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審判番号(事件番号) データベース 権利
令和4ネ10002特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 判例 特許
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 判例 特許
令和2行ケ10079 審決取消請求事件 令和2行ケ10083 審決取消請求事件 判例 特許
令和4ネ10003特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
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事件 令和 4年 (ネ) 10052号 特許権侵害に基づく損害賠償等請求控訴事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/09/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、38億2826万4000円及びうち31億7124万円に対する平成28年4月1日から、うち6億5702万4000円に対する平成30年6月22日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、控訴人に対し、45億2279万3000円及びうち41億1163万円に対する平成29年4月1日から、うち4億1116万3000円に対する平成31年4月2日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人は、控訴人に対し、48億4197万3400円及びうち44億0179万4000円に対する平成30年4月1日から、うち4億4017万9400円に対する令和2年4月4日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人は、控訴人に対し、56億1814万円及びうち51億0740万円に対する平成31年4月1日から、うち5億1074万円に対する令和3年4月14日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
7 仮執行宣言
事案の概要
1 控訴人(原審第1事件ないし第4事件原告)は、発明の名称を「医薬」とする特許(特許第5190159号。以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する者であり、被控訴人(原審第1事件ないし第4事件被告)は、原判決別紙物件目録記載の製品(以下、同目録に記載の個々の製品を同目録の番号に対応させて「被告製品1」などといい、被告製品1ないし3を併せて「被告各製品」という。)を製造し、販売する者である。
控訴人は、被告各製品は本件特許に係る特許発明(請求項6ないし9に係るもの)の技術的範囲に属し、被控訴人の上記行為は控訴人の本件特許権を侵害するなどと主張して、被控訴人に対し、民法709条又は同法703条に基づいて、@平成27年4月1日から平成28年3月31日までの損害賠償金35億1926万4000円及びうち31億7124万円(特許法102条1項に基づき算定される損害額)に対する不法行為の日の後である同年4月1日から、うち3億4802万4000円(弁護士・弁理士費用相当額)に対する不法行為の日の後である平成30年6月22日(第1事件の訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金並びに平成25年12月13日から平成27年3月31までの不当利得金3億0900万円(実施料相当額)及びこれに対する履行の請求の日(第1事件の訴状送達の日)の翌日である平成30年6月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(第1事件)、A平成28年4月1日から平成29年3月31日までの損害賠償金45億2279万3000円及びうち4 1億1163万円(特許法102条1項に基づき算定される損害額)に対する不法行為の日の後である同年4月1日から、うち4億1116万3000円(弁護士・弁理士費用相当額)に対する不法行為の日の後である平成31年4月2日(第2事件の訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(第2事件)、B平成29年4月1日から平成30年3月31日までの損害賠償金48億4197万3400円及びうち44億0179万4000円(特許法102条1項に基づき算定される損害額)に対する不法行為の日の後である同年4月1日から、うち4億4017万9400円(弁護士・弁理士費用相当額)に対する不法行為の日の後である令和2年4月4日(第3事件の訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(第3事件)、C平成30年4月1日から平成31年3月31日までの損害賠償金56億1814万円及びうち51億0740万円(特許法102条1項に基づき算定される損害額)に対する不法行為の日の後である平成31年4月1日から、うち5億1074万円(弁護士・弁理士費用相当額)に対する不法行為の日の後である令和3年4月14日(第4事件の訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(第4事件)。
原審は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件各控訴を提起した(なお、控訴人は、当審において、本件特許の請求項7及び8に基づく主張を撤回した。)。
2 前提事実 次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1に記載のとおり(ただし、後記訂正前の請求項7及び8並びに後記訂正後の請求項7及び8のみに係る部分を除く。)であるから、これを引用する。
(1) 原判決5頁19行目の「本件特許」から20行目の「発明」までを「本件特許のうち請求項1及び2に係る部分」と改める。
(2) 原判決11頁6行目から7行目にかけての「クロスポピドン」を「クロスポビドン」と改める。
(3) 原判決11頁11行目から12行目にかけての「平成30年5月23日」を「平成30年5月22日」と改める。
(4) 原判決12頁1行目の「侵害行為」を「侵害行為等」と改める。
(5) 原判決12頁2行目の「及び」の次に「平成25年12月13日から平成27年3月31日までの間の被控訴人の」を加える。
(6) 原判決12頁9行目から10行目にかけての「侵害行為にについて」を「侵害行為について」と改める。
(7) 原判決12頁20行目の「以下」から21行目末尾までを「以下「乙1公報」という。)」と改める。
3 争点(1) 本件発明6及び9について ア サポート要件違反の有無(争点1-1) イ 実施可能要件違反の有無(争点1-2)(2) 本件発明6について ア 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明1)に基づく進歩性欠如(争点2-1) イ 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明2)に基づく進歩性欠如(争点2―2) ウ 乙62発明に基づく進歩性欠如(争点2-3)(3) 本件発明9について ア 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明1)に基づく進歩性欠如(争点3-1) イ 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明2)に基づく進歩性欠如(争点3-2) ウ 乙62発明に基づく進歩性欠如(争点3-3) (4) 本件訂正発明6について ア 請求項6に係る本件訂正についての訂正要件違反の有無(争点4-1) イ 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明1)に基づく進歩性欠如の解消の有無(争点4-2) ウ 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明2)に基づく進歩性欠如の解消の有無(争点4-3) エ 乙62発明に基づく進歩性欠如の解消の有無(争点4-4) オ サポート要件違反及び実施可能要件違反の解消の有無(争点4-5) (5) 本件訂正発明9について ア 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明1)に基づく進歩性欠如の解消の有無(争点5-1) イ 乙12公報に記載された発明(後記乙12発明2)に基づく進歩性欠如の解消の有無(争点5-2) ウ 乙62発明に基づく進歩性欠如の解消の有無(争点5-3) エ サポート要件違反及び実施可能要件違反の解消の有無(争点5-4) (6) 損害の額及び利得の額(争点6)
争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(本件発明6及び9に係るサポート要件違反の有無) 【被控訴人の主張】 次のとおり改めるほかは、原判決21頁1行目から23頁10行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決21頁2行目の「本件明細書」を「本件特許に係る設定登録時の明細書(甲2。以下「本件明細書」という。なお、前提事実(4)の各訂正において、
本件明細書の記載の訂正はない。)」と改める。
(2) 原判決21頁17行目の「分解して」を「分解することによる」と改める。
(3) 原判決21頁25行目から26行目にかけての「本件3成分」を「結晶セルロース、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び塩化カルシウム二水和物(以下「本件3成分」という。)」と改める。
(4) 原判決22頁26行目の「あったことを」の次に「被控訴人において」を加える。
(5) 原判決23頁9行目の「寄与ない」を「寄与しない」と改める。
【控訴人の主張】 次のとおり改めるほかは、原判決14頁26行目から20頁25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決15頁6行目の「クロスポピドン」を「クロスポビドン」と改める。
(2) 原判決16頁14行目の「「抑制された」とは」を「「抑制された」の意義については」と改める。
(3) 原判決16頁18行目の「解釈(相対的抑制論)が」を「解釈(相対的抑制論)をするのが」と改める。
(4) 原判決18頁13行目の「分解して」を「分解することによる」と改める。
(5) 原判決18頁20行目から21行目にかけての「記載や技術常識は一切ない」を「記載はなく、そのような技術常識も一切ない」と改める。
(6) 原判決19頁5行目から6行目にかけての「結晶セルロース」から7行目の「(以下「本件3成分」という。)」までを「本件3成分」と改める。
2 争点1-2(本件発明6及び9に係る実施可能要件違反の有無) 【被控訴人の主張】 次のとおり改めるほかは、原判決23頁25行目から24頁15行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決24頁8行目の「本件各発明は、」を「本件発明6及び9のように」と改める。
(2) 原判決24頁11行目の「費やさなければならない」を「費やさなければ 確認できない」と改める。
(3) 原判決24頁12行目の「したがって」の次に「、本件明細書の発明の詳細な説明は」を加える。
(4) 原判決24頁14行目から15行目にかけての「本件各発明」を「本件発明6及び9に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載」と改める。
【控訴人の主張】 原判決23頁15行目から16行目にかけての「クロスポピドン」を「クロスポビドン」と改めるほかは、原判決23頁13行目から23行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点2-1(乙12公報に記載された発明(後記乙12発明1)に基づく本件発明6の進歩性欠如) 【被控訴人の主張】(1) 乙12公報に記載された発明 乙12公報には、次の発明(以下「乙12発明1」という。)が記載されている。
(乙12発明1) 医薬剤形であって、
(a)フィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の環境影響からの保護および安定性を、好ましくは酸化および/または環境湿度からの保護および安定性を提供するコーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子および/またはイタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子の混合物と、
(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、
(aa)1種類以上のフィラー; (bb)1種類以上のバインダー、
(cc)1種類以上の崩壊剤、
(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、
(ee)1種類以上の緩衝化要素、
(ff)1種類以上のアルカリ化要素、
(gg)1種類以上の界面活性剤および (hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分 (c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている任意のコーティングであってもよく、
含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である、医薬剤形。
(2) 本件発明6と乙12発明1との対比 本件発明6と乙12発明1とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点) 次の成分(A):(A)ピタバスタチン又はその塩;を含有する、固形製剤。
(相違点121-6-1) 固形製剤が含有する成分について、本件発明6は、「カルメロース及びその塩、
クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上」と特定しているのに対し、乙12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「フィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤及び/又は医薬剤形の酸化および/または環境湿度からの保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以 上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」を含む点 (相違点121-6-2) 本件発明6は、「水分含量が2.9質量%以下である」と特定しているのに対して、乙12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」と特定している点 (相違点121-6-3) 本件発明6は、「固形製剤」と特定しているのに対して、乙12発明1は、「医薬剤形」である点 (相違点121-6-4) ピタバスタチン又はその塩について、本件発明6は、「含有」するとしか特定していないのに対し、乙12発明1は、「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」であるとされ、混合物である上記「コーティングされた粒子」及び/又は「コーティングされていない粒子」に含まれるものとしている点(3) 相違点に係る本件発明6の構成の容易想到性 ア 相違点121-6-1について 乙12公報には、崩壊剤として、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム(本件発明6のカルメロースの塩に相当するもの)、架橋したポリビニルピロリドン(本件発明6のクロスポビドンに相当するもの)、架橋したカルボキシメチルデンプン、様々な種類のデンプン及び結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポラクリリンカリウム等が具体的に記載されている。
また、乙12公報には、医薬剤形の調剤についての記載(例示ではあるものの、
(治療)活性物質等と共に崩壊剤を用いて調剤する旨の記載)があり、この記載に より、乙12公報には、「必要な場合には」用いることとされた界面活性剤や他の従来成分とは異なり、崩壊剤が医療剤形の調製において必ず用いる成分として記載されているといえる。
したがって、乙12発明1において、崩壊剤としてカルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上を含有するものとすることは、当業者が容易になし得た事項である。
イ 相違点121-6-2について 乙12公報の記載によると、乙12発明1の医薬剤形は、環境湿度に敏感であるイタバスタチンについて、それを安定化し、また、ヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぐために、医薬剤形の乾燥減量(含水量)を3%未満にするものであるといえ、同じHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンとイタバスタチンは、環境湿度に対する敏感さとしては同等のものであるといえる。
また、乙12公報には、錠剤をコーティングし、含水量を2.73、1.99、
1.55又は1.73質量%程度とすることで、アトルバスタチンCaをラクトン体の生成や酸化分解から安定化できることが示されているといえる。
したがって、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」とされる乙12発明1において、その含水量を2.73、1.99、1.55又は1.73質量%程度とすることは、当業者が容易になし得た事項であるといえ、当該含水量は、
「水分含量が2.9質量%以下である」ことに相当するから、乙12発明1において、相違点121-6-2に係る本件発明6の技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得た事項である。
ウ 相違点121-6-3について 原判決44頁21行目から25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
エ 相違点121-6-4について 原判決45頁1行目、6行目及び10行目の各「本件訂正発明6」をいずれも「本件発明6」と改めるほかは、原判決45頁1行目から11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
【控訴人の主張】(1) 被控訴人の主張は争う。
(2) 乙12発明1の認定について 原判決30頁25行目から31頁20行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(3) 相違点121-6-1について 被控訴人が主張する乙12発明1の構成(b)は、一般的かつ抽象的に特定された構成であって、無数の選択肢を含むものであるところ、被控訴人が主張する乙12発明1には、医薬品添加物としてカルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上を含有するとの構成を選択することの動機付けがない。
したがって、当業者は、相違点121-6-1に係る本件発明6の構成に容易に想到することはできない。
(4) 相違点121-6-2について 乙12公報には、固形製剤の水分含量と5-ケト体の生成抑制との関係についての示唆等は見られず、その他、固形製剤の水分含量が「2.9質量%以下」の値となるものと認めるべき根拠となる記載はないから、被控訴人が主張する乙12発明1において、固形製剤の水分含量を「2.9質量%以下」とすることの動機付けは存在しない。
また、ピタバスタチンが水分に対して安定であることは、本件出願日当時の周知技術又は当業者の技術常識であるから、ピタバスタチンを含有する固形製剤について、水分含量を調整することの動機付けは存在しない。
したがって、当業者は、相違点121-6-2に係る本件発明6の構成に容易に 想到することはできない。
4 争点2-2(乙12公報に記載された発明(後記乙12発明2)に基づく本件発明6の進歩性欠如) 【被控訴人の主張】(1) 乙12公報に記載された発明 乙12公報には、次の発明(以下「乙12発明2」という。)が記載されている。
(乙12発明2) HMG-CoAレダクターゼ阻害剤である、アトルバスタチン換算で40mgのアトルバスタチンCaと、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、
ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬製剤であって、水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である医薬剤形。
(2) 本件発明6と乙12発明2との対比 本件発明6と乙12発明2とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点) 次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤。
(相違点122-6-1) (A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明6は、
「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、乙12発明2は、「アトルバスタチンCa」である点 (相違点122-6-2) 本件発明6は、「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロー スによりなる群から選ばれる1種以上;」と特定しているのに対し、乙12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点 (相違点122-6-3) 本件発明6は、コーティングについて特定していないのに対し、乙12発明2は、
カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングしている点 (相違点122-6-4) 本件発明6は、パッケージすることについて特定していないのに対し、乙12発明2は、錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形である点(3) 相違点に係る本件発明6の構成の容易想到性 ア 相違点122-6-1について 次のとおり改めるほかは、原判決34頁26行目から35頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(ア) 原判決35頁2行目から3行目にかけての「出願時の」を「本件出願日当時の」と改める。
(イ) 原判決35頁10行目の「ピタバスタチン」を「本件発明6のピタバスタチン」と改める。
イ 相違点122-6-2について 前記3【被控訴人の主張】(3)アのとおりであるから、乙12発明2において、
崩壊剤としてカルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上を含有するものとすることは、当業者が容易になし得た事項である。
ウ 相違点122-6-3について 原判決48頁7行目、8行目及び9行目から10行目にかけての各「本件訂正発明6」をいずれも「本件発明6」と改めるほかは、原判決48頁7行目から10行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
エ 相違点122-6-4について 乙12発明2の「医薬剤形」は、「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした」ものであるところ、本件明細書の記載によると、本件発明6の「固形製剤」は、乾燥剤を用いてHDPE等に瓶包装する態様を当然に含むと理解されるから、相違点122-6-4は、本件発明6と乙12発明2との実質的な相違点ではない。
【控訴人の主張】 (1) 被控訴人の主張は争う。
(2) 乙12発明2の認定について 原判決31頁18行目の「乙12発明1」を「乙12発明2」と改めるほかは、
原判決30頁25行目から31頁20行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(3) 相違点122-6-2について 乙12発明1に係る相違点121-6-1についての主張(前記3【控訴人の主張】(3))のとおりであるから、乙12発明2についても、当業者は、相違点122-6-2に係る本件発明6の構成に容易に想到することはできない。
5 争点2-3(乙62発明に基づく本件発明6の進歩性欠如) 【被控訴人の主張】 (1) 乙62公報に記載された発明(乙62発明) 乙62公報には、次の乙62発明が記載されている。
(乙62発明) HMG-CoAレダクターゼ阻害剤である、アトルバスタチン換算で40mgの アトルバスタチンCaと、ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、
ステアリン酸マグネシウム、タルクからなる錠剤コアに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である医薬剤形。
(2) 本件発明6と乙62発明との対比 本件発明6と乙62発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点) 次の成分(A):(A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物;を含有し、水分含量が2.73、1.99、1.55又は1.73質量%である固形製剤。
(相違点62-6-1) (A)HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物について、本件発明6は、
「(A)ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、乙62発明は、「アトルバスタチンCa」である点 (相違点62-6-2) 本件発明6は、「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;」と特定しているのに対し、乙62発明は、
「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点 (相違点62-6-3) 本件発明6は、コーティングについて特定していないのに対し、乙62発明は、
コーティングしている点 (相違点62-6-4) 本件発明6は、パッケージすることについて特定していないのに対し、乙62発明は、錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形である点(3) 相違点に係る本件発明6の構成の容易想到性 ア 相違点62-6-1について 次のとおり改めるほかは、原判決34頁26行目から35頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(ア) 原判決34頁26行目並びに35頁3行目及び9行目の各「乙12公報」をいずれも「乙62公報」と改める。
(イ) 原判決35頁2行目から3行目にかけての「出願時の」を「本件出願日当時の」と改める。
(ウ) 原判決35頁5行目の「乙12発明2」を「乙62発明」と改める。
(エ) 原判決35頁10行目の「ピタバスタチン」を「本件発明6のピタバスタチン」と改める。
イ 相違点62-6-2について 乙62公報には、崩壊剤として、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム(本件発明6のカルメロースの塩に相当するもの)、架橋したポリビニルピロリドン(本件発明6のクロスポビドンに相当するもの)、架橋したカルボキシメチルデンプン、様々な種類のデンプン及び結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポラクリリンカリウム等が具体的に記載されている。
また、乙62公報には、医薬剤形の調剤についての記載(例示ではあるものの、
(治療)活性物質等と共に崩壊剤を用いて調剤する旨の記載)があり、この記載により、乙12公報には、「必要に応じて」用いることとされた界面活性剤や他の従来成分とは異なり、崩壊剤が医療剤形の調製において必ず用いる成分として記載されているといえる。
したがって、乙62発明において、崩壊剤としてカルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上を含有するものとすることは、当業者が容易になし得た事項である。
ウ 相違点62-6-3について 原判決51頁13行目、14行目及び15行目から16行目にかけての各「本件訂正発明6」をいずれも「本件発明6」と改めるほかは、原判決51頁13行目から16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
エ 相違点62-6-4について 乙62発明の「医薬剤形」は、「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした」ものであるところ、本件明細書の記載によると、本件発明6の「固形製剤」は、乾燥剤を用いてHDPE等に瓶包装する態様を当然に含むと理解されるから、相違点62-6-4は、本件発明6と乙62発明との実質的な相違点ではない。
【控訴人の主張】(1) 被控訴人の主張は争う。
(2) 乙62発明についても、前記3【控訴人の主張】(2)及び(3)と同じことが当てはまるから、本件発明6は、当業者が乙62発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
6 争点3-1(乙12発明1に基づく本件発明9の進歩性欠如) 【被控訴人の主張】(1) 乙12公報に記載された発明(乙12発明1) 乙12発明1の内容は、前記3【被控訴人の主張】(1)のとおりである。
(2) 本件発明9と乙12発明1との対比 本件発明9と乙12発明1とを対比すると、両発明の間には、相違点121-6-1ないし121-6-4に加え、次の相違点が存在する。
(相違点121-9-1) 本件発明9は、「固形製剤が錠剤である」のに対し、乙12発明1は、そのような構成を備えない点(3) 相違点121-9-1に係る本件発明9の構成の容易想到性 乙12公報には、医薬剤形を錠剤とすることが記載されているから、乙12発明1において医薬剤形を錠剤とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
【控訴人の主張】(1) 被控訴人の主張は争う。
(2) 前記3【控訴人の主張】(2)ないし(4)のとおりであるから、本件発明9は、
当業者が乙12発明1に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
7 争点3-2(乙12発明2に基づく本件発明9の進歩性欠如) 【被控訴人の主張】(1) 乙12公報に記載された発明(乙12発明2) 乙12発明2の内容は、前記4【被控訴人の主張】(1)のとおりである。
(2) 本件発明9と乙12発明2との対比 本件発明9と乙12発明2とを対比すると、両発明の間には、相違点122-6-1ないし122-6-4に加え、次の相違点が存在する。
(相違点122-9-1) 本件発明9は、「固形製剤が錠剤である」のに対し、乙12発明2は、そのような構成を備えない点(3) 相違点122-9-1に係る本件発明9の構成の容易想到性 乙12公報には、医薬剤形を錠剤とすることが記載されているから、乙12発明2において医薬剤形を錠剤とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
【控訴人の主張】(1) 被控訴人の主張は争う。
(2) 乙12発明2についても、前記3【控訴人の主張】(2)及び(3)と同じことが当てはまるから、本件発明9は、当業者が乙12発明2に基づいて容易に発明を することができたものではない。
8 争点3-3(乙62発明に基づく本件発明9の進歩性欠如) 【被控訴人の主張】(1) 乙62公報に記載された発明(乙62発明) 乙62発明の内容は、前記5【被控訴人の主張】(1)のとおりである。
(2) 本件発明9と乙62発明との対比 本件発明9と乙62発明とを対比すると、両発明の間には、相違点62-6-1ないし62-6-4に加え、次の相違点が存在する。
(相違点62-9-1) 本件発明9は、「固形製剤が錠剤である」のに対し、乙62発明は、そのような構成を備えない点(3) 相違点62-9-1に係る本件発明9の構成の容易想到性 乙62公報には、医薬剤形を錠剤とすることが記載されているから、乙62発明において医薬剤形を錠剤とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
【控訴人の主張】(1) 被控訴人の主張は争う。
(2) 乙62発明についても、前記3【控訴人の主張】(2)及び(3)と同じことが当てはまるから、本件発明9は、当業者が乙62発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
9 争点4-1(請求項6に係る本件訂正についての訂正要件違反の有無) 【控訴人の主張】 次のとおり改めるほかは、原判決39頁21行目から40頁20行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決40頁2行目の「クロスポピドン」を「クロスポビドン」と改める。
(2) 原判決40頁13行目の「含まれている 。」を「含まれている。」と改める。
【被控訴人の主張】 原判決39頁14行目から19行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
10 争点4-2(乙12発明1に基づく本件発明6の進歩性欠如の解消の有無) 【控訴人の主張】(1) 本件訂正発明6と乙12公報に記載された発明との対比 請求項6に係る本件訂正により、本件訂正発明6と乙12公報に記載された発明との間には、少なくとも次の相違点が生じることとなった。
(相違点12-6-@) 本件訂正発明6は、「固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤を除く」ものであるのに対し、乙12公報に記載された発明は、「ピタバスタチンの粒子若しくはピタバスタチンを含む粒子又は固形製剤が、(環境影響からの)保護および安定性を提供するポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構成とするものである点(2) 相違点12-6-@に係る本件訂正発明6の構成の想到困難性 原判決31頁26行目の「上記(1)」を「前記3【控訴人の主張】(2)」と改めるほかは、原判決31頁22行目から32頁10行目までに記載のとおりであるから、
これを引用する。
(3) 効果について 原判決33頁5行目の「本件訂正発明9」を「本件訂正発明6」と改めるほかは、
原判決33頁1行目から6行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(4) 以上によると、請求項6に係る本件訂正により、乙12公報に記載された発明に基づく本件発明6の進歩性欠如は解消されたといえる。
【被控訴人の主張】 (1) 本件訂正発明6と乙12発明1との対比 本件訂正発明6と乙12発明1とを対比すると、両者の間には、相違点121-6-1、121-6-3及び121-6-4のほか、次の相違点が存在する。
(相違点121-6-A) 固形製剤が含有する成分について、本件訂正発明6は、「固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤、及び、
アルカリ化物質を含まない固形製剤を除く」と特定しているのに対し、乙12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「フィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤の環境影響からの保護および安定性を、好ましくは酸化および/または環境湿度からの保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、コーティングされた粒子および/またはイタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、
(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」であってもよい点 (相違点121-6-B) 本件訂正発明6は、「水分含量が1.5〜2.9質量%である」と特定しているのに対して、乙12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満であ る」と特定している点 (相違点121-6-E) 本件訂正発明6は、「かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される」と特定しているのに対し、乙12発明1は、そのような特定をしていない点(2) 相違点に係る本件訂正発明6の構成の容易想到性 ア 相違点121-6-Aについて 次のとおり改めるほかは、原判決43頁2行目から44頁2行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決43頁2行目の「(イ)」を「(ア)」と改める。
(イ) 原判決43頁25行目の「(ウ)」を「(イ)」と改める。
イ 相違点121-6-Bについて 原判決44頁17行目の「2.9質量%以下」を「1.5〜2.9質量%」と改めるほかは、原判決44頁4行目から19行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
ウ 相違点121-6-Eについて 原判決45頁13行目から22行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(3) 以上のとおりであるから、請求項6に係る本件訂正により、乙12発明1に基づく本件発明6の進歩性欠如が解消されたとはいえない。
11 争点4-3(乙12発明2に基づく本件発明6の進歩性欠如の解消の有無) 【控訴人の主張】 前記10【控訴人の主張】のとおりである。
【被控訴人の主張】(1) 本件訂正発明6と乙12発明2との対比 本件訂正発明6と乙12発明2とを対比すると、両者の間には、相違点122-6-1ないし122-6-3のほか、次の相違点が存在する。
(相違点122-6-B) 製剤が含有する成分について、本件訂正発明6は、「固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤、及び、
アルカリ化物質を含まない固形製剤を除く」と特定されているのに対し、乙12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有し、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングしている点(2) 相違点122-6-Bに係る本件訂正発明6の構成の容易想到性 乙12発明2についても、前記10【被控訴人の主張】(2)アと同様のことが当てはまるから、当業者は、相違点122-6-Bに係る本件訂正発明6の構成に容易に想到し得たものである。
(3) 以上のとおりであるから、請求項6に係る本件訂正により、乙12発明2に基づく本件発明6の進歩性欠如が解消されたとはいえない。
12 争点4-4(乙62発明に基づく本件発明6の進歩性欠如の解消の有無) 【控訴人の主張】 乙62公報に記載された発明についても、前記10【控訴人の主張】と同じことが当てはまるから、請求項6に係る本件訂正により、乙62公報に記載された発明に基づく本件発明6の進歩性欠如は解消されたといえる。
【被控訴人の主張】(1) 本件訂正発明6と乙62発明との対比 本件訂正発明6と乙62発明とを対比すると、両者の間には、相違点62-6-1ないし62-6-3のほか、次の相違点が存在する。
(相違点62-6-B) 製剤が含有する成分について、本件訂正発明6は、「固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤、及び、
アルカリ化物質を含まない固形製剤を除く」と特定されているのに対し、乙62発明は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有し、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングしている点(2) 相違点62-6-Bに係る本件訂正発明6の構成の容易想到性 次のとおり改めるほかは、原判決50頁16行目から51頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決50頁16行目の「(イ)」を「ア」と改める。
イ 原判決51頁8行目の「(ウ)」を「イ」と改める。
(3) 以上のとおりであるから、請求項6に係る本件訂正により、乙62発明に基づく本件発明6の進歩性欠如が解消されたとはいえない。
13 争点4-5(本件発明6に係るサポート要件違反及び実施可能要件違反の解消の有無) 原判決52頁7行目から22行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
14 争点5-1(乙12発明1に基づく本件発明9の進歩性欠如の解消の有無) 【控訴人の主張】(1) 本件訂正発明9と乙12公報に記載された発明との対比 請求項9に係る本件訂正により、本件訂正発明9と乙12公報に記載された発明との間には、少なくとも次の相違点が生じることとなった。
(相違点12-9-@) 本件訂正発明9は、「固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤を除く」ものであるのに対し、乙12公報に記載された発明は、「ピタバスタチンの粒子若しくはピタバスタチンを含む粒子又は固形製剤が、(環境影響からの)保護および安定性を提供するポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構成とするものである点(2) 相違点12-9-@に係る本件訂正発明9の構成の想到困難性 原判決31頁26行目の「上記(1)」を「前記3【控訴人の主張】(2)」と改めるほかは、原判決31頁22行目から32頁10行目までに記載のとおりであるから、
これを引用する。
(3) 被控訴人が主張する相違点121-9-Bに係る本件訂正発明9の構成の想到困難性について 原判決32頁12行目から25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(4) 効果について 原判決33頁1行目から6行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(5) 以上によると、請求項9に係る本件訂正により、乙12公報に記載された発明に基づく本件発明9の進歩性欠如は解消されたといえる。
【被控訴人の主張】(1) 本件訂正発明9と乙12発明1との対比 本件訂正発明9と乙12発明1とを対比すると、両者の間には、相違点121-6-3及び121-6-4のほか、次の相違点が存在する。
(相違点121-9-A) 製剤が含有する成分について、本件訂正発明9は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤を除く」と特定しているのに対し、乙12発明1は、「コーティング」及び「コーティングされた粒子」が、「フィルム形成物質を含む、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤および1種類以上の医薬賦形剤の環境影響からの保護および安定性を、好ましくは酸化および/または環境湿度からの保護および安定性を提供するコーティング」及び該「コーティングでコーティングされている、イタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含む、
コーティングされた粒子および/またはイタバスタチンであるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子」であることを前提として、「(b)以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤と、(aa)1種類以上のフィラー;(bb)1種類以上のバインダー、(cc)1種類以上の崩壊剤、(dd)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(ee)1種類以上の緩衝化要素、(ff)1種類以上のアルカリ化要素、(gg)1種類以上の界面活性剤および(hh)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分、(c)前記コーティング、又は前記コーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティング」であってもよい点 (相違点121-9-B) 本件訂正発明9は、「水分含量が1.5〜2.9質量%である」と特定しているのに対して、乙12発明1は、「含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である」と特定している点 (相違点121-9-E) 本件訂正発明9は、「かつ、錠剤であって、気密包装体に収容される」と特定しているのに対し、乙12発明1は、そのような特定をしていない点(2) 相違点に係る本件訂正発明9の構成の容易想到性 ア 相違点121-9-Aについて 次のとおり改めるほかは、原判決27頁16行目から28頁25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決27頁20行目の「クロスポピドン」を「クロスポビドン」と改める。
(イ) 原判決27頁21行目の「また、」の次に「医薬剤形を」を加える。
イ 相違点121-9-Bについて 次のとおり改めるほかは、原判決29頁1行目から16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(ア) 原判決29頁2行目から3行目にかけての「ラクトン体形態」を「ラクトン形態」と改める。
(イ) 原判決29頁15行目の「相違点121-9-2」を「相違点121-9-B」と改める。
ウ 相違点121-9-Eについて 原判決30頁6行目から14行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(3) 以上のとおりであるから、請求項9に係る本件訂正により、乙12発明1に基づく本件発明9の進歩性欠如が解消されたとはいえない。
15 争点5-2(乙12発明2に基づく本件発明9の進歩性欠如の解消の有無) 【控訴人の主張】 前記14【控訴人の主張】(1)、(2)、(4)及び(5)のとおりである。
【被控訴人の主張】(1) 本件訂正発明9と乙12発明2との対比 本件訂正発明9と乙12発明2とを対比すると、両者の間には、相違点122-6-1及び122-6-3のほか、次の相違点が存在する。
(相違点122-9-B) 製剤が含有する成分について、本件訂正発明9は、「(B)クロスポビドン;を含有し、(C)カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有せず、
固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤を除く」と特定しているのに対し、乙12発明2は、「ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール」を含有する点(2) 相違点122-9-Bに係る本件訂正発明9の構成の容易想到性 次のとおり改めるほかは、原判決35頁13行目から36頁4行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決35頁13行目の「(ア)」を「ア」と改める。
イ 原判決35頁15行目の「相違点121-9-1」を「相違点121-9-A」と改める。
ウ 原判決35頁17行目の「(イ)」を「イ」と改める。
(3) 以上のとおりであるから、請求項9に係る本件訂正により、乙12発明2に基づく本件発明9の進歩性欠如が解消されたとはいえない。
16 争点5-3(乙62発明に基づく本件発明9の進歩性欠如の解消の有無) 【控訴人の主張】 (1) 乙62公報に記載された発明に基づいて本件訂正発明9が進歩性を欠くとの被控訴人の主張は、乙12公報に記載された発明に基づいて本件訂正発明9が進歩性を欠くとの被控訴人の主張と同一であるから、争点5-3についても、前記14【控訴人の主張】と同じことが当てはまる。
(2) 被控訴人の主張について 原判決37頁12行目から38頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
【被控訴人の主張】 原判決37頁5行目の「乙62発明は」を「乙62発明においては」と改めるほかは、原判決37頁2行目から10行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
17 争点5-4(本件発明9に係るサポート要件違反及び実施可能要件違反の解消の有無) 原判決38頁5行目から15行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
18 争点6(損害の額及び利得の額) 原判決67頁9行目から68頁22行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は全部理由がないものと判断する。その理由は、
次のとおりである。
2 本件発明6及び9について 次のとおり改めるほかは、原判決68頁25行目から85頁4行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決77頁7行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「【0046】 本発明において「気密包装体」とは、通常の取扱い、運搬又は保存等の状態において、水分の包装体外からの実質的な侵入を抑制し得る包装を意味し、第十六改正日本薬局方 通則に定義される「気密容器」及び「密封容器」を包含する概念である。当該包装体としては、定形、不定形のいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、ビン包装、SP(Strip Package)包装、PTP(Press Through Package)包装、ピロー包装、スティック包装等が挙げられる。本発明においては、さらにこれらを複数組み合わせたものであっ てもよく、具体的には例えば、固形製剤をまずPTP包装にて包装し、これをさらにピロー包装にて包装する形態が挙げられる。
【0047】 気密包装体の包装材料(素材)としては、防湿性を発揮し得るものであれば特に限定されず、医薬品や食品の分野で、水分に弱い内容物の防湿等を目的として用いられる材料を適宜用いることができる。
ビン包装に用いられるビン本体の材料としては例えば、ガラス、プラスチック(ポリエステル、ポリエチレン(低密度(LDPE)、高密度(HDPE)を含む)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン等)、金属(アルミニウム)等が挙げられる。また、栓や蓋の材料としては例えば、プラスチック(ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン等)、
金属(アルミニウム)等が挙げられる。ビン包装するに際しては、例えば、本発明の固形製剤を、市販のビン内に適当な数量格納し、次いで、適当な栓や蓋で封をすればよい。なお、ビンは、格納する固形製剤の数量に応じた大きさのものを適宜選択すればよく、ビンの容量としては、例えば、10〜500mL程度であり、14〜400mLが好ましく、24〜350mLがより好ましい。ビン包装の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)が特に好ましい。」 (2) 原判決83頁12行目(行数は、原判決左余白欄の付記による。)から14行目までを以下のとおり改める。
「(2) 本件発明6及び9の概要 上記(1)によると、本件発明6及び9の概要は、次のとおりであると認められる。」(3) 原判決84頁26行目から85頁4行目までを以下のとおり改める。
「ウ 以上のとおり、本件発明6及び9は、有効成分であるピタバスタチン又は その塩と、崩壊剤であるカルメロース又はその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースからなる群から選ばれる1種以上を含有する固形薬剤の水分含量を2.9質量%以下とすることにより、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体の生成を抑制し、固形製剤中のピタバスタチン又はその塩の安定性を良好にするとともに、崩壊性に優れ、有効成分の放出と薬効発揮を確実にするとの効果を奏するものである。」 3 争点2-2(乙12発明2に基づく本件発明6の進歩性欠如)について 事案に鑑み、乙12発明2に係る争点である争点2-2、争点3-2、争点4-3、争点5-2の順に検討する。
(1) 乙12公報の記載 乙12公報には、次の記載がある。
ア 「技術分野 本発明は、製薬業界の分野に関し、より特定的には、環境影響に敏感な活性物質を含む、コーティングされた粒子および医薬剤形に関する。
…本発明のコーティングされていない医薬剤形は、本発明のコーティングされた粒子と、1種類以上の医薬賦形剤とを含み、このような粒子のコーティングは、活性物質と1種類以上の医薬賦形剤を環境影響から、特に酸化および/または環境湿度から保護する。」(1頁2行〜2頁5行) イ 「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン類)は、特に、環境pH、
湿度、光、温度、二酸化炭素および酸素にも敏感な活性物質である。」(6頁7行〜8行) ウ 「スタチン類の中でも、例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、メバスタチンまたはコンパクチン、フルバスタチンまたはフルインドスタチン、セル(セリ)バスタチンまたはリバスタチン、ロスバスタチンまたはビスタスタチン、およびイタバスタチンまたはピタバスタチンまたはニスバスタチンが知られている。」(6頁25行〜28行) エ 「上述のスタチン類の多くは、特に環境影響、例えば、大気の影響や環境pHに敏感である。従来技術では、特定のスタチン類は、酸性環境(低pH値)に敏感であり、ラクトン形態および異なる異性体に分解されることが知られている。例えば、プラバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチンおよびフルバスタチンは、酸性環境では、ラクトン形態に変換される。」(8頁7行〜12行) オ 「上述の解決策に加え、酸化からの予防は、活性物質の周囲の空間の酸素含有量と、パッケージの壁および蓋を介する酸素の透過性が制御される包装によって達成することができる。」(13頁1行〜3行) カ 「したがって、本発明の目的は、環境影響に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。さらに、本発明の目的は、酸化および環境湿度に敏感な活性物質を保護し、その結果として安定化し、このような活性物質と1種類以上の医薬賦形剤とを含む医薬剤形を安定化することである。好ましくは、本発明の目的は、活性物質と酸素との接触を防ぎ、それによって、活性物質の分解生成物(好ましくは酸化分解生成物および医薬賦形剤の分解生成物)の発生を防ぐことによって、環境影響に対して、好ましくは、酸化に対して、スタチンである活性物質を保護し、その結果として安定化することである。
発明の説明 本発明の第1の目的は、環境影響から、特に、酸化および/または環境湿度から、
活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護を与え、その結果として、安定性を与えるコーティングである。
本発明の文脈において、本発明のコーティングという用語は、活性物質、または、
マイクロカプセル、微小球、顆粒、ペレットなどの規則的な形状または不規則な形状の粒子の形態の1種類以上の医薬賦形剤を含む活性物質、または錠剤、カプセルまたは従来技術で公知の同様な形態からなる群から選択される医薬剤形のいずれかであるコアに直接的に塗布される材料の層である。このようなコーティングは、環 境影響から、特に、酸化および/または環境湿度から活性物質および1種類以上の医薬賦形剤をそれぞれ保護する。さらに、本発明のコーティングは、環境pH値にかかわらず、胃腸管の全ての部分における活性物質の放出を可能にする。」(15頁7行〜16頁11行) キ 「本発明の活性物質は、環境影響に敏感であり、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される活性物質である。好ましくは、酸化および環境湿度に敏感な本発明の活性物質は、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である。
本発明の文脈において、コーティングは、1つ以上の膜形成剤を含む材料の層である。適切な膜形成剤は、(環境影響に敏感な)粒子に、または活性物質を含む医薬剤形のコアにコーティングの形態で塗布され、環境影響からの、好ましくは酸化および/または環境湿度に対する活性物質の保護を与える任意の膜形成剤である。
最も好ましくは、このような膜形成剤は、活性物質を酸化から保護する任意の膜形成剤である。上述の膜形成剤は、ポリビニルアルコール(PVA)およびセルロースの誘導体からなる群から選択される。セルロースの誘導体の中で、フィルム形成剤は、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)またはヒドロキシエチルセルロース(HEC)であり、最も好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)である。」(16頁12行〜29行) ク 「本発明の医薬剤形のフィラーは、結晶セルロース(MCC)、結晶セルロースの改変形態、ラクトース、糖類、異なる種類のデンプン、デンプンの改変形態、
マンニトール、ソルビトールおよび他のポリオール、デキストリン、デキストランおよびマルトデキストリン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムおよび/またはリン酸水素塩、硫酸塩およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されても よい。フィラーは、医薬剤形の総重量に対して1〜99%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形のバインダーは、ラクトース、様々な種類のデンプン、デンプンの改変された形態、デキストリン、デキストランおよびマルトデキストリン、結晶セルロース(MCC)、糖類、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、アカシア、トラガカント、ポリビニルピロリドン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。バインダーは、医薬剤形の総質量に対して0.5〜20%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の崩壊剤は、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム、
架橋したポリビニルピロリドン、架橋したカルボキシメチルデンプン、様々な種類のデンプンおよび結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポラクリリンカリウム、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。
崩壊剤は、医薬剤形の総質量に対して2〜20%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、カルシウム及び亜鉛、
ベヘン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、マグネシウム三ケイ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、カルナバロウ、二酸化ケイ素およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。滑沢剤または滑剤は、医薬剤形の総質量に対して0.1〜10%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の緩衝化要素は、弱酸と強塩基の塩または強酸と弱塩基の塩、
または所定範囲のpHを維持する他の類似物質である。緩衝化要素は、
a)クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ソルビン酸、コハク酸、安息香酸、
リン酸、炭酸、硫酸、硝酸、ホウ酸およびケイ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩;b)強酸または弱酸と組み合わせたアミン(例えば、トロメタミン(TRIS)、
EDTA);c)イオン交換体;およびd)これらの任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。
緩衝化要素は、医薬剤形の総質量に対して0〜50%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形のアルカリ化要素は、アルカリ作用を有する基を含む有機化合物または無機化合物からなる群から選択され、以下からなる群から選択されてもよい:a)アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および水酸化物、周期律表の4、5および/または6族の酸化物、例えば、MgO、MgOH、NaOH、
Ca(OH)2;b)アミン、例えば、トロメタミン(TRIS)、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチル-グルカミン、グルコサミン、エチレンジアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン;c)アルカリアミノ酸、例えば、アルギニン、ヒスチジンおよびリシン。
アルカリ化要素は、医薬剤形の総質量に対して0〜50%の濃度で添加される。
本発明の医薬剤形の界面活性剤は、イオン性界面活性剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、非イオン性界面活性剤、例えば、様々な種類のポロキサマー(ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのコポリマー)、天然または合成のレシチン、
ソルビタンと脂肪酸のエステル(例えば、Span(登録商標)(Atlas Chemie))、ポリオキシエチレンソルビタンと脂肪酸のエステル(例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、例えば、それぞれ、Polysorbate80およびTween(登録商標)(Atlas Chemie))、ポリオキシエチル化水素化ヒマシ油(例えば、Cremophor(登録商標)(BASF))、ポリオキシエチレンステアレート(例えば、Myrj(登録商標)(Atlas Chemie))またはカチオン性界面活性剤、例えば、
セチルピリジンクロリド、または上述の界面活性剤の任意の組み合わせからなる群から選択されてもよい。界面活性剤は、医薬剤形の総質量に対して0〜15%の濃度で添加される。
固形医薬剤形のための他の要素は、従来技術から知られており、従来からあるものであり、固形医薬剤形の分野において使用されている。これらの他の要素は、着色剤、香味剤および吸着材料からなる群から選択される。
本発明の医薬剤形は、好ましくは、固形医薬剤形である。
本発明の医薬剤形は、環境湿度に感受性の活性物質を含み、医薬品剤形全体の5%未満、好ましくは4%未満、最も好ましくは3%未満の含水量を有する。本発明の医薬剤形は、低湿度で、活性物質HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がヒドロキシル酸形態からラクトン形態へと変換するのを防ぎ、すなわち、乾燥時に5%の減量(LODが5%未満)であり、好ましくは、LODが4%未満、最も好ましくは3%未満である。」(23頁22行〜26頁13行) ケ 「実施例8 あるコーティングされた錠剤の組成 8.1.錠剤コア 表20.コアの組成 錠剤コアの調製 ラウリル硫酸ナトリウムの溶液を、アトルバスタチンCaの上 の温かい空気流に分散させた。得られた顆粒を乾燥させ、ふるい分けした。ProSolv SMCC 90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロースを均一に混合した。ステアリン酸マグネシウムおよびタルクを添加し、均一に混合し、圧縮して質量200mgの錠剤にした。
8.2.錠剤のコーティング 表21.コーティングの組成 コーティング分散物の調製および錠剤コアのコーティング 粘度が25〜50mPasのカルボキシメチルセルロースナトリウム(Blanose CMC 7LF PH、Aqualon)(109.00g)と、グリセロール(11.00g)を、混合しつつ、水(2513.60g)に溶解した。得られた分散物を、コア質量に対して8重量%のコーティングが得られるまで、コアに噴霧した。コーティングプロセスの間、錠剤の質量を制御し、これによりコーティングの質量を決定した。
8.3.錠剤のpH値の決定 電位差測定により測定した実施例8の錠剤のpH値は6.7であった。同じ手順で、アトルバスタチンCaとProSolv SMCC 90との混合物(錠剤中のそれらの重量比に等しい比の混合物)のpH値を測定したところ、7.93であった。
活性物質とフィラーProSolv SMCC 90との錠剤と混合物のpH値を、40mgのアトルバスタチンCaのアッセイを含む1個の錠剤の20ml水性分散物中と、上記錠剤中に存在する量の活性物質とフィラーProSolv SM CC 90との混合物の分散物中で決定した。pH値を、組み合わせたマイクロpH電極Methrom 6.0204.100 pH 14/070℃を用いた分析装置720 KFS Titrino Methromで決定した。
8.4.異なる雰囲気における実施例8の医薬剤形中の活性物質の安定性の分析 分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)の発生に対する水/湿度および医薬賦形剤の影響を、異なる乾燥剤(乾燥剤なし、シリカゲル、モレキュラーシーブ)を用いたパッケージ(HDPEプラスチック瓶)の中のコーティングされた錠剤を試験することによって評価した。コーティングされた錠剤を、40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した。アトルバスタチンの分解生成物(ラクトンおよび酸化分解生成物)のアッセイを液体クロマトグラフィーによって測定した。参照サンプルとして、冷蔵庫(2〜8℃)に保存した錠剤を分析した。錠剤中の含水量を、乾燥減量(LOD)を測定することにより、重量測定法により測定した。
表22.40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保 存した本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(ラクトン)のアッセイにおける増加 加速安定性条件下で1ヶ月試験した後、乾燥剤を加えた錠剤では水分率が低いことに起因して、錠剤中のラクトンは、乾燥剤を加えない錠剤(レベルは0.22%)と比較して、かなり少ない割合で生成した(レベル0.05%)。決定された湿度レベル(すなわち、乾燥減量として概算される3.50%未満の水分)の下で、錠剤中で生成したラクトンの割合の差は、有意ではなかった。
表23.40/75(40℃±2℃、75%RH±5%)の条件下で1ヶ月間保存した本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)のアッセイにおける増加 加速安定性条件下で1ヶ月試験した後、本発明のコーティングされた錠剤中のアトルバスタチンの分解生成物(酸化分解生成物)の増加は、コーティングされていない錠剤よりも有意に小さかった。」(41頁6行〜44頁2行) コ 「特許請求の範囲 1.ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体またはこれらの組み合わせからなる群から選択されるフィルム形成物質を含む、環境影響からの活性物質および1種類以上の医薬賦形剤および/または医薬剤形の保護および安定性を提供するコーティング。
…19.粒子が請求項1〜18に記載のコーティングでコーティングされている、環境影響に敏感な活性物質を含む、コーティングされた粒子。
…25.医薬剤形であって、
(a)請求項19〜24に記載の1つ以上のコーティングされた粒子および/または環境影響に敏感な1種類以上の活性物質を含有する1つ以上のコーティングされていない粒子の混合物と、
(b)1種類以上の医薬賦形剤と、
(c)請求項1〜18に記載のコーティング、又は請求項19〜24に記載のコーティングされた粒子が医薬剤形に埋め込まれている場合には従来技術で知られている他のコーティングを含む、医薬剤形。
…27.前記活性物質が、プラバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、シンバスタチンおよびロバスタチンからなる群から選択されるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤、カプトプリル、クロルプロマジン、モルヒネ、L-アスコルビン酸、ビタミンE、フェニルブタゾン、テトラサイクリンおよびオメプラゾールからなる群から選択される、請求項25および26に記載の医薬剤形。
…29.以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤を含む、請求項25〜28に記載の医薬剤形。(a)1種類以上のフィラー;(b)1種類以上のバインダー、
(c)1種類以上の崩壊剤、(d)1種類以上の滑沢剤または滑剤、(e)1種類 以上の緩衝化要素、(f)1種類以上のアルカリ化要素、(g)1種類以上の界面活性剤および(h)着色剤、香味剤および吸着物質からなる群から選択される従来技術で知られている固形剤形のための他の成分…32.含水量が、前記医薬剤形全体の3重量%未満である、請求項25〜31に記載の医薬剤形。」(54頁2行〜58頁18行)(2) 乙12公報に記載された発明 前記(1)のとおりの乙12公報の記載(実施例8)及び弁論の全趣旨によると、
乙12公報には、次の発明(以下「乙12発明」という。)が記載されているものと認められる。
(乙12発明) HMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるアトルバスタチンCaと、
ラウリル硫酸ナトリウム、Prosolv SMCC90、アルファデンプン化されたコーンスターチ、架橋カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム及びタルクからなる錠剤コアに、
カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングした錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、
水分が2.73、1.99、1.55又は1.73%である医薬剤形。
(3) 本件発明6と乙12発明との対比 ア 本件明細書(段落【0002】)には、ピタバスタチン又はその塩が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する旨が記載されているところ、還元酵素とレダクターゼは同義であるから、本件発明6の「ピタバスタチン又はその塩」は、
「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」の化合物である。
イ 「カルボキシメチルセルロース」が「カルメロース」の別名であることは明らかであり、また、「カルメロース及びその塩」には、「カルメロースやその薬学 上許容される塩の架橋重合物(クロスカルメロース)」も包含され(本件明細書の段落【0018】)、さらに、「Prosolv SMCC90」(登録商標)は、
「結晶セルロース」の一種であるから(乙1公報の18頁12行〜17行)、「架橋カルボキシメチルセルロース」及び「Prosolv SMCC90」を含有する乙12発明は、本件発明6の「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上を含有」するとの構成を備えている。
ウ 乙12発明における水分は、重量測定法により測定されているから(乙12公報の42頁24行〜25行)、水分が「2.73、1.99、1.55又は1.73%」である乙12発明は、本件発明6の「水分含量が2.9質量%以下である」との構成を備えている。
エ 乙12発明は「錠剤」であり、これが本件発明6の「固形製剤」に相当することは明らかである。
オ 以上によると、本件発明6と乙12発明とは、次の相違点で相違するものと認められる。
(相違点1) HMG-CoAレダクターゼ阻害剤である化合物について、本件発明6は、「ピタバスタチン又はその塩」であるのに対し、乙12発明は、「アトルバスタチンCa」である点(4) 相違点1に係る本件発明6の構成の容易想到性 ア 特開2012-144564号公報(以下「乙3公報」という。)の記載 乙3公報には、次の記載がある。
【背景技術】【0002】 現在、高脂血症治療剤や高コレステロール血症治療剤として、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有するスタチン類を有効成分とする医薬品が多数開発・上市され ている。こうしたスタチン類としては、具体的には例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチンカルシウム、ロスバスタチンカルシウムが挙げられ、これらの化合物はいずれもジヒドロキシカルボン酸(3,5-ジヒドロキシヘプタン酸又は3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸)骨格を共通骨格として有している。
【0003】 上記スタチン類の共通骨格であるジヒドロキシカルボン酸骨格は分子内で環化し、
HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体を生成することが知られている。
医薬品製剤中でのラクトン体の生成は、医薬品の有効性の低下や医薬品間での有効性の不均一性の原因ともなり得る。
イ 特開2011-144120号公報(以下「乙5公報」という。)の記載 乙5公報には、次の記載がある。
【0001】本発明はHMG-CoAレダクターゼ阻害薬を含有する安定化された経口固形製剤に関する。HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は高コレステロール血症の治療に対して有効な薬物であり、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される。ここでいうHMG-CoAレダクターゼ阻害薬はその薬学上許容される塩、水和物も含み、特定の塩を意味する場合を除き、フリー体で総称する場合もある。
【背景技術】【0002】HMG-CoAレダクターゼ阻害薬は一般的に熱、水分及び酸に対し不安定である。
これらは共通してヒドロキシ酸を有し、酸性環境下では類縁物質であるラクトン体を生じ易いため、種々の安定化特許が出願されている。
【0003】 …本発明者らはHMG-CoAレダクターゼ阻害薬、例えばアトルバスタチンが高温環境下や水分を多く含む賦形剤と接触するとラクトン体が増加するなど好ましくない事象が発生することを見出した。
ウ 乙3公報、乙5公報、乙12公報及び本件明細書の記載によると、「アトルバスタチンCa」は、HMG-CoA還元酵素阻害活性を有するスタチン類に属する化合物であり、本件発明6の「ピタバスタチン又はその塩」と同様の薬効を有するといえる。
また、乙3公報及び乙5公報の記載によると、「ピタバスタチン又はその塩」及び「アトルバスタチンCa」は、ともにスタチン類であり、ジヒドロキシカルボン酸骨格という共通骨格を有するところ、「ピタバスタチン又はその塩」及び「アトルバスタチンCa」については、いずれもこの共通骨格が環化することにより、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体が生成され、医薬品の有効性の低下等の弊害をもたらすが、水分量を低く抑えることによって、ラクトン体の生成を抑制することができるものであり、両者は、ラクトン体の生成及びその抑制の機序においても共通するものであるといえる(なお、乙12公報には、「イタバスタチン」との記載があるが、特表2004-537553号公報(乙14)の段落【0083】等の記載及び特表2005-520818号公報(乙15)の段落【0003】の記載に加え、乙12公報(7頁22行〜23行)に記載されたイタバスタチンの化学名と本件明細書(段落【0002】)に記載されたピタバスタチンカルシウムの化学名との比較も併せ考慮すると、乙12公報に記載された「イタバスタチン」は、本件発明6の「ピタバスタチン」と同義であると認められる。)。
加えて、乙12公報自体、スタチン類(HMG-CoAレダクターゼ阻害剤)の例として、「アトルバスタチン」のほか、「イタバスタチン」を挙げている。
以上によると、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤である化合物に関し、乙12発明の「アトルバスタチンCa」に代えて、薬効もラクトン体の生成及び抑制の機 序も同じである「ピタバスタチン又はその塩」とすることは、本件出願日当時の当業者が適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(5) 本件発明6の効果 補正して引用する原判決第4の1(2)のとおり、本件発明6は、HMG-CoA還元酵素阻害活性の低いラクトン体の生成を抑制するとともに、崩壊性に優れるとの効果を奏するものである。
この点に関し、乙12公報(実施例8)にも、水分含量を抑えた錠剤において本件相関関係が認められる旨の記載があるところ、本件明細書の記載(試験例1及び2)は、水分含量を2.9重量%以下とすることによって初めて本件相関関係が認められることを示すものではない。
また、本件発明6の「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上」とは、崩壊剤(本件崩壊剤)として用いられるものを指すところ(本件明細書の段落【0008】、【0009】等)、本件崩壊剤を混合して得られた本件混合物又は本件混合物に係る固形製剤若しくは医薬品である本件混合物等(本件発明6)が崩壊性に優れることは、自明のことである。
そうすると、本件発明6の上記各効果は、本件出願日当時の当業者が乙12発明から予測し得た範囲内のものにすぎないというべきであり、これが格別顕著なものであるということはできない。
(6) 小括 以上のとおりであるから、本件発明6は、本件出願日当時の当業者が乙12発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
4 争点3-2(乙12発明2に基づく本件発明9の進歩性欠如)について(1) 本件発明9と乙12発明との対比 前記3(3)のとおりであるから、本件発明9と乙12発明とを対比すると、両発明の間には、本件発明6の場合と同様、相違点1が存在するものと認められる。
(2) 相違点1に係る本件発明9の構成の容易想到性 前記3(4)のとおりであるから、本件出願日当時の当業者は、相違点1に係る本件発明9の構成に容易に想到し得たものであると認められる。
(3) 本件発明9の効果 前記3(5)において説示したところに照らすと、本件発明9についても、その効果は、本件出願日当時の当業者が乙12発明から予測し得た範囲内のものにすぎず、
これが格別顕著なものであるということはできない。
(4) 小括 以上のとおりであるから、本件発明9は、本件出願日当時の当業者が乙12発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
5 争点4-3(乙12発明2に基づく本件発明6の進歩性欠如の解消の有無)について (1) 本件訂正発明6と乙12発明との対比 ア 本件訂正発明6の「ピタバスタチン又はその塩」が「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」の化合物であることは、前記3(3)アのとおりである。
イ 「架橋カルボキシメチルセルロース」及び「Prosolv SMCC90」を含有する乙12発明が本件訂正発明6の「カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上を含有」するとの構成を備えていることは、前記3(3)イのとおりである。
ウ 前記3(3)ウにおいて説示したところに照らすと、水分が「2.73、1.99、1.55又は1.73%」である乙12発明は、本件訂正発明6の「かつ、
水分含量が1.5〜2.9質量%である」との構成を備えている。
エ 乙12発明は「錠剤」であり、これが本件訂正発明6の「固形製剤であって、
かつ錠剤であって、」に相当することは明らかである。
オ 本件明細書の記載(段落【0046】、【0047】)によると、本件訂正発明6の「気密包装体」とは、瓶包装を含み、「気密包装体」の包装材料(素材) は、防湿性を発揮し得るものであれば特に限定されず、瓶包装に用いられる瓶本体の材料として、プラスチック(高密度ポリエチレン(HDPE)を含む。)が挙げられている。また、本件明細書(段落【0045】)には、「例えば、気密包装体にて収容する前において固形製剤の水分含量が2.9質量%以上であっても、乾燥剤を同封する等の手段により気密包装体の内部において固形製剤の水分含量が2.9質量%以下となっていれば…本発明の「医薬品」に包含される。」との記載がある。加えて、前記エも併せ考慮すると、乙12発明の「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、」は、本件訂正発明6の「錠剤であって、気密包装体に収容される固形製剤」に相当するといえる。
カ 以上によると、本件訂正発明6と乙12発明とは、相違点1のほか、次の相違点で相違するものと認められる。
(相違点2) 本件訂正発明6は、固形製剤がコーティングされていることは特定されておらず、
固形製剤又は成分(A)の粒子若しくは成分(A)を含む粒子がポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされている固形製剤を除くものであるのに対し、乙12発明は、固形製剤がカルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物でコーティングされている点 (相違点3) 本件訂正発明6は、アルカリ化物質を含まない固形製剤を除くものであるのに対し、乙12発明は、そのような固形製剤を除くものではない点(2) 相違点に係る本件訂正発明6の構成の容易想到性 ア 相違点2について(ア) 乙12発明における「コーティング」の技術的意義について 乙12の記載(前記3(1)アないしキ)によると、乙12発明における「コーティング」の技術的意義は、次のようなものであると認められる。すなわち、HMG -CoAレダクターゼ阻害剤であるスタチン類は、環境影響(環境pH、湿度、光、
温度、二酸化炭素、酸素等)に敏感な活性物質であり、例えば、アトルバスタチン、
イタバスタチン等のスタチン類は、酸性環境(低pH値)でラクトン形態に変換されることが知られている。したがって、乙12発明の目的は、環境影響(酸化、環境湿度等)に敏感なスタチン類を保護し、スタチン類を安定化することであり、乙12発明の「コーティング」(スタチン類を含む医薬製剤等のコアに直接的に塗布される材料の層(1つ以上の膜形成剤を含むもの))は、環境影響(酸化、環境湿度等)からスタチン類を保護し、スタチン類に対して安定性を与えるものである。
(イ) 医薬品の「コーティング」について a 特表平11-503763号公報(乙13)には、次の記載がある。
(a) 「背景技術 下記の一般式…で示される7-置換-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸類がHMG-CoA還元酸素阻害作用を有し、高脂血症治療剤や、アテローム性動脈硬化症治療剤として有用であることが知られている…。
しかし、これらの7-置換-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸類は、低pHにおいて不安定であり、これらの製剤化のためには特別の措置を講じる必要があり、炭酸カルシウムや炭酸ナトリウムなどを用いてpH8以上のアルカリ性媒体を含んでなる製剤化…や、酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムなどを用いてpH9以上を付与する塩基性化剤を含有してなる製剤化…などが提案されている。
下記の構造式…で示される (E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4’-4”フルオロフェニル-2’-シクロプロピル-キノリン-3’-イル]-6-ヘプテン酸(以下、NK-104ともいう。)、その塩又はそのエステルは前記一般式で示されるHMG-CoA還元酵素阻害剤の一種であり、高脂血症剤、アテローム性動脈硬化症治療剤として有用であることが知られている…。NK-104も低pHでは不安定であり、製剤化には多くの困難性があった。
従来これらのHMG-CoA還元酵素阻害剤はpH8以上、望ましくはpH9以上で製剤化することが報告されているが、NK-104、その塩又はそのエステルは意外にも高pH領域においても不安定であることが見出された。
したがって、NK-104、その塩又はそのエステルは従来の製剤化の方法では経時的安定性が低く、特に経時的に外観変化が生じるという問題があり、安定な製剤の開発が望まれていた。
発明の開示 本発明者らは、NK-104を含有する安定な医薬組成物を得るべく種々検討した結果、意外にもNK-104は比較的低いpH領域で安定であることを見出し、
本発明を完成した。
また、本発明者らは、NK-104を含有する医薬組成物の水溶液もしくは分散液のpHが7以上8以下になるように塩基性物質を添加すると安定なNK-104を含有する医薬製剤が得られることを見出した。
本発明の目的は、NK-104を含有する医薬組成物を水溶液又は分散液にした場合のpHが7以上8以下であるNK-104、その塩又はエステルを含有する医薬組成物を提供するものである。」(3頁9行〜5頁2行) (b) 「崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルボキシスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンなどを単独又は組み合わせて使用することができるが、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの使用が特に好ましい。」(6頁17行〜21行) (c) 「本発明の組成物は更にコーティングして、フィルムコーティング錠、糖衣錠などとしてもよい。コーティング基剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、白糖、プルランなどを使用することができる。」(7頁13行〜16行) b 掛見喜一郎代表編集「最新の製剤技術シリーズNo.1 医薬品のコーティング」(昭和44年)(乙60)には、次の記載がある。
「…固形医薬品の安定性を高める目的でコーティングが利用されているが、いずれの場合も耐水性を有し水蒸気・酸素などの透過の少ない皮膜剤を用いてコーティングを施すことによって目的を達することができる。このように医薬品を保護してその分解を防ぐ目的で施すコーティングを Protective Coating(保護コーティング)といい、古くから糖衣操作に際して用いられている。この Protective Coatingは使用する皮膜剤の性質によってその効果が左右される…。
… ここでこのような目的に用いる Protective Coating 剤に要求せられる性質を列挙すると、
1)有機溶媒に溶解し、その溶液から皮膜を作ること。
2)皮膜は耐水・耐湿性および防湿性を有すること。
3)皮膜は適当な強度を有し、安定で経時変化を起さないこと。
4)体内で容易に崩壊すること。
5)コーティング操作が容易であること。
6)毒性を有しないこと。
などである。
3-1 Protective Coating 剤の種類 以上のような Protective Coating 剤に必要な諸性質をもった皮膜剤を得る1つの方法は、皮膜形成性などの諸性質を有する皮膜剤に体内消化管内で溶解する性質を与える方法で、アミノ基または塩基性を有する置換基を導入して胃の酸性で溶解する性質を与え、またカルボキシル基など酸性基を導入して腸溶性を有する皮膜剤が得られる。… したがって、基礎皮膜剤と導入基の種類、あるいは単量体や共単量体の種類と重合比率などによっていろいろの種類の、いろいろの性質をもった皮膜剤が作られ報 告せられている。
… 3-1-1 胃溶性皮膜剤 胃溶性皮膜剤に関する報告・特許は医薬用コーティング剤の中で最も多い。これらの中で報文の中から一応 Protective Coating 剤として用い得ると考えられるものを分類し、代表的なものを例示するとつぎの通りである。
(I)セルローズ誘導体 皮膜性を有するセルローズ誘導体にアミノ基またはアミノ基を有する置換基を導入したもので、次の3つに分けられる。
…(II)糖誘導体 例えば、dodecylamino N-lactoside のような糖とアミンの反応生成物で、皮膜強度がやや劣る。
(III)ポリビニール誘導体 高分子化合物にアミノ基を導入したものとしてポリビニールアミン やポリビニールアミノアセタール などポリビニールアルコールが骨核となるものや、モノマーを重合せしめたものとしてビニールピリジン系重合体などがその主なものである。
…3-2 Protective Coating 剤の性質… 3-2-3 保護作用 皮膜の保護作用に直接関係するのは耐湿・耐水性であるが実用化せられている皮膜剤の水蒸気透過係数は 10-10・g・cm/cm2・sec・cmHg 程度のものが多い…。」(37頁下から8行〜42頁最終行) c 橋田充編「経口投与製剤の処方設計」(平成10年)(乙61)には、次の記載がある。
「6 コーティング剤(1)コーティング剤とは 味をマスクしたり、外気や湿気の遮断、体内での崩壊・溶出の調節(腸溶性、徐放性など)のために、錠剤、顆粒剤などに施す剤皮がコーティング剤である。
(2)コーティング剤の種類 コーティング剤の種類は多く、目的により使い分けられるようになってきている。
味のマスク、外気や湿度の遮断には、多層構造の糖衣が古くから用いられており、
白糖を主にタルク、沈降炭酸カルシウム、カオリン、硫酸カルシウム、アラビアゴム末などを配合し形を整え、ワックスなどで光沢を与えた製剤としているが、本節では、最近主流となっているフィルムコーティングに使用されるコーティング剤について記述する。
フィルムコーティング剤には、物性や用途により次の種類に分類される。
@ 水溶性コーティング剤 A 胃溶性コーティング剤 B 腸溶性コーティング剤 C 徐放性コーティング剤…(3)水溶性コーティング剤 味のマスク、遮光などを目的として汎用的に使用されるコーティング剤であり、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースがよく使用されている。
…(4)胃溶性コーティング剤 胃液中(pH5.0 以下)で速やかに溶け、水には安定で内部の薬物に変化を与えないことを目的とするコーティング剤である。防湿性に富んでいるため湿気に不安定な薬物を含む薬剤のコーティング剤として広く使用されているが、日局 12 第 2 追補における崩壊試験法改定で剤皮を施した錠剤の試験液が日局第1液(pH1.2)から水に変更となったことから、胃溶性コーティング剤単独使用では崩壊試験に適合しにくくなったため、水溶性コーティング剤と併用することが多くなった。種類としては、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEがよく使用されている。
a)ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート…・使用法と留意点 エタノールなど一般的な有機溶剤に溶かして使用でき、低粘度で伸びがよいので均一で丈夫な皮膜を形成する。pH5.8 以下で溶解し、防湿性に非常に優れている。また、水溶性高分子と混合して水系コーティングを行うことができる。
b)アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE…・使用法と留意点 エタノール/水系でコーティングでき、造膜性に優れ強固な膜を形成し、防湿性にも優れている。フィルムは pH5.0 以下で溶解し、pH5.0 以上で膨潤して薬物を放出する。
(5)腸溶性コーティング剤 胃の中で変化を受けず、腸で速やかに溶解または崩壊する性質のコーティング剤であり、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートがよく使用されている。
a)メタアクリル酸コポリマーL…・使用法と留意点 エタノール/水系でコーティングでき、造膜性に優れ強固な膜を形成し、耐酸性および防湿性にも優れている。…… (6)徐放性コーティング剤 水溶性のコーティング剤であり、皮膜に柔軟性を与えるために可塑剤を添加して使用する。形成膜による水の拡散速度の抑制により、製剤の崩壊や薬剤の溶解を制御するため、一定した皮膜を形成させるための製剤技術が必要となる。種類としては、エチルセルロース、エチルセルロース水分散液、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチルコポリマーエマルションがよく使用されている。
a)エチルセルロース…・使用法と留意点 有機溶剤に溶解して使用する。フィルムは耐衝撃性、防湿性に優れている。可塑剤を加えると軟化温度を示し熱可塑性樹脂となる。」(107頁9行〜110頁32行)(ウ) 前記(ア)及び(イ)によると、乙12発明における「コーティング」は、酸化や環境湿度等に敏感なスタチン類(HMG-CoAレダクターゼ阻害剤)を保護し、これを安定化するために塗布される材料の層であるところ、従来から、固形医薬品の安定性を高める目的で保護コーティングが施され、その材料として様々なもの(ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体ではないアミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを含む。)が開発されていることが周知であり、特に、HMG-CoA還元酵素阻害剤のコーティング材料として、カルメロース及びその塩、
クロスポビドン等の崩壊剤と共に、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEを用い得ることが知られていたものと認めることができる。
そうすると、乙12発明の「コーティング」の材料として、「カルボキシメチルセルロースナトリウム、グリセロール及び水からなる分散物」に代え、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE等の「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体」を含まない周知のものを採用することは、乙12公報に接した本件出願日当時の当業者において適宜なし得たことであると認めるのが相当である。
(エ) 控訴人の主張について 控訴人は、乙12発明は「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」を必須の構成とするものであり、これを従来技術として知られている他のコーティングに変更することは想定されていないから、上記の必須の構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構成に変更することには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら、乙12公報の記載(前記3(1)キ)を見ても、乙12発明の適切な「膜形成剤」は、(環境影響に敏感な)粒子又は活性物質を含む医薬剤形のコアにコーティングの形態で塗布され、環境影響(酸化及び/又は環境湿度等)から活性物質を保護する任意のものであり、最も好ましい「膜形成剤」は、活性物質を酸化から保護する任意のものであるとまず理解され、当該任意の「膜形成剤」のうち好適なものがポリビニルアルコール(PVA)及びセルロース誘導体からなる群から選択されるものであると理解するのが自然であるから、「ポリビニルアルコール又はセルロース誘導体をフィルム形成剤として含む材料の層でコーティングされた構成」が乙12発明の必須の構成であると認めることはできない。したがって、この構成を相違点2に係る本件訂正発明6の構成に変更することに阻害要因があるということはできない。
イ 相違点3について 本件訂正発明6の「アルカリ化物質を含まない固形製剤を除く」とは、「アルカリ化物質」を含む固形製剤とすることを意味するものと解されるところ、乙12公報の記載(「本発明の医薬剤形のアルカリ化要素は、アルカリ作用を有する基を含む有機化合物または無機化合物からなる群から選択され、以下からなる群から選択されてもよい。」(25頁7行〜9行)、「29.以下の群から選択される1種類以上の医薬賦形剤を含む、請求項25〜28に記載の医薬剤形。…(f)1種類以上のアルカリ化要素…」(58頁6行〜10行)等)によると、乙12発明において「アルカリ化物質」を含む固形製剤とすることは、本件出願日当時の当業者が容 易になし得たことであると認めるのが相当である。
(3) 本件訂正発明6の効果 ア 本件明細書の記載(段落【0013】、【0025】)によると、本件訂正発明6は、本件発明6が奏する効果に加え、固形製剤が気密保存可能な包装体によって包装されることにより包装体の内部に水分が浸入することが妨げられるため、
長期間にわたって包装体の内部の固形製剤の水分含量が安定的に保たれ、もって、
固形製剤中におけるピタバスタチン又はその塩に由来するラクトン体の生成が長期間にわたって抑制され、また、水分含量が1.5質量%以上の場合、5-ケト体の生成も抑制され、固形製剤中のピタバスタチンの安定性を特に良好にするという効果を奏するものと認められる。
イ 固形製剤を気密包装体に収容することによる効果について 乙12公報(前記3(1)ケ)には、異なる乾燥剤を用いたパッケージ(HDPEプラスチック瓶)の中のコーティングされた錠剤を試験した結果、乾燥剤を加えた錠剤では、水分率が低いことに起因して、錠剤中のラクトンの生成が抑制された旨の記載があるし、そもそも、気密保存が可能な包装体は、ピタバスタチン又はその塩が存在する固形製剤の内部と、ピタバスタチン又はその塩に影響を与えてラクトン体を生成させる外部の環境(湿度等)との接触を遮断し、又は抑制するものであるから、当該接触の遮断又は抑制により、固形製剤の内部の水分量を長期間にわたって低く維持できることは、自明の事柄であるといえる。そうすると、固形製剤が気密保存可能な包装体によって包装されることにより包装体の内部に水分が浸入することが妨げられるため、長期間にわたって包装体の内部の固形製剤の水分含量が安定的に保たれ、もって、固形製剤中におけるピタバスタチン又はその塩に由来するラクトン体の生成が長期間にわたって抑制されるとの本件訂正発明6の効果は、
本件出願日当時の当業者が予測し得た範囲内のものにすぎないというべきであり、
これが格別顕著なものであるということはできない。
ウ 5-ケト体の生成を抑制するとの効果について (ア)a 特開2001-206877号公報(乙4)には、次の記載がある。
【0002】【従来の技術】該エージェントは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMG CoAレダクターゼ)の阻害剤として、欧州特許出願第0521471号…に記載されており、かつ高コレステロール血症、高脂血蛋白血症およびアテローム性動脈硬化症の治療のために有用である。
【0003】該エージェントと結びついている問題は、該エージェントが一定の条件下で分解することである。このことにより生成物の調剤および良好な貯蔵期限を有する医薬組成物を得ることが困難になる。形成される主要な分解生成物は、相応する(3R、5S)ラクトン…およびその中で炭素-炭素の二重結合に隣接しているヒドロキシ基が酸化されてケトン官能基になっている酸化生成物…である。
b 特開平5-246844号公報(乙7)には、次の記載がある。
【0005】…フルバスタチン及び関連HMG-CoAリダクターゼ化合物の上述した不安定性は、ヘプテン鎖上のβ、δ-ヒドロキシ基が非常に動きやすいこと及び二重結合が存在することによると思われる。即ち中性〜酸性pHにおいてこの化合物は脱離又は異性化又は酸化反応を容易に受けて共役不飽和芳香族化合物、並びにトレオ異性体、対応するラクトン、及び他の分解生成物を生成する。
c 上記a及びbの記載によると、ピタバスタチンのように炭素-炭素の二重結合に隣接するヒドロキシ基を有するスタチン類において、当該二重結合に隣接するヒドロキシ基の酸化等により分解物である5-ケト体が生成されることが本件出願日当時に知られていたものと認められる。
(イ) これに対し、本件明細書(段落【0068】以下の試験例3)には、PTP包装及びアルミピロー包装を施した口腔内崩壊型錠剤(水分含量・1.5〜2.9質量%)について、調製直後に0.13〜0.14%であった5-ケト体の生成率が、40℃、75%相対湿度の条件下で2か月間保存した結果、0.14〜0.18となった旨の記載がある。しかしながら、前記イにおいて説示したところに照 らすと、PTP包装及びアルミピロー包装を施した口腔内崩壊型錠剤については、
ピタバスタチン又はその塩が存在する錠剤の内部と、ピタバスタチン又はその塩に影響を与えて5-ケト体を生成させる外部の環境(酸素、光等)との接触が遮断され、又は抑制されるものであるから、上記(ア)も併せ考慮すると、当該接触の遮断又は抑制により、5-ケト体の生成が低く抑えられることは、本件出願日当時の当業者が知られていた技術的事項に基づいて予測することのできる範囲内のものであって、これが格別顕著なものであるということはできない(なお、本件明細書には、
PTP包装及びアルミピロー包装を施さない固形製剤につき、水分含量を1.5質量%以上とすることにより5-ケト体の生成が抑制されるとの試験結果の記載はない。)。
(4) 小括 以上のとおりであるから、請求項6に係る本件訂正により、乙12発明に基づく本件発明6の進歩性欠如が解消されたということはできない。
6 争点5-2(乙12発明2に基づく本件発明9の進歩性欠如の解消の有無)について (1) 本件訂正発明9と乙12発明との対比 ア 本件訂正発明9の「ピタバスタチン又はその塩」が「HMG-CoAレダクターゼ阻害剤」の化合物であることは、前記3(3)アのとおりである。
イ 前記3(3)ウにおいて説示したところに照らすと、水分が「2.73、1.99、1.55又は1.73%」である乙12発明は、本件訂正発明9の「かつ、
水分含量が1.5〜2.9質量%である」との構成を備えている。
ウ 乙12発明は「錠剤」であり、これが本件訂正発明9の「固形製剤であって、
かつ錠剤であって、」に相当することは明らかである。
エ 乙12発明の「錠剤を乾燥剤を用いたHDPEプラスチック瓶にパッケージした医薬剤形であって、」が本件訂正発明9の「錠剤であって、気密包装体に収容される固形製剤」に相当することは、前記5(1)オのとおりである。
オ 以上によると、本件訂正発明9と乙12発明とは、相違点1ないし3のほか、
次の相違点で相違するものと認められる。
(相違点4) 本件訂正発明9は、「クロスポビドンを含有し、カルメロース及びその塩並びに結晶セルロースをいずれも含有」しないのに対し、乙12発明は、「Prosolv SMCC90」及び「架橋カルボキシメチルセルロース」を含有する点(2) 相違点4に係る本件訂正発明9の構成の容易想到性 ア(ア) 国際公開第03/105848号(乙16)には、次の記載がある。
a 「技術分野 本発明は、HMG-CoA還元酵素阻害剤ピタバスタチン、その塩又はそのエステルを含有する放出制御医薬組成物に関する。
背景技術 ピタバスタチン、その塩又はそのエステルは、優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有し、高コレステロール血症治療薬として有用であることが知られている…。」(1頁3行〜9行) b 「本発明の目的は、ピタバスタチン、その塩又はそのエステルの血中濃度を適度に長時間安定に維持し得る放出制御医薬組成物を提供することにある。」(1頁21行〜22行) c 「本発明は、(A)ピタバスタチン、その塩又はそのエステルを含み、少なくとも胃内でそれらの放出を開始する組成物、及び(B)ピタバスタチン、その塩又はそのエステルを含む腸溶性組成物を含有することを特徴とする放出制御医薬組成物を提供するものである。」(2頁18行〜21行) d 「組成物(A)に用いられる基剤としては、例えば…低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルボキシスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等の崩壊剤…を配合できる。」(5頁12行〜2 6行) e 「製造例3 表19の処方により、ピタパスタチン放出制御錠が得られる。すなわち、表19の核錠を調製し、次いでその外層に表19の外層に相当する成分を用いて圧縮成形し、有核錠を得る。
(31頁下から4行〜32頁の表19)(イ) 特開2012-96998号公報(乙53)には、次の記載がある。
【技術分野】【0001】 本発明は、有効成分としてピタバスタチンとフェノフィブラートを含有するカプセル製剤用組成物及び該組成物を充填したカプセル製剤に関する。
【背景技術】【0002】 ピタバスタチンなどのスタチン系薬剤は、HMG-CoAリダクターゼ阻害作用を有し、高脂血症治療剤や、アテローム性動脈硬化症治療剤として有用であることが知られている…。
【課題を解決するための手段】【0009】 すなわち本発明は、ピタバスタチン、またはその塩及びフェノフィブラートを含有するカプセル製剤用組成物であって、酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムを配合することを特徴とするカプセル製剤用組成物である。
また、本発明は、ピタバスタチン、またはその塩とフェノフィブラートを含有する組成物に、酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムを配合した組成物をカプセルに充填して得られるカプセル製剤である。
【0017】 本発明のカプセル剤用組成物には、有効成分であるピタバスタチン及びフェノフィブラート並びに酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウム以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、カプセル製剤用組成物に通常含有することができるその他の成分を含有することができる。これらの成分としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、潤沢剤等が挙げられる。
【0018】 …上記崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセロース、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等を用いることができる。
【0036】<実施例1(1顆粒カプセル剤)>… ピタバスタチンカルシウム2g、…クロスポビドン5g…を混合し、…顆粒を得 た。得られた顆粒を1カプセル当たり300mgとなるように1号ゼラチンカプセルに充填し5カプセル調製した。
【0037】【表1】(ウ) 上記(ア)及び(イ)の記載によると、ピタバスタチン又はその塩等を有効成分とする製剤用組成物に崩壊剤としてクロスポビドンを含有させることは、本件出願日当時の周知の技術であったと認めることができる。
イ そして、乙12公報の記載(前記3(1)ク)によると、乙12発明の医薬剤形における崩壊剤は、架橋したカルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋したポリビニルピロリドン、架橋したカルボキシメチルデンプン等の様々な種類のデンプン及び結晶セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポラクリリンカリウム並びにこれらの任意の組合せからなる群から選択されてもよいとされており、架橋したポリビニルピロリドンは、クロスポビドンに相当するものであるから、乙12公報は、カルメロース若しくはその塩又は結晶セルロースを含有することを要件とする医薬剤形のみを開示するものではなく、かえって、崩壊剤としてクロスポビドンを用い得ることを開示するものである。
ウ 以上によると、乙12発明につき、崩壊剤として「クロスポビドン」を含有し、「カルメロース若しくはその塩又は結晶セルロース」を含有しないとすることは、本件出願日当時の当業者が容易に想到し得たものであると認めるのが相当であ る。
エ なお、乙12公報には、フィラー及びバインダーとして、「結晶セルロース(MCC)」等を例示する各記載(前記3(1)ク)があるが、これらの記載も、乙12公報に記載された医薬剤形がカルメロース若しくはその塩又は結晶セルロースを含有することを要件とする旨を開示するものではない。
(3) 本件訂正発明9の効果 本件訂正発明9が本件訂正発明6と異なる効果を奏する旨の主張はないところ、
前記5(3)のとおり、本件訂正発明6の効果は、本件出願日当時の当業者が予測することのできる範囲内のものであって、これが格別顕著なものであるということはできないから、本件訂正発明9の効果も、本件出願日当時の当業者が予測することのできる範囲内のものであって、これが格別顕著なものであるということはできない。
(4) 小括 以上のとおりであるから、請求項9に係る本件訂正により、乙12発明に基づく本件発明9の進歩性欠如が解消されたということはできない。
7 結論 よって、その余の争点について判断するまでもなく、当裁判所の上記判断と結論において同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 中島朋宏