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関連審決 異議2019-700807
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事件 令和 3年 (行ケ) 10059号 特許取消決定取消請求事件
5
原告アテナ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 三木浩太郎
同訴訟代理人弁理士 後藤憲秋 10 同加藤大輝
被告特許庁長官
同 指定代理人井上茂夫
同 矢澤周一郎 15 同青木良憲
同 山田啓之
同 藤原直欣
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/11/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2019-700807号事件について令和3年3月24日に した異議の決定を取り消す。
25 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,「電子レンジ加熱食品用容器」の名称の発明につき,平成27年 10月28日に特許出願(特願2015-211834号)をし,平成31 年3月22日に特許第6499055号として特許権の設定登録を受け,同 年4月10日に特許掲載公報が発行された。
5 ? 令和元年10月8日,本件特許について特許異議の申立て(異議2019 -700807号)がされた。
令和2年11月10日付けの「取消理由通知書<決定の予告>」を受けて, 原告は,その指定期間内である令和3年1月8日に訂正(以下「本件訂正」 という。)の請求をするとともに意見書を提出した。
10 ? 令和3年3月24日,本件訂正請求を認めた上で,本件特許の請求項1及 び2に係る特許を取り消す旨の異議の決定(以下「本件決定」という。)が され,その謄本は,同年4月2日,原告に送達された。
? 原告は,令和3年4月28日,本件決定の取消しを求めて本件訴訟を提起 した。
15 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件特許の請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下, 各請求項に係る発明を「本件発明1」等といい,本件訂正後の明細書及び図面 を併せて「本件明細書」という。)。
【請求項1】20 電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部の開 口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって, 前記蓋体部の蓋面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生する 水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる 排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を25 備えることなく形成されていて, 前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに, 前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり, 前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり, かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし 100muである 5 ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器。
【請求項2】 前記排気孔群が平面図形として構成されている請求項1に記載の電子レンジ 加熱食品用容器。
3 本件決定の理由の要旨10 ? 甲2に記載された発明 甲2(特開平7-237658号公報)には,次の発明(以下「引用発 明」という。)が記載されている。
「電子レンジ等による加熱のための食品を収容する容器本体と,容器本体の 周壁の内側の被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなり,蓋体の蓋面に15 凹部を形成し,この凹部の底部に,容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出 を確実に行なうことのできる,適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜 な個数の小孔を形成した合成樹脂製の食品容器において,ストレッチフィル ムFで容器を包被せず,ラベルLのみを,凹部の一部が容器表面に露出する ように貼着した,電子レンジ等による加熱に用いる食品容器。」20 ? 本件発明1と引用発明との一致点及び相違点 ア 一致点 「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部 の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって, 前記蓋体部の蓋面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生25 する水蒸気を外部に排気する複数の孔が形成されている, 電子レンジ加熱食品用容器。」である点 イ 相違点1 本件発明1が,「前記蓋体部の蓋面部には,前記容器本体部内に収容さ れた食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制す る複数の排気細孔からなる排気孔群が,?異物混入防止のための,当該排 5 気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,?前記 排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,?前記排気細孔の直径は 0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ないし10 00個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計 は0.25ないし100muである」のに対し,10 引用発明は,「蓋体の蓋面に凹部を形成し,この凹部の底部に,容器内 の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる,適宜な大 きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成」し,「ストレッ チフィルムFで容器を包被せず,ラベルLのみを,凹部の一部が容器表面 に露出するように貼着した」ものである点15 (???の符号は本判決が付した。以下,それぞれを「相違点1?」のよ うにいう。) ? 相違点1についての検討 ア 相違点1?について 引用発明の小孔は,「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に20 行なうことのできる,適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個 数」,形成されるものであるから,容器内の内容物から発生する水蒸気の 量が変われば,適切に水蒸気を逃がすためには,水蒸気を逃がす孔の大き さ(径)と個数も,それに合わせて変えることが必要であることは,当業 者にとって明らかであり,引用発明の小孔の大きさ(径)と個数は,発生25 する水蒸気の量に応じて,適宜設定されるものであるといえる。
引用発明の「0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔」のうち,直径 「0.5〜0.59mm」の小孔は,本件発明1の「排気細孔」の直径 「0.15ないし0.59mm」の範囲内であるところ,電子レンジで加 熱される容器から発生する水蒸気を逃す孔として小さい孔を多数設けるこ とは,周知技術であり,引用発明の「適宜」の個数の「0.5mm」の小 5 孔を,発生する水蒸気の量に応じて調整し,本件発明1の構成のように, 「直径は0.15ないし0.59mm」,「個数は8ないし1000個」, 「開口面積の合計は0.25ないし100mu」の排気孔群とすることは, 当業者が容易に想到し得る。
イ 相違点1?について10 甲2の段落【0010】によれば「この小孔12は,例えば加熱針を蓋 面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができる」とされており, 引用発明の小孔を,食品包装容器に小孔を空ける方法として周知技術であ るレーザー光線照射を用いて,レーザー光線照射孔とすることも,適宜な し得る。
15 ウ 相違点1?について 引用発明の食品容器は,容器にラベルLを貼着したものであるが,ラベ ルよりも凹部の方が大きく形成されて膨脹空気を排出し得るようにしてお り,その場合,ラベルLと凹部の隙間から異物が入り得ることになるから, ラベルLは,異物が小孔から混入することを防止するために設けられた部20 材には該当しない。
そして,本件明細書において,「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が 省略されることにより,「本発明の食品用容器は,電子レンジ加熱または 加温時の開封等の手間も必要なく,包装資材費の軽減にも貢献し得る。」 (段落【0037】)との効果が得られるとされ,「排気孔群を被覆又は25 包皮する部材」が存在すると,逆に「電子レンジ加熱または加温時の開封 等の手間が必要になる」ことを意味しているものといえるが,引用発明の ものは,電子レンジ加熱又は加温時に,ラベルLを取り付けたままで調理 できるものであり,このことは,引用発明のラベルLが,本件発明1の 「排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないという上記理解と整合 する 。
5 エ 上記アないしウによれば,相違点1に係る本件発明1の構成は,引用発 明及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に想到し得た。
オ 本件発明1の効果について,本件明細書(段落【0012】)には,本 件発明1の構成を備えることにより「従前の水蒸気の排気構造に代わり, 排気細孔群を形成するのみで,良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効10 果を備えることができる。」と記載されている。
しかし,食品包装容器において,通気孔が大きいと虫等の異物が混入す る可能性があるため通気孔は小さい方が好ましいことは周知技術であり, 本件出願前に,小さい孔は,それ自体,容器内への虫等の混入を防ぐ効果 を奏することは,当業者にとって自明であったといえるから,上記効果は,15 引用発明及び周知技術から,当業者が予測できた。
カ したがって,本件発明1は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が 容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定 により特許を受けることができない。
? 本件発明2について20 ア 本件発明2と引用発明を対比すると,上記?アの一致点で一致し,同イ の相違点1で相違するほか,本件発明2の「排気孔群が平面図形として構 成されている」のに対し引用発明はそのように特定されていない点(以下 「相違点2」という。)でも相違する。
イ 相違点1,2について検討する。
25 相違点1については,上記?で述べたとおりである。
相違点2についても,甲5(特開2012-1265号公報)のように 通気孔で平面図形を構成することは周知の技術であり,引用発明の「適宜 の個数の小孔」を,平面図形として構成することは,当業者が容易に想到 することができた。
ウ よって,本件発明2は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易 5 に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によ り特許を受けることができない。
? 結論 以上のとおり,本件発明1及び2は,いずれも,特許法29条2項の規定 により特許を受けることができないから,本件発明1及び2に係る特許は,10 同法113条2号に該当し,取り消されるべきである。
4 原告の主張する取消事由 ? 取消事由1 相違点1に係る構成の容易想到性の判断誤り ? 取消事由2 相違点2に係る構成の容易想到性の判断誤り
当事者の主張
15 〔原告の主張〕 1 取消事由1(相違点1に係る構成の容易想到性の判断誤り)について ? 相違点1?について 本件発明1と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互いに異にするもの であって,そもそも「良好な水蒸気排気」及び「確実な嵌合状態の維持」を20 解決課題とする引用発明から,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」と を一つの構成手段(排気孔)によって実現するという本件発明1の解決課題 は生じ得ないから,本件決定が,「異物混入抑制」という解決課題を想定し た上で,その解決手段として,本件決定が認定した周知技術を適用すること が容易であると判断して,これらから本件発明1を容易想到であると判断し25 たことは誤りである。
また,引用発明に適用された周知技術もまた,本件発明1とは解決課題及 び技術思想を異にし,かつその孔の技術的意義を異にするから,これらを引 用発明に適用したこと自体も誤りである。
したがって,これら周知技術と引用発明を組合せ適用して本件発明1を容 易想到であると判断した本件決定は誤りである。
5 ? 相違点1?について 本件決定は,電子レンジで加熱する容器においても水蒸気を排出する孔か ら塵挨や虫などの異物が混入するおそれがあることは周知の課題であるとし ているところ,これを前提とすれば,電子レンジで加熱する容器の蓋面に蓋 面表裏を貫通し得る連通部を設けた引用発明において,甲2の図8(B)に示さ10 れたように,連通部(小孔12)の上部に同連通部を覆うように貼着されたラ ベルLが,異物混入を防止することを目的として連通部上に設けられたもの であることは自明である。
引用発明は,電子レンジ等で容器を加熱した場合に生じる膨張空気や水蒸 気を容器外部に排出することを解決課題とし,課題解決手段として蓋体上面15 の凹部内に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けることにより,容器内部の気 圧を加熱冷却状態に関わらず一定に保ち,容器本体と蓋体との確実な嵌合状 態を維持するという技術思想に基づくものであり,そもそも「異物の混入を 防止する」という技術思想は何ら開示も示唆もされていない。
したがって,引用発明において,異物の混入を防止するのは連通部とは別20 に設けられたラベルであり,引用発明は異物混入防止のための被覆部を備え るものであるから,本件決定が「ラベルLは,異物が小孔から混入すること を防止するために設けられた部材には該当しない」とした判断は誤りである。
2 取消事由2(相違点2に係る構成の容易想到性の判断誤り)について ? 本件決定の相違点2の認定は正確でないため,相違点2は以下の内容のも25 のとして反論する。
《相違点2》 本件発明2の電子レンジ加熱食品用容器は「複数の排気細孔からなる排気 孔群」が「平面図形として構成されている」のに対し,引用発明の電子レン ジ等による加熱に用いる食品容器の「前記小孔」をどのように配置して構成 するかについては何ら記載されていない点 5 ? 本件発明1に従属する本件発明2は,「良好な水蒸気排気」という解決課 題及び「異物混入抑制」という解決課題を前提として,排気孔とは別の構成 部材を付加せず,排気孔という一つの構成部材によって上記両課題をともに 解決する点にその技術的本質が存するものである。
これに対し,引用発明は,「異物混入抑制」という解決課題及び技術思想10 を有するものではない。
また,本件決定が周知技術の例として挙げる甲5の技術は,電子レンジ等 による加熱によって容器内の食品から発生する水蒸気を外部に排出すること を目的とするものではなく,また「異物混入抑制」という解決課題及び技術 思想を有するものではない。
15 したがって,甲5の「複数個の極微小孔」と,本件発明2の「排気細孔か らなる排気孔群」とは孔の技術的意義を異にするから,引用発明に甲5の周 知技術を組合せ適用しても本件発明2の構成を得ることはできない。
以上のとおり,本件発明2と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互い に異にするものであり,そもそも「異物混入抑制」という解決課題及び技術20 思想を有しない引用発明から,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」と を一つの構成手段(排気孔)によって実現するという本件発明2の解決課題 は生じ得ないから,「異物混入抑制」という解決課題を想定した上で,その 解決手段として甲5の周知技術を適用することが容易であると判断して,引 用発明から本件発明2の容易想到性を導いた本件決定は誤りである。
25 〔被告の主張〕 1 取消事由1について ? 相違点1?について 本件決定は,直径において重複する範囲(0.5〜0.59mm)の引用 発明の「小孔」の「適宜な個数」を,発生する水蒸気の量に応じて調整する ことにより,当業者が本件発明1に係る排気細孔の個数及び開口面積合計の 5 数値を容易に想到し得たと判断しており,原告のいう「異物混入抑制」なる 課題を想定した上で,周知技術を適用することによって容易想到であると判 断してはいない。
? 相違点1?について 本件決定は,本件発明1及び引用発明の孔の直径が重複することを踏まえ,10 引用発明の小さな孔が,それ自体,容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏す ることは自明と判断しており,そのような小さな孔に該当せず且つ直径が重 複するものでもない,ラベルLと凹部の隙間は,単に容器加熱時に膨張空気 を排出するためのものである。また,本件発明1の「異物混入防止のための, 当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」は,電子レンジ加熱時には開封等の15 手間が必要になる部材と理解されるのに対し,引用発明のラベルLは,これ を付けたままで電子レンジ加熱するものである。
したがって,本件決定の,引用発明のラベルLは「異物混入防止のための, 当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないとの判断に誤りはない。
2 取消事由2について20 ? 原告が主張する《相違点2》については,本件決定においても,相違点2 に係る本件発明2の構成として,「排気孔群が平面図形として構成されてい る」ことを認定しており,「排気孔群」が「複数の排気細孔からなる」もの であることは明らかであるから,本件決定は,原告が主張するような不正確 な認定をしていない。
25 ? 上記1?のとおり,小さい孔は,それ自体,容器内への虫等の混入を防ぐ 効果を奏することが,当業者にとって自明であり,引用発明の「0.5〜1 mm径前後で適宜な個数の小孔」は,良好な水蒸気排気のみならず,異物混 入を抑制できるものでもあるから,引用発明から,「良好な水蒸気排気」と 「異物混入抑制」とを一つの構成手段(排気孔)によって実現するという本 件発明2の解決課題は生じ得ないものではない。そして,良好な水蒸気排気 5 のみならず,異物混入を抑制できるものでもある引用発明の小孔の配置を, 甲5の,多数の通気孔を配列させて星形やハート型等の平面図形とすること は,当業者が容易に想到できたものであり,引用発明から本件発明2の容易 想到性を導いた本件決定に誤りはない。
当裁判所の判断
10 1 取消事由1(相違点1に係る構成の容易想到性の判断誤り)について ? 本件発明 ア 特許請求の範囲 本件訂正がされた後の本件発明1及び本件発明2に係る特許請求の範囲 は,前記第2の2のとおりである。
15 イ 明細書の記載 本件明細書には,次のとおりの記載がある(なお,「・・・」は省略し た部分を表す。)。
(ア) 技術分野 「本発明は電子レンジ加熱食品用容器に関し,特に蓋体部からの水蒸気20 の効率よい排気を可能とする容器に関する。」(段落【0001】) (イ) 背景技術 「調理済み食品をコンビニエンスストア等の小売店にて販売する際の加 熱調理または持ち帰った後の加熱調理に際し,これらの食品を包装する 容器は容器本体部とその開口部と嵌合する蓋体部の組み合わせからな25 る。・・・」(段落【0002】) 「食品の加熱調理や温め直しには,通常電子レンジ(マイクロ波照射) が使用される。そこで,食品容器ごと電子レンジ内に入れられそのまま 加熱された後に提供される。実際に販売される食品に着目すると,スー プ類のように水分量の多い食品から,炒め物等のように重量当たりの水 分量の少ない食品まで存在し,食品の種類は実に多用である。ここで問 5 題となることは,電子レンジによる食品の加熱調理の際,容器内の食品 から水蒸気が発生することである。」(段落【0003】) 「蓋嵌合容器においては,・・・内部発生の水蒸気を容器外部に排気す るための穴部を形成した蓋体が提案されている・・・。・・・U字状ま たはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部が蓋体に形成されている。
10 水蒸気はこの舌片状の開口部を通過して容器外部に放出される。」(段 落【0004】) 「U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部の排気効率は良 好である。ところが,水蒸気の排気が良好ということは,それだけ,舌 片状の開口部からの異物侵入のおそれも増す。そのために,この場合,15 舌片状の開口部を塞ぐ封止テープが貼付されることがある。さらには, 舌片状の開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せら れる。・・・」(段落【0005】) 「上述のように,既存の水蒸気を排気する構造を採用した容器では本来 の食品包装にのみ必要な資材以外も必要となり,コスト上昇が否めな20 い。・・・」(段落【0006】) (ウ) 発明が解決しようとする課題 「一連の経緯から,発明者は,蓋嵌合容器におけるU字状またはV字状 の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな 排気構造を模索してきた。その中で容器の蓋体部に微細な孔を複数設け25 た構造が有効であることを見出した。しかも,微細な孔であることから, 破損や異物混入への耐性も良好であることが判明した。」(段落【00 08】) 「本発明は,前記の点に鑑みなされたものであり,従前のU字状または V字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる 新たな排気構造を提案し,良好な水蒸気排気を可能とし,同時に封止性 5 能改善,異物混入抑制を実現し,・・・資材コストの軽減にも有利な電 子レンジ加熱食品用容器を提供する。」(段落【0009】) (エ) 課題を解決するための手段 「すなわち,請求項1の発明は,電子レンジ加熱のための食品を収容す る容器本体部と,前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた10 蓋嵌合容器であって,前記蓋体部の蓋面部には,前記容器本体部内に収 容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を 抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための, 当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて, 前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,前記排気細孔の直15 径は0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ない し1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面 積の合計は0.25ないし100muであることを特徴とする電子レン ジ加熱食品用容器に係る。」(段落【0010】) (オ) 発明の効果20 「請求項1の発明に係る電子レンジ加熱食品用容器によると,・・・従 前の蓋嵌合容器の蓋体に設けられたU字状またはV字状の切れ込みによ る舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わり,良好な水蒸気排気を 可能とし,同時に封止性能改善,異物混入抑制を実現し,併せて蓋体部 の形状上の制約も少なく,資材コストの軽減も可能となる。とりわけ,25 請求項1の発明によれば,・・・複数の排気細孔からなる排気孔群が, 当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて, 前記排気細孔の直径を0.15ないし0.59mmと規定し,前記排気 細孔の個数を8ないし1000個であり,かつ前記排気孔群における前 記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm と規定した ものであるから,現実の市場にて流通する多くの食品の包装に対応でき, 5 後述する実施例に示されるように,従前の水蒸気の排気構造に代わり, 排気細孔群を形成するのみで,良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制 効果を備えることができる。さらに加えて,請求項1の発明によれば, 前記排気細孔がレーザー光線照射孔であるため,簡便かつ迅速に蓋面部 に排気細孔を穿設することができる。」(段落【0012】)10 (カ) 発明を実施するための形態 「これまでの説明にあるように,本発明の食品用容器(電子レンジ加熱 食品用容器) における排気細孔の直径を勘案すると,極めて微細であ ることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため,本発明の 食品用容器では,従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆し15 たり包皮したりするフィルム等の部材は省略可能となる。従って,本発 明の食品用容器は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要 なく,包装資材費の軽減にも貢献し得る。特に,本発明の食品用容器は 排気孔群の開孔面積の合計,これに加えて排気細孔の個数の規定も備え る。そこで,本発明の食品用容器は多種類の食品から発生する水蒸気量20 にも対応可能な極めて都合のよい包装材である。さらに,排気細孔の配 置いかんにより多様な排気孔群を形成できることから,蓋体部の形状設 計の制約は少なくなることに加え,排気孔群自体の形状の自由度も高ま る。」(段落【0037】) ウ 以上によれば,本件発明1の内容は次のとおりである。
25 (ア) 本体部とその開口部に嵌合する蓋体部とからなる食品容器を,容器 ごと電子レンジに入れて加熱調理する際には,容器内の食品から水蒸気 が発生する。発生した水蒸気を容器外部に排気するためにU字状または V字状の切れ込みによる舌片状の開口部が形成された蓋体が提案されて いるが,舌片状の開口部からの異物侵入のおそれがあるため,この開口 部を塞ぐ封止テープが貼付されることがあり,さらには,この開口部を 5 被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられることから,本 来の食品包装にのみ必要な資材以外も必要となり,コスト上昇が否めな い(段落【0002】〜【0006】)。
(イ) 本件発明1は,従前の舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わ る新たな排気構造を提案し,良好な水蒸気排気を可能とし,同時に封止10 性能改善,異物混入抑制を実現し,資材コストの軽減にも有利な電子レ ンジ加熱食品用容器を提供するために(段落【0009】),蓋体部の 蓋面部に,容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に 排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための, 当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,15 前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,前記排気細孔の直 径は0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ない し1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面 積の合計は0.25ないし100muであるように構成したものである (段落【0010】)。
20 (ウ) 本件発明1の電子レンジ加熱食品用容器によると,複数の排気細孔 からなる排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は 包皮する部材を備えることなく形成されたものであるから,現実の市場 にて流通する多くの食品の包装に対応でき,従前の水蒸気の排気構造に 代わり,排気細孔群を形成するのみで,良好な水蒸気排気とともに異物25 混入抑制効果を備えることができるので,電子レンジ加熱または加温時 にフィルム等の部材を開封する手間も必要なく,包装資材費の軽減にも 貢献し得る。さらに,前記排気細孔がレーザー光線照射孔であるため, 簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設することができる(段落【00 12】及び【0037】)。
? 引用発明 5 ア 甲2には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲 「周壁の内側に被嵌合部を有する容器本体と上記被嵌合部に嵌合する縁 部を有する蓋体からなる合成樹脂製の食品容器において,上記蓋体上面 の少なくとも一部を凹部とし,この凹部内に蓋面表裏を貫通し得る連通10 部を設けたことを特徴とする食品容器。」(【請求項1】) (イ) 発明の詳細な説明 a 発明が解決しようとする課題 「本発明は,従来の蓋構造及びその解決方法における上記問題点に鑑 みてなされたものであり,その目的とするところは,高い密封性を維15 持しつつ液漏れを効果的に防止できると共に,電子レンジ等による加 熱時や高温に熱せられた食品収納時にも,容器内の膨張空気を効率的 に排出し,容器を変形させることのない食品容器を提供することにあ る。」(段落【0005】) b 実施例20 「以下,本発明の一実施例を図面により説明する。図1乃至図5にお いて,9は容器本体,10は蓋体であり,何れも圧空,真空成形等の サーモフォーミング法により,夫々の周縁が図8に示す従来例と同様 な内嵌合構成で平面視略円形の嵌合部形状に成形されている。両者の 嵌合は,蓋体10の周縁が容器本体9の外側に被るように嵌合する構25 成や,上下に重合して嵌合する構成のものでもよく,また平面視楕円 状等に成形してあるものでもよい。」(段落【0009】) 「蓋体10の上面中央部には,当該蓋面10aに貼着される任意大き さのラベルLよりも小寸法の凹部11が,蓋面10aの頂部から適宜 の深さ凹ませて形成され,この凹部11の底面には蓋体10の表裏を 貫通するピンホール状の小孔12が穿設されている。小孔12は,容 5 器内の加熱状態の空気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大き さ,例えば0.5〜1mm径前後で適宜な個数形成される。この小孔 12は,例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空け ることができるが,孔を空けるときに蓋内面側から外面側へ向かって 空けることがより好ましい。また,凹部11及び小孔12を設ける位10 置は,容器が傾いても液に浸りにくい位置として蓋面10aの中央部 付近が好ましいが,この範囲に限定するものではない。」(段落【0 010】) 「【図1】 」15 「図6はストレッチフィルムFで容器を包被せず,ラベルLのみを貼 着する場合の本発明の実施例を示しており,これは上記実施例と同様 の嵌合構成を有する蓋体16の蓋面16aに星型に凹んだ凹部17を 形成し,この凹部17の底部に小孔18を穿設したものである。図中, 破線はラベルLを示しているが,このようにラベルLを貼ったときに20 凹部17の一部が容器表面に露出していれば,容器加熱時に膨張空気 をここから容器外部に排出し得(同図(B)参照),容器内部の気圧を一 定に保つことができる。なお,凹部17は,当該容器に使用するラベ ルLよりも大きく形成し,その形状は任意である。」(段落【001 7】) 5 「【図6】 」10 c 発明の効果 「以上,本発明によれば,蓋面に凹部を形成し,この凹部の底部に蓋 体の表裏を貫通する小孔若しくは切り込み片を設けるようにしたので, 蓋面にラベルを貼着しても小孔や切り込み片が閉塞することはなく, 容器内外を常に連通させることができる。・・・従って,容器加熱時15 や高温の食品等の収納時に,容器内部で膨張した空気や水蒸気を適宜 外部に排出し得,容器内部の気圧を加熱冷却状態に関わらず一定に保 つことができ,容器を圧迫変形させることなく,容器本体と蓋体との 確実な嵌合状態を維持することができる。」(段落【0019】) イ 上記各記載によれば,甲2には本件決定が認定したとおりの引用発明が20 開示されており,その小孔12は,容器蓋の凹部11に形成され,容器内 の加熱状態の空気の排出を確実に行なうための適宜な大きさ及び個数であ り,具体的な大きさとして0.5〜1mmが開示されている。また,図6 のものは,凹部17の上部にラベルLが貼着されているが,このラベルL は,凹部17よりも小さく,容器内の加熱状態の空気はラベルLと凹部125 7との隙間から排出されるので,加熱する前にラベルLを剥がす必要はな い。
? 相違点1?について ア 引用発明の小孔は,「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に 行なうことのできる,適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個 数」形成されるものである。この「適宜」な大きさ及び個数について,甲 5 2には具体的な開示がないが,容器内の内容物から発生する水蒸気の量が 変われば,適切に水蒸気を逃がすために,水蒸気を逃がす孔の大きさ (径)と個数もそれに合わせて変える必要があることは,当業者にとって 明らかである(例えば,甲3(特開平11-11543号公報)(本件発 明1及び引用発明と同様に電子レンジ加熱にも用いる食品等容器の発明を10 開示する文献)の段落【0018】においては,個数について一応の数値 範囲を示した上で,「容器内に存在する液体の成分,粘度等により前記の 範囲を逸脱したものとしてもよい」とされている。)。そうすると,引用 発明に接した当業者にとって,容器内の食品から発生し得る水蒸気の量を 勘案し,適切に水蒸気を逃がすために,小孔の直径及び個数並びにこれら15 から簡単に算出される開口面積合計を定めることは,設計的事項にすぎな い。
よって,引用発明に接した当業者にとって,本件発明1の相違点1?に 係る構成を想到することは,容易になし得たと認めるのが相当である。
イ 原告は,本件発明1は,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」とい20 う二律背反する(技術的阻害要因のある)課題を解決するものであるから, 排気細孔の直径,個数及び開口面積合計の各下限は,「良好な水蒸気排 気」の効果を奏することのできる最小の範囲であり,それらの各上限は, 「異物混入抑制」のための最大の範囲であり,いずれも臨界的意義を有す る旨主張する。
25 しかしながら,まず,そもそも本件発明1における排気細孔の直径(0. 15〜0.59mm)は,引用発明の「0.5〜1mm」と重複する範囲 (0.5〜0.59mm)を有している。また,本件発明1の上限値(0. 59mm)は,その設定の根拠について本件明細書には記載がなく,虫等 の異物の侵入を抑制するために設定されたものであると認められるところ, 通気孔から虫等の異物が混入する可能性を考慮し,通気孔の大きさを小さ 5 く,殊に1mm以下とするのが好ましいことは,本件特許の原出願前に周 知の技術事項であるから(例えば,甲4(特開平10-218250号公 報)の段落【0003】には「米穀用袋において,通気性が大き過ぎる場 合には,その通気孔から虫等が侵入し,思いもしない事故を起こすことが ある」との記載があり,甲6(実開平4-62684号のマイクロフィル10 ム)にも「成形された米飯食品用包装容器の蓋部に形成される孔は,円形 の孔,多角形の孔又はスリット状の孔などの適宜の形状で,虫や塵埃が容 易に入らないような大きさとされる。」(明細書4頁4〜8行),「1m m以下の大きさとすると,虫の侵入が防止できるので好ましい」(5頁5 〜6行)との記載がある。),排気細孔の直径の上限である「0.59m15 m」という値に臨界的意義があるとは認められない。また,下限値(0. 15mm)の設定の根拠については,本件明細書の段落【0063】に 「排気細孔の直径の下限は照射装置の性能に依存する。しかしながら,極 端に直径を狭くすると水蒸気の排気効率は低下するため,一連の実験結果 から少なくとも0.15mmは必要」との記載があるにとどまり,ここで20 いう「一連の実験結果」も,6種の食品を加熱して蓋が外れるか否かを調 べるという単純な試験(段落【0038】〜【0065】)にすぎないか ら,「0.15mm」という下限値の設定についても臨界的意義があると は認められない。
さらに,排気細孔の個数(8〜1000個)及び開口面積の合計(0.25 25〜100mu)も,同様の理由により,臨界的意義があるとはいい難 い。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は,本件発明1と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互いに異 にするものであって,そもそも「良好な水蒸気排気」及び「確実な嵌合状 態の維持」を解決課題とする引用発明から,「良好な水蒸気排気」と「異 5 物混入抑制」とを一つの構成手段(排気孔)によって実現するという本件 発明1の解決課題は生じ得ないから,本件決定において,「異物混入抑 制」という解決課題を想定した上で,その解決手段として,本件決定のい う周知技術を適用することが容易であると判断して,これらから本件発明 1を容易想到であると判断したことは誤りであり,さらに,本件決定のい10 う周知技術もまた,本件発明1とは解決課題及び技術思想を互いに異にし, かつその孔の技術的意義を異にするから,これらを引用発明に適用したこ と自体も明らかに誤りである旨主張する。
しかしながら,本件決定の論理構成をあらためて整理すると,本件発明 1の相違点1?に係る構成の一部は,引用発明の構成から,「小孔」の直15 径の数値範囲として,本件発明1と重複する「0.5〜0.59mm」を 選択し,「適宜」とされた「小孔」の個数及び開口面積の合計については, 発生する水蒸気の量に応じて調整することによって,当業者が容易に想到 し得た,とするものである。すなわち,本件決定は,原告のいうように, 「異物混入抑制」なる課題を想定した上で,かかる課題を解決するために20 周知技術を適用することが容易であると判断したものではない。そして, このようにして当業者が容易に想到し得た構成によって,結果的に異物混 入抑制という別の課題も解決することができたとしても,異物混入抑制と いう課題を把握すること自体が困難であったのであればともかく,そうで はない以上,異物混入抑制という課題を解決したこと,そしてそのことを25 特許請求の範囲及び明細書に明記したことが,進歩性の根拠になるもので はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告の主張は,電子レンジ加熱容器における排気孔の設計に当たって, 水蒸気排出と異物混入抑制とを両立させることが困難である,あるいは, これらを両立させるという課題に想到すること自体がそもそも困難である, 5 というものとも見受けられる。
しかし,前記説示のとおり,食品の容器である以上,虫や塵埃などの異 物が容器内に混入してはならないことは周知の技術的事項に属するから, 水蒸気排出という課題の解決手段を考察するに当たって,異物混入抑制と いう課題も同時に解決しなければならないことは,当業者にとって当然の10 ことである(異物混入抑制を考慮しなくてよいのであれば,排気孔はいく らでも大きくできるが,そうするわけにはいかないからこそ,周知技術の 例として示された他の文献(上記の甲4,甲6)においても排気孔の大き さなどを工夫しているのであるし,引用発明の「0.5〜1mm」という 数値範囲も,その設定の理由として甲2には「加熱状態の空気の排出」の15 みが記載されているものの,発明者が異物混入抑制も念頭に置いていたこ とは十分に考えられる。)。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
? 相違点1?について ア 本件発明1の「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮す20 る部材」について,本件明細書には,「本発明の食品用容器(電子レンジ 加熱食品用容器)における排気細孔の直径を勘案すると,極めて微細であ ることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため,本発明の食 品用容器では,従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり 包皮したりするフィルム等の部材は省略可能となる。従って,本発明の食25 品用容器は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく,包 装資材費の軽減にも貢献し得る。」(段落【0037】)と記載されてい る。この記載によれば,本件発明1の「異物混入防止のための,当該排気 孔群を被覆又は包皮する部材」は,異物混入防止の機能を有するとともに, 電子レンジ加熱時には開封等の手間が必要になる部材を意味するものと解 される。
5 そこで,この解釈を前提に,引用発明のラベルLが「異物混入防止のた めの,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」に当たるか否かを検討する に,まず,甲2の段落【0017】の「ラベルLを貼ったときに凹部17 の一部が容器表面に露出していれば,容器加熱時に膨張空気をここから容 器外部に排出し得」との記載によれば,ラベルLは電子レンジ加熱の際に10 も貼着したままであって,開封等の手間を必要としない。また,ラベルL と凹部17との隙間の形状及び大きさが,異物混入防止の観点から特定さ れているわけでもない(むしろ,図6(B)によれば,隙間の幅は,小孔18 の径とほぼ同じであり,小孔18を通過してしまうような異物をラベルL によって排除するという機能を有していない。)。
15 したがって,引用発明は,「異物混入防止のための,当該排気孔群を被 覆又は包皮する部材」を備えていないから,この点において,本件発明1 と実質的な相違はない。これと同旨の本件決定の認定判断に誤りはない。
イ 原告は,本件決定が,電子レンジで加熱する容器においても水蒸気を排 出する孔から塵挨や虫などの異物が混入するおそれがあることは周知の課20 題であるとしているところ,これを前提とすれば,電子レンジで加熱する 容器の蓋面に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けた引用発明において,連 通部(小孔)の上部に同連通部を覆うように貼着されたラベルLが,異物 混入の防止を目的として連通部上に設けられたものであることは自明であ るから,これに反する本件決定の認定判断は誤りであると主張する。
25 しかしながら,本件発明1の「異物混入防止のための,当該排気孔群を 被覆又は包皮する部材」は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間 が必要になる部材と解されるのに対し,引用発明のラベルLは,これを着 けたままで電子レンジ加熱するものであるとともに,蓋体の凹部17との 隙間から異物が入り得る可能性を排除するような形状及び大きさのものと は特定されていないから,当該ラベルLが,本件発明1にいう「異物混入 5 防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないと解 されることは,上記アのとおりである。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
? 以上によれば,本件決定に,原告主張の取消事由はない。
2 取消事由2(相違点2に係る構成の容易想到性の判断誤り)について10 ? 本件発明2と引用発明とは,本件決定が認定するとおりの一致点で一致し, 相違点1で相違するほか,相違点2で相違するものと認められる。
原告は,本件決定による相違点2の認定は,本件発明2において「排気孔 群」が「複数の排気細孔からなる」ことを認定に含めていない点において不 正確である旨主張するが,相違点2の構成として「排気孔群が平面図形とし15 て構成されている」ことは認定されているところ,排気孔群を平面図形とし て構成するためには排気孔群が「複数の排気細孔からなる」ものでなければ ならないことは自明であるから,「複数の排気細孔からなる」ことをあえて 相違点2の認定に含める必要はない。
? 本件決定は,相違点2について,排気孔群を平面図形として構成すること20 は周知技術(その例として甲5)であることを理由に,当業者が容易に想到 し得たと判断した。
原告は,本件発明2と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互いに異に するものであり,そもそも「異物混入抑制」という解決課題及び技術思想を 有しない引用発明から,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」とを一つ25 の構成手段(排気孔)によって実現するという本件発明2の解決課題は生じ 得ないから,「異物混入抑制」という解決課題を想定した上で,その解決手 段として上記周知技術を適用することが容易であると判断して,引用発明か ら本件発明2の容易想到性を導いた本件決定は誤りである旨主張する。
しかし,本件発明2は,本件発明1における排気孔群の配置形状を「平面 図形として構成されている」として限定したものであるところ,本件発明1 5 を引用発明等から容易に想到し得たことは前記1のとおりであり,本件決定 は,上記周知技術を,排気孔群の配置形状(平面図形として構成すること) に関して引用発明と組み合わせたものであって,「異物混入抑制」という解 決課題を解決する手段として引用発明に適用したものではないから,原告の 上記主張は当を得ておらず,採用することができない。
10 ? 以上によれば,本件決定に,原告主張の取消事由はない。
3 結論 よって,本件決定に原告主張の取消事由はなく,原告の請求は理由がないか らこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。