える可能性が示唆されているものの、タンパク質は強力な免疫原になる可能性があることや、免疫原性の 増加が、例えば、炎症反応により安全性に影響を与えるだけでなく、有効性に悪影響を与える酵素中和抗体を産生する可能性も示唆されていた。さらに、タンパク質が高濃度では凝集する傾向があり、凝集タンパク質により免疫原性が高まることは、
本件特許優先日当時の技術常識であった(乙7〜9)。なお、ヒト由来のものを用いた場合についても、免疫原性の報告例が本件出願日前に多数存在していた(乙41)。
したがって、タンパク質の凝集に伴う免疫原性のリスク等を考慮すると、I2Sタンパク質の凝集を防ぐためには高濃度にすべきでないことも、本件出願の優先日前の技術常識であった。
特に、補充酵素のようなタンパク質を薬物として脳脊髄液に投与する場合、その製剤のpHを脳脊髄液のpHと同レベルに設定する必要があることや、脳脊髄液中での薬物濃度の急激な増加(濃度の増加に伴う免疫原性の亢進やタンパク質の凝集)を避けるために、低濃度の薬物を含む製剤を微量ずつ長時間にわたっての投与が必要であることが本件出願の優先日前に知られていた。この点、甲2には、具体的にどのようにすれば、上記のような脳への悪影響を抑えつつ、製剤の量を小さくする(酵素濃度を高める)ことができるのか等、上記課題を解決するための手段について何ら開示も示唆もされていない。
したがって、上記課題を認識していた当業者において、甲2の記載内容をみて、
甲2の製剤の脳室内投与時の酵素濃度を、本件発明1に規定されるI2Sタンパク質濃度の範囲(すなわち高濃度)に変更しようと動機付けられないことは明らかである。
(エ) さらに、甲2の実施例3〜6では、総量0.25mgのhASMがマウスに6時間にわたって投与されているところ、これらの製剤のいずれも、本件発明1のI2Sタンパク質の濃度5mg/mL以上で投与するためには、0.05mL(すなわち、50μl)以下の液体で6時間にわたって注入する必要があり、これらについても現実的ではない。
むしろ、甲2の【0003】参照の記載に鑑みると、実施例2〜6では、低濃度 (5mg/mlよりもかなり低い)のhASMタンパク質を含むかなり大用量の液体が、脳室内注入されたと考えなければならない。それゆえ、甲2の実施例2〜6の製剤もまた、「5mg/ml〜100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質」という本件発明の要件を満たすことが、実質的に不可能なものである。
(オ) 原告によるCSFの量と脳の質量に基づく動物実験の用量からヒト投与用の用量への換算は、原告の勝手な解釈(ヒトの治療のためには、単純にCSFの用量比に応じて比例倍した、より多量の補充酵素が必要であるとの解釈)に基づくもので、何ら技術常識に基づかない(甲22の訳文である乙39のほか、甲67と甲76を比較してもこのことは理解される。 だけでなく、
) 原告が審判手続段階で主張していた体重(又は表面積)に基づく換算とも異なっている。また、上記のような量的な差異に基づく換算では、ヒトにおいて投与すべき酵素の量がより小さい動物の場合に比べて多くなるのは当然であるところ、そのことは、ヒトの場合に製剤中の酵素濃度を増加させることと直接関係しない。1回の投与における有効成分の含有量を増やすことは、有効成分の濃度を増加させるだけでなく、投与する製剤の1回当たりの用量全体を増加させることでも達成できるから、リソソーム酵素(タンパク質)の場合、当業者においては、むしろ、凝集に伴う免疫原性亢進のリスク等も考慮して、1回当たりの用量全体を増やすべきであることを容易に理解するといえる(例えば、甲2の実施例2では、正にこのアプローチがとられている。 。
) また、マウスにおいてCNS投与される製剤の量について、マウスのCSFの量の10%が適正値であるとの根拠となる記載は、甲2のどこにもない。
(カ) 原告は、甲2にはI2Sを含む脳室内投与のための医薬組成物について免疫原性の問題を回避することのできる製剤に関する記載もないとの本件審決の判断に対し、本件発明は、免疫原性回避という効果を奏しない範囲に及ぶなどと主張する。
しかし、投与された補充酵素の免疫原性は、高濃度の補充酵素が凝集し、沈殿する結果として生じるものであるところ、凝集した補充酵素は投与によって脳組織内 に浸透することができず、治療効果ももたらさない。つまり、投与された補充酵素に免疫原性の問題が生じるのであれば、当該補充酵素は脳組織の浸透も、治療効果も期待できないことは、当業者であれば当然に理解できる。ところが、本件明細書の実施例6には、本件発明の範囲に包含される薬学的組成物の脳室内又は髄腔内投与を行い、治療効果を得られたことが確認されており、また、本件明細書の実施例2及び5には、リン酸塩が含まれていない点を除いて本件発明の範囲に包含される製剤の脳室内又は髄腔内投与を行い、治療効果を得られたことが確認されている。
仮に、ICV又はIT投与された本件発明の製剤に免疫原性が生じるのであれば、
I2Sが凝集、沈殿し、脳組織に浸透することができず、そのために、治療効果を得ることもできないであろう。また、実施例2、5には、リン酸塩を含まない製剤であっても、IT投与によって副作用を生じさせずに脳組織内に浸透し、治療効果を発揮したことが記載されている。そうすると、リン酸塩濃度が極めて低い態様(例えば、0〜5mM)であっても、免疫原性の回避という効果を奏し、それゆえ、本件明細書に記載された実施例の結果は、本件発明に免疫原性の問題がないことを十分に裏付けるものである。また、リン酸塩とタンパク質の結合の態様は問題となるものではない。
ウ pH及びリン酸塩濃度について 原告が、人工CSFとしてエリオットB溶液を使用し得る根拠とする甲20に引用されている唯一の参考文献である乙32には、エリオットB溶液のpHの実測値が、甲20に記載の「pH6.0〜7.5」ではなく、
「7.0-7.4」と記載されている。また、エリオットB溶液でリソソーム酵素を希釈して得られる製剤のpHは、エリオットB溶液自体のpHとは必ずしも一致せず、希釈後の製剤のpHを予測することが難しいことも、乙32の記載から明らかである。
そうすると、本件発明1におけるpHの範囲は、I2Sタンパク質をリン酸緩衝剤で希釈後の製剤のpH範囲を規定したものであるから、人工CSF自体(ビヒクルのみ)のpH値のみに依拠した原告の主張は、明らかに失当である。
また、リソソーム内は酸性(pH3〜5)に保たれており、ほとんどの加水分解酵素は酸性領域に最適pHを持つが、細胞内で細胞質とリソソーム内との間にpH値が2以上の差(100倍以上の水素イオン濃度の差)があることにより、リソソーム内の加水分解酵素がリソソームから漏れ出したとしても、細胞自身を消化してしまう危険性を回避していることが、本件出願の優先日前の技術常識であったもので、それゆえ、リソソーム内以外で加水分解酵素が働かないように、リソソーム外(細胞内液と細胞外液)のpHが、中性〜ややアルカリ性領域(約7〜7.4)に維持される必要があることを、当業者は当然に理解し得る(甲20、乙30〜32)。
したがって、リソソーム内部は酸性であるからリソソーム酵素のビヒクルも酸性であることが望ましいとの原告の主張は、本件出願の優先日前の技術常識の正しい理解に基づくものではない。
そして、本件特許の優先日前に、補充酵素のようなタンパク質を高濃度で脳脊髄液に投与できるような臨床的に安全かつ有効な酵素補充療法は確立されていなかった(本件明細書の【0005】【0006】 、 、乙1、11、29)もので、必要量の酵素を補充するためには、大量のビヒクルで希釈して使用する必要があったのであるから、少量かつ高濃度での投与が可能な低分子医薬のIT投与用製剤等と比較して、投与によるCSFのpH変動のリスクやそれに伴う薬物動態への影響がより一層懸念されることも、当業者であれば、当然に理解できる。
以上より、甲2発明に、エリオットB溶液の技術常識を適用して相違点の構成を採用することが当業者において容易に想到し得た事項であるという原告の主張は、
失当である。
エ 安定製剤について 安定製剤に関する原告の言及は、実施可能要件及びサポート要件に関するもので、
進歩性に関するものではない。なお、本件発明が安定製剤であることは、前記2のとおりである。
(3) 甲2中の示唆及び甲5技術の適用について ア リソソーム酵素としてI2Sを選択する強い示唆があるといえないことは、
前記(2)アのとおりである。
イ 甲5においてIT注射に用いられた製剤は、rhASBが5mg/mlの濃度で含まれている調製物ではなく、当該調製物1倍量を2倍量のエリオットB溶液で希釈して調製したものであり、rhASBの製剤中の最終濃度は5mg/3ml(すなわち1.67mg/ml)となる。このように、甲5に記載された発明に係る組成物中の補充酵素の濃度は、IT投与の時点で、本件発明の薬学的組成物中の酵素濃度をはるかに下回っている。
また、本件特許の優先日前に、補充酵素のようなタンパク質を高濃度で脳脊髄液に投与できるような臨床的に安全かつ有効な酵素補充療法は確立されていなかったことは、前記(2)ウのとおりであり、実際、甲5に記載の希釈前の5mg/mlのrhASAを含む製剤は、脳脊髄液中に投与されてはいない。なお、本件発明1の用途は、そもそも「脳室内投与されることを特徴」とする製剤であって、保存用の製剤でもない。
ウ 以上のとおりであるから、本件発明の課題や背景技術を正しく認識していた当業者であれば、甲5の記載からは、甲2発明に係る脳室内投与用製剤の補充酵素濃度と当該製剤のpHを、本件発明1(及びそれを引用する本件発明2〜12)に規定される濃度とpH範囲に変更することを動機付けられないし、甲2発明に甲5の記載をどのように組み合わせても、本件発明の構成に想到し得ないことは明らかである。
エ 本件発明6について 原告において本件発明6との対比において新たに認定した甲2発明’との相違点が、結局、本件発明1に係る相違点と一致するという以上、既に述べたところからして、本件発明6もまた、進歩性を有することが明らかである。
6 取消事由6(甲3発明を基礎とする進歩性の判断等の誤り)について (1) 甲3発明の認定等について 本件審決が認定した相違点について、甲3発明においては「イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の濃度が5mg/mL-100mg/mLに特定されていないこと」が認定されていない点で誤りを含むものであることは、原告が主張するとおりである。
しかし、後記(2)のとおり、本件審決は、補充酵素濃度を「5mg/mL-100mg/mL」とすることを当業者において容易に想到し得るかどうかについても他の相違点とともに判断されているから、上記の点が相違点として認定されていないことにより本件審決の判断に影響を与えることがないことは、明らかである。
(2) 進歩性の判断について ア 甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)の適用等について 前記5(1)アと同様、甲3発明に甲6発明(製剤)又は甲6発明(ビヒクル)を適用する動機付けはない。
また、前記5(2)イ(オ)のとおり、甲67、76及び乙39によると、動物の単位CSF容量当たりの投与量からの換算により、単純にCSFの容量比に応じた比例倍となるわけではなく、ヒトに適用する場合に製剤中の酵素濃度が高くなるわけでもない。
イ 高濃度化の技術常識及びエリオットB溶液の技術常識の適用等について (ア) 補充酵素濃度 a 本件審決が、証拠に基づいて免疫原性の問題に係る技術常識等を認定するとともに、補充酵素による免疫応答の問題を回避すべき旨の甲3の記載[0088] ( )を踏まえ、脳室内投与に用いる医薬組成物の補充酵素の濃度を高濃度とすることを示唆する記載もない甲3において、
[0021]に例示された0.58mg/mLから高濃度に変更することを当業者が考えるとはいえないと判断したとおり、本件特許の優先日前の背景技術を正しく理解していた当業者であれば、甲3発明に開示された補充酵素の濃度を高濃度にしようすることを避けるはずである。
同様に、当業者は、甲3の補充酵素濃度を、原告の主張するような5〜100m g/mLの補充酵素濃度に変更しようとはしない。
他方、前記5(2)イ(ア)のとおり、甲2の実施例2〜6では、低濃度(5mg/mlよりもはるかに低い)のhASMタンパク質を含むかなり大用量の液体が脳室内注入されたと考えられるから、甲2発明の補充酵素濃度を甲3発明に適用しても、
本件発明1が規定する補充酵素の濃度範囲になり得ない。
b 本件発明1において、免疫原性の問題を解決する手段は何ら反映されていないという原告の主張が失当であることは、前記5(2)イ(カ)のとおりである。
(イ) pH及びリン酸濃度 原告の主張に理由がないことは、前記5(2)ウのとおりである。
(ウ) 安定製剤について 安定製剤に関する原告の言及は、実施可能要件及びサポート要件に関するもので、
進歩性に関するものではない。なお、本件発明が安定製剤であることは、前記2のとおりである。
ウ 甲5技術の適用について 前記5(3)イ及びウと同様、本件発明の課題や背景技術を正しく認識していた当業者であれば、甲5の記載からは、甲3発明に係る脳室内投与用製剤の補充酵素濃度と当該製剤のpHを、本件発明1(及びそれを引用する本件発明2〜12)に規定される濃度とpH範囲に変更することを動機付けられないし、甲3発明に甲5の記載をどのように組み合わせても、本件発明の構成に想到し得ないことは明らかである。
エ 本件発明6について 原告において本件発明6との対比において新たに認定した甲3発明’との相違点1及び2のうち相違点1が、結局、本件発明1に係る相違点と一致するという以上、
既に述べたところからして、本件発明6もまた、進歩性を有することが明らかである。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
【技術分野】 【0001】 (関連出願の相互参照) 本願は、米国特許仮出願第61/358,857号(2010年6月25日出願) ;第61/360,786号(2010年7月1日出願) ;第61/387,862号(2010年9月29日出願) ;第61/435,710号(2011年1月24日出願);第61/442,115(2011年2月11日出願);第61/476,210号(2011年4月15日出願) ;および第61/495,268号(2011年6月9日出願)に対する優先権を主張し、これらの記載内容は各々、参照により本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。本願は、米国特許出願 表題「ヘパランN-スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「イズロン酸スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「β-ガラクトセレブロシダーゼのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「アリールスルファターゼAのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「サンフィリッポ症候群B型の治療」同日出願)これらの記載内容は各々、
( (参照により本明細書に援用される)と関連する。
【0002】 本願は、米国特許出願 表題「ヘパランN-スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「イズロン酸スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「β-ガラクトセレブロシダーゼのCNS送達のための方法および組成物」 (同日出願) ;「アリールスルファターゼAのCNS送達のための方法および組成物」(同日出願)「サンフィリッポ症候群B型の治療」 ; (同日出願)(これらの記載内容は各々、参照により本明細書に援用される)と関連する。
【背景技術】 【0003】 酵素補充療法(ERT)は、対象への天然または組換え的に得られるタンパク質および/または酵素の全身投与を伴う。認可療法は、典型的には、対象に静脈内投与され、一般的には、根元的酵素欠乏の身体症候を処置するのに有効である。中枢神経系(CNS)の細胞および組織中への静脈内投与タンパク質および/または酵素の限定的分布の結果として、静脈内投与タンパク質および/または酵素は血液-脳関門(BBB)を適切に横断しないため、CNS病因を有する疾患の処置は特に挑戦的であった。
【0004】 血液-脳関門(BBB)は、BBBを横切って、根元的脳脊髄液(CSF)およびCNS中に、血流中の有害物質、例えば細菌、高分子物質(例えばタンパク質)およびその他の親水性分子が分散するのを制限することにより、このような物質から中枢神経系(CNS)を保護するよう機能する内皮細胞からなる構造系である。
【0005】 直接脳内注射、BBBの一過性透過処理ならびに組織分布を変更するための活性作用物質の改質を含めて、治療薬の脳送達を増強するためにBBBを迂回するいくつかの方法がある。脳組織中への治療薬の直接注射は血管系を完全に迂回するが、
しかし、頭蓋内注射により背負い込まれる合併症(感染、組織損傷、免疫応答性)、
ならびに投与部位からの活性作用物質の不十分な拡散の危険を主に蒙る。今までのところ、脳物質中へのタンパク質の直接投与は、拡散バリアおよび投与され得る治療薬の用量限定のため、有意の治療効果を達成していない。緩徐長期注入を用いた脳実質中に配置されるカテーテルによる対流拡散(非特許文献1;非特許文献2)が研究されてきたが、しかし長期療法のためにこのアプローチを一般に用いる認可療法はない。更に、脳内カテーテルの配置は、非常に侵襲性であり、臨床的代替法として余り望ましくない。
【0006】 髄腔内腔内(IT)注射(判決注:原文ママ。以下「髄腔内腔内」の表記について同じ。)または脳脊髄液(CSF)へのタンパク質の投与も試みられてきたが、しかし未だに治療的成功を見ていない。この処置における大きな挑戦は、脳室の上衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散を妨げた。一般に、CSFへの直接的投与による脳遺伝子疾患の処置のための認可物質はない。
実際、脳の表面での拡散に対するバリア、ならびに有効且つ便利な送達方法の欠如は、任意の疾患に関する脳における適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考えていた。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 多数のリソソーム蓄積障害は神経系に影響を及ぼし、したがって伝統的療法でこれらの疾患を処置するに際して独特の挑戦を実証する。罹患個体のニューロンおよび髄膜において、グリコサミノグリカン(GAC)の大きな蓄積がしばしば認められ、種々の型のCNS症候を生じさせる。今までのところ、リソソーム障害に起因するCNS症候は、利用可能な任意の手段により首尾よく処置されてきた。
【0009】 したがって、脳に治療薬を有効に送達する必要性が依然として大いに存在する。
更に特定的には、リソソーム蓄積障害の処置のために中枢神経系に活性作用物質をより有効に送達することが大いに必要とされている。
【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は、中枢神経系(CNS)への治療薬の直接送達のための有効且つ低侵襲性のアプローチを提供する。本発明は、一部は、酵素が種々の表面を横断して有効 に且つ広範に拡散して、深部脳領域を含めて脳を横断する種々の領域に浸透するよう、リソソーム蓄積症のための補充酵素(例えば、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S))が高濃度(例えば、約3mg/mg以上、4mg/ml、5mg/ml、10mg/ml以上)での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導入され得る、という予期せぬ発見に基づいている。更に意外なことに、単なる生理食塩水または緩衝液ベースの製剤を用いて、そして対象において実質的副作用、例えば重篤な免疫応答を誘導することなく、このような高タンパク質濃度送達が達成され得る、ということを本発明人等は実証した。したがって、本発明は、
CNS構成成分を有する種々の疾患および障害、特にリソソーム蓄積症の治療のための直接CNS送達のための非常に効率的な、臨床的に望ましい、且つ患者に優しいアプローチを提供する。本発明は、CNSターゲッティングおよび酵素補充療法の分野における有意の進歩を示す。
【0011】 以下に詳細に説明されるように、本発明者は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の有効な髄腔内腔内(IT)投与のための安定製剤を成功裏に開発した。しかしながら、本明細書に記載される様々な安定製剤は、種々の他のリソソーム酵素を含める治療薬のCNS送達のために概ね好適であることが考えられる。事実、本発明による安定製剤は、限定されるものではないが、実質内投与、
脳内投与、脳室内(ICV)投与、髄腔内腔内(例えば、IT-腰椎、IT-大槽)投与およびCNSおよび/またはCSFへの直接的または間接的な注入のための任意の他の技術および経路が挙げられる種々の技術および経路を介してCNS送達のために用いられ得る。
【0012】 本明細書に記載される種々の安定製剤は、リソソーム蓄積疾患のための種々の補充酵素を含む治療用タンパク質などの他の治療薬のCNS送達に概ね好適である。
いくつかの実施形態では、補充酵素は、合成、組換え体、遺伝子活性化または天然 酵素であり得る。
【0013】 種々の実施形態では、本発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、塩と、ポリソルベート界面活性剤とを含む、直接的CNS髄腔内内投与のための安定製剤を包含する。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、
およそ1〜300mg/mlの範囲の濃度(例えば、1〜250mg/ml、1〜200mg/ml、1〜150mg/ml、1〜100mg/ml、1〜50mg/ml)で存在する。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、15mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、
80mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、または300mg/mlから選択される濃度でまたはその濃度までで存在する。
【0014】 種々の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤を包含し、ここでI2Sタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、配列番号1に少なくとも60%、
65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または98%同一のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤は、塩を含む。いくつかの実施形態では、この塩はNaClである。いくつかの実施形態では、このNaClは、およそ0〜300mMの範囲の濃度(例えば、0〜250mM、0〜200mM、0〜150mM、0〜100mM、0〜75mM、0〜50mM、または0〜30mM)で存在する。いくつかの実施形態では、このNaClは、およそ137〜154mMの範囲の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、このNaClはおよそ154mMの濃度で存在する。
【0015】 種々の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤を包含し、ここでポリソルベート界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、このポリソルベート界面活性剤は、ポリソルベート20である。いくつかの実施形態では、このポリソルベート20は、およそ0〜0.02%の範囲の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、このポリソルベート20は、およそ0.005%の濃度で存在する。
【0016】 種々の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤を包含し、ここで製剤は、緩衝剤を更に含む。いくつかの実施形態では、この緩衝剤は、リン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、Tris、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、緩衝剤はリン酸塩である。いくつかの実施形態では、このリン酸塩は、50mM以下の濃度(例えば、45mM、40mM、35mM、25mM、20mM、15mM、10mM、
または5mM以下)で存在する。いくつかの実施形態では、このリン酸塩は、20mM以下の濃度で存在する。種々の態様では、本発明は、本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤を包含し、ここで製剤はおよそ3〜8(例えば、およそ4〜7.5、5〜8、5〜7.5、5〜6.5、5〜7.0、5.5〜8.0、
5.5〜7.7、5.5〜6.5、6〜7.5、または6〜7.0)のpHを有する。いくつかの実施形態では、この製剤は、およそ5.5〜6.5(例えば、5.5、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、または6.5)のpHを有する。
いくつかの実施形態では、この製剤は約6.0のpHを有する。
【0017】 種々の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤を包含し、この製剤は、液体製剤である。種々の実施形態では、本発明は、
本明細書に記載されるいずれかの実施形態の安定製剤を包含し、この製剤は、凍結乾燥粉末として製剤化される。
【0018】 いくつかの実施形態では、およそ1〜300mg/mlの範囲の濃度でのイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、およそ154mMの濃度でのNaClと、約0.005%の濃度でのポリソルベート20と、約6.0のpHを含む、髄腔内投与のための安定製剤を包含する。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、約10mg/mlの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、およそ30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、75mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、または300mg/mlの濃度で存在する。
【0019】 種々の実施形態では、本発明は、本明細書で記載される種々の実施形態における安定製剤の単回投与形態を含む容器を包含する。いくつかの実施形態では、この容器は、アンプル、バイアル、ボトル、カートリッジ、レザバー、lyo-ject、
または前充填した注射器から選択される。いくつかの実施形態では、この容器は、
前充填された注射器である。いくつかの実施形態では、この前充填された注射器は、
ベイクドシリコーン被覆膜を有するホウケイ酸ガラス注射器、噴霧されたシリコーンを有するホウケイ酸ガラス注射器、またはシリコーンを含有しないプラスチック樹脂注射器から選択される。いくつかの実施形態では、安定製剤は、約50mL未満(例えば、45mL、40mL、35mL、30mL、25mL、20mL、15mL、10mL、5mL、4mL、3mL、2.5mL、2.0mL、1.5mL、1.0mL、または0.5mL以下)の容量で存在する。いくつかの実施形態では、この安定製剤は、約3.0mL以下の容量で存在する。
【0022】 いくつかの実施形態では、髄腔内腔内投与は、対象における実質的な副作用(例 えば、重篤な免疫反応)を生じさせない。いくつかの実施形態では、この髄腔内腔内投与は、被験者において、実質的な適応性T細胞媒介性免疫反応を生じさせない。
【0023】 いくつかの実施形態において、この製剤の髄腔内腔内投与は、脳、脊髄、および/または末梢器官内の種々の標的組織へのI2Sタンパク質の送達を生じさせる。
いくつかの実施形態では、この製剤の髄腔内腔内投与は、標的の脳組織へのI2Sタンパク質の送達を生じさせる。いくつかの実施形態では、この脳標的組織は、白質および/または灰白質内のニューロンを含む。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、脊髄内のニューロンに更に送達される。
【0024】 いくつかの実施形態では、この製剤の髄腔内腔内投与は、末梢標的組織へのI2Sタンパク質の全身的送達を更に生じさせる。いくつかの実施形態では、末梢標的組織は、肝臓、腎臓、膵臓および/または心臓から選択される。
【0025】 いくつかの実施形態では、この製剤の髄腔内腔内投与は、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内の細胞リソソーム局在化を生じさせる。いくつかの実施形態では、この製剤の髄腔内腔内投与は、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させる。いくつかの実施形態では、GAG蓄積は、対照(例えば、被験者における治療前のGAG蓄積)と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、
90%、1倍、1.5倍、または2倍まで低減される。いくつかの実施形態では、
この製剤の髄腔内腔内投与は、ニューロンの空胞化を減少させる(例えば、対照と比較して、少なくとも20%、40%、50%、60%、80%、90%、1倍、
1.5倍、または2倍までの)。いくつかの実施形態では、ニューロンは、プルキン エ細胞を含む。
【0026】 いくつかの実施形態では、この製剤の髄腔内腔内投与は、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のI2S酵素活性の増加を生じさせる。いくつかの実施形態では、このI2S酵素活性は、対照(例えば、対象における治療前の内因性酵素活性)と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、
7倍、8倍、9倍または10倍まで増加される。いくつかの実施形態では、I2S酵素活性の増加は、少なくともおよそ10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、40nmol/時・mg、50nmol/時・mg、60nmol/時・mg、70nmol/時・mg、80nmol/時・mg、90nmol/時・mg、
100nmol/時・mg、150nmol/時・mg、200nmol/時・mg、250nmol/時・mg、300nmol/時・mg、350nmol/時・mg、400nmol/時・mg、450nmol/時・mg、500nmol/時・mg、550nmol/時・mgまたは600nmol/時・mgである。
【0027】 いくつかの実施形態では、I2S酵素活性は、腰部で増加される。いくつかの実施形態では、腰部において増加したI2S酵素活性は、少なくともおよそ2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、4000nmol/時・mg、
5000nmol/時・mg、6000nmol/時・mg、7000nmol/時・mg、8000nmol/時・mg、9000nmol/時・mg、または10,000nmol/時・mgである。
【0028】 いくつかの実施形態では、この製剤の髄腔内腔内投与は、ハンター症候群の少なくとも1つの症状または特徴の強度、重症度、または頻度を低減し、若しくは遅延した発症を生じさせる。いくつかの実施形態では、ハンター症候群の少なくとも1つの症状または特徴は、認知障害;白質病巣;脳実質、神経節、脳梁、および/ま たは脳幹内の膨張した血管周囲腔;委縮、ならびに/または脳室拡大である。
【発明を実施するための形態】 【0036】 定義 本発明をより容易に理解するために、一定の用語を先ず以下で定義する。以下の用語および他の用語に関する付加的な定義は、本明細書全体を通して記述されている。
【0037】 「およそまたは約」は、本明細書中で用いる場合、
「およそ」または「約」という用語は、1つ以上の当該値に適用される場合、記述参照値と類似する値を指す。ある実施形態では、
「およそ」または「約」という用語は、別記しない限り、或いはそうでない場合は本文から明らかな記述参照値のいずれかの方向で(より大きいかまたはより小さい)25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、
3%、2%、1%またはそれ以下内にある一連の値を指す(このような数が考え得る値の100%を超える場合を除く)。
【0038】 「改善」:本明細書中で用いる場合、「改善」という用語は、ある状態の防止、低減または緩和、或いは対象の状態の改善を意味する。改善は、疾患状態の完全回復または完全防止を包含するが、しかし必要とするわけではない。いくつかの実施形態では、改善は、関連疾患組織中に欠けている漸増レベルの関連タンパク質またはその活性を包含する。
【0039】 「生物学的に活性な」:本明細書中で用いる場合、「生物学的に活性な」という語句は、生物学的系において、特に生物体において活性を有する任意の作用物質の特徴を指す。例えば、生物体に投与された場合、その生物体に及ぼす生物学的作用を 有する作用物質は、生物学的に活性であるとみなされる。タンパク質またはポリペプチドが生物学的に活性である特定の実施形態では、当該タンパク質またはポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を共有するそのタンパク質またはポリペプチドの一部分は、典型的には、「生物学的活性」部分として言及される。
【0040】 「増量剤」:本明細書中で用いる場合、「増量剤」という用語は、凍結乾燥混合物に質量を付加し、凍結乾燥ケークの物理的構造に寄与する(例えば、開口構造を保持する本質的に均一な凍結乾燥ケークの生産を促す)化合物を指す。バルク剤の例としては、マンニトール、グリシン、塩化ナトリウム、ヒドロキシエチルデンプン、
ラクトース、スクロース、トレハロース、ポリエチレングリコールおよびデキストランが挙げられる。
【0041】 「陽イオン非依存性マンノース-6-ホスフェート受容体(CI-MPR):本 」明細書中で用いる場合、「陽イオン非依存性マンノース-6-ホスフェート受容体(CI-MPR) という用語は、
」 リソソームへの輸送を定められているゴルジ装置における酸加水分解酵素上のマンノース-6-ホスフェート(M6P)タグを結合する細胞受容体を指す。マンノース-6-ホスフェートのほかに、CI-MPRは、
他のタンパク質、例えばIGF-IIも結合する。CI-MPRは、
「M6P/IGF-II受容体」「CI-MPR/IGF-II受容体」「IGF-II受容体」 、 、
または「IGF2受容体」としても既知である。これらの用語およびその略語は、
本明細書中で互換的に用いられる。
【0042】 「同時免疫抑制薬療法」:本明細書中で用いる場合、「同時免疫抑制薬療法」という用語は、前処置、前状態調節として、またはある処置方法と平行して用いられる任意の免疫抑制薬療法を包含する。
【0043】 「希釈剤」:本明細書中で用いる場合、「希釈剤」という用語は、再構成処方物の調整のために有用な製薬上許容可能な(例えば、ヒトへの投与のために安全且つ非毒性の)希釈物質を指す。希釈剤の例としては、滅菌水、注射用静菌性水(BWFI)、pH緩衝溶液(後、リン酸塩緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩溶液、リンガー溶液またはデキストロース溶液が挙げられる。
【0044】 「剤形」:本明細書中で用いる場合、「剤形」および「単位剤形」という用語は、
処置されるべき患者のための治療用タンパク質の物理的に別個の単位を指す。各単位は、所望の治療効果を生じるよう算定された予定量の活性物質を含有する。しかしながら、組成物の総投与量は、信頼できる医学的判断の範囲内で、担当医により決定される、と理解される。
【0045】 「酵素補充療法(ERT):本明細書中で用いる場合、
」 「酵素補充療法(ERT)」という用語は、失われている酵素を提供することにより酵素欠乏症を矯正する任意の治療戦略を指す。いくつかの実施形態では、失われている酵素は、髄腔内腔内投与により提供される。いくつかの実施形態では、失われている酵素は、血流中への注入により提供される。一旦投与されると、酵素は細胞に取り込まれ、リソソームに運ばれて、そこで酵素は、酵素欠乏のためにリソソーム中に蓄積された物質を除去するよう作用する。典型的には、有効であるべきリソソーム酵素補充療法に関して、治療用酵素は、貯蔵欠陥が顕在性である標的組織中の適切な細胞中のリソソームに送達される。
【0046】 「改善する、増大するまたは低減する」:本明細書中で用いる場合、「改善する」、
「増大する」または「低減する」という用語、或いは文法的等価物は、基線測定値、
例えば本明細書中に記載される処置の開始前の同一個体における測定値、或いは本明細書中に記載される処置の非存在下での一対照個体(または多数の対照個体)に おける測定値と比較した場合の値を示す。
「対照個体」は、処置されている個体と同一型のリソソーム貯蔵疾患に罹患している個体であって、処置されている個体とほぼ同年齢である(処置個体と対照個体(単数または複数)における疾患の段階が比較可能であることを保証するため)。
【0047】 「個体、対象、患者」 :本明細書中で用いる場合、
「対象」「個体」または「患者」 、
という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物対象を指す。処置されている個体「患者」 (または「対象」としても言及される)は、疾患に罹患している個体(胎児、幼児、
小児、若者または成人)である。
【0048】 「髄腔内腔内投与」:本明細書中で用いる場合、「髄腔内腔内投与」または「髄腔内腔内注射」という用語は、脊柱管(脊髄周囲の髄腔内腔内空隙)への注射を指す。
種々の技法、例えば穿頭孔或いは槽または腰椎穿刺等を通した外側脳室注射が用いられ得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明による「髄腔内腔内投与」または「髄腔内腔内送達」は、腰椎域または領域を介したIT投与または送達、すなわち、腰椎IT投与または送達を指す。本明細書中で用いる場合、
「腰部領域」または「腰椎域」という用語は、第三および第四腰椎(背中下部)間の区域、さらに包括的には、脊椎のL2〜S1領域を指す。
【0051】 「リソソーム酵素」 :本明細書中で用いる場合、
「リソソーム酵素」という用語は、
哺乳動物リソソーム中の蓄積物質を還元し得るか、或いは1つ以上のリソソーム貯蔵疾患症候を救出するかまたは改善し得る任意の酵素を指す。本発明に適しているリソソーム酵素は、野生型または修飾リソソーム酵素の両方を包含し、組換えおよび合成方法を用いて生成され得るし、或いは天然供給源から精製され得る。リソソーム酵素の例は、表1に列挙されている。
【0052】 「リソソーム酵素欠乏症」:本明細書中で用いる場合、「リソソーム酵素欠乏症」は、高分子物質(例えば酵素基質)をリソソーム中でペプチド、アミノ酸、単糖、
核酸および脂肪酸に分解するために必要とされる酵素の少なくとも1つにおける欠乏に起因する遺伝子障害の一群を指す。その結果、リソソーム酵素欠乏症に罹患している個体は、種々の組織(例えば、CNS、肝臓、脾臓、腸、血管壁およびその他の器官)中に物質を蓄積している。
【0053】 「リソソーム蓄積症」:本明細書中で用いる場合、「リソソーム蓄積症」という用語は、天然高分子物質を代謝するために必要な1つ以上のリソソーム酵素の欠乏に起因する任意の疾患を指す。これらの疾患は、典型的には、リソソーム中に非分解分子の蓄積を生じて、貯蔵顆粒(貯蔵小胞とも呼ばれる)の数を増大する。これらの疾患および種々の例は、以下で詳細に記載される。
【0055】 「補充酵素」:本明細書中で用いる場合、「補充酵素」という用語は、処置されるべき疾患において欠乏しているかまたは失われている酵素に少なくとも一部は取って替わるよう作用し得る任意の酵素を指す。いくつかの実施形態では、「補充酵素」という用語は、処置されるべきリソソーム蓄積症において欠乏しているかまたは失われているリソソーム酵素に少なくとも一部は取って替わるよう作用し得る任意の酵素を指す。いくつかの実施形態では、補充酵素は、哺乳動物リソソーム中の蓄積物質を低減し得るし、或いは1つ以上のリソソーム蓄積症症候を救出するかまたは改善し得る。本発明に適している補充酵素は、野生型または修飾リソソーム酵素の両方を包含し、組換えおよび合成方法を用いて生成し得るし、或いは天然供給源から精製され得る。補充酵素は、組換え、合成、遺伝子活性化または天然酵素であり得る。
【0056】 「可溶性の」:本明細書中で用いる場合、「可溶性の」という用語は、均質溶液を 生成する治療薬の能力を指す。いくつかの実施形態では、それが投与されそれが標的作用部位(例えば、脳の細胞および組織)に輸送される溶液中の治療薬の溶解度は、標的作用部位への治療的有効量の治療薬の送達を可能にするのに十分である。
いくつかの因子が、治療薬の溶解度に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質溶解度に影響し得る関連因子としては、イオン強度、アミノ酸配列および他の同時可溶化剤または塩(例えば、カルシウム塩)の存在が挙げられる。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、カルシウム塩がこのような組成物から除去されるよう処方される。いくつかの実施形態では、本発明による治療薬は、その対応する薬学的組成物中で可溶性である。非経口投与薬のためには等張溶液が一般的に好ましいが、
等張溶液の使用は、いくつかの治療薬、特にいくつかのタンパク質および/または酵素に関する適切な溶解度を制限し得る、と理解される。わずかに高張性の溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に175mMまでの塩化ナトリウム)および糖含有溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に2%までのスクロース)は、サルにおいて良好に耐容されることが実証されている。例えば、最も一般に認可されたCNSボーラス製剤組成物は、生理食塩水(水中150mMのNaCl)である。
【0057】 「安定性」:本明細書中で用いる場合、「安定な」という用語は、長期間に亘ってその治療効力(例えば、その意図された生物学的活性および/または物理化学的完全性のすべてまたは大部分)を保持する治療薬(例えば、組換え酵素)の能力を指す。治療薬の安定性、ならびにこのような治療薬の安定性を保持する薬学的組成物の能力は、長期間に亘って査定され得る(例えば、少なくとも1、3、6、12、
18、24、30、36ヶ月またはそれ以上)。概して、本明細書中に記載される薬学的組成物は、それらが、一緒に処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、或いはそれらの分解を遅くするかまたは防止し得るよう、
処方されている。一処方物の状況では、安定処方物は、貯蔵時、および加工処理(例 えば、凍結/解凍、機械的混合および凍結乾燥)中に、その中の治療薬が本質的にその物理的および/または化学的完全性および生物学的活性を保持するものである。
タンパク質安定性に関しては、それは、高分子量(HMW)集合体の形成、酵素活性の損失、ペプチド断片の生成および電荷プロフィールの移動により測定され得る。
【0062】 「合成CSF」:本明細書中で用いる場合、「合成CSF」という用語は、脳脊髄液と一致するpH、電解質組成、グルコース含量および浸透圧を有する溶液を指す。
合成CSFは、人工CSFとも呼ばれる。いくつかの実施形態では、合成CSFはエリオットB溶液である。
【0063】 「CNS送達に適している」:本明細書中で用いる場合、「CNS送達に適している」または「髄腔内腔内送達に適している」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、このような組成物の安定性、耐容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能力を指す。
【0064】 「標的組織」:本明細書中で用いる場合、「標的組織」は、処置されるべきリソソーム蓄積症により影響を及ぼされる任意の組織、或いは欠乏リソソーム酵素が正常に発現される任意の組織を指す。いくつかの実施形態では、標的組織は、リソソーム蓄積症に罹患しているかまたは罹患し易い患者において、検出可能な、または異常に高量の酵素基質が存在する、例えば当該組織の細胞リソソーム中に貯蔵される組織を包含する。いくつかの実施形態では、標的組織は、疾患関連病態、症候または特徴を示す組織を包含する。いくつかの実施形態では、標的組織は、欠乏リソソーム酵素が高レベルで正常に発現される組織を包含する。本明細書中で用いる場合、
標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末梢標的組織であり得る。
標的組織の例は、以下で詳細に記載される。
【0067】 「耐容可能な」:本明細書中で用いる場合、「耐容可能な」および「耐容性」という用語は、このような組成物が投与される対象において悪反応を引き出さないか、
代替的には、このような組成物が投与される対象において重篤な悪反応を引き出さない本発明の薬学的組成物の能力を指す。いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、このような組成物が投与される対象により良好に耐容される。
【0069】 本発明は、特に、中枢神経系(CNS)への治療薬の有効な直接送達のための改良された方法および組成物を提供する。上記のように、本発明は、リソソーム蓄積症(例えば、ハンター症候群)に関する補充酵素(例えば、I2Sタンパク質)が、
被験者における実質的副作用を誘導することなく、高濃度で治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接導入され得る、という予期せぬ発見に基づいている。
更に意外なことに、合成CSFを用いることなく、補充酵素が単なる生理食塩水または緩衝液ベースの処方物中で送達され得る、ということを本発明人等は見出した。
更に予期せぬことに、本発明による髄腔内腔内送達は、対象における実質的副作用、
例えば重症免疫応答を生じない。したがって、いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達は、同時免疫抑制薬療法の非存在下で(例えば、前処置または前状態調節による免疫寛容の誘導なしで)、用いられ得る。
【0070】 いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達は、種々の脳組織を通した効率的拡散を可能にして、表面、浅在および/または深部脳領域における種々の標的脳組織における補充酵素の効果的送達を生じる。いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。その結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内腔内送達は、肝臓、心臓、
脾臓および腎臓のような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであり、典型的には定期的髄腔内腔内投与および静脈内投与を必要とす るCNSおよび末梢構成成分の両方を有するリソソーム蓄積症の処置のために特に有用であり得る。本発明による髄腔内腔内送達は、末梢症候を処置するに際して治療効果を危うくすることなく、静脈内注射の用量投与および/または頻度低減を可能にし得る、ということが意図される。
【0071】 本発明は、種々の脳標的組織への補充酵素の効率的且つ便利な送達を可能にして、
CNS指標を有するリソソーム蓄積症の有効な処置を生じる種々の予期せぬ且つ有益な特徴を提供する。
【0072】 本発明の種々の態様は、以下の節で詳細に記載される。節の記載内容は、本発明を限定するものではない。各説は、本発明の任意の態様に適用し得る。この出願において、「または」は、別記しない限り「および/または」を意味する。
補充酵素 イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質 【0073】 いくつかの実施形態では、本発明によって提供された発明の方法および組成物は、
ハンター症候群の治療のために、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質をCNSへと送達するために用いられる。好適なI2Sタンパク質は、自然発生型イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質活性に代替となり得る、若しくはI2S欠損症の1つ以上の表現型または症状を救援し得るいずれかの分子または分子の一部であり得る。いくつかの実施形態では、本発明に関して好適な補充酵素は、成熟ヒトI2Sタンパク質とほぼ同様または同一のN末端およびC末端ならびにアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
他のリソソーム蓄積症および補充酵素 【0077】 本発明の方法は、任意のリソソーム蓄積症、特にCNS病因および/または症候 を有するリソソーム蓄積症、例えば、アスパルチルグルコサミン尿症、コレステロールエステル蓄積症、ウォルマン病、シスチン症、ダノン病、ファブリー病、ファーバー脂肪肉芽腫症、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス I/II型、ゴーシェ病 I/II/III型、グロボイド細胞白質ジストロフィー症、クラッベ病、糖原病 II型、ポンペ病、GM1-ガングリオシドーシス I/II/III型、GM2-ガングリオシドーシス I型、テイ・サックス病、GM2-ガングリオシドーシス II型、サンドホッフ病、GM2-ガングリオシドーシス、α-マンノーシドーシス I/II型、β-マンノーシドーシス、異染性白質ジストロフィー症、ムコリピドーシス I型、シアリドーシス I/II型、
ムコリピドーシス II/III型、ムコリピドーシス IV型、I-細胞病、ムコリピドーシス IIIC型、偽性ハーラーポリジストロフィー、ムコ多糖症 I型、ムコ多糖症II型、ハンター症候群、ムコ多糖症 IIIA型、サンフィリッポ症候群 A、BまたはD型、ムコ多糖症 IIIB型、ムコ多糖症 IIIC型、
ムコ多糖症 IIID型、ムコ多糖症 IVA型、モルキオ症候群、ムコ多糖症 IVB型、ムコ多糖症 VI型、ムコ多糖症 VII型、スライ症候群、ムコ多糖症IX型、多重スルファターゼ欠乏症、ニューロンセロイド脂褐素沈着症、CLN1バッテン病、CLN2バッテン病、ニーマン・ピック病 A/B型、ニーマン・ピック病 C1型、ニーマン・ピック病 C2型、濃化異骨症、シンドラー病 I/II型、ゴーシェ病およびシアル酸蓄積症(これらに限定されない)を処置するために用いられ得ると考えられる。
【0079】 本発明の方法は、種々の他の補充酵素を送達するために用いられ得る。本明細書中で用いる場合、本発明に適した補充酵素は、処置されるべきリソソーム蓄積症において欠乏しているかまたは失われているリソソーム酵素の少なくとも一部の活性に取って替わるよう作用し得る任意の酵素を包含し得る。いくつかの実施形態では、
補充酵素は、リソソーム中の蓄積物質を低減し得るし、或いは1つ以上のリソソー ム蓄積症症候を救出するかまたは改善し得る。
【0089】 いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、標的部分(例えば、リソソーム標的配列)および/または膜透過ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、標的配列および/または膜透過ペプチドは、治療成分の内因性部分(例えば、化学結合を介して、融合タンパク質を介しての)である。いくつかの実施形態では、標的配列は、マンノース-6-リン酸塩部分を含有する。いくつかの実施形態では、標的配列は、IGF-1部分を含有する。いくつかの実施形態では、標的配列は、IGF-II部分を含有する。
製剤 【0090】 いくつかの実施形態では、所望の酵素は、髄腔内腔内送達のために安定製剤中で送達される。本発明のある実施形態は、少なくとも一部は、本明細書中に開示される種々の製剤が、CNSの標的化組織、細胞および/または細胞小器官への1つ以上の治療薬(例えば、酵素)の有効な送達および分布を促す、という発見に基づいている。特に、本明細書中に記載される製剤は、高濃度の治療薬(例えば、タンパク質または酵素)を可溶化し得るし、CNS構成成分および/または病因を有する疾患の処置のために対象のCNSにこのような治療薬を送達するのに適している。
本明細書中に記載される組成物は、それを必要とする対象のCNSに(例えば髄腔内腔内に)投与される場合、安定性改善および耐容性改善により更に特性化される。
【0091】 本発明の前に、伝統的非緩衝化等張生理食塩水およびエリオットのB溶液(人工CSF)が、典型的には髄腔内腔内送達のために用いられた。エリオットのB溶液に対するCSFの組成を表す比較は、以下の表3に含まれている。表3に示されているように、エリオットB溶液の濃度は、CSFの濃度と密接に類似している。しかしながら、エリオットのB溶液は、極度に低い緩衝剤濃度を含有し、したがって、
特に長期間に亘って(例えば、貯蔵状態の間)、治療薬(例えばタンパク質)を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ない。更に、エリオットのB溶液は、いくつかの治療薬、特にタンパク質または酵素を送達するよう意図された製剤と非相溶性であり得るある種の塩を含有する。例えば、エリオットのB溶液中に存在するカルシウム塩は、タンパク質沈降を媒介し、それにより製剤の安定性を低減し得る。
【表3】 【0092】 したがって、いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達に適した製剤は、合成または人工CSFではない。
【0093】 いくつかの実施形態では、髄腔内腔内送達のための製剤は、それらが、それとともに処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、或いはその分解を遅くするかまたは防止し得るよう、製剤化されている。本明細書中で用いる場合、
「安定な」という用語は、長期間に亘ってその治療効力(例えば、その意図された生物学的活性および/または物理化学的完全性のすべてまたは大多数) を保持する治療薬(例えば、組換え酵素)の能力を指す。治療薬の安定性、ならびにこのような治療薬の安定性を保持する薬学的組成物の能力は、長期間(例えば、
好ましくは少なくとも1、3、6、12、18、24、30、36ヶ月またはそれ以上)に亘って査定され得る。製剤の状況では、安定製剤は、貯蔵時および加工処理(例えば、凍結/解凍、機械的混合および凍結乾燥)の間、その中の治療薬が本質的にはその物理的および/または化学的完全性ならびに生物学的活性を保持するものである。タンパク質安定性に関しては、それは、高分子量(HMW)集合体の形成、酵素活性の損失、ペプチド断片の生成、および電荷プロフィールの移動により測定され得る。
【0094】 治療薬の安定性は、特別な重要性を有する。治療薬の安定性は、長期間に亘る治療薬の生物学的活性または物理化学的完全性に関して更に査定され得る。例えば、
所定の時点での安定性は、早期時点(例えば、処方0日目)での安定性に対して、
或いは非製剤化治療薬に対して比較され得る。この比較の結果は、パーセンテージとして表される。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、長期間に亘って(例えば、
室温で、または加速貯蔵条件下で、少なくとも6〜12ヶ月間に亘って測定)、治療薬の生物学的活性または物理化学的完全性の少なくとも100%、少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも97%、少なくとも95%、少なくとも90%、
少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、少なくとも60%、少なくとも55%または少なくとも50%を保持する。
【0095】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば、所望の酵素)は、本発明の製剤中で可溶性である。
「可溶性の」という用語は、均質溶液を生成するこのような治療薬の能力を指す。好ましくは、それが投与されそれが標的作用部位(例えば、脳の細胞および組織)に輸送される溶液中の治療薬の溶解度は、標的作用部位への治療的有 効量の治療薬の送達を可能にするのに十分である。いくつかの因子が、治療薬の溶解度に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質溶解度に影響し得る関連因子としては、イオン強度、アミノ酸配列および他の同時可溶化剤または塩(例えば、カルシウム塩)の存在が挙げられる。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、カルシウム塩がこのような組成物から除去されるよう製剤化される。
【0096】 水性形態、前凍結乾燥形態、凍結乾燥または再構成形態のいずれかの好適な製剤は、種々の濃度で対象の治療薬剤を含有してよい。いくつかの実施形態では、製剤は、対象のタンパク質または治療薬剤を、約0.1mg/ml〜100mg/mlの範囲の濃度(例えば、約0.1mg/ml〜80mg/ml、約0.1mg/ml〜60mg/ml、約0.1mg/ml〜50mg/ml、約0.1mg/ml〜40mg/ml、約0.1mg/ml〜30mg/ml、約0.1mg/ml〜25mg/ml、約0.1mg/ml〜20mg/ml、約0.1mg/ml〜60mg/ml、約0.1mg/ml〜50mg/ml、約0.1mg/ml〜40mg/ml、約0.1mg/ml〜30mg/ml、約0.1mg/ml〜25mg/ml、約0.1mg/ml〜20mg/ml、約0.1mg/ml〜15mg/ml、約0.1mg/ml〜10mg/ml、約0.1mg/ml〜5mg/ml、約1mg/ml〜10mg/ml、約1mg/ml〜20mg/ml、約1mg/ml〜40mg/ml、約5mg/ml〜100mg/ml、約5mg/ml〜50mg/ml、または約5mg/ml〜25mg/ml)で含有してよい。いくつかの実施形態では、本発明のよる製剤は、約1mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、15mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、または100mg/mlの濃度で治療薬剤を含有してよい。
【0097】 本発明の製剤は、水性溶液としてまたは再構成された凍結乾燥溶液として、それらの忍容性によって特徴付けられる。本明細書で使用するとき、用語「忍容可能」および「忍容性」とは、このような組成物が投与される対象において有害反応を誘発することがない、あるいはこのような組成物が投与される対象において重篤な有害反応を誘発することがない、本発明の医薬組成物の能力を指す。いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、このような組成物が投与される対象者によって、
良好に耐容される。
【0098】 多数の治療薬、特に本発明のタンパク質および酵素は、本発明の薬学的組成物中でそれらの溶解性および安定性を保持するために、制御されたpHおよび特定の賦形剤を要する。以下の表4は、本発明のタンパク質治療薬の溶解性および安定性を保持するために重要であるとみなされるタンパク質製剤の典型的例示的態様を特定する。
【表4】 緩衝液 【0099】 製剤のpHは、水性製剤中または前凍結乾燥製剤用の治療薬剤(例えば、酵素またはタンパク質)の溶解度を変更することが可能である追加的因子である。したがって、本発明の製剤は1つ以上の緩衝液を含むことが好ましい。いくつかの実施形態では、水性製剤は、約4.0〜8.0(例えば、約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.2、6.4、6.5、6.6、6.8、7.0、7.5、または8.0)の間で前記組成物の最適pHを維持するために十分な緩衝液の量を含む。
いくつかの実施形態では、製剤のpHは、約5.0〜7.5の間、約5.5〜7.0の間、約6.0〜7.0の間、約5.5〜6.0の間、約5.5〜6.5の間、
約5.0〜6.0の間、約5.0〜6.5の間および約6.0〜7.5の間である。
好適な緩衝液としては、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、コハク酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(「トリス」)および他の有機酸が挙げられる。本発明の医薬組成物の緩衝液濃度およびpH範囲は、製剤の忍容性の制御または調整における因子である。いくつかの実施形態では、緩衝剤は、約1mMから約150mMの間の、または約10mMから約50mMの間の、または約15mMから約50mMの間の、または約20mMから約50mMの間の、若しくは約25mMから約50mMの間の範囲の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、好適な緩衝剤は、約1mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、75mM、100mM、125mMまたは150mMの濃度で存在する。
浸透圧 【0100】 いくつかの実施形態では、水性形態、前凍結乾燥形態、凍結乾燥または再構成形態のいずれかでの製剤は、製剤を等張に保つための等張剤を含有する。一般的に、
「等張」とは、対象の製剤が、ヒトの血液と本質的に同一の浸透圧を有することを意味する。等張製剤は、約240mOsm/kgから約350mOsm/kgの浸透圧を概ね有するであろう。等張性は、例えば、蒸気圧または凝固点型浸透圧計を 用いて測定され得る。例示的等張剤としては、グリシン、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウムおよびアルギニンが挙げられるが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、好適な等張剤は、約0.01〜5重量%(例えば、0.05、0.1、0.15、0.2、0.3、0.4、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、2.0、2.5、3.0、4.0または5.0重量%)の濃度で、
水性および/または前凍結乾燥製剤で存在し得る。いくつかの実施形態では、凍結乾燥用の製剤は、前凍結乾燥製剤または再構成製剤を等張に保つために等張剤を含有する。
【0101】 一般的には、等張溶液は、非経口投与される薬剤に好適であるが、等張剤の使用は、いくつかの治療薬剤、特にいくつかのタンパク質および/または酵素に対して溶解度を変化させ得る。僅かに高張な溶液(例えば、pH7.0で、5mMのリン酸ナトリウム中の175mMまでの塩化ナトリウム)および糖含有溶液(例えば、
pH7.0で、5mMのリン酸ナトリウム中の2%までのショ糖)は、良好に耐容されることが立証されている。最も一般的に承認されているCNS投与処方組成物は、生理食塩水(水中、約150mMのNaCl)である。
安定化剤 【0102】 いくつかの実施形態では、製剤は、タンパク質を保護するために、安定化剤、またはリオプロテクタントを含有してよい。典型的には、好適な安定化剤は、糖、非環元糖および/またはアミノ酸である。例示的な糖としては、デキストラン、乳糖、
マンニトール、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、ショ糖およびトレハロースが挙げられるが、これに限定されない。例示的なアミノ酸としては、アルギニン、グリシンおよびメチオニンが挙げられるが、これに限定されない。追加的な安定化剤としては、塩化ナトリウム、ヒドロキシエチルデンプンおよびポリビニルピロリドンを挙げることができる。凍結乾燥製剤中の安定化剤の量は、概ねその製剤 が等張であるような量である。しかしながら、高張の再構成製剤もまた好適であり得る。更に、安定化剤の量は、治療薬剤の分解/凝集の許容不能な量が生じるようなあまりに低い量であってはならない。製剤中の例示的な安定化剤濃度は、約1mMから約400mMの範囲(例えば、約30mM〜約300mM、および約50mM〜約100mM)あるいは、 1%から15重量% 、 0. (例えば、1%〜10重量%、
5%〜15重量%、5%〜10重量%)の範囲でもよい。いくつかの実施形態では、
安定化剤および治療薬剤の質量の比は、約1:1である。他の実施形態では、安定化剤および治療薬剤の質量の比は、約0.1:1、0.2:1、0.25:1、0.4:1、0.5:1、1:1、2:1、2.6:1、3:1、4:1、5:1、10:1、または20:1であることができる。いくつかの実施形態では、凍結乾燥に好適な安定化剤はまた、リオプロテクタントである。
界面活性剤 【0105】 いくつかの実施形態では、製剤に界面活性剤を付加することが望ましい。界面活性剤の例としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20または80) ;ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188) ;トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS) ;ラウリル硫酸ナトリウム;ナトリウムオクチルグリコシド;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-またはステアリル-スルホベタイン;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-またはステアリル-サルコシン;リノレイル-、ミリスチル-またはセチル-ベタイン;ラウロアミドプロピル-、コカミドプロピル-、リノレアミドプロピル-、ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-またはイソステアラミドプロピル-ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル) ;ミリスタルニドプロピル-、パルミドプロピル-またはイソステアラミドプロピル-ジメチルアミン;ナトリウムメチルココイル-または二ナトリウムメチルオフェイル-タウレート;およびMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc. Paterson, N.J.、ポリエチルグリコール、ポリプ , ) ロピルグリコール、ならびにエチレンおよびプロピレングリコールのコポリマー(例えば、プルロニック、PF68等)が挙げられる。典型的には、付加される界面活性剤の量は、それがタンパク質の凝集を低減し、粒子の形成または泡立ちを最小限にするような量である。例えば、界面活性剤は、約0.001〜0.5%(例えば、
約0.005〜0.05%または0.005〜0.01%)の濃度で製剤中に存在し得る。特に、界面活性剤は、約0.005%、0.01%、0.02%、0.1%、
0.2%、0.3%、0.4%または0.5%等の濃度で製剤中に存在し得る。
【0107】 本発明による水性形態、前凍結乾燥形態、凍結乾燥または再構成形態のいずれかでの製剤は、品質分析、再構成時間(凍結乾燥された場合)、再構成の質(凍結乾燥された場合)、高分子量、水分およびガラス転移温度に基づいて査定され得る。典型的には、タンパク質の質および生成物分析は、例えば、サイズ排除HPLC(SE-HPLC)、陽イオン交換-HPLC(CEX-HPLC)、X線回析(XRD)、
変調型示差走査熱量測定(mDSC)、逆相HPLC(RP-HPLC)、多角度光散乱(MALS)、蛍光、紫外線吸収、ネフェロメトリー、毛細管電気泳動(CE)、
SDS-PAGEおよびその組合せ(これらに限定されない)を含めた方法を用いる生成物分解率分析を包含する。いくつかの実施形態では、本発明による生成物の評価は、 (液体またはケーク外観のいずれか) 外観 を評価するステップを包含する。
【0108】 一般的に、製剤(凍結乾燥化または水性)は、室温で長期間保存され得る。貯蔵温度は、典型的には、0℃〜45℃(例えば、4℃、20℃、25℃、45℃等)の範囲であり得る。製剤は、数ヶ月〜数年の間貯蔵され得る。貯蔵時間は、一般的に、24ヶ月、12ヶ月、6ヶ月、4.5ヶ月、3ヶ月、2ヶ月または1ヶ月である。製剤は、投与のために用いられる容器中に直接貯蔵されて、移送ステップを排除し得る。
【0109】 生成物は、凍結乾燥容器(凍結乾燥される場合)中に直接貯蔵され得るが、これは、再構成容器としても機能して、移送ステップを排除し得る。代替的には、凍結乾燥物質製剤は、貯蔵のためにより小さい増分で測定され得る。貯蔵は、一般的に、
タンパク質の分解を生じさせる環境、例えば日光、紫外線他の形態の電磁放射線、
過剰な熱または寒冷、急速な熱ショック、ならびに機械的衝撃への曝露(これらに限定されない)を避けるべきである。
凍結乾燥 【0110】 本発明による発明の方法は、いずれかの材料、特に治療薬剤を凍結乾燥するために使用され得る。典型的には、前凍結乾燥製剤は、凍結乾燥および貯蔵中に、対象の化合物が分解すること(例えばタンパク質凝集、脱アミド、および/または酸化)を抑制するために、賦形剤または安定化剤、緩衝剤、増量剤、および界面活性剤などの他の成分の適切な選択を更に含む。凍結乾燥用の製剤は、リオプロテクタントまたは安定化剤、緩衝液、増量剤、等張剤および界面活性剤を含む1つ以上の追加的成分を含むことができる。
再構成 【0116】 本発明の医薬組成物は、被験者に投与される際には概ね水性形態であるが、いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は凍結乾燥されている。このような組成物は、被験者に投与される前に、1つ以上の希釈剤をそれに添加することによって再構成されねばならない。所望の段階で、典型的には患者に投与される前の適切な時間に、再構成された製剤中のタンパク質濃度が望ましいものであるように、凍結乾燥製剤は、希釈剤で再構成され得る。
【0117】 本発明により種々の希釈剤が用いられてよい。いくつかの実施形態では、製剤用の好適な希釈剤は、水である。この希釈剤として使用される水は、逆浸透、蒸留、
脱イオン、濾過(例えば、活性炭、マイクロ濾過、ナノ濾過)およびこれらの処理法の組み合わせが挙げられる種々の方法で処理され得る。一般的には、水は、注射用に好適であるべきであり、注射用の無菌水または静菌水が挙げられるが、これに限定されない。
【0118】 追加の例示的希釈剤としては、pH緩衝溶液(例えば、リン酸塩-緩衝生理食塩水)、無菌生理食塩水、Elliotの溶液、リンガー溶液またはデキストロース溶液が挙げられる。好適な希釈剤は、必要に応じて、防腐剤を含有する。例示的防腐剤としては、ベンジルまたはフェノールアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。使用される防腐剤の量は、タンパク質および防腐剤効力試験で、併用可能性についての異なる防腐剤濃度を評価することによって決定される。例えば、防腐剤が芳香族アルコール(ベンジルアルコールなどの)である場合、これは約0.1〜2.0%、約0.5〜1.5%、または約1.0〜1.2%の量で存在することができる。
【0119】 本発明に好適な希釈剤は、pH緩衝剤(例えばトリス、ヒスチジン) 塩 、 (例えば、
塩化ナトリウム)および上記のもの(例えば、安定化剤、等張剤)を含む他の添加剤(例えば、ショ糖)が挙げられる種々の添加剤を含んでよいが、これに限定されない。
【0120】 本発明によると、凍結乾燥物質(例えば、タンパク質)は、少なくとも25mg/ml(例えば、少なくとも50mg/ml、少なくとも75mg/ml、少なくとも100mg/ml)の濃度およびこれらの間の任意の範囲の濃度に再構成され得る。いくつかの実施形態では、凍結乾燥物質(例えば、タンパク質)は、約1mg/ml〜100mg/mlの範囲(例えば、約1mg/ml〜50mg/ml、
約1mg/ml〜100mg/ml、約1mg/ml〜約5mg/ml、約1mg /ml〜約10mg/ml、約1mg/ml〜約25mg/ml、約1mg/ml〜約75mg/ml、約10mg/ml〜約30mg/ml、約10mg/ml〜約50mg/ml、約10mg/ml〜約75mg/ml、約10mg/ml〜約100mg/ml、約25mg/ml〜約50mg/ml、約25mg/ml〜約75mg/ml、約25mg/ml〜約100mg/ml、約50mg/ml〜約75mg/ml、約50mg/ml約〜100mg/ml)の濃度に再構成され得る。いくつかの実施形態では、再構成された製剤中のタンパク質の濃度は、前凍結乾燥製剤中の濃度より高くてもよい。再構成された製剤中の高タンパク質濃度は、
再構成された製剤の皮下または筋肉内送達が意図される場合特に有用であると考えられる。いくつかの実施形態では、再構成された製剤中のタンパク質濃度は、前凍結乾燥製剤の約2〜50倍(例えば、約2〜10倍、約2〜10倍、または約2〜5倍)であり得る。いくつかの実施形態では、再構成された製剤中のタンパク質濃度は、前凍結乾燥製剤の少なくとも約2倍(例えば、少なくとも約3、4、5、10、20、40倍)であり得る。
【0123】 本発明の医薬組成物、製剤、および関連する方法は、種々の治療薬剤を被験者のCNSに送達させる(例えば、髄腔内、脳室内は脳嚢内(判決注:原文ママ))ために、ならびに関連する疾患の治療のために有用である。本発明の医薬組成物は、タンパク質および酵素を、リソソーム蓄積疾患を発症した被験者に送達するために(例えば、酵素補充療法)特に有用である。リソソーム蓄積疾患は、リソソーム機能の欠損からもたらされる比較的稀な遺伝性代謝障害の群を示す。リソソーム疾患は、
リソソーム内の未消化マクロ分子の蓄積によって特徴付けられ、このようなリソソームの寸法および数の増加をもたらし、最終的には細胞機能障害および臨床的異常を生じさせる。
CNS送達 【0124】 本明細書で記載された種々の安定な製剤は、治療薬剤のCNS送達に概ね好適であると考えられる。本発明による安定製剤は、限定されるものではないが、実質内投与、脳内投与、脳室内(ICV)投与、髄腔内腔内(例えば、IT-腰椎、IT-大槽)投与が挙げられる種々の技術および経路を介して、ならびにCNSおよび/またはCSFに直接的または間接的に注入するための任意の他の技術および経路を介してCNS送達のために用いられ得る。
髄腔内腔内送達 【0125】 いくつかの実施形態では、補充酵素は、本明細書に記載された製剤中でCNSに送達される。いくつかの実施形態では、補充酵素は、治療を必要とする被験者の脳脊髄液(CSF)中に投与することによって、CNSに送達される。いくつかの実施形態では、髄腔内腔内投与は、所望の補充酵素(例えば、I2Sタンパク質)をCSF中に送達するために用いられる。本明細書で使用するとき、髄腔内腔内投与(髄腔内腔内注射とも呼ばれる)とは、脊椎管(脊髄を囲む髄腔内腔内空隙)への注射を指す。限定されないが、穿頭孔若しくは大槽穿刺または腰椎穿刺などを経ての外側脳室注射が挙げられる種々の技術が用いられてもよい。・・・ 【0126】 本発明によると、酵素は、脊髄周辺の任意の領域で注入され得る。いくつかの実施形態では、酵素は、腰部または大槽に注入されるか、または脳室空間に脳室内注入される。本明細書で使用するとき、用語「腰部」または「腰部領域」とは、第3と第4腰椎(背下部)との間の領域を指し、より包括的には、脊椎のL2-S1領域を指す。典型的には、腰部または腰部領域を介しての髄腔内注入もまた、
「腰椎IT送達」または「腰椎IT投与」と呼ばれる。用語「大槽」とは、頭蓋骨と脊椎の先端部分との間の開口部を介する小脳周囲および下部の空間を指す。典型的には、
大槽を介しての髄腔内腔内注射はまた、
「大槽送達」とも呼ばれる。用語「脳室」とは、脊髄中心管と連続的である脳内の空隙を指す。典型的には、脳室空隙を介して の注入は、脳室内(ICV)送達と呼ばれる。
【0127】 いくつかの実施形態では、本発明による「髄腔内腔内投与」または「髄腔内腔内送達」とは、例えば、第3と第4腰椎(背下部)との間に送達される、またはより包括的には脊椎のL2-S1領域に送達される、腰椎IT投与または送達を指す。
大槽送達が、とりわけ、典型的には遠位脊髄管に良好に送達しない一方で、我々の発明による腰椎IT投与または送達が、遠位脊髄管により良好かつより効果的な送達を生じさせるという点で、腰椎IT投与または送達が大槽送達に対して区別されると考えられる。
髄腔内腔内送達のための装置 【0128】 本発明による髄腔内腔内送達のために、種々の装置が用いられ得る。・・・ 【0130】 静脈内投与に比して、髄腔内腔内投与に適した単回用量投与容積は典型的に小さい。典型的には、本発明による髄腔内腔内送達は、CSFの組成の平衡、ならびに対象の頭蓋内圧を保持する。いくつかの実施形態では、髄腔内腔内送達は、対象からのCSFの対応する除去がない時に実施される。いくつかの実施形態では、適切な単回用量投与容積は、例えば約10ml、8ml、6ml、5ml、4ml、3ml、2ml、1.5ml、1mlまたは0.5ml未満であり得る。いくつかの実施形態では、適切な単回用量投与容積は、約0.5〜5ml、0.5〜4ml、
0.5〜3ml、0.5〜2ml、0.5〜1ml、1〜3ml、1〜5ml、1.5〜3ml、1〜4mlまたは0.5〜1.5mlであり得る。いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達は、所望量のCSFを除去するステップを最初に包含する。いくつかの実施形態では、約10ml未満(例えば、約9ml、8ml、7ml、6ml、5ml、4ml、3ml、2ml、1ml未満)のCSFが先ず除去された後、IT投与がなされる。それらの場合、適切な単回用量投与容 積は、例えば約3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10ml、15mlまたは20mlより大きい。
【0131】 治療用組成物の髄腔内腔内投与を実行するために、種々の他の装置が用いられ得る。例えば、所望の酵素を含有する製剤は、髄膜癌腫症のための薬剤を髄腔内腔内投与するために一般に用いられるオンマヤ(Ommaya)レザバーを用いて投与され得る(Lancet 2: 983-84, 1963)。更に具体的には、この方法では、脳室チューブは前角中に形成される穴を通して挿入され、頭皮下に設置されるオンマヤレザバーに連結され、レザバーは皮下穿刺されて、レザバー中に注入される補充されるべき特定酵素を髄腔内腔内送達する。個体への治療用組成物または製剤の髄腔内腔内投与のための他の装置は、米国特許第6,217,552号(この記載内容は参照により本明細書に援用される)に記載されている。代替的には、薬剤は、例えば単回注射または連続注入により、髄腔内腔内投与され得る。
投薬処置は、単回用量投与または多数回用量投与の一形態であり得る、と理解されるべきである。
【0132】 注射のためには、本発明の製剤は、液体溶液中に処方され得る。さらに、酵素は固体形態で処方され、使用直前に再溶解または懸濁され得る。凍結乾燥形態も包含される。注射は、例えば、酵素のボーラス注射または連続注入(例えば、注入ポンプを用いる)の形態であり得る。
【0133】 本発明の一実施形態では、酵素は、対象の脳への外側脳室注射により投与される。
注射は、例えば、対象の頭蓋骨に作られる穿頭孔を通してなされ得る。別の実施形態では、酵素および/または他の薬学的処方物は、対象の脳室中に外科的に挿入されるシャントを通して投与される。例えば、注射は、より大きい外側脳室中になされ得る。いくつかの実施形態では、より小さい第三および第四脳室への注射もなさ れ得る。
【0134】 更に別の実施形態では、本発明に用いられる薬学的組成物は、対象の大槽または腰椎区域への注射により投与される。
【0136】 本明細書中で用いる場合、
「持続性送達」という用語は、投与後、長期間に亘って、
好ましくは少なくとも数日間、1週間または数週間、in vivoで本発明の薬学的処方物を連続送達することを指す。組成物の持続性送達は、例えば、長時間に亘る酵素の連続治療効果により実証され得る(例えば、酵素の持続性送達は、対象における貯蔵顆粒の量の連続的低減により実証され得る) 代替的には、
。 酵素の持続性送達は、長時間に亘るin vivoでの酵素の存在を検出することにより実証され得る。
標的組織への送達 【0137】 上記のように、本発明の意外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳の種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注射では標的化するのが困難である腰部領域を含める脊髄の組織、ニューロンまたは細胞に治療薬(例えば、I2S酵素)を効果的に送達する。更に、本発明の方法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例えば、I2S酵素)を送達する。
【0138】 したがって、いくつかの実施形態では、治療用タンパク質(例えば、I2S酵素)は、対象の中枢神経系に送達される。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質(例えば、I2S酵素)は、脳、脊髄および/または末梢期間(判決注: 「末梢器官」 の誤記と認める。)の標的組織の1つ以上に送達される。本明細書中で用いる場合、
「標的組織」という用語は、処置されるべきリソソーム蓄積症により影響を及ぼされる任意の組織、或いは欠損リソソーム酵素が正常では発現される任意の組織を指す。いくつかの実施形態では、標的組織としては、リソソーム蓄積症に罹患しているかまたは罹り易い患者において、例えば組織の細胞リソソーム中に貯蔵される酵素基質が検出可能量でまたは異常に高い量で存在する組織が挙げられる。いくつかの実施形態では、標的組織としては、疾患関連病態、症候または特徴を示す組織が挙げられる。いくつかの実施形態では、標的組織としては、欠損リソソーム酵素が抗レベルで正常では発現される組織が挙げられる。本明細書中で用いる場合、標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末梢標的組織であり得る。標的組織の例は、以下で詳細に記載される。
脳標的組織 【0139】 概して、脳は、異なる領域、層および組織に分けられ得る。例えば、髄膜組織は、
脳を含めた中枢神経系を包む膜系である。髄膜は、3つの層、例えば硬膜、くも膜および軟膜を含有する。概して、髄膜の、ならびに脳脊髄液の主な機能は、脳神経系を保護することである。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、髄膜の1つ以上の層に送達される。
【0140】 脳は、大脳、小脳および脳幹を含めた3つの主な細区画を有する。大脳半球は、
ほとんどの他の脳構造の上に位置し、皮質層で覆われている。大脳の下層には脳幹が横たわり、これは茎に似ており、その上に大脳が取り付けられている。脳の後部、
大脳の下および脳幹の背後には、小脳が存在する。
【0141】 脳の正中線近くおよび中脳の上に位置する間脳は、視床、視床後部、視床下部、
視床上部、腹側視床および視蓋腹部を含有する。中脳(mesencephalo n)は、midbrainとも呼ばれ、視蓋、外被、ventricular mesocoelia、ならびに大脳脚、赤核および第三脳神経核を含有する。中脳は、視覚、聴覚、運動制御、睡眠/覚醒、警戒および温度調節に関連する。
【0142】 脳を含めた中枢神経系の組織の領域は、組織の深さに基づいて特性化され得る。
CNS(例えば脳)組織は、表面または浅在組織、中深部組織および/または深部組織として特性化され得る。
【0143】 本発明によれば、治療用タンパク質(例えば、補充酵素)は、対象において処置されるべき特定疾患に関連した任意の適切な脳標的組織(単数または複数)に送達され得る。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質(例えば、補充酵素)は、表面および浅在脳標的組織に送達される。いくつかの実施形態では、
本発明による治療用タンパク質は、中深部脳標的組織に送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、深部脳標的組織に送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、表面または浅在脳標的組織、中深部脳標的組織および/または深部脳標的組織の組合せに送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、脳の外表面の少なくとも4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mmまたはそれより下(または内側)の深部脳組織に送達される。
【0144】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、大脳の1つ以上の表面または浅在組織に送達される。いくつかの実施形態では、大脳の標的化表面または浅在組織は、大脳の表面から4mm内に位置する。いくつかの実施形態では、大脳の標的化表面または浅在組織は、軟膜組織、大脳皮質リボン組織、海馬、フィルヒョー・ロバン腔隙、VR腔隙内の血管、海馬、脳の下面の視床下部の部分、視神経および視索、嗅球および嗅突起ならびにその組合せから選択される。
【0145】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、大脳の1つ以上の深部組織に送達される。いくつかの実施形態では、大脳の標的化表面または浅在組織は、大脳の表面から4mmより下(例えば、5mm、6mm、7mm、8mm、9mmまたは10mm)に位置する。いくつかの実施形態では、大脳の標的化深部組織は、
大脳皮質リボンを包含する。いくつかの実施形態では、大脳の標的化深部組織は、
間脳(例えば、視床下部、視床、腹側視床および視床腹部等)、後脳、レンズ核、基底核、尾状核、被核、扁桃、淡蒼球およびその組合せの1つ以上を包含する。
【0146】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、小脳の1つ以上の組織に送達される。ある実施形態では、小脳の1つ以上の標的化組織は、分子層の組織、プルキンエ細胞層の組織、顆粒細胞層の組織、小脳脚およびその組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、小脳の1つ以上の深部組織、例えばプルキンエ細胞層の組織、顆粒細胞層の組織、深部小脳白質組織(例えば、顆粒細胞層に比して深部)および深部小脳核組織(これらに限定されない)に送達される。
【0147】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、脳幹の1つ以上の組織に送達される。いくつかの実施形態では、脳幹の1つ以上の標的化組織は、脳幹白質組織および/または脳幹核組織を包含する。
【0148】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、種々の脳組織、例えば灰白質、白質、脳室周囲域、軟膜-くも膜、髄膜、新皮質、小脳、大脳皮質の深部組織、
分子層、尾状核/被殻領域、中脳、脳橋または延髄の深部領域、およびその組合せ(これらに限定されない)に送達される。
【0149】 いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、脳中の種々の細胞、例えばニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞(これらに限定されない)に送達される。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、深部白質の希突起グリア細胞に送達される。
ハンター症候群および他のリソソーム蓄積疾患の治療 【0161】 リソソーム蓄積症は、リソソーム機能の欠陥に起因するかなり稀な遺伝性代謝障害の一群を表す。リソソーム症は、リソソーム内の酵素基質を含めた未消化高分子物質の蓄積(表1参照)により特性化され、これが、このようなリソソームのサイズおよび数の増大を、そして最終的には細胞機能不全および臨床的異常を生じる。
【0162】 本明細書中に記載される本発明の方法は、標的化細胞小器官への1つ以上の治療薬(例えば、1つ以上の補充酵素)の送達を有益に助長し得る。例えば、ハンター症候群のようなリソソーム蓄積症は罹患細胞のリソソーム中のグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積により特性化されるため、リソソームは、リソソーム蓄積障害の処置のための所望の標的細胞小器官を表す。
【0163】 本発明の方法および組成物は、CNS病因または構成成分を有する疾患を処置するために特に有用である。CNS病因または構成成分を有するリソソーム蓄積症としては、例えばサンフィリッポ症候群A型、サンフィリッポ症候群B型、ハンター症候群、異染性白質ジストロフィー症およびグロボイド細胞白質ジストロフィー症が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の前に、伝統的療法は、対象に静脈内投与されることに限定されており、一般的には、根元的酵素欠乏症の体細胞性症候を処置するに際して有効であるに過ぎない。本発明の組成物および方法は、このようなCNS病因を有する疾患に罹患している対象のCNS中に直接、有益に投与され、それによりCNS(例えば脳)の罹患細胞および組織内の治療的濃度を達 成し、したがって、このような治療薬の伝統的全身投与に伴う制限を克服し得る。
【0164】 いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、リソソーム蓄積障害の神経学的および体細胞性後遺症または症候群の両方を処置するために有用である。
例えば、本発明のいくつかの実施形態は、CNSまたは神経学的後遺症ならびにリソソーム蓄積症の症状発現の処置のために、対象のCNSに1つ以上の治療薬を送達する(例えば、髄腔内腔内、静脈内または槽内に)組成物および方法に関するが、
一方、そのリソソーム蓄積症の全身性または体細胞性症状発現も処置するためでもある。例えば、本発明のいくつかの組成物は、対象に髄腔内腔内投与され、それにより、対象のCNSに1つ以上の治療薬を送達して、神経学的後遺症を処置し、それと対になって、全身循環の細胞および組織(例えば、心臓、肺、肝臓、腎臓またははリンパ節の細胞および組織)の両方にこのような治療薬を送達するために1つ以上の治療薬を静脈内投与し、それにより体細胞性後遺症を処置する。例えば、リソソーム蓄積症(例えばハンター症候群)を有するか、そうでなければ影響を及ぼされる対象は、1つ以上の治療薬(例えば、イズロン酸-2-スルファターゼ)を含む薬学的組成物を、神経学的後遺症を処置するために、少なくとも週1回、2週間に1回、月1回、2ヶ月に1回またはそれ以上、髄腔内腔内投与され得るが、一方、異なる治療薬は、当該疾患の全身性または体細胞性症状発現を処置するために、
より高頻度ベースで(例えば、1日1回、隔日に1回、週3回または週1回)、対象に静脈内投与され得る。
【0165】 ハンター症候群、またはムコ多糖症II(MPS II)は、酵素イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の不全に起因するX連鎖遺伝性代謝異常である。I2Sは、リソソームに局在化し、グリコサミノグリカン(GAGs)へパリン-および硫酸ダルマタンの異化作用で重要な役割を果たす。酵素の不在下では、これら物質が細胞内に蓄積し、最終的には充血を引き起こし、細胞死および組織破壊に続 く。酵素の広範囲な発現のために、MPS II患者では、複数の細胞型および器官系が冒される。
【0166】 この障害の決定的な臨床的特徴は、中枢神経系(CNS)変性であり、これが認知障害(例えば、IQの低下)を生じさせる。更に、罹患者のMRIスキャンは、
明確な白質病巣;脳実質、神経節、脳梁、および脳幹における膨張した血管周囲腔;委縮;および脳室拡大を有する(Wangら著、Molecular Genetics and Metabolism,2009年)。この疾患は、典型的には、
臓器巨大症および骨格異常で、生後数年後に現れる。大部分の罹患者が10歳または20歳までに疾患に関連する合併症で死亡するとともに、一部の罹患者は、認知機能の進行性低下を経験する。
【0167】 本発明の組成物および方法は、ハンター症候群に冒されたまたは罹患し易い個体を効果的に治療するために用いられ得る。本明細書で使用されるような用語「治療する」または「治療」は、疾患に関連する1つ以上の症状の軽減、疾患の1つ以上の症状の発症の抑制または遅延、および/または疾患の1つ以上の症状の重症度または頻度の緩和を指す。
【0168】 いくつかの実施形態では、治療とは、ハンター症候群患者における部分的または完全な緩和、軽減、鎮静、発症の遅延、重症度および/または神経性障害の発症率の低減を指す。本明細書で使用するとき、用語「神経性障害」は、中枢神経系(例えば、脳および脊髄)の障害に関連する種々の症状を含む。神経性障害の症状としては、例えば、認知障害;白質病巣;脳実質、神経節、脳梁、および/または脳幹における膨張した血管周囲腔;委縮;および/または脳室拡大などが挙げられる。
【0169】 いくつかの実施形態では、治療とは、種々の組織におけるリソソーム蓄積(例え ばGAGの)減少を指す。いくつかの実施形態では、治療とは、脳標的組織、脊髄ニューロン、および/または末梢標的組織におけるリソソーム蓄積の低下を指す。
ある実施形態では、リソソーム蓄積は、対照と比較して、約5%、10%、15%、
20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上まで低減される。いくつかの実施形態では、リソソーム蓄積は、対照と比較して、
少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍まで低減される。いくつかの実施形態では、リソソーム蓄積は、リソソーム蓄積顆粒(例えば、ゼブラストライプ形状)の存在によって測定される。リソソーム蓄積顆粒の存在は、組織学的分析によるなどの当該技術分野で既知の種々の方法によって測定され得る。
【0170】 いくつかの実施形態では、治療とは、ニューロン(例えば、プルキンエ細胞を含有するニューロン)における空胞化の減少を指す。ある実施形態では、ニューロンにおける空胞化は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、
30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上まで低減される。
いくつかの実施形態では、空胞化が、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍まで低減される。空胞化の存在および減少は、組織学的分析によるなどの当該技術分野で既知の種々の方法によって測定され得る。
【0171】 いくつかの実施形態では、治療とは、種々の組織におけるI2S酵素活性の増加を指す。いくつかの実施形態では、治療とは、脳標的組織、脊髄ニューロン、および/または末梢標的組織におけるI2S酵素活性の増加を指す。いくつかの実施形態では、I2S酵素活性は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、
25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、200%、300%、
400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%またはそれ以上まで増加される。いくつかの実施形態では、I2S酵素活性は、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍まで増加される。いくつかの実施形態では、増加したI2S酵素活性は、
少なくとも約10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、40nmol/時・mg、50nmol/時・mg、60nmol/時・mg、70nmol/時・mg、80nmol/時・mg、90nmol/時・mg、100nmol/時・mg、150nmol/時・mg、200nmol/時・mg、250nmol/時・mg、300nmol/時・mg、350nmol/時・mg、400nmol/時・mg、450nmol/時・mg、500nmol/時・mg、550nmol/時・mg、600nmol/時・mgまたはそれ以上である。いくつかの実施形態では、I2S酵素活性は、腰部内または腰部の細胞内で増加される。いくつかの実施形態では、腰部において増加したI2S酵素活性は、少なくとも約2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、4000nmol/時・mg、5000nmol/時・mg、6000nmol/時・mg、7000nmol/時・mg、8000nmol/時・mg、9000nmol/時・mg、10,000nmol/時・mgまたはそれ以上である。いくつかの実施形態では、
I2S酵素活性は、遠位脊髄内または遠位脊髄の細胞内で増加される。
【0172】 いくつかの実施形態では、処置は、認知能力の喪失の進行低減を指す。ある実施形態では、認知能力の喪失の進行は、対照と比較して、約5%、10%、15%、
20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上低減される。いくつかの実施形態では、処置は、発育遅延低減を指す。ある実施 形態では、発育遅延は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、
30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上低減される。
【0173】 いくつかの実施形態では、処置は、生存(例えば、生存時間)増大を指す。例えば、処置は、患者の平均余命増大を生じ得る。いくつかの実施形態では、本発明による処置は、処置を伴わない同様の疾患を有する1人以上の対照個体の平均余命と比較して、約5%より多く、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、
約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約105%、約110%、約115%、約120%、約125%、約130%、約135%、
約140%、約145%、約150%、約155%、約160%、約165%、約170%、約175%、約180%、約185%、約190%、約195%、約200%またはそれ以上、患者の平均余命を増大する。いくつかの実施形態では、本発明による処置は、処置を伴わない同様の疾患を有する1人以上の対照個体の平均余命と比較して、約6ヵ月より長く、約7ヵ月、約8ヵ月、約9ヵ月、約10ヵ月、
約11ヵ月、約12ヵ月、約2年、約3年、約4年、約5年、約6年、約7年、約8年、約9年、約10年またはそれ以上、患者の平均余命を増大する。いくつかの実施形態では、本発明による処置は、患者の長期間生存を生じる。本明細書中で用いる場合、
「長期間生存」という用語は、約40年、45年、50年、55年、60年またはそれより以上の生存時間または平均余命を指す。
【0174】 「改善する」「増大する」または「低減する」という用語は、本明細書中で用い 、
る場合、対照と対比する値を示す。いくつかの実施形態では、適切な対照は、基線測定値、例えば、本明細書中に記載される処置の開始前の同一個体における測定値、
或いは本明細書中に記載される処置の非存在下での一対照個体(または多数の対照 個体)における測定値である。
「対照個体」は、処置されている個体とほぼ同一年齢および/または性別である、同一疾患に苦しむ個体である(処置個体および対照個体(単数または複数)における疾患の段階が比較可能であることを保証するため)。
【0175】 治療される個体(「患者」または「被験者」とも呼ばれる)とは、ハンター症候群を有するまたはハンター症候群を発症する可能性を有する個体(胎児、乳幼児、青少年、または成人)である。この個体は、残留内因性I2Sタンパク質発現および/または活性を有し得るか、または測定可能な活性を有し得ない。例えば、ハンター症候群を有する個体は、正常なI2S発現レベルの約30〜50%未満、約25〜30%未満、約20〜25%未満、約15〜20%未満、約10〜15%未満、
約5〜10%未満、約0.1〜5%未満であるI2S発現レベルを有する場合もある。
【0176】 いくつかの実施形態では、個体とは、最近病気と診断された個体である。典型的には、早期治療(診断後、可能な限りすみやかに治療を開始すること)が、疾患の影響を最小化し、かつ治療の利点を最大化にするために重要である。
免疫寛容 【0177】 一般的に、本発明による治療薬(例えば補充酵素)の髄腔内腔内投与は、対象において重篤な副作用を生じない。本明細書中で用いる場合、重症副作用は、実質的免疫応答、毒性または死(これらに限定されない)を誘導する。本明細書中で用いる場合、
「実質的免疫応答」という用語は、重症または重篤免疫応答、例えば適応T細胞免疫応答を指す。
【0178】 したがって、多くの実施形態において、本発明の方法は、同時免疫抑制剤療法(すなわち、前処置/前状態調節として、或いは当該方法と平行して用いられる任意の 免疫抑制剤療法)を包含しない。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、処置されている対象における免疫寛容誘導を包含しない。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、T細胞免疫抑制剤を用いる対象の前処置または前状態調節を包含しない。
【0179】 いくつかの実施形態では、治療薬の髄腔内腔内投与は、これらの作用物質に対する免疫応答を高め得る。したがって、いくつかの実施形態では、酵素補助療法に対して寛容な補助酵素を患者に接種させることが有用であり得る。免疫寛容は、当該技術分野で既知の種々の方法を用いて誘導され得る。例えば、T細胞免疫抑制剤、
例えばシクロスポリンA(CsA)および抗増殖剤、例えばアザチオプリン(Aza)を、低用量の所望の補充酵素の毎週髄腔内腔内注入と組合せた初期30〜60日レジメンが、用いられ得る。
【0180】 当業者に既知の任意の免疫抑制剤は、本発明の組合せ療法と一緒に用いられ得る。・・・ 投与 【0181】 本発明の方法は、治療的有効量の本明細書中に記載される治療薬(例えば補充酵素)の単回ならびに多数回投与を意図する。治療薬(例えば補充酵素)は、対象の症状(例えば、リソソーム蓄積症)の性質、重症度および程度によって、一定間隔で投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明の治療的有効量の治療薬(例えば補充酵素)は、一定間隔で(例えば、年1回、6ヶ月に1回、5ヶ月に1回、3ヶ月に1回、隔月(2ヶ月に1回)、毎月(1ヶ月に1回)、隔週(2週間に1回)、
毎週)、定期的に髄腔内腔内投与され得る。
【0188】 いくつかの実施形態では、治療的有効用量は、mg/体重1kgによっても定義 され得る。当業者が理解するように、脳重量および体重は相関し得る・・・。したがって、いくつかの実施形態では、投与量は、表5に示されるように換算され得る。
【表5】 【実施例】 【0194】 実施例1:生体分布 本試験の主な目的は、髄腔内腔内-腰椎経路によって、組換え体ヒトI2Sが成体MPS IIマウスの脳に送達されることができるかどうかを判定することである。
【表6】 材料および方法 動物: 【0195】 マウスを、12時間の明暗周期下、コロニールーム内の1つの檻につき最高4匹の群で収容した。実験の続く間、囓歯類用飼料(LabDiet-5001,StLouis,MO)および水(逆浸透によって精製されたLexington,MA公共水道水)を自由に摂取させた。動物の管理は、
「the Guide forthe Care and Use of Laboratory Animals」National ( Academy Press,Washington D.C.,1996年)に記載されたガイドラインに従って実施した。最新のIKO繁殖コロニーが、IKO突然変異についてヘテロ接合性である4匹のキャリア雌マウスから確立され、これはDr.Joseph Muenzer(University of North Carolina)から入手された。キャリアの雌は、C57BL/6背景種の雄マウス(C57BL/6NTac,Taconic,Hudson,NY)で繁殖され、ヘテロ接合の雌およびヘミ接合の雄ノックアウトマウス、ならびに野生型の雄および雌の同腹子を発生させた。組織DNAのPCR分析によって、全ての子孫は遺伝子型であった。この実験で使用された全てのマウスは、8週齢と12周齢との間のヘミ接合IKO(-/0)または野生型(WT)同腹子(+/0)マウスのいずれかとして同定された雄であった。
イズルスルファーゼ 【0196】 22mLのI2S(組換え体ヒトイズルスルファーゼ)を、2Lのリン酸塩緩衝生理食塩水の4つの変化に対して透析した。次いでI2Sを、Vivaspinカラムによって濃縮し、最終容積1mLのPBS中に再懸濁し、続いて0.2μmのフィルターを用いて濾過滅菌した。最終濃度は、51mg/mLであった。
髄腔内腔内-腰椎注射: 【0197】 成体マウスを、腹腔内注射により200〜300μL/10g体重(250〜350mg/kg)で、1.25%の2,2,2-トリブロモエタノール(Avertin)を用いて麻酔した。背部の体毛を、尾の根元から肩甲骨まで除去し、刈られた領域をポビダイン/ベータダイン洗浄、続いてイソプロピルアルコールでぬぐった。小さな正中線の皮膚切開創(1〜2cm)を腰仙椎上につくり、背側正中線と腸骨翼の頭側との交差部分(腸骨特異点)を特定した。腸骨窩内の筋肉(中殿筋)は、ハート形状の筋肉であり、
「ハート」の頂部の両側は、腸骨翼の位置を近似する。
気密の10〜20μLのガラスHamilton注射器に取り付けられた32ゲージの針を、抵抗が下にある骨から感じ取られるまで挿入した。約2μL/20秒(10μL/2分)の速度で、10μLの供試物質の注射が行われた。皮膚切開創を、
創傷用クリップを用いて適切に閉じて、動物を適切な檻に戻す前に、回復室で回復させた。
組織学的処理 【0198】 動物を、最終の注射後1時間で致死させた。
【0199】 脳および肝臓組織を採取し、10%中性緩衝ホルマリン中に固定し、次いで処理し、パラフィンに埋め込んだ。ヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色および免疫組織化学(IHC)染色用に、5μmの切片を調製した。
ヘマトキシリンおよびエオシン染色: 【0200】 脳および肝臓部分をH&Eで染色した。染色結果は、核を紫色で、細胞質を桃色から赤色で示した。H&E染色されたスライドガラスは、組織病理学的形態学的評価のために用いられた。
免疫組織化学: 【0201】 I2S生体内分布評価のために、脱パラフィン化し再水和化した脳および肝臓切片を、注射されたI2Sを検出するために、組換え体ヒトI2Sに対するマウスモノクローナル抗体2C4-2B2(Maine Biotechnology Services,Portland,ME) (または陰性対照抗体としての無関係なマウスIgG Vector ; Laboratories,Burlingame,CA)と共に、一夜インキュベートした。2〜8℃で一夜のインキュベーション後に、セイヨウワサビペルオキシダーゼに結合した二次のヤギ抗マウス抗体IgGを添加した。37℃で更に30分間のインキュベーション後に、Tyramide-Alexa Fluor 488標識溶液(Invitrogen Corp. C ,arlsbad,CA)を更に10分間で加えた。核対比染色として1.5μg/mlの4’-6-ジアミンジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を含有するフェージング防止封入剤(VectaShield;Vector Laboratories)を用いて切片をカバーガラスで覆い、マルチチャンネルN ikon蛍光顕微鏡で観察した。染色結果は、I2S陽性細胞を緑色に、核を青色に、背景領域を黒色で示した。
【0202】 効果的な分析のために、脳および肝臓切片を、一次抗体としてのラット抗-LAMP-1(リソソームマーカーとしてのリソソーム結合膜タンパク質)IgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,California)で染色した。無関係な抗体としてのラットIgGを、陰性対照として用いた。ABC(Vector Labs,Burlingame,Californiaから入手したアビジン-ビオチン複合体キット)法が、標的のマーカーを増幅するために用いられた。
【0203】 簡単に言うと、脱パラフィン化切片を再水和化し、一次抗体と共にインキュベー トした。2〜8℃で一夜のインキュベーション後に、二次ビオチニル化ウサギ抗-ラットIgG(Vector Labs,Burlingame,California)を添加し、37℃で30分間インキュベートし、次いでサンプルを洗浄し、
アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(Vector Laboratories)で30分間処置した。発色のために、3,3’-ジアミノベンジデン(DAB)四塩酸塩を色素体として用いた。次いで切片をヘマトキシリンで対比染色し、
カバーガラスで覆った。染色結果は、LAMP-1陽性細胞を茶色で、核を青色で示した。
【0204】 代表的な写真を撮影し、LAMP-1陽性細胞の領域を、Image-Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics.Inc.,Bethesda,MD)で解析し、スチューデントのt検定を用いて、比較統計を実施した。
電子顕微鏡法: 【0205】 I2Sの3用量で処置された動物からの脳組織を、0.1Mのカコジル酸ナトリウム緩衝液pH7.4中、2.5%PFA/2.5%グルタルアルデヒドで、4℃で一夜固定した。次いで、サンプルをカコジル酸塩緩衝液(0.1M、pH7.4)中で洗浄し、四酸化オスミウム中で後固定し、アルコールおよび酸化プロピレン中で脱水し、Epon樹脂中に埋め込んだ。超薄切片を100nmで切断し、クエン酸鉛で染色し、Tecnai(登録商標)G2 Spirit BioTWIN透過型電子顕微鏡で観察した。
結果 【0206】 脳においては、免疫組織化学(IHC)染色で判定されたように、I2Sはビヒクル対照動物で認められなかった。対照的に、I2S注入動物においては、髄膜細胞、大脳および小脳のニューロンは、I2Sについて陽性に染色された。染色シグ ナルは、3用量投与された動物でより強かった(図1)。
【0207】 ビヒクル処置IKOマウスの脳組織では、細胞空胞化、すなわちリソソーム蓄積疾患の組織病理学的特徴が、野生型動物と比較して脳全体で認められた。I2S処置IKOマウスでは、未処置マウスと比較して、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳から白質までの細胞空胞化の広範囲の減少が存在した(図2) 野生型動物と比較 。
した場合、異常に高いリソソーム活性が、リソソーム活性および疾患状態の指標であるリソソーム結合膜タンパク質-1(LAMP-1)染色によって、ビヒクル処置IKOマウスの小グリア細胞、髄膜細胞および血管周囲細胞で認められた。I2S髄腔内腔内処置マウスは、LAMP-1免疫染色で著しい減少を有した。この減少は、LAMP-1陽性細胞の数およびより明るい染色での低下によって特徴付けられる。この減少は、I2Sの2用量および3用量処置動物の双方で、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳から白質に至る脳全体で認められた(図3)。種々の脳領域のLAMP-1免疫染色の形態計測学的分析は、評価された脳の全ての領域でLAMP-1免疫染色陽性染色における著しい減少があることを確認した(図4)。
【0208】 ビヒクル処置IKOマウスの電子顕微鏡観察は、アモルファスな顆粒蓄積物質を含有する腫大した空胞および板状でゼブラ小体様構造を有する封入体を明らかにした。超微細構造レベルでのリソソーム蓄積のこれら典型的な病理特徴は、I2Sの髄腔内腔内-腰椎注射マウスでは、減少された(図5)。
【0209】 肝臓では、ビヒクル処置動物においては、I2Sの陽性染色はなかった。I2S髄腔内腔内注射マウスにおいては、大量の注射されたI2Sのが、シヌソイド細胞で明確に見出され(図6)、これは髄腔内腔内空隙に注射されたI2Sが、CSFと共に循環し、次いでクモ膜顆粒を経て循環系に吸収されたことを示している。
【0210】 ビヒクル処置IKOマウスの肝臓組織では、H&E染色によって立証された重症の細胞空胞化および異常に高いリソソーム活性ならびに強いLAMP-1免疫染色が、WTマウスと比較して確認された。肝臓における細胞内空胞化およびLAMP-1免疫染色の著しい減少が、I2Sでの髄腔内処置後に確認された。H&E染色は、細胞質内空胞化は、正常な肝臓細胞構造に近い状態で、ほぼ完全に消失した(図7)。
【0211】 IKOマウスでは、髄腔内腔内-腰椎経路によって組換え体ヒトI2Sが脳に送達され、注射されたI2Sは、脳の種々の領域において広範囲の組織病理学的改善を生じさせる。
・注射されたI2Sは、髄膜細胞および脳のニューロンで検出された。
・光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方での脳全体の細胞空胞化の減少。
・脳全体のLAMP-1リソソームマーカーの減少。
・髄腔内腔内注射されたI2Sは、末梢循環に入り、肝臓の形態学的および組織学的マーカーを改善した。
実施例2:毒性 【0212】 本実施例は、カニクイザルにおける月単位のボーラス髄腔内腔内腰椎投与を介するイズルスルファーゼに関連する臨床的徴候を示す。これを達成するために、以下の表に示されるように、14匹の雄カニクイザルを5種の処置群に無作為割付した。
【表7】 【0213】 全ての群の動物は、腰部脊椎のレベルで月単位のインターバルでITにて3回投与された。1mlの投与容積は、0.3mlのPBSでカテーテルシステムから流された。各投与の1〜2日前に、大槽のレベルでIT脊椎穿刺から約2mLのCSFを採取した。血液サンプル(2ml)もまた、この時点で採取した。血液(2ml)およびCSF(0.1ml)を5群の動物から、投与前、最初の投与から0.5、1、2、4、8、24、および48時間後に採取した。臨床的徴候を1日2回記録した。死体解剖を第3回目の投与後約24時間で実施し、選択した組織を採取し、保存した。
【0214】 1日目に、4群(150mg)の全ての3匹の動物が、投与後3〜12分以内に最小限のハインドクウォーター傾向を示し、これが5〜15分間続き、この徴候は、
供試物質に関連するとみなされた。供試物質に関連すると考えられる体重、餌消費量および神経学的/理学的試験パラメータでの変化はなかった。
【0215】 血清およびCSFサンプルの分析ならびに投与溶液分析が示されている。内因性イズルスルファーゼ活性における変動が、カニクイザルからの異なる組織で観察され、脳および脊髄は、肝臓、心臓、および腎臓を含む試験された他の末梢器官より も大きな内因性活性を有した。イズルスルファーゼ投与は、種々の脳領域、ならびに脳幹および脊髄におけるイズルスルファーゼ活性での用量依存型増加に関連した。
IT送達は、右大脳半球と左大脳半球との間の分布では、観察可能な差異をもたらさなかった。以下の器官、すなわち脳、肝臓、心臓、および腎臓におけるイズルスルファーゼ活性での明確な用量依存型増加が存在した。脳におけるイズルスルファーゼについての免疫染色は、染色強度における用量依存型増加を立証した。3mgの群では、髄膜細胞染色および髄膜下の限定されたグリア細胞染色が観察され、ニューロン染色は、3mg処置群からの動物では、明らかではなかった。イズルスルファーゼのIT投与が起こっている場所である腰部領域における非常に高い染色強度を伴い、脊髄では、イズルスルファーゼ染色は陽性かつ用量依存型であった。肝臓、腎臓、および心臓におけるイズルスルファーゼ染色強度は用量依存型であり、
これら器官におけるイズルスルファーゼ活性の増加と一致した。
【0216】 結論として、月単位の間隔での150mgまでの用量でのイズルスルファーゼのIT投与は、副作用を有さなかった。したがって、無影響量(NOAEL)は150mgであると解釈され、これは本試験でテストされた最高投与量である。イズルスルファーゼ投与は、CNSにおけるイズルスルファーゼ活性の用量依存型増加に関連し、全身のI2Sレベルならびに肝臓、腎臓、および心臓における活性をもたらした。
【0217】 供試物質、イズルスルファーゼは、154mMのNaCl、0.005%ポリソルベート20、pH5.3〜6.1中で供給された。供給された投与溶液の公称濃度は、0、3、30または150mg/mlであった。供試物質は冷凍庫内で-82〜-79℃で保存した。リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.2を、用量が投与された後ならびに一連のCSFが採取された後のフラッシュ剤として用いた。
このPBSは、Gibco,Invitrogen Corporationから 入手された。
供試物質投与量調製 【0218】 それぞれの時間間隔についての投与の第1日目に、それぞれの濃度の1つのバイアルを-80℃の冷凍庫から取り出し、作業台上で室温まで融解した。一旦融解したら、1、2、3群についてのバイアルにラベルを貼付し、重量計測し、投与計画された各動物用に、0.22μmフィルターを通して1mlを採取した。全ての用量が投与された後に、バイアルを再重量計測し、冷凍庫内に配置した。
【0219】 翌日(動物003、4群および5群に対する投与日)、1群および4群用の投与溶液を冷凍庫から取り出し、作業台上に配置し、室温に到達させた。室温まで到達したら、1群および4群用のバイアルを重量計測し、4群バイアルにラベルを貼付し、
1群および4群の投与を計画されたそれぞれの動物用に、フィルターを通して1mlを採取した。次いで、5群用の投与溶液を、4群投与溶液および1群(ビヒクル)の適当量を無菌ポリプロピレンバイアルに注入することによって調製した。1群および4群から添加された量を記録した。バイアルを軽く反転させることによって溶液を混合し、5群の動物用に、フィルターを通して2〜1ml用量を採取した。投与の完了の際に、1群および4群用のバイアルを再重量計測し、全てのバイアル(1〜5群)を冷凍庫内に配置した。
【0220】 以下の表に記載されているように、14匹の動物を処置群に無作為割付した。
【0221】 投与のIT経路が、これがヒト投与のために意図された経路であるために選択された。この試験のために選択されたイズルスルファーゼの投与量(3、30、100、および150mg/ml)は、3回の継続的な毎月のボーラスIT腰椎注射後のヒト以外の霊長類中枢神経系(CNS)内の変化する酵素の投与レベルの生体内 分布を評価するために選択された。
臨床観察 【0222】 臨床的徴候の全発生率は、最小であった。1群(対照)、2群(3mg)、3群(30mg)、または5群(100mg)の動物は、試験中のいずれの時点でも供試物質に関連すると考えられる臨床的徴候を有さなかった。
【0223】 1日目には、4群(150mg)の全ての3匹の動物(012〜014)は、投与後3〜12分以内で5〜15分間続く最小のハインドクウォーターの傾向を示した。この徴候は、供試物質に関連すると考えられ、より低い投与量群のいずれでも観察されなかった。第1回目の投与直後および供試物質投与直後の日に、他の臨床的徴候は見られなかった。4群動物について観察された唯一の他の徴候は、35日目に動物013での一回の嘔吐の発生であった。
【0224】 単回の毎月の髄腔内腔内ボーラス投与としての供試物質の投与は、挿入された薬物送達装置による固有の変化を考慮に入れるとき、有害な肉眼的または顕微鏡的変化に関連しなかった。対照群を含める全ての群は、薬剤送達システムに対する炎症反応を示す髄膜での顕微鏡的変化を有した。30mgまたはそれ以上の供試物質の用量を受容した動物では、髄膜での炎症反応がより明白な好酸球性成分を有する傾向があった。
【0225】 対照動物と供試物質処置動物との間の差があまりに僅かであったために、無影響量(NOAEL)は、本試験でテストされた最高用量である150mgであると解釈された。
【0226】 全ての群(対照を含める)での髄膜における全炎症反応は、サルでこの持続時間 の髄腔内腔内試験で全般的に発生したものよりは僅かに明確であった。しかしながら、これは、ビヒクルの若干の特性または死体解剖前の24時間の投与量の作用に関連する可能性があると考えられる。
【0227】 脳イズルスルファーゼ染色は、150mgの群で確認された最高の染色強度で、
3mg群の1匹の動物を除けば、全ての処置動物で陽性であった(図16、17、
18および19) 3mg群では、
。 髄膜細胞および髄膜細胞の下の数個のグリア細胞のみが陽性であり、注射されたイズルスルファーゼは、ニューロンでは検出されなかった。より高い用量群(30、100および150mg)では、髄膜細胞、グリア細胞および血管周囲細胞に加えて、脳内ニューロンの大規模な集団がイズルスルファーゼ染色について陽性であった。イズルスルファーゼ免疫染色は、髄膜近くの表面での層I内のニューロンから白質に隣接したより深い層IV内のニューロンに至る脳内ニューロンにおいて、注射されたイズルスルファーゼの広範囲な分布を明らかにした(図20、21および22)。ニューロンの顕著な染色はまた、150mg投与群についても観察された(図23)全ての動物 。 (30〜150mgの投与群)では、ニューロンのイズルスルファーゼ染色で顕著な違いは、脳の前頭部、中頭部、
および後頭部の間では認められなかった。
考察 【0232】 体重、餌消費、理学的検査所見および神経学的検査所見に及ぼす供試物質に関連する臨床的徴候または影響はなかった。1日目に、4群(150mg)動物は、投与後3〜12分以内で、5〜15分間持続するハインドクウォーターへの最小の傾向を示し、この徴候は、供試物質に関連するものであると判定された。
【0233】 イズルスルファーゼ投与は、種々の脳領域、ならびに脳幹および脊髄におけるイズルスルファーゼ活性での用量依存型増加に関連した。・・・ 実施例3:IT送達されたI2SのPK(血清およびCSF) 【0235】 本実施例は、供試物質(TA)濃度についてのカニクイザルにおける毎月ボーラス髄腔内腔内腰椎注射および毎週ボーラス髄腔内腔内腰椎注射を介して投与されたイズルスルファーゼの6ヶ月毒性試験に関連する血清および脳脊髄液(CSF)分析を提供する。
実験計画 【0236】 本試験の目的は、6ヶ月の期間にわたる毒性学的および安全性薬理的観点からイズルスルファーゼ(I2S)の反復用量髄腔内腔内(IT)投与を評価することである。試験計画は、表8に示されている。
【表8】 供試物質 識別:イズルスルファーゼIV投与量-(2.0mg/mL) IT投与量-イズルスルファーゼ(0mg/mL)、イズルスルファーゼ(3mg/mL)、イズルスルファーゼ(30mg/mL)、イズルスルファーゼ(100mg/mL)アッセイ法: 【0237】 イズルスルファーゼ濃度を決定するために、ELISA(酵素結合免疫吸着法) を用いてアッセイを行った。希釈計数を乗ずる前の検出限界値(IOD)は1.25ng/mLであった。サンプルを1:50希釈でスクリーニングし、したがって、
アッセイ感度は62.5ng/mLであった。検量線の高い終点を超えて下降しているサンプルは、検量線の範囲内の値をもたらした適切な希釈で、更に希釈、再試験された。選択されたサンプルを、酵素活性アッセイを用いて更に分析した。このアッセイに関するLODは、1:50の最小サンプル希釈で0.18mU/mLであった。
【0238】 1群および2群の動物は、生理食塩水またはビヒクルをそれぞれ投与され、全ての動物は、IVおよびIT投与の期間全体を通して、138ng/mLと<62.5ng/mL(または1,000ng/mL) IT投与前に採取されテストされた3つの他のCSFサン 。
プルの1つが、I2Sが1,00ng/mL以上であった。
【0239】 次いで、サンプルがイズルスルファーゼ活性についてテストされた。それぞれの場合、活性の結果は、I2Sの存在を示し、I2Sの適切な濃度が活性レベルに基づいて計算された場合、結果は抗原ELISAによって得られたものの20%以内であった(表9参照) 抗原ELISA結果CSFサンプルはまた、いずれかの非特異的活性を排除するための酵素活性アッセイを用いてテストされた。
【表9】 【0240】 この試験では、血清およびCSFサンプルを、イズルスルファーゼ濃度について分析した。血清サンプルは、以下の計画により採取された: IV投与:投与前および投与1〜10の後2時間、投与前および投与11〜23の後4時間、ならびに死体解剖時。
IT投与:投与前および投与1および2の後2時間、投与前および投与3〜6の後4時間、ならびに死体解剖時。
CSFサンプルは以下の計画により採取された: IV投与 投与前および投与1の後2時間、
: ならびに投与3および6の後4時間。
IT投与:投与前および投与1および2の後2時間、投与前および投与3〜6の後4時間、ならびに死体解剖時。
【0241】 概ね、血清イズルスルファーゼは、CSFイズルスルファーゼよりも早く除去された。
【0242】 生理食塩水またはビヒクルのそれぞれで投与された1群および2群動物における血清イズルスルファーゼレベルは、テストされた全ての時間点で138ng/mL 未満かまたはそれに等しかった。若干の動物が、アッセイ検出限界値(LOD)以下のレベルを有した。
【0243】 高レベル(>1,000ng/mL)をもたらした7つの著しい例外を伴い、群1および2からのCSFサンプルの少数が、アッセイLOD以上であった。IT投与3前の動物から採取された1つのCSFサンプルがまた、1,000ng/mL以上のイズルスルファーゼであるとテストされた。
【0244】 これらの傾向から外れた結果を生じさせるサンプルを再試験し、確認した。更に、
これらサンプルを、イズルスルファーゼ酵素活性について試験した。これら活性結果はまた、イズルスルファーゼ質量アッセイから得られたものの20%以内の高イズルスルファーゼレベルを確認した。
【0245】 活性アッセイの特異性は、CSFサンプルをLOD以下のイズルスルファーゼ質量単位で無作為に試験することによって、このサンプル集団内で実証され、これらサンプルにおけるイズルスルファーゼレベルが、実際にLODであることを確認した(データ表示せず)。
実施例4:製剤 【0246】 本実施例は、第I/II相臨床試験のためのイズルスルファーゼ-IT薬剤物質の製剤および医薬品製剤を確立するために実施された製剤開発試験を概説する。
【0247】 CNS送達用に好適な賦形剤の制限のために、イズルスルファーゼの髄腔内腔内送達についての製剤開発のための取り組みは、全身的送達のためのI2S製剤と等価な安定性も維持すると同時に、リン酸塩およびポリソルベート20レベルを低減することに焦点が当てられた。
【0248】 リン酸塩およびポリソルベートレベルの影響を検討するために、3種の重要なスクリーニングストレス試験が行われた。これら試験とは、凍結融解、振盪ストレス、
および熱ストレスが挙げられる。この結果は、生理食塩水製剤が、低タンパク質濃度(2mg/mL)で凍結融解ストレスに対してより安定であることを示した。高タンパク質濃度(100mg/mL)では、凍結融解ストレスは、生理食塩水含有製剤およびリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかった。振盪ストレス試験は、0.005%ポリソルベート20が振盪関連ストレスに対してタンパク質を保護することを確認した。熱安定性試験は、生理食塩水製剤がリン酸塩を含有する製剤に比べてより安定であることを立証した。更に、生理食塩水製剤のpHは、2〜8℃で24カ月間、6.0で維持されることができた。タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められた。
方法 生理食塩水およびリン酸塩製剤中のイズルスルファーゼの安定性に及ぼす凍結/融解ストレスの影響 【0249】 異なる製剤中のイズルスルファーゼ安定性に及ぼす凍結/融解の影響を検討するために、バイアルのSECプールを、Centriction Plus用いて、
4回、150mMのNaClまたは20mMのリン酸ナトリウムを含有する137mMのNaCl(双方ともにpH6.0で)のいずれかに交換/濃縮した。タンパク質濃度は、2mg/mlおよび100mg/mLを達成目標とした。全ての溶液は、0.22マイクロメートルのPVDFフィルターを通して濾過された。溶液をそれぞれ1mLの等量ずつで2mLのホウケイ酸ガラスバイアルに分けた。このバイアルを凍結乾燥室の中段に配置し、プラセボバイアルで取り囲んだ。サンプルを、
プログラムされた凍結/融解サイクル(20℃で1時間保持し、1℃/分で-50℃ に凍結する)で凍結した。次いで、2段階で融解した(0.03℃/分で-50℃から-25℃まで融解し、-25℃で24時間保持し、2〜8℃まで融解させた)。
凍結/融解の2または3サイクル後に、サンプルを外観およびSEC-HPLC分析によって分析した。
リン酸塩および生理食塩水製剤中のイズルスルファーゼに及ぼす振盪/せん断ストレスの影響 【0250】 異なるタンパク質濃度で、イズルスルファーゼで振盪試験を実施した。タンパク質濃度は、20mMのリン酸塩中137mMのNaCl(pH6.0)および154mMのNaCl(pH6.0)単独の存在下で、2mg/mL、8mg/mL、
および90〜100mg/mLで試験された。ポリソルベートが必要であるかどうかを確認するために、種々の量のPS-20を試験条件にスパイクした。溶液をそれぞれ1.2mLずつの等量で、2mLのガラスバイアルに分け、次いで周辺条件下、250rpmで、旋回シェーカー上で24時間振盪した。ベースラインと24時間で、外観を検査し、0.1mLアリコートを、SEC-HPLCによる分析まで、0.5mLのポリプロピレンチューブ中で≦-65℃以下で凍結した状態で採取した。
【0251】 先ず初めにポリソルベート20レベルの影響を確認するために、材料の3時間のトラック輸送を用いて輸送模擬輸送試験を行い、続いてランダムテストオプション(Lansmont(Lansing,MI)によって実行)を用いた保証レベル1で1時間の気密試験を行った。サンプルを、SEC-HPLCによって、粒子の外観および可溶性凝集体について分析した。
【0252】 安定性に及ぼす攪拌ストレスの影響を検討するために、生理食塩水製剤(50mg/mL、154mMのNaCl、および0.005%のPS-20)を、テフロ ン(登録商標)マグネチック攪拌バー(長さ8mmおよび直径2mm)を含む3mL型ガラスバイアル内に1.3mLで充填し、13mmストッパーで止めた。バイアルを設定6(設定6の選択は、過剰の泡立ちを生じることがない最大速度)で速度を設定した攪拌プレート上に配置した。0、2、24、48、および72時間で外観を決定した。ベースラインおよび72時間攪拌したサンプルを、SEC-HPLC法でテストした。
リード製剤についての熱安定性試験 【0253】 6種のリード製剤を、熱安定性について比較した。これら製剤は、2つのパラメータに基づいて選択された。第1のパラメータは、CNS送達のための治療域内で必要とされるタンパク質濃度であった。第2のパラメータは、安定性に及ぼすリン酸塩濃度の影響を制御するためのものである。バイアル濾過されたSECプールを、
Centriction Plus-80を用いて、緩衝液交換し濃縮した。50および100mg/mLのタンパク質濃度の目的の濃度が得られた。6種の製剤に、
最終濃度0.01%のPS-20のために、1%ポリソルベート20溶液をスパイクした。材料を0.22マイクロメートルPVDFフィルターを通して濾過し、0.5mLを2mLのホウケイ酸ガラスバイアルに添加した。これらバイアルを、逆さにして、負荷安定性(40℃)、加速安定性(25℃)、およびリアルタイム保存(2〜8℃)に配置した。それぞれの時間点での安定性サンプルを、SEC-HPLC、
OD320、SAX-HPLC、SDS-PAGE(Commassie)、pH、
および活性によって試験した。
生理食塩水製剤における安定性の理解 【0254】 生理食塩水製剤においてpHがどのように維持されるかを理解するために、以下の試験が行われた。
生理食塩水製剤におけるリン酸塩の残留試験 【0255】 バイアル濾過されたSECプール(2mg/mLのイズルスルファーゼ、137mMのNaCl、20mMのリン酸ナトリウム、pH6.0)を、Millipore TFFシステムおよびMillipore Pellicon Biomax 30,50cm2フィルターを用いて濃縮し、150mMのNaClに透析濾過した。0.9%生理食塩水(TK3で調製)への透析濾過の7X、10Xおよび15Xサイクル後に、タンパク質に結合されたリン酸塩の量を決定した。更に、10X透析濾過後の透過液(濾過を通してタンパク質を含有しないフロー)および濾過で使用された生理食塩水もまた試験された。タンパク質濃度がpHに及ぼす影響の判定 【0256】 緩衝液(リン酸塩)が存在しない状態でのpHの制御をより良く理解するために、
タンパク質影響試験が行われた。タンパク質のpHへの関与を決定するために、材料を154mMのNaCl(生理食塩水)中で、30mg/mL、10mg/mL、
2mg/mL、1mg/mL、0.1mg/mL、および生理食塩水単独に希釈した。材料を、各チューブ当たり1mLの充填容積で、2mLのポリプロピレンチューブに等量に分けた。サンプルを≦-65℃で1時間凍結させて、周囲温度で30分間融解し、このサイクルを3回繰り返した。最初のpHを測定し、3X凍結/融解サイクル後のものと比較した。pHシフトに及ぼす可能性があるタンパク質濃度の影響を決定するために、サンプルの24時間の周囲温度露出(チューブのキャップを開けることによって)後にもpHが測定された。
【0257】 CNS送達に好適な賦形剤が制限されているために、イズルスルファーゼの髄腔内送達用の製剤開発のための取り組みは、全身的投与のためのI2S製剤と等価な安定性を維持すると同時に、リン酸塩およびポリソルベート20レベルを低減することに焦点が当てられた。3種の重要なスクリーニングストレス試験が行われ、こ れらは、凍結融解、振盪ストレス、および熱ストレスが挙げられる。
生理食塩水およびリン酸塩製剤中のイズルスルファーゼに及ぼす凍結/融解の影響 【0258】 表10に示されるように、2mg/mLの低タンパク質濃度で、20mMのリン酸塩含有製剤は、凍結融解ストレス後により多くの凝集体を生じた。生理食塩水製剤は、ベースラインと同一レベルの凝集体のままであった。高タンパク質濃度(100mg/mL)では、凍結融解ストレスは、いずれの製剤の安定性にも影響を及ぼさないように思われた(表11)。このデータは、生理食塩水単独製剤が、凍結融解ストレスに対してより良好な安定性を有することを示唆した。
【表10】 【表11】 溶液中のイズルスルファーゼに及ぼす振盪ストレスの影響 【0259】 振盪試験が、2、8、および100mg/mLの3種のタンパク質濃度レベルで行われた。データは、ポリソルベート20が存在しない場合、沈殿が全てのタンパク質濃度で発生し、高レベルの可溶性凝集体が、2mg/mLで観察されることを示した(表12〜表14)。しかしながら、0.005%などの低レベルのP20の存在下では、沈殿および可溶性凝集体はほとんど抑制された。データは、低レベルのポリソルベートがタンパク質を振盪ストレスに対して保護するために必要とされることを示唆した。
表12〜14:研究室モデルにおける振盪試験(周辺温度で、250rpmで24時間の回転) 【表12】 【表13】 【表14】 【0260】 0.005%が振盪に対する安定性について十分であるかどうかを更に確認するために、実際の輸送条件に近いものである模擬輸送試験が、ポリソルベート20の異なるレベルで、100mg/mLのタンパク質を含有する生理食塩水製剤で行われた。結果は、0.005%が十分であることを裏付けた(表15)。
【表15】 【0261】 0.005%のポリソルベート20で、50mg/mLのイズルスルファーゼを含有する生理食塩水製剤に及ぼすマグネチック攪拌バーを用いる攪拌の影響が、表16に概説されている。示されるように、タンパク質は、マグネチック攪拌バーを 用いる72時間の攪拌によって生じるストレスには感受性がない。この結果は、0.005%が攪拌ストレスに対して十分であることを同様に裏付けた。
【表16】 リード候補物についての熱安定性 【0262】 6種の重要な製剤が、安定性試験のために24ヶ月にわたり試験された。これら試験の結果が、このセクションで説明されている。
外観 【0263】 全ての製剤の外観は、僅かに乳白色のままであり、6種の製剤について試験された全ての温度および時間点で、本質的に粒子を含まなかった。
OD320 【0264】 混濁度での潜在的増加を検討するために、OD320値を決定し、表17に概説された。示されるように、凍結保存では、全ての製剤についてのOD320値は、
24ヶ月保存後に、ベースラインと同様のままであった。2〜8℃条件では、生理食塩水製剤は、ベースラインと同様のままであったが、リン酸塩含有製剤は、OD320値での増加したレベルを有した。25℃の加速条件では、生理食塩水製剤は また、3〜6ヶ月後にOD320における僅かな増加を有したが、リン酸塩含有製剤は、より著しい増加を示した。これらの結果は、生理食塩水製剤が、熱ストレスに対してより安定であることを示唆している。
【表17】 SEC-HPLC 【0265】 SEC-HPLCによってテストされた全ての製剤のデータ一覧が、表に示されている。凍結保存条件では、ベースラインと比較して24ヶ月後に変化はなかった。
【0266】 40℃のストレス条件では、2週間後に全ての製剤が、可溶性凝集体の増加したレベルを有した。更に、リン酸塩含有製剤はまた、
「12分」ピークを示した。しかしながら、1ヶ月後には、リン酸塩含有製剤で観測されたこの「12分」ピークは、
消失するように見えた。加えて、可溶性凝集体レベルは、2週間の時間点と比較して、全ての製剤についてそれ以上増加しなかった(図8および表18)。
【0267】 25℃の加速条件では、ベースラインと比較して、全ての製剤について、可溶性凝集体の増加したレベルが6ヶ月後には最小であった。しかしながら、リン酸塩含有製剤は、「12分」ピークを示した(図9および表18)。
【0268】 2〜8℃の長期保存条件では、24ヶ月後に、全ての製剤についての可溶性凝集体の増加はまた、24ヶ月保存後に最小であった。全ての条件で一貫して、リン酸塩含有製剤はまた、
「12分ピーク」を有し、これは経時的に僅かに増加した(図10および表18)。
【0269】 これら結果は、生理食塩水製剤が、全ての保存条件で、リン酸塩含有製剤と比較して最小の変化に止まることを示唆している。
【表18】 SAX-HPLC 【0270】 SAX-HPLCについてのデータ一覧が、表19に表示されている。ストレス負荷/加速条件では、生理食塩水製剤は、わずかに多い変化を有したように見えた が(図11および12)、長期保存条件では、全ての製剤について、24ヶ月後に変化はなかった(表19および図13)。これは、生理食塩水製剤が、2〜8℃で24ヶ月間安定であることを示している。
【表19】 pH 【0271】 表20は、全ての製剤のpHが、2〜8℃で24ヶ月間、ベースラインに匹敵するpHのままでいたことを示している。生理食塩水製剤については、緩衝液が存在しないが、pHは、24ヶ月間、6.0で一定に維持された。
【表20】 酵素活性 【0272】 参照標準と比較すると、2〜8℃で24ヶ月後に、全ての製剤についての比活性は、アッセイ間の偏差内で同等であり、これは、イズルスルファーゼが、24ヶ月間、生理食塩水製剤中で安定のままでとどまることを示唆している(表21)。
【表21】 【0273】 生理食塩水製剤の調製における最終的UF/DF工程は、137mMのNaCl、
20mMリン酸ナトリウムからのタンパク質を150mMのNaClへと透析濾過するために用いられた。透析濾過サイクル数が最終生成物中の残留リン酸塩濃度にどのように影響を及ぼすかを検討するために、研究室スケールでの試験が、製剤原料(2mg/mLのイズルスルファーゼ、137mMのNaCl、20mMのリン酸ナトリウム、pH6.0)を用いて行われた。製剤原料を先ず初めに、50mg/mLのイズルスルファーゼに濃縮し、次いで150mMの生理食塩水中に透析濾過した。サンプルを、7X、10X、および15X透析濾過工程で採取し、リン酸塩含量についてICPによって試験した。試験結果は、表22に概説されている。
示されるように、生理食塩水透析濾過溶液は、いずれのリン酸塩も含有しない。7XDF後に、タンパク質は約0.22mMのリン酸塩を含有し、これは、理論的に計算された値よりも高かった。10XDF後に、通過液が約0.07mMのリン酸塩であったが、タンパク質保持物質は約0.16mMのリン酸塩を含有し、このことは、リン酸塩がタンパク質に結合していることを示唆した。15XDF後には、
リン酸塩レベルは約0.07mMに下降した。
【0274】 この試験からの結果は、約0.2mMのリン酸塩残基が、製剤原料中に残留していることを示し、これは、生理食塩水製剤が6.0のpHを維持していることに寄与していると思われる。
【表22】 製剤pHの維持に及ぼすタンパク質濃度の影響 【0275】 リン酸塩含量分析から、タンパク質へのリン酸塩の結合が明白となった。したがって、高濃度のタンパク質がより多くのリン酸塩に結合し得ることが予期され、このことがpHをより良好に維持する可能性がある。この仮説を検討するために、生理食塩水溶液中のタンパク質を異なるレベルに濃縮し、異なる処理条件後の溶液のpHをテストした。この結果が、表23に概説されている。
【0276】 表示されるように、溶液の最初のpHが、タンパク質濃度に依存して約6.0に維持された。しかし、周囲温度に24時間露出後または3回の凍結融解サイクル後に、0.1mg/mLまたはそれ未満のタンパク質を含有する溶液のpHは、6.0周辺で一定のpHを維持しなかった。1mg/mLまたはそれ以上のタンパク質 濃度では、溶液のpHは、6.0周辺で維持された。このことは、タンパク質濃度が、生理食塩水溶液のpHを維持する上での制御因子であることを確証した。
【表23】 【0277】 この試験からの結果は、生理食塩水製剤(50mg/mLのイズルスルファーゼ、
0.005%のポリソルベート、150mMのNaCl、pH6.0)中のイズルスルファーゼが、2〜8℃で保存される場合、少なくとも24ヶ月安定であることを立証した。この製剤は、リン酸塩含有製剤に比べてより安定であると思われる。
0.005%のポリソルベート20の選択は、タンパク質を振盪ストレスに対して保護するために十分であった。更に、この試験は、生理食塩水製剤のpHが、2〜8℃で24ヶ月間、6.0で安定に維持され得ることも示し、これは最終製剤における残留リン酸塩および高タンパク質濃度に部分的に起因するものである。
実施例5:生体分布 【0278】 髄腔内腔内投与がCNSの組織へのI2Sを送達する有効な方法であることが成功裏に立証されたので、IT投与されたI2Sが脳の深部組織への分布が可能であ るかどうか、ならびにIT投与されたI2Sの細胞局在化があるかどうかを決定するために、追加的試験が行われた。組換え体ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)製剤を、6.0のpHで、154mMのNaCl、0.005%のポリソルベート20のビヒクル中で調製かつ製剤化した。
【0279】 非ヒト霊長類に、I2Sの3mg、30mg、または100mgのいずれかを月単位で、移植した髄腔内腔内ポートによって、6ヶ月間継続して投与した。試験の計画が、以下の表24に概説されている。
【表24】 【0280】 6ヶ月間の非ヒト霊長類へのI2Sの繰り返し毎月投与は、テストされた最高用量で良好に忍容され、いずれの重大な有害毒性学的事象に関連しなかった。I2Sの第6回目および最終用量の投与後24時間に、対象の非ヒト霊長類を致死させて、
このようなヒト以外の霊長類のCNS組織を検査した。
【0281】 免疫組織化学法(IHC)によって判定されたように、CNSの細胞および組織全体にI2Sの広範な細胞堆積があった。I2Sタンパク質は、大脳皮質から脳室白質までの堆積勾配を伴い、IHCによって脳の全ての組織で検出された。灰白質では、I2Sは、全ての群において、用量依存型の様式で、大脳、小脳、脳幹、および脊髄のニューロンで検出された。高投与量群の表面灰白質では、大多数の脳ニューロンが、表面皮質でのI2S染色について陽性であった(図40A)I2Sは、

視床(図40B)、海馬(図40C)、尾状核(図40D)および脊髄(図40E)内のニューロンでも検出された。髄膜細胞および血管周囲細胞もまた、I2S染色について陽性であった(図40F)。
【0282】 図41および42に示されるように、対象の非ヒト霊長類のCNSの組織への、
特に灰白質、視床および大脳皮質へのIT投与されたI2Sの分布が認められる。
更には、図42および43は、IT投与されたI2Sが、用量依存型様式で、被験者のヒト以外の霊長類の示されたCNS組織で蓄積することを図示している。共局在化染色はまた、I2SのIT投与が、ニューロンおよび希突起グリア細胞の双方と結合することを明らかにした。IT投与されたI2Sはまた、図44によって実証されたように、対象のヒト以外の霊長類の大脳全体に分布かつ局在化する。特に、
図45は、フィラメント染色によって示されたように、対象の非ヒト霊長類へのIT投与後のI2Sのニューロンによる取り込みおよび軸索結合を図示している。また特に興味深いのは、本試験はI2Sがニューロン細胞に対して選択的であることを示していることであり、このようなニューロン細胞は、脳の深部組織への髄腔内腔内投与されたI2Sの分布を促進し、軸索構造と結合するように見え、これはI2Sの順行性軸索輸送を示唆している。
【0283】 以下の表25は、個別の動物試験についての種々の投与経路および投与量の薬物 動態データを表している。
【表25】 【0284】 以下の表26に示されるように、 124I標識化I2Sを試験動物に投与し、PETスキャン結果が図62、図63に示されている。
【表26】 【0285】 本試験はまた、IT投与後の対象の非ヒト霊長類の脳室近くの白質脳組織におけ るIT投与されたI2Sの細胞特定も立証した。白質内のI2S染色密度は、灰白質よりも概ね低いが、I2Sは希突起グリア細胞内で検出された(図46)。特に、
図46は、白質脳組織におけるI2Sの細胞特定を示していて、I2Sがミエリンと結合するようには見えないことを更に立証している。
【0286】 IT投与されたI2Sの脳組織の深部への分布を立証したことに加えて、本試験はまた、標的の細胞内小器官へのI2Sの局在化、重要なことは、ハンター症候群などのリソソーム蓄積疾患において影響を受ける細胞内小器官であるリソソームへのI2Sの局在化を確認したことである。特に、I2Sは、リソソーム内に局在化され、軸索内でも検出された。図46は、対象の非ヒト霊長類の希突起グリア細胞のリソソーム内のIT投与されたI2Sの局在化を示していて、したがって、IT投与されたI2Sは、脳の組織の深部に分布することが可能であり、ならびに細胞内局在化が可能であることを確認した。
【0287】 送達されたI2Sが生物学的活性を保持しているかどうかを明らかにするために、
脳におけるI2Sのレベルを、比活性アッセイを用いて測定した。最後の投与後24時間の3mgのIT群の脳における活性は、装置対照およびビヒクル対照動物での基底レベルと明らかな差はなかった。30mgおよび100mgのIT投与動物の脳における酵素活性は、死体解剖時(投与後24時間)ではベースライン以上であった。
実施例6:IT送達対ICV送達 【0289】 前述の実施例で観察されたI2S分布が、単回ITまたはICV用量が投与された健常なビーグル犬でも再現された。雄ビーグル犬を、コンピューター作成番号を用いて、2つの群(1群(ICV)、N=3;2群(IT)、N=4)に無作為割付した。全てのビーグル犬は、腰椎でのクモ膜下腔内または左側脳室内(投与用)な らびに大槽内(サンプリング用)に移植されたカテーテルを有した。全てのカテーテルは、皮下チタンアクセスポートに終結した。追加の犬が、非投与の外科的対照として用いられた。
【0290】 I2Sの単回ボーラス1mL注射(20mMリン酸ナトリウム、pH6.0;137mM塩化ナトリウム;0.02%ポリソルベート-20中30mg/mL)がITまたはICVで投与され、続いて、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS;pH7.2)で0.3mL流された。臨床的徴候を監視し、投与後24時間で致死させた。
ELISA、I2S酵素活性およびIHCによって決定されるような定量的I2S分析用に脳および脊髄組織サンプルを採取し、試験群間で比較した。
【0291】 IHCによって決定されたように、I2Sは、ITおよびICV群の双方の灰白質全体に広く分布した。大脳皮質では、図47(AおよびB)によって示されるように、ITおよびICV群の双方で、ニューロンは、表面の分子層から深部の内層までの6つのニューロンでI2Sについて陽性であった。ITおよびICV群の大脳皮質では、図47(CおよびD)で示されるように、I2Sは、プルキンエ細胞を含むニューロンで検出された。
ITおよびICV群の双方において、図47(EおよびF)に示されるように、
海馬内のニューロンの大集団が、I2Sに陽性であった。I2S陽性ニューロンはまた、図47(GおよびH)で示されるように、両群において、視床および尾状核でも確認された。
【0292】 したがって、本試験は、脳の深部細胞および組織分布するためのIT投与された酵素の能力を確認し、ならびにハンター症候群などのリソソーム蓄積疾患に関連するCNS症状発現の治療のためのIT投与されたI2Sなどの酵素の利用を裏付ける。
実施例7:イズロン酸-2-スルファターゼ欠損動物モデル 【0293】 IT投与されたI2Sが、脳の組織の深部への分布が可能であることならびにI2Sの細胞内局在化が立証されたので、IT投与されたI2Sの治療的有効性を判定するために、更なる試験が行われた。IT投与されたI2Sの疾患の進行を変更するための能力を試験するために、ハンター症候群の遺伝子的に処理されたイズロン酸-2-スルファターゼノックアウト(IKO)マウスモデルを開発した。このI2Sノックアウトマウスモデルは、組織および器官においてグルコサミノグリカン(GAG)の蓄積を生じさせるI2S遺伝子座の標的破壊を用いて開発された。
IKOマウスモデルは、特徴的顔貌および骨格異常が挙げられるヒトで見られるハンター症候群の多くの身体的特徴を呈する。更に、IKOマウスモデルは、尿および体全体の組織におけるグルコサミノグリカン(GAG)の上昇したレベル、ならびに組織病理学的に観察された広範囲の細胞空胞化を示す。
【0294】 本試験において、市販のI2S(Elaprase(登録商標))を濃縮し、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させた。8〜12週齢の雄IKOマウスの6つの群を、I2S(10μl;26mg/ml)で処置した。AおよびB群(N=3)には、それぞれI2Sの260μg用量を3回(1、8、および15日目に)および260μg用量を2回(1および8日目に)髄腔内腔内投与した。D群もまた、1、8、および15日目で、260μgの3回の髄腔内腔内投与で処置した。
C群およびE群(N=3)は未処置対照群であり、F群(N=3)は、未処置の野生型対照であった。対照マウスには、I2Sを含まないビヒクルを投与した。最後の注射後1時間でマウスを致死させて、続いて免疫組織化学法(IHC)および組織病理学的分析用に組織調製を行った。
【0295】 3回目の注射後に、ビヒクル処置マウスに比べてI2S処置マウスで、表面大脳 皮質、尾状核、視床および小脳における細胞内空胞化の広範囲の減少があった。細胞内空胞化における減少はまた、IT処置後に白質において確認された。IKOマウスの脳組織へのI2Sの分布は、IT投与後に明白であった。
【0296】 IKOマウスにおけるI2Sの3週間のIT投与もまた、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方で、CNS細胞内空胞化での著しい減少を示した。I2SのIT投与後の細胞内空胞化の減少は、未処置IKOマウスに対して明確であって、これは、IT投与されたI2Sが疾患の進行を変更することが可能であることを示唆している。図48に示されるように、細胞空胞化の減少は、I2SのIT投与後にIKOマウスの脳梁および円蓋で顕著であった。図49は、処置されたIKOマウスの大脳皮質組織における、リソソーム疾患の病理学的生物マーカーであるリソソーム結合膜タンパク質1(LAMP1)の存在の著しい減少を示している。
【0297】 更には、電子顕微鏡は、灰質内のニューロンでの蓄積封入体および白質内の希突起グリア細胞での空胞化の存在の減少を立証した。特に、IKOマウスのIT投与されたI2Sは、特定のリソソーム蓄積疾患の特徴である柵状ラメラ体(ゼブラ小体)の減少を立証した。特に、図5は、未処置IKOマウスに対するI2Sを投与されたIKOマウスのニューロン内の特徴的ゼブラ小体の減少を示している電子顕微鏡走査を表している。同様に、図5は、脳梁内の希突起グリア細胞の電子顕微鏡走査を示す。
【0298】 加えて、IKOマウスへのI2SのIT投与はまた、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳および白質において、リソソーム活性および病状の指標である、リソソーム疾患病理学的生物マーカーのリソソーム結合膜タンパク質1(LAMP1)免疫染色での顕著な減少も示した。図49Aに示されるように、LAMP1免疫染色での顕著な減少は、図49Bに示される未処置のIKO対照マウスの表面大脳皮質組 織に対して、処置されたIKOマウスの表面大脳皮質組織で明白であって、これは病変での改善を反映している。
【0299】 図20は、脳組織のμm2領域で測定されたLAMP-1の濃度を図示しかつ比較する。種々の脳領域のLAMP-1免疫染色の形態計測学的分析は、評価された脳の領域におけるLAMP-1陽性染色での著しい減少があることを確認した。図4に示されるように、評価された脳組織のそれぞれの領域(皮質、尾状核および被殻(CP)、視床(TH)、小脳(CBL)および白質(WM))で、LAMP-1陽性領域は、未処置IKO対照マウスに対して処置IKOマウスで減少され、野生型マウスのLAMP-1陽性領域に近づいた。特に注目すべきことは、分析された脳組織の各領域におけるLAMP-陽性領域は、継続された処置時間で更に減少された。
【0300】 異常に高いリソソーム活性の減少は、脳の全ての領域での劇的な形態的改善に相関した。これら結果は、IT投与されたI2Sが、遺伝子的に処理されたIKOマウスモデルにおいて、リソソーム蓄積疾患の進行を変更させることが可能であることを裏付け、ならびにハンター症候群などのリソソーム蓄積疾患に関連するCNS症状発現を治療するためのIT投与されたI2Sなどの酵素の能力を更に裏付けた。
実施例8:ハンター症候群患者の治療 【0301】 例えばIT送達を通じての直接的CNS投与は、ハンター症候群患者を効果的に治療するために用いられ得る。この実施例は、後期小児型ハンター症候群を有する患者への髄腔内薬剤送達装置(IDDD)を介しての合計で40週間の3段階隔週(EOW)のI2S投与までの安全性を評価するために計画された多施設用量漸増試験を示す。・・・ 実施例9:ハンター症候群患者の治療 【0306】 例えばIT送達を通じての直接的CNS投与は、ハンター症候群患者を効果的に治療するために用いられ得る。この実施例は、後期小児型ハンター症候群を有する患者への髄腔内腔内薬剤送達装置(IDDD)を介しての合計で6ヶ月の3段階の毎月I2S投与までの安全性を評価するために計画された多施設用量漸増試験を示す。・・・ 【図1】 【図2】 【図3】【図4】【図5】 【図6】 【図7】【図8-1】 【図8-2】 【図9-1】 【図9-2】【図10-1】 【図10-2】 【図11-1】 【図11-2】【図12-1】 【図12-2】 【図13-1】 【図13-2】【図16】 【甲17】 【図18】 【甲19】【図20】 【甲21】【図22】 【図23】 【図41】 【甲42】【図43】 【図44】 【図45-1】 【図45-2】【図46】 【図47】 【図48】【図49A】 【図49B】【図62】 【図63】 (2) 本件発明の概要 ア 技術分野 本件発明は、酵素補充療法(ERT)において、中枢神経系(CNS)を保護するよう機能する血液-脳関門(BBB)をタンパク質や酵素が適切に横断しないことから特に挑戦的な、CNS病因を有する疾患の処置に係るリソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む製剤に関連する。(請求項1、【0001】〜【0004】) イ 背景技術及び発明が解決しようとする課題 (ア) 治療薬の脳送達を増強するためにBBBを迂回するいくつかの方法があるが、
合併症(感染、組織損傷、免疫応答性)、投与部位からの活性作用物質の不十分な拡散、拡散バリア、投与され得る治療薬の用量限定、特に脳内カテーテルの配置は非常に侵襲性であることなどの問題がある。髄腔内(IT)注射又は脳脊髄液(CSF)へのタンパク質の投与も試みられてきたが、未だ治療的成功を見ておらず、脳の表面での拡散に対するバリアや、有効かつ便利な送達方法がないことは、脳における適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物であると考えられていた。
(【0005】〜【0007】) (イ) 多数のリソソーム蓄積障害は神経系に影響を及ぼし、罹患個体のニューロン及び髄膜においてグリコサミノグリカン(GAC)の大きな蓄積がしばしば認められ、種々の型のCNS症候を生じさせる。脳に治療薬を有効に送達する必要性、さらに特定的には、リソソーム蓄積障害の処置のために中枢神経系に活性作用物質をより有効に送達することが大いに必要とされている。【0008】【0009】 ( 、 ) ウ 課題を解決するための手段及び発明の効果 (ア) 本件発明は、中枢神経系(CNS)への治療薬の直接送達のための有効かつ低侵襲性のアプローチを提供する。本件発明は、一部は、酵素が種々の表面を横断して有効に、かつ広範に拡散して、深部脳領域を含めて脳を横断する種々の領域に浸透するよう、リソソーム蓄積症のための補充酵素(例えば、イズロン酸-2-ス ルファターゼ(I2S))が高濃度(例えば、約3mg/ml以上、4mg/ml、
5mg/ml、10mg/ml以上)での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導入され得るという発見に基づいている。さらに、単なる生理食塩水又は緩衝液ベースの処方物を用いて、そして対象において実質的な有害作用、
例えば重篤な免疫応答を誘導することなく、このような高タンパク質濃度送達が達成され得る。【0010】 ( 。I2Sは、ハンター症候群の治療のために用いられる補充酵素である。【0073】) ( ) (イ) 本件発明は、@ハンター症候群を治療するための安定製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記安定製剤は、5mg/ml〜100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤、A10mg/ml〜100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、塩と、
ポリソルベート界面活性剤とを含む、脳室内投与のための安定製剤であって、前記製剤は、5.5〜7.0のpHを有し、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含む、安定製剤又はBその単回投与形態を含む容器である。(請求項1〜12) (ウ) 本件発明は、CNS構成成分を有する種々の疾患及び障害、特にリソソーム蓄積症の処置のための直接CNS送達のための非常に効率的な、臨床的に望ましい、
かつ患者に優しいアプローチを提供する。本件発明は、CNSターゲッティング及び酵素補充療法の分野における有意の進歩を示す。【0010】 ( ) (3) 本件発明の技術的意義について 前記(2)によると、本件発明の技術的意義は、次のとおりのものと認められる。
ア 中枢神経系(CNS)病因を有する疾患の処置に係る酵素補充療法(ERT)では、血液-脳関門(BBB)をタンパク質や酵素が適切に横断しないことからBBBを迂回するいくつかの方法が試みられていたものの、脳の表面での拡散に対するバリア等によりタンパク質や酵素のCNSへの有効な送達方法がなかった。
脳におけるリソソーム酵素の不全により生じるリソソーム蓄積障害は神経系に影響を及ぼすことから、リソソーム蓄積障害のためにCNSに活性作用物質をより有効に送達することが大いに必要とされていた。
イ 本件発明は、前記アの技術的背景の下、リソソーム蓄積障害の一種であるハンター症候群のための補充酵素であるイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)が、脳の表面を横断して広範に拡散し、深部脳領域を含めて脳を横断する種々の領域に浸透するよう、高濃度で治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接導入され得るとの発見に基づき、また、緩衝液ベースの処方物を用いて、対象に重篤な免疫応答等の実質的な有害作用を誘導することなく、高濃度のI2Sが送達され得ることを見出したことにより、I2Sの不全に起因するハンター症候群の治療のために、I2SをCNSに送達するために用いられる製剤を提供したものである。
2 取消事由2(実施可能要件違反)について 事案に鑑み、まず、取消事由2につき、検討する。
(1) 特許法36条4項1号に規定する実施可能要件は、明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かを問題とするものであるところ、本件発明1が、ハンター症候群を治療するための安定製剤であって、脳室内投与されることを特徴とするものであり、前記1(3)の技術的意義を有するものであることを踏まえると、本件発明を実施できる程度の記載があるか否かについては、本件発明1の製剤がハンター症候群の治療に使用できる程度の記載があるか否という点を中心に、これを検討するのが相当である。
(2)ア 本件明細書には、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質がハンター症候群の治療のためのCNS送達に係るタンパク質であることが記載された(【0069】【0073】 、 )上で、本件発明1の製剤に含まれる製剤を用いたIT投与及びICV投与の実施例として、実施例6(【0289】〜【0292】、
【図47】)の記載があり、I2Sの単回ボーラス1mL注射(20mMリン酸ナト リウム、pH6.0;137mM塩化ナトリウム;0.02%ポリソルベート-20中30mg/mL)のビーグル犬へのIT投与及びICV投与のいずれによっても、I2Sが脳の灰白質全体に広く分布したほか、海馬、視床及び尾状核でも確認されたことなどが記載されている。
イ また、本件明細書には、実施例7(【0293】〜【0300】【図48】 、 、
【図49】等)として、ハンター症候群の遺伝子的に処理されたイズロン酸-2-スルファターゼノックアウト(IKO)マウスモデルを用いたI2SのIT投与により、表面大脳皮質、尾状核、視床及び小脳における細胞内空胞化の広範囲の減少や、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳および白質におけるリソソーム疾患病理学的生物マーカーのリソソーム結合膜タンパク質1(LAMP1)免疫染色での顕著な減少等が確認され、CNS症状発現を治療するためのIT投与されたI2Sなどの酵素の能力が裏付けられたことなどが記載されている。
ウ 前記ア及びイの各実施例についての記載からすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1に規定される濃度のI2Sとリン酸塩を含み、かつ、pHも本件発明1に規定される範囲内にある製剤をICV投与することにより、製剤中のI2Sが脳の組織に分布して大脳の深部組織まで到達することや、それと同様に到達するIT投与によりI2Sによる治療効果が確認されたことが記載されており、もって、本件発明1の製剤がハンター症候群の治療に使用できることが開示されていると認められる。
(3)ア 他方、本件発明1の製剤は「安定製剤」であるところ、本件明細書の【0057】には、本件明細書における、「安定な」の意義について、「長期間に亘ってその治療効力(例えば、その意図された生物学的活性および/または物理化学的完全性のすべてまたは大部分)を保持する治療薬(例えば、組換え酵素)の能力を指す。
・・・概して、本明細書中に記載される薬学的組成物は、それらが、一緒に処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、或いはそれらの分解を遅くするかまたは防止し得るよう、処方されている。
・・・タンパク質安定 性に関しては、それは、高分子量(HMW)集合体の形成、酵素活性の損失、ペプチド断片の生成および電荷プロフィールの移動により測定され得る。」と記載されている。
その上で、本件明細書の【0093】には、
「いくつかの実施形態では、髄腔内腔内送達のための製剤は、それらが、それとともに処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、或いはその分解を遅くするかまたは防止し得るよう、製剤化されている。
・・・製剤の状況では、安定製剤は、貯蔵時および加工処理(例えば、凍結/解凍、機械的混合および凍結乾燥)の間、その中の治療薬が本質的にはその物理的および/または化学的完全性ならびに生物学的活性を保持するものである。」と記載されている。
これらの記載からすると、本件発明の「安定製剤」とは、製剤の貯蔵時や加工処理(例えば、凍結/解凍、機械的混合および凍結乾燥)の間、高分子量(HMW)集合体の形成すなわち凝集や、酵素活性の損失等が生じにくいようI2Sが安定化され、又はI2Sの分解が遅くなる、若しくは防止され得るよう処方され、I2Sによる治療効果が保持されるような製剤をいうものと解される。
イ(ア) 本件明細書の実施例4 【0246】 【0277】 ( 〜 、
【表10】 【表23】 〜 、
【図8】〜【図13】)には、凍結融解試験、振盪ストレス試験及び熱安定性試験について記載され、結果として、@凍結融解ストレスについて、生理食塩水製剤が低タンパク質濃度(2mg/mL)でより安定であること、高タンパク質濃度(100mg/mL)では生理食塩水含有製剤及びリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかったこと、A振盪ストレスについて、0.005%ポリソルベート20がタンパク質を保護すること、B熱ストレスについて、生理食塩水製剤がリン酸塩を含有する製剤に比べてより安定であることが確認され、その上で、生理食塩水製剤のpHは、2〜8℃で24カ月間、6.0で維持されることができたことや、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量及びタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められたことが記載されている。
(イ) 本件発明1の製剤は、一定の範囲内におけるI2S、リン酸塩及びpHの組合せを発明特定事項とするものであるところ、本件明細書の【0098】では、本件発明のタンパク質及び酵素が、本件発明の製剤に係る薬学的組成物中でそれらの溶解性及び安定性を保持するために、制御されたpHおよび特定の賦形剤を要するものである旨が記載され、本件発明のタンパク質治療薬の溶解性及び安定性を保持するために重要であるとみなされるタンパク質製剤の典型的例示的態様を特定するものとして、
「パラメーター」「典型的範囲/型」及び「論理的根拠」の対応を示し 、
た【表4】が記載され、そこでは安定性についても言及がされている。
(ウ) 本件明細書の【0102】には、タンパク質を保護するために製剤が含有する安定化剤に関する記載があり、好適な安定化剤が例示されるとともに、安定化剤の量について「治療薬剤の分解/凝集の許容不能な量が生じるようなあまりに低い量であってはならない」と記載されている。
また、
【0105】には、いくつかの実施形態では、製剤に界面活性剤を付加することが望ましく、付加される界面活性剤の量は、それがタンパク質の凝集を低減し、
粒子の形成又は泡立ちを最小限にするような量であることが記載されている。
さらに、【0110】には、凍結乾燥製剤について、「対象の化合物が分解すること(例えばタンパク質凝集、脱アミド、および/または酸化)を抑制するために、
賦形剤または安定化剤、緩衝剤、増量剤、および界面活性剤などの他の成分の適切な選択を更に含む」と記載されている。
(エ) このように、本件明細書の発明の詳細な説明には、凍結融解ストレスについて、高タンパク質濃度(100mg/mL)のリン酸塩含有製剤で不安定性の問題は発生しなかったこと、振盪ストレスについて、界面活性剤であるポリソルベート20がタンパク質を保護したことが実施例として具体的に確認され、「タンパク質に結合された残留リン酸塩の量及びタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められた」と記載された上で、I2Sの凝集や分解を抑制するために配合される安定化剤等の記載がされているところである。
(4) 以上によると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(5) 原告の主張について ア(ア) 原告は、本件明細書の【0091】の記載にもかかわらず、本件発明のリン酸塩濃度及びpHはエリオットB溶液の条件を含んでいるから、本件発明は、不安定な製剤にも及ぶと主張する。
(イ) 本件明細書の【0091】においては、エリオットB溶液を用いることについて否定的な記載がされ、
「いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達に適した製剤は、合成または人工CSFではない」ことが【0092】に記載されている。また、【0062】では、「合成CSF」についてエリオットB溶液に限られない形で定義がされ、
【0069】では、合成CSFを用いることなく補充酵素が単なる生理食塩水又は緩衝液ベースの処方物中で送達され得ることを発明者が見いだしたことが記載されている。
そして、もとより本件発明1において、エリオットB溶液を用いること等が発明特定事項とされているものではなく、本件発明1における発明特定事項である酵素濃度、リン酸塩濃度及びpHの各範囲が、エリオットB溶液を用いるか否かによって直ちに決するものでないことも明らかである。
上記の各点を踏まえると、単に本件発明のリン酸塩濃度及びpHはエリオットB溶液の条件を含んでいるということをもって、本件明細書の記載に接した当業者において、本件発明1が過度の試行錯誤なくして実施できないものとなるものではないというべきである。
イ(ア) 原告は、本件明細書の実施例4の結果は、リン酸塩の共存によって、酵素がむしろ不安定化することを示しており、また、当該結果によっても、本件発明は、
凝集の生じやすい態様に及んでいると主張し、具体的には、@凍結融解試験において、2mg/mLのタンパク質濃度では、リン酸塩製剤では凝集体の濃度が増加し たもので(【0258】の表10)、I2Sが低濃度の領域(少なくとも下限(5mg/mL)付近)では、凝集体が生じるか否かが明らかでなく、リン酸塩の共存により凝集体の生成が促進されるおそれがあること、 振盪試験において、
A ポリソルベート20が存在しない場合には、凝集体が生成したこと、B熱安定性試験において、OD320の測定の結果について、リン酸塩含有製剤では、生理食塩水製剤と比較して、OD320値が増加しており、凝集物が生成したことが示されていること、SEC-HPLCによる試験では、リン酸塩含有製剤では、25℃の加速条件及び2―8℃のリアルタイム保存条件にて12分ピークが現れており、不純物の生成が示されていることを主張する。
(イ) しかし、上記@の2mg/mLは、本件発明1のI2Sの濃度の下限を下回るもので、そのことから、前記(3)の判断が左右されるものとはいえない(なお、凍結融解試験においては、本件発明1のI2Sの濃度範囲に属する100mg/mlでは凍結融解ストレス後に凝集体が生じなかったことが記載されている(本件明細書の【0258】【表10】【表11】 、 、 。なお、実施形態について、本件発明1の製剤は、凍結乾燥粉末ではなく液体製剤を含む(【0017】。 。
)) また、上記Aについて、本件明細書の【0248】の記載のほか、【0015】、
【0105】及び【表4】の記載に照らし、本件発明1を液体製剤とする際にポリソルベート20等の界面活性剤を使用することは、当業者が適宜なし得る範囲内の事項である(もとより、本件発明1が、界面活性剤を含まないことを発明特定事項とするものとは認められない。。
) さらに、上記Bについて、本件明細書には、凍結保存条件のリン酸塩含有製剤では凝集物が生じないことの記載(【0264】【0265】【表17】 、 、 )や、40℃のストレス条件下であっても、2週間後に全ての製剤が、可溶性凝集体の増加したレベルを有したが、全ての製剤についてそれ以上増加せず、リン酸製剤で見られた12分ピークも1か月後には消失するように見えたとの記載(【0266】)があることを他方で考慮すると、上記Bの事情から直ちに前記(3)の判断が左右されるも のとは解されず、本件全証拠をもってしても、そのように解すべき技術常識等も認められない。
ウ 原告は、
「安定製剤」には、安全性と忍容性が要求されるところ、甲15の図5を参照すると、ビヒクルの安全性及び忍容性は、リン酸塩濃度及びpHに強く依存しており、限られた領域でのみ副作用がないことが確認されたにすぎないなどと主張するが、本件明細書に含まれていない同図の記載をもって、前記(3)の判断が左右されるとみるべき事情はなく、また、本件明細書において「安定製剤」の要件とされているわけでもない安全性と忍容性という観点からの検討によって前記(3)の判断が左右されるものとも解されない。
エ 原告は、極低濃度のリン酸塩の下で「安定製剤」が得られるかどうかは明らかではないと主張するが、前記(3)で指摘した点からすると、また、本件明細書の実施例2(【0212】〜【0227】【0233】【図16】〜【図23】 、 、 )及び実施例5(【0278】〜【0287】【図40】〜【図46】【図62】【図63】 、 、 、 )では、リン酸塩が添加されていない製剤について、動物モデルへのICV投与により、脳の深部組織におけるI2Sの広い分布が確認されていることに鑑みても、上記原告の主張に関しては、前記(3)の判断に影響を与えるものとはいえない。
(6) 以上のとおり、本件発明1について実施可能要件違反は認められないところ、
原告は、本件発明1と同様の理由により本件発明2〜12についての実施可能要件違反を主張するから、同主張も認められない。
よって、取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(サポート要件違反)について 次いで、取消事由3につき、検討する。
(1) 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、ま た、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) そこで検討するに、前記1(2)の本件発明の概要に照らすと、本件発明の課題は、リソソーム蓄積障害であるハンター症候群の処置のために、中枢神経系(CNS)に、活性作用物質であるリソソーム酵素に関する補充酵素であるI2Sを、より有効に直接送達するためのアプローチを提供することにあるということができる。
(3) 本件明細書の【0013】【0016】【0096】【0099】【012 、 、 、 、
0】【0123】【0124】【0126】のほか、前記2(2)及び(3)並びに(5)エ 、 、 、
で指摘した本件明細書の実施例等の各記載からすると、本件明細書には、I2Sを一定以上の濃度で含み、かつ、リン酸塩とpHが特定範囲である組成物として、前記(2)の課題を解決できると当業者が認識できる発明が記載されており、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるとともに、本件発明1は、
発明の詳細な説明の記載により当業者が前記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきである。
(4) 原告の主張について ア 原告は、本件発明の課題には、リソソーム病のための補充酵素が高濃度での治療を要する対象の脳脊髄液(CSF)中に導入することも含むと主張するが、本件発明の課題については、前記(2)のとおり認めるのが相当である。本件明細書の【0010】において、
「高濃度」との記載は、本件発明が基づいているとされる発見に関して記載されているものと解され、同段落の記載をもって原告の主張するように解することはできない。
したがって、その余の原告の主張についても、本件発明の課題について、高い酵素濃度を実現できることが含まれていることを前提とする部分は、いずれも採用することができない。そして、本件発明1が同課題を解決できるものであることは、
前記(2)及び(3)のとおりである。
イ 原告は、本件発明がエリオットB溶液にタンパク質を溶解させた組成物にまで及んでおり、課題を解決できない領域にまで及んでいると主張するが、前記2(5)ア(イ)で説示したのと同様に、上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件明細書の実施例によると、本件発明が凝集の生じやすい態様にまで及ぶと主張するが、本件明細書の実施例4は、リン酸含有製剤と生理食塩水製剤について対比して記載するものであって、その一方において他方におけるより凝集が生じやすいという結果が示されたことをもって、直ちに前記(2)の課題が解決されなくなるものということはできない。実施例4について原告が具体的に問題にする点について前記2(5)イで認定説示した点を含め、実施例4の記載を踏まえると、原告の上記主張は、前記(3)の判断を左右するものではない。
エ 原告は、本件発明では、イオン強度がそもそも構成要件となっていないと主張するが、そもそも原告がその前提として指摘する甲15の図4について、本件明細書に含まれていない同図の記載をもって、前記(3)の判断が左右されるとみるべき事情はない。その点を措くとしても、本件明細書の【表4】の記載や、
【0056】及び【0095】の記載も踏まえると、イオン強度が特定の範囲にないことをもって、直ちに前記(2)の課題が解決されなくなるものということはできない。
また原告は、本件発明のリン酸塩濃度が極めて薄い態様にも及ぶことを主張するが、前記2(5)エで指摘した本件明細書の記載(この点、実施例4に係る【0248】では、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められた旨が記載されている。 も踏まえると、
) 原告の上記主張も、前記(3)の判断を左右するものではない。
オ 原告は、甲15の図5を指摘しつつ、本件発明1が、安全性及び忍容性が確認されていない領域を含むと主張するが、前記2(5)ウで説示したのと同様、上記主張によって前記(3)の判断が左右されるものとは解されない。
カ その余の原告の主張も、前記(3)の判断を左右しない。
(5) 以上のとおり、本件発明1についてサポート要件違反は認められないところ、
原告は、本件発明2〜12について独立のサポート要件違反の事情を主張しておらず、本件発明2〜12についてもサポート要件違反は認められない。
よって、取消事由3は認められない。
4 取消事由4(明確性要件違反)について 原告は、本件発明1について、リン酸塩の下限値が特定されていないことから、
明確性要件に反すると主張する。
しかし、本件特許の請求項1の文言から、本件発明1の薬学的組成物が「リン酸塩を含」むものであることは明らかで、50mMまでのリン酸塩であれば、どれほどわずかの量を含む場合であっても、本件発明1のリン酸塩に係る発明特定事項を満たすことは明確である。そして、
「安定製剤」という文言に関して、リン酸塩の下限値が特定されていないことから、本件発明1について、第三者に不測の損害を被らせるものであるというべき事情は認められない。
したがって、原告の主張は採用することができない。本件発明2〜8及び12についても同様である。
よって、取消事由4は理由がない。
5 基礎出願について 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について判断をする前提として、
基礎出願1及び2につき、検討する。
基礎出願1に係る優先権証明書(甲14)と、基礎出願2に係る優先権証明書(甲15)の記載事項は、いずれも「治療用タンパク質のCNS送達のための安定製剤及び方法」と題する発明に係るもので、それらの記載内容はほとんど全て同じである(弁論の全趣旨)。このうち、甲15には、次の記載がある(訳文は、乙35による。。
) (1) 請求項(29頁5行目〜32頁5行目、34頁8行目〜23行目、36頁8行目〜19行目。行数は、頁左に記載された行番号による。以下、甲17について特記しない限り同じ。) 1. 治療有効量の治療剤を対象の中枢神経系に送達するのに適している水性薬学的組成物であって、(a)1以上の治療剤と、(b)1以上の緩衝剤とを含む水性薬学的組成物。
2. (a)前記治療剤が前記組成物中に可溶性であり、(b)前記組成物が安定であり、
かつ(c)前記組成物が前記対象に髄腔内投与されると忍容性が認められる、請求項1に記載の水性薬学的組成物。
3. 前記組成物が低pH及び低リン酸含有量を有する、請求項1に記載の水性薬学的組成物。
4. 前記組成物のpHが約8未満である、請求項1、2または3に記載の水性薬学的組成物。
5. 前記組成物のpHが約7未満である、請求項1、2または3に記載の水性薬学的組成物。
6. 前記組成物が酸性である、請求項1、2または3に記載の水性薬学的組成物。
7. 前記組成物のリン酸含有量が約30mM未満である、請求項1、または3に記載の水性薬学的組成物。
8. 前記組成物のリン酸含有量が約10mM未満である、請求項1、2または3に記載の水性薬学的組成物。
9. 前記治療剤がタンパク質である、請求項1に記載の水性薬学的組成物。
10. 前記治療剤が組換えタンパク質である、請求項1に記載の水性薬学的組成物。
11. 前記タンパク質が酵素である、請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
12. 前記タンパク質がリソソーム酵素である、請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
13. 前記タンパク質がヘパランN-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、アルファ-L-イズロニダーゼ、アリールスルファターゼA及びガラクトセレブロシダーゼからなる群から選択される、請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
14. 前記タンパク質が前記組成物中に可溶性である、請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
・・・ 16. 前記組成物中の前記タンパク質の濃度が約30mg/mL未満である、請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
17. 前記組成物中の前記タンパク質の濃度が約10〜20mg/mLである、
請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
・・・ 20. 前記タンパク質が前記組成物中で安定である、請求項9または10に記載の水性薬学的組成物。
・・・ 22. 前記緩衝剤が前記組成物のpHを約5.0〜約8.0に維持するのに十分な量で存在する、請求項1に記載の水性薬学的組成物。
38.界面活性剤及び等張化剤をさらに含む、請求項1に記載の水性薬学的組成物。
39.前記緩衝剤がリン酸ナトリウムであり、前記界面活性剤がポリソルベート20であり、前記等張剤がスクロースであり、かつ前記治療剤が組換えタンパク質である、請求項38に記載の水性薬学的組成物。
・・・ 41.前記組換えタンパク質がイズロン酸-2-スルファターゼである、請求項39に記載の水性薬学的組成物。
52.中枢神経系の病因を伴う疾患を有する対象を治療する方法であって、請求項1、2または39の薬学的組成物を前記対象に投与することを含む方法。
53.前記疾患がサンフィリッポ症候群A型、ハンター症候群、異染性白質ジストロフィー及びグロボイド細胞白質ジストロフィーからなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
(2) 発明の背景 ア 酵素補充療法(ERT)は、対象への天然または組換え的に得られるタンパク質および/または酵素の全身投与を伴う。承認された治療法は、対象に静脈内投与され、一般的には、基礎にある酵素欠乏の身体症候を処置するのに有効である。
静脈内投与されたタンパク質および/または酵素の中枢神経系(CNS)の細胞および組織中への分布が限られている結果として、静脈内投与されたタンパク質および/または酵素が血液一脳関門(BBB)を十分に通過しないため、CNS病因を有する疾患の処置は特に困難であった。(1頁4行目〜15行目) イ 血液-脳関門(BBB)は内皮細胞からなる構造系であり、血流中の有害物質、例えば細菌、高分子(例えばタンパク質)およびその他の親水性分子が、BBBを越えてその下の脳脊髄液(CSF)およびCNS中へと拡散するのを制限することにより、このような物質から中枢神経系(CNS)を保護するように機能する。
(1頁16行目〜2頁5行目) ウ 内因性であるか外因性投与であるかにかかわらず、全身性物質がBBBを通過する能力は、いくつかの因子の影響を受ける。そのような因子には、例えば、BBBを越える物質の濃度、その物質の大きさ、その物質の脂肪親和性及び特定の能動担体機構に対するその物質の親和性が含まれる。(2頁6行目〜12行目) エ BBBを越えて治療剤を効果的に送達するためにこれまで開発されてきた戦略には、受容体媒介性の輸送が含まれ、これにより大きい分子が内在性の輸送システムを通って能動的にBBBを越えて輸送される。また、BBBの高浸透圧開口も、
BBBを操作して治療剤の送達を容易にすることができる技術と考えられてきた。
治療剤の対流促進型送達等のより侵襲的な技術もまた、CNS中にそのような薬剤を直接注入することによってBBBを迂回する手段として考えられてきた。(2頁13行目〜23行目) オ 侵襲的と考えられつつも、脊髄周囲のクモ膜内空隙内への治療剤の投与がBBBを通過してその下のCSFに治療剤を直接投与するための最も一般的な手段であり続けている(Kroin JS、Clin Pharmacokinet(1992)22(5):319-326.)。対象 に全身的に投与されうる組成物の量と比べて、髓腔内投与用に適した組成物の量は、
CNS病因を有するある種の疾患の治療に対する大きな障害となることがある。 2 (頁24行目〜3頁3行目) カ これらの限界が、対象に投与され得る治療剤の総用量をしばしば制限するので、これにより治療剤が意図される作用部位で至適治療濃度を達成する能力を制限する。したがって、そのような限界が、CNS病因を有すると疑われる多くの疾患に対して、特に、患部の組織(例えば脳)における有効な治療的濃度を達成するにはより高用量の治療薬を必要とするそれらの疾患に対して、髄腔内ルートの送達を実行不可能にし得る。(3頁4行目〜13行目) キ 濃縮された組成物の調製は、治療剤の髄腔内投与と患部組織における有効治療濃度の達成に付随する限界を十分に改善するまでに至っていない。濃縮した組成物の調製には、しばしば治療剤の凝集及び/または沈殿が付随する。この限界には、
CNS投与に適した薬学的組成物が限定的にしか利用可能でないことがさらに加わる。そのため、本技術分野において、治療剤を可溶性にすることができ、かつ、必要とする対象へのこのような治療剤のCNS投与に適した、安定な組成物に対する需要が未だ存在する。(3頁14行目〜26行目) (3) 発明の概要 ア 治療有効量の治療薬を対象のCNSに送達するのに適した水性薬学的組成物が本明細書中に開示される。このような薬学的組成物は、1以上の治療薬と1以上の緩衝剤とを含む。このような薬学的組成物のある実施態様においては、治療薬は、
前記組成物で可溶性であり、前記組成物は安定であり、かつ前記組成物は、前記対象に髄腔内投与されると忍容性が認められる。(4頁3行目〜11行目) イ 代替的な実施態様において、本発明の薬学的組成物は、凍結乾燥されていてもよい。このような組成物は、1以上の治療薬と、1以上の緩衝剤と、1以上の界面活性剤と、1以上の等張化剤を含む。このような凍結乾燥される薬学的組成物は、
対象への投与に適した組成物とするために希釈剤(例、減菌水、注射用静菌性水及 び減菌生理食塩溶液)を用いて再構成することができるが、特に、その対象の中枢神経系に治療薬を送達するのに適している。(4頁12行目〜22行目) ウ 本発明に従えば、本発明の水性の凍結乾燥される薬学的組成物は、治療薬が組成物中で可溶性であり、組成物が安定であり、かつ組成物が前記対象に髄腔内投与されると忍容性が認められるならば、対象の中枢神経系に治療薬を送達するのに適している。(4頁23行目〜30行目) エ ある実施態様において、本発明の水性(の凍結乾燥物を再構成した)薬学的組成物は、低いpHと低いリン酸含有量を有する。例えば、前記組成物のpHは、
酸性または約7ないし8未満であり得る。他の実施態様において、本発明の水性の凍結乾燥される薬学的組成物は、約10mM未満、約20mM未満または約30mM未満のリン酸含有量を有する。(5頁1行目〜8行目) オ 本発明の水性の凍結乾燥される薬学的処方物において意図される治療薬は、
タンパク質及び/または酵素を含み、これらタンパク質及び/または酵素は、代替的に、組み換え的に作成されていてもよい。適切な酵素には、リソソーム酵素(例、
へパランN-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、アルファ-L-イズロニダーゼ、アリールスルファターゼA及びガラクトセレブロシダーゼ)が含まれる。好ましくは、このような酵素は本発明の薬学的組成物中で可溶性である。
ある具体的な実施態様において、このようなタンパク質及び/または酵素は、改変(例、このようなタンパク質をより安定にし得るまたはタンパク質がBBBを通過し易くし得る改変)を含まない。(5頁9行目〜20行目) カ 他の実施態様において、本発明の水性(の凍結乾燥物を再構成した)薬学的組成物は、約30mg/mL未満または約10〜20mg/mLのタンパク質濃度を有する。薬学的組成物の用量は、概して約5.0mL未満であり、好ましくは約3.0mL未満である。(5頁21行目〜27行目) キ ある意図される実施態様において、タンパク質は、前記薬学的組成物中で安定(例、室温で少なくとも12ヶ月間安定)である。また、緩衝剤が組成物のpH を約5.0〜約8.0に維持するのに十分な量で存在する水性(の凍結乾燥物を再構成した)薬学的組成物も意図されている。ある実施態様において、本発明の薬学的組成物中に存在する緩衝剤はリン酸ナトリウムであり、組成物のpHを約7.0に維持するのに十分な量で存在する。適切な緩衝剤の例としては、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、およびトリスが挙げられる。
(5頁28行目〜6頁10行目) ク 本発明の水性薬学的組成物は、1以上の等張化剤をさらに含んでいてもよく、
等張化剤は塩または糖(例、スクロース、グルコース、マンニトール及び塩化ナトリウム)であってもよい。等張化剤がスクロースの場合は、約3.0%(w/v)未満の濃度で存在し得る。本発明の水性薬学的組成物は、1以上の界面活性剤(例、
ポリソルべート20及びポリソルべ一ト80等の非イオン性界面活性剤)をさらに含んでいてもよい。界面活性剤のポリソルべート20または80は、本発明の水性の凍結乾燥される組成物中に約0.04%(w/v)未満の濃度で存在していてもよい。本発明のある特定の実施態様において、本発明の水性の凍結乾燥される薬学的組成物は、リン酸ナトリウム、ポリソルべート20及びスクロースと、組換えタンパク質を含む。(6頁11行目〜26行目) ケ 本発明の水性(の凍結乾燥物を再構成した)薬学的組成物は、好ましくは、
治療薬が組成物から析出しないように処方される。ある実施態様において、本発明の組成物は、カルシウムまたはその塩を含有しない。(6頁27行目〜7頁2行目) コ 組成物は、対象に投与後時間が経過しても重篤な臨床兆候を示さないものが好ましい。好ましい実施態様において、本発明の水性薬学的組成物は、投与後に治療薬が対象の脳組織に分布するように対象の脳髄液及び/または髄腔内に治療薬を送達するのに適している。したがって、本発明の水性の凍結乾燥される薬学的組成物は、好ましくは無菌であり、かっ、適切な無菌技術を使用して対象に投与される。
(7頁3行目〜14行目) サ また、本発明は、1以上のリソソーム酵素の減少したレベルによって特徴付 けられる疾患を有する対象を治療する方法も、中枢神経系の病因がある疾患を有する対象を治療する方法とともに意図している。それぞれの場合において、このような方法は、本明細書中に記載される水性の凍結乾燥される薬学的組成物の投与を意図している。このような疾患には、例えば、サンフィリッポ症候群A型、ハンター症候群、異染性白質ジストロフィー及びグロボイド細胞白質ジストロフィーが含まれていてもよい。(7頁15行目〜24行目) シ 好ましい実施態様において、水性(の凍結乾燥物を再構成した)薬学的組成物が投与される対象は、ヒトである。他の実施態様において、ヒトは新生児である。
好ましくは、このような組成物は、前記対象のCNS(例、髄腔内)に直接投与される。(7頁25行目〜30行目) ス また、本発明は、対象の中枢神経系への治療薬の送達に適切な薬学的組成物を処方する方法も意図している。このような方法は、概して、前記薬学的組成物における前記治療薬の可溶性を評価すること、前記薬学的組成物における前記治療薬の安定性を評価すること、及び対象への髄腔内投与後の前記薬学的組成物の忍容性を評価することを含む。(8頁1行目〜9行目) (4) 図面の簡単な説明(8頁11行目〜9頁2行目) 図1は、CNS送達の脳室内、槽内及び髄腔内ルートを表す。
図2は、30mg用量のリソソーム酵素の髄腔内投与後のその酵素のニューロンへの分布を示す。
図3は、pHの上昇及びイオン強度の上昇に対する酵素の可溶性の増加を実証する。
図4は、対象にリン酸ナトリウム20mg、pH7.5及びNaCl135mMの組成物の髄腔内投与後の脳の断面の組織学的評価を実証する。
図5は、リン酸含有量と組成物のpHに対する組成物の忍容性を実証する。
図6は、適切な組成物の開発において考慮された因子の特定のバランスを表す。
(5) 発明の詳細な説明 ア 本発明は、薬学的組成物における緩衝剤濃度とpHの僅かな変化及びCNS送達用の治療薬の製剤化に使用される溶液が、投与された溶液とそこに含まれる治療薬の忍容性と生体内の安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づいている。
本発明の薬学的組成物及び製剤は、高濃度の治療薬(例、タンパク質ないし酵素)を可溶性にすることができるとともに、そのような治療薬をCNS構成成分及び/または病因を有する疾患の治療のために対象のCNSに送達するのに適している。
本発明の組成物は、それを必要とする対象のCNSに投与された場合(例えば、髄腔内に投与された場合)に、向上した安定性と向上した忍容性によってさらに特徴付けられる。(9頁7行目〜22行目) イ 上記の通り、BBBは、BBBを越えてその下のCNS中に、物質が拡散するのを制限する構造系である。外因性の治療用タンパク質等の高分子を全身送達してCNSの細胞内及び組織内において治療薬が治療的濃度を達成することは、これまで多くが不成功に終わっていた。
・・・BBBを越える高分子治療薬の送達と、その後のCSF及びCNS(例えば脳)の組織内でのこのような治療薬の有効治療濃度の達成及び/または維持は、したがって、特定のCNS構成成分及び/または病因を有する疾患の治療における具体的な問題を表している。特に、CNS組織における1以上の酵素の病理的欠損に関連する疾患(例、リソソーム蓄積症)の治療のための酵素補充療法(ERP)の有用性と有効性は、このような酵素を必須の作用部位(例、脳組織)に効果的に送達することができない限り、限定的なままである。
(9頁23行目〜10頁17行目) ウ BBBの障壁特性と治療用タンパク質及び/または酵素の全身投与に付随する制限のために、本発明の薬学的組成物は、好ましくは、対象のCNSに直接投与される。本発明の薬学的組成物の投与の好ましい経路には、例えば、髄腔内送達、
脳室内送達及び槽内送達が含まれる。(10頁18行目〜25行目) エ 治療薬の髄腔内投与は、腰椎(ルンバール)穿刺(即ち、緩徐ボーラス投与)により、またはポート・カテーテル送達系(すなわち注入またはボーラス投与)を 介して日常的手順で実施される。埋入したカテーテルをリザーバ(ボーラス投与用)または注入ポンプのいずれかに、埋め込みまたは外部からのいずれかで接続する。
カテーテルは、最も一般的には、腰椎の薄板間に挿入され、尖端は、所望のレベル(一般的にL3〜L4)の包膜空隙に通してつながれる。侵襲的と考えられるが、
脊髄周囲のクモ膜内空隙内への治療薬の投与は、BBBを越えてその下のCSF内へと治療薬を直接かっ効果的に送達するための最も一般的な方法であり続けている・・・。(10頁26行目〜11頁11行目) オ 対象に静注投与され得る量と比較すると、髄腔内投与に適した量には、CNS病因を有するある種の疾患の治療に特定の障害がしばしば存在する。さらに、治療薬の髄腔内送達は、CSFの組成の崩れやすい平衡を保ちつつ、対象の頭蓋内圧を保持することによっても制約される。ヒトにおいて、例えば、治療薬の髄腔内ボーラス投与の量は、概して0.5〜1mLに制限される・・・。さらにまた、対象からのCSFの対応する除去がない場合、総髄腔内用量は、ヒトにおいては3mL未満に制限される。(11頁12行目〜29行目) カ また、本発明の薬学的組成物は、治療薬を対象の脳室内のCNSに送達(即ち、脳室に直接投与)してもよい。脳室内送達は、脳室内に直接配置されたリードカテーテルを使用して、対象の頭頂部の頭皮と骨膜の間のポケット内に埋め込んでいてもよいOmmayaリザーバまたは他の同様のアクセスポートを介して容易に行い得る(Nutts J G, et a1. Neuro1ogy(2003)60:69-73.)。また、小脳延髄槽(大槽)のCSFへの治療薬の投与も意図されており、これは、例えば、より小型のげっ歯類における髄腔内または脳室内投与と比較してより物流が容易である動物種において使用されてもよい。
(12頁1行目〜15行目。判決注:この段落は、基礎出願1に係る優先権書類(甲16)にはない。) キ 本発明の水性薬学的組成物の量は、好ましくは、概して4.0mL未満、3.0mL未満、または、2.5mL未満、2.0mL未満、1.5mL未満、1.0mL未満、0.5mL未満若しくは0.25mL未満の用量で、対象に投与される。
(12頁16行目〜20行目) ク 対象のCNSに治療薬を送達するために伝統的に使用されてきた水性の薬学的溶液及び組成物には、非緩衝化等張生理食塩水や人工CSFであるエリオットのB溶液が含まれる。エリオットのB溶液に対するCSFの組成を表す比較は、以下の表1に含まれている。表1に示されているように、エリオットB溶液の濃度は、
CSFの濃度と密接に類似している。しかしながら、エリオットのB溶液は、極度に低い緩衝剤濃度を含有し、したがって、特に長期間に亘って(例えば、貯蔵状態の間)、治療薬(例えばタンパク質)を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ない。さらに、エリオットのB溶液は、いくつかの治療薬、特にタンパク質または酵素を送達するよう意図された処方物と非相溶性であり得るある種の塩を含有する。例えば、エリオットのB溶液中に存在するカルシウム塩は、タンパク質沈降を媒介し、それにより処方物の安定性を低減し得る。
(12頁21行目〜13頁9行目) 表1 ケ 本発明の薬学的組成物は、それらが、それとともに処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、あるいはその分解を遅くするかまたは防止し得るよう、処方されている。本明細書中で用いる場合、
「安定な」という用語は、長期間に亘ってその治療効果(例えば、その意図された生物学的活性および/または物理化学的完全性のうちのすべてまたは大多数)を保持する治療薬(例えば、組換え酵素)の能力を指す。治療薬の安定性、ならびにこのような治療薬の安定性を保持する薬学的組成物の能力は、長期間(例えば、好ましくは少なくとも1、3、6、12、18、24、30、36ヶ月またはそれ以上)に亘って評価さ れ得る。(13頁13行目〜14頁2行目) コ 意図される治療的機能を提供する薬剤を可能にするために要求される治療薬濃度の特定の範囲の保持に関連して、治療薬の安定性は特別な重要性を有する。治療薬の安定性は、長期間に亘る治療薬の生物学的活性または物理化学的完全性に関してさらに評価され得る。例えば、所定の時点での安定性は、早い時点(例えば、
処方0日目)での安定性に対して、あるいは非処方治療薬に対して比較され得る。
この比較の結果は、パーセンテージとして表される。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、長期間に亘って(例えば、室温で、または加速貯蔵条件下で、少なくとも6〜12ヶ月間に亘って測定)、治療薬の生物学的活性または物理化学的完全性の少なくとも100%、少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも97%、
少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、少なくとも60%、少なくとも55%または少なくとも50%を保持する。(14頁3行目〜22行目) サ 治療薬は、本発明の薬学的組成物中で好ましくは可溶性である。「可溶性の」という用語は、均質溶液を生成するこのような治療薬の能力を指す。好ましくは、
それが投与されそれが標的作用部位(例えば、脳の細胞および組織)に輸送される溶液中の治療薬の溶解度は、標的作用部位への治療有効量の治療薬の送達を可能にするのに十分である。いくつかの因子が、治療薬の溶解度に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質溶解度に影響し得る関連因子としては、イオン強度、アミノ酸配列および他の同時可溶化剤または塩(例えば、カルシウム塩)の存在が挙げられる。
ある実施形態では、薬学的組成物は、カルシウム塩がこのような組成物から除去されるよう処方される。(14頁23行目〜15頁11行目) シ 非経口投与薬のためには等張溶液が一般的に好ましいが、等張溶液の使用は、
いくつかの治療薬、特にいくつかのタンパク質および/または酵素に関する適切な溶解度を制限し得る、と理解される。わずかに高張性の溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に175mMまでの塩化ナトリウム)および糖含有 溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に2%までのスクロース)は、サルにおいて良好に耐容されることが実証されている。最も一般的な承認されたCNSボーラス処方物組成物は、生理食塩水(水中150mMのNaC1)である。(15頁12行目〜22行目) ス いくつかの組成物が試験されているが、これまで劣等な安全性プロファイルが実証されてきた・・。(15頁23行目〜16頁6行目) セ 本発明の薬学的組成物は、それらの耐(忍)容性により特徴付けられる。本明細書中で用いる場合、
「耐(忍)容可能な」および「耐(忍)容性」という用語は、
このような組成物が投与される対象において悪反応を引き出さないか、代替的には、
このような組成物が投与される対象において重篤な悪反応を引き出さない本発明の薬学的組成物の能力を指す。好ましい実施形態では、本発明の薬学的組成物は、このような組成物が投与される対象により良好に耐(忍)容される。
(16頁7行目〜17行目) ソ 多数の治療薬、特に本発明のタンパク質および酵素は、本発明の薬学的組成物中でそれらの可溶性および安定性を保持するために、制御されたpHおよび特定の賦形剤を要する。以下の表2は、本発明のタンパク質治療薬の可溶性および安定性の保持に重要であると考えられるタンパク質処方物の典型的態様を明らかにする。
(16頁18行目〜25行目) 表2 タ 薬学的組成物のpHは、水性薬学的組成物中の治療薬(例えば、酵素またはタンパク質)の溶解度を変更し得る付加的因子であり、したがって本発明の薬学的組成物は好ましくは1以上の緩衝剤を含む。本発明の好ましい実施形態では、水性薬学的組成物は、約4.0〜8.0、約5.0〜7.5、約5.5〜7.0、約6.0〜7.0および約6.0〜7.5の上記水性薬学的組成物の至適pHを保持するのに十分な量の緩衝剤を含有する。他の実施形態では、緩衝液は、約5〜50mMのリン酸ナトリウムを含み、7.0という前記水性薬学的組成物の至適pHを維持するのに十分な量である。適切な緩衝剤としては、例えば酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、およびトリスが挙げられる。本発明の薬学的組成物の緩衝剤濃度及びpH範囲は、成獣及び幼獣のサルへの投与において処方物の忍容性を最大化する決定的な因子である。(17頁3行目〜18頁2行目) チ 本発明のある実施態様において、治療薬(例、タンパク質及び酵素)は、このような薬剤をBBBを越えてCNS内へと送達または輸送を促進するように改変されていないことにおいてさらに特徴付けられる。例えば、治療薬は、受容体媒介性の輸送等の(これにより大きい分子が内在性の輸送システムを通って能動的にBBBを越えて輸送される)このような薬剤のBBBを越える送達を容易にする手段としての、能動輸送機構の使用に依存しない。(18頁3行目〜12行目) ツ 本発明の薬学的組成物は、対象への投与時は概して水性形態であるが、ある実施態様では、本発明の薬学的組成物は凍結乾燥される。このような組成物は、対象への投与の前に、それに1つ以上の希釈剤を付加することにより、再構成されなければならない。適切な希釈剤としては、減菌水、注射用静菌性水および減菌生理食塩溶液が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、薬学的組成物の再構成時、そこに含有される治療薬は安定で、自由に溶解し、そして対象への投与時に耐(忍)容性を実証する。(18頁13行目〜25行目) テ 本発明の薬学的組成物、処方物(製剤)及び関連する方法は、各種の治療薬を対象のCNS(例、髄腔内、脳室内または槽内)に送達するのに有用であり、ま た関連する疾患の治療に有用である。本発明の薬学的組成物は、特に、タンパク質及び酵素をリソソーム蓄積症に罹患している対象への送達(例、酵素補充療法)のために有用である。リソソーム蓄積症は、リソソーム機能の欠陥に起因するかなり稀な遺伝性代謝障害の一群を表す。リソソーム症は、リソソーム内の未消化高分子の蓄積により特徴付けられ、これが、このようなリソソームのサイズおよび数の増大を、そして最終的には細胞機能不全および臨床的異常を生じる。本方法及び組成物によって治療され得るリソソーム蓄積症の更なる記述は、当業者に通常知られたものや当業者が通常の手順で入手可能なものである・・・。
(18頁26行目〜19頁21行目) ト 本発明の方法及び組成物を使用して治療し得る好ましいリソソーム蓄積症には、CNS病因または構成成分を有する疾患が含まれる。CNS病因または構成成分を有するリソソーム蓄積症には、例えばサンフィリッポ症候群A型、ハンター症候群、異染性白質ジストロフィー及びグロボイド細胞白質ジストロフィーが含まれるがこれに限定されない。承認された治療法は対象に静脈投与されることに限定されており、一般的には基礎になる酵素欠乏症の体細胞性症候の処置に有効であるに過ぎない。本発明の組成物及び方法は、このようなCNS病因を有する疾患に罹患している対象のCNS中に直接、有益に投与され、それによりCNS(例えば脳)の罹患細胞および組織内の治療的濃度を達成し、したがって、このような治療薬の伝統的全身投与に伴う制限を克服し得る。(19頁22行目〜20頁10行目) ナ 本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適している」という語句は、
それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、このような組成物の安定性、
耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能力を指す。
ある実施態様において、本発明の薬学的組成物は、このような組成物が安定性と耐(忍)容性の両方を実証するならば、対象の中枢神経系への送達に適している。好ましい実施態様において、本発明の薬学的組成物は、組成物が安定性と耐(忍)容 性を実証し、かつその中に含有される治療薬を可溶性にすることができるならば対象の中枢神経系への送達に適している。(20頁11行目〜27行目) ニ 本発明の組成物及び方法は、多くの治療薬に広く適用し得る。好ましい実施態様において、本発明の薬学的組成物及び方法は、治療薬としてタンパク質及び/または酵素を含む。本発明のある実施態様において、治療薬は、天然または組換え的に得られるタンパク質及び/または酵素であってもよい。本発明の好ましい実施態様において、治療薬はリソソーム蓄積症の治療に適した天然酵素または組換え酵素である。例えば、具体的な実施態様において、本発明の薬学的組成物は、組換え酵素へパランN-スルファターゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、アルファ-L-イズロニダーゼ、アリールスルファターゼAまたはガラクトセレブロシダーゼのうち1以上を含む。(20頁28行目〜21頁12行目) ヌ 本発明の方法は、本明細書中に記載される薬学的組成物の有効量の多数回投与だけでなく単回投与も意図している。薬学的組成物は、対象の症状(例、リソソーム蓄積症)の性質、重症度及び程度によって、一定間隔で投与され得る。ある実施態様では、本発明の薬学的組成物の有効量は、一定間隔(例、年1回、3ヶ月に1回、隔月、毎月、隔週、毎週、週2回、週3回、毎日、1日2回、1日3回または4回またはこれ以上の頻度)で投与されてもよい。(21頁13行目〜24行目) ネ 好ましい実施態様において、本発明の薬学的組成物は、無菌であり、かつ、
適切な無菌技術を使用して対象に投与される。(21頁25行目〜27行目) ノ 「対象」:本明細書中で用いる場合、「対象」という用語は、ヒトを含めた任意の哺乳動物を意味する。本発明のある実施形態では、対象は、成人、若者または幼児である。薬学的組成物の投与、および/または子宮内処置方法の実施も、本発明により意図される。(21頁28行目〜22頁3行目) ハ 本明細書中で用いる場合、
「有効量」という用語は、主として、本発明の薬学的組成物中に含有される治療薬の総量に基づいて確定される。一般的に、有効量は、
対象に対して意味ある利益(例えば、根元的疾患または症状を処置し、調整し、治 癒し、防止し、および/または改善すること)を達成するのに十分である。例えば、
有効量は、所望の治療的および/または予防的作用を達成するのに十分な量、例えばリソソーム酵素受容体またはそれらの活性を調整し、それによりこのようなリソソーム蓄積症またはその症候を処置するために十分な量であり得る。一般的に、それを必要とする対象に投与される治療薬(例えば、組換えリソソーム酵素)の量は、
対象の特質によって決まる。このような特質としては、対象の症状、全身健康状態、
年齢、性別および体重が挙げられる。これらのおよびその他の関連因子によって、
適切な投与量を、当業者は容易に決定し得る。さらに、最適投与量範囲を同定するために、客観的および主観的アッセイの両方が任意に用いられ得る。
(22頁4行目〜26行目) ヒ 対象を治療するのに必要な治療薬の有効量の決定は、本発明の薬学的組成物の開発において特に重要な考慮事項である。対象に髄腔内投与され得る限定された量は、薬学的組成物における治療薬の濃度に影響し得る。好ましい実施態様において、薬学的組成物における治療薬の濃度は、このような薬剤のCNS(例えば脳)の罹患細胞および組織内の治療的濃度を達成するのに十分である。本発明のある実施態様において、薬学的組成物における治療薬の濃度は、少なくとも50mg/mL、少なくとも45mg/mL、少なくとも40mg/mL、少なくとも35mg/mL、少なくとも30mg/mL、少なくとも25mg/mL、少なくとも20mg/mL、少なくとも15mg/mL、少なくとも10mg/mL、少なくとも5mg/mL、少なくとも2.5mg/mL、少なくとも1mg/mLまたは1mg/mL未満である。好ましくは、このような治療薬は本発明の薬学的組成物において可溶性である。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、長期間にわたって(例、
室温でまたは代替的には華氏36〜46度の冷蔵条件下で少なくとも12ヶ月間)安定である。(22頁27行目〜23頁19行目) フ 本発明の化合物、組成物および方法は、特定の実施形態に従つて具体的に記載されているが、後の実施例は単に本発明の化合物を例示するためのものであり、
これらを限定することを意図するものではない。(23頁20行目〜24行目) ・・・ (6) 実施例1(25頁8行目〜26行目) 本発明の薬学的組成物の開発にあたり、いずれの構成成分が対象のCSFへのタンパク質の直接投与に適切であるかを突き止めるため、処方物の個々の構成成分を体系的に調査した。まず最初に調査対象にしたのは、治療効果のためには最低15mg/mLのタンパク質濃度を必要とするリソソーム酵素であった。このタンパク質の長期安定性のための最適pHは、6〜7であった。6〜6.5のpH範囲では、
このタンパク質は、高pH(図3、左)でより高い可溶性を示した。また、可溶性は、50mMのNaCl中およそ10mg/mLから300mMのNaC1中34mg/mLへとイオン強度が上昇すると増加した(図3、右を参照)。これらの結果に基づいて、pH7.5の等張のリン酸緩衝化処方物が選択された。この組成は、
酵素の可溶性と安定性には適切であったが、インビボ(生体内)での高い忍容性が認められなかった(後述する)。
(7) 実施例2(26頁1行目〜27頁5行目) 上述のとおり、生理食塩水とリン酸緩衝化生理食塩水が、CNSへの直接投与用の治療薬を処方するまたは希釈するため、並びに治療薬の投与前後の送達システムの洗浄用に一般的には使用されている。我々は、緩衝剤の濃度及びpHにおける僅かな違いが、投与される溶液のインビボ(生体内)の安全性及び忍容性に非常に大きく影響することを発見した。
成獣のカニクイザルにおいて予備的GLP試験を行って、酵素治療薬の使用による繰り返しIT-脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価した。各動物にポート・カテーテル系を埋め込んで隔週の投与計画を実施し易くした。
デバイス対照の動物には、pH7.2のリン酸緩衝化生理食塩水が投与された。
ビヒクル対照群には、20mMリン酸ナトリウム、130mMのNaC1、及び0.005%ポリソルべート20のpH7.5の水性溶液が投与された。この処方が適 切なタンパク質の可溶性と安定性を示したので、この処方を評価した。
投与の間及び投与後直ちに臨床兆候が観察されたが、出現率は、対照群(デバイス対照及び/またはビヒクル投与群)と酵素投与群との間で同等であり、用量反応の証拠は見られなかった。結果として、2回目の投与後この試験は中止された。組織学的な代表画像は図4に実証されるとおりである。
これらの臨床観察は、ビヒクル投与群を含む全ての動物において見られ、リン酸緩衝剤濃度とpHを変化させたビヒクルの処方及び用量を調べる一連の非GLP毒性試験を実施するきっかけとなった(表2参照)。
(8) 実施例3(27頁7行目〜28頁3行目(頁上部の頁数の記載の下の本文開始行を1行目と数える。) ) このスクリーニング試験では、1下肢あたり4匹の動物に1日、5日、14日及び19日目の4回の投与を行つた。10mM以上のリン酸ナトリウム濃度と7.0を超えるpHを含む処方物を使って、上記の最初のビヒクル(20mMリン酸ナトリウム、130mMのNaC1、0.005%ポリソルべート20、pH7.5)を投与された動物において見られた臨床兆候を再現した。忍容性は、投与量を1.5mLから1.0mLに下げることで向上した。低いリン酸濃度かつ5.5〜7.0のpHの処方物に高い忍容性が認められた。
忍容性の高かったビヒクルのうちでは、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.005%のポリソルべート20をpH7.0で含むビヒクルが製品の可溶性及び安定性のために適していた。このビヒクル中の(用量1.0mL中酵素14mgとして調製された)酵素の3週間にわたる4回の髄腔内投与による有害な臨床兆候はなかった。この低pHで低リン酸のビヒクルは、臨床開発用に適した酵素の安定性を提供した。これらの試験は、髄腔内投与に適した図5に代表される製剤デザインスペースを定義した。
タンパク質製剤のCNS送達は、図6に実証されるとおりの、組成物に適切な可溶性、インビボ(生体内)の忍容性及び適切な長期安定性を与える薬学的組成のバ ランスが要求される。
- 211 - 6 取消事由1(優先権に関する認定判断の誤り)について (1) 優先権について ア 本件出願について、被告が基礎出願1又は2に基づく優先権を主張できるか否かについて検討する。
イ(ア) 基礎出願1及び2がされた平成22年6月ないし7月頃時点で、一定のリソソーム酵素に関する補充酵素である酵素の一定量をリソソーム蓄積症の患者のしかるべき組織等に送達することができれば、治療効果を生ずること自体は技術常識となっていた一方で、どのような方法で補充酵素を有効に送達することができるか について検討が重ねられており、本件出願がされた平成29年10月においても、
そのような状況がなお継続していたものと認められる(甲1〜4、14、15、53、54、弁論の全趣旨)。
本件発明1は、ハンター症候群を治療するための安定製剤であって、脳室内投与されることを特徴とするものであるところ、上記の技術常識及び前記1(2)の本件発明の概要を踏まえると、本件発明1の製剤についても、中枢神経系(CNS)への活性作用物質の送達をいかに有効に行うかという点がその技術思想において一つの重要部分を占めているものというべきである。
(イ) この点、本件明細書の【0006】には、
「髄腔内腔内(IT)注射または脳脊髄液(CSF)へのタンパク質の投与・・・の処置における大きな挑戦は、脳室の上衣内張りを非常に堅く結合する活性作用物質の傾向であって、これがその後の拡散を妨げた」「脳の表面での拡散に対するバリア・・・は、任意の疾患に関する 、
脳における適切な治療効果を達成するには大きすぎる障害物である、と多くの人々が考えていた」との記載があり、【0010】には、「リソソーム蓄積症のための補充酵素(例えば、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S))が高濃度・・・での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導入され得る、という予期せぬ発見」という記載がある。
また、甲15の「発明の背景」においても、高用量の治療薬を必要とする疾患について髄腔内ルートの送達に大きな制限があり、濃縮された組成物の調製にも問題がある旨が記載されていた(前記5(2)カ及びキ)。
さらに、基礎出願2がされた翌年である平成23年に発行された乙4(「Drugtransport in brain via the cerebrospinal fluid」Pardridge et al., Fluidsand Barriers of the CNS 2011 8:7)においても、CSFから脳実質への薬物浸透は極めて僅かであり、脳への薬物の浸透がCSF表面からの距離とともに指数関数的に減少するため、高濃度の薬物を投与する必要があるが、上位表面は非常に高い薬物濃度にさらされており有毒な副作用を示す可能性があることなどが記載されて いた。その更に翌年である平成24年に発行された乙11(「CNS Penetration ofIntrathecal-Lumbar Idursulfase in the Monkey, Dog and Mouse: Implicationsfor Neurological Outcomes of Lysosomal Storage Disorder」 Calias P. et al.PLoS One, Volume 7, Issue 1, e30341)には、「本研究は、組換えリソソームタンパク質の直接的なCNS投与によって、投与されたタンパク質の大多数が脳に送達され、カニクイザル、イヌ両方の脳および脊髄のニューロンに広範囲に沈着することを、初めて示した研究である。」と記載されている。
そうすると、少なくとも基礎出願2がされた平成22年7月頃においては、CNS送達のための製剤として特定の製剤の組成等が開示された場合であっても、当該組成等から直ちにその脳への送達の程度や治療効果を推測等することは困難であることが技術常識であったものと認められる。
このことは、甲15に、「本明細書で用いる場合、「中枢神経系への送達に適している」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、このような組成物の安定性、耐(忍)容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能力を指す。(前記5(5)ナ)として、
」 「標的送達部位(例えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能力」が「送達に適している」ということの意味内容に含まれることが明記されていることとも整合するものといえる。
(ウ) 他方で、本件明細書の【0070】には、
「いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達は、末梢循環に進入するのに十分な量の補充酵素を生じた。
その結果、いくつかの場合には、本発明による髄腔内腔内送達は、肝臓、心臓、脾臓および腎臓のような末梢組織における補充酵素の送達を生じた。この発見は予期せぬものであ・・・る。」との記載があり、標的組織への送達について、
【0137】には、
「本発明の意外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充酵素、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広 範囲に拡散し、脳の種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注射では標的化するのが困難である腰部領域を含める脊髄の組織、
ニューロンまたは細胞に治療薬(例えば、I2S酵素)を効果的に送達する。更に、
本発明の方法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の治療薬(例えば、I2S酵素)を送達する。」との記載があり、【0138】においては、実施形態により、「治療用タンパク質(例えば、I2S酵素)」が、対象の「中枢神経系」に送達され、あるいは「脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織の1つ以上」に送達され、また、
「標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末梢標的組織であり得る。」などと記載された上で、【0139】以下で特に「脳標的組織」について説明がされ、そして、実施例においても、例えば、実施例1〜3、5及び7ではIT投与が、実施例6ではIT投与及びICV投与が用いられるなどしている。
そして、証拠(甲2〜5。後記7(1)〜(4)参照)のほか、本件明細書の記載内容に照らしても、CNSへのI2Sの送達においては、ICV投与とIT投与とは、
それぞれ別個の投与態様として取り扱われ、組織へのI2Sの送達に関する実験やその結果の評価においても、それらは別個に取り扱われること、換言すると、ICV投与とIT投与の相応に密接な関連性を考慮しても、ICV投与による実験データとIT投与による実験データとを直ちに同一視することはできないことが、平成22年7月頃における技術常識であったことが認められるというべきである。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)の技術常識を踏まえると、本件発明1が甲15に記載されていた発明であると認められるためには、甲15に、本件発明1の製剤が実質的に記載されていたものと認められるのみならず、甲15に、本件発明1の製剤による送達の効果が、ICV投与した場合のものとして、実質的に記載されていたと認められる必要があるというべきである。
ウ(ア) その上で、甲15の記載を見るに、まず、
「発明の背景」の記載(前記5(2)) は、専ら背景技術について説明するものである。「発明の概要」の記載(同(3))には、本件発明1の製剤に含まれる製剤の記載があるといえるが、当該製剤がどのように送達されて治療効果を奏するのかについては記載がない。そして、
発明の詳細な説明」(同(5))を見ても、製剤の構成やその使用方法に関する一般的な記載はみられるものの、どのように送達されて治療効果を奏するのかについて具体的な記載はない。
(イ) 甲15の実施例1(前記5(6))には、15mg/mLのタンパク質濃度のリソソーム酵素を含む組成物で、pH6〜7であってリン酸塩を含むものが記載されていると見ることができるが、具体的にどのような酵素が用いられたかは不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がない。
(ウ) 甲15の実施例2(前記5(7))には、「酵素治療薬の使用による繰り返しIT-脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価」や「酵素投与群」との記載はあるが、
酵素の種類も濃度も不明であり、また、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについても記載がない(なお、対照群との差異もみられていない。。
) (エ) 甲15の実施例3(前記5(8))には、用量1.0mL中酵素14mgとして調製された酵素と、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルにより作成された製剤が髄腔内投与されたことの記載があるが、図5を含めて見ても、主に有害な副作用の有無等が検討されたものと解され、治療効果については記載がない。
(オ) なお、甲15の図2には、30mg用量の髄腔内投与後のリソソーム酵素のニューロンへの分布が示され、尾状核のニューロンにリソソーム酵素が認められたことが示されているが、どのような製剤が投与されたのかも不明である。
(カ) さらに、甲15には、投与の態様としてICV投与とIT投与とが選択的なものである旨は記載されているといえる一方で、いずれの方法によっても同様に送達され得る旨等を明らかにする記載もないから、前記(ウ)〜(オ)は、ICV投与した 場合のものとして、本件発明1の製剤による送達の効果を記載するものでもない。
エ 以上によると、甲15には、本件発明1が記載されているものとは認められず、本件発明2〜12についてこれと異なって解すべき事情も認められないから、
本件出願について、基礎出願2に基づく優先権を主張することはできない。基礎出願1についても、基礎出願2と異なって解すべき事情はない。
これと異なる被告の主張は、いずれも採用することができない。ICV投与とIT投与において、製剤はいずれの場合でもCSFに投与されるものであり、そのためそれらの間に処方としての共通性や標的組織等への送達における相応の関連性があるということができたとしても、そのことをもって、具体的な送達の程度や治療効果についてまで、一方の投与態様についての実験結果等の記載をもって直ちに他方についての記載と実質的に同視することができるとの技術常識は認められない。
被告の主張は、甲14及び15の記載内容を、本件明細書の記載内容を前提にしながら解釈しようとするものであって相当でない。
(2) 甲6が公知文献とされなかったことが直ちに取消事由に当たるかについて ア 原告は、取消訴訟の審理範囲を根拠として、本件審決に当たり甲6を副引用例として考慮しなかった本件審決は、優先権に係る判断の誤りによって直ちに取り消されるべきである旨を主張するので検討する。
イ(ア) 証拠(甲59、60)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件審判請求においては、本件発明1の進歩性に係る無効理由として、甲2発明に甲3〜10を適用すること並びに甲3発明に甲2及び4〜10を適用すること(甲5の適用については、甲5技術と実質的に同一の内容が主張されていた。 により容易想到である )旨を主張し、その中で、甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を主張する一方、甲6発明(ビヒクル)については主張していなかったことが認められる。
本件審決は、基礎出願2に基づく優先権の主張を認めたことから、副引用例としての甲6記載の発明の適用について検討するには至らなかったが、上記のとおり、
甲6については、甲6発明(製剤)と実質的に同一の内容を副引用例とする範囲で、
審判手続においても審理の対象となっていたものであって、甲2発明及び甲3発明にそれぞれ上記副引用例を組み合わせることにより進歩性を欠くという無効理由自体は、審判手続において審理対象となっていたものである。
(イ) そして、本件審決は、甲2発明及び甲3発明と本件発明の相違点について、
甲2発明については、甲3〜5及び7〜10を、甲3発明については甲2、4、5及び7〜10をそれぞれ適用して容易想到であるといえるか否かについて判断した一方、優先権主張を認めたことから甲6は除外し、それゆえ相違点に係る本件発明の構成についての甲6発明(製剤)の適用について具体的には判断しなかったものの、甲2発明及び甲3発明に甲6発明(製剤)を適用することにより本件発明は容易想到であるという旨の原告の主張自体については、これを認めることができないとの判断を示したものである。
(ウ) 原告は、本件訴訟において、甲2発明及び甲3発明を主引用例とした上で、
前記(ア)及び(イ)のとおり本件審決で排斥された甲5技術の適用による容易想到性の主張のほか、甲6に基づき、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を副引用例として主張するとともに、甲6が技術常識(エリオットB溶液の技術常識及び高濃度化の技術常識)を補足するものである旨を主張しているところ、本件訴訟において、容易想到性が争いとなっている本件発明の構成(甲2発明及び甲3発明との間の各相違点)は、本件審決で判断されたものと基本的に同じであり、甲6発明(製剤)や甲6発明(ビヒクル)の適用に当たり、本件審決で判断されたもの以外の相違点が問題になるなどといった事情はない。
(エ) 前記(ア)のとおり、甲6の適用については審判手続においても問題とされ、当事者双方において攻撃防御を尽くす機会はあったといえる。この点、証拠(甲6、
14、15、乙12、22。なお、訳文として甲6の2・3、乙34)及び弁論の全趣旨によると、甲6は、基礎出願1及び2がされて間もない平成22年7月2日に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能なドラッグデリバリー2010:製剤フ ォーカス」に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であるところ、同論文は、基礎出願1及び2に関わった研究者も関与して行われた研究発表に係るものであって、本件発明と同様の技術分野に属するもの、すなわち、酵素補充療法において、中枢神経系(CNS)病因を有する疾患の処置に係るリソソーム酵素に関する補充酵素である酵素を含む薬学的組成物に関連するもの(前記1(2)ア)と解されるほか、その記載内容は、かなりの部分甲14及び15と重なり合うものである。そのような甲6の性質や、甲14及び15と本件発明との関係についても優先権主張の可否という形ではあるが各当事者において攻撃防御を尽くす機会があったというべきことを考慮すると、上記のように審判手続において各当事者に与えられていた甲6の適用について攻撃防御を尽くす機会は、実質的な機会であったといえる。
(オ) 以上の事情の下では、本件審決においては副引用例としての甲6発明(製剤)の適用が具体的には判断されるに至らず、また、甲6発明(ビヒクル)についてはそもそも審判段階で問題となっていなかったこと(この点、被告は、甲6発明(ビヒクル)を適用しての容易想到性に係る原告の主張について、特にそれが審理範囲外であるとして争ってはいない。)を考慮しても、本件訴訟において、審判手続において審理判断されていた甲2発明及び甲3発明との対比における無効原因の存否の認定に当たり、甲6発明(製剤)及び甲6発明(ビヒクル)を適用することによって容易想到性の有無を判断することが、当事者に不測の損害を与えるものではなく、
違法となるものではない。最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁は、本件のような場合について許されないとする趣旨とは解されない。
(3) 以上によると、取消事由1は、優先権の判断の誤りという限度において理由があるが、それをもって直ちに本件審決を取り消すべきという結論において、理由がない。
そこで、以下、甲2発明及び甲3発明を主引用例とする容易想到性の主張に係る 取消事由5及び6について、検討する。
7 引用発明等について (1) 甲2発明について ア 平成21年7月16日に公開された甲2は、発明の名称を「リソソーム蓄積症のための脳室内酵素の輸送」とする発明に係るもので、甲2には次の記載がある。
【特許請求の範囲】 【請求項38】 酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療する方法であって、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含む方法。
【請求項43】 リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸-2-スルファターゼである、請求項38〜40のいずれか一項記載の方法。
発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、リソソーム蓄積症の領域に関する。特に、酵素補充療法によるこれらの病気の治療および/または予防に関連する。
【0002】 (発明の要約) リソソーム蓄積症(LSD)として知られる代謝性疾患のグループは、40種類以上の遺伝子疾患を含み、それらの多くは多様なリソソーム加水分解酵素における遺伝子欠損に関する。代表的なリソソーム蓄積症および関連する欠損酵素が表1に記載される。
(表1)【表1】【表2】 【表3】 【0003】 LSDの顕著な特徴はリソソーム代謝産物の異常な蓄積であり、核周辺部における多数の膨張したリソソームの形成を生じる。
(器官特異的な酵素病、例えば肝臓特異的な酵素病の治療に対峙する)LSDを治療する主な試みには、複数の別々の組織において、リソソーム蓄積の病態を逆行させることが必要となる。いくつかのLSDは、酵素補充療法(ERT)として知られる喪失した酵素の経静脈内注入により効果的に治療され得る。例えば、ゴーシェ病1型患者が内臓疾患のみにかかっていると、組み換えグルコセレブロシダーゼ(Cerezyme(登録商標)、ジェンザイム社)を用いてERTに有利に反応する。しかし、CNSに罹患する代謝性疾患にかかっている患者(例、2または3型のゴーシェ病)は、補充酵素が血液脳関門(BBB)により脳に入ることを阻害されるため、静脈内のERTに対して部分 的にしか反応しない。さらに、直接注射による脳への補充酵素を導入する試みは、
一部には、局所的な高濃度による酵素の毒性および脳における限られた柔組織への拡散割合のために限定されている(Pardridge,Peptide Drug Delivery to the Brain,Raven Press,1991)。
【0005】 本発明によると、上記表1で特定される病気のごときリソソーム蓄積症、例えば、
ニーマン-ピック病A型またはB型は、前記病気の病因として欠乏する酵素の脳への脳室内輸送を用いて治療および/または予防される。投与は、ゆっくり行われることにより最大の効果を達成することができる。効果は血液脳関門の両側で見られ、
これは、脳および/または内臓に影響を与えるリソソーム蓄積症に対する有用な送達手段とされる。それゆえに、第1の態様では、本発明は、酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者を治療または予防する方法であって、前記方法は、酵素を脳への脳室内輸送を通して患者に投与することを含む方法を提供する。
関連の態様では、本発明は、患者の酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者の治療または予防のための医薬品の製造のための酵素の使用であって、
前記治療または予防が酵素の脳への脳室内投与を含む、酵素の使用を提供する。酵素の欠乏は、例えば、酵素の発現における欠乏、あるいはインビボにおいて酵素の活性レベルの減少(例、不活性な酵素)またはクリアランス/分解の速度の上昇をもたらす酵素の変異により引き起こされてもよい。欠乏は酵素基質の蓄積を引き起こし、酵素の投与は脳の基質レベルの減少をもたらしうる。リソソーム蓄積症は、
上記表1で同定される病気のいずれかであってもよい。酵素は、リソソーム加水分解酵素であってもよい。
【0033】 本発明者らは、リソソーム加水分解酵素のその酵素を欠乏する患者の脳への脳室内輸送が、脳および罹患した内臓(CNSではない)の改善された代謝状態を導く ことを知見した。このことは、特に、ボーラス輸送と比較して輸送速度がゆっくりである場合に当てはまる。それゆえ、上記表1で同定される病気のごとき特定の酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症は、各酵素の脳室内投与により治療または予防されてもよい。・・・ 【0034】 リソソーム酵素、より適切にはリソソーム加水分解酵素のその酵素を欠乏する患者への投与は、脳脊髄液(CSF)で満ちている1つ以上の脳の脳室内のいずれかに行われてもよい。CSFは脳室を満たす透明な液体であり、くも膜下腔に存在し、
脳と脊髄の周辺に位置する。CSFは、脈絡叢により生成され、脳室への脳による組織液の浸出または透過を介して生成される。脈絡叢は、側脳室床と第三または第四脳室蓋の内側に並んだ構造である。ある研究では、これらの構造は1日で中枢神経系の空間の4倍量に相当する1日あたり400〜600ccの液を生成できることが示された。成人では、この液体の体積は、125から150ml(4〜5oz)までであることが算出されている。CSFは、連続的な形成、循環および吸収の状態にある。ある研究では、約430から450ml(2カップ近く)のCSFが毎日生成されうることが示されている。ある計算では、生成は、大人では1分あたり約0.35mlおよび幼児では1分あたり0.15mlと等価であると評価される。・・・ 【0038】 ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素は、十分なレベルのリソソーム加水分解活性により特徴付けられる条件に治療、例えば、阻害、軽減、予防、または改善するのに有用な医薬組成物に組み込まれうる。医薬組成物は、リソソーム加水分解欠乏を患っている対象または前記欠乏を発生するリスクのある人に投与される。この組成物は、医薬上許容されるキャリア中に、治療量または予防量のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素を含むべきである。医薬キャリアは、ポリペプチドを患者に輸送するのに適する、適合性無毒化物質のいずれかでありうる。滅菌された 水、アルコール、脂肪、ワックスがキャリアとして用いられてもよい。医薬上許容されるアジュバンド、緩衝剤、分散剤、およびそれらの類似物はまた、医薬上許容される組成物に組み込まれてもよい。これらのキャリアは、脳室内注射または注入あるいは他の方法による投与に適するいずれかの形態(その形態はまた、静脈内または髄腔内投与に適合させることも可能である)で、ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素と結合されうる。適するキャリアは、例えば、生理食塩水、静菌水、
Cremophor EL(登録商標) (ニュージャージー州、パーシッパニーのBASF)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水ならびに石油、動物、植物、または合成由来の油(ピーナッツ油、大豆油、鉱油、またはゴマ油)と一緒に作製されたもののごとく油乳剤を含む。
人工的なCSFはキャリアとして用いることができる。このキャリアは、好ましくは無菌であり、発熱物質を含まない。医薬組成物中のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の濃度は、広範囲、すなわち、総組成物の少なくとも約0.01重量%から0.1重量%、約1重量%、20重量%以上に変動することができる。
【0040】 ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の用量は、特定の酵素およびその特異的なインビボ活性、投与経路、患者の病状、年齢、体重もしくは性別、患者のASMもしくは他のリソソーム加水分解酵素またはビヒクルの構成成分に対する感受性、
ならびに他の因子に依存して個々に多少異なっていてもよく、医師が容易に考慮することができる。用量が病気と患者に依存して変化してもよい一方で、酵素は、一般的に、1ヶ月あたり50kgの患者に対して約0.1から約1000ミリグラムまでの量で患者に投与される。一の具体例では、酵素は、1ヶ月あたり50kgの患者に対して約1から約500ミリグラムの量で患者に投与される。他の具体例では、酵素は、1ヶ月あたり50kgの患者に対して約5から約300ミリグラム、
あるいは1ヶ月あたり50kgの患者に対して約10から約200ミリグラムの量で患者に投与される。
【0041】 投与速度は、単回用量の投与がボーラスとして投与されてもよいものである。単回用量はまた、約1〜5分、約5〜10分、約10〜30分、約30〜60分、約1〜4時間にわたり注入されてもよく、あるいは4、5、6、7、または8時間より長くかけてもよい。それは、1分より長く、2分より長く、5分より長く、10分より長く、20分より長く、30分より長く、1時間より長く、2時間より長く、
または3時間より長くかけてもよい。出願人は、ボーラス脳室内投与が効果的でありうる一方で、ゆっくりした注入が非常に効果的であることを観察した。出願人は作用の特定の理論に拘束されたくはないが、ゆっくりした注入が脳脊髄液(CSF)の代謝回転によりより効果的であると考えている。文献上の推定値と計算は様々であるが、脳脊髄液は、ヒトでは約4、5、6、7、または8時間以内に代謝回転すると考えられている。一の具体例では、本発明のゆっくりした注入時間は、CSFの代謝回転時間とおよそ同等またはそれ以上になるように測定されるべきである。
代謝回転時間は、対象の種、大きさ、および年に依存してもよいが、当該技術分野に公知の方法を用いて決定されてもよい。注入はまた、1日以上の期間にわたり連続的であってもよい。患者は、1ヶ月、例えば1週、例えば隔週に1回、2回、または3回以上治療されてもよい。注入は、脳または内臓における病気の基質の再貯蓄に影響されるように、対象の生涯をかけて繰り返されてもよい。・・・ 【0054】 ・・・ 【実施例1】 【0055】 (動物モデル) ニーマン-ピック病(NPD)はリソソーム蓄積症であり、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンリン酸加水分解酵素、EC3.1.3.12)の遺伝子欠乏により特徴付けられる遺伝性神経代謝疾患である。機能的なA SMタンパク質の欠如は、脳全域にわたる神経とグリアのリソソーム内のスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。このことが核周辺の膨張した多数のリソソームの形成を招き、それらがNPDA型の特徴および主な細胞の表現型である。膨張したリソソームの存在は、正常な細胞の機能の喪失および進行性の神経変性と関連し、
小児期の初期に罹患した個体の死を招く(The Metabolic and Molecular Bases ofInherited Diseases, eds. Scriver et al., McGraw-Hill, New York, 2001, pp.3589-3610)。第2の細胞の表現型(例えば、さらなる代謝異常)はまた、この病気に付随し、リソソーム区画におけるコレステロールの著しく高いレベルの蓄積である。スフィンゴミエリンはコレステロールに対して強い結合性を示し、その結果、
ASMKOマウスとヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの隔離が生じる(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983; Slotte(1997) Subcell. Biochem., 28:277-293; and Viana et al. (1990) J. Med. Genet.,27:499-504)。NPDの詳細な考察は、the Online Metabolic & Molecular Basesof Inherited Diseases, Part 16, Chapter 144 (2007)で見出されうる。
実施例2】 【0056】 (ASMKOマウスにおけるrhASMの連続的な脳室内注入) 目的:組み換えヒトASM(rhASM)の脳室内注入がASMKOマウス脳における蓄積病変(すなわち、スフィンゴミエリンおよびコレステロール蓄積)においてどのような効果を示すかを調べるため。
【0057】 方法:生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスにポンプに繋がれた(ガイドカニューレ内に適合した)注入深針を用いて250mg(裁判所注: 「0.250mg」の誤記と解される。)のhASM(n=5)を4日連続(合計1mgが投与された)24時間(〜0.01mg/h)にわたり注入した。凍結乾燥されたhASMを注入前に人工脳 脊髄液(aCSF)中に溶解させた。マウスを注入3日後に解剖した。解剖するマウスにユサゾール(euthasol) (>150mg/kg)を過剰摂取させ、次いでPBSまたは4%パラホルムアルデヒドで環流した。脳、肝臓、肺および脾臓を取り除き、スフィンゴミエリン(SPM)レベルを解析した。脳組織をSPM解析前に5つの領域に分けた(S1=脳の前部、S5=脳の後部;図1を参照)。
(表2) 【表4】 【0058】 結果の要約:連続4日間24時間あたり250mg(裁判所注: 「0.250mg」の誤記と解される。(合計1mg)のhASMの脳室内注入は、ASMKO脳を通 )してhASM染色およびフィリピン(すなわち、コレステロール蓄積)クリアランスを生じた。生化学的解析は、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を導くことを示した。SPMレベルは、野生型(WT)のレベルが減少した。SPMの有意な減少を肝臓と脾臓でも観察した(減少傾向は肺でも見られた)。
実施例3】 【0059】 (ASMKOマウスにおけるhASMの脳室内輸送II) 目的:6時間にわたる注入期間における最も低い有効な用量を調べるため。
【0060】 生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスに以下の用量のhASMのうちの1つで6時間にわたり注入した。10mg/kg(0.250mg;n=12)、3mg/kg(0.0 75mg;n=7)、1mg/kg(0.025mg;n=7)、0.3mg/kg(0.0075mg;n=7)、またはaCSF(人工脳脊髄液;n=7)。各用量レベルからの2匹のマウスを6時間注入後に迅速に4%パラホルムアルデヒドで還流して脳内における酵素の分布を測定した(これらから血液を採取して血清hASMレベルを調べた) 各群からの残りのマウスを注入1週間後に解剖した。
。 これらのマウスに由来する脳、肝臓、肺の組織を研究05-0208にあるようにSPMレベルについて解析した。
(表3) 【表5】 【0061】 結果の要約:6時間にわたる脳室内hASMは、用量にかかわらず脳を通してSPMレベルの有意な減少を生じた。用量>0.025mgで処理されたマウス脳のSPMレベルは、野生型レベルまで減少した。内蔵器官のSPMレベルはまた、用量依存的な様式で有意に減少した(野生型レベルまでではない) この知見を裏付け 。
ることとして、hASMタンパク質はまた、hASMタンパク質を注入されたASMKOマウスの血清中で検出された。組織学的な解析は、hASMタンパク質が、
hASMの脳室内投与後に脳を通して(S1からS5まで)広く分布することを示した。
実施例4】 【0062】 (ASMKOマウスにおけるrhASMの脳室内注入III) 目的:(1)hASMの6時間注入後にSPMが脳室内に再蓄積する時間;(2)脳室内hASM投与(過去の実験では、肝臓における物質の蓄積に性差が存在することが示され、これが脳内で生じるかどうかは知られていない)に応答した性差の存在を調べるため。
【0063】 方法:生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢でマウスに0.025mgのhASMを6時間にわたり注入した。hASMの脳室内輸送後、マウスを、注入1週間後(n=7雄、7雌)、
または注入2週間後(n=7雄、7雌)もしくは注入3週間後(n=7雄、7雌)に解剖した。解剖の際、脳、脊髄、肝臓および肺をSPM解析用に取り除いた。
(表4) 【表6】 【0064】 組織サンプルをSPMのために調製した。
実施例5】 【0065】 (ASMKOマウスの認知機能におけるrhASMの脳室内注入の効果) 目的:ASMKOにおいて、rhASMの脳室内注入が羅患して引き起こされた認知障害を緩和するかどうかを調べるため。
【0066】 方法:生後9〜10週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植する。13週齢でマウスに0.025mgのhASMを6時間にわたり注入する。14および16週齢でマウスにバーンズマーゼ(barnes maze)を用いて認知テストを受けさせる。
実施例6】 【0067】 (脳室内注入後のASMKOのCNS内のhASMタンパク質分布) 目的:脳室内注入後のASMKOマウスの脳および脊髄内におけるhASMタンパク質の分布(時間の関数として)を調べるため。
【0068】 方法:生後12〜13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢でマウスに0.025mgのhASMを6時間にわたり注入した。注入工程後、マウスを、すぐに、1週間後、2週間後、3週間後に解剖する。
(表5.表1で示されるような欠損のある疾患の治療のための特定の酵素で用いられ得る注入時間を示す。) 【表7】 【表8】 イ 前記ア(特に【請求項38】及び【請求項43】並びに【0001】及び【0038】)及び弁論の全趣旨によると、甲2には、前記第2の3(4)イ(ア)aのとおり本件審決が認定した甲2発明について、CremophorをCremophorELと訂正した次の発明(本件審決が甲2から認定した甲2発明とは、適する医薬キャリアの商品名が異なるだけであるから、以下では、この訂正後のものについて「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸-2-スルファターゼであり、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含むものであり、該組成物は、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」 ウ その上で、本件発明1と甲2発明を対比すると、それらの間には、前記第2の3(4)イ(ア)bのように本件審決が認定した次の相違点が存在すると認められる。
(相違点) 本件発明1は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、
かつ該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であることを特徴とするのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5〜7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
(2) 甲3発明について ア 平成17年3月3日に公開された甲3は、発明の名称を「脳およびその他の組織への治療用化合物の送達」とする発明に係るもので、甲3には次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲 1.哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で前記哺乳動物の中枢神経系に髄腔内投与するステップを含む方法。
・・・ 21.前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
(イ) 背景技術 [0011] そこで、当分野において、酵素補充療法の有効な投与を通してリソソーム蓄積障害を効果的に治療する方法を開発する必要がある。より詳細には、リソソーム蓄積障害を治療するために脳および中枢神経系へより効率的に活性物質を送達できる化合物および組成物のより効果的な投与方法に対する必要が存在する。
(ウ) 発明の概要 [0013] したがって、本発明の1つの態様では、リソソーム蓄積症を治療する方法であって、
リソソーム蓄積症において欠損もしくは欠乏しているタンパク質を含む医薬組成物を提供するステップと、被験者の脳脊髄液内に前記医薬組成物を送達するステップと、を含み、それにより哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記タンパク質が送達される方法が提供される。より詳細には、前記方法は一般に、哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記被験者の脳組織へ前記タンパク質を送達するステップを含む。より詳細には、脳脊髄液への送達は、髄控内注射によって達成される。
[0015] 一部の実施形態は補充される酵素としてイズロニダーゼを使用するが、本発明の方法は異なる酵素の投与を必要とする他の疾患の治療的介入のために使用できることを理解されたい。例えば、本発明はさらにまた、β-グルクロニダーゼ(MPSVII)、イズロン酸スルファターゼ(MPS II)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(MPS IIIB)、アリールスルファターゼA(MLD)、グルコセレブロシダーゼ、β-グルコシダーゼもしくはN-アセチルガラクトサミン4-スルファターゼのクモ膜下投与もまた意図している。
[0021] 所定の代表的実施形態では、前記医薬組成物は、哺乳動物では少なくとも約0.01mg/15cc(CSF)から約5.0mg/15cc(CSF)の用量のヒトα-L-イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。好ましくは、前記医薬組成物は、哺乳動物では約1mg/15cc(CSF)の用量のヒトα-L-イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。典型的な医薬組成物は、100mMリン酸ナトリウム、150mM NaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される。
[0022] 本発明の方法において使用するための医薬組成物は、さらにまた例えばヒトアルブミンなどの他の成分を含有していてよい。特定の実施形態では、本組成物は少なくとも約1mg/mLの濃度でヒトアルブミンを含有する。本組成物は、例えば約10〜50mMの濃度でリン酸ナトリウム緩衝液を含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってよい。
(エ) 発明の詳細な説明 [0087] 被験者を酵素補充療法へ寛容化させるための併用療法 [0088] 組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。
この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。
[0091] 医薬上許容される製剤の髄腔内投与 [0094] 本明細書で使用する用語「髄腔内投与」は、穿頭孔または大槽穿刺もしくは腰椎穿刺などを通しての側脳室内注射を含む技術(・・・)によって被験者の脳脊髄液内へ医薬組成物を直接送達することを含むことを意図する。
・・・上記で言及した部位のいずれかへの本発明による医薬組成物の投与は、組成物の直接注射によって、
または注入ポンプの使用によって達成できる。注射のためには、本発明の組成物は溶液中で、好ましくはハンクス液、リンガー液もしくはリン酸緩衝液などの生理的に適合する緩衝液中で調製することができる。・・・ [0095] 本発明の1つの実施形態では、酵素は、被験者の脳内への側脳室注射によって投与される。注射は、例えば被験者の頭蓋に作製した穿頭孔を通して行われてよい。
また別の実施形態では、酵素および/または他の医薬調整物は、被験者の脳室内への外科的に挿入されたシャントを通して投与される。例えば、注射は、より大きな側脳室内へ行うことができるが、第3および第4の小さな脳室内への注射でも行う ことができる。
[0099] 本発明の方法において使用される医薬調製物は、リソソーム蓄積疾患の酵素補充療法に使用するための治療有効量の酵素を含有する。
・・・治療有効量は、治療的に有益な作用が組成物の毒性もしくは有害な作用を上回る量でもある。イズロニダーゼの治療有効濃度についての非限定的範囲は、0.001μg(酵素)/mLから約150μg(酵素)/mLである。用量値は軽減すべき状態の重症度に伴って変化させてもよいことを留意されたい。いずれか特定の被験者については、特定投与レジメンは、個々の必要および酵素補充療法を投与するもしくは投与を監督する人の専門的判断によって経時的に調整すべきであること、そして本明細書に記載の用量範囲は代表例に過ぎず、本発明の範囲もしくは実践を限定することは意図されていないことを理解されたい。
[0132] 以下の実施例では、上記の実施例で記載した方法の一部または全部を用いてMPS I動物へのイズロニダーゼの髄腔内投与について実施した試験の結果について説明する。
実施例2 脳室内注射を介して投与された酵素は血液脳関門を透過し、脳組織中で検出される。
[0133] リソソーム蓄積障害を有する被験者の脳内におけるリソソーム蓄積誘発性損傷部位への酵素の直接的投与は、現時点では困難であることが証明されている。これらの疾患を治療するために必要とされる大きな酵素複合体は、典型的には血液脳関門を透過することができない。脳-CSF界面を越えてこれらの酵素を引き入れるために有効な方法を決定するために、リソソーム蓄積障害であるMPS Iのラットおよびイヌモデルにおいて2種の酵素投与経路について試験した。
[0134] 酵素を脳室内投与するために、定位固定誘導を用いて、5〜10μLの組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)もしくはコントロールタンパク質のどちらかをラットの側脳室へ注射した。注射24時間後に動物を致死させ、脳切片を入手した。
[0135] 脳切片は、抗イズロニダーゼ抗体を用いて共焦点顕微鏡を使用してrhIDUの存在について分析した。免疫組織化学的分析は、注射された酵素が脳ニューロンに取り込まれたこと、そしてさらにイズロニダーゼがニューロン細胞内のリソソームへ局在することを証明した。抗IDU染色は、この酵素が数ミリメートルにわたり脳組織を透過することを示しているが、酵素勾配は減少しており、これは注射部位から遠くへ離れるほど、脳内で検出される酵素が少なくなることを意味している。
染色は、さらにこの酵素の半減期がおよそ7日間であることも示した。
[0136] 脳切片は、rhIDU活性についても分析された。
イ 前記ア(ア)によると、甲3には、前記第2の3(4)ウ(ア)aのとおり本件審決が認定した甲3発明が記載されていると認められる。
「MPS Iのラットモデルに酵素を脳室内投与するための組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)を含む組成物。」 ウ その上で、本件発明1と甲3発明を対比すると、それらの間には、前記第2の3(4)ウ(ア)bのように本件審決が認定した相違点を修正した次の相違点’が存在すると認められる(下線部が修正箇所である。。
) (相違点’) 本件発明1は、5mg/ml〜100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるのに対し、甲3発明は、組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)を含むもので、ま た、それを5mg/ml〜100mg/mlの濃度で含み、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5〜7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるとは特定されていない点。
エ 原告の主張(取消事由6関係)について (ア) 原告は、甲3の[0015]にイズロン酸スルファターゼも挙げられていることなどから、
「ハンター症候群の治療のために・・・イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)」を含むものとして、甲3発明’が認められる旨を主張する。
しかし、甲3の[0015]において、
「イズロン酸スルファターゼ(MPS II) は、
」 「一部の実施形態は補充される酵素としてイズロニダーゼを使用するが・ ・ ・異なる酵素の投与を必要とする他の疾患の治療的介入のために使用できる」として、
そのような異なる酵素の一例として挙げられているものにすぎず、直ちに甲3発明の認定が相当でないことの理由となるものではない。また、仮に、甲3発明’を認定したとしても、補充酵素に係る本件発明1との相違点について、前記ウの認定のとおり、
「5mg/ml〜100mg/mlの濃度」という特定の有無を含むものであることが左右されるものでもない。
したがって、原告の上記主張については、前記ウの相違点を踏まえた容易想到性の判断に当たって、甲3の[0015]の記載を踏まえた検討をすれば足りるものといえ、前記ウの相違点の判断が誤りであるというべき根拠とはならないというべきである。
(3) 甲5の記載事項について 甲5は、平成22年発行(ただし、同年6月25日より前の発行である(弁論の全趣旨))の雑誌に掲載された論文(平成21年10月13日にはオンラインで入 。
手可能となったものであることがうかがわれる。 であり、
) 甲5には次の記載がある(抄訳を示す。。
) ア 要約(132頁) これまでに組換えヒトN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(rh ASB)による静脈内酵素補充療法(IV ERT)を生後3か月以降毎週受けてきたMPS-VI猫はすべて循環抗rhASB抗体を産生してきた。この事実に鑑み、短期の寛容化レジメンを使って免疫寛容を誘導する可能性を試験した。生後4か月から始めて、MPS-VI猫(n=5)と未罹患猫(n=2)に対してシクロスポリンとアザチオプリンを22日間にわたって投与し、さらに0.1mg/kgrhASBによるIV ERTを毎週行った。4週間の休止期間後、これらの猫に対して1mg/kg rhASBによるIV ERTを生後11か月または17か月になるまで毎週行った。4匹の未罹患猫(n=4)にはIV ERTだけを行った。健康状態、成長度、及びセロコンバージョンを定期的にモニタリングした。5匹のMPS-VI猫のうち4匹はrhASBに対して良好な耐容性を示し、その根拠は抗体力価が無視できるか程度か低い値であること、または過敏性反応が見られないことである。MPS-VI猫のうち1匹は一部のIV処置において抗体力価が上昇し、過敏性反応が見られた。寛容化レジメンを受けた2匹の未罹患猫は血清反応陰性のままであったが、このレジメンを受けなかった未罹患猫のうちセロコンバージョンが見られたのは半数のみであった。シクロスポリンとアザチオプリンの短期投与が原因で発生した副作用はわずかであった。rhASBの髄腔内注射を毎週行っても2匹のMPS-VI猫はやはり良好な耐容性を示し、その結果、脳脊髄液内のオリゴ糖断片は少なく硬膜内の空胞形成も少なかった。以上のデータはMPS-VI猫を短期の寛容化レジメンで処置することによりrhASBに対する比較的高いレベルの免疫寛容を誘導することができ、最終的には髄腔内療法を使うことにより硬膜内のリソソーム蓄積の除去が可能となることを示す。
イ 酵素調製(133頁右欄6行目〜17行目) IV ERTとIT I N J そ れ ぞ れ に 用 い る r h A S B は BioMarinPharmaceuticals Inc.から提供された。本酵素の詳しい調製に関しては以前に記述されている[12]。rhASBの調製とIT INJそれぞれに用いたビヒクル溶液は10mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム及び0.025%ポリソ ルベート80(Tween 80)を含んでいた。すべてのrhASBとビヒクルの調製物はpH5.8であった。rhASBの調製物の濃度はIV ERTの場合は1mg/ml、IT INJの場合は5mg/mlであった。IT INJの前に、1倍量のrhASB(または等量のビヒクル)を2倍量のエリオットB溶液(QOLMedical LLC、Seattle、WA 98021、USA)で毎回希釈した。
ウ IT注射(IT INJ)及びサンプリング(134頁左欄19行目〜36行目) IV ERT#46、#48、#49、#50の後、2匹のMPS-IV猫(A/T-4とA/T-5)に、0.5mg/kgのrhASBを小脳延髄槽(大槽)から注射した。
・・・希釈した酵素またはビヒクルを、SP2001Zシリンジポンプ(World Precision Instruments Inc.、Sarasota、FL、USA)を用いて285μl/minの速度で3〜5分かけて注入した。
(4) 甲6の記載事項について 甲6は、平成22年7月2日に公衆に利用可能となった雑誌「注射可能なドラッグデリバリー2010:製剤フォーカス」 (なお、利用可能日について、乙12、22、弁論の全趣旨)に掲載された「CNSが関与する遺伝学的疾患を治療するためのタンパク質治療薬の髄腔内送達」と題する論文であり、甲6には次の記載がある(ただし、訳文は、原告提出のものと被告提出のもの(乙34)を踏まえたものである。また、脚注については本文に脚注が付されていることのみを示し、脚注の引用は省略する。。
) ア 髄腔内送達の考慮事項(17頁中欄12行目〜右欄23行目) IT投与後の治療薬の分布は、一義的には脳組織内へのCSFの流れと拡散に依存する11。CSFは、ヒトでは20mL/hrで生産され、1日3.7回入れ替わる。
CSFの流れは、全ての脳室においてその生産場所(脈絡膜叢)から開始され、孔(フォラミン)を介して大槽に入り、表面上を循環して、クモ膜顆粒で再び吸収する。脊髄の周りに両方向の流れがあり、これが腰椎穿刺後にIT投与された薬物が 脳に向かって拡散するのを容易にしているはずである。脳へのタンパク質の送達は、
典型的には拡散が制限されている。神経成長因子がポリマーのインプラントとして脳間質内に投与された場合、脳組織内への拡散は数日間でたったの1〜3mmであった12。シミュレーション分析が、この遅い浸透の原因がタンパク質の拡散速度が遅いことにあることを示した13。
現在、薬物の神経送達を要するCNS治療は、タンパク質を能動輸送プロセスを利用するように改変して膜拡散によって細胞内に入る小さい疎水性分子に限られている2,14。対照的に、我々は、我々のリソソーム酵素治療薬をIT送達後、タンパク質は全く改変していないのに、相当な脳組織分布を観察した(図2)。
この独特の脳分布は、標的組織及びオルガネラへの取り込みを標的とするグリコシル化構造を手段とする軸索輸送15に起因している可能性がある。M6P含有糖タンパク質のマンノース-6-フォスフェート(M6P)受容体媒介による取り込みは、我々の酵素治療薬を細胞に導いて、その後リソソーム内の作用部位へと導く。
ニューロンは、M6P受容体を含んでいることが示されており 16、リソソーム酵素を取り込む17。
イ タンパク質の可溶性及び安定性の考慮(17頁右欄下から5行目〜18頁右欄12行目) CNS送達用の処方物(製剤)に関する一般的な考慮事項は、Grou1sが要約している18。IT-腰椎送達には、CSFの組成と頭蓋内の圧力の微妙なバランスによる限界がある。そのため、CSFを除去しない場合、投与量はヒトで3mL以下(カニクイザル成獣で1mL以下)が限界である。
投与量に限界があるため、用量を数十ミリグラムとする場合には高濃度のタンパク質製剤(>10mg/mL)を必要とする。複数の因子が所望の濃度を達成するためのタンパク質の溶解性に影響し得るが、これにはイオン強度、アミノ酸配列及び同時に溶解される他の成分が含まれる。
CNS投与に慣用的に使用される溶液組成物は等張生理食塩水(緩衝されていな い)または図3に列挙する組成のエリオットB溶液(人工CSF)である。等張溶液はタンパク質によっては適切な溶解性を与えないことがある。加えて、エリオットB溶液は非常に低い緩衝剤濃度を含有するため長期間の保存中にタンパク質製剤の安定化に要求される適切な緩衝能力を提供しないことがある。また、この人工CSF溶液は、タンパク質製剤とは非相溶性であり得る様々な塩も含有している。例えば、カルシウム塩はタンパク質沈降を媒介する。
最も一般的な承認されたCNSボーラス処方物組成物は、図4に示す通り、生理食塩水(水中150mMのNaC1)である。その他のものも試験されているが(図5)、これまで低い安全性プロファイルを示してきた。タンパク質は、典型的には、
溶解性と安定性のために制御されたpHと特定の賦形剤を必要とする(図6参照)ので、我々は、CSFへの直接投与用のタンパク質に適切であり得る処方物の組成を体系的に調査した。
我々がまず最初に調査対象にしたのは、治療効果のためには最低15mg/mLのタンパク質濃度を必要とするリソソーム酵素であった。このタンパク質の安定性のための最適pHは、6であった。5.1〜6.5のpH範囲では、このタンパク質は、高pH(図7、左)でより高い可溶性を示した。また、可溶性は、50mMのNaC1中およそ10mg/mLから300mMのNaC1中34mg/mLへとイオン強度が上昇すると増加した(図3、右を参照)。これらの結果に基づいて、
pH7.5の等張のリン酸緩衝化処方物が選択された。この組成は、酵素の可溶性と安定性には適切であったが、インビボ(生体内)での高い忍容性が認められなかった(後述する)。
ウ インビボ(生体内)忍容性(18頁右欄13行目〜19頁右欄5行目) 上述のとおり、生理食塩水とリン酸緩衝化生理食塩水が、CNSへの直接投与用の薬物を処方するまたは希釈するためのビヒクルに、並びに用量投与前後の送達システムの洗浄用に最も一般的には使用されている。我々は、緩衝剤の濃度及びpHにおける僅かな違いが、投与される溶液のインビボ(生体内)の安全性及び忍容性 に非常に大きく影響することを発見した。
成獣のカニクイザルにおいて予備的試験を行って、我々の酵素の繰り返しIT-脊椎投与の毒性及び安全性薬理を評価した。各動物にポート・カテーテル系を埋め込んで隔週の投与計画を実施し易くした。
デバイス対照の動物には、pH7.2のリン酸緩衝化生理食塩水が投与された。
ビヒクル対照群には、20mMリン酸ナトリウム、130mMのNaC1、及び0.005%ポリソルベート20のpH7.5の水性溶液が投与された。この処方が適切なタンパク質の可溶性と安定性を示したので、この処方を評価した。
投与の間及び投与後直ちに臨床兆候が観察されたが、出現率は、対照群(デバイス対照及び/またはビヒクル投与群)と酵素投与群との間で同等であり、用量反応の証拠は見られなかった。結果として、2回目の投与後この試験は中止された。組織学的な代表画像を図8に示す。
これらの臨床観察は、ビヒクル投与群を含む全ての動物において見られ、リン酸緩衝剤濃度とpHを変化させたビヒクルの処方及び用量を調べる一連の毒性試験を実施するきっかけとなった(図9)。
このスクリーニング試験では、1下肢あたり4匹の動物に1日、5日、14日及び19日目の4回の投与を行って。10mM以上のリン酸ナトリウム濃度と7.0を超えるpHを含む処方物を使って、上記の最初のビヒクル(20mMリン酸ナトリウム、130mMのNaCl、0.005%ポリソルベート20、pH7.5)を投与された動物において見られた臨床兆候を再現した。忍容性は、投与量を1.5mLから1.0mLに下げることで向上した。低いリン酸濃度かつ5.5〜7.0のpHの処方物に高い忍容性が認められた。
忍容性の高かったビヒクルのうちでは、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.005%のポリソルベート20をpH7.0で含むビヒクルが製品の可溶性及び安定性のために適していた。このビヒクル中の(用量1.0mL中酵素14mg)酵素の3週間にわたる4回のIT投与による有害な臨床兆候 はなかった。この低pHで低リン酸のビヒクルは、臨床開発用に適した酵素の安定性を提供した。これらの試験は、IT投与に適した製剤デザインスペースを定義した(図10)。
要約すると、タンパク質治療薬のCNS送達は、適切な可溶性、薬学的組成物のインビボ(生体内)忍容性、及び製品を商業化することのできる適切な長期安定性を達成する組成を特定するという、バランスを整える作業を必要とする、開発の進まない領域の研究である(図11)。
8 取消事由5(甲2発明を基礎とする進歩性の判断の誤り)について (1) 甲6に記載された発明の適用について ア 甲6発明(製剤)について (ア) 前記7(4)ウによると、甲6には、「14mg/mLのリソソーム酵素、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム及び0.005%のポリソルベート20を含有し、pHは7.0である、IT投与されるリソソーム酵素を含む処方物」が記載されているといえる。
もっとも、前記7(4)からすると、前記(ア)の処方物は、IT投与に係るものであるところ、甲6には、前記6(1)ウで甲15の記載について検討したのと同様、前記(ア)の処方物を投与した場合の送達や治療効果について具体的な記載がされているとは直ちに認め難く、また、IT投与の治療効果とICV投与の治療効果とを同視し得る旨等を明らかにする記載も見当たらないところである。
(イ) 他方で、甲2発明については、次の点を指摘することができる。
a 甲2の【請求項38】及び【請求項43】並びに【0001】及び【0038】の記載は、リソソーム蓄積症及び補充酵素の特定を除き、いずれも少なからず抽象度の高いもので、それらの記載に基づいて認定した甲2発明も概括的なものに すぎないといわざるを得ない(なお、上記特定に係るムコ多糖症II型及びイズロン酸-2-スルファターゼは、いずれも公知のものであったとみられる。)から、当業者において、そのような甲2発明を主引用例としてこれに他の副引用例等を組み合わせることを容易に想到し得たか否かを判断するに当たっては、甲2発明の組成物について、甲2に記載された具体的な事情を踏まえてこれを検討するのが相当であるというべきである。
b 甲2の【0003】には、直接注射による脳への補充酵素を導入する試みは、
「一部には、局所的な高濃度による酵素の毒性および脳における限られた柔組織への拡散割合のために限定されている」と記載された上で、【0005】には、「投与が「ゆっくり行われることにより最大の効果を達成することができる」と記載されている。そして、【0033】には、「脳室内輸送が、脳及び罹患した内蔵・・・の改善された代謝状態を導くこと・・・は、特に、ボーラス輸送と比較して輸送速度がゆっくりである場合に当てはまる」と記載され、
【0040】には、酵素の投与量が「1ヶ月あたり」という単位で具体例に3つ挙げられ、【0041】では、「単回用量の投与がボーラスとして投与されてもよい」などとされつつ、
「単回用量は・・・8時間より長くかけてもよ」く、
「出願人は、ボーラス脳室内投与が効果的でありうる一方で、ゆっくりした注入が非常に効果的であることを観察した」もので、
「ゆっくりした注入が脳脊髄液(CSF)の代謝回転によりより効果的であると考えている」「注入は・・・1日以上の期間にわたり連続的であってもよ」いなどと記載さ 、
れている。
上記の各記載を踏まえると、甲2発明は、投与がゆっくり行われるという点に技術的特徴を有するもので、それは、CSFの代謝回転による効果の向上や、局所的な高濃度による酵素の毒性の回避といった観点からの考慮によるものと解される。
c また、甲2発明の組成物の構成についてみると、リソソーム酵素について、
【0038】において「総組成物の少なくとも約0.01重量%から0.1重量%、
約1重量%、20重量%以上に変動することができる」という広範な例示がされて いるにとどまる。そして、実施例2には、0.250mgの用量を「24時間(〜0.01mg/h)にわたり」注入した旨の記載はあるが、投与された製剤中の補充酵素濃度についての具体的な記載はない。実施例3〜6においても同様に、補充酵素濃度についての具体的な記載はない。
(ウ) そして、証拠(乙5(24)、乙7(25)、乙8、9)によると、リソソーム酵素を始めとするタンパク質を含む医薬組成物の投与については、タンパク質が抗体形成や炎症反応といった免疫応答のリスクを有することや、タンパク質は高濃度で凝集する傾向があり、凝集タンパク質は免疫原性が高まることが、本件出願日において、技術常識であったことが認められる。
上記に関し、甲5の記載事項(前記7(3)ア及びイ)によると、リソソーム酵素であるrhASBの猫への投与に当たり、静脈内酵素補充療法(IV ERT)の場合にはrhASBの調製物の濃度は1mg/mlとされ、また、髄腔内注射(ITINJ)の場合には5mg/mlの濃度のrhASBの調製物をrhASBの2倍量のエリオットB溶液で毎回希釈されて、すなわち、約1.67mg/mlとされて、投与されている。
(エ)a 前記(ア)のように、甲6に記載されているといえる処方物におけるリソソーム酵素の濃度は、14mg/mLであるところ、当業者において、前記(ウ)のような技術常識等があるにもかかわらず、前記(イ)のように、実施例において補充酵素濃度について具体的な記載がなく、他方で投与がゆっくり行われるという点に技術的特徴を有し、かつ、局所的な高濃度による酵素の毒性の回避について甲2に具体的な記載がみられる甲2発明に対し、上記14mg/mLという濃度の処方物を適用することが容易に想到し得たものとみることはできない。甲2に、そのような適用を動機付ける、又はこれを示唆する記載は見当たらず、本件全証拠をもってしても、
そのような動機付け又は示唆に当たり得るような技術常識も認められない。
b また、甲2の【0038】の記載及び原告の主張する高濃度化の技術常識により、甲2発明の補充酵素濃度を高めることが、当業者において当然に採用する事 項であるとか、当業者において容易に想到し得るものであるということはできない。
この点、前記(イ)で指摘した点からすると、甲2の【0038】は、補充酵素の濃度を高めることを示唆する記載であるとはいえない。また、高濃度化の技術常識については、前記(ウ)で指摘した技術常識等が認められるにもかかわらず、動物とヒトとの間の用量の換算やCSFに投与する製剤の望ましい量といった一般的な事項をもって、当業者において補充酵素濃度を高めることを当然に採用したとか、それを容易に想到し得たとはいえない。それらの点を措くとしても、前記(イ)のように、補充酵素濃度について具体的な記載がなく、他方で投与がゆっくり行われるという点に技術的特徴を有し、かつ、局所的な高濃度による酵素の毒性の回避について甲2に具体的な記載がみられる甲2発明に対して、当業者が容易に高濃度化の技術常識を適用したものとは解されない。
また、甲6中に、補充酵素の濃度を高める示唆があるということもできない。前記7(4)イのとおり、甲6には、「投与量に限界があるため、用量を数十ミリグラムとする場合には高濃度のタンパク質製剤(>10mg/mL)を必要とする。」という記載があるが、そのような一般的な記載をもって、前記(ウ)で指摘した技術常識等が認められるにもかかわらず、投与する製剤における補充酵素の濃度を10mg/mLより高くすることが直ちに示唆されるものとはいえない。また、その点を措くとしても、甲6について、前記(ア)のとおり、そこに記載された処方物を投与した場合に、どのような領域まで送達されて治療効果を奏するかについて記載がされているとは認め難いことを踏まえると、上記記載が他の発明において補充酵素濃度を高めることを示唆するものとは認め難い。
(オ) 以上によると、甲6に、そもそも製剤の発明として引用発明を認定できる程度に前記(ア)の処方物が記載されているといえるかには疑問があり、また、仮にそれが記載されているとしても、当業者において、ICV投与に係る甲2発明に、IT投与に係る前記(ア)の処方物を適用して、本件発明1の構成に至ることが容易想到であったと認めるに足りる事情はない。
したがって、甲6発明(製剤)の適用についての原告の主張には理由がない。
イ 甲6発明(ビヒクル)について 前記アの判断と同様、当業者において、ICV投与に係る甲2発明に、IT投与に係る甲6発明(ビヒクル)を適用して本件発明1の構成に至ることが容易想到であったと認めるに足りる事情はない。
したがって、甲6発明(ビヒクル)の適用についての原告の主張には理由がない。
(2) エリオットB溶液の技術常識の適用について ア 補充酵素濃度について (ア) 原告は、甲2の【0038】に記載された組成物中のリソソーム加水分解酵素の濃度が全組成物の少なくとも約0.01重量%〜20重量%又はそれ以上であることや、甲2発明の医療キャリアに含まれる生理食塩水及びリン酸緩衝食塩水(PBS)を用いた組成物の密度が水の密度(すなわち1000mg/ml)に非常に類似していることからして、上記は「約0.1〜約200mg/ml」と換算でき、
本件発明1の補充酵素濃度の範囲に含まれている旨を主張する。
しかし、前記(1)ア(イ)で指摘した事情のほか、甲2発明の上記「約0.001重量%から20重量%以上」という記載は、
「以上」という記載を含むことからも理解されるように、
「約0.001重量%から20重量%」という範囲を具体的に特定したものとは解されない。
(イ) そして、前記(1)で認定判断したように、甲2発明について、当業者において、
甲2中の示唆や高濃度化の技術常識の採用によって補充酵素濃度を高めることができた旨の原告の主張を採用することはできない。
イ したがって、その余の点について判断するまでもなく、甲2中の示唆及びエリオットB溶液の技術常識の適用についての原告の主張には、理由がない。
(3) 甲2中の示唆及び甲5技術の適用について ア 前記7(3)イによると、甲5には、補充酵素が組換えヒトN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(rhASB)である、前記第3の5(3)アにおいて 原告が主張する甲5技術が記載されていると認められる。
イ しかし、前記(1)で認定判断したように、甲2発明について、当業者において、
甲2中の示唆や高濃度化の技術常識の採用によって補充酵素濃度を高めることができた旨の原告の主張を採用することはできない。
また、前記(1)ア(ウ)で認定したように、甲5技術に係る組成物においては、投与時には補充酵素濃度が1.67mg/mLに希釈されて投与されているのであり、
それにもかかわらず、当業者において、投与時の補充酵素をそれより高めて(あるいは、甲5技術に係る組成物を希釈することなくして)甲2発明に適用することを容易に想到し得たとみるべき事情はない。
なお、前記7(3)からすると、甲5技術は、具体的な補充酵素のIT注射(IT INJ)に係るものであり、甲5は、IT注射及び静脈内酵素補充療法(IV ERT)に係るものであり、また、甲5にはIT投与の治療効果とICV投与の治療効果とを同視し得る旨等を明らかにする記載も見当たらない。
したがって、甲2中の示唆及び甲5技術の適用についての原告の主張には理由がない。
(4) 本件発明6について 原告は、本件発明6との対比においては、甲2発明’が認定されるべきである旨等を主張するが、原告の主張によっても、それと本件発明6との相違点は、本件発明1と甲2発明との相違点と一致するというのである。
そうすると、前記(1)〜(3)のとおり、本件発明1についての原告の主張を採用することができない以上、本件発明6についても、原告の主張にはいずれも理由がない。
(5) 本件発明2〜5及び7〜12について 原告は、本件発明1と同様の理由により本件発明2〜5及び7〜12についての進歩性判断の誤りを主張するから、同主張も認められない。
(6) まとめ 以上によると、取消事由6は、理由がない。
9 取消事由6(甲3発明を基礎とする進歩性の判断の誤り)について (1) 甲6に記載された発明の適用について ア(ア) 甲3発明も補充酵素の特定を除くと概括的なものであるところ、甲3の[0021]には、
「典型的な医薬組成物は、100mMリン酸ナトリウム、150mMNaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される」との記載があり、補充酵素の濃度は、
「0.58mg/mL」という比較的低い濃度にとどまっているところ、同[0088]には、
「組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、
タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。 と記載されており、
」 免疫応答等の問題があることが明記され、それに対しては、寛容化レジメンとの併用療法が一つの対応策として提示されている。
(イ) そしてタンパク質が抗体形成や炎症反応といった免疫応答のリスクを有することや、タンパク質は高濃度で凝集する傾向があり、凝集タンパク質は免疫原性が高まることが本件出願日における技術常識であったことや、甲5技術に関してはrhASBの調製物があえて希釈された上で投与されていることは、前記8(1)ア(ウ)のとおりである。
イ(ア) 前記8(1)ア(ア)のように、甲6に記載されているといえる処方物におけるリソソーム酵素の濃度は、14mg/mLであるところ、当業者において、前記ア (イ)のような技術常識等があるにもかかわらず、同(ア)のように、典型的な医薬組成物では0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製されるとされ、
免疫応答等についても甲3に具体的な記載がみられる甲3発明に対し、上記14mg/mLという濃度の処方物を適用することが容易に想到し得たものとみることはできない。甲3に、そのような適用を動機付ける、又はこれを示唆する記載は見当たらず、本件全証拠をもってしても、そのような動機付け又は示唆に当たり得るような技術常識も認められない。
(イ) また、前記8(1)ア(エ)bと同様、原告の主張する高濃度化の技術常識により、
甲3発明の補充酵素濃度を高めることが、当業者において当然に採用する事項であるとか、当業者において容易に想到し得るものであるということはできない。甲6の記載をもってそれを示唆するものといえないことも同様である。
(ウ) 以上の判断は、甲3の[0015]に「イズロン酸スルファターゼ(MPSII)」が例示されていることによって、左右されるものではない。
ウ したがって、甲6発明(製剤)の適用についての原告の主張には理由がなく、
また、補充酵素濃度を5mg/ml〜100mg/ml程度とすることが当業者において容易になし得ると認められない以上、その余の点について判断するまでもなく甲6発明(ビヒクル)の適用についての原告の主張にも理由がない。
(2) 高濃度化の技術常識及びエリオットB溶液の技術常識の適用等について ア 補充酵素濃度について 前記(1)イの点に照らすと、補充酵素の濃度について、高濃度化の技術常識等より、
甲3発明について、補充酵素濃度を5mg/ml〜100mg/ml程度とすることが当業者において容易に想到し得た事項である旨の原告の主張は、採用することができない。
イ したがって、その余の点について判断するまでもなく、高濃度化の技術常識及びエリオットB溶液の技術常識の適用についての原告の主張には、理由がない。
(3) 甲5技術の適用について 前記(1)イの点に照らすと、前記8(3)と同様、甲5技術の適用についての原告の主張には理由がない。
(4) 本件発明6について 原告は、本件発明6との対比においては、甲3発明’が認定されるべきである旨等を主張するが、原告の主張によっても、それと本件発明6との相違点1は、本件発明1と甲3発明との相違点’に含まれるイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度の特定の有無を含むものである。
そうすると、前記(1)〜(3)のとおり、本件発明1についての原告の主張を採用することができない以上、本件発明6についても、原告の主張にはいずれも理由がない。
(5) 本件発明2〜5及び7〜12について 原告は、本件発明1と同様の理由により本件発明2〜5及び7〜12についての進歩性判断の誤りを主張するから、同主張も認められない。
(6) まとめ 以上によると、取消事由6は理由がない。
結論
よって、原告の本訴請求には理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 中島朋宏
裁判官 勝又来未子