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関連審決 無効2018-800039
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事件 令和 3年 (行ケ) 10137号 審決取消請求事件
5
原告松山株式会社
同訴訟代理人弁理士 樺澤聡
同 山田哲也 10
被告小橋工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
同 阿部実佑季 15 同訴訟代理人弁理士 林佳輔
同 福永健司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/08/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が無効2018−800039号事件について令和3年10月7日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要25 1 特許庁における手続の経緯等? 被告は、名称を「作業機」とする発明に係る特許(特許第59762461号、請求項の数1。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲72)。
本件特許に係る出願(特願2016−46843号)は、平成27年9月4日に出願された特願2015−174637号(優先日:平成27年8月12日、以下「本件優先日」という。)の一部を平成28年3月10日に新た5 な出願としたものであって、本件特許は、同年7月29日に設定登録がなされた(甲72)。
? 原告は、平成28年10月11日、本件特許につき特許異議の申立てを行い、被告は、平成29年6月26日、訂正請求(以下「一次訂正」という。)をし、特許庁は、同年10月19日、一次訂正を認め、本件特許を維持する10 との異議の決定をした(甲54、甲73)。
?ア 原告は、平成30年4月13日、特許庁に本件特許の無効審判を請求し(無効2018−800039号、以下「本件審判」という。 、被告は、
)令和元年8月30日付けで訂正請求(以下「本件訂正」という。 をした) (甲93の1、2)。
15 特許庁は、令和2年3月23日、本件訂正を認め、請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決(以下「一次審決」という。)をした(甲96)。
イ 被告は、一次審決の取消しを求めて当裁判所に審決取消訴訟を提起し(当裁判所令和2年(行ケ)第10049号、以下「一次審決取消訴訟」とい20 う。、
) 当裁判所は、令和3年2月24日、一次審決を取り消すとの判決(以下「一次判決」という。)を言い渡した(甲47)。
?ア 特許庁は、本件審判の審理を再開し、令和3年10月7日、本件訂正を認め、本件審判の請求は、成り立たないとする審決(以下「本件審決」という。別紙1のとおり。
)をし、その謄本は、同年10月18日に原告に送25 達された(当事者間に争いがない。。
)イ 原告は、令和3年11月15日、本件審決の取消しを求めて、本件訴訟2を提起した(当裁判所に顕著な事実)。
2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである(A〜Jの分説は本件審決において付与された(本件審決第3〔本件審決7〜85 頁〕)。以下、本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
A 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
B 前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
C 前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を10 中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
D 前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作15 用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
J 前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
E 前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と20 第2の筒状部材とを有し、
F 前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの先端が接続され、
25 G 前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触し3て前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化することにより、前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し、
H 前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するよ5 うに構成されるI ことを特徴とする作業機。
3 本件審決の理由の要旨? 無効理由本件審判において、原告は、次のような無効理由を主張した(本件審決第10 4の1〔本件審決8〜9頁〕)。
ア 無効理由1本件発明は、本件特許の出願前に公然知られた又は公然実施された検甲1(原告製「ニプログランドロータリーSKS2000(製造番号1007)〔本件審決13頁〕」 )に係る発明(以下「検甲1発明」という。)と同15 一であるから、特許法(以下、「法」という。)29条1項1、2号に該当し、特許を受けることができないものである。
仮に、同一でないとしても、本件発明は、検甲1に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。
20 イ 無効理由2本件発明は、甲14(「ニプログランドロータリーSKSシリーズ」カタログ、平成27年(2015年)6月原告作成)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。
25 ウ 無効理由3本件発明は、本件特許の出願の日前の他の特許出願であって本件特許の4出願後に出願公開された甲18(特開2016−28566号公報)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらをまとめて「先願明細書等(甲18)」という。)に記載された発明(以下「甲18発明」という。)と同一であり、しかも、本件特許の出願に係る発明の5 発明者が当該他の特許出願に係る発明の発明者と同一ではなく、また本件特許の出願時の出願人が当該他の特許出願の出願人と同一でもないので、
29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。
エ 無効理由4本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下、
「本件明細書」とい10 い、願書に添付した図面とともに「本件明細書等」という。その内容は別紙2特許公報のとおりである。)の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、法36条4項1号に規定する要件を満たしていないものである。
? 公知公用発明等の認定と本件発明との対比15 ア 検甲1発明の認定と対比(無効理由1関係)(ア) 検甲1発明の認定本件審決が認定した検甲1に係る発明(検甲1発明)は次のとおりである(本件審決第6の1?ウ〔本件審決65頁〕。
)a 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させる作業機であ20 って、
b 走行機体と接続される主フレームと、耕耘ロータの上方を覆うシールドカバーと、
c シールドカバーの後方に設けられ、シールドカバーの後端に固定された第1の支点を中心にして上下方向に回動可能であるエプロンと、
25 d 主フレームに設けられた第1の台座に固定された第2の支点と、エプロンから上方に突出した第2の台座に固定された第3の支点との間5に設けられたらくらくアシスト機構と、を具備し、
e 前記らくらくアシスト機構は、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な、第2の支点側かつ内側に配置され長孔を有する第1の筒状部材と、第3の支点側かつ外側に配置された第2の筒5 状部材とを有し、
g シールドカバーの上面が水平になるようにトップリンクを調節することで、作業機を作業姿勢とした状態において測定すると、前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加しても略一定であって、
10 h エプロンを最下段まで降ろした状態で、第1の筒状部材の長孔が129mm現れ、該長孔を介して第1の筒状部材の内部に部材が見えており、エプロンを最上段まで上げた状態で、第1の筒状部材の長孔が、
17.77mm現れている、ロータリ作業機。
(イ) 本件発明と検甲1発明との対比15 本件審決が認定した本件発明と検甲1発明との一致点、相違点は、次のとおりである(本件審決第6の3?〔本件審決113〜114頁〕。
)a 一致点A 走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機にお20 いて、
B 前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
C 前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
25 D 前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点6との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
J 前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に5 挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
E 前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、前記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
10 F’ 前記第1の筒状部材のフレーム側の一端には前記第2の支点が、
第1の筒状部材のエプロン側の他端には前記ガススプリングの一端とが接続され、前記第2の筒状部材のフレーム側の一端には前記ガススプリングの他端が接続され、
G’ 前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第315 の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化し、
H 前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成される20 I 作業機。
b 相違点1構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」について、本件発明では、
「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」すると特定されているのに対し、検甲1発明では、エプ25 ロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するとは特定されていない点。
7c 相違点2本件発明では、ガススプリングのピストンロッドの先端が、第1の筒状部材のエプロン側の他端に接続され、同じくシリンダーの先端が、
第2の筒状部材のフレーム側の一端に接続されているのに対し、検甲5 1発明では、上記接続において、ガススプリングの両端のうち、ピストンロッドの先端及びシリンダーの先端が、それぞれいずれの側に接続されるかの特定がない点。
イ 甲18発明の認定と対比(無効理由3関係)(ア) 甲18発明の認定10 本件審決が認定した、先願明細書等(甲18)に記載された発明(甲18発明)は次のとおりである(本件審決第6の1?ケ〔本件審決79〜80頁〕。
)トラクタの後部に脱着可能に連結される機体と、この機体に回転可能に設けられ所定方向に回転しながら耕耘作業をする耕耘体(ロータリー)15 と、機体の後方に設けられた回動支点を中心として上下方向に回動可能に設けられ、耕耘体の後方で整地作業する板状の整地体(均平板)とを備えている農作業機であって、
前記回動支点は整地体の前端部近傍にあり、
作業者の人力による整地体の持ち上げ(上方回動)をアシストする持20 上アシスト手段を備えており、
持上アシスト手段は、操作レバーの一方向への回動(例えば下方回動)によってアシストオフ状態(ロック状態)となり、操作レバーの一方向とは反対方向である他方向への回動(例えば上方回動)によってアシストオン状態(ロック解除状態)となり、
25 持上アシスト手段は、細長い円筒状に形成された前後方向長手状の長尺体(インナーパイプ) 及び回動体の挿通孔部に挿通され長尺体に対し、
8てスライド移動可能な移動体(アウターパイプ)を有し、
長尺体は、機体に左右方向の軸を中心として上下方向に回動可能に設けられており、長尺体内にガススプリングが収納配設されており、このガススプリングは、窒素ガス等の高圧ガスが封入された本体部と、この5 本体部内に対して出入りするロッド部とにて構成され、本体部の基端部が長尺体に取り付けられ、
移動体は、外周側に回動体がスライド移動可能に配設された前後方向長手状で円筒状の筒状部を有し、この筒状部の前端部にはガススプリングのロッド部が取り付けられており、このため、移動体を上方側へ向け10 て付勢するガススプリングの伸縮に応じて、移動体が長尺体の外周面に沿ってスライド移動するようになっており、筒状部の前後方向中間部の外周面には、持上アシスト手段のアシストオン状態時にガススプリングの付勢力に基づいて回動体を押し上げる円形環状の回動体当接部である鍔部が突出状に固設されており、
15 回動体は、筒状部と、この筒状部の左右両側に外側方に向かって突設された左右方向の丸軸状の軸状部とにて構成され、この各軸状部が整地体の突出板の取付孔部に回動可能に取り付けられており、
長尺体及び移動体は、左右方向の軸、取付孔部を通る同一軸上にあり、
農作業機が耕耘作業時の位置及び傾きにおいて、持上アシスト手段を20 アシストオン状態に設定することにより、長尺体に対する移動体の前方移動が許容(つまりガススプリングの伸びが許容)されることとなり、
移動体が鍔部に当接した回動体とともに長尺体に対してガススプリングの付勢力に基づいて前方へ移動し、その結果、整地体がガススプリングの付勢力に基づいて上方へ回動する、
25 農作業機。
(イ) 本件発明と甲18発明との対比9本件審決が認定した本件発明と甲18発明との一致点、相違点は、次のとおりである(本件審決第6の5?〔本件審決127〜128頁〕。
)a 一致点走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら前記走5 行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、
前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと、
前記フレームの後方に設けられ、前記フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が前記第1の支点よりも後方にあるエプロンと、
10 前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、
15 前記ガススプリングは、シリンダーと、前記シリンダーの内部に挿入されたピストンと、前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し、
前記アシスト機構は、さらに、前記ガススプリングがその中に位置し、
前記第2の支点及び前記第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第120 の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、
前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、
前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ガススプリングの一端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記ガススプリングの他端が接続され、
25 前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が、前記第3の支点を回動中心とし、前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突10部に接触して前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化するものであって、
前記ガススプリングは、前記エプロンが下降した地点において収縮するように構成される作業機。
5 b 相違点a本件発明では、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続されるのに対し、甲18発明では、上記接続について、ガススプリングの両端のうちの、ピストンロッドの先端かシリ10 ンダーの先端かの特定がない点。
c 相違点b構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」について、本件発明では、
「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するのに対し、甲18発明では、そのような特定がされ15 ていない点。
? 本件審決の理由の要旨ア 無効理由1について本件発明は、本件特許の原出願前に公然知られた発明でも公然実施された発明でもなく、かつ、該発明に基づいて、当業者が容易に発明をするこ20 とができたものでもない(本件審決第6の3?〔本件審決123頁〕。
)イ 無効理由2について本件発明は、甲14に記載された発明並びに甲23ないし30、甲37ないし40、甲43ないし46、及び甲48ないし49に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(本件審25 決第6の4?〔本件審決125頁〕。
)ウ 無効理由3について11本件発明は、甲18発明と同一ではないから、先願明細書等(甲18)に記載された発明ではない(本件審決第6の5?〔本件審決130頁〕 。
)エ 無効理由4について本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の構成要件Gの「エ5 プロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている(本件審決第6の2?〔本件審決111頁〕。
)10 4 原告主張の取消事由? 無効理由1関係ア 取消事由1−1検甲1発明の認定の誤りイ 取消事由1−215 本件発明と検甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤りウ 取消事由1−3原告主張の相違点を前提とする場合の容易想到性の判断の誤りエ 取消事由1−4本件審決認定の相違点を前提とする場合の容易想到性の判断の誤り20 ? 無効理由3関係ア 取消事由2−1甲18発明の認定の誤りイ 取消事由2−2本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定の誤り25 ウ 取消事由2−3原告主張の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り12エ 取消事由2−4本件審決認定の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り? 無効理由4関係取消事由35 実施可能要件(法36条4項1号)の判断の誤り第3 当事者の主張1 取消事由1−1(検甲1発明の認定の誤り〔無効理由1関係〕)について〔原告の主張〕? エプロンを跳ね上げるのに要する力の減少の有無10 検甲1は、平成27年(2015年)7月11日、12日、18日、19日に株式会社クボタの筑波工場において開催された展示会「元氣農業応援フェア 2015 in つくば」(以下「本件展示会」という。甲1、甲3、
甲5)で展示された。
検甲1発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増15 加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成を備えているので、本件発明の構成要件Gを備えている。その理由は、次のとおりである。
? 原告主張の理由ア 構成要件Gの理論的説明に対する認識(理由1)本件明細書等には、通常の意味とは異なる「てこの原理」の説明は記載20 されているが、構成要件Gの理論的説明は一切記載されていない。それにもかかわらず、本件審決は、本件発明に係る作業機の構造を参照した当業者であれば、力学的な技術常識から、構成要件Gの理論的説明を認識できると判断し、かつ、それに加えて、構成要件Gを得るために当業者は特に困難を伴わず試行錯誤も必要としないと判断した。そのため、本件優先日25 前の本件展示会において、本件発明に係る作業機と同じ構造(ガススプリングの接続の向きが逆である点を除く。)を有する検甲1を見た当業者は、
13同様に力学的な技術常識から構成要件Gの理論的説明を認識できる。そして、その当業者は、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、
構成要件Gの理論的説明の具体的内容(当業者の技術常識に属する内容)に基づいて、構成要件Gの具体例をシミュレーションにより導き出すこと5 ができる。
本件審決の実施可能要件の判断によれば、構成要件Gは当業者の技術常識であり、構成要件Gは検甲1を見れば認識できるから、検甲1発明は構成要件Gを備える。
イ 力の減少に対する認識(理由2)10 本件審決は、構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢は、スタンド姿勢を含む「作業機全体が地上に引き上げられた状態(前傾) でもよく、
」 かつ、
構成要件Gにおけるエプロンを跳ね上げるのに要する力の減少の程度は、
本件発明の意義に鑑みて、作業者にとってエプロンを跳ね上げる作業が容易になるようなものであればよく、「一般的な作業者が感じることができ15 る程度に徐々に減少する」程度で足りると判断した。そのため、本件展示会で検甲1を見た当業者であれば、力学的な技術常識に基づいて、構成要件Gを当然に理解・認識することができ、その具体例をシミュレーションできるから、検甲1発明は構成要件Gを備える。
ウ 補助的資料による認定その1(理由3)20 (ア) 甲103(原告従業員丁作成の報告書)について甲103のとおり、検甲1を、本件展示会と同じスタンド姿勢(前傾約30°)に設定した状態で、本件審判の第1回口頭審理及び証拠調べ(平成30年10月30日実施)における検証の時と同様の方法により、
エプロンを跳ね上げるのに要する力(アシスト操作力)を実際に測定し25 たところ、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って、一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少する14結果を示すグラフ(甲103の7頁のグラフ)が得られた。そのため、
検甲1は、エプロンを跳ね上げるのに要する力がエプロン角度の増加に伴って徐々に減少する構成を有していた。
なお、甲80(第1回口頭審理及び証拠調べ調書)の別紙表のとおり、
5 エプロンを跳ね上げるのに要する力の「作業姿勢」での検証結果は、
「略一定」であった。そのため、本件審決の第6の2?イ(イ)d及び(ウ)〔本件審決97頁〕に示された「Fs」の計算式の内容(作業機の姿勢に応じて変化する重力トルク)からみて明らかなように、
「スタンド姿勢」にして同様の方法で測定した場合に、甲103の7頁のグラフのようにアシ10 スト操作力が「徐々に減少」するのは、当然の結果である(原告作成の口頭審理陳述要領書(4)(甲88)の11〜16頁参照)。
また、甲103の7頁のグラフの減少傾向が、原告作成の上申書(2)(甲91)の31頁のグラフ(姿勢30°の計算値)と若干異なるのは、
測定誤差や摺動部の錆等のほか、消耗品であるガススプリングの経年劣15 化によるものと考えられる(甲107参照)。
(イ) 甲104(甲20のブログの作成者である乙(以下「乙」という。)作成の証明書)及び甲105(原告従業員丙(以下「丙」という。)作成の陳述書)甲104及び甲105から明らかなとおり、本件展示会の見学者は、
20 「スタンド姿勢」で展示されていた検甲1のエプロン(均平板)を持ち上げることにより、アシストオン状態のアシスト機構を実際に体感しており、検甲1が有していた「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成は、展示会における展示によって、不特定の者によって技術的に理25 解される状況(少なくともそのおそれのある状況)で実施されていた。
したがって、そのような構成(本件発明の構成要件Gに相当する。)は検15甲1発明の構成として認定されるべきである。
エ 補助的資料による認定その2(理由4)甲106の1(動画1)の内容から明らかなように、本件展示会において、見学者は検甲1のエプロンの斜め後方(パネルの横のスペース)に立5 ってそのエプロンを片手でも持ち上げることができた。甲20のブログの作成者である乙も、このようにしてエプロンを片手で持ち上げる行為を行っていた(甲104)。
加えて、甲106の2ないし4(動画2ないし4)の内容から明らかなように、本件展示会において、見学者はエプロンを持ち上げるのに要する10 力がエプロン角度の増加に伴って徐々に減少すること、換言すればだんだんと軽くなることを感じることができた。すなわち、アシスト機構を働かせたときの動画(甲106の2、動画2)を見ると、エプロン角度20°付近で手を離した場合には、エプロンは素早く下方回動するが、エプロン角度50°付近で手を離した場合には、エプロンはゆっくり下方回動する。
15 このような挙動(持ち上げの初期と終期とで異なる挙動)は、アシスト機構を働かせていないときの動画(甲106の3、4、動画3、動画4)でのエプロンの動きとは明らかに異なる。しかも、エプロン角度60°付近までエプロンを持ち上げた場合、アシスト機構を働かせたときの動画(甲106の2、動画2)では、エプロンから手を離しても、エプロンは下方20 回動せず停止状態となるが、アシスト機構を働かせていないときの動画(甲106の3、4、動画3、動画4)では、停止状態にならない。アシスト機構を働かせたときの動画(甲106の2、動画2)において、このようにエプロンが停止状態になるのは、エプロンを跳ね上がるのに要する力がエプロン角度の増加に伴って徐々に減少しているからに他ならない。
25 なお、アシスト機構を働かせたときの動画(甲106の2、動画2)におけるエプロンの停止状態は、ロック装置のストッパーピンによるもので16はない。そのため、エプロンを軽く押し下げるだけで、エプロンはゆっくり下方回動し、元の下降状態に戻る。
オ 検甲1の展示状況本件展示会において、検甲1は、「展示のみ」(展示機)とされており、
5 圃場実演(耕うん作業)は行われなかったが、展示ブースでの実演(操作体感)は可能であった(甲104、甲105)。本件展示会当時、原被告間では特許訴訟が係属中であったため、原告は、被告の営業部員及び開発部員に対しては検甲1の写真撮影を禁止したが、それ以外の者に対しては禁止していなかった(甲8の3、5、甲104、甲105)。また、検甲1の10 前にパネルが置かれていた場合でも(甲7、甲20)、見学者は、パネルを移動させることなくパネルの横のスペースに立ってエプロンを持ち上げることが可能であった(甲104、甲105、甲106の1) したがって、

本件審決が、本件展示会において見学者が検甲1のエプロンを持ち上げることがなかったと認定したのは誤りである。
15 ? 検甲1発明の認定の誤りの有無検甲1発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要件Gに相当する。)を備えているので、検甲1発明がそのような構成を備えないとした本件審決の認定は誤りである。
20 〔被告の主張〕? 〔原告の主張〕?に対し本件審決による検甲1発明の認定は、本件審判の第1回口頭審理及び証拠調べ(平成30年10月30日実施)における検証に基づいて行われたものであり、原告はその検証調書(甲80)の内容に異議を述べることもなかっ25 たから、本件審決による検甲1発明の認定に誤りはない。
?ア 〔原告の主張〕?ア(理由1)に対し17本件審決は、力学に関する技術常識を勘案し、本件訂正後の請求項1及び本件明細書等の記載により把握される本件発明にかかる作業機の構造を参酌するならば、当業者であれば、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」すると5 いう構成の理論的説明を認識できると判断したものであり、仮にそのような構成を備える作業機(以下、単に「実機」ということがある。)が本件優先日前に存在したとしても、実機を見ただけで当然に「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するということを認識できると判断したものではない。
10 イ 〔原告の主張〕?イ(理由2)に対し実機を見ただけでは、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」することは認識できないし、エプロンを跳ね上げるのに要する力をそのように減少させるという到達目標が示されなければ、その目標を達成するための具体的な数値設15 定等をシミュレーションすることはできない。
ウ(ア) 〔原告の主張〕?ウ(理由3)(ア)に対し甲103に示された測定結果は、測定誤差、摺動部の錆、消耗品であるガススプリングの経年劣化のため、約6年半前の本件展示会時の状態における検甲1の測定結果とは異なると考えられ、本件審判の第1回口20 頭審理及び証拠調べ(平成30年10月30日実施)における検証の時に測定された結果(甲80)とも異なる。甲103は原告が一方的に作出したものであり、審判官と当事者双方が立ち会って行われた検証の結果(甲80)を覆すに足りるものではない。
(イ) 〔原告の主張〕?ウ(理由3)(イ)に対し25 甲104及び甲105は、約6年半前の本件展示会のことを述べたものであり、信用性に乏しい。
18本件展示会後の近い時期に作成された甲20(乙が作成した平成27年9月29日のブログ)には、均平板がラクに持ち上がるようになる ・「 ・・みたいです。 と伝聞表現で記載されているにとどまるから、
」 乙が展示会で実際にエプロン(均平板)を持ち上げてアシスト機構を体感したとは5 認められず、本件展示会で実際にそのようなことを体感したという内容の甲104は信用できないし、甲20のブログに掲載された写真によれば、作業機の前に、カタログを表面に敷き詰めた木製のパネルが置かれていたから、見学者がエプロンを持ち上げることはできなかった。
本件展示会で見学者が実際にエプロンを上げ下げしていたという主張10 や陳述は本件審判段階では提出されなかったから、その旨の甲105の陳述書は信用性に乏しい。
エ 〔原告の主張〕?エ(理由4)に対し甲106の1ないし4(動画1ないし4)の撮影時における検甲1は、
本件展示会当時の検甲1と同じ状態ではない。甲20掲載の写真によれば、
15 本件展示会では、甲106の1ないし4(動画1ないし4)の撮影時とは異なり、検甲1のスタンドの内側に足を踏み入れる隙間がなく、容易にエプロンを持ち上げることができない状態であった。仮に不自然な姿勢でエプロンを持ち上げたとしても、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少することを感20 じることはできない。
オ 〔原告の主張〕?オに対し「展示のみ」として出展されていた検甲1について操作体験が許容されていたとは考えられない。展示会当時、検甲1は新製品であったため、被告従業員に限らず全ての見学者に対し、写真撮影や操作が禁止され、展示25 がされているだけであった。
2 取消事由1−2(本件発明と検甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤り19〔無効理由1関係〕)について〔原告の主張〕本件審決による検甲1発明の認定は誤りであるから、そのような誤った認定を前提とした、本件発明と検甲1発明との一致点及び相違点の認定も誤りであ5 る。検甲1発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要件Gに相当する。)を備えているから(前記1〔原告の主張〕?)、本件審決が認定した相違点1は存在しない。本件発明と検甲1発明との相違点は、次のとおりである。
10 相違点2’本件発明では、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続されるのに対し、検甲1発明では、ガススプリングの接続の向きが逆で、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはシリンダーの先端が接続され、第2の筒15 状部材のフレーム側の一端にはピストンロッドの先端が接続される点。
〔被告の主張〕本件審決は、検証調書(甲80)に基づいて検甲1発明を認定したものであり、その認定に誤りはないから、本件審決による本件発明と検甲1発明との一致点及び相違点の認定に誤りはなく、本件発明と検甲1発明との間には、相違20 点1及び相違点2が存在する。
3 取消事由1−3(原告主張の相違点を前提とする場合の容易想到性の判断の誤り〔無効理由1関係〕)について〔原告の主張〕本件審決による検甲1発明の認定は誤りであり、前記2〔原告の主張〕のと25 おり、本件発明と検甲1発明との間には相違点1は存在せず、相違点2’のみが存在する。
20甲43(特開平6−74335号公報)、甲44(特開2006−115711号公報)、甲45(特開2009−254326号公報)には、農作業機に用いるガススプリングに関して、そのガススプリングの接続の向きを逆にしてもよい旨が記載されているから、農作業機の技術分野において、ガススプリング5 の接続の向きを逆にするようなことは、本件優先日前の周知技術である。また、
フリーピストンタイプのガススプリングには角度制限がなく、角度や向きを変えてもガス漏れの心配がないこと、ガススプリングの接続の向きを逆にしても、
ガススプリング自体の付勢力が変化しないことは、当業者にとって自明である。
さらに、ガススプリングの製造会社が作成したガススプリングの説明資料であ10 る甲55、甲67の1及び甲107によれば、ピストンロッドは下向きが望ましいことは明らかである。そのため、検甲1発明において、これらの周知技術(少なくとも公知技術)の適用により、二者択一の接続方向のうち一方を選択し、ピストンロッドが下向きになるようにガススプリングの接続の向きを逆にして相違点2’に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到15 し得た。
したがって、本件発明は検甲1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないという本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕原告の主張は、本件審決による検甲1発明の認定が誤りであることを前提と20 するものであるが、その認定に誤りはなく、原告の主張は、その前提において採用できない。
また、相違点2又は相違点2’について検討するとしても、これらに係る本件発明の構成はいずれも容易想到ではない。甲43ないし甲45は、いずれもエプロンの跳ね上げをアシストする機構にガススプリングを用いておらず、検25 甲1発明でガススプリングの接続の向きを特定の向きにすることを示唆するものではなく、甲55、甲67の1及び甲107は、ガススプリング単体の仕21様書等にすぎず、エプロンの跳ね上げをアシストする機構とは無関係である。
本件発明の構成では作業時にはエプロンが下になり、エプロン側の他端に接続されたピストンロッドが下になるから、それによりガス漏れを防止することができる。フリーピストンタイプのガススプリングでもガス漏れは生じるから、
5 本件発明は、オールガスタイプでもフリーピストンタイプでも同様に作用効果を生じる。
4 取消事由1−4(本件審決認定の相違点を前提とする場合の容易想到性の判断の誤り〔無効理由1関係〕)について〔原告の主張〕10 ? 相違点1の容易想到性の判断の誤り本件発明の構成要件Gは、当業者の技術常識であり、補助的資料(甲103〜甲105、甲106の1〜4)の内容に照らせば、検甲1に接した当業者は、相違点1に係る本件発明の構成を容易に想到することができたことは明らかである。
15 ? 相違点2の容易想到性の判断の誤りア 相違点2は、相違点2’と実質的に同じであり、仮に相違点2が存在したとしても、相違点2が存在することによる技術的意義(技術的効果)は何もなく、取消事由1−3について前記3〔原告の主張〕で述べたと同様の理由により、検甲1に接した当業者であれば、二者択一の接続方向のう20 ち一方を選択し、相違点2に係る本件発明の構成を容易に想到し得たことは明らかである。
イ 本件審決は、検甲1発明において、ガススプリングの接続の向きを逆とする動機や示唆は見いだせないのに対し、本件発明は、ガススプリングについて相違点2に係る接続の向きを選択することにより、本件明細書の段25 落【0029】及び【0036】に記載される、
「ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置することによって内部のオイルがピストン側に移動22し、窒素ガスの漏洩を防止する」という効果、及び「ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する」という効果を奏するものということができると判断した(本件審決第6の3?イ〔本件審決122〜125 3頁〕。しかし、本件発明に係る作業機が最も長い時間維持するスタンド)姿勢におけるエプロン下降状態では、ピストンロッドがシリンダーよりも上方に位置するし、オールガスタイプのガススプリングにおいては、ガススプリングが収縮した状態でその内部のオイルがピストン側ではなくシール側に移動した場合に、シールがオイルに浸されて窒素ガスの漏洩を防止10 できるのであるから、オイルがピストン側に移動しても窒素ガスの漏洩を防止できない。したがって、本件審決の上記判断は誤りである。
〔被告の主張〕? 〔原告の主張〕?に対し本件発明の構成要件G自体が当業者の技術常識であったとはいえないし、
15 前記1〔被告の主張〕のとおり、甲103ないし甲105、甲106の1ないし4を参酌しても、検甲1が構成要件Gを備えていたとは認められない。
? 〔原告の主張〕?に対し前記3〔被告の主張〕のとおり、相違点2は容易想到でない。
5 取消事由2−1(甲18発明の認定の誤り〔無効理由3関係〕)について20 〔原告の主張〕? エプロンを跳ね上げるのに要する力の減少の有無本件審決は、本件発明に係る作業機の構造を参照した当業者であれば、力学的な技術常識から、構成要件Gの理論的説明を認識できると判断し、かつ、
それに加えて、構成要件Gを得るために当業者は特に困難を伴わず試行錯誤25 も必要としないと判断したところ、先願明細書等(甲18)には、本件発明に係る作業機と同じ構造の作業機が示されているから、甲18発明は、エプ23ロンを跳ね上げるのに要する力はエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するという構成(本件発明の構成要件Gに相当する。 を備)える。
この点に関して本件審決は、甲18の段落【0107】及び【0108】5 の記載を引用した上で、先願明細書等(甲18)に構成要件Gは明記されていないと判断するところ(本件審決第6の5?イ〔本件審決129頁〕、確)かに、先願明細書等(甲18)には、エプロンを跳ね上げるのに要する力(構成要件G)が「徐々に減少する」とは明記されていないが、同先願明細書等において、作業機の姿勢は何ら特定されておらず、本件審決の第6の2?イ10 (ウ)〔本件審決97頁〕に示された「Fs」の計算式中の重力トルクは、作業機の姿勢に応じて大きく変化するから、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、作業機の姿勢等によっては「徐々に減少する」ことになる。そのため、
本件審決の上記判断は、作業機の姿勢及びそれに応じて変化する重力トルクを看過したものであり、誤りである。
15 ? ガススプリングの接続の向きまた、甲18の図27の内容等からみて、第1の筒状部材(長尺体)のエプロン側の他端(後端)にはシリンダーの先端が接続され、かつ、第2の筒状部材(移動体)のフレーム側の一端(前端)にはピストンロッドの先端が接続されているから、甲18発明は、
「前記第1の筒状部材の前記フレーム側20 の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記シリンダーの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記ピストンロッドの先端が接続され」るという構成を備える。
? 甲18発明の認定の誤りの有無甲18発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増25 加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要件Gに相当する。)を備えているので(前記?)、甲18発明がそのよう24な構成を備えないとした本件審決による甲18発明の認定は誤りである。
また、甲18発明は、
「前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が、前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記シリンダーの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には5 前記ピストンロッドの先端が接続され」るという構成を備えるから(前記?)、
本件審決が、甲18発明について、第1の筒状部材のエプロン側の他端と第2の筒状部材のフレーム側の一端に接続されるのが、ガススプリングのピストンロッドの先端とシリンダーの先端のいずれか特定されていないものとして認定したのは誤りである。
10 〔被告の主張〕原告の主張は争う。甲18には、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、
エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成の記載も示唆もなく、それは甲18に「記載されているに等しい事項である」とはいえない。
15 6 取消事由2−2(本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定の誤り〔無効理由3関係〕)について〔原告の主張〕本件審決による甲18発明の認定は誤りであるから、そのような誤った認定を前提とした、本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定も誤りであ20 る。甲18発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要件Gに相当する。)を備えているから(前記5〔原告の主張〕?)、本件審決が認定した相違点bは存在しない。そして、本件発明は、
「前記第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接続され、前記第225 の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの先端が接続され」るという構成(構成F)を備えるのに対し、甲18発明は、
「前記第1の筒状部材25の前記エプロン側の他端には前記シリンダーの先端が接続され、前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記ピストンロッドの先端が接続され」るという構成を備える(前記5〔原告の主張〕?)から、本件発明と甲18発明との相違点は、次のとおりである。
5 相違点a’本件発明では、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続されるのに対し、甲18発明では、ガススプリングの接続の向きが逆で、第1の筒状部材のエプロン側の他端にはシリンダーの先端が接続され、第2の筒10 状部材のフレーム側の一端にはピストンロッドの先端が接続される点。
〔被告の主張〕本件審決による甲18の認定に誤りはなく、本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定にも誤りはない。
7 取消事由2−3(原告主張の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り15 〔無効理由3関係〕)について〔原告の主張〕前記6〔原告の主張〕のとおり、本件審決による本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定には誤りがあり、本件発明と甲18発明との相違点は相違点a’である。
20 本件発明と甲18発明との相違点a’は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術であって新たな効果を奏するものではないもの)にすぎない。また、相違点a’は、当業者が適宜採用し得る単なる二者択一の設計事項であって、新たな効果を奏するものではなく、実質的な相違点ではない。さらに、本件明細書の段落【0029】及び【0036】に記載された効果は、そ25 もそも本件発明の構成に基づかないものである。
したがって、ガススプリングの接続の向きがどちらであっても、技術的な意26味に差異はなく、本件発明と甲18発明は実質同一であるから、両発明が同一でないとした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕相違点a又は相違点a’に係る本件発明の構成(第1の筒状部材のエプロン5 側の他端にはピストンロッドの先端が接続され、第2の筒状部材のフレーム側の一端にはシリンダーの先端が接続される)により、ガススプリングがオールガスタイプかフリーピストンタイプにかかわらず、本件明細書の段落【0025】に記載された「ガスの漏洩とガススプリングの劣化を抑制することができる」という効果が得られるから、相違点a又は相違点a’は、課題解決のため10 の具体化手段における微差にとどまるものではない。
8 取消事由2−4(本件審決認定の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り〔無効理由3関係〕)について〔原告の主張〕本件明細書等の図2と甲18の図24を見比べれば、三つの支点の位置関係15 は同じであるから、エプロンを跳ね上げるのに要する力がエプロン角度が増加する所定角度の範囲内において徐々に減少することは先願明細書等(甲18)に実質的に記載されており、本件審決が認定した本件発明と甲18発明との相違点b(前記第2の3?イ(イ)c)は、課題解決のための具体化手段における微差等にすぎず、実質的な相違点ではない。また、農作業機の技術分野において、
20 ガススプリングの接続の向きを逆にするようなことは、本件優先日前の周知技術であるから、ガススプリングの接続の方向が定められているか否かに関して本件審決が認定した本件発明と甲18発明との相違点a(前記第2の3?イ(イ)b)は、課題解決のための具体化手段における微差等にすぎず、実質的な相違点ではない。したがって、本件発明と甲18発明は同一であり、これらの両発25 明が同一でないとした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕27相違点a又は相違点a’に係る本件発明の構成により本件明細書の段落【0025】に記載された効果が得られるから、相違点a又は相違点a’は、課題解決のための具体化手段における微差にとどまるものではなく、実質的な相違点である。相違点bも実質的な相違点である。
5 9 取消事由3(実施可能要件(法36条4項1号)の判断の誤り〔無効理由4関係〕)について〔原告の主張〕本件明細書の段落【0028】には、
「図7は、アシスト操作力とエプロン角度の関係を示すグラフである(出願人が製造販売する耕うん作業機を用いて実10 測した結果である。。
)」という記載があるから、本件発明が、構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能であるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るための実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が実際に存在して15 いたことが前提である。しかし、構成要件Gの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関する資料が現在存在しないから、図7のグラフが一体どのような作業機を用いた実測結果であるのか全く理解できず、
構成要件Gの根拠になり得ない。したがって、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能である。
20 原告は、一次審決取消訴訟で主張したのとは異なる理由で実施可能要件の判断の誤りを主張しているから、この主張は一次判決の拘束力に反するものではない。
〔被告の主張〕「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度25 範囲内において徐々に減少し」という構成は実施可能要件を充足するという一次判決の判断は、拘束力を生じ、本件審決は一次判決の拘束力に従って、同様28の判断をしたものであるから、これを争う原告の主張は、一次判決の拘束力に反するものであり、失当である。
第4 当裁判所の判断1 本件発明の内容5 ? 本件明細書(甲72)には、次の記載がある。
ア 技術分野「本発明は作業機に関する。特に、走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんするロータリ作業機に関する。(段落【0001】」 )10 イ 背景技術「このようなロータリ作業機は走行機体と接続されるフレームと、フレームの後方に設けられ、フレームに固定された支点(第1の支点)を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能なエプロンを有している。エプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落と15 したり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合には、
エプロンを跳ね上げた状態に保持する。(段落【0002】」 )「しかしながら、エプロンはそれなりの重量があり、その重心が支点(第1の支点)よりも後方にあることから、作業者にとってエプロンを跳ね上げる作業は重労働である。(段落【0003】」 )20 「特許文献1(判決注:特開2008−278757号公報)に記載されているように、エプロンを跳ね上げる作業を容易にするために、ガススプリングの弾性力を利用して跳ね上げる力を補助するエプロン跳ね上げアシスト機構(補助機構)が提案されている。この特許文献1記載のアシスト機構(補助機構)は、ロータリ作業機の作業機本体の幅方向端部に設け25 られた側部カバーとエプロンの幅方向端部との間に設けられたガススプリングを有し、ガススプリングのロッド側端部は側部カバーに設けられた29案内孔に沿って上下方向に移動可能に支持されている。特許文献2(判決注:特開2010−63367号公報、甲48)、3(判決注:特開2014−97042号公報、甲25)記載のアシスト機構(補助機構)は、耕うんロータの上方を覆うシールドカバーの上方にアシスト機構(補助機構)5 を設けている。(段落【0004】」 )ウ 発明が解決しようとする課題「しかしながら、特許文献1記載のアシスト機構(補助機構)は、エプロンの幅方向端部に設けられているため、作業中にガススプリングが畦や側壁等の障害物に接触して損傷する恐れがある。(段落【0006】」 )10 「また、特許文献2記載のアシスト機構(補助機構)は、ガススプリングのピストンロッドが露出しており、特許文献3記載のアシスト機構(補助機構)は、ガススプリングを横にしたままで用いるため、いずれもガススプリングから窒素ガスが漏洩する可能性があり、耐久性をさらに向上する必要がある。(段落【0007】」 )15 エ 課題を解決するための手段「本発明の実施形態による作業機は、走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転させながら走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、作業機は走行機体と接続されるフレーム(主フレームやシールドカバーを含む概念である。以下同じ。)と、フレームの後20 方に設けられ、フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が支点よりも後方にあるエプロンと、フレームに固定された第2の支点とエプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、第2の支点と第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプ25 リングを含むアシスト機構とを具備し、ガススプリングは、シリンダーと、
シリンダーの内部に挿入されたピストンと、ピストンから延長されるピス30トンロッドと、ピストンロッドを安定させるためのロッドガイドと、シリンダーとピストンとで区画されるシリンダー内部を移動可能なフリーピストンとを有し、シリンダー内部のうちフリーピストンとピストンとの間及びピストンとロッドガイドとの間にはそれぞれオイルが充填され、アシ5 スト機構は、さらに、同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、第1の筒状部材には第2の支点とガススプリングの一端とが接続され、第2の筒状部材には第3の支点とガススプリングの他端とが接続されることを特徴とする。(段落【0008】」 )「上記作業機において、アシスト機構は、さらに、同一軸上で移動可能な10 第1の筒状部材と第2の筒状部材とを有し、第1の筒状部材には第2の支点とガススプリングの一端とが接続され、第2の筒状部材には第3の支点とガススプリングの他端とが接続されることが望ましい。
(以下略)」(段落【0009】)オ 発明の効果15 「本発明の作業機によれば、安定したアシスト動作が可能であり、ガススプリングの劣化も防止した作業機を提供することができる。また、エプロンが下降状態にあるときに、いきなりエプロンが跳ね上がらないようにすることが可能となる。(段落【0013】」 )カ 発明を実施するための形態20 「〈実施例〉図1から図6を用いて、本発明の実施例に係る作業機の全体構成及び跳ね上げアシスト機構(補助機構)の構成について説明する。本発明の実施例に係る作業機は、耕うん作業機や代かき機のように、例えばトラクタなどの走行機体の後部に連結され、作業爪を回転させることで土壌を耕し又は25 撹拌する作業機である。実施例では、作業機の一例として耕うん作業機を用いて本発明の構成を説明するが、本発明に係る作業機は代かき機であっ31てもよく、耕うん作業機又は代かき機以外の作業機であってもよい。(段」落【0016】)「[作業機100の構成]図1は、本発明の実施例に係る作業機の背面図である。図2は、本発明の5 実施例に係る作業機の耕うん時の側面図である。図3は、本発明の実施例に係る作業機のエプロン跳ね上げ時の側面図である。実施例に係る作業機100は、フレーム(主フレーム110とシールドカバー120とを含む)、
耕うんロータ102、エプロン130等から構成されている。(段落【0」017】)10 「主フレーム110は、トラクタ等の走行機体と接続される。主フレーム110は円筒形であり、内部に動力伝達軸を有する。トラクタ等の走行機体から回転動力を得て、これを進行方向左右へと回転軸の向きを代える。
主フレーム110内の動力伝達軸は作業機100側部のチェーンケース105に接続され、このチェーンケース105内のチェーン伝達機構によ15 って、耕うんロータ102の回転軸104に動力が伝達される。」(段落【0018】)「耕うんロータ102は回転軸104と、この回転軸104に設けられた多数の耕うん爪103とから構成される。図1に示されているように、多数の耕うん爪103は進行方向右又は左に曲げられており、個々の耕うん20 爪103が土を掘り起こす領域(幅)は隣接する爪103との間で重なりあいがある。この耕うんロータ102は進行方向前方から後方に向かって土をかき上げるよう回転する。その結果エプロン130の内側には土が付着する。(段落【0019】」 )「エプロン130は、シールドカバー120に固定された支点140を中25 心にして下降及び跳ね上げ回動可能である。エプロン130の重心は前記支点よりも後方にある。したがって、エプロン130は自重により下降し32ようとする。エプロン130の先端にはステンレスの整地板131が溶接されている。整地板131はエプロン130の内側から外側に向かってループを描くように構成されている。この整地板131が耕うんロータ102によって掘り起こされた圃場を平坦にする。整地板131の両端には可5 動式の延長整地板132が設けられている。延長整地板132を開くことによって整地板131とともに広い幅範囲を整地することが可能になる。
主フレーム110に設けられた台座とエプロン130との間にコンプレッションロッド142が備えられている。コンプレッションロッド142は、エプロン130が下降状態にあるときに、エプロン130及び整地板10 131を圃場に一定の圧力で押さえつける働きをする。コンプレッションロッド142が作用する力の大きさは、作業者の操作によって調整可能である。(以下略)(段落【0020】」 )「実施例においては、上記構成に加えて、さらに、エプロン跳ね上げアシスト機構(補助機構)141が備えられている。エプロン跳ね上げアシス15 ト機構(補助機構)141は、主フレーム110に設けられた台座111による支点151と、エプロン130に設けられた台座134による支点152との間に設けられ、支点151と支点152の距離を変化させる力を作用させる。具体的には、この両者の距離を縮めることによってエプロン130を跳ね上げる方向に力を作用させる。このエプロン跳ね上げアシ20 スト機構141にはロック機構153が備えられている。このロック機構153はエプロン130が下降した状態(図2)において、支点151と支点152との距離を縮める方向の力を作用させないようにする。(段落」【0021】)「[跳ね上げアシスト機構の構成]25 図4は本発明の実施例に係る作業機の跳ね上げアシスト機構141の背面図である。図5は本発明の実施例に係る作業機の跳ね上げアシスト機構33141の耕うん時の側面図である。図6は本発明の実施例に係る作業機の跳ね上げアシスト機構141のエプロン跳ね上げ時の側面図である。実施例に係る作業機の跳ね上げアシスト機構141は、内側筒状部材210、
外側筒状部材220と、その中に位置するガススプリング250等から構5 成されている。(段落【0022】」 )「[ガススプリングの構成]ガススプリング250は、内側に空間を包摂する円筒形のシリンダー251と、シリンダー251の内部に挿入されたピストン256と、このピストン256から延長されるピストンロッド252と、フリーピストン2510 7とから構成されている。ピストンロッド252の先端にはブラケット253が、シリンダー251の先端にはブラケット254が設けられている。
ピストンロッド252とシリンダー251の他端近傍には、ピストンロッド252を安定させるためのロッドガイド258が設けられている。フリーピストン257は、シリンダー251とピストン256とで区画される15 シリンダー内部を移動可能である。フリーピストンとシリンダー251の内壁との間には可塑性樹脂からなるOリングがはめ込まれている。フリーピストン257とシリンダー先端との間の第1部屋261(図5、図6においてはフリーピストン257の右側の部屋)には窒素が充填されている。
この窒素の体積が変化することによって、ガススプリング250はスプリ20 ングのように伸び縮みし、ブラケット253、254の間隔が小さい場合はこれを大きくする方向で力を作用させる。ガススプリング250内部のピストン256とフリーピストン257との間の第2部屋260(図5、
図6においてはフリーピストン257の左側の部屋)及びピストン256とロッドガイド258との間の第3部屋280(図5、図6においてはピ25 ストン256の左側の部屋)にはオイルが充填されている。このオイルが窒素のガススプリング250外への漏洩を防ぐ。ピストン256には、ガ34ススプリング250の伸長方向に沿ってオリフィス(孔)259が形成されている。第2部屋260と第3部屋280に充填されたオイルは、ピストン256に形成されたオリフィス259を介して相互に移動する。具体的には、ピストンロッド252がシリンダー251の外側に向かって伸長5 するに従って、第3部屋280内のオイルがオリフィス259を介して第2部屋260に移動し、ピストン256とフリーピストン257との間隔が広くなる。(段落【0023】」 )「[内側及び外側筒状部材の組み合わせの構成]跳ね上げアシスト機構141は、ガススプリング250の伸長方向の力を10 圧縮方向の力に変換するため、内側筒状部材210と外側筒状部材220とを組み合わせている。内側筒状部材210と外側筒状部材220とは、
同一軸上で移動可能である。
・・・ガススプリング250のブラケット254は外側筒状部材220とピン271によって接続されている。ピン271は内側筒状部材210に設けられた長形穴内部において前後に動く。ガ15 ススプリング250のブラケット253は内側筒状部材210とピン270によって接続されている。支点151は内側筒状部材の一端に設けられ、支点152は外側筒状部材に設けられている。この結果、ガススプリング250が伸長する方向に力を作用させると、これとは逆に、アシスト機構は支点151と支点152の間隔が圧縮する方向に力を作用させる。
20 この結果、エプロン130を跳ね上げる方向に回動させる。(段落【00」24】)「[ロック機構の構成]エプロン跳ね上げアシスト機構141にはロック機構153が備えられている。このロック機構153はエプロン130が下降した状態において、
25 支点151と支点152との距離を縮める方向の力を作用させないようにする。この結果、耕うん時にアシスト機構141が働いてエプロンが跳35ね上がらない。ロック機構153は図4に示すとおり、外側筒状部材220に固定されており、支点231を中心として回動するロックバー230とこれから延長されるレバー240と、このロックバー230の回動を規制する回動規制板233とから構成されている。(段落【0026】」 )5 「レバー240を下に倒すと、ロックバー230が外側筒状部材220の一端を閉じるので内側筒状部材210が飛び出してくるのを規制する。その結果、アシスト機構は支点151と支点152の間隔が圧縮する方向に力を作用させなくなる。レバー240を上に倒すと、ロックバー230が外側筒状部材220の一端を開くので内側筒状部材210が飛び出して10 くる。その結果、アシスト機構は支点151と支点152の間隔が圧縮する方向に力を作用させる。このようにして耕うん時にはレバー240を下に倒してアシスト機構の動作をロックすることができる。(段落【002」7】)「[アシスト操作力とエプロン角度との関係]15 図7は、アシスト操作力とエプロン角度の関係を示すグラフである(出願人が製造販売する耕うん作業機を用いて実測した結果である。。アシスト)機構が作用しない場合には、エプロン角度(最も下降した状態を0°とし、
これから回動するにつれて回動角度をエプロン角度と定義した。が10°)を超えたあたりから、ほぼ一定の荷重がかかることが理解される。他方で、
20 アシスト機構が作用する場合には、エプロン角度0°近傍から、ほぼ線形に荷重が低減していく。そして、エプロン角度が約60°の点で荷重がゼロになる。つまり、作業者からみれば、だんだんと軽くなっていく。上記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観測される。上記説明したガススプリング250は圧縮状態の力のほうが、伸長状態の力よ25 りも大きいが、支点152が支点151に近づくにつれ、所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなるため、
「てこの原理」により、
36逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)を奏する。(段落【0028】」 )「[変形例1]上記実施例においては、ガススプリングとして、フリーピストンを有する5 ものを用いたが、フリーピストンを用いない従来型のガススプリングを用いることも可能である。この場合は、通常の状態であるところの、エプロンが下降した状態においてピストンロッドはシリンダーよりも下方に位置することが望ましい。フリーピストンを用いない従来型のガススプリングであっても、ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置することに10 よって内部のオイルがピストン側に移動し、窒素ガスの漏洩を防止するからである。(段落【0029】」 )「[変形例2]上記実施例においては、ガススプリングは1本のみの例を示したが、ガススプリングは複数本用いてもよい。このようにして十分なアシスト力を得15 ることが可能となる。特に、重量のあるエプロンを有する大型の耕うん作業機や代かき機等においては、ガススプリングは複数本用いることが望ましい。この場合、アシスト機構を作業機の幅方向に複数個間隔を開けて配置してもよい。(段落【0030】」 )「[実施例による作用効果]20 以上の構成により、以下の様な作用効果を奏する。(段落【0033】」 )「第2に、本発明の実施例の構成を前提にすれば、ガススプリングがほぼ地平と略平行に配置されざるをえず、一般的なガススプリング(フリーピストンが存在しないもの)ではガスの漏洩可能性が高くなりがちである。
本発明の実施例によれば、ガススプリング内部にフリーピストンを有し、
25 フリーピストンとピストンとの間の部屋及びピストンとロッドガイドとの間の部屋にはそれぞれオイルが充填されている。この結果、フリーピス37トンの先に充填されている窒素等のガスがガススプリングから漏れだす可能性が低くなり、ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは、作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する。(段落【0035】」 )5 「第3に、本発明の実施例によれば、エプロンが下降した状態(すなわち、
耕うん時の状態である。エプロンが跳ね上がった状態の時間よりもはるかに長い時間においてこの状態が維持される。 において、
) ガススプリングのピストンロッドが、シリンダーよりも下方に位置する。その結果、ガススプリングのピストンロッドが、シリンダーよりも上方に位置する場合と比10 較して、窒素等のガスがガススプリングから漏れだす可能性が低くなり、
ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは、作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する。」(段落【0036】)「第4に、本発明の実施例によれば、アシスト機構が作用する力によって、
15 エプロンを跳ね上げるのに要する力が小さくなる。さらに、その力が所定角度範囲内において、徐々に小さくなるようアシスト機構を調整しているため、耕うん状態においてエプロンが下降した状態から、作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり、相当程度の力をもって(ただし、
アシスト機構が存在しないときに要する力よりは小さい)一旦エプロンを20 ある程度の角度まで跳ね上げれば、その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。つまり、エプロンの跳ね上げに要する力を減らすとともに、回転角度が上昇するに従って跳ね上げに要する力が減少していく。」(段落【0037】)「第8に、本発明の実施例において、ガススプリングは、前記エプロンが25 下降した地点において、収縮するよう構成しているため、最も長い時間である耕うん時においてガススプリングのピストンロッド表面が汚れるこ38とがなくなり、ガススプリングの寿命が大幅に向上する。これは、作業機のメンテナンスコストの低減にも寄与する。(段落【0041】」 )? 本件発明の技術的意義ア 本件発明は、作業機、特に、走行機体の後部に装着され、耕うんロータ5 を回転させながら走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんするロータリ作業機に関する(段落【0001】。
)イ このようなロータリ作業機は、走行機体と接続されるフレームと、フレームの後方に設けられ、フレームに固定された支点(第1の支点)を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能なエプロンを有している。エプロンの前10 面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり、耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合には、エプロンを跳ね上げた状態に保持する(段落【0002】。
)しかしながら、エプロンはそれなりの重量があり、その重心が支点(第1の支点)よりも後方にあることから、作業者にとってエプロンを跳ね上15 げる作業は重労働である(段落【0003】。そこで、エプロンを跳ね上)げる作業を容易にするために、ガススプリングの弾性力を利用して跳ね上げる力を補助するエプロン跳ね上げアシスト機構(補助機構)が提案されている(段落【0004】【0006】【0007】。
、 、 )ウ 本件発明の作業機は、走行機体の後部に装着され、耕うんロータを回転20 させながら走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において、作業機は、走行機体と接続されるフレームと、フレームの後方に設けられ、フレームに固定された第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり、その重心が支点よりも後方にあるエプロンと、フレームに固定された第2の支点とエプロンに固定された第3の支点との間に25 設けられ、第2の支点と第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリン39グを含むアシスト機構とを具備する(構成要件A〜D、 【0008】。
段落 )本件発明の実施例のガススプリング250は、内側に空間を包摂する円筒形のシリンダー251と、シリンダー251の内部に挿入されたピストン256と、このピストン256から延長されるピストンロッド252を5 有するところ(構成要件J、段落【0023】、本件発明の実施例のエプ)ロン跳ね上げアシスト機構141(アシスト機構)は、ガススプリング250の伸長方向の力を圧縮方向の力に変換するため、内側筒状部材210(第1の筒状部材)と外側筒状部材220(第2の筒状部材)とを組み合わせており、両者は、同一軸上で移動可能である。支点151(第2の支10 点)は内側筒状部材(第1の筒状部材)の一端に設けられ、支点152(第3の支点)は外側筒状部材(第2の筒状部材)に設けられている。そのため、ガススプリング250が伸長する方向に力を作用させると、これとは逆に、アシスト機構は、支点151(第2の支点)と支点152(第3の支点)の間隔を圧縮する方向に力を作用させ、この結果、エプロン13015 を跳ね上げる方向に回動させる(構成要件E、F、段落【0024】。
)なお、アシスト機構141は、外側筒状部材220(第2の筒状部材)に固定されたロック機構153を備えており、レバー240を上に倒すと、
ロックバー230が外側筒状部材220の一端を開き、内側筒状部材210が飛び出すので、支点151(第2の支点)と支点152(第3の支点)20 の間隔が圧縮する方向に力を作用させることができる(構成要件H、段落【0026】【0027】。
、 )エ 本件発明の実施例によれば、アシスト機構が作用させる力によって、エプロンを跳ね上げるのに要する力が小さくなる。さらに、その力が所定角度範囲内において、徐々に小さくなるようアシスト機構を調整しているた25 め、耕うん状態においてエプロンが下降した状態から、作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり、相当程度の力をもって(ただし、ア40シスト機構が存在しないときに要する力よりは小さい)一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば、その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。つまり、エプロンの跳ね上げに要する力を減らすとともに、回転角度が上昇するに従って跳ね上げに要する力が減少していく(構5 成要件G、段落【0037】。
)2 取消事由1−1(検甲1発明の認定の誤り〔無効理由1関係〕)について? 原告は、本件発明は本件特許の出願前に公然知られた又は公然実施された検甲1に係る発明と同一であるから、法29条1項1、2号に該当し、特許を受けることができないものであると主張する。
10 法29条1項1号の「公然知られた」とは、秘密保持契約等のない状態で不特定多数の者が知り、又は知り得る状態にあることをいい、同項2号の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい、物の発明の場合には、対象製品が不特定多数の者に販売され、かつ、当業者がその製品を外部から観察しただけで発明の内容を知15 り得る場合はもちろん、外部からは認識できなくても、当業者がその製品を通常の方法で分解、分析する等によって発明の内容を知り得る場合を含むというべきである。そして、発明の内容を知り得るといえるためには、当業者が発明の技術的思想の内容を認識することが可能であるばかりでなく、その認識できた技術的思想を再現できることを要するというべきである。
20 本件では、検甲1発明が、本件発明の構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成を備えていたこと、あるいは本件発明の内容が検甲1発明によって公然知られていたとも公然実施されていたとも認めることはできない。その理由は、次のとおりである。
25 ? 原告主張の理由についてア 構成要件Gの理論的説明に対する認識(理由1)について41(ア) 本件審決の判断a 本件審決は、力学に関する技術常識を勘案し、本件訂正後の請求項1及び本件明細書等により認められる本件発明に係る作業機の構造に照らすと、エプロンを跳ね上げるのに要する力(Fs)とエプロンの5 角度について、次の関係が成り立つと判断した(本件審決第6の2?イ(ウ)〔本件審決97頁〕。
)Fs>(Rw・W・sin(θ+α0)−Ra・Fg・sinθa)/(R・sin(θ+β0))(Fs:エプロンを跳ね上げるのに要する力10 Rw:第1の支点からエプロンの重心までの距離Ra:第1の支点から第3の支点までの距離R:第1の支点からエプロンを持ち上げる位置までの距離W:エプロンの重心に鉛直方向に働く重力Fg:第3の支点に働くアシスト力15 θ:エプロンが、第1の支点を通る直線に対してなす角度(エプロンが最も下降したときに θ=0°とする。)α0:θ=0°のときの、第1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度β0:θ=0°のときの、第1の支点とエプロンを持ち上げる位置とを20 結ぶ直線の鉛直方向に対する角度θa:第1の支点と第3の支点とを結ぶ直線と、第2の支点と第3の支点とを結ぶ直線がなす角度)b 本件審決は、検甲1の作業機が、エプロンを跳ね上げるのに要する力は徐々に減少する構成を有していたといえるかについて、次のとお25 り判断した(本件審決第6の3?〔本件審決115頁〕。
)「前記『2(2)イ(ウ)』で検討したとおり、『エプロンを跳ね上げ42るのに要する力』が『エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少』するとは、『エプロンを跳ね上げるのに要する力』(Fs)について、前記『2(2)イ(ウ)』に示した関係(判決注:前記aに示した式の関係)を満たすFsが、エプロンが、本件発明におけ5 る第1の支点を通る直線に対してなす角度 θ(エプロンが最も下降したときを θ=0°とする。)が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成である。
前記『2(2)イ(ウ)』に示した関係中の各パラメータのうち、θ以外の項目を適宜設定し、Fsが、θ が増加する所定角度範囲内にお10 いて徐々に減少するような構成を実現することにより、構成要件Gにおける『エプロンを跳ね上げるのに要する力』が『エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少』するとの構成は実現される。
したがって、エプロンを跳ね上げるのに要する力が徐々に減少する15 構成を有するか否かには、上記関係式中のFg(第3の支点に、第2の支点の方向に働くアシスト力)が影響し、Fgは、
『第2の支点と第3の支点との距離を変化させる力を作用させることによってエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる、ガススプリングを含むアシスト機構』(構成要件D)によるものであるから、アシスト機構で採用され20 る『ガススプリング』の特性(ストローク長とガス反力の関係等)に依存する。
そうすると、構成要件Gにおける『エプロンを跳ね上げるのに要する力』が『エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少』するとの構成を有しているか否かは、外観のみから認識できる性25 質のものではなく、上記展示会において展示された検甲1作業機の外観のみから、検甲1作業機が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が43徐々に減少する構成を有しているとすることはできない。」(イ) 原告の主張に対する判断原告は、本件展示会において、本件発明に係る作業機と同じ構造(ガススプリングの向きが逆である点を除く。を有する検甲1を見た当業者)5 は、力学的な技術常識から構成要件Gの理論的説明を認識できると主張し、構成要件Gは検甲1を見れば認識できるから検甲1は構成要件Gを備えると主張する(前記第3の1〔原告の主張〕?ア)。
しかし、本件審決は、エプロンを跳ね上げるのに要する力(Fs)とエプロンの角度に係る前記(ア)aの関係を、力学に関する技術常識を勘案10 し、本件訂正後の請求項1及び本件明細書等により認められる本件発明に係る作業機の構造から認定したものであり、本件訂正後の請求項1及び本件明細書等の記載内容を検討した上でそれを導いたものであると認められる。本件審決は、検甲1の作業機を見ることによって本件明細書の記載から導くことができる本件発明の技術的思想を認識できると判断15 したものではないし、当業者が本件明細書の記載から理解できる技術的思想と、検甲1の作業機の実物を見て理解できることが同じであると解すべき理由はないから、検甲1を見た当業者が、力学的な技術常識から構成要件Gの理論的説明を認識できるとする原告の主張は、採用することができない。さらに、エプロンを跳ね上げるのに要する力(Fs)と20 エプロンの角度に係る前記(ア)aの関係に照らすと、本件審決が述べるように、構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を有しているか否かは、アシスト機構で採用される「ガススプリング」の特性(ストローク長とガス反力の関係等)に依存するものであり、外25 観のみから認識できる性質のものではないと認められる。したがって、
この点からしても、構成要件Gは検甲1を見れば認識できるから検甲144は構成要件Gを備えるという原告の主張は採用することができない。
イ エプロンを跳ね上げるのに要する力の減少に対する認識(理由2)について原告は、本件展示会で検甲1を見た当業者であれば、力学的な技術常識5 に基づいて、構成要件Gを当然に理解認識することができ、その具体例をシミュレーションすることができるから、検甲1発明は構成要件Gを備えると主張するが(前記第3の1〔原告の主張〕?イ)、前記アで述べたと同様の理由により、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 補助的資料による認定その1(理由3)について10 (ア) 甲103について原告は、検甲1を、本件展示会と同じスタンド姿勢(前傾約30°)に設定した状態で、本件審判の第1回口頭審理及び証拠調べ(平成30年10月30日実施)における検証の時と同様の方法により、エプロンを跳ね上げるのに要する力(アシスト操作力)を実際に測定したところ、
15 エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度の増加に伴って、
一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少する結果を示すグラフ(甲103の7頁のグラフ)が得られたとして、検甲1は、エプロンを跳ね上げるのに要する力がエプロン角度の増加に伴って徐々に減少する構成を有したものであると主張する(前記第3の1〔原告の主張〕20 ?ウ(ア) )。
しかし、甲103は、本件訴訟が提起された後の令和3年(2021年)11月5日に測定された結果を示すものであり、約6年半前の平成27年(2015年)7月に開催された本件展示会における検甲1の状態を示すものとは認められないから、甲103によって、本件展示会に25 おける検甲1の構成が認められるとはいえない。また、甲103の測定値によれば、エプロン角度が60度となるあたりでアシスト操作力は約4517kgf になると認められ(甲103の6頁の調査結果のアシスト有1及び2のエプロン角度60.0のときの測定データ)、これは、エプロン角度が小さいときに比べればアシスト操作力は軽減されているが、それでも、17kgf の力で持ち上げなければならないことを意味する。他方、
5 甲106の2(動画2)は、本件訴訟が提起された後の令和3年11月30日に撮影された映像であるところ、これには、エプロン角度が60度のときに手を離すとエプロンが下がらなくなり、軽く押し下げると下に回動することが示されており、これは、エプロン角度が60度のときにアシスト操作力が0となることを示しているものと認められる。そう10 すると、甲103の測定結果は、甲106の2に撮影された作業機の挙動とは整合しないものと認められ、その測定結果に信用性があるとは認められない。
(イ) 甲104及び甲105について本件展示会から約2か月後の平成27年9月29日付けの乙のブログ15 である甲20には、バネがキツくて持ち上がらない均平板がラクに持ち「上がるようになる・・・みたいです。」と記載されており、乙が作成した令和3年11月9日付けの証明書である甲104には、「私と『Nさん』は、前記製品の均平板の斜め後方に立って、その均平板を片手で持ち上げる行為を行うことにより、前記製品のそのアシストオン状態のアシス20 ト機構(『均平板らくらくアシスト』)を体感したこと。」を「証明いたします」という記載が存在する。また、丙作成の令和3年11月25日付けの陳述書である甲105には、
「一般の見学者は、新製品の写真撮影をしたり、新製品のアシスト機構(『均平板らくらくアシスト』)のレバーを握って操作して、実際にエプロン(均平板)を上げ下げしていました。」25 (甲105〔2頁13〜16行〕)と記載されている。
しかし、これらの記載によれば、アシスト機構によって均平板を持ち46上げるのに要する力が軽くなるようにされていたことは窺われるものの、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ということを体験できたことが記載されていると認めることはできない。
5 甲7、甲20〔1、3頁〕の写真によれば、本件展示会において、検甲1のエプロンの後ろには、多数のカタログ等を貼った大きなパネルが置いてあったものと認められる。甲80の別紙の表によれば、検甲1は、
アシスト機能がオンの場合であっても、エプロンを持ち上げるために13.0ないし14.2kgf の力を要すると解されるし、甲103による10 としても、持ち上げ当初に約25kgf の力が必要であり、持ち上げるのに要する力が最も少なくなったエプロン角度60度のときにも16.7又は17.3kgf の力が必要であり、いずれにしても、エプロンを持ち上げるために13.0kgf 以上の相当程度の力を入れる必要があったと認められる。そうであるとすれば、本件展示会において、一般の見学者15 にエプロンを持ち上げる際のアシスト機能を体験してもらうとすれば、
持ち上げの体験を希望する者がエプロンの後ろの中央付近において力を入れることのできる態勢で体験できるようにするものと推認される。そして、本件展示会において実際に見学者がアシスト機能を体験していたとすれば、体験方法の説明資料が用意されていたり、説明者が適切な体20 験方法を促したりするなどし、体験の際には、エプロンの後ろに置かれていたパネルが移動されていたものと考えられる。しかしながら、甲104には、パネルを移動してエプロンを持ち上げたとの説明はないし、
体験方法の説明資料が用意してあったことや、説明者が適切な体験方法を促したことへの言及もない。そして、甲105には、見学者が、パネ25 ルの上に乗った状態でエプロンの後方に立ってエプロンを両手で持ち上げたり、パネルの上に乗らずにエプロンの斜め後方(パネルの横のスペ47ース)に立ってエプロンを両手又は片手で持ち上げていたと記載されている。しかし、エプロンを持ち上げるときの自然な態勢は、エプロン後方の左右の中心付近において、安定した地面や床面の上で、脚や腕に力を入れやすい姿勢で持ち上げるものであると認められ、そのような自然5 な態勢において、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という効果をよく体感できるものと推認される。甲105に記載された上記の態勢は、パネル上に乗っていたり、パネルの横の狭いスペースに立っているなど、
不安定な状態を前提とするものであり、エプロンを持ち上げるときの自10 然な態勢とは異なる不自然なものであって、このような態勢で見学者がエプロンを持ち上げるならば、十分な力が入れられずに持ち上げに失敗したり、持ち上げに失敗した見学者に重量のあるエプロンが当たって見学者の安全を害することが容易に想定されるものであって、そのようなことが展示会において行われていたとは考え難い。また、そのような不15 安定な状態における不自然な態勢において、エプロンを跳ね上げるのに「要する力が、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という効果をよく体感できるものとは考え難い。
そうすると、本件展示会において、見学者が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、本件発明の構成要件Gに記載された技術的思想の内容20 であるエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少することを認識することが可能であったとは認められないから、本件展示会において、検甲1により、本件発明の構成要件Gに係る構成が公然実施されていたと認めることはできず、本件発明が本件優先日前に検甲1により公然実施されていたとは認められない。
25 エ 補助的資料による認定その2(理由4)について甲106の1ないし4(動画1ないし4)は、本件訴訟が提起された後48の令和3年11月30日に撮影された時の検甲1の状態を示すものであり、約6年半前の平成27年(2015年)7月に開催された本件展示会における検甲1の状態を示すものとは認められないから、甲106の1ないし4によって、本件展示会における検甲1の構成が認められるとはいえ5 ない。さらに、前記ウ(ア)のとおり、甲103は甲106の2と矛盾する内容であって、その測定結果を信用することはできず、検甲1が、エプロンを跳ね上げるのに要する力が、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するという本件発明の構成要件Gを備えていたことを認めるに足りる証拠はない。
10 オ 検甲1の展示状況原告は、検甲1は、「展示のみ」(展示機)とされており、圃場実演(耕うん作業)は行われなかったが、展示ブースでの実演(操作体験)は可能であったと主張する(前記第3の1〔原告の主張〕?オ)。しかし、本件展示会において、検甲1により、エプロンを跳ね上げるのに要する力がエプ15 ロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するという構成要件Gに係る構成が公然実施されていたと認めることはできないのは、前記ウ(イ)のとおりである。
? 検甲1発明の認定の誤りの有無検甲1発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増20 加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要件Gに相当する。)を備えていたとは認められないし、少なくとも本件発明が検甲1発明により公然知られたとも公然実施されたとも認めることできないので、検甲1発明がそのような構成を備えないとした本件審決による検甲1発明の認定に誤りはない。
25 3 取消事由1−2(本件発明と検甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤り〔無効理由1関係〕)について49原告は、本件審決による検甲1発明の認定に誤りがあることを前提として、
本件発明と検甲1発明との一致点及び相違点の認定も誤りであると主張するが(前記第3の2〔原告の主張〕、前記2のとおり、本件審決による検甲1発)明の認定に誤りはないから、原告の上記主張は、その前提を欠くものであり、
5 採用することができない。
4 取消事由1−3(原告主張の相違点を前提とする場合の容易想到性の判断の誤り〔無効理由1関係〕)について? 取消事由1−3は、本件審決による検甲1発明の認定が誤りであり、本件発明と検甲1発明との間に相違点1は存在せず、相違点2’のみが存在する10 という原告の主張を前提とするものであるが(前記第3の3〔原告の主張〕、
)前記2のとおり、本件審決による検甲1発明の認定に誤りはないから、原告の上記主張はその前提を欠くものであり、採用することができない。
? また、その点を措くとしても、検甲1発明において、相違点2’に係る本件発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たという原告の主張15 (前記第3の3〔原告の主張〕)は、次のとおり、採用することができない。
すなわち、原告は、相違点2’について、@甲43ないし甲45には、農作業機に用いるガススプリングに関して、そのガススプリングの接続の向きを逆にしてもよい旨が記載されているから、農作業機の技術分野において、ガススプリングの接続の向きを逆にするようなことは、本件優先日前の周知技20 術(周知事項)である、Aフリーピストンタイプのガススプリングには角度制限がなく、角度や向きを変えてもガス漏れの心配がないこと、ガススプリングの接続の向きを逆にしても、ガススプリング自体の付勢力が変化しないことは、当業者にとって自明である、B甲55、甲67の1及び甲107によれば、ピストンロッドは下向きが望ましいことは明らかである、と主張し、
25 そのため、検甲1発明において、このような周知技術(少なくとも公知技術)の適用により、ピストンロッドが下向きになるようにガススプリングの接続50の向きを逆にして相違点2’に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たと主張する。
しかし、甲43ないし甲45からは、作業機の技術分野において、エプロンを持ち上げるアシスト機能のガススプリングの接続の向きを逆にすること5 が周知技術であったということはできない。また、本件明細書には、実施例においてガススプリングが地平と略平行に配置されたときにオールガスタイプではガスの漏洩可能性が高くなりがちであるという第2の課題を、ガススプリングをフリーピストンタイプにすることにより解決するという第2の作用効果(段落【0035】)の他に、エプロンが下降した状態でガススプリン10 グのピストンロッドがシリンダーよりも上方に位置する場合にガス漏れが生じるという第3の課題を、ガススプリングの取付方向により解決する第3の作用効果(段落【0029】及び【0036】)が記載されており、本件審決が、ガススプリングの取付方向を本件発明(構成要件F)所定のとおりにすることにより奏されると認定した作用効果は、上記の第3の課題を解決する15 という作用効果であると認められるところ、ガススプリングの取付方向により上記の第3の課題を解決することが、本件優先日前の周知技術(周知事項)であったと認めるに足りる証拠はない。また、本件発明は、エプロンの跳ね上げをアシストする機構にガススプリングを用いるという前提で、その特定の取付方向を規定し、上述の作用効果をもたらすものであるところ、甲55、
20 甲67の1及び甲107は、ガススプリング単体の仕様を示したものにすぎず、エプロンの跳ね上げをアシストする機構とは無関係であるから、甲55、
甲67の1及び甲107によって、検甲1発明においてピストンロッドを下向きにするのが望ましいことが明らかであるとはいえない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
25 5 取消事由1−4(本件審決認定の相違点を前提とする場合の容易想到性の判断の誤り〔無効理由1関係〕)について51? 相違点1の容易想到性の判断の誤りについて原告は、本件発明の構成要件Gは、当業者の技術常識であり、補助的資料(甲103〜甲105、甲106の1〜4)の内容に照らせば、検甲1に接した当業者は、相違点1に係る本件発明の構成を容易に想到することができ5 たことは明らかであると主張する(前記第3の4〔原告の主張〕?)。
しかし、本件発明の構成要件Gが当業者の技術常識であると認めるに足りる証拠はなく、前記2?ア(イ)のとおり、当業者が本件明細書等の記載から理解できる技術的思想の内容と、検甲1の作業機の実物を見て理解できることが同じであると解すべき理由はないから、検甲1を見た当業者が、力学的な10 技術常識から構成要件Gの理論的説明を認識できるとする原告の主張は、採用することができない。また、前記2?ウ(ア)、(イ)及びエのとおり、甲103は信用性があるとは認められず、甲104、甲105及び甲106の1ないし4によっても、検甲1発明が「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、
エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構15 成(本件発明の構成要件Gに相当する。)を備えていたとは認められない。さらに、検甲1発明において、アシスト機構が付されていることから、エプロンを跳ね上げるのに要する力を軽減するという課題が周知であったといえるとしても、エプロンを跳ね上げるのに要する力を、軽減された一定のものとするのか変化させるのか、変化させるとしてどのように変化させるのかにつ20 いては、様々な選択肢があり得るところであって、その中で、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという相違点1に係る本件発明の構成を採用することに関しては、これを示唆する証拠があったとは認められないし、当業者にとって自明であったともいえないから、検甲1発明において、当業者が、
「エプロン25 を跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するように構成することを容易に想到できたとはいえない。
52したがって、原告の上記主張は採用することができない。
? 相違点2の容易想到性の判断の誤りについてア 原告は、相違点2は、相違点2’と実質的に同じであり、仮に相違点2が存在したとしても、相違点2が存在することによる技術的意義(技術的5 効果)は何もなく、取消事由1−3について前記第3の3〔原告の主張〕で述べたと同様の理由により、検甲1に接した当業者であれば、二者択一の接続方向のうち一方を選択し、相違点2に係る本件発明の構成を容易に想到し得たことは明らかであると主張する(前記第3の4〔原告の主張〕?ア)。
10 しかし、前記4?のとおり、検甲1発明において、相違点2’に係る本件発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たという原告の主張(前記第3の3〔原告の主張〕 は、
) 採用することができず、したがって、
相違点2に係る本件発明の構成を容易に想到し得たことは明らかであるという原告の上記主張も、採用することができない。
15 イ(ア) 原告は、相違点2について、本件審決が、検甲1発明において、ガススプリングの接続の向きを逆とする動機や示唆は見いだせないのに対し、
本件発明は、ガススプリングについて相違点2に係る接続の向きを選択することにより、本件明細書の段落【0029】及び【0036】に記載される効果を奏するものということができると判断した(本件審決第20 6の3?イ〔本件審決122〜123頁〕)ことについて、@本件発明に係る作業機が最も長い時間維持するスタンド姿勢におけるエプロン下降状態では、ピストンロッドがシリンダーよりも上方に位置すること、Aオールガスタイプのガススプリングにおいては、ガススプリングが収縮した状態でその内部のオイルがピストン側ではなくシール側に移動した25 場合に、シールがオイルに浸されて窒素ガスの漏洩を防止できるのであり、オイルがピストン側に移動したというだけでは窒素ガスの漏洩を防53止できないから、本件審決の上記判断は誤りであると主張する(前記第3の4〔原告の主張〕?イ)。
(イ) そこで、原告の上記(ア)の@の主張について検討すると、作業機には、
耕うん作業に使用するなどして、エプロンが下降した状態にあるときが5 当然にある。そして、本件発明のガススプリングは、フレームに固定された第2の支点とエプロンに固定された第3の支点との間に設けられ、
第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と第2の筒状部材を有しており、第1の円筒状部材のエプロン側の他端にピストンロッドの先端が接続されるから、第3の支点が第2の支点と10 ピストンロッドの先端との間にあって、エプロンを下げた姿勢で第3の支点がエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させる以上、エプロンが下降した状態では、第3の支点は第2の支点よりも低い位置にあり、同一軸上にあるピストンロッドは、第3の支点よりもさらに低い位置にある。
そのため、本件発明の構成では、エプロンが下降した状態では、必然的15 に、フレーム側よりもエプロン側が下になり、エプロン側の端に先端が接続されたピストンロッドが、フレーム側の端に接続されたシリンダーよりも低い位置になる。本件明細書の段落【0029】及び【0036】は、本件発明の構成において、エプロンが下降した状態で、上記のとおりガススプリングのピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置する20 ことを前提として、そのような場合に、ガスの漏洩を防止し、ガススプリングの劣化が防止されるという効果を奏することを述べたものと認められ、本件審決の前記(ア)の判断に誤りがあるとは認められない。原告は、
スタンド姿勢におけるエプロン下降状態では、ピストンロッドがシリンダーよりも上方に位置することから、本件審決の判断が誤りである旨主25 張するが、仮にスタンド姿勢においてピストンロッドがシリンダーよりも上方に位置することがあったとしても、耕うん時等にエプロンが下降54した状態にあるときに、ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置し、それによって前記効果が奏されることは否定されないから、原告の主張は、採用することができない。
また、原告の上記(ア)のAの主張について検討すると、本件明細書の段5 落【0036】には、
「エプロンが下降した状態(中略)において、ガススプリングのピストンロッドが、シリンダーよりも下方に位置する。その結果、ガススプリングのピストンロッドが、シリンダーよりも上方に位置する場合と比較して、窒素等のガスがガススプリングから漏れだす可能性が低くなり、ガススプリングの劣化が防止され、ガススプリング10 の寿命が大幅に向上する。」と記載されており、これは、ガススプリングの種類を特定しておらず、ガスが漏れだす可能性が低くなるという効果が生ずることを述べているから、オールガスタイプのガススプリングを含め、ガススプリングの構造に照らすと、そのような効果を生ずる機序として、ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置することにより、
15 シリンダーのシール部にオイルが溜まり、それによって窒素ガス等の漏洩の可能性が低くなることを述べているものと認められ、本件審決は、
これを踏まえ、ピストンロッドがシリンダーよりも下方に位置すること「によって内部のオイルがピストン側に移動し、窒素ガスの漏洩を防止する」という効果を奏すると判断したものと認められる。そうすると、本20 件審決が述べる「オイルがピストン側に移動する」ということは、オイルが、シリンダー側ではなくピストン側に移動し、シール部に溜まることを指しているものと認められ、その判断に誤りはなく、原告の主張は、
採用することができない。
6 取消事由2−1(甲18発明の認定の誤り〔無効理由3関係〕)について25 甲18発明が、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要55件Gに相当する。)を備えるかについて検討する。
? 先願明細書等(甲18)には、次の記載がある。
「すると、長尺体 93 に対する移動体 111 の前方移動が許容(つまりガススプリング 91 の伸びが許容)されることとなり、移動体 111 が鍔部 118 に当5 接した回動体 106 とともに長尺体 93 に対してガススプリング 91 の付勢力に基づいて前方へ移動し、その結果、整地体4がガススプリング 91 の付勢力に基づいて上方へ回動する(図27参照)」。(段落【0107】)「そして、作業者が整地体4を最上げ位置まで軽い人力で持ち上げると、ストッパ装置 53 によって整地体4がその最上げ位置に自動的にロックされる。
10 なお、この例においても、整地体4は、ガススプリング 91 の付勢力のみによって最上げ位置まで上方回動しないため、作業者が最上げ位置まで人力で少し持ち上げる必要があるが、この際、ガススプリング 91 は、自由長(最大長さ)にはなっておらず、整地体4を上方側へ付勢しているため、作業者は、
軽い人力で整地体4を最上げ位置まで持ち上げることが可能である。(段落」15 【0108】)「さらに、例えば持上アシスト手段8の付勢体(圧縮バネ 31 やガススプリング 61、91 等)の付勢力のみによって整地体4が最上げ位置まで上方回動するようにしてもよい。(段落【0120】」 )「【図27】56510 」? 先願明細書等(甲18)には、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力がエプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成は記載されておらず、このような構成が、先願明細書等(甲18)の記載から自明であり、又は記載されているに等しいと認めるに足りる証拠はない。む15 しろ、前記?によれば、先願明細書等(甲18)には、着脱ピンを長尺体の孔部から取り外すことによって、持上アシスト手段をアシストオン状態に設定すると、整地体がガススプリングの付勢力に基づいて上方へ回動し、作業者が整地体を最上げ位置まで軽い人力で持ち上げることが記載されるとともに(段落【0107】及び【0108】、持上アシスト手段の付勢体(圧縮)20 バネやガススプリング等)の付勢力のみによって整地体が最上げ位置まで上方回動するようにしてもよいこと(段落【0120】)が記載されており、アシストオン状態において、
「エプロン角度」が0°の状態から一定の角度にまで増加する範囲では、整地体を持ち上げるのに要する力はそもそも不要であり、基本的にガススプリングにより整地体が持ち上がるものであると認めら25 れる。これは、本件発明が「エプロンを跳ね上げるのに要する力が所定角度範囲内において、徐々に小さくなるようアシスト機構を調整しているため、
57耕うん状態においてエプロンが下降した状態から、作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり、相当程度の力をもって一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば、その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる」という構成(本件明細書段落【0037】)とは異なるものと認め5 られる。
したがって、甲18発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成(本件発明の構成要件Gに相当する。 を備えているものとは認められず、
) 甲18発明がそのような構成を備えないとした本件審決の認定に誤りはない。
10 7 取消事由2−2(本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定の誤り〔無効理由3関係〕)について原告は、本件発明と甲18発明との間に、本件審決が認定した相違点b(構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」について、本件発明では、
「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するのに15 対し、甲18発明では、そのような特定がされていない点。(前記第2の3?)イ(イ)c)は存在しないと主張する(前記第3の6〔原告の主張〕。
)しかし、前記6のとおり、甲18発明は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という構成(本件発明の構成要件Gに相当する。 を備えているものとは認められな)20 いから、本件発明と甲18発明との間に相違点bが存在するとした点において本件審決の判断に誤りはない。
8 取消事由2−3(原告主張の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り〔無効理由3関係〕)について原告は、本件審決による本件発明と甲18発明との一致点及び相違点の認定25 には誤りがあり、本件発明と甲18発明との相違点は相違点a’であるという主張を前提として、原告主張の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り58を主張する(前記第3の7〔原告の主張〕。
)しかし、前記6のとおり、本件発明と甲18発明との間に相違点bが存在するとした点において本件審決の判断に誤りはないから、原告の上記主張は、その前提において採用することができない。
5 9 取消事由2−4(本件審決認定の相違点を前提とする場合の同一性の判断の誤り〔無効理由3関係〕)について法29条の2所定の「発明」と「同一であるとき」の判断に当たっては、対比すべき複数の発明間において、その構成やこれにより奏せられる効果が全て合致するということは通常考えられないことであるから、後願に係る発明(後10 願発明)が、先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(先願発明)とは異なる新しい技術に係り、新たな効果を奏するものであるか否かという見地から判断をすべきであって、両発明に差異があっても、その差異が、新しい技術に係るものではなく、単なる課題解決のための具体化における設計上の微差であり、新たな効果を奏するものでなければ、
15 両発明は技術的思想創作として実質的に同一であるといえるから、上記「同一であるとき」に当たるというべきである。そして、上記の判断に当たっては、
当業者の有する技術常識参酌することができるというべきである。
作業機において、エプロンを跳ね上げるのに要する力を軽減するという課題が周知であったといえるとしても、エプロンを跳ね上げるのに要する力を、軽20 減された一定のものとするのか変化させるのか、変化させるとしてどのように変化させるのかについては、様々な選択肢があり得るところであって、その中で、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという相違点bに係る本件発明の構成を採用することは、これが周知慣用技術であることや技術常識であることを示す証拠25 はなく、甲18発明とは異なる新しい技術に係り、新たな効果を奏するものであると認められる。したがって、相違点bは実質的な相違点であり、本件発明59は甲18発明と同一であるとは認められず、本件発明が甲18発明と同一であるとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
10 取消事由3(実施可能要件(法36条4項1号)の判断の誤り〔無効理由4関係〕)について5 ? 審決取消訴訟の拘束力特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定10 により、上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。
したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰15 り返すこと、あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
20 ?ア 一次審決取消訴訟の判断(ア) 本件訴訟におけると同様に、一次審決取消訴訟においても、実施可能要件(法36条4項1号)に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、
「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成(構成要件G)を25 当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか否かということが争点となり、原告(一次審決取消訴訟の被告)は、本件発明に係60る作業機を自ら開発した被告(一次審決取消訴訟の原告)ですら、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現できないのであるから、構成要件Gが実施不可能であることは明らかであると主張した(甲47〔20頁〕。
)5 (イ) この点について、一次判決は、特許発明実施可能であるか否かは、
実施例に示された例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断されるものではないから、本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは、本件明細書等の図7のグラフのデータを得た「当時の作業機」自体10 を再現できるか否かによって判断されるものではなく、甲60(審判乙14)、甲64(審判乙18)によれば、構成要件Gが実施可能であることが認められるから、原告の上記主張は採用することができない、と判断した(甲47〔51〜52頁〕。
)イ 本件審決の判断15 原告は、本件審決においても、前記ア(ア)と同様の主張を行ったが(本件審決第4の3?カ)、本件審決は、一次審決取消訴訟のとおりの判断(前記ア(イ))をし、そのような判断によれば、
「一次審決は、図7のグラフを得たという作業機(実施品)が当時存在していたかについて審理判断していないが、図7のグラフを得たという作業機が当時存在していたことを示す証20 拠は皆無であり、架空の構成Gは当業者であっても実施不可能である。 と」いう原告の主張をもって、構成要件Gが実施可能であるとの判断が左右されるものでないことは明らかであると判断した(本件審決第6の2?イ(イ)c〔本件審決111頁〕。
)? 原告は、本件訴訟において、取消事由3として、本件発明が、構成要件G25 の「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少し」という構成を備えるものとして実施可能で61あるというためには、本件明細書等の図7のグラフに示された結果を得るための実測に用いられた本件発明に係る当時の作業機(本件発明の実施品)が実際に存在していたことが前提であるとし、それにもかかわらず、構成要件Gの根拠である図7のグラフを得たという当時の作業機自体及びそれに関す5 る資料が現在存在しないから、図7のグラフは、一体どのような作業機を用いた実測結果であるのか全く理解できず、構成要件Gの根拠になり得ず、そのため、構成要件Gは根拠がなく、当業者であっても実施不可能であると主張する(前記第3の9〔原告の主張〕。
)しかし、原告の取消事由3についての上記主張は、本件明細書等の図7の10 グラフのデータの実測に用いられた作業機に関する資料の存否に言及するものの、資料がないためにそのような作業機の存在が認められなければ、構成要件Gは実施不可能であるとの趣旨の主張であり、実施可能要件との関係においては、本件明細書等の図7のグラフのデータの実測に用いられた作業機の存在が明らかにならなければ実施可能要件は認められないとの主張であっ15 て、原告が一次審決取消訴訟において行った主張(前記?ア(ア))と同じ内容の主張であると認められる。そして、原告が一次審決取消訴訟においてした主張は(前記?ア(ア))、一次審決取消訴訟の判決理由中で理由がないと判断され(前記?ア(イ))、その判断には行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生じたものと認められ、本件審決は、一次審決取消訴訟の拘束力に従って、原20 告の上記主張に理由がないと判断したものと認められる。
したがって、原告は、本件審決が一次審決取消訴訟の拘束力に従ってした判断をもはや争うことはできないものというべきであるから、原告の取消事由3の主張は理由がない。
11 結論25 以上によれば、原告主張の取消事由にはいずれも理由がない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決62する。
知的財産高等裁判所第3部5裁判長裁判官東 海 林 保10裁判官中 平 健15裁判官都 野 道 紀63
事実及び理由
全容