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関連審決 不服2002-13428
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成22行ケ10221審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ39審決取消請求参加事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  実施 /  拒絶査定 /  誤記の訂正 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  釈明 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 241号 審決取消請求事件
原告A
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 船越 巧子
同 内田 博之
同 高木 進
同 涌井 幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-13428号事件について平成15年4月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成13年4月9日,名称を「有機スプリング,波スプリング及びその製造方法」とする発明につき特許出願(特願2001-145620号。以下「本件出願」という。請求項の数は13である。)をし,これについて平成13年11月26日付けで手続補正をし(以下「本件第1補正」という。),平成14年6月13日に拒絶査定を受けたので,平成14年7月18日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2002-13428号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成14年7月18日付けの手続補正書により明細書の特許請求の範囲の補正(以下「本件第2補正」という。)をした。特許庁は,審理の結果,平成15年4月21日,本件第2補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月14日,その謄本を原告に送達した。
2 本件第2補正前の特許請求の範囲【請求項1】(本件第1補正後のもの。別紙図面A参照) 「ばね性のある線材を,連続した波形で側面形状を直線に成形したエレメントの,各頂点部を直線上に並べ,各頂点部を連続した別部材により固定した,U字ばね形状のばね構成要素が各々独立して連続した,段階的にばね定数を変えることが出来る,U字ばねの面外荷重を特徴とするクッション材。」(以下,この請求項1の発明を「本願発明」という。) 3 本件第2補正後の特許請求の範囲【請求項1】 「連続した波形に成形したばね材(エレメント)とそのエレメントを固定する別部材とを有するクッション材において,エレメントの片方の各頂点部を直線上に配置し,この各頂点部を連続した別部材により固定した,U字ばね形状のばね構成要素が各々独立して連続していることを特徴とするクッション材。」(以下,この請求項1の発明を「本願補正発明」という。) 4 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本件第2補正は,本願発明の「ばね性のある線材を,連続した波形で側面形状を直線に成形したエレメント」から,「側面形状を直線に成形した」を削除するとともに,本願発明の「U字ばね形状のばね構成要素が各々独立して連続した,段階的にばね定数を変えることが出来る,U字ばねの面外荷重を」から,「段階的にばね定数を変えることが出来る,」,「U字ばねの面外荷重を」を削除するなど,6請求項について,特許請求の範囲の記載事項の一部を削除するか,又は,記載事項の一部に別の概念を付加するものであり,本件第2補正前の特許請求の範囲拡張したものであることが明らかであるから,特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲減縮を目的とするものに該当しないばかりか,同条同項第1号に規定する請求項の削除,同条同項第3号に規定する誤記の訂正,同条同項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするもののいずれにも該当しない,A本願発明の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,審決と同様に「当初明細書」という。)には,本件第1補正により補正された本願発明の請求項1の「段階的にばね定数を変えることが出来る,U字ばねの面外荷重を特徴とする」との記載(以下,審決と同様に「記載事項A」という。)における「段階的に」,「U字ばねの面外荷重」との記載はなく,それを示唆する記載も見当たらないから,本件第1補正は,特許法第17条の2第3項に規定される要件を満たしているとは認められず,本件出願は,特許法49条1号により拒絶されるべきである,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,記載事項Aが,実際には当初明細書に記載されているにもかかわらず,記載されていない,と誤って判断したものであり,この誤りが結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 本願発明の全体的な構成と当初明細書の記載について 当初明細書には,次の記載がある。
「【0006】直線スプリング,丸スプリング エレメントを必要な長さに製作し,このエレメントをベースの溝に埋め込み固定する。図1a,側面図1のエレメントを用い直線状に4個並べた場合の直線スプリングが図2aである。」(甲3,2頁2欄42行〜46行) 当初明細書の上記記載と図1,図2aに示されたところによれば,本願発明の「ばね性のある線材を,連続した波形で側面形状を直線に成形したエレメントの,各頂点部を直線上に並べ,各頂点部を連続した別部材により固定した」との構成が,当初明細書に開示されていることは明らかである。
2 本願発明の「段階的にばね定数を変えることが出来る」との構成と当初明細書の記載について 当初明細書には,次の記載がある。
「【0005】 【発明の実施の形態】・・・エレメント(図1)側面図1は波長,波高共一定の図であるが,曲面のあるスプリングを作る場合は,波長,波高の変化するエレメントとなる。エレメントの谷部は揃え,波高の大小を交互にし,これを繰り返しても良い。このエレメントの山部,又は山部と谷部両方をベースの溝に挿入し固定,又は溶接することによりスプリングとなる。」(甲3,2頁2欄17行〜23行) 当初明細書の上記記載のうち,「エレメント(図1)側面図1は波長,波高共一定の図であるが」の部分は,波高が1段の場合の記載であり,「エレメントの谷部は揃え,波高の大小を交互にし,これを繰り返しても良い。」との部分が波高を2段階に変化させる場合の記載である。
当初明細書の上記記載のうち,「曲面のあるスプリングを作る場合は,波長,波高の変化するエレメントとなる。」との部分が,波高を3段階以上に変化させる場合の記載である。この「曲面のあるスプリング」とは,当初明細書の図2aで説明すれば,一つのエレメントにおける隣り合う波の山を結んだ四つの辺と,四つのエレメントにおける隣り合う各山同士を結んだ四つの辺から形成される仮想的平面が,各エレメントの波長を変化させずに波高を変化させた場合に,曲面状に形成されることを意味している。このことは,当初明細書における「エレメントの波長,波高を部分的に変化させることによりフラットでない曲面のあるスプリングも製作可能となる。」(甲3,2頁2欄33行〜35行)との記載から理解することができる。
当初明細書には,「【0006】・・・この直線スプリング,丸スプリングの製作時,エレメントの谷部は揃え,波高の大小を交互にしたエレメントを使用すると2段階のスプリングとなる。」(甲3,2頁2欄末行〜3頁3欄3行)との記載がある。一つのエレメントは,同一の材質,断面形状から成るので,波長を変えずに,波高のみを変えた場合,隣り合う二つのばねは,不連続にばね定数が異なるものとなる。原告は,当初明細書において「2段階」との用語を用いていたため,本件第1補正においては,「不連続にばね定数を変える」ではなく,「段階的にばね定数を変える」(請求項1)としたものである。
本願発明(請求項1)の「ばね構成要素が・・・段階的にばね定数を変えることが出来る」とは,ばね構成要素の波高の大小を段階的に変えることができるということであり,上記のとおり,当初明細書に記載されていた事項である。
3 本願発明の「U字ばねの面外荷重」との構成と当初明細書の記載について (1) 「U字ばね」との用語は,「機械工学便覧」(日本機械学会昭和35年発行(第4版)4-92頁,甲4の4)に記載されており,その形状は,当初明細書の図2aの正面図とほぼ同一である。当初明細書の図2aは,「U字ばね」を示しているものである。
(2) 「面外荷重」及び「面内荷重」との用語は,「JIS 使い方シリーズ ばね使用と設計のポイント」(日本規格協会発行,209頁,210頁,甲4の5)においても使用されており,明確な意味を持つ用語である。ここにいう「面」とは,ばねを含む面のことであり,外力により変位するばねの方向が面内のみであれば,面内荷重であり,それ以外の場合は,面外荷重となる。面内荷重とするためには,ばねを含む面が水平線に対し垂直となるように設置し,この直線スプリングの上に,エレメントに接する面がほぼ平坦な板を載せるようにすればよいのである。
しかし,当初明細書には,「【0006】・・・図3aの断面図が示すように,・・・1つのベースに対するエレメントの角度もどの方向でも良い。」(甲3,3頁3欄)との記載があり,図3aとして示されているものが,面外荷重のものであることは明らかである。このように,当初明細書には,本願発明の「U字ばねの面外荷重を特徴とするクッション材。」が開示されていたのである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 本願発明の「段階的にばね定数を変えることが出来る」との構成と当初明細書の記載について 原告が挙げる当初明細書の【0005】及び【0006】の記載からは,エレメントのばね構成要素の波高,波長を変化させてばね定数を変えることや,ばね定数を2段階に変化させることについては,読み取ることができる。しかし,ばね定数を3段階,4段階以上の多段階に変化させることを読み取ることはできない。
また,「段階的にばね定数を変えることが出来る」とは,あらかじめ複数の段階を設定し,ある程度規則性を持って,その段階を経る,ということである。当初明細書にはそのような構成は開示されていない。
2 本願発明の「U字ばねの面外荷重」との構成と当初明細書の記載について 「面外荷重」については,当初明細書に何らの記載もない。その用語自体,明確な意味を有する用語として知られたものではない。
当裁判所の判断
1 本願発明の「段階的にばね定数を変えることが出来る」との構成と当初明細書の記載について 当初明細書には,「ばね定数」に関するものとして,次の記載がある。
「【0005】 【発明の実施の形態】・・・エレメント(図1)側面図1は波長,波高共一定の図であるが,曲面のあるスプリングを作る場合は,波長,波高の変化するエレメントとなる。エレメントの谷部は揃え,波高の大小を交互にし,これを繰り返しても良い。」(甲3,2頁2欄7行〜8行,17行〜20行) 「エレメントの波長,波高を部分的に変化させることによりフラットでない曲面のあるスプリングも製作可能となる。また継手を使用すれば,継手間は最短の場合エレメントの半周期分となり,継手間の形状は自由度を増す。これにより任意の部分のバネ定数を変化させることが可能となる。」(同2頁2欄33行〜38行) 「【0006】・・・この直線スプリング,丸スプリングの製作時,エレメントの谷部は揃え,波高の大小を交互にしたエレメントを使用すると2段階のスプリングとなる。」(同2頁2欄42行,同末行〜3頁3欄3行) 「ばね定数」とは,「ばねに加えた力と伸びとの比の値。単位はニュートン毎メートル(N/m)」(広辞苑第5版)であるから,同一の材質から成るばね構成要素のばね定数は,その波長,波高によって変わるものということができる。このことを前提として,当初の明細書の上記記載をみれば,明示的な記載ではないものの,当初明細書の図1,図2aに示される同一波長,同一波高のばね構成要素は,いずれも同じばね定数のものとなるのに対し,同一の材質のエレメントにおいても,各ばね構成要素の波長,波高を変化させて曲面を構成するスプリングとすることにより,各ばね構成要素のばね定数が部分的に変化すること,及び,エレメントの谷部をそろえ,そのばね構成要素の波高の高低差を交互につけることにより,2種類のばね定数のばね構成要素から成るスプリングとすることが,当初明細書に記載されていると理解することが可能である。
しかし,当初明細書の上記記載をもって,ばねの各頂点部を直線上に並べ,各頂点部により平面を構成したものについて,ばね構成要素のばね定数を段階的に変えることにより,各ばね構成要素に対し押圧力を加えたときに,各ばね構成要素の波高が段階的に変化し,ばねの各頂点部により構成される面の形状が曲面に変化するようにする,との技術思想,あるいは,これに対応する構成が開示されているとすることができないことは,明らかである。
当初明細書には,「【0003】【発明が解決しようとする課題】・・・任意の部分がバネ定数の異なるスプリングで」(甲3,2頁1欄40行〜41行,46行)及び「【発明の効果】・・・また任意の点にばね定数の違うスプリングの配置が可能となる」(同4頁5欄37行,40行〜41行)との記載もある。しかし,これらの記載は,単にスプリングの任意の部分においてばね定数を異なるものとすることを,一般的に,発明の課題,効果として述べているにすぎないものであり,上記【0005】及び【0006】において記載されているところに何かを付加する記載ではないことが明らかである。当初明細書の他の部分にもそのような記載はない。
これに対し,本件第1補正により本願発明の構成とされた「ばね性のある線材を,・・・各頂点部を直線上に並べ,各頂点部を連続した別部材により固定した,U字ばね形状のばね構成要素が・・・段階的にばね定数を変えることが出来る・・・クッション材」との構成は,ばねの各頂点部を直線状に並べ,これにより構成される平面の形状が,バネ構成要素に対し押圧力を加えたときに,各ばね構成要素のばね定数が段階的に異なるため,その波高が段階的に変化し,上記平面の形状が任意の曲面に変化するとの技術思想から成る発明をも包含するものである。そして,当初明細書においては,上記のとおり,ばね構成要素の波長と波高を変化させて曲面のあるスプリングとするとの構成,単に波高の大小を交互にし,2段階の(ばね定数の)ばね構成要素を備えたスプリングとするとの構成,あるいは,継手により任意の部分のばね定数を変化させるとの構成は開示されているものの,上記の技術思想から成る発明は開示されていないことは,上記のとおりである。
以上からすれば,本件第1補正により本願発明の構成とされた「ばね性のある線材を,・・・各頂点部を直線上に並べ,各頂点部を連続した別部材により固定した,U字ばね形状のばね構成要素が・・・段階的にばね定数を変えることが出来る・・・クッション材」との構成は,明らかに上記の技術思想の発明を包含するものであり,この構成が当初明細書に開示されているものではないことは明らかである。本願発明の「段階的にばね定数を変えることが出来る」との構成が当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない,とした審決の判断に誤りはない。
原告は,当初明細書の上記記載のうち,「曲面のあるスプリングを作る場合は,波長,波高の変化するエレメントとなる。」との部分が,波高を3段階以上に変化させる場合の記載である,当初明細書において「2段階」との用語を用いていたため,「不連続にばね定数を変える」ではなく,「段階的にばね定数を変える」(請求項1)としたものである,などと主張する。
しかし,本件第1補正後の本願発明の構成には,上記のとおり,当初明細書に記載されていない異質の技術思想から成り,かつ,その構成自体も同明細書に記載されていないものが含まれていることは明らかであるから,原告の上記主張は意味のないものであることが明らかである。
2 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由は,その余の点について判断するまでもなく理由がないことが明らかであり,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁