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関連審決 不服2019-13774
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事件 令和 3年 (行ケ) 10086号 審決取消請求事件
5
原告X
同訴訟代理人弁理士 間瀬武志
同 下出隆史 10 被告特許庁長官
同 指定代理人福井悟
同 森井隆信
同 川合理恵
同 小暮道明 15 同山田啓之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/09/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
20 第1 請求 特許庁が不服2019-13774号事件について令和3年6月2日にし た審決を取り消す。
第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等25 ? 原告は、平成28年10月11日、発明の名称を「受精判定システム」と する発明について、特許出願をした(特願2016-199618号。以下 1 「本件出願」といい、本件出願に係る明細書(図面も含む。)を「本願明細書 等」という。 。
) (甲11) ? 原告は、令和元年7月8日付けで拒絶査定を受けたため、同年10月16 日、拒絶査定不服審判(不服2019-13774号事件)を請求した。
5 ? 原告は、令和2年12月17日付けで拒絶理由通知書の送付を受けたため、
令和3年2月22日、特許請求の範囲を補正する旨の意見書及び手続補正書 を提出した(補正後の請求項の数6。以下「本件補正」という。 。
)(甲8ない し10) ? 特許庁は、令和3年6月2日、本件補正を認めた上で、本件審判の請求は、
「10 成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、
同月22日、原告に送達された。
? 原告は、令和3年7月22日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起 した。
2 特許請求の範囲の記載15 本件補正後の請求項1に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(甲 9)。
A 「受精判定システムであって、
B 受精処理された卵を培養するウェルを複数備えた培養部と、
C 前記培養部によって培養されている前記卵の状態を、培養開始後24時20 間までに、設定された時間間隔で撮影して前記卵についての複数の画像を 取得する画像取得部と、
D 前記卵の培養中に、前記複数の画像に写った前記卵の状態を解析するこ とによって前記卵が受精しているか判定する判定部と、
を備え、
25 前記判定部は、
d1 教師あり学習によって画像に写った卵の前核の数について学習してお 2 り、
d2 前記各ウェルで培養されている卵について前記取得された複数の画像 のそれぞれを、前記学習に基づいて解析して、各画像における前核の数 を判定し、
5 d3 前記24時間の間に取得された前記複数の画像における前記卵の前記 前核の数の経時的な変化を解析して、前記ウェルで培養されている卵に ついての前記複数の画像に、前記前核の数の差を認識できる2枚の画像 が含まれており、前記2枚の画像の一方が前記卵における前核の数が0 の画像であり、前記2枚の画像の他方が前記卵における前核の数が2で10 ある画像である場合、前記卵が正常に受精していると判定し、
d4 前記判定部は、前記判定を、前記複数のウェルで培養されている全ての 卵について行なう、
受精判定システム。」 (便宜のため、各構成要件に符号を付した。以下、各構成要件について「構15 成要件A」等ということがあり、また、構成要件d1ないしd4について「処 理d1」等ということがある。) 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、要するに、
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、
20 甲1の文献(Xら著「生殖医療における Time Lapse Imaging System の現状 と臨床的有用性」(Journal of Mammalian Ova Research, 2014, Vol.31, No.4, pp.107-114) 以下「甲1文献」 。 という。)に記載された発明(以下「引 用発明」という。)に加え、甲1文献及び甲2の1の国際公開特許公報(国 際公開第2016/050964号。対応する国内出願に係る公開特許公報25 は甲2の2(特表2017-529844号)。以下、これらを区別せずに 「甲2公報」という。)に記載された技術的事項並びに以下の甲3ないし甲 3 6に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができ たものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができな いものであるから、本件出願は拒絶すべきである、というものである。
甲3:特表2016-509845号(以下「甲3公報」という。) 5 甲4:国際公開第2011/021391号(以下「甲4公報」という。) 甲5:特表2000-513465号(以下「甲5公報」という。) 甲6:Olaf Ronnebetger ら著「U-net: Convolutional Networks for Biomedical Image Segmentation」(Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention - MICCAI, 2015, pp.234-241)10 (以下「甲6文献」という。) (以下、これらの公報及び文献を併せて「甲3公報等」と総称する。) ? 本件審決が認定した引用発明は、次のとおりである。
「受精後の胚を培養する培養部と、
前記培養部によって培養されている前記胚の状態を、胚の受精後から2415 時間までに1時間間隔で撮影して、前記胚についての複数の画像を取得する 画像取得部と、
を備える、受精後の胚の連続観察・連続培養を実現するシステムを用いて、
当該システムによって胚の受精後から24時間までに1時間間隔で取得 された複数の画像を解析することで、受精後から24時間までの間に前核が20 2つ出現し、消失したことが確認された場合には、その受精後の胚が正常に 受精していると判断する、
方法。」 ? 本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のと おりである。
25 ア 一致点 「受精処理された卵を培養する培養部と、
4 前記培養部によって培養されている前記卵の状態を、培養開始後24時 間までに、設定された時間間隔で撮影して前記卵についての複数の画像を 取得する画像取得部と、
を備えたシステムを用いて、
5 前記複数の画像に写った前記卵の状態を解析することによって前記卵 が受精しているか判定する方法であって、
前記判定は、
前記24時間の間に取得された前記複数の画像における前記卵の前記 前核の数の経時的な変化を解析して、前記培養されている卵についての前10 記複数の画像に、前記前核の数の差を認識できる2枚の画像が含まれてお り、前記2枚の画像の一方が前記卵における前核の数が0の画像であり、
前記2枚の画像の他方が前記卵における前核の数が2である画像である 場合、前記卵が正常に受精していると判定する、
方法。」15 イ 相違点 (ア) 相違点1 「本願発明は、培養部と画像取得部に加え、さらに『判定部』を備え たシステムを提供するものであり、そして、卵が受精しているかの判定 は、本願発明では、前記判定部が行っており、前記判定部は、教師あり20 学習によって画像に写った卵の前核の数について学習しており、培養さ れている卵について取得された複数の画像のそれぞれを、前記学習に基 づいて解析して、各画像における前核の数を判定するのに対して、引用 発明では、システムは判定部を備えておらず、培養されている卵につい て取得された複数の画像における前核の数をヒトが確認して、卵が受精25 しているかの判定をヒトが行っている点。」 (イ) 相違点2 5 「卵が受精しているかの判定について、本願発明では『卵の培養中に』 行うことが特定されているのに対して、引用発明では特定されていない 点。」 (ウ) 相違点3 5 「本願発明では、培養部は『ウェルを複数備えた』ものであり、そし て、卵の受精判定は『複数のウェルで培養されている全ての卵について 行う』のに対して、引用発明ではそれらの特定がなされていない点。」 4 原告の主張する取消事由 ? 取消事由110 引用発明の認定の誤り ? 取消事由2 本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り ? 取消事由3 各相違点に係る容易想到性に関する判断の誤り15 第3 当事者の主張 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について 〔原告の主張〕 ? 甲1文献には、「Time Lapse Imaging System」を用いて、所定の時間間隔 で撮像された多数の画像を事後的に解析して胚の状態の経時的変化を観察し20 たことは記載されているが、培養中の胚の状態をリアルタイムで観察するこ とは記載されていない。また、甲1文献の目的は、「Time Lapse Imaging System」を不妊治療に直接用いる手法を研究又は報告するものではなく、同 システムを用いて得られたデータを整理し、不妊治療に応用したことを報告 するところにある。
25 このように、甲1文献においては、胚の培養中に一つの胚の形成過程をリ アルタイムで観察し続け、前核の出現及び消失を確認することが開示されて 6 いるものではなく、胚の画像を事後的に解析して不妊治療における受精判定 の望ましい時間幅を明らかにしようとしたことが開示されているにとどまる。
本件審決における引用発明の認定は、甲1文献の記載に基づくものではな く、本願発明に当てはめて甲1文献を読み取ったものにすぎないから誤りで 5 あり、かかる誤った認定に基づいてされた進歩性判断にも誤りがある。
? 本件出願当時の当業者が有していた技術常識は、不妊治療における前核の 確認については、医師又は胚培養士が顕微鏡下における観察によって判定す るというものである。そうすると、当業者は、甲1文献について、培養中に 画像に基づいて受精判定すると読み取ることはなく、前記観察における受精10 判定の精度を高めるために、処置卵や胚の時間的変化を「Time Lapse Imaging System」を利用して研究し、前核数を判定する望ましい時間範囲を特定した 研究であると読み取るものである。
? 以上によれば、引用発明は、次のとおり認定すべきである。
「『受精後の胚を培養する培養部と、
15 前記培養部によって培養されている前記胚の状態を、胚の受精後から24 時間までに1時間間隔で撮影して、前記胚についての複数の画像を取得する 画像取得部と、
を備える、』胚培養装置」 〔被告の主張〕20 ? 当業者がある技術文献に接した際には、当該技術文献の記載から、それを 執筆した者の執筆の意図や目的を読み取るだけにとどまらず、当業者が有し ている技術常識を踏まえて、当該技術文献の執筆者の意図や目的に縛られる ことなく、当該技術文献に記載された様々な技術的事項(発明)を読み取る ことができる。
25 ? そして、甲1文献の記載に加え、正常に受精した胚においては前核の数に ついて「0→2→0」という経時変化が確認されるという技術常識を踏まえ 7 れば、当業者は、甲1文献には、「Time Lapse Imaging-Incubator System」 を用いた、正常受精胚の救済を可能にする、
「胚の受精後から24時間までに 1時間間隔で取得された複数の画像を解析することで、受精後から24時間 までの間に前核が2つ出現し、消失したことが確認された場合には、その受 5 精後の胚が正常に受精していると判断する」という「方法」についても記載 されていると理解する。
? したがって、本件審決における引用発明の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)につ いて10 〔原告の主張〕 ? 前記1で主張したとおり、甲1文献には、培養中の処理卵の画像を連続的 に観察し、前核の数の経時的な変化を解析することにより、卵が正常に受精 していることを判定することについては何ら記載されておらず、「複数の画 像に写った卵の状態を解析することによって卵が受精しているかを判定する15 方法」について何ら開示されていない。
したがって、本件審決における一致点の認定には誤りがあり、次のとおり 一致点を認定すべきである。
「受精後の胚を培養する培養部と、
前記培養部によって培養されている前記胚の状態を、胚の受精後から2420 時間までに1時間間隔で撮影して、前記胚についての複数の画像を取得する 画像取得部と、
を備える、胚培養装置」 ? 甲1文献には、本件審決が相違点1において挙げる「培養されている卵に ついて取得された複数の画像における前核の数をヒトが確認して、卵が受精25 しているかの判定をヒトが行っている」ことは開示されていない。引用発明 においては、システムは判定部を備えておらず、甲1文献は、画像取得部に 8 より取得された複数の画像を事後的にヒトが解析して、前核の出現時間と消 失時間の分布を調べ、前核を確認する望ましい時間帯を明らかにしたもので ある。
したがって、本件審決における相違点1の認定には誤りがあり、次の点を 5 相違点Aとして認定すべきである。
「本願発明では、
『判定部が、教師あり学習によって画像に写った卵の前核 の数について学習しており、前記各ウェルで培養されている卵について前記 取得された複数の画像のそれぞれを、前記学習に基づいて解析して、各画像 における前核の数を判定する』のに対して、引用発明では、培養されている10 卵について、複数の画像を解析して前核の数を判定してはいない点」 ? 本件審決における一致点の認定には誤りがあり、本願発明の処理d3に係 る次の点を相違点Bとして認定すべきである。
「本願発明では、『前記24時間の間に取得された前記複数の画像におけ る前記卵の前記前核の数の経時的な変化を解析して、前記ウェルで培養され15 ている卵についての前記複数の画像に、前記前核の数の差を認識できる2枚 の画像が含まれており、前記2枚の画像の一方が前記卵における前核の数が 0の画像であり、前記2枚の画像の他方が前記卵における前核の数が2であ る画像である場合、前記卵が正常に受精していると判定し』ているのに対し て、引用発明では、前核早期消失胚の前核の出現時間の分布と消失時間の分20 布を調べて、前核を確認する時間帯を特定してはいても、前核の数の経時的 な変化を解析しておらず、受精の判定もしていない点」 ? 相違点2及び3は、本件審決が認定したとおりである。
〔被告の主張〕 ? 前記1〔被告の主張〕で主張したとおり、原告が相違点とすべきであると25 主張する事項は、いずれも甲1文献に記載されており、引用発明として認定 されるものである。また、技術常識を踏まえると、甲1文献には、受精後の 9 胚の経時的な観察により受精を判定しようとする発想が記載されているもの といえる。
したがって、本件審決における一致点の認定に誤りはなく、また、原告が 主張する相違点A及びBのような相違点は存在しない。
5 ? 当業者は、甲1文献の記載及び技術常識を踏まえて、甲1文献には、画像 取得部により取得された複数の画像を事後的にヒトが解析して、前核の出現 時間と消失時間の分布を調べ、前核を確認する望ましい時間帯を明らかにし たことだけでなく、「培養されている卵について取得された複数の画像にお ける前核の数をヒトが確認して、卵が受精しているかの判定をヒトが行って10 いる点」を含む引用発明が記載されていると読み取ることができるから、本 件審決における相違点1の認定に誤りはない。
3 取消事由3(各相違点に係る容易想到性に関する判断の誤り)について 〔原告の主張〕 ? 甲1文献及び甲2公報における開示等15 以下のとおり、甲1文献及び甲2公報は、いずれも本願発明における「判 定部」構成要件D) ( の処理d1ないしd4を開示しているものではないから、
甲1文献及び甲2公報を組み合わせても、本願発明の構成は得られない。ま た、甲1文献及び甲2公報に記載されている技術的事項に基づいて、培養さ れている卵について取得された複数の画像のそれぞれを解析して、各画像に20 おける前核の数を判定する「判定部」を加えた受精判定システムを導くこと はできない。
ア 相違点1、A及びBについて (ア) 前記2で主張したとおり、甲1文献には、相違点Aに係る本願発明の 構成(処理d1及びd2)は開示されていない。また、甲1文献には、
25 培養している受精処置下卵の画像を取得しておき、事後的にこれを解析 して、前核早期消失胚における前核の出現時間の分布を調べ、前核確認 10 時間帯を11ないし19時間後とすることで、前核早期消失胚の前核を 確認できるようにすることが開示されているものの、受精処置された特 定の卵の媒精後24時間以内の画像の変化を解析したということは記 載されておらず、相違点Bに係る本願発明の構成(処理d3)は開示さ 5 れていない。
(イ) 本件審決は、相違点1に係る容易想到性の判断において、本願発明に おける処理d3の判定につき、引用発明においてはヒトが行っていると いう誤った前提の下に、また、コンピュータ等を用いた手法の存在に関 して甲2公報を挙げた上で、引用発明におけるヒトによる受精判定をコ10 ンピュータによる機械学習等を用いた構成に置き換えることは当業者 の常とう手段であると判断した。
しかしながら、そもそも、甲1文献には処理d3の判定は記載されて おらず、かかる置換えは原理的にできない。また、甲2公報に記載され ているのは、胚の評価を行う装置であり、本願発明における処理d3の15 判定は開示されていない。
イ 相違点2について 本件審決は、相違点2につき、当業者が甲1文献に基づいて当然に行う ことと判断した。
しかしながら、引用発明は、培養が終わった後に行われた事後的な画像20 解析を前提とする発明であり、受精処置された卵の培養中に受精判定を行 っていないから、このような事後的な画像解析を前提とする引用発明を改 変して、相違点2に係る本願発明の構成とする動機付けはなく、当業者が 当然に行うこととはいえない。
ウ 相違点3について25 本件審決は、相違点3に係る本願発明の構成について、当業者が適宜設 計し得たものにすぎないと判断した。
11 しかしながら、本願発明以前における不妊治療としての受精判定は、受 精処置後の所定の時間幅の中で、顕微鏡観察により前核の消滅をヒトが確 認することにより行われていたものであり、甲1文献の執筆時においては、
複数のウェルで培養されている全ての卵について、培養中に得られる画像 5 から受精判定することはできないと理解されていた。そして、本願発明は、
構成要件AないしD、特に判定部における処理d1ないしd3を組み合わ せることによって、
「判定を、前記複数のウェルで培養されている全ての卵 について行う」という処理d4を実現し、上記課題を解決しているもので あるから、当業者が適宜設定し得たものにすぎないとはいえない。
10 ? 周知技術(甲3公報等)の適用について 以下のとおり、甲1文献及び甲2公報と甲3公報等に示された周知技術と を組み合わせて本願発明の進歩性を否定することはできない。
ア 甲1文献が開示された時点や本件出願時において、培養中の卵の画像に 基づく判定は、不妊治療における技術としては存在していなかったから、
15 本願発明について、引用発明においてヒトが行っていた処理を、単にコン ピュータが行う機械学習に基づく処理に置き換えたものにすぎないとい うことはできない。
イ 主引用発明及び副引用発明を組み合わせたものに適用することが可能な 周知技術は、特許発明が解決しようとする課題を解決することを直接的な20 目的とする技術に限られるところ、甲3公報等が、いずれも機械学習等を 用いることが周知技術であることを示すとしても、受精処置後24時間以 内に進行する前核の出現及び消失を伴う受精という現象を、受精処置され た卵の画像から機械学習等によって特定した前核の数を用いて判定する 技術までもが周知技術であることを示すものとはいえない。
25 ? その他の事情 以下の各事情を考慮すれば、本件出願時における当業者は、本願発明を容 12 易に想到し得たものとはいえない。
ア 甲1文献が公知となってから本件出願がされるまでの約2年間において、
前核数の変化を画像から読み取って受精を判定することを、コンピュータ が行う機械学習に基づく処理に置き換えるという発明はされなかった。
5 イ 甲12ないし甲16の文献等によれば、卵に対して小さな前核の数を正 確に認識することは、本件出願時における当業者にとっては高いハードル であり、これを解決する本願発明の構成を、甲1文献、甲2公報及び甲3 公報等から容易に想到することができたというのは、単なる机上の空論で ある。
10 ウ 機械学習による前核数の自動認識技術を内容とする平成29年11月1 5日の原告による学会発表及び令和元年11月10日に受け付けられた 原告執筆の論文は、生殖医療の研究として高い評価を受けた(甲17ない し19)。
〔被告の主張〕15 ? 相違点1、A及びBについて ア 前記2〔被告の主張〕?で主張したとおり、甲1文献には、
「培養されて いる卵について取得された複数の画像における前核の数をヒトが確認し て、卵が受精しているかの判定をヒトが行っている点」についても記載さ れていると理解されるから、本件審決がこれを前提としたことに誤りはな20 く、また、そのようなヒトによる判定をコンピュータによる機械学習へと 置き換えることは、当業者が容易になし得たことというべきである。
イ 前記1〔被告の主張〕で主張した技術常識及び甲2公報の記載内容を踏 まえると、甲2公報においては、処理d3の構成が開示されているものと いえるから、仮に、原告が主張するような相違点Bが存在するとしても、
25 甲2公報には相違点Bに係る構成が開示されているといえる。
ウ 仮に、原告が主張するような相違点Aや相違点Bが存在するとしても、
13 本件審決における相違点1についての容易想到性の判断と同様に、当業者 が容易に想到し得たものといえる。
? 相違点2について 甲1文献には、Imaging 機器のない胚培養装置で培養されている胚ではな 5 く、臨床において「Time Lapse Imaging-Incubator System」を用いて、媒精 後からの Imaging を行って前核の形成過程を確実に捉えることができた胚に ついて、受精しているかどうかを間違いなく判断できると記載されているこ とからすれば、相違点2について、甲2公報に記載された技術的事項を踏ま えて本願発明に至るように改変する動機付けは十分に存在するものといえる。
10 ? 相違点3について ア 本願発明においては、システムにおける培養部のウェルの数や当該ウェ ルで培養されている全ての卵(胚)の数については何ら特定されていない。
そして、例えば2個の胚について、胚の培養中に取り違えることなく区別 し、画像に含まれる前核の数の経時的な変化を確認することで、正常な受15 精であったか否かの判断をヒトが行うことは十分に可能である。そうする と、直ちに、甲1文献の執筆時において、ヒトが多数の画像を扱うことが 現実的ではなかったなどということはできない。
イ コンピュータ等によって自動化された機械やシステムを導入すれば、ヒ トでは行い得ないような作業量をこなせるようになることは、周知の事項20 である。
? 周知技術の適用について 受精後の胚における2前核の出現及び消失は、細胞である胚の形態学的な 特徴の一つであるところ、ヒトが画像を用いて行う2前核の有無の確認が、
細胞の形状等の他の形態学的特徴の確認と、殊更にその手法が異なるという25 ものではない。そうすると、甲3公報等から認定される細胞の形態学的特徴 についての画像を用いた教師あり学習による機械学習に基づいて判定を行う 14 手法は、技術的に妥当なものであり、本件審決で示した周知技術の適用につ いての論理付けの手法に誤りはない。
? その他の事情について ア 〔原告の主張〕?イの主張に対し 5 本願発明の内容及び本願明細書等の記載によれば、本願発明の受精判定 システムにおける「判定部」が受精の判定を行うための機械学習は、本件 出願時における既存の機械学習を格別な改良等を行うことなく適用する ことを前提にしていると当然に理解される。したがって、原告の主張は、
本願発明の特許請求の範囲及び本願明細書等のいずれの記載にも基づか10 ないものである。
イ 同ウの主張に対し 甲18の文献に記載されている「前核自動判定システム」は、前核数決 定の際に前核周囲の輪郭を観察する人間の観察を明示的に取り入れ、限ら れた教師データで効率的な機械学習ができるという、新たに開発された特15 定のアルゴリズムを備えるものである。このように、上記「前核自動判定 システム」には、本願発明の受精判定システムとは技術的に大きく異なる ものが含まれており、この点も含めて学会において評価されたものという べきであるから、本願発明が独創性の高い発明であるとの主張の根拠には ならない。
20 第4 当裁判所の判断 1 本願発明について ? 特許請求の範囲 本願発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりである。
? 本願明細書等の記載25 本願明細書等には、次のとおりの記載がある(甲11)。
ア 技術分野 15 「本発明は、受精判定システムに関する。 (段落【0001】 」 ) イ 背景技術 「不妊治療分野において、受胎率の向上および患者のQOLの観点から、
培養中の胚を評価することによって、胚を選別することが行われている。
5 胚を非侵襲的に評価する方法として、顕微鏡による形態観察から胚の発育 状況を評価する方法がある。 (段落【0002】 」 ) ウ 発明が解決しようとする課題 「特許文献1(判決注:特開2012-29686号公報)の胚選別シ ステムでは、胚の形態および酸素消費量などを指標として、胚を選別して10 いる。しかし、胚形成の前提となる受精を確認するシステムについては、
これまでに十分に考慮されていなかった。また、媒精等の受精処理をされ た卵が正常に受精しているかを、これまでは検体である卵を人間がひとつ ひとつ目で確認していたことから、確認できる検体の数には限界があった。
このような課題を解決するために、受精処理をされた卵が受精しているか15 確認するシステムの構築および人間が確認するよりも多くの検体におけ る受精の確認を可能とする技術が望まれていた。 (段落【0004】 」 ) エ 課題を解決するための手段 「本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたも のであり、以下の形態として実現することが可能である。 (段落【000 」20 5】) 「(1)本発明の一形態によれば、受精判定システムが提供される。この 受精判定システムは、受精処理された卵を培養する培養部と、前記培養部 によって培養されている前記卵の状態を、設定された時間間隔で撮影して 複数の画像を取得する画像取得部と、前記画像に写った前記卵の状態を解25 析することによって前記卵が受精しているか判定する判定部と、を備える。
このような態様とすれば、受精処理された卵の状態が撮影された画像の解 16 析に基づいて、卵が受精しているか判定部が判定できる。このため、受精 処理をされた卵が受精しているか確認できるシステムが提供される。また、
検体である卵が機械的に解析されることから、人間が確認するよりも多く の検体を確認できる。また、判定部によって受精しているかが判定される 5 ため、人間が目で確認することに比べて、判定の煩雑さを低減できる。」 (段 落【0006】) 「(2)上記形態における受精判定システムにおいて、前記判定部は、異 なる時間に取得された少なくとも2枚の前記画像における前記卵の経時 的な変化を解析することによって前記卵が受精しているか判定してもよ10 い。このような態様とすれば、少なくとも2枚の画像を解析することによ って、卵の経時的な変化を解析できる。このため、卵の経時的な変化に基 づいて卵が受精しているか判定できる。 (段落【0007】 」 ) 「(3)上記形態における受精判定システムにおいて、前記判定部は、教 師あり学習によって前記画像に写った前記卵の特徴について学習し、前記15 学習に基づいて前記卵が受精しているか判定してもよい。このような態様 とすれば、判定部が教師あり学習によって学習した基準に基づいて、卵が 受精しているか判定できる。 (段落【0008】 」 ) 「本発明は、受精判定システム以外の種々の形態で実現することも可能 である。例えば、本発明は、受精判定装置の形態で実現することができる。
20 また、本発明は、前述の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣 旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論であ る。 (段落【0013】 」 ) オ 発明を実施するための形態 「A.第1実施形態:25 図1(判決注:別紙本願明細書等図面目録記載のとおりである。)は、第 1実施形態における受精判定システム10の構成を示す説明図である。受 17 精判定システム10は、受精処理されたヒトの卵が受精しているかを判定 するシステムである。受精処理された卵とは、精子と卵子とを共培養した コンベンショナル法もしくは顕微授精法等の受精のための処置がなされ た卵のことである。受精判定システム10は、培養部110と、画像取得 5 部130と、制御部140と、ユーザインタフェース150と、報知部1 60とを備える。 (段落【0015】 」 ) 「培養部110は、受精処理された卵を培養するいわゆるインキュベー タである。培養部110内における温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃 度および培養時間等の培養条件は、予めユーザインタフェース150を介10 してユーザーより入力された内容に基づいて、制御部140によって制御 されている。培養部110は、受精処理された卵を培養するための容器で ある培養容器200が培養部110内に固定された状態で、卵を培養す る。 (段落【0016】 」 ) 「培養容器200は、3行4列の12個のウェルを備えたウェルプレー15 トである。培養容器200の各ウェルの底にはウェル番号である1から1 2の番号が付されている。培養容器200は、各ウェルに1つの卵を入れ て培養するための容器である。 (段落【0017】 」 ) 「培養部110は、容器搬送部115を有する。容器搬送部115は、
水平方向に伸びた形状を有するとともに、培養部110における底面部分20 を構成している。容器搬送部115は、重力方向上側を向いた面上に、培 養容器200を固定するための固定部(図示しない)を有する。培養部1 10は、培養容器200が固定部に固定された状態で、卵を培養する。」 (段 落【0018】) 「容器搬送部115は、固定部に固定された培養容器200を、培養部25 110の内側に一部が突出した画像取得部130の重力方向下側の位置 に、固定部を移動させることによって搬送する。容器搬送部115は、画 18 像取得部130による画像の取得が終了すると、培養容器200を初期位 置に搬送する。図1において、培養容器200が図示されている位置が初 期位置である。 (段落【0019】 」 ) 「容器搬送部115が培養容器200を搬送する頻度(時間間隔)は、
5 予めユーザインタフェース150を介してユーザーより設定された内容 に基づいて、制御部140によって制御されている。本実施形態では、容 器搬送部115は、画像取得部130の重力方向下側の位置へ培養容器2 00を15分毎に搬送するよう制御されている。容器搬送部115は、画 像取得部130の重力方向下側の位置へ培養容器200が搬送されてか10 ら、画像取得部130から見て培養容器200の位置を縦横の2次元的に 調整することによって、画像取得部130が画像を取得できる位置に各ウ ェルを配置できる。容器搬送部115は、画像取得部130による画像の 取得が終了すると、培養容器200を初期位置に搬送する。画像取得部1 30が培養容器200における各ウェルの画像を取得する工程について15 は、後述する。 (段落【0020】 」 ) 「画像取得部130は、培養部110によって培養されている卵の状態 を設定された時間間隔で撮影して画像を取得する。本実施形態では、画像 取得部130は、容器搬送部115が培養容器200を搬送してくる度に 卵の状態を撮影することによって、培養容器200における各ウェル毎の20 複数の画像を時系列的に取得する。他の実施形態では、画像取得部130 は、制御部140から直接指示された時間間隔で撮影して画像を取得して もよい。培養容器200が有する12個のウェルのうち画像取得部130 が画像を取得するウェルの位置は、予めユーザインタフェース150を介 してユーザーより指定される。以下の説明では、ユーザーより指定された25 ウェルの位置を『指定位置』と呼ぶ。本実施形態では、画像取得部130 は、CCDカメラである。 (段落【0021】 」 ) 19 「制御部140は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコン ピュータによって構成されている。制御部140は、受精判定システム1 0の各部を制御する。また、制御部140は、予めユーザインタフェース 150を介してユーザーより入力された内容に基づいて、培養部110、
5 容器搬送部115、画像取得部130を制御する。 (段落【0022】 」 ) 「制御部140は、画像格納部142と、判定部144とを備える。」 (段 落【0023】) 「画像格納部142は、画像取得部130によって取得された画像を格 納する。画像格納部142は、取得された各ウェルの画像を判定部14410 に送る。 (段落【0024】 」 ) 「判定部144は、画像格納部142より送られてきた画像に写った卵 の状態を解析することによって卵が受精しているか判定する。本実施形態 では、判定部144は、培養部110が卵の培養を開始してから24時間 の間に15分の時間間隔で画像取得部130によって取得された各ウェ15 ルの画像を用いて、卵が受精しているか判定する。 (段落【0025】 」 ) 「本実施形態では、判定部144は、卵における前核の数を確認するこ とによって、卵が受精しているか判定する。正常に受精した卵では、一般 に受精後22時間以内に2つの前核が現れる。 (段落【0026】 」 ) 「本実施形態では、判定部144は、異なる時間に取得された2枚の画20 像を解析することによって卵が受精しているか判定する。本実施形態では、
画像取得部130によって取得された画像のうち、異なる時間に取得され た2枚の画像として、卵における前核の数の差を最も顕著に認識できる2 枚の画像を、判定部144が選択する。2枚の画像が、卵における前核の 数が確認されなかった画像1枚と卵における前核が2つ確認された画像25 1枚との2枚であった場合にのみ、判定部144は、卵が受精していると 判定する。このように、2枚の画像における卵の経時的な変化を解析でき 20 ることから、卵の経時的な変化に基づいて卵が受精しているか判定できる。
また、2枚の画像における前核の数の差を比較することによって、1枚の 画像を用いて判定するより精度良く受精を判定できる。(段落 」 【0027】) 「判定部144は、教師あり学習によって画像に写った卵の特徴につい 5 て学習し、その学習に基づいて卵が受精しているか判定する。本実施形態 では、判定部144は、画像に写った卵における前核の数の判定について 学習し、その学習に基づいて卵が受精しているか判定する。このため、判 定部144は、教師あり学習によって学習した前核の数の判定基準に基づ いて、卵が受精しているか判定できる。 (段落【0028】 」 )10 「図2、図3、図4および図5は、判定部144が教師あり学習におい て使用される画像の例を示した説明図である。図2は、受精処理された卵 において、前核が確認されなかった卵であるとラベルされた画像の例であ る。図3は、受精処理された卵において、前核が1つ確認された卵である とラベルされた画像の例である。図4は、受精処理された卵において、前15 核が2つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。図5は、受 精処理された卵において、前核が3つ確認された卵であるとラベルされた 画像の例である。受精処理された卵において、前核が確認されなかった場 合、一般に不受精卵と判断される。また、受精処理された卵において、前 核が1つもしくは3つ以上確認された場合、一般に異常受精卵であると判20 断される。 (段落【0029】 」 ) 「ユーザインタフェース150は、受精判定システム10のユーザーと の間で情報をやり取りする。本実施形態では、ユーザインタフェース15 0は、画像を表示するとともに、その画像上で利用者から指示の入力を受 け付けるタッチパネルである。他の実施形態では、ユーザインタフェース25 150は、利用者から指示の入力を受け付ける押しボタンを備えてもよ い。 (段落【0030】 」 ) 21 「報知部160は、画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する。
報知部160は、ユーザインタフェース150であるタッチパネルの画面 上において、ユーザーが判定部144による判定結果を閲覧している際に、
判定画像を報知する。このため、受精判定システム10を使用するユーザ 5 ーが、判定部144がどの画像を用いて受精を判定したかを知ることがで きる。本実施形態では、取得された各画像について取得された時間が画像 に付されていることから、ユーザーは判定画像に付された時間を確認する ことによって、卵がいつ受精したかを知ることができる。 (段落【003 」 1】)10 「また、報知部160は、判定画像において判定部144が判定の根拠 とした情報を報知する。報知部160は、ユーザインタフェース150で あるタッチパネルの画面上において、報知された判定画像をユーザーが閲 覧している際に、判定部144が判定の根拠とした情報を報知する。本実 施形態では、報知部160は、判定画像において判定部144が前核であ15 ると認識した部分についての位置情報を報知する。 (段落【0032】 」 ) 「図6(判決注:別紙本願明細書等図面目録記載のとおりである。)は、
制御部140が実行する画像取得処理を示すフローである。制御部140 は、画像取得部130の重力方向下側の位置に培養容器200が搬送され た際に、画像取得処理を実行する。 (段落【0033】 」 )20 「画像取得処理が開始されると、制御部140は、ユーザーより指定さ れたウェルの数を表す変数Aを算出する(ステップS100) 指定された 。
ウェルの数を表す変数Aを算出したのち(ステップS100) 制御部14 、
0は、指定されたウェルであって撮影を終えていないウェルのうち、最も 番号が小さいウェルの画像を、画像取得部130に撮影させる(ステップ25 S110) 番号とは、
。 各ウェルの底に付された1から12のウェル番号の ことである。 (段落【0034】 」 ) 22 「ステップS110において、画像取得部130は、以下の(1) (2) の工程で、ウェルの画像を取得する。
(1)制御部140は、容器搬送部1 15に培養容器200の位置を2次元的に調整させて、ウェルの位置を画 像取得部130が撮影を行うことができる位置に移動させる。
(2)制御部 5 140は、画像取得部130が撮影を行うことができる位置にウェルを移 動させてから、画像取得部130に撮影を行わせる。(段落【0035】 」 ) 「指定されたウェルであって撮影を終えていないウェルのうち、最も番 号が小さいウェルの画像が撮影されたのち(ステップS110) 制御部1 、
40は、撮影を終えたウェルの番号を記憶する(ステップS120)。撮影10 を終えたウェルの番号を記憶したのち(ステップS120) 制御部140 、
は、変数Aをデクリメントする。
(ステップS130) 」 。(段落【0036】) 「変数Aがデクリメントされたあと(ステップS130) 制御部140 、
は、変数Aが0になったか判定する(ステップS140)。変数Aが0にな った場合(ステップS140:YES)、制御部140は、図6の画像取得15 処理を終了する。 (段落【0037】 」 ) 「変数Aが0でない場合(ステップS140:NO)、制御部140は、
ステップS110に戻って、ステップS110〜ステップS140の処理 を変数Aが0になるまで繰り返す。変数Aが0になった場合(ステップS 140:YES)、制御部140は、図6の画像取得処理を終了する。(段 」20 落【0038】) 「図7(判決注:別紙本願明細書等図面目録記載のとおりである。)は、
制御部140が実行する受精判定処理を示すフローである。制御部140 は、卵の培養が開始されてから7時間を経過したとき、受精判定処理を実 行する。また、制御部140は、卵の培養が開始されてから7時間後から25 24時間後までの間に、1時間毎に受精判定処理を繰り返し実行する。」 (段落【0039】) 23 「受精判定処理が開始されると、制御部140は、ユーザーより指定さ れたウェルの数を表す変数Aを算出する(ステップS200) 指定された 。
ウェルの数を表す変数Aを算出したのち(ステップS200) 制御部14 、
0は、指定されたウェルであって判定を終えていないウェルのうち、最も 5 番号が小さいウェルの画像を抽出する(ステップS210) 本実施形態で 。
は、例えば、卵の培養が開始されてから7時間を経過したときに実行され る受精判定処理では、指定されたウェルの画像は、培養部110が卵の培 養を開始してから7時間の間に、15分の時間間隔で画像取得部130に よって取得されていることから、指定されたウェルごとに28枚ある。す10 なわち、卵の培養が開始されてから7時間を経過したときに実行される受 精判定処理においては、ステップS210において、制御部140は、指 定されたウェルのうちの1つのウェルについて、28枚の画像を抽出する。
卵の培養が開始されてから24時間を経過したときに実行される受精判 定処理では、制御部140は、指定されたウェルのうちの1つのウェルに15 ついて、96枚の画像を抽出する。 (段落【0040】 」 ) 「指定されたウェルであって判定を終えていないウェルのうち、最も番 号が小さいウェルの画像を抽出したのち(ステップS210) 制御部14 、
0は、抽出された画像の中で、卵における前核の数の差を最も顕著に認識 できる2枚の画像を選択する(ステップS220) 」 。 (段落【0041】)20 「抽出された画像の中で、卵における前核の数の差を最も顕著に認識で きる2枚を選択したのち(ステップS220) 制御部140における判定 、
部144は、2枚の画像を比較して受精しているか判定する(ステップS 230) 」 。 (段落【0042】) 「2枚の画像を比較して受精しているか判定したのち(ステップS2325 0)、制御部140は、判定を終えたウェルの番号を記憶する(ステップS 240)。判定を終えたウェルを記憶したのち(ステップS240)、制御 24 部140は、変数Aをデクリメントする。
(ステップS250) 」 。(段落【0 043】) 「変数Aがデクリメントされたあと(ステップS250) 制御部140 、
は、変数Aが0になったか判定する(ステップS260)。変数Aが0にな 5 った場合(ステップS260:YES)、制御部140は、図7の受精判定 処理を終了する。 (段落【0044】 」 ) 「変数Aが0でない場合(ステップS260:NO)、制御部140は、
ステップS210に戻って、ステップS210〜ステップS260の処理 を変数Aが0になるまで繰り返す。変数Aが0になった場合(ステップS10 260:YES)、制御部140は、図7の受精判定処理を終了する。(段 」 落【0045】) 「以上説明した実施形態によれば、受精処理された卵の状態が撮影され た画像の解析に基づいて、卵が受精しているか判定部144が判定できる。
このため、受精処理された卵の受精を確認できるシステムが提供される。
15 また、検体である受精処理された卵が機械的に解析されることから、人間 が確認するよりも多くの検体を確認できる。また、判定部144によって 受精しているかが判定されるため、人間が目で確認することに比べて、判 定の煩雑さを低減できる。 (段落【0046】 」 ) ? 本願発明の技術的意義20 上記?及び?によれば、本願発明の技術的意義は、次のとおりであると認 められる。
ア 本願発明は、受精判定システムに関する発明である。(段落【0001】) イ 不妊治療分野においては、受胎率の向上及び患者のQOLの観点から培 養中の胚を評価して選別しており、胚を非侵襲的に評価する方法として、
25 顕微鏡による形態観察によって胚の発育状況を評価する方法があった。
(段落【0002】) 25 ウ しかしながら、これまでの胚の評価方法においては、媒精等の受精処理 をされた卵が正常に受精しているかを確認するシステムを構築すること や、人間が卵を一つ一つ目視で確認するよりも多くの検体における受精の 確認を可能とすることが課題とされていた。(段落【0004】) 5 エ 本願発明は、請求項1の構成を備えることにより、上記の課題を解決し ようとするものである。
(段落【0005】ないし【0008】及び【00 13】) オ 本願発明においては、受精処理された卵の状態が撮影された画像の解析 に基づき、卵が受精しているかを判定部が判定することができるため、受10 精処理された卵が受精しているか否かを確認することができるシステム が提供され、また、検体である卵が機械的に解析されるため、人間が確認 するよりも多くの検体を確認することができ、さらに、判定部において判 定がされるため、人間が目視で確認するよりも判定の煩雑さを低減するこ とができるという効果を奏する。(段落【0006】)15 2 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について ? 甲1文献記載の技術的事項 甲1文献には、次のとおりの記載がある(甲1)。
ア 「要旨:現在、生殖医療分野で脚光を浴びている Imaging 機器は Imaging と 培 養 を 同 時 に 行 う こ と を 想 定 し た Time Lapse Imaging-Incubator20 System である.この機器の将来性には2つあり、一つ目にこれまで見るこ とができなかった胚発生の一部始終を画像として観察することができ更 に Time Point を解析することによって胚発育をこれまでの一時点でのみ の形態観察以上の情報を得ることができる.2つ目に胚の観察を画像で行 えることから顕微鏡での直接観察を必要とせず胚発育の一連の培養期間25 を空気中に一切曝すこと無く、低酸素環境を維持した連続観察・連続培養 を実現することができる. (107頁) 」 26 イ 「はじめに Time Lapse Imaging System の臨床的有用性を導くために、これまでは 胚発育の Time Point を計測し良好胚と不良胚の発育速度の差を解析して きた.また最近ではこの機器の特性を活かし連続培養をすることにも着目 5 されている.まだまだ多くの可能性を秘めており、この機器の有用性は非 常に高いことが解る.しかし、この機器はあくまでも「動画データ」を連 続取得する計測機器である.その上で得られた画像からデータを数値化し ない限り臨床的有用性が得られない機器となる.つまり、得られたデータ を解析し臨床と結びつけなければ我々が臨床現場で用いる意義は少ない.10 現在の Time Lapse Imaging System の臨床利用は得られたデータの解析に よって初めて患者に有益な培養機器になることを理解する必要がある.」 (107頁右欄1行目ないし108頁左欄5行目) ウ 「患者にメリットのある Time Lapse Imaging System の活用 現在、Imaging 機器の一般的な臨床的利用方法は受精確認後の胚発育に15 おいて一連の発育過程を画像取得することに着目されている.しかし、
Imaging 機器の培養スペースは限られており全症例に活用するには限界が ある施設がほとんどである.我々は限られた培養スペースを全症例に活用 するためにこれまで検討を重ねてきた. (111頁左欄下から4行目ない 」 し右欄4行目)20 エ 「Time Lapse Imaging System の運用により前核形成確認によって正常 受精胚の救済 前述したように、定時の顕微鏡観察で不受精と判断された胚の Time Lapse Imaging System を用いた観察によって、前核の形成と消失は我々が 定時観察していた時間よりも早期に起こす胚があることを示した.そこで25 我々は Time Lapse Imaging System を臨床的に運用する方法として全媒精 症例の媒精直後から翌朝までの時間とした.これまでは見られなかった前 27 核の形成過程を Imaging によって確認し、前核早期消失胚の存在を検証す るとともに、これらの胚を救済することを目的とする臨床での Time Lapse Imaging System の運用を開始した. この運用方法で2前核が出現した567胚を Imaging で解析した.これ 5 らの胚で前核の平均出現時間は7.7±2.1hであり、最短4.0h、
最長18.2hであった.そのうちこれまでの定時観察と同時間である媒 精後19.5〜21.5時間に2前核が消失していた胚は9.7%(55 /567)も確認された.これら早期消失胚の平均前核消失時間は20. 1±0.8hであり最短17.4h、最長21.5hであった(図8-110 1(判決注:図8ないし11については、別紙甲1文献図面目録記載のと おりである。 ) ). 我々は臨床胚の Imaging によって、これまでは不受精と判断されていた 早期前核消失胚が9.7%存在することを明らかにした.更にこれらの胚 を Time Lapse Imaging することにより正常受精胚と判断し救済すること15 ができた.臨床で媒精後からの Imaging は前核の形成過程を確実に捉える ことが可能であり、その胚が受精しているかどうかを間違いなく判断でき る点で非常に有用である.受精確認は顕微鏡下の観察が一般的であるが、
この検討によって約10%もの正常受精胚が見逃されてきた背景が考え られる.我々の培養業務はいまだに完全ではないということを常に意識し20 なければならない. これらのデータから当施設では全症例の媒精後から Time Lapse Imaging を実施し受精判定に応用している.この運用方法は、限られた症例しか培 養できないこれらの機器で全症例に有効利用できる唯一の方法と言える.」 (111頁右欄下から7行目ないし112頁右欄5行目)25 ? 本件出願時の技術常識 証拠(甲1、乙1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事項は、
28 本件出願時の生殖医療分野における技術常識であったと認められる。
ア ヒトの卵が受精して一定の時間が経過すると、受精卵(胚)の中に二つ の前核(2前核(2PN))が出現する。この2前核は、更に一定の時間が 経過すると消失し、その後、胚の細胞分裂(卵割)が開始される。
5 イ 上記アのようなヒト初期胚における一連の形態学的特徴の変化、すなわ ち卵割が開始されるまでに生じる前核の数の「0→2→0」という経時的 な変化は、受精が正常であった場合に生じるものであることから、2前核 の出現及び消失は、正常な受精の判断基準とされている。
ウ ヒト初期胚における2前核の出現及び消失は、顕微鏡を用いて胚を直接10 観察することによって確認することができ、また、胚の画像を見ることに よっても確認することができる。
? 引用発明の内容 上記?のとおりの甲1文献記載の技術的事項に加え、上記?の技術常識を 踏まえると、引用発明の内容は、本件審決が認定したとおり(前記第2の315 ?)であると認められる。
? 原告の主張に対する判断 ア 原告は、甲1文献においては、胚の培養中に一つの胚の形成過程をリア ルタイムで観察し続け、前核の出現及び消失を確認することが開示されて いるものではなく、胚の画像を事後的に解析して不妊治療における受精判20 定の望ましい時間幅を明らかにしようとしたことが開示されているにと どまるから、本件審決における引用発明の認定には誤りがある旨主張する (前記第3の1〔原告の主張〕?)。
また、原告は、不妊治療における前核の確認は医師又は胚培養士が顕微 鏡下の観察により判定することが本件出願時における技術常識であった25 から、当業者は、甲1文献について、培養中に画像に基づいて受精判定す ると読み取ることはなく、前記観察における受精判定の精度を高めるため 29 に、処置卵や胚の時間的変化を「Time Lapse Imaging System」を利用して 研究し、前核数を判定する望ましい時間範囲を特定した研究であると読み 取るものである旨主張する(同?)。
イ 確かに、上記?エのとおりの甲1文献の記載及び甲1文献の図11の脚 5 注の記載によれば、甲1文献には、567個の胚について経時的に取得し た複数の画像を事後的に解析することにより、不妊治療における受精判定 を行うのに望ましい時間帯について分析した研究結果が記載されている ものといえる。
しかしながら、他方で、上記?によれば、甲1文献には、「Time Lapse10 Imaging System」を用いて、567個の胚について経時的に複数の画像を 取得し、前核の出現及び消失のタイミングを個別に確認した結果、従来は 不受精と判断されていた早期前核消失胚(それまで定時観察していた時間 よりも早期に2前核が消失してしまう胚)の存在が確認され、救済するこ とができた旨、「Time Lapse Imaging System」は、臨床においても前核の15 形成過程を確実に捉えることが可能であり、胚が受精しているかを間違い なく判断できる旨が記載されている。そして、これらの記載に加え、上記 ?の技術常識を踏まえると、当業者は、甲1文献について、不妊治療にお ける受精判定を行うのに望ましい時間帯を事後的な解析により分析した 研究結果のみならず、「Time Lapse Imaging System」を用いて経時的に取20 得された複数の胚の画像を解析して、受精後から24時間までの間に2前 核が出現し、その後消失したことが確認された場合には、当該胚は正常に 受精していると判断することができるという受精判定の方法という技術 的事項も記載されていると理解するものというべきである。
以上によれば、甲1文献には、上記のとおり認定した引用発明の内容が25 記載されているというべきである。
なお、原告は、甲1文献において、胚の培養中に一つの胚の形成過程を 30 リアルタイムで観察し続け、前核の出現及び消失を確認することが開示さ れているものではない旨主張するが、そもそも、上記の引用発明の認定に おいては、胚の培養過程における一連の画像の解析並びに前核の出現及び 消失に基づく受精の判定を行う時期が特定されているものではない上、各 5 画像が取得されるたびにリアルタイムで解析等が行われることまでが認 定されているものではないから、同主張は失当である。
ウ したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
? 小括 以上によれば、本件審決における引用発明の認定に誤りはないから、取消10 事由1は理由がない。
3 取消事由2(本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り)につ いて ? 本願発明と引用発明との対比 前記1及び2によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、本15 件審決が認定したとおり(前記第2の3?)であると認められる。
? 原告の主張に対する判断 ア 前記第3の2〔原告の主張〕?及び?の主張について (ア) 原告は、一致点の認定につき、甲1文献には、培養中の処理卵の前核 の数の経時的な変化を解析して卵が正常に受精していることを判定す20 ることについては何ら記載されていないから、本件審決における認定は 誤りであり、本願発明の処理d3に係る点を相違点Bとして認定すべき である旨主張する。
(イ) しかしながら、前記2で検討したところによれば、原告が相違点Bと して主張する内容は、甲1文献に記載されていると理解されるものであ25 り、引用発明の内容として認定されるものというべきである。そして、
本願発明の内容に照らせば、本願発明の処理d3については、引用発明 31 との一致点であると認定すべきである。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 同?の主張について (ア) 原告は、相違点1の認定につき、甲1文献には、培養されている卵につ 5 いて取得された複数の画像における前核の数をヒトが確認し、判定を行 っていることは記載されていないから、本件審決における認定は誤りで あり、相違点Aを認定すべきである旨主張する。
(イ) しかしながら、前記2?のとおりの甲1文献記載の技術的事項からす れば、甲1文献における「Time Lapse Imaging System」を用いて取得し10 た複数の胚の画像における前核の数の確認やその評価、すなわち前核の 数を基に胚が正常に受精していると判定するのがヒトであることは明 らかというべきである。
そうすると、原告が相違点Aとして主張する内容は、甲1文献に記載 されているものと理解されるものであり、引用発明の内容として認定さ15 れるものというべきである。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
? 小括 以上によれば、本件審決における本願発明と引用発明との一致点及び相違 点の認定に誤りはないから、取消事由2は理由がない。
20 4 取消事由3(各相違点に係る容易想到性に関する判断の誤り)について ? 甲2公報に記載された技術的事項(以下「甲2技術」という。)について ア 甲2公報の記載 甲2公報には、発明の名称を「胚の評価」とする発明に関し、発明の詳 細な説明として、次のとおりの記載がある(甲2の1及び2)。
25 (ア) 技術分野 「本発明のある特定の実施形態は、胚の発生潜在力(develop 32 mental potential)を評価するため、および特に、胚 の発生潜在力によって胚を順位付けする(ranking)/スコア付 けするための方法および機器に関する。 (段落【0001】 」 ) (イ) 背景技術 5 「不妊症は、世界的に8000万人超に影響している。
・・・受精と移 植(transfer)との間に、胚は、典型的には、インキュベータ ーのインキュベーションチャンバー内で2〜6日間貯蔵され、その時間 にこれらを例えば、画像化によって定期的に監視してこれらの発生につ いて評価することができる。・・・」(段落【0002】)10 「ここ数年にわたって開発された胚品質を評価するための強力なツー ルは、タイムラプス胚イメージングである。タイムラプス胚イメージン グでは、胚の発生中に胚の画像を得ることを必要とする。これは、細胞 分裂などの様々な発生事象のタイミング、ならびに/または例えば、異 なる段階における細胞均一性(均等性)、前核(PN)の出現、および多15 核形成(MN)の存在の観点からの胚の発生に関する他の特性の存在も しくは非存在を確立することを可能にすることができる。 (段落【00 」 04】) 「・・・したがって、タイムラプスイメージングの目的は、様々な胚 発生事象のタイミング、ならびに/または異なる段階の細胞均一性(均20 等性)、前核(PN)の出現、および多核形成(MN)の存在の観点から の胚の発生に関する他の特性に関する様々なパラメータの値を確立す ることである。一連のタイムラプス画像から胚発生に関する値および特 性を確立することは、アノテーションと時に呼ばれる。 (段落【000 」 7】)25 (ウ) 発明を実施するための形態 「既に述べたように、胚の発生に関連した様々なパラメータ、例えば、
33 上記に論じたタイミングに対応する(またはそれに基づく)パラメータ から胚の発生潜在力の尺度を確立することが公知であり、これを行うた めに、目的の該当するパラメータの値を、胚が該当する段階を通じて発 生する際の胚のタイムラプス画像から判定することができる。胚の発生 5 潜在力を判定するための一部の手法では、他の発生特性が目的となり得 る。例えば、胚の品質の評価を、以下の形態学的特性について確立され た値を考慮に入れることができる。 (段落【0035】 」 ) 「・ NOT2PN:2つの前核が胚について適切に同定されている か否かの指標。この特性は、適切な発生段階を有する部位における(a10 t the appropriate develop the si te with a mental stage)胚の画像から視覚的 に判定することができ、例えば、前核が胚について適切に同定されてい るか否か(whether or not to pro-nucle i are properly identified the em15 bryo)を示す単純なバイナリ値をとることができ、または胚につい て同定された標的にされた数を示す値、例えば、胚について同定された 前核の数によって「0」、
「1」、
「2」、
「3」 もしくは 、 「4またはそれ超」 に対応する値 「2」 ( の値が正常である)をとることができる。」 (段落【0 036】)20 「図4(判決注:別紙甲2公報図面目録記載のとおりである。)は、本 発明のある特定の実施形態によって胚8の発生潜在力を判定するための 機器2を概略的に表す。機器2は、胚イメージングシステム6にカップ リングした汎用コンピューター4を備える。胚イメージングシステム6 は、一般に慣例的であり得、確立された技法に従って発生の様々な段階25 における胚8の画像を得るように構成されている。一般に、胚イメージ ングシステム6は、典型的には、監視期間にわたって単一の胚だけでな 34 く、複数の胚の画像を得るように構成されることが十分に理解される。
例えば、典型的な研究は、いくつかの胚、例えば、72の胚の分析に関 与し得る。胚イメージングシステムは、次の胚の画像化に進む前に1つ ずつ各胚の画像(潜在的に複数の焦点面で撮られている画像を有する) 5 を記録するように構成することができる。すべての胚が画像化された後、
それは、例えば、5分を要し得るが、個々の胚を画像化するサイクルを 繰り返して、次の時点のそれぞれの胚のそれぞれの画像を提供すること ができる。 (段落【0064】 」 ) 「汎用コンピューター4は、さらに以下に記載するように、胚イメー10 ジングシステム6から得られる画像の分析から胚の発生潜在力を判定/ 評価するための方法を実行するように適応される(プログラムされる) 」 。
(段落【0065】) 「ある特定の例の実装による胚8は、胚イメージングシステム6を使 用して定期的に監視されて関連情報(すなわち、特定の胚発生事象と関15 連したタイミング、特定の胚発生特性の(非)存在)が得られる。胚は、
好ましくは、1時間当たり少なくとも1回、例えば、1時間当たり少な くとも2回、例えば、1時間当たり少なくとも3回、例えば、1時間当 たり少なくとも4回、例えば、1時間当たり少なくとも6回、例えば、
1時間当たり少なくとも12回監視される。監視は、好ましくは、胚が、
20 胚を培養するのに使用されるインキュベーター内に置かれている間に行 われる。これは、好ましくは、タイムラプス法に関して本明細書に論じ たものなどの胚の画像取得によって実施される。 (段落【0068】 」 ) 「図5(判決注:別紙甲2公報図面目録記載のとおりである。)は、本 発明のある特定の実施形態による胚の発生潜在力によって胚を順位付け25 するための方法を概略的に表すフロー図である。方法は、例えば、単一 患者に関連した複数の胚を順位付けして、どの胚が順調に着床し/生児 35 出生に至る可能性が最も高いかを同定するのを助けるのに適用され得る。
胚の数は、患者と処置サイクルとの間でもちろん変動するが、典型的な 場合では、単一処置サイクル中の単一患者からの複数の胚は、例えば、
6から12の胚の間のどれかであり得る。方法は、コンピューター実装 5 方法であり得、それは、搭載されたプログラムに従って方法を実装する CPU24を有する図4のコンピューター4を使用して実装され得る。」 (段落【0069】) 「ステップS1では、観察期間中の胚の形態学的発生に関する特性に ついての複数の値が得られる。
・・・この例では、各胚について得られる10 特性は、
(i)胚が2つの前核を適切に示すか否かに関する指標(例えば、上 記で定義したNOT2PNの値)。
・・・ であると仮定される。 (段落【0070】 」 )15 「したがって、要約すると、胚の形態学的発生に関する以下の特性の 値を、図5の方法の一例の実装に従って各胚について求めることができ る:NOT2PN;tPNf;t2;t3;t5およびt8。
・・・」 (段 落【0071】) 「これらのパラメータの値を、慣例的な技法に従って、例えば、イン20 キュベーター内の胚の慣例的なタイムラプスイメージングを使用して発 生中の胚の一連の画像を得、一連の画像から様々な関連した形態学的事 象のタイミングおよび出現を同定するための慣例的なアノテーション手 順を使用して得ることができる。例えば、これらのパラメータの値を、
インキュベーション中の胚をタイムラプスモニタリングするためのEm25 bryoScope(RTM)デバイス、および目的の事象をアノテー トするためのその関連したEmbryoViewer(RTM)ソフト 36 ウェアを使用して得ることができる。EmbryoScope(RTM) デバイスおよびEmbryoViewer(RTM)ソフトウェアは、
Unisense FertiliTech A/S(Aarhus、
デンマーク)によって開発され、この会社から入手可能である。以前に 5 確立された技法に従って、アノテーションを、手作業で(例えば、ユー ザー入力に基づいて)、かつ/または自動的に(例えば、数値的画像解析 /処理に基づいて)、かつ/または半自動的に(例えば、数値的画像処理 およびユーザー入力の混合に基づいて)実施できることが十分に理解さ れる。 (段落【0072】 」 )10 「ステップS2では、胚の1つが検討のために選択される。
・・・」 (段 落【0073】) 「ステップS3では、現在の胚が順位付けされるべきかどうかに関し て判定が行われる。この例では、これは、NOT2PNの値に基づく。
いくつかの点で、これは、低い発生潜在力に強く関連していることが公15 知である1つまたは複数の特性を有する胚が同定される最初のスクリー ニングステップとしてみなすことができる。 (段落【0074】 」 ) 「ステップS3において現在の胚が2つの前核を適切に示さないと判 定される場合、胚は、さらに順位付けされるべきでないと判定され、処 理は、Nとマークされた枝をたどってステップS4に行き、そこで現在20 の胚は、0のスコアに帰され、次いで処理は、ステップS16に進む。 ・ ・ 」 ・ (段落【0075】) 「他方では、ステップS3において胚が2つの前核を適切に示すと判 定される場合、処理は、Yとマークされた枝をたどってステップS5に 行く。 (段落【0076】 」 )25 イ 甲2技術の内容 上記アによれば、甲2公報には、次の技術的事項が記載されているもの 37 と認められる。
(ア) 甲2公報に記載された発明は、不妊治療において胚の発生潜在力を評 価するための方法及び機器に関するものであり、タイムラプスイメージ ングによって胚の発生中に胚の画像を取得することにより、前核の出現 5 を含む胚の発生に関連した様々なパラメータを確立することができるこ とをその背景技術としている。
(イ) 上記発明に係る機器は、胚イメージングシステムにカップリングした 汎用コンピューターを備えるところ、一般に、胚イメージングシステム は、単一の胚だけではなく複数の胚の画像を得るように構成され、汎用10 コンピューターは、これらの画像を分析して胚の発生潜在力を判定又は 評価するための方法を実行するようにプログラムされる。
(ウ) 胚イメージングシステムによる胚の監視は、好ましくは、1時間当た り少なくとも1回、胚を培養するのに使用されるインキュベーター内に 胚が置かれている間に行われる。
15 (エ) 二つの前核が胚について適切に同定されているか否かの指標であるN OT2PNの値(前核の数は「2」が正常である)は、胚のタイムラプ ス画像から視覚的に判定することができるところ、上記発明に係る方法 においては、手作業で又は自動的に(数値的画像解析又は処理に基づい て)、NOT2PNの値を含むパラメータの値を得て(ステップS1)、
20 この値に基づいて胚の発生潜在力を判定する(ステップS3)。
? 周知技術について ア 甲3公報の記載 甲3公報には、発明の名称を「画像ベースのヒト胚細胞分類のための装 置、方法、およびシステム」とする発明に関し、発明の詳細な説明として、
25 次のとおりの記載がある(甲3)。
(ア) 技術分野 38 「(発明の分野) 本発明は、概して、細胞分類および/または結果決定に関する。より 具体的には、本発明は、限定されないが、胚、卵母細胞、および/また は同等物等の多能性細胞に関連付けられる特性を決定する分類に関する。
5 加えて、または代替として、本発明は、既知の結果を伴う1つ以上の一 連の胚画像から抽出される細胞特徴情報に基づく、未知の結果を伴う一 連の胚画像の胚結果決定に関する。加えて、または代替として、本発明 は、自動胚ランク付けおよび/またはカテゴリ化に関する。 (段落【0 」 002】)10 (イ) 発明を実施するための形態 「いくつかの実施形態では、1つ以上の分類器の各々は、1つ以上の 細胞の複数の画像の各々に適用することができる。複数の画像は、経時 的な一連の画像等の時間連続的な一連の画像であり得る。複数の画像に 示される細胞は、任意の目的とする細胞であり得る。いくつかの実施形15 態では、各画像内の細胞の数が関心となり、それは、本発明の側面によ って決定することができる。例えば、細胞は、ヒト胚であり得、細胞の 数は、1細胞段階、2細胞段階、3細胞段階、4細胞段階等のうちの1 つ以上の段階での胚を表すことができる。いくつかの実施形態では、4 細胞段階は、4つ以上の細胞を表す。そのような目的とする細胞の他の20 実施例は、卵母細胞および多能性細胞を含むが、それらに限定されない。」 (段落【0085】) 「任意の好適な分類器が採用され得る。いくつかの実施形態では、分 類器は、機械学習アルゴリズムに基づく。分類器は、AdaBoost (適応ブースティング)分類器、またはサポートベクターマシン(S V25 M)の別の分類器であり得る。いくつかの実施形態では、分類器は、細 胞特徴および/またはパターン認識に基づく。細胞特徴は、限定されな 39 いが、細胞形状、テクスチャ、縁、および/または同等物の認識等の1 つ以上の細胞(胚、卵母細胞、または多能性細胞等)の1つ以上の画像 に基づいて取得される、特徴である。細胞特徴は、単一の細胞のみに関 連付けられる特徴に限定されず、複数の細胞に関連付けられる特徴、お 5 よび/または、1つ以上の細胞および画像背景等の1つ以上の細胞を示 す画像の別の部分に関連付けられる特徴を指すことができる。いくつか の実施形態では、分類器は、標識画像を使用することによって等、1つ 以上の教師あり学習アプローチを介して訓練される。いくつかの実施形 態では、分類器が基づく細胞特徴は、1つ以上の教師なし学習アプロー10 チを通して決定される。これらの教師なし学習アプローチは、非標識画 像を使用し得る。 (段落【0086】 」 ) イ 甲4公報の記載 甲4公報には、発明の名称を「培養細胞評価装置、インキュベータおよ びプログラム」とする発明に関し、請求の範囲として、次のとおりの記載15 がある(甲4)。
(ア) 請求項1 「培養容器内で培養される対象細胞を時系列に撮像した複数の画像を 取得する画像取得部と、
前記画像に含まれる前記対象細胞の形態的特徴をそれぞれ示す複数種20 類の特徴量を、各々の前記画像で求める特徴量取得部と、
複数種類の前記特徴量および観察時期の組み合わせから選択された指 標に基づいて評価属性の異なる細胞をクラス分けする判別モデルを記憶 する記憶部と、
前記判別モデルの前記指標と、前記対象細胞の各観察時期での前記特25 徴量とを照合し、前記対象細胞をクラス分けする評価処理部と、
を備える培養細胞評価装置。」 40 (イ) 請求項2 「請求項1に記載の培養細胞評価装置において、
前記判別モデルは、同種類の細胞の劣化度合いを細胞の継代回数相当 でクラス分けするモデルである培養細胞評価装置。」 5 (ウ) 請求項3 「請求項2に記載の培養細胞評価装置において、
前記判別モデルは、それぞれ継代回数の異なる細胞を時系列に撮像し て取得した複数組の教師画像群を用いる教師付き学習で構築される培養 細胞評価装置。」10 ウ 甲5公報の記載 甲5公報には、発明の名称を「生体組織の試料および体液の試料の自動 顕微鏡支援検査方法」とする発明に関し、特許請求の範囲請求項1として、
次のとおりの記載がある(甲5)。
「自動顕微鏡、ビデオシステム、およびニューラルネットワーク(NN)15 を備えた評価コンピュータを用いて行う、スライドガラス上の生体組織の 試料または体液の試料の自動顕微鏡検査方法であって; 下記ステップ、すなわち a)試料の画像を上記ビデオシステムで記録し、次いでディジタル化信号 を個々の画像点に割り当て、
20 b)試料のタイプを分類し、
c)上記画像点を接続したセグメントに分割し、次いで、そのセグメント のディジタル化画像信号を1種以上のニューラルネットワーク(NN βi ) の入力ニューロンに送ることによって、1種以上のニューラルネットワー クNN βi で各セグメントを分析し、
25 d)1種以上のニューラルネットワークNN γi でセグメントを分析して、
試料のタイプに属していない細胞型が存在しているか、または 41 構造細胞/組織の変化が存在している場合、病的であると試料を分類する、
ステップを含んでなる生体組織の試料または体液の試料の自動顕微鏡検 査方法。」 エ 甲6文献の記載 5 甲6文献は、「U-Net: Convolutional Networks for Biomedical Image Segmentation」と題する論稿であり、要旨として、次のとおりの記載があ る(甲6)。
「ディープネットワークの学習を成功させるためには、何千ものアノテ ーション付き学習サンプルが必要であることが広く知られている。本研究10 では、利用可能な注釈付き学習サンプルをより効率的に利用するために、
データの増強を強力に利用することに依存したネットワークと学習戦略 を提示する。そのアーキテクチャは、文脈を捕捉するための縮小パスと、
正確な定位を可能にする対称的な拡張パスから構成されている。このよう なネットワークは、非常に少ない画像からエンドツーエンドで学習するこ15 とができ、ISBI課題である電子顕微鏡スタック中の神経細胞構造のセ グメンテーションにおいて、先行する最良の手法(スライドウィンドウ畳 み込みネットワーク)を凌駕することを示している。透過光顕微鏡画像(位 相コントラストとDIC)上で訓練した同じネットワークを用いて、これ らのカテゴリでISBIの細胞追跡チャレンジ2015で大差をつけて20 優勝した。さらに、このネットワークは高速である。512×512の画 像のセグメンテーションは、最近のGPUでは1秒もかからない。完全な 実装(Caffeに基づく)と訓練されたネットワークは、http://・・・で 入手できる。 (234頁) 」 オ 認定される周知技術25 上記アないしエによれば、胚を含む細胞の形態学的特徴を画像から取得 するための基準を、教師あり学習又はニューラルネットワークを用いた学 42 習で訓練することによって構築することは、本件出願時の生殖医療分野に おける周知技術であったと認められる。
? 相違点1に係る容易想到性について ア 前記3?によれば、相違点1に係る本願発明の構成は、卵が受精してい 5 るかの判定を、ヒトが行うのではなく、システムが判定部を備え、当該判 定部が複数の画像を教師あり学習に基づいて解析し、各画像における前核 の数を判定して、卵が受精しているかを判定するというものである。
イ そこで検討するに、前記2?のとおりの引用発明の内容並びに上記?イ のとおりの甲2技術の内容によれば、甲2技術における胚イメージングシ10 ステムは、引用発明における「Time Lapse Imaging System」に相当し、甲 2技術におけるステップS3の判定は、引用発明における前核の数に基づ く正常受精の判断に相当するものといえる。そして、上記?イ(イ)のとおり、
甲2技術における胚イメージングシステムには、複数の胚の画像を分析し て胚の発生潜在力を判定又は評価するための方法を実行するようにプロ15 グラムされた汎用コンピューターがカップリングされている。そうすると、
甲2技術は、相違点1に係る本願発明の構成のうち「判定部」に相当する 構成を備えるものといえる。
そして、前記2?イで検討したとおり、引用発明は、生殖医療分野にお いて、タイムラプスイメージングシステムを用いて経時的に取得された複20 数の胚の画像を解析し、出現した前核の数及びその消失に着目して、胚が 正常に受精しているかを判断する方法の発明である。他方で、上記?イ(ア) のとおり、甲2公報には、不妊治療において、胚の発生潜在力を評価する ための方法及び機器が記載されており、その背景技術として、タイムラプ スイメージングによって胚の発生中の画像を取得し、前核の出現等の観点25 から胚の発生に関するパラメータの値を確立することができる旨が記載 されている。
43 そうすると、引用発明及び甲2技術は、いずれも、生殖医療分野におい て、タイムラプスイメージングを利用した胚の前核の確認に関する発明又 は技術であり、技術分野が共通するものといえるから、当業者は、引用発 明に対して甲2技術を適用することを動機付けられるものといえる。
5 ウ また、上記?オのとおり、胚を含む細胞の形態学的特徴を画像から取得 するための基準を、教師あり学習又はニューラルネットワークを用いた学 習で訓練することによって構築することは、本件出願時の生殖医療分野に おける周知技術であったと認められる。そうすると、この周知技術は、相 違点1に係る本願発明の構成のうち、教師あり学習による学習に基づく解10 析及び判定を行う構成を備えるものといえる。
そして、上記周知技術は、引用発明及び甲2技術と技術分野が共通する ものといえるから、当業者は、引用発明及び甲2技術に対して上記周知技 術を適用することを動機付けられるものといえる。
エ 以上によれば、本件出願時における当業者は、引用発明、甲2技術及び15 上記周知技術に基づいて、相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到し 得たものと認められる。
? 相違点2に係る容易想到性について ア 前記3?によれば、相違点2に係る本願発明の構成は、卵が受精してい るかの判定を卵の培養中に行うというものである。
20 イ そこで検討するに、前記2?イで検討したとおり、甲1文献の記載内容 及び技術常識によれば、当業者は、甲1文献について、不妊治療における 受精判定を行うのに望ましい時間帯を事後的な解析により分析した研究 結果のみならず、「Time Lapse Imaging System」を用いて経時的に取得さ れた複数の胚の画像を解析して、受精後から24時間までの間に2前核が25 出現し、その後消失したことが確認された場合には、当該胚は正常に受精 していると判断することができるという受精判定の方法も記載されてい 44 ると理解するものというべきである。
また、上記?イ(ウ)のとおり、甲2公報には、胚イメージングシステムに よる胚の監視について、好ましくは、胚を培養するのに使用されるインキ ュベーター内に胚が置かれている間に行われることが記載されている。
5 そうすると、当業者は、引用発明において、卵が受精しているかの判定 について、必要な画像が取得された後であれば、培養中であっても行うこ とができると当然に理解するものといえる。
ウ 以上によれば、本件出願時における当業者は、引用発明及び甲2技術に 基づいて、相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものと認め10 られる。
? 相違点3に係る容易想到性について ア 前記3?によれば、相違点3に係る本願発明の構成は、培養部に複数の ウェルが備えられ、複数のウェルで培養されている全ての卵について受精 判定を行うというものである。
15 イ そこで検討するに、引用発明において、受精後の卵が複数存在する場合 には、それらの全てについて正常に受精しているかを判定することは自明 の課題であるといえる。そして、上記?イ(イ)のとおり、甲2技術における 胚イメージングシステムは、一般に、単一の胚だけではなく複数の胚の画 像を得るように構成されるものとされている。
20 そうすると、引用発明において、培養部に複数のウェルを備え、複数の ウェルで培養されている全ての卵について受精判定を行うことは、当業者 が適宜行うことができる事項であるといえる。
ウ 以上によれば、本件出願時における当業者は、引用発明及び甲2技術に 基づいて、相違点3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものと認め25 られる。
? 原告の主張に対する判断 45 ア 前記第3の3〔原告の主張〕?ア(ア)の主張について (ア) 原告は、甲1文献には相違点Aに係る本願発明の構成(処理d1及び d2)及び相違点Bに係る本願発明の構成(処理d3)は開示されてい ない旨主張する。
5 (イ) しかしながら、前記3で検討したとおり、原告が主張する点を相違点 A及び相違点Bとして認定することはできないから、原告の主張はその 前提を欠くというべきである。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 同?ア(イ)の主張について10 (ア) 原告は、相違点1につき、そもそも甲1文献には本願発明における処 理d3の判定は記載されていないから、引用発明において同判定をヒト が行っていることを前提とすることはできないこと、甲2公報に記載さ れているのは胚の評価を行う装置であり、本願発明における処理d3の 判定は開示されていないことを理由に、本件審決が、引用発明における15 人による受精判定をコンピュータによる機械学習等を用いた構成に置 き換えることは当業者の常とう手段であると判断したことには誤りが ある旨主張する。
(イ) しかしながら、前記3?イで検討したとおり、甲1文献の内容からす れば、甲1文献における「Time Lapse Imaging System」を用いて取得し20 た複数の胚の画像における前核の数の確認やその評価、すなわち前核の 数を基に胚が正常に受精していると判定するのがヒトであることは明 らかというべきであるから、引用発明においてヒトが上記判定を行って いることを前提とすることに誤りはない。
また、前記3?アで検討したとおり、処理d3については本願発明と25 引用発明との一致点として認定すべきであるから、甲2公報に処理d3 が記載されているか否かは、相違点1に係る容易想到性の判断を左右し 46 ないというべきである。
そして、本件出願時における当業者が、引用発明、甲2技術及び上記 周知技術に基づいて、相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到し得 たものと認められることは、上記?で検討したとおりである。
5 (ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 同?イの主張について (ア) 原告は、相違点2につき、引用発明は卵の培養中に受精判定を行うも のではないから、当業者が事後的な画像解析を前提とする引用発明を改 変して相違点2に係る本願発明の構成とする動機付けはない旨主張す10 る。
(イ) しかしながら、前記2?イで検討したとおり、当業者は、甲1文献に ついて、不妊治療における受精判定を行うのに望ましい時間帯を事後的 な 解 析 に よ り 分 析 し た 研 究 結 果 の み な ら ず 、 Time Lapse Imaging 「 System」を用いて経時的に取得された複数の胚の画像を解析して、受精15 後から24時間までの間に2前核が出現し、その後消失したことが確認 された場合には、当該胚は正常に受精していると判断することができる という受精判定の方法も記載されていると理解するものというべきで ある。
そして、本件出願時における当業者が、引用発明及び甲2技術に基づ20 いて、相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものと認めら れることは、上記?で検討したとおりである。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
エ 同?ウの主張について (ア) 原告は、相違点3につき、本願発明以前における不妊治療としての受25 精判定は、顕微鏡観察により行われていたものであり、甲1文献の執筆 時においては、複数のウェルで培養されている全ての卵について、培養 47 中に得られる画像から受精判定することはできないと理解されていた ところ、本願発明は、処理d1ないしd3を組み合わせることによって 処理d4を実現し、上記課題を解決しているものであるから、相違点3 に係る本願発明の構成は、当業者が適宜設定し得たものにすぎないとは 5 いえない旨主張する。
(イ) しかしながら、前記2?ウのとおり、ヒト初期胚における前核の出現 及び消失の確認は、顕微鏡による観察のほか、胚の画像を見ることによ っても行うことができることは、本件出願時の生殖医療分野における技 術常識であったと認められるから、原告の上記主張は、その前提を欠く10 ものというべきである。
そして、本件出願時における当業者が、引用発明及び甲2技術に基づ いて、相違点3に係る本願発明の構成を容易に想到し得たものと認めら れることは、上記?で検討したとおりである。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
15 オ 同?の主張について (ア) 原告は、甲3公報等につき、受精処置後24時間以内に進行する前核 の出現及び消失を伴う受精という現象を、受精処置された卵の画像から 機械学習等によって特定した前核の数を用いて判定する技術までもが周 知技術であることを示すものとはいえないから、同各公報等に示された20 周知技術を適用することはできない旨主張する。
(イ) しかしながら、上記?イのとおり、甲2公報には、不妊治療において 胚の発生潜在力を評価するための方法及び機器に関する発明のほか、二 つの前核が胚について適切に同定されているか否かの指標であるNOT 2PNの値は胚のタイムラプス画像から視覚的に判定することができる25 こと、上記発明に係る方法においては、手作業で又は自動的に(数値的 画像解析又は処理に基づいて) NOT2PNの値を含むパラメータの値 、
48 を得ることができることが、それぞれ記載されている。これらの記載内 容からすれば、甲2技術における前核の数の視覚的な確認の手法が、甲 3公報等に記載されている細胞の形態学的特徴の視覚的な確認の手法と 殊更に異なるものとは認められない。
5 以上によれば、甲3公報等から認定される周知技術を甲1文献及び甲 2技術に適用することが妨げられるものではないというべきである。
(ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
カ 同?の主張について (ア) 原告は、甲12ないし甲16の文献等によれば、卵に対して小さな前10 核の数を正確に認識することは、本件出願時における当業者にとっては 高いハードルであり、これを解決する本願発明の構成を、甲1文献、甲 2公報及び甲3公報等から容易に想到することができたというのは、単 なる机上の空論である旨主張する。
(イ) しかしながら、本願発明においては、前核の数を正確に認識するため15 の構成が採られているものではない上、本願明細書等においても、卵に 対して小さな前核の数を正確に認識することが課題とされていたり、そ のための特有の構成が開示されていたりするものではない。そうすると、
原告が指摘する点は、本願発明の容易想到性を判断するに当たって考慮 すべき事情とはいえない。
20 (ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。
なお、その他の原告の主張は、いずれも前記の結論を左右するもので はないというべきである。
? 小括 以上検討したところによれば、当業者は、引用発明、甲2技術及び上記周25 知技術に基づいて、相違点1ないし3に係る本願発明の各構成を容易に想到 し得たものと認められる。
49 したがって、本件審決における各相違点に係る容易想到性に関する判断に 誤りはないから、取消事由3は理由がない。
5 結論 よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文の 5 とおり判決する。