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事件 平成 31年 (行ケ) 10042号 審決取消請求事件

原告株式会社フジ医療器
同訴訟代理人弁護士 辻本希世士 辻本良知 松田さとみ 重冨貴光 古庄俊哉 石津真二 手代木啓 富田詩織 杉野文香
同訴訟代理人弁理士 丸山英之
被告 ファミリーイナダ株式会社
同訴訟代理人弁護士 三山峻司 矢倉雄太 塩田陽一朗
同訴訟代理人弁理士 北村修一郎 森俊也 本田恵 主文 1 特許庁が無効2018−800041号事件につい て平成31年3月5日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文第1項と同旨 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,平成24年3月19日,発明の名称を「マッサージ機」とする特許出 願(平成14年4月19日に出願した特願2002−118191の一部を平成1 9年6月21日に新たな出願とした特願2007−163906の一部を平成20 年3月12日に新たな出願とした特願2008−61992の一部を平成21年1 2月4日に新たな出願とした特願2009−275966の分割出願)をし,平成 24年6月8日,設定の登録を受けた(特許第5009445号。請求項の数6。甲 1,2,6。以下,この特許を「本件特許」という。。 ) ? 原告は,平成30年4月18日,本件特許について特許無効審判請求をし, 無効2018−800041号事件として係属した(甲35)。 ? 特許庁は,平成31年3月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別 紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月14日,その 謄本が原告に送達された。 ? 原告は,同月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 ? 本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし6の記載は,次のとおりである (甲1)。なお,「/」は原文の改行部分を示す(以下同じ。)。以下,各請求項 に係る発明を「本件発明1」などといい,併せて「本件各発明」ともいう。また, その明細書(甲1)を,図面を含めて「本件明細書」という。 【請求項1】 被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える 椅子型のマッサージ機において,/前記座部の両側に夫々配設され,被施療者の腕 部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,/前記保持部の内面に設けられる膨 張及び収縮可能な空気袋と,を有し,/前記保持部は,その幅方向に切断して見た 断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に,その内面に互 いに対向する部分を有し,/前記空気袋は,前記内面の互いに対向する部分のうち 少なくとも一方の部分に設けられ,/前記一対の保持部は,各々の前記開口が横を 向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されていることを特徴とする マッサージ機。 【請求項2】 前記一対の保持部は,各々の前記開口が真横を向いていることを特徴とする請求 項1に記載のマッサージ機。 【請求項3】 前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であることを特徴とする 請求項1又は2に記載のマッサージ機。 【請求項4】 前記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成さ れていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマッサージ機。 【請求項5】 前記背凭れ部は,被施療者の胴体を支持するクッション部と,前記クッション部 より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部分を有するカバー部と, を有し,/前記カバー部には,膨張及び収縮することにより被施療者の肩に刺激を 与えることができる空気袋が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいず れかに記載のマッサージ機。 【請求項6】 左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と,右腕用の前記保持部に設けられた空 気袋と,は,夫々独立に駆動されるよう構成されていることを特徴とする請求項1 〜5のいずれかに記載のマッサージ機。 ? これを構成要件に分説すると,以下のとおりである。 【請求項1】 A 被施療者が着座可能な座部と, B 被施療者の上半身を支持する背凭れ部と C を備える椅子型のマッサージ機において, D 前記座部の両側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する 一対の保持部と, E 前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し, F 前記保持部は,その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入 する開口が形成されていると共に,その内面に互いに対向する部分を有し, G 前記空気袋は,前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分 に設けられ, H 前記一対の保持部は,各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互い に対向するように配設されている I ことを特徴とするマッサージ機。【請求項2】 J 前記一対の保持部は,各々の前記開口が真横を向いていること K を特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。 【請求項3】 L 前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること M を特徴とする請求項1又は2に記載のマッサージ機。 【請求項4】 N 前記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構 成されていること O を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマッサージ機。 【請求項5】 P 前記背凭れ部は,被施療者の胴体を支持するクッション部と, Q 前記クッション部より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部 分を有するカバー部と,を有し, R 前記カバー部には,膨張及び収縮することにより被施療者の肩に刺激を与え ることができる空気袋が設けられている S ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のマッサージ機。 【請求項6】 T 左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と,右腕用の前記保持部に設けられ た空気袋と,は,夫々独立に駆動されるよう構成されている U ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマッサージ機。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@平 成24年3月21日に明細書及び特許請求の範囲についてした補正(以下「本件補 正」という。)は,いずれも出願当初の明細書及び図面(甲4,5。以下,図面も含 めて「当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてしたもので,特許法 17条の2第3項所定の補正要件に違反しない,A特許請求の範囲の記載は,本件 明細書の発明の詳細な説明に記載したもので,同法36条6項1号(以下「サポー ト要件」という。 に違反しない, ) B本件各発明はいずれも明確であり,同項2号(以 下「明確性要件」という。)に違反しない,C本件各発明は,下記引用例に記載され た発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明を することができたものとはいえず,同法29条2項に違反しない,D本件発明に係 る特許出願は,同法44条に規定する分割出願の要件を満たす,というものである。 引用例:特開2001−204776公報(甲9) ? 本件審決は,引用発明,本件発明1との一致点及び相違点を,次のとおり認 定した。 ア 引用発明 使用者が着座可能な座部と,使用者の上半身が凭れる背凭れ部とを備える椅子型 のマッサージ機において,/前記座部の両側にそれぞれ設けられ,使用者の腕を部 分的に覆って保持する一対の腕保持部と,/前記腕保持部の内面に配置される膨張 及び収縮可能な空気袋と,を有し,/前記腕保持部は,その幅方向に切断して見た 断面において使用者の腕を挿入する開口が形成されており,その内面に互いに対向 する部分を有し,/前記空気袋は,前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに配 置され,/前記一対の腕保持部は,各々の前記開口が上を向くように配設されてい るマッサージ機。 イ 本件発明1との一致点 被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える 椅子型のマッサージ機において,/前記座部の両側に夫々配設され,被施療者の腕 部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,/前記保持部の内面に設けられる膨 張及び収縮可能な空気袋と,を有し,/前記保持部は,その幅方向に切断して見た 断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に,その内面に互 いに対向する部分を有し,/前記空気袋は,前記内面の互いに対向する部分に設け られているマッサージ機。 ウ 相違点1 空気袋について,本件発明1においては,前記内面の互いに対向する部分のうち 少なくとも一方の部分に設けられている(構成要件G)のに対して,引用発明にお いては,前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに設けられている点。 (なお,本件審決は,本件発明1の「前記内面の互いに対向する部分のうち少な くとも一方の部分に設けられている」という構成が前記内面の互いに対向する部分 のそれぞれに設けられている構成を含むことは明らかであるから,相違点1につき, 実質的には相違点でないと認定し,この点は当事者間においても争いがない。) エ 相違点2 一対の保持部について,本件発明1においては,各々の前記開口が横を向き,且 つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている(構成要件H)のに対して, 引用発明においては,各々の開口が上を向くように配置されている点。 オ 相違点3(本件発明2に関する) 本件発明2においては,前記一対の保持部は,各々の前記開口が真横を向いてい る(構成要件J)のに対して,引用発明においては,そのような構成を有するか明ら かでない点。 カ 相違点4(本件発明3に関する) 本件発明3においては,前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能 である(構成要件L)のに対して,引用発明においては,そのような構成を有するか 明らかでない点。 キ 相違点5(本件発明4に関する) 本件発明4においては,前記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上るように構成されている(構成要件N)のに対して,引用発明においては, そのような構成を有するか明らかでない点。 ク 相違点6(本件発明5に関する)本件発明5においては,前記背凭れ部は,被施療者の胴体を支持するクッション 部と,前記クッション部より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部 分を有するカバー部と,を有し,前記カバー部には,膨張及び収縮することにより 被施療者の肩に刺激を与えることができる空気袋が設けられている(構成要件Pな いし構成要件R)のに対して,引用発明においては,そのような構成を有するか明 らかでない点。 ケ 相違点7(本件発明6に関する) 本件発明6においては,左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と,右腕用の前 記保持部に設けられた空気袋と,は,夫々独立に駆動されるよう構成されている(構 成要件T)のに対して,引用発明においては,そのような構成を有するか明らかで ない点。 4 取消事由 ? 手続違背(取消事由1) ? 補正要件(新規事項の追加)に係る判断の誤り(取消事由2) ? サポート要件に係る判断の誤り(取消事由3) ? 明確性要件に係る判断の誤り(取消事由4) ? 引用発明に基づく進歩性の判断の誤り(取消事由5) ? 分割要件に係る判断の誤り(取消事由6) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(手続違背)について 〔原告の主張〕
被告は,原告と被告との間で係属している特許権侵害訴訟において,構成要件F のうち「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との特 定事項に関し,掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も含むと述べたが,被告 のこの陳述によれば,新たな技術事項を追加することになる。 そこで,原告は,本件の審判手続において,補正要件,サポート要件,明確性要件 及び分割要件の違反という各無効理由が存在することを主張し,被告も答弁書で反 論したが,当該各無効理由について,本件審決の判断はされず,その判断は他の構 成要件の判断中に包含されるものでもない。 したがって,本件審決には,審理不尽や判断遺脱などの手続上の瑕疵があり,取 り消されるべきである。 〔被告の主張〕 ア 補正要件及び分割要件に係る原告の主張について 後記2で述べるとおり,構成要件Fにおける「保持部」が新たな技術的事項を追 加するものでないから,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。 イ サポート要件に係る原告の主張について 後記3で述べるとおり,構成要件Fに保持部のうち手首及び掌部の形状が内壁を 有しているとの構成が含まれるとすることは当業者の理解を超えるものでないから,
原告の主張は,理由がない。 ウ 明確性要件に係る原告の主張について 後記4で述べるとおり,構成要件Fには特許請求の範囲の記載として何ら不明確 な点がないから,原告の主張は,理由がない。 エ 小括 以上のとおりであるから,構成要件Fについて,仮に審理不尽や判断遺脱などの 瑕疵があったとしても,そのことが審決の結論に影響を及ぼすことはなく,本件審 決は取り消されるべきではない。 2 取消事由2(補正要件(新規事項の追加)に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件各発明の構成要件には,本件補正により,次のとおり,当初明細書に記載さ れていない新たな技術的事項が導入されている。 ? 構成要件G及び【0010】について 本件発明1の構成要件Gは,本件補正により,「前記空気袋は,前記内面の互い に対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」と特定された。 その補正の根拠は,当初明細書の【0042】,【0072】,【図1】,【図 5】,【図7】,【図8】などの記載に基づくとされている(甲3)が,これらに は,第1の実施形態における略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部1 1aの内面の略全体に空気袋11bが設けられている構成と,第3の実施形態にお ける外殻部26aの内面の略全面に亘って空気袋26bが設けられている構成が開 示されているにとどまる。これに対し,構成要件G及び本件明細書【0010】は 「少なくとも一方の部分」と特定することにより,空気袋が,保持部の内面の互い に対向する部分の一方にのみ設けられている構成まで包含する。 仮に,被施療者の腕部が,空気袋と保持部の内面に接することで,空気袋と保持 部によって施療されると解釈することが可能だとしても,保持部の内面に接する被 施療者の腕部は単にその内面に押し当てられるだけで,腕部に位置するツボを効果 的に施療することができず,被施療者の腕部を保持部の内面に押し当てる施療は, 当初明細書に記載も示唆もなく,想定もされていない技術的事項である。 ? 構成要件H及び【0010】について 本件発明1の構成要件Hは,本件補正により,「前記一対の保持部は,各々の前 記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」と 特定された。構成要件Hは,開口が横を向いてさえいれば,例えば所定角度を傾斜 させない五角形や六角形等の多角形状や,所定角度傾斜させない略チャネル状など を広く包含する発明特定事項となっている。 その補正の根拠は,当初明細書の【0042】,【0072】,【図1】,【図 5】,【図7】,【図8】などの記載に基づくとされているが,そのいずれにも構 成要件Hを明記した箇所は存在しない。また,事情説明書(甲7)における本件発 明1の作用効果の説明は,当初明細書の記載に基づかないから,同発明の技術的意 義を検討する上で考慮できない。さらに,保持部の形状として,【図13】(a) 及び(c)の2つの形状についての技術的な意味も当初明細書には認められない。 ? 構成要件J及び【0013】について 本件発明2の構成要件Jは,本件補正により,「前記一対の保持部は,各々の前 記開口が真横を向いていること」と特定された。 その補正の根拠は,当初明細書のうち,【図13】の記載に基づくとされている が,【図13】(a)には,真横を向いて開口していることは記載されていない。 また, 【図13】 @ (a)の断面が略C字状である場合において,保持部の形状が, 開口の向きが真横方向であるとする具体的な根拠が明らかでなく,A当初明細書の 【0076】には保持部の回動範囲が記載されておらず,その開口の向きが真横を 向く態様となるか否かが明らかではなく,B開口の向きが横であることから更に真 横になることによって解決される課題等も,当初明細書には記載も示唆もない。 ? 構成要件L及び【0014】について 本件発明3の構成要件Lは,本件補正により,「前記保持部は,被施療者の前腕 と手首又は掌を保持可能であること」と特定された。 その補正の根拠は,当初明細書の【0044】の記載に基づくとされているが, 当該箇所には構成要件Lを明記した箇所は存在せず,「第2保持部分12の内面で あって,被施療者の手首又は掌に相当する部分には,振動装置15が設けられてい る。この振動装置が振動することにより,被施療者の手首又は掌に刺激を与えるこ とが可能となっている」と記載されているのに対し,当初明細書には,手首又は掌 を保持することによって解決される技術的課題についても何ら言及がない。 また,振動装置によって手首や掌に刺激が与えられ得ることは記載されているが, 手首又は掌の保持については何ら言及がない。 ? 構成要件N及び【0015】について 本件発明4の構成要件Nは,本件補正により,「前記空気袋は,前記開口側の部 分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」と特定された。 その補正の根拠は,当初明細書の【図5】,【図8】の記載に基づくとされてい るが,【図5】に係る【0042】,【図8】に係る【0066】のいずれにも, 開口側と奥側との位置関係を説明する記載がないことからすれば,上記各図は,単 に空気袋の設けられた保持部を図示するものであり,空気袋の具体的な配置まで特 定するものではない。仮に,上記各図に,空気袋が開口側の端部で最も高くなるよ う盛り上がる形状が示されているとしても,構成要件Nは,開口側の端部において 盛り上がる形状以外にも,開口側の端部だけでなく奥側の部分からその端部に至る 途中の部分が奥側より相対的に盛り上がっている形状など種々の構成をも含み得る 表現になっている。 そうである以上,当業者において,空気袋の位置関係を認識することはない。 〔被告の主張〕 ? 構成要件G及び【0010】について 特許法17条の2第3項にいう「当初明細書に記載した事項」とは,当業者によ り,当初明細書の全ての記載を総合することによって導かれる技術的事項であり, 補正により付加された文言と出願当初の明細書の記載とを形式的に対比するもので はない。本件発明は,被施療者の腕部の施療ができないとの課題につき,空気袋に より可能とした発明である(【0003】 【0028】。空気袋は,内面の互いに対向 ) する部分を含め外殻部の内面の全体に設けられているが,その空気袋が,内面の互 いに対向する部分のうち,両方の部分に設けられている場合でも,一方の部分にの み設けられている場合でも,被施療者の腕部を施療できることは明らかである。 構成要件G及び【0010】は,当業者が当初明細書の記載を総合することによ って当然に理解される事項であり,本件補正によって付加された文言が新たな技術 的事項を導入したとはいえない。 ? 構成要件H及び【0010】について 当初明細書の【図1】【図5】【図7】及び【図8】には,保持部は,略C形状の ,, 断面形状を有し各々の開口が横を向いている点が,当初明細書の【図1】及び【図 7】には,保持部は開口同士が互いに対向するよう配設されている点が,それぞれ 開示されている。このことからすれば,その位置関係は,当初明細書の【0042】, 【0072】【図1】【図5】【図7】【図8】等から自明である。 ,,,, 構成要件H及び【0010】は,当業者が当初明細書の記載を総合することによ って当然に理解される事項であり,本件補正によって付加された文言が新たな技術 的事項を導入したとはいえない。 ? 構成要件J及び【0013】について 【図13】(a)の開口が真横を向いていることはその記載から明らかである。
原告は,矢印の方向に誘導された誤認であるとも主張するが,その根拠は明らか でない。保持部が回動すれば開口が真横を向く場合があることも,当業者は理解す ることができ,構成要件Jは,新たな技術的事項を導入しない。 構成要件J及び【0013】は,当初明細書に明示的に記載されている事項であ り,本件補正によって付加された文言が新たな技術的事項を導入したとはいえない。 ? 構成要件L及び【0014】について 当初明細書の【0037】【0044】【0046】の記載によれば,振動装置1 ,, 5は,たとえ被施療者の手首又は掌に相当する部分に設けられていても,第2保持 部分12の内面に設けられているといえるので,第2保持部分12が前腕から手首 又は掌に至るまで延在し,前腕と手首又は掌を保持する実施態様が明示的に記載さ れていることは明らかである。また,当初明細書の【図2】には,第2保持部分12 の内面の一部に振動装置15が備えられた実施形態が開示されており,これより「保 持部が直接的に手首又は掌を保持する態様」も開示されている。 構成要件L及び【0014】は,当初明細書に明示的に記載されている事項であ り,本件補正によって付加された文言が新たな技術的事項を導入したとはいえない。 ? 構成要件N及び【0015】について
原告の主張が, 「保持部の長手方向における空気袋の位置が不明」であるとの趣旨 であれば, 【図5】に関しては【図2】を参照することにより,保持部の長手方向に おける空気袋の位置を理解することができ,空気袋の「開口側の部分」と「奥側の部 分」が空気袋のどの部分を指すのかが不明であるとの趣旨だとしても, 【図5】【図 ,8】より,保持部分における「開口側」とは図の左側で「奥側」とは右側であること が当然に理解される。いずれにせよ,構成要件Nは当初明細書の記載から自明であ り,技術的課題が明示的に記載されていないことは,新規事項の追加があることの 理由にならない。 構成要件N及び【0015】は,当初明細書に明示的に記載されている事項であ り,本件補正によって付加された文言が新たな技術的事項を導入したとはいえない。 ? なお,構成要件Fにおける「保持部」は,当初明細書においても腕を対象とし (甲4【0018】,構成要件Fに,掌や手首部分に内壁が存在するものも含んで ) いることは明らかであるから,新たな技術的事項を追加するものではない。 3 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 前記2のとおり,本件発明の請求項には,補正要件違反となる新規事項が追加さ れているため,当初明細書の記載よりクレームの記載が広くなっているから,本件 発明の各請求項に加えられた新規事項はサポートされていない。 ? 構成要件Gについては,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方 の部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構成であっても解決で きる課題につき何らの説明もない。 ? 構成要件Hについては,保持部の形状につき,本件明細書の【図13】(a) の, (c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細書には,他の形状を示 す同図(b)(d)(e)との関係で解決される課題につき何らの説明もない。 ,, ? 構成要件Jは,請求項1の構成要件Hで特定される「開口方向」につき,本件 明細書の【図13】 (a)に基づき「真横」と特定するものであるところ,本件明細 書には,腕の挿入方向を「真横」とすることによって解決される課題の説明はない。 ? 構成要件Lについては,手首又は掌の保持や,手首又は掌を保持することに よって解決される技術的課題の説明はない。 ? 構成要件Nについて,本件明細書には,空気袋につき開口側を奥側より立ち上るように構成することによって解決される技術的課題の説明はない。 〔被告の主張〕 ? 本件補正について要件違反となるような新規事項の追加のないことは,前記 のとおりであり,原告の主張は,前提を欠き理由がない。 ? なお,本件発明1は,保持部に設けられた開口を介して腕の挿入及び引き出 しを可能としているところ,本件発明1の保持部の対象は腕であり,掌及び手首部 を対象とする形状が問題となっていないことは明らかである。 本件明細書の【0038】には, 「被施療者の上腕及び前腕を第1保持部分11及 び第2保持部分12へ夫々の開口部から挿入することが可能である。 と記載されて 」 おり,当業者は,保持部の開口が前腕の挿入及び引き出しをするために設けられて いることを容易に理解することができる。本件発明1は,手首又は掌部をマッサー ジの対象とする構成に関しては何ら限定されておらず,腕のマッサージ以外の箇所 を理由としてサポート要件違反となることはない。腕をマッサージする保持部に腕 より先の部分である手首又は掌部分を対象とするものを付加する形状として覆う形 状を選択することは,当業者が十分に選択することができる。 したがって,構成要件Fに,保持部のうち手首及び掌部の形状が内壁を有してい るとの構成が含まれるとすることが,当業者の理解を超えることはない。 4 取消事由4(明確性要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件各発明の構成要件は,次のとおり,明確でない。 ? 構成要件Gのうち「前記内面の互いに対向する部分」は,左右どちらか一方 の保持部における内面の一部分と,左右一対の保持部において対向する左右それぞ れの保持部の内面同士の部分の,いずれを特定しているのか,明らかではない。 ? 構成要件Lは,「保持可能」という作用効果が記載されているだけで,それ以 上の要素は特定されておらず,本件明細書の【0044】以降にも言及がない。 〔被告の主張〕 ? 構成要件Gにおける「前記内面」が,構成要件E及びFにおける「内面」を指 していることは,明らかである。構成要件Eより, 「内面」は「保持部」の内面であ り,構成要件Dより,保持部は座部の両側に夫々配設された一対である。さらに,構 成要件Fに「前記保持部は,その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕 を挿入する開口が形成されていると共に,その内面に互いに対向する部分を有し」 とあることから, 「互いに対向する部分」は,座部の両側に配設された一対の保持部 のぞれぞれの内面にあることは明らかであり,何ら不明確な点はない。 ? 当初明細書の【0044】の記載に加え,「保持」とは,被施療者が保持部に 腕を挿入しておくことができればよい,との意味であることからすれば, 【図2】か ら第2保持部分12に手首又は掌を挿入しておくことができることは自明である。 ? なお,構成要件Fに特許請求の範囲の記載として何ら不明確な点はない。 本件発明1は,腕を対象とした保持部の構成を示しており,被施療者の腕の挿入 及び引き出しを容易にするように開口が横を向いているというものであり,このこ とは明細書の記載から明らかである。腕の挿入及び引き出しを容易にする開口が横 向きに形成されていればよいことは明確で,本件明細書の【0038】からも容易 に理解されるから,構成要件Fに,第三者が不測の不利益を受けるほど不明確な点 は存在しない。 5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性の判断の誤り)について 〔原告の主張〕 ? 本件発明1について ア 本件発明1と引用発明との相違点1が実質的な相違点でないことは,当事者 間において争いがない。 イ 相違点2について 本件発明1と引用発明との相違点2に係る構成は,引用発明における腕保持部の 開口の向きを「上向き」から「横向き」に変更したものにすぎない。にもかかわら ず,本件審決は,この変更によって特段の有利な効果を奏せず,またこの変更を阻 害する事情もないことを看過した上で,かかる変更は,@設計事項には当たらず, A周知技術(甲10〜13)を適用して容易に想到し得るものではなく,また,B甲 13の技術事項を適用して容易に想到し得るものでもない,として,本件発明1の 進歩性を認めたが,その認定・判断には誤りがある。 肘掛けが座面の左右両側部に設けられているという構造上,椅子型マッサージ機 の肘掛けに腕を移動させるに当たっては,腕を上方から移動させる場合だけでなく, 斜め上方や側方(横)から移動させることも自然な動作である。上向きに開口が設 けられた保持部を備える引用発明の椅子型マッサージ機を見た者が,腕置きに向け て腕を移動する動作に合わせて開口の向きを横向きに変更しようと試みることは, 当業者が適宜選択する単なる設計事項にすぎず,開口の向きを横向きとすることに より生じる効果も,引用発明に比べて特別有利なものでもない。 本件明細書には,椅子式マッサージ機の腕保持部が「上向き開口」である場合の 課題等について一切記載されておらず,本件発明1は,引用発明の「上向き開口」に 関する技術的課題を見出して解決したものではなく,本件発明1の効果は,引用発 明と同様「腕部を施療することが可能」ということでしかない。 ? 本件発明2について 相違点3に係る本件発明2の構成は,当業者が容易に想到することができ,また, 本件発明1に対する審決に誤りがあることからも,本件発明2は進歩性がない。 ? 本件発明3ないし本件発明6について 本件発明1及び本件発明2はいずれも進歩性がないから,本件発明3ないし本件 発明6も進歩性がない。 〔被告の主張〕 ? 本件発明1について 甲10ないし13に開示された発明は,本件発明1とは技術分野において異なり, 周知技術とはいえず,本件発明1は,引用発明に甲10ないし13の周知技術を適 用することにより,当業者が容易に想到することができるものとはいえない。また, 相違点2にかかる構成は,引用発明に基づき容易に想到することができない。 ? 本件発明2ないし6について 構成要件Jを備える本件発明2は,本件発明1の構成要件Hを含む構成要件Aな いしIを備える発明であるから,上記?と同様に,引用発明に基づき容易に想到す ることができず,同様に,本件発明3ないし6も引用発明に基づき容易に想到する ことができない。 6 取消事由6(分割要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件発明の請求項には,補正要件違反となるような新規事項が追加されており, 本件特許は違法な分割出願に基づいて成立したものであるから,出願日の遡及の効 果を受けられない結果,原出願の公開特許公報(甲29)に対して新規性ないし進 歩性を具備していない。 〔被告の主張〕 本件において新規事項追加の禁止に触れる補正の要件違反はないから,原告の主 張はその前提を欠き理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明について ? 本件明細書の記載事項 本件明細書(甲1)には,次の各記載がある(図は別紙1記載のとおり)。 ア 技術分野 【0001】本発明は,被施療者の身体を施療するマッサージ機に関する。 イ 背景技術 【0002】 【図15】は,広く普及している椅子型のマッサージ機の構成の一例 を示す斜視図である。 【図15】に示すように,椅子型のマッサージ機101は,座 部102と,背凭れ部103とから主として構成されている。座部102の両側方 には,肘掛け部104が設けられている。また,背凭れ部103の内部には,図示し ないマッサージ機構が設けられている。被施療者は,座部102に着座し,肘掛け 部104を腕置きとして用いて,マッサージ機101を使用する。また,背凭れ部 103の下端部は,座部102の後部で回動自在に枢支されており,背凭れ部10 3をリクライニングさせることができるようになっている。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0003】上述した如き従来のマッサージ機にあっては,肘掛け部104に例 えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を 施療することができないという問題があった。 【0007】本発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであり,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを目的とする。 エ 課題を解決するための手段 【0010】本発明に係るマッサージ機は,被施療者が着座可能な座部と,被施 療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,前記 座部の両側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持 部と,前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記 保持部は,その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が 形成されていると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前 記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の 保持部は,各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように 配設されていることを特徴とする。 【0013】また,上記発明においては,前記一対の保持部は,各々の前記開口が 真横を向いていることが望ましい。 【0014】また,前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であ ることが望ましい。 【0015】更に,前記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立 ち上るように構成されていることが望ましい。 【0016】また,前記背凭れ部は,被施療者の胴体を支持するクッション部と, 前記クッション部より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部分を有 するカバー部と,を有し,前記カバー部には,膨張及び収縮することにより被施療 者の肩に刺激を与えることができる空気袋が設けられていることが望ましい。 【0018】また,左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と,右腕用の前記保 持部に設けられた空気袋と,は,夫々独立に駆動されるよう構成されていることが 望ましい。 オ 発明の効果 【0028】本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって被施療者の腕 部を施療することが可能となる。 カ 発明を実施するための形態 (ア) 実施の形態1 a マッサージ機の構成 【0032】 【図1】に示す如く,本実施の形態1に係るマッサージ機1は,座部 5,背凭れ部6,及びフットレスト7から主として構成されている。座部5は,水平 配置された棒状の脚部5aをその下部両側に夫々有する基台5bの上部に,クッシ ョン部5cが配されて構成されている。 【0033】座部5の上部前側には,被施療者の足首及び脹脛をマッサージする ためのフットレスト7の上端部が枢着されている。これにより,フットレスト7は, その上端部を中心にして前後に回動可能とされている。 【0034】更に座部5の後部には,背凭れ部6が設けられている。背凭れ部6 は,被施療者の上半身を支持すべく,一般的な体格の成人がマッサージ機1に着座 した際に,該成人の身体の一部がその外部にはみ出ない程度の大きさとされており, 前面視略長方形をなしている。背凭れ部6の下端部は,座部5の後部に横方向の枢 軸によって枢支されており,この枢軸を中心に背凭れ部6が回動することにより, 前後にリクライニングが可能とされている。 【0035】背凭れ部6の内部には,マッサージ機構8が設けられている。 【0036】また,座部5の両側方には,略前後方向へ延びたガイドレール9が 設けられている。このガイドレール9には,夫々被施療者の腕部を保持するための 保持部10が係合している。 【0037】 【図2】は,保持部10の構成を示す斜視図である。 【図2】に示すよ うに,保持部10は,被施療者の上腕を保持するための第1保持部分11と,被施 療者の前腕を保持するための第2保持部分12とから主として構成されている。第 1保持部分11は,断面視において略C字状の略半円筒形状をなしており,その一 端部が背凭れ部6のガイドレール9より上方の箇所に取り付けられている。 【0038】第1保持部分11の開口部(長手方向へ延びた欠落部分)は,一般的 な体格の成人の上腕の太さよりも若干大きい幅とされており,第2保持部分12の 開口部は,一般的な体格の成人の前腕の太さよりも若干大きい幅とされている。従 って,施療者の上腕及び前腕を第1保持部分11及び第2保持部分12へ夫々の開 口部から挿入することが可能である。 【0042】 【図5】は,第1保持部分11を幅方向へ切断したときの断面図であ る。 【図5】に示すように,第1保持部分11は,比較的硬度が高い材料からなり, 略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部11aを備えている。この外殻 部11aの内面の略全体には,空気袋11bが設けられている。また,この空気袋 11bの表面には,【図2】で示すような,複数の空気袋11cが設けられている。 かかる空気袋11b,11cは,夫々ポンプ,電磁弁等からなる,座部5又は背凭れ 部6に設けられた給排気装置(‥)にエアホース(‥)によって接続されており,給 排気装置の動作によって膨張・収縮することが可能となっている。また,空気袋1 1bと空気袋11cとは夫々独立に膨張・収縮するように構成されている。このよ うな構成により,空気袋11cが膨張・収縮することによって,被施療者の上腕部 に圧迫刺激を与えたり,それを解放することができ,空気袋11bが膨張・収縮す ることによって,空気袋11cによる刺激の強さを調節することができる。 【0043】一方,第2保持部分12は,その下部から係合部12aが下方へ突 出している(【図1】参照)。そして,この係合部12aは,ガイドレール9に係合し ている。これにより,第2保持部分12は,ガイドレール9に沿って略前後方向へ 移動することが可能となっている。 【0044】また,第2保持部分12の内面であって,被施療者の手首又は掌に 相当する部分には,振動装置15が設けられている。この振動装置が振動すること により,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっている。なお,第 2保持部分12のその他の構成は,第1保持部分の構成と略同様である。 【0045】このような第1保持部分11と第2保持部分12とは,略横方向の 枢軸によって枢着されている。これによって,保持部10は,この部分で屈曲する ことが可能となっている。 b マッサージ機の動作 【0046】被施療者は,座部5に着座し,背凭れ部6に上体を凭れかけた状態 で,上腕部を第1保持部分11に,前腕部を第2保持部分12に夫々挿入する。背 凭れ部6が後方へ傾倒されたとき,第1保持部分11は,背凭れ部6とともに後方 へ移動する。背凭れ部6の被施療者の肩に当接する位置(以下,肩位置という)は, 背凭れ部6の傾倒前後において異なることとなる。即ち,背凭れ部6の傾倒前にお ける肩位置よりも,傾倒後における肩位置の方が,背凭れ部6の下側となる。この とき,第1保持部分11は,このような肩位置の変化に合わせて,ガイドレール1 4に沿って背凭れ部6の長手方向へ移動する。 【0047】また,第1保持部分11が後方へ移動するため,これに引っ張られ て第2保持部分12がガイドレール9に沿って略後方へ移動する。第1保持部分1 1の背凭れ部6との連結箇所は,背凭れ部6の傾倒とともに後方へ移動しつつ下方 へ移動することとなる一方,第1保持部分11の第2保持部分12との連結箇所は, 略後方へ移動するのみであり,このため第1保持部分11は,背凭れ部6の傾倒に 伴って,略後方へ移動しながら略後方へ傾倒することとなる。これに対して,第2 保持部分12は,ガイドレール9に沿って略後方へ移動するのみであるため,その 傾倒角度は殆ど変化しない。よって,第1保持部分11と第2保持部分12とがな す角度は,背凭れ部6の傾倒に伴って変化することとなる。また,第1保持部分1 1と第2保持部分12との連結箇所は,被施療者の肘位置に相当するため,被施療 者は,保持部10の屈曲角度の変化に合わせて,肘の屈曲角度を自然に変化させる ことができる。これによって,背凭れ部6の傾倒後においても,被施療者は自然な 姿勢を保つことができる。 【0048】また,前述した給排気装置の動作によって,第1保持部分11に設 けられた空気袋11b,11c及び第2保持部分12に設けられた空気袋が膨張・ 収縮する。これにより,被施療者の腕部を略全体に亘って施療することができる。 (イ) 保持部の形状について 【0100】 【図13】は,本発明(【図13】 (a)(c) , )及び参考例(【図13】 (b)(d)(e) ,, )に係るマッサージ機の保持部の形状を説明する模式的断面図で ある。以上で説明した実施の形態においては,被施療者の腕部を保持する保持部を, 【図13】 (a)で示すような,幅方向に切断したときの断面視において略C字状の 半円筒形状をなしているものとしたが,これに限定されるものではなく,【図13】 (b)〜(e)に夫々示すような形状としてもよい。 【0101】 【図13】 (b)は,保持部の形状を,幅方向の断面視において略L字 状とした場合について説明する断面図である。同(c)は,保持部の形状を,幅方向 の断面視において所定角度だけ傾斜させた略チャネル状とした場合について説明す る断面図である。同(d)は,保持部の形状が幅方向の断面視において略L字状とな っており,しかも保持部がその角部において屈曲されることが可能な構成について 説明する断面図である。また,同(e)は,保持部の形状を,幅方向の断面視におい て上方が開口する略チャネル状とした場合について説明する断面図である。 【0102】また, 【図13】 (a)〜(e)で示すように,夫々の保持部をガイド レール等によって左右方向へ移動することが可能に構成してもよい。 (ウ) 左右の保持部の空気袋を駆動する構成 【0105】以上で説明した実施の形態に係るマッサージ機においては,左腕用 の保持部の空気袋と,右腕用の保持部の空気袋とを夫々独立に駆動する構成とする ことが望ましい。一般的に,同時に施療する箇所が少ないほど,マッサージ効果は 高まると考えられている。これは,多くの箇所を同時に施療するよりも,少ない箇 所を同時に施療する方が,施療箇所に対して加わっている刺激に被施療者の意識が 集中しやすいためである。従って,被施療者の腕部を片腕毎に施療することにより, 両腕を同時に施療する場合に比して,マッサージ効果を高めることが期待できる。 また,被施療者の腕部を片腕毎に施療することによって,施療されていない腕でマ ッサージ機の操作を行うこともできる。 ? 本件各発明の特徴
上記?の各記載によれば,本件各発明の特徴は次のとおりと認められる。 ア 広く普及している椅子型のマッサージ機は,主として座部と背凭れ部とから 構成され,座部の両側方に肘掛け部が設けられ,背凭れ部の内部にマッサージ機構 が設けられている。被施療者は,座部に着座し,肘掛け部を腕置きとして用いて, マッサージ機を使用する。また,背凭れ部の下端部は,座部の後部で回動自在に枢 支され,背凭れ部をリクライニングさせることができる(【0002】)。 イ しかし,上述した従来のマッサージ機にあっては,肘掛け部に例えばバイブ レータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療するこ とができないという問題があった(【0003】)。 ウ 本件各発明は,このような事情に鑑み,被施療者の腕部を施療することが可 能なマッサージ機を提供することを目的とするものである(【0007】)。 本件各発明に係るマッサージ機は,課題を解決するための手段として,被施療者 が着座可能な座部と,被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマ ッサージ機において,前記座部の両側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に 覆って保持する一対の保持部と,前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能 な空気袋とを有し,前記保持部は,その幅方向に切断して見た断面において被施療 者の腕を挿入する開口が形成されていると共に,その内面に互いに対向する部分を 有し,前記空気袋は,前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分 に設けられ,前記一対の保持部は,各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士 が互いに対向するように配設されている,という構成を有する(【0010】)。 エ 本件各発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって被施療者の腕部を 施療することが可能となるという効果を有する(【0028】)。 2 取消事由1(手続違背)について ? 原告は,審判手続において,構成要件Fのうち「幅方向に切断して見た断面 において被施療者の腕を挿入する開口」との特定事項に関し,補正要件,サポート 要件及び明確性要件の各違反並びに分割要件違反に起因する新規性・進歩性欠如と いう各無効理由が存在することを主張し,被告も答弁書において反論したにもかか わらず,当該各無効理由について,本件審決の判断はされていないから,本件審決 には,審理不尽や判断の遺脱などの手続上の瑕疵があり,違法として取り消される べきである,と主張する。 ? 明確性要件について 本件審決は,明確性要件の判断において,構成要件G及びLについて判断したの みで,構成要件Fについては「請求人の主張の概要」にも「当合議体の判断」にも記 載がなく,実質的に判断されたと評価することもできない。 したがって,本件審決には,手続的な違法があり,これが審決の結論に影響を及 ぼす違法であるということができる。 ? 補正要件違反,分割要件違反及びサポート要件について ア 本件審決には,補正要件違反等の原告の主張する無効理由との関係で,構成 要件Fについての明示的な記載はない。 しかし,補正要件の適否は,当該補正に係る全ての補正事項について全体として 判断されるべきものであり,事項Fの一部の追加が新規事項に当たるという主張は, 本件補正に係る補正要件違反という無効理由を基礎付ける攻撃防御方法の一部にす ぎず,これと独立した別個の無効理由であるとまではいえない。その判断を欠いた としても,直ちに当該無効理由について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,構成要件H(「前記一対の保持部は,各々 の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」) の前提となる構成であって,事項Hの追加が新規事項の追加に当たらないとした本 件審決においても,実質的に判断されているということができる。 そして,後記のとおり,当初明細書の【0037】【0038】【図2】には,断 ,, 面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され, 「開口部」とは, 「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人の腕 部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であるこ とが記載されているから,構成要件Fで規定する「開口」が,当初明細書に記載され ていた事項であることは明らかである。 イ また,新規事項の追加があることを前提とした分割要件違反に起因する新規 性・進歩性欠如をいう原告の主張も,同様である。 ウ サポート要件についても,本件審決には,構成要件Fについての明示的な記 載はない。 しかし,サポート要件の適合性は,後記4?のとおり判断すべきものであり,上 記アと同様,事項Fの一部についての判断を欠いたとしても,直ちに当該無効理由 について判断の遺脱があったということはできない。 また,構成要件Fで規定する「開口」は,上記アのとおり,構成要件Hの前提とな る構成であり,本件審決においても実質的に判断されているということができる。 そして,後記のとおり,本件発明1は,本件明細書の【0010】に記載された構 成を全て備えており,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明に より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり,加え て,本件明細書にも前記【0037】【0038】【図2】と同様の記載があること ,,からすれば,構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポ ートされていることも明らかである。 ? 小括 以上のとおり,本件審決は,明確性要件についての判断を遺脱しており,この点 の審理判断を尽くさせるため,本件審決は取り消されるべきである。 もっとも,他の無効理由については当事者双方が主張立証を尽くしているので, 以下,当裁判所の判断を示すこととする。 3 取消事由2(補正要件(新規事項の追加)に係る判断の誤り)について ? 補正要件(新規事項の追加)について 特許請求の範囲等の補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は 図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の 2第3項),上記の「最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事 項」とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合す ることにより導かれる技術的事項を意味し,当該補正が,このようにして導かれる 技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは, 当該補正は「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」 するものということができる。 ? 当初明細書の記載 本件各発明に関連する当初明細書の記載事項(甲4, は, 5) 手続補正(甲2,6) により,次の各記載が削除又は変更された点で異なるほかは,図面も含めて,前記 1?認定の本件明細書の記載事項と同様である。 【0004】 (削除)また,背凭れ部103を傾倒(リクライニング)させたとき には,これに伴って被施療者の上体も傾倒するため,肘掛け部104上で被施療者 の腕部が移動することとなる。従って,肘掛け部104にバイブレータ等の施療装 置が設けられている場合であっても,背凭れ部103を傾倒させる前後では,施療 装置による施療箇所が被施療者の腕部の異なる部位となったり,背凭れ部103の 傾倒前には施療装置による被施療者の腕部の施療を行うことができても,傾倒後に は被施療者の腕部から施療装置が離れてしまい,施療を行えない等の問題があった。 【0006】 削除) ( また,通常肘掛け部104は前後に長い略棒状をなしており, その上面を被施療者の腕置きとして用いるようになっているため,バイブレータ等 の施療装置を肘掛け部104に設けた場合であっても,被施療者の腕部の下側部分 だけを施療するように構成されていることが多く,腕部の略全体を施療することが できないものが殆どであった。 【0007】 (変更)本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり,被施療者 の腕部を施療することが可能であり,しかも背凭れ部を傾倒させた場合にも,傾倒 前の部位と殆ど同一の部位を施療することが可能なマッサージ機を提供することを 目的とする。 【0009】 (削除)また,本発明の更に他の目的は,被施療者の腕部の略全体を 施療することが可能なマッサージ機を提供することにある。 【0010】 (変更)本発明に係るマッサージ機は,座部と,該座部に対して傾倒 することが可能な背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において,前記背凭れ 部の傾倒方向と略同一の方向へ移動することが可能であり,被施療者の腕部を保持 する保持部と,該保持部に設けられ,被施療者の腕部を施療する施療部とを備える ことを特徴とする。 【0011】 (削除)本発明に係るマッサージ機にあっては,保持部が背凭れ部の 傾倒方向と略同一方向へ移動することが可能であるため,背凭れ部の傾倒に伴って 保持部が移動した場合には,背凭れ部の傾倒前後において,被施療者の腕部と保持 部との相対的な位置が殆ど変わることがない。よって,背凭れ部を傾倒させた場合 にも,施療部によって傾倒前の部位と殆ど同一の部位を施療することが可能となる。 【0017】 (削除)また,上記発明においては,前記保持部は,被施療者の腕部 を覆うことが可能な形状をなしている構成とすることが望ましい。更にこの場合に は,前記施療部は,被施療者の腕部を略全体に亘って施療することが可能であるよ うに,前記保持部に設けられている構成とすることが望ましい。これにより,被施 療者の腕部を略全体に亘って施療することが可能となる。 【0018】 (変更)また,上記発明においては,前記保持部は,被施療者の上腕 を保持する第1保持部分と,被施療者の前腕を保持する第2保持部分とを有する構 成とすることができる。 【0028】 (変更)以上詳述した如く,本発明に係るマッサージ機によれば,施 療部によって被施療者の腕部を施療することが可能であり,また,背凭れ部を傾倒 させた場合にも,施療部によって被施療者の腕部の殆ど同一の部位を,傾倒前後に おいて施療することが可能となる。 【0029】 (削除)また,被施療者の腕部の略全体を施療することが可能となる 等,本発明は優れた効果を奏する。 【0100】 (変更) 【図13】は,本発明に係るマッサージ機の保持部の形状を説 明する模式的断面図である。以上で説明した実施の形態1〜7においては,被施療 者の腕部を保持する保持部を, 【図13】 (a)で示すような,幅方向に切断したとき の断面視において略C字状の半円筒形状をなしているものとしたが,これに限定さ れるものではなく,【図13】(b)〜(e)に夫々示すような形状としてもよい。 ? 本件補正の内容 本件補正は,以下の内容を含むものである(甲2)。 ア 構成要件F及び【0010】の「前記保持部は,その幅方向に切断して見た断 面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に,その内面に互い に対向する部分を有し」との事項(以下「事項F」という。)が追加されたこと。 イ 構成要件G及び【0010】の「前記空気袋は,前記内面の互いに対向する部 分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」との事項(以下「事項G」という。)が 追加されたこと。 ウ 構成要件H及び【0010】の「前記一対の保持部は,各々の前記開口が横を 向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」との事項(以下 「事項H」という。)が追加されたこと。 エ 構成要件J及び【0013】の「前記一対の保持部は,各々の前記開口が真横 を向いている」との事項(以下「事項J」という。)が追加されたこと。 オ 構成要件L及び【0014】の「前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌 を保持可能である」との事項(以下「事項L」という。)が追加されたこと。 カ 構成要件N及び【0015】の「前記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側 の部分よりも立ち上るように構成されている」との事項(以下「事項N」という。) が追加されたこと。 ? 当初明細書に記載があること ア 当初明細書の【0042】【0044】【0048】【図5】【0066】,,,,, 【0072】【0074】【図8】には,保持部の内面の略全体に空気袋が設けられ ,, ている構成の記載がある。これらの記載に加えて,従来のマッサージ機においては, 肘掛け部に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く,被施 療者の腕部を施療することができないことが課題になっていたこと(【0003】) を併せて考えれば,当初明細書の上記各記載から,保持部の内面の対向する部分の 双方でなくとも,対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,腕部が保持部 によって保持され,保持部の内面の一方の側から空気袋の膨張・圧縮に伴う力を受 けることで一定の施療効果が期待できることは明らかというべきである。 そうすると,保持部の内面の互いに対向する部分の双方でなく,対向する部分の 一方に空気袋が設けられていれば,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題 の課題解決手段として十分であることが容易に理解できる。 イ 当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断面形 状を有することの記載があり, 【0037】【0038】及び【図2】には,断面視 , において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載されており, 「開口部」と は, 「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し,一般的な体格の成人 の腕部の太さよりも若干大きい幅とされ,そこから保持部内に腕部を挿入可能であ ることが記載されている。そして, 【0100】には,腕部を保持する保持部は, 【図 13】 (a)に示されるものに限定されず,同図(b)〜(e)に示されるものとし てもよいこと,さらに,同図(c)は,開口を「所定角度で傾斜させた」ものであり,
同図(e)は,開口を「上方に開口」させたものであることが記載されている。 以上の記載を踏まえると, 【図13】 (a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向 いている保持部を示していると理解するのが自然であり,そうすると,当初明細書 には,所定角度で傾斜したものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」い ている保持部が記載されているといえる。 そして, 「開口が横を向」いている保持部であっても,腕部を横方向に移動させる ことで被施療者が腕部を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の 腕部を保持部の内面に設けた空気袋によって施療することができることが容易に認 識でき,被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当 初明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解できるというべきである。 ウ 請求項2の「開口が真横を向いている」にいう「開口」とは,そこから保持部 内に腕部を挿入することを可能とするもの(【0038】【図2】 , )であることから すれば, 「開口が真横を向いている」とは,腕部の挿入方向に着目して,被施療者が 座部に座った状態で腕部を「真横」 (水平)に移動させることで保持部内に腕部を挿 入することができるという技術的意義を有するものであると理解できる。 そして,当初明細書には, 【図13】 (a)及び(c)において,所定角度で傾斜し たものと傾斜していないものを含めて「開口が横を向」いている保持部が示され,
同図(a)は,開口が所定角度で傾斜せずに横を向いている保持部,すなわち, 「開 口が真横を向」いている保持部を示していると理解するのが自然であるところ, 「開 口が真横を向」いていれば,腕部を真横(水平)に移動させることで被施療者が腕部 を保持部内に挿入することができ,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に 設けた空気袋によって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕 部を施療することが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題 を解決できることも容易に理解することができるというべきである。 エ 当初明細書には,【0037】【0044】【0046】などにも,前腕部を ,, 挿入する第2保持部分の内面において,被施療者の手首又は掌に相当する部分に振 動装置が設けられていることが開示されている。加えて,保持部が,被施療者の上 腕を保持するための第1保持部分と被施療者の前腕を保持するための第2保持部分 とから構成され(【0037】【図2】,第2保持部分の内面であって被施療者の手 ,) 首又は掌に相当する部分に振動装置が設けられ,この振動装置が振動することによ り,被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっていること 【0044】 (, 【図2】)も記載されている。 そうすると,保持部内に挿入された被施療者の手首又は掌を,保持部の内面であ って,手首又は掌に相当する部分に設けられた振動装置を振動させることで,被施 療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっており,その前提として,保持 部が,被施療者の手首又は掌を「保持可能」とするような構成を有していることは 明らかである。 オ 当初明細書のうち,第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図である【図 5】【図8】には,空気袋(11b,11c,26b,26c)が全体として保持部 , の奥側(図の右側)よりも開口側(図の左側)の端部にて高さが高くなるよう盛り上 がる形状が示されており,当初明細書の【0042】の記載も踏まえると,【図5】 には,保持部分の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと, 当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ,当該空気袋11c は奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増しており,空気袋11bと 空気袋11cをあわせてみたときに,空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上がるように構成されていることが記載されているといえる。 そして,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口 側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う 力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ とも容易に理解することができる。 カ 以上によれば,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえ ない。 ? 原告の主張について ア 事項Gについて
原告は,当初明細書の上記各記載が,保持部の内面の互いに対向する部分のうち の一方のみに空気袋が設けられている構成を開示するものでないことを指摘し,事 項Gに係る補正が,空気袋が保持部の内面の互いに対向する部分の一方にのみ設け られている構成も包含するという点において新たな技術的事項を導入していると主 張するが,前記?のとおり,主張は理由がない。
原告は,被施療者の腕部が,空気袋と保持部の内面に接することで,空気袋と保 持部によって施療されると解釈することが可能だとしても,保持部の内面に接する 被施療者の腕部は単にその内面に押し当てられているだけであり,腕部に位置する ツボを効果的に施療することができず,そうすると,被施療者の腕部を保持部の内 面に押し当てる施療は,当初明細書に記載も示唆もされておらず,想定もされてい ない技術的事項であるとも主張する。 しかし,当初明細書の記載によれば,必須の課題は腕部の施療ができることにあ り,腕部に位置するツボを効果的に施療することまでを含んでいないことからすれ ば,原告の主張は理由がない。 イ 事項Hについて
原告は,当初明細書の【0042】には,保持部の形状について「略C字状」の断 面形状を有することしか記載されておらず, 【0072】【図1】【図5】【図7】 ,,,, 【図8】などにも,一対の保持部に形成した「各々の前記開口が横を向」いているこ とを明記した箇所が存在しないことを指摘し,事項Hに係る補正が,新たな技術的 事項を導入するものであると主張するが,前記?のとおり,主張は理由がない。
原告は,事情説明書(甲7)における本件発明1の作用効果の説明は,当初明細書 の記載に基づいたものではないから,同発明の技術的意義を検討する上で配慮には 値せず,また,保持部の形状として, 【図13】 (a)及び(c)の2つの形状につい て意匠的な意味以上の技術的な意味は当初明細書には認められないとも主張する。 しかし,事項Hに係る補正が新たな技術的事項を導入しないものであることは, 事情説明書ではなく,前記?で示した当初明細書の記載に基づいて導かれるから,
原告の主張は理由がない。 ウ 事項Jについて
原告は,事項Jの「開口が真横を向いている」にいう「真横」の意義について,当 初明細書の【図13】 (a)などによっても何を基準として「真横」と判断している か判然としないから,新たな技術的事項を導入していると主張するが,前記?のと おり,主張は理由がない。
原告は,@【図13】 (a)の断面が略C字状である場合において,保持部の形状 が,開口の向きが真横方向であるとする具体的な根拠が明らかでない,A当初明細 書の【0076】には保持部の回動範囲が記載されておらず,その開口の向きが真 横を向く態様となるか否かが明らかではない,B開口の向きが横であることから更 に真横になることによって解決される課題等も当初明細書に一切記載も示唆もされ ていないとも主張する。 しかし, 「真横」の技術的意義については,前記?のとおりであるし,また,そう である以上, 【0076】に記載の保持部の回動範囲がいかなる範囲であるかは意味 をもたないことからすれば,原告の主張は理由がない。 エ 事項Lについて
原告は,当初明細書には,保持部における手首又は掌の保持については何ら言及 されていないから,事項Lは新たな技術的事項を導入するものであると主張するが, 前記?のとおり,主張は理由がない。
原告は,振動装置によって手首や掌に刺激が与えられ得ることは記載されている が,手首又は掌の保持については何ら言及がないとも主張する。 しかし,当初明細書には, 「保持」自体についての直接的な定義はないものの,そ の【0037】【0038】及び【0048】の記載を踏まえて, , 【0044】の記 載をみると,保持部の内面に設けた空気袋や振動装置などにより,保持部内に挿入 された被施療者の腕部を施療することができるように構成されていることをもって, 手首又は掌を「保持可能」と表現していることを理解することができることからす れば,原告の主張は理由がない。 オ 事項Nについて
原告は,当初明細書には,保持部の開口側と奥側における空気袋の位置関係を説 明する記載がなく, 【図5】や【図8】は,空気袋が設けられた保持部を図示するだ けで,空気袋の具体的な配置まで特定するものではないから,事項Nは,新たな技 術的事項を導入するものであると主張するが,前記?のとおり,主張は理由がない。
原告は,仮に【図5】【図8】に,空気袋が開口側の端部にて最も高さが高くなる , よう盛り上がる形状が示されているとしても,事項Nは,1つの空気袋の形状にお いて開口側の端部において盛り上がる形状とする以外にも,種々の構成,例えば, 開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側より相 対的に盛り上がっている形状をも含み得る表現になっているとも主張する。 しかし,事項Nは「空気袋は,開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がる ように構成されていること」と特定しており,原告が主張する「開口側の端部だけ に限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側より相対的に盛り上がっ ている形状」も,奥側の部分からその端部に至る途中の部分(開口側の部分)の方が 奥側の部分よりも立ち上がるように構成されているのにほかならない。このような ものが事項Nに含まれるとしても,そのことをもって当初明細書に記載した事項の 範囲内ではないということができないから,原告の主張は理由がない。 ? 小括 以上のとおり,本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合することにより導か れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 よって,本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとい うことができるから,新規事項の追加の判断の誤りをいう取消事由2には理由がな い。 4 取消事由3(サポート要件に係る判断の誤り)について ? サポート要件について 特許請求の範囲の記載が,サポート要件を定めた特許法36条6項1号に適合す るか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請 求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであ るか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当 該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 ? 本件発明1について ア 本件明細書の記載 本件明細書には,@椅子型のマッサージ機にあっては,肘掛け部にバイブレータ 等の施療装置が設けられていないことが多く,被施療者の腕部を施療することがで きないという問題があったことから(【0002】【0003】,被施療者の腕部を ,) 施療することが可能なマッサージ機を提供することを課題とし(【0007】,A当 ) 該課題を解決するための手段として,被施療者が着座可能な座部と,被施療者の上 半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において, 「前記座部の両 側に夫々配設され,被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と,前 記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と,を有し,前記保持部は, その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されて いると共に,その内面に互いに対向する部分を有し,前記空気袋は,前記内面の互 いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ,前記一対の保持部は, 各々の前記開口が横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設され」 ていること(【0010】,B本発明に係るマッサージ機によれば,空気袋によって ) 被施療者の腕部を施療することが可能となること 【0028】 が記載されている。 () そして,本件明細書には,本件発明の「実施の形態1」の説明において,マッサー ジ機の全体構成やその動作について,保持部の構成やその内面に設けられた空気袋 の構成や作用とともに記載され(【0037】【0038】【0042】〜【004 ,, 5】【0048】【図1】【図2】【図5】 ,本件明細書の【0100】【010 ,,,,), 1】及び【図13】には,本件発明のマッサージ機の保持部の種々の断面形状につい て説明がされているところ,マッサージ機を扱う当業者であれば,本件明細書の以 上の記載から,@の課題を解決するためにAの解決手段を備え,Bの効果を奏する 発明を認識することができる。 そして,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2?のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】には,同発明が記載されている。また,当業 者が,本件明細書の前記記載により本件発明1の課題を解決できると認識すること ができる。そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明 の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のも のであるということができ,本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。 イ 原告の主張について
原告は,@構成要件Gは,空気袋につき,保持部の内面の対向する部分の一方の 部分のみに設ける構成も含むが,本件明細書には,かかる構成であっても解決でき る課題につき何らの説明もなく,A構成要件Hは,保持部の形状につき,本件明細 書の【図13】の(a)(c)から導かれる形状とするものであるところ,本件明細 ,書には,他の形状を示す同図(b)(d)(e)との関係で解決される課題につき, ,, 何らの説明もないと主張する。 しかし,本件明細書によれば,保持部の内面の対向する部分の双方でなくとも, 対向する部分の一方に空気袋が設けられていれば,被施療者の腕部を施療すること が可能なマッサージ機を提供するという本件明細書に記載の課題の解決手段として 十分であることが容易に理解することができる。また,保持部に形成する開口が横 を向いていれば,腕部を横方向に移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿 入することができ,座部に座った被施療者の腕部を施療することが可能なマッサー ジ機を提供するという本件明細書に記載の課題を解決できることが容易に理解する ことができる。 したがって,原告の主張は理由がない。 ? 本件発明2について ア 本件明細書の記載 本件明細書には,前記?アで示した記載に加えて, 【0013】に「上記発明にお いては,前記一対の保持部は,各々の前記開口が真横を向いていることが望ましい。」 との記載がある。 そうすると,本件明細書の以上の記載から,マッサージ機を扱う当業者であれば, 前記?アで示した@の課題を解決するために,A本件発明1の構成に加え, 「一対の 保持部は,各々の前記開口が真横を向いていること」という解決手段を備え,Bの 効果を奏する発明を認識することができる。 そして,本件発明2に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2?のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】及び【0013】には,同発明が記載されて いる。また,当業者が,本件明細書の前記記載により本件発明2の課題を解決でき ると認識することができる。そうすると,本件発明2は,発明の詳細な説明に記載 された発明で,発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認 識できる範囲内のものであるということができ,本件発明2の記載についてサポー ト要件の違反はない。 イ 原告の主張について
原告は,構成要件Jは,請求項1の構成要件Hで特定される「開口方向」につき, 本件明細書の【図13】 (a)に基づき「真横」と特定するものであるところ,本件 明細書には,腕の挿入方向を「真横」とすることによって解決される課題につき,何 らの説明もないと主張する。 しかし,保持部に形成する開口が「真横」を向いていれば,腕部を真横(水平)に 移動させることで被施療者が保持部内に腕部を挿入することができ,座部に座った 被施療者の腕部を施療することがで可能なマッサージ機を提供するという本件明細 書に記載の課題を解決できることが容易に理解できることは,前記のとおりである。 したがって,原告の主張は理由がない。 ? 本件発明3について ア 本件明細書の記載 本件明細書には,前記?アで示した記載,【0013】の記載に加えて,【001 4】に「前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であることが望ま しい。」との記載があることから,マッサージ機を扱う当業者であれば,前記@の課 題を解決するために,A本件発明1又は2の構成に加え, 「一対の保持部は,各々の 前記開口が真横を向いていること」「前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌 , を保持可能であること」という解決手段を備え,Bの効果を奏する発明を認識する ことができる。 そして,本件発明3に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2?のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】【0013】及び【0014】には,同発明 , が記載されている。また,当業者が,本件明細書の前記記載により本件発明3の課 題を解決できると認識することができる。そうすると,本件発明3は,発明の詳細 な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解 決できると認識できる範囲内のものであるということができ,本件発明3の記載に ついてサポート要件の違反はない。 イ 原告の主張について
原告は,構成要件Lについて,手首又は掌の保持や,手首又は掌を保持すること によって解決される技術的課題につき,何らの説明もないと主張する。 しかし,当初明細書には,保持部の内面に設けた空気袋や振動装置などにより, 保持部内に挿入された被施療者の腕部を施療することができるように構成されてい ることをもって,「手首又は掌を保持可能」と表現していることが理解できるから, 構成要件Lの技術的意義が容易に理解できる。 したがって,原告の主張は理由がない。 ? 本件発明4について ア 本件明細書の記載 本件明細書には,前記?アで示した記載, 【0013】【0014】の記載に加え , て, 【0015】に「更に,前記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側の部分より も立ち上るように構成されていることが望ましい。 との記載があることからすれば, 」 マッサージ機を扱う当業者であれば,前記@の課題を解決するために,A本件発明 1,2又は3の構成に加え, 「一対の保持部は,各々の前記開口が真横を向いている こと」「前記保持部は,被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」「前 ,, 記空気袋は,前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されて いること」という解決手段を備え,Bの効果を奏する発明を認識することができる。 そして,本件発明4に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2?のとおりで あるところ,本件明細書の【0010】【0013】〜【0015】には,同発明が , 記載されている。また,当業者が,本件明細書の前記記載により本件発明4の課題 を解決できると認識することができる。そうすると,本件発明4は,発明の詳細な 説明に記載された発明で,発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決 できると認識できる範囲内のものであるということができ,本件発明4の記載につ いてサポート要件の違反はない。 イ 原告の主張について
原告は,構成要件Nについて,本件明細書には,空気袋につき開口側を奥側より 立ち上るように構成することによって解決される技術的課題につき,何らの説明も されていないと主張する。 しかし,空気袋が保持部の開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるよう に構成されていれば,空気袋の膨張・圧縮の程度が保持部の奥側の部分よりも開口 側の部分の方が大きく,腕部がそのような空気袋の構成に応じた膨張・圧縮に伴う 力を受けることで,座部に座った被施療者の腕部を保持部の内面に設けた空気袋に よって施療することができることが容易に認識でき,被施療者の腕部を施療するこ とが可能なマッサージ機を提供するという当初明細書に記載の課題を解決できるこ とが容易に理解できるというべきであり,原告の主張は理由がない。 ? 小括 以上のとおり,本件各発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したもので あるということができ,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。 よって,サポート要件に係る判断の誤りをいう取消事由3には理由がない。 5 取消事由5(引用発明に基づく進歩性判断の誤り)について ? 引用発明について ア 引用例(甲9)の記載(図は別紙2記載のとおり) 【図1】には,本発明の一実施形態に係るマッサージ機10がで示されている。 この実施形態のマッサージ機10は,大別して椅子20と,脚保持部30と,足乗 せ台40とから構成されている(【0013】。 ) この椅子20の基本的な構成としては,座部21と,この座部21の両側に設け られた肘掛け部22と,座部21の後端に設けられた傾斜可能な背凭れ部23とを 備えている。座部21と背凭れ部23のそれぞれ内部適所には,複数の空気袋(図 示せず)が配置されている(【0014】。 ) このような空気式マッサージ機構部の構造は,前述した特開平10−11814 1号公報に開示されていて公知であると共に基本的な点では実質的に同じである…。 本実施形態のマッサージ機10では,更に肘掛け部22の上部に設けられた腕保持 部24を備えている。腕保持部24は,使用者の腕を両側から挟むようにU字状の 凹部25を形成する保持壁部24a,24bを備え,各保持壁部内にも前述したと
同様な空気袋(図示せず)が配置されている(【0017】。 ) この腕保持部24でも,これを構成している各保持壁部24a,24b内の空気 袋に圧縮空気を供給排気することにより膨張と収縮を起こさせて保持壁部間の凹部 25に入れられた使用者の腕を保持壁部24a,24bの外装布を介して挟み込む ようにして圧迫し,またこの圧迫を解放することによりマッサージを行うようにさ れている(【0018】。 ) イ 引用発明の認定
上記アの記載によれば,引用発明は,本件審決が認定したとおりのもの(前記第 2の3?ア)であると認められる。 ウ 本件各発明との一致点及び相違点の認定 本件各発明との一致点及び相違点は,本件審決が認定したとおりのもの(前記第 2の3?イないしケ)であると認められる。 なお,相違点1について,本件審決は実質的な相違点ではないと判断していると ころ,この点について,当事者間に争いがない。 ? 相違点2の容易想到性 ア 甲13技術の適用について (ア) 甲13文献の記載(図は別紙2記載のとおり) 甲13文献には,図面とともに次のような記載がある(訳文による)。 本発明は一般に,骨無機質含量および骨密度の増大を促すことによって骨粗鬆症 およびその他の医学的状態を治療するPEMF刺激装置に関する(1頁2〜5行)。 椅子20に固定された,本発明の教示が具体化された骨密度刺激装置30の他の 実施形態を図1Bに示す。この実施の形態では,骨密度刺激装置30が,図1Aに おいて示されて論じられた部品群の他にパッド31および35を含む。骨密度刺激 装置30は,大腿骨近位部分,股関節,腰椎および胸椎領域に加えて患者の上肢お よび下肢を治療するように設計されることが好ましい。この実施形態ではパッド3 1が椅子20の上に載せられて示されており,パッド35が床に置かれて示されて いる。パッド31は,手首,腕などの患者の上肢を治療するように設計されること が好ましい。…パッド31及び35が床に置かれ,または椅子20に固定されると は限らない(13頁29行〜14頁8行,【0034】。 ) この実施の形態のパッド31および35は,それぞれ患者の上肢または下肢に概 ね合致するよう全体にc字形である。この実施形態では,パッド31およびパッド 35がそれぞれ,…31aおよび35aを有する。このようなストラップによって 患者は…パッド31および35を,例えば自身の手首および足首に取り外し可能に 合致させることができる。…例えば一実施の形態では,適当な材料を使用すること によって,パッド31およびストラップ35がストラップまたは固定手段を必要と しないように構築される。このような実施の形態が図1Cに示されている。このよ うな材料は患者の体との接触に適切であり,伸ばしたりまたは縮めたりして患者の 肢によりぴったりとフィットさせることができる硬い樹脂材料を含む(15頁28 行〜16頁8行,【0040】。 ) 椅子21の中に配置された,本発明の教示が具体化された骨密度刺激装置30の 他の実施の形態を図1Cに示す。…図1Cではパッド31および35がそれぞれ, 椅子21および床の上に置かれている。パッド31および35を椅子21の内部に 配置することも本発明の範囲に含まれる(16頁21〜33行,【0043】。 ) (イ) 甲13技術 前記(ア)の記載によれば,甲13文献には,骨粗鬆症治療などに用いられるパル ス電磁場刺激装置であって,椅子の両側の肘掛けに載置され,手首や腕などの上肢 をあてがうパッド31が,c字形をしており,座る人に向かって真横に開口してお り,その開口同士が互いに対向して肘掛けの上に置かれている装置(以下「甲13 技術」という。)が記載されている。 甲13技術は,骨粗鬆症等を治療するためにパルス電磁場を発生する治療装置に 関するもので,本件発明1及び引用発明とは技術分野が異なる上,甲13文献の図 1Cに示される上肢を治療するパッド31(本件発明1の「保持部」に対応するも の)は,下肢を治療するパッド35とともに使用され,それぞれ,椅子21,床の上 に置かれることや椅子21の内部に配置してもよいことは記載されているが,引用 発明のように椅子の肘掛け部と一体に形成するものではなく,引用発明とは機能や 作用効果が異なる。 また,甲13文献には,パッド31及びパッド35を,ストラップ等を介して取 り外し可能に手首及び足首に取り付けることができること(【0040】 ,パッド3 ) 1及びパッド35を硬い樹脂材料から構成すれば,ストラップ等を必要とすること なく手首及び足首に取り付けることができること(【0040】,図1C)が記載さ れている一方,パッド31を椅子21に設けることに関しては,パッド31が椅子 21の上に,パッド35が床の上に置かれていること(【0034】【0043】 , ,図 1C),パッド31及び35を椅子21の内部に設けてもよい(【0043】)ことが 開示されているものの,パッド31を椅子21と一体に配設することは記載されて いない。 このように,甲13文献に示されるパッド31は,せいぜい,パッド35ととも に肢にフィットするように全体にc字形をしており,開口を患者の側に向けて,パ ッド35とともに椅子21(肘掛け)又は床の上に「置く」ことができることが開示 されているにとどまり, 「一対の保持部」について,相違点2に係る,各々の開口が 横を向き,かつ開口同士が互いに「対向するように配設」するという技術思想が開 示されているとはいえない。 (ウ) したがって,引用発明に甲13技術を適用する動機付けはないし,これを 適用しても,相違点2に係る構成に至らないから,これを容易に想到することがで きたものとはいえない。 イ 周知技術の適用 (ア) 甲10ないし甲12文献の記載 a 甲10文献の記載(図は別紙2記載のとおり) 甲10文献には,図面とともに,次のような記載がある。 【作用】本発明の第一態様に係る指圧具によれば,その弾性部材の作用によって 保持部と挟圧部とで身体の一部を挟圧することができ,本発明の第二態様に係る指 圧具によれば,そのラチェット機構によって身体の一部を挟圧するように保持部と 挟圧部とを接近させることができ,いずれの態様の指圧具も,そのときに押圧部を 身体のいわゆるつぼとよばれる部分に位置させて,適当な時間放置しておけば良好 な指圧効果が得られる。しかも,この指圧具が少なくとも小型(首,腕,足等に使用 するものは小型となる)である場合には,身体挟圧によって指圧具自体が身体に保 持されることになるので,使用者が少々動いても脱落したり移動したりするおそれ が少ない。もちろん,背中や腰に使用する大型の指圧具であっても,使用者が横た わったり,座って使用すれば脱落,移動の心配はない(【0013】。 ) 上述の指圧具1では挟圧腕3が一本しか備わっていないが,一本に限定されるこ とはない。たとえば, 【図2】に示す指圧具8のように,対向するように二本の挟圧 腕9を装備してもよい。本指圧具8によれば,各々の挟圧腕9の先端に装着された 押圧部材10が,使用者の腰や背中の背骨の両側をそれぞれ押圧することになる。 また,本指圧具8では,その押圧部材10を使用者の身体に向けて付勢する手段と して圧縮コイルバネ11を用いている。圧縮コイルバネ11は挟圧腕9におけるそ の枢支点12を挟んで押圧部側と反対の側に設置されている(【0022】 。) b 甲11文献の記載(図は別紙2記載のとおり) 甲11文献には,図面とともに,次のような記載がある(訳文を示す)。 本発明は一般的に治療装置とその方法に関し,特に自ら脊柱の矯正を行いやすく するようにしたり正常な弯曲に戻すことを促進したりする装置とその方法に関する (第1欄4〜8行)。 椅子10は,座部12の左右両側それぞれに配設されている一対の腕置き16を 備えている。それぞれの支持部18は,身体13の外側に配設された外側部20に 繋がっている(第4欄23〜29行)。 c 甲12文献の記載(図は別紙2記載のとおり) 甲12文献には,図面とともに次のような記載がある(訳文による)。 本発明は,病床に関し,特に病人の体を左側又は右側に返したり病人が座る手助 けをしたり病人の背中をマッサージするために簡便に操作し得る多目的病床に関す る(第1欄5〜9行)。 病人を起床させるのを助けるために折畳み式のベッドプレートが駆動されると, 病人は,折畳み式のベッドプレートの持ち上げられた縦プレートにそって下方に摺 動しがちである(第1欄21〜23行)。 手の保護クッション88は,シート状の支持部12に備え付けらえており,病人 の手を保持する縦長溝881が両方に設けられている(第4欄30〜33行)。 (イ) 甲10ないし13記載の周知技術 甲10ないし13の各文献には,椅子に設けられるのではない指圧具,脊柱の矯 正を行う治療装置,多目的病人用ベッド及び腕を保持して刺激を与えて施療する椅 子医療用具において知られていた技術が開示されている。 甲10技術は,椅子に設けられるのではない指圧具に関するもので,本件発明1 や引用発明の椅子式マッサージ機とは技術分野が異なる上,甲10文献の【002 2】及び【図2】に示される指圧具8は,対向するように二本の挟圧腕9を有し, 「二本の挟圧腕9」と「一対の保持部」とみると,本件発明1の「各々の前記開口が 横を向き,且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」という構成 を文言上有しているようにもみえるが,その先端に装着された押圧部材10は,使 用者の腰や背中の背骨の両側をそれぞれ押圧するという機能を備えるもので,使用 者の腕部をその内部に挿入し,内面に設けた空気袋を膨張及び収縮させることによ って腕部を施療する本件発明1における「保持部」とは機能が大きく異なり,椅子 に配設して使用するものでもない。 甲11技術は,脊柱の矯正を行う治療装置に関するもので,本件発明1や引用発 明の椅子式マッサージ機とは技術分野が異なる上,甲11文献の図1Aに示される 腕保持部16は,対向する面(構成要件Fの「互いに対向する部分」)を有しておら ず,仮に引用発明に適用できたとしても,相違点2に係る構成が得られないばかり か,構成要件Fに係る相違点が生じることとなる。 甲12技術は,多目的病人用ベッドに関するもので,本件発明1や引用発明の椅 子式マッサージ機とは技術分野が大きく異なる上,甲12文献のFIG.6に示さ れる手の保護クッション88と枕89からなるベッドプレートの「縦長溝881」 (本件発明1の「保持部」に対応するもの)は,病人の手を保持するものであるが, 胴体と同様の高さにあるという構造上,内部への挿入,引き出しが困難であり,病 人自身が容易に手を挿入し,引き出すことを想定していないものであるし,椅子に 配設して使用することは記載されていない。 また,前記アのとおり,甲13技術は,骨粗鬆症等を治療するためにパルス電磁 場を発生する治療装置に関するもので,本件発明1及び引用発明とは技術分野が異 なる上,甲13文献のFIG.1Cに示される上肢を治療するパッド31(本件発 明1の「保持部」に対応するもの)は,下肢を治療するパッド35とともに使用さ れ,それぞれ,椅子21,床の上に置かれることや椅子21の内部に配置してもよ いことは記載されているが,引用発明のように椅子の肘掛け部と一体に形成するも のではない。 したがって,甲10ないし13文献は,引用発明のマッサージ機における腕保持 部の上向きの開口の向きを,横向きとして互いに対向するように配設するのに当業 者が適用を検討するような周知技術を示すものではない。 (ウ) よって,相違点2が,引用発明に周知技術(甲10〜13)を適用すること により容易に想到し得たものとはいえない。 ウ 設計事項(ア) 原告は,肘掛けが座面の左右両側部に設けられているという構造上,椅子 型マッサージ機の肘掛けに腕を移動させるに当たっては,腕を上方から移動させる 場合だけでなく,斜め上方や側方(横)から移動させることも,ごく一般的で自然な 動作であるから,上向きに開口が設けられた保持部を備える引用発明の椅子型マッ サージ機を見た者が,腕置きに向けて腕を移動する動作に合わせて開口の向きを, 例えば横向きに変更しようと試みることは,当業者が適宜選択する単なる設計事項 にすぎず,開口の向きを横向きとすることにより生じる効果も,引用発明に比べて 特別有利なものでもないと主張する。 しかし,引用発明の椅子型マッサージ機において,腕保持部24(保持部)は,U 字状の凹部25を形成する保持壁部24a,24bを備えることにより肘掛け部2 2の上部に一体的に形成されるものである(【0017】【図1】 。,) このような引用発明に接した当業者は,被施療者が引用発明の椅子型マッサージ 機の座部前端に立った状態から椅子に着座するまでの一連の動作の間や,椅子に着 座した被施療者が従来の椅子式マッサージ機が有していた肘掛け部の上面に前腕を 置くのと同様の動作により,保持壁に邪魔されることなく前腕を肘掛けの一対の保 持壁の間の載置面に置くことができると理解することができ,その構造も,従来の 椅子式マッサージ機が有していた肘掛け部の上面を前腕の載置面として利用するこ とで肘掛け部の上面の長手方向の両端に一対の保持壁を備えるようにしたものと理 解することができる。 そうすると,引用発明の椅子型マッサージ機の腕保持部について,その構造を積 極的に変更しようとすべき点は見当たらない。そうだとすると,引用発明の椅子式 マッサージ機に接した当業者は,特に動機付けがなければ,上記のような動作によ り前腕を肘掛けの上面の両端に設けた一対の保持壁の間の載置面に置くことのでき る保持部の構造を積極的に変更しようとはしない。 他方,本件発明1のマッサージ機は,一対の保持部について,開口を横向きとし, 互いに対向するように配設したものであるから,腕部を横方向に移動させることで, 保持部内に腕部を挿入し,引き出すことが可能であり,保持部内に腕部を位置させ た状態で内側に曲げることができ,肘掛け部の上面に一対の保持壁を備える引用発 明とは異なり,保持壁に拘束されずに,腕部(肘など)を載せることができる,とい った作用効果を奏すると認められる。よって,一対の保持部について,開口を横向 きとし,互いに対向するように配設した相違点2は,単なる設計事項とはいえない。 (イ) 原告は,本件明細書には,椅子式マッサージ機の腕保持部が「上向き開口」 である場合の課題等について一切記載されておらず,本件発明1は,引用発明の「上 向き開口」に関する技術的課題を見出して解決したものではなく,本件発明1の効 果は,引用発明と同様「腕部を施療することが可能」ということでしかなく,前記 (ア)で述べたような作用効果は,マッサージ機の機能とは関わりのない付随的な効 果にすぎないとも主張する。 しかし,本件明細書に「上向き開口」に関する課題が記載されていないとしても, 本件発明1が前記(ア)で述べたような作用効果(技術的意義)を有し,かかる作用 効果は,マッサージ機の使い勝手に関わるものであるから,発明の効果として参酌 すべきものである。そして,本件出願のもとの出願(甲29)の公開日より後に出願 された甲32及び甲33において,引用発明と同様,開口が上向きのマッサージ機 (甲34)につき,腕のマッサージに使用しない時でも使用者が肘掛けに腕を置く 位置が制限されるため,窮屈に感じ,リラックスできない(甲32【0004】)と いう問題や,肘掛部に肘を単に載せたい場合にこれが邪魔になって不快感を与える (甲33【0009】)といった課題が認識されていることを踏まえると,開口の向 きが技術的意義を有することは,明らかである。 (ウ) 原告は,甲13及び甲16によれば,開口を上向きや横向きに設けること が設計事項にすぎないことが裏付けられるとも主張する。 しかし,甲16の【図4】に示される手用空気圧マッサージ機の「収納体12」 (本件発明1の「保持部」に対応するもの)は,収納体12を展開するために腕部に 沿って止着可能な着脱部分(帯状部材15と係止部材14)を有するが 【0027】, ()本件発明1の「保持部」のように常に開口しているものではない。また,甲13にお いて示されている技術は,前記イ(イ)のとおり,本件各発明とは技術分野を異にす ることなどからすれば,原告のいうように,甲13及び甲16をもって,開口を上 向きや横向きに設けることが設計事項にすぎないことを裏付ける証拠とみることは できない。 エ 小括 以上のとおり,本件発明1の相違点2に係る構成は,原告の主張する理由によっ ては,容易に想到することができたものということはできないから,本件発明1は 進歩性を欠如しないとした本件審決の認定・判断に誤りがなく,この点に関する原 告の主張には理由がない。 ? 本件発明2ないし6について
上記?のとおり,本件発明1は進歩性を欠如しないとした本件審決の判断に誤り はない。 そうすると,本件発明1の構成を全て含む本件発明2ないし6についても,本件 発明1について述べたのと同様の理由により,進歩性を欠如しないとした本件審決 の判断に誤りはない。 ? まとめ 以上によれば,本件各発明は,引用発明に基づいて容易に発明をすることができ たものということはできない。 よって,取消事由5には理由がない。 6 取消事由6(分割要件に係る判断の誤り)について
原告は,本件補正には,新規事項の追加による補正要件違反があり,本件各発明 は違法な分割出願に基づいて成立したものであるから,出願日の遡及の効果が受け られず,もとの出願の公開特許公報(甲29)と同一,又は,これに基づいて容易に 想到できたものであると主張する。 しかし,前記3のとおり,本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内にお いてしたものであり,原告の主張は,その前提において誤りがあり,取消事由6は 理由がない。そうすると,本件出願がもとの出願の時にしたものとみなされ,もと の出願に係る上記公開特許公報に記載された発明は,本件出願前に頒布された刊行 物に記載された発明ということはできない。 よって,本件各発明は,同公報に記載された発明であるとして新規性を欠く,又 は,同公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとい うことはできない。 7 結論 よって,原告の請求は理由があるので本件審決を取り消すこととし,主文のとお り判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 小林康彦 裁判官 関根澄子 (別紙1 本件明細書) - 53-(別紙2) (甲9) (甲10) (甲11) (甲12) (甲13)
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/01/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
事実及び理由
全容