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関連審決 異議2002-70422
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 公然知られ(29条1項1号) /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  技術常識 /  着想 /  置き換え /  置換 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 580号 特許取消決定取消請求事件
原告 ブラザー工業株式会社
訴訟代理人弁理士 根本恵司
同 三谷浩
同 武藤勝典
同 田辺政一
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 平上悦司
同 田中秀夫
同 小曳満昭
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2002−70422号事件について平成14年9月6日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「キースイッチ装置」とする特許第3201359号の特許(平成4年2月14日にした出願(特願平4-61395号。以下「原出願」という。)の一部を新たな特許出願として平成10年9月28日出願(以下「本件出願」という。),平成13年6月22日特許権設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。
本件特許について,特許異議の申立てがなされ,その申立ては,異議2002-70422号事件として審理された。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書の訂正(以下「本件訂正」といい,訂正後の全文訂正明細書を,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)を請求した。特許庁は,平成14年9月6日に,「訂正を認める。特許第3201359号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年10月21日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件訂正後のもの。下線部が訂正個所である。) 「裏面から複数の第1係止部が垂設されたキートップと, 前記キートップの下方に配設され,両端にそれぞれ係止軸が形成された2つのリンク部材からなる案内支持部材と, 前記キートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行なうスイッチング部材と, 前記スイッチング部材が載置された回路基板と, 上面に前記回路基板を支持するとともに,前記第1係止部の下方位置に前記回路基板の挿通孔に上方に挿通した 複数の第2係止部が形成された支持板とを備え, 前記各係止軸のうち上側に位置する係止軸が前記第1係止部に係止されるとともに,下側に位置する係止軸が前記第2係止部に係止されるようにしたことを特徴とするキースイッチ装置。」(以下「本件発明」という。別紙図面1参照。) 3 決定の理由 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,実願昭63-81741号(実開平2-5236号)のマイクロフィルム(甲第4号証。以下,決定と同じく「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。決定にいう「引用発明」である。)及び実願昭61-30940号(実開昭63-4033号のマイクロフィルム(審判甲第1号証・本訴甲第5号証。以下,決定と同じく「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)並びに周知・慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,とするものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した本件発明と刊行物1発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「裏面から複数の第1係止部が垂設されたキートップと, 前記キートップの下方に配設され,両端にそれぞれ係止軸が形成された2つのリンク部材からなる案内支持部材と, 前記キートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うスイッチング部材と, 前記スイッチング部材が載置された回路基板と, 前記第1係止部の下方位置に複数の第2係止部が形成され, 前記各係止軸のうち上側に位置する係止軸が前記第1係止部に係止されるとともに,下側に位置する係止軸が前記第2係止部に係止されるようにしたキースイッチ装置。」である点 (相違点) 「前者(判決注・本件発明)が「上面に回路基板を支持するとともに,」・・・「回路基板の挿通孔に上方に挿通した複数の第2係止部が形成された支持板とを備え」ているのに対して,後者(判決注・刊行物1発明)は,第2係止部が回路基板上に設けられている点」
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,自らが認定した本件発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤ったものであり,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 決定は,上記相違点について,「上面に回路基板を設けて支持する支持板を採用することはキースイッチ装置における周知・慣用技術(必要であれば,実願平2-119854号(実開平4-76224号)のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第6号証。以下「甲6文献」という。)等参照。)にすぎず,また,本件発明と同様のキースイッチ装置であるキーボードにおいて,保持部品を不要として組立作業を簡単とし,より低価格にすることを目的として「キートップ」を案内する「キートップ連結棒」(本件発明の「案内支持部材」に対応する。以下同様)を係止するために「取付け鉄板」(「支持板」)に複数の「連結棒保持部」(係止部)を設けることが刊行物2に記載されている以上,上記周知・慣用技術及び当該刊行物2に記載の発明を引用発明1(判決注・刊行物1発明)に適用して,スイッチの下方つまり回路基板の下方の支持板に係止部を設けることに格別の困難性は認められない。」(決定書6頁30行〜7頁1行)と判断した。しかし,この判断は,誤りである。
(1) 周知,慣用技術について ア 決定が周知・慣用技術の認定に当たり参照例として挙げた甲6文献は,本件出願の日とみなされる原出願の日(平成4年2月14日。以下「本件出願日」という。)の後である平成4年7月3日に公開されたものであるから,そもそも,本件出願日当時の周知・慣用技術を認定する根拠とはなり得ない。
イ 甲6文献に記載されたキースイッチ装置においては,回路基板の上側にキートップの案内支持をするためのホルダプレートが存在し,回路基板の下側に支持板が配設されている(別紙図面4参照。)。本件出願当時,キースイッチ装置においては,ホルダプレートが必須のものとされており(本件明細書の段落【0004】参照。),ホルダプレート,回路基板及び支持板の3層構造の構成をとることが大前提とされていた。
このような大前提となる構成を無視して,甲6文献に記載されたキースイッチ装置の構成から,単にその一部にすぎない回路基板と支持板との構成のみを抽出して周知・慣用技術を認定したとしても,その構成は,キートップの案内支持をホルダプレート以外の例えば回路基板の下方に位置する支持板のみによって行う構成ではないから,本件発明の進歩性を論じるための周知・慣用技術とはなり得ない。
ウ 仮に,前記「上面に回路基板を設けて支持する支持板」を周知・慣用技術として刊行物1発明に適用できたとしても,刊行物1の第3,4図(別紙図面2参照。)に示されたような,プリント基板5の下側に設けた支持板の下部に第1下ホルダー6,第2下ホルダー7の下端部が突出した構成が得られるにすぎない。このような構成では,本件発明でいう,薄型のキーボードに使用するに好適なキースイッチ装置(本件明細書の段落【0001】とはならない。
(2) 刊行物2(甲第5号証)について 刊行物2には,「キートップ」を案内する「キートップ連結棒」を係止するために「取付け鉄板」に複数の「連結棒保持部」を設けることが記載されている(別紙図面3参照)。
しかし,同刊行物には,回路基板の存在する位置についての記載はない。
同刊行物に記載された断面図(第2図(b)。別紙図面3参照。)からみて,回路基板が取付け鉄板1上には存在していないことは明らかである。同刊行物中の,「第1図において,取付け鉄板1に取付けられたキースイッチ7」(甲第5号証4頁第1行〜2行)という記載をも併せて考えると,刊行物2発明の「取付け鉄板1」は,独立した複数の「キースイッチ7」の筐体同士を単に取り付けた,又は,連結する鉄板であるにすぎず,回路基板を支持するためのものではない。同発明の上記構成は,本件明細書の「従来の技術」の項に記載された「各係止ピンをキートップ及びホルダプレートのそれぞれに設けられた係止部に係止してなるキースイッチ装置」(甲第3号証。段落【0002】)そのものである。すなわち,刊行物2発明の「取付け鉄板」は,本件発明で不要にしたホルダプレートに相当するものであるから,回路基板を支持するための支持板とは異なるものである。
刊行物2発明の「取付け鉄板」を刊行物1発明の回路基板や周知・慣用技術である回路基板を支持する支持板に置換することを,容易にできることとすることはできない。
刊行物2発明の取付け鉄板を刊行物1発明に適用しようとしても,刊行物1発明のプリント基板の上に刊行物2発明の取付け鉄板を配置する構成を採るほかなく,上記相違点に係る本件発明の構成を得ることはできない。
決定は,周知・慣用技術における「支持板」と刊行物2発明における「取付け鉄板」とが互いに代替可能なものであることを前提にしていると思われる。しかし,周知・慣用技術における「支持板」に替えて刊行物2発明における「取付け鉄板」を適用することが不可能であることは,上に述べたところから明らかである。決定の判断は前提において既に誤っている。
(3) 被告の主張について ア 被告は,刊行物1発明におけるプリント基板5が上面の回路部分と下方の基板部分との二部分から成ると主張する。しかし,刊行物1において,「プリント基板5」は,回路部分も含め単一の基板として記載されているだけである。
被告は,刊行物1発明の「プリント基板5」を「支持板の上面に回路基板を支持する構成」としたもの(以下「甲第4号証想起発明」という。),における「支持板」を「回路基板の挿通孔に上方に挿通した複数の第2係止部が形成された支持板」とすることが当業者にとって容易である場合には,本件発明の進歩性は否定されるとし,そのように改変することは,当業者が適宜設計変更することによってなし得たことである,と主張する。
しかし,刊行物1発明のプリント基板5はそもそも単一の基板であり,]枠体3の脚部を支持するため下ホルダー6,という別部品を装着することが可能な構造であるのに対し,周知慣用技術として指摘する支持板は単に回路基板を支持するためのものにすぎないから,その用途も構造も相違している。両者の置換えを単なる設計変更にすぎないとする決定の判断は,これらの相違点を無視したものである。
被告の主張する甲第4号証想起発明は現実には存在しない。決定は,現実に存在せず,特許出願前に公然実施された発明,公然知られた発明,刊行物に記載された発明のいずれにも該当しない発明に基づき本件発明の進歩性を否定したものとして,特許法第29条第2項に違反することになる。
被告は,刊行物2発明は甲第4号証想起発明の下ホルダーと同様の機能を有する保持部品を不要とすることを意図したものであるから,甲第4号証想起発明に適用することができる,と主張する。しかし,刊行物2発明が上記保持部品を不要とすることを意図したものであれば,そのことはむしろ前記適用の阻害要因となる,と解すべきである。
被告は,甲第4号証想起発明に刊行物2発明を適用して「連結棒保持部」に相当するものを設ける場合には,支持板に設けるのが普通であると主張する。しかし,そもそも,刊行物1発明におけるプリント基板5は一体構成であるから,プリント基板を回路基板と支持板とに分け,支持板に「連結棒保持部」に相当するものを設けることはあり得ないことである。
被告は,刊行物1発明においても,下ホルダー部材6,7が回路基板の挿通孔に挿通していると主張する。しかし,刊行物1発明では,下ホルダー部材6,7の下部の小突起のみをプリント基板5の挿通孔に,しかも下方に挿通しているだけである。その構成は,本件発明の第2係止部を「前記回路基板の挿通孔に上方に挿通した」構成とは明らかに相違する。
イ 被告は,刊行物2発明の「取付け鉄板」は回路基板の上方に設けられているとはいえないから「ホルダプレート」ではないと主張する。
実願昭63-154740号(実開平2-76436号)のマイクロフィルム(乙第1号証。以下「乙1文献」という。)の第3,4図によれば,同文献のキーボード装置1において,フレキシブルプリント配線板3はスイッチ取付ブラケット5の下側において補強板4上に配置されている。刊行物2の第1ないし第3図(別紙図面3参照)と乙1文献とを比較すると,両者の構成は極めてよく似ているから,刊行物2発明の回路要素は,その取付け鉄板1の下側にあるとみるのが自然で常識的である。刊行物2発明の取付け鉄板が本件明細書でいうホルダプレートに相当することは明らかである。
被告は,実願昭63-19307号(実開平1-124617号)のマイクロフィルム(乙第4号証。以下「乙4文献」という。)や実願昭60-185509号(実開昭62-94520号)のマイクロフィルム(乙第2号証。以下「乙2文献」という。)を挙げ,刊行物2発明の取付け鉄板1の上面に配線あるいは回路基板が存在し得ることは,当業者にとって自明であると主張する。
しかし,乙4文献に示されたフレキシブルプリント基板20は,発光ダイオード(LED)7を発光させるための電源用配線であって,スイッチを動作させるための回路基板ではない。同文献の第1図に示された基板5の下側に突出した2個の突起状のものは,技術常識に従えばスイッチ用の接続端子であり,この端子はスイッチを基板5に固定するとともに基板5の下側で回路と接続されているのである。特開昭59-211918号公報(甲第14号証。以下「甲14文献」という。)には,乙4文献と同様のキースイッチに係る構造が記載されており,その第1図,第3図(別紙図面5参照)にはプリント基板60,60’から下方に突出した突起状の電極11,11’が図示されている。
乙2文献に図示されたキーボード装置は,スイッチング要素を含む全体を支持する金属等の取付板10の上面にプリント配線板9を固定し,かつ,ハウジング8でプリント配線板9を覆う構造のものであり,刊行物2発明における,一つのキートップに対して一つの独立したキースイッチ機構を有し,かつ取付け鉄板上に独立して配置された「キースイッチ7」とは異なる。乙2文献の上記キーボード装置は,その使用状態においてプリント配線板9が露出することはない。これに対し,刊行物2発明の取付け鉄板1の上にプリント配線板があるとすると,各キースイッチに対し入力線,出力線等の信号線を接続する必要上,必ず各キースイッチ間をつなぐ配線が必要になり,その配線部分は外部に露出することになる。このような構造を採用することはキースイッチにおいて技術常識上あり得ないことである。
被告は,刊行物2発明におけるキースイッチ7の内部構成について,本件発明と同様の固定接点がキースイッチ7内にも設けられており,この固定接点を含む回路基板は取付け鉄板1の上面に設けられていると考えるのが自然である,と主張する。しかし,キースイッチ内部の固定接点の位置と,キースイッチの外部に露出される外部配線との接続のための端子の位置とは同一基板上にある必然性はなく本来無関係である。被告の主張は失当である。
そうである以上,刊行物2発明の「キースイッチ7」は,当業者の技術常識からすれば,取付け鉄板の下側で配線が行われるものである。刊行物2発明の「取付け鉄板」は「ホルダプレート」に相当する。
2 決定は,「支持板の上に回路基板があるから,この回路基板に挿通孔を設けて係止部を上方に通すことは,当業者が当然考慮すべき設計的事項にすぎない」と判断した(決定書7頁1行〜3行)。
しかしながら,支持板上に回路基板があることが周知・慣用手段であるとしても,この周知・慣用技術の支持板には,回路基板上方で案内支持部材を係止する係止部は設けられていない。結局,この判断は,刊行物2発明と周知・慣用技術をそのまま引用発明に適用しても得られるはずがない「回路基板の下方の支持板に係止部を設けた構成」,つまり回路基板上方での案内支持のために回路基板下方の支持板に係止部を形成して支持するという,現実には存在しない構成について行った判断であるから,その前提において誤りがある。
3 決定は,「なお,回路基板が挿通孔により位置決めできるという効果についても,支持板と回路基板が積み重なるものにおいては,当業者が予測し得る程度のものにすぎない。また,発明を全体としてみても,その効果が格別であるとはいえない」と判断した(決定書7頁4行〜7行)。
しかしながら,単に支持板と回路基板とが積み重なる構成であるということのみから,前記効果を直ちに予測し得るなどということはあり得ない。本件発明は,その「前記第1係止部の下方位置に前記回路基板の挿通孔に上方に挿通した複数の第2係止部が形成された支持板とを備えた」構成により,回路基板と案内支持部材とが第2係止部のみによって適切に位置決めされ,前記効果を奏することができたのであり,その効果は,単に支持板と回路基板とを積み重ねたことによって得たものでないことが明らかである。
被告は,支持板と回路基板とが積み重なり,上方の回路基板に挿通孔を設けて係止部を上方に通す構成であれば,上記効果は普通に予測しうる程度のものであると主張する。しかし,支持板の上に回路基板があるのであるから,その支持板に係止部を設けることを着想すること自体,技術常識に反し格別困難なことである。
また,回路基板にやみくもに挿通孔を空ければ回路が切断されて使い物にならないことは自明であるから,このようなことはなおさら容易に着想することができることではない。
被告の反論の要点
決定の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 本件発明の進歩性について 刊行物1発明の回路基板(プリント基板5)は,上面に固定接点と配線からなる回路部分を有し,その下方の基板部分は,回路部分を保持するとともに,X枠体,下ホルダー,弾性復帰部材等のキースイッチ装置のその他の構造体を支持する支持板としての機能をも同時に有するものである。
刊行物1発明は,本件明細書にいうホルダプレート(「ホルダプレート」という用語は,本件明細書中で定義されていない。「回路基板の上方にあって,キートップの上下動を案内支持するためのプレート」と解釈する。)に当たるものを用いないものであって,支持板を兼用する回路基板(プリント基板5)の上面に「X枠体」3(案内支持部材)を回動係止する複数の「下ホルダー」6,7(係止部)を設けたものである。刊行物1発明は,ホルダプレートを用いることなく,支持板としての機能を有する部材に直接係止部を設けたものであるという意味において,本件発明と軌を一にするものである。
乙1,2文献及び実願平1-115456号(実開平3-53871号)のマイクロフィルム(乙第3号証。以下「乙3文献」という。)によれば,上面に回路基板を設けて支持する支持板を用いることはキースイッチ装置における周知・慣用技術である。刊行物1発明における回路基板(プリント基板5)が,支持板と,その上面の回路部分(配線板)を兼用するものである以上,刊行物1を見た当業者は,その回路基板を「回路基板と支持板とから成る上記周知・慣用技術の構成」に置き換えた構成をも,直ちに,想起し得るものであって,そのいずれを採用するかは単なる設計事項にすぎないというべきである。刊行物1発明の出願(昭和63年6月22日出願)よりも後の出願である甲6文献(平成2年出願)や乙1文献(昭和63年11月出願)のものにおいて,「支持板の上面に回路基板を支持する構成」が採用されていることからみても,上記置換えには何の困難もないというべきである。このように,刊行物1発明の回路基板(プリント基板5)と「回路基板と支持板とからなる上記周知・慣用技術の構成」とは,等価なものといってよい関係にあるから,前者を後者に置換する際,別途「ホルダプレート」に相当するような部材を設ける必要がないことは明らかである。
上に述べたところによれば,刊行物1に記載された回路基板(プリント基板5)を,支持板の上面に回路基板を支持する構成としたもの(甲第4号証想起発明)を,本件発明のように改変することが当業者にとって容易である場合には,本件発明の進歩性は否定されることになる。次の点を勘案すれば,そのように改変することは,当業者が適宜設計変更し得たことであるということができる。
@ 刊行物2には,キーボードにおいて,保持部品を不要にして組立作業を簡単にすることにより一層低価格にすることを目的として,「キートップ」を案内する「キートップ連結棒」を係止するために「取付鉄板」に複数の「連結棒保持部」を設ける,という発明が記載されている。
A 刊行物2発明は,押しボタンスイッチに関する技術であるという意味において甲第4号証想起発明と技術分野が共通している上,甲第4号証想起発明の「下ホルダー6,7」と同様の機能を有する,従来例における「保持部品」を不要とすることを意図したものであるから,これを甲第4号証想起発明に適用することは当業者が適宜なし得たことである。
B 刊行物2発明を甲第4号証想起発明に適用するに当たり,刊行物2でいう「連結棒保持部」に相当するものを設け得る甲第4号証想起発明の部材としては,「支持板」と「回路基板」の二つがある。「連結棒保持部」に相当するもの,「支持板」,「回路基板」のそれぞれに求められる強度やそれらに適した材料等を考えると,「連結棒保持部」は,そのうちの「支持板」に設けることにするのが普通の発想である。
C 上記(3)に従い,刊行物2でいう「連結棒保持部」に相当するものを「甲第4号証想起発明」の「支持板」に設けようとした場合には,「連結棒保持部」に相当するものを「回路基板の挿通孔に上方に挿通」させる必要があることは自明である。
D 刊行物1発明においても,下ホルダー部材6,7が回路基板の挿通孔に挿通しており,その点の構成は,甲第4号証想起発明においても変わりがないので,Cのように刊行物2でいう「連結棒保持部」に相当するものを「回路基板の挿通孔に上方に挿通」させる構成とする」ことに対する阻害要因はない。
以上によれば,本件発明は,刊行物1発明と刊行物2発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。
2 刊行物2発明の取付け鉄板について 刊行物2発明における「取付け鉄板」は,ホルダプレートには相当しない。
(1) 刊行物2発明の取付け鉄板1は,その上面にキースイッチ7が取り付けられていることが,図面等から明らかである(別紙図面3参照。)。しかし,その電気回路(配線)がどこに設けられているのかについては,明細書にも図面にも記載されていない。
(2) 刊行物2には,取付け鉄板1の上面にキースイッチ7が取り付けられることが示されているのみで,取付け鉄板1の下には何らの存在も示されていない。したがって,キースイッチ7が下方にまで貫通しているということもできない。かえって,図面からは,貫通していないことが看取されるというべきである。
刊行物2発明の取付け鉄板は,キースイッチを支持するプレートではあっても,回路基板の上方(上面)に存在してキートップの上下動を案内支持するプレートではない。したがって,これをホルダプレートであるとすることはできない。
(3) 乙4文献には,上方にキートップ4を有するスイッチ本体6をマトリクス状に基板5に配置するものにおいて,基板5の上面にフレキシブルプリント配線板20を載置固定し,フレキシブルプリント配線板20を本スイッチを搭載する電子機器における主たる配線板と共用化することが示されている。すなわち,基板上にスイッチに関する配線板を載置固定することが示されている。
乙2文献に示されるような周知のキーボード装置(特に第1〜4図参照)においても,スイッチング要素を含む全体を支持する金属等の取付板10の上面に,プリント配線板9が固定されている。
上記各文献の記載内容によれば,本件出願日当時,刊行物2に接した当業者は,同刊行物に記載された取付け鉄板1の上面に配線あるいは回路基板が存在し得ると認識し得る。
(4) 刊行物2の図面によれば,刊行物2発明においては,キースイッチ7を取付け鉄板1の上面に支持しており,キートップ2と取付け鉄板1との間の空間の上面に配線又は回路基板を設ける余地があることは明らかである。
刊行物2発明のキースイッチ7の内部構成を考えると,本件発明の回路基板に設けられていると考えられる固定接点と同様の固定接点がキースイッチ7内にも設けられており,固定接点を含む回路基板に相当するものは,取付け鉄板1の上面に設けられていると考えるのが自然である。
3 回路基板が挿通孔により位置決めできるという効果は,支持板と回路基板とが積み重なり,上方の回路基板に挿通孔を設けて係止部を上方に通すという構成から当業者が普通に予測しうる程度のものである。この点についての決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 決定は,本件発明と刊行物1発明との相違点(本件発明が上面に回路基板を支持するとともに,回路基板の挿通孔に上方に挿通した複数の第2係止部が形成された支持板とを備えているのに対して,刊行物1発明は,第2係止部が回路基板上に設けられている点)について,「上面に回路基板を設けて支持する支持板を採用することはキースイッチ装置における周知・慣用技術(必要であれば,実願平2-119854号(実開平4-76224号)のマイクロフィルム等参照。)にすぎず,また,本件発明と同様のキースイッチ装置であるキーボードにおいて,保持部品を不要として組立作業を簡単とし,より低価格にすることを目的として「キートップ」を案内する「キートップ連結棒」(本件発明の「案内支持部材」に対応する。以下同様)を係止するために「取付け鉄板」(「支持板」)に複数の「連結棒保持部」(「係止部」)を設けることが刊行物2に記載されている以上,上記周知・慣用技術及び当該刊行物2に記載の発明を引用発明(判決注・刊行物1発明)に適用して,スイッチの下方つまり回路基板の下方の支持板に係止部を設けることに格別の困難性は認められない。そして,支持板の上に回路基板があるから,この回路基板に挿通孔を設けて係止部を上方に通すことは,当業者が当然考慮すべき設計的事項にすぎない。」(決定書6頁30行〜7頁3行)と判断した。
2 原告は,刊行物2発明の「取付け鉄板」は,ホルダプレート(弁論の全趣旨によれば,回路基板の上方に設けられた,キートップの上下動を案内支持するためのプレート,を意味すると認められる。)であって,上面に回路基板を設けて支持する,本件発明の「支持板」とは異なる,と主張する。
刊行物2(甲第5号証)には,次の記載がある(別紙図面3参照。)。
ア「細長い押下面を有するキートップのキーの下面の少なくとも2箇所で係合し,押下面のどの部分を押しても円滑にキーが動くよう設けられたキートップ連結棒の保持構造において,キースイッチ取付け板を加工して設けた突出部に,前記キートップ連結棒を係合させて保持することを特徴とするキーボード。」(甲第5号証・実用新案登録請求の範囲) イ「(産業上の利用分野)本考案は,情報処理装置の入力機器などに広く用いられるキーボードに関し,特にキーボードのキーの円滑な操作に関係あるキートップ連結棒の保持構造に関する。」(同1頁13行〜17行) ウ「(従来の技術)従来,この種のキーボードにおいて,キートップの押下される面が細長い場合には,その押下面のどの部分を押しても滑らかにキースイッチが押下されるよう第3図に示すようにキートップ連結棒(以下,連結棒という)3を使用しているが,キートップ2の下面に設けられたガイド部6,6において係合する連結棒3はキースイッチ取付鉄板(以下,取付け鉄板という)1に保持部品8,8によって保持されている。この保持部品8を取付鉄板1に固定する方法として,ねじ止めなどもあるが,第3図には最も簡単に組立てできる例として樹脂成形のものを図中点線の円で囲んだ内に示してある。」(同1頁18行〜2頁11行) エ「(考案が解決しようとする問題点)上述した従来のキーボードは,キートップの細長い押下面をもつものにおいてキートップに係合させた連結棒を取付け鉄板lに固定するため,該当するキートップl個につき,キースイッチ連結用保持部品を各2個宛必要とし,第3図に示すような最も簡単なものでもあらかじめ取付け鉄板に開けておいた孔に挿入し固定するという作業を必要とするので,資材費および組立費の面でそれだけ高価となるという欠点がある。本考案はこのような欠点を解消し,従来のものより組立が簡単で,安価なキーボードを提供することを目的とする。」(同2頁12行〜3頁4行) オ「(実施例)・・・以上の構造は従来のキーボードと同様であるが,この連結棒3を取付け鉄板1に保持する方法として本考案では,取付け鉄板1の他の部分の加工と同時に,その一部に切り曲げ加工を行い,板面から突出させた連結棒保持部4,4および連結棒保持部5を設けている。連結棒保持部4は第1図において点線の円で囲んだ部分を拡大してその外部に示したように,切り曲げた先端を取付け鉄板1の板面に平行になるよう,さらに折曲げた形としている。連結棒保持部4に連結棒3を保持させるときは,この連結棒保持部4の先端部と取付鉄板1の板面の間に連結棒3の長い直線状部分を挿入する。また,連結棒保持部5は,切り曲げて立上らせた部分に連結棒3を通す貫通孔を開けたものである。連結棒3をキーボードに組込むには,まず,連結棒3を連結棒保持部5の貫通孔に通し,連結棒保持部4,4およびキートップに設けられたガイド部6,6の切欠きに挿入し,それぞれ係合させればよい。」(同3頁13行〜5頁10行) カ「考案の効果)以上説明したように,本考案はキースイッチ取付け鉄板を加工するとき,同時に取付け鉄板に切り曲げ加工で連結棒保持部を形成することにより,従来のような連結棒を保持するための特別な保持部品が不要となり,組立作業も簡単であるため,従来より,より低価格のキーボードを提供することができるという効果がある。」(同5頁11行〜18行) 上に認定した刊行物2の記載によれば,刊行物2発明は,従来のものより組立てが簡単で,安価なキーボードを提供することを目的とし,キースイッチ取付け鉄板を加工するとき,同時に取付け鉄板に切り曲げ加工で連結棒保持部を形成する構成を採用することにより,連結棒を保持するための特別な保持部品が不要となり,組立作業も簡単であるため,低価格のキーボードを提供することができるという効果を奏するものであるということができる。
刊行物2中には,キースイッチの接点や配線に関する記載も図示もない。同刊行物の記載及び添付の図面からは,取付け鉄板と回路基板との上下位置関係については不明であるというほかない。
被告は,刊行物2発明においては,「取付け鉄板」上に回路基板が置かれていると解釈すべきであると主張し,その理由として,次の4点を挙げる。
@ 刊行物2の図面(別紙図面3参照)には,取付け鉄板1の下に何も示されていないことからすれば,キースイッチ7は下方まで貫通していないと解釈すべきであり,取付け鉄板が回路基板の上方にあるとすることはできない。
A 乙4文献には,基板5の上面にフレキシブルプリント配線板20を載置固定し,フレキシブルプリント基板を本スイッチを搭載する電子機器における主たる配線板と共用化することが示されている。
B 乙2文献のキーボード装置は,スイッチング要素を含む全体を支持する金属等の取付板10の上面に,プリント配線板9を固定している。
C 刊行物2の図面においては,キートップ2と取付け鉄板1との間に配線又は回路基板を設ける余地がある。刊行物2発明のキースイッチ7内には本件発明の回路基板上の固定接点と同様の固定接点が設けられており,この固定接点を含む回路基板は取付け鉄板1の上面に設けられていると考えるのが自然である。
(@について) 刊行物2の図面には,取付け鉄板の上にも下にも回路基板は示されていないのであるから,同図面からいい得るのは,取付け鉄板の上下いずれかの面にある回路基板が省略されているということにとどまる。かえって,刊行物2の出願(昭和61年)より前の昭和58年に出願された甲14文献には,「第1図,第2図において,符号10で示されるものは公知のキースイッチ本体で,キーボードシャーシ50の取り付け穴51にフランジ14と爪15により固定されている。正確な位置決めはフランジ14の下部に設けられた位置決め突起12がキーボードシャーシ50の位置決め穴に嵌合することにより行なわれる。キースイッチ本体10の下部には端子11が設けられており,この端子はプリント基板60にハンダ付けされている。キースイッチ本体10の上部に設けられたステム13には長方形のキー20は嵌合されており,このキー20のみが不図示の機器筺体から突出するように構成される。キー20の下部にはトーションバー受け21が形成されており,このトーションバー受け21にはコの字型のトーションバー30の先端が係合している。トーションバー30はキーボードシャーシ50に取り付けられた軸受40に揺動自在に取り付けられている。この構成ではキースイッチ本体10は前述の付勢機構を内蔵しており,トーションバー30はキー20の端部を互いに機械的に結合しているだけである。」(甲第14号証1頁右欄下から2行〜2頁右上欄1行)と記載されている。甲14文献の第1,2図(別紙図面5参照)と刊行物2の第1ないし第3図(別紙図面3参照)とを対比すると,甲14文献のキーボードシャーシ50が刊行物2の取付け鉄板1に相当するものと認められる。甲14文献と刊行物2の各出願時期に照らすと,刊行物2の取付け鉄板1の下方には,甲第14号証のプリント基板60に相当する回路基板が存在すると解するのが相当であるともいい得る。
(Aについて) 乙4文献中には,「上記LED7はフレキシブルプリント配線板(以下,配線板20と称する)にはんだ付けにより配設されている。」(乙第4号証5頁1行〜3行)として,LEDの配線板が基板上に設けられていることについての記載はあるものの,キースイッチの配線板についての記載はない。上で認定した甲14文献の記載内容及び弁論の全趣旨によれば,同文献の第1,2図に示されている基板5の下に突出している突起は,電極端子と解するのが相当であるから,同文献に記載された発明において,キースイッチの配線板は基板の下に設けられているものと認めるのが相当である。乙4文献中には,「フレキシブルプリント配線板を,本スイッチを搭載している電子機器における主たる配線板と共用化することも可能であり」(乙第4号証6頁16行〜19行)との記載がある。しかしながら,同記載は,本スイッチの配線板との共用化について述べるにとどまり,基板の上面に配線板を設けて共用化するとは述べていない。同記載から,直ちに,乙4文献において,キースイッチの配線板を基板の上に設けることが記載されている,と解することはできない。
(Bについて) 乙2文献に示された発明は,各ハウジング部にキーを装着した一体化ハウジングとスイッチ回路とを湾曲した取付板に沿って固定したキーボード装置であるから(乙第2号証の第1図〜第4図参照),取付け鉄板上に独立してキーが配置される刊行物2発明のキースイッチとは構造が異なるものである。乙2文献に示されたキーボード装置において,取付板上にプリント配線板があるからといって,直ちに,構造が異なる刊行物2発明においても,取付け鉄板の上にプリント配線板があるとすることはできない。
(Cについて) 刊行物2の図面上,キートップ2と取付け鉄板1との間に回路基板を設ける余地があるというだけでは,取付け鉄板の上にプリント配線板があることの理由とはなるものではないことは,明らかである。
また,刊行物2発明のキースイッチ7内に回路基板上の固定接点が設けられているとしても,この固定接点を含む回路基板が取付け鉄板の上面に設けられているとは限らない。このことから,刊行物2の取付け鉄板の上面に回路基板が設けられていると認めることはできない。
本件全資料を検討しても,他に,刊行物2発明の取付け鉄板の上に回路基板が配置されていることを認めるに足る証拠は見当たらない。
以上のとおりであるから,刊行物2発明においては,取付け鉄板と回路基板との上下位置関係は不明であるというほかない。そうである以上,不明であるものは,不明であるとして,すなわち,刊行物2発明においては,回路基板が取付け基板の上にあるのか下にあるのか不明であることを前提に,進歩性についての判断をなすべきである(多くの場合,事実上,取付け鉄板の上に回路基板がないことを前提にした判断がなされることになるであろう。)。
決定は,刊行物2発明の「取付け鉄板」が本件発明の支持板に対応する,すなわち,刊行物2発明の取付鉄板の上に回路基板が配置されている,との誤った認定の下に,相違点についての判断を導いたものであるというほかない。上記誤りが結論に影響することは明らかである。
決定は違法なものとして取消しを免れない。
3 被告主張の解釈について 被告は,刊行物2には,キートップを案内するキートップ連結棒を係止するために,取付け鉄板に複数の連結棒保持部を設ける発明が記載されていること,この発明は,押しボタンスイッチに関する技術であるという意味において「甲第4号証想起発明(刊行物1発明の「回路基板」を「支持板の上面に回路基板を支持する構成」としたもの)と技術分野が共通している上,甲第4号証想起発明の下ホルダーと同様の機能を有する保持部品を不要とすることを意図したものであることから,甲第4号証想起発明に刊行物2発明の上記技術を適用することは適宜なし得たことであるとして,刊行物2発明の取付け鉄板がホルダプレートに相当するものであるか否か(あるいは支持板に相当するものであるか否か)にかかわらず,本件発明の進歩性は否定される,と主張する。
刊行物2発明を刊行物1発明に適用する場合において,刊行物2発明の取付け鉄板が上面に回路基板を有する支持板に相当するものである場合には,決定の示したとおり,刊行物1発明のプリント基板に周知・慣用技術を適用して上面に回路基板を有する支持板となし(甲第4号証想起発明を想定し),その支持板に,刊行物2発明の,取付け鉄板(支持板)に複数の連結棒保持部(係止部)を設ける技術を適用して,本件発明のように構成することは容易との結論に至ることはあり得るであろう(甲第4号証想起発明を想定することの当否については,ここではひとまずおく。)。
しかしながら,上記2で述べたとおり,進歩性の判断に当たっては,刊行物2発明の取付け鉄板は下面に回路基板を有するホルダプレートに相当するものであるのかそうでないのか不明であるものとして扱われるべきである。決定は,刊行物2発明の技術が,このようなものであることを前提とする判断を全く行っていないことが明らかである。刊行物1発明のプリント基板に周知・慣用技術を適用して上面に回路基板を有する支持板とする甲第4号証想起発明に想到できるとしても,刊行物2発明の取付け鉄板につき上記の限度での認定しかできないとき,これに刊行物2発明の取付け鉄板を適用することにより,甲第4号証想起発明の支持板を,刊行物2発明の取付鉄板と置き換えることについてまで,これを想到容易であると断ずることはできない。
被告の主張を採用することはできない。
結論
以上のとおりであるから,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由があることが明らかである。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久