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事件 令和 4年 (ネ) 10015号 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和4年6月29日判決言渡

令和4年(ネ)第10015号 特許権侵害差止請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第19922号(第1事件)、同第222

86号(第2事件)、同第22287号(第3事件))

口頭弁論終結日 令和4年4月18日

判 決

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主 文

1 本件各控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日

と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人大原薬品工業株式会社は、原判決別紙物件目録1記載の医薬品を製

造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。

3 被控訴人大原薬品工業株式会社は、原判決別紙物件目録1記載の医薬品を廃

棄せよ。

4 被控訴人キョーリンリメディオ株式会社は、原判決別紙物件目録2記載の医

薬品を製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。

5 被控訴人杏林製薬株式会社は、原判決別紙物件目録2記載の医薬品を販売し、

又は販売の申出をしてはならない。

6 被控訴人キョーリンリメディオ株式会社及び被控訴人杏林製薬株式会社は、

原判決別紙物件目録2記載の医薬品を廃棄せよ。

7 被控訴人共創未来ファーマ株式会社は、原判決別紙物件目録3記載の医薬品





を製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。

8 被控訴人株式会社三和化学研究所は、原判決別紙物件目録3記載の医薬品を

販売し、又は販売の申出をしてはならない。

9 被控訴人共創未来ファーマ株式会社及び被控訴人株式会社三和化学研究所は、

原判決別紙物件目録3記載の医薬品を廃棄せよ。

10 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

11 2項ないし9項についての仮執行宣言

第2 事案の概要

1 控訴人(原審第1事件ないし第3事件原告)は、発明の名称を「イソブチル

GABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」とする特許に係る特許権者であり、

被控訴人らは、いずれもジェネリック医薬品の販売を業とする会社である。本件は、

控訴人が、被控訴人らが原判決別紙物件目録1、2又は3記載の医薬品を販売する

などすることはいずれも控訴人の特許権を侵害すると主張し、特許法100条1項

及び同条2項に基づいて、被控訴人大原薬品工業株式会社(原審第1事件被告)、

被控訴人キョーリンリメディオ株式会社(原審第2事件被告)及び被控訴人共創未

来ファーマ株式会社(原審第3事件被告)に対し、上記医薬品の製造、販売等の差

止めを求め、被控訴人杏林製薬株式会社(原審第2事件被告)及び被控訴人株式会

社三和化学研究所(原審第3事件被告)に対し、上記医薬品の販売等の差止めを求

め、被控訴人ら5名に対し、上記医薬品の廃棄を求める事案である。

原審は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件

各控訴を提起した。

2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張

次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2から4までに

摘示のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決3頁24行目の「前記特許権」を「後記特許権」と改める。

(2) 原判決4頁24行目の「請求項1」から25行目の「「本件化合物」とい





い」までを「請求項1記載の化合物を「本件化合物1」といい、請求項2記載の化

合物を「本件化合物2」といい、本件化合物1及び2を併せて「本件化合物」とい

い」と改める。

(3) 原判決6頁13行目から14行目にかけて(なお、行数は、原判決左余白

欄の付記による。以下同じ。)の「「本件訂正請求」という」を「「本件訂正請求」

といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。」と改める。

(4) 原判決6頁19行目末尾に改行して「 式T」を加える。

(5) 原判決7頁6行目の「R1は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物」を「R

1 は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物」と改める。

(6) 原判決8頁1行目の各「訂正を」をいずれも「訂正事項を」と改める。

(7) 原判決9頁20行目の「取得した」の次に「(甲12、13の1)」を加

える。

(8) 原判決9頁23行目の「取得した」の次に「(甲12、13の2)」を加

える。

(9) 原判決10頁2行目の「取得した(」の次に「甲12、13の3。」を加

える。

(10) 原判決10頁24行目及び25行目の各「訂正事項1及び2」をいずれも

「訂正事項1及び2に係る本件訂正」と改める。

(11) 原判決11頁9行目から10行目にかけての「平成11年法律第160号」

を「平成14年法律第24号」と改める。

(12) 原判決14頁9行目の「サポート要件」の次に「(平成14年法律第24

号による改正前の特許法36条6項1号)」を加える。

(13) 原判決15頁16行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係

る本件訂正」と改める。

(14) 原判決15頁18行目の「訂正事項1及び2」から「訂正された」までを

「訂正事項1及び2に係る本件訂正は、次のとおり、いずれも本件明細書に記載し





た事項の範囲内でされる」と改める。

(15) 原判決15頁21行目、22行目、23行目及び26行目の各「本件化合

物」をいずれも「本件化合物1」と改める。

(16) 原判決15頁25行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】ア」と

改める。

(17) 原判決16頁1行目の「本件化合物」を「本件化合物2」と改める。

(18) 原判決16頁6行目の「訂正事項2」を「訂正事項2に係る本件訂正」と

改める。

(19) 原判決16頁6行目から7行目にかけての「訂正事項1」を「訂正事項1

に係る本件訂正」と改める。

(20) 原判決16頁8行目、11行目及び同行目から12行目にかけての各「本

件化合物」をいずれも「本件化合物2」と改める。

(21) 原判決16頁20行目末尾に改行して以下のとおり加える。

「 そして、上記のとおり訂正事項2に係る本件訂正は認められないから、本件

訂正前の請求項2と共に一群の請求項を構成する本件訂正前の請求項1について求

める本件訂正(訂正事項1に係る本件訂正)も、一体的に認められない。」

(22) 原判決16頁21行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係

る本件訂正」と改める。

(23) 原判決16頁25行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】ア」と

改める。

(24) 原判決17頁6行目及び13行目の各「優先日」をいずれも「本件優先日

と改める。

(25) 原判決17頁18行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係

る本件訂正」と改める。

(26) 原判決17頁21行目の「前記(4)」から「理由は」までを「前記(4)【被

控訴人らの主張】のとおり、訂正事項2に係る本件訂正が新規事項の追加に当たる





理由は」と改める。

(27) 原判決17頁23行目の「換言すれば」の次に「、訂正事項2に係る本件

訂正が新規事項の追加に当たるのであれば」を加える。

(28) 原判決17頁26行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係

る本件訂正」と改める。

(29) 原判決18頁22行目の「前記(1)」を「前記(1)【控訴人の主張】イ」と

改める。

(30) 原判決20頁17行目の「本件化合物」を「本件訂正後の請求項3に記載

の化合物(以下「本件化合物3」という。)又は本件訂正後の請求項4に記載の化

合物(以下「本件化合物4」という。)」と改める。

(31) 原判決20頁22行目及び25行目並びに21頁2行目及び6行目の各

「本件化合物」をいずれも「本件化合物3又は4」と改める。

(32) 原判決21頁7行目の「優先日」を「本件優先日」と改める。

(33) 原判決21頁9行目の「本件発明3及び4」を「本件訂正発明3及び4」

と改める。

(34) 原判決21頁13行目の「前記(6)」を「前記(6)【被控訴人らの主張】」

と改める。

(35) 原判決22頁1行目の「本件化合物」を「本件化合物1等の特定の化合物」

と改める。

(36) 原判決22頁8行目の「延長後」を「延長登録後」と改める。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求は全部理由がないものと判断する。その理由は、

次のとおり改め、当審における控訴人の主張に鑑み後記2を付加するほかは、原判

決の「事実及び理由」欄の第3に説示のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決22頁23行目の「アないしウの記載及び次のエの旨の記載」を

「アないしクの記載」と改める。





(2) 原判決23頁19行目末尾に改行して以下のとおり加える。

「ウ 【図面の簡単な説明】

図1.ギャバペンチン[1−(アミノメチル)−シクロヘキサン酢酸]、CI−1

008[(S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸]、および3−ア

ミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸のラット足蹠ホルマリン試験における効果。」

(3) 原判決23頁20行目の「ウ」を「エ」と改める。

(4) 原判決24頁9行目から25頁9行目までを以下のとおり改める。

「オ ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン、CI−1008、お

よび3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸の効果

雄性Sprague−Dawleyラット(70〜90g)を試験前に少なくとも

15分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴

化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶

液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠表面への皮

下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から、注射した後肢のリッキン

グ/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティング

を合わせた平均時間として初期相(0〜10分)および後期相(10〜45分)に

ついて示す。

ギャバペンチン(10〜300mg/kg)またはCI−1008(1〜100m

g/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は、ホルマリン応答の後期相にお

けるリッキング/バイティング行動を、それぞれ最小有効用量(MED)30およ

び10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら、いずれの

化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3−アミノメチル−5−メ

チル−ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kgで後期相の中等度のブロックを

生じたのみであった。

カ ギャバペンチンおよびCI−1008のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効







試験日にラット(雄性Sprague−Dawley70〜90g)に2〜3のベ

ースライン測定を行ったのち、2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面に皮

下注射した。痛覚過敏のピークの発症後、動物に試験薬物を投与した。機械的およ

び熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。

A.機械的痛覚過敏

侵害受容圧閾値を、ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(Ugo Basile)を

用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため、250gのカットオフ点を使用し

た。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3〜5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ、

痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg、皮下)は痛覚過敏の完全なブ

ロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3〜300mg/kg、皮下)および

CI−1008(1〜100mg/kg、皮下)は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し、

MEDはそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。

B.熱痛覚過敏

ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreavesモ

デルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時

間後に、動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10〜100mg

/kg)またはCI−1008(1〜30mg/kg)は、カラゲニン投与後2.

5時間に皮下に投与し、PWLをカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。

カラゲニンは注射後2、3および4時間に足蹠回避潜時の有意な低下を誘発し、熱

痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよびCI−1008は用量依

存性に痛覚過敏に拮抗し、MEDは30および3mg/kgを示した(図3)。

これらのデータはギャバペンチンおよびCI−1008が炎症性疼痛の処置に有効

であることを示す。

キ Bennet G.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚

の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pa

in、1988;33:87−107)。





Kim S.H.らのアッセイは、ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生

じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain、1990;50:3

55−363)。

ク 術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennanら、1996)。

それには、後肢足蹠面の皮膚、筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間

続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術

後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては、本発明者らは術後疼痛の

このモデルでギャバペンチンおよびS−(+)−3−イソブチルギャバの活性を調

べ、モルヒネの場合と比較した。

方法

Bantin and Kingmen(Hull、U.K.)から入手した雄性

Sprague−Dawleyラット(250〜300g)をすべての実験に使用

した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ、12時間明暗サイクル

(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後、

同じ条件下に、空気を含んだセルロースから構成される“Aqua−sorb”床

(Beta Medical and Scientific,Sale、U.

K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行わ

れた。

手術

動物は2%イソフルオランおよび1.4O 2 /NO2 混合物で麻酔し、鼻円錐によ

り手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備し

て踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1−cm縦

に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の

縫合糸によりFST−02の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシ

ンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後、すべての動物において感

染の徴候は認められず、創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間





後に抜糸した。

熱痛覚過敏の評価

熱痛覚過敏はラット足蹠試験(Ugo Basile、Italy)を用い、Ha

rgreavesらの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に

傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化さ

せた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き、後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜

時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため、自動カットオフ点を22.

5秒に設定した。各動物の両後肢について2〜3回PWLを測定し、その平均を左

右後肢のベースラインとした。装置は約10秒のPWLが得られるように検量した。

PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2、24、48および72時間に再

評価した。

接触異痛の評価

接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelti

ng、Illinois、USA)を用いて測定した。動物は、針金の網の底のケ

ージに収容して、足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に、この環境

に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に、順次力を増大させて(0.

7、1.2、1.5、2、3.6、5.5、8.5、11.8、15.1、および

29g)フライの毛で触れ、後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛は

それぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたな

らば、後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再

試験した。したがって、後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオ

フ点となった。各動物を、この様式で両後肢について試験した。反応が誘発される

のに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与

する場合には、接触痛覚過敏、接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験

に同一の動物を使用し、各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試

験を行った。術後にS−(+)−3−イソブチルギャバを投与する場合には、接触





異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。

統計

熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVAに付し、ついでD

unnett‘s t−検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は

個別のMann Whitney t−検定に付した。

結果

ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害受容反

応も手術後1時間以内にピークに達し、3日間維持された。実験期間中、動物はす

べて良好な健康状態を維持した。

手術前に投与したギャバペンチン、S−(+)−3−イソブチルギャバおよびモル

ヒネの熱痛覚過敏に対する効果

手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3〜30mg/kg、皮下)

は、用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し、MEDは30mg/kgであった

(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kgは痛覚過敏の反応を24時

間防止した(図4b)。S−(+)−3−イソブチルギャバを同様に投与した場合

も用量依存性(3〜30mg/kg、皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され、ME

Dは30mg/kgであった(図4c)。30mg/kg用量のS−(+)−3−

イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒ

ネの投与は、用量依存性(1〜6mg/kg、皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し、

MEDは1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4

a)。

手術前に投与したギャバペンチン、S−(+)−3−イソブチルギャバおよびモル

ヒネの接触異痛に対する効果

接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測

定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペ

ンチンは、用量依存性に接触異痛の発生を防止し、MEDは10mg/kgであっ





た。ギャバペンチン10および30mg/kgの用量はそれぞれ25および49時

間有効であった(図5b)。S−(+)−3−イソブチルギャバも同様に用量依存

性(3〜30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し、MEDは10mg/kgで

あった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS−(+)−

3−イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して、モルヒ

ネ(1〜6mg/kg)は、6mg/kgの最大用量で術後3時間、接触異痛の発

生を防止したのみであった(図5a)。

手術1時間後に投与したS−(+)−3−イソブチルギャバの接触異痛および熱痛

覚過敏に対する効果

接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し、以後5〜

6時間維持された。30mg/kgのS−(+)−3−イソブチルギャバの手術1

時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3〜4時間ブロック

した。この時間後に、侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し、これは抗熱

痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。

ギャバペンチンおよびS−(+)−3−イソブチルギャバは、すべての実験で試験

された最大用量まで、対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPW

Lに影響しなかった。これに反して、モルヒネ(6mg/kg、皮下)は熱痛覚過

敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。

ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏およ

び接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は、ギャバペンチン

およびS−(+)−3−イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対して

も等しく有効なことである。これに反し、モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に

有効であることが見出された。さらに、S−(+)−3−イソブチルギャバは接触

異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。」

(5) 原判決25頁13行目から14行目にかけての「有用性を見出した」を

「用途を見いだした」と改める。





(6) 原判決25頁17行目から25行目までを以下のとおり改める。

「(1) 特許法36条4項は、明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する

技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明

確かつ十分に記載しなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」と

は、物の発明については、その物の使用等をする行為をいうのであるから(特許法

2条3項1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明

の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づい

て、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を使用することができる

程度のものでなければならない。

そして、医薬用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されること

のみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、

医薬の有効量、投与方法等が記載されていても、それだけでは、当業者において当

該医薬が実際にその用途において使用できるかを予測することは困難であるから、

当業者が過度の試行錯誤を要することなく当該発明に係る物を使用することができ

る程度の記載があるというためには、明細書において、当該物質が当該用途に使用

できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、

出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを

当業者が理解できるようにする必要があると解するのが相当である。」

(7) 原判決26頁19行目の「本件明細書」から22行目末尾までを「本件明

細書において、本件化合物があらゆる「痛み」の処置における鎮痛剤の用途に使用

できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、

本件出願日当時の技術常識に照らして、本件化合物が当該用途の医薬として使用で

きることを当業者が理解できるようにする必要がある。」と改める。

(8) 原判決26頁23行目から24行目にかけての「本件化合物に係る本件各

薬理試験」を「本件明細書に記載されたホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後

疼痛試験(以下、併せて「本件各薬理試験」ということがある。)」と改める。





(9) 原判決26頁25行目の「内容」の次に「及び本件明細書の記載」を加え

る。

(10) 原判決27頁20行目の「関連するのも」を「関連するもの」と改める。

(11) 原判決28頁2行目の「指す」を「刺す」と改める。

(12) 原判決30頁7行目の「199頁」を「199〜200頁」と改める。

(13) 原判決30頁18行目の「大別され」から「理解されていた」までを「大

別されて理解されていた」と改める。

(14) 原判決30頁22行目の「侵害受容器」から「痛み」までを「侵害受容器

の活性化によって生じる痛み」と改める。

(15) 原判決30頁25行目の「,侵害受容器に侵害刺激が加えられることによ

るのではなく」を削る。

(16) 原判決30頁23行目の「炎症性疼痛,」を削る。

(17) 原判決31頁1行目から3行目までを削る。

(18) 原判決31頁7行目の「12」の次に「(いずれも本件出願日前のもの)」

を加える。

(19) 原判決31頁8行目の「に関する技術常識」を削る。

(20) 原判決31頁17行目の「これによれば」を「上記記載及び本件明細書の

記載によると」と改める。

(21) 原判決31頁18行目の「痛みの発現を示す侵害受容反応」を「痛みの発

現の様子」と改める。

(22) 原判決31頁24行目の「医学文献」の次に「(本件出願日前のもの)」

を加える。

(23) 原判決32頁18行目の「これらによれば」を「上記各記載及び本件明細

書の記載によると」と改める。

(24) 原判決32頁20行目末尾に改行して以下のとおり加える。

「c そして、前記1(1)カのとおり、本件明細書には、カラゲニン試験のデー





タは本件化合物が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す旨の記載があるから、

本件明細書に記載されたカラゲニン試験は、本件化合物の炎症性疼痛に対する鎮痛

効果を確認するための試験であると認められる。」

(25) 原判決32頁23行目の「筋肉」を「筋肉等」と改める。

(26) 原判決33頁3行目から34頁14行目までを以下のとおり改める。

「 前記1(1)オ、カ及びクのとおり、本件明細書には、薬理データ又はこれと

同視し得る程度の事項として、本件化合物がホルマリン試験、カラゲニン試験及び

術後疼痛試験において効果を奏した旨の記載がある。しかしながら、後記(5)にお

いて説示するとおり、本件出願日当時、慢性疼痛は全て末梢や中枢の神経細胞の感

作という神経の機能異常により生じる痛覚過敏や接触異痛の痛みであり、原因にか

かわらず神経細胞の感作を抑制することにより痛みを治療できるとの控訴人主張の

技術常識が存在していたとは認められないから、本件化合物がホルマリン試験、カ

ラゲニン試験及び術後疼痛試験において引き起こされた各痛みの処置において効果

を奏した旨の記載があるからといって、そのことをもって、当業者において、本件

化合物が原因を異にするあらゆる「痛み」の処置においても効果を奏すると理解し

たとは到底いえない。したがって、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛

試験の結果に係る上記記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明において、本

件化合物が「あらゆる全ての痛みの処置における鎮痛剤」の用途に使用できること

につき薬理データ又はこれと同視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の

当業者において、本件化合物が当該用途の医薬として使用できることを理解できた

と認めることはできない。

その他、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件化合物が「あらゆる全ての痛み

の処置における鎮痛剤」の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同

視し得る程度の事項が記載され、本件出願日当時の当業者において、本件化合物が

当該用途の医薬として使用できることを理解できたと認めるに足りる的確な証拠は

ない。





以上のとおり、本件明細書については、本件化合物があらゆる「痛み」の処置に

おける鎮痛剤の用途に使用できることにつき、薬理データ又はこれと同視すること

ができる程度の事項が記載され、本件出願日当時の技術常識に照らして、本件化合

物が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できたとはいえないから、

本件発明1及び2に係る本件特許は、実施可能要件に係る特許法36条4項に違反

するものとして、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。」

(27) 原判決35頁16行目の「記載がない。」の次に「さらに、上記記載によ

っても、発症の原因を異にする痛覚過敏の痛みの全てにおいて「末梢又は中枢の感

作あるいはその両方を伴う侵害受容系の混乱」が生じ、それが発症の原因を異にす

る全ての痛覚過敏の痛みの発症メカニズムであるとまで理解することはできない。」

を加える。

(28) 原判決35頁26行目から36頁1行目にかけての「侵害受容性疼痛に分

類される」を削る。

(29) 原判決36頁2行目の「説明したものではない」を「説明したものではな

く、上記記載によっても、末梢性感作及び中枢性感作が発症の原因を異にする全て

の痛覚過敏の痛みの発症メカニズムであると理解することはできない」と改める。

(30) 原判決36頁11行目末尾及び25行目末尾にいずれも「(本件出願日前

のもの)」を加える。

(31) 原判決36頁18行目の「示すものにすぎず,」の次に「発症の原因を異

にする」を加える。

(32) 原判決37頁10行目から11行目にかけての「説明しているにすぎず,」

の次に「発症の原因を異にする」を加える。

(33) 原判決38頁3行目末尾に「(本件出願日前のもの)」を加える。

(34) 原判決38頁14行目から20行目までを以下のとおり改める。

「 確かに、上記記載は、本件出願日当時、ケタミンがホルマリンによって誘発

された中枢性感作を抑制するものと捉える知見が存在したことをうかがわせるが、





控訴人が提出するその他の文献(いずれも本件出願日前のもの)に、「ケタミン鎮

痛の薬理学的機序は不明である。」(甲52)、「この薬物が鎮痛を引き起こす機

序は証明されていない。」(甲54)などの記載があることも併せ考慮すると、甲

46文献の上記記載が本件出願日当時の確立された技術常識を示すものと認めるこ

とはできない。したがって、甲46文献から、ケタミンが神経細胞の中枢性感作を

阻害することにより全ての痛覚過敏の痛みや接触異痛に対して鎮痛効果を奏すると

技術常識が存在していたとは認められない。」

(35) 原判決39頁3行目の「訂正事項1及び2」を「訂正事項1及び2に係る

本件訂正」と改める。

(36) 原判決39頁14行目から40頁14行目までを以下のとおり改める。

「(2) 訂正事項2に係る本件訂正について

ア 訂正事項2に係る本件訂正の内容

前記第2の2(2)ウ(ア)b及びエ(ア)bのとおり、訂正事項2に係る本件訂正は、

「請求項1記載の鎮痛剤」(「痛みの処置における鎮痛剤」)とあるのを「神経障

害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」と

訂正することにより、本件発明2の処置の対象となる痛みを「神経障害又は線維筋

痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に特定するものである。

イ 本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の

痛み」の処置において効果を奏することにつき本件明細書に明示の記載があるかに

ついて

(ア) 前記1(1)イのとおり、本件明細書には、発明の概要として、本件化合物

2が使用される疼痛性障害の中に神経障害及び線維筋痛症が含まれる旨の記載があ

るが、この部分には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は

接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。

(イ) 前記1(1)エのとおり、本件明細書には、発明の詳述として、本件化合物

2が鎮痛剤として使用される対象の痛みに神経障害の痛みが含まれる旨の記載があ





るが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は

接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。

(ウ) 前記1(1)オのとおり、本件明細書には、ホルマリン試験に関し、本件化

合物2がホルマリン試験の後期相において効果を奏し、初期相においては影響がな

かった旨の記載があるが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症

による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。

(エ) 前記1(1)カのとおり、本件明細書には、カラゲニン試験に関し、本件化

合物2が機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏の痛みに対して効果を奏した旨の記載があ

るが、この部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は

接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない(かえって、本件明細

書の当該部分には、本件化合物2が「炎症性疼痛」の処置に有効であることを示す

旨の記載がある。)。

(オ) 前記1(1)クのとおり、本件明細書には、術後疼痛試験に関し、本件化合

物2が熱痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対して効果を奏した旨の記載があるが、こ

の部分にも、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛

の痛みの処置において効果を奏する旨の記載はない。

(カ) その他、本件明細書には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による

痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載がないから、本

件明細書には、その旨の明示の記載がないと認めるのが相当である。

ウ 本件化合物2が「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の

痛み」の処置において効果を奏することが本件明細書に記載されているに等しいと

本件出願日当時の当業者が理解したといえるかについて

(ア) 控訴人は、痛覚過敏や接触異痛の痛みはその原因にかかわらず全て末梢や

中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じることが本件優先日当時の

技術常識であったと主張するが、本件出願日当時にそのような技術常識が存在して

いたと認められないことは、前記2(5)において説示したとおりである。





(イ) また、控訴人は、後記(4)のとおりの本件明細書の記載及び本件優先日

時の技術常識によると、本件明細書には本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症に

よる痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に効果を奏する旨の開示があるに等しいと

の趣旨の主張をするが、当該主張を採用することができないことは、後記(4)にお

いて説示するとおりである。

(ウ) そうすると、本件出願日当時の当業者において、本件化合物2が「神経障

害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」の処置に効果を奏するこ

とが本件明細書に記載されているに等しいと理解したとは認められず、その他、本

件出願日当時の当業者がそのように理解し得たものと認めるに足りる的確な証拠は

ない。

エ 以上によると、訂正事項2に係る技術的事項は、本件明細書の全ての記載を

総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導

入するものというほかない。したがって、訂正事項2に係る本件訂正は、願書に添

付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとい

うことができず、特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項

違反し、許されない。

(3) 訂正事項1に係る本件訂正について

本件訂正前の請求項1及び2は、請求項2が請求項1の記載を引用する関係にあ

るから、請求項1及び2に係る本件訂正(訂正事項1及び2に係る本件訂正)は、

一群の請求項1及び2についてされるものであるところ、前記(2)において説示し

たとおり、訂正事項2に係る本件訂正は許されないから、請求項2と共に一群の請

求項を構成する請求項1に係る本件訂正(訂正事項1に係る本件訂正)も、許され

ない。」

(37) 原判決40頁16行目の「@」から19行目の「A」までを削る。

(38) 原判決40頁20行目の「本件化合物」を「本件化合物2」と改める。

(39) 原判決40頁24行目の「しかし」から41頁14行目の「上記主張Aに





ついては,」までを削る。

(40) 原判決41頁14行目、18行目及び20行目の各「本件化合物」をいず

れも「本件化合物2」と改める。

(41) 原判決41頁16行目の「前記説示のとおり」から19行目の「そうする

と」までを「当該箇所には、各痛みに対し本件化合物がどのように作用して鎮痛効

果をもたらすのかについての記載はなく、本件化合物がそれらの痛みに対して鎮痛

効果を有することの裏付けになるような記載もないし、また、神経障害又は線維筋

痛症において必ず痛覚過敏の痛みや接触異痛を生ずることが本件出願日当時の技術

常識であったと認めるに足りる証拠はないから」と改める。

(42) 原判決41頁19行目から20行目にかけての「本件発明1及び2」を

「本件発明2」と改める。

(43) 原判決41頁20行目の「痛み」を「痛覚過敏の痛みや接触異痛」と改め

る。

(44) 原判決41頁24行目の「いずれも」を削る。

(45) 原判決42頁1行目から43頁2行目までを以下のとおり改める。

「(1) 本件訂正発明3について

構成要件3Bのうち「炎症を原因とする痛み」の意義について

(ア) 本件明細書の記載

本件明細書には、「炎症を原因とする痛み」について説明した記載はない。

(イ) 本件訂正の経緯

証拠(甲3、4)によると、控訴人は、特許庁に対し、令和元年7月1日付けで

本件訂正に係る訂正請求書を提出し、同年8月7日付けでこれに係る手続補正書

(方式)を提出したものであるが、控訴人は、上記補正後の訂正請求書(甲4の1

7〜19頁)において、請求項3に係る本件訂正につき、「「炎症を原因とする痛

み…の処置における」との記載により、訂正後の請求項3に係る発明における鎮痛

剤の処置対象となる痛みをより具体的に特定し、更に限定するものである。」、





「明細書のカラゲニン試験…では、炎症性物質であるカラゲニンを用いて、炎症を

原因とする痛みを引き起こし、この痛みの処置に式Tの化合物を用いている。」な

どと主張していたものと認められる。

(ウ) カラゲニン試験について

カラゲニン試験が生体に炎症とそれによる痛覚過敏を生じさせる刺激薬であるカ

ラゲニンを注射して、皮膚痛覚過敏等に対する薬物の鎮痛効果を測定する試験であ

り、本件明細書に記載されたカラゲニン試験が本件化合物の炎症性疼痛に対する鎮

痛効果を確認するための試験であることは、前記2(3)イ(イ)b及びcにおいて説

示したとおりである。カラゲニン試験の上記内容に照らすと、カラゲニン試験は、

「神経そのものが損傷したり興奮したりすることによって生じる痛み」である神経

障害性疼痛や、「直接末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず訴えられる疼痛」

である心因性疼痛に分類される線維筋痛症に伴う痛み(前記2(3)ア(イ)b及びc)

に対する鎮痛効果を裏付けるものではないというべきである。

(エ) 以上によると、本件訂正発明3の構成要件3Bのうち「炎症を原因とする

痛み」とは、本件明細書に記載されたカラゲニン試験によって本件化合物3の鎮痛

効果が確かめられた「炎症を原因とする痛み」を指すものの、カラゲニン試験の内

容に照らすと、これは、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないと解

するのが相当である。

構成要件3Bのうち「手術を原因とする痛み」の意義について

(ア) 本件明細書の記載

本件明細書には、「手術を原因とする痛み」について説明した記載はない。

(イ) 本件訂正の経緯

前記ア(イ)のとおり、控訴人は、特許庁に対し、令和元年7月1日付けで本件訂

正に係る訂正請求書を提出し、同年8月7日付けでこれに係る手続補正書(方式)

を提出したものであるが、証拠(甲4)によると、控訴人は、上記補正後の訂正請

求書(17、19頁)において、請求項3に係る本件訂正につき、「「…手術を原





因とする痛みの処置における」との記載により、訂正後の請求項3に係る発明にお

ける鎮痛剤の処置対象となる痛みをより具体的に特定し、更に限定するものであ

る。」、「明細書の術後疼痛試験…では、手術を原因とする痛みを引き起こし、こ

の痛みの処置に式Tの化合物を用いている。」などと主張していたものと認められ

る。

(ウ) 術後疼痛試験について

術後疼痛試験が手術によって生じる侵害受容性疼痛に対する薬物の鎮痛効果を測

定する試験であることは、前記2(3)イ(ウ)において説示したとおりである。術後

疼痛試験の上記内容に照らすと、術後疼痛試験は、「神経そのものが損傷したり興

奮したりすることによって生じる痛み」である神経障害性疼痛や、「直接末梢から

侵害刺激がないにもかかわらず訴えられる疼痛」である心因性疼痛に分類される

線維筋痛症に伴う痛み(前記2(3)ア(イ)b及びc)に対する鎮痛効果を裏付ける

ものではないというべきである。

(エ) 以上によると、本件訂正発明3の構成要件3Bのうち「手術を原因とする

痛み」とは、本件明細書に記載された術後疼痛試験によって本件化合物3の鎮痛効

果が確かめられた「手術を原因とする痛み」を指すものの、術後疼痛試験の内容に

照らすと、これは、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないと解する

のが相当である。

ウ 被告医薬品の構成について

前記第2の2(3)イのとおり、被告医薬品の構成(被告医薬品の用途に係る部分)

は、「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする、」(構成b)

である。

エ 小括

以上のとおりであるから、被告医薬品の構成bは、本件訂正発明3の構成要件

Bを充足しない。したがって、被告医薬品は、本件訂正発明3の技術的範囲に属し

ない。





(2) 本件訂正発明4について

本件明細書には、本件訂正発明4の構成要件4Bにいう「炎症性疼痛による痛覚

過敏の痛み」又は「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」について説

明した記載はないところ、前記第2の2(2)ウ(ア)d及びエ(ア)dのとおり、請求

項4に係る本件訂正(本件訂正発明4の用途に係る部分)は、「痛みが…神経障害

による痛み、…または線維筋痛症である」とあるのを「炎症性疼痛による痛覚過敏

の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」と訂正するもので

あり、これは、本件訂正発明4の用途から「神経障害による痛み」及び「線維筋痛

症」を明示的に除外するものである。

そうすると、本件訂正発明4にいう「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」又は

「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」は、いずれも神経障害性疼痛

又は線維筋痛症に伴う痛みを含まないものと解するのが相当である。

したがって、被告医薬品の構成b(前記第2の2(3)イ)は、本件訂正発明4の

構成要件4Bを充足せず、被告医薬品は、本件訂正発明4の技術的範囲に属しな

い。」

(46) 原判決43頁3行目の「(2)」を「(3)」と改める。

(47) 原判決43頁12行目の「認められず」の次に「、そうである以上」を加

える。

(48) 原判決43頁14行目の「カラゲニン試験」から17行目末尾までを「し

たがって、カラゲニン試験及び術後疼痛試験が、麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは不

十分な効果しか有しない慢性疼痛一般に対する鎮痛剤の効果を確かめる試験である

ことが明らかであるということはできない。」と改める。

(49) 原判決43頁19行目の「,本件優先日当時」を削る。

(50) 原判決44頁10行目の「,甲93文献」から11行目の「また」までを

削る。

(51) 原判決44頁18行目から19行目にかけての「本件優先日当時の」を削





る。

(52) 原判決44頁22行目の「原告」から24行目の「足りるものとはいえな

い」までを「控訴人が提出するその余の文献(甲92、94〜96等)も、その内

容に照らし、控訴人が主張する上記技術常識を認めるに足りるものとはいえない」

と改める。

(53) 原判決45頁3行目の「前記説示のとおり」から8行目の「被告医薬品は」

までを「前記4において説示したとおり、本件訂正発明3の「炎症を原因とする痛

み、又は手術を原因とする痛み」(構成要件3B)及び本件訂正発明4の「炎症性

疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」

構成要件4B)は、いずれも神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みを含まな

いものと解するのが相当であるから、被告医薬品の構成bは」と改める。

(54) 原判決45頁26行目の「明細書」を「本件明細書」と改める。

(55) 原判決46頁2行目の「本件化合物」を「本件化合物3及び4」と改める。

(56) 原判決46頁4行目の「有用性を見出した」を「用途を見いだした」と改

める。

(57) 原判決46頁6行目の「本件化合物」を「本件化合物3又は4」と改める。

(58) 原判決46頁9行目の「侵害受容性疼痛に分類される」を「神経障害性疼

痛又は線維筋痛症に伴う痛みに該当しない」と改める。

(59) 原判決46頁11行目の「被告医薬品」から17行目末尾までを「被告医

薬品の効能・効果(構成b)は、「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」で

ある。そうすると、本件相違部分は、医薬品の用途を、神経障害性疼痛又は線維筋

痛症に伴う痛みに該当しない痛みからこれらに該当する痛みへと置換するものであ

り、両者は、別個の痛みに係る用途というべきものである。」と改める。

(60) 原判決46頁23行目から24行目にかけての「の特許発明」を削る。

(61) 原判決46頁26行目の「本件化合物」を「本件化合物3又は4」と改め

る。





(62) 原判決47頁5行目の「本件化合物」を「本件化合物3及び4」と改める。

(63) 原判決47頁7行目から8行目にかけての「侵害受容性疼痛に分類される」

を「神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに該当しない」と改める。

(64) 原判決47頁14行目の「結論」を「小括」と改める。

(65) 原判決47頁16行目の「訂正事項1及び2は新規事項の追加に当たるか

ら」を「訂正事項1及び2に係る本件訂正は許されないから」と改める。

(66) 原判決47頁18行目の「成立しない」の次に「。」を加える。

(67) 原判決47頁19行目の「理由がない」から20行目末尾までを「理由が

ない。」と改める。

2 当審における控訴人の主張について

(1) 控訴人は、本件優先日当時、原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚

過敏の痛みや接触異痛が生じることから、当業者はホルマリン試験、カラゲニン試

験及び術後疼痛試験を神経細胞の感作の試験として用いていたと主張する。

しかしながら、控訴人の上記主張は、カラゲニン試験のデータが炎症性疼痛の処

置における本件化合物の有効性を示すとの本件明細書の記載(補正して引用する原

判決第3の1(1)カ)と符合しないものであるし、また、本件出願日当時、原因に

かかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏の痛みや接触異痛(慢性疼痛)が生じる

との技術常識が存在していたと認められないことは、補正して引用する原判決第3

の2(5)において説示したとおりであるから、控訴人の上記主張は、前提を誤るも

のとして失当である。

(2)ア 控訴人は、本件優先日当時、ホルマリン試験の後期相は中枢性感作の研

究に用いられていたと主張する。

イ この点に関し、甲43文献(昭和52年発行)、甲45文献(平成4年発

行)、甲46文献(平成2年発行)、甲47文献(平成4年発行)、甲48文献

(平成8年発行)、甲49文献(平成4年発行)、甲51文献(平成6年発行)、

甲161文献(平成6年発行)、甲164文献(平成4年発行)及び甲168文献





(平成7年発行)には、次の記載がある。

(ア) 「要するに、ホルマリンテストは、…疼痛の閾値を測定するものではない

けれども、むしろ比較的長く続く疼痛刺激に対する行動的反応を定量化するもので

ある。したがって、これは、実際の病的な状態において見られるような痛みに類似

している。このテストは、それ故に、疼痛を評価するために現在利用可能な方法へ

の価値ある追加である。」(甲43)

(イ) 「ホルマリンへの応答は、初期相と後期相を示す。初期相は、主に末梢刺

激によるC−線維活性化によって引き起こされるように思われるが、後期相は、末

梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組合せに依存するように思われ

る。」、「結論として、ホルマリン試験は、侵害受容を研究するために利用可能な

一連の方法への価値ある追加である。」(甲45)

(ウ) 「ホルマリンによって生成される求心性集中砲火は、比較的短いタイムス

パンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期間の痛み

の状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性がある

と思われる。」、「ホルマリンの皮下注射は、短時間持続する一過性の活性を生み

出すことが示されてきており、侵害受容の長引く持続期がこの後に発生し、これは、

様々な種における行動学的研究によって評価されており、持続した侵害刺激の有用

なモデルであると考えられる。」(甲46)

(エ) 「ラットにおける組織損傷に反応した中枢の感作と持続性侵害受容の発生

への興奮性アミノ酸の寄与が後肢へのホルマリンの皮下注射後に調べられた。」、

「我々は、以前、損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして、ホルマリン試

験を用いた。」、「リドカイン又は μ−オピオイドDAMGOのいずれかのくも

膜下腔投与が、ホルマリン試験の第1相の直後ではなく、前に投与されれば、皮下

ホルマリンに対する行動反応及び後角ニューロン反応を阻害することが証明された。

これは、ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化

(すなわち、中枢性感作)を引き起こし、それが次いで後期相の間の処理に影響す





ることをもたらし得ることを示唆する。」(甲47)

(オ) 「ホルマリン誘発性の行動の第1相は、ホルマリン誘発性のC線維の一次

求心性侵害受容器の活性化を反映しており、第2相は、第1相の間の一次求心性イ

ンプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か、

炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、又はその両方の組合せ

であるとの仮説が立てられてきた。ホルマリンに対する行動反応の第2相への末梢

侵害受容作用の寄与については、議論が引き起こされている。」、「総合すれば、

これらのデータは、一次求心性作用が第2相の侵害受容行動の発現に必要とされる

こと及び中枢性感作が第2相の単独の根拠ではないことを示唆している。」(甲4

8)

(カ) 「ラットにおける組織損傷に対する応答である中枢性感作及び持続性侵害

受容への細胞内カルシウムの貢献が、後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べら

れた。」、「ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作及び持続性

侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カル

シウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。」(甲49)

(キ) 「この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作

及び持続性侵害受容並びにL−グルタミン酸及びサブスタンスPにより引き起こさ

れたホルマリン試験における痛覚過敏は、細胞内メッセンジャーである一酸化窒素、

アラキドン酸及びプロテインカイネースCに依存することを示す。」(甲51)

(ク) 「多くの研究は、ホルマリンの痛みの後期相の発達が初期相の間に生じた

神経活動によって生み出された中枢ニューロンの長期的な機能変化(すなわち、中

枢性感作)に依拠することを示している。…抹消の神経や組織の損傷後に発生する

痛みは、損傷によって引き起こされる中枢神経系機能の長期的な変化(すなわち、

中枢性感作)に関連しているという十分な証拠がある。」(甲161)

(ケ) 「アミトリプチリンの20mg/kgの投与は、ヒトにおける長く続く痛

みの動物モデルであるホルマリン試験の第2相の痛みを減少させた。…本研究では、





持続性の臨床的疼痛のモデルと考えられているホルマリン試験…を使用して、アミ

トリプチリンの単回投与の効果を調査した。…最近の研究で、…ホルマリン試験の

第2相における痛みの表現は、大部分が第1相に誘起された中枢ニューロンの活動

に依存することが示された。」(甲164)

(コ) 「このモデル(判決注:ホルマリンの後肢への注入)は、持続する痛みの

説明に対する中枢性感作(脊髄ニューロンの過興奮)の寄与を裏付ける決定的な証

拠を提供した。」(甲168)

ウ 上記イの各記載によると、本件出願日当時、ホルマリン試験の後期相が中枢

の神経細胞の感作(中枢性感作)を反映するものと捉える知見が存在したことがう

かがわれるものの、ホルマリン試験の後期相は、それにとどまらず、補正して引用

する原判決第3の2(3)イ(ア)bのとおり、生体に炎症を生じさせる刺激薬を注射

して痛みの発現の様子を観察するなどするためのモデルとして考えられていたとも

認められるから、上記イの各記載によっても、本件明細書に記載されたホルマリン

試験の後期相が専ら中枢性感作を反映したものであると本件出願日当時の当業者が

認識していたと認めることはできない。

エ 以上のとおりであるから、控訴人の上記アの主張を考慮しても、本件出願日

当時の当業者において、ホルマリン試験の後期相が専ら中枢性感作を反映したもの

であると理解していたとはえいない。

(3) 控訴人は、本件優先日当時、ケタミンに限らず、アミトリプチリン及びギ

ャバペンチンのような中枢神経に作用する薬剤により、原因にかかわらず神経細胞

の感作による痛覚過敏の痛みや接触異痛を鎮痛できるとの技術常識が存在したと主

張する。

しかしながら、控訴人が上記主張の根拠として挙げる甲136文献(平成7年発

行)、甲146文献(平成7年発行)及び甲164文献(平成4年発行)には、い

ずれも控訴人が主張する上記技術常識が存在したものと認めるに足りる的確な記載

はみられず、その他、控訴人が主張する上記技術常識が存在したものと認めるに足





りる証拠はない。

したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。

3 結論

よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれ

も理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

本 多 知 成




裁判官

浅 井 憲




裁判官

中 島 朋 宏





(別紙)



当 事 者 目 録




控 訴 人 ワーナー−ランバート カン

パニー リミテッド ライア

ビリティー カンパニー



同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

柳 下 彰 彦

永 島 太 郎

森 下 梓



被 控 訴 人 大原薬品工業株式会社




被 控 訴 人 共 創未来ファーマ株式会 社




被 控 訴 人 株式会社三和化学研究所



上記3名訴訟代理人弁護士 吉 澤 敬 夫

川 田 篤

同訴訟代理人弁理士 紺 野 昭 男

井 波 実





被 控 訴 人 キョーリンリメディオ株式会社




被 控 訴 人 杏 林 製 薬 株 式 会 社



上記両名訴訟代理人弁護士 川 田 篤

以 上