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審判番号(事件番号) データベース 権利
令和2ネ10059 特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 判例 特許
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 判例 特許
令和4ネ10002特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成29ワ24598 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 令和 3年 (ワ) 3816号 特許権侵害差止等請求事件
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原告中外製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士 末吉剛
同 橋聖史 10 同訴訟代理人弁理士 寺地拓己
同 補佐人弁理士一宮維幸
被告沢井製薬株式会社 15 被告日医工株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士森本純
同 芳賀彩 20 被告日産化学株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉澤敬夫
同 紺野昭男
同 井波実 25 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 12 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告沢井製薬株式会社及び被告日産化学株式会社は、販売名を「エルデカルシ5トールカプセル0.5μg「サワイ」」とする医療用医薬品及び販売名を「エル デカルシトールカプセル0.75μg「サワイ」」とする医療用医薬品の製造及 び販売のために別紙被告原料目録記載の原料を製造し又は使用してはならない。 2 被告日医工株式会社及び被告日産化学株式会社は、販売名を「エルデカルシト ールカプセル0.5μg「日医工」」とする医療用医薬品及び販売名を「エルデ 10 カルシトールカプセル0.75μg「日医工」」とする医療用医薬品の製造及び 販売のために別紙被告原料目録記載の原料を製造し又は使用してはならない。 3 被告沢井製薬株式会社、被告日医工株式会社及び被告日産化学株式会社は、別 紙被告原料目録記載の原料を廃棄せよ。 4 被告沢井製薬株式会社及び被告日産化学株式会社は、原告に対し、連帯して5 15 500万円及びこれに対する被告沢井製薬株式会社は令和3年3月20日(訴状 送達の日の翌日) 被告日産化学株式会社は同月12日 、 (訴状送達日の翌日)から 支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 被告日医工株式会社及び被告日産化学株式会社は、原告に対し、連帯して55 00万円及びこれに対する被告日医工株式会社は令和3年3月20日(訴状送達 20 の日の翌日) 被告日産化学株式会社は同月12日 、 (訴状送達日の翌日)から支払 済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、発明の名称を「ビタミンD誘導体結晶およびその製造方法」とする特 25 許権を有する原告が、被告沢井製薬株式会社(以下「被告沢井」という。)及び被 告日医工株式会社(以下「被告日医工」という。)がそれぞれ被告日産化学株式会 2社(以下「被告日産化学」という。)に製造を委託した医薬品の原料を被告日産化 学が製造する過程で、同特許権に係る技術的範囲に属する物を製造しているとし て、被告沢井及び被告日産化学に対して、特許法100条1項、2項に基づき、
被告沢井が販売する医薬品に係る原料の製造及び使用の差止め並びに廃棄を請 5 求し、民法719条1項前段及び特許法102条2項に基づき、連帯して、2億 4200万円の一部である5500万円及び遅延損害金の支払を請求し、被告日 医工及び被告日産化学に対して、特許法100条1項、2項に基づき、被告日医 工が販売する医薬品に係る原料の製造及び使用の差止め並びに廃棄を請求し、民 法719条1項前段及び特許法102条2項に基づき、連帯して、2億4200 10 万円及びその一部である5500万円及び遅延損害金の支払を請求する事案で ある。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(明示しない限り枝番号を含む。) 及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実) ア 原告は医薬品の研究、開発、製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社 15 である。(弁論の全趣旨) イ 被告沢井及び被告日医工は、いずれも、日本及び外国における医薬品の製造、 販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨) ウ 被告日産化学は、工業薬品、試薬、医薬品等の製造、加工、売買及び輸出入 等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨) 20 原告は、以下の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許に係る明細書及 び図面を「本件明細書」という。)を有している。本件特許権については、次の とおり2件の延長登録が認められている(以下、両延長登録を併せて「本件延長 登録」という。。 )(甲12〜14) 特許番号 特許第3429432号 25 発明の名称 ビタミンD誘導体結晶およびその製造方法 出願日 平成9年6月12日 3優先日 平成8年7月1日 優先権主張国 日本 登録日 平成15年5月16日 延長登録後の特許満了日 令和4年6月12日 延長登録出願番号 2011−700107 延長登録出願の年月日 平成23年4月20日 延長登録の年月日 平成24年7月27日 延長の期間 5年 薬事法第14条第1項に規定する ア 特許権の存続期間の延長理由となる処分医薬品に係る同項の承認 承認番号 22300AMX00 イ 処分を特定する番号416000 エディロールカプセル0.5μg ウ 処分の対象となった物(販売名)エルデカルシトール(有 効成分) エ 処分の対象となった物について特定骨粗鬆症 された用途 5 延長登録出願番号 2011−700108 延長登録出願の年月日 平成23年4月20日 延長登録の年月日 平成24年7月27日 延長の期間 5年 薬事法第14条第1項に規定する ア 特許権の存続期間の延長理由となる処分医薬品に係る同項の承認 4承認番号 22300AMX00 イ 処分を特定する番号417000 エディロールカプセル0.75μg (販売名)エルデカルシトール(有 ウ 処分の対象となった物効成分)(以下、エディーロールカ プセル0.5μgと併せて、「原告 カプセル」という。) エ 処分の対象となった物について特定骨粗鬆症 された用途
原告は、平成24年3月30日、本件明細書につき請求項1と発明の詳細の説 明にそれぞれ1か所ずつ記載されていた「格子定数 a=10.352(2)」と の記載を「格子定数 a=10.325(2)」に訂正する訂正審判の請求をし、
同年5月17日に訂正を認める審決がされ、同審決は同月25日に確定した(以 5 下「本件訂正」という。。)(甲12、14) ア 本件特許に係る請求項1の特許請求の範囲は次のとおりである(以下、本件 訂正後の請求項1に記載された発明を「本件発明」という。(甲3、12、1 ) 4) 式(T) 10 で表される化合物の結晶であって、結晶構造解析において空間群P212121、 格子定数a=10.325(2)、b=34.058(2)、c=8.231 5(1)Å、Z=4である結晶。 イ 本件発明を分説すると次のとおりとなる。(以下、分説された構成要件の符 号に従い、「構成要件A」などという。) A 式(T) 5 で表される化合物の結晶であって、 B 結晶構造解析において空間群P212121、格子定数a=10.325 (2)、b=34.058(2)、c=8.231(1)Å、Z=4(以下、 この格子定数を「本件格子定数」ということがある。)である結晶。 10 ウ 上記で式(T)で表される化合物の一般名はエルデカルシトールであり、本 件明細書では、ED−71と表記されている。
被告日産化学はエルデカルシトールの原薬(溶液の状態になっている)を被告 日医工に販売、納品し、被告沢井は、被告日医工からエルデカルシトールの溶液 が充填された軟カプセルの納品を受けている。 (以下、被告日産化学が被告日医 15 工に納品しているエルデカルシトールの原薬を「本件原薬」という。。被告沢井 ) は、本件原薬を原料として「エルデカルシトールカプセル0.5μg「サワイ」」 及び「エルデカルシトールカプセル0.75μg「サワイ」(以下、両医薬品を 」 併せて、「被告カプセル(沢井)」という。)を製造して販売している。
被告日医工は、本件原薬を原料として「エルデカルシトールカプセル0.5μ 20 g「日医工」 及び 」 「エルデカルシトールカプセル0.75μg「日医工」」(以下、 両医薬品を併せて「被告カプセル(日医工)」といい、被告カプセル(沢井)と併 せて「被告カプセル」という。)を製造、販売している。被告カプセルの効能効果 6は、骨粗鬆症とされている。被告カプセルの内容物は液体であり、エルデカルシ トールは同液体に溶けて存在しており、結晶の態では存在していない。なお、原 告カプセルも同様に内容物は、液体であり、エルデカルシトールは同液体に溶け て存在しており、結晶の状態では存在していない。 (甲6、8、23、24、乙B 5 3、弁論の全趣旨) 3 争点
被告日産化学が本件原薬を製造する過程で、本件発明の技術的範囲に属する結 晶を製造しているか(争点1) 本件延長登録の効果が、被告日産化学が本件原薬を製造する過程で製造する物 10 質に及ぶか(争点2) 本件特許は、訂正要件違反を理由として無効とされるべきであるか(争点3) 本件延長登録は無効とされるべきであるか(争点4)
被告らにつき共同不法行為が成立するか(争点5) 損害(争点6) 15 4 争点に対する当事者の主張
被告日産化学が本件原薬を製造する過程で、本件発明の技術的範囲に属する結 晶を製造しているか(争点1)について (原告の主張) エルデカルシトールの固相としては、アモルファス形態と3種の結晶形態が知 20 られているところ、アモルファス体を実用的に使用することは難しい。被告日産 化学は、エルデカルシトールを含む本件原薬を製造しているため、本件原薬の製 造の過程で、3種の結晶形態のうちの少なくともいずれかを製造しているはずで ある。被告日産化学は、エルデカルシトールの結晶形2種及びその製造方法に関 する特許を出願している(特願2017−160470号。優先権主張番号 特 25 願2016−163069号 優先日平成28年8月23日)。この結晶形は本 件発明のものとは異なるものであるところ、これが被告日産化学が出願したエル 7デカルシトールの結晶に関する唯一のものであるから、被告日産化学は、同出願 に係る明細書(特開2018−30839号。甲1。以下「日産化学明細書」と いう。)に記載された2種の結晶形(B型結晶、C型結晶と称されている。なお、 本件発明に係る結晶については、A型結晶と称されている。)のいずれかを製造 5 していて、その製造方法は、日産化学明細書に記載された方法であると推認でき る。 日産化学明細書によれば、まずエルデカルシトールを化学合成し、それをもと にB型結晶及びC型結晶を作成することとされていて、参考合成例にはエルデカ ルシトールを化学合成して単離する方法が記載されている。原告が、同合成方法 10 に沿ってエルデカルシトールを化学合成して単離して得られた固体(以下「参考 合成例原料」という。なお、日産化学明細書では、参考合成例原料を溶媒に溶か した後にB型結晶を析出させてB型結晶を得ている。 を粉末X線回折 ) (以下「X RPD」という。)及びDSC(示差走査熱量計)で分析したところ、特徴的なピ ークを得られた。 15 日産化学明細書では、A型結晶のXRPDの特徴的な回折ピークが10本報告 されており、これらのいずれのピークについても参考合成例原料に係る上記特徴 的ピークが0.2°の範囲内で存在していた。さらに、本件訂正後の本件発明に 係る結晶の格子定数を基に、回折ピークの理論回折位置と参考合成例原料に係る
上記特徴的なピークの位置(0°から40°の範囲における10本の強い回折ピ 20 ーク及び20°以下での主要な回折ピーク)を比較したところ、いずれのピーク も理論回折位置から0.2°の範囲内に存在した(上記XRPDの10本のピー クを用いる解析方法は、第十八改正日本薬局方で規定されている有機結晶の相の
同定方法に準拠している。)。よって、参考合成例原料には、本件発明に係る結 晶を主要な成分として含むことがわかる。 25 また、被告日産化学は、本件原薬の合成プロセスを開示するようにとの求釈明 に対して、特許法104条の2に違反して応じない。以上の事実を総合すると、 8
被告日産化学は、本件原薬を製造する過程で、別紙被告原料目録記載の本件発明 に係る結晶を主要な成分として含む参考合成例原料を製造しているといえる。 (被告日産化学の主張)
原告の主張は争う。本件日産化学明細書に記載されている参考合成例はエルデ 5 カルシトールの製造方法の一つにすぎない。また、仮に被告日産化学が参考合成 例原料を製造していたとしても、本件発明は本件格子定数を有するエルデカルシ トールの結晶についてのものであり、原告は、参考合成例原料に含まれる物質に ついて、本件格子定数を有することについては何ら立証していない。 本件に関する原告の主張立証は、推測の上に推測を重ねたものであるだけでな 10 く、特許権の侵害についての主張立証とはいえないものである。原告は、訴訟を 通じて、違法に被告日産化学の合成方法を探索しようとするものであり、被告日 産化学が企業秘密に属するエルデカルシトールの合成方法の具体的態様を明示 する必要は全くない。 (被告沢井及び被告日医工の主張) 15 原告の主張は争う。仮に被告日産化学が参考合成例原料を製造していたとして も、本件発明は本件格子定数を有するエルデカルシトールの結晶についてのもの であり、原告は、参考合成例原料に含まれる物質について、本件格子定数を有す ることについては何ら立証していない。
原告は、当初参考合成例原料のXRPDによる測定結果と、これと一致するは 20 ずのない、原告の主張を前提にしても誤りである本件訂正前の格子定数に基づく 理論回折位置が一致したと主張していたのであるから、これは、XRPDによる 回折パターンを確認しても、これだけでは本件発明が定める格子定数を有する結 晶であることを特定することができないことを意味する。 本件延長登録の効果が、被告日産化学が本件原薬を製造する過程で製造する物 25 質に及ぶか(争点2)について (原告の主張) 9ア 特許権の存続期間の延長登録の制度は、政令処分を受けることが必要であっ たために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目 的としているのであるから、政令処分の対象となった物についての特許発明の 実施行為とは、政令処分の対象となった物について、政令処分を受けるまで禁 5 止されていた特許発明の実施行為全てを意味すると解するべきである。
同政令処分には医薬品医療機器等法14条1項の医薬品の製造販売承認が 含まれる(特許法施行令2条2項)。医薬品の製造販売承認の審査は、「品質、 有効性及び安全性に関する事項」をも対象とし(医薬品医療機器等法14条2 項3号柱書) 承認申請書には、 、 原薬の製造方法の記載が求められ、製造方法に 10 関しては出発物質及び中間体も示す必要があり、出発物質の管理基準及び試験 法、重要中間体及び最終中間体の管理基準及び管理方法も記載する必要がある。 製造方法欄に記載された事項は、既存の製造販売承認の下では変更することが できず、その変更には一部変更承認申請又は軽微変更届出が必要である。そう すると、原告カプセルを製造するための中間物質として本件発明に係る結晶の 15 製造及び使用には、原告カプセルの製造販売承認が必要であり、同製造販売承 認によって初めて原告カプセルについての本件発明の実施が解除されたとい える。したがって、本件延長により延長された特許権の効力は、原告カプセル 及びそれと実質的に同一の物についての本件発明に係る結晶の製造及び使用 に及ぶ。 20 被告らの主張は、延長された特許権の効力が政令処分対象物そのもの実施行 為にしか及ばないことを前提にしているが、特許法68条の2は、「延長され た特許権の効力は政令処分対象物「についての」当該特許発明の実施に及ぶ」 としており、延長された特許権の効力は、政令処分対象物そのものの実施行為 に限定されるものではない。 25 イ 以上をふまえると、薬事法の製造販売承認の審査において、特許発明に関し て「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」以外の事項が審査された場合、 10 特許法68条の2の「当該用途に使用される物」の特定には@「成分、分量、 用法、用量、効能及び効果」を用いるとの解釈(オキサリラティヌム事件大合 議判決参照)及びA上記に加え、特許発明に関して審査された事項を用いると の解釈があり得る。 5 @の解釈は、オキサリプラティヌム事件大合議判決の規範を他の類型にも拡 張したものである。この場合、後発医薬品の先発医薬品との差異は、物の特定 には反映されていない。そこで、実施行為の実質同一が問題となる。 その一方、製造販売承認によって特許発明の実施の禁止が解除されることを 重視すると、Aの解釈が合理的である。特許発明に関して審査された事項が物 10 の特定に組み込まれているため、当該審査事項に関する後発医薬品の先発医薬 品との差異は、物の実質同一の問題となる。次に述べるように、@、Aのいず れの解釈によっても、本件延長登録の効果は、本件原薬の製造過程で製造され る物質に及ぶ。 @「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」により特許法68条の2の 15 「当該用途に使用される物」を特定するとの解釈 @ 医薬品の「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」により特許法68 条の2の「当該用途に使用される物」を特定する場合、エルデカルシトー ルの結晶形は、物の特定とは無関係である。被告カプセルにおいて被告原 料に含まれる本件発明に係る結晶が別の結晶形に転換されているという 20 事情は、実施行為の実質同一において考慮されうる(後述のA)。原告カ プセルと被告カプセルとは、用法、用量、効能及び効果の点で同一である。 エルデカルシトール以外の成分(添加物)に関し、その種類の一部に違い があり、共通する添加物についても違いが生じうる。しかし、これらの違 いは、本件発明の特徴及び作用効果(例えば、エルデカルシトールの純度 25 の向上及び安定性の向上)とは無関係である。したがって、これらの違い は、実質同一に影響を及ぼすものではない。 11 A 原告医薬品については、本件発明の実施行為として、本件発明に係る結 晶形のエルデカルシトールが製造され、 (他の結晶形又はアモルファスを 経ることなく)溶媒に溶解される。それに対し、被告カプセルでは、参考 合成例原料(本件発明に係る結晶を含む。)が製造され、薬液の調製にて 5 溶媒へ溶解させる前に別の結晶形に変換される。
被告カプセルについての本件発明の実施行為が、原告カプセルについて の本件発明の実施行為と上記の点(溶媒へ溶解させる前に本件発明に係る 結晶形とは別の結晶形に変換される点)で異なるとしても、実質同一なも のである。被告カプセルについての実施行為も、本件発明に係る結晶を得 10 ている以上、本件発明の特徴及び作用効果(例えば、純度の向上、安定性 の向上又は品質の安定化)を享受している。 A特許発明に関して審査された事項を特許法68条の2の「当該用途に使 用される物」の特定に用いる解釈 @ 原告医薬品に関する「当該用途に使用される物」成分、 は、 分量、用法、 15 用量、効能及び効果に加え、さらに「エルデカルシトールとして本件発明 に係る結晶が使用された」によって特定される。
被告カプセルにおいても、参考合成例原料(本件発明に係る結晶を含む) が使用されている。そのため、この特定が加わっても、被告カプセルと原 告カプセルに関する「当該用途に使用される物」との間に差異は生じない。 20 仮に、原告カプセルに関する「当該用途に使用される物」について「本 件発明に係る結晶のエルデカルシトールが(他の結晶形又はアモルファス を経ることなく)溶媒に溶解された」との特定が加わると解しても、被告 カプセルは、 「当該用途に使用される物」と実質同一なものである。その理 由は、本件後発医薬品において、参考合成例原料(本件発明に係る結晶を 25 含む。)が使用されている以上、本件発明の特徴及び作用効果(例えば、純 度の向上、安定性の向上又は品質の安定化)を享受しているためである。 12 第三者が、本件発明に係る結晶のエルデカルシトールを得ることによっ て本件発明の作用効果を利用しつつ、薬液の製造の前に別の結晶形に転換 するという工程を付加することにより、特許権侵害を免れることができる としたら、延長された特許権は骨抜きとされてしまい、衡平の理念に反す 5 る。 A 原告カプセルと被告カプセルとは、用法、用量、効能及び効果の点で同 一である。エルデカルシトール以外の成分(添加物)に関し、その種類 の一部に違いがあり、共通する添加物についても違いが生じうる。しか し、これらの違いは、本件発明の特徴及び作用効果(例えば、エルデカ 10 ルシトールの純度の向上及び安定性の向上)とは無関係である。したが って、これらの違いは、実質同一に影響を及ぼすものではない。 B 特許発明の実施に関する実質同一は、「当該用途に使用される物」の実 質同一において既に検討したとおりであるため(前記@)、詳細は省略す る。 15 (被告日産化学の主張)
原告の主張は争う。 で主張した通り、被告日産化学は、本件発明の技術的範 囲に属する物を製造していないから、本件延長登録の効力が及ぶ余地はない。 また、延長登録によって効果が及ぶのは、 「処分の対象となった物(その処分に おいてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用 20 途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばない」 のであるから、本件延長登録が効果を及ぼす物は、構成要件A、Bに加えて、次 の要件を満たす必要がある。 C 用途が骨粗鬆症であること D 有効成分がエルデカルシトールであること 25 E 原告カプセルであること 一方、原告は、参考合成例原料を製造するための中間物質に本件延長の効力が 13 及ぶかを問題にしているところ、中間物質がC、Eを満たさないことは明らかで ある。
原告は、 「当該用途に使用される物の実施」に当たるか否かについて、 「使用さ れる」という語を「骨粗鬆症薬の生産に使用される」の意味にすり替えて論じよ 5 うとしているが、明らかな誤りである。 (被告沢井及び被告日医工の主張) ア 原告の主張は争う。原告は独自の解釈論を展開するものであり、理由がな い。 イ 本件発明に係る結晶が含まれていない原告カプセルと被告日医工が本件 10 原薬製造の過程で製造する物質が実質同一とされる余地はない。 ウ 原薬の製造及び使用は、医療用医薬品以外の用途であれば、政令処分を受 けなくても自由に行うことができる。当該医薬品の製造販売が禁止されてい たことにより、当該医薬品を製造する限りにおいて、原薬の製造及び使用が 事実上制限を受けていたというものでしかない。 15 本件特許は、訂正要件違反によって無効とされるべきであるか(争点3) (被告日産化学の主張)
原告は、本件訂正が特許法126条1項2号の誤記の訂正に当たると主張す るが、「誤記の訂正」は、出願人の内心の意思がどうであるかではなく、「本 来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らか 20 な内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と
同一の意味を表示するものと客観的に認められるもの」(審判便覧38−03 の3 )である。 しかし、本件明細書には、訂正前の格子定数a=10.352が誤記である ことをうかがわせるような記載はどこにも見当たらず、拒絶理由通知に対する 25 意見書においても、格子定数a=10.352などを加える限定をしたことで 14 進歩性を主張しており、「訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を 表示するものと客観的に認められる」事情は存在しない。 また、本件特許発明の結晶の格子定数がどのような値であるのかは、発明者 自らが生成した結晶についてX線結晶構造解析により測定しなければ分から 5 ない数値であり、明細書を見た当業者にとってそれが誤記であるなどと客観的 に認識することはできない。 よって、本件訂正は、誤記の訂正には当たらない。 本件訂正は、本件明細書の記載に基づくものではないから、新規事項を追加 する訂正であり、特許法123条1項8号によって無効とされるべきである。 10 (被告沢井及び被告日医工の主張)
原告は、特許法126条1項2号の誤記の訂正として本件訂正を行ったと主 張するが、誤記の訂正とは、 「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲 または図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正 前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認め 15 られるもの」(審判便覧38−03の3 参照)である。 格子定数は、特許請求の範囲における発明の構成に欠くことができない事項 の一つであり、訂正前の記載は、それ自体、結晶構造を特定する数値として明 瞭であり、明細書の他の記載を参酌することなく、記載内容を明確に理解する ことができる。また、訂正前の明細書では一貫して同じ数値が記載されていた。 20 訂正前の格子定数と訂正後の格子定数は明らかに結晶構造を異にする結晶を 規定している。その上、原告は、誤記の根拠として、一般に公開されていない 社内報告書を提出するのみで、誤記であることを当業者が当然に理解するだけ の技術常識もない。 仮に本件明細書に記載された合成方法によって結晶を得てX線構造解析を 25 経て、本件明細書記載の格子定数と一致しないことが確認されたとしても、こ れが誤記であるか否かは特許権者にしか判断できないことであり、当業者が当 15 然に誤記と認識できるようなものではない。 仮に追試によって誤記であることが認識できるとしても、追試をして解析し なければ誤記であることが確認できないような事項は「本来その意であること が明細書、特許請求の範囲または図面の記載などから明らかな内容の字句、語 5 句に正すこと」を超えている。 そうすると、訂正前の明細書及び特許請求の範囲の記載に接した当業者にお いて、これが客観的な誤記であると認識することは困難であり、このような訂 正は、明細書及び特許請求の範囲の記載の公示の機能を害し、本件訂正前の特 許請求の範囲の記載を信頼する第三者に不測の不利益を与えるものである。し 10 たがって、本件訂正が誤記の訂正と認められる余地はない。 本件訂正は、結晶構造を異にする結晶に変更する、特許請求の範囲を実質的 に変更する訂正であり、かつ、訂正前の明細書に記載されていない新たな技術 的事項を導入するものであるから、特許法126条1項但書、同条5項及び6 項に違反するものであり、特許法123条1項8号の無効理由となるものであ 15 るから、特許法104条の3によって、原告は本件特許権に基づく権利の行使 をすることができない。 (原告の主張) 本件明細書には、特定の結晶形を得るための合成方法が記載されており、 特許請求の範囲に記載されたのは本件明細書の実施例2で得られる結晶形を 20 指す。 平成8年1月29日作成の「実96 0021実験・研究報告書(概要)」 と題された原告の社内報告書には、格子定数aは10.325(2)Åであ ることが記載されており、本件訂正前の本件明細書の実施例4の記載は、同 報告書の記載を誤って転記したものである。本件訂正は、出願人の内心の意 25 思と明細書又は図面の記載による表示の間の錯誤を解消するものである。し たがって、特許法126条1項ただし書2号(誤記又は誤訳の訂正)の目的 16 のために行われたものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更する ものではない。 本件明細書には、実施例2に、本件発明に係る結晶を得るための具体的な 条件が記載されている。したがって、当業者であれば、本件明細書に従って 5 結晶を得て、X線構造解析を行うことにより、正しい格子定数aを認識し、 設定登録時の格子定数aが実際の値とは異なることを理解できた。 一つの化合物において自然界に存在する結晶形の数は限られており、結晶 多形の間で結晶構造は互いに大きく異なる。したがって、第三者が、設定登 録時の特許請求の範囲に記載された結晶構造を別の結晶形と誤解するおそれ 10 もなく、不利益を被るおそれもない。 本件訂正は、この結晶形を正確に表すためのものであり、出願当初の明細 書及び図面に記載された事項の範囲内でなされたものである。したがって、 本件訂正は、特許法126条5項の要件を満たす。 本件延長登録は無効とされるべきであるか(争点4) 15 (被告日産化学の主張) ア 特許権の延長登録は、「その特許発明の実施について安全性の確保等を目 的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続 等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令 で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をする 20 ことができない期間があったとき」(特許法第67条4項)に認められる。 本件延長登録の対象となった原告カプセルには、エルデカルシトールの結 晶は含まれていない。そうすると、原告医薬品の製造、使用は、本件発明の 実施ではない。すなわち、本件特許の物の発明としての結晶の製造でもなく、 使用でもない。その結果、本件特許の延長登録の基礎となった処分のために、 25 本件発明の実施は何ら制限されておらず、「その特許発明の実施をすること ができない期間」があったとはいえない。 17 イ また、仮に何らかの結晶が本件延長登録に係る「処分」の対象になってい たとしても、原告は、延長登録出願の審査過程において、処分を受けるため に実施が制限された物と、本件発明に係る結晶が同一であることを証明して いないのであるから、「その延長登録がその特許発明の実施に特許法第67 5 条第4項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められな い場合の出願に対してされたとき」に該当し、特許法第125条の3第1項 1号の規定により、その延長登録は無効とされるべきである。 ウ よって、本件延長登録は無効とされるべきであり、その場合、本件特許権 は出願から20年の経過を持って既に満了している。 10 (被告沢井及び被告日医工の主張) ア で主張したとおり、本件延長登録は原告カプセルについてされたもので あるところ、原告カプセルは本件発明の技術的範囲に属するものではない から、処分を受けるためにその特許発明の実施をすることができない期間 があったときに当たらない。 15 イ また、原薬の製造については、「安全性の確保等を目的とする法律の規定 による許可その他の処分」(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性 の確保等に関する法律に基づく承認)は必要とされていないので、原告の主 張はその前提を欠く。 ウ 本件延長登録は、平成28年法律第108号による改正前の特許法67 20 条2項に違反してされたものであり、これは、特許法125条の2に定め る無効理由となるものであるから、原告は、特許法104条の3により、 本件特許権に基づく権利の行使をすることができない。 (原告の主張) 前記 のとおり、特許発明の種類及び対象によっては、製造販売承認の対象 25 である医薬品がその技術的範囲に属さない場合であっても、その医薬品につい ての特許発明の実施が製造販売承認まで禁止される場合がある。 18 原薬が特許発明の技術的範囲に属し、かつ品質、有効性及び安全性に関する 事項の薬事審査の対象とされる場合、その原薬を用いた医薬品の製造販売承認 まで、当該医薬品についての特許発明の実施は制限されている。 また、原告カプセルの治験につき原薬に用いられた試料をXRPDで解析し 5 たところ、同原薬が本件発明に係る結晶を主要な成分として含有することを確 認している。
被告らにつき共同不法行為が成立するか(争点5) (原告の主張) ア 被告日産化学と被告日医工及び被告沢井とは、あらかじめ計画された一連 10 のプロセスを分担して実施しており、これらの行為は、エルデカルシトール を有効成分とする被告カプセルの製造において一体をなしている。被告カプ セルの製造にあたり、被告日産化学の行為と被告日医工及び被告沢井の行為 とは、互いに他方を必要としており、一体性を有する。 したがって、被告日産化学の行為と、被告日医工及び被告沢井の行為との 15 間に、客観的関連共同性が認められる。 イ 被告日医工及び被告沢井は、後発医薬品メーカーとして、結晶形に細心の 注意を払ってきた。そして、本件原薬の製造方法は、日産化学明細書によっ て公開されていた。そのため、被告日医工及び被告沢井は、本件原薬を製造 するための中間物質として被告原料が製造されることも当然に認識してい 20 たし、日産化学明細書を基にした再現実験等によって被告原料に本件発明に 係る結晶が含まれていることは容易に確認でき、確認したはずである。 したがって、被告日医工及び被告沢井は、被告日産化学が本件発明に係る 結晶を製造していると認識しているか、あるいは、容易に認識し得た。被告 日医工及び被告沢井は、この認識の下、被告日産化学の行為を利用してきた。 25 被告日産化学は、参考合成例原料を経た本件原薬が被告日医工及び被告沢井 にて使用されることについて、積極的な営業活動を行った。 19 これらに前記アで述べた事情も考慮すれば、被告日医工及び被告沢井は、
被告日産化学と共同の意思の下、被告カプセルの製造及び販売のため、本件 発明に係る結晶を含む参考合成例原料を製造及び使用していることは明ら かである。あるいは、被告日医工及び被告沢井は、本件後発医薬品の製造及 5 び販売のため、被告日産化学を指揮監督の下で用いて、被告原料を製造及び 使用していることは明らかである。 (被告沢井及び被告日医工の主張)
原告の主張は争う。被告沢井及び被告日医工は、本件発明に係るエルデカル シトールの結晶を含有する組成物を保有、使用していない。仮に被告日産化学 10 が本件発明に係る結晶を製造していたとしても、被告日医工及び被告沢井製薬 の行為の間に客観的関連共同性はない。また、被告沢井及び被告日医工は、被 告日産化学が中間物質として本件発明に係る結晶を製造しているとの認識を 有していない。よって、被告日産化学と共同の意思を有している事実はなく、 また、被告日医工及び被告沢井が被告日産化学をその指揮の下で用いている事 15 実もない。 損害(争点6) (原告の主張) ア 令和元年において、エルデカルシトールを有効成分とする医薬品は、原告 医薬品及び原告医薬品と同一の名称、内容で大正製薬株式会社が販売してい 20 た医薬品のみであった(以下、これらの医薬品を総称して「エディロール」 という。。エディロールの同年の売上げは720億円であった。 )
被告沢井製薬及び被告日医工は、令和2年8月、被告カプセルの販売を開 始した。その結果、同月から同年10月の3月間における原告カプセルの売 上げは、前年の同じ時期と比較して、約45%減少した。そうすると、エデ 25 ィロール全体の売上げ減少は、次のとおり81億円を下らない。 720億円×(3/12)×0.45=81億円 20 エディロールの売上げの減少は、被告カプセルの販売によるものであると いえ、エディロールの販売減少に対応するだけ、被告カプセルの売上げがあ ったといえるところ、原告及び大正製薬株式会社が販売する「エディロール カプセル0.75μg」及び「エディロールカプセル0.5μg」の薬価は 5 98.20円/カプセル及び62.90円/カプセルであるのに対し、本件 後発医薬品のうち用量が0.75μgのタイプ及び0.5μgのタイプの薬 価は、35.3円/カプセル及び24.90円であり、エディロールの売上 げのうち、「エディロール?カプセル0.75μg」が、全体の約90%を 占めることからすると、被告カプセルの売上げは、次のとおり29億円を下 10 らない。 81億円×0.9×(35.3/98.2) +81億円×0.1×(24.9/62.9)≒29億円
被告沢井と被告日医工の売上げは同等である。また、両社は、いずれも、 2社から被告カプセルの原薬を購入しており、被告沢井及び被告日医工が販 15 売した被告カプセルのうち、被告日産化学から購入した原薬から製造された
被告カプセルは販売されたカプセルの半分であるといえる。被告沢井と被告 日医工の利益率は30%を下らない。よって、被告沢井及び被告日医工が、 本件原薬から製造した被告カプセルの販売による利益は、次のとおり、それ ぞれ、2億2000万円を下らない。 20 29億円×0.3×(1/2)×(1/2)≒2.2億円 よって、特許法102条2項により、原告が被告日産化学が被告沢井に本 件原薬を販売したことに係る損害及び被告日産化学が被告日医工に本件原 薬を販売したことに係る損害は、それぞれ2億2000万円を下らないとこ ろ、原告は、その一部として、5000万円ずつを請求する。 25 イ 弁護士費用相当損害金は前記各2億2000万円の10%である各22 00万円を下らないところ、その一部として、被告日産化学及び被告沢井、 21
被告日産化学及び被告日医工それぞれに対して、500万円ずつを請求する。 (被告日産化学の主張) 争う。 (被告沢井及び被告日医工の主張) 5 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告日産化学が本件原薬を製造する過程で、本件発明の技術的範囲に 属する結晶を製造しているか)について ア 本件明細書には、以下の記載がある。(なお、二重下線部分が訂正部分で 10 あり、その後の括弧内に訂正前の内容を記載している)(甲12、14) 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、新規なビタミンD誘導体結晶、より詳 細には、逆相系クロマトグラフィーで精製したビタミンD誘導体を有機溶媒 15 で結晶化させて得られる新規なビタミンD誘導体結晶に関する。本発明はま た、結晶化工程を含むビタミンD誘導体の精製方法に関する。 【0002】 【従来技術】各種のビタミンD誘導体は有用な生理活性を有することが知ら れている。例えば、特公平6−23185号には、下記一般式: 20 【化12】 [式中、 1 はアミノ基又は式OR’R’は水酸基、 R( ハロゲン原子、シアノ基、 アシルアミノ基で置換されているか若しくは非置換の炭素数1〜7の低級 22 アルキル基である)を意味し、R2 は水素原子又は水酸基を意味する]で示さ れる1α−ヒドロキシビタミンD3 誘導体が記載されており、この誘導体がカ ルシウム代謝異常に基づく疾患の治療薬または抗腫瘍剤として有用である ことが記載されている。また、上記一般式に属する化合物の1つである1α、 5 25−ジヒドロキシ−2β−(3−ヒドロキシプロポキシ)ビタミンD3(E D−71とも称される)は骨形成作用を有する活性型ビタミンD誘導体であ り、骨粗鬆症治療剤として開発が進められている。 【0003】その一方で、活性化合物の治療用原体の製造においては、より 高品質の原体を大量に安定的に製造する必要があり、そのためにできるだけ 10 早い段階で原体の製造方法を確立することが要求されている。特に、ED− 71は従来アモルファスの形態でしか得られておらず、結晶の形態で得たと いう報告はない。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ビタミンD誘導体、特に 15 はED−71の高純度精製物を大量的かつ安定的に供給するための方法を 確立することである。本発明の一つの目的は、未精製物または粗精製物を精 製して得たビタミンD誘導体結晶を提供することである。本発明の別の目的 は、結晶化工程を含むビタミンD誘導体の精製方法を提供することである。 本発明の別の目的は、結晶化工程を含むED−71のプレ体化合物の精製方 20 法、並びに当該方法により得られた精製されたプレ体化合物を提供すること である。本発明のさらに別の目的は、ビタミンD誘導体の合成および精製中 に副生する新規化合物を提供することである。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、 (1)ED−71のHPLC分 25 取精製におけるプロビタミンD誘導体(プロ体)中の不純物の影響; (2)プ レビタミンD誘導体(プレ体)及びED−71の熱、光、酸素による安定性; 23 および(3)微量高生理活性物質であるED−71の取扱い;および(4) 結晶化による精製の可能性といった観点に留意して、プロ体からED−71 までの合成精製工程を鋭意研究した。その結果、メタノールで再結晶したプ ロ体を使用し、低温で光反応を行い、熱異性化反応後、逆相系HPLCで精 5 製し、濃縮し、酢酸エチルで結晶化することにより、ED−71結晶をグラ ムオーダーで得ることに成功し、本発明を完成するに至った。また、本発明 者らは、プロ体中および光反応での副生物の構造を解明し、新規な化合物を も同定した。 【0013】本明細書中において、 「結晶」という用語はその最も広い意味に 10 おいて用いられ、結晶形態、結晶系などは特に限定されないものとする。 【0014】本発明の最も好ましいビタミンD誘導体であるED−71の結 晶体は、上記の通り、その性質は特に限定されるものではないが、特に好ま しくは以下の条件を充足するものである。 (1)性状(外観):肉眼および蛍光顕微鏡により観察し白色の結晶性の粉 15 末。 (2)溶状:1mg/mLエタノールで透明溶液となる。 (3)確認:IR法またはNMR法で構造を支持する。 (4)融点:DSCで測定して130℃以上を示す。 (5)吸光係数:40μg/mLエタノールで265nmの ε を測定し、1 20 6000以上を示す。 (6)HPLC純度:HPLC(DIACHROMA ODS N-20 5μm 4.6× 250mm、45%アセトニトリル−水、流速1mL/分、220nm、1 mg/mL10μL、4−90分)のピーク面積が97%以上である。 【0016】本明細書中において、 「未精製物または粗精製物」とは、ビタミ 25 ンD誘導体の合成反応直後の未精製のままの生成物、または慣用な精製方法 で粗精製した後のビタミンD誘導体生成物を意味し、それらは通常アモルフ 24 ァス形態で存在している。 【0017】本明細書中においては、 「逆相系クロマトグラフィー」とは、通 常の意味と同じように、固定相の方が移動相より極性の小さい系でのクロマ トグラフィーを意味する。逆相系クロマトグラフィーは高速液体クロマトグ 5 ラフィー(HPLC)で行うのが好ましい。目的とする物質を効率よく分離 するためには分離溶剤、充てん剤の種類およびカラムへの負荷量を適宜選択 することが必要である。 【0018】分離溶剤の例としては、アセトニトリル/水系およびメタノー ル/アセトニトリル/水系などが挙げられるがこれらに限定されるもので 10 はない。また、上記の溶剤を用いる場合の混合比率は、精製目的物の種類、 充填剤の種類などに応じて最適な比率を選択すればよく、特には限定されな い。それらの比率は、一般的には、アセトニトリル20〜60重量部、メタ ノール0〜40重量部、そして水0〜80重量部である。充てん剤の種類は、 粒径、ポアーサイズなどを指標にして、使用するカラムあるいは精製目的物 15 との適合性などを考慮して適宜選択することができる。カラム負荷量はカラ ムの内径などに応じて調節することが必要であるが、例えば内径50mmの 場合には、25μgから10g程度、好ましくは25μgから3g程度負荷す ることができる。 【0019】上記のクロマトグラフィーで得た画分は結晶化に先立って、単 20 離することが必要である。単離法としては、エバポレーターによる濃縮、凍 結乾燥、抽出法、濾過法などが挙げられる。上記を含む単離法の中から目的 精製物の性質などを考慮して適当なものを適宜選択すればよい。例えばED −71を精製する場合にはエバポレーターによる濃縮が操作上利点が大き く、再現性があり、またED−71が分解しないという理由により好都合で 25 ある。 【0020】ビタミンD誘導体の結晶化のために用いる有機溶媒は、好まし 25 くは、非プロトン性有機溶媒である。非プロトン性有機溶媒の例としては、 酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、 ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、あるいはアセトニトリル、また はこれらの混合溶媒などが挙げられ、特に好ましい有機溶媒は、酢酸エチル、 5 アセトンまたはアセトニトリルあるいはこれらの混合溶媒である。晶析条件 は、目的精製物および晶析溶媒に応じて適宜選択する必要があり、一般的に は、粗ビタミンD誘導体に対して、1倍から100倍、好ましくは5倍から 10倍の溶媒を加えて、30℃以下、好ましくは−10℃以下で晶析させる。 【0027】実施例2: (1R、2R)−1、25−ジヒドロキシ−2−(3’ 10 −ヒドロキシプロポキシ)−コレカルシフェロール;2β−(3’−ヒドロキ シプロポキシ)−(1α、3β、5Z、7E)−9、10−セココレスタ−5、 7、10(19)−トリエン−1、3、25−トリオール(ED−71)の 合成および精製 【化28】 15 【0028】1L容器中で、実施例1で得た精製プロ体化合物2(6.02 g)をTHF(1L)に溶解し、アルゴン脱気下、冷却状態(内温−13℃ 26 以下)で400W高圧水銀灯(Vycorフィルター使用)により150分 間紫外線照射した。反応液を室温に戻し、THF(100mL)で共洗しつ つ2L茄子型フラスコに移し、180分間加熱還流した。反応液を濃縮後、 メタノール(80mL)に溶解し分離サンプルとした。分離サンプル20m 5 L(Pro体換算1.5g量)を、分取用カラムクロマト装置(内径50×長 さ300mm;充てん剤名DIACHROMA ODS N−20、三菱加工 機から入手;粒径5μm)に全量ポンプ注入した。45%アセトニトリル水 溶液(60ml/分)で展開し、UV(220、305nm)でモニターし て ED−71の分画を約2.4L(約130〜170分)を得た。同様の操 10 作を3回繰り返し、計4回分のED−71の分取分画約9Lを10Lエバポ レータで濃縮した。残査をエタノールに溶解し、再度濃縮乾固した。濃縮残 査に酢酸エチル(20ml)を加えて溶解し、室温撹拌下、結晶を析出させ、 更に−10℃以下に冷却し、15分間撹拌した。結晶を濾取し、冷却した酢 酸エチル(6ml)で3回洗浄後、室温で一晩減圧乾燥し、ED−71(2. 15 17g;収率36.1%)を得た。 【0039】実施例4:ED−71のX線結晶構造解析 ED−71試料(実施例3で使用したED−71試料)より結晶を選出し、 X線回折実験を行った。その結果、本結晶は斜方晶系に属し、空間群P212 121、格子定数a=10.325(2)(本件訂正前は「格子定数 a=10. 20 352(2)) 」、b=34.058(2)、c=8.231(1)Å、Z=4 であることが判明し、2520個の反射データを測定した。構造解析は以下 のように行った。直接法(SHELXS86)により位相を求め、非水素原 子位置をフーリエ合成により見いだした。炭素に結合した水素原子位置につ いては炭素原子位置より算出した。酸素に結合した水素原子位置は他の原子 25 の位置を求めた後、D合成により見いだした。 【0051】以上の結果から、25℃での2Wまで、並びに40℃での2W 27 までにおいては、結晶体の方がアモルファス体より安定性が高いことが明ら かに分かる。 【0052】 【発明の効果】本発明のビタミンD誘導体結晶は、純度の向上、安定性の向 5 上および品質の安定化などの利点をもたらし、当該ビタミンD誘導体を含む 医薬品などを製造する際に有用である。また、本発明のビタミンD誘導体の 精製方法により、高品質のビタミンD誘導体を安定的かつ大量的に(グラム オーダーで)製造することが可能になる。また、本発明のED−71の類縁 化合物であるタキ体およびED−71のプロ体の類縁化合物であるルミ体 10 は新規化合物であり、ビタミンD誘導体の合成における試験または分析の際 などに有用である。 イ 上記の本件明細書の記載によれば、本件発明は、従来、アモルファス(非 晶質)の形態でしか得られておらず、結晶の形態で得たという報告がないエ ルデカルシトールについて、結晶形態を得ることによって高純度精製物を提 15 供することなどを課題とする。そして、本件発明は、メタノールで再結晶し たプロ体を使用し、低温で光反応を行うなどした上でエルデカルシトールを 合成し、精製、濃縮し、酢酸エチルで結晶化することにより得られた、本件 格子定数のエルデカルシトール結晶である。 ア 日産化学明細書には、以下の記載がある。 20 【技術分野】 【0001】 本発明は、ビタミンD3誘導体の新規な結晶形及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 25 ビタミンD誘導体は、多様な生理活性を有しており、それらの化合物は医 薬品として開発されている。特に式(1) 28 【化1】 で表される1α、25−ジヒドロキシ−2β−(3−ヒドロキシプロポキシ) ビタミンD3(化合物(1))は、骨粗しょう症治療薬として開発されている 5 (特許文献1、非特許文献1)。また、化合物(1)の形態としては、非晶質 および1つの結晶形(本明細書中A型結晶と呼ぶ)が知られている。199 8年に報告されたA型結晶は、これまで報告された唯一の結晶形である(特 許文献2) 【発明の概要】 10 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、ビタミンD3誘導体の新規な結晶形を提供する。また本発明は、 その新規な結晶形の製造方法を提供する。 【課題を解決するための手段】 15 【0006】 医薬品原薬の開発において、その結晶形態の重要性に注目が集まる中で、 結晶多形の存在を確認し、またその特性を解析することが求められている。 化合物(1)についても、A型結晶以外の新たな結晶形の発明が求められて いた。 20 上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、化合物(1) の新規な結晶形(本明細書中、B型及びC型結晶と呼ぶ)及びその製造方法 29 を見出し、本発明を完成させた。 【発明を実施するための形態】 【0010】 以下に、本発明についてさらに詳しく説明する。 5 【0011】 本明細書中の「n−」はノルマルを、 「i−」はイソを、 「t−」はタ−シャ リ−を、「Ph」はフェニルを、「TES」はトリエチルシリルを意味する。 【0012】 まず、化合物(1)のB型結晶の製造方法について説明する。 10 【0013】 化合物(1)を加熱溶解させる溶媒には、有機溶媒、又は水と有機溶媒の 混合溶媒を用いることができる。有機溶媒は水と任意の割合で溶解するもの が好ましく、例えばアルコール溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、ケトン 溶媒、アミド溶媒、スルホキシド溶媒が挙げられる。 15 より好ましくは、アルコール溶媒はメタノール、エタノール、n−プロパ ノール、i−プロパノール、t−ブタノール、ニトリル溶媒はアセトニトリ ル、エーテル溶媒はテトラヒドロフラン、1、4−ジオキサン、ケトン溶媒 はアセトン、アミド溶媒はN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチ ルアセトアミド、スルホキシド溶媒はジメチルスルホキシドである。 20 【0014】 これらの溶媒は単独で使用できるし、2種類以上を混合して使用すること もできる。 【0015】 水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、その含水率は、化合物(1)を一 25 旦溶解することができる任意の含水率を選択することができる。使用する有 機溶媒として、好ましくはアルコール溶媒、ニトリル溶媒又はこれらの混合 30 溶媒であり、より好ましくはメタノール、エタノール又はアセトニトリルで ある。晶析効率と精製効果のバランスを考えると、有機溶媒と水の混合比は、 好ましくは9:1乃至1:9、より好ましくは5:5乃至3:7である。 【0016】 5 使用する有機溶媒の量は化合物(1)を溶解する量を任意に設定できるが、 好ましくは化合物(1)に対し1乃至100質量倍であり、より好ましくは 5乃至50質量倍であり、更に好ましくは10乃至25質量倍である。 【0017】 水と有機溶媒の混合溶媒を事前に調製し、これに化合物(1)を溶解した 10 後、冷却又は濃縮することで結晶化させることもできるし、化合物(1)を 有機溶媒に溶解した後、水を加え、又は水に加えることで結晶化させること もできる。上記、水と有機溶媒の混合溶媒から析出させる方法、有機溶媒と 水を混合させて析出させる方法は、両者とも冷却しても濃縮しても、冷却と 濃縮の両方を組み合わせても結晶化することができる。 15 【0018】 本明細書中、急冷とは、化合物(1)を溶媒に60℃以上で加熱溶解させ た状態から、10℃以下の状態まで15分以内に降下させることを意味する。 結晶が析出する温度は30℃以下であり、好ましくは−30℃乃至20℃で あり、より好ましくは−10℃乃至10℃である。 20 【0019】 化合物(1)の溶液を濃縮して結晶化させる場合、任意の量の溶媒を残し て結晶化させることもできるし、完全に除去して結晶化させることもできる。 【0020】 なお、結晶化に際しては、種晶を使用することもできる。種晶は前述に記 25 載の手法を、あらかじめ小スケールで実施することにより取得できる。 【0021】 31 B型結晶は、次の(a)の物性値で特定される。 (a)Cu・Kα を線源とした粉末X線回折測定において、2θ=4.1°±0. 2°、5.0°±0.2°、7.5°±0.2°、9.3°±0.2°、10.0°±0. 2°、12.1°±0.2°、12.6°±0.2°、12.9°±0.2°、13.6°± 5 0.2°、14.9°±0.2°、15.4°±0.2°、17.3°±0.2°、18. 7°±0.2°、19.0°±0.2°に特徴的なピークを有する。 【0022】 次に、化合物(1)のC型結晶の製造方法について説明する。 【0023】 10 C型結晶は、B型結晶を加熱することで製造することができる。加熱温度 は、好ましくは、30℃乃至90℃であり、より好ましくは60℃乃至80℃ である。加熱時間は、好ましくは恒量に到達するまでであり、より好ましく は2時間以内である。 【0024】 15 C型結晶は、次の(a)(b)又は(c)のいずれかの物性値で特定するこ 、 とができる。 (a)粉末X線回折 一つの様態として、C型結晶は、Cu・Kα を線源とした粉末X線回折測 定における2θ=7.5°±0.2°、9.3°±0.2°、10.0°±0.2°、1 20 2.2°±0.2°、12.6°±0.2°、12.9°±0.2°、15.3°±0. 2°のいずれか3本以上のピークで特定することができる。 一つの様態として、C型結晶は、上記7本のピークのいずれか5本以上で 特定することができる。 一つの様態として、C型結晶は、上記7本のピークで特定することができ 25 る。 一つの様態として、C型結晶は、Cu・Kα を線源とした粉末X線回折測 32 定における2θ=5.0°±0.2°、7.5°±0.2°、9.3°±0.2°、1 0.0°±0.2°、12.2°±0.2°、12.6°±0.2°、12.9°±0. 2°、13.8°±0.2°、14.8°±0.2°、15.3°±0.2°、17.3°± 0.2°、18.7°±0.2°、19.0°±0.2°のいずれか3本以上のピー 5 クで特定することができる。 一つの様態として、C型結晶は、上記13本のピークのいずれか5本以上 で特定することができる。 一つの様態として、C型結晶は、上記13本のピークのいずれか10本以 上で特定することができる。 10 一つの様態として、C型結晶は、上記13本のピークで特定することがで きる。 (b)示差走査熱量測定において、特徴的なピークとして、85〜93℃に 吸熱ピーク、101〜131℃に発熱ピーク、135〜139℃に吸熱ピー クを有する。 15 (c)結晶格子定数:空間群P21、格子定数a=17.71Å、b=7.6 3Å、c=11.70Å、β=93.43° 【0025】 粉末X線回折、示差走査熱量計の測定及び評価の技術常識については、例 えば第十六改正日本薬局方などが参照できる。 20 粉末X線回折のピークは、回折角2θ(°)で表される。このピーク値は、通 常プラスマイナス0.2°の測定誤差を有しうる。 結晶格子定数の、算出および評価などの技術常識については、中井泉、泉 富士夫編集、 「粉末X線解析の実際(第2版)、朝倉書店、2009年、19 」 7−201ページなどが参照できる。 25 【0026】 化合物(1)のB型結晶の製造の原料としては、化合物(1)の非晶質また 33 はA型結晶もしくはその他の形態を用いることができる。それら化合物(1) の製造は、前述の特公平6−23185号や特開平10−72432号に記 載の方法、またはそれらに準じた方法で製造することができる。また、当業 者は、ビタミンD3誘導体の製造方法として公知の方法を応用し、化合物(1) 5 を製造することができる。 【0037】 参考合成例2:化合物(1)の合成 【化4】 10 フッ化テトラ−N−ブチルアンモニウム3水和物(6.13g、19.4 3mmoL)をテトラヒドロフラン(18.46g)へ溶解させた後、参考 合成例1で合成した化合物(4) (3.07g、3.24mmoL)とテトラ ヒドロフラン(12.30g)の混液を25℃付近で加え、テトラヒドロフ ラン(9.30g)で洗い込み、25℃付近で15時間以上撹拌した。反応 15 後、酢酸エチル(30.74g)及び精製水(24.57g)を加え、分液 操作により水層を分離した。分離した水層から酢酸エチル(15.37g、 15.35g)で抽出を行い、さらに、全ての有機層を5%塩化ナトリウム 水溶液(30.76g)で洗浄し、得られた有機層を減圧濃縮して、濃縮残 渣(3.21g)を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ− 20 (酢酸エチル)で精製し、濃縮乾固により、化合物(1) (1.41g、収率 89%)を白色固体として得た。 【0038】 34 LC純度:99.37% DSC(onset):135℃(endo) 【0039】 参考合成例3:化合物(1)のA型結晶の合成 5 特開平10−72432号に記載の方法に準じて、目的化合物(0.56 g、収率81%)を白色結晶として得た。 【0040】 LC−MS:491.37[M+H] H NMR(400MHz、CDCl3)δppm 6.36(d、J=11.4 1 10 Hz、1H)、6.04(d、J=11.4Hz、1H)、5.50(d、J=1.4 Hz、1H)、5.08(t、J=2.1Hz、1H)、4.32(d、J=9.1H z、1H)、4.26(d、J=2.3Hz、1H)、3.90−3.95(m、1 H)、3.85(t、J=5.5Hz、2H)、3.70−3.75(m、1H)、3. 25−3.28(m、1H)、2.80−2.83(m、1H)、2.40−2.44 15 (m、3H) 1.82−2.05 、 (m、5H)1.21−1.69 、 (m、23H)、 1.05(q、J=9.9Hz、1H)、0.93(d、J=6.4Hz、3H)、0. 55(s、3H) 13 C NMR(100MHz、CDCl3)δppm 144.2、143.1、 132.2、125.0、117.3、111.9、85.5、77.3、71.6、 20 71.2、68.3、66.6、61.3、56.6、56.4、46.0、44.5、 40.5、36.5、36.2、31.9、29.4、29.3、29.2、27.7、 23.8、22.4、20.9、18.9、12.0 LC純度:99.96% XRD: 25 (特徴的なピーク) 2θ=5.2°、11.9°、13.7°、14.0、14.9°、15.8°、1 35 7.2°、17.9°、18.9°、20.4° 結果を図1に示す。 DSC(onset):139℃(endo) 結果を図2に示す。 5イ 上記の日産化学明細書の記載によれば、エルデカルシトールは、骨粗しょ う症治療薬として開発されており、その形態としては、非晶質及び本件発明 に係る結晶(日産化学明細書で「A型結晶」と呼ばれているもの。)が知られ ていたが、本件発明に係る結晶以外の結晶形の発明が求められていた。日産 化学明細書記載の発明は、エルデカルシトールの新規な結晶であり、粉末X 10 線解析測定における特徴的なピークにより特定されるB型結晶と呼ばれる 結晶(以下「B型結晶」という。)と、XRPD、示差走査熱量測定の特徴的 なピーク及び結晶格子定数により特定されるC型結晶と呼ばれる結晶(以下 「C型結晶」という。)である。
被告沢井は、平成28年頃、被告日産化学から、エルデカルシトールの新し 15 い結晶形を開発することができたとして、エルデカルシトールの原薬について 営業活動を受け、新たな結晶形が開発されたのであれば、本件特許権に抵触す ることはないと判断し、被告日医工との共同開発により被告カプセルを開発し た。(弁論の全趣旨)
被告日産化学は、平成28年8月頃までに、日産化学明細書記載のエルデカ 20 ルシトールの結晶であるB型結晶、C型結晶の発明を完成させた(甲1) 。 また、前記 によれば、被告日産化学は、平成28年頃、本件発明に係る結 晶以外の結晶の開発に成功したことを理由として挙げて、被告沢井にエルデカ ルシトールの販売を打診した。本件発明に係る結晶、B型結晶、C型結晶の3 種の結晶の他に結晶形が知られていることをうかがわせる事情はない。 25 これらに、被告日産化学が、本件発明に係る結晶を直接使用して本件原薬を 製造していることをうかがわせる事情が全くないことも考慮すると、被告日産 36 化学は、B型結晶又はC型結晶を製造し、これを用いて本件原薬を製造してい るものと一応推認することが合理的である。なお、B型結晶及びC型結晶が、 いずれも本件発明の技術的範囲に属さないことについては争いがない。
原告は、日産化学明細書によれば、B型結晶及びC型結晶は、化学合成され 5 たエルデカルシトールをもとに製造されているところ、日産化学明細書に参考 合成例2として記載されているエルデカルシトールの製造方法(日産化学明細 書【0037】)の方法。以下「参考合成例方法」という。)に基づいてエルデ カルシトールを合成して得られた白色固体をXRPDで分析したところ、同固 体の主要な成分が本件発明に係る結晶であったと主張し、このことを根拠に、 10 被告日産化学は、B型結晶又はC型結晶を製造するに当たって、本件発明に係 る結晶を中間物質として製造していると主張している。 しかし、被告日産化学が、B型結晶又はC型結晶を製造するに当たって、参 考合成例方法によってエルデカルシトールを合成し、これを原料にB型結晶又 はC型結晶を製造していることを直接裏付ける証拠はない。日産化学明細書の 15 記載によれば、参考合成例方法を用いて合成されたエルデカルシトールを原料 にしてB型結晶、C型結晶を製造することができることは認められるものの、 参考合成例方法以外の方法で製造したエルデカルシトールでは、B型結晶、C 型結晶を製造することができない又は著しくこれが困難であることをうかが わせる事情はない。 20 そもそも、日産化学明細書記載のB型結晶及びC型結晶の製造方法は、エル デカルシトール合成後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製し、精製によっ て得られるエルデカルシトール溶液の溶媒である酢酸エチルを蒸発させて濃 縮乾固して参考合成例原料を得(参考合成例方法。日産化学明細書【0037】、 ) 参考合成例原料をアルコール溶媒(メタノール、エタノール等) ニトリル溶媒 、 25 (アセトニトリル)等またはこれらと水の混合液(以下、これらの溶媒を併せ て「B型用溶媒」という。)に溶解した後、水を加えたり、冷却や濃縮等するこ 37 とによってB型結晶を析出させ(日産化学明細書【0013】 【0021】、 〜) 得られたB型結晶を加熱してC型結晶を得る(日産化学明細書【0023】 と) いうものである。 このような日産化学明細書記載の方法を前提にしても、B型結晶の製造方法 5 は、エルデカルシトールのB型用溶媒溶液を製造し、これに上記の操作を加え てB型結晶を析出させるというものなのであるから、エルデカルシトールのB 型用溶媒溶液を得ることさえできれば、参考合成例原料を経由することなく、 B型結晶を得ることができることは明らかである。 日産化学明細書にも、 「化合物(1) (エルデカルシトール)のB型結晶の製 10 造の原料としては、化合物(1)の非晶質(アモルファス)またはA型結晶も しくはその他の形態を用いることできる。」と記載されており(日産化学明細 書【0026】、従前、エルデカルシトールはアモルファスの形態しか知られ ) ていなかったとされている(本件明細書【0003】)ことからすると、エルデ カルシトールのアモルファス形態を製造し(なお、再結晶が予定されているた 15 め、高純度が要求されるものでもない。、これをB型用溶媒に溶かしてエルデ ) カルシトールのB型用溶媒溶液を得ることに困難があるとは認められない。 以上のとおりであって、被告日産化学がB型結晶又はC型結晶を製造するに 当たって参考合成例方法を採用していることを直接裏付ける証拠はない。かえ って、本件明細書及び日産化学明細書の記載のみからですら、参考合成例原料 20 を経由せずにB型結晶を得る手法が想定できる。そうすると、被告日産化学が、
原告が主張する本件原薬の製造方法を否認するのみで、参考合成例原料の製造 方法の開示を拒んでいるといった事情等を考慮しても、被告日産化学が本件原 薬を製造する過程において、参考合成例原料を製造していると認めるに足りな いというべきである。その他、被告日産化学が本件発明の技術的範囲に属する 25 結晶を製造していることを認めるに足りる証拠はない。 第4 結論 38 よって、被告日産化学が本件発明の技術的範囲に属する結晶を製造していると は認められないため、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には いずれも理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 5 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 10 裁判官 佐伯良子 裁判官 仲田憲史 15 20 25 39 別紙 被告原料目録 (省略) 5 40
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2022/02/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容