運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2017-800145
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 平成 30年 (行ケ) 10145号 審決取消請求事件

原告 内外化学製品株式会社
訴訟代理人弁護士 鹿内徳行 高松政裕
訴訟代理人弁理士 田中宏 江藤保子
被告 三菱瓦斯化学株式会社
被告 株式会社片山化学工業研究所
被告 ナルコジャパン合同会社 代表者代表社員 エコラボ合同会社
被告ら訴訟代理人弁護士 白波瀬文夫 白波瀬文吾
被告ら訴訟代理人弁理士 池内寛幸 小林元悟
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/07/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 11 特許庁が無効2017−800145号事件について平成30年9月11日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
請求
主文1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告らは,平成27年8月4日,発明の名称を「海生生物の付着防止方法 およびそれに用いる付着防止剤」とする発明について,特許出願(特願20 15-154203号,優先権主張同年4月15日(以下「本件優先日」と いう。)。以下「本件出願」という。)をし,平成28年2月12日,特許 権の設定登録(特許第5879596号。請求項の数4。以下,この特許を 「本件特許」という。乙10)を受けた。
(2) 原告は,平成29年12月4日,本件特許について特許無効審判を請求し た。
特許庁は,上記請求を無効2017-800145号事件として審理を行 い,平成30年9月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審 決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送 達された。
(3) 原告は,平成30年10月17日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,以下のとおりであ る(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」など という。甲19)。
2 【請求項1】 海水冷却水系の海水中に,二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順 でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させ ることにより海水冷却水系への海生生物の付着を防止することを特徴とする海 生生物の付着防止方法。
【請求項2】 前記二酸化塩素および過酸化水素が,前記海水に対してそれぞれ0.01〜 0.5mg/Lおよび0.1〜2.0mg/Lの濃度で海水中に共存する請求 項1に記載の海生生物の付着防止方法。
【請求項3】 前記二酸化塩素と過酸化水素とが1日14〜24時間添加される請求項1ま たは2に記載の海生生物の付着防止方法。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法に使用される海生生物の付着防止 剤であって, 前記付着防止剤が, 過酸化水素発生源としての (a)過酸化水素水溶液,または (b)過酸化水素供給化合物の水溶液と, 二酸化塩素発生源としての (1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせ (2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との組み合わせ,または (3)塩素酸ナトリウム,過酸化水素および硫酸との組み合わせ とを含むことを特徴とする海生生物の付着防止剤。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,@ 3 本件発明1は,本件優先日前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び甲2ないし7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,本件発明2ないし4もこれと同様であるから,甲1を主引用例とする進歩性欠如(特許法29条2項違反。以下同じ。)の無効理由(無効理由1)は理由がない,A本件発明1は,甲5に記載された発明(以下「甲5発明」という。)及び甲1ないし4,6,7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,本件発明2ないし4もこれと同様であるから,甲5を主引用例とする進歩性欠如の無効理由(無効理由2)は理由がないというものである。
甲1ないし7,9ないし18は,次のとおりである。
甲1 特公昭61-2439号公報甲2 特公平6-29163号公報甲3 特開平6-153759号公報甲4 特開2003-329389号公報甲5 特開平8-24870号公報甲6 高効率浄水技術開発研究(ACT21)代替消毒剤の実用化に関する マニュアル,(財)水道技術研究センター,2002年12月発行,1 頁〜5頁,57頁〜58頁,137頁甲7 海洋生物環境研究所研究報告,(財)海洋生物環境研究所,2005 年3月発行,第8号,11頁〜17頁甲9 カーク・オスマー化学大辞典,丸善株式会社,昭和63年9月20日 発行,201頁〜203頁甲10 工業化学雑誌,(社)日本化学会,昭和37年12月5日発行,第 65巻,第12号,1911頁〜1916頁甲11 工業化学雑誌,(社)日本化学会,昭和37年12月5日発行,第 4 65巻,第12号,1918頁〜1922頁 甲12 日本家政学会誌,(社)日本家政学会,平成元年3月5日発行,第 40巻,第3号,207頁〜212頁 甲13 国際公開第2009/081714号フロントページ 甲14 紙パ技協誌,紙パルプ技術協会,1998年5月1日発行,第52 巻,第5号,623頁〜629頁 甲15 化学と教育,(社)日本化学会,2007年9月20日,第55巻, 第9号,460頁〜463頁 甲16 高効率浄水技術開発研究(ACT21)代替消毒剤の実用化に関す るマニュアル,(財)水道技術研究センター,2002年12月発行, 22頁〜24頁 甲17 海生生物汚損対策マニュアル,技報堂出版株式会社,1991年3 月8日発行,8頁 甲18 高効率浄水技術開発研究(ACT21)代替消毒剤の実用化に関す るマニュアル,(財)水道技術研究センター,2002年12月発行, 58頁〜60頁(2) 本件審決が認定した甲1発明,甲5発明,本件発明1と甲1発明との一致 点及び相違点,本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は,以下のとお りである。
ア 甲1発明 冷却用海水路の海水に,有効塩素発生剤と過酸化水素とを同時または交 互に注入することにより,冷却用海水路における海水動物の付着を抑制す る海水動物の付着抑制方法。
イ 甲5発明 工業用海水冷却水系の海水冷却水に予め過酸化水素を添加して分散さ せた後,有効塩素発生剤を添加することにより,工業用海水冷却水系にお 5 ける海生付着生物の付着防止又は成長抑制する工業用海水冷却水の処理 方法。
ウ 甲1発明と本件発明1との一致点及び相違点 (一致点) 「海水冷却系の海水中に,過酸化水素を添加して,海水冷却水系への海 生生物の付着を防止する海生生物の付着防止方法」である点。
(相違点1) 本件発明1は,海水中にさらに「二酸化塩素」を「この順もしくは逆順 でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存 させ」ているのに対して,甲1発明は,海水中にさらに「有効塩素発生剤」 を「同時または交互に注入する」点。
エ 甲5発明と本件発明1との一致点及び相違点 (一致点) 「海水冷却系の海水中に,過酸化水素を添加して,海水冷却水系への海 生生物の付着を防止する海生生物の付着防止方法」である点。
(相違点2) 本件発明1は,海水中にさらに「二酸化塩素」を「この順もしくは逆順 でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存 させ」ているのに対して,甲5発明は,過酸化水素を添加して分散させた 後に「有効塩素発生剤を添加する」点。
当事者の主張
1 取消事由1-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り) について (1) 原告の主張 ア 相違点1の容易想到性の判断の誤り 本件審決は,@甲1発明の有効塩素発生剤は,過酸化水素との酸化還元 6 反応によって一重項酸素を発生させることを目的とする化合物である,A甲1ないし7,9ないし18は,二酸化塩素が,過酸化水素との酸化還元反応によって一重項酸素を発生させる化合物であることを開示するものでなく,このようなことが技術常識であるといえないから,過酸化水素との酸化還元反応によって一重項酸素を発生させることを目的とする甲1発明の有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換する動機付けがあるといえないとして,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易になし得ることではない旨判断したが,以下のとおり,誤りである。
(ア) 甲1発明の有効塩素発生剤の目的の認定の誤り等 甲1記載の有効塩素発生剤(塩素,次亜塩素酸塩)が過酸化水素との 酸化還元反応によって一重項酸素を発生させることは認めるが,甲1か ら,甲1発明における海水動物の付着抑制効果のメカニズムは,過酸化 水素と有効塩素発生剤の組み合わせによる一重項酸素の発生であると理 解することはできないから,甲1発明の有効塩素発生剤は,過酸化水素 との酸化還元反応によって一重項酸素を発生させることを目的とする化 合物であるとした本件審決の認定は誤りである。
すなわち,甲1には,海水動物が海水の工業的な利用にもたらす障害 について,「このような障害を防止するために,従来有効塩素発生剤, 有機スズ化合物,有機イオウ化合物,第4級アンモニウム塩等が用いら れて来た。しかしこれらの薬剤は残留毒性,蓄積毒性があり,広く海水 動物の生態環境を破壊するものと指摘されている。」(1頁左欄20行 〜右欄9行),「過酸化水素と従来使用されて来た上記薬剤を一緒にも しくは交互に組み合わせて連続的または間欠的に使用すれば,相乗効果 によって薬剤を著るしく減らしても同一の効果が得られることを見出し た。」(2頁左欄6行〜10行),「過酸化水素を従来の抑制剤と組み 7 合わせ使用することによって従来の抑制剤の使用濃度を実質的に低下せしめ,環境問題の見地からこれらの薬剤を有利に使用することを可能ならしめたものである。」(2頁右欄36行〜40行)との記載があるとおり,甲1記載の有効塩素発生剤は,従来使用されて来た海水動物付着抑制剤の一つとして記載されているにすぎず,過酸化水素を従来使用されて来た海水動物付着抑制剤と組み合わせて使用することによって従来の抑制剤の使用濃度を実質的に低下せしめることができれば,甲1発明の目的を達成できることは明らかである。
また,甲1には,過酸化水素との組み合わせについて「特に有効塩素との組み合わせの場合には,次式に示す酸化-還元反応によって一重項の酸素(OI)が発生して相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。
「H2O2+ClO-→H2O+C1-+OI」(2頁右欄7行〜12行)との記載があるが,「相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。」と記載されているに過ぎず,一重項酸素の発生により相乗的に抑制効果が高まることのメカニズムまで解明されているわけではない。
さらに,甲1には,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用以外にも,過酸化水素とヒドラジンとを併用した「実施例3」として,過酸化水素とヒドラジンとの併用の結果,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用の結果と同様の抑制効果が得られたことが記載されており(4頁左欄1行〜6頁左欄2行),このことは,一重項酸素の発生によらなくても抑制効果が得られたことを示すものであって,甲1記載の海水動物の抑制方法の付着抑制効果のメカニズムは,過酸化水素と第2薬剤との組み合わせによる一重項酸素の発生に限られるものではないことを示すものといえる。
したがって,甲1発明の有効塩素発生剤は,過酸化水素との酸化還元反応によって一重項酸素を発生させることを目的とする化合物である 8 とはいえないし,二酸化塩素が過酸化水素との酸化還元反応によって一 重項酸素を発生させる化合物でないからといって,そのことから直ちに, 過酸化水素と組み合わせる甲1発明の有効塩素発生剤を二酸化塩素に 置換する動機付けがないということはできない。
したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断には誤り がある。
(イ) 甲1発明の課題の公知性及び自明性 海生生物付着防止剤として過酸化水素を用いる場合,特に二枚貝類の 付着防止に関しては,過酸化水素に対する抵抗性が強く,多量の過酸化 水素を添加しないと処理できないこと(甲5の【0004】,【000 5】)から,過酸化水素と他の薬剤を併用することは,当該技術分野に おける常套手段である。
そして,甲5には,甲1記載の過酸化水素剤と塩素剤を併用する方法 について,「過酸化水素剤と塩素剤とを同時に別々に海水に注入する方 法(同時添加法1)であり,海水中の過酸化水素と有効塩素との酸化還 元反応により発生する1重項の酸素(活性酸素)の作用により付着生物 の付着抑制効果を期待するものであるため,近似する同一箇所に注入点 を設けることが好ましい。」(【0007】),「その場合,酸化還元 反応により,両薬剤が消費され,添加個所及びそれ以降の一部区域につ いては有効な海生付着生物に対する付着及び成長抑制効果が発揮され るが,それ以降の区域においては充分な抑制効果が発揮されないという 課題があった(技術課題1)。」(【0008】)との記載がある。ま た,甲22(特開2015―58405号公報)には,「一方,「併用 添加法」では,過酸化水素剤と塩素剤との酸化還元反応により,両薬剤 が消費される,つまり両薬剤の濃度が低下するので,薬注個所およびそ の近傍区域では海生付着生物に対する付着および成長抑制の有効な効 9 果が発揮されるが,薬注個所から離れた下流側の区域においては充分な 効果が発揮されないという課題がある。」(【0007】),「また, 「分散添加法」では,予め過酸化水素剤を海水に分散させるための装置 が必要となるため経済的に不利であり,「併用添加法」と同様に,過酸 化水素剤と塩素剤との酸化還元反応により,両薬剤が消費されるので, 薬注個所からの距離が長くなると下流側の区域においては海生付着生 物に対する付着および成長抑制の充分な効果が発揮されないという課 題がある。このように従来技術においては,過酸化水素剤と塩素剤とを 安定に共存させることができず,両薬剤の特徴が十分に活かされていな かった。」(【0008】)との記載がある。
これらの記載から,甲1発明の「過酸化水素剤と塩素剤との酸化還元 反応を用いた方法」では,両薬剤が消費され,「安定に共存」させるこ とができないという課題は,本件優先日前に,公知であったといえる。
次に,甲1記載の「H2O2+ClO-→H2O+C1-+OI」の式は, 過酸化水素と有効塩素発生剤とを組み合わせた場合,過酸化水素とCl O-が酸化還元反応により時間経過とともに消費され,水と,殺菌力の ない「Cl-」と,一重項酸素「OI」とが生成されることを示したもの である。この一重項酸素「OI」は,寿命が短く,長く存在し得ないこ とは技術常識であることからすると,甲1記載の上記式から,甲1発明 の過酸化水素剤と塩素剤との酸化還元反応を用いた方法には,両薬剤が 消費され,「安定に共存」させることができないという課題があること は自明である。
さらに,甲1発明における有効塩素発生剤である塩素,次亜塩素酸ナ トリウムを用いた場合には,有害なトリハロメタンの生成という課題が あることは,本件優先日当時,周知であった(甲2)。
(ウ) 二酸化塩素に関する技術事項 10 甲1には,二酸化塩素に関する記載はない。
しかるところ,@甲15の「Cl+のように酸化力を持つ塩素を有効 塩素と呼んで,酸化力のないCl-と区別しています」(461頁左欄 7行〜8行)との記載から,有効塩素とは酸化力のある塩素を意味する と解されるところ,二酸化塩素が酸化力を有することは技術常識である こと(甲6,15),A二酸化塩素は,海水中で亜塩素酸イオン(Cl O2-)を発生させる化合物であって(甲2,6),亜塩素酸イオンが酸 化力を有することは技術常識であることからすると,二酸化塩素は,有 効塩素であって,海水中で塩素を発生させる有効塩素発生剤の一種であ る。
仮に二酸化塩素が有効塩素発生剤であるとはいえないとしても, 二 酸化塩素は,甲1発明の有効塩素発生剤と同じ塩素系の海生生物の付着 防止剤に属する(甲15)。
そして,二酸化塩素は,トリハロメタンのような有機化合物を生成せ ず,環境負荷が少ないことから,有効塩素発生剤である塩素,次亜酸素 酸ナトリウム等に替わる付着防止剤として,本件優先日当時,海生生物 の付着防止技術の分野において,周知であった(甲2,3,6,7,2 8)。
また,二酸化塩素を用いた場合,塩素,次亜塩素酸ナトリウム等の薬 剤を用いた場合よりも,海生生物付着防止効果が高いことは,本件優先 日当時,公知であった(甲2,3)。
(エ) 相違点1の容易想到性 甲1発明に前記(イ)の課題があることは本件優先日当時公知又は自 明 であったこと,前記(ウ)のとおり,二酸化塩素は,甲1発明の有効 塩素発生剤と同じ塩素系の海生生物の付着防止剤に属すること,二酸化 塩素は,本件優先日当時,有効塩素発生剤である塩素,次亜塩素酸ナト 11 リウム等に替わる海生生物の付着防止剤として周知であり,塩素,次亜 塩素酸ナトリウム等の薬剤を用いた場合よりも海生生物付着防止効果 が高いことは公知であったことからすると,甲1及び甲2ないし7,9 ないし18に接した当業者は,より高い海生生物付着防止効果を得られ ること等を期待して,甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素と 置換する動機付けがあるものといえるから,甲1発明において,「海水 冷却水系の海水中に,二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順 でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共 存させる」構成(相違点1に係る本件発明の構成)とすることを容易に 想到することができたものである。
したがって,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(オ) 被告らの主張について 被告らは,二酸化塩素は,極めて不安定な化学物質であって(甲3の 【0018】),当業者は,酸化力の強い二酸化塩素は過酸化水素との 酸化還元反応により共存できないと理解するから,甲1発明における有 効塩素発生剤を二酸化塩素に置換することを容易に想到することはで きない旨主張する。
しかしながら,甲3の【0018】の記載は,二酸化塩素の貯蔵,輸 送が困難であることを述べるものであって,海水中の二酸化塩素に関す る記載ではない。また,酸化力は,電子を奪う能力(酸化させることが できる対象物の量)の大小を示すものに過ぎず,酸化力と酸化還元反応 における共存とは別の問題であるから,酸化力のみをもって過酸化水素 との反応速度を推測することはできない。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
イ 本件発明1の予期し得ない顕著な効果に関する判断の誤り 本件審決は,仮に甲1発明の有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換できる 12 と仮定しても,@本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。甲19)の「試験例1」,「試験例4」及び「試験例5」の記載から,試験例1で確認することができる海水中での二酸化塩素と過酸化水素の共存の持続が,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の同時添加と比較して,海生生物やスライムの付着を効率よく防止できるとの効果を奏することも確認することができるのに対し,原告提出の各甲号証には,二酸化塩素と過酸化水素の海水中での共存が,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の共存より長時間持続することも,海生生物やスライムの付着を効率よく防止できることも具体的に記載していない,Aそうすると,二酸化塩素と過酸化水素の海水中での共存が,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の共存より長時間持続することができ,海生生物やスライムの付着を効率よく防止できるとの本件発明1の奏する効果は,当業者が予期し得ない格別な効果であるといえるから,本件発明1は,甲1発明及び甲2ないし7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない旨判断したが,以下のとおり,誤りである。
(ア) 試験例1の二酸化塩素の残留率について 本件審決は,本件明細書記載の試験例1の実施例1(水温20℃の濾 過海水200mLに対して,二酸化塩素を0.1mg/L,過酸化水素 を1.05mg/Lになるように,この順序で添加)では,撹拌5分後 の二酸化塩素の残留率が60%であるのに対し,実施例1の二酸化塩素 を次亜塩素酸ナトリウムに変更した以外は同じ条件で行った比較例1 では,撹拌5分後の次亜塩素酸ナトリウムの残留率が17%未満である ことから,二酸化塩素と過酸化水素の海水中での共存は,次亜塩素酸ナ トリウムと過酸化水素の共存時間より長時間持続するとの「効果1」が 確認することができ,実施例2と比較例2を比べても,上記「効果1」 を確認することができる旨判断した。
13 しかるところ,甲25(「Water Reseach Vol.2 8 1」1994)記載の二酸化塩素が無機化合物と反応した時の経 過時間に対する濃度変化を示す「式(4)」(46頁右欄7行・訳文乙8 の2の3頁)に,本件明細書の試験例1に記載された各実施例における 二酸化塩素と過酸化水素の初期濃度を当てはめて二酸化塩素の濃度変 化を計算すると,実施例1では,攪拌5分後は0.08mg/L(80%), 攪拌15分後は0.04mg/L(40%),実施例2では,攪拌5分 後は0.19mg/L(76%) 15分後は0. , 11mg/L(44%) となる。これらの計算結果は,実施例1及び2記載の二酸化塩素の残留 率に近いか,それ以上であって,二酸化塩素と過酸化水素の海水中での 共存は,次亜塩素酸ナトリウムとの共存時間より長時間持続することを 示すものである。試験例1の実施例3及び4に係る計算結果も,これと 同様である。
したがって,試験例1の二酸化塩素の残留率に係る効果は,甲1発明 の有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換した場合に当業者が予期し得る 範囲内のものであって,当業者が予期し得ない格別な効果であるとは認 められない。
(イ) 試験例4のスライムの付着量について 本件審決は,本件明細書記載の試験例4の実施例1(水路に海水を1 ?/hで63日間通水し,二酸化塩素を0.05mg/L,過酸化水素 を0.175mg/Lになるように同時に連続添加したもの)では,ス ライムを主体とする汚れを示す湿体積が1.0mlであるのに対し,実 施例1の二酸化塩素を次亜塩素酸ナトリウムに変更した以外は同じ条 件で行った比較例4では,湿体積が3.0mlであることが記載されて いることから,海水中での二酸化塩素と過酸化水素の共存の持続が,次 亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の同時添加と比較して,スライムの付 14 着を効率よく防止できるとの効果を奏する旨判断した。
しかるところ,甲2には,二酸化塩素に関し,「本発明は塩素の代わ りに塩素の2.6倍の有効塩素量を有し,水溶性の高い二酸化塩素また は二酸化塩素発生剤を用いることにより,薬品使用量の減少をはかり, ひいては,毒性のあるTHM(トリハロメタン)の生成を防止しつつ, 海洋中などの水中における生物付着を防止することで成功したもので ある。」(2頁左欄14行〜19行)との記載がある。
加えて,甲2記載の表「海生生物付着試験結果」から,別紙4の表A に示すとおり,次亜塩素酸ナトリウム(3.0ppm)を用いた場合の スライム減少量(「ブランク」のスライム付着量から試験後のスライム 付着量を差し引いた量。以下同じ。 は, ) 330g/uであるのに対し, 二酸化塩素(亜塩素酸ナトリウム(1.0ppm)及び硫酸(0.01 1ppm)から生成したもの)を用いた場合のスライム減少量は415 g/uであり,有効成分量を同じ量に換算すると,約3倍の効果(41 5÷(330×0.36÷0.15)=3.01(小数点第3位切り捨 て))が得られたことを理解できる。
したがって,試験例4の効果は,甲1発明の有効塩素発生剤を二酸化 塩素に置換した場合に当業者が予期し得る範囲内のものであって,予期 し得ない格別な効果であるとはいえない。
(ウ) 試験例5の海生生物の付着について 本件審決は,本件明細書記載の試験例5の実施例1(水路に海水を1 ?/hで69日間通水し,二酸化塩素を0.05mg/L,過酸化水素 を0.175mg/Lになるように同時に連続添加したもの)では,海 生生物付着量を示す付着物量が7.68gであるのに対し,実施例1の 二酸化塩素を次亜塩素酸ナトリウムに変更した以外は同じ条件で行っ た比較例1では,付着物量が26.74gであることが記載されている 15 ことから,海水中での二酸化塩素と過酸化水素の共存の持続が,次亜塩 素酸ナトリウムと過酸化水素の同時添加と比較して,海生生物の付着を 効率よく防止できるとの効果を奏する旨判断した。
しかるところ,甲2記載の表「海生生物付着試験結果」から,別紙4 の表Bに示すとおり,次亜塩素酸ナトリウム(3.0ppm)を用いた 場合のフジツボの残存率は7.6%であり,二酸化塩素(亜塩素酸ナト リウム(1.0ppm)及び硫酸(0.011ppm)から生成したも の)を用いた場合のフジツボの残存率は,同様に7.6%であるところ, 二酸化塩素の有効成分量0.15ppmは,次亜塩素酸ナトリウム有効 成分量0.36ppmの1/24である。
また,別紙4の表Bに示すとおり,次亜塩素酸ナトリウム(3.0p pm)を用いた場合には二枚貝の付着量は0であるのに対し,二酸化塩 素(亜塩素酸ナトリウム(0.2ppm)及び硫酸(0.02ppm) から生成したもの)においては,1/12の有効成分量で同様の効果が 得られている。
したがって,試験例5の効果は,甲1発明の有効塩素発生剤を二酸化 塩素に置換した場合に当業者が予期し得る範囲内のものであって,当業 者が予期し得ない格別な効果であるとは認められない。
(エ) 被告らの主張について 被告らは,本件明細書記載の試験例4及び5について,次亜塩素酸ナ トリウムを単体で用いた場合と過酸化水素を組み合わせた場合とで,ス ライムの付着量及び海生生物の付着量に違いがないのに対し,二酸化塩 素と過酸化水素を組み合わせた場合は,二酸化塩素を単体で用いた場合 と比較して,スライムの付着量及び海生生物の付着量が大きく減少して おり,このことは,二酸化塩素及び次亜塩素酸ナトリウムのそれぞれの 単独の結果からそれぞれの過酸化水素との併用効果を予測できないこ 16 とを示すものである旨主張する。
しかしながら,甲2の記載から,二酸化塩素と過酸化水素を併用した 場合には,各々のスライム汚れの防止効果に加えて,両者の反応により 生成されるClO 2 -(亜塩素酸イオン)の効果も付随し,このClO - 2 (亜塩素酸イオン)は,有効塩素発生剤から生成されるClO - (次亜塩素酸イオン)よりも優れたスライム汚れの防止効果を有する こと(表2)を理解できる。
したがって,当業者は,二酸化塩素を過酸化水素と組み合わせた場合, 二酸化塩素を単独で使用した場合に比べ,各々の効果に加え,亜塩素酸 イオンの効果が得られることを予期することができるといえるから,被 告らの上記主張は失当である。
(オ) まとめ 以上によれば,本件発明1は当業者が予期し得ない格別な効果を奏す るとした本件審決の判断は,誤りである。
ウ 小括 以上のとおり,本件審決が,相違点1は当業者が容易に想到し得たもの ではない旨及び本件発明1は相違点1に係る構成を備えることによって 顕著な効果を奏する旨判断したことは,いずれも誤りである。
そうすると,本件発明1は,甲1に記載された発明(甲1発明)及び甲 2ないし7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易に 発明をすることができたものであるから,これと異なる本件審決の判断は 誤りである。
(2) 被告らの主張 ア 相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し (ア) 甲1発明の有効塩素発生剤の目的について 甲1の「特に有効塩素との組み合わせの場合には,次式に示す酸化- 17 還元反応によって一重項の酸素(OI)が発生して相乗的に抑制効果が 高まるものと考えられる。H2O2+ClO-→H2O+C1-+OI」(2 頁右欄7行〜12行)との記載から,当業者は,甲1発明における海水 動物の付着抑制効果のメカニズムは,過酸化水素と有効塩素発生剤の組 み合わせによる一重項酸素の発生であると理解するから,甲1発明の有 効塩素発生剤は,過酸化水素との酸化還元反応によって一重項酸素を発 生させることを目的とする化合物であるとした本件審決の認定に誤り はない。
(イ) 甲1発明の課題について 甲1には,甲1発明について改善すべき問題点が記載されておらず, それ自体が完成された発明である。
また,仮に甲1発明の課題が公知であったとしても,相違点1に係る 本件発明の構成を想起する動機付けがあることにならない。
(ウ) 二酸化塩素に関する技術事項について 二酸化塩素は,「極めて不安定な化学物質」(甲3の【0018】), であって,かつ,「塩素の2.6倍の有効塩素量を有」する(甲2の2 頁左欄14〜15行)酸化力の強い化合物である。
また,二酸化塩素は,「有効塩素で示される化合物(これらは加水分 解して次亜塩素酸を生成する)には属さない」(甲6の57頁31行〜 58頁1行)から,有効塩素又は有効塩素発生剤ではない。
さらに,二酸化塩素は,上記のとおり,不安定かつ酸化力の強い化合 物であるため,過酸化水素との酸化還元反応により共存できないと考え るのが妥当であるので,本件優先日技術常識では,二酸化塩素と過酸 化水素の共存は,通常は考えられていなかった(本件明細書の【001 0】)。
しかも,二酸化塩素と過酸化水素を組み合わせた場合,両者が反応し 18 て消費され,二酸化塩素は亜塩素酸イオンとなるが(甲9),一重項酸 素は発生しない。そして,甲2の「以上の結果より海水生物付着防止効 果について亜塩素酸ナトリウム単独でも従来処理程度の効果を示すが, 亜塩素酸ナトリウムを活性化し二酸化塩素にすることで著しい効果を あげることができる。」(5欄43行〜46行)との記載から,海水生 物付着防止効果について,亜塩素酸イオンは二酸化塩素に劣ることを理 解できるから,二酸化塩素と過酸化水素を併用するよりも,二酸化塩素 を単独で使用する方が海生生物付着防止効果は高いものといえる。
(エ) 相違点1の容易想到性について 甲1には,二酸化塩素は記載されておらず,甲1記載の「従来使用さ れてきた上記薬剤」には,二酸化塩素は含まれない。ましてや,甲1に は,二酸化塩素を過酸化水素と組み合わせて使用することについての記 載も示唆もない。
また,甲1ないし7,9には,「二酸化塩素」と「過酸化水素」を組 み合わせると,両者の海中での共存が「長時間持続」することについて の記載も示唆もない。
さらに,前記(ウ)のとおり,二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い 化合物であるため,二酸化塩素と過酸化水素の共存は,本件優先日当時, 通常は考えられていなかったものである。かえって,二酸化塩素と過酸 化水素を組み合わせた場合には,両者が反応して消費され,二酸化塩素 は海生生物付着防止効果が劣る亜塩素酸イオンとなり,一重項酸素も発 生しないため,二酸化塩素と過酸化水素を併用するよりも,二酸化塩素 を単独で使用する方が海生生物付着防止効果は高いことから,二酸化塩 素に過酸化水素を組み合わせることには,動機付けがなく,むしろ阻害 要因がある。
原告主張の二酸化塩素が甲1発明の有効塩素発生剤と同じ塩素系の 19 海生生物の付着防止剤に属すること,二酸化塩素は,トリハロメタンの ような有機化合物を生成せず,環境負荷が少ないこと,二酸化塩素を用 いた場合,塩素,次亜酸素酸ナトリウム等の薬剤を用いた場合よりも, 海生生物付着防止効果が高いことは,二酸化塩素と過酸化水素を組み合 わせることを示唆するものではなく,二酸化塩素を単独で使用すること を示唆するに過ぎない。
また,甲1発明の課題が公知であるからといって,相違点1に係る本 件発明の構成を想起する動機付けがあることにならないし,数多くの薬 剤の中から「二酸化塩素」と「過酸化水素」を選ぶことは当業者にとっ て容易なことではない。
以上によれば,当業者は,甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化 塩素と置換し,二酸化塩素と過酸化水素を組み合わせる動機付けがなく, むしろ阻害要因があるから,甲1発明において,「海水冷却水系の海水 中に,二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に 添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」構成 (相違点1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到すること ができたものではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ 本件発明1の予期し得ない顕著な効果に関する判断の誤りの主張に対し (ア) 試験例1の二酸化塩素の残留率について 本件明細書には,「試験例1」として,過酸化水素と次亜塩素酸ナト リウムを組み合わせた場合,攪拌5分後の次亜塩素酸ナトリウムの残留 率が17%未満であったのに対し,過酸化水素と二酸化塩素を組み合わ せた場合,攪拌5分後の二酸化塩素の残留率が60%であり,過酸化水 素と二酸化塩素とを組み合わせた場合の方が,両者の海中での共存が長 時間持続するという本件発明1の効果が記載されている(表1,【00 20 32】〜【0037】)。
二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い化合物であるため,二酸化塩 素と過酸化水素の共存は,本件優先日当時,通常は考えられておらず, 両者の海中での共存が「長時間持続」するものとは考えられていなかっ たことに照らせば,試験例1記載の上記効果は当業者が予期し得ない格 別な効果であるといえる。
これに対し原告は,甲25に記載された二酸化塩素の濃度変化に関す る理論式(式(4))を適用することで,当業者が本件発明1の効果を予期 することは可能である旨主張する。
しかしながら,甲25は,「様々な種類の基質と二酸化塩素との反応 に関する二次速度定数の包括的な測定が,標準的な飲用水用の実験室に おいて再現できる従来の実験室用の方法を用いてなされてきた。」(5 4頁12行〜16行・訳文乙8の2の17頁)との記載のとおり,飲料 水用の二酸化塩素の反応速度論に関する文献であって,海水中の状態の 反応速度論に関する文献ではない。また,甲25記載の理論式(式(4)) は,海水など野外での反応速度を正確に計算できるものではなく,しか も,甲25は次亜塩素酸ナトリウムの反応速度について何ら記載がない。
したがって,当業者は,甲25の記載に基づいて,二酸化塩素と過酸 化水素を組み合わせた場合に,両者の海中での共存が長時間持続すると いう本件発明1の効果を予期することはできないから,原告の上記主張 は失当である。
(イ) 試験例4のスライムの付着量について 本件明細書には,「試験例4」として,海水を水路に通水した場合の スライム汚れの量が「湿体積」として測定され,その結果が表4に記載 されており,二酸化塩素単独(「湿体積」が4.0ml又は2.0ml) よりも過酸化水素と二酸化塩素との組み合わせの方(「湿体積」が1. 21 0ml)がスライム汚れの付着防止効果が高いのに対し,次亜塩素酸ナ トリウムの場合,過酸化水素と組み合わせても,「湿体積」が3.0m lで,スライム汚れの防止効果が向上しないという結果が示されている (表4,【0052】)。
しかるところ,二酸化塩素は,次亜塩素酸ナトリウムと異なり,過酸 化水素との組み合わせで一重項酸素を発生させるものではないにもか かわらず,過酸化水素と二酸化塩素の組み合わせの方がスライム汚れの 付着防止効果が高まるという結果を予測することは困難である。また, 表4から,二酸化塩素又は次亜塩素酸ナトリウムのそれぞれ単独の結果 から,それぞれの過酸化水素との併用効果を予測できないことが分かる。
したがって,試験例4記載の上記効果は当業者が予期し得ない格別な 効果であるといえる。
(ウ) 試験例5の海生生物の付着について 本件明細書には,「試験例5」として,過酸化水素と次亜塩素酸ナト リウムを併用した場合に比べ,過酸化水素と二酸化塩素を併用した場合, 海生生物付着量の抑制効果が高いことが示されている(表5,【005 7】)。
甲1には,過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせで一重 項酸素が発生するという相乗効果が開示されているが,過酸化水素と二 酸化塩素との組み合わせについては何ら開示されていないから,これら の2組の海生生物付着量の抑制効果を単独成分の結果から予測するこ とは困難である。
したがって,試験例5記載の上記効果は当業者が予期し得ない格別な 効果であるといえる。
(エ) まとめ 以上によれば,本件発明1は当業者が予期し得ない格別な効果を奏す 22 るとした本件審決の判断に誤りはない。
ウ 小括 以上のとおり,相違点1に係る発明特定事項は当業者が容易に想到し得 たものではなく,また,仮に相違点1に係る発明特定事項容易に想到し 得るとしても,本件発明1は,甲1発明からは予期し得ない格別な効果を 奏するものであるから,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2な いし7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明 をすることができたものではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由1-2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし4の進歩性の判断 の誤り)について (1) 原告の主張 本件審決は,本件発明2ないし4は,本件発明1を更に減縮したものであ るから,本件発明1について検討したのと同様に,甲1に記載された発明及 び甲2ないし7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易 に発明をすることができたものではない旨判断した。
しかしながら,前記1(1)のとおり,本件審決のした本件発明1の容易想到 性の判断に誤りがある以上,本件発明2ないし4の容易想到性を否定した本 件審決の上記判断は,その前提を欠くものであって,誤りである。
(2) 被告らの主張 前記1(2)のとおり,本件審決のした本件発明1の容易想到性の判断に誤り がないから,本件発明2ないし4の容易想到性を否定した本件審決の判断に 誤りがあるとの原告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
3 取消事由2-1(甲5を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り) について (1) 原告の主張 23 ア 相違点2の容易想到性の判断の誤り 本件審決は,@甲5発明の有効塩素発生剤は,過酸化水素との酸化還元 反応によって一重項酸素を発生させることを目的とする化合物である,A 甲1ないし7,9ないし18は,二酸化塩素が,過酸化水素との酸化還元 反応によって一重項酸素を発生させる化合物であることを開示するもの でなく,このようなことが技術常識であるといえないから,過酸化水素と の酸化還元反応によって一重項酸素を発生させることを目的とする甲5 発明の有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換する動機付けがあるといえな いとして,甲5発明において,相違点2に係る本件発明5の発明特定事項 とすることは,当業者が容易になし得ることではない旨判断した。
しかしながら,甲5には,甲1に記載された発明について,「上記特許 公報に記載の発明の第1実施態様は,…海水中の過酸化水素と有効塩素と の酸化還元反応により発生する1重項の酸素(活性酸素)の作用により付 着生物の付着抑制効果を期待するものである」(【0007】)との記載 があるが,上記記載は甲1発明の有効塩素発生剤についての誤った認識に 基づくものであり,前記1(1)ア(ア)で述べたのと同様の理由により,甲5 発明の有効塩素発生剤は,過酸化水素との酸化還元反応によって一重項酸 素を発生させることを目的とする化合物であるとはいえないし,二酸化塩 素が過酸化水素との酸化還元反応によって一重項酸素を発生させる化合 物でないからといって,そのことから直ちに,過酸化水素と組み合わせる 甲5発明の有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換する動機付けがないとい うことはできない。
そして,前記1(1)ア(エ)で述べたのと同様の理由により,甲5及び甲 1ないし4,6,7,9ないし18に接した当業者は,甲5発明における 有効塩素発生剤を二酸化塩素と置換する動機付けがあるものといえるか ら,甲1発明において,「海水冷却水系の海水中に,二酸化塩素と過酸化 24 水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と 過酸化水素とを海水中に共存させる」構成(相違点2に係る本件発明の構 成)とすることを容易に想到することができたものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
イ 本件発明5の予期し得ない顕著な効果に関する判断の誤り 二酸化塩素と過酸化水素の海水中での共存が,次亜塩素酸ナトリウムと 過酸化水素の共存より長時間持続することができ,海生生物やスライムの 付着を効率よく防止できるという本件発明1の奏する効果は,当業者が予 期し得ない格別な効果であるとした本件審決の判断は,前記1(1)イのと おり誤りである。
ウ 小括 以上によれば,本件発明1は,甲5に記載された発明(甲5発明)及び 甲1ないし4,6,7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができたものであるから,これと異なる本件審 決の判断は誤りである。
(2) 被告らの主張 前記1(2)アで述べたのと同様の理由により,当業者は,甲5発明における 有効塩素発生剤を二酸化塩素と置換し,二酸化塩素と過酸化水素を組み合わ せる動機付けがなく,むしろ阻害要因があるから,甲5発明において,「海 水冷却水系の海水中に,二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順で または同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させ る」構成(相違点2に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到する ことができたものではない。
また,本件発明1が当業者が予期し得ない格別な効果を奏することは,前 記1(2)イのとおりである。
以上によれば,本件発明1は,甲5に記載された発明及び甲1ないし4, 25 6,7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明を することができたものではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由2-2(甲5を主引用例とする本件発明2ないし4の進歩性の判断 の誤り)について (1) 原告の主張 本件審決は,本件発明2ないし4は,本件発明1を更に減縮したものであ るから,本件発明1について検討したのと同様に,甲5に記載された発明及 び甲1ないし4,6,7,9ないし18に記載された発明に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができたものではない旨判断した。
しかしながら,前記3(1)のとおり,本件審決のした本件発明1の容易想到 性の判断に誤りがある以上,本件発明2ないし4の容易想到性を否定した本 件審決の上記判断は,その前提を欠くものであって,誤りである。
(2) 被告らの主張 前記3(2)のとおり,本件審決のした本件発明1の容易想到性の判断に誤り がないから,本件発明2ないし4の容易想到性を否定した本件審決の判断に 誤りがあるとの原告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り) について (1) 本件明細書の記載事項について ア 本件明細書(甲19)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある (下記記載中に引用する表1,表4及び表5については別紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤に 26 関する。さらに詳しくは,本発明は,低濃度の薬剤添加でその効果を長期間持続し,しかも広範な海生生物種の付着を防止し得る海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤に関する。
【背景技術】【0002】 海水は,工業用の冷却水として,特に火力発電所や原子力発電所の復水器の冷却水として多量に使用されている。そのため,海水取水路壁や配管内および熱交換器内には,ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類やコケムシ類などの海生生物種が多量に付着して,様々な障害を惹き起こす。これらの中でも足糸で着生するムラサキイガイなどの二枚貝類は,成長が速く,成貝になると熱交換器チューブの一部を閉塞させて海水の通水を阻害し,また乱流を生じさせ,エロージョン腐食などの障害を惹き起こす。
【0003】 これら海生生物種の密集着生(付着)を防止するために,従来から次亜塩素酸ナトリウム,電解塩素もしくは塩素ガスなどの塩素発生剤 「塩 (素剤」ともいう),過酸化水素もしくは過酸化水素発生剤(「過酸化水素剤」ともいう)の添加が行われている。
塩素剤は,海生生物の付着防止効果に優れるものの,トリハロメタンのような有害な有機塩素化合物を形成して環境への影響(負荷)が大きいという問題がある。
【0004】 一方,二酸化塩素は,殺菌力が強く,有害な有機塩素化合物を形成しないため,環境への影響が小さいという利点がある。
例えば,特開平1-275504号公報(特許文献1)には,二酸化塩素または二酸化塩素発生剤を有効成分とする水中付着生物防除剤に 27 関する技術が,特開平6-153759号公報(特許文献2)には,淡水または海水を使用する施設に設置された淡水または海水を通す水路に,二酸化塩素水溶液を連続的もしくは比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注入することからなる,水路に付着する生物の付着防止または防除方法に関する技術が開示されている。
しかしながら,二酸化塩素は化学物質として極めて不安定であり,海生生物の付着防止効果の持続性に問題がある。
【0005】 また,過酸化水素は,最終的に酸素と水に分解するため,環境への影響が最も少ないのでそれを用いた薬剤は近年,多用されている。しかし,過酸化水素を用いた薬剤は,安全性が高い半面,その添加量が少なくなると,付着生物に対する選択性が現れ,広範な海生生物種の付着を防止もしくは抑制することが困難になる。さらに過酸化水素の分解酵素を多く保有し,過酸化水素に対する抵抗性が強い生物が付着する場合には,多量の過酸化水素を添加しないと処理できないという課題がある。
【0006】 本出願人は,海生生物種に対する選択性,つまり付着防止もしくは抑制の対象とする海生生物種が異なる過酸化水素剤と塩素剤との特徴を活かし,時間的間隔を空けて交互かつ別時に同一箇所に両者を添加する方法(「間欠添加方法」ともいう)や,過酸化水素と塩素剤とを併用する海生生物の付着抑制方法(「併用添加方法」ともいう)を提案した(特許文献3)。しかし,併用添加方法では,過酸化水素剤と塩素剤との酸化還元反応により,両薬剤が消費され安定に共存させることができず,両薬剤の特徴が十分に活かされていなかった。
【0007】 そこで,本出願人は,工業用海水冷却水系に予め過酸化水素剤を加え, 28 特定の過酸化水素濃度となるように分散された海水冷却水に,特定濃度 で塩素剤を添加する処理方法(特許文献4)や,間欠添加方法の改良発 明(特許文献5),さらに,海水冷却水系の海水に濃度0.1〜0.5 mg/Lのアンモニウムイオンと,アンモニウムイオン1モルに対して 有効塩素または臭素に換算して0.7〜1.2モルの塩素剤または臭素 剤との共存下に,海生生物の付着防止有効量の過酸化水素あるいは過酸 化水素供給化合物を添加する方法(特許文献6)や結合ハロゲンと過酸 化水素との併用による処理方法(特許文献7)を提案した。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 そこで,広範な海生生物種の付着防止への対応と環境への影響とを考 慮した場合,二酸化塩素と過酸化水素との組み合わせが提案されるはず であるが,この組み合わせからなる海生生物の付着防止に関する技術は これまでに報告されていない。
本発明の発明者らの調査によれば,上記の特許文献1が二酸化塩素を 水中付着生物防除剤に応用する初出の技術であるが,以降,二酸化塩素 の発生装置や二酸化塩素と物理的手段との組み合わせによる海生生物 の付着防止技術はあっても,二酸化塩素と過酸化水素とを併用する技術 は提案されていない。唯一,特開2003-155720号公報には, 水生生物付着防止装置に用いる薬剤として二酸化塩素と過酸化水素と が併記されているが,一行記載に過ぎず,両化合物の併用については一 切記載されていない。
一方,上記のように過酸化水素は水中付着生物防除剤として多用され ているが,二酸化塩素との併用に関する技術は提案されていない。
【0010】 これは,二酸化塩素の化合物としての不安定性に加えて,二酸化塩素 29 と過酸化水素との併用は,塩素剤と過酸化水素との併用と同様に酸化還 元反応により両薬剤が消費され,水系において安定に共存できないとい う技術常識が存在していたためと考えられる。
実際に本発明者らが試験したところによると,海水に二酸化塩素を濃 度0.05mg/L,0.1mg/L,次亜塩素酸ナトリウムを濃度0. 05mg/L,0.1mg/Lで存在させたときの海水の酸化還元電位 は,それぞれ525mV,630mV,392mV,470mVであっ た。これらの数値は・・・テストチューブから排出された海水の酸化還元 電位を,マルチ水質チェッカ(株式会社堀場製作所社製,型式:U-5 2G)を用いて測定した結果である。
これらの結果からも,当業者であれば,次亜塩素酸ナトリウムより酸 化還元電位が高い二酸化塩素は過酸化水素と安定に共存できるはずが ないと考えるのが自然である。
したがって,二酸化塩素と過酸化水素との併用に関する技術が提案さ れていないのは,上記理由によりこれらの技術を結合させることが試み られることがなかったためであると考えられる。
【0011】 本発明は,低濃度の薬剤添加でその効果を長期間持続し,しかも広範 な海生生物種やスライムの付着を防止し得る海生生物の付着防止方法 およびそれに用いる付着防止剤を提供することを課題とする。
(ウ) 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明の発明者らは,海水中で過酸化水素剤と共存して,過酸化水素 剤と共に海生生物の付着防止効果を発揮し得る,従来技術の塩素剤に代 わる薬剤について鋭意研究を重ねた。その結果,これまで共存が不可能 と考えられてきた二酸化塩素が海水中で過酸化水素剤と準安定的に共 30 存できることを意外にも見出し(後述する試験例1参照),さらにそれ らの併用により,ムラサキイガイなどのイガイ類を含む広範な海生生物 種の付着を長期間持続して有効に防止し得ること,さらには従来技術の 過酸化水素剤と塩素剤との併用添加法と比較して,薬剤,特に過酸化水 素剤の添加量を低減させても海生生物やスライム等の有効な付着防止 効果が得られることを見い出し(後述する試験例2〜5参照)本発明を 完成するに到った。
【0013】 かくして,本発明によれば,海水冷却水系の海水中に,二酸化塩素と 過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して,前記二酸 化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系 への海生生物の付着を防止することを特徴とする海生生物の付着防止 方法が提供される。
(エ) 【発明の効果】 【0015】 本発明によれば,低濃度の薬剤添加でその効果を長期間持続し,しか も広範な海生生物種やスライムの付着を防止し得る海生生物の付着防 止方法を提供することができる。
すなわち,本発明の海生生物の付着防止方法では,二酸化塩素と過酸 化水素とが海水中に一定時間共存するために,両者の海生生物の付着防 止効果が一定時間持続して発揮されるものと考えられる。
本発明の海生生物の付着防止方法は,広範な海生生物種,例えば,ム ラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類,コケムシ類などの海生生物 やスライムの付着防止に有効である。
(オ) 【発明を実施するための形態】 【0017】 31 本発明の海生生物の付着防止方法は,海水冷却水系の海水中に,二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系への海生生物の付着を防止することを特徴とする。
【0018】 本発明において「二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」とは,二酸化塩素と過酸化水素とを海水冷却水系の海水中に存在させることを意味する。二酸化塩素と過酸化水素の添加順序は特に限定されず,同時であってもよい。
【0019】(二酸化塩素) 本発明において用いられる二酸化塩素は,極めて不安定な化学物質であるため,その貯蔵や輸送は非常に困難である。したがって,その場で公知の方法により二酸化塩素を製造(生成)し,添加濃度に調整して用いるのが好ましい。
例えば,次のような反応により二酸化塩素を製造することができ,市販の二酸化塩素発生器(装置)を用いることもできる。
(1) 次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの反応 NaOCl+2HCl+2NaClO 2 → 2ClO2+3NaC l+H2O(2) 亜塩素酸ナトリウムと塩酸との反応 5NaClO2+4HCl → 4ClO2+5NaCl+2H2O(3) 塩素酸ナトリウム,過酸化水素および硫酸との反応 2NaClO3+H2O2+H2SO4 → 2ClO2+Na2SO4+O2 +2H2O【0020】 32 二酸化塩素の濃度は,併用する過酸化水素の濃度,添加する海水の状態などにより適宜設定すればよいが,通常,海水に対して0.01〜0.5mg/Lであるのが好ましい。
二酸化塩素の濃度が0.01mg/L未満では,二酸化塩素による海生生物の付着防止効果が十分に得られないことがある。一方,二酸化塩素の濃度が0.5mg/Lを超えると,二酸化塩素の添加量が増大し,それ以上の効果が期待できず,経済的な面から好ましくない。
より好ましい二酸化塩素の濃度は,0.01〜0.2mg/L,さらに好ましくは0.01〜0.1mg/Lである。
【0022】(過酸化水素) 本発明において用いられる過酸化水素としては,主に工業用として市販されている濃度3〜60%の過酸化水素水溶液が挙げられる。
また,過酸化水素供給化合物(「過酸化水素発生剤」ともいう)から発生させた過酸化水素や,用水またはアルカリ溶液の電気分解などで発生させた過酸化水素を用いることもできる。
過酸化水素供給化合物としては,過酸化水素を水中で放出し得る過炭酸,過ホウ酸,ペルオキシ硫酸などの無機過酸,過酢酸のような有機過酸およびこれらの塩類が挙げられる。これら塩類としては,過炭酸ナトリウム,過ホウ酸ナトリウムなどが挙げられる。
上記の過酸化水素および過酸化水素供給化合物は,添加に際して所望の過酸化水素濃度になるように海水や淡水で希釈または溶解して用いてもよい。
【0023】 過酸化水素の濃度は,併用する二酸化塩素の濃度,添加する海水の状態などにより適宜設定すればよいが,通常,海水に対して0.1〜2. 33 0mg/Lであるのが好ましい。
過酸化水素の濃度が0.1mg/L未満では,過酸化水素による海生生物の付着防止効果が十分に得られないことがある。一方,過酸化水素の濃度が2.0mg/Lを超えると,過酸化水素の添加量が増大し,それ以上の効果が期待できず,経済的な面から好ましくない。
より好ましい過酸化水素の濃度は,0.15〜1.05mg/Lである。
上記の過酸化水素濃度は,従来の海生生物(特にムラサキイガイ等の2枚貝類)の付着防止方法における濃度の1/3から1/5と低濃度である。
【0025】(二酸化塩素と過酸化水素との海水中での共存) 以上のことから,二酸化塩素および過酸化水素が,前記海水に対してそれぞれ0.01〜0.5mg/Lおよび0.1〜2.0mg/Lの濃度で海水中に共存するのが好ましい。
海水中における二酸化塩素および過酸化水素の濃度は,海水中での各化合物の経時的な濃度低下があることから,厳密には各化合物の添加濃度と等価ではない。
したがって,本発明の実施に当たっては,海水やそこに生息する海生生物の状況などに応じて,海水中での二酸化塩素および過酸化水素の濃度が上記の範囲になるように,それらの濃度低下を見越して,添加濃度および添加時間などを適宜設定すればよい。
【0027】(添加場所) 海水冷却水系は,例えば,取水系設備,復水器やその他機器などの冷却対象となる設備および放水系設備などからなる。取水系設備は,導水 34 路,海水中の異物を除去するスクリーン,循環水ポンプ(取水ポンプ) および循環水管(取水管)などからなる。
【0028】 本発明における各薬剤の添加場所は,取水路,熱交換器または復水器 に付帯する配管中や導水路,熱交換器の入口または復水器の入口のいず れであってもよいが,海生生物の付着による障害防止効果の点で,取水 ポンプの取水口近傍,熱交換器または復水器の入口が好ましい。
【0030】 (海生生物の付着防止剤) 本発明の海生生物の付着防止剤は,上記の方法に使用される海生生物 の付着防止剤であって, 前記付着防止剤が, 過酸化水素発生源としての (a)過酸化水素水溶液,または (b)過酸化水素供給化合物の水溶液と, 二酸化塩素発生源としての (1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの組み合 わせ (2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との組み合わせ,または (3)塩素酸ナトリウム,過酸化水素および硫酸との組み合わせ とを含むことを特徴とする。
(カ) 【0032】 [試験例1] 海水中での二酸化塩素と過酸化水素との共存状態を確認した。… 濾過海水200mLに,下記のように調製した添加薬剤(二酸化塩素, 過酸化水素および次亜塩素酸ナトリウム)を表1に示す濃度になるよう 35 に,かつ上段および下段の薬剤の順でそれぞれ添加し,水温20℃で15分間撹拌した。
実施例1〜6では二酸化塩素と過酸化水素とを併用し,比較例1および2では次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用した。
そして,薬剤添加直後,薬剤添加から5分後および15分後の各添加薬剤の残留濃度を下記のように測定した。
また,薬剤の添加濃度を100%として,各添加薬剤の残留濃度からそれぞれの残留率を算出した。
得られた結果を,各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表1に示す。
【0033】(添加薬剤) 二酸化塩素は,亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈して混合し,発生した二酸化塩素を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。… 過酸化水素は,35%過酸化水素溶液を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。
次亜塩素酸ナトリウムは,有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。
【0034】(残留濃度の測定) 二酸化塩素濃度(mg/L)は,ポータブル吸光光度計(ハック社製,型式:DR2700)を用いて,グリシンDPD試薬発色による吸光光度法により測定した。
過酸化水素濃度(mg/L)は,多項目水質計(株式会社共立理化学研究所製,型式:ラムダ-9000)を用いて,酵素法により測定した。
36 次亜塩素酸ナトリウムの塩素濃度(mg/L)は,DPD法残留塩素 計(笠原理化工業株式会社製,型式:DP-3F)を用いて,DPD試 薬発色による吸光光度法により全残留塩素濃度として測定した。
【0036】 表1の結果から,濾過海水に次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを 添加した場合(比較例1および2)には,経時的に残留塩素濃度が低下 し両者が共存できないことがわかる。一方,濾過海水に二酸化塩素と過 酸化水素とを添加した場合(実施例1〜6)には,二酸化塩素の残留時 間が次亜塩素酸ナトリウムとの併用の場合に比べて長くなり,二酸化塩 素と過酸化水素とが一定時間共存できることがわかる。また,二酸化塩 素と過酸化水素との添加順序を入れ替えても(実施例3と4,実施例5 と6)両者が一定時間共存できることがわかる。
【0037】 さらに,実施例3と実施例5の撹拌15分後の二酸化塩素の残留率の 比較から,過酸化水素濃度は低濃度にするほうが海水中の二酸化塩素が より長時間残留することがわかる。
また,実施例1と実施例2の撹拌15分後の二酸化塩素の残留率の比 較から,二酸化塩素濃度は低濃度にするほうが海水中の二酸化塩素がよ り長時間残留することがわかる。
具体的には,実施例1で攪拌15分後での二酸化塩素の残留率が5 0%以上であることから,二酸化塩素濃度は0.1mg/L以下,過酸 化水素濃度は1.05mg/L以下であることが好ましい。
(キ) 【0048】 [試験例4] 二酸化塩素と過酸化水素との併用による実施例および次亜塩素酸ナ トリウムと過酸化水素との併用による比較例ついて,スライムを主体と 37 する汚れ防止効果を確認した。
太平洋に面した和歌山県沿岸の某所に水路試験装置を設け,試験を行った。
水中ポンプを用いて揚水した海水(pH8)を12系統に分岐させた水路に,ポンプを用いて未濾過海水を流量1m3/h(流速65cm/秒)で63日間,一過式に通水し,各水路に下記のように調製した添加薬剤(二酸化塩素と過酸化水素,または次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素)を表4に示す濃度になるように同時に連続添加した。
また,各水路内には,スライム汚れ防止効果確認用にチタン管からなるテストチューブ(内径23.4mm,長さ1000mm,肉厚1.0mm)を設置し,通水終了後にテストチューブの内面に形成されたスライムを主体とする汚れ量を測定し,汚れ防止効果を評価した。
なお,ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を,各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表4に示す。
【0049】(添加薬剤) 二酸化塩素は,表4に示す二酸化塩素濃度が得られるように,亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈した水溶液を,薬剤添加ポイント前のチューブ内で混合し,1時間の滞留時間を持たせることで発生した二酸化塩素水溶液をチタン管からなるテストチューブの手前から添加した。
過酸化水素は,35%過酸化水素溶液を適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調整し,同様にチタン管からなるテストチューブ手前から定量ポンプを用いて添加した。
次亜塩素酸ナトリウムは,有効塩素として12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調 38 整し,同様にチタン管からなるテストチューブ手前から定量ポンプを用 いて添加した。
【0050】 (汚れ防止効果の確認) 試験後,水路から取り外したテストチューブの内面に形成されたスラ イムを主体とする汚れを掻き取り,10〜100mLのメスシリンダー に回収し,4時間静置後の湿体積を計量した。
【0052】 表4の結果から,二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合,そ れぞれ単独で添加した場合と比較して,薬剤,特に過酸化水素の添加量 を低減しても長期間にわたりスライムを主体とする汚れの付着を防止 できることがわかる(実施例1〜4,比較例1〜3)。
また,二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合の効果は,同じ 濃度の次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用添加した場合の効 果と比較して,顕著に優れていることがわかる(実施例1および3,比 較例4および5)。
(ク) 【0053】 [試験例5] 二酸化塩素と過酸化水素との併用による実施例および次亜塩素酸ナ トリウムと過酸化水素との併用による比較例ついて,海生生物の付着防 止効果を確認した。
太平洋に面した和歌山県沿岸の某所に水路試験装置を設け,試験を行 った。
水中ポンプを用いて揚水した海水を7系統に分岐させた水路に,各水 路に流量1.0m3/hで69日間,一過式に通水し,各水路に下記のよ うに調製した添加薬剤(過酸化水素と二酸化塩素または次亜塩素酸ナト 39 リウム)を表5に示す濃度になるように同時に連続添加した。
また,各水路内には,付着防止効果確認用にアクリル製カラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm,表面積602.88cm 2)を挿入し,通水終了後にカラムに付着した付着生物量を測定し,付着防止効果を評価した。
なお,ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を,各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表5に示す。
【0054】(添加薬剤) 二酸化塩素,過酸化水素および次亜塩素酸ナトリウムは,それぞれ表5に示す濃度が得られるように調整し,付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から添加すること以外は,試験例4と同様にして添加した。
【0055】(付着防止効果の確認) 試験後,水路から取り外したカラムを海水中で軽く洗い流した後,カラムの質量W2(g)を測定した。予め試験前に測定しておいた乾燥時のカラムの質量W0 と共に,次式により付着生物量(g)を算出した。
付着生物量(g)=W2-W0 薬剤無添加の場合,主として,ムラサキイガイ,フジツボ類,カンザシゴカイ類,オベリア類およびコケムシ類などの海生付着生物が付着した。
【0057】 表5の結果から,二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合には,ムラサキイガイなどのイガイ類を含む広範な海生生物種の付着を長期間持続して有効に防止できること,従来技術の次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用添加した場合と比較して顕著な効果が発揮されて 40 いることがわかる(実施例1〜4,比較例1および2)。
イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件 発明1に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) 火力発電所や原子力発電所において復水器の冷却水として海水が 多 量に使用されることにより,海水取水路壁,配管内及び熱交換器内 にムラサキイガイなどのイガイ類(二枚貝類),フジツボ類,コケムシ 類などの海生生物種が多量に付着し,様々な障害を惹き起こすため,こ れらの海生生物種の密集着生(付着)を防止するために,従来提案され ていた,付着防止又は抑制の対象とする海生生物種が異なる過酸化水素 剤(過酸化水素発生剤)と塩素剤(塩素発生剤)とを併用する海生生物 の付着抑制方法(「併用添加方法」)には,過酸化水素剤と塩素剤との 酸化還元反応により,両薬剤が消費され安定に共存させることができず, 両薬剤の特徴が十分に活かされていないという課題があった(【000 2】,【0006】)。一方,二酸化塩素は,殺菌力が強く,有害な有 機塩素化合物を形成しないため,環境への影響が小さいという利点があ るのに,従来,二酸化塩素と過酸化水素との併用に関する技術が提案さ れていないが,これは,二酸化塩素の化合物としての不安定性に加えて, 二酸化塩素と過酸化水素との併用は,酸化還元反応により両薬剤が消費 され,水系において安定に共存できないという技術常識が存在していた ためと考えられる(【0009】,【0010】)。
(イ) 「本発明」は,低濃度の薬剤添加で,その効果を長期間持続し,し かも広範な海生生物種やスライムの付着を防止し得る海生生物の付着 防止方法及び付着防止剤を提供することを課題とし,海水中で過酸化水 素剤と共存して,過酸化水素剤と共に海生生物の付着防止効果を発揮し 得る,従来技術の塩素剤に代わる薬剤について研究を重ねた結果,これ まで共存が不可能と考えられてきた二酸化塩素が海水中で過酸化水素 41 剤と準安定的に共存できることを意外にも見い出し,「本発明」を完成 するに到った(【0012】,【0013】)。
「本発明」は,海水冷却水系の海水中に,二酸化塩素と過酸化水素と をこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して,前記二酸化塩素と過酸 化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系への海生生物 の付着を防止する海生生物の付着防止方法の構成を採用したものであ る(【0013】)。
「本発明」の海生生物の付着防止方法は,二酸化塩素と過酸化水素と が海水中に一定時間共存するために,両者の海生生物の付着防止効果が 一定時間持続して発揮されるものと考えられ,広範な海生生物種やスラ イムの付着防止に有効であるという効果を奏する(【0015】)。
(2) 甲1の記載事項について ア 甲1(特公昭61-2439号公報)には,次のような記載がある(下 記記載中に引用する第4A表及び第4B表については別紙2を参照)。
(ア) 特許請求の範囲 「1 過酸化水素または過酸化水素発生剤を使用することを特徴とする 海水動物の付着抑制方法。
2 過酸化水素または過酸化水素発生剤および塩素または有効塩素発 生剤を使用することを特徴とする海水動物の付着抑制方法。
3 過酸化水素または過酸化水素発生剤およびヒドラジンまたはヒド ラジン発生剤を使用することを特徴とする海水動物の付着抑制方法。」 (1頁左欄) (イ) 「本発明は海水を使用している流路,プラントにおける海水動物の 付着を抑制する方法に関する。
近年海水の工業的な利用は著るしく増加しており,例えば火力発電所, 製鉄所,石油化学工場などで一過式に多量に用いられている。また,船 42 舶ではボイラーの復水器の冷却に利用されている。ところが,このよう な海水の利用に際して,海水に生息する種々の貝類(特にムラサキイガ イ,フジツボ等)やコケムシ,ヒドロムシ等による障害は無視できない ものがある。例えば,これらの海水動物が水路に付着し成長すると水路 を狭めてしまい,またそれらが脱落して復水器や熱交換器に流入すると 冷却効率を低下させ,さらにコンデンサチユーブに詰ると海水の乱流を 起し機械的に金属の腐食を増進させる。」(1頁左欄11行〜右欄3行) 「このような障害を防止するために,従来有効塩素発生剤,有機スズ 化合物,有機イオン化合物,第4級アンモニウム塩等が用いられて来た。
しかしこれらの薬剤は残留毒性,蓄積毒性があり,広く海水動物の生態 環境を破壊するものと指摘されている。例えば有効塩素発生剤の場合に は,塩素,次亜塩素酸塩等を海水路中における残留塩素濃度が常時0. 1〜0.2ppmになるように使用しなければ貝類付着防止効果が充分 でなく,そのため海水中に常時有効塩素として1〜2ppmが連続的に 注入されているのが現状である。…さらにその上,塩素の場合には輸送 時の危険性,注入時の作業安定性なども問題とされている。
そこでこれらの薬剤に替る安全な新しい薬剤の開発や,これらの薬剤 の使用量を効果的に減少させる方法の開発が強く要望されている。(1 」 頁右欄12行〜2頁左欄2行)(ウ) 「本発明者等は易分解性で残留毒性や蓄積毒性の問題が起らないよ り安全な海水動物の付着抑制方法を研究した結果,過酸化水素が極めて 有効であることを見出した。また,過酸化水素と従来使用されてきた上 記薬剤を一緒にしくは交互に組み合わせて連続的または間欠的に使用 すれば,相乗効果によって薬剤を著るしく減らしても同一の効果が得ら れることを見出した。」(2頁左欄3行〜2頁左欄10行) 「本発明に使用される過酸化水素はそれ自体毒性が低いが,分解して 43 水と酸素ガスになるので残留毒や蓄積毒による環境汚染問題をおこす心配が全くない。過酸化水素の海水動物に対する作用は,使用量,作用時間を適宜調節することによつてその付着を抑制したり或は死滅させたりすることができる。なお,過酸化水素濃度が0.1〜1ppm程度の場合,付着防止効果自体はさほど優れたものではないが,成長抑制作用によつて実質上満足な付着抑制効果が得られる。
過酸化水素の使用量は海水中濃度が0.01〜500ppmとなる範囲のものであり,その使用方法一は海水中に連続的に注入したり或は間欠的に注入したりすることによつて行なわれる。これらの使用量および使用方法は対象とする生物の種類,生育状態,使用時期並びに経済的効果を検討して決定することが望ましい。」(2頁左欄19行〜35行) 「さらに本発明は過酸化水素または過酸化水素発生剤を従来の海水動物付着抑制剤である塩素または有効塩素発生剤,ヒドラジンまたはヒドラジン発生剤,と組み合わせて使用することによつて,これらの公知薬剤の付着抑制効果を相乗的に高め,各単独で使用する場合に較べて低濃度の使用で高い抑制効果を奏するものである。その結果これらの公知薬剤の使用量を効果的に減少せしめ,公害発生問題を改善することが可能となつた。特に有効塩素との組み合わせの場合には,次式に示す酸化-還元反応によつて一重項の酸素(O I)が発生して相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。
H2O2+ClO-→H2O+C1-+OI 上記した塩素または有効塩素発生剤としては,例えば塩素,次亜塩素酸塩,ジクロロイソシアヌル酸塩等海水中で有効塩素を発生する化合物が使用しうる。ヒドラジンまたはヒドラジン発生剤としては,例えばヒドラジン,塩酸ヒドラジン,硫酸ヒドラジン等海水中でヒドラジンを発生する化合物が使用しうる。」(2頁左欄43行〜右欄19行) 44 「過酸化水素または過酸化水素発生剤(第1薬剤と記す)をこれらの 抑制剤(第2薬剤と記す)と組み合わせて使用する時は,第1薬剤の使 用量は単独使用の時より低濃度でよく,第2薬剤の使用量は海水中濃度 が有効塩素として0.01〜1ppm,ヒドラジンとして0.1〜50 ppmとなる量である。第1薬剤と第2薬剤とは同時に海水に注入して もよいが,交互に注入することが好ましい。第1薬剤注入と第2薬剤注 入との間隔は一般に0〜24時間,好ましくは0〜12時間,最も好ま しくは0〜6時間である。
以上述べたように,本発明はそれ自体低毒性で且つ蓄積毒性,残留毒 性の殆んどない過酸化水素を使用することによつて工業用海水路にお ける海水動物の付着を効果的に抑制することに成功したものであり,従 来のこの種の抑制剤による環境破壊問題を解決しえたのである。また過 酸化水素を従来の抑制剤と組み合わせ使用することによつて従来の抑 制剤の使用濃度を実質的に低下せしめ,環境問題の見地からこれらの薬 剤を有利に使用することを可能ならしめたものである。」(2頁右欄2 0行〜40行)(エ) 「実施例1 貝類,特にフジツボの繁殖時期である6月〜9月を選び海水路沿岸に, ガラス製カラムと薬剤注入ポンプを4基並列した海水動物付着抑制試 験装置をセットし,カラム内に貝付着測定用スリガラス(70m/m× 40m/m)と木片(100m/m×50m/m)を挿入し,海水を各 カラムに一定量流入せしめる。これに薬剤を無注入(ブランク)と,所 定濃度注入して,一定期間(10日前後)経過後の貝類(フジツボ主体) 付着量を観察した。薬剤としては,35%過酸化水素水溶液(35%H 2O2)単独を用い,連続的に,または間欠的に注入した。…表中の付着 抑制率は,次式により求めたものである。」(2頁右欄43行〜3頁右 45 欄6行) (オ) 「実施例3 過酸化水素とヒドラジンとの併用の結果を第3A表に示す。ヒドラジ ンとしては,50%水加ヒドラジン(50%N2H,H2O)を用いた。
試験装置は実施例1と同じものを使用した。なお,表中のコケムシ付着 状況の「+」は付着を,「-」は付着なしを示す。」(4頁左欄22行 〜右欄24行) 「ヒドラジン単独では20ppmの注入でも63.4%(ムラサキイ ガイ)および57.9%(フジツボ)の抑制率しか得られず,これらの 貝を実際上効果があるように抑制するにはそれ以上の量の注入を行な わなければならなかつたが,過酸化水素を組み合わせて使用することに よつて,ヒドラジン5ppmで90%以上の抑制効果が得られた。 (5 」 頁左欄1行〜6頁左欄3行) (カ) 「実施例4 過酸化水素と有効塩素との併用の結果を第4A表に示す。有効塩素発 生剤として次亜塩素酸ソーダ(有効塩素含有率12%品)を用いた。試 験装置は実施例1と同じものを用いた。
有効塩素単独では90%の抑制効果をあげるために0.3ppm以上 の注入が必要であるが,過酸化水素と組み合わせ使用することによつて 0.1ppmで充分となつた。
比較例 第4B表」(6頁左欄4行〜7頁右欄末行)イ 前記アの記載事項によれば,甲1には,次のような開示があることが認 められる。
(ア) 火力発電所,製鉄所,石油化学工場や船舶などにおける海水の工業 的な利用に際し,海水動物が水路に付着することによる障害を防止する ために,従来有効塩素発生剤(塩素,次亜塩素酸塩等),有機スズ化合 46 物,有機イオン化合物,第4級アンモニウム塩等が海水動物の付着抑制 剤として用いられて来たが,これらの薬剤には,残留毒性,蓄積毒性が あり,広く海水動物の生態環境を破壊するものと指摘され,さらに,塩 素の場合には輸送時の危険性,注入時の作業安定性なども問題とされて おり,これらの薬剤に替る安全な新しい薬剤の開発や,これらの薬剤の 使用量を効果的に減少させる方法の開発が強く要望されていた(前記ア (イ))。
(イ) 「本発明者等」は,易分解性で残留毒性や蓄積毒性の問題が起らな いより安全な海水動物の付着抑制方法を研究した結果,それ自体低毒性 で且つ蓄積毒性,残留毒性の殆んどない過酸化水素過が極めて有効であ ることを見出し,「本発明」は,過酸化水素を従来の抑制剤と組み合わ せて使用することによって,相乗効果により,従来の抑制剤の使用濃度 を実質的に低下せしめ,環境問題の見地からこれらの薬剤を有利に使用 することを可能ならしめたという効果を奏する(前記ア(ウ))。
(3) 甲2の記載事項について 甲2(特公平6-29163号公報)には,次のような記載がある(下記 記載中に引用する表2については別紙3を参照)。
ア 「特許請求の範囲 【請求項1】海水の一過式冷却水系の水中に添加する二酸化塩素または二 酸化塩素発生剤を有効成分とすることを特徴とする水中付着生物防除剤。
【請求項2】亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムを海水の一過式 冷却水中に加えることを特徴とする水中生物付着防止方法。」(1頁左欄 1行〜7行) イ 「〔産業上の利用分野〕 本発明は,海水などの水中生物の付着防止に関する。
〔従来の技術〕 47 海水を一過式冷却水として多量に使用する火力発電所,製鉄所,石油化学 工業等では,これら冷却水系の流路や熱交換器に,フジツボ,ムラサキイ ガイ,コケムシヒドロ虫類等の海水生物が付着し,配管などの閉塞,海水 採水量の低下,冷却効率の低下等の機能低下,更には装置の破損など種々 の障害を招くことがある。
従来,これらの付着生物による障害を防止するために,塩素,ホルマリン, 有機スズ化合物,有機イオウ化合物等が用いられてきたが,添加量と効果 の問題および魚類等に対する蓄積毒性,残留毒性等環境破壊の問題が懸念 される。… また,現在一般的に使用されている有機イオウ化合物,塩素についても効 果的に劣り,毒性が懸念される等の問題がある。
その一例として,有機イオウ化合物として広く用いられているジメチルジ チオカルバミン酸塩はフジツボに対して効果的に劣るし,次亜塩素酸ナト リウム等塩素系薬剤では付着防止効果はあるが残留塩素規制を行なうと 効果上の問題が生じる。又,THM(トリハロメタン)の生成も懸念され る。」(1頁左欄9行〜2頁左欄5行)ウ 「〔発明が解決しようとする課題〕 本発明は,蓄積毒性,残留毒性等の環境破壊を生じない水中付着生物防除 剤並びに防除方法を提供することを目的とするものである。
〔課題を解決するための手段〕 本発明は,二酸化塩素または二酸化塩素発生剤を有効成分とすることを特 徴とする水中付着生物防除剤並びに同防除剤を用いた水中生物付着防止 方法に関する。
このように,本発明は塩素のかわりに塩素の2.6倍の有効塩素量を有し, 水溶性の高い二酸化塩素または二酸化塩素発生剤を用いることにより,薬 品使用量の減少をはかり,ひいては,毒性のあるTHM(トリハロメタン) 48 の生成を防止しつつ,海洋中などの水中における生物付着を防止すること で成功したものである。
水に対する二酸化塩素の使用量は少くとも0.015ppm以上,好まし くは1ppm以上である。」(1頁左欄6行〜2頁左欄21行) 「二酸化塩素発生性化合物の例としては 亜塩素酸アルカリ金属塩とくに亜塩素酸ナトリウムを挙げることができ る。亜塩素酸ナトリウムとしての使用量は少くとも0.025ppm好ま しくは2ppmである。亜塩素酸ナトリウムはつぎの種々の化合物を反応 させることにより,二酸化塩素を発生する。… (ii)次亜塩素酸の添加による場合 2NaClO 2 +NaClO+H 2 O→2ClO 2 +NaCl+2NaO H」(2頁左欄26行〜36行) 「二酸化塩素の有効塩素発生過程は第1段階が酸化反応であって,瞬間 的に反応してClO2―になるものと考えられ,ついでClO2―の酸化反応 がおきるものと考えられる。
」 (2頁右欄14行〜20行)エ 「〔実施例1〕 第1図のようなモデル水路を用い各薬剤の評価を行なった。海水はモデル 水路1に水中ポンプ2で供給する。3は薬剤タンクであり,貯留された薬 剤はケミカルポンプでモデル水路1に所定量供給される。尚4は分岐ヘッ ダーである。
このモデル水路の出口側近くに10×20cmの塩ビ製の付着板を浸漬し, 海水を約0.3m/secで一過式に通水し各薬剤を所定量ケミカルポン 49 プで注入し90日経過後の海水生物の付着量を調べた。付着量については 1m2当たりの個数に換算した結果を表2に示す。
以上の結果より海水生物付着防止効果について亜塩素酸ナトリウム単独 でも従来処理程度の効果を示すが,亜塩素酸ナトリウムを活性化し二酸化 塩素にすることで著しい効果をあげることができる。」(3頁左欄) オ 「〔効果〕 (1) 有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナトリウムと比較し少量で効果が ある。
更にトリハロメタンの発生がなく,環境汚染がない。
(2) 反応生成物は海水中に存在するイオンのみで構成され,残留,蓄積 毒性がない。」(4頁左欄下から5行〜右欄下から4行)(4) 二酸化塩素に関する技術事項について ア 各文献の記載事項について (ア) 甲3 甲3(特開平6-153759号公報)には,次のような記載がある。
a 特許請求の範囲 【請求項1】淡水または海水を使用する施設に設置された淡水また は海水を通す水路に,比較的低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に注 入することからなる,水路に付着する生物の付着防止,または除去方 法。
【請求項2】淡水または海水を使用する施設に設置された淡水また は海水を通す水路に,比較的高濃度の二酸化塩素水溶液を間欠的に注 入することからなる,水路に付着する生物の付着防止,または除去方 法。
b 【0001】 【産業上の利用分野】 50 本発明は,水路に付着する生物の付着防止または除去方法に係り,特 に,火力発電所等の冷却水水路内に付着する生物を効果的に抑制する 方法に関する。
【0004】 このように水路の内壁に付着したムラサキイガイ等の水中生物を除 去する方法としては,塩素を用いる化学的処理による方法が行われて きた。従来は,液化塩素を気化して水に溶解し,塩素水として水路内 に注入する方法が使用されていたが,塩素ボンベの危険性が問題とな り,現在では,海水を電気分解して次亜塩素酸ソーダを製造し,水路 内に注入する方法で処理が行われている。しかし,塩素は,海水のp Hである中性から弱アルカリ性ではその効果の低下が著しく,効果を 得るために高濃度で使用すると付近の養殖場などに悪影響を及ぼす ことがある。従って,次亜塩素酸ソーダを使用できない場所では,ブ ラシ等により,手作業で水中生物を除去しているのが現状である。
c 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 このように,水路に付着したムラサキイガイ等の水中生物は,従来, 塩素による化学処理,または,ブラシ等による手作業で除去されてき た,しかし,通常の淡水または海水のpHでは塩素の効果は低下し, しかも,塩素は水中でハロゲン化有機物を生成するので,今後,厳し い規制が予測される。また,手作業による除去方法では,復水器の細 管が数万本もあるため作業は極めて困難である。
【0006】 本発明の目的は,環境汚染を引き起こすことなく,水路に付着する生 物を効果的に除去すること,または,付着を防止することを可能とす る方法を提供することにある。
51 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は,上記課題を達成するため,鋭意検討を重ねた結果,二酸化 塩素が低濃度であっても水路に付着する生物を効果的に付着防止な いし剥離させることができ,かつ環境汚染も引き起こさないことを見 出した。本発明はこのような知見の下になされたものである。
【0010】 二酸化塩素を連続的に注入する本発明の第1の態様では,水中の二酸 化塩素割合が,0.1〜2.0ppmであることが望ましい。0.1 ppm未満では,水路の生物が付着するのを防止することは困難であ り,他方,2.0ppmを超える濃度では,過剰添加となり経済的で はない。
d 【0013】 【作用】 本発明の方法では,水路に付着する生物の付着防止,または除去する ための処理液として,二酸化塩素水溶液を使用する。二酸化塩素水溶 液は,殺菌力が強く,かつ有害な有機塩素化合物を形成しないため, 水路に付着する生物の付着防止,または除去が可能であると共に,処 理後の廃液は無害であり,二次汚染を引き起こすことはない。
【0014】 特に,本発明の第1の態様では,比較的低濃度の二酸化塩素水溶液が 水路に連続的に注入される。このように,比較的低濃度の二酸化塩素 水溶液であっても,連続的に注入することによって,水路に付着する 生物を効果的に付着防止,または除去することが出来る。例えば,海 水を冷却水として使用する水路にムラサキイガイが付着している場 合,低濃度の二酸化塩素水溶液を連続的に水路に注入すると,その長 52 時間にわたる刺激により,ムラサキイガイは足を引っ込め,水路の内 壁から剥離する。同時に,水路内のムラサキイガイのエサとなるプラ ンクトンが低濃度の二酸化塩素水溶液によって死滅するため,水路内 でムラサキイガイが生息することが困難となる。
【0018】 二酸化塩素は,極めて不安定な化学物質であるため,その貯蔵,輸送 は非常に困難であるが,このように二酸化塩素発生器を用いた場合に は,現場での二酸化塩素の製造が可能であり,取り扱いが非常に簡単 である。この二酸化塩素発生器により得た二酸化塩素水溶液を用いて, 毎秒50トンの海水を使用する火力発電所の復水器の冷却管を処理 し,本発明の効果を確かめる実験を行った。この水路の内壁には,ム ラサキイガイの稚貝および親貝が無数に付着していた。
e 【0019】 (1)冷却水の取水口から二酸化塩素の残留濃度が1.5ppmとな るように二酸化塩素水溶液を連続して注入した。3日後に二酸化塩素 の添加を中止し,水路内を観察したところ,水路にはムラサキイガイ の付着は殆ど認められなかった。
(2)同様に,二酸化塩素の残留濃度が30.0ppmとなるように 二酸化塩素水溶液を,1日に3回,即ち8時間毎に15分間間欠的に 注入した。3日後に二酸化塩素水溶液の添加を中止し,水路内を観察 したところ,水路にはムラサキイガイの付着は殆ど認められなかった。
【0020】 このような結果は,同濃度の塩素や次亜塩素酸ナトリウム等の塩素化 合物よりはるかに優れたものであった。なお,いずれの場合において も,処理後の排水は無害であり,付近に養殖場がある場合でも何等影 響はなかった。
53 f 【0021】 【発明の効果】 以上説明したように,本発明によると,水路に比較的低濃度の二酸化 塩素水溶液を連続的に注入するか,または,比較的高濃度の二酸化塩 素水溶液を間欠的に注入することにより,環境汚染を引き起こすこと なく,冷却系水路の内壁に付着する生物を効果的に付着防止,または 除去することが可能である。また,二酸化塩素は有害な有機塩素化合 物を形成しないことから,海や河川を汚染することもない。
(イ) 甲6 甲6(「高効率浄水技術開発研究(ACT21)代替消毒剤の実用化 に関するマニュアル」2002年12月発行)には,次のような記載が ある。
「1.1.3 二酸化塩素 トリハロメタンなどの有害消毒副生成物を生成せず,残留消毒効果も あり消毒効果も高いことから塩素代替消毒剤の筆頭と目されている。日 本の水道での使用実績は無いが,海外ではトリハロメタン対策として多 用され,国内でも浄水処理の適用を前提に実験的に検討した例は多い。」 (1頁28行〜32行) 「4.1.2 二酸化塩素の特徴 (1)安定性 二酸化塩素は通常溶液の形で使用されており,水への溶解度は塩素の 5倍以上である。水とも反応しないため揮散性があり,開放容器内では 不安定で力値が減少する。塩素のような刺激臭があり,空気中濃度が1 4〜17mg/Lで臭気を感知でき,45mg/Lでは呼吸器を刺激す る。空気中に10%以上の濃度になると爆発する。圧縮しても40kP aで爆発する。そのため濃厚状態の二酸化塩素を輸送することはできず, 54 使用する場所で製造するのが一般的である。性状はガス又は液状で,加 圧又は紫外線により容易に分解される。
二酸化塩素はpH7では24時間後でもほとんど二酸化塩素として 存在するが,pHの上昇とともに亜塩素酸イオンが増加する。従って二 酸化塩素水は低いpHの方で安定性が高い。… (2)酸化力 二酸化塩素は有効塩素で示される化合物(これらは加水分解して次亜 塩素酸を生成する)には属さない。理論上,塩素当たりの最大の酸化力 は塩素よりも強くなるが,浄水処理を行うpH7付近では次式のように 反応する。
ClO2+e-→ClO2- この反応の酸化還元電位(pH7,25℃平衡状態での値)は+0. 95Vであり,次亜塩素酸の+1.28Vより低い。」(57頁16行 〜58頁2行) 「(7)その他の特徴 二酸化塩素の消毒効果は,pH6〜10の範囲でpHにあまり影響さ れない。また有機物と反応するが,遊離塩素処理と比べてTHM(トリ ハロメタン)のような有機化合物を生成しない。」(58頁25行〜2 7行)(ウ) 甲9 甲9(「カーク・オスマー化学大辞典」昭和63年9月20日発行) には,次のような記載がある。
「二酸化塩素 物理的・化学的性質 ClO2は大部分単量体のフリーラジカルとし て存在する。…水に溶けて黄色の溶液となるが,この溶液は冷暗所では まったく安定である。水溶液中の二酸化塩素の酸化電位は0.95V(p 55 H=4〜7)である。ClO2は塩基性溶液中で過酸化水素により亜塩 素酸に還元される。」(202頁右欄33行〜44行) 「通常の還元剤は亜塩素酸や亜塩素酸塩により酸化されるが,ClO2- は中性領域では比較的弱い酸化剤であり,アルカリ溶液ではさらに弱く なる。」(203頁右欄11〜13行) 「用途 二酸化塩素は漂白(…),水処理,脱臭に用いられる。亜塩素酸ナト リウムは二酸化塩素の少量生産に原料として用いられる.消毒剤,酸化 剤としても用いられる。」(203頁右欄33行〜36行)(エ) 甲5 甲5(特開平8-24870号公報)には,次のような記載がある。
a 【0002】 【従来の技術】 火力発電所や原子力発電所では,復水器用の冷却水として海水が多 量に使用されている。この場合,海水取水路壁や配管内及び熱交換器 内には,フジツボ類,イガイ類やコケムシ類等の海生付着生物が多量 に付着する。中でも足糸で着生するムラサキイガイ等の二枚貝類は成 長が速く,成貝になると送水の通水を阻害したり,熱交換器チューブ の一部が閉塞することにより乱流を引き起こし,エロージョン腐食等 の障害を引き起こす。
【0003】 このため,従来定期的に機械又は人力で剥離除去する方法が行われ ていたが,その量が膨大であり,公害面等の環境上廃棄処理が困難で あるばかりか,除去作業の為操業を停止しなければならないという不 利を伴う。よって,これら海生付着生物の密集着生を防止するため, 次亜塩素酸ソーダ,電解塩素等の塩素ガスもしくは有効塩素発生剤 56 (以下,塩素剤という。 や過酸化水素もしくは過酸化水素発生剤 ) (以 下,過酸化水素剤という。)の添加及びトリ-n-ブチル錫やトリ- n-フェニル錫の塩化物,酸化物,水酸化物等の有機錫化合物含有塗 料等の塗布が行われてきた。
【0004】 しかしながら,塩素剤の添加は,トリハロメタン類の生成や場合に よってはダイオキシンの生成という可能性が危惧され,有機錫化合物 含有塗料の使用は残留毒性,蓄積毒性があり,両者とも生物濃縮され ることから,環境汚染防止上好ましくない。また,過酸化水素剤は, 分解すれば酸素と水になるため環境への影響が最も少ない化合物と して近年,多用されてきたが,毒性が弱い分,付着生物に対する選択 性が現れ,添加量が少なくなると付着生物の付着を抑制することが困 難になる。
【0005】 特に過酸化水素剤の分解酵素を多く有しているムラサキイガイ等 の二枚貝類に対しては,過酸化水素に対する抵抗性が強く,多量の過 酸化水素を添加しないと処理できない。以上のような事情を一因とし て本発明の発明者らは,過酸化水素剤と塩素剤とを併用添加する海水 付着生物の付着抑制方法を提案している(特公昭61-2439号公 報参照)。
b 【0007】 上記特許公報に記載の発明の第1実施態様は,過酸化水素剤と塩素 剤とを同時に別々に海水に注入する方法(同時添加法1)であり,海 水中の過酸化水素と有効塩素との酸化還元反応により発生する1重 項の酸素(活性酸素)の作用により付着生物の付着抑制効果を期待す るものであるため,近似する同一箇所に注入点を設けることが好まし 57 い。
【0008】 その場合,酸化還元反応により,両薬剤が消費され,添加個所及びそれ以降の一部区域については有効な海生付着生物に対する付着及び成長抑制効果が発揮されるが,それ以降の区域においては充分な抑制効果が発揮されないという課題があった(技術課題1)。そこで,過酸化水素剤と塩素剤とを添加する場合,両薬剤同士の接触を回避するため,時間的間隔をあけて交互かつ別時に同一個所に添加する方法(上記特許公報に記載の第2実施態様:間欠添加法)が実施されていた。
【0009】 しかしながら,その場合,一時的には過酸化水素剤又は塩素剤のみが添加されることになり,塩素剤のみが添加されたときには,その添加濃度が有効塩素として0.07mg/l以上になると海水中のブロムイオン等と反応して,トリハロメタン類が生成される(比較例11参照)という課題が確認された(技術課題2)。
【0011】 しかしながら,この方法においても,技術課題1を解決することはできず,また,生成量は減少するものの前記と同様にトリハロメタン類の生成が確認された(比較例4,8,10,23及び24参照)。
従って,前記特公昭61-2439号公報記載の発明において,トリハロメタン類の生成を防止するためには塩素剤の添加量を0.07mg/l未満にする必要があり,その場合には,塩素剤の海生付着生物に対する付着及び成長抑制効果が期待できないため,特にムラサキイガイ等の二枚貝類に対しては,過酸化水素として2mg/l以上使用しないと抑制効果が少ない。
58 【0012】 低濃度とはいえ,海水使用量の大きな冷却水系統,たとえば火力・ 原子力発電所等においては,その使用量が膨大な量になるため,経済 的ではないという課題があった(技術課題3)。ゆえに,本発明の目 的は,上記技術課題1〜3を解決すること,すなわち,トリハロメタ ン類の生成が抑制されるとともに,過酸化水素剤の添加量を低減して も,添加個所及びそれ以降の一部区域のみならずそれ以降の区域にお いても海生付着生物の付着及び成長を有効に抑制する工業用海水冷 却水の処理方法を提供することである。
イ 本件優先日当時の二酸化塩素に関する知見 前記(3)の記載事項及び前記アの記載事項を総合すると,本件優先日(平 成27年4月15日)当時,二酸化塩素は,有効塩素で示される化合物(こ れらは加水分解して次亜塩素酸を生成する)には属さないが,塩素含有の 化合物であり,水への溶解度は塩素よりも高く,酸化力が塩素よりも強い 上,塩素,次亜塩素酸ソーダ等の塩素剤の添加により生成する有害なトリ ハロメタンが発生しない,海生生物の付着防止剤として知られていたこと が認められる。
(5) 相違点1の容易想到性の有無について ア(ア) 前記(2)イ認定のとおり,甲1には,@従来,海水動物の付着抑制剤 として用いられてきた有効塩素発生剤(塩素,次亜塩素酸塩等),有機 スズ化合物,有機イオン化合物,第4級アンモニウム塩等には,残留毒 性,蓄積毒性があり,広く海水動物の生態環境を破壊するものと指摘さ れ,これらの薬剤に代わる安全な新しい薬剤の開発や,これらの薬剤の 使用量を効果的に減少させる方法の開発が強く要望されていたこと,A 「本発明」(甲1に記載された発明)は,それ自体低毒性でかつ蓄積毒 性,残留毒性のほとんどない過酸化水素を,従来の抑制剤と組み合わせ 59 て使用することによって,相乗効果により,従来の抑制剤の使用濃度を 実質的に低下せしめ,環境問題の見地からこれらの薬剤を有利に使用す ることを可能ならしめたという効果を奏することの開示があることが認 められる。
一方で,前記(4)ア(エ)の甲5の記載事項から,甲1記載の有効塩素発 生剤と過酸化水素を組み合わせた海水動物の付着抑制方法(甲1発明) には,塩素剤である有効塩素発生剤の添加により有害なトリハロメタン 類が生成するという課題があり,その生成防止のために塩素剤の添加量 を0.07mg/l未満に減少させた場合,塩素剤の海生付着生物に対 する付着及び成長抑制効果を期待できず,また,過酸化水素剤について は,特に過酸化水素剤の分解酵素を多く有しているムラサキイガイ等の 二枚貝類に対しては,2mg/l以上使用しないと抑制効果が少ないた め,海水使用量の大きな冷却水系統においては,その使用量が膨大な量 になり,経済的ではないという課題があることを理解できる。
(イ) 甲1には,二酸化塩素に関する記載はなく,過酸化水素と二酸化塩 素を組み合わせて使用することについての記載及び示唆はない。
しかるところ,本件優先日当時,二酸化塩素は,塩素含有の化合物で あるが,水への溶解度は塩素よりも高く,酸化力が塩素よりも強い上, 塩素剤の添加により生成する有害なトリハロメタンが発生しない,海生 生物の付着防止剤として知られていたことは,前記(4)イ認定のとおりで ある。
そして,前記(3)の甲2の記載事項によれば,甲2には,@甲2記載の 水中生物付着防止方法は,塩素の代わりに,塩素の2.6倍の有効塩素 量を有し,水溶性の高い二酸化塩素又は二酸化塩素発生剤を用いること により,薬品使用量の減少を図り,ひいては,毒性のあるTHM(トリ ハロメタン)の生成を防止しつつ,海洋中などの水中における生物付着 60 を防止すること(前記(3)ウ),A二酸化塩素は,実施例1の結果(表2) が示すように,有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナトリウムと比較し少 量で効果があり,更にトリハロメタンの発生がなく,環境汚染がない, 反応生成物は海水中に存在するイオンのみで構成され,残留毒性,蓄積 毒性がないという効果を奏すること(前記(3)エ及びオ)の開示があるこ とが認められる。
加えて,前記(4)ア(ア)の甲3の記載事項によれば,甲3には,甲3記 載の水路に付着する生物の付着防止又は除去方法は,低濃度の二酸化塩 素水溶液を連続的に水路に注入することによって,冷却系水路の内壁に 付着するムサキイガイ等の生物を効果的に付着防止し,又は除去するこ とが可能であり,また,二酸化塩素は有害な有機塩素化合物を形成しな いことから,海や河川を汚染することもないという効果を奏することの 開示があることが認められる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,甲1ないし3,5に接した当業者は, 過酸化水素と有効塩素剤とを組み合わせて使用する甲1発明には,有効 塩素剤の添加により有害なトリハロメタンが生成するという課題があ ることを認識し,この課題を解決するとともに,使用する薬剤の濃度を 実質的に低下せしめることを目的として,甲1発明における有効塩素剤 を,トリハロメタンを生成せず,有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナト リウムよりも少量で付着抑制効果を備える海生生物の付着防止剤であ る甲2記載の二酸化塩素に置換することを試みる動機付けがあるもの と認められるから,甲1及び甲2,3,5に基づいて,冷却用海水路の 海水中に「二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同 時に添加して,前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」 構成(相違点1に係る本件発明1の構成)を容易に想到することができ たものと認められる。
61 イ これに対し被告らは,@甲1記載の有効塩素発生剤は,過酸化水素との 酸化還元反応によって一重項酸素を発生させる化合物であるから,甲1発 明における有効塩素発生剤を,過酸化水素と反応しても一重項酸素を発生 しない二酸化塩素に置換する動機付けはない,A二酸化塩素は,不安定か つ酸化力の強い化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合 わせた場合,両者が反応して消費され,共存できないと考えられており, また,両者の反応により二酸化塩素は,海生生物の付着防止効果が劣る亜 塩素酸イオンとなるので,二酸化塩素を単独で使用した方が,二酸化塩素 と過酸化水素を併用するよりも海生生物の付着防止効果は高いことから すると,当業者においては,過酸化水素に二酸化塩素を組み合わせること についての動機付けがなく,むしろ阻害要因がある旨主張する。
しかしながら,上記@の点については,甲1には,過酸化水素と有効塩 素発生剤との組み合わせについて,「特に有効塩素との組み合わせの場合 には,次式に示す酸化-還元反応によって一重項の酸素(OI)が発生し て相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。H2 O 2+ClO -→H 2 O+C1-+OI」(前記(2)ア(ウ))との記載があるが,一重項酸素の発生 により「相乗的に抑制効果が高まるものと考えられる。」と推論している に過ぎず,一重項酸素による付着抑制効果の有無及びその程度を実証的な データ等により確認したものではない。
また,甲1には,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用以外にも,過酸 化水素とヒドラジンとを併用した「実施例3」として,過酸化水素とヒド ラジンとの併用の結果,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用の結果と同 様の抑制効果が得られたことの記載があり(前記(2)ア(オ)),過酸化水素 とヒドラジンとの併用によって一重項酸素が発生することは想定できな いことに照らすと,二酸化塩素が過酸化水素との併用により一重項酸素を 発生しないとしても,そのことから直ちに甲1発明における有効塩素発生 62 剤を二酸化塩素に置換する動機付けを否定することはできない。
次に,上記Aの点については,二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合わせた場合において,両者が反応して消費され,およそ共存できないと考えられていたことを具体的に裏付ける証拠はない。もっとも,甲3には,「二酸化塩素は,極めて不安定な化学物質であるため,その貯蔵,輸送は非常に困難であるが,このように二酸化塩素発生器を用いた場合には,現場での二酸化塩素の製造が可能であり,取り扱いが非常に簡単である。」(【0018】)との記載があるが,この記載から,海水中で,二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,両者が反応して消費され,およそ共存できないと読み取ることはできない。また,本件明細書の【0010】には,「二酸化塩素と過酸化水素との併用は,塩素剤と過酸化水素との併用と同様に酸化還元反応により両薬剤が消費され,水系において安定に共存できないという技術常識が存在していたためと考えられる。 , 」 「実際に本発明者らが試験したところによると,…当業者であれば,次亜塩素酸ナトリウムより酸化還元電位が高い二酸化塩素は過酸化水素と安定に共存できるはずがないと考えるのが自然である。, 」【0012】には,「…その結果,これまで共存が不可能と考えられてきた二酸化塩素が海水中で過酸化水素剤と準安定的に共存できることを意外にも見出し…」との記載があるが,当業者は,本件優先日前に本件出願後に公開された本件明細書の記載に接することができないのみならず,酸化還元電位については,「一方の系の標準酸化還元電位が,他方の系のそれより高い(正である)場合,前者の方がより強い酸化剤となり,前者が還元され,後者が酸化される方向に進みうる。」こと,「酸化還元電位によって予言できるのは反応方向であり,反応速度ではない」ことは,技術常識であること(「化学大辞典3」縮刷版904頁・共立出版2003年)に照らすと,酸化還元電位から反応速度まで予 63 測できるものとはいえないから,本件明細書の上記記載をもって,海水中 で,二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,両者が反応して消費され, およそ共存できないということはできない。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
ウ 以上によれば,本件審決における相違点1の容易想到性の判断には誤り がある。
(6) 本件発明1の予期し得ない顕著な効果の有無について 原告は,本件審決は,仮に甲1発明の有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換 できると仮定しても,本件明細書の「試験例1」,「試験例4」及び「試験 例5」の記載から,試験例1で確認することができる海水中での二酸化塩素 と過酸化水素の共存の持続が,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の同時添 加と比較して,海生生物やスライムの付着を効率よく防止できるとの効果を 奏することも確認することができるのに対し,原告提出の各甲号証には,二 酸化塩素と過酸化水素の海水中での共存が,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化 水素の共存より長時間持続することも,海生生物やスライムの付着を効率よ く防止できることも具体的に記載していないから,二酸化塩素と過酸化水素 の海水中での共存が,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素の共存より長時間 持続することができ,海生生物やスライムの付着を効率よく防止できるとの 本件発明1の奏する効果は,当業者が予期し得ない格別な効果であると判断 したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 試験例1について 本件明細書の「試験例1」(【0032】〜【0037】)の結果を記 載した表1(別紙1)には,濾過海水(200mL)に二酸化塩素(濃度 0.1mg/L)と過酸化水素(濃度1.05mg/L)とをこの順で添 加した実施例1では,攪拌5分後の二酸化塩素の残留率が60%であった のに対し,濾過海水に次亜塩素酸ナトリウム(濃度0.1mg/L)と過 64 酸化水素(濃度1.05mg/L)とをこの順で添加した比較例1では,次亜塩素酸ナトリウムの残留率が17%未満であったことが記載されており,二酸化塩素の残留率は次亜塩素酸ナトリウムの残留率の3倍以上であり,二酸化塩素と過酸化水素が次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素よりも共存状態が長く持続できることを示している。また,表1には,二酸化塩素(濃度0.25mg/L)と過酸化水素(濃度1.05mg/L)とをこの順で添加した実施例2では,攪拌5分後の二酸化塩素の残留率が52%であったのに対し,濾過海水に次亜塩素酸ナトリウム(濃度0.25mg/L)と過酸化水素(濃度1.05mg/L)とをこの順で添加した比較例2では,次亜塩素酸ナトリウムの残留率が17%未満であったことが記載されており,二酸化塩素の残留率は次亜塩素酸ナトリウムの残留率の3倍程度であったことが示されている。
一方で,表1には,二酸化塩素の濃度が実施例1よりも高い実施例2では,二酸化塩素の攪拌5分後の残留率は,実施例1よりも低いことが示されていることからすると,二酸化塩素の濃度を高くすると,二酸化塩素と過酸化水素の反応速度が高くなり,二酸化塩素の残留率が低くなることを理解できる。
また,二酸化塩素(濃度0.50mg/L)と過酸化水素(濃度0.15mg/L)とをこの順で添加した実施例3では,二酸化塩素の撹拌5分後の残留率は75%,撹拌15分後の残留率は49%であったのに対し,実施例3と添加の順序を逆にして,過酸化水素(濃度0.15mg/L)と二酸化塩素(濃度0.50mg/L)とをこの順で添加した実施例4では,二酸化塩素の撹拌5分後の残留率は68%,撹拌15分後の残留率は39%であったことが記載されており,過酸化水素を先に添加する実施例4の方が,二酸化塩素と過酸化水素の反応速度が高くなり,二酸化塩素の残留率が低くなることを理解できる。同様に,表1は,過酸化水素(濃度 65 2.00mg/L)と二酸化塩素(濃度0.50mg/L)とをこの順で 添加した実施例6は,添加の順序を逆にした実施例5よりも,二酸化塩素 の残留率が低くなることを示している。
さらに,表1から,濾過海水に二酸化塩素と過酸化水素とを添加した場 合の二酸化塩素の残留率は,それぞれの薬剤の濃度条件及び添加の順序に 応じて,撹拌5分後では,35%(実施例6),40%(実施例5),5 2%(実施例2),60%(実施例1),68%(実施例4),75%(実 施例3),撹拌15分後では,18%(実施例6),21%(実施例2及 び5),49%(実施例3),50%(実施例1),64%(実施例4) という広い範囲にわたって変化していることを理解できる。
そして,反応速度が高い高濃度の条件では,比較例1で示された次亜塩 素酸ナトリウムの撹拌後5分後及び15分後の残留率「<17%」に近接 する18%(実施例6)や21%(実施例5)という低い二酸化塩素の残 留率しか得られないことが理解できる。
以上のとおり,表1から,濾過海水に二酸化塩素と過酸化水素を添加し た場合の二酸化塩素の残留率は,過酸化水素及び二酸化塩素の濃度条件及 び添加の順序に応じて広範囲に変化することを理解できるところ,本件発 明1の特許請求の範囲(請求項1)は,過酸化水素及び二酸化塩素の特定 の濃度条件及び添加の順序を発明特定事項とするものではないから,上記 の実施例1及び比較例1,実施例2及び比較例2の対比の結果は,本件発 明1の特許請求の範囲全体の効果を示したものと認めることはできない。
そうすると,試験例1の上記対比の結果から,本件発明1が顕著な効果 を奏するものと認めることはできない。
イ 試験例4について (ア) 本件明細書の「試験例4」(【0048】〜【0052】)の結果 を記載した表4(別紙1)には,未濾過海水を流量1m3/hで63日間 66 通水した水路試験装置の水路に二酸化塩素(濃度0.05mg/L)と 過酸化水素(濃度0.175mg/L)を同時に連続添加した実施例1 では,スライムを主体とする汚れを示す「湿体積」が1.0mlであっ たのに対し,次亜塩素酸ナトリウム(濃度0.05mg/L)と過酸化 水素(濃度0.175mg/L)を同時に連続添加した比較例4では, 「湿体積」が3.0mlであったことが記載されており,また,過酸化 水素(濃度0.175mg/L)を単独で添加した比較例1では「湿体 積」が25.0ml,二酸化塩素(濃度0.05mg/L)を単独で添 加した比較例2では「湿体積」が4.0ml,二酸化塩素(濃度0.1 mg/L)を単独で添加した比較例3では「湿体積」が2.0mlであ ったことが記載されている。表4の実施例1及び比較例4の対比の結果 は,二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合の効果は,同じ濃度 の次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用添加した場合の効果と比 較して,3倍優れていることを示すものといえる。
しかるところ,前記アのとおり,海水に二酸化塩素と過酸化水素を添 加した場合の二酸化塩素の残留率は,過酸化水素及び二酸化塩素の濃度 条件及び添加の順序に応じて広範囲に変化し,この変化に伴って,スラ イムを主体とする汚れの付着防止効果も変化し得るものと理解できる ことからすると,表4の実施例1及び比較例4の対比の結果は,本件発 明1の特許請求の範囲全体の効果を示したものと認めることはできな い。
(イ) 次に,甲2の「実施例1」(前記(3)エ及びオ)の結果を記載した表 2(別紙3)には,海水を通水したモデル水路に薬剤を注入し90日経 過後のスライムの付着量を測定した結果として,薬剤を添加しない「ブ ランク」の場合のスライムの付着量は420g/u,3ppmの次亜塩 素酸ナトリウムを使用した場合のスライムの付着量は90g/u,0. 67 1ppmの亜塩素酸ナトリウム及び0.01ppmの硫酸を併用して二酸化塩素を生成した場合のスライムの付着量は100g/uであったことが記載されており,上記記載から,3ppmの次亜塩素酸ナトリウムを使用した場合のスライムの減少量(付着防止量)は330g/u(420g/u-90g/u),二酸化塩素を生成した場合のスライムの減少量(付着防止量)は320g/u(420g/u-100g/u)であることを理解できる。表2には,二酸化塩素の生成量について明記されていないが,亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)から二酸化塩素(ClO2)が生成する反応は,反応の前後で塩素及び酸素の原子量が変わらず,ナトリウム原子の有無のみで相違していことからすると,生成後の二酸化塩素の分子量はその原料である亜塩素酸ナトリウムの分子量より低くなり,0.1ppmの亜塩素酸ナトリウムから二酸化塩素を生成した場合,二酸化塩素の生成量は0.1ppmを超えないことは,自明であるといえる。
そうすると,表2から,3ppmの次亜塩素酸ナトリウムを使用した場合のスライムの減少量(付着防止量)と,0.1ppm以下の二酸化塩素を使用した場合のスライムの減少量(付着防止量)は,おおむね同程度であることを理解できるから,二酸化塩素は,次亜塩素酸ナトリウムよりもかなりの低濃度で同程度のスライム付着防止効果を上げることを理解できる。また,甲2にも,「以上の結果より海水生物付着防止効果について…亜塩素酸ナトリウムを活性化し二酸化塩素にすることで著しい効果をあげることができる。」(3頁左欄)との記載がある。
以上によれば,甲1及び甲2に接した当業者は,甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換し,二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素を併用した場合よりも優れたスライム付着防止効果を奏することを予期することができるものと 68 いえるから,本件明細書の試験例4の実施例1及び比較例4の対比の結 果は予期し得ない効果であるものと認めることはできない。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,試験例4の実施例1及び比較例4の対 比の結果から,本件発明1が,当業者が予期し得ない顕著な効果を奏す るものと認めることはできない。
ウ 試験例5について 本件明細書の「試験例5」(【0053】〜【0057】)の結果を記 載した表5(別紙1)には,海水を流量1m3/hで69日間通水した水路 試験装置の水路に二酸化塩素(濃度0.05mg/L)と過酸化水素(濃 度0.175mg/L)を同時に連続添加した実施例1では,ムラサキイ ガイ,フジツボ類,カンザシゴカイ類,オベリア類及びコケムシ類などの 海生生物の付着物量が7.68gであったのに対し,次亜塩素酸ナトリウ ム(濃度0.05mg/L)と過酸化水素(濃度0.175mg/L)を 同時に連続添加した比較例1では,海生生物の付着物量が26.74gで あったことが記載されている。表5の実施例1及び比較例1の対比の結果 は,二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合の効果は,同じ濃度の 次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用添加した場合の効果と比較 して,3倍以上優れていることを示すものといえる。
しかるところ,前記イ(ア)で述べたのと同様の理由により,表5の実施 例1及び比較例1の対比の結果は,本件発明1の特許請求の範囲全体の効 果を示したものと認めることはできない。このことは,表5には,二酸化 塩素(濃度0.1mg/L)と過酸化水素(濃度0.175mg/L)を 同時に連続添加した実施例3では,海生生物の付着物量が8.07gであ ったのに対し,二酸化塩素と同じ濃度の次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水 素(濃度0.175mg/L)を同時に連続添加した比較例2では,海生 生物の付着物量が10.92gであったことが記載されており,海生生物 69 の付着防止効果は,二酸化塩素の濃度条件によって大きく変化しているこ ととも合致する。
次に,甲2の表2(別紙3)には,海水を通水したモデル水路に薬剤を 注入し90日経過後のフジツボの付着量を測定した結果として,薬剤を添 加しない「ブランク」の場合の付着量は3300個/u,3ppmの次亜 塩素酸ナトリウムを使用した場合の付着量は250個/u,0.1ppm の亜塩素酸ナトリウム及び0.01ppmの硫酸を併用して二酸化塩素を 生成した場合の付着量は250個/uであったことが記載されており,上 記記載から,3ppmの次亜塩素酸ナトリウムを使用した場合と0.1p pmの亜塩素酸ナトリウムから生成した二酸化塩素を使用した場合のフ ジツボの減少量(付着防止量)は同数であること(3300個/u-25 0個/u)を理解できる。
そして,前記イ(イ)で述べたのと同様の理由により,甲2の記載から, 二酸化塩素は,次亜塩素酸ナトリウムよりもかなりの低濃度で海生生物の 付着防止効果を上げることを理解できることからすると,甲1及び甲2に 接した当業者は,甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換し, 二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合,次亜塩素酸ナトリウムと過酸化 水素を併用した場合よりも優れた海生生物の付着防止効果を奏すること を予期することができるものといえる。
したがって,本件明細書の試験例5の表5の実施例1及び比較例1の対 比の結果から,本件発明1が,当業者が予期し得ない顕著な効果を奏する ものと認めることはできない。
エ 被告らの主張について 被告らは,@二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い化合物であるため, 二酸化塩素と過酸化水素の共存は,本件優先日当時,通常は考えられてお らず,両者の海中での共存が「長時間持続」することは考えられていなか 70 ったことに照らせば,試験例1記載の効果は当業者が予期し得ない格別な効果である,A二酸化塩素は,次亜塩素酸ナトリウムと異なり,過酸化水素との組み合わせで一重項酸素を発生させるものではないにもかかわらず,過酸化水素と二酸化塩素の組み合わせの方がスライム汚れの付着防止効果が高まるという結果を予測することは困難であり,また,本件明細書の表4から,二酸化塩素又は次亜塩素酸ナトリウムのそれぞれ単独の結果から,それぞれの過酸化水素との併用効果を予測できないことが分かるから,試験例4記載の効果は当業者が予期し得ない格別な効果である,B甲1には,過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせで一重項酸素が発生するという相乗効果が開示されているが,過酸化水素と二酸化塩素との組み合わせについては何ら開示されておらず,海生生物付着量の抑制効果を単独成分の結果から予測することは困難であるから,試験例4記載の効果は当業者が予期し得ない格別な効果である旨主張する。
しかしながら,上記@の点については,前記(5)イ認定のとおり,二酸化塩素は,不安定かつ酸化力の強い化合物であるため,本件優先日当時,過酸化水素と組み合わせた場合,両者が反応して消費され,およそ共存できないと考えられていたことを具体的に裏付ける証拠はない。
次に,上記A及びBの点については,前記(5)イ認定のとおり,甲1には,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用以外にも,過酸化水素とヒドラジンとを併用した「実施例3」として,過酸化水素とヒドラジンとの併用の結果,過酸化水素と有効塩素発生剤との併用の結果と同様の相乗的な抑制効果が得られたことの記載があり,過酸化水素とヒドラジンとの併用によって一重項酸素が発生することは想定できないことに照らすと,二酸化塩素が過酸化水素と反応しても一重項酸素を発生しないとしても,そのことから直ちに,過酸化水素と二酸化塩素を組み合わせた場合に,過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムを組み合わせた場合と比べて,スライム汚れの 71 付着防止効果や海生生物付着量の抑制効果が高まることが予測できない ということはできない。
したがって,被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,採用 することができない。
オ まとめ 以上によれば,本件発明1は当業者が予想し得ない格別な効果を奏する とした本件審決の判断は,誤りである。
(7) 小括 以上によれば,本件発明1は,甲1発明及び甲2ないし7,9ないし18 に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの であるから,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
したがって,原告主張の取消事由1-1は理由がある。
2 取消事由1-2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし4の進歩性の判断 の誤り)について 本件審決は,本件発明2ないし4は,本件発明1を減縮したものであるから, 本件発明1と同様に,当業者が甲1発明及び甲2ないし7,9ないし18に記 載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない旨判断し た。
しかしながら,前記1(7)のとおり,本件審決の本件発明1の容易想到性の判 断に誤りがある以上,本件発明2ないし4の容易想到性を否定した本件審決の 判断は,その前提を欠くものであって,誤りである。
したがって,原告主張の取消事由1-2は理由がある。
3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由1-1及び1-2は理由があるから,そ の余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきで ある。
72
追加
73 (別紙1)【表1】【表4】74 【表5】75 (別紙2)第4A表第4B表76 (別紙3)77 【第1図】78 (別紙4)表A付着量薬剤のスライム重量のスライム重量の添加量減少量No.薬剤名スライム重量有効成分量残存率(ppm)(g/m2)(ppm)(%)(g/m2)1ブランク-420---2次亜塩素酸ナトリウム(12%)3.0900.3621.43303亜塩素酸ナトリウム(25%)0.51200.12528.63004亜塩素酸ナトリウム(25%)1.0500.2511.9370亜塩素酸ナトリウム(25%)0.10.015510023.8320硫酸(97%)0.01(ClO2として)亜塩素酸ナトリウム(25%)0.20.036204.8400硫酸(97%)0.02(ClO2として)亜塩素酸ナトリウム(25%)0.50.0757133.1407硫酸(97%)0.06(ClO2として)亜塩素酸ナトリウム(25%)1.00.15851.2415硫酸(97%)0.11(ClO2として)9硫酸(97%)0.05390-92.930表B付着量薬剤のフジツボの二枚貝の添加量No.薬剤名有効成分量残存率残存率(ppm)フジツボ二枚貝(ppm)(%)(%)(個/m2)(個/m2)1ブランク-3300400---2次亜塩素酸ナトリウム(12%)3.025000.367.60.03亜塩素酸ナトリウム(25%)0.5450500.12513.612.54亜塩素酸ナトリウム(25%)1.018000.255.50.0亜塩素酸ナトリウム(25%)0.10.0155250507.612.5硫酸(97%)0.01(ClO2として)亜塩素酸ナトリウム(25%)0.20.0365001.50.0硫酸(97%)0.02(ClO2として)亜塩素酸ナトリウム(25%)0.50.0757000.00.0硫酸(97%)0.06(ClO2として)亜塩素酸ナトリウム(25%)1.00.158000.00.0硫酸(97%)0.11(ClO2として)9硫酸(97%)0.053200350-97.087.579
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 國分隆文
裁判官 筈井卓矢