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事件 令和 4年 (ネ) 10075号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件

控訴人X
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 弓削田博 平田慎二
同訴訟代理人弁理士 服部秀一
被控訴人 パナソニック株式会社
同訴訟代理人弁護士 速見禎 溝内伸治郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/01/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙被控訴人製品目録記載の各製品を製造し、譲渡し、輸入し、
1 輸出し、譲渡の申出をし、又は譲渡のために展示してはならない。
3 被控訴人は、前項の各製品及びその半製品(同目録記載の各製品の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和3年6月2日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
事案の概要
本件は、発明の名称を「微生物の生長制御方法」とする特許に係る本件特許権を有する原告が、別紙被控訴人製品目録記載の各製品(本件製品)である冷蔵室に食品を保存する方法は上記特許の特許請求の範囲請求項2記載の発明(本件発明。以下、本件発明に係る特許を「本件特許」という。)の技術的範囲に属し、脱退被告パナソニックホールディングス株式会社(以下「脱退被告」という。)及び脱退被告の地位を承継した被控訴人が本件製品を製造、販売等する行為は本件特許権の直接侵害又は間接侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、本件製品の製造、譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として、3835万3332円のうち1000万円及びこれに対する不法行為の日の後である令和3年6月2日(脱退被告に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は、本件製品の使用方法は本件特許の技術的範囲に属さず、また、本件特許は無効審判により無効にされるべきものであるとして、控訴人の請求を棄却し、控訴人が控訴した。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお、以下、書証において枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。
) 2 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2の1に記載するとおりであるからこれを引用する。
(1) 原判決3頁1行目の「電気・通信・電子、照明機械器具の製造、販売」を「電気・通信・電子及び照明機械器具の製造、販売等」と、同頁6行目の「電気・通信・電子、照明機械器具の製造、販売等」 「電気・通信・電子及び照明機械器具の製造、
を販売等」とそれぞれ改め、同頁7行目の末尾に「被控訴人は、令和4年4月1日、その商号をパナソニック分割準備株式会社からパナソニック株式会社に変更した。」を加え、同頁8行目の「(商号変更前のパナソニック分割準備株式会社)」を削る。
(2) 原判決4頁8行目の「本件製品は、」を「本件製品(別紙被控訴人目録記載1の冷蔵庫は右開き、同記載2の冷蔵庫は左開きのものであり、その余の構成は同じである。)は、いずれも、」と、同頁23行目の「乙3、4」を「50、乙1〜3」とそれぞれ改める。
2 争点及び争点に関する当事者の主張 以下のとおり補正し、後記3に当審における当事者の主張を補足するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第2の2及び第3に記載するとおりであるからこれを引用する。
(1) 原判決4頁25行目及び5頁19行目の各「本件製品が」を「本件製品の使用方法が」とそれぞれ改める。
(2) 原判決5頁1行目の「本件発明が次の無効理由を有するかどうか」を「本件特許に次の無効理由があるかどうか」 同頁5行目の と、 「文献(平成12年に「光学」に掲載された乙34の文献」を「「生活環境における高輝度LED光源の新応用」と題する論文(「光学」29巻1号(2000年)26〜32頁)。乙34」とそれぞれ改める。
(3) 原判決6頁14行目の「成長」を「生長」と改める。
(4) 原判決9頁22行目の「使用」を「使用方法」と改める。
(5) 原判決13頁5行目の「渡って」を「わたって」と改める。
3 (6) 原判決14頁7行目の「直接侵害及び間接侵害の成否」を「直接侵害及び間接侵害が成立するかどうか」と改める。
(7) 原判決15頁8行目の「サポート要件違反の無効理由@があるか」を「サポート要件違反@の無効理由があるかどうか」と改め、16頁10行目の「本件明細書の」を削る。
(8) 原判決16頁12行目の「サポート要件違反の無効理由Aがあるか」を「サポート要件違反Aの無効理由があるかどうか」と改め、17頁7行目の「本件明細書の」を削る。
(9) 原判決17頁9行目の「明確性要件に違反するとの無効理由」を「明確性要件違反の無効理由」と、同頁24行目の「本件発明は」を「本件特許は」とそれぞれ改める。
(10) 原判決19頁8行目の「微生物である」を「微生物」である」と改める。
(11) 原判決20頁2行目及び同頁26行目の各「があるか」 「があるかどうか」 をと、同頁21行目の「発行」を「発光」とそれぞれ改める。
(12) 原判決22頁9行目の「があるか」を「があるかどうか」と、同頁15〜16行目の「本件発明のうち黄色ブドウ状球菌に関する部分は」を「本件発明は」とそれぞれ改める。
(13) 原判決23頁6行目の「ないし参加人」を削る。
3 当審における当事者の主張 (1) 争点1(本件製品の使用方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうか)に関する補充主張(控訴人の主張) ア 控訴人は、詳細な計測を行うために、広島県立総合技術研究所に技術支援を依頼した。その結果を示す技術支援レポート(甲49。以下「本件レポート」という。)の表1によると、本件製品においては、扉を閉めてから約13秒経過後も微弱な光が出ており、これは積算照射量に影響する。
4 また、本件レポートの図16〜25に示されるとおり、本件製品の庫内灯である、
上部LED照明(LED@)、左横LED照明(LEDA)、右横LED照明(LEDB)、左横青色LED(LEDC)、パーシャル白色LED部(LEDDの白色LED)、パーシャル青色LED部(LEDDの青色LED)は、いずれも、青色光の強度が最も大きくなっている。すなわち、白色LEDのスペクトルは460nm 付近に高強度の青色光のスペクトルがあるから、白色LED光は強い青色光を照射しており、白色LED光も微生物の生長抑制効果を発揮する。そして、扉を閉めてから13秒間は庫内灯が点灯するが、庫内灯は青色光の強度が大きいものであるから、本件製品の扉を閉めてから約13秒間は青色光主体の強い光が点灯する。
イ 本件特許公表後、海外において青色LED光の微生物生長抑制効果が実証されるようになり、多くの論文により青色LED光の効能が証明されている(甲51〜57)。重要な点は、青色LED光の照射量(光量)の単位が「μmol・m-2・s-1」ではなく、照射時間(秒)を踏まえた積算照射量(積算光量)を示す「J・cm-2」で表記することになっていることである。つまり、微生物の生長抑制の効果を発するかどうかは、積算照射量によって決まる。
また、近年、低温下での青色光照射が微生物の不活性化や生長抑制に極めて効果的であるという報告がされている(甲62、63)。さらに、青色LED光は、光の照射強度にかかわらず、微生物の生長を阻害することが報告されている(甲51〜57、62、63)。青色光による微生物に対する生長抑制効果を強めるには照射時間を長くすればよいが、照射時間が短くとも生長抑制効果は十分に得られる。
ウ 以上からすると、本件製品において、枯草菌、黄色ブドウ球菌等の微生物の生長を抑制するほどの青色光の照射が行われていることは明らかである。
エ ところで、本件製品の取扱説明書(甲50)には、冷蔵室の扉を閉めると、オート急冷が始まり、庫内灯が青色に点灯し、オート急冷が終了すると、庫内灯が水色に点灯することが記載されているが、実際には、冷蔵庫開閉検知スイッチを入力(扉閉)するとパーシャルの庫内灯はすぐに消灯した(本件レポート3頁)。本件製品の 5 庫内灯の挙動が、本件製品の取扱説明書の記載内容と異なることは、製品としての信頼性を失うものである。
オ 原判決は、
「本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用することはできず、乙12実験等によるべきである」と判示したが、乙12実験等のデータには信用性がない。最も不自然な点は、パーシャル室を中程度としたとき、寒天培地の多くが凍結したと記載されているところであり、株式会社テクノサイエンスは、パーシャル室の金属板周辺の温度がパーシャル温度よりも低くなることを知りながら、何ら手当をせずに乙12実験等を行い、寒天培地を凍結させた。本件製品の取扱説明書(甲50)では、凍らせないような使用態様が予定されているのであるから、取扱説明書に記載された使用方法と異なる環境で実験を行ったということである。また、
黄色ブドウ状球菌(甲58)や枯草菌は凍結耐性を有しており、凍結(-20℃)後でも35℃前後の温度に持っていくと急速に増殖することはよく知られている。したがって、寒天培地を凍結させ、黄色ブドウ球菌や枯草菌のコロニーの発生が確認できないとする乙12実験等は、正しい実験結果を示したものではない。
これに対し、微生物の取扱いに長け、約40年間、菌根菌とそのパートナー細菌という有益微生物の研究を行い、真摯に実験に取り組んでおり、被控訴人や株式会社テクノサイエンスよりも微生物の実験についての知見を有する控訴人が、公証人の立会いの下に実験を行い、その実験内容を記した事実実験公正証書(甲15)の信用性は高く、これによって実証された本件製品の微生物の生長抑制効果に疑いの余地はない。なお、控訴人は、パーシャル室底部の金属板周辺の温度を測定したところ、
高の設定で約-7.4℃、中の設定で約-4.6℃であったことから、事実実験公正証書(甲15)の写真38に示すように、高の設定でコピー用紙1枚をパーシャル室の金属板に敷き、その上部の温度が-3℃付近になることを確認した上で、実験を行った。
カ 被控訴人は積算照射量を計算して主張しているが誤りがあり、正しく計算す 6 ると、下記(被控訴人の主張)のエの0.05(J/cm2)、0.2(J/cm2)、577日はそれぞれ、0.3575(J/cm2)、1.43(J/cm2)、80日となる。被控訴人は、
青色光の効果がないように意図的に計算している。被控訴人は、本件レポートに記載された放射照度から積算照射量を計算する際に、照射照度(mW/m2)を積分時間(ms)で除していない点に誤りがある。
(被控訴人の主張) ア 原判決は、本件発明の構成要件Bのうち「光の照射下で」の意義について「青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されていること(青色光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性があること)を要件としていると解するのが相当」であるとした上で、@本件製品のパーシャル室内では、黄色ブドウ状球菌及び枯草菌は遮光の有無にかかわらず生長しないこと、A本件製品のパーシャル室内の豚肉中の細菌量も遮光の有無にかかわらずおおむね一定であり、B本件製品においては、冷蔵庫の扉が開いたときに、強度(光量子束密度)が白色光等他の波長域の光を含めても7μE/u/s 程度の光が照射されるにすぎないが、当該光は本件明細書の実施例等の記載と対比するとごく僅かにすぎず、C冷蔵庫は庫内の食品の微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保存する機器であることをあげ、本件製品の使用方法は、構成要件Bの「光の照射下で」を充足しないと判断したが、この判断は妥当である。
イ 控訴人は、本件レポートを根拠として主張するが、失当である。
(ア) 本件レポートの測定結果は、原審で提出した乙39や乙8の測定結果と差がない。
a 本件レポートにおいては、光の強度を測定した結果が放射照度により記載されているが(本件レポートの表1)、本件明細書では光量子束密度により記載されているから、比較のために本件レポートの測定結果を光量子束密度に換算すると次の表Aのとおりである。
7 (表A) b 乙8(5〜6頁)において、部屋照明OFFで扉を閉める前の光強度をみると、5μE/u/s 前後であり、本件レポートの測定結果(表AのNo.9〜11の光量子束密度の値)とおおむね同様である。
c 乙39において、冷蔵庫の扉を開け、庫内のLEDが全点灯している状態(表Aの@と同じ状態)の光強度が1μE/u/s を多少超える程度、冷蔵庫の扉を閉めた後、収納量測定が行われる状態(表AのA〜Dと同じ状態)の光強度が0.005〜0.07μE/u/s 程度、収納量判定の終了後に完全に消灯した状態(表AのEと同じ状態)の値が0.00001μE/u/s 未満であるが、これらも表Aと同様の測定結果である。
(イ) 本件レポートでは、
「消灯」の測定結果として表AのNo.7とNo.8の記載があるが、本件レポートの8枚目に「消灯状態では、積分時間が短い(No.7)場合、ノイズによる誤差が大きいため、最大露光での放射照度計測結果をNo.8に示す。 と記載されているとおり、
」 No.8の数値を参照すべきであるところ、No.8(0.01mW/u=0.000039μE/u/s)程度の値は、不可避的に除去でき 8 ないノイズによるものであって、光が発生しているとは認められない。したがって、
本件レポートの測定結果をもって、扉を閉めて13秒経過後に微弱光が出ているとは認められない。
(ウ) 以上のとおり、本件レポートは何ら新たな事実を立証するものではなく、むしろ、本件製品においては、本件明細書の実施例に記載された光と比較して、より弱い、ごく短時間の光が照射されているにすぎないことが改めて確認されたといえる。
ウ 控訴人は、甲51を援用し、
「微生物の生長抑制の効果を発するかどうかは積算照射量によって決まる」という本件明細書に特段記載がない事項を摘示し、仮にそれが事実であるとすれば、積算照射量について特段の考慮をせず、効果を発するかどうかも分からない僅かな積算照射量しかない場合を発明の要旨に含む点で、そもそも、本件発明にはサポート要件違反の瑕疵がある。
上記の点を措くとしても、積算照射量について検討してみると、本件明細書の実施例3において照射された青色LEDの光強度は30μE/u/s であり、照射時間は1週間である。一方、本件製品の光強度は、本件レポート(表1)を前提としても、
扉を開けた状態(全点灯)で約1.2μE/u/s であるから、冷蔵庫の扉を開けた状態の光強度を常時維持したとしても、本件明細書の実施例3と同じだけの積算照射量に達するには25週間(約半年)かかる。本件製品の扉閉鎖後13秒間の収納量判定中に照射されるLEDの光強度が、本件レポートに基づいて0.03μE/u/s であるとした場合、本件明細書の実施例3と同じだけの積算照射量に達するには1000週間かかる。
したがって、積算照射量に注目すると、より一層、本件明細書の実施例の記載に照らしても、本件製品で照射される程度の光では、微生物の生長抑制効果が期待できないことが明らかである。
エ 本件出願日後の文献である甲51を考慮する必然性はないものの、甲51を参照すると、次のとおり、通常の研究者であれば、本件製品を使用して黄色ブドウ状球菌の生長抑制効果が期待できないことを当然に理解できることが明らかである。
9 本件製品を1日使用した場合の積算照射量はせいぜい0.05(J/cm2)であり、
仮に、食品を4日間本件製品のパーシャル室内に保存したとしても、食品に照射される光の積算照射量は0.2(J/cm2)にすぎない。そして、本件製品を使用して、
甲51に記載されている黄色ブドウ状球菌(S.aureus及びMRSA)の最小積算照射量28.5J/cm2 を照射しようとすれば577日を要することとなり、これは、冷蔵庫に食品を保存する一般的な期間を著しく逸脱している。
オ 控訴人は、@控訴人が被控訴人や株式会社テクノサイエンスよりも微生物の実験についての知見を有していることから控訴人の行った実験の信用性が高く、他方、A寒天培地を凍結させた乙12実験等は信用性がないと主張する。
しかしながら、控訴人が関与して行った実験は甲6及び甲15の1であるが、いずれも試験条件が十分に記載されておらず、供試した豚肉に黄色ブドウ状球菌が付着しているかどうかすら厳密に確認することもなく、黄色ブドウ状球菌の菌数の判定ができない簡便な試験器具(サンアイバイオチェッカーFC)を用いて菌数の増減があると主張し、甲15の1では、複数のシャーレを供試しながらその一部の結果しか報告しないなど、実験に関する基本的な処理が不適切な点が多数散見される。
これら試験内容の稚拙さに鑑みれば、控訴人が微生物の実験について十分な知見があるとはいえない。
また、本件製品のパーシャル室は食品をマイナス3℃前後で保存するためのものであるから、パーシャル室に4日間保存した寒天培地が凍結することに何の不思議もない。そして、本件製品はパーシャル室内にコピー用紙を敷くことなく使用するのであるから、通常の使用状態で行われた乙12等試験の信用性が何ら否定されるものでもない。
したがって、控訴人が行った甲6食品実験等には疑義があり、これを採用することはできず、乙12実験等の結果に基づいて本件製品において、青色光の影響によって微生物の生長が抑制されているかを判断すべきとした原判決の判断は科学的に見て全く正しいものであって、何らの誤りもない。
10 カ 控訴人は、前記エの計算に誤りがあると主張するが、控訴人の計算式にこそ誤りがある。控訴人の計算ではその単位が(J/s/cm2)となり、積算照射量の単位(J/cm2)とは異なるものとなってしまうが、積算時間で除する必要はない。
(2) 争点3-7(本件特許に乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の無効理由があるかどうか)に関する補充主張(被控訴人の主張) ア 乙36公報には、光源-2をバシルスサブチリス(枯草菌)に照射した実施例-11以外に、光源-3をフィルムNo.1で被覆した光をバシルスサブチリス(枯草菌)に照射した比較例-19の記載がある。そして、実施例-11と比較例-19を比較すると、光源-2の光に比べて光源-3の光はバシルスサブチリス(枯草菌)の繁殖抑制作用がほとんど見られないことが分かる(乙36公報の表-7)。ところで、光源-3は、控訴人が青色光と主張する400〜500nm の光の比率が明らかに光源-2に比べ低く、光源-2にも含まれる500〜650nm の範囲の光が主成分であり、かつ、控訴人が着眼する550nm 前後及び580nm 前後のピークも持つ(乙36公報の第2図)。
そして、乙36公報の実施例-11と比較例-19の結果を比較すれば、光源-2の光によるバシルスサブチリス(枯草菌)の増殖抑制効果が光源-3よりも光源-2 に多く含まれる青色光(波長400〜500nm 域)によるものであると判断するのが自然である。
乙36発明の出願人も、500nm から近紫外線までの波長域(300〜500nm)に含まれる光線に微生物の増殖抑制効果を見いだしたのであり(乙36公報の特許請求の範囲の請求項2)、乙36公報に接した当業者であれば、青色光(波長400〜500nm 域)の増殖抑制効果が高いことを容易に認識できる。
そうすると、本件特許について乙36発明に基づく新規性欠如を認めた原判決の認定に誤りはない。
イ 控訴人は、乙36公報の光源-2においては、紫外線カットフィルムNo.1 11 が用いられていないから、紫外線の影響で微生物の生長が阻害されていると主張するが、
「紫外線」が一般に400nm より短い波長の光を指すところ、乙36公報の図2をみると、光源-2には400nm より短い光はほとんど含まれておらず、大部分が400〜500nm 程度の青色光であることが明らかであるから、実施例-11で示された抑制効果が紫外線によるものと理解することは困難である。
控訴人は、特許庁の審査において乙36公報も先行技術文献として挙げられていたと主張するが、そのような事実はない。
(控訴人の主張) ア 乙36発明で用いられているFL-40SB(東芝電機(株) という光源は、
)乙36公報の第2図が示すように、420nm 前後、440nm 前後の青色光領域以外に、550nm 前後及び580nm 前後にもピークがみられ、特に、550nm 前後のピークは非常に大きく、様々な波長の光が発光しているので、どの波長が効果をもたらすものなのか不明である。
したがって、乙36公報に接した当業者が、波長が400〜500nm の範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制すると理解することはない。
イ 被控訴人は、乙36公報の実施例-11と比較例-19の結果を比較すれば、
光源-2の光によるバシルスサブチリス(枯草菌)の増殖抑制効果が光源-3よりも光源-2に多く含まれる青色光(波長400〜500nm 域)によるものであると判断するのが自然などと主張するが、光源-3では微生物の生長を著しく阻害する紫外線を除去する紫外線カットフィルムNo.1が用いられているのに対し、光源-2では用いられていない。光源-2と光源-3を比較するのであれば、光源-2でも紫外線カットフィルムNo.1を用いるべきであった。光源-2の微生物増殖抑制効果は、紫外線の影響である。
特許庁の審査においても、乙36公報は先行技術文献として挙げられているものの、本件発明の新規性は否定されなかった。原判決は、乙36公報記載の信用性のないデータを誤って評価したもので、事実誤認がある。
12
当裁判所の判断
1 当裁判所も控訴人の請求には理由がないものと判断する。理由は、次のとおり補正し、後記2に当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第4に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決26頁6行目の末尾に改行して、次のとおり加える。
「2 本件発明の要旨 本件発明に係る特許請求の範囲請求項2並びに前記1及び原判決別紙の本件明細書の記載によると、本件発明は、光照射によって微生物の生長を制御し、その微生物の培養技術の向上を図る微生物の生長制御方法に関するものであり(本件明細書の【0001】、従来、光合成細菌以外の微生物の培養は暗黒下で行われていたとこ )ろ、菌糸の生長が遅く、胞子形成が起こるまで時間がかかるという問題があったことから(同【0002】【0006】、培養技術の向上を図ることができる微生物の 、 )生長制御方法を提供するため(同【0007】、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ )炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光の照射下で培養することによって、この微生物の生長を抑制できるから、この微生物の培養技術の向上を図ることができる(同【0026】)というものと認められる。」 (2) 原判決26頁6行目の「2」を「3」と改め、同頁9行目の「作成による」の次に「本件製品の仕様書の」を挿入し、同頁21〜22行目の「白色LED25%」を「白色LED50%」と、同行目の「白色LED0%」 「白色LED25%」 を と、
同頁24行目の「冷蔵庫」を「冷蔵室」とそれぞれ改める。
(3) 原判決27頁7行目の「ほぼ仕様書(乙7)に記載の時間、(イ)の順序に従って」 「前記ア(イ)の時間及び順序に従って」 同頁19行目の を と、 「iPhone10」 「iPhone を]」と、同頁21行目の「動画」を「映像」と、同頁22行目の「画像」を「映像」とそれぞれ改める。
(4) 原判決29頁22〜23行目の「生長を抑制させ、微生物の培養技術の向上 13 を図ることを目的とするものである【0011】」を「生長を抑制させ」「微生物の 。 、
培養技術の向上を図ること」 【0011】を目的とするものである。また、本件明細書の【0013】には「青色光とは、およそ400nm から490nm までの光波長領域にある光である。」との記載がある。これらの本件明細書の記載からすると、本件発明における「光の照射下」とは、青色光の照射下において微生物を培養することによって当該微生物の生長が抑制されること、すなわち、青色光の照射と微生物の生長の抑制に直接的な関連性があることまでを意味するものと理解できる。」と改め、
同頁25行目の「に加え、」から30頁1行目の「主張していること」までを削る。
(5) 原判決30頁14行目の「乙12ないし15」を「乙12、13、15」と改め、同頁15行目の「「乙14実験」」を削り、同頁16〜17行目の「合同会社アグアイッシュ」の次に「又は控訴人」を挿入し、同頁23行目の「各豚肉表面に」から同頁24行目の「付着させ」までを「微生物簡易測定器具(三愛石油株式会社製のサンアイバイオチェッカーFC。以下「本件測定器具」という。)に各豚肉表面を付着させ」と改める。
(6) 原判決31頁10行目(左側欄外の行数による。以下同じ。)の「甲15培養実験」を「甲15培地実験」と、同行目の「甲6培養実験」を「甲6培地実験」とそれぞれ改める。
(7) 原判決31頁11〜12行目の「合同会社アグアイッシュが実施する」 「合 を同会社アグアイッシュの実験室において控訴人が実施した」と、同頁15行目の「本件測定器具を表面に付着させて暗黒下のインキュベーター内で培養し、」を「本件測定器具に豚肉の表面を付着させた後、27℃の暗黒下のインキュベーター内に入れ、」と改める。
(8) 原判決32頁3〜5行目の「各豚肉を取り出して本件測定器具を表面にそれぞれ付着させて暗黒下のインキュベーター内で培養し」 「各豚肉を取り出し、
を 本件測定器具に同各豚肉の表面をそれぞれ付着させた後、27℃の暗黒下のインキュベーター内に入れ」と、同頁7行目の「甲15培養実験では」を「甲15培地実験は」 14 と、同頁上表の最終行の左欄の「室温」を「Gインキュベーター内」とそれぞれ改める。
(9) 原判決33頁16行目の「乙12実験で用いた黄色ブドウ球菌を枯草菌で」を「乙12実験と同様の実験を、枯草菌を用いて」と改める。
(10) 原判決34頁2行目の「ラップした」を「ラップ包装した」と改め、同頁3行目の「アルミホイルで」の次に「包んで」を挿入し、同頁7行目の「豚肉)を」を「豚肉)から」と、同頁9行目及び10行目の「培養」を「検査」とそれぞれ改め、
同頁11行目の「培地」の次に「による」を挿入し、同頁14行目の「総細菌用」を「総細菌数用」と改める。
(11) 原判決35頁7行目の「前記2(1)」を「訂正の上引用した前提事実(4)及び前記(1)ア」と、同頁10行目の「乙12ないし乙15の各実験」 「乙12実験等」 をとそれぞれ改める。
(12) 原判決36頁20行目の「実験等」を「実験」と改める。
(13) 原判決37頁19行目冒頭の「3」を「4」と改め、同頁20行目の「あるか」の次に「どうか」を挿入し、同頁21行目の「前記2」を「前記3」と、同頁24行目の「乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無」 「本件特許に を乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の無効理由があるかどうか」とそれぞれ改める。
(14) 原判決38頁20行目の「記載場所を指す。」の次に「なお、頁数は乙36公報記載の頁数によらずに、1枚目を1頁などと記す。」を挿入し、40頁25行目の「18行目」を「17行目」と、同行目の「添付図面2」を「添付図面第2図」とそれぞれ改める。
(15) 原判決43頁12行目の「蛍光灯」を「ランプ」と、同頁21〜22行目の「本件特許は、乙36発明と構成が同じであって新規性が欠如しており」を、
「本件発明は、乙36発明と構成が同じであって新規性が欠如しているから、本件特許は」と、同頁24行目の「特許法123条1項2号104条の3第1項」を「特許法1 15 04条の3第1項123条1項2号」とそれぞれ改める。
2 当審における当事者の主張に対する判断 (1) 争点1(本件製品の使用方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうか)について ア 控訴人は、当審において本件レポート(甲49)を提出し、?本件製品においては冷蔵室の扉を閉めてから13秒経過後も微弱な光が出ている、?本件製品の白色LED(LED@、同A及び同B並びに同Dのうち白色LED)についても強い青色光を照射している、と主張するとともに、本件特許出願後に公表された文献(甲51〜58、62、63)に基づいて、?微生物の生長抑制の効果は、青色LED光の積算照射量によって決まる、?青色LED光は低温下においても、また、照射強度にかかわらず、微生物の生長抑制効果があることなどから、本件製品における青色光照射は微生物の生長抑制効果を有すると主張し、さらに、?本件製品の庫内灯の挙動が取扱説明書の記載と異なるから、製品としての信頼性がない、?乙12実験等は信用性がないが、控訴人が公証人立会の下で実施した実験(甲15)は信用性が高いと主張する。
イ(ア) そこで検討するに、本件レポートによると、本件製品の冷蔵室の扉を閉めた後、LEDCのみが約0.5秒、LED@のみが約3秒、LEDAのみが約3秒、
LEDBのみが約3秒点灯した後、約0.5秒間全て消灯し、LEDCのみが約3秒点灯した後、全て消灯するという挙動をしたことが認められ、これによると、本件製品の冷蔵室内においては、扉を閉めた後13秒間のうち12.5秒間はLED@〜CのうちいずれかのLEDが点灯しているということになる。また、本件レポートにおいて測定された冷蔵室内の放射照度は下表のとおりであった。
16 表1 SR-LEDW による扉閉時における各照明点灯時の放射照度測定結果 No 冷蔵庫 積分時間 放射照度 変動係数 点灯状態 [ms] [mW/m2] [%] 1 扉開 全点灯 100 310.65 0.16 2 左側面青色 LED 100 2.34 4.89 3 天井庫内灯 100 7.11 1.05 4 左側面庫内灯 100 7.15 0.35 5 右側面庫内灯 100 4.61 0.14 6 左側面青色 LED 100 2.20 0.68 7 消灯 100 0.15 12.72 8 消灯 120,000 0.01 90.47 (イ) 控訴人は、扉を閉めた後約13秒経過した後も微弱な光が出ていると主張するが、本件レポートによると、同時点において観測された庫内の放射照度は0.01W/m2 であり(上表のNo.8)、これを、本件明細書で用いられている光強度である光量子束密度(単位は μE/m2/s)に、次の式を用いて、光の波長をパーシャル室内の光の波長のピーク469nm であるものとして換算すると(乙9参照)、0.000039(μE/m2/s)となる。
光量子束密度(μE/m2/s)=放射照度(W/m2=J/m2/s)÷120×光の波長(nm) =0.01×10-3(W/m2)÷120×469(nm) ≒0.000039(μE/m2/s) そして、本件製品の電源をオフにした場合でも、測定機器がノイズを拾う、又は測定機器内部でノイズが発生することにより測定数値がゼロにならない場合があるところ(乙39・8・9・11頁) 上記光量子束密度の値が極小であることからして、

測定器等のノイズを超えた有意な強度の光の照射がされているものと認めることはできない。仮にノイズではないとしても、本件明細書には、実施例3として、27℃ 17 で、30μE/m2/s の青色光LEDを1週間照射したときに、暗黒下と比べて細菌の増殖が僅かに抑制される傾向が観察されたとの記載があるところ(本件明細書の段落【0024】、0.000039μE/m2/s は、僅かな抑制効果を得ることができた )とされる光強度である30μE/m2/s と比べて余りにも小さな値であり、これをもって微生物の生長を抑制する効果があると認めることはできない。控訴人は、青色LED光が光の照射強度にかかわらず微生物の生長を阻害するなどとも主張するが、
上記のような極めて弱い光であっても微生物の生長を阻害することを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) そして、仮に控訴人の主張するとおり積算照射量が重要であるとしても、本件製品の冷蔵室内の光強度は、扉を開けて全てのLEDが点灯している状態であっても310.65mW/m2(前頁表No.1。なお、白色LEDによる照射も含む。)であり、これは上記と同様に光量子束密度に換算すると、約1.21μE/m2/s であるから、僅かな抑制効果を得ることができたとされる光強度である30μE/m2/s の約25分の1にすぎず、さらに、本件製品は扉を閉めて全て消灯している時間がほとんどであることに照らすと、本件製品におけるLED@〜Cの照射により微生物の生長抑制効果が生じているとはおよそ考え難い。
(エ) 次に、本件レポートによるとパーシャル室内の照射強度は下表のとおりであった。
表2 IM-1000 による扉開時におけるパーシャル庫内の放射照度測定結果 No パーシャル 積分時間 放射照度 変動係数 点灯状態 [ms] [mW/m2] [%] 9 白色 245 1943.1 0.17 10 水色 169 1645.2 0.33 11 青色 140 1406.5 0.34 そして、本件レポートによると、青色に点灯しているときに最も400〜490 18 nm の光波長領域の光の強度が強いことが認められるので、パーシャル室内のLEDDが青色に点灯している場合の放射照度(1406.5mW/m2)を用いて検討するに、
これを上記と同様に光量子束密度に換算すると、約5.50μE/m2/s であるから、
僅かな抑制効果を得ることができたとされる光強度である30μE/m2/s の約6分の1にすぎず、さらに、本件製品のパーシャル室のLEDは扉を開けている間のみ点灯しており、本件製品の通常の使用方法においては扉を閉めて全て消灯している時間がほとんどであることに照らすと、本件製品におけるLEDDの照射によっても微生物の生長抑制効果が生じているとは考え難い。
(オ) さらに、甲51(「Antimicrobial blue light inactivation of pathogenicmicrobes: state of the art」と題する論文。平成29年)の「表1 浮遊性微生物の抗菌青色光による不活性化のまとめ」及び「表2 バイオフィルム内の微生物の抗菌青色光による不活性化のまとめ」に記載されている黄色ブドウ球菌又は枯草菌を不活性化させたとされる青色光で最も放射露光(J/cm2)が小さいものが、28.5J/cm2 であることから、この値と、本件製品における積算照射量を比較すると、本件レポートによるとパーシャル室内のLEDが青色に点灯している場合の放射照度は1406.5mW/m2 であり、J(ジュール)=W(ワット)×s(秒) (すなわち W=J/s)の関係にあるから、1406.5mW/m2=1.4065×10-4J/s/cm2 であるので、積算照射量が28.5J/cm2 となるまでに、約56時間17分を要することとなり、パーシャル室内にLEDが点灯するのは扉を開けている間のみであることからすると、本件製品を使用することによって、その内部に保管される食品等に対し、
上記積算照射量が照射されることが通常であるとはおよそ考えられない(なお、積算照射量に係る控訴人の計算には、誤りがあるというほかない。。
) 加えて、甲51に記載された青色光による不活性化の実験の条件はいずれも不明であるものの、不活性化の実験をするに当たっては、微生物の生育に適した温度を用いることが通常と考えられるから、その条件が、本件製品のパーシャル室内と同等の温度であったと推認することはできない。そうすると、甲51を考慮しても、本件製品における青色 19 光の照射によって、微生物の生長抑制効果が生じていると認めることはできない。
(カ) そうすると、前記ア?〜?の控訴人の主張を踏まえても、本件製品が微生物の生長を抑制する効果を有すると認めることはできない。
ウ 控訴人は、本件製品の庫内灯の挙動が取扱説明書の記載と異なると主張するが(前記アの?)、本件製品の使用方法が本件発明の技術的範囲に含まれるかを検討するに当たっては、本件製品の現実の挙動のみが問題となるから、上記主張は本争点に係る判断を左右しない。
エ 控訴人は、乙12実験等は信用性がないが、控訴人が公証人立会の下で実施した実験(甲15)は信用性が高いと主張し(前記アの?)、特に、乙12実験等では寒天培地が凍結したが、控訴人の行った実験では、パーシャル室内にコピー用紙を置くことで凍結を防止したと指摘するところ、パーシャル室内にコピー用紙を置くことは本件製品の通常の使用方法であるとはいえないから、上記控訴人の採用した実験方法が、本件製品における光照射の効果を判定するに当たり、適切な条件であったということはできない。
また、控訴人は低温下でも青色照射光が微生物の生長を抑制する旨主張するが、
証拠(甲62、63)をみても、
「光による微生物の生長阻害効果が4℃から15℃の低温で、わずかに酸性条件下で最も強力であることを発見した。(甲62の2) 」 、
青色LEDについて「殺菌作用は7および16℃で観察され、増殖阻害は25℃ で観察された。(甲63の2)との記載があるのみであって、パーシャル室内の温度 」(乙12実験等ではパーシャル「中」設定であるから、仕様上は約-3〜-1℃であり、控訴人の主張によるとパーシャル室の底部の金属板周辺は約-4.6℃である。)における微生物の生長抑制効果があることを裏付けるものではない。
そして、乙12実験等が行われた条件に照らし、乙12実験等の結果が信用できないというべき点はない。
そうすると、控訴人の上記主張も採用できない。
オ 以上のとおり、本件製品の使用方法において、青色光の照射により微生物の 20 生長を抑制していると認めることはできない。
(2) 争点3-7(本件特許に乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の無効理由があるかどうか)についてア 控訴人は、乙36発明で用いられている光源-2について、紫外線カットフィルムNo.1を用いるべきであったのに用いられていないから、光源-2による微生物の生長抑制効果は、紫外線の影響であると主張する。
そこで検討するに、乙36公報の第1図及び第2図は次のとおりである。
21 上記第1図によると、紫外線カットフィルムNo.1は、おおむね400nm 以上の波長の光を透過するものであることが認められる。そして、上記第2図によると、
光源-2は、おおむね400〜600nm の波長域の光を照射するものであり、その中でも400〜500nm の波長域の光が強く、特におよそ440nm の光を強く照射するものであると認められる。そうすると、仮に、光源-2に紫外線カットフィルムNo.1を使用したとしても、光源-2の発する光の波長帯域に対して有意な影響を与えたと認めることはできない。なお、乙36公報には、
「本発明における「近紫外線」とは、300nm から400nm、好ましくは、340nm から400nm 更に好ましくは、360nm から400nm の波長域に含まれる光線を意味する。 との記載 」 (2頁下段左欄10行目〜同13行目)があるところ、光源-2が乙36公報のいう「近紫外線」をほとんど発していないことは上記第2図から明らかである。そうすると、
乙36公報における光源-2による微生物の生長抑制効果が紫外線によるものであ 22 るとの控訴人の主張は採用できない。
イ 控訴人は、光源-2による微生物(枯草菌(バシルスサブチリス))の生長抑制効果は、どの波長域の光の効果であるか不明であり、乙36公報に接した当業者が、400〜500nm の範囲の青色光が枯草菌の繁殖を抑制すると理解することはないと主張する。
しかしながら、前記アのとおり、光源-2は、おおむね400〜600nm の波長域の光を照射するものであり、その中でも400〜500nm の波長域の光が強く、
特におよそ440nm の光を強く照射するものである。そして、乙36公報の表-7(下表)によると、光源-3を用いた比較例-19では、光源-2を用いた実施例-11に比べて、微生物の生長抑制効果が大きくみられないことからすると、乙36公報に接した当業者は、光源-2による微生物(枯草菌)の生長抑制効果は、400〜500nm の波長域の光によるものであると理解すると認めるのが相当であり、上記控訴人の主張は採用できない。
なお、控訴人は、実施例-11と比較例-19を比較するのであれば、双方に紫外線カットフィルムNo.1を用いるべきであったにもかかわらず、紫外線カットフィルムNo.1が、光源-3(比較例-19)では用いられているのに対し、光源-2(実施例-11)では用いられておらず、実施例-11の微生物増殖抑制効果は、
紫外線カットフィルムNo.1を用いなかったことによる紫外線の影響であるとも主張する。しかし、紫外線は可視光線よりも波長が短いものであるところ、乙36公 23 報の第1図によると、紫外線カットフィルムNo.1は、おおむね400nm 以下の波長域の光をカットし、400nm 以上の波長域の光のほとんどを透過させるものであること、乙36公報の第2図によると、光源-3の波長域はおおむね500nm 以上であることが認められ、そもそも光源-3の光からは400nm 以下の波長域の光が発せられていないのであるから、紫外線カットフィルムNo.1により光源-3の光から紫外線を含む400nm 以下の波長域の光がカットされたということはできず、実施例-11と比較例-19との対照において、紫外線カットフィルムNo.1の使用の有無によって紫外線の影響の有無があったと推認することはできない。そうすると、控訴人の主張は採用できない。
ウ したがって、乙36公報に接した当業者は、400〜500nm の波長域の光を照射することにより、微生物(枯草菌)の生長が抑制されると理解するものと認められる。
(3) 以上のとおり、控訴人の当審における主張はいずれも採用できず、原判決が認定したとおり、本件発明は乙36公報に実質的に記載された発明であり、本件特許には新規性欠如の無効理由があると認めるのが相当である。
結論
以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成