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関連審決 異議2020-700417
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事件 令和 3年 (行ケ) 10091号 特許取消決定取消請求事件

原告DIC株式会社
同訴訟代理人弁護士 柴崎拓
同訴訟代理人弁理士 加藤志麻子 大野玲恵
被告特許庁長官
同 指定代理人木村敏康 亀ヶ谷明久 門前浩一 小暮道明 山田啓之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/05/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2020-700417号事件について令和3年6月29日にした決定のうち、「特許第6624480号の請求項1、3〜4、6及び8〜9に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
事案の概要
本件は、特許異議申立事件において特許の取消し等をした異議の決定のうち当該取消しに係る部分の取消訴訟である。争点は、進歩性及びサポート要件の各判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は、発明の名称を「粘着テープ及びその製造方法」とする発明について、
国際出願日を平成29年12月7日とする特許出願(特願2018-557664号(パリ条約による優先権主張 平成28年12月20日、日本国)。以下「本件特許出願」という。)をし、令和元年12月6日、その設定登録を受けた(特許第6624480号。請求項の数9。以下「本件特許」といい、本件特許に係る明細書をこれに添付された図面と併せて「本件明細書」という。。
) (甲17) (2) 令和2年6月17日、本件特許の請求項1〜9に対し、特許異議の申立てがされ(異議2020-700417号事件)、原告は、令和3年4月9日付けで訂正の請求(以下、同請求による訂正を「本件訂正」という。本件訂正は、本件特許の請求項2、5及び7の削除を含む。なお、本件訂正において本件明細書の訂正はない。)をした。
(3) 特許庁は、令和3年6月29日、本件訂正を認めた上で、本件特許の請求項2、5及び7に係る特許についての特許異議申立てを却下するとともに、「特許第6624480号の請求項1、3〜4、6及び8〜9に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年7月8日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、本件特許について「請求項」という場合、本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項をいい、また、本件訂正後の各請求項に係る発明を請求項の番号に応じてそれぞれ「本件発明1」などといい、本件発明1、3、4、6、8及び9を併せて「本件発明」という。。
) 【請求項1】 発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)側から前記粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状であり、
前記粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、前記粘着部(B)が10個〜50000個存在し、
2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであり、
前記粘着部(B)の厚さが1〜6μmであり、
前記粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が-25℃〜5℃であり、
前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項3】 前記樹脂フィルム層(C)の厚みが1〜25μmである請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項4】 前記粘着部(B)と接する面に剥離ライナー(D)を有する請求項1又は3に記載の粘着テープ 【請求項6】 前記発泡体層(A)が、ポリウレタン系発泡体層またはアクリル系発泡体層である請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項8】 樹脂フィルム層(C)と粘着部(B)と剥離ライナー(D)が一体となったもの の樹脂フィルム層(C)上に、発泡層(A)を塗工して形成する請求項1、3、4又は6に記載の粘着テープの製造方法
【請求項9】 請求項1、3、4、6又は8に記載の粘着テープをディスプレイの非表示面側に設けたことを特徴とするディスプレイ機器。
3 本件決定の理由の要旨 (1) 本件訂正の適否について 本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
(2) 理由1(進歩性)について ア 甲1(特開2015-214134号公報)に記載された発明(以下「甲1発明」という。) 「アクリル系発泡体層を含むシート状基材(PETフィルム/アクリル発泡体)のPET層側表面において、分離して配置された2以上の部分を有する感圧接着剤配置部(幅40mm)と、前記感圧接着剤配置部のあいだに位置している感圧接着剤非配置部(幅1.0mm)とを有し、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は積層シートの端部に到達している波状パターンであり、剥離強度が5.0N/25mmで、気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層を有する、携帯電子機器(スマートフォン等)の液晶表示装置における接合固定用途等に好ましく適用され得る、その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート。」 イ 本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明は、
「発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであり、前記発泡体層(A)の一方の面(a)の面積に占め る、前記粘着部(B)を有する領域の割合が10%〜99%である、粘着テープ。」という点において一致し、次の(α)〜(ε)の点において一応相違する。
(α) 発泡体層(A)の一方の面(a)側から粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、本件発明1においては「略円形状、略四角形状または略六角形状」であるのに対して、甲1発明においては「波状パターン」である点。
(以下「相違点α」という。) (β) 粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、本件発明1においては「粘着部(B)が10個〜50000個存在」するのに対して、甲1発明においては個数が不明な点。(以下「相違点β」という。) (γ) 粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が、本件発明1においては「-25℃〜5℃」であるのに対して、甲1発明においては損失正接のピーク温度が不明な点。
(以下「相違点γ」という。) (δ) 2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が、本件発明1においては「0.05mm〜0.15mm」であるのに対して、甲1発明においては「感圧接着剤非配置部」の幅が「1.0mm」である点。(以下「相違点δ」という。) (ε) 粘着部(B)の厚さが、本件発明1においては「1〜6μm」であるのに対して、甲1発明においては、甲1の段落【0118】の「表2…例7…感圧接着剤層…厚さ[μm]…20」との記載にあるように、具体的には「20μm」である点。(以下「相違点ε」という。) ウ 判断 (ア) 相違点αについて 甲1の段落【0035】の記載における「直線状」の場合の形状は、本件明細書の段落【0166】の記載にある「略四角形」に該当するものであり(本件明細書の実施例22参照)、上記段落【0035】の記載に係る三角波、円状、直線状のパ ターンを反転させて重ねて形成した場合のパターンは、
「菱形」や「円形」の形状になる(甲11(特開2003-253226号公報。本件決定における「参考文献A」)の段落【0014】参照)から、甲1発明の「パターン」を「略四角形状」や「略円形状」にすることは、刊行物である甲1に記載があり、当業者にとって容易想到である。
さらに、甲1発明は、
「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」を有する「その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」に関する発明であって、
「気泡抜け性」を良好なものとすることを課題とした「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」の技術分野に属するものであるところ、
このような課題と技術分野に属する、 (国際公開第2016/111208号) 甲3の段落【0012】及び【0014】、甲5(特開平8-80688号公報)の段落【0017】及び【0029】、甲6(特開2009-242602号公報)の段落【0007】及び【0036】、甲7(特開2013-181054号公報)の段落【0031】及び【0079】並びに甲11(参考文献A)の段落【0014】及び【0030】には、
「粘着部の形状」を「円形」「四角形状」「六角形状」にする 、 、
ことが好ましいことが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤配置部」のパターンを「略円形状」「略四角形状」「略六角形状」にすることは、当業者にとっ 、 、
て容易想到である。
(イ) 相違点βについて 甲1の段落【0030】〜【0031】の記載にある、感圧接着剤非配置部が0.3mmの幅で感圧接着部が2mmの幅である場合の「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」に存在する感圧接着部の個数は、50÷(0.3+2)=21.7個となることから、甲1発明の「2以上の部分を有する感圧接着剤配置部」 「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」 の 当たりの個数を「10個〜50000個」とすることは、当業者にとって容易想到である。
また、甲3の段落[0025]及び[0027]の記載からみて、甲3の「実施 例1」のものの「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」に存在する感圧接着部の個数は、50mm×50mm×0.56÷(0.5mm×0.5mm)=5600個となることから、甲1発明の「2以上の部分を有する感圧接着剤配置部」の「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」当たりの個数を「10個〜50000個」とすることは、当業者にとって容易想到である。
(ウ) 相違点γについて 甲1の段落【0071】の記載にあるように、甲1発明の「感圧接着剤層」は、
「室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈」することが求められる材料から構成された層を意味するものである。
そして、甲8(特開2010-59240号公報)の段落【0034】及び【0056】には、
「ガラス転移点が高過ぎると、常温での柔軟性が失われ」るため「測定周波数1Hz」で測定した「tanδの最大値」から求めた「ガラス転移点」を「-50℃から5℃」にすることが記載されているところ、常温付近の温度域において「粘弾性体」の状態を呈することが必須の甲1発明の「感圧接着剤配置部」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」が、本件発明1の「-25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとは解せない。
加えて、甲1発明は、
「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」を有する「その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」に関する発明であるところ、甲2(特開2016-151006号公報)の段落【0043】及び【0129】の記載、甲8の段落【0007】【0034】及び【0056】の 、
記載、甲9(特開2009-57394号公報)の段落【0027】〜【0028】の記載並びに甲10(特開平7-278502号公報)の段落【0015】及び【0018】の記載からみて、甲1発明の「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」が、本件発明1の「-25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとは 解せない。
また、仮に、甲1発明の「感圧接着剤層」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」 本件発明1の が、 「-25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとしても、甲1発明は、
「気泡抜け性」を良好なものとすることを課題とした「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」の技術分野に属するものであるところ、このような課題と技術分野に属する甲2、8〜10には、
「周波数1Hz」で測定される「損失正接のピーク温度」を「-25℃〜5℃」程度にすることが好ましいことが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤層」の「周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」を「-25℃〜5℃」程度に設定することは、当業者にとって容易想到である。
(エ) 相違点δについて 甲1の段落【0030】及び【0117】の記載並びに甲3の段落[0016]の記載に加え、甲1発明は、
「貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止」することを課題とするものであるところ(甲1の段落【0005】、感圧接着剤非配置部の )溝の幅が狭ければ狭いほど、溝が目立たず、外観品質の低下を防止できることは明らかなので、甲1発明の溝の幅を狭くすることに阻害事由があるとはいえないことからすると、甲1発明の「感圧接着剤非配置部」の幅を「0.1mm」程度(なお、
本件決定には「0.1μm」程度とあるが誤記と認める。)にすることは甲1に記載があり、甲3にも「非粘着剤部分」の幅を「0.01〜1mm」程度にすることが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤非配置部」の幅を「0.05mm〜0.15mm」程度にすることは、当業者にとって容易想到である。
(オ) 相違点εについて 甲1の段落【0088】及び【0117】の記載並びに甲3の段落[0017]の記載に加え、甲1発明は、
「貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止」することを課題とするものであるところ(甲1の段落【0005】、感圧接着剤層の厚さが ) 薄ければ薄いほど、感圧接着剤層の存在が目立たず、外観品質の低下を防止できることは明らかなので、甲1発明の感圧接着剤層の厚さを薄くすることに阻害事由があるとはいえないことからすると、甲1発明の「感圧接着剤層」の厚さを「2μm」にすることは甲1に記載があり、甲3にも「粘着剤層」の厚さを「0.5〜7μm」程度にすることが記載されているので、甲1発明の「感圧接着剤層」の厚さを「1〜6μm」程度にすることは、当業者にとって容易想到である。
(カ) 本件発明1の効果について 本件明細書の段落【0008】及び【0167】の記載並びに比較例1〔接着力(貼付後1時間)=12.5N/20mm;保持力(テープのずれ距離)=0.0mm〕に比して実施例16〔接着力=7.2N/25mm;保持力=0.2mm〕の結果が劣っていることからみて、本件発明1の効果は、
「気泡の抜けやすさに優れる」という点にあるものと認められる。
これに対し、甲1発明は、
「気泡抜け性の評価」 “○” が であって、甲1の段落【0039】及び【0089】の記載にあるように「衝撃吸収機能」や「空気等抜け性」や「所定以上の接着力」に優れるという効果を奏するものであるから、本件発明1に格別予想外の効果があるとは認められない。
特許権者(原告)は、令和3年4月9日付け意見書(甲15)において、甲1発明は、本件発明1のようにディスプレイの背面の貼付用途に極めて適した粘着テープを想定していないなどと主張する。しかし、本件発明1は、
「ディスプレイ非表示面接着用粘着テープ」に限定されるものではない。仮に、本件発明1の「粘着テープ」が「ディスプレイの背面の貼付用途」のもののみを意図しているとしても、甲1の段落【0100】の記載からみて、甲1発明が「ディスプレイの背面の貼付用途」を想定していることは明らかである。そして、甲12(特開2004-309699号公報。本件決定における「参考文献B」)の段落【0012】の記載及び甲13(国際公開第2016/159094号。本件決定における「参考文献C」)の段落[0004]の記載からみて、仮に本件発明1が「ディスプレイの背面の貼付 用途」に限定されたものとしても、その場合の効果が当業者にとって予想外のものであるともいえない。
(キ) まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1〜3及び5〜10に記載された発明並びに甲11〜13(参考文献A〜C)に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件発明3、4、6、8及び9について (ア) 本件発明3 本件発明3は、本件発明1において「前記樹脂フィルム層(C)の厚みが1〜25μmである」ことを更に特徴としたものであるところ、甲1の段落【0110】の「厚さ2μmのPETフィルム基材」との記載からみて、本件発明3に進歩性はない。
(イ) 本件発明4 本件発明4は、本件発明1又は3において「前記粘着部(B)と接する面に剥離ライナー(D)を有する」ことを更に特徴とするものであるところ、甲1の段落【0110】の「上記剥離ライナーの剥離面に上記感圧接着剤組成物を、乾燥後の厚さが2μmとなるように塗付」との記載からみて、本件発明4に進歩性はない。
(ウ) 本件発明6 本件発明6は、本件発明1又は本件発明3及び4において「前記発泡体層(A)が、ポリウレタン系発泡体層またはアクリル系発泡体層である」ことを更に特徴とするものであるところ、甲1の段落【0112】の「アクリル系発泡体層」との記載からみて、本件発明6に進歩性はない。
(エ) 本件発明8 甲1の段落【0110】及び【0112】の記載並びに甲4(特開平11-291434号公報)の段落【0020】〜【0021】の記載からみて、本件発明8に進歩性はない。
(オ) 本件発明9 甲1発明は、
「携帯電子機器(スマートフォン等)の液晶表示装置における接合固定用途等に好ましく適用され得る」ものであるから、本件発明9に進歩性はない。
(カ) まとめ 以上のとおりであるから、本件発明3、4、6、8及び9は、甲1〜10に記載された発明及び甲11〜13(参考文献A〜C)に記載された技術常識に基づいて、
当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 理由2(サポート要件)について ア 本件明細書の段落【0006】の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は、
「被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記系面(判決注: 「前記界面」の誤記と認める。以下、同じ誤記は修正して記載する。)に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープの提供」にあるものと認められる。
イ 請求項1にある「損失正接のピーク温度が-25℃〜5℃」という広範な数値範囲について、その「-25℃〜5℃」という変数が示す範囲と、得られる効果(課題解決の可否や有用性の有無など)との関係の技術的な意味については、本件明細書の段落【0036】の記載を考慮しても、どのようなメカニズム(作用機序)によって、tanδのピーク温度の値が「エア抜け性」などの物性に影響するのか、
具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されているとはいえない。
そして、例えば、本件明細書の段落【0165】の【表7】の「比較例1」のものは、同段落【0108】の「tanδのピーク温度は0℃」の「粘着剤a」を用いているにもかかわらず、上記「被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープの提供」という課題を解決できると認識できる「試験結果」になっていないので、当該「-25℃〜5℃」という変数が示す範囲内であれば、
所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示 して記載されているともいえない。
そうすると、本件特許の出願時の技術常識参酌しても、請求項1の「損失正接のピーク温度が-25℃〜5℃」という変数が示す範囲内にあれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるとはいえないので、請求項1の広範な数値範囲のもの全てが、上記「被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープの提供」という課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。
ウ したがって、本件発明1並びにその従属項に係る本件発明3、4、6、8及び9が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、
また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(進歩性に関する判断の誤り) (1) 取消事由1の概要 甲1発明は、「感圧接着剤非配置部」を「帯状部分」となるようにし、かつ、「帯状部分は、前記積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延び」るものを形成することにより、この帯状部分として特定の方向に形成された溝を介して、被着体表面との接着面に留まろうとする空気を特定方向に除去することを技術的思想とするものである。このような「帯状部分」の構成については、甲1に具体的に説明されており、甲1の【図1】に示されるような、波状のストライプパターンを有する複数の「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」の間に、
「感圧接着剤配置部」が形成されているものである。このような技術的思想に基づき設けられた甲1発明の波状パターンの「感圧接着剤配置部」を島状パターンに変更すると、もはや「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」は形成されなくなり、特定方向に空気を排出するという甲 1発明の技術的思想が担保されなくなるから、そのような変更の動機付けはなく、
むしろ阻害要因があるのみならず、甲3、5〜7及び11(参考文献A)の内容に係る示唆に照らし、それらを甲1に組み合わせるべき理由もない。したがって、相違点αは当業者が容易に想到し得るものではなく、また、相違点αが当業者にとって容易想到でない以上、島状パターンの接着部の「接着部配置要件」に係る相違点β及びδも容易想到でない。
また、本件発明1は、島状パターンの粘着部について、厚みや特定の性質を有する粘着剤との組合せにより、更に好適に気泡抜けと接着性の両立を図るとともに、
外観の不良や熱伝導性、耐熱性及び接着力等の性能低下をより効果的に防止するものであるから、それとは前提の異なる技術を開示する甲1〜3及び8〜10に基づいて当業者が相違点γ及びεを容易に想到し得ることはない。
(2) 相違点αについての容易想到性の判断の誤り ア 動機付けがないこと等 (ア) 甲1発明と本件発明1は、気泡抜けに関して全く異なる技術的思想に基づくものというべきである。
すなわち、甲1発明は、
「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」を設ける発明であり、帯状部分として特定の方向に形成された溝を介して、被着体表面との接着面に留まろうとする空気を特定方向に除去するという技術的思想に基づく発明である。
甲1発明において、巻き込まれた気泡は、特定の溝の方向に沿ってのみ除去されるもので、その方向は、自ずと溝の形状、配置により決定される。
これに対し、本件発明1において、気泡が抜けるための通路や方向は、島状の「略円形状、略四角形状または略六角形状」の接着部(B)の配置により生まれる粘着部を有しない領域によって、一つに定まるものではない。
(イ) また、甲1発明は、帯状の「感圧接着剤非配置部」を技術的特徴とする発明であって、「感圧接着剤配置部」は、「感圧接着剤非配置部」を設けるべく消極的に設けられているにすぎず、甲1には、
「感圧接着剤配置部」の形状を所定のものにし ようとの発想がない(甲1の段落【0010】 【0024】参照) 、 。
(ウ) したがって、甲1発明の波状パターンの「感圧接着剤配置部」を島状の「略円形状、略四角形状または略六角形状」に変更する動機付けはない。
仮に、上記の変更をしたならば、もはや「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」は形成されなくなり、特定の方向に形成された溝を介して、被着体表面との接着面に留まろうとする空気を特定方向に除去するという、甲1発明の効果(甲1の段落【0096】参照)を奏し得なくなるから、むしろ阻害要因がある。
(エ) 本件決定の判断について a 本件決定には、@甲1発明における「感圧接着剤配置部」の形状である「波状パターン」を「略円形状、略四角形状または略六角形状」とすることの容易想到性は、本件優先日前の公知技術又は当業者の技術常識に基づいて判断されるべきであり、本件明細書の記載内容に基づいて判断されてはならないにもかかわらず、容易想到性を本件明細書の記載に基づいて判断している点、A本件発明1における島状の「略円形状、略四角形状または略六角形状」の粘着部には該当しない本件明細書の段落【0166】の「略四角形(斜線)」を参酌している点で、誤りがある。
b また、甲1の段落【0035】には、円状、直線状のパターンを反転させて重ねて形成することは記載されていない。甲1には、複数の「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」に係るパターンを交差させて配置することは一切記載されていないのであって、上記段落における「重ねて形成」とは、パターンを交差させることではなく、単に、複数のパターンを平面的に並べて配置することをいうにすぎないと理解すべきである。そもそも「重ねて形成」は、
「波状パターン」についての記載であって、
「直線状」のパターンはその対象に含まれていない。なお、上記段落の記載に基づいて、甲11(参考文献A)を参酌すべき理由もない。したがって、上記の点においても本件決定の判断には誤りがある。
c 本件決定は、甲3、5〜7及び11を組み合わせるに当たり、甲1発明について、
「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」を有する「その概念に感圧接着 テープと称され得るものが包含される積層シート」であることを指摘するが、それが相違点αの容易想到性とどのように関係するのか不明であるほか、「気泡抜け性の評価が“○” であることが空気抜けが良好であることを意味するものと理解する 」のであれば、空気抜け性の効果としては満足できる甲1発明の構成を変更するような動機付けは生じないと考えるのが、むしろ通常である。
(オ) 被告の主張について a 被告は、本件明細書の記載並びに審査段階及び異議事件の審理段階の経緯に基づく主張をするが、進歩性の判断に当たっての発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきものであり、特許請求の範囲の記載を無視してその解釈を論じることはできない。
この点、請求項1では、
「前記発泡体層(A)の一方の面(a)側から前記粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状であり」「前記粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、

前記粘着部(B)が10個〜50000個存在し」と規定されており、このことからは、
「形状が、略円形状、略四角形状または略六角形状」の粘着部(B)について、
それぞれ同一のパターンが繰り返して存在するため、その個数を数えることが可能であり、粘着部(B)の単位面積当たりの個数を発明の構成要件とすることができるということを合理的に理解できる。上記のような請求項の解釈においては、請求項に「島状」という語が記載されていることを要しない。そして、上記のような解釈が妥当であることは、本件発明に係る粘着テープの粘着部として、本件明細書の【図1】〜【図3】において、略ひし形、略円形状及び略六角形状の独立した島状パターン状のものが示されていること、同【図4】及び実施例22の「略四角形(斜線)」のように連続的な帯状の粘着部を設けるものにおいては、「粘着部の個数」が「-」(カウント不能)と記載されていることからも明らかである。
b 被告は、本件明細書の【図1】の「略ひし形」の島状パターンも所定領域の周縁部で「三角形」の形で「延在」し、その点では同【図4】の「略四角形状(斜 線)」の場合と異なることはない旨を主張するが、同「略四角形状(斜線)」の場合には、次の図のように、全ての粘着部(B)が、5cm×5cmの領域を延在して(跨いで)しまう結果、当該領域の範囲内に「含まれる」「粘着部(B)」の個数を数えることができないのである。また、「略四角形状(斜線)」の場合には、粘着部(B)のそれぞれの形状は同じでないから、そもそも粘着部の数を数える意味がない。したがって、「略四角形状(斜線)」の場合には、5cm×5cmの領域に含まれる粘着部(B)の個数は数えない、あるいは、数えられないというべきである。
粘着部(B) ・5cm×5cmの領域に「含 まれる」 「粘着部(B)」を数 えることができない。
・ 同じ形状の粘着部(B)のパ ターンでなければ、数を数え る意味がない。
これに対し、本件明細書の【図1】〜【図3】のような、同一形状の粘着部が繰り返される「独立した島状のパターン」の場合は、5cm×5cmの領域に、必ず、
所定の形状の粘着部が含まれるから、「略四角形状(斜線)」の場合のような「延在して(跨いで)」しまうとの問題は生じないし、同領域の粘着部の数をカウントすることで、どの程度の密度で粘着部が配置されているのかを知ることができるため有意義な情報となる。また、
「独立した島状のパターン」では、基本の形状(例えば「略ひし形」)の粘着部が繰り返されることが前提であるから、仮に、5cm×5cmの領域の端部で基本とは異なる形状の粘着部(B)(例えば「三角形」)が生じたとしても、その単位当たり(例えば「略ひし形」)の面積を基準として、その個数を換算することが可能である(実際、基本の形状に満たない粘着部については、単位当た りの面積に基づいて個数を換算し、これも個数に含めるようにしている。。
) c 被告は、本件明細書の実施例22の「粘着部の個数」が「カウント不能」であるならば、実施例22の「粘着部を有する領域の割合[%]」も測定不能となるはずであると主張するが、粘着部を有する領域の割合は、粘着部のそれぞれの領域の面積を実測し、当該面積が全体に占める割合を求めることによっても計算できるから、本件明細書の【表5】に実施例22の粘着部を有する領域の割合が記載されていることと、粘着部の個数がカウント不能であることとは矛盾しない。
d 被告は、審査段階における意見書(乙1の4)や異議事件の審理段階における意見書(乙2の2)等に基づいて、本件明細書の【図4】及び実施例22の「略四角形状(斜線)」の例が本件発明1に含まれると主張するが、前記aのとおり、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載に基づいたならば、
「略四角形状(斜線) の例は本件発明1に含まれないと合理的な解釈ができる以上、
出願経過に基づいて解釈をすべき理由がない。
また、次のとおり、上記意見書等に係る被告の主張も誤っている。
(a) 審査段階における意見書(乙1の4)については、本件発明1の「2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し」という要件が明確でないとの拒絶理由通知(乙1の2)における指摘に対応し、図を示しつつ、
「2以上の粘着部(B)の間」あるいは「粘着部(B)を有しない領域」がどこを指すのかを説明したにすぎず、「略四角形状(斜線)」の例が本件発明1に含まれるという根拠とはならない。
(b) 異議事件の審理段階における意見書(乙2の2)について、原告は、進歩性違反の取消事由に対しては反論していたから、相違点αに関し原告が個別の反論をしなかったからといって、それが「略四角形状(斜線)」の例が本件発明1に含まれる根拠となるものではない。
e 被告は、甲1の段落【0035】に記載された「円弧波等の曲線状のものや、
ジグザグ状、三角波等の非曲線状のもの」を「反転させる等して、重ねて形成され たもの」との表現にあるパターンというのは、三角波を反転させて三角波としたものを重ねて形成したもの、円弧波を反転させて円弧波としたものを重ねて形成したもの、非曲線状のストライプ状パターンを反転させてジグザグ状パターンとしたものを重ねて形成したものであるなどとし、あたかも、本件明細書の【図1】〜【図3】のような島状の粘着部が、甲1に記載されているかのように主張する。しかし、
同主張は、甲1に係る「感圧接着剤非配置部」が「帯状」である点と明らかに齟齬している。「帯状」とは、「帯を広げたような形状であるさま。ある幅をもって長くのびているさま。(甲25)をいうから、例えば、
」 「感圧接着剤非配置部」の格子状の模様を当業者が「帯状」であると認識することはない。甲1が「帯状」の「感圧接着剤非配置部」を前提とする以上、甲1の段落【0035】に、本件発明のような島状の粘着部を有する粘着テープの態様が記載されているなどということはできない。なお、被告は、乙3(特開2016-108532号公報)も挙げるが、乙3を参酌して甲1発明を理解すべき理由はない。甲1に記載の「ストライプ状のパターン」とは、
「帯状の感圧接着部と該感圧接着剤が存在しない溝とが交互に配置される」 (甲1の段落【0011】)ことにより形成されるものであるから、
「帯状」の「感圧接着剤非配置部」と「感圧接着剤配置部」が交互に存在する結果として形成された縞模様の意味であるとしか理解できず、そのような理解は、他の文献におけるいかなる記載にも影響されない。
「帯状」の「感圧接着剤非配置部」を設けるという甲1の前提からして、粘着部(感圧接着剤配置部)自体が、正方形や、菱形などのパターンになるなどとは理解できない。乙3や甲3、5〜7及び11にいかなる記載があったとしても、当業者が、甲1に、
「感圧接着剤配置部」の形状として、略四角形状、略円形状又は六角形状のパターンが記載されているなどと理解することはない。
イ 甲3、5〜7及び11(参考文献A)に基づく判断の誤り (ア)a 本件決定は、甲1発明の解決課題及び技術分野を不当に広く認定し、組み合わせる文献の範囲を不当に広げることにより、相違点αが容易に想到し得るとの 結論を意図的に導いており、進歩性の判断手法として誤っている。
まず、甲1発明の解決課題は、溝によって空気抜けを行うタイプの粘着テープに係る従来技術における、空気抜けの問題や接着性低下の問題を解決しようとするものであり、甲1発明は、溝によって空気抜けを行うという前提を維持したまま、当該課題を解決している。しかるに、本件決定は、甲1の記載に基づかずに、
「気泡抜け性」を良好なものとすることという上位概念化した極めて広い課題が甲1発明の解決課題であるかのように誤って認定した。
また、技術分野についても、甲1に記載されているのは、
「溝によって空気抜けを行うタイプの粘着テープ」に限られている。しかるに、本件決定は、
「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」のように技術分野を不当に広く認定した。
さらに、解決課題や技術分野の共通性の一事をもって、甲1発明と副引用例との組合せが正当化されることはなく、組合せの可否は、甲1発明及び副引用例に記載された開示の内容(いわゆる「内容の示唆」)によって決まる。しかるに、本件決定は、その点についての検討をせずに、単に解決課題や技術分野の共通性のみに基づいて、甲1発明と甲3、5〜7及び11を組み合わせた。
さらに、前記ア(ア)の甲1発明に係る技術的思想からすると、当業者が、甲3、5〜7及び11の内容を参酌したとしても、そもそも甲1発明における「波状パターン」の「感圧接着剤配置部」を島状の「略円形状、略四角形状または略六角形状」に変更する動機付けがない。
b 上記に関し、甲3、5〜7及び11は、後記(イ)のとおり、それぞれが前提とする特定の粘着シートに係る従来技術を念頭において、これに対応する特定の課題を解決しようとするものである。それらに記載された技術は、粘着シートであっても異なる用途に用いられるもので、しかも、解決課題はそれぞれに異なるのであるから、本件決定の技術分野や解決課題に関する認定が、不当な上位概念化であることは明らかである。
また、ある事柄が周知あるいは公知であることと、それが主引用発明に対して適用可能であるか否かは別の問題である。周知技術を主引用発明に適用できるか否かは、主引用発明の前提や主引用文献における内容の示唆で決まるところ、甲1には、
「溝状」の「感圧性粘着剤非配置部」を設けることが記載されているに留まり、
「感圧性粘着剤配置部」を特定の形状の繰り返しパターンにすることについては記載がないから、仮に粘着テープの粘着部として略四角形等の繰り返しパターンを設けることが周知であったとしても、それを甲1発明に組み合わせることはできない。
(イ) さらに、次のとおり、甲3、5〜7及び11の内容からも、相違点αの容易想到性は否定される。
a 甲3について (a) 甲3に係る両面粘着テープの少なくとも片面には、粘着剤が存在する粘着剤部分と粘着剤が存在しない非粘着剤部分が存在し、粘着剤部分は四角い島状、丸い島状、縦筋状のパターン等に形成され、それが所定割合で設けられているが、それは、熱収縮による寸法変化による両面粘着テープのしわの発生を防止するためである(甲3の段落[0005][0013] 。
、 ) なお、甲3には、非粘着部分2bから気泡を逃すこともできると記載されているが、被着体の熱収縮による寸法変化に起因する両面粘着テープ及び放熱シートや磁性シートのしわの発生の緩和の効果に加えて、付随的に生じる効果として記載されているにすぎない(同[0014]。実際、甲3において、
) 「耐たわみ性」に関しては適切な実験系によりその効果が検証されている(同[0038])が、気泡抜けに関しては、曖昧な実験条件、評価方法しか記載されていない(同[0040]。
)「気泡を抱き込むように」とは、どのように貼り合わせたのかが不明であるばかりか、
何をもって「気泡を追い出せる」「気泡を追い出せない」としているのかも不明で 、
ある。
したがって、当業者は、甲1発明と甲3の発明とは、
「片面粘着テープ」と「両面粘着テープ」という異なる技術に関するものであり、また、甲3の発明は、両面に 対して被着させる場合の熱収縮率の違いに起因して生じるしわの発生の防止という両面粘着テープに特有の課題を解決しようとする発明であると理解する。甲1発明と甲3の発明は、発明の技術分野及び解決課題がむしろ異なるといえ、それらを組み合わせるべき理由はない。また、前記ア(ア)及び(イ)で指摘した甲1発明の技術的思想等に係る点のほか、上記のような甲3における気泡抜けについての曖昧な記載からしても、当業者が、
「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」を設けることによって特定の方向に形成された溝により空気抜けが図られている甲1発明の波状パターンを、甲3に基づいて変更する理由はない。
(b) 被告は、本件発明1の評価方法が甲3におけるよりも曖昧であるなどと主張するが、甲3には、試験片の貼り合わせの方法が特定されていないという本件発明にはない実験系の問題があるほか、気泡の追い出しに関しても、何をもって判断しているのか不明であるのに対し、本件発明1においては、気泡抜け試験の条件を明確に規定した上で評価を行っており(甲1の段落【0153】【0154】、本件 、 )発明1の評価方法が甲3におけるよりも曖昧であるはずはない。
b 甲5について (a) 甲5は、フレキソ版を、
「円筒状の版胴」に貼り込むときに、空気溜まりを生じないようにするものであり、また、
「剥すときに無理な引き剥し力を加えることなく剥せ」「容易に貼り直しができる」など、
、 「仮止め用密着シート」に特化した課題を解決しようとするものである(甲5の段落【0017】)ところ、甲1発明は、
「空気等抜け性と接着力との両立」を実現しようとするもので、貼り直しは想定していないから、当業者は、
「容易に貼り直しができる」甲5に記載された接着剤の構造を甲1発明に適用することを容易に想到し得ない。従来技術における接着性が低下するような事象の発生を防止しようとしている甲1発明(甲1の段落【0009】)に対して、甲5を適用すれば、むしろ、甲1発明の解決課題に逆行する。
(b) 被告は、甲5の発明の課題が「空気溜まりを生じない」ことであると主張するが、上記主張は、同発明の解決課題における「容易に貼り直しができる」という 部分を無視したもので誤っている。
c 甲6について (a) 甲6の発明は、小凸部の粘着剤を形成した従来技術に係る粘着シート(甲23)に係る課題(甲6の段落【0005】【0006】 、 )を踏まえ、粘着シートを中央領域と周辺領域とに分け、中央領域の間隙部を周辺領域に連通させるとともに、
周辺領域における間隙部の密度を周辺領域により減らすようにしたものである。
甲6の発明と甲1発明とは解決課題が異なるから、甲1発明に甲6の発明を組み合わせるべき理由はない。しかも、甲6の発明は、島状のパターンの粘着剤を設けていた従来技術の問題点を解決するべく、粘着剤を島状のパターンに配置しないようにするもので、特に周辺領域において、あえて間隙部の密度を中央領域よりも少なくすることにより、空気道から粘着シートと被着物の間に異物等が混入しないような構造としているから、甲1発明に甲6に記載された粘着剤の配置を組み合わせたとしても、本件発明1の構成に至ることはない。この点、本件決定が甲6に記載されていると認定する「矩形、三角形、円形、楕円形等」は、甲6の発明の中央領域の形状をいうものにすぎない。甲6には、島状のパターンを形成し、その形状を「矩形、三角形、円形、楕円形等」とすることは一切記載されていない。そして、
甲1発明に、甲6の発明の中央領域の形状を組み合わせるべき合理的理由もない。
(b) 被告は、甲6には、その中央領域において正方形のほか矩形、三角形、円形、
楕円形状の粘着部の島状パターンが存在することを主張するが、甲6発明は、周辺領域においては、あえて間隙部の密度を中央領域よりも少なくすることにより、空気道から粘着シートと被着物の間に異物等が混入しないような構造を取ることを特徴とする発明であるから、中央領域にのみ着目し、中央部分の形状のみを、甲1発明に対して組み合わせる理由はない。
d 甲7について (a) 甲7の発明は、
「基材上に2以上の点状粘着剤を有し、再剥離性に優れる粘着製品を提供する」ことを発明の解決課題とするものである(甲7の段落【0006】) ところ、甲1発明は、空気等抜け性と接着力との両立」 「 を実現しようとするもので、
再剥離することは想定していないから、当業者は、再剥離に優れる粘着製品である」 「甲7に記載された粘着剤の構造を甲1発明に適用することを容易に想到し得ない。
従来技術における接着性が低下するような事象の発生を防止しようとしている甲1発明(甲1の段落【0009】)に対して、甲7を適用すれば、むしろ、甲1発明の解決課題に逆行する。
(b) 被告は、甲7の段落【0079】の「本発明の粘着製品は、基材上に層状の粘着剤ではなく、点状の粘着剤を有するので、被着体への貼付時に粘着製品と被着体との間に空気が閉じ込められることを抑制でき、気泡による粘着製品の浮きや剥がれ、しわが生じることを抑制できる。」との記載を挙げて、甲1発明に甲7に記載された事項を適用しても甲1発明の解決課題に逆行しない旨主張するが、なぜ、容易に貼り直しできる甲7の発明を甲1発明に適用しても、接着力の両立に支障がないといえるのか不明である。
e 甲11について (a) 甲11には、
「格子」や「正六角形」や「楕円」の粘着剤パターンを形成するための方法として、撥液性パターンをシート状基材に形成して所望の粘着剤パターンを得たことが記載されているだけである。気泡の抱き込みの有無に関する記載(甲11の段落【0030】)については、どのような大きさの粘着シートを貼り付けたのか、どのような貼り付け条件で貼り付けを行ったのか、気泡の抱き込みがないことをどのように確認したのかについて一切記載がされておらず、真に、気泡の抱き込みの回避ができたかどうかは定かではない。しかも、同段落の記載によると、気泡の抱き込みの確認は1回しか行われていない。
したがって、前記ア(ア)及び(イ)で指摘した甲1発明の技術的思想等に係る点のほか、上記のような甲11における曖昧な記載からしても、当業者が、
「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」を設けることによって特定の方向に形成された溝により空気抜けが図られている甲1発明の波状パターンを、甲11に基づいて変更する理由 はない。
(b) 被告は、甲11に関し、気泡の抱き込みの確認が1回であろうが複数回であろうが、格子状などのパターンを形成することで気泡の抱き込みの問題が解消されることが当業者における周知の技術常識であると主張するが、上記周知の技術常識の存在については、何ら証拠が示されていない。
(3) 相違点βについての容易想到性の判断の誤り ア 相違点βに係る本件発明1の構成は、島状パターンという、5cm×5cmの領域に含まれる粘着部の個数が明確に認識できるものに限って適用できるから、
上記構成は、相違点αについて容易想到であるとされて初めて容易に想到し得るものであるところ、前記(2)のとおり、相違点αについて当業者は容易に想到し得ない。
イ 上記構成が甲1の記載に基づいて容易想到であるということもできない。
まず、甲1発明のような、
「帯状」 「感圧接着剤非配置部」 の の間に形成された「感圧接着剤配置部」について、5cm×5cmに含まれる個数は観念できない。このことは、本件明細書においても、実施例22について、粘着部の個数を「-」 (カウント不能)としていることからも明らかである。
また、甲1の段落【0030】における「感圧接着剤非配置部」の幅寸法及び同【0031】における「感圧接着部」の幅寸法は、いずれも一定の幅をもって記載されているにすぎないにもかかわらず、都合よく数値を選択して、
「感圧接着剤非配置部」の幅を0.3mm、
「感圧接着部」の幅を2mmとして組み合わせた例を恣意的に作出し、それに基づいて、感圧接着部の個数が21.7個となる旨認定することにも正当性はない。
ウ 被告は、カウント不能になるとはいえない、
「-」がカウント不能を示していると解することはできない、他のデータから個数を計算できるといった旨を主張するが、本件明細書の段落【0158】においては、粘着部の個数を電子顕微鏡で観察して数えるとされているから、実施例22においては、粘着部のパターンが見えないことを理由に「-」の評価とされているわけではないことが明確に理解でき、
視認できても「-」とされるということから「カウント不能」 (「カウントの対象外」)という評価と理解するのが合理的である。略円形状、略四角形状又は略六角形状の粘着部の島状パターンが繰り返して配置されている場合(実施例1〜21、23〜30)については全て粘着部の個数が記載されていることからすると、実施例22においては、そのような島状パターンの繰り返しでないことから、粘着部の個数を数えなかったと理解できる。そして、
「-」 「カウント不能」 を (「カウントの対象外」)と理解するのが正しい以上、実施例22において、粘着部の割合等から個数を導くことができるとの主張は無意味である。
(4) 相違点γについての容易想到性の判断の誤り ア 本件発明1において、動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接(tanδ)のピーク温度(以下「tanδのピーク温度」ということがある。 である ) 「-25℃〜5℃」は、気泡が抜けやすく、かつ、良好な接着性が保持できるという課題を解決するために、本件発明1の他の構成、すなわち、粘着部(B)が独立した島状パターンである略円形状、略四角形状又は略六角形状であり、かつ、任意の粘着部(b1)とこれに近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであるという構成に鑑みつつ、気泡抜けと良好な接着性を両立すべく設定されたものである。
イ(ア) 本件決定は、甲1発明の「感圧接着剤層」について「室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈」する旨の記載(甲1の段落【0071】)があるところ、甲8にも「ガラス転移点が高過ぎると、常温での柔軟性が失われ」るとの理由により、ガラス転移点(tanδの最大値で測定)を「-50℃から5℃」にしたことが記載されているとして、
「粘弾性体」の状態を呈することが必須の甲1発明の「感圧接着剤配置部」のtanδのピーク温度は、-25℃〜5℃」 「の範囲になる旨判断したが、当該判断は誤りである。
(イ) まず、甲1の段落【0071】で述べられているのは、ごく一般的な感圧接着剤が有すべき最低限の性質にすぎず、当業者が、そのような記載をもって、他の 文献(甲8)に記載された特定のtanδのピーク温度が甲1発明におけるtanδのピーク温度になると理解することはない。この点、甲8の段落【0034】では、ガラス転移点(tanδのピーク温度)については、甲8における発明の効果との関係で選択されるべき旨が示されており、そのような甲8におけるtanδの値が、甲1におけるtanδの値になるなどと理解されることはない。
(ウ) また、甲8を参照しても、甲1発明の「感圧接着剤配置部」を構成する粘着剤のtanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」の範囲にあるというべき理由はない。甲8に記載されたtanδのピーク温度は「-50℃から5℃」と広範囲にわたるもので、しかも、甲8の実施例1では-42.6℃、実施例2では-46.4℃という下限値に近い値になっているから、甲8に記載されたtanδのピーク温度の範囲が「-50℃から5℃」であるからといって、甲1発明において、
「-25℃〜5℃」の範囲であるというべき理由はない。
ウ(ア) 本件決定は、甲1発明が「気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層」を有するものである点並びに甲2及び8〜10に空気抜けに関連した記載があることに基づいて、甲1発明のtanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」という範囲から逸脱した範囲にあるとは解せないと判断したが、当該判断も誤りである。
(イ) まず、甲1の段落【0071】の記載その他の記載をみても、気泡抜け性との関係で感圧接着剤を選択することは一切記載されておらず、甲1発明について、
気泡抜け性との関係で感圧接着剤を選択するという技術的思想は一切記載されていない。したがって、気泡抜けとの関係での感圧接着剤の選択という観点で、甲2及び8〜10に記載されたtanδの値を甲1に組み合わせるべき理由はない。
(ウ) また、仮に気泡抜けとの関係での感圧接着剤の選択に着目して、他の文献を参酌するのであれば、それらの文献の気泡抜け手段の態様(構造)が、少なくとも甲1発明と同様に「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」 (溝)を設けるものでなければならないが、甲2及び8〜10にそのような気泡抜け手段は記載されていない。
すなわち、まず、甲2には、特定の表面粗さRaを有するように粗面化された粘 着剤層を有する粘着シートにおいて、tanδのピーク温度を-30℃〜20℃とすることが記載されているにすぎない。甲2におけるtanδのピーク温度の選択が、特定の表面粗さRaを有するように粗面化された粘着剤層に特化したものであることは、甲2の段落【0043】の記載のとおりである。
次に、甲8には、そもそも、空気抜けの溝を設けることについて何ら記載されていない。このことは、甲8の段落【0007】の記載からも明らかである。
また、甲9に記載された粘着シートの粘着剤層についても、空気抜けの溝を設けることについては何ら記載がない。のみならず、甲9に記載された粘着シートは、
再剥離性を有するもので、甲9の段落【0031】の記載のとおり、tanδのピーク温度も、むしろ再剥離の観点から選択されている。
さらに、甲10の粘着テープについても、粘着剤層に空気抜けの溝を設けることには一切記載されていない。のみならず、甲10に記載された粘着シートも、
「位置を間違えて接着しても容易に剥がすことができる」(甲10の段落【0014】)ようにしたものであり、この観点から、粘着テープのタックを従来のものよりも小さくするべく、ガラス転移点(tanδのピーク温度) 「-10℃から5℃の範囲」 をとしている。
以上によると、当業者が、甲2及び8〜10のtanδのピーク温度を、甲1のtanδのピーク温度であると理解することはない。
エ 本件決定は、甲1発明のtanδのピーク温度が、
「-25℃〜5℃」という範囲から逸脱したものであるとしても、甲1発明が「気泡抜け性」を良好なものとすることを課題としたものであることや、「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」の技術分野に属するものであることからすると、相違点γは、
同様の課題と技術分野に属する甲2及び8〜10に基づいて、容易に想到し得る旨判断した。
しかし、前記ウ(イ)のとおり、甲1発明に気泡抜け性との関係で接着剤を選択しようという思想はないから、気泡抜け性の観点から甲2及び8〜10に記載されてい るtanδのピーク温度を組み合わせるべき理由はない。
また、単に、
「感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート」という極めて上位概念的な点で共通するというだけで、甲1発明に対して、当該共通点を有する他のあらゆる文献に記載された事項を組み合わせられるなどということはできない。前記ウ(ウ)のとおり、甲2及び8〜10に記載された発明は、粘着剤層の構造が甲1とは異なっており、また、具体的に解決しようとする課題も異なるものである。
オ 被告は、甲8の記載を指摘して、甲1発明について、tanδのピーク温度が高すぎない範囲にある(5℃以下にある)ことが必要不可欠であると理解できるなどと主張するが、本件発明1におけるtanδのピーク温度の技術的意義からすると、引用文献に基づいて相違点γを容易想到というのであれば、粘着部(B)が独立した島状パターンである略円形状、略四角形状又は略六角形状であり、かつ、
任意の粘着部(b1)とこれに近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであることを満たす粘着テープの粘着部におけるtanδのピーク温度が記載されていなければならないが、甲8には、独立した島状の粘着部を設けることすら記載されていない。また、仮に、甲8にそのような粘着部が記載されていたとしても、甲1発明が「帯状」の「感圧粘着剤非配置部」を設ける発明に係るものであることからすると、そもそも甲8に記載された事項は甲1に適用できない。
甲1発明を端緒として、粘着部を独立した島状のものとすることは容易想到でないから、いかなる文献が存在したとしても、tanδのピーク温度を「-25℃〜5℃」とすることが当業者にとって容易想到であるとはいえない。
(5) 相違点δについての容易想到性の判断の誤り ア 相違点δは、本件発明1において、島状パターンの略円形状、略四角形状又は略六角形状の粘着部(B)を設けることを前提に、粘着部配置要件の一つとして、
任意の粘着部(b1)と(b2)の距離の寸法を規定した点に関するものであるから、相違点δについての容易想到性は、相違点αについて容易想到とされて初めて 成り立つものであるところ、前記(2)のとおり、相違点αについて当業者は容易に想到し得ない。
イ 前記(2)アのとおり、本件発明1と甲1発明とでは、空気抜けの技術的思想が異なっており、甲1発明は、粘着剤が形成されない部分について、本件発明1とは異なる技術的思想に基づいているから、甲1に記載された「感圧接着剤非配置部」の幅の寸法に基づいて、本件発明1における島状パターンに形成される任意の粘着部(b1)と(b2)の距離の寸法を容易に想到し得るとはいえない。
なお、本件決定は、甲1の段落【0005】における「外観品質の低下」に係る記載に基づいて、甲1発明の溝の幅を狭くすることに阻害事由があるとはいえないと判断するが、そもそも甲1に、溝が目立ってしまうことが「外観品質の低下」の問題になるなどという説明はなく、接着面に空気が留まること、つまり、空気抜け不良による外観品質の低下が問題とされているだけである(同【0007】。他方 )で、甲1における「外観」と「溝」や「パターン」との関係に係る段落【0011】及び【0013】の記載からすると、ストライプ状のパターンを有する甲1において、溝が見えることは問題ではなく、むしろ外観上好ましいと認識されているといえる。
上記に関し、
「外観品質の低下」の意味を、同【0007】の記載を踏まえて正しく理解した場合、
「感圧接着剤配置部」の幅が40mmである甲1発明において、
「感圧接着剤非配置部」の幅を0.1mmとすることには、阻害要因がある。すなわち、
甲1の例1では、厚さ2μmのPETフィルムに対して溝間隔40mm、溝幅0.1mmのパターンを形成した例が記載され、気泡抜け性は“○”とされているが、
「気泡抜けレベル」は、
「D(被着体への貼り付け後、空気は抜けたが、その抜け具合はかなり遅かった)」であり、溝幅が1.0mmであることを除き同じ条件で作製された例2よりも気泡抜けレベルが更に劣っている(甲1の段落【0117】【表2】。甲1発明は発泡体を含むシート状基材を用いており、例1に比べて更に空気 )の巻き込みが生じやすいと考えられるところ、甲1発明の溝幅1.0mmを0.1 mmにすれば気泡抜けが悪くなることは明らかであるから、甲1発明において、溝幅を0.1mmとすることには、阻害要因があるといえる。
ウ 被告は、本件明細書の段落【0022】 「略円形状」 で、 の粘着部について「任意の1つの粘着部の最大直径と最小直径との比〔最大直径/最小直径〕が1〜4であることが好ましい。 と記載されていることも、
」 本件発明1に甲1における直線状のパターンが含まれることの根拠となるかのように指摘するが、
「略円形状」で、最大直径/最小直径に上限があることからすると、上記記載にいう粘着部が島状のものであることは明らかである。
また、被告は、甲3の記載を指摘して、
「感圧接着剤非配置部」の溝の幅が狭ければ狭いほど、溝が目立たず、外観品質の低下を防止できることは、甲1に記載されているに等しい自明事項であると主張するが、甲3に記載された事項をもって甲1に記載されているに等しいというべき理由はない。
(6) 相違点εについての容易想到性の判断の誤り ア 相違点εは、相違点α、β及びδに係る構成を前提に、粘着部(B)の厚さを規定したことにより、
「粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できる」 (本件明細書の段落【0042】 ことに係るものであるから、
) それらの相違点について当業者が容易に想到し得ない以上、相違点εについて容易に想到し得るとはいえない。
イ 本件決定は、甲1の段落【0088】の記載や例1に基づいて、相違点εが容易想到であると判断したが、本件発明1における粘着剤の厚みは、特定の粘着部配置要件で配置した島状パターンの粘着部(B)についての好適な厚みを規定しているのであるから、このような厚みの寸法を、
「波状パターン」の「感圧接着剤配置部」の厚みに基づいて、当業者が容易に想到し得ることはない。
なお、甲1の段落【0117】 【表2】に示された各例からすると、甲1において、
感圧接着剤層の厚みは、シート状基材の厚みに合わせて調整して選択していることが理解できる。甲1から読み取れる上記のような技術的思想に照らすと、当業者に おいて、甲1発明(甲1の例7)の感圧接着剤層の厚み(20μm)を2μmに変更することを容易に想到し得るかという問題のみを考えた場合であっても、容易想到性は否定される。
ウ 本件決定は、相違点εとの関係でも、外観品質の低下に関し、甲1発明の感圧接着剤層の厚さを薄くすることに阻害事由があるとはいえないと判断するが、前記(5)イのとおり、甲1発明において、「外観品質の低下」との関係で、感圧接着剤層が目立たないことは求められておらず、むしろ、波形パターンとしたことによりこれを視認できることが外観上有利であると考えられているところである。
エ(ア) 被告は、乙5(特開2016-151006号公報)、乙6(特開2016-155950号公報)及び乙7(国際公開第2016/035863号)の記載を指摘して、感圧接着剤層の厚みが薄ければ薄いほど、感圧接着剤層の存在が目立たず、外観品質の低下を防止できることは、甲1に記載されているに等しい自明事項であると主張するが、甲1と異なる文献である乙5〜7に記載された事項が、甲1に記載されているに等しいというべき理由はない。
(イ) 被告は、甲1発明の材質を指摘して、
「感圧接着剤層配置部」の波形パターンを視認することは不可能であると主張するが、問題は、甲1発明において、波形パターンが見えるかどうかではなく、感圧接着剤層の厚み(20μm)を2μmに変更することの容易想到性に関連して、甲1に、
「感圧接着剤層の厚さが薄ければ薄いほど、感圧接着剤層の存在が目立たず、外観品質の低下を防止できる」という技術思想が記載されているかのように本件決定が認定したことの不当性である。被告の主張は、同認定を正当化するものではない。
(ウ) 被告は、甲1にはシート状基材の厚みに合わせて感圧接着剤層の厚みを調整することが好ましいことは記載されていないと主張するが、甲1の段落【0117】【表2】の例1〜11からは、シート状基材の厚さが比較的薄い2〜4μm程度であれば(例1〜4、9)、感圧接着剤層も2〜3μmという薄いものを組み合わるのに対し、シート状基材の厚さが100〜200μmという比較的厚いものである場 合(例5〜8、10、11)には、感圧接着剤層も、20〜80μmという厚いものを組み合わせるという相関関係が読み取れる。したがって、少なくとも、甲1発明(シート基材の厚み200μm)に対して、感圧接着剤の厚みを2μmとすることは容易に想到し得るものではなく、感圧接着剤層の厚みを調整することが好ましいなどという記載が甲1になくとも、本件決定における容易想到性の判断の理由は否定される。
(7) 本件発明1の効果に関する判断の誤り ア 本件発明1は、気泡の抜けと接着性の両立を図るとともに、外観についても優れた効果を奏するものである(本件明細書の段落【0008】【0021】【0 、 、
023】【0030】【0031】【0036】【0042】。
、 、 、 、 ) この点、本件決定が、本件発明1の効果につき、単に「気泡の抜けやすさに優れる」とした点は誤っている。
また、本件発明1における空気抜けのメカニズムは、甲1発明とは全く異なるから、本件発明1の効果を甲1発明と対比することは理に適っておらず、甲1発明から本件発明1の効果を予測できるという合理的な理由もない。
さらに、甲1における「空気抜け性の評価」の実験は、その方法や条件の詳細が不明であり(甲1の段落【0116】。どのような材質の被着体に貼り付けたのか、
どのようにして貼り付けたのかについては、全く記載がされていない。また、実験の回数も記載されていないことからすると、1回のみの実験が行われたと推測される。、本件発明1と空気抜けの効果を比較できるようなものではない。この点、本 )件明細書においては、試験片の作成条件、実験の方法、条件、評価の方法を具体的かつ明確にした上で、
「気泡の抜けやすさの評価」を行っており(本件明細書の段落【0153】 【0155】、
〜 ) 接着性に関しても、2種類の実験により確認を行い、
優れた効果が確認されている(同【0149】〜【0152】。
) したがって、本件発明1が優れた効果を奏することは明らかである。
イ 被告の主張について (ア) 被告は、本件発明1の効果は「比較例1」という唯一の比較例に対する比較結果が示されているにすぎないので、多数の発明特定事項により特定される本件発明1の全ての範囲に格別の効果があることが必要かつ十分に裏付けられているとはいえないと主張する。しかし、明細書において発明の作用効果が十分に示されているか否かは、比較例の数のみによって決まるものではない。本件明細書には、本件発明1の各構成が発明の解決課題との関係でどのような技術的意義を有するかが明確に記載され、当業者は、本件発明1の定性的な作用効果を十分に理解できる。また、
本件明細書の実施例1〜30においては、本件発明1の各構成や粘着部の態様を種々に異ならせた場合について、発明の解決課題との関係で優れた作用効果を奏することが定量的に示されており、本件発明1の各構成に係る範囲において、格別の効果があることが、必要かつ十分に裏付けられている。
(イ) 被告は、粘着力の評価につき、本件明細書の段落【0149】では試験片を「20mm幅」に切断したとしながら、実施例1〜30では「N/25mm」という25mm幅当たりの粘着力として記載しており、両記載は整合していないから、
評価方法に何らかの不備があると主張する。しかし、同段落の「実施例及び比較例で得た粘着テープを20mm幅に切断し」との明確な記載から、同【表1】〜【表6】の「接着力(貼付後1時間)」の項目における単位の分母の「25mm」が誤記であることは明らかであり、当該誤記をもって本件明細書における評価方法に不備があるとはいえない。
(ウ) 被告は、本件明細書の比較例1における「外観」の評価は粘着部の形状を視認できなかったことから「-」の評価とされているのに対し、実施例30では、粘着部の形状が視認できなかったことから「◎」とされているから、視認できなかった」 「という評価から「外観」の優劣を判断できないと主張する。しかし、本件明細書の段落【0157】の記載からして、比較例1における「-」の意味は、
「全面に粘着部を塗布したため評価しない」という意味である。したがって、比較例1で外観が「-」と評価されたことと、実施例30で粘着部の形状が視認できなかったことか ら「◎」とされたこととは矛盾せず、比較例1の結果をもって本件発明の効果が判断できないなどともいえない。
(エ) 被告は、本件明細書の実施例2〜29のものは、実施例1とほぼ同様の方法で粘着テープを作製しているのに対して、実施例30及び比較例1のものは、実施例1と基本的に異なる方法で粘着テープを作製しているので、比較例1の評価結果を、
実施例1〜29の評価結果と対比することに合理性はないと主張する。しかし、本件発明は、粘着部(B)の配置及び厚さ並びにその材料性質(tanδのピーク温度)に特徴を有する「粘着テープ」という物の発明に係るものであるから、当該粘着テープが複数の方法により作製できるとしても何ら問題はない。実施例1〜29と、実施例30及び比較例1においては、粘着部の形成と発泡層の形成の順序が異なっても本件発明の粘着テープを作製できることを示しているだけであり、比較例1を実施例1〜29の評価結果と対比することに合理性がないとはいえない。
(オ) 被告は、本件明細書に記載された「気泡の抜けやすさ」の評価では、9mm 2の膨らみの気泡が10個観察されても「10」の評価となるのに対し、10mm 2の膨らみの気泡が1個観察されても「0」の評価となるので、客観的に正しくなく、
また、一人のみの実験が行われたと予想されると主張する。しかし、本件発明では気泡抜けが解決課題の一つとなるため、何らかの基準により気泡の抜けやすさを評価する必要があるところ、実用上、10mm2以上の膨らみが問題となることから、
10mm2以上の膨らみの数を数えることにした。したがって、9mm2の膨らみの気泡が10個観察されても「10」の評価となることに問題はない。また、このような客観的に評価できる実験については、一人の実験者(技術者)が行うのが通常である。なお、本件における気泡抜けの評価は、官能試験ではないから、
「パネラー」(通常一般人)が複数で行う試験でもない。
(カ) 被告は、本件明細書の実施例1、9、19及び24に記載された「粘着部を有する領域の割合[%]」は、被告の計算結果と異なるから、本件明細書の試験結果の信憑性には疑義が持たれると主張する。
しかし、本件明細書において、「粘着部を有する領域の割合[%]」は、粘着部の形状が略円形状、略四角形状、略六角形状のいずれの場合においても、単位ユニットに占める粘着部の面積から算出されている。
次の図のように、例えば、粘着部が略四角形状(略ひし形も含む。)の場合、「粘着部を有する領域の割合[%]」は、隣接する粘着部の間に形成される、非粘着部の間隔dの中心を通る線により形成される略四角形(赤線で囲まれた部分)を単位ユニットの面積とし、これに占める粘着部の面積(略四角形の一辺(実測)と角度により求める。)の割合として算出することができる。粘着部が略円形状の場合、「粘着部を有する領域の割合[%]」は、隣接する粘着部の間に形成される非粘着部の間隔dの中心を通る線により形成される略六角形(赤線で囲まれた部分)を単位ユニットの面積とし、これに占める粘着部の面積(略円形の半径を実測することにより求める。)の割合として算出することができる。ちなみに、5cm×5cmの領域に含まれる粘着部の個数は、当該粘着部の面積の割合に基づいて、計算により求めることができる。
この点、実施例24については計算誤りがあり、
「粘着部を有する領域の割合[%]」は、正しくは55%であったが、いずれにしても、本件発明1の要件を満たすものであり、その他の実施例における数値の違いは計算誤差である(なお、被告の計算結果で実施例1、9及び19について数値に微妙な差が出ているのは、数値の丸め 方が原告とは異なることに原因があると考えられる。原告は、単位ユニット面積や粘着部の面積については四捨五入をせずにそのままの値を用いて粘着部を有する領域の割合[%]を求め、最後にその数値を四捨五入しているのに対し、被告はこれらの面積を求める度に四捨五入した上で計算している。。それゆえ、本件明細書の )実験結果には疑義はなく、上記の誤記については、被告も計算により確認ができるようなものにすぎない。
したがって、本件明細書の記載に基づいて、当業者において本件発明の優れた効果を確認できることは明らかである。
(8) まとめ 以上より、本件決定における本件発明1に係る容易想到性の判断は取り消されるべきものである。そして、本件発明3、4、6、8及び9は、本件発明1の従属項に係るものであるから、本件発明3、4、6、8及び9も当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り) (1) 本件発明は、
「被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープを提供する」(本件明細書の段落【0006】)ことを解決課題とし、粘着部(B)について、その基本的形状、配置要件、厚さ及びtanδのピーク温度に係る各構成を有機的に組み合わせることにより上記課題を解決するものであるところ、上記各構成と解決課題又は効果との関係については、全て本件明細書に明確に説明されている。また、本件明細書の実施例1、2、4、6〜12、14〜21、
23〜30では、上記各構成に係る要件を満たす範囲で、種々にその構成を組み合わせた場合に上記課題が解決できることを具体的に示している。
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された発明の構成全体によって、本件発明の課題を解決できると認識し得るから、本件発明についてサポート要件違反はない。
(2) 本件決定は、本件発明1につき、粘着部のtanδのピーク温度のみに着目し、本件明細書の段落【0036】の記載を考慮したとしても、どのようなメカニズム(作用機序)によってtanδのピーク温度の値が「エア抜け性」などの物性に影響するのか当業者に理解できるように記載がされていないとの理由により、サポート要件に適合しないと判断しているが、次のとおり、上記判断には誤りがある。
ア サポート要件の趣旨に照らして、同要件への適合性にメカニズム(作用機序)の解明は必要ではない。
イ tanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」であることが発明の解決課題に寄与することは、次のとおり、当業者であれば本件明細書の記載及び技術常識に基づいて理解し得る。
(ア) tanδのピーク温度は当業者に周知の物性である。粘着剤(又は接着剤)は、粘性と弾性という異なる性質を併せ持った性質(粘弾性)を有するものとして理解されるところ(甲18〜20)、粘性は、注射器で油を吸い込んだり押し出したりする時の油の応答として理解され(単純粘性モデル)、弾性は、バネをモデルとして理解される(甲20)。
この粘弾性の特性は、動的粘弾性として評価されることが多い。動的粘弾性測定において、弾性部分の性質は貯蔵弾性率G’、粘性部分の性質は損失弾性率G’’として得られ、tanδは、G’’とG’の比である(甲18〜20)。
次の図(甲18の図8.3)に示されるように、低温の領域@では貯蔵弾性率G’が大きいが、温度が上昇すると急激に貯蔵弾性率G’が減少し(領域A)、粘性の寄与が大きくなる。tanδが極大になる温度、すなわちtanδのピーク温度は、
ガラス転移温度と同義であり(甲19の109頁)、これ以上の温度でタック(非常に軽い力で短時間に被着体に粘着する力。甲24)が発現するため、tanδのピーク温度は、当業者が興味を持つ物性である(甲20の88頁)。更に温度が上がると、tanδが小さく、貯蔵弾性率G’がフラットなゴム状領域(領域B)となり、
粘着性が強くなる(甲20の88頁)。
急激にG’が減少 tanδのピーク温度 (イ) 前記(ア)のようなtanδのピーク温度の技術的意義は、当業者によく知られているから、当業者においては、粘着剤のtanδのピーク温度の範囲は、対象とする物に応じて適切に選択するであろうと理解する。
しかるところ、本件発明1は、粘着テープに係るものであるから、まず、十分な接着力を得られるようにするという観点から、tanδのピーク温度を選択しているであろうと、当業者は理解し得る。
他方で、本件発明1の場合、任意の粘着部(b1)とこれに近接する粘着部(b2)との距離が「0.05mm〜0.15mm」とかなり狭く、このような本件発明1の粘着部に係る構成の特徴と、
「前記粘着部(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、-30℃〜20℃であることが好ましく、-20℃〜10℃であることがより好ましく、-10℃〜5℃であることが、被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)(本件明細書の段落【0036】 」 )との記載に触れた当業者は、
本件発明においては、粘着剤の粘性(べたつき)に照らして、空気抜け性の観点か らも、tanδのピーク温度を選択しているであろうと理解する。なぜなら、粘性(べたつき)が大きいと、個々の粘着部(b)同士がくっついてしまい、気泡を逃す経路が少なくなり、また、被着体の界面から気泡を逃がす経路がなくなってしまうからである。
(ウ) 以上のことから、本件明細書の記載及びtanδのピーク温度に係る技術常識に照らすと、当業者においては、tanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」であれば、接着性とエア抜け性の両立という課題の解決に寄与するであろうと理解する。そして、本件明細書の実施例の結果を見ると、tanδのピーク温度の値が「-25℃〜5℃」の範囲にある粘着剤a〜fを用いた結果、発明の課題が解決できていることが理解できるから、当該温度範囲は、実験等により好適な範囲を設定したものであろうことも、当業者において理解し得る。
(エ) 本件決定は、本件明細書の比較例1を挙げ、当該比較例で用いられた粘着剤aのtanδのピーク温度が0℃であるにもかかわらず、本件発明1の課題が解決できると認識できる試験結果になっていないから、
「-25℃〜5℃」という変数が 示す範囲内であれば所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載されているともいえないと判断する。
しかし、本件発明1は、tanδに関する構成のみによって課題を解決するものではないから、比較例1において用いられた粘着剤aのtanδのピーク温度が本件発明の範囲に含まれる温度であったからといって、そのこと自体は何らサポート要件違反の理由とならない。
また、上記判断に当たり、本件決定は、
「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、 発明の詳細な説明は、その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識参酌して、当該変数が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である」との判断基準を示すが、上記基準は、いわゆる特殊パラメータ発明に関する判断基準であり、当業者に周知の物性であって特殊パラメータ(数式等)ではないtanδのピーク温度について上記基準を適用する理由はない。
さらに、サポート要件の適合性について必要以上に厳しく判断することに否定的な近時の裁判例(知的高裁平成30年(行ケ)10158号令和2年7月2日判決。
「課題の解決についても、当業者において、技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであって、厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される」などと判示している。 における考え方に照らしても、
) 本件発明1についてサポート要件違反を問うべき合理的な理由はない。
(オ) そして、本件発明1にサポート要件違反がない以上、本件発明3、4、6、
8及び9にもサポート要件違反はない。
(3) 被告の主張について ア 被告は、本件明細書の実施例2〜29は実施例1とほぼ同様の方法で粘着テ ープを作製しているのに対して、実施例30及び比較例1は実施例1と基本的に異なる方法で粘着テープを作製しているので、比較例1の評価結果を、実施例1〜29の評価結果と対比することに合理性はないと主張する。しかし、比較例1を実施例1〜29の評価結果と対比することに合理性がないとはいえないことは、前記1(7)イ(エ)のとおりである。
また、被告は、実施例と比較例とでは、tanδのピーク温度以外の要件を揃えていないから、tanδのピーク温度について規定される範囲と「気泡の抜けやすさ」や「外観」や「接着力」などとの関係の技術的な意味を当業者が理解できないと主張する。しかし、必ずtanδのピーク温度以外の要件を揃えなければ、本件発明の作用効果や本件発明の構成により発明の解決課題が解決できることが理解できないなどということはない。tanδのピーク温度は、当業者にとって周知の物性であり、かつ、本件明細書にはtanδのピーク温度が気泡抜け性に関係することについての明確な記載があるから(本件明細書の段落【0036】、当業者であ )れば、本件発明において、tanδのピーク温度を「-25℃〜5℃」の範囲とすることの技術的意義を明確に理解でき、また、実施例の結果を見ると、tanδのピーク温度の値が「-25℃〜5℃」の範囲にある粘着剤a〜fを用いた結果、発明の課題が解決できていることが理解できる。
イ 被告は、本件発明1の各構成を有機的に組み合わせた場合の効果(性能)が本件特許の出願時の技術常識として当業者に知悉されていたといえる根拠も見当たらない主張するが、同効果(性能)は、本件発明の効果であるから、それ自体が、
当業者に知られたものであるはずがない。
また、被告は、本件明細書の段落【0149】の接着力の測定では試験片を「20mm幅」に切断したとしながら、
【表1】〜【表6】では「N/25mm」という25mm幅当たりの粘着力として記載しており、両記載は整合していないと主張する。しかし、本件明細書の【表1】〜【表6】の「接着力(貼付後1時間)」の項目における単位の分母の「25mm」が誤記であることが明らかであることは、前記 1(7)イ(イ)のとおりである。
さらに、被告は、評価ポイントを1点上げるにはどの程度視認性が高まればよいのかをパネラー間で共通にする手順が踏まれたことや各パネラーの個別の評点が記載されていないので、外観の評価を客観的かつ正確に評価したものとは理解できないと主張するが、本件明細書の段落【0157】における評価試験は、実験者(技術者)による試験であって、複数のパネラーに基づく評価試験ではないから、それを前提とする被告の主張は失当である。
ウ 被告は、本件発明1に係る「粘着部の個数」の構成や「粘着部を有する割合」の構成の下限値に関して、tanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」であれば、
接着性とエア抜け性の両立という課題の解決に寄与することを裏付ける具体例が明細書に記載されていないかのように主張するが、当業者であれば、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、上記各構成に係る範囲において、本件発明の解決課題を解決し得ることを十分理解することができる。被告が主張するように、上記下限値について裏付けとなる具体的実施例を求めることは、サポート要件の適合性を必要以上に厳しく判断するものであって相当でない。
被告の主張
1 取消事由1(進歩性に関する判断の誤り)について (1) 相違点αについて 次のとおり、甲1発明の「パターン」を「略四角形状」や「略円形状」や「略六角形状」にすることは、甲1、3、5〜7及び11(参考文献A)に記載があり、
当業者にとって容易想到であるとの本件決定の判断に誤りはない。
ア 動機付けがないとの原告の主張について (ア) 原告は、本件発明1の「接着部(B)」について、島状のもののみを問題とするところ、本件明細書の段落【0124】には「図1に示す略ひし形形状の厚さ2μmの島状の粘着部を得た。」との記載があるものの、「島状」という語は本件発明1の発明特定事項とはされていない。
他方で、本件発明1の「略円形状、略四角形状または略六角形状」の範囲には、
「2以上の粘着部が部分的につながっている箇所」がある場合のもの(本件明細書の段落【0022】、
)「直線部が曲線部となった形状」のもの(同【0024】、
)「略四角形(斜線)」のもの(同【0166】)などの広範なものが包含される(後記(エ)のとおり、甲1の段落【0035】に記載のパターンのバリエーションも、本件発明1の「略円形状、略四角形状または略六角形状」に当たる。。
) また、本件発明1の「略四角形状」には、
「略台形」などの各種の四角形が含まれ(本件明細書の段落【0023】、その「略」には、粘着部(B)が押圧されるこ )とによって直線部が曲線部となった形状も含まれ(同【0024】、本件明細書の )【表4】及び【表5】に示す実施例19〜25は本件発明1の具体例として説明され(同【0134】、粘着部の形状が本件明細書の【図4】に示す「略四角形(斜 )線)」のものである実施例22も本件発明1の範囲に含まれるものとして説明されている(同【0166】。なお、以上の記載については、本件特許出願の時点から )特段の補正ないし訂正がなされていない。
この点、原告は、審査段階において、令和元年6月25日付け拒絶理由通知書(乙1の2)に対し、同年8月26日付け手続補正書(乙1の3)及び同日付け意見書(乙1の4)を提出し、上記手続補正書で「略四角形状」という構成を導入して、
上記意見書で、明確性要件違反の指摘に対し、本件明細書の段落【0020】【0 、
027】【0124】等の記載及び「 、 [図1]〜[図5]の各図(上面図)の記載に示されておりますように、本発明では、2以上の粘着部や粘着部を有しない領域が同一平面上に存在いたします」と主張し、本件特許の特許査定がされた。また、原告は、異議事件の審理段階においても、本件発明1の「略四角形状」に関わる相違点αに係る指摘に対し、特段の主張や反論をしなかった(甲15、乙2の2・3)。
以上のような本件発明1の発明特定事項の記載、本件明細書の記載並びに本件特許の審査及び審理時の経緯を踏まえると、本件明細書の【図4】及び実施例22に記載された「略四角形状(斜線)」のパターンのものは、「流れ方向5cm及び幅方 向5cm」で区切ったときに、
「粘着部の形状」が「略四角形状」となるから、本件発明1に含まれると解さざるを得ない。
したがって、本件発明1の「接着部(B)」について島状のもののみを問題とする原告の前記主張は、その前提において誤りがある。
(イ) その上で、甲1の【図1】に示される「複数の帯状部分が波状のストライプパターンを呈する態様」のパターンの「波状」を「直線状」にした場合のパターンは、甲5の【図10】に示すような縞状構造であると自然に解されるところ、甲1の段落【0035】にいう「直線状の場合」について、
「感圧接着剤非配置部」の帯状部分と「感圧接着剤配置部」の帯状部分とが交互に配置したパターンを、所定の範囲を電子顕微鏡で観察する方法(本件明細書の段落【0158】)で観察した場合には、その「感圧接着剤配置部」の帯状部分の形状は「略四角形状」と認識され、
その個数はカウント可能であって、本件明細書の【図4】の「略四角形状(斜線)」のパターンに相当するといえる。このように、本件明細書の【図4】の「略四角形(斜線)」のものと、甲1の「直線状のパターン」のものとは、そのパターンが同じであるから、それらの気泡抜けのメカニズムが異なるとはいえない。
よって、本件発明1と甲1発明とが気泡抜けに関して全く異なる技術的思想に基づいているとの原告の主張は失当である。
(ウ) 甲1発明は、良好な接着特性を維持することが可能な「積層シート」に関するものであるところ、
「積層シート」に「感圧接着剤層」を部分的に配置した「感圧接着剤配置部」が存在しなければ、被着体への貼り付け自体が不可能になるから、
甲1発明において「感圧接着剤配置部」が消極的に設けられているにすぎないという原告の主張は誤りである。
(エ) 甲1の段落【0085】の記載にあるように、
「感圧接着剤配置部」の形状は、
「感圧接着剤非配置部」の形状と表裏一体の関係にある。
そして、同【0035】における「感圧接着剤非配置部」の各種パターンのバリエーションについての記載からすると、甲1に「感圧接着剤配置部」の形状を好適 化する動機付けがあることは明らかである。
この点、粘着層の気泡を逃すためのパターンとしては、例えば、乙3(発明者には甲1における発明者と同一人が含まれている。 の段落 ) 【0027】及び【図1】、
甲3の段落[0011]並びに[図6]及び[図3]、甲5の段落【0029】及び【図10】〜【図12】、甲6の段落【0036】及び【図3】、甲7の段落【0031】及び【図1】 甲11の段落 、 【0014】及び【図3】に示されるパターンが、
周知にして慣用であるといえることからすると、甲1の段落【0035】の「円弧波等の曲線状のものや、ジグザグ状、三角波等の非曲線状のもの」を「反転させる等して、重ねて形成されたもの」との表現にあるパターンは、下記の左図(甲3の[図6]や甲6の[図3]などに対応)のように、青の三角波を反転させて、赤の三角波としたものを、重ねて形成したものや、下記の中央図(甲3の[図3]や、
甲5の【図12】などに対応)のように、青の円弧波を反転させて、赤の円弧波としたものを、重ねて形成したものや、下記の右図(甲11の【図3】cなどに対応)のように、青の屈曲を繰り返す非曲線状のストライプ状パターンを反転させて、赤のジグザグ状パターンとしたものを、重ねて形成したものを意図して表現されていることが明らかである。
そうすると、所望の空気抜け性が得られることを前提とした甲1に記載のパターンとして、乙3や甲3、5〜7及び11に示される正方形や菱形などの略四角形状、
略円形状又は六角形状といった周知慣用の一般的なパターンを想見するのが普通である。
上記に関し、甲1発明の「感圧接着剤配置部の形状」を、島状の「略四角形状」のみで構成したとしても、
「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」が形成されなくなることはない(乙3の段落【0025】【0040】【図3】参照) 、 、 。
(オ) 原告は、甲1の「直線状」が本件明細書の「略四角形(斜線)」に該当するとの本件決定は、容易想到性を本件明細書の記載内容に基づいて判断しており、本件優先日前の公知技術に基づいて判断するものではないと主張するが、本件決定は、
甲1の「直線状」の場合の形状が、本件明細書の「略四角形状(斜線)」との記載にある「略四角形状」に該当すると判断したものであって、本件明細書の記載に基づいて容易想到性を判断したものではない。前記のとおり、本件発明1の発明特定事項には「略四角形状」との語がある一方で「島状」との語はないところ、本件明細書の「略四角形状(斜線)」は、「略四角形状」の一種であるから、当該「略四角形状(斜線)」が本件発明1の範囲に属さないとする原告の主張も誤りである。
また、原告は、甲1の段落【0035】の記載は、単に、複数の波状パターンを平面的に重ねて配置することを説明しているにすぎないと解するのが正しい理解であり、同段落の記載に基づいて、島状の「菱形」や「円形」の形状の感圧接着剤配置部が記載されているとはいえないと主張する。しかし、同段落の「形状やパターンを反転させる等して、重ねて形成されたもの」との記載にある「重ねて」というのは、乙3の段落【0026】に記載の「ストライプ状パターン」を「部分的に重な」るように形成する場合の「重なる」と同義であることが明らかである。そして、
甲1発明については「所望の空気等抜け性」が得られるように「ストライプ状のパターン」を形成することが求められるから(甲1の段落【0011】、
)「重ねて形成」した場合の「形状やパターン」については、空気抜け性が確保されるように形成されることが必須となるため、「斜方格子」や「正方格子」や「六角格子」(乙3の段落【0027】、
)「丸い島状」や「四角い島状」 (甲3の段落[0011])などのパターンを想定するのが合理的である。
イ 甲3、5〜7及び11(参考文献A)に係る原告の主張について (ア) 原告は、甲1発明の課題を上位概念化し、これに甲3、5〜7及び11を適用することは、解決課題や技術分野を不当に広く認定するものであって不当であると主張するが、甲1、3、5〜7及び11並びに乙3は、いずれも「粘着シート」の技術分野に属し、
「気泡抜け性」を良好にすることを課題とするものであり、このような技術分野と課題は、不当に上位概念化されたものではない。
また、
「略四角形状」等のパターンが周知ないし公知であることから、甲1発明と甲3、5〜7及び11を組み合わせることに問題はなく、周知慣用技術の枝葉末節に言及して論ずることこそ、不当な下位概念化であるといわざるを得ない。
(イ) 甲3、5〜7及び11について個別にみても、本件決定の判断に誤りはない。
a 甲3について 甲3の段落[0043]の記載からして、
「気泡の抜け易さ」が「付随的に生じる効果」と位置付けられていないことは明らかである。この点、甲3の[表1]に示された試験結果については、甲3の段落[0040]に評価基準が記載されており、
曖昧な評価であるとはいえない(本件明細書の段落【0155】における、定義ないし評価基準が不明な「膨らみ」を目視で評価するという評価方法の方がより曖昧である。。
) b 甲5について 甲5の段落【0007】及び【0017】に記載されているように、甲5の発明の課題は「空気溜りを生じない」ことにあり、甲1の段落【0004】に記載されているように、甲1発明の課題も「空気抜け性が得られる」ことにあるから、甲5の適用が甲1発明の課題解決に逆行することはない。
c 甲6について 甲6の発明は、島状のパターンの粘着剤を設ける周知慣用の従来技術において、
異物混入による弊害が生じることから、中央領域を取り囲む周辺領域の間隙部の密度を制限した発明であって、その中央領域においては、従来技術と同様に、正方形のほか、矩形、三角形、円形、楕円形等の島状パターンを適用できるとしたもので ある。したがって、甲6が粘着剤を島状のパターンに配置しないようにするものであるとの原告の主張は、甲6の記載内容を曲解したもので、甲1発明に甲6の中央領域で採用されている周知のパターンを適用することに困難はない。
d 甲7について 甲7の段落【0079】には、
「点状粘着剤」により「気泡による粘着製品の浮きや剥がれ、しわが生じることを抑制できる」ことが記載されているから、甲1発明に甲7を適用すると甲1発明の解決課題に逆行するとの原告の主張は、不合理である。
e 甲11について 甲11における気泡の抱き込みの確認が1回であろうが、複数回であろうが、格子状などのパターンを形成することで気泡の抱き込みの問題が解消されることは、
本件特許の優先日当時の技術水準において当業者に周知の技術常識にすぎない。したがって、そもそも具体的な実験で確認しなくとも、粘着シートに格子状パターンを形成すれば気泡の抱き込みの問題が解消されるであろうことを当業者は普通に理解できる(むしろ、不透明なアルミニウム板と不透明な厚さ100μmの発泡層の間に位置する、厚さ3μm程度の粘着部の形状を視認できるか否かで「外観の評価」をしている本件明細書の段落【0157】の試験方法の方が、その信憑性や信頼性に疑義がもたれるものである。。
) (2) 相違点βについて ア 原告は、甲1発明のような「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」の間に形成された「感圧接着剤配置部」は、5cm×5cmの領域を「延在」するから、5cm×5cmに含まれる個数を観念できず、それは本件明細書の実施例22について粘着部の個数を「-」 (カウント不能)としていることからも明らかであると主張する。しかし、電子顕微鏡で観察しても肉眼で観察しても、本件明細書の【図4】に示された「任意の範囲」にある「略四角形」の粘着部の数は、8個と数えることができる。したがって、本件明細書の実施例22の粘着部の個数を、上記任意の範 囲(5cm×5cm)を「電子顕微鏡で観察し数える」という本件明細書の段落【0158】に記載の方法で求めた場合に「カウント不能」になるとはいえず、甲1発明の「感圧接着剤配置部」についても同様である。
イ 本件明細書の段落【0157】では比較例1の「外観」の「評価結果」の欄が「-」となっていることの説明がなされているのに対して、本件明細書には、実施例22の「粘着部の個数」の欄が「-」になっている理由が明示されていないから、当該「-」が直ちに「カウント不能」を示していると解することはできない。
ウ また、本件明細書の段落【0163】 【表5】等における「粘着部(1個あたり)の面積[mm2]、
」「粘着部を有する領域の割合[%]」及び「粘着部の個数」という三つの変数については、
(粘着部1個当たりの面積)×(粘着部の個数)÷(50mm×50mm)×100=(粘着部を有する領域の割合)という関係が成り立つ。
そこで、実施例22の「粘着部の個数」については、その粘着部を有する領域の割合が95%、粘着部(b1)とそれに近接する粘着部(b2)との距離が0.1mmであることから、その粘着部(b)の幅は、0.1×100/5×0.95=1.9mmと計算され、5cm×5cmの正方形の単位面積当たりに、最小で50mm÷(1.9mm+0.1)=25個(甲5の【図10】や甲11の【図3】 (a)のようなパターンの場合)、最大で25個×1.414=35個(45°の斜行の場合)存在するものとして計算可能である。
エ 原告は、粘着部が所定領域を「延在」すると所定領域に含まれる個数を観念できないと主張するが、本件明細書の【図4】の「略四角形状(斜線)」の帯状パターンが、所定領域の周縁部で「延在」するのと同様に、同【図1】の「略ひし形」の島状パターンも所定領域の周縁部で「三角形」の形で「延在」し、同【図2】の「略円形状」及び同【図3】の「略六角形状」のパターンも、所定領域の周縁部で「半円形」や「台形」などの形を構成して「延在」しているところ、これら「延在」の場合を本件発明1の範囲外とするならば、本件発明1の定義に当てはまる「略四 角形状」等のパターンは皆無となる。したがって、原告の主張は失当である。
オ 原告は、感圧接着剤非配置部と感圧接着部のそれぞれの幅を組み合せた例を作為的に作出し、これに基づいて感圧接着部の個数を認定することに正当性はないと主張するが、本件発明1の「粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲」に存在する粘着部(B)の個数は、粘着部の配置構造や面積割合の数値に基づいて計算できるから、これと対比するために、甲1の所定の記載から「21.7個」という個数を算出し、甲3の所定の記載から「5600個」という個数を算出することには正当性がある。
カ したがって、相違点βについて容易想到であるとした本件決定の判断に誤りはない。
(3) 相違点γについて ア 甲1の段落【0071】には「室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(感圧接着剤)」を選択するという技術的思想が記載されており、甲1発明の「感圧接着剤配置部」を構成する「感圧接着剤」には、感圧接着剤としての性質(圧力により簡単に被着体に接着する性質=表面タック性)が求められることが理解できる。
そして、甲8の段落【0021】及び【0034】には、ガラス転移点が高すぎると、常温での柔軟性が失われ、粘着剤層の表面タックが低下する傾向にあり、粘着剤層の表面タックが大きすぎると、空気だまり部分の空気は追い出されずそのまま残ってしまうことから、特に好ましいガラス転移点の範囲は、他の物性の影響も受けて変動するが、およそ-50℃から5℃であることが記載されている。
そうすると、甲1発明の「感圧接着剤配置部」を構成する「感圧接着剤」に求められる「室温付近の温度域において柔らかい」という性質(常温での柔軟性)と「圧力により簡単に被着体に接着する」という性質(表面タック性)を満たすためには、
ガラス転移温度(tanδのピーク温度)が高すぎない範囲にある(5℃以下にある)ことが必要不可欠であると理解できる。
イ(ア) 甲2の段落【0043】 乙5の段落【0043】 、 、乙6の段落【0056】の各記載を踏まえると、甲1の段落【0005】の「貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止し、かつ良好な接着特性を維持することが可能な積層シートを提供する」との記載にある課題を解決するための技術に属する分野において、その粘着剤層(感圧接着剤配置部) 「動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度」 のの通常の値(好ましい範囲)が「-10℃〜5℃」程度であることは、本件特許の優先日当時の技術水準において、当業者に周知の技術常識であったといえる。
そして、上記の通常の値(好ましい範囲)は、粘着剤層それ自体に直結した値であって溝の有無に左右されるものではないから、甲1発明と同様の「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」 (溝)が、甲2及び8〜10にあるか否かは、その容易想到性を左右しない。
(イ) また、乙4(特開2016-89145号公報)の段落【0029】及び【0032】、乙5の段落【0054】及び【0043】、乙6の段落【0067】及び【0056】の記載によると、
「粘着部の厚さが1〜6μm」という構成と「tanδのピーク温度が-25℃〜5℃」という構成の組合せにより、気泡抜けと接着性の両立を図るとともに、外観の不良や、熱伝導性、耐熱性及び接着力等の性能低下をより効果的に防止できるという構成及び効果は、本件特許の優先日である平成28年12月20日当時の技術水準において、当業者に周知の技術常識になっていたといえる。
ウ したがって、相違点γについての本件決定の判断に誤りはない。
(4) 相違点δについて ア 前記(1)のとおり、「島状」という語は本件発明1の発明特定事項として記載されておらず、原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、また、
相違点αは容易想到であるから、相違点αが容易想到でないから相違点δも容易想到でないとの原告の主張もその前提に誤りがある。
そして、本件明細書の段落【0022】に記載されているように、本件発明1の 粘着部のパターンの範囲には、縦又は横に細長いパターン(略円形状の長径/短径の比などに4以上の差がある場合など)も含まれ、前記(1)のとおり、本件明細書の【図4】の「略四角形状(斜線)」も含まれるもので、甲1の「直線状」の場合のパターンなどをも広範に包含するから、本件発明と甲1発明とでは空気抜けの技術的思想が異なるとの原告の主張は失当である。
イ また、甲1の段落【0030】の記載や同【表2】の記載などから、甲1発明の「感圧接着剤非配置部」の幅を「0.1mm」程度にすることは、甲1それ自体の記載に基づいて容易である。
加えて、感圧接着剤非配置部の溝の幅が狭ければ狭いほど、溝が目立たず、外見品質の低下を防止できること(甲3の段落[0016]参照)は、目に見えて分かることであり、甲1に記載されているに等しい自明事項である ウ したがって、相違点δについての本件決定の判断に誤りはない。
(5) 相違点εについて ア 前記(1)のとおり、「島状」という語は本件発明1の発明特定事項として記載されておらず、原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、また、
相違点αは容易想到であるから、相違点αが容易想到でないから相違点εも容易想到でないとの原告の主張もその前提に誤りがある。
イ 甲1の段落【0088】の記載や同【表2】の記載などから、甲1発明の「感圧接着剤非配置部」の厚みを「2μm」程度にすることは、甲1それ自体の記載に基づいて容易である。
また、前記(3)イ(イ)のとおり、
「粘着部の厚さが1〜6μm」という構成と「tanδのピーク温度が-25℃〜5℃」という構成の組合せにより、気泡抜けと接着性の両立を図るとともに、外観の不良や、熱伝導性、耐熱性及び接着力等の性能低下をより効果的に防止できるという構成及び効果は、本件特許の優先日である平成28年12月20日当時の技術水準において、当業者に周知の技術常識になっていたといえる。
加えて、感圧接着剤層の厚みが薄ければ薄いほど、感圧接着剤層の存在が目立たず、外見品質の低下を防止できること(乙5の段落【0054】、乙6の段落【0067】、乙7の段落【0023】、甲3の段落[0017]参照)は、当該技術分野における技術常識であるから、甲1に記載されているに等しい自明事項である。
ウ 甲1には、シート状基材の厚みに合わせて感圧接着剤層の厚みを調整することが好ましいとする記載は見当たらない。また、甲1発明(甲1の例7)は、シート状基材が厚さ200μmの「PETフィルム/アクリル発泡体」からなるもので、
発泡体は不透明の性質を有するから、甲1の実施例のステンレス鋼板(不透明)に貼り付けた場合に、感圧接着剤層配置部の波形パターンを視認することは不可能である。それゆえ、甲1において、波形パターンを視認できることが、外観上有利であると考えられているとする原告の主張は失当である。
エ したがって、相違点εについての本件決定の判断に誤りはない。
(6) 本件発明1の効果について ア 本件明細書の段落【0159】【表1】〜【0165】【表7】には、実施例1〜30及び比較例1の試験結果が示されているが、唯一の比較例に対する比較結果が示されているにすぎないから、上記試験結果により、多数の発明特定事項によって特定される本件発明1の全ての範囲の構成について格別の効果があることが必要かつ十分に裏付けられているとはいえない。
イ(ア) 本件明細書の実施例と比較例との比較により本件発明1に格別の効果があることが裏付けられているか否かについて検討するに、実施例30と「粘着剤層をグラビアコーターで島状に設けたものから、ロールコーターを用いて全面に設けた以外は実施例30と同様に粘着テープを得た」ものである比較例1(本件明細書の段落【0143】)の評価結果では、三つの評価項目で異なる評価結果になっている以外は、同じ評価結果になっている。
しかるに、異なる評価結果のうち「粘着力(貼付後1時間)」の評価については、
同【0149】では試験片を「20mm幅」に切断したとしながら(比較例1につ いては20mm幅当たりの粘着力として記載されている。、実施例1〜30につい )ては「N/25mm」という25mm幅当たりの粘着力として記載されているという点で整合性がなく、その評価方法に関する記載には何らかの不備があることが明らかである。
上記の点をおくとしても、実施例30よりも比較例1の方が高い接着力を達成している。また、
「外観」の評価については、比較例1では粘着部の形状を視認できなかったことから「-」の評価とされ、実施例30でも粘着部の形状を視認できなかったことから「◎」の評価とされており、優劣を判断できない。
したがって、実施例30と比較例1の試験結果によっては、本件発明1のものが接着性や外観の点で優れているとは認識できない。
なお、本件明細書の実施例2〜29のものは、一部の構成を変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着テープを作製している(同【0124】〜【0127】)のに対して、実施例30及び比較例1のものは、実施例1と基本的に異なる方法で粘着テープを作製している(同【0139】〜【0142】)ので、比較例1の評価結果を実施例1〜29の評価結果と対比することに合理性はない。
(イ) 本件明細書の「気泡の抜けやすさ」の評価方法は、例えば、実施例では、試験片ごとに「厚み100μmの膨らみ(9mm2程度のもの)」10個の合計「90mm2程度」が観察されても「10」の評価となる一方、比較例では、試験片ごとに「厚み0.1μmの膨らみ(10mm2程度のもの)」1個のみの「10mm2程度」が観察されても「0」の評価となるので、客観的に正しいとはいえない。また、パネラーの人数が記載されていないことからすると、一人のみの実験が行われたと考えられる。したがって、上記のような記載しかない本件発明1の空気抜けの効果が、
甲1発明の空気抜け効果に比して格別優れているということはできない。
ウ また、本件明細書の発明の詳細な説明には、
「粘着部を有する領域の割合[%]」をどのように測定したのかが記載されておらず、実験方法が具体的に説明されているとはいえない。原告の主張のとおり、仮に実施例22の「粘着部の個数」が「カ ウント不能」であるならば、実施例22の「粘着部を有する領域の割合[%]」も測定不能となるはずであるが、本件明細書の【表5】では測定値が示されており、矛盾している。
エ さらに、次のとおり、本件明細書において、
「粘着部を有する領域の割合[%]」の計算値は、「略ひし形1」(実施例1等)で約90%、「略ひし形2」(実施例9)で約87%、
「略正方形」 (実施例19)で約91%と互いに異なるにもかかわらず、
実施例1等、実施例9及び実施例19の「粘着部を有する領域の割合[%]」はいずれも「90%」となっており、本件明細書の試験結果の信憑性には疑義がある。
(ア) 例えば、本件明細書の実施例1等の「略ひし形1」と、実施例9の「略ひし形2」と、実施例19の「略正方形」の場合、粘着部1個当たりの面積4mm 2、5cm×5cmの所定領域における粘着部の個数560個であることからすると、その所定領域に占める粘着部を有する領域の割合は、4×560÷(50×50)×100=89.6%となる。
(イ) これに対して、実施例19の「略正方形」の場合、面積が4mm 2の正方形の一辺が2mmであることからすると、これが0.1mmの間隔を開けて整列している場合の単位ユニット当たりの領域に占める粘着部を有する領域の割合は、{2÷(2+0.1) 2×100=90.7%と計算される。
} (ウ) また、実施例1等の「略ひし形1」は、本件明細書の段落【0166】の記載にあるように内角が60度と120度のひし形であって、一辺の長さxの正三角形が二つ合体した形状であり、ひし形を半分にした正三角形の面積Sは2mm2であり、三角形の面積の公式(S=1/2ABsinC)において、A=B=x、C=60°のものに等しく、x2=2×2/sin60°となり、その一辺の長さxは2.15mm〔=SQRT(4/SIN(RADIANS(60)))〕と計算され、同様に「略ひし形2」の一辺の長さは2.83mm〔=SQRT(4/SIN(RADIANS(30)))〕と計算される。
そして、二つの「略ひし形1」の粘着部b1とb2が0.1mmの距離で近接している場合、ひし形b1の内角60度の頂点と、ひし形b2の内角120度の頂点 との間の距離は0.12mm〔=0.1/SIN(RADIANS(60))〕と計算され、同様に略ひし形2の場合の距離は0.2mm〔=0.1/SIN(RADIANS(30))〕と計算される。
そうすると、実施例1等の「略ひし形1」の場合の単位ユニット当たりの領域に {2.15÷(2.15+0.12) 2×10占める粘着部を有する領域の割合は、 }0=89.7%と計算され、同様に「略ひし形2」の場合は87.2%〔=((2.83/(2.83+0.2))^2)*100〕と計算される。
オ 同様に、本件明細書の実施例23〜25の「略円形」の場合について、例えば、実施例24のものは、粘着部(1個当たり)の面積が0.1mm2であるから、
その円の半径rは0.178mm〔=SQRT(0.1/3.141592)〕と計算され、下記の図のような正三角形の繰り返し単位ユニットを想定すると、その単位ユニットの三角形(底辺=2r+b1とb2の距離)の面積(底辺×高さ÷2)は0.09mm 2〔=(0.178*2+0.1)^2*(SQRT(3)/2)÷2〕と計算され、単位ユニットの半円の面積は0.1÷2=0.05mm 2 となるので、粘着部を有する領域の割合は55.6%〔=0.05/0.09〕と計算され、本件明細書の【表5】の75%と整合しない。
カ 以上より、本件明細書中において、試験片の作成条件、実験の方法、条件、
評価の方法を具体的にかつ明確にした上で「気泡の抜けやすさの評価」を行っており、接着性に関しても2種類の実験により確認を行って優れた効果を確認しているとの原告の主張は、事実に反するものといわざるを得ない。
(7) まとめ 前記のとおり、本件発明1は、甲1〜3及び5〜10に記載された発明並びに甲11〜13(参考文献A〜C)に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に 発明をすることができたものであるから、原告の従属項に関する主張は前提に誤りがある。そして、本件発明3、4、6、8及び9も、甲1〜10に記載された発明及び甲11〜13に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3、4、6、8及び9が当業者にとって容易想到であるとした本件決定の判断に誤りはない。
2 取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について (1) 本件明細書の実施例2〜29では、一部の構成を変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着テープを作製している(本件明細書の段落【0124】〜【0127】)のに対し、実施例30及び比較例1では、実施例1と基本的に異なる方法で粘着テープを作製している(同【0139】〜【0142】)ので、比較例1の評価結果を、実施例1〜29の評価結果と対比することに合理性はない。
そして、本件明細書の実施例30と比較例1は、tanδのピーク温度が0℃である点及び粘着剤の厚さが3μmである点で共通し、本件発明1の他の構成についてはその物性等の条件を異にするものであって、比較例と実施例との間で、本件発明1に係るtanδのピーク温度以外の構成(以下、一括して「ピーク温度以外の構成」という。)の物性等の条件が揃えられているものではない。そして、ピーク温度以外の構成の物性等について、本件発明1の解決課題(本件明細書の段落【0006】)に関係した「気泡の抜けやすさ」や「外観」や「接着力」などの性能(効果)にみるべき影響を与えるものではないことや、影響を与えるがその条件を揃える必要がないことが記載されているわけでもない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された試験結果から、直ちに、
「損失正接のピーク温度」について規定される範囲と、得られる効果(性能)というべき「気泡の抜けやすさ」や「外観」や「接着力」などとの関係の技術的な意味を、当業者が理解できるとはいえない。
(2)ア 原告は、サポート要件への適合性にメカニズム(作用機序)の解明は必要ではないと主張するが、所定の各構成を有機的に組み合わせることが課題解決の手段とされる本件発明1において、所定の各構成を有機的に組み合わせた場合の効果 (性能)が本件特許の出願時の技術常識として当業者に知悉されていたといえる根拠は見当たらず、また、本件明細書の発明の詳細な説明には「損失正接のピーク温度」が0℃を超え5℃以下の範囲にある場合の試験結果の記載もないから、メカニズム(作用機序)の解明がされていなくても、当業者の技術常識及び本件発明の詳細な説明に基づいて本件発明の課題を解決できることを当業者が理解できるとはいえない。
なお、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された評価試験の方法について、本件明細書の段落【0149】の接着力の測定は、粘着テープを20mm幅に切断しているのに、同【表1】〜【表6】では「N/25mm」の単位での測定結果が示されており、正しく理解できない結果となっている。また、同【0157】には、
発泡層(一般に不透明)を有する粘着テープを、アルミニウム板(一般に不透明)に貼付し、蛍光灯下で、前記粘着テープの上面30cmの位置から観察したときに、
粘着部の形状を視認できるか否かを基準に「外観の評価」をしたことが記載されているところ、粘着部の形状がまったく視認できない「◎」と、一部をわずかに視認できる「○」と、明確に視認できる「×」の三段階評価について、その評価ポイントを1段階上げるにはどの程度その視認性が高まればよいのかをパネラー間で共通にする手順が踏まれたことや、各パネラーの個別の評点が記載されていないため、
当該「外観の評価」を客観的に正確に評価したものととらえることも困難である。
イ 原告は、当業者においては、粘着剤のtanδのピーク温度の範囲は、対象とする物に応じて適切に選択するであろうと理解すると主張するが、対象とする物に応じて粘着剤のtanδのピーク温度の好ましい範囲が変動するのであれば、本件発明1の「損失正接のピーク温度」の好ましい範囲については、例えば、ある対象物の場合に上限値が0℃で下限値が-20℃となり、別の対象物の場合に上限値が-5℃で下限値が-25℃に変動する場合を否定し得なくなる。
この点、各構成を有機的に組み合わせることにより課題を解決するという原告の主張によると、例えば、
「粘着部の個数」は下限値の10個と上限値の50000個 とで非常に大きな差があり、
「粘着部を有する割合」も下限値10%と上限値99%とで非常に大きな差があり、
「略四角形状」に当てはまる略「四角形」状の範囲についても「四角形」 (乙10)に示される凹四角形や双心四角形などの各種の広範な四角形までもが含まれ得るので、そのように広範囲に変動し得るピーク温度以外の構成によって、
「損失正接のピーク温度」の課題解決可能な数値範囲の下限値と上限値も変動すると解さざるを得ない。
したがって、当業者においては、tanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」であれば、接着性とエア抜け性の両立という課題の解決に寄与するであろうと理解するという原告の主張は、単なる憶測でしかなく、実験結果に裏付けられたものであることが明らかにされていない。
「損失正接のピーク温度が-25℃〜5℃」という変数が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して発明の詳細な説明が記載されておらず、そのような具体例の開示がなくとも当業者が理解できる程度に、その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が発明の詳細な説明に記載されているものでもないので、本件特許の出願時の技術常識参酌しても、
「-25℃〜5℃」の全ての範囲にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、サポート要件についての本件決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件明細書(甲17)には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば電子機器等の製造場面で使用可能な発泡体層を有する粘着テー プに関する。
【背景技術】 【0002】 粘着テープは、作業性に優れ、接着信頼性も高いことから、例えばOA機器や家電製品等の電子機器の製造場面で広く使用されている。
近年、電子機器、とりわけパソコン、デジタルビデオカメラ、電子手帳、携帯電話、PHS、スマートフォン、ゲーム機器、電子書籍等の携帯電子端末には小型化と薄型化とが求められており、これに伴って、前記携帯電子端末を構成する粘着テープ等にもまた、薄型化が求められている。
【0003】 また一般に上記のようなディスプレイ機器はディスプレイの割れやプーリング(液晶の濃淡の波打ち現象)を防止する目的で、クッション性のある発泡層を有する粘着テープがディスプレイ背面に貼付されていることが多い(特許文献1)。
【0004】 しかし、前記発泡層を有する粘着テープは非常に柔軟であるため、貼付時に気泡を巻き込み、シワになる場合が多かった。特に貼付時にプレス機で位置を合わせ、
後数分後にラミネートする場合に上記課題が顕著に発生していた。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明が解決しようとする課題は、被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、低コストで薄型の粘着テープを提供することである。
【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者等は、発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に 2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであることを特徴とする粘着テープによって前記課題を解決した。
【発明の効果】 【0008】 本発明の粘着テープは、被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存しにくく、かつ、薄型でありながらクッション性と接着力に優れる。そのため、本発明の粘着テープは、最終製品やその部品の生産効率を低下させることなく、ディスプレイの割れやプーリングを防止することができる。したがって、本発明の粘着テープは、例えばディスプレイ機器のディスプレイの非表示面側への接着に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】 【0010】 (粘着テープ) 本発明の粘着テープは、発泡体層(A) 樹脂フィルム層 、 (C) 樹脂フィルム 、 (C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであることを特徴とする。
【0011】 本発明の粘着テープの具体的な実施態様としては、発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する片面粘着テープ、
さらには発泡体層(A)側にも粘着剤層を有する両面粘着テープが挙げられる。また樹脂フィルム層と発泡層(A)の間又は、樹脂フィルム(C)と粘着部(B)の間には金属箔層等の中間層を設けても良い。
【0012】 前記2以上の粘着部(B)の間には、前記粘着部(B)を構成する成分が存在し ない、または、粘着性を奏しない程度に存在してもよい領域がある。そのため、本発明の粘着テープを側面方向から観察した場合には、前記樹脂フィルム(C)面に対して前記粘着部(B)が凸形状を形成していることが観察される。
【0013】 また、本発明の粘着テープは、前記2以上の粘着部(B)の間の粘着部(B)を有しない領域が、粘着テープの端部(外縁部)の一部に通じた構成を有する。前記構成を有する粘着テープを使用することによって、粘着テープを被着体へ貼付する際に、気泡が前記領域を通じて、粘着テープと被着体との界面から外部へ抜けるため、粘着テープの膨れ等に起因した外観不良を防止でき、かつ、優れたクッション性や接着力等を保持することができる。
【0014】 本発明の粘着テープとしては、総厚さ300μm以下であるものを使用することが好ましく、30μm〜250μmであるものを使用することがより好ましく、50μm〜200μmであるものを使用することがさらに好ましく、50μm〜100μmであるものを使用することが、例えば携帯電子端末等の薄型化に貢献するうえで特に好ましい。・・・ 【0017】 本発明の粘着テープとしては、薄型であっても被着体や発泡体層(A)の反発力等に起因した経時的な剥がれや部品の脱落等を防止でき、とりわけ比較的高温下で使用された場合であっても上記剥がれ等を防止するうえで、保持力が2mm以下であるものを使用することが好ましく、0.5mm以下であるものを使用することがより好ましく、0.1mm以下であるものを使用することがさらに好ましい。
【0019】 (粘着部B) まず、本発明の粘着テープを構成する粘着部(B)について説明する。
前記粘着部(B)は、前記樹脂フィルム(C)に、直接または他の層を介して設 けられる。前記2以上の粘着部(B)の間には、前記粘着部(B)を構成する成分が存在しない、または、粘着性を奏しない程度に存在してもよい領域がある。
前記粘着部(B)の厚みは特に限定されるものではないが、0.5〜30μmが好ましく、さらに好ましくは1〜10μmのものが好ましく、最も好ましくは2〜5μmである。
【0020】 また、前記2以上の粘着部(B)の間の粘着部(B)を有しない領域は、粘着テープの端部(外縁部)の一部に通じた構成を有する。前記構成を有する粘着テープを使用することによって、粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても、粘着テープを被着体へ貼付する際に、それらの界面から気泡を容易に除去することができるため、粘着テープの膨れ等に起因した外観不良を防止し、かつ、優れた熱伝導性(放熱性)や接着力等を保持することができる。
【0021】 前記粘着部(B)の形状は、本発明の粘着テープを、前記樹脂フィルム(C)の一方の面(a)側から観察した際に、略四角形状、略六角形状または略円形状等であることが好ましく、略円形状であることが、被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持できるため好ましい。
【0022】 略円形状は特に限定されるものではないが、任意の1つの粘着部の最大直径と最小直径との比〔最大直径/最小直径〕が1〜4であることが好ましい。さらに好ましくは1〜2であり、最も好ましくは1〜1.5である。略円形状の一例としては、
図5のような形状が挙げられる。前記形状の粘着部は、基本的にそれぞれ独立しているが、図5に示すように2以上の粘着部が部分的につながっている箇所があってもよい。
【0023】 前記略四角形状としては、略正方形、略長方形、略台形、略ひし形等の形状が挙 げられ、略ひし形状であることが、被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持できるため好ましい。
【0024】 なお、前記略四角形状及び略六角形状等の「略」は、例えば粘着部(B)の表面に離型ライナー等が貼付された際、または、粘着テープがロールに巻かれた際に、
前記粘着部(B)が押圧されることによって、四角形状及び六角形状の角部が丸みを帯びた形状や、直線部が曲線部となった形状を含むことを示す。
【0025】 前記略四角形状の角部は、粘着テープの流れ方向に向いた角部の角度が90°未満である略ひし形状であることが好ましく、45°〜70°の範囲であることが、
被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持できるためより好ましい。
【0026】 また、前記2以上の粘着部(B)を構成する任意の粘着部(b1)及び粘着部(b2)は、粘着テープの流れ方向及び幅方向に対して、正対していないことが好ましい。
【0027】 また、前記粘着テープは、用途等に応じて任意の形状に裁断され使用されることが多い。その際、前記粘着部(b1)及び粘着部(b2)が、流れ方向及び幅方向に対して正対していない配置であることによって、粘着テープを任意の位置で裁断した場合に、その端部の一部に粘着部(B)が存在することとなるため、粘着テープの剥がれを抑制することが可能となる。
【0028】 また、前記方法で測定された前記粘着部(b1)と前記支持体との接触領域(r1)の長径に対する、前記粘着部(b1)とその表面に貼付される剥離ライナーとの接触領域(r2)の長径との割合[接触領域(r2)の長径/接触領域(r1) の長径]×100は、97%〜110%であることが好ましく、97%〜105%の範囲であることが、被着体との界面からの気泡の抜けやすさと、より一層優れた接着性を両立するうえでより好ましい。
【0029】 本発明の粘着テープとしては、前記支持体の表面に設けられるすべての粘着部のうち、前記割合[接触面積(s2)/接触面積(s1)]×100の要件を満たす粘着部(b1)の占める割合が50%〜100%であるものを使用することが好ましく、80%〜100%であるものを使用することがより好ましく、90%〜100%であるものを使用することがさらに好ましく、95%〜100%であるものを使用することが本発明の効果を最大限に発揮するうえで特に好ましい。
【0030】 前記2以上の粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離は、0.5mm以下が好ましく、さらに好ましくは0.05mm〜0.2mmであり、より好ましくは0.06mm〜0.15mmであり、0.08mm〜0.13mmであることが、粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、
かつ、良好な接着力を保持できるため特に好ましい。
【0031】 前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)1個当たりの大きさは、
面積0.001mm 2〜100mm2であることが好ましく、0.01mm 2〜25mm2であることがより好ましく、0.015mm 2〜16mm2であることがさらに好ましく、0.02mm2〜5mm2であることが、粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、
良好な接着力を保持できるため特に好ましい。
【0032】 前記粘着部(B)は、本発明の粘着テープの面積(流れ方向5cm及び幅方向5 cmの正方形)の範囲に、10個〜1000000個存在することが好ましく、1000個〜50000個存在することがより好ましく、5000個〜40000個存在することが、粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持できるため特に好ましい。
【0033】 また、前記粘着テープとしては、貼付の際に被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、良好な接着力を保持でき、かつ、グラファイトシート等の被着体がより一層薄型化された場合であっても、粘着部の形状に起因した外観不良を効果的に防止する観点から、粘着テープの所定面積(流れ方向1cm及び幅方向1cmの正方形)の範囲に、120個〜2000個の粘着部を有するものを使用することが好ましく、280個〜1600個の粘着部を有するものを使用することがより好ましく、520個〜1200個の粘着部を有するものを使用することがさらに好ましい。
【0034】 なお、上記粘着部の数は、いずれも、粘着テープの任意の範囲(流れ方向1cm及び幅方向1cmの正方形)または(流れ方向5cm及び幅方向5cmの正方形)を電子顕微鏡で観察し数えることによって求めることができる。
【0035】 前記一方の面(a)の面積に占める、前記粘着部(B)を有する領域の割合は、
10%〜99%であることが好ましい。さらに好ましくは20%〜90%であり、
より好ましくは30%〜80%であり、最も好ましくは35%〜80%である。上記範囲にあることが後述する略円形状の粘着部を形成することができ、その結果、
粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持できる粘着テープを効率よく生産できるため特に好ましい。なお、上記領域の割合は、流れ方向5cm及び幅方向5 cmの正方形のテープの面積おける前記粘着部(B)の面積割合である。
【0036】 前記粘着部(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、-30℃〜20℃であることが好ましく、-20℃〜10℃であることがより好ましく、-10℃〜5℃であることが、被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性)、かつ、良好な接着力を保持でき、その結果、前記粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性(放熱性)や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。
【0037】 前記動的粘弾性測定では、粘弾性試験機(レオメトリックス社製、商品名:アレス2KSTD)を用い、同試験機の測定部である平行円盤の間に試験片を挟み込み、
周波数1Hzでの貯蔵弾性率(G')と損失弾性率(G")とを測定する。前記損失正接は、tanδ=(G")/(G')で表される式により算出される。上記ピーク温度は、測定温度領域(-50℃から150℃)に対するtanδのスペクトルで確認されたピーク温度を指す。
【0038】 前記試験片としては、前記粘着部(B)の形成に使用する粘着剤を用いて形成された、厚さ0.5mm〜2.5mmの粘着剤層を使用することができる。
【0039】 また、前記試験片としては、本発明の粘着テープを複数積層したもののうち、粘着剤層の合計厚さが0.5mm〜2.5mmであるものを使用することができる。
上記異なる構成の試験片を使用した場合、上記tanδの値は変化するものの、前記試験片中に占める前記粘着剤層(B)の合計厚さが同一である場合には、前記ピーク温度は実質変化しない。そのため、上記ピーク温度の測定では、いずれの試験片を使用してもよい。
【0042】 前記粘着部(B)としては、厚さ1μm〜6μmのものを使用することが好ましく、厚さ2μm〜5μmのものを使用することが、被着体と粘着部(B)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。・・・ 【0071】 (樹脂フィルム層(C)) 次に、本発明の粘着テープを構成する樹脂フィルム層(C)について説明する。
樹脂フィルム層(C)としては、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリウレタンフィルム等が使用できる。そのなかでも耐熱性、強度に優れ、低コストであるポリエチレンテレフタレートフィルムが最も好ましい。
樹脂フィルム層(C)の厚みとしては、1〜100μmのものが好ましい。更に好ましくは1.5〜50μmであり、1.5〜6μmのものが薄型でクッション性を低下させないため好ましい。
【0072】 (剥離ライナー(D)) 本発明の粘着テープは前記粘着部(B)と接する面に剥離ライナー(D)を有していてもよい。・・・ 【0073】 (発泡体層(A)) 本発明の粘着テープを構成する発泡体層(A)の厚みとしては、特に限定されるものではないが、好ましくは250μm以下、より好ましくは30μm〜200μm、さらに好ましくは50μm〜100μmの厚さのものを使用することができる。
前記範囲の厚さを有する発泡体層(A)を使用することによって、粘着テープを薄 型化できる。また、粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても、前記粘着部(B)を有する面と被着体との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や、クッション性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。
【0103】 本発明の粘着テープは、非常に薄型であっても優れた接着力とクッション性と貼付作業性(気泡抜け性)を有することから、例えば薄型化が求められている携帯電子端末等の電子機器の製造場面で好適に使用することができる。特に、ディスプレイの裏面に使用することで、ディスプレイ機器の割れやプーリングを防止でき且つ、
薄型化に貢献できる。
【0104】 また、前記粘着テープは、粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体と接着部(B)との界面から気泡が抜けやすく、また貼付性を向上させるための穴あけ加工が不要となるため、前記気泡の残存に起因した性能の低下が懸念されるディスプレイ裏面で好適に使用することができる。
実施例】 【0105】 以下に、この発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。
【0106】 (調製例1)粘着剤a n-ブチルアクリレート97.98質量部と、アクリル酸2質量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.02質量部とを、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、80℃で8時間溶液重合させることによって、重量平均分子量90万のアクリル重合体を得た。
【0107】 前記アクリル重合体100質量部に対して、「D-135」(荒川化学工業株式会 社製、重合ロジンエステル)5質量部と、「KE-100」(荒川化学工業株式会社製、不均化ロジンエステル)20質量部と、「FTR6100」(三井化学株式会社製、石油樹脂)25質量部とを混合し、さらに酢酸エチルを加えることによって固形分40質量%に調整された粘着剤溶液を得た。
【0108】 前記粘着剤溶液と、
「NC40」 (DIC株式会社製、イソシアネート架橋剤)2.0質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤aを得た。
前記粘着剤aを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は0℃であり、
そのゲル分率は40質量%であった。
【0109】 (調製例2)粘着剤b n-ブチルアクリレート97.98質量部と、アクリル酸2質量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.02質量部とを、アゾビスイソブチロニトリル0.3質量部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、90℃で6時間溶液重合させることによって、重量平均分子量50万のアクリル重合体を得た。
【0110】 前記アクリル重合体100質量部に対して、「D-135」(荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル)5質量部と「KE-100」 (荒川化学工業株式会社製、
不均化ロジンエステル)20質量部と、「FTR6100」(三井化学株式会社製、
石油樹脂)25質量部とを混合し、さらに酢酸エチルを加えることによって固形分40質量%に調整された粘着剤溶液を得た。
【0111】 前記粘着剤溶液と、
「NC40」 (DIC株式会社製、イソシアネート架橋剤)0.6質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤bを得た。
前記粘着剤bを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は0℃であり、
そのゲル分率は10質量%であった。
【0112】 (調製例3)粘着剤c n-ブチルアクリレート97.98質量部と、アクリル酸2質量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.02質量部とを、アゾビスイソブチロニトリル0.3質量部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、90℃で6時間溶液重合させることによって、重量平均分子量50万のアクリル重合体を得た。
【0113】 前記アクリル重合体100質量部に対し、「D-135」(荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル)5質量部と、
「KE-100」 (荒川化学工業株式会社製、
不均化ロジンエステル)20質量部と、「FTR6100」(三井化学株式会社製、
石油樹脂)25質量部とを混合し、さらに酢酸エチルを加えることによって固形分40質量%に調整された粘着剤溶液を得た。
【0114】 前記粘着剤溶液と、
「NC40」 (DIC株式会社製、イソシアネート架橋剤)3.3質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤cを得た。
前記粘着剤cを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は0℃であり、
そのゲル分率は46質量%であった。
【0115】 (調製例4)粘着剤d n-ブチルアクリレート97.98質量部と、アクリル酸2質量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.02質量部とを、アゾビスイソブチロニトリル0.3質量部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、90℃で6時間溶液重合させることによって、重量平均分子量50万のアクリル重合体を得た。
【0116】 前記アクリル重合体100質量部に対し、「D-135」(荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル)5質量部と、
「KE-100」 (荒川化学工業株式会社製、
不均化ロジンエステル)20質量部と、「FTR6100」(三井化学株式会社製、
石油樹脂)25質量部とを混合し、さらに酢酸エチルを加えることによって固形分40質量%に調整された粘着剤溶液を得た。
【0117】 前記粘着剤溶液と、「NC40」(DIC株式会社製、イソシアネート系架橋剤)1.2質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤dを得た。
前記粘着剤dを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は0℃であり、
そのゲル分率は20質量%であった。
【0118】 (調製例5)粘着剤e n-ブチルアクリレート96.4質量部と、アクリル酸3.5質量部と、4-ヒドロキシ-エチルアクリレート0.1質量部とを、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、80℃で8時間溶液重合させることによって、重量平均分子量80万のアクリル重合体を得た。
【0119】 前記アクリル重合体100質量部に対し、「D-135」(荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル)10質量部と、「A100」(不均化ロジンエステル、荒川化学工業株式会社製)10質量部とを混合し、さらに酢酸エチルを加えることによって固形分40質量%に調整された粘着剤溶液を得た。
【0120】 前記粘着剤溶液と、
「NC40」 (DIC株式会社製、イソシアネート架橋剤)1.3質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤eを得た。
前記粘着剤eを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は-15℃であり、そのゲル分率は40質量%であった。
【0121】 (調製例6)粘着剤f n-ブチルアクリレート44.9質量部と、2-エチルヘキシルアクリレート50質量部と、酢酸ビニル3質量部と、アクリル酸2質量部と、4-ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部とを、アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を重合開始剤として、酢酸エチル溶液中で、70℃で10時間溶液重合させることによって、重量平均分子量80万のアクリル重合体を得た。
【0122】 前記アクリル重合体100質量部に対し、「D-135」(荒川化学工業株式会社製、重合ロジンエステル)10質量部を混合し、さらに酢酸エチルを加えることによって固形分40質量%に調整された粘着剤溶液を得た。
【0123】 前記粘着剤溶液と、
「NC40」 (DIC株式会社製、イソシアネート架橋剤)1.3質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤fを得た。
前記粘着剤fを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は-25℃であり、そのゲル分率は40質量%であった。
【0124】 (実施例1) 「PET50×1J0」 (ニッパ株式会社製、50μmのポリステルフィルム(判決注:「ポリエステルフィルム」の誤記と認める。)の表面にシリコーン系剥離処理面を有する剥離ライナー)に、グラビアコーターを用いて、前記粘着剤aをドット印刷し、100℃で1分間乾燥させることによって、図1に示す略ひし形形状の厚さ2μmの島状の粘着部を得た。なお、前記粘着部のうち、任意の粘着部とそれに近接する粘着部との距離は、0.1mmであった。次に、2μmポリエステルフィルム(三菱樹脂株式会社製K100-2.0W)を重ねラミネーターで線圧3N/mmで貼付した。これを40℃で二日間養生し、ドット粘着フィルムを得た。次にこのドット粘着フィルムの2μmポリエステルフィルム上に下記方法にて発泡体層を設けた。
【0125】 三洋化成社製ポリエーテルポリオール「GP-3000」90質量部、三洋化成社製ポリエーテルポリオール「GP-600」10質量部、城北化学社製触媒「スタナスオクトエート」0.1質量部、製泡剤5質量部を混合撹拌し、混合物を調整した。その後、上記混合物と、イソシアネートインデックスが1となる配合量の日本ポリウレタン社製MDI「コロネート1130」とを、オークスミキサに配設されたチャンバーに投入した。そして、同時に、フォーム層の密度が300kg/m 3となるよう、窒素ガスを注入した。
【0126】 次いで、チャンバーにおいて、上記成分を撹拌し、泡化された気液混合物を調整した。そして、この気液混合物を、5m/分の速度で送出されたドット粘着フィルムの2μmポリエステルフィルム上に供給し、流涎する気液混合物の表面に、その上方側からドット粘着フィルムと同じ速度で剥離紙を供給し、ロールコーターにより、厚さ100μmに調整し、気液混合物からなる未硬化層を形成した。
【0127】 その後、ドット粘着フィルム、未硬化層及び剥離紙からなる積層物を、遠赤外線ヒーターにより160℃の過熱炉に入れ1分間過熱した。次いで積層物から剥離紙を剥離し、ドット粘着フィルムと発泡体層とが接合された粘着テープを得た。
【0128】 (実施例2〜13) 粘着部(B)の形状、面積及び粘着部(B)の厚さを、表1〜3に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを作製した。
【0129】 (実施例14) 粘着剤aの代わりに粘着剤bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0130】 (実施例15) 粘着剤aの代わりに粘着剤cを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0131】 (実施例16) 粘着剤aの代わりに粘着剤dを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0132】 (実施例17) 粘着剤aの代わりに粘着剤eを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0133】 (実施例18) 粘着剤aの代わりに粘着剤fを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0134】 (実施例19〜25) 粘着部(B)の形状、面積及び粘着部(B)の厚さを、表4及び5に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で粘着テープを作成した。また、実施例20で得た粘着テープの略円形状の粘着部を有する面を、光学顕微鏡を用い倍率200倍で観察した(図5)。
【0135】 (実施例26) フォーム層の厚みを100μmから50μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0136】 (実施例27) フォーム層の密度を300kg/m 3から200kg/m 3 に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0137】 (実施例28) 2μmのポリエステルフィルムを25μmのポリエステルフィルムに変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0138】 (実施例29) 「PET50×1J0」 (ニッパ株式会社製、50μmのポリステルフィルムの表面にシリコーン系剥離処理面を有する剥離ライナー)の代わりに、
「PET25×1J0」 (ニッパ株式会社製、25μmのポリステルフィルムの表面にシリコーン系剥離処理面を有する剥離ライナー)を用いた以外は実施例1と同様の方法で粘着テープを得た。
【0139】 (実施例30) 三洋化成社製ポリエーテルポリオール「GP-3000」90質量部、三洋化成社製ポリエーテルポリオール「GP-600」10質量部、城北化学社製触媒「スタナスオクトエート」0.1質量部、製泡剤5質量部を混合撹拌し、混合物を調整した。その後、上記混合物と、イソシアネートインデックスが1となる配合量の日本ポリウレタン社製MDI「コロネート1130」とを、オークスミキサに配設されたチャンバーに投入した。そして、同時に、フォーム層の密度が300kg/m 3となるよう、窒素ガスを注入した。
【0140】 次いで、チャンバーにおいて、上記成分を撹拌し、泡化された気液混合物を調整 した。そして、この気液混合物を、5m/分の速度で送出された東レ株式会社製「S10-25」25μmポリエステルフィルム上に供給し、流涎する気液混合物の表面に、その上方側から25μmのポリエステルフィルムと同じ速度で剥離紙を供給し、ロールコーターにより、厚さ100μmに調整し、気液混合物からなる未硬化層を形成した。
【0141】 その後、ポリエステルフィルム、未硬化層及び剥離紙からなる積層物を、遠赤外線ヒーターにより160℃の過熱炉に入れ1分間過熱した。次いで積層物から剥離紙を剥離し、ポリエステルフィルムとフォーム層とが接合されたものを得た。
【0142】 次に「PET50×1J0」 (ニッパ株式会社製、50μmのポリステルフィルムの表面にシリコーン系剥離処理面を有する剥離ライナー)に、グラビアコーターを用いて、前記粘着剤aをドット印刷し、100℃で1分間乾燥させることによって、
図1に示す略ひし形形状の厚さ2μmの島状の粘着部を得た。なお、前記粘着部のうち、任意の粘着部とそれに近接する粘着部との距離は、0.1mmであった。次に、上記ポリエステルフィルムとフォーム層とが接合されたもののポリエステルフィルム層を重ねラミネーターで線圧3N/mmで貼付した。これを40℃で二日間養生し、ドット粘着フィルムを得た。
【0143】 (比較例1) 粘着剤層をグラビアコーターで島状に設けたものから、ロールコーターを用いて全面に設けた以外は実施例30と同様に粘着テープを得た。
【0146】 (動的粘弾性の測定) 前記粘着剤a〜fを、それぞれ剥離ライナーの表面に、乾燥厚さ50μmとなるよう塗工し乾燥させることによって粘着剤層を形成し、40℃の環境下に2日間養 生した。前記養生後の粘着剤層を総厚さが2mmとなるまで重ねあわせたものを試験片とした。
【0147】 次に、粘弾性試験機(レオメトリックス社製、商品名:アレス2KSTD)を用い、直径7.9mmの平行円盤形の測定部に前記試験片を挟み込み、周波数1Hz、
昇温時間1℃/1分の条件で-50℃から150℃までの貯蔵弾性率(G')と損失弾性率(G")を測定した。損失正接tanδは、以下の計算式より算出した。
損失正接tanδ=G"/G' 【0148】 (粘着テープの総厚さの測定) 剥離ライナーを剥がした粘着テープの層厚さを尾崎製作所製厚み計FFG-6を用いて測定した。
【0149】 (接着力(貼付後1時間)の測定) 実施例及び比較例で得た粘着テープを20mm幅に切断し、その片側の粘着剤層を、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで裏打ちしたものを試験片とした。前記裏打ちは、表面が平滑な粘着剤層の表面に対して行い、本発明の構成要件である粘着部(B)に相当する粘着剤層に対して行わないようにした。
【0150】 前記試験片を、清潔で平滑なステンレス板の表面に貼付し、その上面で2kgローラーを1往復させることで加圧したものを、JISZ-0237に準じ、23℃及び50%RHの条件下で1時間放置した後、23℃及び50%RHの雰囲気下でテンシロン引張試験機を用いて、ピール粘着力(剥離方向:90°、引張速度:0.3m/min)を測定した。測定結果は、表の「接着力(貼付後1時間)」の欄に示した。
【0151】 (保持力の測定) 実施例及び比較例で得た粘着テープを20mm幅に切断し、その片側の粘着剤層を、厚さ50μmのアルミ箔で裏打ちしたものを試験片とした。前記裏打ちは、表面が平滑な粘着剤層の表面に対して行い、本発明の構成要件である粘着部(B)に相当する粘着剤層に対して行わないようにした。
【0152】 前記試験片を、清潔で平滑なステンレス板の表面に20mm×20mmの貼付面積となるように貼付し、その上面で2kgローラーを用いて1往復させることで加圧したものを、JISZ-0237に準じ、23℃及び50%RHの条件下で1時間放置した後、100℃の雰囲気下でせん断方向に100gの荷重をかけ、24時間後のテープのずれ距離を測定した。測定結果は、表の「保持力」の欄に示した。
【0153】 (気泡の抜けやすさの評価) 実施例及び比較例で得た粘着テープを縦50mm×横100mmに切断し、剥離ライナーを剥離し、23℃及び50%RH雰囲気下、前記粘着部の表面に縦70mm×横150mmのアルミ板を置き、アルミニウム板の上から5Nを荷重した状態で5秒放置することによって仮貼付物を得た。
【0154】 次に、前記仮貼付物を反転させた後、粘着テープ側の面から2kgローラーを1往復させることでそれらを加圧することによって積層体を得た。
【0155】 上記方法で前記積層体を10個作製した。粘着テープとアルミニウム板との間に気泡が存在するか否かを、粘着テープの膨らみ(10mm 2以上もの)を目視で観察することによって確認した。前記方法で気泡の存在を確認できなかった積層体の数に基づいて、前記気泡の抜けやすさを評価した。
【0156】 (発泡層のムラ評価) 得られた粘着テープの発泡層を蛍光灯下で、前記粘着テープの上面30cmの位置から観察したときに、ムラがあるか否かを評価した。
◎:ムラなし〇:僅かにムラあり ×:酷いムラあり 【0157】 (外観の評価) 粘着テープをアルミニウム板に貼付し、蛍光灯下で、前記粘着テープの上面30cmの位置から観察したときに、粘着部の形状(上記略ひし形状、略丸形状等)を視認できるか否かを基準に評価した。前記粘着部の形状がまったく視認できなかったものを「◎」、前記形状の一部をわずかに視認できたものを「○」、前記形状を明確に視認で来たものを「×」と評価した。なお、比較例1で示すように発泡体基材の全面に粘着剤を塗布し粘着剤層が形成されたものについては、粘着部が所定の形状を形成しておらず、したがってその形状を上記方法で視認できないことから、評価せず「-」とした。
【0158】 (粘着部の個数) 粘着部の個数は、粘着テープの任意の範囲(流れ方向5cm及び幅5cmの正方形)または(流れ方向1cm及び幅方向1cmの正方形)の範囲を電子顕微鏡で観察し数えることによって求めた。
【0159】【表1】【0160】【表2】 【0161】【表3】【0162】【表4】 【0163】【表5】【0164】【表6】 【0165】 【表7】 【0166】 表中の「略ひし形1」は、粘着テープの流れ方向に向いた角部の角度が60°(幅方向に向いた角部の角度が120°)であるひし形状の粘着部をさし(図1)「略 、
ひし形2」は、粘着テープの流れ方向に向いた角部の角度が30°(幅方向に向いた角部の角度が150°)であるひし形状の粘着部をさし、
「略正方形状」は、粘着テープの流れ方向に向いた角部の角度が90°(幅方向に向いた角部の角度が90°)である正方形状の粘着部を指し、
「略円形状」は図2に示す形状の粘着部を指し、「略六角形(斜線)」は図3に示す形状の粘着部を指し、「略四角形(斜線)」は図4に示す形状の粘着部を指す。
【0167】 実施例の粘着テープは何れも一方の面に独立した粘着剤層を複数個持つため、気泡の抜けやすさに優れる。さらに実施例粘着テープは薄型でありながら、発泡層のムラがなく、接着力、保持力にも優れている。一方、比較例の粘着テープでは粘着 層が島状ではなく全面に設けられているため、気泡の抜け道がなく、気泡の抜けやすさが著しく悪い。
イ 図面 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 (2) 本件発明の概要 前記第2の2の本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載及び前記(1)の本件明細書の記載からすると、本件発明について、次のとおり認められる。
ア 技術分野 本件発明は、例えば電子機器等の製造場面で使用可能な、発泡体層を有する粘着テープに関する。(本件明細書の段落【0001】) イ 本件発明の課題 粘着テープは、電子機器の製造場面で広く使用されており、近年、電子機器の携 帯電子端末に小型化と薄型化とが求められることに伴って、携帯電子端末を構成する粘着テープ等にもまた薄型化が求められている。また、一般にディスプレイ機器にはディスプレイの割れやプーリング(液晶の濃淡の波打ち現象)を防止する目的で、クッション性のある発泡層を有する粘着テープがディスプレイ背面に貼付されていることが多いが、発泡層を有する粘着テープは非常に柔軟であるため、貼付時に気泡を巻き込み、シワになる場合が多く、特に貼付時にプレス機で位置を合わせ、
後数分後にラミネートする場合に上記課題が顕著に発生していた。(同【0002】〜【0004】) 本件発明が解決しようとする課題は、被着体との界面から速やかに気泡が抜け、
前記界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着性・クッション性に優れ、
低コストで薄型の粘着テープを提供することである。(同【0006】) ウ 課題を解決するための手段 本件発明の粘着テープは、発泡体層(A)、樹脂フィルム層(C)、樹脂フィルム(C)側に2以上の粘着部(B)を有する粘着テープであって、前記2以上の粘着部(B)の間には粘着部(B)を有しない領域が存在し、前記領域が前記粘着テープの端部に通じたものであることを特徴とする。(同【0007】) エ 本件発明の効果 本件発明の粘着テープは、被着体との界面から速やかに気泡が抜け、前記界面に気泡が残存しにくく、かつ、薄型でありながらクッション性と接着力に優れるため、
最終製品やその部品の生産効率を低下させることなく、ディスプレイの割れやプーリングを防止することができるもので、例えばディスプレイ機器のディスプレイの非表示面側への接着に好適に使用することができる。 【0008】 (同 、
【0167】) 2 甲1発明について (1) 平成27年12月3日に公開された甲1は、発明の名称を「積層シート」とする特許出願に係るもので、甲1には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲 【請求項1】 接着性表面を有する長尺状の積層シートであって、
前記接着性表面を構成する感圧接着剤層と、該感圧接着剤層を支持する非通気性のシート状基材と、を備えており、
前記シート状基材の表面は、前記感圧接着剤層が部分的に配置されることによって、感圧接着剤配置部と、感圧接着剤非配置部と、を有しており、
前記感圧接着剤非配置部は、少なくとも1つの帯状部分を有しており、
前記帯状部分は、前記積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びている、積層シート。
【請求項2】 前記感圧接着剤配置部は、前記シート状基材の表面において、分離して配置された2以上の部分を有しており、
前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は、前記感圧接着剤配置部の2以上の部分のうち隣りあう2つの部分のあいだに位置している、請求項1に記載の積層シート。
【請求項11】 前記シート状基材は発泡体層を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層シート。
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 本発明は積層シートに関する。
【背景技術】 【0002】 各種物品の表面を保護する目的で、また、装飾など所望の外観を得る等の目的で、
接着性を有するシート類が広く用いられている。上記シート類は、例えば塗装に代替する機能を有するものとしても利用されており、取扱い性に優れることから、そ の用途は塗装代替に留まらず拡大している。この種の従来技術を開示する文献として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献2、3は、医療用の通気透湿性粘着テープに関する技術文献である。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 従来の接着性シートでは、該シートを被着体に貼り付けるときに、該シートと該被着体との間(以下、便宜的に接着面ともいう。)に空気や水分等の流動性異物が残り、この異物が気泡のような空気だまりや水分だまり等となって外観品質の低下を引き起こす場合がある。上記のような空気だまり等は接着力の低下など接着特性に影響を及ぼす点でも望ましくない。このような事象を回避することを目的として、
接着性シートの接着性表面を保護する剥離性ライナーの表面に凸条を形成し、該凸条を利用して該シートの接着性表面に溝を形成し、この溝から上記接着面に残ろうとする空気等を逃がす技術が知られている(例えば特許文献1参照)。しかし、上記の従来技術では、接着性表面を構成する粘弾性体を凹ませて溝を形成するため、溝の深さに限度があり、粘弾性体層の厚さや貼り付け方法等によっては、所望の空気抜け性が得られない虞がある。また、剥離ライナー表面に予め凸条を形成する必要があり、生産性の点でも不利である。さらに、シートの切断箇所等によっては、接着性表面の溝が感圧接着シートの端辺近傍で該端辺と平行し、これを原因として、
該端辺近傍の接着性が低下するような事象(例えば端部剥がれ等)が発生する虞がある。・・・ 【0005】 本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、貼り付け後の外観品質の低下を高度に防止し、かつ良好な接着特性を維持することが可能な積層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明によると、接着性表面を有する長尺状の積層シートが提供される。この積層シートは、前記接着性表面を構成する感圧接着剤層と、該感圧接着剤層を支持する非通気性のシート状基材と、を備える。また、前記シート状基材の表面は、前記感圧接着剤層が部分的に配置されることによって、感圧接着剤配置部と、感圧接着剤非配置部と、を有する。さらに、前記感圧接着剤非配置部は、少なくとも1つの帯状部分を有する。そして、前記帯状部分は、前記積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びている。
【0007】 上記の構成によると、接着性表面において感圧接着剤非配置部の帯状部分に相当する部分に溝(細長いくぼみ)が形成される。この溝を介して、被着体表面との接着面に留まろうとする空気や水分等の流動性異物は該接着面から除去され、上記接着面における空気だまり等の発生は防止される。また、上記接着性表面における溝の深さは感圧接着剤層の厚さと概ね一致するので、感圧接着剤層の表面を凹ませる手法よりも、溝の断面積を大きく設計することが可能である。したがって、上記接着面に空気等が留まることを原因とする外観品質の低下や、接着特性への影響が高いレベルで防止される。例えば、所定以上の接着力が要求される等の理由により上記溝の幅や数を増大することが制限される場合においても、空気等抜け性と接着力との両立を実現することができる。
【0009】 さらに、上記感圧接着剤非配置部の帯状部分は、積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びている。これにより、該帯状部分が積層シートの幅方向端辺近傍で該端辺と平行することを原因として、該端辺近傍の接着性が低下するような事象(例えば端部剥がれ等)の発生は防止される。
【0010】 ここに開示される積層シートの好ましい一態様では、前記感圧接着剤配置部は、
前記シート状基材の表面において、分離して配置された2以上の部分を有する。また、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は、前記感圧接着剤配置部の2以上の部分のうち隣りあう2つの部分のあいだに位置している。このように、複数の感圧接着剤配置部を分離して配置することで、空気等の通路となる溝を接着性表面に効率的に形成することができる。また、複数の感圧接着剤配置部を分離して配置することで、その上に複数の感圧接着部が分離配置される。これにより、曲面(典型的には三次元曲面)を有する被着体表面に対する追従性が向上する。
【0011】 ここに開示される積層シートの好ましい一態様では、前記シート状基材の表面において、前記感圧接着剤配置部および前記感圧接着剤非配置部はともに2以上の帯状部分を有する。また、前記感圧接着剤配置部の帯状部分と前記感圧接着剤非配置部の帯状部分とは交互に配置されている。このように構成することで、接着性表面に複数の溝が形成され、上記接着面に留まろうとする空気等と該溝との接触性が向上する。また、感圧接着剤層は、該感圧接着剤が存在する帯状の感圧接着部と該感圧接着剤が存在しない溝とが交互に配置されることにより、ストライプ状のパターンを呈し、所望の空気等抜け性を得つつ、外観が制御されている印象を見る者に与え得る。このことは、溝の形成による外観変化の違和感を解消、軽減するという効果をもたらし、上記積層シートの適用範囲を拡大し得る点で実用上有意義である。
【0013】 ここに開示される積層シートの好ましい一態様では、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分(少なくとも1つの帯状部分、好ましくは複数の帯状部分)は、前記シート状基材の表面において、規則的に繰返し折れ曲がりながら延びている。このように規則的に繰り返す構成とすることで、直線状や弧状の場合と比べて、接着面に留まろうとする空気等との接触性は向上する。また、上記規則的な繰返し形状を呈することで、所望の空気等抜け性を得つつ、パターンとして外観が制御されている印象を見る者に与える。
【0014】 ここに開示される積層シートの好ましい一態様では、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分(少なくとも1つの帯状部分、好ましくは複数の帯状部分)は、前記シート状基材の表面において、曲線状に延びている。このように構成することで、被着体への貼り付けがよりなめらかとなり、貼り付け性が向上する。また、積層シート端辺近傍で端部剥がれ等を引き起こすような配置がより確実に回避され得る。
【0015】 ここに開示される積層シートの好ましい一態様では、前記シート状基材は樹脂シート層を含む。シート状基材が樹脂シート層を含むことで、積層シートは適度なコシを有し、被着体への貼り付け性に優れる傾向がある。また、樹脂シート層を含むことは、薄厚化や外観向上等においても有利である。なお、上記貼り付け性は、貼り付け作業がしやすいことだけでなく、良好な貼り合わせ状態が実現されやすいことを包含する。例えば、被着体との接着面に空気等が実質的に認められないことは、
貼り直し作業等の負担低減や、貼り合わせがしっかりとなされている点で、優れた貼り付け性に通じる。
【0016】 ここに開示される積層シートの好ましい一態様では、前記シート状基材の厚さは、
100μm以下である。上記のようにシート状基材の厚さを制限することにより、
積層シートの薄膜化、小型化、軽量化、省資源化等が好適に実現される。また、上記のように薄厚の基材を用いても、空気だまり等の発生は好適に防止され、良好な貼り付け作業性が実現され得る。
【0018】 また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの積層シートと、該積層シートの接着性表面を保護する剥離ライナーと、を備える剥離ライナー付き積層シートが提供される。そして、この剥離ライナーの接着性表面側の表面は、平滑に形成されている。ここに開示される技術によると、剥離ライナーの表面に凹凸加工等の加 工を施すことなく、積層シートの接着性表面に空気等の通ることが可能な溝が形成され得るので、実用上有益である。
【発明を実施するための形態】 【0020】 以下、本発明の好適な実施形態を説明する。・・・ 【0021】 図1は積層シートの一実施形態を模式的に示す上面図であり、図2は図1のII-II線における断面図である。図面を参照しながら、この実施形態の積層シートについて説明する。
【0022】 図1、2に示すように、この実施形態に係る積層シート1は、非通気性のシート状基材10と感圧接着剤層20との積層構造を有する。シート状基材10は、感圧接着剤層20を支持している。この積層シート1において、感圧接着剤層20側の表面は接着性表面1Aを構成している。積層シート1の他方の表面(シート状基材10側の表面)1Bは非接着性の表面である。また、積層シート1は、長尺状のシートである。この実施形態では、図1の縦方向が積層シート1の長手方向である。
【0023】 感圧接着剤層20は、シート状基材10の表面10Aに部分的に配置されている。
これによって、シート状基材10の表面10Aは、感圧接着剤層20がその上に配置された感圧接着剤配置部15と、感圧接着剤層20が配置されていない感圧接着剤非配置部16と、を有する。
【0024】 感圧接着剤非配置部16は、長手方向に連続して延びる複数の帯状部分18a、
18b、18c、18dから構成されている。これら帯状部分18a、18b、18c、18dはそれぞれ、感圧接着剤配置部15に挟まれた状態で、積層シート1の幅方向に一定の間隔をおいて配置されている。これによって、感圧接着剤非配置 部16は、シート状基材表面10Aにおいて全体としてストライプ状のパターンを呈している。なお、この実施形態では、帯状部分18a、18b、18c、18dはいずれも、積層シート1の端部に到達している。
【0025】 感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18dは、それぞれ積層シート1の幅方向端辺WE1、WE2に交差する角度で延びている。具体的には、波状に延びている。そのため、感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、
18b、18c、18dのうち積層シート1の幅方向端辺WE1に接する帯状部分18aは、端辺WE1に交差する角度で端辺WE1に到達している。同様に、感圧接着剤非配置部16において積層シート1の幅方向端辺WE2に接する帯状部分18dは、端辺WE2に交差する角度で端辺WE2に到達している。また、感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18dは、積層シート1の長手方向の端辺LE1、LE2に対しても端辺LE1、LE2に交差する角度で延びており、端辺LE1、LE2に到達している。
【0026】 感圧接着剤配置部15も、複数の帯状部分17a、17b、17c、17d、17eから構成されている。これら帯状部分17a、17b、…、17eは、積層シート1の幅方向に一定の間隔をおいて配置されている。そして、感圧接着剤配置部15の複数の帯状部分17a、17b、…、17eのうち隣りあう2つの帯状部分(例えば17b、17c)のあいだには、感圧接着剤非配置部16の帯状部分(例えば18b)が位置している。また、シート状基材表面10Aにおいて、感圧接着剤配置部15の帯状部分17a、17b、17c、17d、17eと感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18dとは交互に配置されている。
そのため、感圧接着剤配置部15の帯状部分17a、17b、17c、17d、17eも、感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18dの形状に対応して、長手方向に連続して波状に延びている。このように、シート状基材 表面10Aには、感圧接着剤配置部15と感圧接着剤非配置部16との組合せによる波状のストライプパターンが形成されている。
【0027】 上記の構成は、接着性表面1Aを基準にすると次のように説明される。すなわち、
感圧接着剤層20は、複数の感圧接着部25a、25b、25c、25d、25eから構成されている。これら感圧接着部25a、25b、…、25eは、シート状基材表面10Aにおける感圧接着剤配置部15の帯状部分17a、17b、…、17eの上にそれぞれ配置されている。そのため、感圧接着部25a、25b、…、
25eは、接着性表面1Aにおいて、シート状基材表面10Aにおける感圧接着剤配置部15の帯状部分17a、17b、…、17eと同様の形状、パターン(具体的には、波形状、ストライプパターン)を呈している。
【0028】 また、シート状基材表面10Aにおける感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18d上には、複数の感圧接着部25a、25b、…、25eのうち隣りあう2つに挟まれるかたちで、溝26a、26b、26c、26dがそれぞれ形成されている。したがって、溝26a、26b、26c、26dは、接着性表面1Aにおいて、シート状基材表面10Aにおける感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18dと同様の形状、パターン(具体的には、
波形状、ストライプパターン)を呈している。また、感圧接着剤非配置部16の帯状部分18a、18b、18c、18dは、それぞれ溝26a、26b、26c、
26dの底部を構成しており、そのため、溝26a、26b、26c、26dの底部は平坦面となっている。なお、この実施形態では、溝26a、26b、26c、
26dの断面形状(溝の延長方向に直交する断面の形状)は、上方に開口したコの字状(矩形状ともいえる。 であるが、
) これに限定されず、台形状等であってもよい。
【0029】 上記のように、接着性表面1Aにおける感圧接着剤層20は、シート状基材表面 10Aと対応して、感圧接着剤が存在する部分(感圧接着部25a、25b、…、
25e)と存在しない部分(溝26a、26b、26c、26d)との組合せにより、波状のストライプパターンを呈している。
【0030】 感圧接着剤非配置部16の各帯状部分18a、18b、18c、18d(溝26a、26b、26c、26d)の幅は、所望の空気等抜け性と接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されないが、凡そ0.1〜5mm(好ましくは0.3〜3mm、より好ましくは0.5〜2mm)の範囲内とすることが適当である。 ・ ・ ・ 【0031】 感圧接着部25a、25b、…、25eの幅(各帯状部分17a、17b、…、
17eの幅でもあり得る。 は、
) 所望の空気等抜け性と接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されないが、1〜100mm(好ましくは2〜50mm、例えば3〜30mm)の範囲内とすることが適当である。・・・ 【0032】 感圧接着剤非配置部16の各帯状部分18a、18b、18c、18d(溝26a、26b、26c、26d)が規則的に繰返し折れ曲がりながら延びている場合(典型的には波形状を有する場合)には、空気等抜け性の観点から、その振幅は5〜200mm(好ましくは10〜150mm、より好ましくは40〜100mm)の範囲内とすることが適当である。なお、上記振幅とは、上記パターンの1本の溝(感圧接着剤非配置部)について、当該溝が延びる方向(典型的には積層シート1の長手方向)に直交する方向における、当該1本の溝が形成する波模様の山と谷との高低差(波高)を指すものとする。
【0033】 感圧接着剤非配置部16の各帯状部分18a、18b、18c、18d(溝26a、26b、26c、26d)が規則的に繰返し折れ曲がりながら延びている場合(典型的には波形状を有する場合)には、感圧接着剤非配置部16の各帯状部分1 8a、18b、18c、18d(溝26a、26b、26c、26d)の繰返しピッチ(以下、単に「ピッチ」ともいう。)は、所望の空気等抜け性と接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されないが、10〜500mm(好ましくは30〜300mm、より好ましくは60〜200mm)の範囲内とすることが適当である。なお、上記繰返しピッチは、典型的には波長であり、該波長とは、波が延びる方向における一のピークからその隣のピークまでの距離(波の上下方向に直交する方向(水平方向)における最短距離)を指すものとする。
【0034】 積層シート1は、使用前においては、シート状基材10の他面(感圧接着剤層20側の表面10Aの反対側の面)10Bが剥離面となっており、積層シート1を巻回することにより該他面10Bに感圧接着剤層20が当接して、接着性表面1Aがシート状基材10の他面10Bで保護された構成であり得る。あるいはまた、感圧接着剤層20が、少なくとも該接着性表面1A側が剥離面となっている剥離ライナー(図示せず)によって保護された構成を有する剥離ライナー付き積層シートであってもよい。
【0035】 ここに開示される技術は、上記実施形態のように、感圧接着剤非配置部の帯状部分がシート状基材の表面において規則的に繰返し折れ曲がりながら曲線状に延びる形状(典型的には波状)を有し、複数の帯状部分が波状のストライプパターンを呈する態様で好ましく実施され得る。上記の形状、パターンを有することによって、
積層シート端辺近傍における端部剥がれ等の発生が好適に防止され、なめらかで均一な貼り付け性が好適に得られる。波状の例としては、サインウェーブや疑似サインウェーブ、円弧波等の曲線状のものや、ジグザグ状、三角波等の非曲線状のものが挙げられる。波状パターンは、同形または異形の2種以上の波をそれらの位相をずらした状態で、あるいは形状やパターンを反転させる等して、重ねて形成されたものであってもよい。感圧接着剤非配置部の帯状部分の形状は、上記波状のほか、
例えば、弧状、円状、楕円状、直線状であってもよい。直線状の場合は、積層シートの長手方向に交差(例えば直交や斜交)する方向に延びるものであり得る。
【0038】 上記シート状基材としては、例えば、樹脂シート、紙、布、ゴムシート、発泡体シート、金属箔、これらの複合体や積層体等を用いることができる。なかでも、貼り付け性やシート外観性(例えばシート外面の見映え)の観点から、樹脂シート層を含むことが好ましい。樹脂シート層を含むことは、寸法安定性、厚さ精度、加工性、引張強度等の観点からも有利である。・・・ 【0039】 好ましい一態様では、シート状基材は、発泡体シートを備える基材(発泡体含有基材)である。これによって、積層シートに衝撃吸収機能が付与される。ここで発泡体シートとは、気泡(気泡構造)を有する部分を備えたシート状構造体をいう。
発泡体含有基材は、発泡体シートから構成された単層構造体であってもよく、2層以上の多層構造のうちの少なくとも1層が発泡体シート(発泡体層)で構成された多層構造体であってもよい。発泡体含有基材の構成例としては、発泡体シート(発泡体層)と非発泡体シート(非発泡体層)とが積層された複合基材が挙げられる。
非発泡体シート(非発泡体層)とは、発泡体とするための意図的な処理(例えば気泡導入処理)を行っていないシート状構造体をいい、気泡構造を実質的に有しないシートをいう。・・・ 【0065】 上記シート状基材(例えば樹脂シート)は、所望の意匠性や光学特性を付与するために、各種着色剤(例えば顔料)を含ませて黒色、白色その他の色に着色されていてもよい。黒色系着色剤としてはカーボンブラックが好ましい。また、シート状基材の少なくとも一方の表面(片面または両面)に印刷等により1層または2層以上の着色層(例えば黒色層や白色層)を積層する方法を採用してもよい。
【0069】 シート状基材の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。一般的には、上記厚さは、通常は1μm以上(例えば2〜500μm程度)とすることが適当であり、5〜500μm(例えば10〜200μm、典型的には15〜100μm)程度とすることが好ましい。シート状基材の厚さを制限することは、積層シートの薄膜化、小型化、軽量化、省資源化等の点で有利である。
【0070】 シート状基材が発泡体シートを含む場合、発泡体含有基材(例えば発泡体シート基材)の厚さは、積層シートの強度や柔軟性、使用目的等に応じて適宜設定することができる。衝撃吸収性等の観点からは、発泡体含有基材の厚さを30μm以上とすることが適当であり、好ましくは50μm以上、より好ましくは60μm以上(例えば80μm以上)である。積層シートの薄膜化、小型化、軽量化、省資源化等の観点から、通常は、発泡体含有基材の厚さを1mm以下とすることが適当である。
ここに開示される発泡体シートを使用することにより、上記厚さが350μm以下(より好ましくは250μm以下、例えば180μm以下)程度でも、優れた衝撃吸収機能を発揮することができる。なお、発泡体含有基材における発泡体シート(発泡体層であり得る。 の厚さも、
) 上述の発泡体含有基材の厚さとして例示した範囲から好ましく選定され得る。
【0071】 ここに開示される感圧接着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(感圧接着剤)から構成された層をいう。ここでいう感圧接着剤は、
「C.A.Dahlquist,“Adhesion : Fundamental and Practice”, McLaren & Sons, (1966)P.143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E * (1Hz)<10 7dyne/cm2を満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)である。
【0085】 ここに開示される感圧接着剤層は、シート状基材表面において感圧接着剤配置部と感圧接着剤非配置部とが所定の形状を有するように部分的に配置されるように形成すればよく、そのこと以外は特に限定されない。例えば、スクリーン印刷やコンピュータ制御による描画、掻取法、押出法等の方法を適宜採用して、積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びる溝を接着性表面に形成することにより、感圧接着剤層は部分的に配置され得る。
【0088】 ここに開示される感圧接着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、乾燥効率等の生産性や接着特性等の観点から、0.5〜200μm程度とすることが適当であり、2〜200μm(例えば5〜100μm、典型的には10〜50μm)程度とすることが好ましい。感圧接着剤層の厚さを制限することは、積層シートの薄膜化、小型化、軽量化、省資源化等の点で有利である。また、ここに開示される技術によると、厚さが制限された感圧接着剤層を有する構成においても、溝の深さは該感圧接着剤層の厚さと同等であるので、良好な空気等抜け性が得られる。ここに開示される技術が、基材の両面に感圧接着剤層を備える両面接着性シートの形態で実施される場合、各感圧接着剤層の厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0089】 上記の感圧接着剤層を備える積層シートの接着性表面は、感圧接着剤非配置部を設けているにもかかわらず、 5N/20mm以上 1. (例えば2N/20mm以上、
典型的には3N/20mm以上)の180度剥離強度を示し得る。このように、ここに開示される積層シートは、良好な空気等抜け性を維持しつつ、所定以上の接着力を発揮することができる。上記180度剥離強度は5N/20mm以上(例えば8N/20mm以上、典型的には10N/20mm以上)であることが好ましい。
なお、180度剥離強度は、下記の方法で測定すればよい。具体的には、積層シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットした測定サンプルにつき、23℃、
50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの接着性表面をステンレス鋼板(SUS304BA板)の表面に、2kgのローラを1往復させて圧着する。これを同環境下に30分間放置した後、万能引張圧縮試験機を使用して、JIS Z 0237:2000に準じて、引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で、剥離強度(N/20mm)を測定する。
【0092】 ここに開示される積層シート(感圧接着剤層と基材とを含むが、剥離ライナーは含まない。)の総厚さは特に限定されず、凡そ2〜1000μm(例えば5〜500μm、好適には10〜300μm、典型的には15〜100μm)の範囲とすることが適当である。総厚さが制限された積層シートは、該積層シートが適用される製品の小型化、軽量化、省資源化等の点で有利なものとなり得る。
【0095】 なお、本明細書における積層シートの概念には、積層構造を有する感圧接着シート、感圧接着テープ、感圧接着ラベル、感圧接着フィルム等と称され得るものが包含される。また、本明細書において「長尺状」は、典型的な帯形状を包含するだけでなく、例えば、後述の枠状や輪状のように長尺状部分が一周してつながったような形状も、長手方向の端部が連結している他は長尺状部分から構成されているといえるため、これを包含するものとする。・・・ 【0096】 また、上記実施形態では、感圧接着剤非配置部は、複数の帯状部分が所定の間隔をおいて積層シートの幅方向端辺に交差する角度で波状に延びており、これによって波状のストライプパターンに形成されていたが、ここに開示される技術はこれに限定されない。感圧接着剤非配置部の帯状部分は、例えば長手方向に対して斜行する直線や、弧状など、積層シートの幅方向端辺に交差する角度で延びていればよい。
これにより、接着性表面において該感圧接着剤非配置部の帯状部分上に形成された溝から、接着面に留まろうとする空気等は抜け得るので、上記接着面における空気 だまり等の発生は防止される。また、積層シートの幅方向端辺近傍における感圧接着剤非配置部の偏在を原因とする端部剥がれ等の発生は防止され、積層シートの接着性表面全体にわたって均一な接着特性が実現され得る。
【0097】 ここに開示される積層シートは、上述のように、被着体への貼り付け時において、
被着体との間に空気だまり等が発生することを高度に防止することができる。
・・・ 【0098】 また、積層シートと被着体との間には、貼り付け時だけでなく、貼り付け後、時間が経過するにつれて空気だまり等が発生する場合がある。典型的には、積層シートを貼り付けた後に、比較的高温(例えば35℃以上)環境下で保管、使用等された場合に、上述の空気だまり等が接着面に発生し、外観性の低下を引き起こし得る。
・・・ここに開示される技術によると、上記のような高温環境に曝される用途に用いられても、上記接着面における空気だまり等の発生を防止し、外観性の低下を長期間にわたって抑制することができる。
【0100】 また、ここに開示される積層シートは、薄厚に構成した場合であっても、貼り付け後の外観品質の低下を防ぎつつ、良好な接着特性を維持することが可能である。
したがって、薄厚化や軽量化が求められており、かつ省資源化が望ましい用途(例えば携帯電子機器用途)に好ましく適用され得る。具体的には、携帯電子機器(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノートパソコン等)の表面保護シート、上記携帯電子機器の液晶表示装置における接合固定用途、上記携帯電子機器の表示部を保護する保護パネル(レンズ)固定用途、携帯電話のキーモジュール部材固定用途等に好ましく適用され得る。・・・ 【0101】 以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」およ び「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0102】 <発泡体シート製造例1> ・・・アクリル系樹脂発泡体シートAを作製した。この発泡体シートAは、厚さ100μm、見掛け密度0.34g/cm3、気泡率65.7%、最大気泡径72.5μm、最小気泡径28.5μm、平均気泡径45μmの連続気泡構造を有する発泡体シートであり、その通気度は30秒/100mL以下である。
【0103】 <発泡体シート製造例2> ・・・長尺状の発泡体原反を得た。・・・ 【0104】 上記で得た発泡体原反を、・・・加工した。・・・両面が熱溶融処理されたポリプロピレン(PP)系樹脂発泡体シートBを作製した。この発泡体シートBは、厚さ100μm、見掛け密度0.12g/cm3、気泡率88%、最大気泡径90μm、
最小気泡径30μm、平均気泡径60μmの連続気泡構造を有する発泡体シートであり、その通気度は133秒/100mLである。
【0108】 [発泡体シートの圧縮荷重(硬さ)] 発泡体シートの50%圧縮荷重(硬さ)は、JIS K 6767:1999に準拠して測定した。具体的には、上記で得た発泡体シートA、Bをそれぞれ100mm×100mmに切り抜き、総厚さが2mm以上になるように積層し、これを測定サンプルとした。室温条件にて、圧縮試験機を用いて上記測定サンプルに対して10mm/分の速度で圧縮を行い、圧縮率が50%に達したところ(初期厚さに対して厚さが50%まで圧縮された時点)で、10秒保持した後の値(反発応力:N/cm2)を50%圧縮荷重として記録した。その他の条件(例えば治具や計算方法等)については、JIS K 6767:1999に準じた。結果を表1に示す。
【0109】 【表1】 【0110】 <実験例> (例1〜3) ・・・ 市販の剥離ライナーを用意し、上記剥離ライナーの剥離面に上記感圧接着剤組成物を、乾燥後の厚さが2μmとなるように塗付し、櫛状の掻き取り具を用いた掻取法を採用して感圧接着剤層に対して波状ストライプの部分的除去を行い、100℃で2分間乾燥させた。
厚さ2μmのPETフィルム基材(商品名「ルミラー」、東レ社製)を用意し、このPET基材のコロナ放電処理面に、剥離ライナー上に形成された感圧接着剤層を貼り合わせた。上記剥離ライナーは、そのまま感圧接着剤層上に残し、該感圧接着剤層の表面の保護に使用した。得られた構造体を80℃のラミネータ(0.3MPa、速度0.5m/分)に1回通過させた後、50℃のオーブン中で1日間エージングした。このようにして、図1、2に示すような波状ストライプの感圧接着剤非配置部(溝)パターンがPET基材の表面に形成された各例に係る積層シートを得た。各例に係る上記感圧接着剤非配置部パターンの溝の幅(mm)、溝の間隔(感圧接着部の幅)(mm)、振幅(mm)、ピッチ(mm)を表2に示す。
【0111】 (例4〜6) 感圧接着剤層の厚さ、PET基材の厚さを表2に示す内容に変更した他は例2と同様にして各例に係る積層シートを得た。
【0112】 (例7) 片面が剥離処理されたPETフィルム(厚さ38μm)に代えて例5で使用したPETフィルム(厚さ100μm)を用いた他は上記製造例1と同様の方法を採用して、該PETフィルム上にアクリル系発泡体層(厚さ100μm)を形成し、PET層と発泡体層との積層シート状基材を作製した。このシート状基材のPET層側表面にコロナ放電処理を施し、当該コロナ放電処理面に、例5と同様にして感圧接着剤層を貼り合わせ、本例に係る積層シートを得た。
【0116】 [空気抜け性の評価] 各例に係る積層シートにつき、被着体の平滑表面に貼り付けた際の空気抜け性を目視で観察した。積層シートと被着体との間に空気だまりが生じなかったものを「○」と評価し、接着面に空気だまりが認められたものを「×」と評価した。また、上記目視評価で「○」と評価されたものにつき、さらに空気抜け速度を次の4段階で評価した。結果を表2に示す。
A:評価サンプルのなかで最も速い空気抜け性を示した。
B:被着体への貼り付け後、接着面における空気はすぐに抜けた。
C:被着体への貼り付け後、接着面における空気は比較的ゆっくりと抜けた。
D:被着体への貼り付け後、空気は抜けたが、その抜け具合はかなり遅かった。
【0117】 【表2】 ウ 図面 【図1】 【図2】 (2) 前記(1)によると、甲1の例7に係る発明(特に甲1の段落【0010】【0 、
095】【0100】【0110】〜【0112】【0117】 、 、 、 【表2】【図1】参 、
照)として、前記第2の3(2)アのように本件決定が認定したとおりの次の甲1発明が認められる。
「アクリル系発泡体層を含むシート状基材(PETフィルム/アクリル発泡体)のPET層側表面において、分離して配置された2以上の部分を有する感圧接着剤配置部(幅40mm)と、前記感圧接着剤配置部のあいだに位置している感圧接着剤非配置部(幅1.0mm)とを有し、前記感圧接着剤非配置部の帯状部分は積層シートの端部に到達している波状パターンであり、剥離強度が5.0N/25mmで、気泡抜け性の評価が“○”の感圧接着剤層を有する、携帯電子機器(スマートフォン等)の液晶表示装置における接合固定用途等に好ましく適用され得る、その概念に感圧接着テープと称され得るものが包含される積層シート。」 (3) そして、本件発明1と前記(2)の甲1発明を対比すると、前記第2の3(2)イのように本件決定が認定したとおりの次の相違点が認められる。
(相違点α) 発泡体層(A)の一方の面(a)側から粘着部(B)を観察した際の前記粘着部(B)の形状が、本件発明1においては「略円形状、略四角形状または略六角形状」であるのに対して、甲1発明においては「波状パターン」である点。
(相違点β) 粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に、本件発明1においては「粘着部(B)が10個〜50000個存在」するのに対して、甲1発明においては個数が不明な点。
(相違点γ) 粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が、本件発明1においては「-25℃〜5℃」であるのに対して、
甲1発明においては損失正接のピーク温度が不明な点。
(相違点δ) 2以上の前記粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と、前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離が、本件発明1においては「0.05mm〜0.15mm」であるのに対して、甲1発明においては「感圧接着剤非配置 部」の幅が「1.0mm」である点。
(相違点ε) 粘着部(B)の厚さが、本件発明1においては「1〜6μm」であるのに対して、
甲1発明においては、甲1の段落0118の「表2…例7…感圧接着剤層…厚さ[μm]…20」との記載にあるように、具体的には「20μm」である点。
3 甲2〜13の記載事項 (1) 甲2(乙5)の記載事項 平成28年8月22日に公開された甲2(乙5)は、発明の名称を「粘着シート、
その製造方法及び電子機器」とする特許出願に係るもので、甲2(乙5)には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲 【請求項1】 支持体(A)の両面に直接または他の層を介して粘着剤層(B)を有する総厚さ12μm以下の粘着シートであって、
前記粘着剤層(B)のうち少なくとも一方の粘着剤層(b)の中心線平均表面粗さRaが0.1μm〜2μmであることを特徴とする粘着シート。
【請求項3】 前記支持体(A)の厚さが1μm〜4μmであり、かつ、粘着剤層(b)の厚さが1μm〜6μmである請求項1または請求項2に記載の粘着シート。
【請求項5】 前記粘着剤層(b)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が、-30℃〜20℃の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着シート。
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば携帯用電子機器のきょう体や部品等を接合する場面で好適に使用できる薄型の粘着シートに関する。
【背景技術】 【0002】 粘着シートは、作業性に優れ、接着信頼性の高い接合手段であるため、例えばOA機器や家電製品等の電子機器の製造場面で広く使用されている。
【0003】 前記電子機器には、近年、高機能化と小型化と薄型化とが求められており、特にパソコン、デジタルビデオカメラ、電子手帳、携帯電話、PHS、スマートフォン、
ゲーム機器、電子書籍等の携帯電子端末には、さらなる小型化や薄型化が求められている。そのため、前記携帯電子端末の製造場面では、主要構成部品の薄型化と共に、この部品の固定に使用する粘着シートにも、さらなる薄型化が求められている。
【0004】 前記薄型の粘着シートとしては、例えばアクリル系粘着剤を、芯材の両面に有する粘着シートであって、該芯材及び両面の粘着剤層を合わせた総厚さが30μm以下であり、両面の粘着剤層の厚さが2〜10μmである粘着シートが知られている(例えば、特許文献1参照。。
) 【0005】 しかし、前記粘着シートの薄型化がすすむなかで、前記薄型の粘着シートと被着体とを貼り合わせる際に、それらの界面に気泡が残存しやすく、その結果、粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や接着力等の性能低下を引き起こす場合があった。
【0006】 前記粘着シートを被着体に貼付する際の気泡の混入等を抑制する方法としては、
例えば粘着剤面に周縁部まで連通連続状に極細溝を網目状に形成して、多数の独立島部を形成し、さらに該独立島部の面積を0.25mm2から8.41mm2とし、
独立島部の高さを5〜20μmとし、且つ、上記極細溝の幅を0.1mm〜0.5mmに設定した粘着シートが開示されている(例えば、特許文献2参照。。
) 【0007】 しかし、前記粘着シートは比較的厚いため前記したような複雑な極細溝等を形成することができるものの、前記携帯電子機器の薄型化等に貢献しうる薄型粘着シートでは、前記したような極細で複雑形状な溝等を形成するが(判決注: 「形成するのが」の誤記と認める。)困難な場合があった。
【0008】 また、溝等が形成された薄型粘着シートは、一般に、圧着した際の接着性の点で十分でないため、粘着シートの剥がれ等を引き起こしやすいという課題があった。
【0009】 このように、薄型であっても、被着体と粘着剤層との界面に気泡が残存せず、かつ、優れた接着力とを備えた粘着シートの開発が求められているものの、それらを高いレベルで両立した粘着シートは、未だ見出されていなかった。
【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明が解決しようとする課題は、被着体との界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着力に優れた薄型の粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者等は、貼付の際に、被着体に接しうる粘着剤層の表面に所定の凹凸形状を有する粘着シートを使用することによって、上記課題を解決できることを見出した。
【0013】 すなわち、本発明は、支持体(A)の両面に直接または他の層を介して粘着剤層 (B)を有する総厚さ12μm以下の粘着シートであって、前記粘着剤層(B)のうち少なくとも一方の粘着剤層(b)の中心線平均表面粗さRaが0.1μm〜2μmであることを特徴とする粘着シートに関するものである。
【発明の効果】 【0014】 本発明の粘着シートは、非常に薄型で、被着体との界面に気泡が残存しにくく、
かつ、接着力に優れることから、例えば携帯電子端末等の電子機器を構成するきょう体と、充電池等の部品との接着に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】 【0016】 本発明の粘着シートは、支持体(A)の両面に直接または他の層を介して粘着剤層(B)を有する総厚さ12μm以下の粘着シートであって、前記粘着剤層(B)のうち少なくとも一方の粘着剤層(b)の中心線平均表面粗さRaが0.1μm〜2μmであることを特徴とする。
【0019】 本発明の粘着シートとしては、総厚さ12μm以下であるものを使用することが好ましく、2μm〜11μmであるものを使用することがより好ましく、3μm〜7μmであるものを使用することがさらに好ましく、3μm〜6μmであるものを使用することが、例えば携帯電子端末等の薄型化に貢献するうえで特に好ましい。・・・ 【0043】 前記粘着剤層(b)を含む粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、
-30℃〜20℃であることが好ましく、-20℃〜10℃であることがより好ましく、-10℃〜5℃であることが、前記粘着剤層(b)の中心線平均表面粗さRa等で表される表面形状が保持されやすいため表面粗さ等の経時的な変化を防止し やすく、被着体と粘着剤層(b)との界面から気泡を容易に除去することができ、
その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。
【0054】 前記粘着剤層(b)を含む粘着剤層(B)としては、それぞれ厚さ0.5μm〜6μmであるものを使用することが好ましく、1μm〜3μmであるものを使用することが、薄型であっても接着力の優れた粘着シートを得るうえでより好ましい。
特に前記粘着剤層(b) 厚さ1μm〜6μmのものを使用することが好ましく、
は、
厚さ1μm〜3μmのものを使用することが、被着体と粘着剤層(b)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。なお、前記粘着剤層(B)は、前記支持体(A)の各面に設けられる各粘着剤層が同一の厚さを有するものであってもよく、異なる厚さを有するものであってもよい。・・・ 【実施例】 【0126】 (調製例1)粘着剤A ・・・ 【0128】 前記粘着剤溶液と、「NC40」(DIC株式会社製、イソシアネート系架橋剤)2.0質量部とを混合し撹拌することによって、粘着剤Aを得た。
【0129】 前記粘着剤Aを用いて得られた粘着剤層のtanδのピーク温度は0℃であり、
そのゲル分率は40質量%であった。
(2) 甲3の記載事項 2016年(平成28年)7月14日に国際公開された甲3は、発明の名称を「粘 着テープ」とする特許出願に係るもので、甲3には、次の記載がある。
請求の範囲 [請求項1] 基材の両面に粘着剤層を有する粘着テープであって、前記粘着剤層のうち少なくとも片面の粘着剤層は粘着剤が存在する粘着剤部分と粘着剤が存在しない非粘着剤部分とが混在してなり、前記粘着剤層における粘着剤部分の面積の割合が40〜95%である、放熱シート又は磁性シートと被着体の間の貼り付けに使用される粘着テープ。
イ 明細書 (ア) 技術分野 [0001] 本発明は、放熱シート又は磁性シートと被着体の間の貼り付けに使用される粘着テープに関する。
(イ) 背景技術 [0002] 例えば携帯電話、スマートフォン等の電子機器においては、その樹脂製筐体に放熱シート(グラファイトシート)や磁性シート(フェライトシート)が貼着される場合がある。また、電子機器が大型になると、それに合わせて放熱シートや磁性シートも大型化される。そしてその貼着には両面粘着テープが使用される場合がある(特許文献1等)。さらに筐体以外の部材、例えば液晶ユニットや有機EL素子の裏等の近辺にある部材に放熱シートや磁性シートを貼着する為に両面粘着テープが使用される場合もある。また、例えば液晶ユニット裏や有機EL素子の裏に貼り付けるクッション材の固定の為に粘着テープが使用される場合もある。
[0003] しかし、筐体等の被着体の熱収縮により寸法変化が発生すると両面粘着テープ及び放熱シートや磁性シートにしわが発生し、外観が悪化する場合がある。また、このようなしわの発生に伴い、放熱シートや磁性シートの機能が低下する恐れもある。
(ウ) 発明の概要 a 発明が解決しようとする課題 [0005] 本発明の目的は、被着体の熱収縮により寸法変化が発生しても、
両面粘着テープ及び放熱シートや磁性シートのしわの発生を緩和できる粘着テープを提供することにある。
b 課題を解決するための手段 [0006] 本発明は、基材の両面に粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記粘着剤層のうち少なくとも片面の粘着剤層は粘着剤が存在する粘着剤部分と粘着剤が存在しない非粘着剤部分とが混在してなり、前記粘着剤層における粘着剤部分の面積の割合が40〜95%である、放熱シート又は磁性シートと被着体の間の貼り付けに使用される粘着テープである。
[0007] さらに本発明は、本発明の粘着テープの粘着剤層側と、放熱シート又は磁性シートとを貼り付けてなり、貼り付け後の粘着テープの粘着剤層に非粘着剤部分が残存している積層体である。
c 発明の効果 [0008] 本発明によれば、被着体の熱収縮により寸法変化が発生しても、
両面粘着テープ及び放熱シートや磁性シートのしわの発生を緩和することができる。
d 発明を実施するための形態 [0010] 図1は、本発明の粘着テープの一実施形態を示す模式的断面図である。この粘着テープは、基材3の両面に粘着剤層1及び2を有し、粘着剤層1は全面に粘着剤が存在する層であり、粘着剤層2は粘着剤が存在する粘着剤部分2aと粘着剤が存在しない非粘着剤部分2bとが混在してなる層である。・・・ [0011] 粘着剤部分2aと非粘着剤部分2bが混在するパターンは特に制限されない。例えば、図2に示すように、四角い島状の粘着剤部分2aが等間隔に縦列で規則正しく配列したパターンであっても良いし、図3に示すように、丸い島状の粘着剤部分2aが半分ずれた位置の横列で規則正しく配列したパターンであっても良いし、図4に示すように、縦筋状の粘着剤部分2aが等間隔に規則正しく配列したパターンであっても良いし、図5に示すように、四角い島状の粘着剤部分2 aが半分ずれた位置の縦列で規則正しく配列したパターンであっても良いし、図6に示すように、四角い島状の粘着剤部分2aが等間隔に斜め列で規則正しく配列したパターンであっても良いし、図7に示すように、四角い島状の粘着剤部分2aが半分ずれた位置の斜め列で規則正しく配列したパターンであっても良い。
[0012] 粘着剤部分2aは、図2〜図7に示すような島状又は筋状が好ましい。ただし、粘着剤部分2aは規則正しく配列したパターンに限定されず、ランダムに混在させたものでも構わない。四角状以外の形状としては、例えば三角状、
多角形状が挙げられるが、四角状が粘着剤部分2aの面積を一番効率的に確保でき、
かつ筋状の粘着剤部分と比較して縦横の等方性の点からも好ましい。筋状の形状は直線的に配列されるものに限定されず、例えば波線状でも折れ線状でも良い。
[0013] 粘着剤層2における粘着剤部分2aの面積の割合は40〜95%であり、好ましくは50〜95%である。このような割合で粘着剤部分2aと非粘着剤部分2bとが混在することにより、被着体の熱収縮により寸法変化が発生しても、両面粘着テープ及び放熱シートや磁性シートのしわの発生を緩和できる。その理由は必ずしも明らかではないが、非粘着剤部分2bが分散・点在することで、大きなしわが局所的に集中発生することが無くなり、全体的に分散されることも一因であろうと考えられる。粘着剤部分2aの面積の割合が95%を超えると、しわ発生の緩和効果が発現し難くなる。また、その割合が40%未満であると粘着力が低下してしまう傾向にある。
[0014] なお、粘着テープの貼り付けの際に混入する気泡が原因で部分的なふくらみが発生することがあるが、本発明の粘着テープは、非粘着剤部分2bから気泡を逃すこともできる。したがって本発明は、貼り合わせ時に混入する気泡を追い出し、均一に貼り合わせる事ができるという効果も奏する。
[0015] 粘着剤部分2aの幅は特に限定されないが、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下である。粘着剤部分2aの幅が適度に狭ければ、粘着剤部分2a中に気泡の混入(部分的なふくらみ)がより生じ難くなり、パターン 模様に起因する表面の凹凸がより少なく、放熱シート又は磁性シートと貼り合わせた際の外観がより平滑になる。
[0016] 隣り合う粘着剤部分2aの隙間(すなわち非粘着剤部分2bの幅)は特に限定されないが、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.3mmである。この隙間が0.01mm以上であれば、しわの発生をより効果的に緩和できる。またこの隙間が適度に狭ければ、非粘着剤部分2bのみにおける局所的なしわの発生をより緩和でき、外観の悪化や粘着力の低下をより防止できる。さらには、粘着テープの加工品(カット品)のエッジ部に非粘着剤部分2bが存在する確率が低くなるので、取り付け性がより安定する。
[0017] 粘着剤層1及び2の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.5〜7μmである。特に、放熱シート又は磁性シートと被着体の間の貼り付けに使用される粘着テープの粘着剤層は、このような薄い層であることが好ましい。また一般に粘着剤部分2aが薄い場合はしわが発生し易い傾向にあるので、本発明はこのような薄い粘着剤層を有する粘着テープにおいて特に有用である。また粘着剤部分2aが薄い場合は、テープの運搬時や各種シートの抜き加工時、貼り合わせ時に部分的にテープに圧力をかけても非粘着剤部分2bはつぶれにくいため、取り扱い性に優れ、安定して粘着剤の特性を活かす事ができる。さらに、非粘着剤部分2bも薄ければそこに空気が存在するにもかかわらず、放熱シートの熱伝導性を悪化させない。
[0021] 本発明の粘着テープは、放熱シート又は磁性シートと被着体との貼り付けに使用される。被着体の具体例としては、携帯電話、スマートフォン等の電子機器の筐体、並びに電子機器内部で熱や電磁波を発生する部材(例えば液晶ユニット、有機EL素子、CPU、集積回路、電池など)やその近辺の部材が挙げられる。さらに本発明の粘着テープは、放熱シートと磁性シートを積層する用途にも使用できる。この場合の粘着テープは、放熱シート及び磁性シートの一方と、被着体(放熱シート及び磁性シートの他の一方)との貼り付けに使用されるものである。
e 実施例 [0025] <実施例1> アクリル系粘着剤組成物100部に対し、アルミキレート系硬化剤の2.5%希釈溶液(川研ファインケミカル社製、商品名アルミキレートA(W))7部を添加し、
攪拌して粘着剤を調製した。この粘着剤を、離型処理した厚さ25μmのポリエステルフィルムの上に全面平滑に塗布し、加熱乾燥を行い厚さ1.0μmの粘着剤層1を形成した。そしてこの粘着剤層1を、厚さ2μmの基材(三菱樹脂社製ポリエステルフィルム、商品名K100-2.0W)の片面に転写した。
[0027] 次いで、40℃で3日間養生して総厚5μmの両面粘着テープを得た。粘着剤層2の四角い島状の粘着剤部分2aの一辺の長さは0.5mm、非粘着剤部分の幅は0.17mm、粘着剤部分の面積の割合は56%とした。
[0037] <評価> 実施例及び比較例で作製した両面粘着テープを、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
[0038] (耐たわみ性) 両面テープの粘着剤層1を厚さ25μmのグラファイトシートに2kgローラーで貼り合わせた。さらにグラファイトシートのもう一方の面に厚み5μmのポリエステルフィルム片面粘着テープ((株)寺岡製作所製、商品名633M 0.005黒)を貼り合わせた。次いで、粘着剤層2(比較例1はもう一方の粘着剤層1)を厚さ1.5mmのアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂板(ABS板)に2kgローラーで貼り合わせる事で90×40mmの大きさの試験片を作製した。この試験片を85℃雰囲気下で1時間加熱し、温度23±1℃、湿度50±5%の雰囲気下で1時間放置し、グラファイトシートとABS板との熱収縮率の違いにより発生するグラファイトシートのたわみによるしわの有無を観察し、以下の基準で評価した。
「○」:しわの発生無し 「×」:しわの発生有り [0040] (貼り合わせ後の気泡の抜け易さ) 100×100mmの両面テープの粘着剤層2(比較例1は粘着剤層1)を硝子板の上に気泡を抱き込むように貼り合わせ、2kgローラーを用いて抱き込んだ気泡を追い出せるかどうかを観察し、以下の基準で評価した。
「○」:気泡を追い出せる 「×」:気泡を追い出せない [0042][表1] [0043] 表1に示す通り、実施例1〜5は耐たわみ性、気泡の抜け易さ、
熱伝導性のいずれも良好な特性を有していた。一方、全面塗りで糊面の平滑な比較例1は耐たわみ性、貼り合わせ後の気泡の抜け易さが劣っていた。
[0044] なお、実施例1〜5の粘着テープの耐たわみ性の評価は全て「〇」(しわの発生無し)であるが、その張り付け後の外観を比較すると、実施例1では粘着剤部分2aの幅が特に狭いのでパターン模様に起因する表面の凹凸がより少なく、外観がより平滑になるという点で実施例2〜5よりもさらに優れていた。
・・・ ウ 図面 (3) 甲4の記載事項 平成11年10月26日に公開された甲4は、発明の名称を「粘着剤付きウレタンフォームとその製造方法」とする特許出願に係るもので、甲4の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、例えばシール材や緩衝材あるいは防音材等の用途に好適な粘着剤付きウレタンフォームとその製造方法に関する。
【0002】 【従来の技術】ウレタンフォームを各種機器等の貼付相手面に固定する手段として、いわゆる両面テープが用いられている。すなわち、りけい紙付きの両面テープを予めウレタンフォームにラミネートしておき、各種機器の貼付相手面にウレタンフォームを固定する際に前記りけい紙を剥がして両面テープの粘着剤を貼付相手面に貼付けるようにしている。
【0003】しかしながら両面テープは、薄い基材の表裏両面に粘着剤を塗工する必要があるなど製造に比較的手数がかかり、コストも高いなどの問題がある。また、施工後の貼り直しや使用後の除去を行なう際に、両面テープの粘着剤が貼付相手面に残ってしまうことがあった。
【0004】 【発明が解決しようとする課題】そこで本出願人は特開昭58-173179号公報に開示した粘着剤付発泡シート体を提案した。このものは粘着剤を塗工した非通液性の中間フィルム上で発泡体を発泡させたものであったが、発泡後の製品に皺が生じたりカール(湾曲)を生じるなどして寸法精度等が悪くなることから、寸法精度が要求される精密機器や電子機器には適用が難しかった。
【0005】従って本発明の目的は、両面テープを用いることなくポリウレタンフォームに粘着剤層を設けることができるとともに、皺やカールを防止でき、寸法 精度が向上する粘着剤付きウレタンフォームとその製造方法に提供することにある。
【0010】 【発明の実施の形態】以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。・・・ 【0020】以下にこの粘着剤付きウレタンフォーム10の製造方法について説明する。図3に示すように剥離ライナー14の一方の面に粘着剤13aを供給するとともに薄く延ばし、乾燥させることによって粘着剤層13を形成する。また、粘着剤層13の上にプラスチックフィルム12を積層することにより、剥離ライナー14で保護された片面粘着テープ15を作製する。なお、プラスチックフィルム12の上に粘着剤13aを供給したのち、粘着剤13aの上に剥離ライナー14を積層することにより、片面粘着テープ15を作製してもよい。
【0021】次に、図4に示すように前記片面粘着テープ15の剥離ライナー14を下に向けた姿勢で、プラスチックフィルム12の他面側に塗工装置20によってポリウレタン原液11aを所定の厚さに塗布する。塗工装置20としては、ナイフコーター(knife coater)21をはじめとして周知のスプレーコーター、ロールコーターなど、要するにウレタン原液11aを薄く均一に塗工できるものであればよい。
【0022】ウレタン原液11aを塗工後、室温ないし90℃で発泡を完了し、
室温ないし高温のオーブンにて前記温度(120℃以下)でキュアーを行なう。こうしてキュアーされたポリウレタンフォーム11は、発泡直後の寸法に比べて3%以内の収縮率で収縮しようとするが、前述のプラスチックフィルム12と剥離ライナー14の剛性によってポリウレタンフォーム11の見掛け上の収縮が抑制され、
皺やカールの発生が効果的に回避される。
(4) 甲5の記載事項 平成8年3月26日に公開された甲5は、発明の名称を「フレキソ版仮止め用密着シート」とする特許出願に係るもので、甲5には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、フレキソ版を版胴、キャリアシートまたはスリーブに密着仮止めするためのフレキソ版仮止め用密着シートに関するものである。
【0002】 【従来の技術】従来のフレキソ印刷において、フレキソ版を印刷機の版胴に装着する方法として、一般に次の2つの方法が挙げられる。
(イ)貼り込み校正機を用いてフレキソ版の位置合わせを行ない、印刷機の版胴に直にフレキソ版を貼り込む方法(ロ)ポリアミド、ポリエステル等からなるプラスチックシート(キャリアシートと呼ばれる)にあらかじめフレキソ版の貼り込み位置を記載し、その位置にフレキソ版を貼り込んだ後、そのキャリアシートをクランプ等によって版胴に装着する方法上記の(イ)の方法では、フレキソ版を貼り込む手段として両面粘着シートによる貼着が、また(ロ)の方法では、接着剤による接着や両面粘着シートによる貼着が用いられていた。
【0004】しかしながら、両面粘着シートでフレキソ版を貼り込んだ場合、フレキソ版と両面粘着シートとの貼着面、及び両面粘着シートと版胴またはキャリアシートとの貼着面に、空気の巻き込みが起きて空気溜りが生じやすくなり、厚み精度が出にくいという問題点があった。一般に、最初に貼着した面に空気溜りが生じた場合、両面粘着シートの反対面からピンを突き刺して、ピン孔から空気を除去することができるが、次いで反対面を貼着したときに空気溜りが生じた場合は、ピンを突き刺すことができず、貼り直して空気溜りを除去していた。また空気溜りが小さい場合は指で押しつぶして拡散していたが、一時的に拡散した空気は次第に粘着力の弱い部位に集中しやすく、印刷作業中に空気溜りとして存在することがあった。
【0005】また、空気溜りが生じたときや、位置を補正するときに行われる貼 り直し作業においては、版胴またはキャリアシートからフレキソ版を剥しにくいうえに、粘着剤が貼着面に残留することがあり、さらに残留した粘着剤を貼着面から剥がす作業が必要になるなどの問題点があった。
【0007】また、クッション性のある発泡体層を積層した厚手の両面粘着シートを用いて、フレキソ版をキャリアシートに貼り込む場合には、平面上でフレキソ版の貼り込み作業が行なわれるため、キャリアシートを版胴に装着した際に、フレキソ版とキャリアシートとの曲率半径に違いが生じ、キャリアシートにたるみが生じたり、フレキソ版が版胴の円周方向に引っ張られて微少な歪みを生じたり、発泡体層が屈折して空気溜りが生じたりするという問題点があった。また、発泡体層を積層した従来の両面粘着シートでは、粘着力が強いため引き剥し作業がしにくく、
版胴上で両面粘着シートを貼り直してキャリアシートのたるみ、フレキソ版の微少な歪み、発泡体の屈折による空気溜りを除去することができなかった。
【0009】上記の問題点を解決するための手段として、特開平4-331152号公報において提案された印刷版の固定シート100がある。該固定シートは、
図21に示すように、支持体101の両面に凸凹構造の粘着剤層102、104を有しており、貼着面に巻き込まれた空気の排気路103、105を設けたことを特徴とするものである。該固定シートでフレキソ版をキャリアシートに貼り込むと、
空気溜りは生じない。しかしながら、貼り直しを繰り返すことにより、粘着力は低下し、粘着剤表面が荒れてしまう。
【0017】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の技術の有するそのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フレキソ版を版胴、キャリアシートまたはスリーブに貼り込むときに、空気溜りを生じることがなく均一な厚みを保持している。また、適度のクッション性が得られる。また、フレキソ版を剥すときに無理な引き剥し力を加えることなく剥せ、フレキソ版や密着面が損傷することがない。さらに、位置合わせするときに作業性がよく、容易に貼り直しが できるフレキソ版仮止め用密着シートを提供しようとするものである。
【0018】 【課題を解決するための手段】請求項1に記載のフレキソ版仮止め用密着シートは、
(A)プラスチックフィルムからなる支持体(B)支持体の片面に設けられた、内部に多数の気泡があり、それらの気泡は近接する他の気泡及び/又は表面空間と微細導管で連続している発泡樹脂層(C)発泡樹脂層上の保護層(D)支持体の他面に設けられた粘着剤層、及び(E)粘着剤層上の剥離層からなる積層体であることを特徴とする。
【0020】請求項3に記載のフレキソ版仮止め用密着シートは、請求項1に記載の積層体において、粘着剤層が、粘着剤が塗布された凸部と、凸部より薄く塗布された、または全く塗布されない凹部とからなる粘着剤層であることを特徴とする。
【0029】請求項3に記載の支持体の他面に設けられた、粘着剤が塗布された凸部と、凸部より薄く塗布された、または全く塗布されない凹部とを有する粘着剤層には、ゴム系粘着剤または樹脂系粘着剤を用いることができる。粘着剤層は厚み20〜200μm 、ステンレス板に対する180゜引き剥し法による粘着力で400〜2500g/20mmであることが好ましい。粘着剤層の凸凹構造は、凸部と凹部とが交互にある、図10に示すような縞状構造、図11に示すような格子状構造、
または図12に示すような斑点状構造等で、凹部が継続的になっている。凹部は、
図8に示すように、粘着剤層の表面の一部を削り取った状態、すなわち凸部より薄く塗布された状態で形成してもよいし、図9に示すように、全く塗布されない状態で形成してもよい。また、粘着剤層の凸凹構造は、粘着剤をパターン塗布する方式、
または凸凹構造に対応する成形型に粘着剤を充填した後、その粘着剤を支持体に移着させる方式で形成できる。一般に、凸部の大きさは幅ないし直径に基づき1〜1 00mm、また凹部の幅は0.1〜5mmが好ましい。
イ 図面 【図8】 【図9】 【図10】 【図11】 【図12】 (5) 甲6の記載事項 平成21年10月22日に公開された甲6は、発明の名称を「粘着シート」とする特許出願に係るもので、甲6には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 基材の一方の主面に粘着層を備えた粘着シートは、例えば破れた紙の修復等に広く利用されている。また、粘着シートの基材として、彩色を施した透明フィルムや金属を蒸着等した金属箔を備えることによって、例えば化粧版として電子機器等の筐体表面に適用されている。
【背景技術】 【0002】 基材の一方の主面に粘着材を均一塗工した粘着シートを筐体表面に貼付すると、
粘着シートの基材と筐体表面との間に空気が入り込み、入り込んだ空気はふくれとして粘着シート表面に現れ、化粧版としての美観を著しく損なう。
【0003】 この課題の解決策として、特許文献1では、表面シート上に均一塗工した粘着材で構成した基本平坦面の上に散点状に独立した小凸部の粘着材を形成した粘着シートが提案されている。この粘着シートを被粘着物に貼付すると、小凸部の先端部が優先的に貼り付くため、表面シートと被粘着物との間に外部に連通する空間を形成することができるため、入り込んだ空気がふくれとなることを抑制できるとしている。
【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、特許文献1の構成の粘着シートを用いると、被粘着物に貼付する際に表面シートから押圧する力を極めて微妙に制御する必要があり、押圧力を少し強めただけで基本平坦面を形成する粘着材に被粘着物が貼り付く、及び/または表面シートを押圧する押圧手段からの熱等で小凸部が基本平坦面に埋没する等の原因で、小凸部本来の機能が発揮し得ず、貼付の際に結局空気が入り込み、空気ふくれを抑制することはできなかった。
【0005】 これは基本平坦面が小凸部と同じ材料の粘着材で構成されていることが主原因と考え、基材の一方の主面に小凸部に相当する突起状または列状の粘着材を印刷により粘設し、基材と被粘着物との間に空気道を備える改良した粘着シートを適用してみた。当該改良した粘着シートにより、粘着材と粘着材との間隙は粘着材を備えないため、空気道を確実に確保することができ、仮に貼付工程で基材と被粘着物との間に空気が入り込んだとしても、当該空気は空気道から押し出すことができ、空気ふくれは完全に解消することができた。
【0006】 しかしながら、上記改良した粘着シートを長期間使用すると、酸化性ガスまたは塩基性ガス等の反応性ガス成分や、汗、表面の汚れを落とす界面活性剤または飲み物等の液体成分などの異物が、ふくれを解消する空気道から粘着シートと被粘着物との間に入り込み、粘着材及び/または基材に施した色彩層や金属層の装飾物質等を劣化させ、粘着シートの剥離や当該異物が突起状または列状の粘着材周辺部に付着堆積し、それら付着堆積した汚れが基材を介して視認でき、粘着シート自体が持つ美観を損ない、例えば化粧板としての機能を損なう場合があった。
【0007】 そこで、本発明は係る従来の課題に鑑み、貼付時に入り込んだ空気がふくれを形成することがないと共に、経時変化も抑制できる粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0008】 上記課題を解決する本発明の粘着シートは、基材の一方の主面に粘着層を備えた粘着シートであって、前記基材上で間隙部を介して選択的に粘設した中央領域と、
前記中央領域を取り囲む周辺領域とを備え、前記中央領域の前記間隙部は前記周辺領域に連通し、前記周辺領域における間隙部の密度を前記中央領域における前記間隙部の密度未満の構成を有する。
【発明の効果】 【0009】 周辺領域における間隙部の密度を、中央領域における間隙部の密度未満とすることによって、粘着シートの貼付工程で空気が入り込んだとしても、中央領域から周辺領域に入り込んだ空気が移動し、周辺領域に移動した空気は貼付領域の外に押し出されるため、たまりを抑制できると共に、貼付領域の外からの反応性ガスや液体成分が貼付領域内部に進入することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 次に、図面を参照して本発明の最良の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態では電子機器等の外装を担う筐体表面に貼付する化粧粘着シートを例に挙げる。
【0012】 (実施の形態1) 図1に本発明の粘着シートにおける一実施形態の断面構成図を示す。同図において、1は粘着シート、2は間隙3を介して基材4にアクリル系粘着材を印刷により粘設した粘着層、8は粘着シート1を貼付した筐体である。本実施形態における基材4は、粘着材2の反対面を発泡処理により白色化した厚み15μmの発泡ポリプロピレン隠蔽層5、発泡ポリプロピレン隠蔽層5の発泡面にアルミニウム粉体を印刷した厚み15μmの印刷層6、印刷層6の上に厚み100μmのポリエチレンテレフタレートの保護層7を積層している。
【0013】 図1における粘着シート1を粘着層2側から見た平面図を図2に示す。同図に示すように、粘着層2は中央間隙部3aを介した中央粘着層2a(中央間隙部3aと中央粘着層2aとで中央領域を構成する)と、中央領域を取り囲み、外周間隙部3bを介した外周粘着層2b(外周間隙部3bと外周粘着層2bとで外周領域を構成 する)とからなり、外周領域における外周間隙部3bの密度は中央領域における中央間隙部3aの密度より低く構成される。
【0014】 本実施形態では中央間隙部3aの幅と外周間隙部3bとの幅は同一にし、粘着シート1の貼着領域の外に繋がる外周間隙部3bの本数を少なく構成している。具体的には、中央粘着層2aは一辺25mmの四角形、中央間隙部3a及び外周間隙部3bの幅は0.3mm(線幅密度比で8.5対1)、外周粘着層2bの最小幅Lは2mmとした。
【0015】 また、間隙部21を介して中央粘着層22と中央粘着層22の最外周を埋める三角形状の外周粘着層23とを備えた粘着シート20を比較例として用いた。すなわち、間隙部21は本実施形態における中央間隙部3aと同じ幅で、中央粘着層22は本実施形態における中央粘着層2aと同じ面積、中央粘着層22を取り囲む外周粘着層23は中央粘着層22の半分の面積を備え、粘着シート20の外周における間隙部21の密度は中央粘着層22と同一の構成で、不図示の基材4も粘着シート1と同じ構成である。
【0036】 なお、上記実施形態における中央粘着層の形状は正方形としたが、正方形に限定される矩形、三角形、円形、楕円形等あらゆる形状を適用することができる。また、
上記実施形態で説明した中央間隙部は全て外周領域に連設する構成として説明したが、複数の中央間隙部で閉空間を構成する形態でも適用することができることは、
実施形態3からも明らかである。さらに、上記実施形態では中央粘着層の最外周が外周粘着層と繋がった例で説明したが、例えば中央粘着層の構成が図3に示した構成の更に外周に間隙を介して、外周粘着層を備えても適用することができる。また、
上記実施形態では基材の一方の面のみに粘着層を備える構成で説明したが、基材の両面に備えるいわゆる両面接着シートに対しても、当然適用することができる。
【産業上の利用可能性】 【0037】 本発明の粘着シートは、貼付時に基材と被粘着物との間に入り込む空気に起因する空気ふくれの抑制、反応性ガスや反応性物質を含有する液体に対する耐性、及び高温高湿環境下での耐性等粘着シートに要請される各種特性に優れた効果を発揮するため、例えばカーオーディオやカーナビゲーション等の車載電子機器、例えばディジタルビデオカメラ、ディジタルスチルカメラ、形態電話(判決注:「携帯電話」の誤記と認める。、ノートパソコン等使用者の手が長時間触れる電子機器等に適用 )することができる。
【図面の簡単な説明】 【0038】 【図1】本発明の粘着シートに係る一実施形態の断面構成図 【図2】同粘着シートの要部平面図 【図3】比較例として適用した粘着シートの要部平面図 イ 図面 【図1】 【図2】 【図3】 (6) 甲7の記載事項 平成25年9月12日に公開された甲7は、発明の名称を「粘着製品」とする特許出願に係るもので、甲7には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【0001】 本発明は、粘着製品に関する。詳しくは、再剥離性に優れる粘着製品に関する。
【背景技術】 【0002】 従来より、様々な分野で粘着製品が用いられている。粘着製品では、被着体への貼付時に粘着部と被着体との間に空気が閉じ込められて、気泡により粘着製品の浮きや剥がれ、しわが生じて、粘着製品の外観や被着体に対する貼付性で問題を生じることがあった。このような問題に対して、基材上に2以上の点状粘着剤を有する、
いわゆるドットパターンの粘着面を有する粘着製品が提案されている。
【0003】 例えば、上記ドットパターンの粘着面を有する粘着製品として、粘着剤のドット 径が1.5mm未満であり、粘着剤層の厚みが25μm未満であり、面積率が0.7以上に設定され、必要十分な粘着力が確保された粘着製品が知られている(特許文献1参照)。
【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上記粘着製品は、粘着力が強く、被着体に貼付した後、被着体から簡単に剥がすことができず、また、被着体から剥がすときに被着体の損傷を生じることがあり、
再剥離性が求められる用途で使用することが難しい。
【0006】 従って、本発明の目的は、基材上に2以上の点状粘着剤を有し、再剥離性に優れる粘着製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、基材上に2以上の点状粘着剤を有する粘着製品の面積率を所定の範囲内とすると、良好な再剥離性が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、さらに検討を重ねて完成したものである。
【0008】 すなわち、本発明は、基材上に2以上の点状粘着剤を有し、下記で規定される面積率が10〜60%であることを特徴とする粘着製品を提供する。
面積率(%):基材の単位面積中の点状粘着剤が占める面積の割合 【0009】 上記粘着製品の隣接する点状粘着剤間の間隔は、0.5mm以上4.0mm未満であることが好ましい。
【発明の効果】 【0011】 本発明の粘着製品によれば、基材上に2以上の点状粘着剤を有し、面積率が所定の範囲内であるので、再剥離性に優れる。
【発明を実施するための形態】 【0013】 本発明の粘着製品は、基材上に2以上の点状粘着剤を有し、面積率(面積率(%) :基材の単位面積中の点状粘着剤が占める面積の割合)が10〜60%である粘着製品である。本発明の粘着製品は、粘着剤組成物により2以上の点状粘着剤を基材上に形成することにより作製される。本発明の粘着製品は、被着体に貼付することにより、被着体に点状粘着剤を転写することができる。なお、本明細書では、上記の面積率を、単に「面積率」と称する場合がある。本明細書において、粘着製品は、
粘着剤(感圧接着剤)により提供される粘着部(感圧接着部)を有する製品のことであり、特に限定されないが、例えば、粘着テープ、粘着シート、粘着フィルム、
粘着ラベル、これらの積層体、あるいはこれらの巻回体などが含まれる。
【0025】 (点状粘着剤) 本発明の粘着製品における点状粘着剤の大きさは、特に限定されないが、点状粘着剤ごとに、異なっていてもよいし、同じであってもよい。上記の点状粘着剤の大きさは、再剥離性や接着性等の特性を安定的に得る点より、実質的に同じであることが好ましい。
【0031】 上記点状粘着剤の形状は、特に限定されないが、例えば、円形状(例えば真円形状、楕円形状、半円形状、半楕円形状、1/4円形状、1/4楕円形状、扇形状など)、多角形状(例えば、三角形状、四角形状、五角形状、正方形状、長方形状、台形状、菱形状など)、舟形状、線形状、星形状、くさび形状、矢印状、櫛形状、蝶形状、不定形状などが挙げられる。なお、図1の粘着製品1の点状粘着剤12の形状は、円形状である。
【0076】 (粘着製品) 本発明の粘着製品は、上記粘着剤組成物を用いて、基材上に、2つの以上の点状の粘着剤組成物を設けた後、この点状の粘着剤組成物を硬化させて、上記基材の少なくとも一方の面に2つ以上の点状粘着剤を設けることにより作製される。例えば、
図1〜3の粘着製品は、基材11b上に上記粘着剤組成物により2つの以上の点状の粘着剤組成物を設けてから、この点状の粘着剤組成物を硬化させて点状粘着剤12を形成した後、点状粘着剤12を保護するように基材11aを点状粘着剤12上に設けることにより作製される。
【0079】 本発明の粘着製品は、基材上に層状の粘着剤ではなく、点状の粘着剤を有するので、被着体への貼付時に粘着製品と被着体との間に空気が閉じ込められることを抑制でき、気泡による粘着製品の浮きや剥がれ、しわが生じることを抑制できる。
イ 図面 【図1】 (7) 甲8の記載事項 平成22年3月18日に公開された甲8は、発明の名称を「粘着シート」とする特許出願に係るもので、甲8の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、被着体に貼り付ける際に、被着体と粘着シートとの間に空気溜りが生じにくい粘着シートに関する。
【背景技術】 【0002】 一般に、粘着シートは、基材と、その表面に形成された粘着剤層と、必要に応じてその上に設けられる剥離シートから構成されており、使用に際しては、剥離シートが設けられている場合には、該剥離シートを剥がし、粘着剤層を被着体に当接させて貼付することが行われている。
【0003】 しかしながら、識別・装飾用粘着シート、塗装マスキング用貼着シート、マーキングシート、金属板等の表面保護用貼着シート等、貼着シートの面積がある程度広い場合には、貼着剤層と被着体との間に空気の溜まりが生じやすく、その部分が膨れとなって、貼着シートを被着体にきれいに貼付できにくいという問題がある。
【0004】 この問題を解決するために、粘着剤層面に空気の流通経路を設け、粘着シートの貼付時に、空気をこの流通経路を介して逃がし、空気の溜まりが生じないようにすることが種々試みられている。例えば独立した多数の小凸部を散点状に配置した粘着剤層を有する粘着加工シート(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、粘着面に空気の流通経路を有する易貼付性粘着シート(例えば、特許文献3参照)、複数の凸部と、隣接する凸部間に溝部を形成した粘着剤層を有する粘着シート(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。
【0005】 これらの粘着シートは、貼付する際、空気が抜けやすく、被着体に容易に貼付することができるとされているが、貼付する際の空気の抱き込みについてはさらなる 改善が求められている。特に大面積の被着体への貼付の際の空気の抱き込みを改善することが求められている。
【0006】 また、上記粘着シートは、複雑な構造を持つため、複雑な表面形状加工を施すことなく、被着体への貼付の際に空気の抱き込みを抑えることができる粘着シートが求められている。
【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、
複雑な表面形状加工を施すことなく、被着体への貼付の際の空気の抱き込みを大幅に抑えて粘着シートの粘着剤層と被着体との接触面積を増大させ、さらに、大面積の被着体へ貼付する際にも空気の抱き込みが少ない粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、粘着シートの粘着剤層に含まれる材料により、粘着剤層のタック、柔軟性等を調整することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。・・・ 【発明の効果】 【0012】 本発明の粘着シートであっても被着体への貼付直後には空気の抱き込みが生じる。
この空気の抱き込みにより、粘着剤層と被着体との間には空気が入り込み空気溜まりになる。空気溜まり部分において、粘着剤層と被着体との間には空気が存在し、
粘着剤層と被着体とは接していないが、本発明の粘着剤層は、柔軟性、タック等の粘着剤層の物性を調整しているため、空気溜まり部分の粘着剤層が被着体へ接触し ていく。この接触により空気溜まりを粘着シートの周縁部へ追いやり、最後には、
この粘着剤層の特殊な性質により、粘着シートの周縁部から空気が追い出される。
その結果、粘着剤層と被着体との接触面積が大幅に増加するので、空気溜まりを大幅に抑えることができる。粘着剤層の変形により粘着剤層が自ら被着体へ貼り付く性質を利用して空気溜りの空気を追い出すため、大面積の被着体であっても容易に空気を抜くことができる。
【0013】 本発明の粘着シートは、上記の通り粘着剤層に用いる材料や配合に特徴があるため、複雑な表面形状加工を施すことなく、空気の抱きこみを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】 【0014】 以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する・・・。
【0015】 本発明の粘着シートは、粘着剤層の柔軟性、タック等を調整した点に特徴がある。
本発明は、粘着剤層の柔軟性、タック等の物性を調整することにより、上述のような、空気溜まり部分での空気の追い出しの効果が得られる。物性の調整は様々な要素が複雑に絡み合っているが、粘着剤層が、エステル部分に炭素数が12以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーに由来する繰り返し単位を含むアクリル系樹脂と、ガラス転移点が0℃以下のアクリルオリゴマーと、を含むことで、
本発明の粘着シートの粘着剤層は、本発明の効果が得られるような物性に調整される。・・・ 【0016】 <粘着剤層> 本発明の粘着剤層は、エステル部分に炭素数が12以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーに由来する繰り返し単位を含むアクリル系樹脂と、ガラス転移点が0℃以下のオリゴマーと、を含む。
【0021】 [アクリルオリゴマー] 本発明において粘着剤層に含まれるアクリルオリゴマーは、ガラス転移点が0℃以下である。ガラス転移点が0℃以下のアクリルオリゴマーを粘着剤層に含むことで、粘着剤層が柔軟になる等して、他の物性との組み合わせで本発明の効果を発現する粘着剤層を実現することができる。なお、ガラス転移点は、後述する方法で測定したガラス転移点を採用する。
【0022】 本発明に使用可能なアクリルオリゴマーは、ガラス転移点が0℃以下であれば特に限定されないが、例えばウレタン、ポリエステル、エーテル等の骨格が含まれるアクリルオリゴマーが使用可能である。
【0030】 上記の通り、本発明の効果を発現する粘着剤層の実現には、粘着剤層の様々な物性が関係する。それらの物性の中でも、特に粘着剤層の表面のタックと柔軟性が重要な物性である。
【0031】 粘着剤層の表面のタックとは、粘着剤層の表面のべたつきのことであり、このべたつきが、粘着剤層の被着体へのなじみやすさに大きく影響する。このなじみやすさが調整されることで、空気溜まり部分において、粘着剤層が空気を押しのけ被着体へなじむように貼り付く。粘着剤層の表面タックが大きすぎると、最初に被着体に接触した部分のみが貼り付き、空気溜まりの部分の空気は追い出されずそのまま残ってしまう。一方、粘着剤層の表面タックが小さ過ぎると、充分な濡れが生じず、
粘着剤層が被着体になじみにくくなり、本発明の効果が得られなくなる。
【0032】 粘着剤層の柔軟性は、粘着剤層の変形のしやすさであり、この粘着剤層の柔軟性が、空気溜まり部分において、粘着剤層が空気を押しのけて被着体へ貼り付いてい く際の粘着剤層の変形に大きく影響する。この柔軟性を調整することで、粘着剤層は、空気溜まり部分において、スムーズに変形し空気を押しのけ被着体と貼り付いていき、空気を粘着剤層と被着体との間から追い出すことで粘着剤層と被着体との接触面積を広げることができる。粘着剤層が柔らか過ぎると、粘着剤層に凝集力がなく被着体と粘着剤層との間に充分な密着性が得られなくなる。一方、粘着剤層が硬過ぎると、粘着剤層は変形しづらいので、上記のような空気溜まり部分において見られる粘着剤層の被着体への貼り付きが困難になり、粘着剤層と被着体との接触面積を広げることができない。
【0033】 本発明は、材料選択により粘着剤層の多数の物性が調整されることで、粘着剤層に特殊な性質を付与するものであるため、各物性値の好ましい範囲を容易に決めることはできないが、本発明の効果をより高めるためには、進入速度30mm/min、加圧力5kN/m2、加圧時間2秒、引き離し速度30mm/min、温度25℃における5.0mmΦプローブ測定による粘着剤層のタックが、25kN/m2 から90kN/m2ガラス転移点が5℃以下であり、25℃における貯蔵弾性率が2.5×105Pa以下であり、損失正接(tanδ)が0.3以下であり、表面自由エネルギーが26mJ/m2以下になるように調整することが好ましい。
【0034】 ガラス転移点については、後述する方法で測定して得られた値を採用する。上記の本発明の効果の発現にかかわる物性は温度の影響を受ける。そのため、実際に使用する常温環境において、本発明の効果が発現されるように調整しなければならない。ガラス転移点が高過ぎると、常温での柔軟性が失われ、粘着剤層の表面タックが低下する傾向にあり、粘着剤層がわれてしまう傾向にあり、ガラス転移点が低すぎると物性のバランスが悪くなり、特に柔軟性が低下する傾向にある。特に好ましいガラス転移点の範囲は、他の物性の影響も受けて変動するが、およそ-50℃から5℃である。
実施例】 【0044】 以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】 <粘着シートの製造> ・・・それぞれの実施例及び比較例に使用する粘着剤を製造した。
【0051】 上記粘着剤を厚さ38μmのPETフィルム上に、UV照射後(300mJ/cm2)の厚みが30μmとなるようにアプリケーターを用いた塗工することで、実施例及び比較例の粘着シートを作製した。
【0052】 <評価> ・・・ 【0056】 [貯蔵弾性率、tanδ] 貯蔵弾性率、tanδ点は、レオメトリックス社製、固体粘弾性アナライザーRSA-IIを用い、圧縮モードにて測定周波数1Hz、測定温度を-50℃〜150℃、
昇温速度5℃/minで測定した値を元にして求めた。また、ガラス転移はtanδの最大値から求めた。
(8) 甲9の記載事項 平成21年3月19日に公開された甲9は、発明の名称を「再剥離用粘着シート」とする特許出願に係るもので、甲9の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は被着体に貼着した後に再剥離可能な再剥離用粘着シートに関する。
【背景技術】 【0002】 商品やサービスの広告宣伝を行うことを目的として、化粧品、トイレタリー用品、
飲料及び食品等の包装容器、自動販売機及び自動改札機等の公共の場に設置されている設備、又は電車及びバス等の公共の場で利用される車両などには、文字や画像が印刷された粘着シートが貼着されている。これらの粘着シートには、一定期間貼着した後、被着体に粘着剤が残留したり、基材シートが切断されることなく綺麗に剥がせる再剥離性が求められる。しかし、再剥離性を発現させるためには一般に粘着力を弱く設計する必要があり、凹凸のある被着体又は湾曲面などに貼着した場合には、経時で剥がれが生じるという問題があった。
【0003】 一方、商品の品名表示、又はユーザーやサービスマンなどのための取扱説明文や部品交換手順を示すことを目的として、複写機、プリンタ、ファクシミリ、パソコン、テレビ、エアコン、冷蔵庫及び洗濯機などの各種電気製品、トナーカートリッジやインクカートリッジなどリユースも多く行われる各種関連製品、又は自動車、
バイク及び建築材料などを構成する各種内外装部品などには、粘着シートが貼着されている。これらの粘着シートは、長期間貼着されて使用されるため、被着体に貼着されている間、粘着シートと被着体との間に浮きの発生や剥がれの発生(以下、
浮き剥がれという場合がある。 がないことが特に要求されており、
) 粘着力を強くするなど、粘着シートを剥がれ難くする対策が一般に施されている。
【0004】 ところが、近年、自然環境に対する配慮から、使用済みの製品、又はそれを構成する部品の一部もしくは全部を、リサイクルすることが強く望まれている。
・・・これら部品等を粉砕するにあたり、部品等に粘着シートが貼着され、それが貼着されている部品等と粘着シートとが相溶性が無い場合、加熱溶融で溶け合わない不純物 により再生された部品の強度が低下しないようにするためには、粘着シートを取り除く必要がある。
・・・そのため、粘着シートを剥がす際には、被着体に粘着剤が残留したり、基材シートが切断されることなく容易に再剥離できることが要求されている。
【0005】 しかし、再剥離性のみを重視すると、各種電気製品等でみられるエンボス加工が施された凹凸のある表面に貼着した場合や、湾曲した被着体に貼着した場合に、粘着シートに浮き剥がれが発生するという問題があった。また、各種電気製品等を構成する熱可塑性樹脂から発生するアウトガスにより、一旦貼着された粘着シートと熱可塑性樹脂との間に気泡溜まりが生じるという問題があった。
【0007】 ・・・特許文献1で開示されている粘着加工製品では再剥離性には優れてはいるが、複写機、プリンタ、ファクシミリ又はこれら複合機などの画像形成装置や、あるいは各種電気製品などの電子機器のエンボス加工が施された凹凸のある表面に対しては粘着力が不十分であり、貼着後長期間経過すると剥がれるという問題点がある。
【0010】 ・・・特許文献2〜4にはエンボス加工等の表面に凹凸が施された粗面に貼着した場合の問題については何ら記載されておらず、実際にエンボス加工面等の粗面に貼着して長期間経過すると粘着フィルムが剥がれ易かった。
【0012】 ・・・特許文献5に開示されている方法では、貼着する部品にくぼみを形成する加工を施さなければならず、また、粘着シートを切り裂き剥離するため、粘着力が強い粘着シートを使用すると剥離の途中で基材が破断したり、粘着剤が被着体に残留する恐れがあり、剥離作業の効率が悪くなる場合がある。
【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 したがって、本発明の目的は、被着体の平滑面のみではなく、エンボス加工などの凹凸を有する粗面に対しても優れた接着性を有すると共に、一旦粘着シートの貼り付けを完了すると、粘着シートの浮き剥がれ等が長期間発生しにくく、また、粘着シートを剥がす際には被着体を粘着剤による汚染が生じにくい再剥離性にも優れた再剥離用粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】 【0017】 上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、適度な弾性と粘性のバランスを保持した粘着剤を使用した粘着シートが本発明の目的を達成できることが判った。
しかも、長期間貼着後の浮き剥がれ及び再剥離性は、動的粘弾性スペクトルにおける高温領域における損失正接を測定することにより予見可能であることを見出し、
本発明を完成させた。
【0018】 即ち、本発明は、基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を備えた再剥離用粘着シートであって、前記粘着剤層の周波数1Hz、-50℃〜150℃における動的粘弾性スペクトルの損失正接が(a)-20℃以下の低温域で上に凸のピークを有し、
(b)10〜40℃の中温域で下に凸のピークを有し、
(c)70℃における損失正接が0.38〜0.57であることを特徴とする再剥離用粘着シートを提供するものである。
【発明の効果】 【0019】 本発明の粘着シートは、被着体の平滑面のみではなく、凹凸を有する粗面に対しても、或いは湾曲面に対しても優れた接着性を有すると共に、一旦粘着シートの貼 りつけを完了すると、粘着シートの浮き剥がれ等が長期間発生することがなく、また、粘着シートを剥がす際には被着体を粘着剤で汚染したり、基材シートが破れたりすることがない。したがって、商品やサービスの広告宣伝を行うことを目的として、化粧品、トイレタリー用品、飲料及び食品等の包装容器、自動販売機及び自動改札等の公共の場に設置されている設備、又は電車及びバス等の公共の場で利用される車両など、或いはユーザーやサービスマンなどのための取扱説明文や部品交換手順を示す文字及び図面などの各種の画像情報を表示するために、複写機、プリンタ、ファクシミリ、パソコン、テレビ、エアコン、冷蔵庫及び洗濯機などの各種電気製品、トナーカートリッジやインクカートリッジなどリユースも多く行われる各種関連製品、又は自動車、バイク及び建築材料などを構成する各種内外装部品などに貼着し、一定の期間貼着した後に剥がすことを前提とした用途に適している。
【発明を実施するための最良の形態】 【0023】 以下に、本発明の再剥離用粘着シートを、その構成要素に基づいて、更に詳しく説明する。・・・ 【0026】 (粘着剤層の動的粘弾性特性の規定方法) 本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層の動的粘弾性特性は、特定周波数、及び特定温度における、動的粘弾性スペクトルの損失正接、又は損失正接及び貯蔵弾性率により規定し、さらに、特定周波数における動的粘弾性スペクトルの損失正接のピークを示す温度、または損失正接のピーク値により規定する。動的粘弾性の測定においては、粘弾性試験機(レオメトリックス社製、商品名:アレス2KSTD)を用いて、同試験機の測定部である平行円盤の間に試験片を挟み込み、周波数1Hzで-50℃から150℃までの貯蔵弾性率(G')と損失弾性率(G")を測定する。・・・ 【0027】 本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層は、周波数1Hzでの-50℃〜150℃の範囲における損失正接が、-20℃以下の低温域で上に凸状のピークを有し、低温域から中温域にかけて減少し、10〜40℃の中温域で下に凸のピークを有し中温域から高温域にかけて上昇し、70℃で特定の範囲内の値をとる。
【0028】 損失正接を上記各範囲とすることで、粘着剤に適度な流動性が付与される。具体的には、被着体表面の微小な凹凸にも浸透できる流動性を発現しながら、過度に流動することがないため接着力の過度な上昇を抑制することができる。さらに、粘着剤が適度に流動する性質により、粘着剤にかかる応力を和らげることができる。その結果、被着体に貼着された粘着シートを、経時あるいは高温環境下に曝された後に再剥離する作業において、剥がそうとする基材が破れ易くなったり、被着体に粘着剤が残リ易くなることはない。また、被着体に貼付された粘着シートを、経時あるいは高温環境下に曝した際であっても、粘着シートの浮き剥がれが発生し難い。
さらに、粘着シートを熱可塑性樹脂に貼着した場合において、熱可塑性樹脂からアウトガスが発生しても、粘着シートと熱可塑性樹脂との間に気泡溜まりが発生し難くなる。
【0029】 (高温域における粘着剤層の損失正接) 本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層の50〜120℃の高温域中の損失正接は、周波数1Hzにおいて、70℃で0.38〜0.57である。70℃での損失正接は0.43〜0.55であることが好ましく、0.46〜0.54であることがより好ましい。また、50℃での損失正接は、0.38〜0.53であることが好ましく、0.40〜0.51であることがより好ましい。また、100℃での損失正接は、0.40〜0.65であることが好ましく、0.44〜0.65であることがより好ましく、0.50〜0.60であることが特に好ましい。更に、
120℃での損失正接は、0.40〜0.66であることが好ましく、0.45〜 0.66であることがより好ましい。中でも、0.51〜0.62であることが特に好ましい。
【0030】 (中温域における粘着剤層の損失正接) 本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層の損失正接は、周波数1Hzにおいて、10℃〜60℃の間に下に凸のピークを有する。さらに、そのピーク値は0.35〜0.51であることが好ましく、0.4〜0.51であることがより好ましい。
【0031】 (低温域における損失正接曲線の凸ピークを示す温度) 本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層は、その損失正接曲線の凸ピークを示す温度が、周波数1Hzにおいて、-20℃以下であることが好ましく、-25℃以下であることがより好ましく、-30℃以下であることが特に好ましい。
この範囲内であれば、貼着時に粘着剤層がエンボス面などの凹凸面に十分に流動し易く、その結果、被着体との接着力が十分となり、経時により浮き剥がれが発生し難い。また、再剥離する際に、断続的な抵抗感が出たり、ビリビリといった剥離音が発生し難く、スムーズな剥離作業を行うことができる。
【0032】 (低温域における損失正接の凸ピーク値) 本発明の再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層は、その損失正接のピーク値が1.3〜1.0以下であることが好ましい。
(9) 甲10の記載事項 平成7年10月24日に公開された甲10は、発明の名称を「紫外線硬化型粘着剤組成物及び両面粘着テープ」とする特許出願に係るもので、甲10の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、紫外線硬化型粘着剤組成物、紫外線硬化型粘着剤組成物を紫外線照射により硬化させた粘着剤層を有する両面粘着テープ。
【0002】 【従来の技術】炭素数が4〜14個のアルキルアルコ-ルのアクリル酸エステルモノマ-、これと共重合する単官能モノマ-や架橋剤となる多官能アクリレ-トオリゴマ-そして光重合開始剤からなる紫外線硬化型粘着剤組成物を紫外線で硬化して粘着テープを得ることはBelgium,675,420、5/1966や米国特許第4,181,752号明細書(80年1月1日)などに開示されている。
【0003】炭素数が4〜14個のアルキルアルコ-ルのアクリル酸エステルモノマ-の中で、一般に使用されているのは、炭素数が4個のブチルアクリレ-ト、
炭素数が8個の2エチルヘキシルアクリレ-トとイソオクチルアクリレ-トである。
これらホモポリマ-のガラス転移点温度は、それぞれ-49.1℃、-61.8℃、
-51.1℃と低い。凝集力を高めるため、他の共重合可能なモノマーや多官能オリオゴマー等と共重合させても、そのガラス転移点温度は-25℃(比較例)や30℃(比較例1)と低い。その結果、これら粘着剤を用いた両面粘着テープのタック及び初期接着力が大きい。
【0004】 【発明が解決する課題】タックが強くて初期粘着力の大きな両面粘着テ-プは、
凹凸面を有する物体や極性また非極性の種々の物体によく接着するし、低温でも粘着剤層を加温して接着する必要はないという好ましい特徴を有する。しかし接着作業時に位置決めしにくく、仮接着したものを修正のために剥がそうとすると粘着剤が被着材に残ったりする。一般的にガラス転移点温度の低い粘着剤は耐熱性が良くない。
【0005】また、タックが強くて初期粘着力の大きな両面粘着テ-プは、貼り合わせ作業時被着体の間に巻き込んだ空気が抜けにくいので貼り合わせ部に気泡を残しやすい。外観的にも見苦しくなる等の好ましくない点も有する。被着体が高価 のものであると再生のための時間と手間がかかる上、歩留りの低下を引き起こすなど経済的損失も大きいので改善が求められている。
【0006】これを解決する方法として、炭素数4未満の低級アルコールのアクリル酸エステル、例えばメチルアクリレートやエチルアクリレートを多量に炭素数が4〜14のアルキルアルコ-ルの(メタ)アクリル酸エステルモノマ-に共重合させることがある(判決中: 「ある。」の誤記と認める。)この共重合体だとタック及び初期接着力は小さいので上述の問題点は解決されるが、メチルアクリレートやエチルアクリレートは沸点が低く、臭気も強いので無溶剤の紫外線硬化型粘着剤組成物として用いるのは問題である。
【0007】本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは @ タックや初期粘着力が低く、接着作業時において再はく離できる両面粘着テープ。
A 得られた両面粘着テ-プは、接着後に接着物を高温放置しても接着特性の低下が少ない。
B 上記の両面粘着テ-プを紫外線硬化により製造するので環境を悪化することとなく火災の危険のない安全な両面粘着テ-プの製造方法等を提供することである。
【0008】 【課題を解決するための手段】本発明者等は紫外線により硬化させる粘着剤として炭素数が9個のアルキルアルコールのアクリル酸エステルを主にし、これと共重合可能なエチレン性不飽和結合基を有する化合物群及び架橋剤として働く分子量300以上の多官能オリゴマーからなる粘着剤がタック及び初期接着力が低くて再はく離性を有し接着作業がやり易く、しかも接着力、耐熱性に優れることを見いだした。
【0012】 炭素数が4〜14個のアルキルアルコ-ルのアクリル酸エステルモノマ-の中で、
一般に使用されているのは、炭素数が4個のブチルアクリレ-ト、炭素数が8個の2エチルヘキシルアクリレ-トとイソオクチルアクリレ-トである。これらホモポリマ-のガラス転移点温度は、それぞれ-49.1℃、-61.8℃、-51.1℃と低い。凝集力を高めるため、他の共重合可能なモノマーや多官能オリオゴマー等と共重合させても、そのガラス転移点温度は-25℃(比較例2)や30℃(比較例1)と低い。その結果、これら粘着剤を用いた両面粘着テープのタック及び初期接着力が大きい。
【0013】 本発明者は、鋭意研究の結果、炭素数が9個の3,5,5トリメチルヘキシルアクリレ-トとこれと共重合可能な単官能モノマ-や架橋剤となる分子量300以上の多官能アクリレ-トオリゴマ-及び光重合開始剤からなる紫外線硬化型粘着剤組成物組成物から、接着作業性のよい両面粘着粘着テ-プを得ることができた。この3,5,5トリメチルヘキシルアクリレ-トのホモポリマ-のガラス転移点温度が-30.4℃で、従来一般に使用されているモノマ-に比べて約20℃以上高いので本発明に至った。
【0014】 【発明の効果】本発明の効果を次に述べる。
@ 粘着テ-プのタックが小さいので、接着作業時度であるので、位置決めし易く、位置を間違えて接着しても容易に剥がすことができる。従って被着材を損傷することもない。
【0015】A 粘着テ-プのタックが小さいので、被着材と粘着テ-プの間に巻き込んだ空気は圧着することにより容易に追い出すことができる。初期の接着力は小さいが、数時間放置すれば実用強度に達する。初期接着力を望む場合は粘着剤層を加温してやればよい。
【0016】B 接着後、被着体を高温放置しても接着力の低下が少ない。
C 電気・電子機器に要求される温度定格を満たし、特にフレキシブル回路基板に 補強材を接着するのに好適に用いられる。
D 無溶剤の紫外線硬化型粘着剤組成物を使用するので、環境への汚染がなく、火災等に対し安全性の高い方法で両面粘着テープを製造できる。
【0017】 〔本発明の粘着剤組成物〕本発明においては、粘着剤の骨格をなす単量体として炭素数が9個のアルキルアルコールのアクリル酸エステル、これと共重合可能なエチレン性不飽和結合基を含む化合物、分子量300以上の多官能オリゴアクリレートである。そして光開始剤からなる組成物を使用する。
【0018】該炭素数が9個のアルキルアルコールのアクリル酸エステルとして3,5,5トリメチルヘキシルアクリレ-トを選んだが、炭素数が9個のアルキルアルコーのアクリル酸エステル以外でも、粘着剤のガラス転移点温度が-10℃から5℃の範囲に調節できるモノマーは使用可能である。例えばテトラヒドロフルフリールアクリレート、イソボニルアクリレート、エトキシアクリレート、ブトキシアクリート、フェノキシアクリレート、シクロヘキシルアクリレートから選んでもよい。
(10) 甲11(参考文献A)の記載事項 平成15年9月10日に公開された甲11は、発明の名称を「粘着シートおよびその製造方法」とする特許出願に係るもので、甲11には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、粘着剤層表面に凹凸を有することにより、
被着体上に貼り付ける際に、気泡を抱き込みにくい粘着シートに関するものである。
また、本発明は、そのような構造としたことにより、粘着力の調整を可能とした粘着シートに関するものである。
【0002】 【従来の技術】粘着シートは、シート状物に予め粘着剤が適用されたものであるので、シート状物を被着体に貼り付ける際に、その都度、接着剤を適用する手間か ら解放される利点があり、様々な用途に使用されている。
【0003】しかし、一般的な粘着シートには、厚みの均一な粘着剤層が形成されているため、被着体に貼り付ける際に、注意深く作業を行なわないと、気泡を抱き込むことがあり、しかも、一旦、貼り付けてしまうと貼り直しが効かない場合もあるので、シート状物および被着体を含めて損失になる恐れもあった。
【0004】また、粘着シートは、用途に合わせた接着力を有するものであることが好ましいが、接着力を変えるためには、異なる組成の粘着剤組成物を準備する必要があった。
【0005】特開2001-302999公報には、これらの点を改善しようとして、粘着剤層の表面に一辺が1mm〜10mm、高さが3μm〜100μmの四角錐台状凸隆部を、0.1mm〜1mmの間隔をあけて設けることにより、気泡を抱き込むことを改善しようとした壁紙が記載されている。けれども、この壁紙を製作するには、エンボスや印刷により、独立した多数の小凹窪を形成した剥離フィルムを用い、小凹窪を形成した面に粘着剤を塗布したものを、壁紙の裏面にラミネートすることにより行なうので、四角錐台状凸隆部の一辺の長さ、高さ、および間隔を決める、小凹窪の底の一辺の長さ、深さ、および間隔の寸法を一定に形成した剥離フィルムを準備する必要があり、粘着剤の組成を一定にしておいて接着力を変えようとすると、これらの小凹窪の各寸法を変えた剥離フィルムを準備しなければならない問題があった。また、剥離フィルムは巻き取ると嵩高になる上、粘着シートの使用の際に剥離フィルムを剥がそうとすると、小凹窪内の粘着剤が、剥離フィルム上に残留することがあり、所定の四角錐台状凸隆部が得られないことがあった。
【0006】 【発明が解決しようとする課題】従って、本発明においては、従来の凹凸を有した粘着剤層を備えた粘着シートが、製造の際に、小凹窪を形成した剥離フィルムを作成しなければならず、その剥離性フィルムが嵩高となる欠点を解消し、また、被着体への適用時に剥離フィルムを剥がそうとすると、粘着剤の一部が剥離フィルム 上に残留し、凹凸形状が得られない欠点を解消しようとするものである。
【0007】 【課題を解決する手段】発明者は、粘着シートの粘着剤に凹凸を付与する方法を検討した結果、剥離フィルムに加工を施すのではなく、粘着シートのシート状基材に、塗液をはじく性質を有する撥液性パターンを、上記の従来技術で言えば、四角錐台状凸隆部の間に相当する位置に形成し、形成された撥液性パターン上に粘着剤の塗液を塗布すると、撥液性パターン上で粘着剤の塗液がはじかれることにより、
撥液性パターンに沿って、粘着剤層表面に凹部が現われるため、被着体に貼る際に、
気泡の抱き込みが無く、しかも、形成する撥液性パターンに応じた凹部が形成されるために、接着力の調整も可能であることが判明し、本発明をするに至った。
【0009】 【発明の実施の形態】図2(a)に示すように、本発明の粘着シート1は、シート状基材2上に撥液性パターン部3aおよび非撥液性パターン部3bとからなる撥液性パターン層3が積層されており、撥液性パターン層3上の全面に、粘着剤層4が積層されたものであって、粘着剤層4は、撥液性パターン部3a上に相当する位置が開孔部となることによる凹部5aを有しているものであり、開孔部において撥液性パターン部3aが露出している。この開孔部からなる凹部5aは、図2(a)に示すように、撥液性パターン部3aの左右の幅にほぼ一致したものでなくてもよく、例えば、撥液パターン部(判決注:「撥液性パターン部」の誤記と認める。)3a上の一部、例えば、中央部付近のみが開孔部となったものであってもよい。このように開孔部により凹部5aが形成されているときは粘着シート1を被着体に貼るときに、強い圧力がかかって、凹部5aの底が被着体に接触した場合にも、凹部5aと被着体が接着することがなく、従って、気泡が逃げやすい。
【0014】図3は、本発明の粘着シート1の撥液性パターン部3aの形状、特に上記したような連続したパターンのものを例示する平面図である。撥液性パターン3aは図3(a)中、黒色の幅広の線で示すように、間隔を置いて並べられた平 行な直線群であり得る。あるいは、撥液性パターン部3aは、図3(b)に示すような平行な直線群が互いに直交した格子であり得る。撥液性パターン部3aは、図3(c)に示すように、狭い間隔で密に並べられた正六角形どうしの境界線であってもよい。さらに図3(d)に示すように、撥液性パターン部3aは、狭い間隔で密に並べられた楕円どうしの境界部であってもよい。なお、撥液性パターン部3aの形状は、以上のような、あるいはそのほかの幾何学的な線や形状に基づくものであってもよいし、基づかないものであってもよい。
【0030】 【実施例】 (実施例)厚み100μmの透明な2軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂(=PET)フィルムの片面に、二液硬化型ウレタン樹脂をバインダ樹脂とし、バインダ樹脂100に対し1(質量基準)の割合でシリコーンオイルを添加したインキを用い、線幅;1mm、縦横のピッチがいずれも10mmの格子パターンをグラビア印刷により形成し、印刷面に、アクリル系粘着剤(綜研化学(株)製、
商品名; 「SKダイン1309」/硬化剤「E-AX」=100/0.2、比は質量基準)を100g/m2になるよう塗布し、塗布後、100℃の温度で乾燥させたところ、塗布された粘着剤が格子パターンの線の部分の上ではじかれ、9mm×9mmの正方形状の粘着剤パターンが1mm間隔で縦横に配列した粘着剤層が形成された。その後、粘着剤層上に、厚み25μmのPETフィルムをセパレートフィルムとして積層し、積層後、7日間養生した。このようにして得られた粘着シートをセパレートフィルムを剥がしてガラス板上に貼り付けたところ、気泡の抱き込みがなく貼り付けることができた。
イ 図面 【図2】 【図3】 (11) 甲12(参考文献B)の記載事項 平成16年11月4日に公開された甲12は、発明の名称を「表示装置及びそのホルダ」とする特許出願に係るもので、甲12には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、表示装置及びそのホルダに関し、特に、薄型化を達成しながら、外部 からの衝撃等による表示器の破損等を生じにくくする表示装置及びそのホルダに関する。
【0002】 【従来の技術】 例えば、携帯電話機やPHS(Personal Handyphone System)電話機等の携帯端末装置では、電話帳、メール、受信画像、搭載カメラによる撮影画像等を表示するために、操作面等に小型の液晶表示器(LCD:Liquid Crystal Display)が設けられている。
【0003】 図5は、従来の液晶表示装置の構成を示す。ここでは、携帯電話機の液晶表示装置について説明する。
表示駆動回路(図示せず)等により駆動される液晶表示器101はホルダ102に搭載され、このホルダ102はプリント基板103の近傍に配置される。プリント基板103には、液晶表示器101を駆動するための電子回路及び電子部品(図示せず)が実装されている。液晶表示器101は、LCD本体と、図示しないバックライト用のLED(発光ダイオード)と、このLEDからの光を液晶表示器101の背面に一様に付与するための透光性樹脂による導光部材(図示せず)を一体化したユニットになっている。
【0004】 ホルダ102は硬質の樹脂材による成形で作られており、液晶表示器101の外形相当の内寸法の凹部を有している。この凹部内には、液晶表示器101が両面接着テープ104等を用いて固定される。プリント基板103は、シャーシー(図示せず)等に取り付けられる。
【0005】 図5の様に液晶表示器101が取り付けられた後、携帯電話機の筐体を形成している上部ケース(折り畳み型携帯電話機の場合)又は前面ケース(ストレート型携 帯電話機の場合)が被せられ、他のケース部が全て取り付けられることにより、携帯電話機が完成する。
【0006】 携帯電話機等は小型軽量化が求められているため、各電子部品のほか、筐体、基板、部品の取付部材等の全てについて徹底した軽量化が要求されている。しかも、
携帯電話機等は、日常的に携帯されるものであるため、取り扱いも乱暴に扱われる恐れがあるため、筐体、基板、取付部材等は、軽量化を図りながらも十分な強度を有することが求められる。また、量産性の向上、原価低減による組立工数の削減等も要求されている。
【0007】 携帯電話機等に搭載される液晶表示装置に対しても、小型化及び薄型化が要求されているが、偏光板やガラス基板を組み合わせた構成であるため、携帯電話機を落下させたり、表示部に衝撃等の外力が加わると、偏光板やガラス基板に割れ、損傷等を招くことがある。そこで、液晶表示器を衝撃等から保護できるような構造や設計が要求される。
【0009】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、従来の液晶表示装置によると、図5の構成では、小型化のために液晶表示器とフレームやホルダ内周との間の隙間を小さくすると、衝撃等の外部からの力が液晶表示器に伝わり易く、液晶表示器の損傷、破損等を招きやすくなる。また、
特許文献1の構成では、軟質部材を部分的に設けるため、緩衝効果を高めるには厚みを大きくせざるを得ず、従って軟質部材の厚みの分だけ表示部の厚みが大きくなり、薄型化が図れない。上記の問題は、液晶表示器だけでなく、平板状で薄型な構成の表示器に共通する。
【0010】 したがって、本発明の目的は、薄型化を図りながら、表示器の破損等を生じ難く する表示装置及びそのホルダを提供するにある。
【0011】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記の目的を達成するため、第1の特徴として、片面に表示面を有する表示器と、軟質な材料により前記表示器を設置するための凹部が形成されたクッション部を上層にし、硬質な材料による台座部を前記クッション部に二色成形により一体化したホルダとを備え、前記表示器は、前記クッション部の前記凹部に粘着部材によって貼着されていることを特徴とする表示装置を提供する。
【0012】 この構成によれば、ホルダが軟質な材料によるクッション部と硬質な材料による台座部とが二色成形により一体化されているため、クッション部に表示器を搭載すれば、ホルダに衝撃等の外力が加わっても、衝撃等はクッション部で吸収され、表示器に伝わり難くなるので、表示器の破損等を招きにくい液晶表示装置が得られる。
しかも、二色成形によりクッション部と台座部を一体化し、クッション部を別部品としていないので、高い位置決め精度が得られると共に、コストダウンが可能になる。
イ 図面 【図5】 (12) 甲13(参考文献C)の記載事項 2016(平成28)年10月6日に国際公開された甲13は、発明の名称を「独立気泡発泡シート」とする特許出願に係るもので、甲13の明細書には、次の記載がある。
ア 技術分野 [0001] 本発明は、例えば、タッチパネル等の表示装置の衝撃吸収シートとして使用される独立気泡発泡シートに関する。
イ 背景技術 [0002] ノート型パーソナルコンピューター、携帯電話、スマートフォン、
タブレット等の携帯機器において、表示装置は、破損や故障の防止のために、背面側に衝撃吸収シートが配置されることがある。衝撃吸収シートは、高い柔軟性が求められており、従来、発泡シートが広く使用されている。衝撃吸収シートとして使用される発泡シートとしては、例えば、特許文献1に記載されるように、多数の独立気泡を内包したポリエチレン系架橋発泡シートが知られている。また、ウレタン系発泡シートやゴム系発泡シート等も広く使用されている。
発明の概要のうち発明が解決しようとする課題 [0004] 近年、スマートフォン等の携帯機器の表示装置としては、タッチパネル式のものが多く採用されるようになってきている。タッチパネル式の液晶パネルは、その操作時の押圧が強くなると液晶の滲み(プーリング)が発生することがある。また、スマートフォンは、携帯ゲームの普及等により、表示装置が高速で繰り返し強い力で押圧されることがあるが、そのような場合、プーリングが目立つことがあり、プーリングを抑制する要求が高まりつつある。そのため、表示装置に使用される発泡シートは、高い衝撃吸収性のみならず、プーリングを早期に消失できる特性(すなわち、耐プーリング性)が求められるようになってきている。
一方で、表示装置は、長期間使用することが前提であるため、発泡シートには、
長い期間にわたって一定の物性を維持する耐久性も求められている。さらに、携帯 機器の小型化に伴い、発泡シートの厚さを薄くすることも求められている。
[0005] 本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、厚さが薄く高い耐久性を有しながらも、プーリングを抑制可能な発泡シートを提供することである。
4 乙3、4、6及び7の記載事項 (1) 乙3の記載事項 平成28年6月20日に公開された乙3は、発明の名称を「携帯電子機器用粘着シート」とする特許出願に係るもので、乙3には、次の記載がある。
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 本発明は、携帯電子機器用粘着シートに関する。
【背景技術】 【0002】 一般に、粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような性質を活かして、粘着剤は、基材の少なくとも一方の表面に粘着剤層を設けた基材付き粘着シートの形態で、例えば、各種物品を固定したり、
各種物品の表面保護、あるいは装飾など所望の外観を得る等の目的で広く利用されている。・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 上記各種用途に用いられる粘着シートは、被着体に貼り付けるときに、粘着シートと被着体との間に空気等の流動性異物が残り、この異物が気泡等(空気だまり等)となって外観品質の低下を引き起こす場合がある。上記のような気泡等は接着力の 低下など粘着特性に悪影響を及ぼす点でも望ましくない。このような気泡等の発生を予防し、または発生した気泡等を除去する性質(以下「空気抜け性」ともいう。)を付与することを目的として、粘着シートの粘着面を保護する剥離ライナーの表面に凸条を形成し、該凸条を利用して該シートの粘着剤層表面に溝を形成する技術が知られている(特許文献1)。上記粘着面と被着体との間に残ろうとする空気等は、
粘着剤層の表面に形成された溝から除去され得る。・・・ 【0005】 ところで、粘着シートの好ましい適用対象の一つに、近年普及が著しいスマートフォン等の携帯電子機器が挙げられる。上記携帯電子機器は、その携帯性ゆえ、小型化、軽量化の要求が強く、また同時に、サイズや重量を犠牲にすることなく、さらなる大容量化、高機能化を実現することも求められている。したがって、携帯電子機器に用いられる粘着シートも、必要な性能(例えば接着力)を維持しつつ、さらなる薄幅化、薄厚化の傾向にある。しかし、特許文献1で提案されているような、
粘着面に溝を有する粘着シートは、薄厚化した場合に溝の深さも制限され、当該溝の深さが所定値以下になると、空気抜け性が損なわれてしまう。・・・ 【0006】 本発明は、上記の知見に基づいて創出されたものであり、粘着剤層に設けられる空気抜け手段の深さが制限された携帯電子機器用途において、良好な空気抜け性を有し、粘着シートの接着面が平滑で、被着体への貼り付け後の早い段階から良好な粘着特性を示す粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明によると、携帯電子機器用粘着シートが提供される。この粘着シートは、
フィルム状基材と、該フィルム状基材の少なくとも一方の表面に設けられた粘着剤層と、を備える。前記粘着剤層の厚さは20μm以下である。また、前記粘着剤層の表面を部分的に覆うコート層をさらに備える。さらに、前記コート層の厚さは3 μm未満である。
上記のように、粘着剤層の厚さが制限された粘着シートにおいて、厚さ3μm未満のコート層を空気抜け手段として利用することによって、良好な空気抜け性が実現される。したがって、上記構成を有する粘着シートは、薄厚化が要求される用途、
典型的には携帯電子機器用途、に特に好ましい。また、粘着剤層上に設けられるコート層の厚さは3μm未満に制限されているので、コート層を原因とする粘着シート接着面における平滑性の低下が抑制または防止される。さらに、上記厚さのコート層は、被着体に貼り付けたときに、粘着剤とコート層とからなる粘着シート接着面が被着体に馴染みやすい。そのため、上記構成の粘着シートは、被着体への貼り付け後の早い段階から良好な粘着特性を発現する。
【0008】 ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記粘着剤層の厚さTAに対する前記コート層の厚さTCの比(TC/TA)は0.75以下である。このように構成することで、粘着シート接着面の平滑性の低下は抑制され、優れた接着力を実現することができる。また、コート層の厚さを粘着剤層の厚さに対して相対的に制限することで、例えば剥離性支持体の表面上にコート層を部分的に形成し、その上に粘着剤層をさらに形成する態様において、剥離性支持体表面上に形成されたコート層に対して粘着剤が十分に供給され、良好な積層状態が得られる。このような観点から、粘着剤層の厚さは、上記比(TC/TA)を満足しつつ、1μm以上とすることが適当であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上である。
【0010】 ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記フィルム状基材の厚さは5μm未満である。基材の厚さが制限されていることは、粘着シートの薄厚化の点で有利であり、上記厚さを有する基材を備える粘着シートは、携帯電子機器用途に好ましく適用され得る。
【0011】 ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、粘着シートの総厚さは50μm以下である。このような薄厚の粘着シートにおいて、ここに開示される技術による空気抜け性は良好に発揮される。
【0012】 また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの粘着シートと、該粘着シートの接着面を保護する剥離ライナーと、を備える剥離ライナー付き携帯電子機器用粘着シートが提供される。・・・ 【0013】 また、本発明によると、少なくとも一方の表面が剥離性表面である剥離性支持体を備える粘着シート用剥離ライナーが提供される。前記剥離性支持体の剥離性表面上には、粘着シートに転写可能なコート層が設けられている。そして、前記コート層の厚さは3μm未満である。このような剥離ライナーを用いて粘着シートの粘着剤層表面にコート層を転写することで、良好な空気抜け性を実現し得る粘着シートが提供され得る。
【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明の好適な実施形態を説明する。・・・ 【0017】 また、本明細書における粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称され得るものが包含される。・・・ 【0018】 図1は一実施形態に係る粘着シートを模式的に示す上面図であり、図2は図1のII-II線における断面図である。図面を参照しながら、この実施形態の粘着シートについて説明する。
【0023】 コート層30は、粘着シート1の接着面1Aにおいて所定のパターン(コート層パターン)40を呈している。この実施形態では、コート層30は格子状パターン40を呈している。コート層30の格子状パターン40は、具体的には、粘着シート1の接着面1Aにおいて第1ストライプ状パターン部42と、第1ストライプ状パターン部42と交差するように配置された第2ストライプ状パターン部44とからなる。
【0024】 第1ストライプ状パターン部42は、接着面1Aの一端から他端に向かって直線状に延びる複数の部分(線状に延びる部分。本実施形態では帯状部分)50から構成されており、これら複数の線状に延びる部分50は、その幅方向にて間隔をおいて平行に配置されている。この実施形態では、線状に延びる部分50は、その長手方向が粘着シート1の幅方向の端部と交差する角度で配置されており、それぞれ接着面1Aの両端に到達している。
【0025】 第2ストライプ状パターン部44も、第1ストライプ状パターン部42と同様に、
接着面1Aの一端から他端に向かって直線状に延びる複数の部分(線状に延びる部分。本実施形態では帯状部分)50から構成されており、これら複数の線状に延びる部分50は、その幅方向にて間隔をおいて平行に配置されている。この実施形態では、線状に延びる部分50は、その長手方向が粘着シート1の幅方向の端部と交差する角度で配置されており、それぞれ接着面1Aの両端に到達している。なお、
この実施形態では、線状に延びる部分50は直線状の帯状部分であるが、これに限定されず、各線状に延びる部分は曲線状に延びるものであってもよい。その場合、
複数の線状に延びる部分が形成し得るストライプ状パターンは波状等であり得る。
また、線状に延びる部分の本数は、粘着シートの接着面の形状やサイズ等との関係で決定され得るため、特定の本数に制限されるものではない。
【0026】 また、この実施形態では、第1ストライプ状パターン部42と第2ストライプ状パターン部44とは、第1ストライプ状パターン部42の線状に延びる部分50と第2ストライプ状パターン部44の線状に延びる部分50とがほぼ直交するように交差している。したがって、第1ストライプ状パターン部42の線状に延びる部分50と第2ストライプ状パターン部44の線状に延びる部分50とは、部分的に重なっている。
【0027】 なお、本明細書において格子状パターンとは、典型的には、互いに交差する2つのストライプ状パターン部を含むパターンを指し、本実施形態のような斜方格子だけでなく、正方格子、三角格子等の各種の格子形状を包含する。線状に延びる部分が直線状の場合、2つのストライプ状パターン部の交差角度(鋭角側)は、10度〜90度(好ましく45度〜90度、典型的には60度〜90度)の範囲内で設定され得る。また、ここに開示される格子状パターンには、屈曲を繰り返す複数の線状に延びる部分から構成されるストライプ状パターン部を含むパターン、例えば六角格子のようなパターンも包含されるものとする。そのようなパターンは、隣りあう線状に延びる部分同士が一部で接続したものであり得る。空気抜け性の観点から、
コート層は、1または2以上のストライプ状パターン部を有することが好ましい。
コート層パターン(典型的には格子状パターン)は、第3のストライプ状パターン部を有するものであってもよい。
【0040】 コート層30の各線状に延びる部分50の幅(W1)は、本実施形態では約200μmであるが、これに限定されない。好ましい一態様では、コート層の各線状に延びる部分の幅(W1)は、0.1〜2mmの範囲内で設定される。これにより、
高い経時接着力と良好な空気抜け性とを両立することができる。上記線状に延びる部分の幅(W1)は、空気抜け性向上の観点から、より好ましくは0.2mm以上、
さらに好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.5mm以上である。他の好 ましい一態様では、コート層の各線状に延びる部分の幅(W1)は凡そ10μm以上である。空気抜け性の観点から、コート層の各線状に延びる部分の幅(W1)は、
好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは150μm以上である。また、接着力や外観等の観点からは、上記線状に延びる部分の幅(W1)は、より好ましくは1.2mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下、
特に好ましくは0.7mm以下、さらに特に好ましくは0.5mm以下、最も好ましくは0.4mm以下である。第1ストライプ状パターン部の線状に延びる部分の幅(W1)と、第2ストライプ状パターン部の線状に延びる部分の幅(W1)とは、
同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】 コート層30の第1ストライプ状パターン部42を構成する線状に延びる部分50の間隔(W2)は、本実施形態では約1.8mmであり、第2ストライプ状パターン部44を構成する線状に延びる部分50の間隔(W2)も同様であるが、これに限定されない。第1ストライプ状パターン部を構成する線状に延びる部分の間隔(W2)は1.0〜10mmの範囲内に設定することが好ましい。これにより、高い経時接着力と空気抜け性とがバランスよく両立される傾向が高まる。ここで線状に延びる部分の間隔(W2)とは、粘着シートの接着面において隣りあう2つの線状に延びる部分の間に存在する部分の幅を指す。上記線状に延びる部分の間隔(W2)は、経時接着力向上等の観点から、より好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上である。上記線状に延びる部分の間隔(W2)は、8mm以下(例えば5mm以下、典型的には3mm以下)程度であってもよい。第2ストライプ状パターン部を構成する線状に延びる部分の間隔(W2)も、上記第1ストライプ状パターン部を構成する線状に延びる部分の間隔(W2)として例示した範囲内から好ましく設定される。上記間隔(W2)は等間隔であることが好ましい。
なお、第1ストライプ状パターン部を構成する線状に延びる部分の間隔(W2)と第2ストライプ状パターン部を構成する線状に延びる部分の間隔(W2)は、同じ であってもよく、異なっていてもよい。
イ 図面 【図1】 【図3】 (2) 乙4の記載事項 平成28年5月23日に公開された乙4は、発明の名称を「粘着テープ」とする特許出願に係るもので、乙4には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲 【請求項5】 粘着剤層は、周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルの損失正接のピーク温度が-25〜-8℃であることを特徴とする請求項1、 3又は4記載の粘着テープ。
2、
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 本発明は、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定でき、総厚みが薄くても優れた防塵性を有する粘着テープに関する。
【背景技術】 【0002】 画像表示装置又は入力装置を搭載した携帯電子機器(例えば、携帯電話、携帯情報端末等)においては、組み立てのために粘着テープが用いられている。・・・ 【0003】 携帯電子機器に用いられる粘着テープには、高い粘着力をはじめとする様々な性 能が求められており、例えば、外部からの塵、埃等が携帯電子機器の内部に侵入するのを防ぐ防塵性も必要とされている。・・・ 【0004】 近年、携帯電子機器をより一層薄く軽くするデザインが求められており、粘着テープもより一層薄くなっている。しかしながら、従来の粘着テープの総厚みを薄くすると、防塵性が低下するという問題があった。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定でき、総厚みが薄くても優れた防塵性を有する粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0029】 上記粘着剤層の厚みは特に限定されないが、粘着剤層の厚み(片面の粘着剤層の厚み)が2〜15μmであることが好ましい。厚みが2μm未満であると、上記粘着剤層の粘着力が低下し、粘着テープの防塵性が低下したり耐衝撃性が低下したりすることがある。厚みが15μmを超えると、リワーク性又は再剥離性が損なわれることがある。上記粘着剤層の厚みのより好ましい下限は4μm、より好ましい上限は10μmである。
【0032】 本発明の粘着テープのプローブタックを上記範囲に調整するためには、上述した範囲内で上記粘着剤層の組成及び/又は厚みを調整すればよいが、なかでも、上記粘着剤層の周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルの損失正接のピーク温度を20℃以下に調整することが好ましく、-25〜-8℃に調整することがより好ましい。
【0036】 本発明の粘着テープの用途は特に限定されないが、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定する用途が好ましい。具体的には、本発明の粘着テープは、
例えば、携帯電子機器の液晶表示パネルを機器本体に接着固定する粘着テープとして用いることができる。また、これらの用途における本発明の粘着テープの形状は特に限定されないが、長方形、額縁状、円形、楕円形、ドーナツ型等が挙げられる。
【発明の効果】 【0037】 本発明によれば、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定でき、総厚みが薄くても優れた防塵性を有する粘着テープを提供することができる。
(3) 乙6の記載事項 平成28年9月1日に公開された乙6は、発明の名称を「粘着シート、その製造方法及び電子機器」とする特許出願に係るもので、乙6には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲 【請求項3】 前記支持体(A)の厚さが1μm〜4μmであり、かつ、粘着剤層(B)の厚さが1μm〜6μmである請求項1または請求項2に記載の粘着シート。
【請求項5】 前記粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が、-40℃〜15℃の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘着シート。
発明の詳細な説明 【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば携帯用電子機器のきょう体や部品等を接合する場面で好適に使用できる薄型の粘着シートに関する。
【背景技術】 【0002】 粘着シートは、作業性に優れ、接着信頼性の高い接合手段であるため、例えばOA機器や家電製品等の電子機器の製造場面で広く使用されている。
【0003】 前記電子機器には、近年、高機能化と小型化と薄型化とが求められており、特にパソコン、デジタルビデオカメラ、電子手帳、携帯電話、PHS、スマートフォン、
ゲーム機器、電子書籍等の携帯電子端末には、さらなる小型化や薄型化が求められている。そのため、前記携帯電子端末の製造場面では、主要構成部品の薄型化と共に、この部品の固定に使用する粘着シートにも、さらなる薄型化が求められている。
【0004】 前記薄型の粘着シートとしては、例えばアクリル系粘着剤を、芯材の両面に有する粘着シートであって、該芯材及び両面の粘着剤層を合わせた総厚さが30μm以下であり、両面の粘着剤層の厚さが2〜10μmである粘着シートが知られている(例えば、特許文献1参照。。
) 【0005】 しかし、前記粘着シートの薄型化がすすむなかで、前記薄型の粘着シートと被着体とを貼り合わせる際に、それらの界面に気泡が残存しやすく、その結果、粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や接着力等の性能低下を引き起こす場合があった。
【0006】 とりわけ、前記粘着シートを、グラファイトシート等の放熱部材と発熱部材との貼り合わせに使用する場合、前記気泡は、粘着シートを介して発熱部材から放熱部材へ熱が伝導されることを阻害する場合がある。そのため、前記粘着シートには、
被着体との界面に気泡を含まない状態で貼付できることが求められていた。
【0007】 前記粘着シートを被着体に貼付する際の気泡の混入等を抑制する方法としては、
例えば粘着剤面に周縁部まで連通連続状に極細溝を網目状に形成して、多数の独立島部を形成し、さらに該独立島部の面積を0.25mm 2から8.41mm2とし、
独立島部の高さを5〜20μmとし、且つ、上記極細溝の幅を0.1mm〜0.5mmに設定した粘着シートが開示されている(例えば、特許文献2参照。。
) 【0008】 しかし、前記粘着シートは比較的厚いため前記したような複雑な極細溝等を形成することができるものの、前記携帯電子機器の薄型化等に貢献しうる薄型粘着シートに、前記したような極細で複雑形状な溝等を形成することは、生産工程上、煩雑となる場合があった。
【0009】 また、溝等が形成された薄型粘着シートは、前記溝部が形成されることによって被着体との接触面積が減少し、かつ、粘着剤層が薄型でなるため、一般に、圧着した際の接着性の点で十分でなく、例えば上記粘着シートやそれを用いて得られたグラファイト複合シートの表面から保護フィルムを高速剥離する場合に、上記粘着シートまたはグラファイト複合シートの被着体からの浮きや剥がれを引き起こす場合があった。
【0010】 また、前記溝等が設けられた薄型粘着シートは、薄型であることに起因して、単に溝部が存在する粘着剤層を使用することのみでは、粘着剤層と被着体との間から、
微小な気泡が抜けにくく、依然としてそれらの界面に残存する場合があった。
【0011】 このように、薄型であっても、被着体と粘着剤層との界面に微小な気泡が残存せず、かつ、優れた接着力とを備えた粘着シートの開発が求められているものの、それらを高いレベルで両立した粘着シートは、未だ見出されていなかった。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0013】 本発明が解決しようとする課題は、被着体との界面に気泡が残存することを防止でき、かつ、接着力に優れた薄型の粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】 【0014】 本発明者等は、貼付の際に、被着体に接しうる粘着剤層の表面に所定の凹凸形状を有する粘着シートを使用することによって、上記課題を解決できることを見出した。
【0015】 すなわち、本発明は、支持体(A)の少なくとも一方の面側に直接または他の層を介して粘着剤層(B)を有する総厚さ20μm以下の粘着シートであって、前記粘着剤層(B)が、0.1μm〜1.0μmの範囲の中心線平均表面粗さRaを有する粘着剤層であり、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下、片面の粘着剤層がポリエチレンテレフタレートフィルムで裏打ちされた試験片を、前記粘着剤層(B)がステンレス板(SUS板)の表面に接するように載置し、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの上面で2kgローラーを一往復させることによってそれらを圧着させた時から5分後の180°引き剥がし接着力(剥離速度300mm/min)が3N/20mm以上であり、前記圧着させた時から60分後の180°引き剥がし接着力(剥離速度300mm/min)が4N/20mm以上であることを特徴とする粘着シートに関するものである。
【発明の効果】 【0016】 本発明の粘着シートは、非常に薄型で、被着体との界面に微小な気泡が残存しにくく、かつ、接着力に優れることから、例えば携帯電子端末等の電子機器を構成するきょう体と、充電池等の部品との接着に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】 【0018】 本発明の粘着シートは、支持体(A)の少なくとも一方の面側に直接または他の層を介して粘着剤層(B)を有する総厚さ20μm以下の粘着シートであって、前記粘着剤層(B)が、0.1μm〜1.0μmの範囲の中心線平均表面粗さRaを有する粘着剤層であり、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境下、片面の粘着剤層がポリエチレンテレフタレートフィルムで裏打ちされた試験片を、前記粘着剤層(B)がステンレス板(SUS板)の表面に接するように載置し、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの上面で2kgローラーを一往復させることによってそれらを圧着させた時から5分後の180°引き剥がし接着力(剥離速度300mm/min)が3N/20mm以上であり、前記圧着させた時から60分後の180°引き剥がし接着力(剥離速度300mm/min)が4N/20mm以上であることを特徴とする粘着シートであることを特徴とする。
【0034】 また、本発明の粘着シートとしては、総厚さ20μm以下であるものを使用することが好ましく、1μm〜15μmであるものを使用することがより好ましく、3μm〜12μmであるものを使用することがさらに好ましく、3μm〜7μmであるものを使用することが、例えば携帯電子端末等の薄型化に貢献するうえで特に好ましい。・・・ 【0037】 [支持体(A) 本発明の粘着シートを構成する支持体(A)としては、1μm ]〜4μmの厚さのものを使用することが好ましく、1.5μm〜2.5μmの厚さのものを使用することが、粘着シートを薄型化でき、かつ、被着体と粘着剤層(B)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。
【0047】 [粘着剤層(B) 次に、本発明の粘着シートを構成する粘着剤層(B)につい ]て説明する。
【0056】 前記粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、-40℃〜15℃であることが好ましく、-20℃〜10℃であることがより好ましく、-10℃〜5℃であることが、前記粘着剤層(B)の中心線平均表面粗さRa等で表される表面形状が保持されやすいため表面粗さ等の経時的な変化を防止しやすく、被着体と粘着剤層(B)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。
【0067】 前記粘着剤層(B)としては、それぞれ厚さ0.5μm〜6μmであるものを使用することが好ましく、1μm〜3μmであるものを使用することが、薄型であっても接着力の優れた粘着シートを得るうえでより好ましい。特に前記粘着剤層(B)は、厚さ1μm〜6μmのものを使用することが好ましく、厚さ1μm〜3μmのものを使用することが、被着体と粘着剤層(B)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。 ・ ・・ (4) 乙7の記載事項 2016(平成28)年3月10日に公開された乙7は、発明の名称を「粘着層付き透明面材および粘着層」とする特許出願に係るもので、乙7の明細書には、次の記載がある。
ア 技術分野 [0001] 本発明は、粘着層付き透明面材および粘着層に関し、特に車載表示装置の保護に好適な粘着層付き透明面材および粘着層に関する。
イ 背景技術 [0002] 従来から、表示装置の表示パネルを保護するために、表示パネルの表示面(表示領域)を覆う透明な保護部材が用いられている。このように表示装置を保護するための保護部材として、例えば、特許文献1には、表面に粘着層が形成された粘着層付き透明面材が記載されている。
発明の概要 (ア) 発明が解決しようとする課題 [0007] 本発明は、
・・・車載表示装置に好適な粘着層付き透明面材および粘着層であって、視認性と耐衝撃性とを両立させた粘着層付き透明面材および粘着層を提供することを目的とする。
(イ) 課題を解決するための手段 [0008] 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、粘着層付き透明面材が特定の条件を満たすことで、視認性と耐衝撃性とが共に優れることを見出し、本発明を完成させた。
[0009] 本発明の一形態に係る粘着層付き透明面材は、透明面材と、上記透明面材の一方の表面に設けられた粘着層と、を備え、上記透明面材が、板厚が0.4〜3.0mmの板ガラスであり、上記粘着層は、温度25℃、周波数1Hzにおける貯蔵せん断弾性率が30MPa以下であり、温度25℃、周波数40kHzにおける貯蔵せん断弾性率が50MPa以上であり、温度25℃、周波数40kHzにおける損失正接tanδが0.1以上である。
また、本発明の一形態に係る粘着層付き透明面材は、透明面材と、上記透明面材の一方の表面に設けられた粘着層と、を備え、上記透明面材が、板厚が0.6〜3.0mmの板ガラスであり、上記粘着層は、温度25℃、周波数1Hzにおける貯蔵せん断弾性率が30MPa以下であり、温度25℃、周波数40kHzにおける貯蔵せん断弾性率が50MPa以上であり、温度25℃、周波数40kHzにおける損失正接tanδが0.1以上である。
また、本発明の一形態に係る粘着層は、透明面材と表示装置とを貼合可能な粘着層であって、温度25℃、周波数1Hzにおける貯蔵せん断弾性率が30MPa以下であり、温度25℃、周波数40kHzにおける貯蔵せん断弾性率が50MPa以上であり、温度25℃、周波数40kHzにおける損失正接tanδが0.1以上である。
(ウ) 発明の効果 [0010] 本発明によれば、視認性と耐衝撃性とを両立させた粘着層付き透明面材および粘着層を提供できる。
(エ) 発明を実施するための形態 [0013][粘着層付き透明面材] ・・・ [0017]〔粘着層〕 粘着層14は、透明面材12を表示パネル104に貼合する際に、透明面材12と表示パネル104とを接着するためのものである。粘着層14は、ダイコート等で透明面材12上に塗布形成されてもよいし、透明面材12とは別にフィルム状に硬化されたものであっても構わない。以下、透明面材12上に設けられた粘着層14について説明する。
[0023] 粘着層14の厚さとしては、厚すぎると視認性に悪影響を及ぼす可能性があり、また、薄すぎると耐衝撃性を十分に発揮できない可能性があるという理由から、30〜2000μmが好ましく、50〜1000μmがより好ましく、
100〜500μmがさらに好ましい。・・・ 4 取消事由1について (1) 相違点αについて ア 容易想到性について (ア) 甲1発明の感圧接着剤非配置部の帯状部分が積層シートの端部に到達している「波状パターン」であることについて、甲1の段落【0035】には、
「波状の例」 として「サインウェーブや疑似サインウェーブ、円弧波等の曲線状のものや、ジグザグ状、三角波等の非曲線状のものが挙げられる」こと及び「波状パターンは、同形または異形の2種以上の波をそれらの位相をずらした状態で、あるいは形状やパターンを反転させる等して、重ねて形成されたものであってもよい」ことが記載されている。
そして、
「サインウェーブや疑似サインウェーブ、円弧波等」のパターンを「位相をずらした状態で、あるいは形状やパターンを反転させ」て「重ねて形成」した場合には、そのような形状の感圧接着剤非配置部の帯状部分に囲まれた感圧接着剤配置部は、
「略円形状」というべき形状になり得るものと解され(その一例として、被告の主張に係る次の中央図参照)「ジグザグ状、三角波等」のパターンを「位相を 、
ずらした状態で、あるいは形状やパターンを反転させ」て「重ねて形成」した場合には、そのような形状の感圧接着剤非配置部の帯状部分に囲まれた感圧接着剤配置部は、「略四角形状」というべき形状になり得るものと解される(その一例として、
被告の主張に係る次の左図参照)。
(イ) また、甲1発明は、感圧接着テープを包含する積層シートの技術分野(同段落【0001】【0095】 、 )において、空気だまり等によって外観品質の低下や接着力の低下がもたらされることを防ぐことを課題とするものであるところ(同【0004】【0005】【0007】等) 、 、 、本件特許出願に係る優先日(平成28年12月20日)よりも前に、共通の技術分野(粘着テープ、粘着シート、粘着製品等)において、気泡等による外観品質の低下や接着力の低下を防止するために、粘着剤 層における粘着剤部分の形状を円形状、四角形状、六角形状とすることは、周知の技術であったと認められる(甲3の段落[0001][0003][0005][0 、 、 、
010]〜[0012][0014][図2]〜[図7] 、 、 、甲5の段落【0001】、
【0004】【0017】【0029】【図10】〜【図12】 、 、 、 、甲6の段落【0001】〜【0007】【0015】【0036】【図2】【図3】 、 、 、 、 、甲7の段落【0001】〜【0003】【0031】【0079】【図1】 、 、 、 、甲11の段落【0001】【0003】【0014】【0030】【図3】 、 、 、 、 、乙3の【0001】【000 、
4】〜【0007】【0018】【図1】 。
、 、 ) なお、上記に関し、本件明細書の【図4】について、それが「略四角形(斜線)」の形状の粘着部を指すものとされ(本件明細書の段落【0166】、
)「略四角形(斜線)」が実施例22とされ(同【0163】【表5】、実施例22を含む「実施例の )粘着テープ」が「何れも一方の面に独立した粘着剤層を複数個持つ」と記載されていること(同【0167】。なお、同段落にいう「粘着剤層」は、その記載内容からして、粘着部と実質的に同義と解される。)からして、本件明細書の【図4】の形状は、本件発明1の「略四角形状」に含まれると解されるところである。
(ウ) 以上によると、甲1の記載及び周知技術を踏まえ、甲1発明において相違点αに係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
イ 原告の主張について (ア) 原告は、甲1発明は、気泡抜けに関して本件発明とは全く異なる技術的思想に基づくもので、
「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」を設けることを技術的特徴とする発明であること、そこでは、気泡は特定の溝の方向に沿ってのみ除去され、
その方向は自ずと溝の形状、配置により決定されるもので、また、
「感圧接着剤配置部」は、
「感圧接着剤非配置部」を設けるべく消極的に設けられているにすぎないこと、したがって、波状パターンの「感圧接着剤配置部」を島状の「略円形状、略四角形状または略六角形状」に変更する動機付けはなく、当該変更をするともはや「帯状部分」の「感圧接着剤非配置部」は形成されなくなって甲1発明の効果を奏し得 なくなるから阻害要因があることを主張する。
しかし、前記ア(イ)のとおり、甲1発明は、感圧接着テープを包含する積層シートの技術分野において、空気だまり等によって外観品質の低下や接着力の低下がもたらされることを防ぐことを課題とするものであるところ、当該課題の解決のためには気泡が除去されることが重要なのであって、それが特定の溝の方向に沿って除去されることはそのために選択された手段にすぎない。この点、甲1発明において、
「感圧接着剤配置部」と「感圧接着剤非配置部」が表裏一体の構成であることは、
甲1の段落【0006】【0010】【0011】等の記載から明らかである。そ 、 、
して、前記ア(ア)で指摘した甲1の段落【0035】の記載自体から、感圧接着剤非配置部の「波状パターン」の形状を変更する動機付けがあるといえ、それにより感圧接着剤配置部が「略円形状、略四角形状または略六角形状」というべき形状になり得ると認められる(なお、同段落の「重ねて形成」という表現について、重ね 「 (る)」という語の意義に反し、原告の主張するように単に平面的に並べて配置することのみを意味するものと解釈すべき事情はない。 にもかかわらず、
) 当該変更をすると甲1発明の効果を奏し得なくなるというべき事情は認められない。
(イ) 前記(ア)の主張に関し、原告は、本件発明1は、「島状」の「略円形状、略四角形状または略六角形状」の接着部(B)を前提とする発明であって、本件明細書の【図4】のような形状は本件発明1の「略四角形状」に含まれない旨を主張するが、請求項1に「略円形状、略四角形状または略六角形状」の接着部(B)が「島状」に構成されるという特定はない。
この点、原告は、請求項1において、単位面積当たりの粘着部(B)の個数が定められていることから、粘着部(B)についてはその個数を数えられるものとの特定がされている旨を主張し、その上で、本件明細書の【図4】の「略四角形状(斜線)」の場合には、5cm×5cmの領域に「含まれる」粘着部(B)を数えることができず、また、形状が同じでないから粘着部の数を数える意味がなく、本件明細書でも実施例22については「粘着部の個数」が「-」 (カウント不能)と記載され ているなどと主張する。
しかし、特定のパターンに従って構成された2以上の粘着部(B)がその間にある粘着部(B)を有しない領域と共に存在する以上、5cm×5cmの領域内における粘着部(B)の個数を数えること自体は一般に可能であるといえる。請求項1には、あくまで「流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に」 「粘着部(B)が10個〜50000個存在」すると記載されているのみで、当該範囲に1個の粘着部(B)の全体が存在しなければならないという定めはなく、原告の上記主張のうち上記領域に「含まれる」粘着部(B)の個数についていう部分は、その前提を欠くものである。また、形状が同じでないことから直ちに粘着部の数を数える意味がないというべき事情も認められない(なお、2以上の粘着部が部分的につながっている箇所がある場合等も本件発明1の「略円形状」に含まれ(本件明細書の段落【0022】、
)それゆえ、単位面積当たりにおける粘着部(B)と粘着部(B)を有しない領域との割合と粘着部の個数との間に厳密な相関関係があるとはみ難い場合も、本件発明1には含まれているとみられるところである。。そして、本件明細書の段落【01 )63】 「粘着部(1個あたり)の面積[mm 2] 【表5】の実施例22について、 」欄及び「粘着部の個数」が「-」とされていることについては、原告が主張するように「カウント不能」であることを示すものと直ちにみるべき事情はなく、前記ア(イ)で指摘した本件明細書の段落【0167】の記載も踏まえると、粘着部の個数を数えること自体は可能であるが、他の実施例における粘着部と比較して各粘着部の面積の差が大きく他の実施例における粘着部と個数をそのまま比較し難いなどと判断されたために「-」とされたものとみることもできるところである。
したがって、本件発明1が「島状」の「略円形状、略四角形状または略六角形状」の接着部(B)を前提とする発明である旨の原告の主張には理由がない。
(ウ) 原告は、甲1発明について、その技術分野は「溝によって空気抜けを行うタイプの粘着テープ」に限定されており、課題の解決もそれを前提としている一方で、
甲3、5〜7及び11に記載された技術は、粘着シートであっても異なる用途に用 いられるもので、解決課題はそれぞれに異なるから、甲1発明に甲3、5〜7及び11に記載された事項を組み合わせることはできない旨を主張する。
しかし、甲1発明と共通の技術分野(粘着テープ、粘着シート、粘着製品等)において、気泡等による外観品質の低下や接着力の低下を防止するために、粘着剤層における粘着剤部分の形状を円形状、四角形状、六角形状とすることが周知の技術であったと認められることは、前記ア(イ)で認定判断したとおりであり、そこで指摘した甲3、5〜7及び11の各段落の記載等に照らしても、甲1発明に当該周知技術を組み合わせることができることは、明らかである。上記周知の技術が認められる上記技術分野からすると、原告の主張は技術分野を過度に狭く解するものであって相当でない。
(エ) 原告が主張するその余の点も、いずれも前記アの認定判断を左右するものではない。
(2) 相違点βについて ア 容易想到性について (ア) 甲1の段落【0030】には、感圧接着剤非配置部16の各帯状部分18a、
「18b、18c、18d(溝26a、26b、26c、26d)の幅は、
・・・凡そ0.1〜5mm(好ましくは0.3〜3mm、より好ましくは0.5〜2mm)の範囲内とすることが適当である」ことが記載され、同【0031】には、
「感圧接着部25a、25b、…、25eの幅(各帯状部分17a、17b、…、17eの幅でもあり得る。)は、・・・1〜100mm(好ましくは2〜50mm、例えば3〜30mm)の範囲内とすることが適当である」ことが記載されているところ、
「感圧接着剤非配置部」の幅を0.3mm、
「感圧接着部」の幅を2mmとした場合、粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲内に存在する「感圧接着部」の個数は、次の計算式のとおり、21.7個と概算することができる(小数点第二位以下四捨五入。甲1の【図1】参照。ただし、
「波状パターン」の場合、幅方向の両端には帯状に連続せず分断された「感圧接着部」が複数生じることとなるから、実際 には上記個数よりは一定数大きな個数となるものと解される。 。
) (計算式) 幅50mm÷(0.3mm+2mm)=21.7個 そうすると、甲1発明の「2以上の部分を有する感圧接着剤配置部」について、
粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に「10個〜50000個存在」する構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
(イ) また、甲3の段落[0025]の実施例1について、同[0027]には、
「粘着剤層2の四角い島状の粘着剤部分2aの一辺の長さは0.5mm、・・・粘着剤部分の面積の割合は56%とした」ことが記載されているところ、粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲内に存在する「粘着剤部分」の個数は、次のとおり、5600個と計算することができる(甲3の[図2]参照)。
(計算式) 50mm×50mm×0.56÷(0.5mm×0.5mm) =5600 このことからも、甲1発明の「2以上の部分を有する感圧接着剤配置部」について、粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に「10個〜50000個存在」する構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
(ウ) したがって、甲1発明において相違点βに係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
イ 原告の主張について (ア) 原告は、相違点βに係る本件発明1の構成は、島状パターンという、5cm×5cmの領域に含まれる粘着部の個数が明確に認識できるものに限って適用できると主張するが、前記(1)イ(イ)で指摘した点からして、上記主張を採用することはできない。また、上記に関し、相違点αについて容易想到でないことを前提とする原告の主張に理由がないことも、前記(1)のとおりである。
(イ) 原告は、甲1発明の「帯状」の「感圧接着剤非配置部」の間に形成された「感圧接着剤配置部」について、5cm×5cmに含まれる個数は観念できないと主張するが、これを採用できないことも、前記(1)イ(イ)及び前記(ア)のとおりである。
また、原告は、甲1の段落【0030】の「感圧接着剤非配置部」の幅の範囲から0.3mmを、同【0031】の「感圧接着部」の幅の範囲から2mmをそれぞれ選び出して組み合わせて21.7個という個数を算出することが恣意的である旨も主張するが、上記各段落において好ましいものとされている範囲の下限をそれぞれ選び出して例とすることは、典型例の一つを検討するものであって、何ら恣意的なものではない。なお、上記各段落に記載された各数値の範囲内において、粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に「感圧接着部」が「10個〜50000個存在」するという構成となる組合せは、他にもあり得るが、前記21.7個が上記構成に係る範囲内に含まれる以上、他の構成を検討するまでもなく、
「10個〜50000個」という範囲をもってする相違点βに係る本件発明1の構成は容易想到であるといえるから、他の組合せについての具体的検討がないことも、何ら取消事由を構成するものではない。
(ウ) 原告が主張するその余の点も、いずれも前記アの認定判断を左右するものではない。なお、原告は、本件明細書の段落【0163】 【表5】の実施例22に係る「-」の記載について、
「カウント不能」と同様の趣旨で「カウントの対象外」であるとも主張するが、そもそも「カウント不能」と「カウントの対象外」は同義とは解されず、
「カウントの対象外」とされる場合にもその理由は様々にあり得るのであって(前記(1)イ(イ)参照)「カウントの対象外」とされたことをもって直ちに実施
例22が本件発明1に含まれないということはできない。
(3) 相違点γについて ア 容易想到性について (ア) 甲1の段落【0071】には、甲1の「感圧接着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(感圧接着剤)から構成された層をいう」ことが記載されている。
(イ) そして、甲8の段落【0021】には、
「粘着剤層に含まれるアクリルオリゴ マーは、ガラス転移点が0℃以下である。ガラス転移点が0℃以下のアクリルオリゴマーを粘着剤層に含むことで、粘着剤層が柔軟になる等して、他の物性との組み合わせで本発明の効果を発現する粘着剤層を実現することができる」との記載があり、同【0034】には、「ガラス転移点については、・・・実際に使用する常温環境において、本発明の効果が発現されるように調整しなければならない。ガラス転移点が高過ぎると、常温での柔軟性が失われ、粘着剤層の表面タックが低下する傾向にあり、粘着剤層がわれてしまう傾向にあり、ガラス転移点が低すぎると物性のバランスが悪くなり、特に柔軟性が低下する傾向にある。特に好ましいガラス転移点の範囲は、他の物性の影響も受けて変動するが、およそ-50℃から5℃である。」との記載があり、同段落【0056】には、「tanδ点は、・・・測定周波数1Hz・・・で測定した値を元にして求め・・・、ガラス転移はtanδの最大値から求めた」との記載がある。なお、証拠(甲18〜20)及び弁論の全趣旨により、
ガラス転移点(ガラス転移温度)とtanδのピーク温度は同義のものと解される。
(ウ) そうすると、前記(ア)のとおり、
「室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈・・・する材料(感圧接着剤)」により構成される甲1の感圧接着剤層の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度については、前記(イ)の「測定周波数1Hz」で測定してtanδの最大値から求められた「ガラス転移点」につき「常温での柔軟性」等を考慮して好ましい範囲であるとされる「およそ-50℃から5℃」の範囲と相応に重なり合う範囲内にあるとみるのが合理的である。
(エ) また、@甲2(乙5)の段落【0043】には、
「粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、-30℃〜20℃であることが好ましく、-20℃〜10℃であることがより好ましく、-10℃〜5℃であることが、
・・・被着体と粘着剤層(b)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下を より効果的に防止できるためより好ましい」という記載があり、同【0129】には実施例として粘着剤層のtanδのピーク温度が0℃の粘着剤層が開示され、A甲9の段落【0027】には、
「再剥離用粘着シートを構成する粘着剤層は、周波数1Hzでの-50℃〜150℃の範囲における損失正接が、-20℃以下の低温域で上に凸状のピークを有し、低温域から中温域にかけて減少し、10〜40℃の中温域で下に凸のピークを有し」ているとの記載があり、同【0028】には、
「損失正接を上記各範囲とすることで、粘着剤に適度な流動性が付与される」との記載があり、B甲10の段落【0018】には、粘着剤組成物に関し、
「炭素数が9個のアルキルアルコールのアクリル酸エステル以外でも、粘着剤のガラス転移点温度が-10℃から5℃の範囲に調節できるモノマーは使用可能である」ことが記載されており、C乙6の段落【0056】には、
「粘着剤層(B)の、周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は、特に限定されるものではないが、-40℃〜15℃であることが好ましく、-20℃〜10℃であることがより好ましく、-10℃〜5℃であることが、
・・・被着体と粘着剤層(B)との界面から気泡を容易に除去することができ、その結果、前記粘着シートの膨れ等に起因した外観不良や、熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい」との記載がある。
その他、空気抜けに関する課題の解決を目的に含むものではないが、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定するための粘着テープに係る乙4の段落【0032】には、
「粘着剤層の周波数1Hzでの動的粘弾性スペクトルの損失正接のピーク温度を20℃以下に調整することが好ましく、-25〜-8℃に調整することがより好ましい」との記載がある。
(オ) 前記(ウ)のとおり、甲1の感圧接着剤層の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度については、およそ-50℃から5℃」 「の範囲と相応に重なり合う範囲内にあるとみるのが合理的であるところ、前記(エ)の各文献における記載も踏まえると、上記損失正接のピーク温度について、上記範 囲のうち特に「-25℃〜5℃」の範囲の外に限定されて「-25℃〜5℃」の範囲を含まないものとは解されず、そのように解すべき他の技術常識も認められない。
したがって、相違点γに係る本件発明1の構成である「-25℃〜5℃」という程度の数値を採用することは、少なくとも当業者が容易になし得ることであるといえる。
イ 原告の主張について (ア) 原告は、本件発明におけるtanδのピーク温度は、本件発明の他の構成、
すなわち粘着部(B)が独立した島状パターンである略円形状、略四角形状又は略六角形状であるという構成及び任意の粘着部(b1)とこれに近接する粘着部(b2)との距離が0.05mm〜0.15mmであるという構成に鑑みつつ、気泡抜けと良好な接着性を両立すべく設定されたものであると主張するが、上記のうち前者の構成に係る相違点αについて容易想到でないことをいう原告の主張に理由がないことは、前記(1)のとおりであり、後者の構成に係る相違点δについて容易想到でないことをいう原告の主張に理由がないことは、後記(4)のとおりであって、それらの構成とともにtanδのピーク温度の範囲が定められていることから前記アの認定判断が相当でないというべき事情は認められない。
(イ) 原告は、甲1の段落【0071】におけるごく一般的な感圧接着剤が有すべき最低限の性質をもって、当業者において、他の文献(甲8)に記載された特定のtanδのピーク温度が甲1発明におけるtanδのピーク温度になると理解することはない、甲8を参照しても、甲1発明の「感圧接着剤配置部」を構成する粘着剤のtanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」の範囲にあるというべき理由はないなどと主張するが、前記アの認定判断は、甲8に記載されたtanδのピーク温度の範囲がそのまま甲1発明におけるtanδのピーク温度の範囲になると当業者において理解することを前提とするものではなく、また、甲1発明の粘着剤のtanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」の範囲に特定されると解するものでもないから、原告の上記主張は、前記アの認定判断を左右するものではない。
(ウ) 原告は、甲1の段落【0071】の記載その他の記載をみても、気泡抜け性との関係で感圧接着剤を選択することは一切記載されておらず、甲1発明について、
気泡抜け性との関係で感圧接着剤を選択するという技術的思想は一切記載されていないから、そのような観点で、甲2、8〜10に記載されたtanδの値を甲1に組み合わせるべき理由はない、気泡抜け性との関係での感圧接着剤の選択に着目して他の文献を参酌するのであれば、少なくとも甲1発明と同様に「帯状部分」 「感 の圧接着剤非配置部」 (溝)を設けることに係る文献でなければならないなどと主張するが、tanδのピーク温度は、粘着剤層それ自体の性質に係るものと解され、溝を設けるか否かによって、一般的に好ましいとされるその範囲が参考とすることもできない程度に大幅に変動するというべき技術常識は認められない。原告の上記主張は、一定の数値範囲内における当業者による目的に応じた適宜の数値の選択に係る問題をいうにすぎないものとみられ、前記アの認定判断を直ちに左右するものとは解されない。なお、相違点γについては、甲1発明及び周知技術により容易に想到できる甲1発明の感圧接着剤層のtanδのピーク温度が「-25℃〜5℃」の範囲となると認められる必要はなく、それが上記範囲と一部でも重なるものと認められれば、相違点γに係る本件発明1の構成が容易想到であるといえるのであって、
この点からも、原告の上記主張には理由がない。その他、甲1発明と前記ア(エ)で指摘した各文献における技術の具体的な差異を理由として相違点γについて容易想到とはいえないという原告の主張は、いずれも同様の理由により採用することができない。
(エ) 原告が主張するその余の点も、いずれも前記アの認定判断を左右するものではない。
(4) 相違点δについて ア 容易想到性について (ア) 甲1発明の感圧接着剤非配置部の幅が「1.0mm」であることについて、
甲1の段落【0030】には、感圧接着剤非配置部の幅は「所望の空気等抜け性と 接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されないが、凡そ0.1〜5mm(好ましくは0.3〜3mm、より好ましくは0.5〜2mm)の範囲内とすることが適当である」と記載され、下限としておよそ0.1mmという数値が示されている。そして、同【0117】【表2】の例1において、「溝の幅[mm]」は「0.1」とされている。
(イ) また、甲3の段落[0016]には、
「隣り合う粘着剤部分2aの隙間(すなわち非粘着剤部分2bの幅)は特に限定されないが、好ましくは0.01〜1mm、
より好ましくは0.01〜0.3mmである」との記載がある。
上記に関し、同[0014]には、甲3の「粘着テープは、非粘着剤部分2bから気泡を逃すこともできる」もので、甲3の「発明は、貼り合わせ時に混入する気泡を追い出し、均一に貼り合わせる事ができるという効果も奏する」ことが記載されており、 [0040] 同 、
[0041] [表1]では、
「非粘着部分2bの幅(mm)」を「0.15」とする実施例3について、
「貼り合わせ後の気泡の抜け易さ」 「〇」 が(気泡を追い出せる。同[0040]参照)とされている。
(ウ) 前記(1)ア(イ)のとおり、甲1発明は、空気だまり等によって外観品質の低下や接着力の低下がもたらされることを防ぐことを課題とするものであるところ、前記(ア)のとおり、感圧接着剤非配置部の幅については「所望の空気等抜け性と接着力とが得られるよう設定すればよく特に限定されない」とされ、前記(イ)のとおり、気泡を追い出す効果についても考慮した技術に関して粘着部分の隙間(非粘着部分の幅)の好ましい下限が0.01mmであることが本件特許出願に係る優先日(平成28年12月20日)よりも前に開示されていたもので、当該下限を甲1発明に適用することに阻害事由があるとも認められないことからすると、甲1発明の感圧接着剤非配置部の幅1.0mmについて、相違点δに係る本件発明1の構成である「0.05mm〜0.15mm」程度のものを採用することは、当業者が容易になし得ることである。
イ 原告の主張について (ア) 原告は、相違点δに係る本件発明1の構成は、島状パターンの略円形状、略四角形状又は略六角形状の粘着部(B)を設けることを前提にしたものであると主張するが、前記(1)イ(イ)で判断したとおり、原告の上記主張を採用することはできない。また、上記に関し、相違点αについて容易想到でないことをいう原告の主張に理由がないことも、前記(1)のとおりである。
(イ) 原告は、本件発明と甲1発明とでは、空気抜けの技術的思想が異なっているから、甲1に記載された「感圧接着剤非配置部」の幅の寸法に基づいて、本件発明1の任意の粘着部(b1)と(b2)の距離の寸法を容易に想到し得るとはいえないと主張するが、前記(1)イ(ア)で指摘した点からして、原告の上記主張はその前提を欠くものである。
また、原告は、甲1の例1について、「気泡抜けレベル」は、「D(被着体への貼り付け後、空気は抜けたが、その抜け具合はかなり遅かった)」であり、溝幅が1.0mmであることを除き同じ条件で作製された例2よりも気泡抜けレベルが更に劣っているところ、甲1発明は発泡体を含むシート状基材を用いているため例1に比べて更に空気の巻き込みが生じやすいと考えられ、甲1発明の溝幅1.0mmを0.1mmにすれば気泡抜けが悪くなることは明らかであるから、甲1発明において溝幅を0.1mmとすることには阻害要因がある、甲1の段落【0011】及び【0013】の記載からすると、甲1において、溝が見えることは、むしろ外観上好ましいと認識されていると主張する。
しかし、甲1の段落【0117】 【表2】において、
「溝の幅[mm]」を「0.1」とする例1については、
「気泡抜けレベル」が「D」とされているが、それは、空気の抜け具合は「かなり遅かった」ものの「空気は抜けた」ことを示すもので(同【0116】参照)、同表でも例1の「気泡抜け性」は「〇」(空気だまりが生じなかったことを示す。同【0116】参照)とされているところである。上記に関し、シート状基材について、厚さ2μm「PETフィルム」 (例1)ではなく厚さ200μmの「PETフィルム/アクリル発泡体」 (例7。同【0112】参照)を用いるこ とから直ちに、感圧接着剤非配置部の幅を0.1mm以下とすると空気だまりの問題が解消されないとみるべき技術常識も認められない。なお、同【0011】及び【0013】の記載からすると、
「外観が制御されている印象」はストライプ状といった「パターン」であることから得られる旨が指摘されていると解されるところ、
甲1発明の感圧接着剤非配置部の幅を変更しても一定の規則的なパターンであることは変更されない。
したがって、
「感圧接着剤非配置部」の幅を1.0mmから0.1mmとした場合に相対的に気泡抜けレベルが低下するといえるとしても、そのことをもって、阻害事由に当たるということはできない。
(ウ) 原告が主張するその余の点も、いずれも前記アの認定判断を左右するものではない。
(5) 相違点εについて ア 容易想到性について (ア) 甲1発明の感圧接着剤層の厚さが「20μm」であることについて、甲1の段落【0088】には、
「感圧接着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる」と記載された上で、
「通常は、乾燥効率等の生産性や接着特性等の観点から、0.5〜200μm程度とすることが適当であり、2〜200μm(例えば5〜100μm、典型的には10〜50μm)程度とすることが好ましい」と記載され、「適当」な厚さの下限として0.5μmという数値が示され、「好ましい」厚さの下限として2μmという数値が示されている。
(イ) また、甲2(乙5)の段落【0054】 (甲2(乙5)の特許請求の範囲の請求項3も参照)には、「粘着剤層(b)」は「厚さ1〜6μmのものを使用することが好まし」いことが記載され、甲3の段落[0017]には、
「粘着剤層1及び2の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.5〜7μmである」と記載されている。
さらに、乙3の段落【0008】には、「粘着剤層の厚さは、・・・1μm以上とすることが適当であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上である」 ことが、乙4の段落【0029】には、
「粘着剤層の厚み・・・が2〜15μm」であることが好ましいことが、乙6の段落【0067】 (乙6の特許請求の範囲の請求項3も参照)には、「粘着剤層(B)」は「厚さ1μm〜6μmのものを使用することが好まし」いことがそれぞれ記載されている。
(ウ) 前記(1)ア(イ)のとおり、甲1発明は、空気だまり等によって外観品質の低下や接着力の低下がもたらされることを防ぐことを課題とするものであるところ、前記(ア)の記載や、気泡の残存の防止を目的とする甲2の技術(甲2の段落【0011】参照)や前記(4)ア(イ)のとおり気泡を追い出す効果についても考慮した甲3の技術その他の技術に関して前記(イ)のとおりの粘着剤層の厚さの範囲が本件特許出願に係る優先日(平成28年12月20日)よりも前に開示されていたもので、当該厚さの範囲を甲1発明に適用することに阻害事由があるとも認められないことからすると、甲1発明の感圧接着剤層の厚さ20μmについて、相違点εに係る本件発明1の構成である「1〜6μm」程度のものを採用することは、当業者が容易になし得ることである。
イ 原告の主張について (ア) 原告は、相違点α、β及びδについて当業者が容易に想到し得ない以上、相違点εについて容易に想到し得るとはいえないと主張するが、それらの相違点について容易想到でないことをいう原告の主張に理由がないことは、前記(1)、(2)及び(4)のとおりである。
(イ) 原告は、本件発明1における粘着剤の厚みは、特定の粘着部配置要件で配置した島状パターンの粘着部(B)についての好適な厚みを規定しているもので、甲1の「波状パターン」の「感圧接着剤配置部」の厚みに基づいて当業者が容易に想到し得ることはないと主張するが、前記(1)イ(ア)及び(イ)で指摘した点に照らし、原告の上記主張には理由がない。
また、原告は、甲1の段落【0117】 【表2】に示された各例からすると、甲1において、感圧接着剤層の厚みは、シート状基材の厚みに合わせて調整して選択し ていることが理解でき、甲1発明(甲1の例7)の感圧接着剤層の厚み20μmを2μmに変更することについても容易想到とはいえない旨を主張するが、前記ア(ア)で指摘した点のほか、同表の例5〜7における感圧接着剤層の厚さとシート状基材の厚さの関係に照らしても、感圧接着剤層の厚みとシート状基材の厚みとが比例関係にあるものでなく、原告の上記主張についてはその前提を認め難い。また、甲1において、感圧接着剤層の厚みとシート状基材の厚みとの間に一定の相関関係がうかがわれるとしても、それが直ちに阻害事由と評価すべき程度の関係であるとは解されない。
(ウ) 原告は、阻害事由の存否に関し、甲1発明において、外観品質の低下との関係で、感圧接着剤層が目立たないことは求められておらず、むしろ、波形パターンとしたことによりこれを視認できることが外観上有利であると考えられていると主張するが、前記(4)イ(イ)で指摘した点のほか、甲1の段落【0011】における「外観が制御されている印象」については、「溝の形成による外観変化の違和感を解消、
軽減するという効果をもたら」すと記載されていることからして、甲1において、
感圧接着剤層やそこにおける波形パターンが視認できることが外観品質を高めるものと評価されているとは解されないから、原告の上記主張を採用することはできない。
(エ) 原告が主張するその余の点も、いずれも前記アの認定判断を左右するものではない。
(6) 本件発明1の効果について 原告は、本件発明1は、気泡の抜けと接着性の両立を図るとともに、外観についても優れた効果を奏するものであること、本件発明1が優れた効果を奏することは明らかであることを主張するが、前記(1)〜(5)で認定判断したとおり、その構成を容易に想到することができる本件発明1について、その効果が予測し得ない顕著なものであるというべき事情は認められない。この点、本件発明1と甲1発明とでは空気抜けのメカニズムが全く異なるため効果を対比できない旨等をいう原告の主張 は、前記(1)イ(ア)及び(イ)で指摘した点に照らし、採用することができない。
(7) まとめ 本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告の主張に係る本件発明3、4、6、8及び9に係る取消事由1(進歩性に関する判断の誤り)は、本件発明1について当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、請求項1の従属項に係る発明である本件発明3、4、6、8及び9も当業者が容易に発明をすることができたものではないとの主張のみをするものであるから、その前提を欠くものであって理由がない。甲1の段落【0100】、
【0110】及び【0112】の記載並びに甲4の段落【0020】及び【0021】の記載からしても、それらについて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの前記第2の3(2)エの本件決定の判断に誤りがあるとはみられない。
したがって、取消事由1は認められない。
結論
以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 中島朋宏
裁判官 勝又来未子