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関連審決 無効2019-800094
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事件 令和 3年 (行ケ) 10136号 審決取消請求事件
令和 3年 (行ケ) 10138号 審決取消請求事件
第1事件原告兼第2 株式会社パラット 事件被告 (以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁理士 西原広徳 野呂亮仁 第1事件被告兼第2 株式会社アンド 事件原告 (以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 飯島歩 藤田知美 三品明生
同訴訟代理人弁理士 山田茂樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2019−800094号事件について令和3年10月8日にした審決中、特許第6138324号の請求項1、2及び5ないし7に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。
2 被告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 原告 主文1項と同旨 2 被告 特許庁が無効2019-800094号事件について令和3年10月8日にした審決中、特許第6138324号の請求項4に係る発明についての審判請求は成り立たないとした部分を取り消す。
事案の概要
第1事件は、特許権者である原告が特許無効審判請求に対する審決のうち特許を無効とした部分の取消しを求める事案であり、第2事件は、特許無効審判請求の請求人である被告が同審決のうち審判請求は成り立たないとした部分の取消しを求める事案である。争点は、請求項1、2及び4ないし7に係る発明の進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は、名称を「半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法、および製品の製造方法」とする発明についての特許(特許第6138324号。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は、平成28年7月30を出願日(以下「本件出願日」という。)とし、
特願2016-150884号として出願され、平成29年5月12日に設定登録がされた(甲17。以下、設定登録時の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。
被告は、令和元年11月12日、本件特許(請求項の数は6。なお、設定登録時の請求項の数は7であったが、その後、請求項3が削除された。)について特許無効審判の請求をし、特許庁は、無効2019-800094号事件として審理した(甲17、21、22)。
原告は、令和3年5月6日、本件特許の請求項1、2及び4ないし7について訂 正請求をし(甲23、24)、同月21日、手続補正書(方式)(甲25)によって同訂正請求を補正した(以下、この補正後の訂正請求による訂正を「本件訂正」という。なお、本件訂正において、本件明細書の訂正はない。)。
特許庁は、令和3年10月8日、「特許第6138324号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、
4-7〕について訂正することを認める。特許第6138324号の請求項1、2、
5ないし7に係る発明についての特許を無効とする。特許第6138324号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月19日に原告に、同月20日に被告にそれぞれ送達された。
原告は、令和3年11月13日、本件審決のうち請求項1、2及び5ないし7に係る発明についての本件特許を無効とした部分の取消しを求めて第1事件の訴えを提起し、被告は、同月16日、本件審決のうち請求項4に係る発明についての本件特許に対する審判請求は成り立たないとした部分の取消しを求めて第2事件の訴えを提起した。
2 本件訂正後の発明の要旨(甲17、21ないし25) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号に対応させて「本件発明1」などといい、本件発明1、2及び4ないし7を併せて「本件各発明」という。)。
【請求項1】 端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段 と、
前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、
前記当接位置規制手段は、
前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、
または、
溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、
により構成され、
前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である半田付け装置。
【請求項2】 端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段とを備え、
前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である半田付け装置。
【請求項4】 前記当接位置規制手段は、
溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁により構成され、
前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、
前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さく、
前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい請求項1または2記載の半田付け装置。
【請求項5】 請求項1、2または4記載の半田付け装置を用いて、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、
前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、
供給された溶融前の前記半田片の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、
当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、
前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、
溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、
この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、
この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す半田付け方法。
【請求項6】 請求項1、2、または4記載の半田付け装置を用いて、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、
前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、
供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、
当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、
前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、
溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、
この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、
この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出し、
前記溶融した半田片により前記電子部品の端子をプリント基板のランドに半田付けするプリント基板の製造方法
【請求項7】 請求項1、2、または4記載の半田付け装置を用いて、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、
前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、
供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、
当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、
前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、
溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、
この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、
この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出し、
前記溶融した半田片により前記端子と前記接続対象を半田付けする 製品の製造方法
3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由の要旨は、次のとおりである(ただし、本訴で争点となっている進歩性の有無の判断に係る部分を記載する。)。
(1) 甲1(特開2009-195938号公報)及び甲2(「Proceedings ofthe ASME 2015 International Mechanical Engineering Congress & Exposition」(2015年)に掲載された「MELTING/SOLIDIFICATION ANALYSIS OF THE PB FREE-SOLDER IN SLEEVE SOLDERING」(Ken IMANISH ら著))に記載された発明の認定 ア 甲1には、次の甲1発明及び甲1発明2が記載されている。
(甲1発明) 金属ピンとランドとの接合を行う半田付け装置であって、
軸方向に貫通孔があり、両端が開口し、ランドの上に立てる筒状の半田鏝と、
切り刃及び受け刃からなり半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニット、糸半田が所定の長さに切断された半田片を半田保持孔から押し出し半田鏝の貫通孔内に落下させるプッシャーと、
半田を溶融させるための加熱手段として半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーターを有し、
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ、
半田鏝は先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なり先端部に長さ(L)の貫通孔を有し、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、
半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm、先端部の貫通孔の長さ(L)が5mm、後端部の貫通孔の径(D)が2.5mmであり、
半田片は径が0.8mm、長さが1.2mmであり、
半田付けの対象部品はランド及び金属ピンであり、ランド径1.5mm、金属ピン径0.6mmである 半田付け装置。
(甲1発明2) 金属ピンとランドとの接合を行う半田付け装置であって、
軸方向に貫通孔があり、両端が開口し、ランドの上に立てる筒状の半田鏝と、
切り刃及び受け刃からなり半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニット、糸半田が所定の長さに切断された半田片を半田保持孔から押し出し半田鏝の貫通孔内に落下させるプッシャーと、
半田を溶融させるための加熱手段として半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーターを有し、
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ、
半田鏝は先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なり先端部に長さ(L)の貫通孔を有し、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、
半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm、先端部の貫通孔の長さ(L)が5mm、後端部の貫通孔の径(D)が2.5mmであり、
半田片は径が0.8mm、長さが1.2mmであり、
半田付けの対象部品はランド及び金属ピンであり、ランド径1.5mm、金属ピン径0.6mmである 半田付け装置を用いて、
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ、
半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させ、溶融させ、
半田片の全部をピンとランドに付着させる 半田付け方法。
イ 甲2には、次の甲2発明が記載されている。
(甲2発明) 一定量のはんだがスリーブに充填され、溶融はんだをスリーブの先端から送り出して、電子部品のピンをプリント基板に接着するための自動はんだ付け装置であり、
スリーブ内径:1.0mm、ピンが挿入されるプリント基板のスルーホール直径:1.0mm、プリント基板厚み:1.6mm、ピン長さ:5.6mm、ピンの突出長:2.0mm、はんだ:直径1.0mm、長さ3.0mmであり、
プリント基板のスルーホールに挿入されたピンはスリーブ内に位置し、スリーブ先端はプリント基板に接し、はんだはピン先端に接して位置し、
はんだの溶融温度は493K、スリーブの温度は663Kであり、
はんだがスリーブ内で加熱され、
はんだが溶けてスルーホールとプリント基板の裏面に流れる、
自動はんだ付け装置。
(2) 甲1を主引用例とする無効理由2(進歩性欠如)について ア 本件発明1について(ア) 本件発明1と甲1発明との対比 (一致点)端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
当接位置規制手段を備え、
前記当接位置規制手段は、
前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、
により構成される半田付け装置。
(相違点1) 当接位置規制手段が、本件発明1は「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する」ものであるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点 (相違点2) 本件発明1は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、
甲1発明はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点1について まず、本件発明1の「端子の先端に必ず当接させ」ることの技術内容を検討する。
「必ず当接する」ことについて、本件明細書の段落【0090】に記載によると、
本件発明1の「端子の先端に必ず当接させ」るとは、ノズルと端子とが左右方向にどのように位置ずれしても、半田片の端子側端部の一部を端子の先端に当接させることと解釈できる。
そうすると、相違点1に係る構成は、ノズルの径、端子の径、半田片の径及び長さでなし得るところ、甲1発明の半田鏝の先端部の貫通孔は径1.0mm、電子部品の端子銅線(ピン)は径0.6mmであるから、前記先端部の貫通孔の内壁と前記ピンの側面との隙間の間隔は合計で0.4mm、すなわち、半田鏝とピンとが左右方向にどのように位置ずれしても最大で0.4mmである。また、ピンの先端が、
径1.0mmの前記半田鏝の先端部の貫通孔内に位置するのは明らかである。そして、径0.8mm、長さ1.2mmの半田片は、最大でも0.4mmしかない隙間へ進入し得ないことは明らかであるから、半田鏝とピンとが左右方向にどのように位置ずれしても、半田片は前記半田鏝の先端部の貫通孔内で前記ピンの先端に当接して留まる。
以上のことより、甲1発明は「前記先端部の貫通孔に供給された前記半田片のピン側の端部を前記ピンの先端に必ず当接させ、半田片をランドに接触させずに前記先端部の貫通孔内に留めるように規制」する「当接位置規制手段」に相当する構成を備えているから、相違点1は実質的な相違点ではない。
b 相違点2について (a) 「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」について 甲1発明は「半田を溶融させるための加熱手段として半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーターを有」するものであるから、シーズヒーターは半田鏝(本件発明1の「ノズル」に相当)を加熱するものである。
上記aで検討したように、甲1発明の半田片の一端はピンの先端に当接して留まる。そして甲1発明の半田片は、貫通孔の径方向への移動が規制されていないから、
通常、半田片の他端は半田鏝の貫通孔内壁に当接すると認められる。ここで、ピンは半田鏝の貫通孔内壁と通常接触していない。そうすると、半田片には、半田鏝内壁を介してシーズヒーターの熱が伝達されるものと認められる。
してみると、甲1発明は、本件発明1の「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」ることに相当する構成を備えている。
(b) 「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」について 本件明細書の段落【0066】ないし【0070】には、上記構成に関連する記載がある。
@ 一方、甲1発明は、上記(a)で述べたように、ピンは半田鏝の貫通孔内壁と接触していないものであるから、半田鏝からピンへ直接熱が伝達せず、ピンは徐々に加熱される。
A そして、甲1発明は、上記(a)で述べたように、半田片の一端はピンの先端に当接し他端は半田鏝の貫通孔内壁に当接して留まるものと認められ、半田鏝は、
半田片を溶融させるためのシーズヒータが外周面に巻かれたものであるから、半田片はピンの先端に当接した位置で半田鏝の貫通孔内壁に当接した他端を介した熱伝導により溶融される。
B また、甲1の段落【0005】及び【0037】の記載によれば、甲1発明の半田片はフラックス(ロジン)を含有するものである。ここで、半田片にフラックス(ロジン)が含まれていれば、溶融した半田片の体積は揮発成分であるフラックス(ロジン)を除いた値まで減少し得るから、フラックス(ロジン)を除いた半田片の体積を求め、当該体積の球の直径よりノズル内壁の径が小さいか否かを計算することができる。そして、半田のフラックス(ロジン)含有量は、甲15(千住 金属工業株式会社(以下「千住金属工業」という。)作成の「製品安全データシート」(平成16年))には半田にロジンを1〜4wt%含有させることが記載され、
甲10(日本工業標準調査会作成の「日本工業規格 やに入りはんだ」(平成18年))には日本工業規格として、やに入りはんだの規格としてフラックス含有量が1.0質量%、許容範囲が0.5質量%以上1.5質量%未満のものが記号F1と定められていることが記載されていることを考慮すれば、フラックス含有量が1wt%程度の半田を用い半田付けを行うことは当業者が容易になし得たことと認められる。
そこで、甲1発明の半田片として、記号F1として定められた規格であるフラックス含有量1.0質量%(wt%)の半田片を用いた場合について検討する。
令和2年11月16日に提出された原告の回答書と同様の計算をすると、半田の比重は7.4、フラックスの比重は1.06であるから、100gの半田片における半田の体積は13.378cm3(99÷7.4)、フラックスの体積は0.943cm3 (1÷1.06)で、半田片全体の体積は14.321cm 3 (13.378+0.943)となり、フラックス含有量1wt%の半田片におけるフラックスの体積の割合は6.58%(0.943÷14.321×100)、半田の体積の割合は93.42%(100-6.58)である。そうすると、甲1発明において半田片は径0.8mm、長さ1.2mmの円柱であるから、π×(0.8÷2) 2×1.2より求めた円柱の体積の93.42%と同じ体積の球の直径を4÷3×π×(直径÷2)3により求めると、前記半田片が溶融し球となった場合の半田の直径は、約1.025mmである。ここで、甲1発明の半田片が溶融する半田鏝の先端部の貫通孔内壁の径は1.0mmであるから、半田片が溶融し球となった場合の半田の直径は半田鏝の先端部の貫通孔内壁の径より大きい。
なお、記号F1として定められた規格の上限であるフラックス含有量1.5質量%の半田片を用いた場合においても、球となった半田の直径は、約1.014mmであり、半田鏝の先端部の貫通孔内壁の径より大きい。
よって、甲1発明に、規格でF1と定められた半田を使用することにより、半田片が当接位置で加熱溶融され溶融した場合に半田鏝の先端部の貫通孔の内壁とピンの先端に規制されるために真球になれない。
上記@ないしBによれば、甲1発明において、本件発明1の「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(c) 「この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」について 甲1発明に、規格でF1と定められた半田を使用したものでは、半田片が当接位置で加熱溶融され溶融した場合に半田鏝の先端部の貫通孔の内壁とピンの先端に規制されるために真球になれず、溶融した半田片が半田鏝の貫通孔内壁とピンの先端に接触し続け、溶融した半田片を介して半田鏝の熱がピンに伝えられ、ピンが加熱された後に溶融した半田片は流れ出すものと認められる。
したがって、甲1発明において、「この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(d) 小括 したがって、甲1発明によって本件発明1の相違点2に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
イ 本件発明2について(ア) 本件発明2と甲1発明との対比 (一致点)端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段とを備える半田付け装置。
(相違点3) 本件発明2は「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段」を備えるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点 (相違点4) 本件発明2は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、
甲1発明はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点3について 本件発明2の相違点3に係る構成と本件発明1の相違点1に係る構成とは、相違点3が「前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留める」のに対して、相違点1は「前記ノズル内に留める」点で文言上の相違があるものの、本件発明1及び2はいずれも「溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に」「当接させ」るものであるから、相違点3に係る構成と相違点1に係る構成とは実質的に同一である。
してみると、上記ア(イ)aで相違点1について検討したのと同様に、相違点3は実質的な相違点ではない。
b 相違点4について 本件発明2の相違点4に係る構成は本件発明1の相違点2に係る構成と同一であるから、上記ア(イ)bで検討したのと同様に、甲1発明によって本件発明2の相違点4に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
ウ 本件発明4について (ア) 本件発明4と甲1発明との対比 a 本件発明4と甲1発明は、上記ア(ア)の一致点又は上記イ(ア)の一致点において一致する。
b 本件発明4と甲1発明は、相違点1及び2又は相違点3及び4に加えて、以下の相違点5及び6を有する。
(相違点5) 本件発明4の「前記当接位置規制手段は、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する」ために「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点 (相違点6) 本件発明4は「前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さ」いのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点1ないし4について 相違点1及び3は、上記ア(イ)a及び上記イ(イ)aで検討したように、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bで検討したように、甲1発明より当業者が容易になし得たものである。
b 相違点5について 甲1発明は「半田鏝は先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なり先端部に長さ(L)の貫通孔を有し、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm、先端部の貫通孔の長さ(L)が5mm、後端部の貫通孔の径(D)が2.5mm」とされたものである。
ここで、半田鏝先端部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくする構成自体は甲11(特開2015-166096号公報)、甲12(特開2015-166098号公報)及び甲13(特開2015-221449号公報)に図示されるように、
周知の技術事項である。
しかしながら、甲1発明は半田片を落下させるために半田鏝後端部の内径を半田鏝先端部の内径より大きくしたものであるから、半田鏝後端部の内径を小さくすることにより、半田鏝先端部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには阻害要因がある。
また、半田鏝先端部の内径を大きくすることにより、半田鏝先端部の内径を半田 鏝後端部の内径より大きくした場合、甲1発明の半田鏝先端部の内径は1.0mm以上となり、「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ」る構成を有するとはいえないものとなる。
したがって、甲1発明において半田鏝先端部の径を半田鏝後端部の径より大きくし本件発明4の相違点5に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
c 相違点6について 相違点6に係る構成は、 半田片が端子の先端及びノズル内壁と当接した位置で溶融して略球状となること、半田片の溶融する位置におけるノズルの内径が半田片が溶融して真球状に変形したと仮定した場合の直径より小さいことをノズルの構成として表現したものである。
ここで、上記ア(イ)b(b)で検討したように、相違点2に係る構成のうち「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成は、端子Tとノズル24が非接触で離間した状態が保たれ、溶融前の半田片2aが端子Tの先端に当接するとともに端子Tと反対側の端部などの少なくとも一部が内壁25に当接すること、及び、
当接位置において加熱溶融され溶融して真球となると仮定した場合の径がノズルの内壁に規制される大きさとなる体積を半田片2aが有することにより得られる構成であり、また、溶融して真球となると仮定した場合の径がノズルの内壁に規制される大きさとなる体積を半田片が有することは、半田片が有する体積と同体積の球の直径よりノズル内壁の径が小さいことである。
してみると、相違点6に係る構成は、実質的に相違点2の上記構成と同一であるから、甲1発明に基づいて相違点6に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
エ 本件発明5について(ア) 本件発明5と甲1発明2との対比 本件発明5と甲1発明2は、相違点1及び2、相違点3及び4又は相違点5及び6に加えて、以下の相違点7を有する。
(相違点7) 本件発明5は「供給された溶融前の前記半田片の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」のに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点1ないし4について 相違点1及び3は、上記ア(イ)a及び上記イ(イ)aで検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bで検討したのと同様に、
甲1発明2より当業者が容易になし得たものである。
b 相違点7について 相違点7に係る構成は、実質的に相違点1及び2係る「当接位置規制手段」及び「加熱手段」の機能を方法に書き改めたものである。
してみると、甲1発明2によって本件発明5の相違点7に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
オ 本件発明6について(ア) 本件発明6と甲1発明2との対比 本件発明6と甲1発明2は、相違点1及び2、相違点3及び4又は相違点5及び6に加えて、以下の相違点8を有する。
(相違点8) 本件発明6は「供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出」すのに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点1ないし4について 相違点1及び3は、上記ア(イ)a及び上記イ(イ)aで検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bで検討したのと同様に、
甲1発明2より当業者が容易になし得たものである。
b 相違点8について 相違点8に係る構成は、実質的に相違点1及び2係る「当接位置規制手段」及び「加熱手段」の機能を方法に書き改めたものである。
してみると、甲1発明2によって本件発明6の相違点8に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
カ 本件発明7について(ア) 本件発明7と甲1発明2との対比 本件発明7と甲1発明2は、相違点1及び2、相違点3及び4又は相違点5及び6に加えて、以下の相違点9を有する。
(相違点9) 本件発明7は「供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出」すのに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点1ないし4について 相違点1及び3は、上記ア(イ)a及び上記イ(イ)aで検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記ア(イ)b及び上記イ(イ)bで検討したのと同様に、
甲1発明2より当業者が容易になし得たものである。
b 相違点9について 相違点9に係る構成は、実質的に相違点1及び2係る「当接位置規制手段」及び「加熱手段」の機能を方法に書き改めたものである。
してみると、甲1発明2によって本件発明7の相違点9に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
(3) 甲2を主引用例とする無効理由2(進歩性欠如)について ア 本件発明1について(ア) 本件発明1と甲2発明との対比 (一致点)端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記ノズル内に供給された前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、
前記当接位置規制手段は、
前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、
により構成される半田付け装置。
(相違点10) 本件発明1は「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点 (相違点11) 本件発明1は「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点 (相違点12) 当接位置規制手段が規制する半田片が、本件発明1は「溶融前の前記半田片」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点 (相違点13) 本件発明1は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、
甲2発明はその旨特定されていない点(イ) 相違点についての容易性の判断 a 相違点10について 甲2発明は、一定量のはんだがスリーブ内に装填されるのであるから、スリーブ内にはんだ片が供給されることは明らかである。
そして、供給するための何らかの手段を設けることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、甲2発明において、本件発明1の相違点10に係る構成とすることは、
当業者が容易になし得たことである。
b 相違点11について 甲2発明は、ピンがスリーブ内に位置しているから、ピンをスリーブ内に位置させるためにピンとスリーブとの近接離間方向の相対距離を変化させているのは明らかである。
そして、相対距離を変化させるための何らかの手段を設けることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、甲2発明において、本件発明1の相違点11に係る構成とすることは、
当業者が容易になし得たことである。
c 相違点12について 甲2には、はんだ直径をスリーブ内径より小さくすることや溶融前のはんだをピンの先端に当接させることは記載も示唆もされておらず、そのようにする動機も存在しない。
そして、はんだが移動中に溶融しないようにはんだ直径をスリーブ内径より小さくしたとしても、甲2発明ではピンの径が特定されていないから、「スリーブ内壁とピン側面との間隔」と「はんだ直径」との大小関係は特定されない。そして、当該大小関係が特定されない場合、はんだのピン側の端部が、ピンの先端に必ず当接するとはいえない。
したがって、甲2発明において、「溶融前のはんだ」をピンの先端に必ず当接することは、当業者が容易になし得たとはいえない。
よって、甲2発明において、相違点12に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たとはいえない。
d 相違点13について(a) 「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」について 甲2発明には、スリーブを加熱するための加熱手段が設けられている。そして、
甲2発明は、スリーブ内径(1.0mm)とはんだ直径(1.0mm)が同一であるから、スリーブ内壁とはんだが接触しているものと認められる。また、ピンは通常スリーブとは接触させないから、ピンは加熱されていない。よって、ピンの先端に当接したはんだには、スリーブ内壁を介して加熱手段の熱が伝達されるものと認められる。
してみると、甲2発明は、本件発明1の「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」ることに相当する構成を有するといえる。
(b) 「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの 内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」について 甲2発明は、スリーブ内径(1.0mm)とはんだ直径(1.0mm)の関係から、はんだがスリーブの内壁とピンの先端とに当接して留まったとしても、ピンの先端に当接して留まったはんだは溶融前のはんだではない。
そして、甲2発明において、はんだ直径を、ピンの先端に当接して留まり、かつ、
当接して留まったはんだが溶融前のはんだとなる径とする理由があるものとは認められない。
してみると、甲2発明を「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(c) 小括 したがって、上記(b)のとおり、甲2発明によって本件発明1の相違点13に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
イ 本件発明2について(ア) 本件発明2と甲2発明との対比 (一致点) 端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記ノズル内に供給された前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段とを備える半田付け装置。
(相違点14) 本件発明2は「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点 (相違点15) 本件発明2は「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点 (相違点16) 当接位置規制手段が規制する半田片が、本件発明2は「溶融前の前記半田片」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点 (相違点17) 本件発明2は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前 記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、
甲2発明はその旨特定されていない点 (イ) 相違点についての容易性の判断 相違点14ないし17はそれぞれ、相違点10ないし13と同一の構成であるから、相違点14及び15に係る構成は、上記ア(イ)a及びbで検討したように、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
しかしながら、相違点16及び17に係る構成は、上記ア(イ)c及びdで検討したように、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
ウ 本件発明4ないし7について 本件発明4ないし7は、本件発明1又は2を引用し、更に他の構成要素を加えたものであるから、本件発明4ないし7は、甲2発明より当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について 甲1の実施例3(段落【0042】)は、ピンの径が半田ごての貫通孔の内壁と半田片の側面との隙間の最大値より小さい場合であり、相違点1に係る本件発明1の構成を備えるものではない。また、甲1の段落【0038】の記載によると、甲1発明は、半田ごてを相対運動させることにより、ランドとピンに溶融半田を十分なじませるものであり、溶融させる半田片の位置が安定しないから、相違点1に係る本件発明1の構成を備えることによる効果(半田片が、溶融部のノズルの内壁に当接した半田片の一端部、両端部又は側部を介した熱伝導により溶融されること)を奏することができない。
このように、甲1発明には、相違点1に係る本件発明1の構成を必ず備えることにより、本件発明1の効果(本件明細書の段落【0068】、【0074】)を奏するという技術的思想がない。したがって、相違点1は、本件発明1と甲1発明の実質的な相違点であり、当業者は、相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到 することができなかったものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 本件審決は、甲1発明において日本工業規格で記号F1として定められた規格のやに入り半田(以下「記号F1の半田」という。)を用いた場合、当業者は相違点2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たと判断した。しかしながら、
以下のとおり、甲1発明において記号F1の半田を用いることはできないから、本件審決の上記判断は誤りである。
ア 半田付け不良を生じさせないためには、適切な量のフラックスを含有した半田を用いて、適切な熱量で半田付けをする必要があるところ、一般的には、やに入り半田のフラックス含有量は、2ないし4wt%とされ、3wt%のものが最も多い。これは、フラックス含有量が3wt%のやに入り半田がフラックスの役割を最も好適に発揮しやすいためである。
甲1発明も、フラックスを含有する半田を用いることを前提としているところ(甲1の段落【0004】)、甲1に係る出願人が代表者を務める被告は、甲1の実施例1における溶融半田の挙動確認の際、フラックス含有量が3wt%の糸半田を用いている。
そうすると、甲1発明において用いられる半田としては、甲1にフラックス含有量の記載がないとしても、どのようなものを用いてもよいというわけではなく、一般的に用いられているフラックス含有量が3wt%のものを使用するのが適切であり、これは、当業者にとっても通常であると考えられる。
イ フラックス含有量が1wt%の半田は、カタログにも掲載されておらず、本件出願日当時には存在していなかったものである(甲10及び15は、フラックス含有量が1wt%の半田が市場に実際に存在したことを直接示すものではない。)。
なお、フラックス含有量を少なくしようとしてフラックスの部分を細くすると、長く続く糸半田の途中でフラックスが存在しない部分が発生してしまうおそれがあり、
本件出願日の時点で、半田メーカーがフラックス含有量を1wt%とする半田を製 造できたかについても、疑問がある。
ウ フラックス含有量の少ない糸半田を使用することは、半田付け不良につながる一方、フラックス含有量が増加しすぎると、フラックスの飛散という問題が生じやすくなるところ、甲1発明は、十分な量のフラックスを使用してもフラックスの飛散を物理的に防止できる構造となっているものであるから(甲1の段落【0005】、【0039】)、これに用いる半田は、一般的なフラックス含有量3wt%のものか、フラックスを通常より多く含有するものとするのが相当である。このように、フラックス含有量を増やせる方向での工夫がされている甲1発明において、
半田付け不良につながるような半田(フラックス含有量の少ない半田)を用いることには、技術的阻害要因がある。特に、甲1発明に記号F1の半田(フラックス含有量が0.5wt%のものを含む。)を用いると、フラックスの機能が十分に果たされず、半田付け不良を生ずることが容易に想定される。
(2) また、次の点からも、当業者は、相違点2に係る本件発明1の構成に容易に想到することができなかったというべきである。
すなわち、甲1の段落【0029】に記載された条件によると、仮にフラックス含有量が1wt%の半田を用いても、溶融した半田は、貫通孔の内径よりも直径の小さい球になれるから、甲1の記載全体からみて、甲1発明には、「必ず真球になれない」ようにするという技術的思想がなく、したがって、本件明細書の段落【0070】及び図6(B)に記載された熱伝達の効果を確実に生じさせるという技術的思想がない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 前記1において主張したとおりであるから、相違点3は、本件発明2と甲1発明の実質的な相違点であり、当業者は、相違点3に係る本件発明2の構成に容易に想到することができなかったものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について 前記2において主張したとおりであるから、当業者は、相違点4に係る本件発明 2の構成に容易に想到することができなかったものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
5 取消事由5(相違点7についての判断の誤り)について 前記1及び2において主張したとおりであるから、当業者は、相違点7に係る本件発明5の構成に容易に想到することができなかったものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
なお、そもそも、本件発明5は、本件発明1、2又は4を引用する発明であるから、前記1ないし4において主張したとおり、また、相違点5についての本件審決の判断のとおり、甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 取消事由6(相違点8についての判断の誤り)について 前記1及び2において主張したとおりであるから、当業者は、相違点8に係る本件発明6の構成に容易に想到することができなかったものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
なお、そもそも、本件発明6は、本件発明1、2又は4を引用する発明であるから、前記1ないし4において主張したとおり、また、相違点5についての本件審決の判断のとおり、甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7 取消事由7(相違点9についての判断の誤り)について 前記1及び2において主張したとおりであるから、当業者は、相違点9に係る本件発明7の構成に容易に想到することができなかったものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。
なお、そもそも、本件発明7は、本件発明1、2又は4を引用する発明であるから、前記1ないし4において主張したとおり、また、相違点5についての本件審決の判断のとおり、甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
取消事由1ないし7についての被告の主張
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について 原告は、甲1の実施例3の記載を根拠に、相違点1についての本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、本件審決が認定した甲1発明は、甲1の実施例1の形態に基づくものである。原告の主張は、本件審決が認定した甲1発明とは異なる発明を独自に認定した上、これを引用発明として相違点1についての本件審決の判断が誤りであるとするものであるから、失当である。相違点1についての本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は、本件出願日当時にフラックス含有量が1wt%の半田は存在していなかったとして、相違点2についての本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、発明の進歩性に関する判断は、先行技術に基づいて当業者が当該発明の構成に容易に想到し得たことの論理付けができれば足りるところ、甲15には、フラックス含有量が1wt%の半田が記載されているほか、甲10には、日本工業規格として記号F1の半田が定められ、フラックスを1wt%含有する半田は、
記号F1の半田に該当するから、このような半田を採用して相違点2に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
(2) 原告は、甲1発明にフラックス含有量が1wt%の半田を用いることに阻害要因がある旨主張するが、以下のとおり、この主張は失当である。
ア 本件発明1は、半田に含まれるフラックスの含有量を特定するものではないから、本件出願日当時にどの程度の量のフラックスを含有した半田が入手可能であったかにかかわらず、甲1発明において当業者が使用する半田のフラックス含有量が制限される理由はない。よって、原告が主張するような阻害要因は存在しない。
イ そもそも、記号F1の半田は、日本工業規格として定められ、開示されているものであるから、甲1発明において、記号F1の半田に該当するフラックス含有 量が1wt%の半田を用いることは、当業者が容易になし得たものである。
ウ 原告は、本件発明1が十分な量のフラックスを使用してもフラックスの飛散を物理的に防止できる構造となっていると主張する。確かに、甲1発明は、フラックスの飛散防止を解決課題の一つとしてはいるが、それは、単にフラックスを含有する半田片を用いた際のフラックスの飛散防止を目的とするものであり、原告が主張するように半田片のフラックス含有量を増加させた場合のフラックスの飛散防止を目的とするものではない。どの程度の量のフラックスを含有した半田片を使用するかは、半田付けの対象物の大きさ、形状等から適宜判断されるべきものであるから、甲1発明においては、フラックス含有量が1wt%の半田も、当然に使用され得るものである。
(3) 原告は、甲1発明の半田ごての先端部の開口部の径(d)が1.2mmであることを前提にして、フラックス含有量が1wt%の半田を用いても、溶融した半田は貫通孔の内径よりも直径の小さい球になれてしまうから、甲1発明には本件発明1の熱伝導の効果を確実に生じさせるという技術的思想がない旨主張する。
しかしながら、本件審決は、甲1(段落【0040】、【0041】、図2等)の記載から、甲1発明の半田ごての先端部の開口部の径(d)を1.0mmと認定している。この認定に基づくと、原告の主張によっても、溶融した半田は、必ず真球になれないことになり、それによって、半田ごてから溶融した半田に熱が伝わり、
さらに、溶融した半田からピンに熱が伝わることになる。そうすると、甲1発明は、
本件発明1と同様の熱伝導効果を奏するといえる。原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上のとおりであるから、相違点2についての本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 前記1において主張したとおり、相違点1についての本件審決の判断に誤りはないから、相違点3についての本件審決の判断にも誤りはない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について 前記2において主張したとおり、相違点2についての本件審決の判断に誤りはないから、相違点4についての本件審決の判断にも誤りはない。
5 取消事由5(相違点7についての判断の誤り)について 前記1及び2において主張したとおり、相違点1及び2についての本件審決の判断に誤りはないから、相違点7についての本件審決の判断にも誤りはない。
6 取消事由6(相違点8についての判断の誤り)について 前記1及び2において主張したとおり、相違点1及び2についての本件審決の判断に誤りはないから、相違点8についての本件審決の判断にも誤りはない。
7 取消事由7(相違点9についての判断の誤り)について 前記1及び2において主張したとおり、相違点1及び2についての本件審決の判断に誤りはないから、相違点9についての本件審決の判断にも誤りはない。
被告主張の審決取消事由
1 取消事由8(相違点5についての判断の誤り)について 本件審決は、甲1発明における「ノズル後端部」に相当する部分を「当接位置規制手段」に相当する部分の後端部ではなく、半田ごて全体の後端部であると解釈した上、甲1発明に周知技術を適用することに阻害要因があるなどとして、当業者は相違点5に係る本件発明4の構成に容易に想到することができたとはいえないと判断した。しかしながら、以下のとおり、本件審決の上記判断は誤りである。
(1) 本件明細書の段落【0081】の記載によると、本件発明4の「ノズル後端部」に相当する「案内部124c」は、その内壁によって端子に当接した状態の半田片の傾きを規制する「当接位置規制手段」として機能するものとされており、
図7(A)も、「案内部124c」の後端よりも更に上方(半田ごての後端側)まで半田ごてが延びているように図示しており、他方、「案内部124c」よりも後端側である半田ごての内径の大きさや当該内径と「挿入部124a」の内径との大小関係について、本件明細書には何らの記載も示唆もないことからすると、本件発明4の「ノズル後端部」は、端子に当接した状態の半田片の後端が届く程度の範囲 内の部分を指しており、端子に当接した状態の半田片の後端がおよそ届かないような半田ごて全体の後端部までは含まないと解される。したがって、本件発明4の「ノズル後端部」は、「案内部124c」に相当する「当接位置規制手段」の後端部を指すものと解するのが相当である。なお、本件審決も、請求項4に係る本件訂正が新規事項の追加に該当するか否かの判断に当たり、訂正事項にいう「ノズル後端部」は「当接位置規制手段」の後端部であると解釈している。
(2) 仮に、本件発明4の「ノズル後端部」を半田ごて全体の後端部であると解釈すると、端子の先端部と半田ごて全体の後端部との間に距離がある場合、半田ごて全体の後端部の内径を小さくしても、半田ごて内に半田片を入れることが難しくなるだけで、何らの作用効果も奏しないことになり、相違点5に係る本件発明4の構成に技術的意義がないことになる。他方、「当接位置規制手段(案内部124c)」の内径よりも「ノズル先端部(挿入部124a)」の内径を相対的に大きくした場合には、「当接位置規制手段」による半田片の位置や傾きを規制するという機能を維持したまま、端子を「ノズル先端部」に挿入しやすくなるという作用効果が得られるから、相違点5に係る本件発明4の構成に技術的意義があるといえる。
以上のとおり、相違点5に係る本件発明4の構成の技術的意義からしても、本件発明4の「ノズル後端部」は、「当接位置規制手段」の後端部を指すと解釈すべきである。
(3) 上記(1)及び(2)によると、甲1発明においても、「ノズル後端部」に相当する部分は、「当接位置規制手段」に相当する部分の後端部であると解釈すべきである。そして、甲11ないし13によると、半田ごての先端部の貫通孔においてピンが挿入される部分の内径を局所的に大きくすることは、周知技術であると認められるところ、「ノズル後端部」に相当する部分を「当接位置規制手段」に相当する部分の後端部であると解釈した場合、上記周知技術を適用して甲1発明の半田ごての先端部の内径を局所的に大きくしても、「当接位置規制手段」に相当する部分の後端部の内径は、十分小さいままであるから、「半田片の端子側の端部を端子の先 端に必ず当接させ」るとする本件発明4の構成は維持されているといえる。したがって、甲1発明に上記周知技術を適用することには何らの阻害要因もないから、当業者は、甲1発明に上記周知技術を適用して、相違点5に係る本件発明4の構成に容易に想到し得たものである。
2 取消事由9(相違点12及び13並びに16及び17についての判断の誤り)について 本件審決は、甲2発明においては「溶融前のはんだ」がピンの先端に必ず当接するとはいえないから、相違点12及び13に係る本件発明1の構成並びに相違点16及び17に係る本件発明2の構成を得ることは当業者が容易になし得たものとはいえないと判断した。しかしながら、以下のとおり、甲2発明においては、「溶融前のはんだ」がピンの先端に必ず当接するから、本件審決の上記判断は誤りである。
したがって、本件発明1又は2を引用する発明である本件発明4についても、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断は誤りである。
(1) 甲2によると、半田の融解温度は493Kであり、スリーブの温度は663Kである。また、甲2の図4(a)からは、半田がピンの先端に当接して位置することが見て取れるし、半田の温度が融解温度より低くなっているから、半田は溶融し得ない。
これに対し、本件審決は、半田はスリーブ内を通過してピンの先端に当接する前に溶融していると判断するが、これは、甲2の図4(a)において、半田が丸くなることなく角張った状態でピンの先端に当接している様子が示されていることと矛盾するし、図3(最も左側のもの)のとおり、スリーブ内を通過する際の半田の温度が融解温度に達しない492Kとなっていることとも矛盾するから、この判断は誤りである。
また、図3(最も左側もの)の状態において、半田が融解温度に達しない492Kで均一になっているのは、スリーブ内を通過する半田やスリーブの先端が接触す る基板等によってスリーブの熱が奪われ、スリーブの温度も492Kかこれと同程度の温度になっており、その温度で半田が十分に余熱されているからであると考えられる。そうすると、半田が溶融するのは、半田がピンの先端に当接してからであると認められる。
さらに、甲2には、図4(a)について、「はんだがスリーブ内で加熱されるとき、はんだが融ける前に、はんだの中のフラックスがプリント基板の裏側に流れる」との説明があり、半田が融ける前にピンの先端に当接していることは明らかである。
以上によると、甲2発明においては、「溶融前のはんだ」がピンの先端に当接しているといえる。
(2) なお、甲2発明においては、スリーブの内径及び半田の直径がいずれも1.0mmとされており、スリーブの内壁と半田との間には、半田の落下を許容する程度のごく僅かな隙間しかないものと認められるから、ピンの径がどのような大きさであっても、半田は、スリーブ内に挿入されたピンの先端に必ず当接する。
取消事由8及び9についての原告の主張
1 取消事由8(相違点5についての判断の誤り)について 以下のとおりであるから、当業者は、相違点5に係る本件発明4の構成に容易に想到することができなかったものである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。なお、本件発明1及び2が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができなかったものであることは、前記第3の1ないし4において主張したとおりであるから、本件発明1又は2を引用する発明である本件発明4は、この点からも、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができなかったものである。
(1) 前記第2の2のとおりの請求項1、2及び4の記載によると、本件発明1及び2の「当接位置規制手段」は、次の2つの構成であるところ、本件発明4の「当接位置規制手段」は、そのうちの後記イの構成に限定されたものといえる。
ア 本件発明1 前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触 させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段 イ 本件発明2 前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段 (2) 甲11ないし13に記載された技術においては、いずれもピンの先端のすぐ下方の位置からノズルの先端に向かって、ノズルの孔が末広がりに広がっており、
ピンの側面とノズルの内壁との間には間隔S1が存在するから、甲11ないし13に記載された技術において半田片を必ずピンに当接させるためには、上記(1)アの構成を採用するほかない(もっとも、甲11ないし13に上記(1)アの構成が開示されているわけではない。)。したがって、甲1発明に甲11ないし13に記載された技術を適用しても、上記(1)イの構成を有する本件発明4には至らない。
(3) 甲1には、ピンの長さが記載されていないから、甲1発明におけるノズルとピンと半田片の関係は、@ノズルの先端部内にピンの先端が位置し、半田片の全部がノズルの先端部内に位置する場合、Aノズルの先端部内にピンの先端が位置し、
半田片の一部がノズルの先端部内に位置する場合、Bノズルの先端部とテーパ部の境界にピンの先端が位置し、半田片がノズルのテーパ部に位置する場合、Cノズルのテーパ部にピンの先端が位置し、半田片もノズルのテーパ部に位置する場合、Dノズルの後端部にピンの先端が位置し、半田片がノズルのテーパ部に位置する場合の5つが考えられ、これらのうちのいずれになるのかが不明であることから、甲1発明に甲11ないし13に記載された技術を適用するのは困難である。
(4) 仮に、甲1発明に甲11ないし13に記載された技術を適用し、相違点5に係る本件発明4の構成を実現しようとすると、溶融した半田片は、必ず真球になれないまま停止することができなくなるから、今度は、相違点2に係る本件発明4の構成を得ることができなくなる。
(5) 被告が主張するように、甲1発明における「ノズル後端部」に相当する部 分が甲1発明の貫通孔の内径が1.0mmである先端部の後端部であると解釈するのは困難であるが、仮に、被告が主張するこの解釈を採用するとしても、半田ごての先端部の内径を大きくすると、同内径が1.0mm以上となり、半田片の端子側の端部を端子の先端に必ず当接させるという構成は得られないから、本件発明4には至らない。
2 取消事由9(相違点12及び13並びに16及び17についての判断の誤り)について (1) 被告は、甲2の図4(a)には半田が丸くなることなく角張った状態でピンの先端に当接している様子が示されており、これは半田が溶融していないことを表す旨主張する。しかしながら、同図において図示されている半田が角張った状態が、半田が溶融していない状態を示しているのかは不明であり、半田が端子の先端に当接した状態で溶融していないことの根拠とはなり得ない。同図において、細いピンの上に半田が垂直に起立し、かつ、半田の両側面がノズルの内壁から離れているという現実にはあり得ない姿勢が描かれていることからすると、同図は、実際の様子を表すものではない。
(2) 被告は、甲2の図3(最も左側のもの)は半田がスリーブ内を通過する際の様子を示しており、その時には半田は溶融していない旨主張する。しかしながら、
同図に記載された半田の直径及びスリーブの内径は、いずれも1.0mmであり、
これでは、十分な隙間がないため、半田は、ロッド等で上から押し込まれない限り、
スリーブの下方へと進まない。また、仮に、半田がスリーブ内で自然に落下するのであれば、半田は、高速に移動し、写真撮影の際に上下のぶれが見られるはずであるが、同図においては、半田の形状が明瞭に撮影されている。したがって、同図は、
半田が端子の先端に当接せずにスリーブ内でとどまっており、その状態で加熱され始める様子を示すものであると理解するのが自然である。
なお、甲2の図3は、最も左側のものがピンから離れた溶融前の半田を示し、左から2番目のものが溶融した状態でピンの先端に当接している半田を示しているの みであって、溶融前の半田がピンの先端に当接する様子を示すものではない。
(3) 被告は、半田が492Kで均一になっているのはスリーブの熱が奪われ、
スリーブの温度も492Kかこれと同程度の温度になっており、その温度で半田が十分に余熱されているからであると考えられるから、半田が溶融するのは半田がピンの先端に当接してからである旨主張する。しかしながら、甲2には、半田の初期温度が492Kに設定された旨の記載があるから、甲2の図3(最も左側のもの)は、事前に492Kに余熱した半田をスリーブ内にセットした熱交換が始まっていない初期状態を示すと理解するのが自然である(なお、一般に、熱交換は、一瞬で行われるものではなく、ある程度の時間をかけて行われるものであるところ、仮に、
被告が主張するとおり、スリーブの温度が492K程度になっており、その温度で半田が十分に余熱されたというのであれば、まさに半田がスリーブ内の途中で停止し、時間をかけて熱交換がされ、半田の温度が492Kになったということができる。)。
(4) 被告は、甲2発明においては、ピンの径がどのような大きさであっても、
半田はスリーブ内に挿入されたピンの先端に必ず当接する旨主張する。しかしながら、スリーブの内径及び半田の直径がいずれも1.0mmであるということは、スリーブの内壁と半田との間に隙間がなく、半田は落下しないことを意味する。そのため、半田は、その側周面が溶融してから滑り落ちるか、ロッドで押し込まない限り、ピンの先端に当接しない。
(5) 以上のとおりであるから、甲2発明において、溶融前の半田は、ピンの先端に当接しないから、被告の主張は失当であり、相違点12及び13並びに16及び17についての本件審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件各発明の概要(1) 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。
【技術分野】【0001】 この発明は、例えば、基板の孔に通された電子部品に繋がる端子を孔のまわりの基板のランドに半田付けする半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法、および製品の製造方法に関する。
【背景技術】【0002】 従来、プリント基板に電子部品を機械的に半田付けする半田付け装置が提供されている。この半田付け装置には、半田の液面にプリント基板を接触させて半田付けするフロー半田付け法や、予めパターンに合わせてクリーム半田を基板に印刷しておきクリーム半田に熱を加えて溶かすことで半田付けするリフロー半田付け法等、
様々な方式が提案されている。
【0003】 ここで、出願人は、円筒形の半田ごてを用い、この半田ごて内にプリント基板のスルーホールに挿通された電子部品のピンを挿入し、内部で半田を溶かして半田付けする方式の半田付け装置を開発し、提供している…。
【0004】 そして、半田ごての温度、半田ごての位置、半田ごての荷重および半田の供給量について、装置の起動時や運用中など所定のタイミイングで確認することにより、
半田付けの信頼性や確実性の更なる向上を図っている…。
【0005】 しかしながら、半田付けが大量に行われている作業現場では、バラツキにより半田付け不良が発生することがあった。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0007】 この発明は、上述の問題に鑑みて、半田付け不良を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0008】 この発明は、端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子に当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、前記当接位置規制手段は、前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、または、溶融前の前記半田片を前記当接位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する案内部、
により構成された半田付け装置であることを特徴とする。
【発明の効果】【0009】 この発明により、半田付け不良を防止することができる半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法、および製品の製造方法を提供できる。
実施例1】【0012】 図1および図2は、半田付け装置1の外観構成の説明図であり、…【0013】 図1に示すように、半田付け装置1は、半田付け対象であるプリント基板Pのスルーホールに半田付けを行うノズル24(半田ごて)を有するヘッド部3と、…を有している。
【0056】 …ノズル24の挿入部24aは、端子Tの側面Twと当該側面Twに対向するノズル24の内壁25の先端側25a(端子近傍領域)との間隔S1が溶融前の半田片2aの最小幅である外径D1より短く形成されている。このため、溶融前の半田片2aは、溶融前の半田片2aの端子T側の端部が端子Tの先端Tsに当接して留まっている当接位置APからこれ以上ランドR側へ移動しないように規制されている。すなわち、先端側25aの内壁25は、ノズル24内に供給された溶融前の半田片2aの端子T側の端部2bを前記端子Tの先端Tsに当接させる当接位置規制手段として機能する。
【0068】 当接位置APに案内された溶融前の半田片2aは、端子Tと反対側の端部などの少なくとも一部が、ヒータ36の近くに位置して挿入部24aより高温となっている溶融部24bの内壁25に当接する。このため、当接位置APにある溶融前の半田片2aは、溶融部24bのノズル24の内壁25に当接した半田片2aの一端部、
両端部、又は側部を介した熱伝導により溶融される。なお、この半田片2aの溶融のとき、ノズル24と接触しての直接熱伝導に加えて、溶融部24bのノズル24からの輻射熱伝達、および、ノズル24内を対流する熱風による対流熱伝達などの間接熱伝導も行われる。
【0069】 半田片2aは、溶融すると表面張力により丸まって略球状になろうとするが、溶融部24bのノズル24の内壁25と端子Tの先端に規制されるため真球になれず、
図6(B)の端面図に示すように、端子Tの先端Tsに接触している状態で太く短い形状に変形する。この形状は、短い円柱の両端が球面になった形状となっている。
【0070】 こうして溶融すると、矢印Y1に示すように、ノズル24から半田片2aに熱が伝わり、さらに、矢印Y2に示すように、半田片2aから端子Tに熱が伝わることで、端子Tは以前にも増して急速に加熱される。この加熱中、溶融した半田片2a は端子Tに接触した状態、すなわち端子Tの上に載った状態で半田片供給方向(下方向)へ移動せずに停止している。尚、半田片2aが溶融するのは、217℃以上である。
【0071】 図6(C)の端面図に示すように、溶融した半田片2aを介して適正温度にまで端子Tが加熱されると、溶融した半田片2aは、ぬれ始め、端子Tの先端Tsから端子Tの側面Twを伝って流れ出す。ここで、溶融しはじめてから流れ出す前の半田片2aは、位置が停止したままで熱の影響等によって形状が変化し続けていても良い。そして、端子Tの側面Twを伝って流れ出した溶融した半田片2aは、裏面側のランドRbに広がり、さらに、毛細管現象により、端子Tの側面TwとスルーホールHに面するランドRhとの隙間にも流入する。そして、表面側のランドRfにも広がっていく。
【0076】 当接位置APで溶融した半田片2aは、溶融部24bのノズル24の内壁25と端子Tの端部Tsに規制されるため、太く短い形状に変形させられる。このため、
溶融した半田片2aを介して、端子Tにノズル24からの直接の熱伝導による伝熱を新たに加えることができ、端子Tを急速に加熱することができる。これにより、
半田のぬれ性が向上し、バックフィレット形状BFが再現性よく綺麗に形成できる。
また、熱容量が大きく、熱引きの大きなパワーデバイス等においても、端子Tの温度を適正温度にまで容易に昇温することができるようになるため、熱容量の大きな電子部品の半田付け不良を防止できる。
実施例2】【0079】 図7は、実施例2のノズル124近傍を模式的に示す端面図による説明図である。
図7(A)の端面図に示すように、ノズル124は、孔126を案内部124cが狭く、溶融部124bおよび挿入部124aが広い形状に形成されている。案内 部123cの内壁125に囲まれた空間の中心軸に垂直な端面の最小幅である内径S3は、溶融前の半田片2aの最大幅である外径D2よりわずかに大きく形成されている。
【0083】 …案内部124cに供給された半田片2aは、案内部124cのノズル124の内壁125に沿った姿勢で案内部124cを通過し、当該姿勢のまま、溶融部124bの当接位置APに案内される。そして、当接位置APに案内された半田片2aは、移動範囲および角度変動範囲が規制され、先端側の端部2bが端子Tの端部Tsに当接し、後端部が溶融部124bに隣接する案内部124cのノズル124の内壁125に当接するようになる。これにより、当該後端部は、案内方向に垂直な方向への移動が規制されるため、半田片2aの当該姿勢は、当接位置APにおいてもこのまま維持される。
(2) 本件各発明の概要 前記第2の2の請求項1、2及び4ないし7の記載並びに上記(1)の記載によると、本件各発明の概要は、次のとおりであると認められる。すなわち、本件各発明は、基板の孔に通された電子部品につながる端子を孔の周りの基板のランドに半田付けする半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法及び製品の製造方法に関するものである。従来から、半田付けが大量に行われている作業現場においては、ばらつきにより半田付け不良が発生するという課題があった。かかる課題を解決し、半田付け不良を防止することを目的として、本件各発明は、端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内 に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、前記当接位置規制手段は、前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、または、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、により構成され、前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である半田付け装置等及びこれらを前提とする半田付け方法等を採用したものである。本件各発明は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等により半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する結果、半田付け不良の防止という効果を奏する。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について 事案に鑑み、取消事由2から検討する。
(1) 本件審決は、甲1発明においてフラックス含有量が1.0wt%の半田片を用いた場合、半田片が溶融し球となった場合の半田の直径は半田ごての先端部の貫通孔内壁の径より大きくなるから、溶融した半田は真球になれない旨判断したところ、原告も、甲1の実施例1に関しては、この判断を強く争うものではない。そこで、本件出願日当時の当業者が甲1発明においてフラックス含有量が1.0wt %の半田片を用いることが容易になし得たことであるか否かにつき検討する。
(2) 甲1の記載等 甲1には、「本発明の第一の課題は、フラックスの飛散を防止するとともに、詰まりの生じにくい半田鏝を提供することにある。」などの記載(段落【0004】等)があり、甲1発明は、フラックスを含有する半田を用いることを前提としているものと認められるが、フラックスの含有量がどの程度の半田を用いるのかについては、甲1に記載又は示唆はない。
(3) その他の関係証拠の記載 次の各証拠には、次の各記載がある。
ア 甲10 「日本工業規格 JIS 3283:2006 やに入りはんだ … この規格は、主として電気機器、電子機器、通信機器などの配線接続、部品の製造などに用いるフラックスを心として、はんだを線状にしたやに入りはんだについて規定されたもの…である。
今回の改正は、JIS Z 3282が、2006年に改正されたのに伴い、両規格の整合性を保持する目的で行われたものである。
… やに入り半田のフラックス含有量は、…表3による。
表3―フラックス含有量 単位 %(質量分率) 記号 フラックス含有量 許容範囲 F1 1.0 0.5以上1.5未満 F2 2.0 1.5以上2.5未満 F3 3.0 2.5以上3.5未満 F4 4.0 3.5以上4.5未満 F5 5.0 4.5以上5.5未満 F6 6.0 5.5以上6.5未満」 イ 甲15 「物質の特定 化学名 化学式 含有量(wt%) … C ロジン C19H29COOH 1〜4」 ウ 甲16(千住金属工業発行の商品カタログ(平成31年又は令和元年)) 「SENシリーズ…フラックス含有量 3mass%、4mass% … GAOシリーズ…フラックス含有量 3mass% … CBFシリーズ…フラックス含有量 3mass% … ZEROシリーズ…フラックス含有量 3mass%、4mass% … MACROSシリーズ…フラックス含有量 3.5mass% … LEOシリーズ…フラックス含有量 2mass% … EFCシリーズ…フラックス含有量 3mass%」 エ 甲37(「i-MAKER」なる名称のウェブサイトへの投稿記事(平成27年)) 「一般的なヤニ入りはんだ。ワイヤーの内部にヤニ、すなわちフラックスが入っている フラックス含有量は2〜4%」 オ 甲41(千住金属工業の従業員作成の電子メール(令和3年)) 「お問い合わせいただきました件、お取り扱いに対する資料になるかと思います。
…ご要望の1%のもののご用意はございません。」 カ 甲42(大澤直著「はんだ付工学-理論から実践まで-」(平成24年)) 「代表的な非腐食性フラックスの組成は25%ロジン-75%イソプロピルアルコールであり、IC素子など、高信頼性が要求される分野で使用される。」 キ 甲45(株式会社ニホンゲンマ作成の回答書(令和4年)) 「当社でのやにいりはんだ製造につきまして、現在、生産設備の都合上、フラックス含有量1%には対応しておりません。過去におきましてもお客様からのご要望もなく、フラックス含有量1%製品の製造実績はございません。フラックス含有量1%のやにいりはんだを製造する上で危惧される点といたしましては、「やに切れ(フラックスが入っていない不具合)」が上げられます。」(4) 上記(3)のとおり、千住金属工業発行の商品カタログには、フラックスの含有量を2ないし4wt%とする半田のみが掲載され、フラックスの含有量を2wt%未満とする半田は掲載されていないこと(なお、この商品カタログは、本件出願日の後である平成31年又は令和元年に発行されたものであるが、本件出願日が平成28年7月30日であることに加え、甲41及び45の上記各記載にも照らすと、
千住金属工業は、本件出願日当時も、その商品カタログにフラックスの含有量を1wt%とする半田を掲載していなかったものと推認するのが相当である。)、ウェブサイトへの投稿記事においても、フラックスの含有量は2ないし4%とされていること、株式会社ニホンゲンマは、過去においてもフラックス含有量を1%とする半田を製造したことはなく、そのような半田を製造すると、フラックスが入っていない不具合が発生することが危惧される旨回答していること、本件出願日の後に作成された電子メールにおいてではあるが、千住金属工業の従業員も、フラックスの含有量を1%とする半田は提供できない旨回答していることに照らすと、フラックスの含有量を1wt%とする半田は、本件出願日当時、やに入り半田の市場において普通に流通していなかったものと認めるのが相当である。
この点に関し、被告は、フラックスの含有量を1wt%とする半田は日本工業規格に定められた記号F1の半田に該当する旨主張する。確かに、甲10によると、
記号F1の半田(フラックスの含有量を1wt%とする半田を含む。)は、日本工業規格として定められているものであるが、そのことから直ちに、記号F1の半田が現実にやに入り半田の市場において普通に流通していたとまでいえるものではないから、甲10の記載から、フラックスの含有量を1wt%とする半田が本件出願日当時にやに入り半田の市場において普通に流通していたと認めることはできない。
また、被告は、甲15にフラックスの含有量を1wt%とする半田が記載されている旨主張する。しかしながら、甲15には、「ロジン」の含有量が「1〜4」wt%であるとの記載があるところ、甲42の上記記載及び弁論の全趣旨によると、
ロジンを含有するフラックスの成分は、ロジンのみではないことがうかがわれるから、上記「1〜4」との記載は、当然にフラックスの含有量を示すものとはいい難い。
(5) 前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等により半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、
ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられるものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならないまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けることにより半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、
甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決しようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用しようとする動機付け はないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。
なお、乙3(技術説明資料・17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たっては、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認めることはできない。
(8) 以上のとおりであるから、本件出願日当時の当業者において、相違点2に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。取消事由2は理由がある。
3 甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性について 前記2のとおりであるから、取消事由1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1を主引用例とした場合、進歩性を欠くということはできない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について 次いで、事案に鑑み、取消事由4について検討するに、相違点4に係る本件発明 2の構成は、相違点2に係る本件発明1の構成と同一であるから、前記2において説示したとおり、本件出願日当時の当業者において、相違点4に係る本件発明2の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。取消事由4は理由がある。
5 甲1を主引用例とする本件発明2の進歩性について 前記4のとおりであるから、取消事由3について判断するまでもなく、本件発明2は、甲1を主引用例とした場合、進歩性を欠くということはできない。
6 甲1を主引用例とする本件発明4の進歩性について 本件発明4は、本件発明1又は2を引用する発明であるから、前記3及び5のとおり本件発明1及び2がいずれも進歩性を欠くとはいえない以上、取消事由8について判断するまでもなく、本件発明4は、甲1を主引用例とした場合、進歩性を欠くということはできない。
7 甲1を主引用例とする本件発明5ないし7の進歩性について 本件発明5ないし7は、いずれも本件発明1、2又は4を引用する発明であるから、前記3、5及び6のとおり本件発明1、2及び4がいずれも進歩性を欠くとはいえない以上、取消事由5ないし7について判断するまでもなく、本件発明5ないし7は、甲1を主引用例とした場合、いずれも進歩性を欠くということはできない。
8 取消事由9(相違点12及び13並びに16及び17についての判断の誤り)について 事案に鑑み、取消事由9について検討する。
(1) 甲2の記載 甲2には、次の記載がある。
ア 「解析方法 我々は、研究の方向として、解析結果を実験結果により近づけることを決意した。
最初にシミュレーションソフトの性能を確かめ、シミュレーションの基礎を作らなければならなかった。…この3Dモデルは、プリント基板、ピン、スリーブ及び半田の4つのパーツから構成される。…それぞれの部材の寸法は、以下のとおりであ る。スリーブ内径:1.0[mm]、スルーホール直径:1.0[mm]、プリント基板厚み:1.6[mm]、ピン長さ:5.6[mm]、ピンの突出長:2.0[mm]。…半田は、直径1.0[mm]、長さ3.0[mm]である。解析の最初に、半田は、スリーブの内壁面に接触していると仮定する。この解析は、2つのセクションを有する。まず、溶融半田がスリーブからプリント基板の裏側へ流れる。
次に、スリーブが取り去られた後、半田の状態が溶融から凝固に変化する。その間、
空気温度は、663[K]から293[K]へ低下する。…解析方法の評価 図3は、半田の融解/凝固解析の結果を示す。半田の初期値は、融解温度から1[K]低い492[K]にセットされた。この解析結果は、半田がスルーホールを通ってスリーブからプリント基板の裏側へと流れたことを示している。また、フィレットとバックフィレットがプリント基板の表面に形成された。この半田モデルを使用しての挙動の結果は、このシミュレーションにおいて実際の現象に類似している。図3に示すように、バックフィレットは、これまでのところ、この解析結果において形成されていた。しかしながら、これらの結果は、理想的な形状とは異なるものであった。
バックフィレット形状の改善 バックフィレットの理想的な形状は、図4の赤線で示されるようなものである。
それ故、我々は、バックフィレットの形成プロセスを調べた。(a)半田がスリーブ内で加熱されるときは、半田が融ける前に半田の中のフラックスがプリント基板の裏側に流れる。(b)半田が融けてフラックスをなぞるようにスルーホールとプリント基板の裏側に流れる。(c)このようにして、スルーホールは、半田によって閉じられ、フラックスは、プリント基板裏面の半田の表面に流れることができない。プリント基板上面では、フラックスによって保護されたフィレットが形成される。対照的に、(d)基板裏面では、酸化皮膜が半田の表面に形成される。なぜなら、フラックスは、そこでは広がらないからである。この皮膜は、半田の劣化を防止する。
バックフィレットは、逆三角形を形作ると考えられる。」(2頁左欄8行目〜3頁右欄5行目) イ 表及び図面 表2及び図3 図4及び5 (2) 上記(1)のとおり、甲2の図3(左から2番目のもの)及び図4(a)には、
略長方形に見える半田がピンの先端に当接している様子が示されている。しかしながら、甲2の図3(左から2番目のもの)によると、半田の温度は539K以上であり、半田の融解温度(493K)を上回っているから、この半田は、溶融したものであると認められる。そして、これに加え、図3(最も左側のもの)において、
融解温度に達しない半田はピンの先端に当接していない様子が示されていることも併せ考慮すると、図3(左から2番目のもの)と同様の様子を示している図4(a)についても、図示されている半田が溶融したものであるとの可能性を払拭することはできないといわざるを得ない(なお、甲2の本文には、図4について、「(a)半 田がスリーブ内で加熱されるときは、半田が融ける前に半田の中のフラックスがプリント基板の裏側に流れる」との記載があるが、スリーブの内径及び半田の直径は、
共に1.0mmであり、また、半田は、スリーブの内壁面に接触していると仮定されているのであるから、半田は、ピンの先端に当接する前からスリーブの内壁により加熱されるものと認められるところ、当該加熱により、半田がピンの先端に当接する前に既に溶融しフラックスを排出し始める可能性もあるから、甲2の本文の上記記載によっても、図4(a)に描かれた半田が溶融前の半田であると断定することはできない。)。
被告は、図3(最も左側のもの)において、半田の温度が融解温度に達しない492Kとされていることから、半田が溶融するのは半田がピンの先端に当接してからである旨主張するが、甲2によっても、図3の最も左側のものと左から2番目のものとの間の半田の位置や温度を具体的に明らかにすることはできないから、被告の主張を採用することはできない。
以上によると、甲2発明において、溶融前の半田がピンの先端に当接するものと認めることはできない。
(3) したがって、本件出願日当時の当業者において、相違点12に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。また、相違点16に係る本件発明2の構成は、相違点12に係る本件発明1の構成と同一であるから、
本件出願日当時の当業者において、相違点16に係る本件発明2の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。取消事由9は、その余の相違点について判断するまでもなく、理由がない。
9 甲2を主引用例とする本件発明1及び2の進歩性について 前記8のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲2を主引用例とした場合にも、いずれも進歩性を欠くということはできない。
10 甲2を主引用例とする本件発明4の進歩性について 本件発明4は、本件発明1又は2を引用する発明であるから、前記9のとおり本 件発明1及び2がいずれも進歩性を欠くとはいえない以上、本件発明4は、甲2を主引用例とした場合にも、進歩性を欠くということはできない(なお、前記9及びこの10のとおりであるから、いずれも本件発明1、2又は4を引用する発明である本件発明5ないし7も、甲2を主引用例とした場合、いずれも進歩性を欠くということはできない。)。
11 結論 以上の次第であるから、原告の請求は理由があり、被告の請求は理由がない。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 中島朋宏