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関連審決 無効2018-800099
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事件 令和 1年 (行ケ) 10120号 審決取消請求事件

原告株式会社前川製作所
訴訟代理人弁護士 山崎順一
同 金子明
同 平井佑希
同 清水節
同 渡邉佳行
同 奥田洋平
訴訟復代理人弁護士 熊澤明彦
訴訟代理人弁理士 石橋克之
同 大木利恵
被告株式会社神戸製鋼所
訴訟代理人弁護士 松本好史
同 松井保仁
同 岩崎浩平
訴訟代理人弁理士 言上惠一
同 前堀義之
同 奥西祐之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/05/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 11 特許庁が無効2018−800099号事件について令和元年8月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 被告は,発明の名称を「油冷式スクリュ圧縮機」とする発明に係る特許(特 許第3766725号,平成8年10月25日出願,平成18年2月3日設定 登録,請求項の数2,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成30年8月6日,請求項1に記載された発明に係る特許を無効 とすることを求めて無効審判を請求した(無効2018-800099号,以 下「本件無効審判」という。。
) 特許庁は,令和元年8月7日,結論を「本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。」とする審決(以下「本件審決」という。) をし,本件審決の謄本は,同月16日に原告に送達された。
原告は,令和元年9月13日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起し た。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の明細書(以下,図面を含め「本件明細書」という。)の特許請求の 範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に記載された発 明を「本件特許発明」という。。
) 油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部 に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一 方,スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に 2 支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸 受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に 支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置に て上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とこの バランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピスト ンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流 路を設けて形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
? 本件無効審判において原告が主張した無効理由は次のとおりである(本件 審決3〜4頁)。
ア 無効理由1 本件特許発明は,甲1に記載された発明に,例えば,甲2ないし甲5に 記載された周知技術を適用して,当業者が容易に発明をすることができた ものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない から,その特許は特許法123条1項2号の規定により無効とすべきであ る。
イ 無効理由2 本件特許発明は,甲1に記載された発明において,甲6及び甲7に記載 された教示にならって当業者が容易に発明をすることができたものであ り,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,そ の特許は特許法123条1項2号の規定により無効とすべきである。
? 本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。 は, ) 次のとおりである(本件審決8〜9頁)。
吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液 体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すとともに,おすロー 3 タ12の両側に延びる軸部分63,66をラジアルスリーブタイプのベアリ ング52,54により回転可能に支持して,モータに接続される入力軸を低 圧側の軸部分66とし,おすロータ12の高圧端部分63を上記ベアリング 54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボール ベアリング56により回転可能に支持するとともに,上記アンギユラコンタ クトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて上記高 圧端部分63にスラストピストン62を取り付け,このスラストピストン6 2の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラス トピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと 再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138, 142,144,134,168,166,172)を設けて形成した液体 噴射スクリユウコンプレツサ。
? 本件審決が本件特許発明と甲1発明とを対比して認定した一致点,相違点 は次のとおりである(本件審決18〜20頁)。
ア 一致点 「吐出流路において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し, 油が分離された圧縮ガスを送り出す一方,スクリュロータの両側に延びる ロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロ ータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータ から離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上 記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸 にバランスピストンを取り付け,このバランスピストンのスラスト軸受側 の空間に,油を導く経路を設けて形成した油冷式スクリュ圧縮機。 の点。
」 イ(ア) 相違点1 「吐出流路において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収 し,油が分離された圧縮ガスを送り出す」に関して,本件特許発明にお 4 いては,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部 の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す「油分離回収器 を吐出流路に設ける」であるのに対して,甲1発明においては,吐出流 路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を 分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すとされているものの, 何で高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り 出しているのかについては不明である点。
(イ) 相違点2 本件特許発明においては,上記スラスト軸受とこのバランスピストン 「 との間に圧力遮断する仕切り壁を設け」ており,また, 「このバランスピ ストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成した」も のであるのに対し,甲1発明においては,アンギユラコンタクトボール ベアリング56とスラストピストン62との間に圧力遮断する仕切り壁 を設けているか否か不明である点。
(ウ) 相違点3 バランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて 形成したことに関して,本件特許発明においては,バランスピストンの 仕切り壁側の空間に, 「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」均 圧流路を設けて形成したのに対し,甲1発明においては,スラストピス トン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間で あるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコ ンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路 (136,138,142,144,134,168,166,172) を設けて形成した点。
? 本件審決の無効理由についての判断の要旨 本件審決の無効理由についての判断の要旨は次のとおりである。
5 ア 無効理由1について (ア) 相違点1(油分離回収器)について(本件審決20頁) 甲1においては, 「油分離回収器」に関して明記がないが,油冷式スク リュ圧縮機において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収 し,油が分離された圧縮ガスを送り出す手段として,油分離回収器を備 えることは,例えば,甲6,甲8及び甲9に記載されるように技術常識 であり,甲1発明が油分離回収器を備えることもこのような技術常識か ら明らかである。したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。
(イ) 相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について(本件審決24頁) アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は,ス ラストピストン室60よりも低圧であって,当該空間とスラストピスト ン室60との間には圧力差が存在している。さらに,甲1の6欄22〜 25行には,コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60 「 に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用す る高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。との記載があることか 」 ら,甲1発明においても,部品7,5,4は,全体として,スラストピ ストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の 圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコン タクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断する「仕切 り壁」の機能を有していると解すのが合理的である。したがって,甲1 発明は,本件特許発明の「仕切り壁」に相当する部品を備えているから, この点は,実質的な相違点ではない。
(ウ) 相違点3(非加圧流路)について(本件審決25頁) 甲1発明において, 「コンプレツサ内の必要な全ての個所」に供給する 液体の一部を,あえて,マニフオールド134を迂回して,スラストピ ストン室60に供給するための経路を新たに設けるようにすることは, 6 コンプレツサ外部に位置されなければならない液体パイプ接合の数を最 少とする中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反 するものである。
また,甲1発明において,相違点3に係る本件特許発明の発明特定事 項のようにするために,液体をポンプ140で加圧せずにマニフオール ド134に供給するという手段も考えられるが,ポンプ140で液体を 加圧しているのは,スラストピストン62に適当な力を与えるためのみ ならず,コンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するためで もあるから,液体をポンプ140によって加圧した上でマニフオールド 「 134に供給するようにした」こと自体が,中間ハウジング30及びマ ニフオールド134の設置前提となるものであり,液体をポンプ140 で加圧せずにマニフオールド134に供給することも,中間ハウジング 30及びマニフオールド134の採用意義に反するものである。
したがって,甲1発明において,液体を加圧することなくスラストピ ストン室に導く構成を採用することに阻害要因があるといえるから,仮 に,液冷式スクリュー圧縮機において,バランスピストン室に油溜まり 部の油を加圧することなく導入することが甲2ないし甲5に記載され, かかる事項が周知の技術であったとしても,甲1発明に甲2ないし甲5 を適用することはできず,当業者といえども相違点3に係る本件特許発 明の発明特定事項を得ることはできない。
(エ) 無効理由1の成否(本件審決26頁) 本件特許発明は,甲1発明に甲2ないし甲5に記載された周知技術を 適用して,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはで きない。よって,無効理由1によっては,本件特許を無効とすることは できない。
イ 無効理由2について(本件審決26〜27頁) 7 無効理由1に関して相違点3について記載したとおり,甲1発明におい て,液体をポンプ140及びマニフオールド134を通過させずにフイル タ146あるいは別途のフイルタを通過させた後,スラストピストン室6 0に供給するようにすることは,甲1に記載された技術思想に鑑み阻害要 因があるといえるから,本件特許発明は,甲1発明において,甲6及び甲 7に記載された教示にならって,当業者が容易に発明をすることができた ものとすることはできない。よって,無効理由2によっては,本件特許を 無効とすることはできない。
当事者の主張
1 取消事由1(無効理由1に関する進歩性の判断の誤り) ? 原告の主張 ア 相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について (ア) 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することの適 否 審決取消訴訟において,被告は,審決の判断を前提としてその適法性 を主張すべきであり,被告が審決の誤りを主張することは,裁判所によ る指示などの特段の事情がある場合を除いて許されないところ,本件で は,そのような特段の事情はなく,原告もこの点を争うものではないか ら,相違点2の判断の誤りを述べる被告の主張は,それ自体失当である。
(イ) 本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無 a 相違点1及び2は,本件特許発明及び甲1発明が属する油冷式スク リュ圧縮機の技術分野における技術常識や甲1の記載に照らせば実質 的な相違点ではなく,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。
その理由は次のbのとおりである。
b 被告は,本件審決が,相違点2に関して,甲1発明の部品7,5, 4が「圧力遮断する仕切り壁に相当する」 (実質的相違点ではない)と 8 判断したことにつき,甲1発明の部品7,5には貫通孔が存在し,そ こからアンギユラコンタクトボールベアリング56に対して「積極的 な液体供給が実現されている」から,上記判断は誤りであると主張す る。
しかし,本件特許発明が「物」の発明である以上,その要旨認定や 引用発明との対比は,物の客観的な構成によって行うべきことは当然 であり,液体供給(漏出)が「積極的」か「消極的」かといった設計 者の主観的な意図によって左右されるべきものではない。また,本件 特許発明は「圧力遮断する仕切り壁」と規定するのみで,どの程度圧 力を遮断するのか,どの程度液体の漏れが生じるのかといった点は, 特許請求の範囲はもちろん,本件明細書にも一切特定されていない。
そうすると,本件特許発明の要旨としては,文字どおり圧力が一定程 度遮断されていれば(仕切り壁の左右で圧力に差があれば)足りると 解すべきであって,本件審決の判断に誤りはない。
イ 相違点3(非加圧流路)について (ア) 甲1発明に,甲2ないし5に記載された周知技術を適用し,加圧ポ ンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)によ り,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することな く供給し,相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易 に想到することができたから,本件審決の相違点3に関する判断には誤 りがある。その理由は,後記(イ)のとおりである。
(イ)a 具体的な構成を前提にその採用の可否を判断することについて 本件審決は甲1発明において,相違点3のように液体(オイル)を 加圧することなくスラストピストン室60に導くための構成例として は,@加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段 (以下「手段1」という。)と,A加圧ポンプ140を採用せず,液体 9 を加圧せずに空所134に供給する手段(以下「手段2」という。)と が考えられるとした上で,これらの手段はいずれも甲1発明における 中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反すると して,甲1発明に適用するに当たって阻害要因があると述べ,進歩性 を認めている。
しかし相違点3に関し,本件特許発明は「油溜まり部の油を加圧す ることなく導く均圧流路」と規定するのみで,どのような構成によっ てそのような非加圧の流路が形成されるのかという点については,何 ら構成要件上限定されていない 。そのため,甲1発明に相違点3にか かる構成を適用して本件特許発明に至ることができるか否かを判断す る上において,どのような構成によって非加圧流路が形成されるのか ということなどは構成要件外の事情にすぎないから,非加圧流路を形 成するための具体的な構成のうち,ある特定の構成例のみに着目し, その特定の構成例を採用することに阻害要因があるとした本件審決の 判断は誤りである。
b 甲2ないし5に記載された周知技術 甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに 圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧する ことなく導く配管を設けることが記載されていたものであり,それは, 本件特許の出願日前に周知の技術事項であった。
c 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想 (a) 空所134への液体の集約 甲1発明の本質は,取り外し自在な低圧ケース98及び/又は高 圧ケース114を採用することにより,従来技術のような重く,大 きく,複雑なハウジング構造を改良したところにある。そのため, 10 空所134へ液体を集約することは甲1発明の本質ではなく,空所 134を経由しない経路を設ける手段を適用することによって,液 体を集約するという空所134の役割の一部が発揮されなくなる としても,そのことは,甲1発明の技術思想に反することはない。
(b) 外部への漏出防止 甲1発明の特徴は,低圧ケース及び/又は高圧ケースで覆うとい う点にあり,甲1発明の高圧ケース114の役割は「外部」へのオ イル漏れを最少にすることであって,ケース「内部」の構造を問う ものではない。甲1の図7を見ても,低圧ケースや高圧ケースの内 部には,パイプが枝分かれしており,多くの接合部分が存在し,こ のような接合部分からはオイル漏れが生じる可能性はあるが,甲1 発明において重要なのは,ケース「外部」にオイルが漏れないこと であって,ケース「内部」においてオイル漏れが生じたとしても, オイルは単にケース98と114の内部に形成された室内に流れ 込むだけで外部にまで漏れてしまうわけではないから,それによっ て甲1発明の目的が失われるものではない。甲1発明において,加 圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段 1)を採用することは,甲1発明の高圧ケース114の内部の構造 をわずかに変更する程度のものにすぎないから,甲1発明の技術思 想に反することはない。
d 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)を甲1発明に採用することについての阻害事由 (a) スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング 56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能 不全 本件特許発明の出願時点では,スラストピストン(バランスピス 11 トン)について,ポンプで加圧しなくとも,ロータに加わるスラス ト力を基準に受圧面積等を適宜調整して設計することにより,当該 スラスト力を適切に軽減させることが可能であったから(例えば, 甲2〜5) ,スラストピストン室60への液体をポンプで加圧しな くとも,コンプレツサ10が機能しなくなることはない。
甲1には,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体 供給が,スラストピストン室60から部品7,5の貫通穴等を経由 して行われていることの開示はない。アンギユラコンタクトボール ベアリング56への液体供給は,より高圧で圧力ロスの少ないベア リング54の方から行われると解される。
(b) フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機 能不全 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けても,ス ラストピストン室60に供給される液体は,流路を循環する中で, それ以外の箇所に供給され,その過程でフイルタ146を経由し, 異物はフイルタ146によって適切に除去されるから,コンプレツ サ10が機能不全に陥ることはない。なお,一度流路を循環した液 体がフイルタ146を経由せずにスラストピストン室60に供給 される場合があり得るとしても,コンプレツサ10はそれによって 機能不全を生じるようなものではない。
(c) 非加圧の経路を設ける動機付け 逆スラスト力の発生という課題は,従前から周知であり,それが, バランスピストンのピストン室にポンプで加圧されたオイルを供給 することによって生じることは,その作用機序からして明らかであ り,その課題解決のためにバランスピストンのピストン室にオイル を加圧しないで供給すればよいことは自明な事柄であり周知であっ 12 た。現にスクリュウコンプレツサの技術分野における当業者は,逆 スラスト力の課題を認識し,バランスピストンのピストン室にオイ ルをポンプで加圧することなく(吐出圧Pdに応じた力で)供給する ことで,逆スラスト力の課題を解決していた(甲2〜5)。
甲1に「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与 えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ, (9欄41〜43行) 」 , 「圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限し,ケー ス114の空間116に液体を送り込むように働く。(10欄24 」 〜27行)との記載があることから理解できるように,甲1発明に おいても,スラストピストン62に過大な力を与えてしまうと逆ス ラスト状態となってしまうという課題を認識しており,スラストピ ストン62に「適当な力」を与えるに「充分なだけ」の液体圧とす ることとし,また過大な力が加わることを防止するための圧力軽減 バルブ164を設けている。そのため,甲1発明に逆スラスト荷重 解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはある。
e 容易想到性 甲1発明は,逆スラスト力の発生という周知の課題を有しており, スクリュ圧縮機において,バランスピストンのピストン室に油を加圧 することなく供給することは本件特許の出願日前に周知の技術事項で あったから(甲2〜5),甲1発明の上記課題を解決するために,上記 の周知の技術事項を適用して,スラストピストン室へ液体を導く経路 を非加圧の経路とし,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経 路を設ける手段(手段1)を採用することは,当業者が容易に想到す ることができた。
? 被告の主張 ア 相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について 13 (ア) 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することの適 否 原告の主張は争う。
被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することに何ら 問題はない。
(イ) 本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無 a 原告の主張は争う。
本件審決が,相違点2について,部品7,5,4が「圧力遮断する 仕切り壁」に相当する部品であると認定し,相違点2は実質的な相違 点ではないと判断したのは誤りである。その理由は,次のbのとおり である。
b 甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56に は,その温度上昇による損傷を防止するために,スラストピストン室 60から液体(ベアリングを冷却する前の油)を供給し続ける必要が ある。そのため,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラ ストピストン室60との間に介在する部品7,5,4は,部品7,5 に貫通穴が設けられ,それらの貫通穴が互い連通されているという構 成であり,また,部品4は,その内側の空間を介してアンギユラコン タクトボールベアリング56が配置された領域と空間的に連通されて いるという構成であるから,部品7,5,4をもって,圧力遮断する 仕切り壁ということはできない。
さらに,スラストピストン62が,ポンプ140で「充分」に「液 体圧を増加せしめ」られた液体の供給を受け, 「ロータ12の端面64 に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する」という機能 を実現するために要求されるのは,スラストピストン62のロータ側 に作用する圧力,つまりスラストピストン室60の圧力が,スラスト 14 ピストン62の反ロータ側に作用する圧力,つまり室174の圧力よ りも高いことである。部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁」に 相当する部品でなくとも,スラストピストン室60は室174よりも 高圧であるため,上記機能は実現される。
そうすると,本件審決が,部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り 壁」に相当する部品であると認定し,相違点2について, 「甲1発明に おいては,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピ ストン62との間に圧力遮断する仕切り壁を設けているか否かは不明 である点。」と認定したのは誤りであり,「甲1発明においては,アン ギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン62との 間に圧力遮断する仕切り壁を設けていない点。」と認定すべきであり, 相違点2は本件特許発明と甲1発明の実質的な相違点であると判断す べきである。
(ウ) 相違点2が実質的な相違点であることを前提とする進歩性判断 甲1発明において,圧力遮断する仕切り壁を設け,相違点2に係る本 件特許発明の構成とすることは,アンギユラコンタクトボールベアリン グ56に対する積極的な液体供給を実現するために部品7,5に敢えて 貫通穴を設けたという貫通穴の採用意義に反し,アンギユラコンタクト ボールベアリング56に対する積極的な液体供給を妨げるものであるか ら,当業者が容易に想到することはできなかった。したがって,本件特 許発明には進歩性がある。
イ 相違点3(非加圧流路)について (ア) 甲1発明に,甲2ないし5に記載された周知技術を適用し,加圧ポ ンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)によ り相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到す ることができなかったから,本件審決の相違点3に関する判断には誤り 15 はない。その理由は,後記(イ)のとおりである。
(イ)a 具体的な構成を前提にその採用の可否を判断することについて 原告の主張は争う。
無効審判において,特許発明と引用例に係る発明を具体的に特定し, 引用例に係る発明に具体的な構成を適用して特許発明に至ることがで きるかどうかを判断することは当然である。
b 甲2ないし5に記載された周知技術 原告の主張は争う。
c 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想 原告の主張は争う。
(a) 空所134への液体の集約 甲1は,甲1発明が, 「改良された液体分布機構」として,ポンプ 140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をいった ん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」 (スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用 したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機 構」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウ ジング30に形成された空所134を介することなく供給される 個所は,コンプレツサ内に存在しない。したがって,スラストピス トン室60についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体 を空所134を介することなく供給するなどという構成は,甲1発 明の技術思想に反するものであって,甲1発明への適用が排斥され ている。
(b) 外部への漏出防止 また,甲1発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れと 16 いう課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポ ンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備え, ハウジングのジヨイントを最少とするケースを備える。そして,コ ンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるためには,そ もそも,内部における液体分布機構も改良してガス及び液体の漏れ を減少させることが必要又は有益であるところ,甲1発明において, スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすべく,例 えば,パイプ138を分岐させ,パイプを増加させ,当該パイプを パイプ172に接続することは,甲1発明の「改良された液体分布 機構」にとって著しく不合理な構成であり,このような構成を採用 することは,甲1発明の技術思想に反する。
d 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)を甲1発明に採用することについての阻害事由 原告の主張は争う。
(a) スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング 56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能 不全 ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充 分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ,甲1発明にお いて,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとす るならば,ポンプ140により「液体圧」を「充分」に「増加せし め」ることができず,スラストピストン62に「適当な力」を与え ることができないため,スラストピストン62のスラスト荷重への 対抗が不全となり,コンプレツサ10が機能しなくなる。
また,甲1発明は,液体が加圧されてスラストピストン室60に 供給され,部品7,5の貫通穴等を経由してアンギユラコンタクト 17 ボールベアリング56に供給されるところ,甲1発明において,ス ラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするなら ば,アンギユラコンタクトボールベアリング56に液体を供給し続 けることができなくなって,アンギユラコンタクトボールベアリン グ56は,その温度が許容温度を超えて上昇して損傷し,コンプレ ツサ10が機能しなくなる。
(b) フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機 能不全 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けると,ス ラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回 することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不純物等)がスラストピス トン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり, ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥る。甲1発明において, スラストピストン室60に液体を供給する構成を,ポンプ140・ フイルタ146・空所134を迂回するものの,他のフイルタを通 過してスラストピストン室60に至る構成に改変しようとすると, フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそ れに応じた液体パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため, 甲1発明がコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としよ うとしている趣旨等に反し,そのような構成を採用することには, やはり阻害要因がある。
(c) 非加圧の経路を設ける動機付け 甲1の「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与 えるに充分なだけの液体圧力を増加せしめ,またコンプレツサ内の 必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。(9欄41〜4 」 18 4行)という記載は,当業者が読めば,スラスト荷重に対抗する力 をスラストピストン62に与えるためにポンプ140が「液体圧を 増加」することを述べていると認識するにすぎず,逆スラスト荷重 状態の解消という課題を何ら示唆するものではない。また,甲1に は,スラストピストン62について, 「コンプレツサ噴射液体の如き 圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用し てロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向 の力を相殺する。 (6欄22〜25行)と記載されているものの, 」 逆スラスト荷重状態の解消には何ら言及されていない。したがって, 甲1には,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術 的課題について記載も示唆もなく,甲1発明に,逆スラスト荷重解 消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない。
また,甲1発明において圧力軽減バルブ164が設けられている 目的は,甲1の10欄24〜26行に「圧力軽減バルブ164は, 空所134中の液体圧を制限し」と記載されていることからして, 中間ハウジング30の破損の原因となりかねない空所134の過 剰な昇圧を防止するために空所134の圧力を制限することであ り,逆スラスト荷重状態を解消することではない。そのため,圧力 軽減バルブ164が設けられていることは,甲1発明に逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けがあるこ とを示すものではない。
e 容易想到性 原告の主張は争う。
甲1発明と,原告が甲2ないし5に記載されていると主張する技術 事項には,課題,作用及び機能の共通性はなく,甲1にそのような技 術事項を適用する示唆もなく,これまで述べたように,甲1発明に加 19 圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1) を採用することは,甲1発明の技術思想に反し,阻害事由があり,動 機付けがないから,甲1発明に,原告が甲2ないし5に記載されてい ると主張する技術事項を適用して相違点3に係る本件特許発明の構成 を容易に想到することはできなかった。
2 取消事由2(無効理由2に関する進歩性の判断の誤り) ? 原告の主張 ア 甲1発明に,甲6及び甲7に記載された技術事項を適用し,加圧ポンプ 140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2) により,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧すること なく供給し,相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易 に想到することができたから,本件審決の相違点3に関する判断には誤り がある。その理由は,後記イのとおりである。
イ(ア) 油ポンプを省略する動機付け 甲1に係る特許は昭和47年(1972年)に出願され,本件特許が 平成8年(1996年)に出願されるまでに約25年経過しており,そ の間に技術水準が変化した。スクリユウコンプレツサの技術分野で,甲 1に係る特許の出願時にはスリーブタイプの軸受が用いられており,そ のため油ポンプが必要であったが,その後,ころ軸受,玉軸受が普及し, 軸受へ油を供給するためのポンプが不要になり,高効率化の要請もあり, 油ポンプを採用せず,バランスピストン室に非加圧で油を供給するもの が一般的になってきた。
甲1の「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与える に充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全て の個所に液体流を供給するようにする。 という記載は, 」 コンプレツサに ポンプが設けられる場合のポンプの一般的役割を説明したものにとどま 20 り,甲1発明にポンプが必要であることを示すものではなく,甲1の請 求項にもポンプという語はない。
甲1に係る特許の出願から本件特許出願までの間又は本件特許出願後 にスリーブタイプの軸受や油ポンプを採用したスクリユウコンプレツサ があるとしても,油ポンプを省略することが本件特許出願当時の技術常 識,周知技術であったことは否定されない。
(イ) 油ポンプの省略と甲1発明の技術思想 甲1発明は,スクリユウロータなど液体(オイル)が分布する箇所を, 取り外し自在な低圧ケース98及び/又は高圧ケース114で覆うこと とし,これによって外部へのオイル漏れを防止しつつ,小型化・軽量化 を図り,またケースが取り外し自在であることにより修理等を容易にす ることをその目的,技術思想の一つとしている。加圧ポンプ140を採 用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)を採用 すれば,高圧ケース114内にかさばる油ポンプを省略することができ るから,一層の小型化・軽量化を図ることができ,修理の際の取り回し や内部の視認性なども向上するから,上記の甲1発明の目的に資するこ とになる。
(ウ) 油ポンプを省略することについての阻害事由 甲1発明において油ポンプを省略しても,スラストピストン62,ア ンギユラコンタクトボールベアリング56へ油が供給されなくなること はなく,コンプレツサ10の機能不全を生じることもない。
? 被告の主張 ア 甲1発明に,甲6及び甲7に記載された技術事項を適用し,加圧ポンプ 140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2) により相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到 することができなかったから,本件審決の相違点3に関する判断には誤り 21 はない。その理由は,後記イのとおりである。
イ(ア) 油ポンプを省略する動機付け 原告の主張は争う。
甲1の明細書には, 「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な 力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の 必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。と記載されているか 」 ら,ポンプ140が採用されたのは,コンプレツサ内の必要な全ての個 所に液体流を供給するためであり,スリーブタイプの軸受に油を供給す るだけのためにポンプ140が採用されているわけではない。また,甲 1発明には,ラジアル軸受の構成がスリーブタイプの軸受であることが 明記されている。甲1に係る特許の出願から本件特許出願までの間,更 に本件特許出願後にも,スリーブタイプの軸受を採用したり,転がり軸 受を採用した上で転がり軸受へ油を供給するために油ポンプを採用した スクリュコンプレッサがあるから,油ポンプを省略することが本件特許 出願当時の技術常識,周知技術であったとはいえない。したがって,甲 1発明の油ポンプを省略する動機付けはない。
(イ) 油ポンプの省略と甲1発明の技術思想 原告の主張は争う。
甲1発明は, 「改良された液体分布機構」として,ポンプ140により 液体を加圧し,いったん空所134に集約した上でコンプレツサ内の必 要な全ての個所(スラストピストン室60を含む。 に供給するという構 ) 成を採用しているから,ポンプを採用せず液体を加圧せずに空所134 に供給する手段(手段2)を採用することは,甲1発明の技術思想に反 する。
(ウ) 油ポンプを省略することについての阻害事由 原告の主張は争う。
22 甲1発明において油ポンプを省略するならば,スラストピストン62, アンギユラコンタクトボールベアリング56へ油が供給されなくなり, コンプレツサ10の機能不全を生じるから,甲1発明において油ポンプ を省略することには阻害事由がある。
当裁判所の判断
1 本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明,技術事項 ? 甲1 ア 甲1の記載事項 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1(特公昭51-368 84号公報) 別紙のとおりであり, は, 「ヘリカルスクリユウコンプレツサ」 に関する公告公報であって,甲1には,図面とともに次のとおり記載され ている。
(ア) 「この発明は,ハウジングに改良を施した液体噴射スクリユウコン プレツサに関するものである。」(2欄24〜25行) (イ) 「従来の液体噴射スクリユウコンプレツサに関連する問題点として は,通常必要とされる多数のパイプ接合からの,コンプレツサハウジン グ部材間のフランジ付ジヨイントからのガスおよび噴射液体の漏れがあ る。コンプレツサ外への圧力のかかつたガスの漏れは,特に密閉された 装置においては,またガスが有害なあるいは可燃性のものであるときは 好ましくない。もちろん,噴射液体の漏れも望ましくないものである。
従つてコンプレツサハウジングのジヨイントの数を最少にし,ジヨイン トを容易に密閉することが出来るようにすることが好ましい。(3欄1 」 9〜30行) (ウ) 「この発明は,密閉を行なうのに必要なハウジングのジヨイントを 最少にし,コンプレツサハウジング内にほぼ収容される液体分布装置を 備えた液体噴射ヘリカルガスコンプレツサのハウジング構造の改良を目 23 的とするものである。
この発明はまた,スライドバルブ容量制御装置を用いるタイプのヘリ カルスクリユウガスコンプレツサのハウジング構造を提供するものであ つて,その際注入ケース部分はスクリユウロータを収容するための組み 立てられた金属部材として独立に構成されてコンプレツサ注入ガスと容 量制御バルブにより送り込まれるガスのための室を構成するものである。
組み立てられたケース部分はまた,フレーム上にコンプレツサユニツト を保持するためにも構成され,コンプレツサは,コンプレツサ駆動モー タに関してこのケース部分との整合を妨げることなくこれからそつくり 取り外すようにすることが出来る。
この発明はさらにまた,中間のハウジング部材が基本のコンプレツサ の支持体を構成し,組み立てられたケース部分から容易に取り外しが出 来るような液体噴射ヘリカルスクリユウコンプレツサ用のハウジング 構造を提供するものである。中間ハウジング部材はまた,コンプレツサ 外部に位置されねばならない液体パイプ接合の数を最少とするような 液体分布孔あるいはマニホールドを有している。中間ハウジング部材内 にはこれに取り付けられた密閉可能なケース部分と共に液体分布孔が 配置されていて,コンプレツサのガス-液体混合体に通常は曝されてい る閉領域内に位置するほぼ全ての液体パイプがこれにより設けられる こととなる。またこの発明によるコンプレツサハウジング構造は,外観 が美しいと共に容易に外部から吸音かつ絶縁層あるいはコーテイング を施すことが可能である。(4欄8〜42行) 」(エ) 「第3図から明らかなようにおすロータ12は,ロータの低圧端側 のラジアルスリーブタイプのベアリング52とロータの高圧端側の同様 のベアリング54とに回転自在に軸支されている。ベアリング52と5 4とはそれぞれベアリングハウジング34と中間ハウジング30とに位 24 置せしめられている。ロータ12に働く軸方向の力は,一対のアンギユ ラコンタクトボールベアリング56により部分的に受けられる。ベアリ ング56は,ベアリングハウジング58内に適当に取り付けられ,この ハウジング58は,面32から離れかつこれに平行の第2の横断面59 上の中間ハウジング30に着脱自在にボルト止めされている。ベアリン グハウジング58は,円筒状の室60を有し,その中にはおすロータ1 2の高圧端部分63に取り付けられたスラストピストン62が設けられ ている。コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導 びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高 圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。なおロータ12の反対側の 端部は,一体の軸部分66を有し,これに対してモータが第1図に示す 如きカツプリング68によつて接続される。めすロータ14は,同様に スリーブベアリングおよび回転部材であるスラストベアリング(図示せ ず)によつて支持されている。(6欄6行〜31行) 」(オ) 「前述の如くコンプレツサ10は,液体が,圧縮熱の幾分かを吸収 し,協働するロータ12と14の隙間を密閉するために,圧縮されたガ スと混合されるように穴18,20により形成された作動室内に噴射さ れるような良く知られたタイプのものである。この液体は通常適当なオ イルが用いられ,これはまた互いに係合する二つのロータおよびロータ ベアリング用の潤滑剤としても働く。コンプレツサ作動室内に直接噴射 されまた潤滑用に用いられるこの液体は,高圧ガスと共に放出され,ガ スから分離され,冷却されまた従来周知の如くコンプレツサに再循環さ れる。(9欄17行〜28行) 」(カ) 「この発明によればケース98と114内にほぼ収容されている改 良された液体分布機構を備えたハウジング構造が提供され,コンプレツ サの外部に対する液体の漏れが最少にされる。コンプレツサ10内の中 25 間ハウジング30は,コンプレツサ中の種々の位置に液体を供給するための複数個の通路を有している。中間ハウジング30はまた,圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。
特に第3図〜第7図において,液体は中間ハウジング30内のパイプ136と通路138を介してめすロータの図示せぬ延長部により駆動される適当なポンプ140に導びかれる。ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。ポンプ140の放出パイプ142は,中間ハウジング30に固定されたフイルタ146と接続しているこのハウジングの通路144に接続している。
フイルタ146を通過した液体は,中間ハウジングの空所134内に流れる。
空所134は,コンプレツサベアリングおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。適当なバルブ156がパイプ148内に挿入され,容量制御バルブ駆動体の室70に対する圧力のかかつた液体の流れを制御する。パイプ160内にはバルブ158が配置されて室70に圧力のかかつた液体を送り込む。パイプ160は,パイプ150と,ケース98の内部空間102に開口している中間ハウジングの通路162に接続している。空間102に放出される液体の大部分は,コンプレツサ作動室に流れる注入ガスと偶発的に混合される。空所134はまた,第5図に示され第7図に構成的に示されている圧力軽減バルブ164と接続している。圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限 26 し,ケース114の空間116に液体を送り込むように働く。圧力軽減 バルブ164は,空間116と空所134との間に存在する圧力差によ り作用するタイプのバルブである。
空所134は第5図に示す如く,通路168によりこれに相互に結合 された部分166を有し,また中間ハウジング30に位置するベアリン グ54に至る通路170を有している。またパイプ172は空所部分1 66からスラストピストン室60に通じていてスラストピストン62 に作用する圧力のかかつた液体を供給する。第3図に示される如くカバ ー部分175により形成される室174へのスラストピストンの周縁 を通つて漏れる液体は,この室から,中間ハウジングの適当な通路を介 して穴20に通じているパイプ178に接続しているパイプ176に よつて排出される。空所部分166に接続されたパイプ180はまた, ベアリングハウジング34中のベアリング52および同様にベアリン グハウジング34中に前述の如く位置するめすロータ14のスラスト ピストンに液体を供給する。液体はまたパイプ182を経由して軸シー ルアセンブリ108に供給され,接続パイプ184を介してシールから パイプ178に排出される。
コンプレツサベアリングから,およびスラストピストンとシール10 8とから排出される液体は,交叉する穴18と20とからなる作動室内 に流れる。(9欄29行〜11欄9行) 」(キ) 「上に述べた液体噴射および潤滑機構から明らかなように,中間ハ ウジング30内に分布空所あるいはマニホールドを設けまたケース98 と114内にほぼ全部のパイプを位置せしめたことにより,コンプレツ サ10の外への噴射液体の漏れの大部分が除去されることとなる。(1 」 2欄13〜18行)イ 甲1の記載から理解できる事項 27 (ア) スクリュー圧縮機においては,潤滑等のためにロータに油を供給し つつ,ロータによりガスが圧縮され吐出されるから,スクリュー圧縮機 の吐出流路において,液体が含まれる高圧ガスから液体を分離し,液体 が分離された高圧ガスが送り出されることは技術常識である。そして, 前記ア(ア)及び(オ)の記載並びに上記技術常識から,液体噴射スクリユ ウコンプレツサの吐出流路において,オイルである液体とともに放出さ れた高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り 出すことが理解できる。
(イ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,おすロータ12の両側に延びる軸 部分63,66をラジアルスリーブタイプのベアリング52,54によ り回転可能に支持して,モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分6 6としていることが理解できる。
(ウ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,おすロータ12の高圧端部分6 3をベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユ ラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持することが理 解できる。
(エ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,アンギユラコンタクトボールベ アリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて高圧端部分63 にスラストピストン62を取り付けていることが理解できる。
(オ) 前記ア(カ)並びに第3図,第5図及び第7図の記載から,スラスト ピストン62のアンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間で あるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコ ンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路 (136,138,142,144,134,168,166,172) を設けて形成したことが理解できる。
ウ 甲1に記載された発明 28 甲1の記載事項(前記ア)及び甲1の記載から理解できる事項(前記イ) によれば,甲1には,本件審決が認定したとおり,甲1発明(前記第2の 3?)が記載されていると認められる。
? 甲2 ア 甲2の記載事項 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2(特開昭57-159 993号公報)には,図面とともに次のとおり記載されている。
(ア) 「本発明は,互に噛み合う一対のスクリユーロータをロータ室で回 転せしめて気体を圧縮する噴射式スクリユー圧縮機の運転中に生じる軸 方向推力を打消すバランスピストンに関するものである。(1頁右下欄 」 11〜15行) (イ) 「従来,この種の圧縮機は雄ロータを含む縦断面図の第1図に示さ れるようにロータケーシング1の両側は吸込側端壁及び吐出側端壁をな しており,吸込ケーシング2,吐出ケーシング3により密閉され,雄ロ ータ4と図示されない雌ロータがかみ合つており,両ロータはケーシン グ1の吐出し側の双円弧形外周と接している。雄ロータ4は吸込ケーシ ング1中のジヤーナル軸受6,吐出ケーシング3中のジヤーナル軸受8, スラスト玉軸受12より支承され,軸封装置18にて軸封され駆動端が 機外に突出している。軸受6側の軸部4bは延出され軸端にはバランス ピストン32が固定され,吸込ケーシング2に直接又は固定されたシリ ンダ中を滑動して回転するようになつている。22は吸込通路,25は 吐出通路である。雌ロータ側は同様に機外に突出しない軸により軸架さ れバランスピストンを有しない。31はスライドバルブである。スクリ ユー圧縮機が運転されると雄ロータ4と雌ロータはかみ合つてその間の 作用空間が吐出側へ移行して冷媒は圧縮され吐出口より吐出通路25へ 吐出される。一方,軸受及びロータ間及びロータとロータケーシング1 29 間の潤滑,冷却,密封を行う油は吐出されたガスと共に吐出配管50を とおり油分離器52に入りそこで分離されて油配管53により油冷却器 55に送られて冷却され,フイルタ56にて炉過されて,油ポンプ57 により昇圧されて,軸受6,8,12等の各軸受,軸封装置18,スラ イドバルブ31ほかを介してロータ作用空間へ送られる。同じく送油さ れた油ポンプ57からの圧油はバランスピストン室34に送られ,発生 するロータの推力と均衡するようになつており,これらの給油は吐出通 路25に再び出て合流する。(1頁右下欄16行〜2頁右上欄10行) 」(ウ) 「このような従来のスクリユー圧縮機のバランスピストンは油ポン プで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している ため次の欠点があつた。
(1) … (2) 特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないう ちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかか ることによりロータが吐出側に推されスラスト軸受およびスラスト軸受 抑え金などに過大な応力がかかりしかも起動のたびに繰返えされるため 疲労変形の恐れがある。また,ロータ吐出側端面と吐出ケーシング端面 が接触し,両端面が損傷したり発熱し,その発熱によりラジアル軸受メ タルが溶融して流出することも起り得る。
(3) …」(2頁右上欄11行〜左下欄15行)(エ) 「本発明はスクリユー圧縮機における従来のバランスピストンの加 圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に 均衡し,従つて起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの 容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目 的とするものである。(2頁左下欄16行〜右下欄2行) 」(オ) 「本発明はスクリユー圧縮機において,吐出流体と共に潤滑,冷却, 30 密封用の油が油分離機により回収され,油ポンプにより圧縮機各部に給 油され,吸込ケーシングに設けたロータ軸端の突出する空間にロータ軸 に固定したピストンと吸込ケーシングに固定したシリンダをすきま少く 嵌入してピストンの反吐出側に圧縮機の吐出圧力を受けた油を供給した ことを特徴とするものである。(2頁右下欄3〜11行) 」 (カ) 「第5図は油圧回路図を示す図面である。吐出通路25に吐き出さ れた油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導か れ,圧縮ガスと油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され, 油は油配管53により油冷却器55に導かれる。(4頁左下欄14〜1 」 9行) (キ) 「油分離器52より分離された油の一部はフイルタ59を途中に備 える配管58を通じてバランスピストン室34へ送られる。バランスピ ストン32には従つて吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する油圧力が加 わる。(4頁右下欄7〜11行) 」イ 甲2の記載から理解できる事項 甲2の第5図の記載から,配管58は,バランスピストン室34に,油 分離器52の油を加圧することなく導くことが理解できる。
ウ 甲2に記載された技術事項 甲2の記載事項(前記ア)及び甲2の記載から理解できる事項(前記イ) によれば,甲2には,次の技術事項が記載されていると認められる。
「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を 作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動 時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプに より吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロ ータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大 な応力がかかるという課題があったところ,この課題を解決するために, 31 油を多量に含む圧縮ガスから油を分離回収し,油分離された圧縮ガスを送 り出す油分離器52を吐出配管50に設け,軸部4b端には,雄ロータ4 と雌ロータ5の推力のバランスをとるためのバランスピストン32に面 するバランスピストン室34に,上記油分離器52の油を加圧することな く導く配管58を設けて形成したスクリユー圧縮機。」? 甲3 ア 甲3の記載事項 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3(国際公開第95/1 0708号)には,図面とともに次のとおり記載されている(翻訳は審決 による。。
) (ア) 「公知の装置によれば,通常のケースにおいて,スラスト荷重を適 切に低減することができる。しかしながら,出口圧が変化し,特に入口 圧も変化するとき,問題が発生する。このような運転条件では,軸方向 ガス力が変化し,結果として,バランスピストンの寸法や種々の運転条 件によって,ロータがアンダーバランス又はオーバーバランスの状態に なってしまうかもしれない。この結果は,スラスト軸受の寿命を減少さ せるであろう。(1頁7〜12行) 」 (イ) 「本発明の目的は,問題になっている圧縮機における種々の運転条 件(特に,高い入口圧及び出口圧で運転するための運転条件)へのスラ ストバランスの自動的な適応のための簡素且つ信頼性の高い手段を達成 することである。(1頁25〜27行) 」 (ウ) 「圧縮機1は,互いに噛み合う一対のスクリュロータを備えた回転 スクリュータイプのものであり,低圧入口2と高圧出口3とを有する。
一方のロータは不図示の駆動手段に連結されるシャフト延長部15を有 し,シャフト延長部はシリンダ14内にバランスピストン11を有する。
圧縮機には油が注入され,オイルセパレータ10が出口配管8に設けら 32 れている。オイルセパレータからのガスはデリバリパイプ9を介して排 出され,分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動スペース に戻るようになっている。配管6には,オイルセパレータに隣接して第 1スロットル5が設けられており,油注入手段が第2スロットル4を構 成している。第1スロットル5及び第2スロットル4の間において,配 管6には,シリンダ14まで分岐配管が到達している。(2頁18〜2 」 6行)(エ) 「運転時,圧縮機の高圧端から低圧端に向かう方向(即ち,図中左 側)の軸方向のガス力Fが各ロータに作用し,このガス力はps及びpd の関数である。ピストン11からのバランス力F bは,ピストンの有効加 圧面積12に依存し,ps及びpdの関数である。バランス力はガス力未 満であるべきであり,合力FR=F-FBはスラスト軸受によって負担さ れるべきである。合力は,所定範囲(Fmin(イ) 甲3の図面を参照すると,配管6及び分岐配管7には油圧ポンプが 設けられておらず,オイルセパレータ10からの油を「加圧することな く」シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に導く ようになっていることが理解できる。
さらに,油は油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになって いると記載されているから,このスクリュー圧縮機は油冷式であるとい 33 える。
ウ 甲3に記載された技術事項 甲3の記載事項(前記ア)及び甲3の記載から理解できる事項(前記イ) によれば,甲3には,本件審決が認定したとおり(本件審決12頁),次の 技術事項が記載されていると認められる。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油 溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10 を出口配管8に接続し,シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力 表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分 岐配管7を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機1。」? 甲4 ア 甲4の記載事項 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4(特開昭57-122 188号公報)には,図面とともに次のとおり記載されている。
(ア) 「(7)特許請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載の油 注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平 衡さす方法に於いて,前記ねじロータの軸的平衡の為に,圧力油が前記 低圧側のねじロータの軸端(20)に近接した圧力空間に供給されるこ とを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロー タ軸スラストを平衡さす方法。(特許請求の範囲第7項) 」 (イ) 「(11)特許請求の範囲第7項から第10項のいずれか1項に記載 の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラスト を平衡さす方法に於いて,前記ねじロータの圧力空間に供給される油の 圧力が前記ねじ形圧縮機の出力圧力とほぼ同じであることを特徴とする 油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを 平衡さす方法。(特許請求の範囲第11項) 」 34 (ウ) 「圧縮機の低圧側には,好ましくはころ軸受型のラジアル軸受と好 ましくはアンギユラ・コンタクト玉軸受型のアキシアル軸受18がねじ ロータ15を支承する為に組み入れられている。この軸受組み入れ部分 の外側に於いて,ねじロータ15の高圧端に作用する軸力の主要部分を 平衡さす為にロータ軸端20に平衡ピストン19が配備されている。前 記平衡ピストン19は圧力空間21に位置させられ,そして該圧力空間 21へ油入口孔22を介して外側から圧力油が供給され得る。(3頁右 」 下欄1〜10行) (エ) 「ねじロータ15の平衡ピストン19の圧力空間21に油が供給さ れるが,該油の圧力は油冷却器と油フイルタ中の圧力低下によつて減圧 されたねじ形圧縮機の出口圧力に対応する。 4頁左下欄12〜15行) 」 ( (オ) 「軸方向の力が高いねじロータ上には,本発明に係る装置により平 衡力が与えられ,該平衡力は圧縮機に於ける逆圧の増大と共に増大し, それによつて軸受力そして,従つて,軸受稼動寿命は,実質的に一定で ある。(5頁右上欄19行〜左下欄3行) 」 イ 甲4に記載された技術事項 前記アの記載事項によれば,甲4には,次の技術事項が記載されている と認められる。
「油冷却器及び油フイルタでの圧力降下によって減少したねじ圧縮機(ス クリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を,平衡ピストン(バラン スピストン)19に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設け て形成した油注入式ねじ形圧縮機。」? 甲5 ア 甲5の記載事項 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5(実願昭62-128 114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム)には,図面 35 とともに次のとおり記載されている。
(ア) 「本考案は,以上の問題点を解消するために,バランスピストンの 給排油構造を簡素化し,しかも圧縮ガス圧力の変動に係わらず安定した スラスト力の釣合と,圧縮作用空間及び軸受空間との確実な軸封作用が 行えると共に,ロータ端面とケーシング端壁間との吐出端面隙間の正確 な調整を可能とし,安価でしかも性能のよいスラスト力釣合装置を提供 することを目的とする。(4頁17行〜5頁4行) 」(イ) 「さらに,オスロータ3側のベアリング12と該ロータの端面21 間には,外周面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成 るスペーサ16が嵌着し,該ロータと吐出ケーシング9間の吐出端面ス キマを保持している。さらに,前記大径部14と小径部15の双方は, 吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と小径穴とから成る軸封 穴17内に密封摺動自在に挿通すると共に,前記スペーサの大径部14 と小径部15との境にある段部18と,前記軸封穴17間に形成される 作用室19を,連通孔20を介してメスロータ4に嵌着する軸封カラー 25の油溝26と連通している。この油溝26は,前記軸封カラーの略 中央部に全周にわたって形成されているもので,吐出ケーシング9に穿 設した給油孔27と連通し,さらに配管28を介してセパレータタンク 29内の油溜30と接続している。(6頁12行〜7頁8行) 」(ウ) 「圧縮機を運転すると,吸入口45から吸入されたガスはオス・メ スロータ3 4の噛み合いによって圧縮され, ・ 吐出口46より吐出され, 図示せざる吐出配管を介してセパレータタンク29内に圧送される。
これにより,油溜30内の潤滑油は前記圧縮ガス圧力により押し出さ れ,配管28,給油孔27を介してメスロータ4の軸封カラー25外周 部に形成された油溝26を経て,オスロータ3に設けられたスペーサ1 6の作用室19内に圧送される。
36 したがって,オスロータ3には常時圧縮ガス圧力に比例した図中A方 向のスラスト荷重が作用する。
一方,前記したオス・メスロータの噛み合い回転に伴う圧縮作用によ り,両ロータには圧縮ガス反力としてのラジアル荷重と,図中B方向へ のスラスト荷重が作用するが,このオスロータ側のスラスト荷重を前記 作用室19内の油圧によってスペーサ16に作用する図中A方向のスラ スト力が相殺し,ベアリング12に加わるスラスト荷重を軽減する。
即ち,前記A及びB方向のスラスト荷重は常に圧縮ガス圧力に比例し た力で作用するので,前記圧縮ガス圧力の変動に係わらず常に均衡のと れた釣合が成される。(7頁12行〜8頁16行) 」 イ 甲5の記載から理解できる事項 前記ア(イ),(ウ)及び第1図の記載からみて,油とともに吐出された圧 縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離され た圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続すること, 及び,スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧 することなく導く配管28を接続することが理解できる。
ウ 甲5に記載された技術事項 甲5の記載事項(前記ア)及び甲5の記載から理解できる事項(前記イ) によれば,甲5には次の技術事項が記載されていると認められる。
「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油 溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を 吐出配管に接続し, バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室 19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,スク リュ圧縮機。」2 取消事由1(無効理由1に関する進歩性の判断の誤り)について 37 ? 相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について ア 当裁判所は,被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張する こと自体は失当とはいえないが,相違点2は実質的な相違点ではないとし た本件審決の判断に誤りはないものと判断する。その理由は,以下のとお りである。
イ 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することの適否 原告は,相違点2の判断の誤りを述べる被告の主張は,それ自体失当で ある旨主張する。
しかし,被告は,本件特許発明は甲1発明に甲2ないし5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたとの本件審 決の判断は誤りであるという原告の主張を争い,その理由として,甲1発 明と本件特許発明の相違点2は実質的な相違点であって,相違点2に係る 本件特許発明の構成を容易に想到することはできず,本件特許発明は当業 者が容易に発明をすることができなかったと主張するものであり,このよ うな主張は本件無効審判においても行っていたものである。したがって, 被告の上記主張は,無効審判において審理判断の対象となっていなかった 新たな事由を持ち出すものではないし,本件特許発明進歩性を基礎付け 得るものである以上,それ自体失当であるということもできない。したが って,原告の上記主張は,採用することはできない。
ウ 本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無 (ア) 本件特許発明における圧力遮断する仕切り壁の技術的意義 a 本件明細書の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
(a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するように 38 した油冷式スクリュ圧縮機に関するものである。」(b)「【0013】 【発明の実施の形態】 次に,本発明の実施の一形態を図面にしたがって説明する。
図1〜3は,第1発明の第1の実施形態に係るスクリュ圧縮機を示 し,図6,7に示すスクリュ圧縮機と互いに共通する部分について は,同一番号を付して説明を省略する。
この圧縮機の場合,油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐 させた均圧流路8が設けてあり,油ポンプ6の二次側に続く油供給 流路7の部分はラジアル軸受13,14の箇所に導き,均圧流路8 はバランスピストン17の箇所に導くように形成してある。この圧 縮機本体3内の構造について,さらに詳説すれば,図2,3に示す ように,圧縮機本体3の吐出側のロータ軸に,スクリュロータ11, 12側から順番に,ラジアル軸受14,スラスト軸受16,バラン スピストン17を設けるとともに,スラスト軸受16とバランスピ ストン17との間に仕切り壁31を設けてある。この仕切り壁31 は内周部に軸封手段32を備え,スラスト軸受16を収容している 空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮 断して,空間Bを,入力軸15,スラスト軸受16,ラジアル軸受 13,14等の他の構成要素とは独立させてある。
【0014】 そして,空間Aには吸込圧力Ps を導き,空間Bのバランスピストン 17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力P d を導いている。
上述したように,入力軸15を吸込側に配置してあるためスラスト 軸受部の径はラジアル軸受14,入力軸15の径によって左右され 39 ず,スラスト軸受16の内径を小さくして,その負荷容量を大きく することができる。また,空間Bを他の構成要素から独立させてあ るので,バランスピストン17の軸径,外径を他の構成要素に左右 されることなく定めることができる。
バランスピストン17に作用する力Fは,次式で表される。
F=(D2-d2)(π/4)×Pd ・ ここで,Dはバランスピストン17の外径,dはバランスピストン 17の軸径であり,したがって,十分にスラスト力を軽減するため には,力Fを大きくすればよく,そのためには(D2-d2)を大きく して,バランスピストン17の必要な受圧面積を確保すればよい。
即ち,バランスピストン17の外径Dを大きく,軸径dを小さくす ればよい。」b 圧力遮断する仕切り壁の技術的意義 前記a(a)の本件明細書の記載によれば,本件特許発明は,「スクリ ュロータに作用するスラスト力を軽減する」ことを前提としていると ころ,前記a(b)の記載と本件明細書の図3を参照すると,本件特許発 明における「仕切り壁」とは,十分にスラスト力を軽減するよう吐出 圧力Pdをバランスピストン17に作用させるために,吐出圧力Pdが 導かれる空間Bと吸込圧力が導かれる空間Aとの間に配置することに より,空間Aと空間Bとを圧力遮断するものである。
そうすると, 「仕切り壁」の密封性については,本件特許発明が前提 とする「スクリュロータに作用するスラスト力を軽減する」よう吐出 圧力Pd をバランスピストン17に作用させることができる程度に空 間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができることを要するもの であって,全く流出させないほどの密封性を要するものではないと解 される。
40 (イ) 甲1発明における部品7,5,4 a 部品の配置 甲1の図3を参照すると,別紙図面(本件審決23頁の図面に着色 したもの。 のとおり, ) スラストピストン室60とアンギユラコンタク トボールベアリング56との間には,右から順に部品7,5,4が配 置されるとともに,それらの下方に部品6が配置されることが看取で きる。
b 圧力差の存在 甲1発明において,スラストピストン室60には,コンプレツサ噴 射液体のような圧力のかかった液体が導かれ,その圧力が,ピストン 62に作用して,スラスト力を軽減している。
他方,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空 間について検討すると,甲1には,コンプレツサベアリングに液体を 分布させることが記載され,具体的には,ベアリング52,54に液 体を供給することが記載されているが,アンギユラコンタクトボール ベアリング56への液体供給については具体的な記載はない。そして, ボールベアリングを油で潤滑することは一般にも行われているが,ボ ールベアリングが配置される空間が高圧の油で完全に満たされている とボールの円滑な転動が阻害されるから,通常そのようなことは考え にくい。そうすると,甲1発明において,アンギユラコンタクトボー ルベアリング56が配置された空間は,ポンプ140で加圧された液 体で完全に満たされていることはなく,当該空間はせいぜい気液混合 状態であって,スラストピストン室60よりも低圧であり,アンギユ ラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とスラストピス トン室60との間には圧力差が存在しているものと認められる。
c 密閉性の程度 41 ところで,甲1の図3の記載から,部品5及び部品7には,両部材を貫通する穴が形成され,このような貫通穴は部品4の右端面に開口していることが看取できる。さらに,技術常識に鑑みれば,甲1の図3における部品3及び部品4は,アンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪を回転不能に固定するための部品であり,部品5の押圧力を部品4を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪に作用させていることが理解できる。したがって,部品5と部品4との間は相当に密なものであると解されるものの,部品5の貫通穴と部品4の右端面とにシール部材は見受けられず,また,前述のとおりアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は低圧であるから,スラストピストン室60に供給された液体が前記貫通穴を介して,部品5と部品4との間からアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間に漏れ出る可能性が全くないとまではいえない。
しかし,前記(ア)bで検討したように,本件特許発明の「仕切り壁」の密封性は,発生する逆スラスト荷重にバランスする十分な圧力をバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができるものであって,全く流出させないほどの密封性を要するものではない。そして,甲1に「コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。(6欄22〜25行)との記載があるこ 」とから,甲1発明においても,部品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮 42 断していると解される。
d 圧力遮断する仕切り壁への該当性 そうすると,甲1発明において,部品7,5,4は,圧力差のある スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング 56が配置された空間との間に配置することにより,これらの空間を 遮断するものであるから,本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」 の機能を有していると認められる。
(ウ) 本件審決の判断の誤りの有無 これまで述べたところによれば,甲1発明は,本件特許発明の「仕切 り壁」に相当する部品を備えているから,相違点2は,甲1発明と本件 特許発明の実質的な相違点ではなく,これと同旨の本件審決の判断に誤 りはない。
(エ) 被告の主張の検討 a 被告は,甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリン グ56にはスラストピストン室60から液体(ベアリングを冷却する 前の油)を供給し続ける必要があり,そのため,アンギユラコンタク トボールベアリング56とスラストピストン室60との間に介在する 部品7,5,4は,部品7,5に貫通穴が設けられ,それらの貫通穴 が互い連通されているという構成であり,また,部品4は,その内側 の空間を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置さ れた領域と空間的に連通されているという構成であるから,部品7, 5,4をもって,圧力遮断する仕切り壁ということはできないと主張 する(前記第3,1?ア(イ)b)。
しかし,前記(イ)cのとおり,本件特許発明の「仕切り壁」は,油を 全く流出させないほどの密封性を要するものではなく,甲1発明の部 品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラ 43 スト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度 に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリン グ56が配置された空間とを圧力遮断しているから,圧力遮断する仕 切り壁に該当するものと認められ,被告の上記主張を採用することは できない。
b また,被告は,甲1発明において,スラストピストン62が,ポン プ140で「充分」に「液体圧を増加せしめ」られた液体の供給を受 け,ロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の 「 力を相殺する」という機能を実現するために要求されるのは,スラス トピストン62のロータ側に作用する圧力,つまりスラストピストン 室60の圧力が,スラストピストン62の反ロータ側に作用する圧力, つまり室174の圧力よりも高いことであるとし,部品7,5,4が 「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品でなくとも,スラストピス トン室60は室174よりも高圧であるため,上記機能は実現される と主張する(前記第3,1?ア(イ)b)。
しかし,部品7,5,4は,スラストピストン室60と,アンギユ ラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に存在す るから,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベ アリング56が配置された空間との間に圧力差があれば,室174の 圧力如何にかかわらず,部品7,5,4は圧力遮断する仕切り壁に該 当すると認められる。また,被告の主張は,スラストピストン室60 と室174との間に圧力差があれば,貫通穴を有する部品7,5,4 が「圧力遮断」できない構造であっても,当該圧力差によってスラス トピストン62は室174側に押圧されることになる,という趣旨と も解されるが,スラストピストン62を室174側に押圧する力が働 くためには,スラストピストン室60内の圧力が上がる必要があり, 44 そのためには,部品7,5,4が圧力を遮断するもの,すなわち, 「圧 力遮断する仕切り壁」でなければならないと解される。したがって, 被告の上記主張は,採用することができない。
? 相違点3(非加圧流路)について ア 当裁判所は,甲1発明に,甲2ないし5に記載された周知技術を適用し, 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1) により,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧すること なく供給し,相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易 に想到することができたから,本件審決の相違点3に関する判断は誤りで あると判断する。その理由は,以下のとおりである。
イ 逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題 甲2に記載された技術事項は前記1?ウのとおりであり,甲2には, 「バ ランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動 油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時, 圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプによ り吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロー タが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な 応力がかかるという課題がある」こと,すなわち,逆スラスト力(逆スラ スト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されていた。
そして,甲1発明は,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサ へと再循環される液体を,ポンプ140を経由してスラストピストン室6 0に導く経路を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサである が,逆スラスト力が発生しないことを裏付けるような事情はないから,甲 1発明は,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題 を有しているものと認められる。
ウ 非加圧流路の設定に係る周知技術 45 (ア) 甲2に記載された技術事項は前記1?ウのとおりであり,「バラン スピストン32に面するバランスピストン室34に,上記油分離機52 の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成」したものである。
甲3に記載された技術事項は前記1?ウのとおりであり,シリンダ1 「 4のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の 油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,油 冷式スクリュー圧縮機1」である。
甲4に記載された技術事項は前記1?イのとおりであり,圧力降下に 「 よって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧 力の油を,平衡ピストン(バランスピストン)19に面する圧力空間2 1に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機」 である。
甲5に記載された技術事項は前記1?ウのとおりであり,バランスピ 「 ストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油 溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,スクリュ圧縮 機」である。
(イ) 前記(ア)のとおり,甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において, バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収さ れた油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたもの であり,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であったものと 認められる。
容易想到性 甲1発明は,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的 課題を有しており(前記イ),スクリュ圧縮機において,バランスピストン に圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧するこ となく導く配管を設けることは本件特許の出願日前に周知の技術事項で 46 あったから(前記ウ(イ)),甲1発明の上記課題を解決するために,上記の 周知の技術事項を適用して,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加 圧の経路とすることは,当業者が容易に想到することができたものである と認められる。
オ 当事者の主張の検討 (ア) 具体的な構成を前提にその採用の可否を判断することについて 原告は,本件審決が,甲1発明において,相違点3のように液体(オ イル)を加圧することなくスラストピストン室60に導くための構成例 としては,@加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける 手段(手段1)と,A加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに 空所134に供給する手段(手段2)とが考えられるとした上で,これ らの手段はいずれも甲1発明に適用するに当たって阻害要因があると述 べ,進歩性を認めたことについて,どのような構成によって非加圧流路 が形成されるのかということなどは構成要件外の事情にすぎないから, 非加圧流路を形成するための具体的な構成のうち,ある特定の構成例の みに着目し,その特定の構成例を採用することに阻害要因があると判断 した本件審決は誤りであると主張する(前記第3,1?イ(イ)a) 。
しかし,相違点3に係る本件特許発明の構成のように液体(オイル) を加圧することなくスラストピストン室60に導くためには,スクリュ 圧縮機に空所134が存在することを前提とするならば,@加圧ポンプ 140がある構成において,加圧ポンプ140や空所134を経由しな い経路を設ける手段(手段1)と,A加圧ポンプ140を採用せず,液 体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)のいずれかの構成 をとることになると考えられるところであり,本件審決は,考え得る二 つの構成について検討したもので,それ以上に具体的な構成を特定して そのような具体的な構成に限って容易想到性を判断したものではないか 47 ら,このような本件審決の検討方法に誤りはなく,この点に関する原告 の主張は,採用することができない。
(イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)の採用と甲1発明の技術思想について a 空所134への液体の集約 被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として, ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をい ったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個 所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用 したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構」 においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング 30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コ ンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室6 0についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所13 4を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想 に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3, 1?イ(イ)c(a)) 。
甲1には,空所134に関し, 「中間ハウジング30はまた,圧力の かかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有して いる。(9欄35〜37行)「空所134は,コンプレツサベアリン 」 , グおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形 成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70 に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働 く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152および パイプ154を介して空所134から室70に供給される。(10欄 」 6〜13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 48 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必 要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するとい う構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポ ンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空 所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは, 甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているとい う余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラ ストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを, ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが 排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主 張を採用することはできない。
b 外部への漏出防止 被告は,甲1発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れと いう課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポン プ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備え,ハ ウジングのジヨイントを最少とするケースを備えるものであると指摘 した上,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるため には,そもそも,内部における液体分布機構も改良してガス及び液体 の漏れを減少させることが必要又は有益であるところ,甲1発明にお いて,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすべく, 例えば,パイプ138を分岐させ,パイプを増加させ,当該パイプを パイプ172に接続することは,甲1発明の「改良された液体分布機 構」にとって著しく不合理な構成であり,このような構成を採用する ことは,甲1発明の技術思想に反すると主張する(前記第3,1?イ (イ)c(b))。
しかし,スラストピストン室へ圧力の加えられていない液体を供給 49 する非加圧の経路を設けるため,ケース内部において,例えば,ポン プ140に至るパイプ138に分岐を設け,これをスラストピストン 室60に接続するように構成したとしても,これによって,コンプレ ツサ外部へのガス及び液体の漏れが必然的に増大するとは認められな い。そのため,甲1発明が,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏 れという課題の解決のためのものであるとしても,上記のような非加 圧の経路を設けることが,甲1発明の「改良された液体分布機構」に とって著しく不合理な構成であるとは認められないし,そのような構 成を採用することが甲1発明の技術思想に反するということはできな い。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手 段1)を甲1発明に採用することについての阻害事由について a スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング5 6へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不 全 被告は,ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与え るに充分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ,甲1発明 において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものと するならば,ポンプ140により「液体圧」を「充分」に「増加せし め」ることができず,スラストピストン62に「適当な力」を与える ことができないため,スラストピストン62のスラスト荷重への対抗 が不全となり,コンプレツサ10が機能しなくなると主張し,また, スラストピストン室60,部品7,5の貫通穴を経由してアンギユラ コンタクトボールベアリング56に液体を供給し続けることができな くなって,アンギユラコンタクトボールベアリング56は,その温度 が許容温度を超えて上昇して損傷し,コンプレツサ10が機能しなく 50 なると主張する(前記第3,1?イ(イ)d(a))。
しかし,甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において,バランスピ ストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を 加圧することなく導く配管を設けることが記載されており,それは, 本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(前記ウ(イ)) 加 , 圧していない油(液体)によって,バランスピストン(スラストピス トン)に,スラスト力をバランスさせるために必要な力を与えている スクリュ圧縮機は,本件特許の出願日前に周知であったものと認めら れる。また,甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリ ング56への液体供給がどのように行われているかは不明であって, スラストピストン室60から,部品7,5の貫通穴を経由して液体が 供給されていると一義的に解することはできず,仮にそのように液体 が供給されているとしても,スラストピストン室60に供給される液 体を非加圧にすることで,直ちにアンギユラコンタクトボールベアリ ング56への供給不足が生じることを裏付ける証拠はない。これらの ことに照らすと,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧の ものとすることにより,コンプレツサ10が機能しなくなると認める ことはできず,被告の上記主張は採用することができない。
b フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機能不 全 被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける と,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂 回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属く ず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン 室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいて はコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラ 51 ストピストン室60に液体を供給する構成を,ポンプ140・フイル タ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラ ストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ14 6とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体 パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコン プレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等 に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因がある と主張する(前記第3,1?イ(イ)d(b))。
しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ14 6を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中 で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されること になるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構 成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられ ない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもで きるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。ま た,このように構成を変更するとしても,それによってコンプレツサ 外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
c 非加圧の経路を設ける動機付け 被告は,甲1には,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生と いう技術的課題について記載も示唆もなく,甲1発明に,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない旨主張 する(前記第3,1?イ(イ)d(c))。
甲1の10欄24〜26行に「圧力軽減バルブ164は,空所13 4中の液体圧を制限し」と記載されていることから,圧力軽減バルブ 164を設けた目的は,空所134の過剰な昇圧を防止することにあ 52 り,逆スラスト荷重状態を解消することではないと解される。しかし, 前記イのとおり,甲2には, 「バランスピストンに油ポンプで加圧され た潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスク リユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧 力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油 がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され, スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるとい う課題がある」こと,すなわち,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態) が発生するという技術的課題が示されている。そして,上記のような 逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生の機序を踏まえると,当 業者であれば,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課 題は,特殊な構造のスクリュ圧縮機に特有のものではなく,スクリュ 圧縮機一般に生じることを認識することができるものと認められ,甲 1発明のスクリユウコンプレツサ(スクリュ圧縮機)にも生じること を認識することができるものと認められる。このように,甲1発明に ついても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を 認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト 荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるもの と認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が 発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言 及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加 圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したが って,被告の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された 周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許 法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 53 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。
よって,本件審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 上田卓哉
裁判官 中平健