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関連審決 無効2016-800043
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事件 平成 30年 (ネ) 10040号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人 バロークスプロプライアタ リー リミテッド
訴訟代理人弁護士 山口健司 石神恒太郎 関口尚久 伊藤隆大 佐藤信吾
補佐 人弁理士渡邉陽一 中島勝 池田達則
被控訴人モンデ酒造株式会社 (以下「被控訴人モンデ酒造」という。)
被控訴人大和製罐株式会社 (以下「被控訴人大和製罐」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 内田公志 1鮫島正洋 和田祐造 蜑コ彰彦 田子真也 臼井幸治 青木晋治
上記2名補佐人弁理士 蔵田昌俊 河野直樹 峰隆司
被控訴人伊藤忠食品株式会社 (以下「被控訴人伊藤忠食品」という。)
訴訟代理人弁護士 城山康文 中川裕茂 白波瀬悠美子 齋藤広明
補佐 人弁理士青木孝博
被控訴人 株式会社セブン−イレブン・ ジャパン (以下「被控訴人セブンイレブン」という。)
訴訟代理人弁護士 押切謙コ 曽我真美子 押切謙一郎 2今村善幸
訴訟代理人弁理士 稲木次之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/08/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人モンデ酒造は,原判決別紙1記載の各方法(以下「被告各方法」と いう。)を使用してはならない。
3 被控訴人モンデ酒造,被控訴人伊藤忠食品及び被控訴人セブンイレブン(以 下,併せて「被控訴人モンデ酒造ら」という。)は,原判決別紙2記載の各製 品(以下「被告各製品」という。)を販売してはならない。
4 被控訴人モンデ酒造らは,被告各製品を廃棄せよ。
5 被控訴人大和製罐は,原判決別紙3記載の各アルミニウム缶(以下「被告各 アルミ缶」という。)を製造し,又は販売してはならない。
6 被控訴人大和製罐は,被告各アルミ缶を廃棄せよ。
7 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,8000万円及びこれに対する平 成27年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方 法」とする発明についての特許(特許第3668240号。請求項の数15。
以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」 3 という。)の特許権者である控訴人が,被告各方法が缶入りワインという「物」 を生産する方法の発明である本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明 (以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し,被告各アルミ缶が被告各 方法の使用のみ用いる物に該当し,被控訴人モンデ酒造による被告各方法を 使用した被告各製品の製造及び被控訴人モンデ酒造らによる被告各製品の販売 が本件特許権の侵害(直接侵害)に当たり,被控訴人大和製罐による被告各ア ルミ缶の製造及び販売が本件特許権の間接侵害(特許法101条4号)に当た る旨主張して,被控訴人モンデ酒造に対し,被告各方法の使用差止めを,被 控訴人モンデ酒造らに対し,被告各製品の販売の差止め及び廃棄を,被控訴人 大和製罐に対し,被告各アルミ缶の製造等の差止め及び廃棄を求めるとともに, 被控訴人らに対し,本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償5億7000 万円の一部請求として8000万円及びこれに対する平成27年8月27日 (不法行為の後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原判決は,本件発明に係る本件特許は,同法36条6項1号所定の要件(以 下「サポート要件」という。)及び同条4項1号所定の要件(以下「実施可能 要件」という。)に違反する無効理由(同法123条1項4号)により特許無 効審判により無効にされるべきものと認められ,控訴人は同法104条の3第 1項により本件特許権を行使することができないから,その余の点について判 断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がないとして,これらを棄却 した。
控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。
2 前提事実 以下のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとお りであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁15行目から22行目を次のとおり改める。
4 「(1) 控訴人の特許権 控訴人は,発明の名称を「アルミニウム缶内にワインをパッケージン グする方法」とする発明について,平成14年6月5日(優先日平成1 3年9月28日(以下「本件優先日」という。),優先権主張国オース トラリア)を国際出願日とする特許出願(特願2003-532366 号。以下「本件出願」という。)をし,平成17年4月15日,本件特 許権の設定登録(特許第3668240号。請求項の数15。)を受け た(甲1,2)。」(2) 原判決4頁24行目の「特許請求の範囲の記載」を「特許請求の範囲の請 求項1の記載」と改める。
(3) 原判決5頁21行目から6頁16行目までを次のとおり改める。
「(4) 本件訴訟の経過等 ア(ア) 控訴人は,平成27年8月3日,原審に本件訴訟を提起した。
(イ) 被控訴人大和製罐は,平成28年4月6日,本件特許について 特許無効審判の請求(無効2016-800043号事件。 「別 以下 件無効審判事件」という。)をした。
(ウ) 被控訴人らは,平成28年5月16日の原審第1回弁論準備手 続期日において,同年4月22日付け各準備書面に基づいて別件無 効審判事件における被控訴人大和製罐主張の無効理由と同旨の無効 理由(乙29を主引用例とする進歩性欠如,実施可能要件違反及び サポート要件違反)による無効の抗弁を主張した。
その後,被控訴人大和製罐及び被控訴人モンデ酒造は,平成29 年1月26日の原審第5回弁論準備手続期日において,同月16日 付け準備書面に基づいて乙29を主引用例とする新規性欠如,乙2 9を主引用例,甲24を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を無 効の抗弁に追加する主張をし,被控訴人伊藤忠食品及び被控訴人セ 5 ブンイレブンは,上記主張を援用した(以下,上記無効理由追加後 の無効の抗弁を「本件無効の抗弁」という。)。
(エ) 控訴人は,別件無効審判事件について平成29年3月29日付 けの審決の予告(乙75)を受けたため,同年7月4日付けで,本 件出願の願書に添付した特許請求の範囲及び明細書(以下「本件明 細書」という。甲2)について,請求項1ないし15を一群の請求 項として,請求項1ないし8,10ないし15を訂正し,請求項9 を削除し,本件明細書の【0005】を訂正する旨の訂正請求(甲 122の1ないし3。以下「本件訂正」という。)をした。
(オ) 控訴人は,平成29年7月19日の原審第8回弁論準備手続期 日において,同月5日付け準備書面に基づいて本件無効の抗弁に対 して本件訂正に係る訂正の再抗弁を主張した。
(カ) 特許庁は,平成30年2月20日,別件無効審判事件について, 本件訂正を認めた上で, 「特許第3668240号の請求項1〜8, 10〜15に係る発明についての特許を無効とする。特許第366 8240号の請求項9についての本件審判の請求を却下する。」と の審決(甲172。以下「別件審決」という。)をした。
(キ) 原審は,平成30年2月21日の原審第5回口頭弁論期日にお いて,口頭弁論を終結した後,同年4月20日,控訴人の請求をい ずれも棄却する原判決を言い渡した。
控訴人は,同年5月2日,本件控訴を提起した。
(ク) 控訴人は,平成30年6月21日,別件審決の取消しを求める 審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成30年(行ケ)第1008 4号事件)を提起した。
イ 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりで ある(甲122の3。下線部は訂正箇所である。以下,本件訂正後の 6 請求項1に係る発明を「本件訂正発明」といい,本件訂正後の明細書 を「本件訂正明細書」という。)。
「【請求項1】 アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法であって, 該方法が: アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとし て,35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と, 800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワイ ンを意図して製造するステップと; アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされてい るツーピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,缶内 の圧力が最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウムクロ ージャでシーリングするステップと を含む,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」」3 争点 以下のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第2の3記載のとお りであるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁8行目を「ア 本件発明は「物を生産する方法の発明」か」と 改める。
(2) 原判決8頁16行目を「エ 均等論」と改める。
争点に関する当事者の主張
以下のとおり訂正し,当審における当事者の主張(1)及び(2)を付加するほか, 原判決「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正 (1) 原判決9頁5行目を「1 争点(1)ア(本件発明は「物を生産する方法の 発明」か)について」と改める。
7 (2) 原判決13頁9行目の「塩化物ではなく」 「イオンではなく」 を と改める。
(3) 原判決17頁23行目を「4 争点(1)エ(均等論)について」と改める。
(4) 原判決18頁2行目及び6行目の各「同構成と均等なものとして」を「本 件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして」と改める。
(5) 原判決20頁5行目を次のとおり改める。
「 被告各方法は本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なもの であるとの控訴人の主張は争う。」2 当審における当事者の主張(1)(争点(3)エ(実施可能要件違反)に関するも の) (1) 控訴人の主張 ア 原判決は,本件発明の実施可能要件の適合性の判断に当たり,本件発明 の発明特定事項ではない,ワインの組成の「他の成分」による影響及び「耐 食コーティングの種類」による影響等を考慮して,本件発明の効果を奏す ることを確認できるか否かを判断している点で,失当である。
すなわち,発明特定事項ではない事項を考慮してよいのであれば,どん な発明であっても,当該発明の効果を阻害・抑制するような事情は必ず想 定し得るが,そのような事情の全てについて,発明の効果を阻害しないた めの条件等を明細書に記載しない限り,どんな発明でも実施可能要件違反 であると判断されてしまうことになり,不当であるから,実施可能要件の 適合性の判断においては,発明特定事項ではない事項については,捨象す るか,又は同1条件であることを前提に,当該発明の効果を奏するか否か を検討すべきである。
また,原判決は,本件発明の効果について,「あらゆる意味でワインの 品質が劣化することを完全に防止すること」であると捉え,本件発明の効 果は,「他の成分」による影響や「耐食コーティングの種類」による影響 によって阻害されるものである旨判断している点においても,失当である。
8 したがって,本件発明の実施可能要件の適合性を否定した原判決の判断 は誤りである。
イ 本件明細書の【0015】ないし【0033】は,最終的に生成される ワイン中に含まれる塩化物及びスルフェートの含有量をできる限り低くす るために,当業者が採用又は配慮すべきブドウの栽培条件,ワインの製造 条件等を具体的に例示しているから,これらの記載及び技術常識を考慮す れば,当業者は,本件発明の「塩化物が300ppm未満,スルフェート が800ppm未満」という,相対的に低い濃度のワインを容易に製造す ることが可能である 。
また,本件明細書の【0034】の記載から,本件発明の「耐食コーテ ィング」とは,金属缶と内容物である飲料との接触を物理的に遮断して, 金属腐食(金属イオンが内容物に溶出すること)を防止するための金属缶 の内面に設けられる不透過性の膜を意味することは明らかであること,飲 料用金属缶の内面に内容物と金属との接触を避けるための「耐食コーティ ング」を設けることは,技術常識であること(甲27,28,39,13 7,139,乙33ないし36)からすれば,当業者は,本件明細書の上 記記載及び技術常識を考慮して,内容物に応じて適宜選択した組成の耐食 コーティングを,過度の試行錯誤を経ることなく,アルミニウム缶の内面 に設けることが容易であることは明らかである。
したがって,本件発明は,実施可能要件に適合する。
(2) 被控訴人らの主張 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実 施をすることができる程度に明確かつ十分に記載をしたものでなければなら ないと規定する。この規定によれば,実施可能要件の判断においては,特許 請求の範囲発明特定事項であるか否かが問題となるのではなく,特許請求 の範囲に記載された発明(本件発明)を当業者が実施できる程度に明細書の 9 発明の詳細な説明が記載されているかが問題となるのであるから,発明特定 事項でない事項は実施可能要件の判断とは関係がないとする控訴人の主張は, 失当である。
そして,原判決は,「35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満 の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とする ワイン」とすること「のみ」で(他の構成要件の限定なく),本件発明の効 果(ワインの品質が保存中に著しく劣化しないという効果)が奏されること が理解できない旨判断しているものである。
また,原判決は,本件発明の効果について,控訴人が主張するような「あ らゆる意味でワインの品質が劣化することを完全に防止すること」であると 捉えているわけではない。
したがって,本件発明は実施可能要件に適合しないとした原判決の判断の 誤りをいう控訴人の主張は理由がない。
3 当審における当事者の主張(2)(争点(3)オ(サポート要件違反)に関するも の) (1) 控訴人の主張 ア 原判決は,本件発明のサポート要件の適合性を判断するに当たり,本件 発明の課題を漠然と「ワインの品質の劣化の防止」と捉えて,アルミニウ ム缶の腐食以外の原因によるワイン品質の劣化(澱の発生による色の混濁, 耐食コーティングの成分との反応物による味質への影響等)が生じ得る場 合も,本件発明の課題が解決できない場合であると判断し,さらには,本 件発明の課題は「ワインの品質が保存中に『著しく』劣化しないようにす ること」であるから,アルミニウム缶の品質保存効果(腐食防止効果)が 従来技術よりも少しでも向上することが認められれば,本件発明の効果と して十分であり,ワイン品質の劣化を完全に防止することまでは求めてい ないはずであるにもかかわらず,本件発明の発明特定事項ではない事項(ワ 10 イン中の他の成分の濃度,耐食コーティングの種類,成分等)を考慮する ことによって,わずかでもワイン品質が劣化する可能性が否定されなけれ ば,それだけで本件発明の効果を実現できない旨判断して,本件発明のサ ポート要件の適合性を否定している。
しかしながら,発明特定事項ではない事項を考慮してよいのであれば, どんな発明であっても,当該発明の効果を阻害・抑制するような事情・条 件は必ず想定し得るが,そのような事情・条件の全てについて,特許請求 の範囲において,発明の効果を阻害しない条件・数値範囲等を特定しない 限り,どんな発明でもサポート要件違反であると判断されてしまうことに なり,不当であるから,サポート要件の適合性の判断においては,発明特 定事項ではない事項については,捨象するか,又は同1条件であることを 前提に,当該発明の効果を奏するか否かを検討すべきである。
したがって,原判決の上記のような判断手法が不当であることは明らか である。
イ(ア) 本件明細書には,本件発明の課題は,「アルミニウム缶内にワイン をパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化し ないようにすること」である(【0004】)との記載がある。また, 亜硫酸(特に遊離SO2)とアルミニウム(金属缶)との間の酸化還元反 応により硫化水素が発生し,ワインのフレーバーを悪くするという問題 があったことは,本件優先日当時,技術常識であった(甲39,40等)。
そうすると,ここでいう「ワインの品質が保存中に著しく劣化」すると は,具体的には,保存中にアルミニウム缶の内面が腐食し,アルミニウ ムイオンがワイン中に溶出すること,及び,アルミニウムと遊離SO 2 との酸化還元反応により硫化水素(H2S)がワイン中に発生することに よる,ワイン品質(味,色,臭い)の著しい劣化をいう(【0003】, 【0034】,【0038】ないし【0042】)。以上によれば,本 11 件明細書の上記記載及び本件優先日当時の技術常識から,本件発明の課 題は,アルミニウム缶の腐食によって保存中にワインの中で増加してし まうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン品質(味,色, 臭い)が保存中に著しく劣化しないようにすることにあるといえる。
そして,本件発明は,上記課題を解決するために,@アルミニウム缶 の内面に「耐食コーティング」を設け,A酸化防止剤・抗菌剤として添 加される「遊離SO 2」のワイン中の濃度を低い濃度レベルにするとい う,従来から存在する2つの腐食防止手段に加え,Bワインの生来的成 分である塩化物及びスルフェートに着目し,塩化物の濃度が「300p pm未満」及びスルフェートの濃度が「800ppm未満」という低い 濃度レベルのワインだけを,アルミニウム缶のパッケージングの対象と して選別するという第三の腐食防止手段を重畳的に採用することによっ て,アルミニウム缶の腐食原因の「塩化物」及び「スルフェート」が大 量に含まれているワインが意図せずアルミニウム缶にパッケージングさ れてしまうことを確実に防止できるという効果を上乗せし,もって,従 来技術よりも優れた「アルミニウム缶内にワインをパッケージングし, これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しないようにする」方法 を提供するものである。
(イ) 本件優先日当時,@世の中には様々なワインが存在し,塩化物及び スルフェートの濃度についても,生産国・地域,品種,収穫年,製造条 件等の違いによりワイン毎に様々であり,いずれの濃度分布も広範囲に 亘っており,塩化物の濃度は3ppmから1148ppmの範囲で,ス ルフェートの濃度は38.6ppmから2420ppmの範囲で分布し ていること,及び,「300ppm」以上の塩化物及び「800ppm」 以上のスルフェートを含有するワインが実際に存在すること(甲24, 41,42,51,57,58,101,乙67),A「淡水」とは塩 12 分濃度が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm以下の水であること(甲167,168,169の1,2),B塩化物イオン(Cl- )及びスルフェート(SO42-)が,アルミニウムやステンレスの局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となるイオンであること(甲88ないし90,115ないし117,169の1,2)は,技術常識であった。
上記@及びAの技術常識に基づけば,少なくとも世界中のワインの生産量のうち98%を占める国・地域のワインが,「300ppm」以上の塩化物,又は「800ppm」以上のスルフェートを含有する可能性を否定できない。
上記@ないしBの技術常識に加えて,本件明細書の「このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」(【0003】)との記載を考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの腐食原因であるワイン中の物質が「低い」濃度レベルであることを規定する,本件発明の「35ppm未満」の遊離SO2,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワインがアルミニウム缶にパッケージングされることを確実に防止できるという本件発明の効果を容易に認識可能であり,本件発明は,この効果によって,「アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題(「アルミニウム缶の腐食によって保存中にワインの中で増加してしまうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題)を解決するものであることを容易に認識できる。
そして,アルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300 13 ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スルフェート」 の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム缶の腐 食防止効果がより高まることは容易に認識できるから,本件発明の上記 効果は,特許請求の範囲の全てにおいて奏する効果であることを当業者 が認識できることは明らかである。
したがって,本件明細書の【0038】ないし【0042】記載の試 験結果を参酌しなくても,当業者が,本件優先日当時の技術常識に照ら し,本件明細書のその余の発明の詳細な説明の記載及び本件発明の特許 請求の範囲の記載から,本件発明は,本件発明の課題を解決できると認 識できる範囲のものであるといえるから,本件発明は,サポート要件に 適合する。
(2) 被控訴人らの主張 ア 本件明細書の記載によれば,本件発明の課題は,アルミニウム缶にワイ ンをパッケージングしようとすると保存中にその品質が劣化するという課 題を解決することにあり,ここでいう「ワインの品質の劣化」とは,「ワ インの味質」に悪影響が及ぼされた状態(ワインとして美味しく飲めない 状態)を意味するものであり(【0003】),課題解決がされたか否か の認識は,味覚パネルによる官能試験(【0039】)によって「ワイン の味質」が劣化したか否かによって判断される(乙107)。
一方で,アルミニウム缶にパッケージングされたワイン中へアルミニウ ムが溶出しても,美味しく飲めるので,アルミニウムの溶出量と味質(異 臭発生)との間には相関はない(乙29(訳文甲162)の図6)。
イ 本件明細書には,本件発明の「300ppm未満」の塩化物及び「80 0ppm未満」のスルフェートが,濃度のレベルとして低いものであるこ とについての記載も示唆もなく,これらの濃度レベルとすることの技術的 意義についての記載もない。この300ppm未満,800ppm未満の 14 各濃度レベルは,塩化物及びスルフェートにとって通常の濃度範囲であるということはできるものの(甲24,41,42,51,57の2,101),世の中のワインにおける塩化物及びスルフェートの濃度の分布(どの程度濃度がばらつくのか,そのばらつきの分布の程度等)は不明であるから,当業者が,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートが,ワインの成分の濃度として高いレベルなのか,中位のレベルなのか,低いレベルなのかを理解することはできない。
また,本件明細書には,「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された。」とする試験(【0038】ないし【0042】)に用いたワインの組成の記載はなく,上記試験に用いたアルミニウム缶の耐食コーティングの組成の記載もないから,上記試験の結果が,ワインの遊離SO2,塩化物,スルフェートを本件発明の特許請求の範囲で特定される所定の値以下にしたことによるものであるのか,ワインを組成する他の物質によるものであるのか,耐食コーティングによるものであるのか,これらの相乗効果によるものであるのか否かが,当業者にとって不明である。
そして,塩化物イオン(Cl-)及びスルフェート(SO42-)が,アルミニウムやステンレスの局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となることは,本件優先日当時の技術常識であるが,塩化物やスルフェート以外のワインに含まれている各種の金属イオンや有機酸も,アルミニウムの腐食の原因になる物質であること(甲175,乙29,97)も,本件優先日当時の技術常識である。このような技術常識に照らし,塩化物を「300ppm未満」,スルフェートを「800ppm未満」とするだけで,本件発明の課題を解決することができるものと当業者が認識することはできない。
さらに,本件明細書には,「耐食コーティング」について,従来とは異なる「良好に架橋された不透過性膜」を使用することが記載されているが(【0034】),本件明細書の記載から,従来とは異なる「良好に架橋 15 された不透過性膜」とは,どの程度の架橋をいうのか,どの程度の不透過 性の膜をいうのかを認識することができない。他方,アルミニウム缶の内 面に設けられる樹脂保護被膜については,用いる樹脂の種類,樹脂の共重 合比率,製膜条件,膜厚,膜の構造等を種々制御しないとアルミニウム缶 の腐食が抑制できないことは技術常識ではあるものの,腐食の抑制の方法 は様々存在し(乙33ないし36),当業者が,上記技術常識に基づき, 具体的な材料,膜厚及び構造等で一義的に特定できるような「耐食コーテ ィング」は存在しない。そうすると,従来とは異なる「耐食コーティング」 を用いることを前提とする本件発明において,どのような樹脂の種類,樹 脂の共重合比率,製膜条件,膜厚,膜の構造等の耐食コーティングを本件 発明の特定の組成のワインと組み合わせると,本件発明の課題が解決でき るのかについて,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当 時の技術常識から,当業者がこれを認識することができない。
以上によれば,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本 件優先日当時の技術常識から,本件発明は,本件発明の課題を解決できる と認識できる範囲のものであるということはできないから,本件発明はサ ポート要件に適合しない。
したがって,本件発明がサポート要件に適合しないとした原判決の判断 に誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人ら主張の本件無効の抗弁のうち,サポート要件違反を 無効理由とする無効の抗弁は理由があるものと認められるから,控訴人の請求 はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 争点(3)オ(サポート要件違反)について (1) 本件明細書の記載事項について ア 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下 16 記記載中に引用する「表1」については別紙を参照。)。
(ア) 【0001】 技術分野 本発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法に関す る。本発明はまた,本発明の方法に従ってワインが充填されたアルミニ ウム缶に関する。
【0002】 発明の背景 ワインは,古代ギリシャの時代から製造されている。ワインは多くのタ イプの容器に保存されてきた。これらの容器には例えば,木材,陶器, 皮革が含まれる。特に1リットル未満の量で保存される場合には,ワイ ンの好ましい保存手段として,ガラス瓶の使用が発展した。ほとんど例 外なしに瓶が使用されてはいるものの,瓶は比較的重く,かつ比較的壊 れやすいという欠点を有する。
【0003】 ワイン以外の飲料,例えばビールやソフトドリンクの場合,金属缶やポ リエチレンテレフタレート(PET)のような,代わりとなる包装容器 が幅広く採用されている。これらの包装容器は,より軽量で,かつ耐破 損性がより大きいという利点をもたらす。このような代わりの容器にワ インを保存することが提案されている。しかし,ワインに対してこのよ うなタイプのパッケージングを利用しようという試みは概ね不成功に終 わっている。いくつかの極めて低品質のワインは,ポリ塩化ビニル容器 内に保存される。このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比較的 攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特 に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。ワインは典型的には3〜4 の範囲のpHを有する複雑な製品である。これと比較して,ビールのp 17 Hは5以上であり,多くのソフトドリンクのpHは3以上である。しか し,pH自体は単独の決定因ではなく,3という低いpHを有する炭酸 コーラ飲料は,PET容器に充分に保存することができる。この低いp Hは,炭酸コーラ飲料中のリン酸含有物の結果である。このことは,プ レコーティングされたアルミニウム缶及びPETボトルをこれらの飲料 に対して申し分なく使用することを可能にする。
【0004】 アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これによりワインの品 質が保存中に著しく劣化しないようにすることが望ましい。
(イ) 【0005】 発明の概要 本発明は1つの形態において,アルミニウム缶内にワインをパッケージ ングする方法であって,該方法が: 35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800 ppm未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造す るステップと; アルミニウムの内面に耐食コーティングがコーティングされているツー ピースアルミニウム缶の本体に,前記ワインを充填し,容器内の圧力が 最小25psiとなるように,前記缶をアルミニウム・クロージャでシ ーリングするステップとを含む,アルミニウム缶内にワインをパッケー ジングする方法を提供する。
【0006】 前記ワインがさらに,250ppm未満,より好ましくは100ppm 未満の総二酸化硫黄レベルを有することを特徴とすることが好ましい。
【0007】 前記ワインがさらに,1ppm未満の総ニトリットと,30ppm未満 18 の総ニトレートと,900ppm未満の総ホスフェートと,6g/リッ トル〜9g/リットルの範囲の酒石酸として算出された酸性度とを有す ることを特徴とすることが好ましい。
【0008】 前記ワインが充填前に冷却されることが好ましい。
【0009】 前記耐食コーティングが熱硬化性コーティングであることが好ましい。
【0010】 クロージャによるシーリング後の頭隙が,80〜97%v/vの窒素と, 2〜20%v/vの二酸化炭素との組成を有することが好ましい。
【0011】 あるいは,前記ツーピース缶に前記ワインが充填される前に,前記ワイ ンが炭酸ガス飽和させられ,これにより,シーリング後の前記頭隙は大 部分が二酸化炭素となる。
【0012】 前記頭隙の最大酸素含有率が1%v/vであることが好ましい。
【0013】 前記缶の本体に対する前記クロージャのシーム形成直前に,液体窒素が 添加されることが好ましい。
【0014】 前記頭隙が,330ミリリットル缶の場合に,2〜5mmの範囲にある ことが好ましい。
(ウ) 【0015】 発明の詳細な説明 本発明の方法に必要となるワインは,下記のような特定のブドウ栽培及 びワイン製造技術によって製造することができる。あるいは,規定レベ 19 ルよりも高いレベルの構成成分でワインを処理し,これらの構成成分を除去するか又はこれらの構成成分の含有率を本発明に必要となる含有率まで低下させることにより,ワインを製造してもよい。本発明において,「ワイン」という用語は,極めて広範囲に使用され,この用語には非発泡ワイン,発泡ワインならびに強化ワイン,及びミネラルウォーター及びフルーツジュースとブレンドされたワインが含まれる。
【0016】ブドウ栽培に関して,不都合な化学薬剤散布を用いないことを保証することにより,望ましくない物質の不存在を達成することができる。化学薬剤散布を使用する際には,監視が必要となる。それというのもこのような化学薬剤散布はまた,最終ワイン製品中に望ましくない化学物質が全体的に蓄積することに対して影響を与えるからである。ブドウの木のほとんどの病気は,未剪定のブドウの木を繁茂させるために熱又は湿分を必要とし,このことにより,さらに化学薬剤散布が必要になるというジレンマにますます陥ることになる。
【0017】ブドウの品質,より高い発生率のボツリチス,粉末饂飩粉病及び綿毛饂飩粉病を形成する上で,日陰が主要な役割を有する。ここでもまた,化学的な介入が必要となる。硫黄を基剤とする防カビ剤を使用することができるが,しかしこれらの防カビ剤は,許容範囲を超えたレベルの硫黄を導入する。未剪定のブドウの木の房は,過剰な青臭い不快な風味を有するコクのないワインを生成する。光は最大の自然資産の1つであるが,忘れられることが多く,軽視されがちである。焦点をあわせるべきなのは,木自体内で「調和的バランスがとれたブドウの木」である。ブドウと,葉と,茎と,木部と,根との正しい比率がこのようにバランスがとれた状態で生じれば,必要となる化学的介入は最小限で済む。
20 【0018】 過剰な灌漑の名残が「バランスを崩した」作物である。過剰に豊富な天 蓋のある場所での作物は,日陰果実及び熟成の遅れをもたらす。また収 穫前の過剰な灌漑は,液果に水分と化学的取込み物質とを過剰に供給し, 液果の本来の状態を変えてしまう。ここでもまた,さらに加工ラインに 沿った化学的対策が必要となる。一定電子土壌水分モニターによる細流 灌漑が好ましい選択肢である。
【0019】 好ましくはブドウは(果実を過度に損傷しないように細心の注意を払っ て)手摘みし,涼しい環境(8℃〜16℃)中で好ましくは夜間に収穫 するべきである。「赤」の場合,pHは3.1〜3.8であると共にボ ーメ(Baume)は13.0〜14.0の範囲にあり,「白」の場合, pHは3.0〜3.5であると共にボーメ(Baume)は10.0〜1 3.0である。野生酵母の分解を最小限に抑えるように,最小量の二酸 化硫黄の散布が必要とされる。発酵に際しては野生酵母に頼るのが好ま しい。
(エ) 【0020】 赤ワインの場合,収穫後できるだけ早く,好ましくは収穫から12時間 以内に圧搾及び除茎を行わなければならない。高品質ワインを製造する には,圧搾の前に除茎を行うことが強く推奨される。その利点は,渋み のある,葉が茂った草質の茎を含有しないことにより,味質を改善でき ることである。予想アルコール強度は0.5%も高くなる。なぜならば, 水を含有し,かつ糖を含有しない茎はアルコールを吸収するからである。
茎の色素を回避することにより,色合いが強くなる。茎と共に発酵する と,加工が促進された時には,より多量の酸素が取り込まれるようにな る。発明者にとって発酵時に必要となるのは速度ではなく,安定性及び 21 品質だけである。除茎及び圧搾を行ったあと,マストを発酵容器にポンプ供給し,酒石酸で調整し,酵母を必要なレベルに調整し,最小限の二酸化硫黄を添加する。
【0021】この容器は,過剰な発酵ガスを排出するように,また酸素が入らないように,気泡システムを備えている。酸素の流入はパンチング(叩き込み)の時にだけ発生する。このようなエアレーション量は,酵母増殖及び完全な糖発酵にとって重要である。
【0022】規則的な間隔を置いて(10〜12時間毎に)皮を叩き込み,ほぼ25℃の周囲温度を維持することが,発酵プロセスにおいて重大である。ドライ・キャップが酸化を可能にし,温度がより高く又はより低くなると,このことは発酵ジュースに悪影響を与える。浸漬中の安定性が次の14〜21日間の重要な要素となる。一日0.7〜1.0のボーメ減少が「ベンチマーク」となるように,ボーメを常に監視する。ボーメが0°〜1°に達したら,しぼりかす又はブドウ塊は「バスケット・プレス」される。
【0023】プレスは,注意深くかつ鋭敏に監視することが必要である。過剰のプレスは強力な渋み物質,フェノール成分,及び強力な粗タンニンを形成する。バランスのとれたプレスは,結果として行われる重化学的な清澄,無用のブレンド及び化学的介入の必要性を軽減する。
【0024】この段階において,自由流動するジュースとプレスされたジュースとの組み合わせは,亜硫酸塩で予め処理されて滅菌された,使用済みの又は新しいアメリカンオーク,フレンチオークに移され,自然制御された温度環境内で保存される。温度範囲は15℃〜25℃である。充填後,樽 22 をゴム製の槌で数回打ち,これにより気泡を除去し,25mm以内の樽口から補充する。樽はエアロックを備えており,樽内での発酵の進行が可能である。このプロセスは完成するのに3〜4ヶ月かかる(この時間係数は,宿主環境における湿度及び温度の変動に関連する)。この段階の頃に,接種によって,又はワイン醸造場において固有の場合には自然に,リンゴ酸-乳酸発酵が生じる。
【0025】発酵が完了した後,樽をおり引きし,清浄化し,滅菌し,軽く亜硫酸塩処理し,充填し,エアロックを取り外す。充填後,樽をゴム製の槌で数回打つことにより気泡を除去し,補充して栓をする。次いで樽を鉛直方向に対して30°の角度を成すように位置決めする。
【0026】若いワインからは沈殿物を除去して,酵母菌,細菌体,及び腐敗を生じさせる有機異物を減少させ,亜硫酸水素塩を回避できるようにすることが必要である。
【0027】優れた品質を探求する上で,エアレーションはもう一つの自然の成り行きである。このファクタは,酵母形質転換及び結果として得られるワインの安定性の達成を容易にする。発酵媒質中では,種々異なる沈殿領域が発生して,当然遊離二酸化硫黄レベルを形成することになる。おり引きはこれらの層に相乗効果を与えて,これらを一致させる。この段階における亜硫酸塩処理の要件は,従ってより厳密である。
【0028】 おり引きの頻度は異論の多い問題であり,一年目では2〜3ヶ月毎の時間枠が完全に許容され得るが,しかし現実のファクタ,例えばタンク又は樽のサイズ,貯蔵庫内の温度及びワインの種類に応じて,貯蔵庫責 23 任者が決定する。責任者の技能及び経験が,最終的な要件を見極めるこ とになる。懸濁させられた物質の沈下を促進するには,100リットル 当たり1〜3の割合で卵白清澄することが必要となる。
【0029】 12〜18ヶ月間桶内で熟成させた後,少なくとも3〜4回おり引き し,分析し,テイスティングし,軽く亜硫酸塩処理し,(100%必要 ならば)ワインが傷んでおらず,発酵性糖を含有しておらず,完全にリ ンゴ酸-乳酸発酵させられたことを認識した後,ワインはブレンド準備 完了状態となる。このことはこれまでの12〜18ヶ月,及び,収穫に 至るまでの数ヶ月になされた努力の最終的な報酬である。
(オ) 【0030】 白ワインの場合,圧搾の前にブドウを除茎する。ジュースのpHは,酒 石酸でpH3.0〜3.4に調整される。皮接触時間は,ブドウの品種, 原産地,周囲温度及びタンニンの量又は渋み作用のあるフェノール成分 の要件に関連する。二酸化炭素を添加しながら,マストから水分を流出 させる。
【0031】 発酵温度は10〜16℃の範囲にある。0.4〜0.8ボーメの糖含 量減少が目標である。発酵後,ワインのかすを沈殿させ,二酸化炭素の もとでおり引きし,二酸化硫黄を添加する。
【0032】 白ワインに付随する全ての手順において,何があっても空気に対する暴 露は回避しなければならず,低温環境が実現される。上述のようにして 製造されたワインは,35ppm未満の遊離二酸化硫黄レベルと,25 0ppm未満の総二酸化硫黄レベルとを有する。酸,塩化物,ニトレー ト及びスルフェートを形成することができる陰イオンレベルは,規定の 24 最大値未満である。
(カ) 【0033】 本発明は,頭隙に窒素を必要としない発泡ワインに適用することもでき る。それというのも,所要の缶強度を提供するのには二酸化炭素で充分 だからである。
【0034】 本発明に適したツーピース缶は,ソフトドリンク及びビール飲料に現在 用いられている缶である。この缶のライニングも同様であり,典型的に は,ホルムアルデヒドを基剤とする架橋剤と組み合わされたエポキシ樹 脂である。使用される膜厚は,典型的にはビール又はソフトドリンクに 用いられているものよりは厚い。典型的には,175mg/375ml 缶が,適切な膜厚をもたらすことが判った。内部をコーティングされた 缶は,典型的には165〜185℃の範囲の温度で20分間ベーキング することができる。良好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過 度のレベルのアルミニウムがワイン中に溶解しないことを保証すること が重要である。
【0035】 缶充填プロセスは,ほぼ0.1mlの液体窒素を,本体のクロージャの シーム形成直前に添加することに関与する。缶の内部圧力は,ほぼ25 〜40psiである。
【0036】 あるいは,ワインは,カーボネータとして知られる装置においてワイン と二酸化炭素ガスとを混合することにより,炭酸ガス飽和させることも できる。このようなタイプの装置はよく知られており,ソフトドリンク 業界において広く使用されている。
【0037】 25 上述のように,アルミニウム缶内でのワインの保存安定性は極めて重大 である。頭隙が酸素を含むボトリングされたワインとは異なり,本発明 の缶の頭隙が有する酸素レベルは極めて低い。すなわち,このワインは 保存中「老化」しない。
(キ) 【0038】 試験を目的として,パッケージングされたワインを,周囲条件下で6ヶ 月間,30℃で6ヶ月間保存する。50%の缶を直立状態で,50%の 缶を倒立状態で保存する。
【0039】 製品を2ヶ月の間隔を置いて,Al,pH,°ブリックス(Brix), 頭隙酸素及び缶の目視検査に関してチェックする。1つの変数当たり, 6つの缶を倒立させ,6つの缶を直立させる。目視検査は,ラッカー状 態,ラッカーの汚染,シーム状態を含む。試料は12ヶ月保存しなけれ ばならない。官能試験は,味覚パネルによる認識客観システムを用いる。
【0040】 白ワインの保存評価の結果を表1に示す。白ワインは赤ワインよりも平 均で,より低いpHを有し,白ワイン試験は保存安定性に関してより厳 しい試験となる。
【0042】 このデータは30℃で6ヵ月後の充分な保存状態を示す。許容可能なワ イン品質が味覚パネルによって確認された。
【0043】 本発明の思想及び範囲内での変更は当業者であれば容易に可能なので, 本発明は,一例として示した上述の特定の実施例に限定されるものでは ないことを理解すべきである。
イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件 26 発明に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) 従来からワインの包装容器として使用されている瓶は,比較的重く, かつ比較的壊れやすいという欠点を有することから,より軽量で,かつ 耐破損性がより大きいという利点をもたらす金属缶やポリエチレンテレ フタレート(PET)容器にワインを保存することが提案されているが, このようなパッケージングを利用しようという試みは概ね不成功に終わ っており,その理由は,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質及びワイ ンと容器との反応生成物がワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にある と考えられる(【0002】,【0003】)。
しかし,アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これにより ワインの品質が保存中に著しく劣化しないようにすることが望ましい (【0004】)。
(イ) 「本発明」は,35ppm未満の遊離SO 2と,300ppm未満 の塩化物と,800ppm未満のスルフェートとを有することを特徴と するワインを製造するステップと,アルミニウムの内面に耐食コーティ ングがコーティングされているツーピースアルミニウム缶の本体に,前 記ワインを充填し,容器内の圧力が最小25psiとなるように,前記 缶をアルミニウム・クロージャでシーリングするステップとを含む,ア ルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法を提供するものであ る(【0005】)。「本発明」の方法に必要となるワインは,特定の ブドウ栽培及びワイン製造技術によって製造することができ,あるいは, 規定レベルよりも高いレベルの構成成分でワインを処理し,これらの構 成成分を除去するか又はこれらの構成成分の含有率を「本発明」に必要 となる含有率まで低下させることにより,ワインを製造してもよい 【0 ( 015】)。
別紙の表1は,試験を目的としてパッケージングされた白ワインを3 27 0℃で6ヶ月間保存した後の保存状態を示したものであり,「許容可能 なワイン品質」が味覚パネルによる官能試験によって確認された(【0 038】ないし【0042】)。
(2) サポート要件の適合性について ア 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な 説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したもの であり,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特 許請求の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独 占的,排他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止 することにあるものと解される。
そうすると,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について,特許 請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に適合するか否かは, 当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から,当該発明 に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決できると認識で きるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
イ(ア) これを本件についてみるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1) の記載によれば,本件発明は,アルミニウム缶内にワインをパッケージ ングする方法の発明であって,「35ppm未満の遊離SO2」と,「3 00ppm未満の塩化物」と,「800ppm未満のスルフェート」と を有することを特徴とするワインを製造するステップを含むものである から,所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。
次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の課題を明示し た記載はないが, 【0002】ないし【0004】の記載(前記(1)イ(ア)) から,本件発明の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワ インの品質」が保存中に著しく劣化しないようにすること,ここにいう 「ワインの品質」は,「ワインの味質」を意味するものと理解できる。
28 そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1には,白ワインの保存評価試験の結果として,パッケージングされた白ワインを30℃で6ヶ月間保存した後に,味覚パネルによる官能試験により,「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」との記載があることに照らすと,本件明細書の発明の詳細な説明には,ワインの品質(味質)が劣化したかどうかは味覚パネルによる官能試験によって判断されることの開示があることが認められる。
一方,上記の「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」ワインについて,表1には,別紙のとおり,保存期間「6ヶ月」に対応する「Al mg/L」欄及び「初期に対するAl含有量上昇率(%)」欄に,アルミニウム含有量0.72mg/L,含有量上昇率44%(「直立」状態で保存の缶),アルミニウム含有量0.68mg/L,含有量上昇率36% 「倒立」 ( 状態で保存の缶)であったことの記載があるが,表1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,当該ワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃度についての具体的な開示はない。
また,本件明細書の【0003】の「ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」との記載及び【0034】の「良好に架橋された不透過性膜によって,保存中に過度のレベルのアルミニウムがワイン中に溶解しないことを保証することが重要である。」との記載から,アルミニウム缶からワイン中に溶出する「過度のレベルのアルミニウム」がワインの味質に悪影響を及ぼすことは理解できるものの,本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体をみても,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいてワインの味質が劣化したかどうかを判断できることについての記載も示唆もない。
29 さらに,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量 とワインの味質の劣化との具体的な相関関係に関する技術常識を示した 証拠は提出されておらず,上記の具体的な相関関係は明らかではない。
もっとも,本件優先日当時,遊離SO 2とアルミニウムとの間の酸化還 元反応により硫化水素が発生し,この硫化水素によってワインのフレー バーを悪くするという問題があったことは技術常識であったこと(甲3 9,40等)が認められるが,かかる技術常識に照らしても,遊離SO 2 の濃度にかかわらず,ワイン中のアルミニウム含有量のみに基づいて ワインの味質が劣化したかどうかを判断できるものとはいえない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明の 課題(「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの品質(味質) が保存中に著しく劣化しないようにすること」)を解決できるかどうか を確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを 得ないことを理解できる。
(イ) しかるところ,前記(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明 には,白ワインの保存評価試験(【0038】ないし【0042】及び 表1)において「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認され た」ワインの保存開始時(「初期」)の塩化物及びスルフェートの各濃 度についての具体的な開示はなく,仮にこれらの濃度が,本件発明で規 定するそれぞれの濃度(「300ppm未満の塩化物」及び「800p pm未満のスルフェート」)の範囲内であったとしても,それぞれの上 限値に近い数値であったものと当然には理解することはできないから, 上記保存評価試験の結果から,本件発明の対象とするワインに含まれる 塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(8 00ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣 化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認された 30 ものと認識することはできないというべきである。
また,乙29及び甲175(「アルミ缶の特性ならびに腐食問題」2 002年,Zairyo-to-kankyo,51,p.293〜298)によれば,ワインを組成 する一般的な物質のうち,遊離SO2,塩化物イオン(Cl-)及びスル フェート(SO42-)以外にも,リンゴ酸,クエン酸等の有機酸がアル ミニウムの腐食原因となることは,本件優先日当時の技術常識であった ことが認められる。このような技術常識に照らすと,本件明細書の発明 の詳細な説明には,白ワインの保存評価試験に用いられたワインの組成 についての記載はないものの,これらのアルミニウムの腐食原因となる 物質も,当該ワインの組成に含まれており,表1記載の保存期間「6ヶ 月」に対応するアルミニウム含有量や味覚パネルによる官能試験の試験 結果に影響を及ぼしている可能性があるものと理解できる。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日 当時の技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300 ppm未満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体 にわたり本件発明の課題を解決できると認識できるものと認められない から,本件発明は,サポート要件に適合するものと認めることはできな い。
(3) 控訴人の主張について 控訴人は,本件優先日当時,@ワイン中の塩化物及びスルフェートの濃度 は,生産国・地域,品種,収穫年,製造条件等の違いによりワイン毎に様々 であり,いずれの濃度分布も広範囲に亘っており,塩化物の濃度は3ppm から1148ppmの範囲で,スルフェートの濃度は38.6ppmから2 420ppmの範囲で分布していること,及び,「300ppm」以上の塩 化物及び「800ppm」以上のスルフェートを含有するワインが実際に存 在すること(甲24,41,42,51,57,58,101,乙67), 31 A「淡水」とは塩分濃度が500ppm以下,塩化物濃度が約300ppm以下の水であること(甲167,168,169の1,2),B塩化物イオン(Cl-)及びスルフェート(SO42-)が,アルミニウムやステンレスの局部腐食(不動態被膜の孔食)の原因となるイオンであること(甲88ないし90,115ないし117,169の1,2)は,技術常識であったことに加えて,本件明細書の「このような不成功の理由は,ワイン中の物質の比較的攻撃的な性質,及び,ワインと容器との反応生成物の,ワイン品質,特に味質に及ぼす悪影響にあると考えられる。」(【0003】)との記載を考慮すれば,当業者であれば,アルミニウムの腐食原因であるワイン中の物質が「低い」濃度レベルであることを規定する,本件発明の「35ppm未満」の遊離SO?,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによって,これらの腐食原因物質の濃度が高いワインがアルミニウム缶にパッケージングされることを確実に防止できるという本件発明の効果を容易に認識可能であり,本件発明は,この効果によって,「アルミニウム缶内にワインをパッケージングし,これによりワインの品質が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題(「アルミニウム缶の腐食によって保存中にワインの中で増加してしまうアルミニウムイオン及び硫化水素によって,ワイン品質(味,色,臭い)が保存中に著しく劣化しないようにする」という課題)を解決するものであることを容易に認識できること,そして,アルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スルフェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム缶の腐食防止効果がより高まることは容易に認識できることからすると,本件発明の上記効果は,特許請求の範囲の全てにおいて奏する効果であることを当業者が認識できることは明らかであり,本件明細書の【0038】ないし【0042】記載の試験結果を参酌しなく 32 ても,本件優先日当時の技術常識に照らし,本件明細書のその余の発明の詳細な説明の記載及び本件発明の特許請求の範囲の記載から,本件発明は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから,本件発明は,サポート要件に適合する旨主張する。
しかしながら,前記(2)イ(ア)認定のとおり,本件発明の課題は,アルミニウム缶内にパッケージングした「ワインの味質」が保存中に著しく劣化しないようにすることにあるものと認められるところ,控訴人主張の本件優先日当時の上記@ないしBの技術常識に照らしても,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件発明は,「35ppm未満」の遊離SO?,「300ppm未満」の塩化物及び「800ppm未満」のスルフェートとの要件を満たすワインをパッケージング対象とすることによる効果によって,本件発明の上記課題を解決するものであることを認識できるものと認めることはできない。
また,控訴人が主張するようにアルミニウム缶の腐食原因である「塩化物」の濃度を300ppmよりも低くすればするほど,同腐食原因である「スルフェート」の濃度を800ppmよりも低くすればするほど,アルミニウム缶の腐食防止効果がより高まるといえるとしても,前記(2)イ(ア)認定のとおり,アルミニウム缶に保存されたワイン中のアルミニウム含有量とワインの味質の劣化との具体的な相関関係は明らかではなく,本件発明の上記課題を解決できるかどうかを確認する方法は,味覚パネルによる官能試験の試験結果によらざるを得ない。そして,本件明細書の【0038】ないし【0042】及び表1記載の白ワインの保存評価試験の結果から,本件発明の対象とするワインに含まれる塩化物の濃度範囲(300ppm未満)及びスルフェートの濃度範囲(800ppm未満)の全体にわたり「ワインの味質」が保存中に著しく劣化しないことが味覚パネルによる官能試験の試験結果により確認されたものと認識することはできないことは,前記(2)イ(イ)のとおりで 33 ある。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識から,当業者が本件発明に含まれる塩化物の濃度300ppm未満 及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本件発 明の課題を解決できると認識できるものと認められないから,控訴人の上記 主張は採用することができない。
(4) 小括 以上によれば,本件発明はサポート要件に適合しないから,本件発明に係 る本件特許には,サポート要件違反の無効理由(特許法36条6項1号,1 23条1項4号)が存在する。
そして,控訴人主張の本件訂正は,訂正前の請求項1において,「35p pm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800ppm未満 のスルフェートとを有することを特徴とするワインを製造するステップ」と の記載を「アルミニウム缶内にパッケージングする対象とするワインとして, 35ppm未満の遊離SO2と,300ppm未満の塩化物と,800pp m未満のスルフェートとを有することを特徴とするワインを意図して製造 するステップ」に訂正するものであり,訂正前の請求項1の「ワインを製造 するステップ」について,「アルミニウム缶内にパッケージングする対象と するワインとして」当該ワインを追加するステップであり,当該ワインを「意 図して」製造するステップであるという事項を追加して限定し,これに伴い 特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るために本件明細書の 【0005】を訂正するものであるところ(甲122の1ないし3),本件 訂正によって,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優 先日当時の技術常識から,本件発明に含まれる塩化物の濃度300ppm未 満及びスルフェートの濃度800ppm未満の数値範囲の全体にわたり本 件発明の課題を解決できると認識できるものとなるものとはいえないから, 34 本件訂正はサポート要件違反の無効理由を解消するものと認めることはで きない。
したがって,本件発明に係る本件特許は,特許無効審判により無効にされ るべきものと認められ,控訴人は,被控訴人らに対し,同法104条の3第 1項の規定により,本件特許権を行使することができないというべきである から,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理 由がない。
2 結論 以上のとおり,控訴人の請求はいずれも理由がないから,控訴人の請求をい ずれも棄却した原判決は相当である。
したがって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のと おり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 國分隆文
裁判官 筈井卓矢