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関連審決 無効2000-35213
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ318審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  技術的思想 /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 317号 審決取消請求事件
原告兼脱退原告株式会社呉商承継人 株式会社 サミット
訴訟代理人弁護士 辻公雄
同 阪口徳雄
同 谷口達吉
同 三井雅友
同 向井理佳
同 金藤力
訴訟代理人弁理士 中野収二脱退原告 株式会社 呉商
被告 ダイコク電機株式会社
訴訟代理人弁護士 籏進
同 鈴木誠
同 森田尚男
同 安達実知子
同 加藤厚
同 加藤倫子
訴訟代理人弁理士 佐藤強
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35213号事件について平成14年5月24日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「パチンコ台の表示装置」とする特許第2686497号の特許(昭和62年7月16日出願(以下「本件出願」という。)。平成9年8月22日登録。以下「本件特許」という。発明の数は1であり,請求項の数は3である。)の特許権者である。
被告は,平成12年4月19日,本件特許を無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2000-35213号事件として審理した。
原告は,この手続の過程で,平成12年8月11日及び平成13年2月9日に本件特許の特許請求の範囲の訂正を含む訂正請求(以下,これらを併せて「本件訂正」という。)をした。
特許庁は,平成14年5月24日に,「訂正を認める。特許第2686497号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年6月5日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(請求項1) (1) 本件訂正前 「パチンコ台毎に取付けられその台の作動状況等を表示するパチンコ台の表示装置において, 文字,図形を表示する表示板と,ランプと,呼出しスイッチと,制御装置とを一つの筺体に装着する一方,前記制御装置は複数の表示内容を記憶するメモリと,CPUとを備え,前記CPUはパチンコ台および呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムを前記メモリから読出して前記表示板およびランプに表示させることを特徴とするパチンコ台の表示装置」 (2) 本件訂正後(下線部が訂正個所である。) 「パチンコ台と別体の一つの筺体を備え,パチンコ台毎に取付けられその台の作動状況等を表示するパチンコ台の表示装置において, 文字,図形を表示する表示板と,ランプと,呼出しスイッチと,制御装置とをパチンコ台と別体の一つの筺体に装着する一方,前記制御装置は複数の表示内容を記憶するメモリと,CPUとを備え,前記CPUはパチンコ台および呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムを前記メモリから読出して前記表示板およびランプに表示させることを特徴とするパチンコ台の表示装置。」(以下,審決と同じく「本件発明」という。) 3 審決の理由の要点 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,実公昭58-46866号公報(審判及び本訴における甲第4号証。以下「甲4文献」という。)に記載された発明(以下「甲4発明」という。)と特開昭56-75186号公報(審判甲第2号証・本訴甲第5号証。以下「甲5文献」という。)に記載された発明(以下「甲5発明」という。)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本件発明と甲4発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「パチンコ台と別体の一つの筺体を備え,パチンコ台毎に取付けられその台の作動状況等を表示するパチンコ台の表示装置において,文字・図形を表示する表示板と,ランプと,呼出しスイッチとをパチンコ台と別体の一つの筺体に装着する一方,CPUは呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させることを特徴とするパチンコ台の表示装置」 (相違点) (1)「本件発明の制御装置は,複数の表示内容を記憶するメモリと,CPUを備え,CPUはパチンコ台および呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムをメモりから読出して表示板およびランプに表示させるのに対し,甲第4号証記載の発明(判決注・甲4発明)のCPUは,呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる点」(以下「相違点1」という。) (2)「本件発明の制御装置が,パチンコ台と別体の一つの筺体に装着されるのに対し,甲第4号証記載の発明は,各パチンコ台に共通な制御装置であるCPUがカウンターにある点」(以下「相違点2」という。)
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件発明と甲4発明との相違点を看過したのみならず,自らが認定した本件発明と甲4発明との相違点についての判断においても,誤りを犯したものであって,上記各誤りが,それぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 相違点の看過 (1) 一致点の認定の誤りによる相違点の看過 審決は,甲4文献に,「各パチンコ機台P毎の上方に取付けられ,呼び出し用表示部3,打止め指令に基づいて文字表示する文字表示部4と,呼び出し用表示ランプ11,文字表示用ランプ12と,呼び出し用スイッチ2とを備えた各パチンコ台Pと別体の表示ランプ本体1であって,前記呼び出しスイッチ2を押すことにより,呼び出し用表示ランプ11を点灯し呼び出し用表示部3に表示すると共に,カウンターのコンピュータ6を作動して上記文字表示部4にパチンコ機の打ち止めの文字を表示するパチンコ機用表示ランプ」(審決書5頁33行〜39行)が記載されている,と認定し,この認定に基づき,「CPUは呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる」点を本件発明と甲4発明との一致点として認定した。
しかし,甲4文献は,上記一致点に係る構成を開示していない。審決の上記認定は誤りである。
ア 甲4文献の呼出しスイッチ2は,CPUに対して作動状況を示す信号を入力していない。呼出しスイッチは,表示用ランプ11を点灯させるものであるにすぎない。
甲4文献中の配線図(第3図。別紙図面1参照)に記載されたパチンコ機no.1〜no.4についてみると,no.1は動作していない状態,no.2は「呼出しスイッチ2」を押した状態(接点18’が閉じ,電源16からの電流によりランプ11を点灯する。),no.3は「コンピュータ6」からの打止信号により補給打止切換用リレー13を作動することにより情報表示ランプ12,12を点灯して文字表示部4に文字を写し出す状態であり,no.4は「スイッチ2」と「コンピュータ6」の両方が作動した複合状態である。いずれの状態においても,呼出しスイッチ2はCPU6に対して作動状況を示す信号を入力していない。
イ 甲4文献中には,「遊技場によっては打止めの操作をしないところもあるので,このような場合には,パチンコ機に故障などがあって遊技者がスイッチ2を押して呼び出し用表示ランプ11が点灯し呼び出し用表示部3,3に表示されると同時に,カウンターに伝達されコンピュータ6を作動して文字表示用ランプ12,12’を点灯して文字表示部4に,この場合には,しばらくお待ち下さいという意味の表示をして遊技者がその間いらいらした感情を起こさせないようにするものである」(甲第4号証2頁4欄6行〜15行。以下,審決が付した符号に従い,「記載D」という。)との記載がある。
しかし,上記記載からは,「カウンター」に向けて何かが伝達されることを把握することができるにすぎない。このような記載だけでは,呼出しスイッチ2からコンピュータ6に信号が入力されている,と認めることはできない。
甲4文献の技術は,パチンコ機no.2において,スイッチ2を押すことにより呼び出し用表示ランプ11,11を点灯状態に置いた場合を示していることから分かるとおり,スイッチ2を押しただけでは,コンピュータ6(CPU)は作動せず,これが情報表示ランプ12,12を点灯状態に置くことはない(文字表示部4による表示を行わない)ものである。記載Dは,遊技者がスイッチ2を押すと,常に必ず島上の代表ランプ5が点灯状態に置かれるので,これが店員に伝達され,店員によりコンピュータ6が操作される,という意味である。
ウ 甲4文献中には,「パチンコ機no.4のように,そのパチンコ機に球が出なくなって遊技者は呼び出しスイッチ2を押しそのために呼び出し用表示ランプ11が点灯して呼び出し用表示部3,3にこれを表示されると同時に,コンピュータ6からの打止め指令が発せられて,no.3と同様に情報表示部4にその字句が写し出されるものである」(甲第4号証3欄43行〜4欄5行。以下,審決が付した符号に従い,「記載C」という。)との記載がある。
この記載は,以下@,Aのいずれかの意味であると解釈すべきである。
@ パチンコ機no.4は,コンピュータ6により球が出ない「打止め」の状態とされており,コンピュータ6の打止め指令によりリレーコイル17が励磁され,文字表示ランプ12,12が点灯状態に置かれることにより文字表示部4が写し出された状態とされている。このため,球が出ない(打止め)ことを不満に思う遊技者がスイッチ2を押すと「「スイッチ2⇒呼び出し用表示ランプ11,11の点灯」という状態ができあがる。
A 球が出ないこと(故障)を不満に思う遊技者がスイッチ2を押すと,島上の代表ランプ5が点灯状態に置かれるので,店員が確認して,カウンターに設置されたコンピュータ6を操作することにより,文字表示ランプ12,12を点灯させ,文字表示部4に文字を写し出すことができる。
エ 以上のとおり,甲4文献の技術は,「スイッチ2⇒呼び出し用表示ランプ11,11の点灯」と,「コンピュータ6(打止め時の打止指令又は店員による操作)⇒文字表示用ランプ12,12の点灯」という2系統を並設したにすぎない構成のものである。
甲4文献に記載された技術は,スイッチ2を押すことにより何らかの信号をコンピュータ6(CPU)に入力する,というものではない。審決の上記一致点の認定は誤りであり,審決は,相違点とすべきところを一致点と認定することにより,相違点を看過している。
オ 被告は,記載Dの動作の実現は,その回路中に呼び出しスイッチ2とコンピュータ6とをつなぐ配線を追加するのみで可能であり,当業者であれば,コンピュータ6が呼び出しスイッチ2からの出力信号を受けて作動する構成になっていると容易に理解することができる,スイッチ2とコンピュータ6とをつなぐ配線構成は,乙第2号証(実願昭58-31160号(実開昭59-137776号)のマイクロフィルム。以下「乙2文献」という。)及び乙第3号証(特開昭60-129067号公報。以下「乙3文献」という。)にも示されるように当業者に自明のことである,甲4文献の第3図は,スイッチ2とコンピュータ6とをつなぐ配線の記載を省略したものにすぎない,と主張する。
しかしながら,乙2文献においては,押釦5を押しても信号が集中管理器Eに送られるだけであり,店員等のオペレータが手動により台番をテン釦6で指定して点検釦8を押さなければ作動しない。また,乙3文献においては,スイッチ26につながれるべきメイン基板40は,パチンコ台列を構成する島11に設けられたものであり,管理室12に設けたコンピュータではない。乙2,3文献を参酌しても,甲4文献において,スイッチ2を押せばカウンターに設置したコンピュータ6が配線でつながれて作動するという技術思想には,全く想到することができない。
(2) その他の相違点の看過 審決は本件発明と甲4発明との次の相違点をも看過した。
ア 本件発明は,遊技者が望む表示を行うための表示装置を提供することを目的とするものであるのに対して,甲4発明は,遊技場の運営維持を目的とするものである点(以下「相違点A」という。)。
イ 甲4発明のコンピュータは,遊技場の営業上必要なすべての機能を備えたホールコンピュータであるのに対して,本件発明のメモリとCPUを備えた制御装置は,専ら遊技者が望んでいるパチンコ台ごとの作動状況等を表示板及びランプに表示させる機能のみを有する点(以下「相違点B」という。) 2 相違点についての判断の誤り (1) 甲4発明と甲5発明とを組み合わせることの容易性についての判断の誤り 審決は,本件発明の推考容易性について,結論として,同発明は,甲4発明と甲5発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,と判断した。しかし,この判断は誤りである。
ア 甲4発明と甲5発明とは,表示装置に表示する目的及び内容を異にする技術であるから,そもそも,両発明を組み合わせること自体に推考容易性がない。
イ 甲4発明は,コンピュータ6から打止め信号を「表示ランプ」に入力するものである。甲5発明の「制御装置25」は,中央制御装置(ホールコンピュータ)である総合管理用コンピュータ54の端末機として使用されている。甲4発明と甲5発明とのいずれにおいても,表示を行うための装置は,中央制御装置により制御されるように接続されることが必須要件とされている。このように表示装置に接続する中央制御装置を必要とする甲4発明と甲5発明とをいかに組み合わせても,本件発明のような「表示に際して中央制御装置などが不要でシステムが非常に簡単で安価になる」という目的及び効果を奏する表示装置を得ることはできない。
(2) 相違点1についての判断の誤り 審決は,本件発明と甲4発明との相違点の一つ(「本件発明の制御装置は,複数の表示内容を記憶するメモリと,CPUを備え,CPUはパチンコ台および呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムをメモりから読出して表示板およびランプに表示させるのに対し,甲第4号証記載の発明のCPUは,呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる点」。相違点1)について,「甲第2号証(判決注・甲5文献)には,パチンコ台の作動状況等を表示する表示装置として,複数の表示内容を記憶するメモリと,CPUとを備え,前記CPUはパチンコ台から入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムを前記メモリから読出して表示板およびランプに表示させることが記載され,甲第4号証記載の発明(判決注・甲4発明)もパチンコ台の作動状況等を表示板に表示するものであるから,その作動状況等の出力をパチンコ台からのものとして,甲第2号証(判決注・甲5文献)に記載の制御装置を用い,その際,呼出しスイッチから入力され作動状況を示すCPUを介してランプに表示(点灯)することは当業者が容易に想到し得るものである」(審決書8頁8行〜16行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
甲4発明の呼出しスイッチが電流開閉用のものであって,CPUに接続されていないことは,1で述べたとおりである。
甲5発明がCPU26とプログラムメモリ27とを備えた制御装置25を有しているとしても,同発明は,本件発明の「呼出しスイッチ」に相当するものを全く開示していない。何ら呼出しスイッチを有しない甲5発明と,単なる電流開閉用の呼び出し用スイッチ2を開示するにすぎない甲4発明とを組み合わせたとしても,甲5発明におけるもののような制御装置の外部に,甲4発明におけるもののような電流開閉用の呼び出し用スイッチを併設した構成に想到することができるにとどまり,本件発明のように,CPUに作動状況を示す信号を入力することにより作動状況に対応する表示内容を示すプログラムをメモリから読出して表示させる「呼出しスイッチ」の構成に想到することは到底できない。
(3) 相違点2についての判断の誤り 審決は,本件発明と甲4発明との相違点の一つ(「本件発明の制御装置が,パチンコ台と別体の一つの筺体に装着されるのに対し,甲第4号証記載の発明(判決注・甲4発明)は,各パチンコ台に共通な制御装置であるCPUがカウンターにある点」。相違点2)について,「甲第2号証に記載の発明(判決注・甲5発明)は,表示板(モニタ表示器)やランプ(打止め表示器)およびその制御装置はパチンコ台に設けられ,表示装置として独立して存在しないとしても,これらは一台のパチンコ台毎に設けられ,それぞれのパチンコ台に対して個別に表示制御するものであるから,甲第4号証記載の発明(判決注・甲4発明)のように,パチンコ台とは別体の一つの筐体を備えパチンコ機毎に取り付けられる表示装置においては,その表示を制御する制御装置を一つの筐体に設けることは当業者が容易に想到し得るものである」(審決書8頁18行〜24行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
甲4発明は,複数の表示内容を記憶するメモリとCPUを備えた制御装置を「一つの筐体」に装着するという技術的思想を有しておらず,甲5発明は,審決も認めるとおり,「表示装置として独立して存在しない」ものであるから,やはり,複数の表示内容を記憶するメモリとCPUとを備えた制御装置を「一つの筐体」に装着するという技術的思想を有していない。このように,甲4発明は「コンピュータ6(CPU)」を「一つの筐体」に装着することを全く予定していないから,甲5発明を適用する場合でも,「制御装置2」を甲4文献の教示に従って「筐体」の外部に設置することが想到できるにすぎない。しかも,甲5発明の「制御装置25」は「総合管理用コンピュータ54」により制御される端末機としての意義を有しており,総合管理用コンピュータ(中央制御装置)と不可分な構成であるから,外部に設置された甲4発明の「電子式パチンコ機集計管理装置すなわちコンピュータ6」と機能的に同等のものである。このような甲4発明及び甲5発明のいずれからも,制御装置を一つの筺体に装着するというような技術的思想は生まれる余地がない。
乙3文献は,スピーカ14から音声等を出力させるためのメイン基板40(被告は,これが本件発明のCPUに相当すると主張する。)をパチンコ台列の島11に配設している。同文献から把握することのできる技術水準によれば,当業者は,甲4発明と甲5発明とを組み合わせるに際し,甲5発明のCPU26(制御装置25)を乙3文献に記載されたようにパチンコ台列の島に配設すると考えるのが自然である。
被告は,パチンコ台から独立した構造とした表示装置が,業界紙である「「遊技通信」(昭和61年1月20日発行)」の抜粋」(乙第4号証。以下「乙4文献」という。),雑誌である「「娯楽産業」1986,No.261(昭和61年2月5日発行)の抜粋」(乙第5号証。以下「乙5文献」という。),及び,雑誌である「「プレイグラフ臨時増刊号,あすのホール経営’86(昭和61年9月25日発行)」の抜粋」(乙第6号証。以下「乙6文献」という。)に示されるように,周知技術である,と主張する。
しかし,乙4文献は,ロジック回路により大当りの回数を累計する構成のものであり,本件発明のような複数の表示プログラムを記憶したメモリから所定のプログラムを読出すためのCPUに相当するものを有しておらず,呼出しボタンが本件発明のようなCPUを作動させるものでないことが明らかである。乙5文献は,大当り回数の累計や,一つの表示プログラムによりフラッシュ点滅させることを可能にしたものであると解し得るにとどまり,本件発明のように複数の表示プログラムから所定のプログラムを読み出すことにより「作動状況に対応する」表示を行うものであると解することはできない。乙6文献は,「業界初マイコン搭載の押釦スイッチ」,「フィーバー時はランプがパッシィングします」と説明するだけで,乙5文献に記載された以上のものを何も開示していない。
被告の反論の要点
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 原告の主張1(相違点の看過)について (1) 一致点の認定の誤りによる相違点の看過の主張について 原告は,甲4文献には,呼び出しスイッチ2からコンピュータ6に信号が入力されることは記載されていないと主張する。しかし,特許公報中のある記載の技術的意味,内容を正確に把握するには,その記載部分の字句のみを検討するのではなく,その前後の記載内容,特にその前の記載部分の意味,内容をも十分参酌して理解すべきである。
審決は,甲4文献の記載Dを根拠に,本件発明と甲4発明との一致点を認定したものである。甲4文献には,第1図ないし第3図によって直接説明された実施例(便宜上,「第1実施例」という)と,記載Dにおいて説明された実施例(便宜上,「第2実施例」という)とが開示されている。
記載D(「遊技場によっては打止めの操作をしないところもあるので,このような場合には,パチンコ機に故障などがあって遊技者がスイッチ2を押して呼び出し用表示ランプ11が点灯し呼び出し用表示部3,3に表示されると同時に,カウンターに伝達されコンピュータ6を作動して文字表示用ランプ12,12’を点灯して文字表示部4に,この場合には,しばらくお待ち下さいという意味の表示をして遊技者にその間いらいらした感情を起こさせないようにするものである」)は,第1実施例の構成である第1ないし3図の基本構成を持ったパチンコ機用表示ランプを用いて,打ち止めの操作をしない場合の表示方法を説明したものである。
第2実施例では,スイッチ2を押すことによりコンピュータ6が作動すると,情報表示用ランプ12が点灯して情報表示部4に「しばらくお待ちください。」と表示する。このような第2実施例の動作を実現する構成は,第3図の回路に呼出しスイッチ2とコンピュータ6との間をつなぐ配線を追加するだけで可能である。
記載D中の「カウンターに伝達され」の「カウンター」は,多数のパチンコ機を一括制御管理するシステム,すなわち電子式パチンコ集計管理装置をも構成する場所であるから,カウンターに伝達されるものは,電子式パチンコ集計管理装置の動作に必要なもの,すなわち,多数の各パチンコ機側とで制御に必要な情報を授受するための電気信号であることが明らかである。その前段に「遊技者がスイッチ2を押して」と記載されていることからすれば,上記電気信号は,呼出しスイッチ2が押されたときのその出力信号であることが明らかである。呼出しスイッチ2から出力信号がカウンターに伝達されるということは,同スイッチの出力信号が電子式パチンコ集計管理装置に伝達されることを意味する。記載Dを読んだ当業者は,電子式パチンコ集計管理装置内のコンピュータ6が呼出しスイッチ2からの出力信号を受けて作動する構成になっているものと,容易に理解することができる。
記載Dは,呼び出しスイッチ2とコンピュータ6との間をつなぐ配線を第3図に追加する必要性に言及していない。しかし,そのような配線構成は,乙2,3文献にも示されているように,当業者にとって自明なことであるからその記載を省略したものであるにすぎないことが明らかである。
(2) その他の相違点の看過の主張について 原告は,本件発明と甲4発明とは表示の目的が相違するとして,相違点Aを挙げる。しかし,両発明は,パチンコ台の作動状況が変化した場合に遊技者に必要・有益な表示を各パチンコ台で行うという点において,目的を共通にしている。
原告は,甲4発明と本件発明との機能の相違を理由に,相違点Bを挙げる。しかし,両発明は,パチンコ台ごとに取り付けられたパチンコ台の表示装置により遊技者にとって必要・有益なパチンコ台の作動状況の表示の制御をコンピュータによって行っている点で,共通している。
2 原告の主張2(相違点についての判断の誤り)の主張について (1) 甲4発明と甲5発明とを組み合わせることの容易性についての判断の誤り,の主張について ア 原告は,甲4発明と甲5発明との目的の相違を理由として,両発明を組み合わせることについての推考容易性を否定する。
しかし,甲4発明も甲5発明も,遊技者に必要・有益なパチンコ台の作動状況の表示をするという点で表示目的が共通している。
イ 原告は,甲4発明と甲5発明とのいずれにおいても,表示を行うための装置は,中央制御装置により制御されるように接続されることが必須要件とされているから,両発明を組み合わせても,生まれるのは,依然として中央制御装置が不可欠な構成であり,本件発明のような「表示に際して中央制御装置などが不要でシステムが非常に簡単で安価にな」るという目的及び効果を奏する表示装置を得ることはできない,と主張する。
甲5文献には,遊技球が入賞装置8に入ったときになされる表示「アタリ」,及び,遊技球が供給皿3から受皿22に流下してこれが満杯になったときになされる表示「ウケザライッパイ」の制御は,総合管理用コンピュータ54とは無関係にパチンコ機からの信号に基づいてCPU26が単独で行うことが記載されている。すなわち,甲5文献にはCPU26が総合管理用コンピュータ54からの信号に基づいてパチンコ機の作動状況の表示(「ウチドメ」という文字表示(3頁右下欄7行〜8行))を制御する技術と,CPU26が総合管理用コンピュータ54とは関係なく独立してパチンコ機から信号を入力してパチンコ機の作動状況の表示(「アタリ」,「ウケザライッパイ」)を制御する技術とが開示されている。
審決は,甲5発明のCPU26の総合管理用コンピュータ54から独立した側面に着眼して,甲4発明においてCPU6の代わりに甲5発明のCPU26を取り入れて本件発明のように構成することは容易であると判断したものである。
審決のこの判断に誤りはない。
(2) 相違点1についての判断の誤り,の主張について 原告は,本件発明と甲4発明との相違点の一つ(相違点1)について,甲4発明からも,呼出し用スイッチを有しない甲5発明からも,本件発明の呼出しスイッチの構成に想到することはできない,と主張する。
しかし,甲4文献に,CPUに呼び出しスイッチの作動状況を示す信号を入力することにより作動状況に対応する表示内容を表示させることが開示されていることは,1で述べたとおりである。
甲4発明に,直接表現されていないのは,プログラムメモリから読み出す,ということである。しかし,コンピュータにとってCPUとプログラムメモリは必須の構成要素である。甲4文献に記載されたコンピュータにプログラムメモリが含まれていることは,明らかである。
(3) 相違点2についての判断の誤り,の主張について 本件発明と甲4発明との相違点の一つ(相違点2)は,次のように分説することができる。
@ 甲4発明には,本件発明における「制御装置が各パチンコ台毎に存在する」点が開示されていない。
A 甲4発明には,本件発明における「制御装置がパチンコ台と別体の一つの筐体に装着される」点が開示されていない。
本件発明は,表示素子及び制御装置の両者を各パチンコ台側に配置するという点に関して甲5発明と同一である。甲4発明は,パチンコ台と別体の一つの筐体を設けこれに表示素子を組み込むことにより表示装置を構造的に独立させようとする目的を示唆するものである。この示唆された目的に従って甲5発明のパチンコ台側に配置された制御装置(CPU内蔵)を表示素子とともに一つの筐体に装着するだけで,一つの筐体により表示装置を構造的に独立させた本件発明の構成に到達することができる。相違点2のうち,上記@の相違点に係る本件発明の構成は甲5発明に開示されている。上記Aの相違点に係る本件発明の構成は,甲4文献に示唆された「筐体により表示装置を構造的に独立させる」という目的に従い,甲5発明の「パチンコ台毎の制御装置(CPU内蔵)」を,甲4発明の「表示素子を一つの筐体に装着する」構成にその表示素子と同列に適用することにより,容易に想到することができる。
原告は,本件発明の表示装置が表示用の構成部材を台とは別体の筐体に装着することによって台から独立した構造になっている点を強調する。
しかし,そのような独立構造のパチンコ台の表示装置は,甲4発明の装置のほか,乙4文献に示された「オールマイティ・フラッシュ」と称するパチンコ台の表示器,乙5,6文献に示された「ステイタスカウンター」と称するパチンコ台の表示器など,本件出願当時周知の事項である。
当裁判所の判断
1 原告の主張1(相違点の看過)について (1) 一致点の認定の誤りによる相違点の看過の主張について ア 原告は,甲4文献には,「CPUは呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる」との構成が開示されていないから,甲4文献に同構成が開示されていることを前提としてなされた審決の本件発明と甲4発明との一致点の認定は誤りである,と主張する。
甲4文献には,次の記載がある。
(ア)「ランプ本体1をランプ取付台10とこれを覆蓋するカバー1’をもって形成し,このランプ取付台10には呼び出し用スイッチ2と呼び出し用表示ランプ11と文字表示用ランプ12をそれぞれ取付け,カバー1’にはパチンコ台番号表示部21と呼び出し用スイッチ2を嵌挿してこれを表面に露呈させるスイッチ嵌挿孔22と呼び出し用表示ランプ11に対応する呼び出し表示部3と文字表示用ランプ12と対応する文字表示部4をそれぞれ設け,かつコンピューター6により文字表示用ランプ12を点灯し文字表示部4に予め記載されている遊技者に対する感謝の意味とか遊技者の感情を柔らげる意味の文字を表示せしめたパチンコ機用表示ランプ。」(甲第4号証・実用新案登録請求の範囲) (イ)「従来パチンコ遊技場において,パチンコ機に何等かの故障を生じた時は,遊技者がパチンコ機に附設してあるスイッチを押すと,遊技者には,呼出用表示ランプが点灯し,また,故障を起こした島の適所に設けられた代表ランプが点灯しその島が表示されるようになっている。これは遊技者に対して一見親切な取扱いであるように見られるが,遊技者は従業員が修理に来るまでの間はやはりいらいらした気分を起すことは否めない。」(同1頁左欄下から4行〜右欄6行) (ウ)「またあるパチンコ機が非常に球がよく入って規定以上の賞球を出した場合,コンピューターにより,そのパチンコ機が打止めされるということが一般に行われているが,そのパチンコ機にその打止めの自動表示がなされないので,この場合は従業員がわざわざそのパチンコ機台まで行って,この台が打止めである旨を書いた表示板を吊下げて来る外はなかった。」(同1頁右欄7行〜14行) (エ)「本考案は,このような不便を解消するために,打止めとなった時は直ちに自動的にこれをそのパチンコ機台に表示すると共にその旨を説明字句で表示し遊技者に感謝の意を表明するようにし,また場合によってはパチンコ機に故障など生じた時遊技者がスイッチを押すことによりカウンターに報告すると共に呼出用表示ランプが点灯すると同時にしばらくお待ち下さいというような意味のことを遊技者に表明することによりパチンコ遊技場の運営維持を円滑に計らんとするものである。」(同1頁右欄15行〜24行) (オ)「第3図において,パチンコ機no.1は各表示ランプ11,12が全然動作していない状態であって,この場合は,補給用電源19はリレー接点14,14’を通って補給用回路に通電される。すなわちソレノイド20は可動状態であってパチンコ機には適宜玉が補給されている。
同no.2においては,表示ランプ本体1のスイッチ2を押した状態で,表示ランプ用電源16より接点18’に電流は流れて呼び出し用表示ランプ11を点灯させて呼び出し用表示部3に表示しこれと同時に接点18”にも流れて代表ランプ5を点灯させる。
同no.3においては,コンピューター6よりの打止信号により補給打止切換用リレー13のリレーコイル17が励磁し,リレー接点14,14’より接点15,15’に切換えられて情報表示ランプ12,12が点灯して文字表示部4に表示する。そしてリレー接点14,14’が切断しているので補給用電源19よりの電流は遮断され,この打止めになったパチンコ機には球の補給をすることができない。
同no.4においては,スイッチ2を押し呼び出し用表示ランプ11,11が点灯し,かつ,コンピューター6よりの打止め信号により情報表示ランプ12,12が点灯している状態が示されている。」(2頁左欄11〜34行) (カ)「パチンコ機no.3の作動説明のように,パチンコ機の打止めがコンピューター6により指令され打止めの作動がなされると同時に文字表示ランプ12,12’が点灯し,ありがとうございました。この機械は打止めになりましたという字句が情報表示部4に写し出され,そして遊技者にそのパチンコ機が打止めになったことを自動的に知らせると共に感謝の意を表明するものである。」(同2頁左欄35行〜42行) (キ)「パチンコ機no.4のように,そのパチンコ機に球が出なくなって遊技者は呼び出しスイッチ2を押しそのために呼び出し用表示ランプ11が点灯して呼び出し用表示部3,3にこれが表示されると同時に,コンピューター6からの打止め指令が発せられて,no.3と同様に情報表示部4にその字句が写し出されるものである。」(同2頁左欄43行〜右欄5行。記載C) (ク)「遊技場によっては打止めの操作をしないところもあるので,このような場合には,パチンコ機に故障などあって遊技者がスイッチ2を押して呼び出し用表示ランプ11が点灯し呼び出し用表示部3,3に表示されると同時に,カウンターに伝達されコンピューター6を作動して情報表示用ランプ12,12’を点灯して文字表示部4に,この場合には,しばらくお待ちくださいという意味の表示をして遊技者がその間いらいらした感情を起させないようにするものである。」(同2頁右欄6行〜15行。記載D) (ケ)「なお呼び出し用表示部3,3には呼び出し用表示ランプ11,11の点灯を示すと同時にここにしばらくお待ち下さいの字句を表示し,情報表示部4には打止めの指令に基いてありがとうございました。この機械は打止めになりましたという字句を表示するようにしてもよい。」(同2頁右欄16行〜21行) (コ)「本考案は以上のようにパチンコ機台が打止めとなった時は自動的にその打止め作動をなすと同時にこれを感謝の意をもって表示するので,従業員がわざわざその台のところまで行ってこれを表示するような煩雑さがなく,しかも遊技者には感謝の意を表明することができ,またパチンコの故障などにあった時遊技者がスイッチを押すと同時に,しばらくお待ち下さいという意味の表示をすることにより遊技者の感情を柔らげることができるので,パチンコ遊技場の維持運営を円滑にすることができる。」(同2頁右欄22行〜32行) 上に認定した甲4文献の記載によれば,従来のパチンコ機においては,故障時に遊技者がスイッチを押すと,呼出用表示ランプ及び島の代表ランプが点灯状態に置かれるだけであったため,遊技者は従業員が修理に来るまでいらいらした気分になるという問題点や,打止め時にその旨の自動表示がなされず従業員が出向く必要があるという問題点があったことから,甲4発明は,このような問題点を解決するため,表示ランプ本体に,呼び出し用スイッチの押圧と関連して点灯表示する呼び出し用表示部と,打止め指令や故障などの指令により点灯表示する文字表示部とを設けることにより,打止めとなったときは,直ちに,自動的に,「ありがとうございました。この機械は打止めになりました。」などの字句により,その旨をパチンコ機台に表示するとともに感謝の意を表明するようにし,パチンコ機に故障など生じたときに遊技者がスイッチを押すと,これがカウンターに報告されるとともに呼出用表示ランプが点灯状態に置かれ,同時に,上記同様に打止めの表示をする(打止めの操作をしない遊技場においては「しばらくお待ち下さい」と表示する)ようにすることにより,遊技者の感情を柔らげてパチンコ遊技場の維持運営を円滑にするという作用効果を奏するものである,ということができる。
上に認定した甲4文献の記載状況,特に,パチンコ機の故障時に関して,「遊技者がパチンコ機に附設してあるスイッチを押すと,遊技者には,呼出用表示ランプが点灯し,また,故障を起こした島の適所に設けられた代表ランプが点灯しその島が表示されるようになっている。・・・遊技者は従業員が修理に来るまでの間はやはりいらいらした気分を起すことは否めない。」(上記(イ)),「そのパチンコ機にその打止めの自動表示がなされないので,この場合は従業員がわざわざそのパチンコ機台まで行って,この台が打止めである旨を書いた表示板を吊下げて来る外はなかった。」(上記(ウ))との解決すべき課題,「打止めとなった時は直ちに自動的にこれをそのパチンコ機台に表示すると共にその旨を説明字句で表示し遊技者に感謝の意を表明するようにし,また場合によってはパチンコ機に故障など生じた時遊技者がスイッチを押すことによりカウンターに報告すると共に呼出用表示ランプが点灯すると同時にしばらくお待ち下さいというような意味のことを遊技者に表明することによりパチンコ遊技場の運営を円滑に計らんとする」(上記(エ))との課題解決手段,「パチンコ機台が打止めとなった時は自動的にその打止め作動をなすと同時にこれを感謝の意をもって表示するので,従業員がわざわざその台のところまで行ってこれを表示するような煩雑さがなく,しかも遊技者には感謝の意を表明することができ,またパチンコの故障などにあった時遊技者がスイッチを押すと同時に,しばらくお待ち下さいという意味の表示をすることにより遊技者の感情を柔らげることができる」(上記(コ))との効果の記載からみて,反対に解すべきよほど強力な根拠が認められない限り,甲4発明においては,スイッチ2とコンピュータ6とが接続されており,スイッチ2を押すことによって,そこからの信号がコンピュータ6に入力され,これを作動させるものである,と解する以外にないというべきである。甲4文献の上記記載状況の下で,反対に解することになれば,従来,遊技者になすべき表示が人を介してしかなされなかったことにより生じていた,表示すべき事態の発生と表示との間に時間が生じるという不都合を,表示すべき事態が生じるのと同時にコンピュータを通じて自動的に表示することによって回避しようとの甲4発明を,合理的に把握することは,ほとんど不可能としかいいようがないからである。
この点について,原告は,甲4文献記載の第3図の配線図(別紙図面1参照)においては,スイッチがコンピュータと接続されていないことを強調する。
しかし,上記配線図は,出願されている発明(考案)についての理解を助け,これを容易にするために出願に当たって添付されていたものにすぎず,それ以上の意味はないものである。出願の対象とされている技術の理解にとって重要な事項については,比較的正確に記載されることが多いであろう,とまではいい得るとしても,当該出願にとって重要でない事項についてまで正確に記載されることは,もともと期待されていないのである。甲4発明はスイッチとコンピュータとの接続自体の技術的困難さには,何ら関心を持たず,むしろ,接続自体には格別の困難はないことを当然の前提にするものであることは,上記部分を中心に甲4文献全体を見れば,明らかである。このようなとき,上記配線図においてスイッチとコンピュータとが接続されていないことを根拠に,甲4文献の上記記載と矛盾する解釈をしようとするのは,本末転倒というほかはない。他にも上記根拠になるべきものは,本件全資料を検討しても見いだし得ない。
原告の主張は採用することができない。
(2) その他の相違点の看過の主張について 原告は,本件発明は,遊技者が望む表示を行うための表示装置を提供することを目的とするものであるのに対して,甲4発明は,遊技場の運営維持を目的とするものであるから,発明の目的が相違(相違点A)し,さらに,甲4発明のコンピュータはホールコンピュータであるのに対して,本件発明のメモリとCPUを備えた制御装置は表示の機能のみを有するものであるから,制御装置の機能が相違する(相違点B)にもかかわらず,審決はこれらの相違点を看過したと主張する。
しかしながら,原告の主張する相違点A及びBは,いずれも本件発明と甲4発明との構成上の相違を指摘するものではない。これらの相違は,発明の対比にあたって相違点として抽出すべきものではないことが明らかである。
原告の主張は主張自体失当である。
2 原告の主張2(相違点についての判断の誤り)について (1) 甲4発明と甲5発明とを組み合わせることの容易性についての判断の誤り,の主張について ア 原告は,甲4発明と甲5発明とは,表示の目的及び内容を異にする技術であるから,そもそも,両発明を組み合わせること自体に推考容易性がない,と主張する。
しかしながら,両発明の目的が異なるということだけで,一方の発明を他方の発明に適用することができないとすることはできない。原告の主張はそれ自体で失当である。
甲4発明がパチンコ台の作動状況を表示板に表示するものであることは前記のとおりである。甲第5号証及び弁論の全趣旨によれば,甲5文献には,制御装置が,複数の表示内容を記憶するメモリとCPUとを備え,前記CPUは,パチンコ台から入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムを前記メモリから読み出して表示板及びランプに表示させることが記載されていることが認められる。甲4発明と甲5発明とは,パチンコ台の作動状況等を表示板に表示するものである点で共通しているから,甲4発明に甲5発明を適用することが容易であることは明らかである。
イ 原告は,甲4発明も,甲5発明も,表示を行うための装置は,中央制御装置により制御されるように接続されることが必須要件とされているから,甲4発明と甲5発明とをいかに組み合わせても,本件発明のような「表示に際して中央制御装置などが不要でシステムが非常に簡単で安価になり」という目的及び効果を有する表示装置を達成することはできない,と主張する。
しかしながら,原告の主張に理由がないことは,後記(3)(相違点2についての判断の誤り,の主張について)において説示するところから明らかである。
(2) 相違点1についての判断の誤り,の主張について 原告は,本件発明と甲4発明との相違点の一つ(「本件発明の制御装置は,複数の表示内容を記憶するメモリと,CPUを備え,CPUはパチンコ台および呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムをメモりから読出して表示板およびランプに表示させるのに対し,甲第4号証記載の発明のCPUは,呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる点」。相違点1)についての審決の判断は誤りである,と主張する。
原告は,その理由として,甲4発明は,「CPUは呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる」との構成を有するものではなく,甲5発明は,「呼出しスイッチ」に相当するものを全く開示していないから,両発明を組み合わせても,本件発明の「CPUは呼び出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を示すプログラムをメモリから読出して表示させる」ことに想到することはできない,と主張する。
しかしながら,甲4発明が,「CPUは呼出しスイッチから入力される作動状況を示す信号に基づいて作動状況に対応する表示内容を前記表示板に表示させる」との構成を有すると認められることは,1で説示したとおりである。原告の主張はその前提において誤っており,採用することができない。
(3) 相違点2についての判断の誤り,の主張について 原告は,本件発明と甲4発明との相違点の一つ(「本件発明の制御装置が,パチンコ台と別体の一つの筺体に装着されるのに対し,甲第4号証記載の発明(判決注・甲4発明)は,各パチンコ台に共通な制御装置であるCPUがカウンターにある点」。相違点2)について,審決が「甲第2号証に記載の発明(判決注・甲5発明)は,表示板(モニタ表示器)やランプ(打止め表示器)およびその制御装置はパチンコ台に設けられ,表示装置として独立して存在しないとしても,これらは一台のパチンコ台毎に設けられ,それぞれのパチンコ台に対して個別に表示制御するものであるから,甲第4号証記載の発明のように,パチンコ台とは別体の一つの筺体を備えパチンコ機毎に取り付けられる表示装置においては,その表示を制御する制御装置を一つの筺体に設けることは当業者が容易に想到し得るものである。」(審決書8頁18行〜24行)と判断したのは誤りである,と主張する。
原告は,その理由として,@甲4発明は,複数の表示内容を記憶するメモリとCPUを備えた制御装置を「一つの筐体」に装着するという技術的思想を有しておらず,甲5発明は,「表示装置として独立して存在しない」ものであるから,甲5発明の「制御装置2」を甲4発明に適用する場合でも,「筐体」の外部に設置することが想到できるにすぎない,A甲5発明の制御装置25は総合管理用コンピュータ54により制御される端末機であるから,外部に設置された甲4発明のコンピュータ6と機能的に同等のものであり,甲4発明及び甲5発明のいずれからも,これを一つの筺体に装着するというような技術的思想は生まれる余地がない,と主張する。
ア 甲5文献には,次の記載がある。
(ア)「制御装置25は第2図に示す如く,ワンチップマイクロコンピュータ構成のLSIで構成された中央処理装置(CPU)26を有する。・・・。すなわち,制御装置25は,遊技球が入賞装置8に入ったときこれをセーフ球集合樋9の出口に配設されたセーフ球検出器31によって検出し,この検出出力を入出力ポート32を介して受ける。このとき論理演算部28はプログラムメモリ27から読出したプログラムに応じて入出力ポート33を介して賞球排出装置18のドライバ34を駆動すると共に,データメモリ29に記憶されているデータを読出してこれに相当する数(例えば15個)の賞球を排出させる。これと同時にCPU26はプログラムメモリ27の入賞音プログラムを読出して増幅器35を介してスピーカ36に出力を与え,スピーカ36によって例えばフアンフアーレでなる入賞音を発生させる。これと共にCPU26’は入賞表示プログラム読出し,ドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくしてモニタ表示器37によって可視表示として例えば「アタリ」の文字表示をさせる。」(甲第5号証2頁右下欄5行〜3頁左上欄18行) (イ)「かくして制御装置25は,アウト穴11に入った遊技球の数を遊技場にとっての利益球数とし,また入賞装置8に入った遊技球の数を遊技場にとっての損失球数とし,その差を現在までの当該パチンコ機1の営業成績を表わす損失球数データとして演算し,蓄積していく。またCPU26はセーフ球検出器31からの検出出力が到来して損益球数データの減算が実行されたとき,この減算結果の損益球数データとデータメモリの打止め設定数エリアの記憶データとを読出して比較し,損益球数が打止め設定数を越えたときこれを検出して,ドライバ34を介して賞球補給装置43に与えられるべき補給駆動信号の送出を禁止させると共に,ドライバ34を介して発射装置5に与えられている電源の供給を中止させる。これと同時にCPU26はプログラムメモリ27の打止め音プログラムを読出して増幅器35を介してスピーカー36に出力を与え,スピーカー36によって例えばフィナーレでなる打止め音を発生させる。これと共にCPU26はドライバ34を介して打止め表示器38を点灯させると共に,打止め表示プログラムを読出してドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくしてモニタ表示器37によって可視表示として例えば「ウチドメ」の文字表示をさせる。」(同3頁左下欄2行〜右下欄8行) (ウ)「賞球不足検出器45の検出出力が到来するとCPU26は,プログラムメモリ27の補給音プログラムを読出して増幅器35を介してスピーカ36に与え,スピーカ36によって例えば鈴音でなる補給音を発生させる。これと共にCPU26は補給表示プログラムを読出してドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくして表示器37によって可視表示として,例えば「ホキユウ1カイ」の文字表示させる。」(同4頁左上欄12行〜20行) (エ)「CPU26は供給皿3から受皿22への接続樋21に設けられた過大貯留検出器51の検出出力を入出力ポート32を介して受け,入出力ポート33を介しさらにドライバ34を介して発射装置5に与えられている電源を遮断する。
かくして制御装置25は,遊技中に供給皿3が満杯になり,あふれた遊技球が受皿22に排出されている状態において受皿22が満杯になったとき発射装置5を一時停止させる。これと同時にCPU26はプログラムメモリ29の過大貯留音プログラムを読出して増幅器35を介してスピーカ36に出力を与え,スピーカ36によって警報音を発生させる。これと共にCPU26は過大貯留表示プログラムを読出してドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくしてモニタ表示部37によって可視表示として例えば「ウケザライツパイ」の文字表示をさせる。」(同4頁右上欄15行〜左下欄12行) (オ)「以上のように本発明によれば,パチンコ機の遊技結果に応じて状態に変化が生ずれば,いろいろの側面から遊技者に対して聴覚的に又は視覚的に知らせることができ,かくするにつき,マイクロコンピュータ構成の制御装置を用いることにより,比較的簡易な横成によって実現できる(同5頁左欄18行〜右欄4行) 上に認定した,甲5文献の記載及び同文献中の第1〜3図(別紙図面2参照)によれば,甲5発明は,モニタ表示器31,打止め表示器38及びその制御装置25が各パチンコ台ごとに設けられており,これにより,比較的簡易な構成によって遊技者に対してパチンコ機の作動状況等を視覚的に知らせることができるものであり,かつ,「アタリ」及び「ウケザライツパイ」の文字表示は総合管理用コンピュータ54とは独立して制御装置のみによって表示されていることが明らかである(「ウチドメ」及び「ホキユウ1カイ」の文字表示には,管理用コンピュータ54から送られる打止め設定数データ及び補給球設定データを利用しているものと認められる。)。このように,甲5文献には,マイクロコンピュータ構成の制御装置を各パチンコ台ごとに設け,総合管理用コンピュータとは独立して,上記制御装置のみによって表示部に文字表示をすることが記載されているということができる。
甲5発明の制御装置が常に総合管理用コンピュータによって制御されている,との原告の主張は誤りである。
イ 甲第4号証によれば,甲4発明において,パチンコ機の作動状況等を表示する表示装置である文字表示用ランプ本体は,パチンコ台ごとに,パチンコ台とは別体のものとして設けられていることが認められる。
甲4発明に甲5発明の上記アの技術を適用すれば,マイクロコンピュータ構成の制御装置を各パチンコ台ごとに設け,総合管理用コンピュータとは独立したこの制御装置のみによって,パチンコ台と別体の一つの筐体に装着した表示板にパチンコ機の作動状況等を表示するものが得られることが明らかである。
原告は,甲4発明は,複数の表示内容を記憶するメモリとCPUを備えた制御装置を「一つの筐体」に装着するという技術的思想を有しておらず,甲5発明は,「表示装置として独立して存在しない」ものであるから,甲5発明の「制御装置2」を甲4発明に適用する場合でも,「筐体」の外部に設置することが想到できるにすぎない,と主張する。
しかしながら,パチンコ台から独立した表示装置について,「雑誌「娯楽産業」1986・No.261の抜粋」(娯楽産業協会昭和61年2月5日発行。乙第5号証拠)の33頁下段の広告欄には「業界初のマイコン搭載押ボタンスイッチ「ステイタスカウンターが・・・新発売になった。機種は3タイプで,スタンダード型(ノーマル型),フィーバータイプ(大当り表示タイプ)と,大当り回数表示のカウンタータイプがある。」との記載があることが認められる。また,「雑誌「プレイグラフ臨時創刊号,あすのホール経営’86」の抜粋」(有限会社プレイグラフ社昭和61年9月25日発行。乙第6号証)の4枚目には,「新・発・売,業界初マイコン搭載の押釦スイッチ ステイタスカウンター ノーマル,フィーバー,カウンターの3種類。トラブル,フィーバー時にランプスイッチを押すと「しばらくお待ちください」と緑色ランプで表示」と記載されていることが認められる。ここにいうマイコンとは表示のための制御装置のことであると認められるから,パチンコ台から独立し,表示用制御装置を具備する表示装置は,本件出願当時周知であったものと認められる。
また,本件全資料を検討しても,パチンコ台ごとに制御装置を設けるに当たり,これをパチンコ台本体に設置するか,パチンコ台から独立した筺体に設置するかによって,作用効果に格別の差異を生ずる,と認めることもできない。
これらの点に照らすと,甲5発明を甲4発明に適用するに当たり,制御装置をパチンコ台に設けるかこれと別体の表示装置を構成する一つの筐体に設けるかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎないというべきである。相違点2に係る本件発明の構成は,甲4発明に甲5発明を適用することによって容易に想到することができるものである。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決の認定判断にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸