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関連審決 無効2017-800069
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事件 平成 31年 (行ケ) 10049号 審決取消請求事件

原告X
訴訟代理人弁護士 野村吉太郎
被告 グーグルエルエルシー
訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 小林英了
同 木村広行
同 祝谷和宏
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/12/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2017−800069号事件について平成31年1月17日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨 1
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告及びプロント・ワールドワイド・リミテッドは,平成14年5月13 日(優先日平成13年5月15日,優先権主張国台湾 優先日平成13年9 月25日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2002 -590620号)の一部を分割して,発明の名称を「実時間対話型コンテ ンツを無線交信ネットワーク及びインターネット上に形成及び分配する方法 及び装置」とする発明について特許出願(特願2008-266432号。
以下「本件出願」という。)をし,平成24年7月6日,特許権の設定登録 (特許第5033756号。請求項の数7。以下,この特許を「本件特許」 という。甲3,26)を受けた。
? 被告は,平成29年5月16日,本件特許について特許無効審判を請求(無 効2017-800069号事件)した(甲4)。
特許庁は,平成31年1月17日,「特許第5033756号の請求項1 -7に係る発明についての特許を無効とする。 との審決 」 (以下「本件審決」 という。)をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
この間に原告は,プロント・ワールドワイド・リミテッドから本件特許に 係る特許権の持分の譲渡を受け,その旨の移転登録(受付日平成29年7月 24日)を受けた(甲26)。
? 原告は,平成31年4月11日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし7の記載は,以下のとおりであ る(以下,請求項の番号に応じて,「本件発明1」などという。甲3)。
【請求項1】 2 ハンドヘルド装置であって, 操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも一つの出力デバイスと, 操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも一つの入力デバイスと, 無線トランスミッタと, 前記少なくとも1つの出力デバイス,前記少なくとも1つの入力デバイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する処理回路と, 前記処理回路で実行可能なプログラムとを備え,そのプログラムは, 前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記可視的ラスター ディスプレイを通じて表示させ, ・ 前記出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ, 操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子とを前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ, 前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現と少なくとも単独の受信者の識別子とを送ると共に,この遠隔サーバーが,前記操作者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を前記少なくとも単独の受信者が受信するように,前記更なる表現を送信させるように構成されているハンドヘルド装置。
【請求項2】 請求項1記載のハンドヘルド装置において,第1のコンテンツが可視的コン 3 テンツを含み,且つ第2のコンテンツがオーディオ・コンテンツを含むハンド ヘルド装置。
【請求項3】 請求項1記載のハンドヘルド装置において,前記ハンドヘルド装置がセルラ ーフォンであるハンドヘルド装置。
【請求項4】 請求項2記載のハンドヘルド装置において,第2のコンテンツは前記スイッ チ配列の起動に対応するハンドヘルド装置。
【請求項5】 請求項4記載のハンドヘルド装置において,第2のコンテンツは前記少なく とも一つの入力デバイスは複数の操作ボタンを含むハンドヘルド装置。
【請求項6】 請求項5記載のハンドヘルド装置において,前記プログラムは更に,操作者 が受信者へメッセージを送信可能にさせるように構成されているハンドヘルド 装置。
【請求項7】 請求項6記載のハンドヘルド装置において,第2のコンテンツは,操作者に よる前記スイッチ配列の起動の表示を含むハンドヘルド装置。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,本件発明1ないし7は,本件出願の優先日前に頒布された刊 行物である甲1(国際公開第00/72303号公報。2000年(平成1 2年)11月30日公開)に記載された発明(以下「引用発明1」という。) 及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであ 4 り,その特許は,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである ため,請求人(被告)の主張する無効理由4は理由があるというものである。
(2) 本件審決が認定した引用発明1,本件発明1と引用発明1の一致点及び相 違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明1 「HumBandTM 楽器であって, ハムホーンのネットワーク拡張が HumBandTM であって, 演奏者へ出力を提示する小型ディスプレイと,1つまたは複数のスピー カと, 演奏者から入力を受ける押しボタン 1b や選択スイッチ 1a の指操作式制 御部と,マイクロフォンと, インターネットに直接接続されるインターフェースと, SAM,MP,SGおよびボリューム制御を含む電子回路と, 前記電子回路で実行可能なソフトウェアとを備え,そのソフトウェアは, ハムホーンを演奏者が操作する際に,演奏者を支援するように,その操 作に関する情報を小型ディスプレイを通して表示させ, 前記スピーカを通じて演奏者へ,サーバから与えられる伴奏を提示させ, 前記伴奏に同期する演奏者の信号を前記マイクロフォンを通じて演奏者 から受け取り, 前記インターフェースを通じて,前記 HumBandTM 楽器から前記サーバに対 して前記演奏者の信号を送ると共に,このサーバが,パフォーマンスを聴 衆が受信するように,前記パフォーマンスを同報通信させるように構成さ れている HumBandTM 楽器。」 イ 本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点 5 (一致点)「ハンドヘルド装置であって, 操作者へ出力を提示するディスプレイを含む出力デバイスと, 操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む入力デバイスと, トランスミッタと, 前記出力デバイス,前記入力デバイス及び前記トランスミッタの動作を制御する処理回路と, 前記処理回路で実行可能なプログラムとを備え,そのプログラムは, 前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて表示させ, 前記出力デバイスを通じて操作者は,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ 操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツを前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ, 前記トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現を送ると共に,この遠隔サーバーが,前記操作者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を前記少なくとも単独の受信者が受信するように,前記更なる表現を送信させるように構成されているハンドヘルド装置。」である点。
(相違点1-1) 一致点の「操作者へ出力を提示するディスプレイを含む出力デバイス」の「ディスプレイ」に関し,本件発明1は,「可視的ラスター・ディスプ 6 レイ」であるのに対し,引用発明1は「小型ディスプレイ」である点。
(相違点1-2) 一致点の「トランスミッタ」に関し,本件発明1は,「無線トランスミ ッタ」であるのに対し,引用発明1は無線である記載がない点。
(相違点1-3) 一致点の「前記トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空 間的に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現を送る」に 関し,本件発明1は,「第2のコンテンツの表現」に加えて「少なくとも 単独の受信者の識別子」とを送るのに対し,引用発明1は,そのような特 定がない点。
これに伴い,一致点の「操作者により決定された関係に従って第1のコ ンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツを前記入力デバイスを 通じて操作者から受け取らせ」に関し,本件発明1は,「第2のコンテン ツ」に加えて「少なくとも単独の受信者の識別子を入力デバイスを通じて 操作者から受け取らせ」るのに対し,引用発明1は,「少なくとも単独の 受信者の識別子を前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」るこ とについて,記載されていない点。
当事者の主張
1 取消事由1(請求人適格の判断の誤り)について ? 原告の主張 原告は,本件特許について,グーグル合同会社を被告として特許権侵害訴 訟を提起したものであるから(東京地方裁判所平成28年(ワ)第3978 9号。以下「別件特許権侵害訴訟」という。),グーグル合同会社は本件審 判と利害関係を有する。それに加え,本件審決は,●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告は本件審判の利害関係人に 7 当たる旨判断した。
しかしながら,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●。また,特許法123条2項の「利害関係人」は,「特許権など の存在によって,法律上の利益や,その権利に対する法律的地位に直接の影 響を受けるか,又は受ける可能性のある者」をいうところ,●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●請求人適格を認める必要性,合理性はない。
当該利害関係人が請求人となればよいだけのことである。
したがって,被告は特許法123条2項の「利害関係人」ではなく,本件 審判の請求人適格を有しない。
よって,被告に請求人適格を認めた本件審決の判断は誤りである。
? 被告の主張 グーグル合同会社が特許法123条2項の「利害関係人」に該当すること は原告も認めているところ,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告が「利 害関係人」に該当することは明らかである。
また,原告は,別件特許権侵害訴訟において,被告が「ハングアウト」を 共同開発したと主張し,「ハングアウト」をインストールした製品につき, 「ハングアウト」の動作等に基づき本件発明の構成要件の充足を主張してい た。
したがって,被告は,原告から直接上記主張を受けるおそれがあるから, 本件特許の有効無効に直接の利害関係を有する者であって,上記「利害関係 人」に該当する。
よって,被告に請求人適格を認めた本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り) 8 について? 原告の主張 ア 引用発明1の認定の誤り (ア) 本件審決は,前記第2の3?アのとおり,甲1に記載された発明と して,引用発明1を認定した。
しかしながら,本件審決における引用発明1の認定には,以下のよう な誤りがある。
a 「ハムホーンのネットワーク拡張」及び「インターフェース」 本件審決は,引用発明1は「ハムホーンのネットワーク拡張が HumBand?であって」,「インターフェース」が「インターネットに直接 接続される」ものである旨認定した。
しかしながら,甲1には,「このサービスを使用するために,人は, HumJam.com ウェブ・サイトに,名前とパスワードを用いてログインし た後,オンライン・グループのメンバになる」及び「このような対話 式演奏は,オンラインのみの妨げのない真の国際コミュニケーション の例の1つ」と記載されていることから(56頁,58頁),甲1の HumBand 楽器は,インターネットの HumJam.com ウェブ・サイトに接続 するためのオンライン接続,すなわち有線接続するためのコンピュー タを必須とするものである。
以上によれば,ハムホーンないし HumBand 楽器は,それ単独ではネ ットワーク(インターネット)に接続することはできず,インターネ ット接続用のコンピュータが必要であるから,「ハムホーンのネット ワーク拡張」は「HumBand?」ではなく,「インターフェース」が「イ ンターネットに直接接続される」ものでもない。
b 「小型ディスプレイ」 9 本件審決は,引用発明1は, 「ハムホーンを演奏者が操作する際に, 演奏者を支援するように,その操作に関する情報を小型ディスプレイ を通して表示させ」るものである旨認定した。
しかしながら,甲1記載の発明において,「小型ディスプレイ」は 「オプションとして」用いられるものであって(甲1(50頁)),ハ ムホーンを操作する時に本来なくてもよいものであるから,かかる「小 型ディスプレイ」が「演奏者の操作を支援」することはあり得ない。
c 「伴奏」 本件審決は,引用発明1は「伴奏」が「サーバから与えられる」も のである旨認定した。
しかしながら,甲 1 記載の発明において,「伴奏の情報」は,HumBand コーデックを介して,HumJam.com ウェブサイトのデータベースから送 信されるものであり,「伴奏の情報」と「演奏者の演奏情報」を組み合 わせているのは,「サーバ」に結合された MIDI シーケンサである。
したがって,「伴奏」は「サーバから与えられる」ものではない。
d 「パフォーマンス」 本件審決は,甲1の「performance」を「パフォーマンス」と翻訳し て引用発明1を認定し,「演奏」と「伴奏」とを合体させた「新たな 表現」として意味を持たせるために,「パフォーマンス」の語を用い ている。
しかしながら,「performance」は,甲1に対応する公表特許公報で ある甲2(特表2003-500700号公報)に記載のとおり,「演 奏」と翻訳するべきである。甲1において,「performance」は, 「performer」(演奏者)が奏でる「演奏」の意味で用いられており, それとは別の主体から流れてくる「accompaniment」(伴奏)との組合 10 せという意味では用いられていない。
(イ) 前記(ア)のとおり,本件審決における引用発明1の認定には多数の 誤りがあり,引用発明1は,甲1に記載された本来の発明とは全く異な るものとなっている。甲1の記載によれば,甲1に記載された発明は, 以下のとおり認定するべきである(以下「甲1発明」という。)。
「携帯式の電子音声制御楽器であり,演奏者が入力する音声ないし演 奏を,演奏者からの演奏の音を HumBand コーデックという MIDI そのも のまたは MIDI 類似の演奏情報信号に変換,HumBand コーデックという MIDI そのものまたは MIDI 類似の演奏情報信号に変換する装置(音声ピ ッチ変換モジュール)を用いて複数の楽器の音(オーディオ・コンテン ツ)で再現するものであって, それをインターネット上の HumJam.com にオンライン接続して演奏す る際には,インターネット接続用のコンピュータにオンラインで接続し, ひとりの演奏者が HumJam.com の伴奏データベースから HumJam.com ウ ェブサイトのサーバから送信された伴奏に合わせて演奏すると,当該演 奏が HumBand コーデックに変換されて,HumJam.com ウェブサイトのサー バに送信され, HumJam.com ウェブサイトのサーバに付属する MIDI シーケンサにおい て伴奏情報信号と演奏情報信号が組み合わされ,当該 MIDI シーケンサか らサーバに送られた伴奏情報信号と演奏情報信号との組み合わせを, HumJam.com ウェブサイトのサーバがインターネット接続用のコンピュ ータにオンライン接続された聴衆の HumBand 楽器に送信し, 当該聴衆の HumBand 楽器の中にある音声ピッチ変換モジュールが HumBand コーデックで記された伴奏情報信号と演奏情報信号の組み合わ せをオーディオ・コンテンツに変換して演奏を再生し, 11 当該聴衆が,タレントオーディションの審査員のように,演奏者の演 奏が終了した時点で,HumJam.com ウェブサイトの HumBand 楽器を通じて 演奏の評価を投票したり,コメントを送付したりするもの。」イ 本件発明1と引用発明1との対比の誤り 本件審決は,前記第2の3?イのとおり,本件発明1と引用発明1とを 対比し,一致点及び相違点を認定した。
しかしながら,上記の対比には,以下のように誤りがある。前記(ア)の とおり,甲1に記載された発明は甲1発明と認定すべきであるところ,甲 1発明は,本件発明1と全く異なる技術であって,両者の間に一致点はな い。
(ア) 「トランスミッタ」 本件審決は,引用発明1の「インターネットに直接接続されるインタ ーフェース」は「トランスミッタ」を含むものであるから,本件発明1 と引用発明1とは,「トランスミッタ」を有する点で一致する旨認定し た。
しかしながら,前記ア(ア)aのとおり,HumBand 楽器は,単体ではイ ンターネットに接続できないものであるから,「トランスミッタ」(送 信機)を有するものではない。
(イ) 「遠隔サーバー」 本件審決は,引用発明1の「サーバ」は本件発明1の「遠隔サーバー」 に相当する旨認定した。
しかしながら,本件発明1は,いわゆるクライアント・サーバー方式 によるインターネット接続の発明であるのに対し,甲1に記載された発 明は,いわゆるピア・ツー・ピア 方式によるインターネット接続の発明 であるから,後者の発明における「サーバ」は本件発明1における「遠 12 隔サーバー」に相当するものではない。
(ウ) 「コンテンツ」 本件審決は,引用発明1の「前記伴奏に同期する演奏者の信号を前記 マイクロフォンを通じて演奏者から受け取」らせることは,本件発明1 の「操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時 間的に重なる第2のコンテンツ…を前記入力デバイスを通じて操作者か ら受け取らせ」ることに相当する旨認定した。
しかしながら,甲1に記載された発明は,伴奏が HumBand コーデック を介して送信される情報であることが前提となっており,HumBand コー デック及び MIDI は音のみを取り扱う「演奏情報」の規格ないしプログラ ムであって,音そのものの情報ではないのに対し,本件発明1の「コン テンツ」は,音や映像などのメッセージそのものであり,音に限られな いから,両者を一致点とすることはできない。
ウ 相違点の容易想到性の判断の誤り (ア) 相違点1-1 本件審決は,可視的ラスター・ディスプレイとして知られるLCDデ ィスプレイは,周知のディスプレイであるから,引用発明1の「小型デ ィスプレイ」として可視的ラスター・ディスプレイを用いることは,当 業者が容易に想到し得ることである旨判断した。
しかしながら,本件発明1の「ディスプレイ」である可視的ラスター・ ディスプレイは,動画などの映像を表示できることを前提とするもので あるのに対し,引用発明1の「小型ディスプレイ」は「パラメータを選 択」するためだけのものであって,動画などの映像を表示することを予 定するものではない。
したがって,引用発明1の「小型ディスプレイ」を本件発明1の「可 13 視的ラスター・ディスプレイ」に置換することはできない。
(イ) 相違点1-2 本件審決は,電子楽器とサーバを無線を用いて接続することは周知技 術であるから(以下「周知技術1」という。甲25),これを引用発明 1に適用して,HumBand?楽器とサーバを無線で接続することは,当業者 が容易に想到し得ることであって,その場合に「トランスミッタ」とし て「無線トランスミッタ」を用いることは,当然の設計変更に過ぎない 旨判断した。
しかしながら,甲25は,「電子楽器および移動無線端末装置」の発 明であって,電子楽器に接続された「移動無線端末装置」がインターネ ットなどの公衆通信網に接続するものである。
そうすると,甲25から導かれる設計変更によって無線になる可能性 があるのは,引用発明1の HumBand 楽器そのものではなく,HumBand 楽 器に接続され,インターネットにオンライン接続するためのコンピュー タである。
したがって,引用発明1に周知技術1を適用して,HumBand?楽器とサ ーバとを無線で接続することは,当業者が容易に想到できたものではな い。
(ウ) 相違点1-3 a 本件審決は,以下のように理由を挙げて,引用発明1の「演奏者の 信号を送る」に当たって,HumBandTM 楽器に入力された「ランク」,す なわち「少なくとも単独の受信者の識別子」を「サーバ」に送ること は,当業者が容易に想到し得るものである旨判断した。
@ 甲1には,演奏者は,HumJam.com ウェブ・サイトに,名前とパス ワードを用いて「ログインした後」に,オンライン・グループのメ 14 ンバーになることが記載されている。
A ここで,甲1には,「ランク1」は誰でも演奏することができ, 「ランク2」の演奏者は,「ランク2」の演奏グループに参加でき ることが記載されているから,「ランク」は「演奏グループ」を識 別する情報の要素であるといえる。
B そして,「ランク2」の演奏者が「ランク1」あるいは「ランク 2」を選択して演奏グループに参加すること,すなわち,演奏者が 「ランク2」のグループか「ランク1」のグループかを選択するた めに HumBandTM 楽器に「ランク」を入力すること,すなわち「ランク」 を受け取らせることは,当然である。
C さらに,「グループ」は「演奏者」と「視聴者」で構成されてお り,「サーバ」は「パフォーマンス」を「視聴者」に「同報通信」 している。
D そうすると,引用発明1の「サーバ」は,「パフォーマンス」を 「演奏者と視聴者で構成されるグループ」の「視聴者」に同報通信 しているから,サーバが,「同報通信」している「演奏グループ」 を識別する情報を認識していることは明らかである。
E 以上によれば,HumBandTM 楽器に「演奏グループ」を識別する情報 の要素である「ランク」が入力され,サーバは「演奏グループ」を 識別する情報を認識しているのだから,「演奏グループ」を識別す る情報の要素である「ランク」をサーバに送ることは,容易に想到 し得ることである。
F ここで,「同報通信」 「少なくとも単独の受信者に対する通信」 は に含まれるから,演奏グループを識別する情報の要素である「ラン ク」を「少なくとも単独の受信者の識別子」と呼ぶことは任意であ 15 る。
b しかしながら,引用発明1において,演奏者は,自分が選択して任 意のグループに参加するのではなく, 「ランク」 ある を持つ演奏者が, コンテストに参加し,コンテスト会場の聴衆から演奏についての評価, 格付けないし投票を受けるのであって,演奏者が「ランク」を選ぶこ とはできない。演奏者は,HumJam.com ウェブサイトにログインしてグ ループに参加するのであるが,ログインに際して,当該演奏者のラン クが既に上記ウェブサイトのサーバにより設定されているのだから , 演奏者が,自分のランクと無関係に他のランクのグループに参加する ことはあり得ない。
また,ランクという意味での「演奏グループ」をサーバが認識して いるのは,聴衆が評価ないし投票した結果を集計したからであって, その「ランク」と,1人の演奏者と聴衆の識別子情報をサーバが把握 しているということは,別次元の問題である。サーバが聴衆の識別子 情報を把握した上で同報送信するということと,「ランク」とをパラ レルに考えることはできない。
そもそも,本件発明1は,参加者がリアルタイムに相互にコンテン ツをやりとりするために,参加者の識別子を必要とするものであり, しかもリアルタイム性が要求されるために,受信者の識別子情報をハ ンドヘルド装置がサーバーに送る必要がある。
これに対し,引用発明1のランクは,あくまで,演奏者の演奏が終 わった後に,評価ないし格付けされるものであって,リアルタイム性 を必要とするものではない。そのため,演奏者は,HumBand 楽器を用い て HumJam.com ウェブサイトにログインするときに,サーバーに対し て,聴衆の識別子情報を送る必要がないのであって,演奏者が演奏し 16 ている途中で,聴衆の HumJam.com ウェブサイトにおけるログイン状況 (聴衆の数の変動)が変化することも,当然に予定されているもので ある。
(エ) 小括 以上によれば,本件審決における相違点1-1,1-2及び1-3の 容易想到性の判断は,いずれも誤りである。
? 被告の主張 ア 引用発明1の認定について (ア) 本件審決は,甲1の記載内容に基づき引用発明1を認定したもので あり,以下のとおり,同認定に関し,原告の主張するような誤りはない。
a 「ハムホーンのネットワーク拡張」及び「インターフェース」 甲1には,「HumBandTM 楽器は,インターネットにインターフェース を介して直接接続され」(57頁)と記載されているから,引用発明 1の「インターフェース」は,「インターネット」に「直接接続」す るものである。
b 「小型ディスプレイ」 仮に,原告の主張するとおり「小型ディスプレイ」がオプションで あるとしても,そのオプションによって,「演奏者の支援」をするよ うに,「操作に関する情報」を表示することは可能である。
c 「伴奏」 甲1には,「サーバは,伴奏情報を HumBand コーデックを介して演 奏者に送信する。」(59頁)と記載されているから,「伴奏」は「サ ーバから与えられる」ものである。
d 「パフォーマンス」 「performance」は「パフォーマンス」との意味を有する。また,甲 17 1には,サーバが同報送信するものは「演奏者情報」と「伴奏情報」 とを組み合わせた結果であることが記載されているから(59頁4行 〜12行),「performance」には,演奏者の奏した演奏と,伴奏が含 まれていることを理解できる。
(イ) 以上のとおり,本件審決における引用発明1の認定に誤りはない。
イ 本件発明1と引用発明1との対比について 以下のとおり,本件審決における本件発明1と引用発明1との対比に関 し,原告の主張するような誤りはない。
(ア) 「トランスミッタ」 前記ア(ア)aのとおり,引用発明1の「インターフェース」は,イン ターネットに向けて信号等を送信するものであるから,これが「トラン スミッタ」(送信機)を備えたものであることは明らかである。
(イ) 「遠隔サーバー」 甲1には,「サーバ」が開示されており,当該「サーバ」は,HumBandTM 楽器とインターネットを介して接続されるものであって,空間的に離間 したものであるから, 「遠隔サーバー」に該当することが明らかである。
(ウ) 「コンテンツ」 本件発明1は,「コンテンツ」が従うべき規格やプロトコルについて 限定するものではない。
したがって,ハンドヘルド装置内部において,HumBand コーデックに より符号化されたり,MIDI 規格あるいはこれに類する規格に準拠して取 り扱われたりする「伴奏」も,「コンテンツ」に該当することが明らか である。
ウ 相違点の容易想到性の判断について (ア) 相違点1-1 18 液晶ディスプレイ(LCD)は「可視的ラスター・ディスプレイ」に 含まれるところ(甲3),かかるLCDを,操作に関する情報を表示す るために携帯装置に採用することは,周知技術であった(甲22〜24) そして,甲1では,操作に関する情報を表示するために「小型ディス プレイ」を採用しているのだから,上記周知技術を適用して,この「小 型ディスプレイ」を「可視的ラスター・ディスプレイ」にすることは容 易である。
(イ) 相違点1-2 本件審決は,甲25の記載から,「移動無線端末装置」の構成を引用 発明1に適用する旨判断したのではない。
本件審決は,甲25の記載から,電子楽器とサーバとを無線を用いて 接続することが周知技術であると認定した上,同技術を適用するに当た り,「トランスミッタ」の一種である「無線トランスミッタ」を採用す ることは設計変更に過ぎないことを示したものであり,かかる判断に誤 りはない。
(ウ) 相違点1-3 甲1には,演奏者が,ランク1の演奏グループ及び高いレベルの演奏 グループのいずれにも参加可能であることが開示されている(57頁1 8行〜26行)。
したがって,甲1には,ランクが高い演奏者が,参加する演奏グルー プを特定するために,どの演奏グループに参加するかの情報を HumSever に対して送信した後に,演奏を開始することが,実質的に開示されてい る。
そして,かかる情報は演奏グループを特定するものであり,演奏グル ープには少なくとも1人の聴衆が含まれるから,同情報は本件発明1の 19 「少なくとも単独の受信者の識別子」に相当する。
このように,相違点1-3は,甲1に開示されているものであり,少 なくとも,実質的な相違点であるとはいえない。
(エ) 小括 以上によれば,本件審決における相違点1-1,1-2及び1-3の 容易想到性の判断に誤りはない。
3 取消事由2-2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし7の進歩性の判断 の誤り)について ? 原告の主張 本件審決は,本件発明1は引用発明1に基づき容易に発明をすることがで きたものであり,本件発明2ないし7も同様に引用発明1に基づき容易に発 明をすることができたものである旨判断した。
しかしながら,前記2?のとおり,本件発明1は引用発明1に基づき容易 に発明をすることができたものではなく,本件発明1に従属する本件発明2 ないし7も,これと同様に,引用発明1に基づき容易に発明をすることがで きたものではない。
したがって,甲1を主引用例とする本件発明2ないし7の進歩性に関する 本件審決の判断は,誤りである。
? 被告の主張 原告の主張を争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(請求人適格の判断の誤り)について 平成26年法律第36号による特許法の改正により,特許無効審判は「利害 関係人」のみが請求できるものとされ(123条2項),代わりに,「何人も」 申立てをすることができる(113条柱書)特許異議の申立制度が導入された 20 ことにより,現在においては,特許無効審判を請求できるのは,特許を無効に することについて私的な利害関係を有するもののみに限定されたものと解さざ るを得ない。
しかしながら,特許権侵害を理由に民事責任や刑事責任を追及されるおそれ のある関係にある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を 有し,特許無効審判請求を行う利益を有することは明らかである。
これを本件についてみると,前記第2の1?のとおり,本件特許は,平成1 4年5月13日を国際出願日とする特許出願の一部を分割して特許出願され, 平成24年7月6日に特許権の設定登録を受け,現在も存続しているものであ る(甲26)。そして,被告は,インターネット上のサービスの提供を行う会 社であって,原告と一定の競業関係にあるといえるから,過去又は将来の行為 を理由に,本件特許権侵害に係る民事上又は刑事上の責任を追及されるおそれ のある関係にある者に当たるということができる。更に言えば,被告は,原告 が提起した本件特許権の侵害を理由とする不当利得返還請求訴訟(別件特許権 侵害訴訟)において,グーグル合同会社と共同して被疑侵害品を開発した旨主 張されている(乙1)のであるから,原告から本件特許権の侵害を問題にされ るおそれがあることは明らかである。
以上によれば,本件審判の請求人(被告)は,本件特許権を無効にすること について利害関係を有するものと認められる。
したがって,被告に本件審判の請求人適格を認めた本件審決の判断に誤りは なく,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り) について ? 本件明細書の記載等 ア 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のと 21 おりである。
本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲3)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1及び3」については別紙1を参照)。
(ア) 【0001】 発明の分野 本発明はコンピュータ及びネットワークを用いるメッセージの形成及 び分布に関し,更に詳しくは,モバイルテレホンなどの手持型装置を使 用する操作者により形成された聴覚的又は視覚的コンテンツを有するメ ッセージを操作者が分配することを可能にする方法及びシステムに関す る。
【0002】 発明の背景 セルラーフォン(cellular telephone),所謂パーソナル・ディジタル・ アシスタント(PDA)及びハンドヘルド・コンピュータなどのモバイ ル装置の使用は,ほんの数年前の最も楽観的な予想さえも大きく越える 割合で拡大している。セルラーフォンは,安価であり,個人が気軽に持 ち運んでも友人らや娯楽ソースに接触することができるので広く容認さ れている。例えば音楽または動画を再生及び記録するような他のモバイ ル装置も娯楽を提供し,また個人に楽しみを与えるので,広く容認され てきている。
【0004】 専門的なソースにより記録又は分配される音楽及び動画はポップカル チャーの重要な部分である。しかしながら,個人が自分自身の聴覚的又 は視覚的コンテンツを形成し,それを友人らと共有する趣味が広がって 22 いる。残念ながら,音楽及び動画のような聴覚的及び視覚的コンテンツ の形成及び分配には,小型でない即ちセルラーフォンのようには容易に 持ち運べない装置の使用が要求される。セルラーフォンのようなモバイ ル装置を用いて聴覚と視覚のうちの少なくとも一方又は双方を形成及び 分配させる能力が要請される。
(イ) 【0005】 本発明の開示 本発明の目的はモバイル装置を用いる音楽又は動画のようなコンテン ツの形成及び分配を与えることである。
【0006】 本発明の1つの観点によれば,操作者が指示及び第1のコンテンツの 表現の提示を受けるハンドヘルド装置を使用し,このハンドヘルド装置 を介して少なくとも1つの受信者の識別と,操作者により制御された時 間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコン テンツとを与え,遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現と受信 者の識別とを与え,遠隔サーバーに少なくとも1つの受信者へ時間的関 係に従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメ ッセージを送らせる。
【0007】 本発明の他の観点によれば,システムは,ハンドヘルド装置を含み, この装置は無線機と処理回路とを有し,その処理回路は,ハンドへルド 装置に操作者へ指示を表す出力と,第1のコンテンツの表現とを与えさ せ,少なくとも1つの受信者の識別を表す入力と,操作者により制御さ れた時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2 のコンテンツとを操作者から受け取って,無線機を通じて第2のコンテ 23 ンツの表現と少なくとも1つの受信者の識別とを送り,第2のコンテン ツの表現及び少なくとも1つの受信者の識別とを受信して保存するサー バー・サブシステムを含み,少なくとも1つの受信者へ,時間的関係に 従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメッセ ージとを送る。
【0008】 本発明の他の観点によれば,ハンドヘルド装置の操作者の制御の下に 生成されたハンドへルド装置のからの少なくとも1つの信号を受信する サーバー・システムを備え,そのハンドヘルド装置は,第1のコンテン ツの識別子と,操作者により制御された時間的関係に従って第1のコン テンツのハンドヘルド装置による提示に時間的に重なる第2のコンテン ツと,少なくとも1つの受信者の識別とを搬送し,サーバー・システム は,時間的関係を識別する情報を得て,少なくとも1つの受信者へ第1 のコンテンツと,時間的関係に従って配置された第2のコンテンツとを 表すメッセージを受信する。
(ウ) 【0010】 本発明の実施形態 A.概観 図1は,モバイル装置10の操作者がサーバー30と対話して,聴覚 的コンテンツと視覚的コンテンツとの少なくとも一方又はその両方につ いてのオリジナルのコンテンツと予め存在するコンテンツとの組み合わ せを有するメッセージを生成し,これらのメッセージの受信者42,5 2,62のような少なくとも1つの受信者への分配を制御できるシステ ムの模式図である。
【0012】 24 1.アプリケーション 本発明の2つのアプリケーションは本明細書においてはSongMa il及びMusicDIY(do it yourself)と称する。SongMai l及びMusicDIYは,装置10の操作者に,予め存在するコンテ ンツ(例えばバックグラウンド・ミュージックや,操作者により与えら れた付加的なコンテンツなど)を含むメッセージの形成を可能とし,次 いでこのメッセージを受信者が聞くことが可能な形態で少なくとも1つ の受信者へ送信することを可能とさせる。SongMailアプリケー ションにおいては,操作者は音声発話などの聴覚的コンテンツを与える。
MusicDIYアプリケーションにおいては,操作者は,装置10の 少なくとも1つの入力デバイスを起動することにより音楽機器を再生す るのと同様な方式で聴覚的コンテンツを与える。
(エ) 【0029】 B.アプリケーション SongMail及びMusicDIYアプリケーションについての 実施の詳細の殆どは,装置10の特性と,装置10,サーバー30及び 受信先をリンクする交信技術とに部分的に依存している。本項目におけ る説明は各アプリケーションの概念的な全体像を与えるものであり,実 際的な実施に必要であろう詳細な考察については省略してある。付加的 な考察は,様々な実施技術の説明に関して以下に説明する。
【0030】 1.SongMail 操作者は,聴覚入力及び出力トランスデューサを有する電話機又は他 の装置を用いてSongMailメッセージを形成し得る。… 【0031】 25 a)設定 SongMail処理の1つの概念的実施における各ステップを図3に示す。この処理のステップ101において,操作者は,如何なる方式にせよ特定の実施のために適宜な方式でSongMailアプリケーションを開始する。…【0032】b)形成 ステップ114において,操作者はそのメッセージについての「バックグラウンド・ミュージック(背景音楽)」を選択する。好適な実施形態においては,操作者は,タイトル,アーティスト,音楽のタイプ,または,この音楽により搬送されるメッセージ又は雰囲気によりバックグラウンド・ミュージックを選択することができる。また,このシステムは,記憶デバイス33に記憶された操作者の嗜好に従ってフィルタリングされて配置されたコンテンツ・データベースにおける幾つかのみを操作者へ示すようにしてもよい。
【0033】 用語「バックグラウンド・ミュージック」は,操作者により与えられた「操作者コンテンツ」に対してシステムにより与えられた予め存在するコンテンツを指すものとして用いる。この予め存在するコンテンツはバックグラウンド・ミュージックとする必要はないが,このような音楽は人気のある選択となるであろう。1つの実施においては,サーバー30は,予め存在するコンテンツを記憶デバイス33上のデータベースに記憶させ,操作者が選択したコンテンツを装置10へ送信する。他の実施においては,予め存在するコンテンツは,例えば取り外し式ソリッドステート・メモリ・デバイスにより装置10に記憶される。
26 【0034】 ステップ115において,システムは,選択されたバックグラウンド・ミュージックの演奏を聴覚出力トランスデューサ23を通じて提示し,操作者から聴覚入力トランスデューサ22を通じて操作者コンテンツを受け取る。ステップ116は操作者がバックグラウンド・ミュージックを聞きながら,例えば歌うことを可能とする。これは操作者に,操作者コンテンツをバックグラウンド・ミュージックの提示に時間的に重畳させ,この重畳の時間的関係を制御させることを可能にする。
【0035】 ステップ115及び116は,ステップ117が操作者コンテンツの形成が終了したことを判断するまで繰り返される。次にこの処理はステップ103へ続く。代替的に,方法は,操作者が少なくとも1つの受信者を特定して,その受信先へ,メッセージと共に,形成したばかりの操作者コンテンツを送信することを可能とするステップへ続けてもよい。
メッセージを送信し得る1つの方式を以下に示す。好ましくは,方法は,操作者がメッセージを送信することを可能にするステップへ直接に進むならば,一つのステップは,操作者がメッセージの送信を断つことを可能にするように与えられる。
【0036】 好ましくはサーバー30は記憶デバイス30に,操作者コンテンツを含むが,操作者により選択されたバックグラウンド・ミュージックを含まないメッセージの表現を記憶する。サーバー30は,選択されたバックグラウンド・ミュージックの識別と,これら2つのコンテンツの間の時間的関係の指標とのみを記憶する。バックグラウンド・ミュージックそれ自身は,他の場合にはコンテンツ・データベースに記憶される。メ 27 ッセージは受信先へ或いは操作者へ校閲するために送信され,バックグラウンド・ミュージックと操作者コンテンツとの表現は,これら操作者コンテンツが与えられたときに操作者により観察された2つのコンテンツの間の時間的関係を実質的に保存する方式で組み合わせられる。
【0041】c)聞く ステップ124において,操作者は既に形成されたメッセージを校閲のために選択する。ステップ125においては,装置10は,操作者コンテンツと,そのメッセージについて選択されたバックグラウンド・ミュージックとの表現を提示する。その提示は,操作者コンテンツが初めに与えられたときに操作者により観察された時間的関係を実質的に保存する方式で,操作者コンテンツの表現と選択されたバックグラウンド・ミュージックの表現とを重ね合わせる。この提示は,ステップ126が,提示が終了したか,或いは例えばボタンを押すことにより操作者が提示の終了を要請したかを判断するまで継続する。この処理はステップ103へ続く。
【0042】d)削除 ステップ134において操作者は,既に形成されたメッセージを削除するように選択する。ステップ135において,削除を確認するように要請する。削除が確認されたなら,メッセージはステップ136で削除されて,処理はステップ103に続く。削除が確認されないならば,処理はステップ103へ続く。
【0043】e)送信 28 ステップ144において,操作者は既に形成されたメッセージを送信するように選択される。ステップ145において,操作者は少なくとも1つの受信者を識別する。セルラーフォンを用いる好ましい実施においては,操作者は電話機上の少なくとも1つのボタンを押して1つの電話番号を特定するか,操作者によって既に確立されて,サーバー30により記憶デバイス33に記憶された電話番号又はeメール・アドレスのリストから1つの受信者を選択することができる。代替的な実施においては,操作者は文字数字を特定する公知技術に従って電話機上のボタンを押すことによりeメール・アドレスを特定することが可能になる。選択的なステップ146は,メッセージに含めるべき何らかの付加的なメッセージ(例えばメッセージを受信者へ紹介するテキスト又は視覚的イメージ)を操作者に選択させることを可能とする。この処理はステップ103へ続く。
【0044】 ステップ147において,サーバー30は,メッセージの表現をステップ145において指定された各受信先へ,その各受信先に適宜な送達方法により送信する。メッセージの表現は様々な方法を用いて伝達し得る。「直接」方式は,メッセージのオーラル・コンテンツを,所謂音声メール(ボイス・メール)を音声メール加入者へ伝達する方式と殆ど同様な方式で受信先へ直接に伝達する。この直接法は,聴覚出力トランスデューサを有し,処理能力が殆ど又は全く無い通常の電話機又は他のデバイスへの伝達に適している。「通知」方式は,メッセージを検索するための指示を有する通知のみを伝達する。通知方式は,通常の電話機を含む基本的に任意の形式の装置への伝達に適するが,特に適するのは,例えばSMSの方式によるセルラーフォンへの伝達,eメールの方式に 29 よるコンピュータへの伝達である。音声通知は通常の電話機又はセルラ ーフォンへ送信することができる。受信先デバイスの操作者は,通知に 含まれる指示に従うことにより実際のメッセージ・コンテンツを検索で きる。以下,伝達の方式について,より詳細に説明する。
【0045】 伝達方式は,ステップ145において明確に指定してもよいが,場合 によっては,受信先の認証から正しい方法を推論することを可能とし得 る。例えば,受信先eメール・アドレスから,又はモバイル装置の電話 番号から認証方式を推論することを可能とし得る。
【0046】 使用された伝達方式に拘わらず,受信先がメッセージの聴覚的コンテ ンツを最終的に受信するとき,メッセージ・コンテンツの提示は,操作 者コンテンツが最初に与えられたときに操作者により観察された時間的 関係を実質的に保持する方式で,選択されたバックグラウンド・ミュー ジックの表現を有する操作者コンテンツの表現を含む。
イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書には,本件発明1に関し,次の ような開示があることが認められる。
個人が自分自身の聴覚的又は視覚的コンテンツを形成し,これを友人ら と共有する趣味が広がっているが,従来技術では,音楽及び動画のような 聴覚的及び視覚的コンテンツの形成及び分配には,容易に持ち運べない装 置の使用が要求されるという課題があった(【0004】)。
「本発明」は,モバイル装置を用いた音楽又は動画等のコンテンツの形 成及び分配を目的としたものであり(【0005】),上記課題を解決す るために,操作者が,ハンドヘルド装置を介して,遠隔サーバーに対し, 少なくとも1つの受信者の識別と,操作者により制御された時間的関係に 30 従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの表現 とを与え,前記遠隔サーバーにより,前記少なくとも1つの受信者に対し, 前記時間的関係に従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツ とを表すメッセージを送らせるという構成を採用した(【0006】)。
上記構成を採用することにより,ハンドヘルド装置の操作者において, 同装置を用いて,遠隔サーバーに対し,同人により制御された時間的関係 に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの表 現を与え,前記遠隔サーバーにより,前記時間的関係に従って配置された 第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメッセージを形成し,この メッセージを,前記操作者が指定した少なくとも1つの受信者に対して分 配することができるという効果を奏する(【0032】〜【0036】, 【0041】,【0043】,【0044】)。
? 甲1の開示事項 甲1(国際公開第00/72303号公報)には,次のような記載がある (下記記載中に引用する「図1ないし4及び図16」については別紙2を参 照。また,訳文は,甲1に対応する公表特許公報である甲2(特表2003 -500700号公報)による。) ア 本明細書で説明する装置は,電子的音声制御式楽器である。これは,本 質的に,電子的カズーである。演奏者は,マウスピース内にハミングし, そしてこの装置は,演奏者の声に応じてそのピッチとボリュームが変化す る楽器のサウンドを模倣する。
(中略) 最も単純な構成の場合,楽器は,ある種のホーンと似ており,便宜上, 本明細書の全体を通してこれをハムホーン(HumHorn)と呼ぶ。しかしながら, 製作者は,必要に応じて,楽器の形状と外観を,任意の伝統的な楽器のサ 31 ウンドに一致させるように作ることができるし,あるいは,その形状を, 全く新規にすることも出来る。ハムホーンの物理的設計の機能要件は,以 下のみである。
・携帯型であること。
・演奏者の声が入るマウスピースを有すること。
・サウンドが生成される 1 つまたは複数のスピーカを有すること。
・回路とバッテリが格納されかつ指操作式制御部を配置することができる 本体を有すること。
(6頁1行〜7頁20行(甲2【0015】【0018】))イ ハムホーンは,出力が人間の声によって制御される携帯型音楽シンセサ イザである。図1は,ハムホーンの機能を示す。演奏者 10 は,楽器 12 の マウスピース 14 内に歌うかまたはハミングする。これに応じて,ハムホー ンは,楽器の出力 13 に,ピッチとボリュームが両方とも演奏者の声のニュ アンスに厳密に従う音を生成する。演奏者は,ハムホーンがどの楽器を模 倣するかを選択することができ,選択した楽器を単に歌うのみで演奏する という印象が与えられる。
(19頁5行〜12行(甲2【0035】))ウ ハムホーン自体は,既知または新規の如何なる楽器に似ていてもよい。
図2に,1つの可能な構成を示す。このモデルでは,マウスピース 5 が, マイクロフォン 9 に直接つながっている。スピーカは,チャネルが中央ハ ウジング 11 を通って,サウンドが伝播されるベル部分 7 につながるダブ ルコーン部分 3 の中にある。したがって,このハウジングは,生成される サウンドに音響的品質を与える。電子回路とバッテリは,中央ハウジング 内に収容され,中央ハウジングは,また,たとえば押しボタン 1b や選択ス イッチ 1a のいくつかの指操作式制御部を保持する。これらの制御部によ 32 り,演奏者は,楽器選択,ボリューム,オクターブなどのシンセサイザのパラメータを変更することができる。
図3は,ハムホーンの論理構成を示す。マイクロフォン 30 は,アナログ信号をアナログ デジタル変換器(ADC)31 に送り, ・ ADC31 は,一定の周波数,好ましくは 22,050Hz で信号をサンプリングする。ADC は,一度に1つのサンプルを変換し,それをバンドパス・フィルタ 32(これは,高すぎる周波数または低すぎる周波数を除去することによって信号を平滑化する)に送る。フィルタにかけられた各サンプルは,次に,信号解析モジュール(SAM)33に送られる,そこで,それより前のサンプルの文脈内で解析される。サンプルを解析した後,SAM は,シンセサイザ 38 に,次のような情報を渡す。
・シンセサイザが,ノートを演奏しているか否か。演奏している場合は,・現在の周波数。
・現在のボリューム(ラウドネス)。
・新しいノート・アタックの状態を検出したか否か。
シンセサイザは,SAM からのこの情報の他に,指操作式制御部 37 から入力を受け取る。このような制御値は,次のもの(但し,これらに制限されない)を含む様々なシンセサイザ・パラメータを修正することができる。
模倣する現在の楽器(音源)・演奏者の声からのオフセット。すなわち,合成ノートを,歌われているノートと同じピッチで演奏するか,合成ノートをそのピッチよりも上または下の指定した音程で演奏するか否か。
・シンセサイザは,SAM(連続的ピッチ追跡)によって検出された正確な周波数を常に演奏すべきか,そうではなく,指定された音階(不連続的ピッチ追跡)でその周波数に最も近いノートを演奏すべきか。
・不連続ピッチ追跡に使用する音階,たとえば,半音階,長調,短調,ブ 33 ルース。
・現在のピッチが,所与の音階における主音(第1のノート)か否か。
次に,出力サンプルは,渡されたすべての情報に従ってシンセサイザに よって生成される。また,この出力サンプルは,デジタル-アナログ変換器 (DAC)34 に送られる。DAC は,受け取ったデジタル出力サンプルのストリー ムから,アナログ出力信号を生成する。この信号は,増幅器 35 に送られた 後,スピーカ 36 によって伝播される。
(19頁31行〜21頁20行(甲2【0037】〜【0040】))エ 本明細書の残りの部分は,以上概説した構成要素の詳細を考察する。最 初,(図 3 の)ソフトウエア構成要素について説明する。次に,ハードウ ェア構成要素について説明する。
ソフトウエアの構成要素 以下の考察では,最初に,フィルタについて説明する。次に,周波数検 出モジュール(FDM),演奏およびアタック決定モジュール(PADM),および ラウドネス追跡モジュール(LTM)の 3 つのサブモジュールからなるコア ソ ・ フトウエア構成要素,すなわち SAM について説明する。次に,サウンド・ シンセサイザ・モジュール(SSM)について説明する。
(21頁22行〜32行(甲2【0041】【0042】)オ 図 16 には,SSM 38 の内部構造が示されている。SSM は,メッセージ・プ ロセッサ(MP)160 とサウンド・ジェネレータ(SG)161 の 2 つの主構成要素 からなる。ピッチ変換ボックスとボリューム変換ボックスは,後に説明さ れる相対的に重要でない機能である。MP は,SAM および FAC によって生成 された情報を取得し,そして SG に送るメッセージを生成する。SSM の最も 特徴的な部分は,メッセージ・プロセッサとサウンド・ジェネレータの間 の非同期関係である。MP は,SAM から,好ましくは 8,000Hz,11,025Hz ま 34 たは 22,050Hz の規則的な間隔で信号を受け取り,そして SG は,好ましく は同じ割合で,サウンド・サンプルを規則的な間隔で生成する。しかしな がら,メッセージは,MP から SG に規則的な間隔で送られない。そうでは なく,メッセージは,SG からの出力を変更する必要があるときにのみ送ら れる。
SG は,楽器からのサウンドのノートを一度に 1 つ生成する。これにより, 自動的かつ他の支援なしに,要求されたノートを要求されたボリュームで 演奏する要求された楽器を模倣する出力信号,すなわち一連の出力サンプ ル,を生成することが可能になる。ノートの演奏が開始されると,そのノ ートは,停止されるまで演奏を続ける。MP は,SG に,ノートを開始または 終了するように伝えるメッセージを送る。ノートが演奏されている間,MP は,ノートのピッチとボリュームを変更するメッセージを送ることができ る。MP は,また,模倣している楽器を SG に伝えるメッセージを送ること ができる。
(42頁16行〜27行(甲2【0092】【0093】))カ ハードウェアの構成要素 ハムホーンは,それぞれ注文品または既製品の次のようなハードウェア 構成要素からなる: 1)以下の構成要素ならびにバッテリを全て収容するハウジング; 2)マイクロフォン; 3)1つまたは複数のスピーカ; 4)a)ADC b)以下のものを実行するための 1 つまたは複数のチップ i)SAM ii)MP 35 iii)SG c)DAC d)増幅器,および e)ボリューム制御 を含む電子回路; 5)指操作式制御スイッチ,ボタンおよびダイヤル;そして 6)オプションとして,演奏者がパラメータを選択しおよび/またはどの パラメータが設定されているかを示すことが出来る小型ディスプレイ。
(49頁11行〜50頁12行(甲2【0108】))キ ネットワーク拡張 以下の概念は,HumBandTM 技術に関係し,特に,たとえばインターネット 装置として,インターネットに関する HumBandTM の使用に関係する。
(56頁10行〜14行(甲2【0120】))ク (ウェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏) このサービスを使用するために,人は,HumJam.com ウェブ・サイトに, 名前とパスワードを用いてログインした後,オンライン・グループのメン バになる。グループ内のそれぞれの人は,如何なる特定の時刻において, 視聴者または演奏者の何れかである。
視聴者:聴衆メンバとして,演奏中に,演奏について実時間で批評し議 論することができる。特定の意味を有しかつ演奏者に送ることができる特 殊な記号または聴覚アイコンを設けることも出来る。その例には,演奏者 が聞く拍手喝采,ブラボーの叫び,野次,笑い,喝采および口笛がある。
さらに,各視聴者は,演奏の質に関してその視聴者の主観的意見を表現す るために,一回りの投票に参加することができる。
演奏者:演奏者は,聴衆の前で生で演奏したいという演奏者固有の密か 36 な望みのため,セッションに魅力を感じる。これは,刺激的でかつ楽しく, インターネットの匿名性ならびに HumBandTM によって提供される偽装した 音声により,舞台上の演奏よりも恐怖が少ない。自分の家の隔離された快 適さの中で,数十または数百(あるいは数千)の観客のために演奏する状 況を想像してみる。演奏中,HumBandTM 楽器は,インターネットにインタフ ェースを介して直接接続され,これにより,演奏は,HumJam.com ウェブ・ サイトを介して生で送信させることができる。演奏者は,視聴者から生の フィードバックを受け取り,演奏の終わりに,そのメンバによる格付けを 受け取ることができる。
(投票は,以下の3つの目的に対して行われる:) ・ 演奏グループのレベルを上げ/下げする。(投票による)ある人のラ ンクが,十分に高いレベルまで上げられると,その人は,より高い格付 けレベルの演奏グループに参加することができる。その人は,そのレベ ルで,等しく格付けされた演奏者の聴衆に対し演奏する。たとえば,エ ントリ・レベルが,ランク1であるとする。ランク1では,誰でも演奏 することができ,誰でも投票することができる。十分に多くの票を得た 人は,ランク2に移ることができる。ランク2では,その人は,ランク 2またはそれ以上のランクに達した他の人のみから評価される。
(56頁25行〜57頁26行(甲2【0121】【0122】))ケ 国際的な試み。音楽が,文化/言語の障壁を取り除くため,このような 対話式演奏は,オンラインのみの妨げのない真の国際コミュニケーション の例の 1 つになる。インターネットと HumBandTM は,これまで決して見られ なかった一種の将来の国際コミュニケーションの先触れとなる可能性があ る。
技術的問題 37 演奏者と視聴者はそれぞれ,インターネット対応の HumBandTM を介して参 加することができる。演奏者はすべて,情報を自分の HumBandTM を介して送 信する。視聴者はすべて,そのような演奏を,自分の HumBandsTM/PCs/PC ヘ ッドホン/HumBandTM ヘッドホン/または他の HumBand コーデック使用可能装 置を介して聴く。
演奏者は,HumJam.com HumServerTM によって提供される伴奏に沿って演 奏する。サーバは,伴奏情報を HumBand コーデックを介して演奏者に送信 する。伴奏は,使用可能な任意の装置で演奏される。HumBand コーデック は,MIDI ときわめて似ているが,おそらく音声制御に最適化されている。
演奏者は,この伴奏と同期して演奏し,そして彼の信号は,この同じコ ーデックを介してサーバに送られる。次に,サーバは,その演奏を,聴衆 に同報通信するのみである。聴衆に対しては,演奏者と伴奏は,完全に同 期している。待ち時間の問題はない。その理由は,サーバが,演奏者の信 号を受け取り,かつサーバの得た信号が,演奏者が聞くように演奏を再生 できるように,その信号を,適切に時間を合わせた伴奏に組み合わせるこ とができるからである。したがって,わずかな遅延があるが,それでもな お,演奏は,生で同報通信され,かつ忠実度は十分である。
視聴者は,コメントと票をサーバに送り,サーバは,それを計数し,と りまとめ,分類する。
(58頁15行〜59頁15行(甲2【0124】〜【0128】))? 引用発明1の認定について ア 前記?の記載事項によれば,甲1には,@甲1の「HumBandTM 楽器」 「ハ は ムホーン」をネットワーク対応に拡張したものであり,インターネットに 直接接続されるインターフェースを備えること(前記?キ,ク),A「ハ ムホーン」は,「マイクロフォン」,「1つまたは複数のスピーカ」,「演 38 奏者へ出力を提示する小型ディスプレイ」,「演奏者から入力を受ける押 しボタン 1b や選択スイッチ 1a の指操作式制御部」及び「SAM,MP, SGおよびボリューム制御を含む電子回路」を備えること(同ウ,カ), Bハムホーンはソフトウエアを備えており,当該ソフトウエアは,ハムホ ーンに備わる電子回路で実行されること(同ウ,エ),C演奏者による演 奏の際に,サーバから伴奏が与えられ,当該伴奏は HumBand を構成するス ピーカーにより演奏されること(同ケ),D演奏者の演奏する信号が「マ イクロフォン」を通じて,HumBand に入力されること(同ア,ウ)が開示さ れているといえる。また,上記Dの信号が,インターネットに接続するイ ンターフェースを通じてサーバに送られることは,自明である。
そうすると,以上に認定した事項及び前記?の甲1のその他の記載事項 によれば,本件審決が認定したとおり,甲1には引用発明1が開示されて いると認められる。
したがって,本件審決における引用発明1の認定に誤りはない。
イ これに対し原告は,本件審決における引用発明1の認定には,@「ハム ホーンのネットワーク拡張が HumBand?であって」,「インターフェース」 が「インターネットに直接接続される」ものであるとし,A「ハムホーン を演奏者が操作する際に,演奏者を支援するように,その操作に関する情 報を小型ディスプレイを通して表示させ」ているとし,B「伴奏」は「サ ーバから与えられる」ものであるとし,C「パフォーマンス」は,演奏の みを意味するのにすぎないのに,これを「演奏」と「伴奏」とを合体させ たものと理解した点に誤りがあり,甲1に開示された発明は甲1発明と認 定すべきである旨主張する。
まず,上記@の点について,甲1には,「インターネット装置として, インターネットに関する HumBandTM の使用に関係する。 (前記?キ) 「演 」 , 39 奏中,HumBandTM 楽器は,インターネットにインタフェースを介して直接接続され,これにより,演奏は,HumJam.com ウェブ・サイトを介して生で送信させることができる。」(同ク)との記載があることから,HumBandTM 楽器には,「インターネットに直接接続されるインターフェース」が備わっていることの開示があると認められる。
次に,上記Aの点について,甲1には,「小型ディスプレイ」について,「演奏者がパラメータを選択しおよび/またはどのパラメータが設定されているかを示すことが出来る」との記載があり(前記?カ),「パラメータを選択」することは「操作」することであって,「どのパラメータが選択されているか」は「操作に関する情報」であるといえる。したがって,甲1には,「ハムホーンを演奏者が操作する際に,演奏者を支援するように,その操作に関する情報を小型ディスプレイを通して表示させ」ることの開示があると認められる。
また,上記Bの点について,甲1には, 演奏者は, 「 HumJam.com HumServerTMによって提供される伴奏に沿って演奏する。サーバは,伴奏情報を HumBandコーデックを介して演奏者に送信する。伴奏は,使用可能な任意の装置で演奏される。」との記載があることから(前記?ケ),演奏者による演奏の際に,サーバから伴奏が与えられることの開示があると認められる。
さらに,上記Cの点について,甲1には,「演奏者は,この伴奏と同期して演奏し,そして彼の信号は,この同じコーデックを介してサーバに送られる。次に,サーバは,その演奏を,聴衆に同報通信するのみである。
聴衆に対しては,演奏者と伴奏は,完全に同期している。待ち時間の問題はない。その理由は,サーバが,演奏者の信号を受け取り,かつサーバの得た信号が,演奏者が聞くように演奏を再生できるように,その信号を,適切に時間を合わせた伴奏に組み合わせることができるからである。した 40 がって,わずかな遅延があるが,それでもなお,演奏は,生で同報通信さ れ,かつ忠実度は十分である。」との記載がある(前記?ケ)。かかる記 載によれば,甲1には,聴衆に同報通信される「演奏」が,演奏者の演奏 に伴奏が同期したものであることの開示があると認められる。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
なお,原告は,上記のほかにも,本件審決における引用発明1の認定に 誤りがある旨るる主張するが,いずれも前記アの認定を左右するものでは ない。
? 本件発明1と引用発明1の対比について ア 前記?のとおり,本件審決における引用発明1の認定に誤りはない。
そして,本件発明1と引用発明1を対比すると,本件審決が認定したと おり,一致点及び相違点を認定することができる。
したがって,本件審決における本件発明1と引用発明1の対比に誤りは ない。
イ これに対し原告は,本件審決が,本件発明1の「トランスミッタ」 (@), 「遠隔サーバー」(A)及び「コンテンツ」(B)を引用発明1との一致 点であると認定した点は誤りである旨主張する。
まず,上記@の点については,前記?アのとおり,甲1には,引用発明 1の「インターフェース」が「インターネットに直接接続される」もので あることが記載されている一方,当該インターフェースが,原告の主張す る「MIDI インターフェース」であることを明示する,又は示唆する記載は ない。そして,インターネットに接続されるインターフェースである以上, 情報の送受信機能は不可欠であるから,かかる機能を果たす部分として「ト ランスミッタ」を備えるものと理解できる。
次に,上記Aの点について,上記のとおり,甲1には,引用発明1の「イ 41 ンターフェース」 MIDI インターフェースであることの開示はない。
が そして,引用発明1の「サーバ」は,HumJam.com というウェブ・サイトのサーバーであることから(前記?ケ),同サーバは,空間的にも HumBandTM 楽器から離間しているものであって,「遠隔サーバー」であることを理解できる。
さらに,上記Bの点について,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「第1のコンテンツ」に関し,i)「プログラム」は,「出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ」るものであること,ii)「プログラム」は,「入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」る「第2のコンテンツ」が,操作者により決定された関係に従って,当該「第1のコンテンツ」の提示に時間的に重なるものであること,iii) 「遠隔サーバー」が,「前記操作者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を前記少なくとも単独の受信者が受信するように,前記更なる表現を送信させる」ものであることの記載があるに過ぎず,原告の主張するように「コンテンツ」が「音や映像などのメッセージそのもの」であると解すべき根拠となる記載はない。
そして,上記特許請求の範囲の記載によれば,本件発明1は,出力デバイスを通じて操作者に対し,「第1のコンテンツの表現」を提示するものであるから,当該「第1のコンテンツ」が,音そのものではなく所定のコーデックに従う「演奏情報」を含み得ないものであるとはいえない。
したがって,本件審決が,引用発明1の「前記伴奏に同期する演奏者の信号を前記マイクロフォンを通じて演奏者から受け取」らせることは,本件発明1の「操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提 42 示に時間的に重なる第2のコンテンツ…を前記入力デバイスを通じて操作 者から受け取らせ」ることに相当する旨認定した点に誤りはない。
以上のとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
なお,原告は,上記のほかにも,本件審決における本件発明1と引用発 明1との対比に誤りがある旨るる主張するが,いずれも前記アの認定を左 右するものではない。
? 相違点の容易想到性の判断 事案に鑑み,相違点1-3の容易想到性の有無から判断する。
ア 「少なくとも単独の受信者の識別子」の意義 (ア) 本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明 1の「少なくとも単独の受信者の識別子」とは,「ハンドヘルド装置」 が,同装置に備わる「入力デバイス」を通じて,「操作者により決定さ れた関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコン テンツ」と共に,「操作者から受け取」るものであり,同装置に備わる 「無線トランスミッタを通じて,」同装置「から空間的に離間した遠隔 サーバー」に送られ,「この遠隔サーバーが」,「操作者により決定さ れた関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを 表す更なる表現」を,当該「少なくとも単独の受信者」「が受信するよ うに」「送信」するものであることを理解できる。
(イ) 次に,前記?イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本 発明」は,モバイル装置を用いる音楽又は動画のようなコンテンツの形 成及び分配を目的とするものであり,本件発明1の構成を採用すること により,ハンドヘルド装置の操作者において,同装置を用いて,遠隔サ ーバーに対し,同人により制御された時間的関係に従って第1のコンテ ンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの表現を与え,前記遠隔 43 サーバーにより,前記時間的関係に従って配置された第1のコンテンツ と第2のコンテンツとを表すメッセージを形成し,このメッセージを, 前記操作者が指定した少なくとも1つの受信者に対して分配することが できるという効果を奏するものである旨が記載されており,この点に本 件発明1の技術的意義があると認められる。
(ウ) 以上の本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明 細書の記載に鑑みると,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別 子」とは,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更 なる表現」を受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装 置の操作者が,同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子によ り識別される特定の者を,前記更なる表現を受信する者として指定でき る機能を有するものであり,これにより,受信者は,特段の操作を要す ることなく,上記表現を受信することができるものと解される。
また,本件明細書の「本発明の実施形態」には,操作者が少なくとも 1つの受信者を識別する方法として,「1つの電話番号を特定する」方 法,「遠隔サーバーに記憶された電話番号又はeメール・アドレスのリ ストから1つの受信者を選択する」方法があり,当該遠隔サーバーにお いて,上記方法によって指定された受信先に対し,適宜な送達方法によ り上記更なる表現を送信することが記載されており(【0043】,【0 044】),このことも,上記解釈を裏付けるものといえる。
イ 甲1の開示事項 前記?ケのとおり,甲1には,演奏者と視聴者(聴衆)はそれぞれ,イ ンターネット対応の HumBandTM を介して,演奏グループに参加することがで き,演奏者はすべて,情報を自分の HumBandTM を介して送信し,視聴者はす べて,そのような演奏を,自分の HumBandsTM を介して聴くことが記載され 44 ている。
そして,前記?クのとおり,甲1には,「このサービス(ウェブ/チャ ット型サービスによるグループ対話式音楽演奏)を使用するために,人は, HumJam.com ウェブ・サイトに,名前とパスワードを用いてログインした後, オンライン・グループのメンバになる。」と記載されていることから,引 用発明1の HumBandTM 楽器において,「パフォーマンス」の「聴衆」となる には,HumJam.com ウェブ・サイトに,名前とパスワードを用いてログイン し,所定のランクのオンライン・グループのメンバになる必要があること を理解できる。一方,甲1には,かかる方法のほかに,HumBandTM 楽器にお いて,「パフォーマンス」の「聴衆」となる方法は記載されておらず,そ の示唆もない。
そうすると,仮に,被告の主張するとおり,甲1において,「演奏者」 が「演奏グループ」(オンライン・グループ)の「ランク」を「HumBandTM 楽器」に入力して,自己の参加する「ランク」を選択できることが開示さ れているとしても,甲1の記載からは,かかる選択によって,当該「ラン ク」に格付けされた者が当然に「パフォーマンス」の「聴衆」と指定され るものではなく,「聴衆」となるには,上記のような方法で所定のランク のオンライン・グループのメンバになる必要があることを理解できる。
ウ 相違点の容易想到性 前記アのとおり,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」と は,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更なる表現」 を受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装置の操作者が, 同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子により識別される特定 の者を,前記更なる表現を受信する者として指定できる機能を有するもの と解される。
45 一方,前記イのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件発明1の 「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を果たすも のではないから,これに相当するものとはいえない。
そうすると,本件審決が,「ランク」を「少なくとも単独の受信者の識 別子」と呼ぶことは任意であるとして,両者が実質的に同一であることを 前提に,当業者が相違点1-3に係る本件発明1の構成を容易に想到し得 ると判断したことは,その前提を誤るものといえる。
そして,演奏者から受け取った信号と伴奏とを組み合わせたパフォーマ ンスを,サーバにアクセスしている聴衆に同報通信する構成により,「ウ ェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏」を実現した引 用発明1において,「少なくとも単独の受信者の識別子」を,演奏者に入 力させる構成を採用する動機付けとなる記載は,甲1には見当たらず,ま た,かかる構成を採用することが,「ウェブ/チャット型サービスによる グループ対話式音楽演奏」における周知技術であるとも認められない。
したがって,相違点1-3に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に 想到できたものであるとは認められない。
エ これに対し被告は,甲1には,ランクが高い演奏者が,参加する演奏グ ループを特定するために,どの演奏グループに参加するかの情報を HumSever に対して送信した後に演奏を開始することが,実質的に開示され ており,かかる情報は演奏グループを特定するものであって,演奏グルー プには少なくとも1人の聴衆が含まれるから,同情報は本件発明1の「少 なくとも単独の受信者の識別子」に相当するものであり,相違点1-3は 甲1に開示されている,あるいは,少なくとも実質的な相違点ではない旨 主張する。
しかしながら,前記ウのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件 46 発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を 果たすものではなく,これに相当するものとはいえない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
オ 小括 以上によれば,相違点1-1及び1-2の容易想到性について検討する までもなく,本件発明1は,引用発明1及び周知技術1に基づき容易に発 明をすることができたものであるとはいえず,これに反する本件審決の判 断は誤りである。
3 取消事由2-2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし7の進歩性の判断 の誤り)について 本件審決は,本件発明2ないし7と引用発明1は,いずれも相違点1-1な いし1-3で相違するところ,かかる相違点は容易想到であって,その他の相 違点も容易想到であるから,本件発明2ないし7は,引用発明1及び周知技術 に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断した。
しかしながら,前記2?のとおり,本件審決のした本件発明1の容易想到性 の判断に誤りがあるから,本件発明2ないし7の容易想到性を認めた本件審決 の上記判断は,その前提を欠くものであって,誤りである。
したがって,原告主張の取消事由2-2は理由がある。
4 結論 以上によれば,原告主張の取消事由2-1及び2-2は理由があるから,本 件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 47