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事件 令和 1年 (ネ) 10054号 立替金等請求控訴事件

控訴人X
被控訴人Y
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/02/13
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における追加請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
別紙「控訴状訂正」と題する書面(令和2年1月5日付け)の「第2 控訴の趣旨」に記載のとおり(控訴人は,当審において,「第2 控訴の趣旨」3ないし6に記載の各請求等を追加した。)。
事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人が,後記本件共有化の合意に基づき,本件特許(特許第5725389号)の出願等に要した費用等のうち12万円の支払を請求した事案である。
原判決は,控訴人の請求を棄却したため,これを不服とした控訴人が本件控訴を提起した。
控訴人は,当審において,被控訴人に対し,本件共有化の合意に基づき,@被控 訴人が本件発明の発明者の地位にあることによって得た利益のうち控訴人の持分割合に応じた額の一部である130万円の支払請求,A本件特許権の一部移転等登録申請書の作成義務の履行請求を追加するとともに,B上記@についての予備的請求として,被控訴人の本件特許権の一部移転等登録申請書の作成義務の不履行による控訴人の逸失利益の一部である130万円の支払請求を追加し,また,被控訴人が発明の名称を「棒状体」とする発明に係る特許(特許第5849380号。以下「別件特許」という。)について得た寄付金等の一部である120万円の支払請求を追加する訴えの追加的変更をした。
2 前提事実 前提事実は,原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
当事者の主張
1 控訴人の主張 (1) 費用の支払請求について ア 本件発明は控訴人と被控訴人が共同でしたものである。被控訴人は本件発明に係る特許を受ける権利を放棄し,控訴人が本件特許の出願をしたが,そもそも,原始的には,控訴人と被控訴人は本件発明について特許を受ける権利共有していたし,人格権である発明者掲載権も控訴人と被控訴人とで有している。
また,控訴人と被控訴人は,特許権発生後,本件特許権を共有にすることを合意したから(以下「本件共有化の合意」という。),被控訴人は,その合意に基づき,本件特許の出願等に要した費用を負担するべきである。
本件特許を共有名義にするための手続は滞っているが,被控訴人は,共有名義であるものとして,費用を負担すべきである。
イ 控訴人は,本件特許の出願手続を行って,被控訴人も共同発明者であるとの証明を確保し,出願等に要する費用として,弁理士への依頼費用(19万8708円),特許出願料(1万6000円),出願審査請求手数料(減額を受け7万円程 度),第1年から第3年までの特許料(7500円),第4年から第6年までの特許料(2万2200円),雑費(郵便料金や理科系書籍の追加購入費用等)等を負担した。
被控訴人の本件発明への貢献度は33%から35%であるから,上記費用のうち3分の1程度を負担すべきである。
ウ よって,控訴人は,被控訴人に対し,控訴人が負担した費用のうち12万円の支払を求める。
(2) 利益の分配請求について(当審における追加請求) 被控訴人は,発明者であることの地位によって,利益を得ているのであるから,その持分に応じた利益を超える額については,本件共有化の合意に基づき,控訴人に分配すべきである。
よって,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が得た利益から,控訴人の持分割合に応じた金額の一部である130万円の支払を求める。
(3) 本件特許権の一部移転等登録申請書作成義務の履行請求について(当審における追加請求) 被控訴人は,本件共有化の合意に基づき,特許庁専用印鑑の提出及び収入印紙代1万5000円の3分の1の持分割合に相当する金額の支払を含む一部移転等登録申請書の作成義務を負う。
よって,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権の一部移転等登録申請書の作成義務の履行を求める。
(4) 本件特許権の一部移転等登録協力義務の不履行による逸失利益の支払請求について(当審における追加請求,予備的請求) 被控訴人が,パリ条約4条規定の優先権主張期間内に上記(3)の義務を履行しなかったことによる控訴人の逸失利益の額は,130万円を下らない。
よって,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が得た利益130万円の支払を求める請求(上記(2))が認められない場合には,予備的に,逸失利益130万円の支 払を求める。
(5) 別件特許について得た寄付金等の支払請求について(当審における追加請求) 控訴人は,別件特許に係る発明の単独発明者であり,別件特許を単独で保有しているところ,被控訴人は,別件特許について寄付金等を得ている。
よって,控訴人は,被控訴人に対し,その一部である120万円の支払を求める。
2 被控訴人は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の原審における請求は理由がないと判断し,また,当審における追加請求は,いずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 費用の支払請求について (1) 控訴人は,本件発明が被控訴人との共同発明によるものであることを主張しているが,原審及び当審における控訴人(原告)本人尋問の結果によっても,被控訴人は本件発明に係る特許を受ける権利の持分を放棄し,又は控訴人に譲渡したというのであり,その結果,本件発明に係る特許を受ける権利は控訴人のみに帰属し,本件特許の出願も控訴人が1人で行い,本件特許の特許権者も控訴人1人である。
本件特許の設定登録後に特許を共有にするとの控訴人の主張は,法的には特許権の一部譲渡(移転)の意味と解するほかないが,その旨の登録がない以上,特許権の一部移転は効力を生じていない(特許法98条1項1号)。
控訴人が自ら負担したと主張している費用は,本件特許の出願及びその設定登録並びに本件特許の維持のために必要なものであるところ,これらを負担すべき者は,本件特許の出願人でありその特許権者である控訴人だけである。被控訴人が本件発明の共同発明者であるということは,控訴人が,被控訴人に対して,費用の一部を請求する根拠となるものではない。そして,原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によっても,控訴人と被控訴人とは,上記費用を被控訴人が負担すべきこと や,被控訴人の負担割合が3分の1であることについて話をしたことはないというのであるから,控訴人と被控訴人との間で,被控訴人が費用の3分の1を負担する旨の合意が行われたとも認められない。
(2) 控訴人は,被控訴人との間で,本件特許の設定登録後に,本件特許権を控訴人と被控訴人との共有にすることを合意(本件共有化の合意)したと主張する。
しかし,仮に本件共有化の合意があったとしても,かかる合意は,控訴人が,被控訴人に対して,上記本件特許の出願等に要する費用の一部を請求する根拠となるものではない。
また,被控訴人の作成に係るとされる委任状の写し(甲6)には,「特願2014-62633及び特願2014-192050に係る特許出願につき,XとYで権利共有化及び国際出願[PCT経由のパリ優先権主張]についてXに一任します」との記載があり,被控訴人の氏名の記載と押印があるものの,権利共有化及び国際出願について,被控訴人が控訴人に一任するという,抽象的な内容にとどまり,共有の持分割合についての記載もないから,上記委任状が,被控訴人と控訴人との間で,本件特許権の共有化について合意したことを示すものとはいえない。そして,当審における控訴人本人尋問の結果によっても,控訴人と被控訴人とは,本件特許権の共有化について具体的な話をしたことはないというのであり,他に,控訴人と被控訴人との間で,本件共有化の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はないから,本件共有化の合意が成立した事実を認めることはできない。
(3) 控訴人が費用を支出したことは,被控訴人のための事務の管理に該当するものでもなく,また,これにより,被控訴人が法律上の原因なく利益を受けたともいえない。
(4) よって,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人が負担した費用のうち12万円の支払を求める請求は,理由がない。
2 利益の分配請求について 被控訴人が,本件発明の発明者であることの地位によって利益を得ていることに ついては,控訴人も,被控訴人が利益を得ている事実を確認できていない旨自認しており,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また,本件共有化の合意が認められないことは,前記1(2)のとおりである。
よって,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が得た利益のうち130万円の支払を求める請求は,理由がない。
3 本件特許権の一部移転等登録申請書作成義務の履行及びその不履行による逸失利益の請求について前記1(2)のとおり,控訴人と被控訴人との間で,本件共有化の合意が成立した事実は認められないから,被控訴人は,控訴人に対し本件特許権の一部移転等登録申請書の作成義務を負うものではない。
よって,控訴人が,被控訴人に対し,本件特許権の一部移転等登録申請書作成義務の履行を求める請求及びその不履行による逸失利益の支払を求める請求は,いずれも理由がない。
4 別件特許について得た寄付金等の支払請求について被控訴人が,別件特許について寄付金等を得ていることについては,控訴人も,かかる事実を確認できていない旨を自認しており,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
よって,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が得た寄付金等のうち120万円の支払を求める請求は,理由がない。
5 結論以上によれば,控訴人の原審における請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,また,控訴人の当審における追加請求もいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。