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事件 令和 2年 (ワ) 3297号 特許権侵害行為差止等請求事件
5
原告泉株式会社
同 代表者代表取締役
同 訴訟代理人弁護士山和也
同訴訟復代理人弁護士 清水正憲 10 同訴訟代理人弁理士江間晴彦
同 岡健
同訴訟復代理人弁理士 田村啓
被告 株式会社近畿エデュケーション 15 センター
同 代表者代表取締役
同 訴訟代理人弁護士飯島歩
同 藤田知美
同 三品明生 20 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 25 1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」という。) を製造し、譲渡し、輸入し、貸し渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはな 1らない。 2 被告は、その占有に係る被告製品を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、7963万4080円及びこれに対する令和2年4 月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 第2事案の概要 本件は、発明の名称を「マグネットスクリーン装置」とする各特許(以下「本 件各特許」という。)に係る特許権(以下「本件各特許権」という。)を有する
原告が、被告が本件各特許の各特許請求の範囲請求項1記載の各発明(後記本件 訂正後のものを含む)の技術的範囲に属する被告製品を製造し、譲渡等すること 10 は本件各特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、特許法100条1項及 び2項に基づき、被告製品の製造、譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに、 不法行為(民法709条)に基づく損害賠償7963万4080円及びこれに対 する不法行為の日の後(本訴状送達の日の翌日)である令和2年4月18日から 支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合に 15 よる遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣 旨により容易に認められる事実) (1) 当事者
原告は、産業資材、医療器具等の商品の開発、製造を目的とする株式会社であ 20 る。
被告は、スクリーン及び視聴覚教育資材の製造、販売等を目的とする株式会社 である。 (2) 本件各特許権 ア 原告は、次の本件各特許(以下、順に「本件特許1」などという。)に係 25 る本件各特許権(以下、順に「本件特許権1」などという。)を有している。 本件特許権1 2a 登録番号第6422800号 b 出願日平成27年3月10日 c 公開日平成28年9月15日 d 登録日平成30年10月26日 5e 発明の名称マグネットスクリーン装置 本件特許権2 a 登録番号第6423131号 b 出願日平成29年2月27日 c 公開日平成30年3月15日 10 d 登録日平成30年10月26日 e 発明の名称マグネットスクリーン装置 イ 原告は、令和3年3月29日付けの審判請求書(甲19の1)により、本 件特許1の特許請求の範囲請求項1その他の請求項の記載につき訂正審判の請 求を行い(訂正 2021‐390052 事件)、同手続の中で、一部の訂正事項を削除した 15 (甲26の1・2)。特許庁は、同年9月30日、原告の訂正審判の請求を認め る旨の審決(甲27)をし、同審決は確定した(以下「本件訂正」という。)(弁 論の全趣旨)。 なお、本件訂正前の本件特許1の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、明 細書及び図面を「本件明細書1」という。)の記載、本件特許2の特許請求の範 20 囲、明細書及び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書2」という。)の記 載は、それぞれ添付の各特許公報のとおりである(甲3、4)。 (3) 構成要件 本件訂正後の本件特許1の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件訂 正後発明1」という。 及び本件特許2の特許請求の範囲請求項1に係る発明 ) (以 25 下「本件発明2」という。)の構成要件は、次のとおり分説される(下線部が本 件訂正部分)。 3ア 本件訂正後発明1 1A 可搬式のマグネットスクリーン装置であって、 1B-1 投影面と該投影面に対向するマグネット面とを備えたスクリーンシー ト、および 5 1B-2スクリーンシートを巻き取るためのロール部材を有して成り、 1C 非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう にスクリーンシートがロール部材に巻き取られており、 1D-1 巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように設け られた長尺部材、並びに、スクリーンシート、ロール部材および長尺部材を収納 10 するケーシングを更に有して成り、非使用時並びに巻き出し時および巻き取り時 において、前記ロール部材および前記長尺部材が前記ケーシングに収納されてお り、 1D-2 スクリーンシートの巻き出し時又は巻き取り時において長尺部材が投 影面と直接的に接し、 15 1D-3 ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開 口部を有し、および 1D-4 長尺部材が、該開口部に位置付けられており、かつ、マグネットスクリ ーン装置が設けられる設置面に対して相対的に近い側に位置付けられるロール 部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられていることを特徴とする、 20 1E マグネットスクリーン装置。 イ 本件発明2 2A マグネットスクリーン装置であって、 2B 開口部を有するケーシングと、該ケーシング内に回転自在に設けられたロ ールと、収納時に前記ロールに巻き取られ、使用時に前記ケーシングの前記開口 25 部から巻き出されて設置面に貼り付けされるマグネットスクリーンとを備え、 2C 前記開口部の形成領域に設けられた棒部材を更に有して成り、 42D 前記ケーシングは該ケーシングの表面に磁石を備えており、前記棒部材が 断面視にて該磁石と同一平面上に位置付けられており、および 2E 前記棒部材は、前記開口部の前記形成領域に位置する前記マグネットスク リーンと接触し、それによって、該マグネットスクリーンが前記設置面に接触可 5 能と成っている、 2F マグネットスクリーン装置。 (4) 被告製品の構成については当事者間に争いがあるが、被告製品が、本件訂 正後発明1に係る構成要件 1A〜1C、1D-2、1D-3 及び 1E を充足すること、本件発 明2に係る構成要件 2A〜2C、2E 及び 2F を充足することは当事者間に争いがな 10 い。 (5) 被告の行為等
被告は、平成30年1月頃から被告製品を製造し、複数の販売代理店を介して、 複数の教育機関に対し、被告製品を販売し、輸入し又は譲渡の申出をしている。 2 争点 15 (1) 本件訂正後発明1の技術的範囲への属否(争点1) (2) 本件発明2の技術的範囲への属否(争点2) (3) 本件訂正後発明1の無効理由の有無(争点3) ア 公開特許公報(特開2015−45715 号。平成27年3月12日公開。乙10。 以下「乙10公報」という。)記載の主に請求項2、図3(A)及び図5(A) 20 から把握される発明(以下「引用発明1−1」という。)に基づく本件訂正後発 明1の拡大先願要件違反の有無(争点3−1) イ 乙10公報記載の主に請求項6、図9(A)及び図11(A)から把握さ れる発明(以下「引用発明1−2」という。)に基づく本件訂正後発明1の拡大 先願要件違反の有無(争点3−2) 25 ウ 公開特許公報(特開2015−217642 号。平成27年12月7日公開。乙1 1。以下「乙11公報」という。)記載の発明(以下「引用発明2」という。) 5に基づく本件訂正後発明1の拡大先願要件違反の有無(争点3−3) エ 公然実施発明(引用発明2の実施品である製品名「横引きぺたり2way スクリーン」、品番「ASC−ICT−YS」(乙12・9頁)(以下「乙11 実施品」という。)の構造に係る発明。以下「引用発明3」という。)に基づく 5 本件訂正後発明1の進歩性欠如の有無(争点3−4) (4) 本件発明2の無効理由の有無(争点4) ア 乙10公報記載の主に請求項2、図3(A)及び図5(A)から把握され る発明(以下「引用発明4−1」という。)に基づく本件発明2の新規性及び進 歩性欠如の有無(争点4−1) 10 イ 乙10公報記載の主に請求項6、図9(A)及び図11(A)から把握さ れる発明(以下「引用発明4−2」という。)に基づく本件発明2の新規性及び 進歩性欠如の有無(争点4−2) (5) 損害の発生及びその額(争点5) 第3 争点についての当事者の主張 15 1 本件訂正後発明1の技術的範囲への属否(争点1) (原告の主張) (1) 被告製品の構成
被告製品の構成を本件訂正後発明1の構成要件に即して分説すると、別紙「被 告製品説明書」記載1のとおりである。 20 (2) 構成要件 1D-1 の充足性 ア 「収納」の意義について 「収納」の字義は「物を片づけてしまうこと」であり、「片づける」が「散乱 したものを整える。整理する。」ことを、「しまう」が「入れ納める。片づける。 始末する。」との字義を有することからすると、「収納」は、そもそも、対象物 25 の全てが収納される被対象物の内側にあることまでを意味するものではない。特 に、本件訂正後発明1のケーシングのように開口部が設けられた収容器において、 6「被収容物」は、通常、開口部から視認可能であり、「被収容物」の一部が開口 部から外部に出ている場合であっても、その大部分が収まっていれば「収納」さ れていると評価されるものである。
被告製品の本体ケースは、被告製品を構成する、マグネットスクリーンシート、 5 ロール部材及び押さえローラーの全体を内側に囲むように縁どっているところ、 押さえローラーのアルミ部分はわずかにケース本体からはみ出しているものの、 その大部分はケース本体に存在していることに変わりはないから、これらの各部 材は全てケース本体に内包されている。 イ 被告は、本件訂正後発明1の長尺部材の作用効果に照らし、長尺部材がケ 10 ーシングの内側に位置付けられることが必須である旨を主張する。しかし、従来 は、投影面がマグネット面に対して相対的に内側となるようにスクリーンシート が収納されていたのに対し、本件訂正後発明1は、マグネット面が投影面に対し て相対的に内側となるようにスクリーンシートを収納することで、巻かれていた 時のスクリーンシートのくせを積極的に利用している。その結果、本件訂正後発 15 明1においては、従来と異なり、使用に際し、設置面からより離れた位置からス クリーンシートが巻き出されることとなるが、開口部に位置する長尺部材を設置 面に近接した位置に設けることで、スクリーンシートを設置面に近接した位置で 局所的に抑え込みながら設置することが可能となり、これによって、スクリーン シートが設置面に設置完了した状態において、シート全体が端部(特に長手端部) 20 までピンと張った状態でスクリーンシートを設置面に展張保持できることとな る。このような本件訂正後発明1における長尺部材の作用効果に照らすと、長尺 部材は、開口部付近にあって設置面に近接していれば足りるのであって、長尺部 材がケーシングの内側か外側のいずれに設けられるかということは、長尺部材の 役割とは関連性を有しない。 25 ウ したがって、被告製品は構成要件1D-1 を充足する。 (3) 構成要件 1D-4 の充足性 7ア 「開口部に位置付けられ」の意義について
被告製品の押さえローラーは、スクリーンシートの巻き出し時及び巻き取り時 にスクリーンシートを抑え込む役割を果たすための部材であり、本体ケースの開 口部に位置付けられている。 5イ 被告は、開口部の内側に位置付けられる必要があるなどと限定解釈をする が、前記(2)イのとおり理由がない。 ウ したがって、被告製品は構成要件1D-4 を充足する。 (被告の主張) (1) 被告製品の構成に関する原告の主張のうち、1a〜1c、1d-2、1d-3 及び 1e 10 は認め、その余は否認する。 (2) 構成要件 1D-1 の非充足性 ア 「収納」の意義について
被告製品は、押さえローラーの一部が本体ケースの縁どりの外側に突出してい て収納されていないが、これは単なる設計上の相違ではなく、被告製品がその作 15 用効果を奏するための必須の構成である一方、本件訂正後発明1の作用効果を阻 害するものであるから、本件訂正後発明1の技術的思想との関係において本質的 な相違である。すなわち、被告製品は、押さえローラーの一部が本体ケースの縁 どりの外側に突出していることにより、押さえローラーでマグネットスクリーン シートを設置面に押さえつけた状態でスライドさせ、本体ケースからマグネット 20 スクリーンシートを繰り出しながら順次設置面に押圧して貼り付け ることによ って、マグネットスクリーンシートと設置面との間に気泡が入らないよう貼り付 けることを可能とする作用効果を奏する。一方で、本件訂正後発明1で、長尺部 材がケーシングの開口部の内側に位置付けられるのは、使用に際して巻き出され る又は巻き取られるスクリーンシートを長尺部材によって局所的に抑え込み、ス 25 クリーンシート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態 でスクリーンシートを設置面に展張保持できるようにするためである。長尺部材 8がケーシングの縁どりから外側に突出していると、スクリーンシートを設置面に 貼り付けようとしたときに、所望の長さ分のスクリーンシートを巻き出す前に、 ケーシングから巻き出されたスクリーンシートがすぐに長尺部材に押圧されて 設置面に磁着することから、スクリーンシート全体を端部(特に長手端部)まで 5 ピンと展張保持することができなくなり、作用効果が阻害される。 イ 原告は、「収納」の字義に照らして、対象物の全てが収納される被対象物 の内側にあることまでを意味するものではないとして、被告製品の押さえローラ ーはわずかにアルミ部分がはみ出しているにすぎず、その大部分は本体ケースに 存在しているから「収納」されているなどと主張する。 10 しかし、「収納」には「物をかたづけてしまうこと」の字義があり、「しまう」 の字義である「入れ納める」の「納める」には、「範囲の中にきちんと入れる」 という字義がある。したがって、「収納」には、物を特定の範囲の中にきちんと 入るようにかたづけるという字義がある。また、本件明細書1では、スクリーン シート10、ロール部材20及び長尺部材30のそれぞれの全部が、ケーシング 15 40の内側にあることをもって、「スクリーンシート10、ロール部材20およ び長尺部材30がケーシング40内に収納されている」と表現されているが、こ れは、長尺部材30がケーシング40の内側にあることによって、ケーシングか ら巻き出されたスクリーンシートが長尺部材30によって設置面に押圧される ことがないため、ケーシングから巻き出されたスクリーンシートに張力を与えて 20 シート全体を端部までピンと張るという本件訂正後発明1の技術的思想が実現 されるからである。したがって、本件訂正後発明1において「収納」とは、被収 納物の全部が収納器の内側にあるという意味で用いられている。 仮に、原告の「収納」の意義に関する主張を前提にするとしても、被告製品の 押さえローラーは、その半分以上が「ケーシング」の開口部から外部に出ており、 25 その大部分が「ケーシング」に収まっているとはいえない。すなわち、本件明細 書1において、ケーシング40は「第1サブ・ケーシング40A」と「第2サブ・ 9ケーシング40B」の2パーツで構成されると説明されているから、構成要件 1D- 1 の「ケーシング」にはキャップ(側板)は含まれない。そうすると、被告製品 において、キャップは「ケーシング」を構成しないから、これによって「ケーシ ング」が押さえローラーの全体を内側に囲むように縁どられていることにはなら 5 ない。仮に、キャップが「ケーシング」を構成し、被告製品におけるケース全体 が「ケーシング」に相当すると解するとしても、被告製品は、キャップの縁どり とケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの 半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこれら に「収納」されていない。 10 ウ したがって、被告製品は、収納ケースが押さえローラーを収納しておらず、 構成要件 1D-1 を充足しない。 (3) 構成要件 1D-4 の非充足性 ア 「開口部に位置付けられ」の意義について 前記(2)アのとおり、構成要件 1D-1〜1D-4 の作用効果は、使用に際して巻き出 15 される又は巻き取られるスクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込 まれ、シート全体が端部(特に長手端部)までピンと張った状態でスクリーンシ ートを設置面に展張保持できるというものである。そして、この作用効果を得る ためには、長尺部材がケーシングの開口部の内側に位置付けられるという構成が 必須である。この作用効果からすれば、「開口部に位置付けられ」とは、長尺部 20 材が開口部の内側に位置付けられるものと解される。
被告製品は、長尺部材が本体ケースの開口部から外側に突出しており、開口部 の内側に位置付けられていない。 イ したがって、被告製品は、構成要件1D-4 を充足しない。 2 本件発明2の技術的範囲への属否(争点2) 25 (原告の主張) (1) 被告製品の構成 10
被告製品の構成を本件発明2の構成要件に即して分説すると、別紙「被告製品 説明書」記載2のとおりである。 (2) 構成要件 2D の充足性 ア 「同一平面上に位置付けられ」の意義について 5 「位置付ける」とは、「全体との関連を考えて、ふさわしい位置を定める。」 との字義を有するところ、「存在する」等の用語ではなく、「位置付け(る)」 との用語が用いられていることからすると、 「同一平面上に位置付けられ(る)」 とは、「棒部材」と「磁石」の各「部材」が、本件発明2全体においてふさわし い位置関係にあることを示した記載であると解するのが自然な解釈である。そう 10 すると、棒部材と磁石とが同一平面上にある位置関係とは、各部材のいずれかの 面に限定した同一性をいうのではなく、本件明細書2の記載や本件発明2におけ る各部材の作用効果を考慮して、各部材が同一平面上にあると評価される位置関 係をいうものと解すべきである。 本件発明2の作用効果は、マグネットスクリーンを設置面に押圧しながら貼り 15 付けることで、「浮き」の原因とされる空気が入り込むことを防ぎ、設置面に好 適に貼り付けることを可能とするものである。かかる作用効果は、構成要件 2E の 構成により、ケーシングを移動させてマグネットスクリーンを設置面に設置する 状況において、空気が入り込むことを防ぎ、構成要件 2D の構成により、マグネッ トスクリーンの設置が完了した状況において、空気が入り込むことを防ぎながら 20 設置されたマグネットスクリーンが設置面から剥離するなどして空気が入り込 むことを防ぎ、好適に貼り付けられた状態を維持することによって実現されるも のである。ここで、2E の構成による効果は、棒部材と磁石が同一平面上に位置付 けられているか否かにかかわらず得られるものであり、2D の構成による効果は、 棒部材が、その直下に位置するマグネットスクリーンと接触し、当該棒部材と好 25 適に接触したマグネットスクリーンが、その直下に存在する設置面と好適に接触 することによって得られるものである。また、本件明細書2では、第2磁石を磁 11 着させ、エンドバーを引き出してマグネットスクリーンを設置する使用方法につ いて、設置完了時にケーシングを回転させて第1磁石を磁着させてマグネットス クリーンを抑え込む際に、 「棒部材の自重を利用したものに限られない」として、 さらに棒部材を設置面側に回転させることで設置面に押し付けることを予定し 5 ていることから、本件発明2においては、棒部材と設置面との間にわずかな間隙 があることを予定しているものであって、「同一平面上」とは完全に設置面に接 するとの意味で用いられているものではない。 そうすると、構成要件 2D における、磁石と棒部材とが、断面視にて「同一平面 上に位置付けられ」るとは、棒部材が、その接触するマグネットスクリーンを抑 10 え込むことで、その直下に存在する設置面とマグネットスクリーンを好適に接触 させることが可能な位置に存することをいうと解釈するべきである。
被告製品は、本体ケースを移動してマグネットスクリーンシートを設置してい る途中においては、棒部材を設置面に押圧しながら設置することから、気泡など が入ることなく設置面に設置することを可能とし、また、被告製品の押さえロー 15 ラーは、マグネットスクリーンシートを抑え込むことで、同シートは、設置面と 好適に接触している。そのため、押さえローラーによって、設置されたマグネッ トスクリーンシートが設置面から剥離することが防止され、端部の浮きを防止す ることが可能とされているのであるから、被告製品は、本件発明2の作用効果を 奏するものである。そして、被告製品における押さえローラーは、磁石が磁着し 20 て設置完了した状態で、押さえローラーによって、その接触するマグネットスク リーンシートは抑え込まれ、同シートをその直下に存在する設置面に好適な位置 で接触させているのであるから、設置後に剥離するなどして浮きが生じることは 防止されており、被告製品の押さえローラーは磁石と「同一平面上」に「位置付 けられ」ているものである。 25 イ 被告は、本件発明2の特許請求の範囲等で「同一平面上」と「略同一平面 上」や「略同一平面配置」の用語が明確に使い分けられていることから、「同一 12 平面上に位置付けられ」とは、磁石の磁着面と同一平面上に棒部材が位置してい ることを意味すると解すべきであると主張する。 しかし、本件特許2に係る特許請求の範囲請求項4及び8において「略同一平 面上」との記載があるが、これらは同請求項1の従属項であり、同請求項1は同 5 請求項4及び8より権利範囲が広く、これらを含むことになり、また、本件明細 書2においては、いずれも「略同一平面上」などと記載されていることから、本 件発明2における「同一平面上」とは、「略同一平面上」と同義であるというべ きである。 (3) 以上から、被告製品は構成要件 2D を充足する。 10 (被告の主張) (1) 被告製品の構成に関する原告の主張のうち、2a〜2c、2e 及び 2f は認め、 その余は否認する。 (2) 構成要件 2D の非充足性 ア 磁石は面で磁着するものであるから、「同一平面上」とは、この磁石の磁 15 着面と同一の平面上を指していると解釈するのが自然である。また、構成要件 2D によって得られる作用効果は、ケーシングが磁石によって設置面に保持された際 に、磁石の磁着面と棒部材が同一平面上にあることによって、棒部材がマグネッ トスクリーンを設置面に押圧することになり、マグネットスクリーンの浮きが抑 制されるというものであり、この作用効果を奏するためには、磁石の磁着面(す 20 なわち設置面)と同一平面上に棒部材が位置していることが必要である。さらに、 本件発明2に係る請求項や本件明細書2では、 「同一平面上」 「略同一平面上」 と や「略同一平面配置」との記載があり、これらは明確に使い分けられている。 したがって、「同一平面上に位置付けられ」とは、「同一平面」という文言ど おり、磁石の磁着面と同一平面上に棒部材が位置しているものと解すべきである。 25 被告製品は、磁石が設置面に磁着した際、押さえローラーは設置面から浮いて おり、磁石の磁着面と押さえローラーが同一平面上に位置付けられていない。 13 イ 原告は、本件発明2の作用効果は、マグネットスクリーンを設置面に押圧 しながら貼り付けることで、 「浮き」の原因とされる空気が入り込むことを防ぎ、 接地面に好適に貼り付けることを可能とするものであり、構成要件 2E の構成に より、ケーシングを移動させてマグネットスクリーンを設置面に設置する状況に 5 おいて、空気が入り込むことを防ぎ、構成要件2D の構成により、マグネットスク リーンの設置が完了した状況において、好適に貼り付けられた状態を維持するこ とによって実現されるものであって、被告製品も同作用効果を奏する旨を主張す る。 しかし、被告製品は、ロール部材に巻き取り用のスプリングが内蔵されており、 10 常時スクリーンシートを巻き取る力が発生しているため、装置を回転させて押圧 した後に元の状態に戻した場合、スクリーンシートが巻き取られ、「浮き」が発 生する。仮に、被告製品を設置面の方向へ回転させることでさらにスクリーンシ ートが巻き出され、回転を元に戻した際にスクリーンシートが磁着したまま浮き 上がらないとすると、押さえローラーでスクリーンシートを抑え込むことができ 15 なくなるから、棒部材が接触するスクリーンシートを抑え込むことで、スクリー ンシートを、その直下に存在する設置面にて好適に接触させるという本件発明2 の作用効果は奏しない。 ウ 以上から、被告製品は、構成要件2D を充足しない。 3 乙10公報記載の発明(引用発明1−1)に基づく本件訂正後発明1の拡 20 大先願要件違反の有無(争点3−1) (被告の主張) (1) 乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2、図3(A)及び図5(A)(別 紙「乙10公報抜粋」参照)は、可搬式のマグネットスクリーン1(1a)であっ て、スクリーン層4aと該スクリーン層4aに対向するマグネット層4bとを備 25 えたスクリーン本体4、及び(1b-1)スクリーン本体4を巻き取るための巻取ロ ール3を有して成り(1b-2)、非使用時ではマグネット層4bがスクリーン層4 14 aに対して相対的に内側となるようにスクリーン本体4が巻取ロール3に巻き 取られており(1c)、巻き出される又は巻き取られるスクリーン本体4と接する ように設けられた押さえ部5、並びに、スクリーン本体4、巻取ロール3を収納 する収納ケース2を更に有して成り(1d-1)、スクリーン本体4の巻き出し時又 5 は巻き取り時において押さえ部5がスクリーン層4aと直接的に接し(1d-2)、 ケース本体21はスクリーン本体4の巻き出し及び巻き取りのための開口部2 Bを有し、及び(1d-3)押さえ部5が、該開口部2Bに位置付けられており、か つ、マグネットスクリーン1が設けられる被磁着体90に対して相対的に近い側 に位置付けられる巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接して設けられている 10 ことを特徴とする(1d-4)、マグネットスクリーン1(1e)という発明(引用発 明1−1)を開示している。 引用発明1−1の 1a〜1e の各構成は、本件訂正後発明1の 1A〜1E の各構成要 件とそれぞれ一致するから、引用発明1−1は、本件訂正後発明1の全ての構成 要件を備えている。 15 (2) 原告は、引用発明1−1は、巻き出し時及び巻き取り時において押さえ部 5が収納ケースの外側に出ることから、本件訂正後発明1と引用発明1−1は、 構成要件 1D-1 及び 1D-4 の点で相違する旨を主張する。 しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2には、単に「前記張設され たスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたっ 20 て前記押さえ部によって被磁着体側に向けて押さえ付け得る」とだけ記載されて いる一方、同請求項2に従属する請求項3では、さらなる限定事項として「前記 押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ、」と記載されてい るから、請求項2ではこれ以外の構成、すなわち、押さえ部が収納ケースに対し 移動不可能に取り付けられた構成が実質的に開示されているといえる。仮に、原 25 告が主張するとおり本件訂正後発明1と引用発明1−1が相違するとしても、原 告が主張する「長尺部材がケーシングの内側か外側のいずれに設けられるかとい 15 うことは、長尺部材の役割とは関連性を有しない。」ことを前提とする限り、長 尺部材がケーシングの内側か外側のいずれに設けられているのかに基づくこれ らの相違点は、原告が主張する作用効果に対応した課題の解決に対して無関係の 特徴であって、特許法29条の2で「同一」と評価できる範囲内での微差にすぎ 5 ない。 (3) したがって、本件訂正後発明1は、その特許出願の日前の他の特許出願で あって、その特許出願後に出願公開された乙10公報に記載された引用発明1− 1と同一であるから、本件特許1は無効審判により無効にされるべきものであっ て、原告は、本件特許権1を行使することができない。 10 (原告の主張) 本件訂正後発明1と引用発明1−1とは、構成要件 1D-1 及び 1D-4 の点で相違 する。 すなわち、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 において、長尺部材は「非使用時 並びに巻き出し時及び巻き取り時において、…ケーシングに収納されて」いる。 15 これに対し、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン本体4を巻き出 す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能にし、スクリー ン本体4を傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、被磁着体90 から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5を被磁着体9 0に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取るという技術的 20 思想はない。そして、乙10公報の図1で固定用板18がケースの上方から視認 できていることからすると、巻き出し時及び巻き取り時において固定用板18よ り外側に押さえ部5が位置している第1配置態様では、押さえ部5は、収納ケー ス2より外側にあり、収納ケース2に「収納」されていないことは明らかである。 また、本件訂正後発明1の構成要件 1D-4 によれば、長尺部材は、「ロール部材 25 の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」ていること、つまり、ロール部材の下 側ロール胴部分に隣接した位置から離れないように設置されていることが必要 16 である。これに対し、引用発明1−1において、押さえ部5は、前述したとおり、 設置面である被磁着体90に近接した位置にあると スクリーン本体4が被磁着 体90に磁着しやすく、巻き出し又は巻き取りをスムーズに行い難いし、スクリ ーン本体4の表面に傷が付くことがあるから、巻き出し時又は巻き取り時には押 5 さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配置態様)にする必要がある。す なわち、スクリーン本体4が巻き出される又は巻き取られる際には、押さえ部5 を被磁着体90から離した態様になるよう可動するものであり、押さえ部5が巻 取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置から離れないよう設置されてい るものではない。 10 被告は、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2及び請求項3を根拠に、押 さえ部が可動しないものが実質的に開示されている旨主張するが、請求項2は、 巻き出し時や巻き取り時といった使用時の押さえ部の位置については何ら特定 するものではないし、本件訂正後発明1と引用発明1−1は、技術的思想を異に するものであるから、同請求項が、押さえ部が収納ケースに対し移動不可能に取 15 り付けられた構成を実質的に開示しているとはいえない。 4 乙10公報記載の発明(引用発明1−2)に基づく本件訂正後発明1の拡 大先願要件違反の有無(争点3−2) (被告の主張) 乙10公報記載の特許請求の範囲請求項6、図9(A)及び図11(A)(別 20 紙「乙10公報抜粋」参照)は、被磁着体90に対して着脱自在のマグネットス クリーン1であって(1a’)、スクリーン層4aと該スクリーン層4aに対向す るマグネット層4bとを備えたスクリーン本体4、及び(1b’-1)スクリーン本 体4を巻き取るための巻取ロール3を有して成り(1b’-2)、非使用時ではマグ ネット層4bがスクリーン層4aに対して相対的に内側となるようにスクリー 25 ン本体4が巻取ロール3に巻き取られており(1c’)、巻き出される又は巻き取 られるスクリーン本体4と接するように設けられた可動体24の先端部26、並 17 びに、スクリーン本体4、巻取ロール3の全部を収めることが可能な収納ケース 2を更に有して成り(1d’-1)、スクリーン本体4の巻き出し時又は巻き取り時 において可動体24の先端部26がスクリーン層4aと直接的に接し(1d’-2)、 ケース本体21はスクリーン本体4の巻き出し及び 巻き取りのための開口部2 5 Bを有し、及び(1d’-3)可動体24の先端部26が、該開口部2Bに位置付け られており、かつ、マグネットスクリーン1が設けられる被磁着体90に対して 相対的に近い側に位置付けられる巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接して 設けられていることを特徴とする(1d’-4)、マグネットスクリーン1(1e’) という発明(引用発明1−2)を開示している。 10 引用発明1−2の 1a’〜1e’の各構成は、本件訂正後発明1の 1A〜1E の各構 成要件とそれぞれ一致するから、引用発明1−2は、本件訂正後発明1の全ての 構成要件を備えている。 したがって、本件訂正後発明1は、その特許出願の日前の他の特許出願であっ て、その特許出願後に出願公開された乙10公報に記載された引用発明1−2と 15 同一であるから、本件特許1は無効審判により無効にされるべきものであって、
原告は、本件特許権1を行使することができない。 (原告の主張) 本件訂正後発明1と引用発明1−2は、長尺部材を構成要件に含む、1D-1、1D- 2 及び1D-4 の点で相違する。 20 すなわち、本件訂正後発明1においては、長尺部材とケーシングは別の部材で あることを前提として、長尺部材を必須の構成としている。これに対し、引用発 明1−2においては、可動体24は、収納ケース2の一部であり、可動体24の 先端部26についても同様に、収納ケース2の一部を構成するものである。した がって、引用発明1−2の可動体24の先端部26は、本件訂正後発明1の長尺 25 部材と一致するものではない。 5 乙11公報記載の発明(引用発明2)に基づく本件訂正後発明1の拡大先 18 願要件違反の有無(争点3−3) (被告の主張) 乙11公報記載の特許請求の範囲請求項1、明細書【0007】【0008】【0015】 、、、 図1、図2及び図5(別紙「乙11公報抜粋」参照)には、ガイドレールにスラ 5 イド可能に取り付けられたスクリーン収納用スライド枠5を有する黒板装置で あって(2a)、スクリーン生地11と該スクリーン生地11に対向するマグネッ トシート12とを備えた映写スクリーン7、及び(2b-1)映写スクリーン7を巻 き取るための巻取軸9を有して成り(2b-2)、非使用時ではマグネットシート1 2がスクリーン生地11に対して相対的に内側となるように映写スクリーン7 10 が巻取軸9に巻き取られており(2c)、巻き出される又は巻き取られる映写スク リーン7と接するように設けられたガイドローラ10、並びに、映写スクリーン 7、巻取軸9の全部を収めることが可能なカバー体5bを更に有して 成り(2d- 1) 映写スクリーン7の巻き出し時又は巻き取り時においてガイドローラ10が 、 スクリーン生地11と直接的に接し(2d-2)、カバー体5bは映写スクリーン7 15 の巻き出し及び巻き取りのための開口部を有し、及び(2d-3)ガイドローラ10 が、カバー体5bの開口部に位置付けられており、かつ、黒板装置が設けられる 黒板1に対して相対的に近い側に位置付けられる巻取軸9の下側ロール胴部分 に隣接して設けられていることを特徴とする(2d-4)、黒板装置(2e)という発 明(引用発明2)を開示している。 20 本件訂正後発明1と引用発明2とを比較すると、引用発明2が「ガイドレール にスライド可能に取り付けられたスクリーン収納用スライド枠5を有する黒板 装置」(2a)であり、可搬式ではないのに対し、本件訂正後発明1は「可搬式の マグネットスクリーン装置」(1A)である点が相違しているものの、その余の構 成要件は全て一致している。そうであるところ、本件訂正後発明1と引用発明2 25 は、いずれもマグネット面を外側にしていたことでくせが発生していたという課 題を、マグネット面が内側になるように巻き取るという具体化手段によって解決 19 したものであり、可搬式か否かは、課題解決のための具体化手段における微差に すぎない。したがって、引用発明2は、本件訂正後発明1の全ての構成要件を備 えている。 以上から、本件訂正後発明1は、その特許出願の日前の他の特許出願であって、 5 その特許出願後に出願公開された乙11公報に記載された引用発明2と同一で あるから、本件特許1は無効審判により無効にされるべきものであって、原告は、 本件特許権1を行使することができない。 (原告の主張) 本件訂正後発明1と引用発明2とは、構成要件 1A の点で相違しており、かか 10 る相違点は課題解決手段における微差に該当するものではない。 すなわち、耐久性が要求される据え置き式のマグネットスクリーン装置とは異 なり、可搬式のマグネットスクリーン装置は、筐体や各部材を軽量化し、装置全 体をコンパクトにすることが求められるし、使用時に黒板等の設置面からマグネ ットスクリーン装置が落下しないようにする必要があるなど、設置できるスクリ 15 ーンシートのサイズや材質も据え置き式のスクリーン装置とは異なってくる。ま た、引用発明2では、映写スクリーンの一端部は、設置面である黒板の垂直方向 にほぼ平行に固定されており、上下両ガイドレールに沿ってスクリーン収納用ス ライド枠を横方向にスライドできるようになっている。一方、可搬式のマグネッ トスクリーン装置においては、巻き出し時に設置面に対して、スクリーンシート 20 の上端側と下端側を、常に平行に保って巻き出し又は巻き取ることが困難である ことから、たわんだり、歪んだり、ねじれたりすることなく、スクリーンシート をスムーズに巻き出し又は巻き取る構造を要する。 このように、乙11公報には黒板装置が可搬式タイプのものであるという構成 や技術的思想は何ら開示されていない上、可搬式か据え置き式かで有すべき構造 25 や解決すべき課題が異なる。 6 公然実施発明(引用発明3)に基づく本件訂正後発明1の進歩性欠如の有 20 無(争点3−4) (被告の主張) (1) 乙11公報に係る特許出願人である株式会社青井黒板製作所(以下「青井 黒板」という。)は、その特許出願前から、被告と共同して、引用発明2の実施 5 品である乙11実施品を開発して、販売及び設置をしていた。すなわち、青井黒 板は、被告に対し、乙11実施品の製造及び設置を発注し、被告は、@平成26 年7月23日、岡山県都窪郡<以下略>小・中学校に設置し、A同年9月26日、 茨城県古河市の<以下略>小学校に設置し、B同年11月から平成27年1月頃に かけて、福井県<以下略>内の複数の小中学校に設置した。 10 「公然実施をされた発明」(特許法29条1項2号)とは、その内容が公然知 られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明をいうとこ ろ、乙11実施品の構造等は、キャップを外してその内部を観察することで容易 に認識することができるものであって、当業者であれば、容易にその内容を知り 得たものである。そのため、乙11実施品が販売された時点、又は、遅くともそ 15 れが設置により引き渡された時点で、買主等の不特定多数の者によって自由にそ の内部が観察可能になったといえるから、乙11実施品の構造に係る発明(引用 発明3)は、公然知られるおそれのある状況で実施されたといえる。 したがって、引用発明3は、本件特許1に係る特許出願の前に公然実施された 発明である。 20 (2) 引用発明3の構成は、ガイドレールにスライド可能に取り付けられたス クリーン収納用スライド枠を有するマグネットスクリーン装置(3a)であって、 投影面と該投影面に対向するマグネット面とを備えたシート、及び(3b-1)シー トを巻き取るための巻取軸を有して成り(3b-2)、非使用時ではマグネット面が 投影面に対して相対的に内側となるようにシートが巻取軸に巻き取られており 25 (3c)、巻き出される又は巻き取られるシートと接するように設けられたガイド ローラ、並びに、シート、巻取軸を収納する移動側ケースを更に有して成り(3d- 21 1) シートの巻き出し時又は巻き取り時においてガイドローラが投影面と直接的 、 に接し(3d-2)、移動側ケースはシートの巻き出し及び巻き取りのための開口部 を有し、及び(3d-3)ガイドローラが、移動側ケースの開口部に位置付けられて おり、かつ、マグネットスクリーン装置が設けられる黒板等の板面に対して相対 5 的に近い側に位置付けられる巻取軸の下側ロール胴部分に隣接して設けられて いることを特徴とする(3d-4)、マグネットスクリーン装置(3e)である。 本件訂正後発明1と引用発明3とを比較すると、可搬式であるか否か(構成要 件 1Aと構成 3a)を除いて構成要件 1B-1〜1E と構成 3b-1〜3e がそれぞれ全て一 致する。 10 そうであるところ、引用発明3を可搬式にすることは、本件特許1に係る特許 出願前に当業者が引用発明3に基づいて容易に発明することができたものであ る。すなわち、本件特許1に係る特許出願当時、ケース表面に磁石を備えること で設置面に磁着可能とした可搬式のマグネットスクリーン装置が普及しており 、
同様のマグネットスクリーン装置に関する特許出願や登録実用新案も公開され 15 ていたこと、マグネットスクリーン装置を設置面に固定する据え置き型にするの か可搬式にするのかは、当業者が顧客の希望に応じて適宜選択し得る設計的事項 にすぎなかったこと、本件明細書1には当業者であれば可搬式と据え置き型を変 更することは容易に理解できる旨記載されていることから、マグネットスクリー ン装置を可搬式にすることは当業者の周知慣用技術であった。 20 また、登録実用新案公報(実用新案登録第 3195909 号。平成27年2月12日 発行。乙33)は、ケース2の底面に設けられたケースマグネット7とエンドバ ー4に設けられたマグネット5によって装着全体を黒板等に対して着脱自在と し、ケース2の長手方向の両端に設けられたガイドローラ9を転動させてケース 2をスライドさせることでマグネットスクリーン3を貼り付ける可搬式のケー 25 ス一体型マグネットスクリーンの発明(以下「副引用発明」という。)が開示さ れている。引用発明3と副引用発明は、ともにケース内にマグネットスクリーン 22 を収納したマグネットスクリーン装置であり、技術的分野は同一である。また、 引用発明3と副引用発明は、ともにケースをスライドさせることでマグネットス クリーンを貼り付ける構成であり、作用・機能も共通する。そして、引用発明3 では、装置の長手方向の両端に設けられているブラケットによって装置本体を支 5 持するとともにスライド可能にしているが、これを副引用発明のようにマグネッ ト5、7を用いて装置本体を支持するとともにガイドローラ9を用いてケースを スライド可能にすることによって、レールを使用しない「可搬式」にすることに ついては、特段の阻害事由もなく、それによって特に有利な効果が生じることも ない。 10 したがって、本件訂正後発明1は、引用発明3と副引用発明とに基づいて当業 者が容易に発明をすることができたものである。 (3) 以上から、本件訂正後発明1は、引用発明3と周知慣用技術又は副引用発 明とに基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許 1は特許無効審判により無効にされるべきものであって、原告は、本件特許権1 15 を行使することができない。 (原告の主張) 乙11実施品の構造に係る発明(引用発明3)が公然実施されていたことは争 う。 仮に、引用発明3が、本件特許1に係る特許出願前に日本国内において公然実 20 施されていたとしても、本件訂正後発明1と引用発明3とは、構成要件 1A の点 で相違しており、引用発明3と周知慣用技術又は副引用発明とに基づいて、当業 者が本件訂正後発明1を容易に想到することができたものではない。 すなわち、マグネットスクリーン装置を「可搬式」とする場合には、装置全体 をコンパクトにし、軽量化することが求められるところ、「据え置き型」の装置 25 は、長期間にわたり黒板等に設置された状態のまま使用するため耐久性が求めら れることから、単に「据え置き型」の装置を形式上「可搬式」にしたとしても 、 23 実際「可搬式」として利用することができるものではない。また、本件明細書1 は、「可搬式」であるマグネットスクリーン装置を設置箇所に固定して「据え置 き型」とすることを開示、示唆しているにすぎないし、可搬式のマグネットスク リーン装置に係る特許出願等があったとしても、それは、単に可搬式の同装置の 5 存在を示すにすぎない。したがって、既存の「据え置き型」のマグネットスクリ ーン装置を可搬式に変更することは周知慣用技術とはいえない。 また、引用発明3は、ブラケットで装置全体を支持するとともに、同装置に設 けられたマグネットを備えるストッパーを回転させて、黒板に磁着させることで 固定させる構成である。一方、副引用発明は、スクリーンシートを黒板に設置す 10 る際に、空気の侵入や弛みの発生を防止するため、装置本体とは別に外部に設け られたローラーを用いることを特徴とする。そうすると、装置本体を固定する構 成を有している引用発明3において、あえて、構成すら異なる副引用発明を適用 し、装置本体の底面にマグネットを貼り付けることで固定するという別の構成を 採用する動機付けがない。 15 7 乙10公報記載の発明(引用発明4−1)に基づく本件発明2の新規性及 び進歩性欠如の有無(争点4−1) (被告の主張) (1) 引用発明4−1に基づく新規性の欠如 乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2、図3(A)及び図5(A)は、マ 20 グネットスクリーン1であって(4a)、開口部2Bを有する収納ケース2と、収 納ケース2内に回転自在に設けられた巻取りロール3と、収納時に巻取りロール 3に巻き取られ、使用時に収納ケース2の開口部2Bから巻き出されて被磁着体 90に貼り付けされるマグネット層4bを有するスクリーン本体4とを備え (4b) 開口部2Bの形成領域に設けられた押さえ部5を更に有して成り 、 (4c)、 25 収納ケース2は底壁2aに永久磁石を備えており、スクリーン本体4を被磁着体 90側に押さえ付ける押さえ部5が、スクリーン本体4の浮きを抑制することが 24 できる程度に被磁着体90に近接して位置付けられ(4d)、押さえ部5は、開口 部2Bの形成領域に位置するスクリーン本体4に接触してこれを押さえ付け、押 さえ付けられたスクリーン本体4は被磁着体90に接触している(4e)、マグネ ットスクリーン1(4f)という発明(引用発明4−1)を開示している。 5 引用発明4−1の4a〜4f の各構成は、本件発明2の 2A〜2F の各構成要件とそ れぞれ一致するから、引用発明4−1は、本件発明2の全ての構成要件を備えて いる。 したがって、本件発明2は、その特許出願当時、既に刊行物に記載されていた ものであるから、新規性を欠き、本件特許2は、特許無効審判により無効にされ 10 るべきものであって、原告は、本件特許権2を行使することができない。 (2) 引用発明4−1に基づく進歩性の欠如 仮に、引用発明4−1において、押さえ部が収納ケースに対して移動不可能に 取り付けられた構成が開示されておらず、本件発明2と引用発明4−1とが相違 するとしても、押さえ部を収納ケースに対して移動不可能に取り付けることは、 15 引用発明4−1において押さえ部を移動可能に構成することによる効果(スクリ ーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこと)を放棄して構成 を簡略化するという退歩的な設計変更にすぎないから、当該相違点は当業者が適 宜なし得る設計事項にすぎない。 また、乙11公報には、スクリーンシートを押さえつけて浮きを防止するとい 20 う引用発明4−1における押さえ部と同じ機能を有したガイドローラ10を備 えた引用発明2が開示されているところ、ガイドローラ10はケースに対して移 動不可能に取り付けられているから、引用発明4−1の押さえ部を、引用発明2 に基づいてケースに対して移動不可能に取り付けることは、当業者が容易に想到 し得ることである。 25 したがって、本件発明2は、進歩性を欠き、本件特許2は、特許無効審判によ り無効にされるべきものであって、原告は、本件特許権2を行使することができ 25 ない。 (原告の主張) (1) 新規性について 本件発明2と引用発明4−1とは、構成要件 2C、2D 及び 2E の点で相違してい 5 る。 すなわち、本件発明2では、「棒部材」は「開口部の形成領域に設けられ」た 部材(2C)であるところ、本件明細書2によれば、非使用時並びにマグネットス クリーン50の巻き出し時及び巻き取り時において、棒部材がケーシングの「開 口部の形成領域」から離れない状態で設置されている必要がある。一方、前記3 10 のとおり、引用発明4−1の押さえ部5は可動式であり、開口部2Bからスクリ ーン本体4を巻き出す際又は巻き取る際には、押さえ部5は被磁着体90に近接 させた態様から動かさないという技術的思想がそもそも存在しない。 また、本件発明2では、「棒部材が断面視にて該磁石と同一平面上に位置付け られて」いること(構成要件 2D)、つまり、棒部材が接触するスクリーンシート 15 を抑え込むことで、その直下に存在する設置面にスクリーンシートを好適に接触 させることが可能な位置から動かない状態にあることが必要である。一方、引用 発明4−1の押さえ部5は、前述したとおり可動式のものである。 さらに、本件発明2では、「前記棒部材は、前記開口部の前記形成領域に位置 する前記マグネットスクリーンと接触し、それによって、該マグネットスクリー 20 ンが前記設置面に接触可能と成っている」こと(構成要件 2E)、すなわち、ケー シングを移動させてマグネットスクリーンを設置している途中においては、棒部 材を設置面に押圧しながら設置することが可能な構造であることが必要である 。 一方、引用発明4−1の押さえ部5は、前記のとおり、スクリーン本体4の巻き 出し又は巻き取りの際には、押さえ部5を被磁着体90から離した態様(第1配 25 置態様)に固定するものであり、押さえ部5をスクリーン本体4と接触した状態 で、被磁着体90に押圧しながら設置する構造ではない。 26 (2) 進歩性について 引用発明4−1においては、スクリーン本体の引き出し、巻き取り操作をスム ーズに行うための具体的構成として、押さえ部を移動可能にしてスクリーン本体 を巻き出し又は巻き取る構成しか開示されておらず、かかる構成を採用せずに、 5 敢えて、巻き出し、巻き取りを困難にする構成を採用する動機付けは存在しない。 そのため、引用発明4−1の押さえ部を移動不可能に構成することは設計事項で はない。 また、引用発明2は、ケースを設置面からやや浮かせてレールの上をスライド させてスクリーンを設置するためのものであり、可搬式ではないばかりか、スク 10 リーンシートの巻き出し、巻き取りを容易にするとの引用発明4−1のような課 題を有していない。 8 乙10公報記載の発明(引用発明4−2)に基づく本件発明2の新規性及 び進歩性欠如の有無(争点4−2) (被告の主張) 15 (1) 引用発明4−2に基づく新規性の欠如 乙10公報記載の特許請求の範囲請求項6、図9(A)及び図11(A)は、 マグネットスクリーン1であって(4a’) 開口部2Bを有する収納ケース2と、 、 収納ケース2内に回転自在に設けられた巻取りロール3と、収納時に巻取りロー ル3に巻き取られ、使用時に収納ケース2の開口部2Bから巻き出されて被磁着 20 体90に貼り付けされるマグネット層4bを有するスクリーン本体4とを備え (4b’)、開口部2Bの形成領域に設けられた可動体24の先端部26を更に有 して成り(4c’)、収納ケース2は底壁2aに永久磁石を備えており、スクリー ン本体4を被磁着体90側に押さえ付ける可動体24の先端部26が、スクリー ン本体4の浮きを抑制することができる程度に被磁着体90に近接して位置付 25 けられ(4d’)、可動体24の先端部26は、開口部2Bの形成領域に位置する スクリーン本体4に接触してこれを押さえ付け、押さえ付けられたスクリーン本 27 体4は被磁着体90に接触している(4e’)、マグネットスクリーン1(4f’) という発明(引用発明4−2)を開示している。 引用発明4−2の 4a’〜4f’の各構成は、本件発明2の 2A〜2F の各構成要件 とそれぞれ一致するから、引用発明4−2は、本件発明2の全ての構成要件を備 5 えている。 したがって、本件発明2は、その特許出願当時、既に刊行物に記載されていた ものであるから、新規性を欠き、本件特許2は、特許無効審判により無効にされ るべきものであって、原告は、本件特許権2を行使することができない。 (2) 引用発明4−2に基づく進歩性の欠如 10 仮に、本件発明2には棒部材がケーシングの一部である場合が含まれないと解 釈され、引用発明4−2は先端部がケーシングと一体化されている点において、 本件発明2と引用発明4−2とが相違するとしても、棒部材及び先端部は、いず れもスクリーンシートを設置面側に抑え込むものであり、この作用効果を奏する ことに関して、スクリーンシートを抑え込む部材がケーシングと別体であるか一 15 体であるかという違いは何らの影響も与えない。そうすると、スクリーンシート を抑え込む部材がケーシングと別体であるか一体であるかという相違点は、当業 者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 また、引用発明4−1は、収納ケースとは別部材である押さえ部5を有するも のであるから、引用発明4−2の先端部を、引用発明4−1に基づいて収納ケー 20 スとは別部材とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 したがって、本件発明2は進歩性を欠き、本件特許2は、特許無効審判により 無効にされるべきものであって、原告は、本件特許権2を行使することができな い。 (原告の主張) 25 ア 新規性について 本件発明2と引用発明4−2とは、構成要件 2C、2D 及び 2E の点で相違してい 28 る。すなわち、本件発明2の構成要件 2C、2D 及び 2E は「棒部材」を含むもので あるが、引用発明4−2における可動体24の先端部26は、収納ケース2の一 部であり、本件特許発明2の棒部材と一致するものではない。 イ 進歩性について 5 引用発明4−2は、収納ケース自体の一部を可動体とし、その可動体の先端部 を用いてスクリーン本体を押さえ付けることで、収納ケースのみによって、スク リーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行いつつ、設置完了時に おいてスクリーンシートを磁着面に近接させることができるものである。そうす ると、敢えて、本体ケースのみによって引用発明4−1と同様の作用効果を有す 10 ることとした引用発明4−2において、先端部を別体にする動機付けはないので あって、設計事項とはいえない。 また、引用発明4−2は、本体ケース自体の一部を可動体とし、その可動体の 先端部を用いてスクリーン本体を押さえ付けることで、本体ケースのみによって、 スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行いつつ、設置完了 15 時においてスクリーン本体を磁着面に近接させることができるものであるから、 引用発明4−2に対して、引用発明4−1を組み合わせることは動機付けがなく、 むしろ阻害事由があるものである。 9 損害の発生及びその額(争点5) (原告の主張) 20 (1) 特許法102条2項に基づく損害額の主張
被告は、平成30年1月頃から令和2年3月末日までの間、被告製品を少なく とも7000台販売している。
被告の主要な取引先である販売代理店への被告製品の販売価格の平均単価は、 スクリーンの大きさにより異なるものの、1個当たり6万4584円(消費税込) 25 である。被告の販売会社に対する卸値は、最終販売価格の40%程度とみられる ことを踏まえると、被告製品の販売による売上額の合計は1億8083円 29 (=64,584 円×7000 台×40%)を下らない。
被告製品の利益率は少なくとも40%であるから、上記期間に被告が被告製品 を販売して得た利益は7233万4080円を下らない。 (2) 特許法102条3項に基づく損害額の主張 5 平成30年1月頃から令和2年3月末日までの被告の売上高合計額は4億5 208万8000円(=64,584 円×7000 台)を下らない。
原告が本件訂正後発明1及び本件発明2の実施に対して受けるべき実施料相 当額は、被告製品の売上高合計額に対して5%を乗じた2260万4400円を 下らない。 10 (3) 弁護士・弁理士費用
被告による本件各特許権侵害行為によって、原告は本件訴えを提起することを 余儀なくされたところ、同行為と相当因果関係にある弁護士・弁理士費用は少な くとも730万円が相当である。 (4) 前記(1)と(2)は選択的請求の関係にあることから、損害額の高い(1)の7 15 233万4080円に(3)の730万円を加えた合計7963万4080円及び これに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延 損害金の支払を求める。 (被告の主張) 否認ないし争う。 20 第4 当裁判所の判断 1 本件明細書1及び2の記載(図面については添付の各特許公報参照) (1) 本件明細書1には次の記載がある。 ア 技術分野 「本発明は、スクリーン装置に関する。より詳細には、本発明は、マグネット 25 によって映写用スクリーンシートを設置面に展張保持するマグネットスクリー ン装置に関する。」(【0001】) 30 イ 背景技術 「従来より、会議、学会、講演会および展示会等のプレゼンテーション用にス クリーン装置が用いられている。また、近年では家庭内においてもホームシアタ ー等の映像視聴用にスクリーン装置が用いられている。スクリーン装置は、プロ 5 ジェクター(即ち、投影機又は投射型表示装置)と共に用いられるのが一般的で あり、プロジェクターから投影される像をスクリーンシート上に映し出して使用 される。」(【0002】) 「スクリーン装置としては、マグネット式なるものが存在し、マグネット手段 によってスクリーンシートを展張保持する装置として実用化されている。かかる 10 マグネットスクリーン装置の使用に際しては、巻き出されたスクリーンシートが マグネットの磁力によって壁面などの設置面に保持される。」(【0003】) ウ 発明が解決しようとする課題 「本願発明者らは、鋭意検討の末、マグネットスクリーン装置について更なる 改善点があることを今回見出した。具体的には、使用に際して巻き出されたスク 15 リーンシートを設置面に展張保持した際に“カール”と呼ばれる現象がシートに 生じ、かかるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出す ことができないことが分かった。特に図15に示すように、垂直平面に対して展 張保持されたスクリーンシートの長手端部においては手前側(“プロジェクター 側”)に湾曲した部分(“カール”)が発生し、投影される像がシート端部で局 20 所的に歪んでしまう。」(【0005】) 「特定の理論に拘束されるわけではないが、“カール”は、非使用時のスクリ ーンシートの巻回形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映され ることが要因として考えられる。つまり、ロール部材に巻かれることで長期保持 されたスクリーンシートは、使用に際して巻き出され延ばされたとしても、ロー 25 ル部材に巻かれていた時の形態を依然取り易い傾向を有し、それゆえ、展張保持 されたシートの長手端部が手前のプロジェクター側へと湾曲するものと考えら 31 れる(特に、スクリーンシートの長手端部の中央部分ではカールの程度がより大 きくなる傾向がある。また、水平方向に沿ってスクリーンシートを横に引き出し た場合では、2つの対向する長手端部のうち垂直方向上側に位置する端部で発生 するカールが、その自重に起因して、下側端部のカールよりも大きくなり得る) 」。 5 (【0006】) 「このような“カール”は、短焦点で投影されるプロジェクター(即ち、「短 焦プロジェクター」または「超短焦プロジェクター」)が使用される場合に特に 不都合となり得、“カール”の存在によって映し出される像に“影部分”が生じ てしまう虞がある。」(【0007】) 10 「本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる 課題は、プロジェクターから投影される像をシート端部においても所望に映し出 すことが可能なマグネットスクリーン装置を提供することである。」(【0008】) エ 発明の効果 「本発明に従えば、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを“カール” 15 の発生なく設置面に保持することができ(図14参照)、プロジェクターから投 影される像をシート端部にまで所望に映し出すことができる。つまり、スクリー ンシートの端部で像が歪んだり、影が生じたりせず好適にプロジェクター投影で きる。」(【0017】) 「本発明のマグネットスクリーン装置では「非使用時にマグネット面が投影面 20 に対して相対的に内側となるようにスクリーンシートがロール部材に巻き取ら れている」ので、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局 所的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側(“手前側” と反対の側) となっており、スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように 作用する。それゆえ、ロール部材に巻かれていた時の“くせ”をスクリーンシー 25 トが有する場合であったとしても、それは設置面に貼り付くように好適に作用す るので、スクリーンシートを“カール”の発生なく展張保持できる。 (…」【0019】) 32 オ 発明を実施するための構成 「…図3に示すように、長尺部材30は、ロール部材20の近傍に位置してお り(例えば、長尺部材とロール部材との離隔距離が約1cm〜約15cm程度)、 巻き出される又は巻き取られるスクリーンシート10を局所的に抑え込むよう 5 になっている。特に、投影面側(即ち、シートの樹脂層側)からスクリーンシー ト10を局所的に抑え込むことができるように、ロール部材20に隣接して長尺 部材30が設けられていることが好ましい。尚、図3、図4および図6に示す態 様からわかるように、設置平面に対して平行な面でロール部材を半分割した場合 に設置平面に対してより近い側に位置付けられる半分割ロール部分(図6に示す 10 如くの“下側ロール胴部分”)に隣接して長尺部材30が設けられていることが より好ましい。換言すれば、設置平面に対して平行な面でロール部材を半分割す る面に対してより設置平面側に長尺部材30が位置付けられていることが好ま しい。」(【0030】) 「本発明のマグネットスクリーン装置では、このようにロール部材の“設置面 15 遠位側”からスクリーンシートの巻出し又は巻取りがなされるのに対して、従来 のマグネットスクリーン装置では、ロール部材の“設置面近位側”からスクリー ンシートの巻出し又は巻取りがなされる。…」(【0036】) 「…本発明のマグネットスクリーン装置は、“表側”…に巻出しポイント又は 巻取りポイントが存在する。具体的には、図7に示すように、設置面に設けたマ 20 グネットスクリーン装置につき下側に設置面が位置する一方、上側にロール部材 が位置するものとして規定した場合、ロール部材におけるスクリーンシート巻き 出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイントがロール部材の上側半分 に位置付けられる。ここでいう「巻き出しポイント」とは、スクリーン装置(図 3に示すような長尺部材30を特に設けていないスクリーン装置100)を使用 25 する際、巻き出されるスクリーンシートとロール部材との離別箇所を指している。 一方、「巻き取りポイント」とは、スクリーン装置(図3に示すような長尺部材 33 30を特に設けていないスクリーン装置100)の使用後において、巻き取られ ていくスクリーンシートとロール部材とが互いに接触する箇所を指している。」 (【0037】) 「本発明のマグネットスクリーン装置では、このように“装置表側”…に巻出 5 しポイント又は巻取りポイントが存在するのに対して、従来のマグネットスクリ ーン装置では、 “装置裏側”…に巻出しポイント又は巻取りポイントが存在する。」 (【0038】) カ 本発明のスクリーン装置の具現化態様 「…長尺部材30は、ケーシング40の開口部46に位置付けられている。よ 10 り具体的にいえば、スクリーンシート10の巻出し又は巻取りのためのケーシン グ開口部46に長尺部材30が位置付けられている。換言すれば、長尺部材30 の長手軸がスリット形状のケーシング開口部46の長手軸と互いに整合するよ うに、長尺部材30がケーシング40の開口部46の内側に位置付けられている。 このような構成によって、使用に際して巻き出される又は巻き取られるスクリー 15 ンシートが長尺部材30によって局所的に抑え込まれることになる。 【0048】 」() (2) 本件明細書2の記載 ア 技術分野 「本発明は、マグネットスクリーン装置に関する。」(【0001】) イ 背景技術 20 「従来より、学校施設等内に設置された黒板、ホワイトボード等の黒板類にマ グネットスクリーン装置が用いられている。具体的には、当該黒板類にマグネッ トスクリーンを貼り付け、マグネットスクリーンにプロジェクタから映像を投影 して、授業を進行させる態様が多く採られている。」(【0002】) ウ 発明が解決しようとする課題 25 「…本願発明者らは、従来のマグネットスクリーン装置には以下の改善点があ ることを見出した。具体的には、かかる装置の構成要素であるマグネットスクリ 34 ーンを黒板類等の設置面に貼り付ける際に、マグネットスクリーンの局所領域が 設置面から浮いてしまう問題が生じ得る。特定の理論に拘束されるものではない が、設置面からのマグネットスクリーンの“浮き”はマグネットスクリーンと設 置面との間に空気が入り込むことに起因するものと考えられる。かかるスクリー 5 ンの“浮き”はプロジェクタからの映像を好適に投影できないことにつながる。」 (【0005】) 「…本発明は、マグネットスクリーンを設置面に好適に貼り付け可能なマグネ ットスクリーン装置を提供することを目的とする。」(【0006】) エ 発明の効果 10 「本発明の一実施形態に係るマグネットスクリーン装置によれば、マグネット スクリーンを設置面に好適に貼り付け可能である。従って、プロジェクタからの 映像を好適に投影可能である。」(【0023】) オ 本発明の特徴部分 「本願発明者らは、上記の設置面からのスクリーンの“浮き”に関する技術的 15 課題を解消するために鋭意検討し、本発明を案出するに至った。」(【0036】) 「具体的には、本願発明者らは、図1に示すように当該浮きの発生開始ポイン トであり得るケーシング20の開口部10の形成領域に新たに棒部材60を設 けることを新たに案出した。当該棒部材60(長尺部材に相当)は、マグネット スクリーン50の巻出し又は巻取りのためのケーシング20の開口部10に位 20 置付けられている。…かかる構成によれば、棒部材60は、開口部10の形成領 域に位置するマグネットスクリーン50と接触可能となる。換言すれば、開口部 10に位置するマグネットスクリーン50が、当該棒部材60と接触可能とな る。」(【0039】) 「これにより、マグネットスクリーン50を巻き出して黒板類等の設置面に貼 25 り付ける際に、棒部材60によりマグネットスクリーン50が設置面側の方向と は反対の方向に向かうことを抑制することができる。そのため、マグネットスク 35 リーン50と設置面との間に空気が入り込むことを抑制することができる。つま り、設置面からのマグネットスクリーン50のいわゆる“浮き”を抑制すること ができる。つまり、棒部材60は、“マグネットスクリーン浮き抑制部材”とし て機能する。従って、マグネットスクリーン50を設置面に好適に貼り付けるこ 5 とができる。それ故、プロジェクタからの映像を好適に投影することができる。」 (【0040】) 「…開口部10は、マグネットスクリーン50が巻き出し時に設置面40側の 方向とは反対の方向に向かい始める箇所、すなわち「マグネットスクリーン50 が巻き出し時に設置面40から離隔し始める」箇所であると言えるところ、本発 10 明ではかかる箇所に棒部材60を配置するため、棒部材がケーシング20の外側 領域に設けられる場合と比べて、マグネットスクリーン50が設置面40側の方 向とは反対の方向に向かうことを効果的に抑制することができる。それ故、マグ ネットスクリーン50と設置面40との間に空気が入り込むことを効果的に抑 制することができる。…」(【0041】) 15 「一態様では、ケーシング20Aは、断面視にてその表面に第1磁石81Aお よび第1磁石81Aの延在方向とは異なる方向に延在する第2磁石82Aを備 えており、棒部材60Aが、断面視にて第1磁石81Aと略同一平面上に位置付 けられていることが好ましい(図2参照)。」(【0048】) 「…かかる構成によれば、第1磁石81Aが設置面に貼り付いている状態で、 20 第1磁石81Aと棒部材60Aとの略同一平面配置により、断面視で開口部10 Cに位置するマグネットスクリーン50Aを挟み込むように棒部材60Aを設 置面上に位置付けることができる。これにより、棒部材60Aによって、設置面 に位置するマグネットスクリーン50Aを押圧することが可能となる。 【0050】 」() 2 本件訂正後発明1の技術的範囲への属否(争点1)について 25 (1) 被告製品の構成
被告製品が、別紙「被告製品説明書」記載1の 1a〜1c、1d-2、1d-3 及び 1e の 36 構成を有することは当事者間に争いがなく、証拠(甲5〜7、乙7〜9、35) 及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の形状や構成部材の位置関係等は、 「写 別紙 真目録」の写真のとおりであり、本体ケースは、マグネットスクリーンシートの 巻き出し及び巻き取りのための開口部を有し、同開口部付近に、マグネットスク 5 リーンシートと接するように配置され、キャップ(側板)に支持された押さえロ ーラーが設けられていること、本体ケースの設置面側の表面に磁石を備えている ことが認められる。
被告製品が、本件訂正後発明1の構成要件 1A〜1C、1D-2、1D-3 及び 1E を充足 することは当事者間に争いがない。争いのある同構成要件 1D-1 の充足性(被告 10 製品の押さえローラーが「ケーシングに収納」されているといえるか)、及び、
同構成要件 1D-4 の充足性(被告製品の押さえローラーがケーシングの「開口部 に位置付けられて」いるといえるか)につき、以下検討する。 (2) 構成要件 1D-1 の充足性 ア 「収納」の意義について 15 (ア) 「収納」の字義は「物をかたづけてしまうこと」であり(甲10)、「か たづける」の字義は「散乱したものを整える。整理する。」、「しまう」の字義 は「入れ納める。片づける。」である(広辞苑第7版)。また、「納める」の字 義は、「物事を落ち着けるべき所に落ち着ける。物を特定の場所に入れる。範囲 の中にきちんと入れる。」である(乙6)。そうすると、「収納」は、物を整理 20 して片づける、又は、物を整理して特定の範囲にきちんと入れるという字義を有 しているといえるが、物を完全に特定の場所に入れ込むという字義に限定される とは解されない。 (イ) 本件訂正後発明1に係る請求項のうち、「長尺部材」と「ケーシング」の 位置関係に関する部分は、「スクリーンシート、ロール部材および長尺部材を収 25 納するケーシングを更に有して成り」(1D-1)、「非使用時並びに巻き出し時お よび巻き取り時において、前記ロール部材および前記長尺部材が前記ケーシング 37 に収納されており」(1D-1)、及び「長尺部材が、該開口部に位置付けられてお り」(1D-4)との記載があるのみで、それ以上の特定はなされていない。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)の「収納」の字義、本件訂正後発明1に係る請求項の記載 内容に照らすと、ケーシングに「収納」するとは、長尺部材の全部がケーシング 5 内に完全に収まることを要するものではなく、ケーシングと長尺部材の位置関係 として、ケーシングにしまわれている状態(整然と入れられた状態)を意味し、 少なくとも、ケーシングの開口部を含めたケーシングの内部に長尺部材の大部分 が入れられている状態はこれに当たると解するのが相当である。 (エ) 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーン 10 シートの巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように 配置されている。また、別紙「写真目録」の写真に示されるように、被告製品の 押さえローラーは、本体ケースの内側にその全部が収まっているものではないが、 キャップ(側板)に支持されており、その大部分が本体ケースに覆われているこ とから、構成要件 1D-1 のケーシングに相当する、本体ケース及びキャップにし 15 まわれている状態であるといえる。 したがって、被告製品の押さえローラーは、本体ケース及びキャップに収納さ れていることから、被告製品は、構成要件 1D-1 を充足する。 イ 被告の主張について (ア) 被告は、本件訂正後発明1において、長尺部材がケーシングの開口部の内 20 側に位置付けられるのは、スクリーンシートが長尺部材によって局所的に抑え込 まれ、シート全体に張力を与えて端部(特に長手端部)までピンと張った状態で スクリーンシートを設置面に展張保持できるようにすることを実現するための ものであるところ、長尺部材がケーシングの縁どりから外側に突出していると、 その作用効果が阻害される旨を主張する。 25 そこで、長尺部材の技術的意義について検討する。本件訂正後発明 1 は、マグ ネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来のマグネットスクリーン 38 装置には、使用に際して巻き出されたスクリーンシートを設置面に展張保持した 際に“カール”と呼ばれる現象、すなわち、非使用時のスクリーンシートの巻回 形態が“くせ”として残り、巻き出し後も依然として反映される現象が生じ、か かるカールによってプロジェクターから投影される像を所望に映し出すことが 5 できない技術的課題があった(【0005】〜【0007】)。これに対し、本件訂正後 発明1は、非使用時ではマグネット面が投影面に対して相対的に内側となるよう にスクリーンシートがロール部材に巻き取られている構成にすることによって (【0009】)、スクリーンシートを巻き出した際、そのシート長手端部では局所 的に湾曲しようとする力が働くものの、その湾曲方向は設置面側となっており、 10 スクリーンシートが設置面にむしろ貼り付くように作用し、ロール部材に巻かれ ていた時の“くせ”をスクリーンシートが有する場合であったとしても、それは 設置面に貼り付くように好適に作用するので、スクリーンシートを“カール”の 発生なく展張保持することを可能とした(【0019】)。一方、かかる構成にする ことによって、スクリーンシートの巻出し又は巻取りがロール部材の“設置面遠 15 位側”からなされることになるから(【0036、図6】)、スクリーンシートが設 置面から浮き上がる方向に作用する。すなわち、ロール部材におけるスクリーン シート巻き出しポイント又はスクリーンシート巻き取りポイント(図7。長尺部 材を設けない場合において、スクリーンシートを巻き出し又は巻き取った際のス クリーンシートとロール部材の離別箇所又は接触箇所)がロール部材の上側半分 20 に位置付けられることとなる(【0037】、【0038】)。そこで、長尺部材は、使 用に際して「巻き出される又は巻き取られるスクリーンシートと接するように」、 「開口部に位置付けられ」、「設置面に対して相対的に近い側に位置付けられる ロール部材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ることに より、スクリーンシートを投影面側から設置面側に向かって局所的に抑え込む機 25 能を有するものである(【0030】、【0048】)。長尺部材が前記機能を発揮する ためには、長尺部材がない場合にスクリーンシートが自重や磁着力等により設置 39 面に自然に接する地点よりもロール部材側でスクリーンシートに接する地点に 存すれば足りるといえる。そうすると、長尺部材の技術的意義からみた場合、必 ずしも、長尺部材はケーシングの内側に完全に位置する必要まではないと解する のが相当である。加えて、本件明細書1において、「展張保持」は、スクリーン 5 シートを広げた状態の維持という意で使用されており【0003】【0005】【0019】 (、、 等)、シート全体に張力を与えながらスクリーンシートを張る作業自体を指すも のではないし、同作業を経て張られた状態を指すものでもない。したがって、長 尺部材の技術的意義から、「収納」の意義について長尺部材が必然的にケーシン グの完全な内側に位置づけられることを示すものと解することはできない。 10 また、被告は、本件明細書1には、「本発明のマグネットスクリーン装置10 0では、スクリーンシート10、ロール部材20および長尺部材30がケーシン グ40内に収納されている。より具体的には、ロール部材20に対して巻回保持 されたスクリーンシート1がケーシング40の内部に収められており、かかる巻 回状態のスクリーンシート10に隣接して長尺部材30も同様にケーシング4 15 0内に収められている。」(【0044】)との記載がある旨も指摘する。しかし、 これは、本件特許1に係る発明のスクリーン装置の具体化態様に関するものであ るから(【0042】)、当該記載があるからといって、「収納」の意義が「内部に 収められていること」に限定されることにはならない。 (イ) 被告は、被告製品において、キャップは「ケーシング」を構成しないこと、 20 仮にキャップが「ケーシング」を構成するとしても、被告製品は、キャップの縁 どりとケーシングの縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラ ーの半分以上がはみ出した構造であるから、いずれにしても押さえローラーはこ れらに「収納」されていない旨を主張する。 確かに、本件明細書1では、「ケーシング40が「第1サブ・ケーシング40 25 A」と「第2サブ・ケーシング40B」とから構成されている」(【0044】)と 記載されており、ケーシング40の側面を覆う部材がケーシングに含まれること 40 は明記されていない。しかし、一方で、本件明細書1において、「ロール部材2 0は、その端部がケーシングの内壁に取り付けられており」(【0046】)、「ケ ーシングに取り付けられた突起具48」(【0058】)などとされており、ケーシ ング40の側面を覆う部材がケーシングを構成することを前提とした記載がな 5 されている。また、本件訂正後発明1に係る請求項1は、ケーシングに関し、「ス クリーンシート、ロール部材及び長尺部材を収納するケーシングを更に有して成 り、」、「ケーシングはスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取りのための開 口部を有し、」と記載されているに留まり、開口部を有することを除いて、ケー シングの意義について特段の限定を加えるものではない。そうすると、本件訂正 10 後発明1において、ケーシングとは、スクリーンシート等の部材を外側から覆う 部材であると解するのが相当であり、このうち側面部分についてのみケーシング から除外するべき理由はない。 また、被告は、被告製品を設置面側から観察することを前提として(別紙「写 真目録」の写真4参照)、被告製品について、キャップの縁どりとケーシングの 15 縁どりで構成されるケース全体の縁どりから押さえローラーの半分以上がはみ 出した構造である旨を主張するものと解されるが、同目録の写真1ないし3から すると、被告製品の押さえローラーはケーシング(本体ケース及びキャップを含 む。)の開口部を含めたケーシングの内部に大部分が入れられているものと認め られ、ケーシングにしまわれている状態にあるといえる。押さえローラーがケー 20 シングにしまわれている状態か否かは、投影面側又は設置状態における側面側を 含む被告製品の全体を観察して判断すべきであって、使用状態において視認され ない設置面側からの観察に限定すれば押さえローラーがケーシングから多くは み出しているように見えるからといって、ケーシングにしまわれている状態にな いと判断する合理的理由はない。 25 (ウ) したがって、被告の前記主張はいずれも採用できない。 (3) 構成要件 1D-4 の充足性 41 ア 「開口部に位置付けられ」の意義について 「開口部に位置付けられ」の字義は多義的なものではなく、前記(2)アのとお り、本件訂正後発明1に係る請求項をみても、長尺部材と開口部の位置関係をさ らに特定する記載はない。前記(2)イの長尺部材の技術的意義に照らすと、長尺部 5 材がその機能を果たす位置に存すれば足りることから、「開口部に位置付けられ」 という構成要件に、「開口部の内側に位置付けられ」といった特段の限定等を加 えることにはならない。そうすると、「開口部に位置付けられ」とは、その字義 どおりに解釈するほかないといえる。 前記(1)のとおり、被告製品の押さえローラーは、マグネットスクリーンシート 10 の巻き出し及び巻き取りのための開口部付近に、同シートと接するように配置さ れていることから、被告製品の押さえローラーは、開口部に位置付けられている といえる。 イ したがって、被告製品は、構成要件1D-4 を充足する。これに反する被告の 主張は採用できない。 15 (4) 以上から、被告製品は本件訂正後発明1の技術的範囲に属する。 3 本件発明2の技術的範囲への属否(争点2)について (1) 被告製品が、別紙「被告製品説明書」記載2の 2a〜2c、2e 及び 2f の構 成を有することは当事者間に争いがなく、前記2(1)のとおり、被告製品は、本体 ケースの設置面側の表面に磁石を備えていることが認められる。 20 被告製品が、本件発明2の構成要件 2A〜2C、2E 及び 2F を充足することは当事 者間に争いがない。争いのある同構成要件 2D の充足性(被告製品の押さえロー ラーが磁石と「同一平面上に位置付けられ」ているといえるか)につき、以下検 討する。 (2) 構成要件 2D の充足性 25 ア 「同一平面上に位置付けられ」の意義について 「同一」の字義は「同じであること。別物でないこと。ひとしいこと。差のな 42 いこと。」であり、「平面」の字義は「平らな表面」である(広辞苑第7版)。 本件発明2に係る請求項1は、構成要件 2B により「使用時に前記ケーシング の前記開口部から巻き出されて設置面に貼り付けされるマグネットスクリーン とを備え、」と特定され、構成要件 2D 及び 2E により各構成部材の位置関係を特 5 定しているところ、構成要件2D 及び 2E は、棒部材がケーシングの表面に備えら れた磁石と同一平面上にあることによって、開口部の形成領域において、棒部材 がマグネットスクリーンに接触し、それによって、マグネットスクリーンが設置 面と接触可能となっていること、すなわち、使用時に、開口部の形成領域におい て、開口部から巻き出されたマグネットスクリーンの両面が、棒部材及び設置面 10 とそれぞれ接触可能な位置関係となっていることを示していると解するのが相 当である。 イ 次に、棒部材が磁石と「同一平面上に位置付けられ」ていることの技術的 意義について検討する。 本件発明2は、マグネットスクリーン装置に関する発明であるところ、従来は、 15 マグネットスクリーンを黒板類等の設置面に貼り付ける際に、マグネットスクリ ーンと設置面との間に空気が入り込むことに起因して、マグネットスクリーンの 局所領域が設置面から浮いてしまう問題が生じ、プロジェクタからの映像を好適 に投影できないという技術的課題があった(【0005】)。これに対し、本件発明 2は、前記浮きに関する問題を解消し、マグネットスクリーンを設置面に好適に 20 貼り付け可能なマグネットスクリーン装置を提供することを目的とするもので ある(【0006】、【0036】)。 本件発明2は、浮きの発生開始ポイントであり得るケーシング20の開口部1 0の形成領域に、新たに棒部材60を設けることを特徴としており、かかる構成 により、棒部材60は、開口部10の形成領域に位置するマグネットスクリーン 25 50と接触可能、換言すれば、開口部10に位置するマグネットスクリーン50 が、棒部材60と接触可能となる(【0039】)。これにより、マグネットスクリ 43 ーン50を巻き出して黒板類等の設置面に貼り付ける際に、棒部材60によりマ グネットスクリーン50が設置面側の方向とは反対の方向に向かうことを抑制 し、マグネットスクリーン50と設置面との間に空気が入り込むこと、つまり、 設置面からのマグネットスクリーン50の浮きを抑制することが可能となる 5 (【0040】)。また、本件明細書2において、ケーシングが、断面視にてその表 面に第1磁石81A及びその延在方向とは異なる方向に延在する第2磁石 82 Aを備えており、棒部材60Aが、断面視にて第1磁石81Aと略同一平面上に 位置付けられていることが好ましいとされているところ(【0010】、【0048】)、 かかる構成によれば、第1磁石81Aが設置面に貼り付いている状態で、第1磁 10 石81Aと棒部材60Aとの略同一平面配置により、断面視で開口部10Cに位 置するマグネットスクリーン50Aを挟み込むように棒部材60Aを設置面上 に位置付けることが可能となり、これにより、棒部材60Aによって、設置面に 位置するマグネットスクリーン50Aを押圧することが可能となる 【0050】 。() これらの本件明細書2の記載内容からすると、本件発明2において、棒部材が 15 磁石と「同一平面上に位置付けられ」ていることの技術的意義は、ケーシングの 開口部の形成領域において、マグネットスクリーンは、設置面側とは反対の方向 に向かい始めるところ(図1、図2、【0041】)、ケーシングの表面に備えられ た磁石を設置面に貼り付けた状態において、開口部に位置するマグネットスクリ ーンを挟み込むように開口部の形成領域に設けられた棒部材を設置面上に位置 20 付けることで、すなわち、断視面にて、棒部材と磁石が同一平面上に位置付けら れることで、マグネットスクリーンが設置面側とは反対の方向に向かうことを抑 制し、設置面からのマグネットスクリーンの浮きを抑制することにあると解され る。 ウ 本件特許2に係る出願経過 25 (ア) 証拠(甲17、18の1・2、乙2、36〜38)及び弁論の全趣旨によ れば、本件特許2に係る出願経過として次の事実が認められる。 44 a 本件特許2の出願当初、本件発明2に係る請求項1に該当する請求項の記 載は、「マグネットスクリーン装置であって、開口部を有するケーシングと、該 ケーシング内に回転自在に設けられたロールと、収納時に前記ロールに巻き取ら れ、使用時に前記ケーシングの前記開口部から巻き出されて設置面に貼り付けさ 5 れるマグネットスクリーンとを備え、前記開口部の形成領域に設けられた棒部材 を更に有して成り、前記棒部材は、前記開口部の前記形成領域に位置する前記マ グネットスクリーンと接触可能と成っている、マグネットスクリーン装置。」と いうものであった。 b 特許庁は、平成30年6月27日付けの拒絶理由通知書(甲17)により、 10 原告に対し、前記出願に係る発明は、乙10公報、乙11公報等で開示された発 明に基づき新規性及び進歩性を欠くとの拒絶理由を通知した。 これを受けて、原告は、手続補正書(甲18の2)において、請求項の「前記 棒部材は、前記開口部の前記形成領域に位置する前記マグネットスクリーンと接 触可能と成っている」との記載を「前記棒部材は、前記開口部の前記形成領域に 15 位置する前記マグネットスクリーンと接触し、それによって、該マグネットスク リーンが前記設置面に接触可能と成っている」(構成要件 2E)と補正するととも に、意見書(甲18の1)において、乙11公報には、「ガイドローラ10によ り映写スクリーン7の裏面側を黒板1の表面に近接させる旨は開示されていま すが、ガイドローラ10により映写スクリーン7の裏面側を黒板1の表面に接触 20 させる旨は開示されていないと思料致します。」と主張した。 c 特許庁は、平成30年8月16日付けの拒絶理由通知書(乙36)により、
原告に対し、「棒部材が開口部の形成領域に位置する前記マグネットスクリーン と接触することによって、ケーシングが設定面に保持された場合を含んで常にマ グネットスクリーンが前記設置面に接触可能となるか否かは、ケーシングが設置 25 面に保持された際の棒部材と接地面に保持されたケーシング面との位置関係に よって変化し得ることは当業者に明らかであるので、接地面に対するケーシング 45 の保持面と棒部材との位置関係についての事項が不足していることは明らかで ある」として、前記出願に係る発明は明確性要件に違反するとの拒絶理由を通知 した。 これを受けて、原告は、手続補正書(乙38)において、請求項の「前記開口 5 部の形成領域に設けられた棒部材を更に有して成り、」との記載の後に、「前記 ケーシングは該ケーシングの表面に磁石を備えており、前記棒部材が断面視にて 該磁石と同一平面上に位置付けられており、および」との記載(構成要件 2D)を 追加するとともに、意見書(乙37)において、「かかる補正により、新請求項 1では、ケーシングの表面に供される磁石と、ケーシングの開口部に位置付けら 10 れる棒部材との位置関係が明確に規定されていると思料いたします。これにより、 ケーシングの開口部に棒部材が位置付けられている場合に、マグネットスクリー ンと設置面とが隙間なく接触可能となることが明確であると思料いたします。」 と主張した。 (イ) 前記事実経過に照らすと、原告は、乙11公報の図2(a)(別紙「乙11 15 公報抜粋」参照)のように、映写スクリーン7が、ガイドローラ10より図面左 側では黒板1に接触しているが、ガイドローラ10の直下では黒板1の表面に近 接するのみで接触していない場合を除外することを目的として補正を行い、構成 要件 2E としたのであり、また、構成要件 2D は、構成要件 2E とともに、マグネ ットスクリーン装置のケーシングが設置面に保持された場合における、ケーシン 20 グ表面に備えられた磁石と棒部材との設置面に対する位置関係を特定する構成 要件であり、当初請求項の記載に限定を加えて明らかにするもの、すなわち、少 なくともマグネットスクリーン装置のケーシングが磁石によって設置面に保持 された場合において、棒部材がマグネットスクリーンに接触し、棒部材の直下に おいて、マグネットスクリーンが設置面に接触している状態となることを明らか 25 にするものと解される。 エ 前記ア〜ウに述べた字義、本件発明2に係る請求項や本件明細書2の記載 46 内容、本件発明2の技術的意義、出願経過に照らすと、「同一平面上に位置付け られ」とは、構成要件 2E と併せて、少なくともケーシング表面に備えられた磁石 が設置面に磁着した状態において、棒部材の設置面側がマグネットスクリーンに 接触し、棒部材の直下において、マグネットスクリーンが設置面に接触している 5 状態となることを意味するものと解するのが相当である。 オ 証拠(甲13、乙35)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、磁石が 設置面に磁着した状態において、押さえローラーの設置面側とマグネットスクリ ーンは接触しているものの、押さえローラーの直下において、マグネットスクリ ーンが設置面に接触していないことが認められる。 10 したがって、被告製品の押さえローラーは、磁石と同一平面上に位置付けられ ているとはいえず、被告製品は、構成要件 2D を充足しない。 (3) これに対し、原告は、本件明細書2では、棒部材と設置面との間にわずか な間隙があることを予定していることなどを指摘して、「同一平面上に位置付け られ」るとは、磁石が設置面に磁着した状態において、棒部材が、完全に設置面 15 に接するとの意味ではなく、その接触するマグネットスクリーンを抑え込むこと で、その直下に存在する設置面とマグネットスクリーンを好適に接触させること が可能な位置に存することをいうと解釈するべきである旨を主張する。
原告が指摘するとおり、本件明細書2には、「所定長さケーシング20Bを一 方向に移動させた後、当該ケーシング20Bを断面視にて時計回り又は反時計回 20 りに回転移動させる。当該回転移動により、第1磁石81Bを設置面40Bの所 定箇所に貼り付け可能となる。第1磁石81Bが設置面40Bに貼り付けられる と、第1磁石81Bの磁着力によりケーシング20Bを固定保持することができ る。なお、本態様では、棒部材の自重を利用したものに限定されない。例えば、 ケーシング20Bを一方向に移動させてマグネットスクリーンの巻き出し完了 25 時に、ケーシング20Bを…回転移動させて設置面40Bに対して略垂直な方向 に棒部材60Bを押し付けることがより好ましい。これにより、巻き出したマグ 47 ネットスクリーンの端部における“浮き”をより好適に回避することができる。」 (【0058】)との記載がある(【0066】にも同趣旨の記載がある。)。しかし、 これらの記載は、本件発明2では、開口部の形成領域において、マグネットスク リーンは設置面側の方向と反対の方向に向かい始めることから、巻き出したマグ 5 ネットスクリーンの端部における“浮き”を回避するための押圧の態様として、 棒部材の自重を利用する態様だけでなく、操作者が棒部材を設置面に押し付ける ことにより、“浮き”をより好適に回避する態様があることを指摘したものにす ぎず、第1磁石を設置面に貼り付けた状態で、棒部材の直下においてマグネット スクリーンが設置面に接触している状態を示すものではあっても、棒部材の直下 10 にあるマグネットスクリーンと設置面との間に間隙があることを許容するもの とはいえない。 また、本件明細書2の他の記載内容をみても、磁石が設置面に磁着した状態に おいて、棒部材が、その直下に存在する設置面とマグネットスクリーンを好適に 接触させることが可能な位置に存すれば足り、必ずしもマグネットスクリーンと 15 設置面とが接触している必要はないと解すべき事情はうかがえない。 したがって、原告の前記主張は採用できない。 (4) 以上から、被告製品は、本件発明2の技術的範囲に属さない。 4 乙10公報記載の発明(引用発明1−1)に基づく本件訂正後発明1の拡 大先願要件違反の有無(争点3−1)について 20 (1) 乙10公報は、発明の名称をマグネットスクリーンとする公開特許公報 であり、その特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には次の記載がある(乙10)。 ア 特許請求の範囲 (ア) 請求項2 収納ケースと、前記収納ケースに対し回動自在に取り付けられた巻取りロール 25 と、少なくとも、一方の表面にスクリーン層を有し、他方の表面にマグネット層 を有するスクリーン本体と、前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備 48 え、前記押さえ部の長さは、前記スクリーン本体の幅より大きく設定され、又は 前記スクリーン本体の幅と同一に設定され、前記スクリーン本体の巻き取り方向 の一端部におけるマグネット層側の面が、前記巻取りロールに接合され、前記ス クリーン本体は、マグネット層側を内側にして前記巻取りロールにロール状に巻 5 き取られている収納状態から使用時に引き出されて張設され、前記張設されたス クリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって前 記押さえ部によって被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされているこ とを特徴とするマグネットスクリーン。 (イ) 請求項3 10 前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ、前記押さえ 部は、被磁着体から離れた第1配置態様と、被磁着体に近接した第2配置態様の 少なくとも2つの配置態様を採ることができるものとなされている請求項2に 記載のマグネットスクリーン。 イ 発明の詳細な説明 15 (ア) 発明が解決しようとする課題 「…上記従来のマグネットスクリーン装置は、マグネットスクリーンの特殊コ ート層を内側にして(巻取りロール側に向けて)、即ちマグネットシート層を外 側にして、巻取りロールに捲回されて収納されているので(特許文献1の段落0 010及び図2参照)、巻取りロールに捲回されたマグネットスクリーンを引き 20 出して張設したときに、マグネットスクリーンにおける、引き出し方向と直交す る幅方向の両端部が、カーリングして捲れ上がり、被磁着体(黒板、ホワイトボ ード等)から浮き上がってしまって、マグネットスクリーンの全面を有効面とし て使用することができない上に、見栄え、外観が良好でないという問題があった。」 (【0005】) 25 「本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、マグネットス クリーンの両端部が、捲れ上がることがなくて、被磁着体から浮き上がりを生じ 49 ることなく張設することのできるマグネットスクリーンを提供することを目的 とする。」(【0006】) (イ) 発明の効果 「[2]の発明では、スクリーン本体の巻き取り方向の一端部におけるマグネ 5 ット層側の面が巻取りロールに接合され、スクリーン本体は、マグネット層側を 内側にして巻取りロールにロール状に巻き取られて収納される構成であるから、 使用時にスクリーン本体を引き出して張設したときに、スクリーン本体の両端部 が、捲れ上がることがなくて、スクリーン本体を被磁着体から浮き上がりを生じ ることなく張設することができる。従って、スクリーン本体のスクリーン層の幅 10 方向の両端部も有効面として使用することができると共に、スクリーン本体の張 設時の見栄え、外観も良好である。」(【0018】) 「また、押さえ部の長さは、スクリーン本体の幅より大きく設定され、又はス クリーン本体の幅と同一に設定されているので、張設されたスクリーン本体にお ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって押さえ部によって被磁着 15 体側に向けて押さえ付けることができ、これにより、巻取りロールに近接した部 位をも被磁着体に磁着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、従っ て、張設されたスクリーン本体のスクリーン層の略全面(略全領域)を有効面と して使用することができる。」(【0019】) 「[3]の発明では、押さえ部は、収納ケースに対し移動可能に取り付けられ、 20 押さえ部は、被磁着体から離れた第1配置態様と、被磁着体に近接した第2配置 態様の少なくとも2つの配置態様を採ることができる構成であるから、スクリー ン本体を、巻取りロールに巻き取られている収納状態から引き出す時や、スクリ ーン本体を巻取りロールに巻き取る時に、押さえ部を第1配置態様にすれば、ス クリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うことができる。一 25 方、スクリーン本体を張設したときには、押さえ部を第2配置態様にすることで、 スクリーン本体における巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって押さ 50 え部によって被磁着体側に向けて押さえ付けることができる。」(【0020】) (ウ) 発明を実施するための形態 「張設されたスクリーン本体4における巻取りロール3に近接した部位を幅全 体にわたって押さえ部5によって被磁着体90側に向けて押さえ付けることが 5 できるので(図3(A)参照)、巻取りロール3に近接した部位をも被磁着体9 0に磁着させた状態でスクリーン本体4を張設することができ、これにより、引 き出されたスクリーン本体4のスクリーン層4aの略全面(略全領域)を有効面 として使用することができる。」(【0046】) (エ) 図3(A)及び図5(A)は別紙「乙10公報抜粋」参照。 10 (2) 乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2、図3(A)及び図5(A)や 発明の詳細な説明の内容から、乙10公報は引用発明1−1を開示しているもの と認められる。 (3)ア 本件訂正後発明1と引用発明1−1とを比較すると、引用発明1−1 の 1a〜1eの各構成は、本件訂正後発明1の各構成要件とそれぞれ一致するもの 15 と認められる。 イ これに対し、原告は、引用発明1−1においては、開口部からスクリーン 本体4を巻き出す又は巻き取る際には、スムーズな巻き出し又は巻き取りを可能 にし、スクリーンシートを傷付けることを防止するために押さえ部5を、敢えて、 被磁着体90から離した態様(第1配置態様)で行うものであって、押さえ部5 20 を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体4を巻き出す又は巻き取る という技術的思想はないことを指摘し、@本件訂正後発明1では、長尺部材が「非 使用時並びに巻き出し時及び巻き取り時において、ケーシングに収納されて」 (構 成要件 1D-1)いるのに対し、引用発明1−1においては、押さえ部5が収納ケー ス2に「収納」されていない、A本件訂正後発明1では、長尺部材が「ロール部 25 材の下側ロール胴部分に隣接して設けられ」(構成要件 1D-4)ているのに対し、 引用発明1−1においては、押さえ部5は巻取りロール3の下側ロール胴部分に 51 隣接した位置から離れないよう設置されているものではないとして、引用発明1 −1は、本件訂正後発明1の構成要件 1D-1 及び 1D-4 において相違する旨を主張 する。 しかし、乙10公報記載の特許請求の範囲請求項2において、 「押さえ部」は、 5 「前記張設されたスクリーン本体における前記巻取りロールに近接した部位を …被磁着体側に向けて押さえ付け得るものとなされている」ところ、同請求項2 では、「前記収納ケースに取り付けられた押さえ部と、を備え」と特定されてい るに留まり、収納ケースに対し押さえ部が可動か否かについては記載されていな い。一方、同請求項2に従属する乙10公報記載の特許請求の範囲請求項3では、 10 「前記押さえ部は、前記収納ケースに対し移動可能に取り付けられ」と押さえ部 が可動であることが明記されている。また、乙10公報には、請求項2の発明の 効果として、押さえ部によって、巻取りロールに近接した部位をも被磁着体に磁 着させた状態でスクリーン本体を張設することができ、張設されたスクリーン本 体のスクリーン層の略全面を有効面として使用することができる旨が記載され 15 ている(【0019】)一方、請求項3の発明の効果として、収納ケースに対し移動 可能に取り付けられた押さえ部を移動させ、被磁着体から離れた第1配置態様に することで、スクリーン本体の引き出し操作、巻き取り操作をスムーズに行うこ とができ、被磁着体に近接した第2配置態様にすることで、スクリーン本体にお ける巻取りロールに近接した部位を幅全体にわたって被磁着体側に向けて押さ 20 え付けることができる旨が記載されている(【0020】)。これらの乙10公報の 記載内容に照らすと、引用発明1−1において、押さえ部は、スクリーン本体の 巻取りロールに近接した部位をも被磁着体側に向けて押さえ付けるとの機能を 有し、被磁着体に磁着させた状態で張設されたスクリーン本体の略全面を有効面 として使用することができるとの効果を奏するものとされるのであるから、引用 25 発明1−1には、押さえ部5を被磁着体90に近接させた態様でスクリーン本体 4を巻き出す又は巻き取るという技術思想が表れているといえるし、また、乙1 52 0公報記載の特許請求の範囲請求項2には、押さえ部が移動可能でないものが含 まれると解するのが相当である。そして、乙10公報の図1、2からすると、押 さえ部5を移動可能でないものとした場合において、押さえ部は収納ケース2に 収納されているものと認められる。なお、乙10公報上、実施形態や他の実施形 5 態では、収納ケース又はケース本体に対して押さえ部又は可動体の先端部が可動 なもののみが記載されているが(【0029】)、請求項2との関係においては、付 加的な効果を奏する実施例の一つにすぎず、前記認定を左右するものではない。 以上によれば、引用発明1−1において、押さえ部5が収納ケース2に収納さ れる構成、及び、押さえ部5が巻取ロール3の下側ロール胴部分に隣接した位置 10 に固定して設置された構成を有するものと認められ、本件訂正後発明1の構成要 件 1D-1及び 1D-4 と一致する。 したがって、原告の前記主張は採用できない。 (4) 証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば、乙10公報は、平成25年8 月28日に出願され、平成27年3月12日に公開されたことが認められ、本件 15 訂正後発明1(出願日:平成27年3月10日)は、その特許出願の日前の他の 特許出願であってその特許出願後に出願公開された乙10公報に記載された引 用発明1−1と同一である。 したがって、本件特許1は、拡大先願要件に違反しており、無効審判により無 効にされるべきものであって、原告は、被告に対し、本件特許権1を行使するこ 20 とができない(特許法123条1項、104条の3第1項、29条の2)。 5 結論 以上から、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がな いから棄却することとし、主文のとおり判決する。 25 大阪地方裁判所第21民事部 53 裁判長裁判官 武宮英子 5 裁判官 10 杉浦一輝 15 裁判官 峯健一郎 54 公報省略 (別紙)
被告製品目録 5 名称マグネットスクリーンモバイルケースタイプ(MJ) 型番 MJ−60V MJ−72V MJ−80V 以上 10 55 (別紙)
被告製品説明書 51 本件訂正後発明1の構成要件に即した分説 1a 持ち運びが可能なマグネットスクリーン装置であって、 1b-1 投影面と投影面に対向するマグネット面とを備えたマグネットスクリ ーンシート、および 1b-2 マグネットスクリーンシートを巻き取るためのロール部材を備えてい 10 るものであって、 1c 非使用時ではマグネットスクリーンシートを構成するマグネット面が 投影面に対して相対的に内側になるように、ロール部材に巻き取られており、 1d-1 巻き出される又は巻き取られるマグネットスクリーンシートと接する ように設けられた押さえローラーや本体ケースを備えており、本体ケースは、 15 マグネットスクリーンシート、ロール部材および押さえローラーを内側に囲う ように縁どられており、 1d-2 マグネットスクリーンシートの巻き出し時又は巻き取り時において押 さえローラーが投影面と直接的に接するように構成されており、 1d-3 本体ケースは、マグネットスクリーンシートの巻き出しおよび巻き取 20 りのための開口部を有しており、 1d-4 押さえローラーが、本体ケースの開口部に位置付けられており、か つ、押さえローラーが、当該マグネットスクリーン装置が設けられる設置面で ある黒板等に対して相対的に近い側に位置付けられるロール部材の下側ロール 部材胴部分に隣接して設けられていることを特徴とする、 25 1e マグネットスクリーン装置。 56 2 本件発明2の構成要件に即した分説 2a マグネットスクリーン装置であって、 2b 開口部を有する本体ケースと、当該ケース内に回転自在に設けられたロー ル部材と、収納時にロール部材に巻き取られ、使用時に前記ケースの前記開口部 5 から巻き出されて設置面に貼り付けされるマグネットスクリーンシートとを備 えており、 2c 本体ケースに設けられた開口部の付近に押さえローラーが設けられ、 2d 本体ケースは表面に磁石を備えており、押さえローラーは、断面視にて本 体ケースの表面に供された磁石と同一平面上に位置付けられており、 10 2e 押さえローラーが、本体ケースに設けられた開口部の付近に位置している マグネットスクリーンシートと接触することによって、当該マグネットスクリー ンシートが黒板等の設置面に接触可能となっている、 2f マグネットスクリーン装置。 以上 15 57 (別紙) 乙10公報抜粋 【図1】 【図2】 5 58 【図3】 【図4】 59 【図5】 60 【図9】 【図10】 61 【図11】 以上 62 (別紙) 乙11公報抜粋 【図1】 【図2】 5 63 【図5】 以上 64 (別紙) 写真目録 写真1 5 本体ケース 押さえローラー マグネット固定バー 10 本体ケース 押さえローラー キャップ(側板) 写真2 写真3 マグネットスクリーンシート マグネット固定バー 15 65 写真4 キャップ(側板) 押さえローラー 5 本体ケース 以上 66
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2022/04/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容