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関連審決 無効2017-800013
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事件 平成 30年 (行ケ) 10076号 審決取消請求事件

原告 サッポロホールディングス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 寺下雄介 森崎翔
同 弁理士 長谷川芳樹 清水義憲 小曳満昭 吉住和之 坂西俊明
被告 キッコーマン株式会社
同訴訟代理人弁護士 中野亮介 森田祐行
同 弁理士 稲葉良幸 内藤和彦 山田拓 白石真琴
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/03/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
1訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2017-800013号事件について平成30年4月24日にした審決のうち,特許第5622879号の請求項1ないし9に係る部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 ? 原告は,平成25年3月5日,発明の名称を「豆乳発酵飲料及びその製造方法」とする発明について特許出願をし,平成26年10月3日,設定登録を受けた(特許第5622879号。請求項の数10。以下「本件特許」という。)。
? 被告は,平成29年1月31日,特許庁に対し,本件特許の無効審判請求をし,無効2017-800013号事件として係属した。
? 原告は,平成29年12月26日,特許庁に対し,本件特許の特許請求の範囲の訂正を請求した(請求項10の削除を含む。以下「本件訂正」という。)。
? 特許庁は,平成30年4月24日,本件訂正を認めた上,「特許第5622879号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。請求項10についての本件審判の請求を却下する。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年5月8日,原告に送達された。
? 原告は,本件審決の請求項1〜9に係る部分を不服として,同年6月5日,本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲請求項1〜9の記載は,以下のとおりである(以下,請求項番号の順に「本件発明1」などといい,これらを一括して「本件各発明」という。なお,「\」は改行部分を示す。以下同じ。)。また,その明細書及び図面(甲39の1)を併せて「本件明細書」という。
【請求項1】 2 pHが4.5未満であり,かつ7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであり,ペクチン及び大豆多糖類を含み,前記ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%である,豆乳発酵飲料(但し,ペクチン及び大豆多糖類が,ペクチンと大豆多糖類とが架橋したものである豆乳発酵飲料を除く。)。
【請求項2】 以下?〜?により決定される沈殿量が0cm超かつ11cm未満である,請求項1に記載の豆乳発酵飲料。
? 豆乳発酵飲料50mLを50mL遠沈管に入れ,スイングローターにて20℃,1631.5×gで10分間遠心分離する ? ?の後,遠沈管の底部に得られた沈殿の長径及び短径を測定する ? ?で測定された沈殿の長径及び短径を足し合わせて,得られた値を沈殿量とする【請求項3】 豆乳を乳酸菌により発酵させたものである,請求項1又は2に記載の豆乳発酵飲料。
【請求項4】 前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERMBP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む,請求項3に記載の豆乳発酵飲料。
【請求項5】 豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程と,\前記豆乳発酵物に,ペクチン及び大豆多糖類を添加する工程と,\豆乳発酵飲料のpHが4.5未満になる 3 ようにpH調整する工程と,を備え,\前記添加する工程が,ペクチン及び大豆多糖類を混合物として添加する,又はそれぞれ別々に添加する工程であり,\前記ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%であり,\前記豆乳発酵飲料の7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sである,\豆乳発酵飲料の製造方法
【請求項6】 前記ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜60質量%である,請求項5に記載の製造方法
【請求項7】 前記ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜50質量%である,請求項5又は6に記載の製造方法
【請求項8】 前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌を含む,請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項9】 前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERMBP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む,請求項5〜8のいずれか一項に記載の製造方法
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明1〜9は,(i)後記引用例1記載の発明並びに甲1及び16記載の事項に基づいて,又は(ii)後記引用例2記載の発明並びに甲1,2,4,6及び16 4 記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,A本件発明1〜4は,後記引用例3記載の発明並びに甲1,3,4,6及び16記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものである,などというものである。
ア 引用例1:特開平5-7458号公報(甲1) イ 引用例2:岸田耕一「発酵豆乳製品開発とフレーバー」月刊フードケミカル2005年7月号22頁〜24頁(甲2) ウ 引用例3:特開2011-167190号公報(甲3) ? 本件審決は,各引用例記載の発明につき,以下のとおり認定した。
ア 引用例1記載の発明 (ア) 分散剤として水溶性大豆多糖類を含有し,糊料としてハイメトキシルペクチンを含み,pH2.5〜5.0である酸性蛋白食品(以下「引用発明1-1」という。)。
(イ) 分散剤として水溶性大豆多糖類を含有し,糊料としてハイメトキシルペクチンを含み,pH2.5〜5.0である酸性蛋白食品の製造方法(以下「引用発明1-2」という。)。
イ 引用例2記載の発明 (ア) 2%HMペクチン溶液を含有し,pH3.4である発酵豆乳入りウォータータイプ処方例である清涼飲料水(以下「引用発明2-1」という。)。
(イ) 果糖ブドウ糖液糖,砂糖,殺菌発酵豆乳ハピネスHFST-100,2%HMペクチン溶液及び水をよく混合し,完全に溶解したものに,40℃以下にて乳酸溶液,クエン酸ナトリウム及び香料を添加し,量調整を行い,均質化処理,殺菌/冷却した,pH3.4である発酵豆乳入りウォータータイプ処方例である清涼飲料水の製造方法(以下「引用発明2-2」という。)。
ウ 引用例3記載の発明 沈殿防止安定剤として水溶性大豆多糖類を含有し,pH4.1,又は4.2であ 5 る豆乳発酵乳酸菌飲料(以下「引用発明3」という。)。
? 本件審決は,本件各発明と各引用発明との一致点・相違点につき,以下のとおり認定した。
ア 本件発明1と引用発明1-1,2-1及び3との一致点・相違点(ア) 引用発明1-1との一致点・相違点 a 一致点1-1:ペクチン及び大豆多糖類を含む,食品(但し,ペクチン及び大豆多糖類が,ペクチンと大豆多糖類とが架橋したものである食品を除く。)。
b 相違点 (a) 相違点1-1:pHについて,本件発明1では,4.5未満であるのに対して,引用発明1-1では,2.5〜5.0である点。
(b) 相違点1-2:本件発明1では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであるのに対して,引用発明1-1では,粘度が不明である点。
(c) 相違点1-3:本件発明1は,ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%であるのに対して,引用発明1-1は,ペクチンと大豆多糖類との比率が不明である点。
(d) 相違点1-4:食品について,本件発明1は,豆乳発酵飲料であるのに対して,引用発明1-1は,酸性蛋白食品である点。
(イ) 引用発明2-1との一致点・相違点 a 一致点2-1:pHが4.5未満であり,ペクチンを含む,豆乳発酵飲料。
b 相違点 (a) 相違点2-1:本件発明1では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであるのに対して,引用発明2-1では,粘度が不明である点。
(b) 相違点2-2:ペクチンに加え,本件発明1では,大豆多糖類を含み(但し,ペクチン及び大豆多糖類が,ペクチンと大豆多糖類とが架橋したものである豆乳発酵飲料を除く。),ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%であるのに対して,引用発明2-1は, 6 大豆多糖類を含まない点。
(ウ) 引用発明3との一致点・相違点 a 一致点3:pHが4.5未満であり,大豆多糖類を含む,豆乳発酵飲料。
b 相違点 (a) 相違点3-1:本件発明1では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであるのに対して,引用発明3では,粘度が不明である点。
(b) 相違点3-2:大豆多糖類に加え,本件発明1では,ペクチンを含み(但し,ペクチン及び大豆多糖類が,ペクチンと大豆多糖類とが架橋したものである豆乳発酵飲料を除く。),ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%であるのに対して,引用発明3は,ペクチンを含まない点。
イ 本件発明2と引用発明1-1,2-1及び3との一致点・相違点 (ア) 引用発明1-1との一致点・相違点 一致点1-1の点で一致し,相違点1-1〜1-4及び以下の相違点1-5において相違する。
相違点1-5:本件発明2では,「?豆乳発酵飲料50mLを50mL遠沈管に入れ,スイングローターにて20℃,1631.5×gで10分間遠心分離する\? ?の後,遠沈管の底部に得られた沈殿の長径及び短径を測定する\? ?で測定された沈殿の長径及び短径を足し合わせて,得られた値」である沈殿量が0cm超かつ11cm未満であるのに対して,引用発明1-1では,沈殿量が不明である点。
(イ) 引用発明2-1との一致点・相違点 一致点2-1の点で一致し,相違点2-1,2-2及び以下の相違点2-3において相違する。
相違点2-3:本件発明2では,「?豆乳発酵飲料50mLを50mL遠沈管に入れ,スイングローターにて20℃,1631.5×gで10分間遠心分離する\ 7 ? ?の後,遠沈管の底部に得られた沈殿の長径及び短径を測定する\? ?で測定された沈殿の長径及び短径を足し合わせて,得られた値」である沈殿量が0cm超かつ11cm未満であるのに対して,引用発明2-1では,沈殿量が不明である点。
(ウ) 引用発明3との一致点・相違点 一致点3の点で一致し,相違点3-1,3-2及び以下の相違点3-3において相違する。
相違点3-3:本件発明2では,「?豆乳発酵飲料50mLを50mL遠沈管に入れ,スイングローターにて20℃,1631.5×gで10分間遠心分離する\? ?の後,遠沈管の底部に得られた沈殿の長径及び短径を測定する\? ?で測定された沈殿の長径及び短径を足し合わせて,得られた値」である沈殿量が0cm超かつ11cm未満であるのに対して,引用発明3では,沈殿量が不明である点。
ウ 本件発明3と引用発明1-1,2-1及び3との一致点・相違点 (ア) 引用発明1-1との一致点・相違点 一致点1-1の点で一致し,相違点1-1〜1-4及び以下の相違点1-6において相違する。
相違点1-6:本件発明3では,「豆乳を乳酸菌により発酵させたものである」であるのに対して,引用発明1-1では,そのように特定されていない点。
(イ) 引用発明2-1との一致点・相違点 一致点2-1の点で一致し,相違点2-1,2-2及び以下の相違点2-4において相違する。
相違点2-4:本件発明3では,「豆乳を乳酸菌により発酵させたものである」であるのに対して,引用発明2-1では,そのように特定されていない点。
(ウ) 引用発明3との一致点・相違点 一致点3の点で一致し,相違点3-1,3-2及び以下の相違点3-4において相違する。
8 相違点3-4:本件発明3では,「豆乳を乳酸菌により発酵させたものである」であるのに対して,引用発明3では,そのように特定されていない点。
エ 本件発明4と引用発明1-1,2-1及び3との一致点・相違点(ア) 引用発明1-1との一致点・相違点 一致点1の点で一致し,相違点1-1〜1-4,1-6及び以下の相違点1-7において相違する。
相違点1-7:本件発明4では,「前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む」のに対して,引用発明1-1では,そのように特定されていない点。
(イ) 引用発明2-1との一致点・相違点 一致点2-1の点で一致し,相違点2-1,2-2,2-4及び以下の相違点2-5において相違する。
相違点2-5:本件発明4では,「前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む」のに対して,引用発明2-1では,そのように特定されていない点。
(ウ) 引用発明3との一致点・相違点 一致点3の点で一致し,相違点3-1,3-2,3-4及び以下の相違点3-5において相違する。
9 相違点3-5:本件発明4では,「前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む」のに対して,引用発明3では,そのように特定されていない点。
オ 本件発明5と引用発明1-2及び2-2との一致点・相違点(ア) 引用発明1-2との一致点・相違点 a 一致点1-2:食品原料に,ペクチン及び大豆多糖類を添加する工程と,\食品のpH調整する工程と,を備え,\前記添加する工程が,ペクチン及び大豆多糖類を混合物として添加する,又はそれぞれ別々に添加する工程である,\食品の製造方法
b 相違点 (a) 相違点1-8:pHについて,本件発明5では,4.5未満であるのに対して,引用発明1-2では,2.5〜5.0である点。
(b) 相違点1-9:本件発明5は,「豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程」を有し,「前記豆乳発酵物に」ペクチン及び大豆多糖類を添加し,食品が「豆乳発酵飲料」であるのに対して,引用発明1-2は,豆乳発酵物を得る工程がなく,食品が「酸性蛋白食品」である点。
(c) 相違点1-10:本件発明5では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであるのに対して,引用発明1-2では,粘度が不明である点。
(d) 相違点1-11:本件発明5は,「ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%である」のに対して,引用発明1-2は,ペクチン及び大豆多糖類の割合が不明である点。
(イ) 引用発明2-2との一致点・相違点 10 a 一致点2-2:豆乳発酵物に,ペクチンを添加する工程と,\豆乳発酵飲料のpHが4.5未満になるようにpH調整する工程と,を備える\豆乳発酵飲料の製造方法
b 相違点 (a) 相違点2-6:本件発明5では,豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程を備えるのに対して,引用発明2-2では,殺菌発酵豆乳ハピネスHFST-100を用いている点。
(b) 相違点2-7:添加する工程が,本件発明5は,ペクチン及び大豆多糖類を添加する工程であって,ペクチン及び大豆多糖類を混合物として添加する,又はそれぞれ別々に添加する工程であるのに対して,引用発明2-2は,大豆多糖類を添加していない点。
(c) 相違点2-8:本件発明5は,ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%であるのに対して,引用発明2-2は,大豆多糖類を添加していない点。
(d) 相違点2-9:本件発明5では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであるのに対して,引用発明2-2では,粘度が不明である点。
カ 本件発明6と引用発明1-2及び2-2との一致点・相違点(ア) 引用発明1-2との一致点・相違点 一致点1-2の点で一致し,相違点1-8〜1-10及び以下の相違点1-12において相違する。
相違点1-12:本件発明6では,ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜60質量%であるのに対して,引用発明1-2は,ペクチン及び大豆多糖類の割合が不明である点。
(イ) 引用発明2-2との一致点・相違点 一致点2-2の点で一致し,相違点2-6,2-7,2-9及び以下の相違点2-10において相違する。
11 相違点2-10:本件発明6では,ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜60質量%であるのに対して,引用発明2-2は,大豆多糖類を添加していない点。
キ 本件発明7と引用発明1-2及び2-2との一致点・相違点 (ア) 引用発明1-2との一致点・相違点 一致点1-2の点で一致し,相違点1-8〜1-10及び以下の相違点1-13において相違する。
相違点1-13:本件発明7では,ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜50質量%であるのに対して,引用発明1-2は,ペクチン及び大豆多糖類の割合が不明である点。
(イ) 引用発明2-2との一致点・相違点 一致点2-2の点で一致し,相違点2-6,2-7,2-9及び以下の相違点2-11において相違する。
相違点2-11:本件発明7では,ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜50質量%であるのに対して,引用発明2-2は,大豆多糖類を添加していない点。
ク 本件発明8と引用発明1-2及び2-2との一致点・相違点 (ア) 引用発明1-2との一致点・相違点 一致点1-2の点で一致し,相違点1-8〜1-11及び以下の相違点1-14において相違する。
相違点1-14:本件発明8では,「乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌を含む」のに対して,引用発明1-2では,そのように特定されていない点。
(イ) 引用発明2-2との一致点・相違点 一致点2-2の点で一致し,相違点2-6〜2-9及び以下の相違点2-12において相違する。
12 相違点2-12:本件発明8では,「乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌を含む」のに対して,引用発明2-2では,そのように特定されていない点。
ケ 本件発明9と引用発明1-2及び2-2との一致点・相違点 (ア) 引用発明1-2との一致点・相違点 一致点1-2の点で一致し,相違点1-8〜1-11及び以下の相違点1-15において相違する。
相違点1-15:本件発明9では,「前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERN BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む」のに対して,引用発明1-2では,そのように特定されていない点。
(イ) 引用発明2-2との一致点・相違点 一致点2-2の点で一致し,相違点2-6〜2-9及び以下の相違点2-13において相違する。
相違点2-13:本件発明9では,「前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む」のに対して,引用発明2-2では,そのように特定されていない点。
4 取消事由 ? 取消事由1:本件発明1についての進歩性判断の誤り 13 ア 取消事由1-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由1-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤りウ 取消事由1-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由2:本件発明2についての進歩性判断の誤りア 取消事由2-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由2-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤りウ 取消事由2-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由3:本件発明3についての進歩性判断の誤りア 取消事由3-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由3-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤りウ 取消事由3-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由4:本件発明4についての進歩性判断の誤りア 取消事由4-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由4-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤りウ 取消事由4-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由5:本件発明5についての進歩性判断の誤りア 取消事由5-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由5-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由6:本件発明6についての進歩性判断の誤りア 取消事由6-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由6-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由7:本件発明7についての進歩性判断の誤りア 取消事由7-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤りイ 取消事由7-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り? 取消事由8:本件発明8についての進歩性判断の誤りア 取消事由8-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り 14 イ 取消事由8-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り ? 取消事由9:本件発明9についての進歩性判断の誤り ア 取消事由9-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り イ 取消事由9-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り
当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由1-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 主位的主張 (ア) 本件審決は,本件発明1と引用発明1-1との相違点として相違点1-1〜1-4を認定したが,これらの相違点に係る本件発明1の構成は1つのまとまりのあるものとして相違点の認定がされなければならない。
すなわち,相違点の認定をするに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定されなければならない。そして,本件明細書によれば,本件発明1の課題は,蛋白質成分等の凝集が抑制されることとともに,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味の優れた豆乳発酵飲料を提供することである。
ここで,味や保存性の観点からpHを調整する場合,pHを4.5未満に限定する必要はない。また,飲料としてあり得る粘度範囲は,1〜600mPa・s辺りまでがあり得る。ペクチンの添加量についても,pHや粘度が異なる範囲にあるならば,本件発明1の効果は得られず,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%に限定する理由もない。豆乳発酵飲料であることについても同様である。このため,本件発明1の本質は,豆乳発酵飲料について,pHが4.5未満であり,ペクチンの割合がペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%の範囲にあり,かつ,粘度が5.4〜9.0mPa・sの範囲にあるという構成を採用する場合に,味や保存性とは別の,予 15 測できない効果が得られるところにある。換言すれば,豆乳発酵飲料でない場合,pH,ペクチンと大豆多糖類の割合又は粘度のいずれかが上記各範囲にない場合には,その他の構成につき上記範囲に限定する意味はなく,本件発明1の効果が得られるとは限らない。
以上のとおり,相違点1-1〜1-4に相当する本件発明1の構成は互いに技術的に関連しており,それぞれ独立の要素として容易想到性を判断することは発明の本質に沿わず,許されない。これらの相違点は1つの相違点として認定し,その1つの相違点に関する容易想到性が判断されなければならない。
(イ) 以上より,本件発明1と引用発明1-1の相違点は,以下の相違点1-Aである。
相違点1-A:本件発明1は,pHが4.5未満かつ7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sかつペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%である,豆乳発酵飲料であるのに対し,引用発明1-1は,pHが2.5〜5.0かつ粘度不明かつペクチンと大豆多糖類の比率が不明である,酸性蛋白食品である点。
(ウ) 引用発明1-1から本件発明1に至るには,pHを4.5未満とし,ペクチンの添加割合をペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%と調整し,最終的な粘度を7℃において5.4〜9.0mPa・sと限定しなければならない。
しかし,上記各構成は,これらを同時に満たす場合に,酸味を抑制し,後に残る酸味を減少させるという効果が発見されたことから特定されるに至ったものであり,かつ,上記効果も一般的に知られた効果ではなかった以上,想到することが容易なものとはいえない。
また,そもそも引用例1には,蛋白質成分の凝集抑制という効果以外に,酸味の抑制・後に残る酸味の減少という課題の発想が存在しない。pHの範囲の限定,粘度の限定,ペクチン及び大豆多糖類の添加量の比率の調整といった各構成を同時に 16 適用することでこれらの効果が生じることについても,引用例1に記載はない。
そうすると,相違点1-Aに係る本件発明1の構成を同時に採用することは,当業者にとって容易でなかったというべきである。
(エ) 以上のとおり,本件審決は,本件発明1と引用発明1-1との相違点の認定に誤りがあるとともに,相違点1-Aに係る本件発明1の構成を採用することは本件特許出願当時容易でなかったことから,容易想到性の判断の点でも誤りがある。
イ 予備的主張(ア) 相違点1-1について 本件審決は,酸っぱい風味,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさを官能評価で確認したのはpH4.3のみであり,原告の主張する効果はpH4.5未満の全範囲について認めることはできないなどと判断した。
しかし,豆乳発酵飲料としてあり得るpHの範囲は技術常識から当然限定され,文字どおり「pH4.5未満の全範囲」で効果が認められる必要はない。そして,引用例3及び甲4の記載等によれば,当業者は,豆乳発酵飲料としてあり得るpHの下限はおおよそpH4.1又は4.2程度と理解することができる。
そうすると,技術常識から限定されるpHの範囲は4.1(又は4.2)程度から4.5の範囲であり,おおよその中央値であるpH4.3について酸味抑制等の効果が認められていること,また,酸味の抑制効果等はpHが0.1程度変動することで大きく変わることも考えにくいことから,pH4.3についてのみ官能評価による効果確認がなされていることをもって十分と考えるべきである。
(イ) 相違点1-2について a 本件審決は,消費者に受け入れられる飲料として普通の範囲である7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sの飲料とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項であるなどと判断した。
しかし,豆乳発酵飲料において,「7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・s」と特定する構成を採用することは,以下のとおり,消費者に受け入れられる飲 17 料とするに当たり普通の範囲とはいえず,容易に想到し得たものではない。
b 本件審決は,甲10〜13及び17に依拠して,5.4〜9.0mPa・sの設定は設計事項とするものと理解される。
しかし,このような理解は,甲13及び17の試料の粘度が本件特許出願前から実験日まで変化していないことを前提としているところ,そのような前提を認めるに足りる証拠はない。また,飲料業界において,ブランドが同一の商品でも消費者の嗜好に従い飲料の成分(粘度)が都度変化し得ることは,当業者にとって常識である。それにもかかわらず,本件特許出願の約2〜3年後に製造した商品の粘度が本件特許出願前も同じであったという認定は不適当である。
また,甲13及び17の試料はいずれも豆乳発酵飲料ではないため,これらの粘度は,相違点1-2の粘度範囲の構成が「普通」であるか否かを判断する資料とはなり得ない。粘度範囲は飲料ごとに適した範囲が存在するため,豆乳発酵飲料の本件特許出願時において「普通」だった粘度範囲を確認するには,あくまでその当時のものの粘度を調査しなければならない。
さらに,「豆乳飲料」(甲13)と「発酵乳入り清涼飲料」(甲17)とで粘度を対比している点で,比較対象の選択が恣意的である。「消費者に受け入れられる飲料の粘度として普通」であるから設計事項だというのであれば,少なくとも,比較対象が豆乳発酵飲料であること,及び本件特許出願前の時点で当該比較対象の7℃における粘度が「5.4〜9.0mPa・s」の範囲内であったことが立証されなければならない。
c 現在販売されている豆乳発酵飲料は,その粘度(mPa・s)がいずれも少なくとも10.0以上であり,実測値ベースでは「5.4〜9.0mPa・s」の上限である9.0をはるかに超えている。
また,現在市販されている豆乳飲料10製品を本件明細書記載の方法により測定したところ,粘度が「5.4〜9.0mPa・s」の範囲内にあったものは1製品のみであった。そうすると,現在市販されている豆乳飲料の粘度において,「5. 18 4〜9.0mPa・s」との粘度範囲は決して「普通」又は通常採用される粘度ではない。このため,豆乳発酵飲料の粘度の設定に当たり豆乳飲料の粘度が参照され得るとしても,豆乳発酵飲料について「5.4〜9.0mPa・s」との範囲が消費者に受け入れられる飲料の粘度として「普通の範囲」とする根拠はない。
(ウ) 相違点1-3について a 本件審決は,ペクチンと大豆多糖類の添加量は,蛋白質粒子の凝集・沈殿を防止するという目的に応じて設定すべき設計的事項であり,引用例1の記載から,ペクチンの添加量を20〜60質量%とすることは,引用発明1-1において想定される範囲内であるなどと判断した。
しかし,以下のとおり,相違点1-3に係る本件発明1の構成は,容易に想到できるものではない。
b 本件審決は,引用例1(【0008】,【0010】)に「好ましい範囲として,最終製品に対してHMペクチンを0.1〜0.5%,水溶性大豆多糖類を0.2〜2%とすることがそれぞれ記載されている」とした上で,HMペクチン0.1%,水溶性大豆多糖類0.2%のときには,ペクチン及び大豆多糖類の総添加量に対するペクチンの添加量が33.3%であること,HMペクチン0.5%,水溶性大豆多糖類2%としたときには,ペクチンの添加量は20%となることを指摘している。
しかし,上記ペクチンの質量%は,HMペクチンと水溶性大豆多糖類の下限同士,上限同士から求めた割合であるところ,引用例1にはそのような組合せが好ましい旨の記載はない。HMペクチンの下限と水溶性大豆多糖類の上限,HMペクチンの上限と水溶性大豆多糖類の下限を組み合わせると,それぞれHMペクチンの割合は4.7質量%,71質量%となり,20〜60質量%の範囲からは大きく外れる。
そうである以上,引用例1には,ペクチンの添加量を20〜60質量%とする示唆があるとはいえない。
また,本件審決は,引用例1の実験例2につき,ペクチンの添加量がそれぞれ7 19 5質量%,50質量%,25質量%であることを指摘している。
しかし,上記実験例2は発酵豆乳ではなく脱脂粉乳についての実験結果を示すものであり,そのデータにより上記質量%が導かれるとしても,豆乳発酵飲料に好適な範囲を示すものではない。
c 原告は,ペクチン及び大豆多糖類の両方を同時に添加すること並びにpHを4.5未満に限定する構成を採用することを前提に,「両者の総添加量に対するペクチンの添加量を調整すれば,粘度の急激な低下を生じることなく,ほぼ一定の粘度を保つことができる」,「20〜60質量%の範囲であれば,酸味を抑制するとともに,後味が優れる」という思想から,相違点1-3に係る本件発明1の構成に想到したものである。上記思想がない限り,「ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量を20〜60質量%」とするとの構成に想到することは容易でない。
しかるに,引用例1からは,HMペクチンと水溶性大豆多糖類を「併用」するという思想が読み取れるだけであり,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量をコントロールするという思想は読み取れない。また,本件特許出願まで,「ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量をコントロールする思想」を示唆する文献等は存在しなかった。
(エ) 相違点1-4について a 引用例1記載の「酸性蛋白食品」には,豆乳発酵飲料は含まれない。すなわち,引用例1によれば,「動植物性蛋白を殺菌後,乳酸菌スターターを加えて発酵させた発酵乳」は,「後者の発酵乳」(「動植物性蛋白」として例示された発酵乳)には該当するが,前者の発酵乳(「酸性蛋白食品」として例示された発酵乳)には該当しないことが明示されている。そうすると,前者の発酵乳については,「通常の発酵乳」すなわち「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に定義される「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ,糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と理解するのが自然であり,豆乳 20 の発酵物は含まれない。
また,豆乳の発酵物は,豆乳と比べても大豆特有の渋味,豆臭,青臭み等の点で劣っていること,乳や発酵乳と比べて風味が決定的に劣っていること等が技術常識であったことに鑑みれば,引用例1の「酸性蛋白食品」に豆乳の発酵物を含む飲料又は食品が含まれない(同文献の課題解決のいかんに関わらず,風味上問題があるので発明の範囲に含ませていない)と理解することに,何ら不自然な点はない。
したがって,引用例1の「酸性蛋白食品」には,豆乳の発酵物を含む飲料又は食品までは含まれないと理解される。
b 主引用発明が記載されている刊行物に本願発明に至る示唆があるか否かは,当該刊行物に具体的な技術的思想が現れていなければならない。本件では,引用例1の記載から,「酸性蛋白食品」として「豆乳発酵飲料」という具体的な技術的思想を抽出できなければならない。
しかし,上記のとおり,引用例1の「酸性蛋白食品」には,豆乳の発酵物を含む飲料又は食品は含まれない。仮にこれが表面上「豆乳発酵飲料」をその選択肢の1つとして含むと解釈しても,引用例1でいう「酸性蛋白食品」は,乳酸菌飲料(生菌,殺菌タイプを含む),発酵乳(固状又は液状),乳製品を酸性にした酸性乳飲料,酸性の冷菓,酸性デザート及び牛乳,豆乳等の蛋白飲料にみかん搾汁その他の果汁又は有機酸若しくは無機酸を添加してなる酸性飲料等,豆乳発酵飲料以外の膨大な選択肢を有する食品である。その膨大な選択肢の中から,明記されていない「豆乳発酵飲料」に係る具体的な技術的思想を積極的又は優先的に選択すべき事情は,引用例1からは見当たらない。
そうである以上,引用例1には,酸性蛋白食品として,豆乳を発酵させた発酵乳を原料とする酸性蛋白飲料(豆乳発酵飲料)が示唆されているとはいえない。
c 上記aの技術常識を踏まえると,引用例1に,豆乳発酵飲料も引用発明1-1を適用する対象としているかのような記載があったとしても,当該発明の効果が発酵豆乳の上記課題を解決し得るものでない以上,当業者が引用発明1-1の「酸 21 性蛋白食品」をあえて「豆乳発酵飲料」と置き換える動機付けはない。
また,豆乳と牛乳は大きく異なり,未発酵飲料と発酵飲料の性質も異なる。したがって,当業者は,牛乳や牛乳発酵飲料,豆乳に関する知見を単純に豆乳発酵飲料に応用可能であるとは認識しない。このような認識を有する当業者が,様々な「乳」について性質の違いを考慮せず網羅的に並べて記載したにすぎない引用例1の記載に接しただけで,豆乳を含め列挙された全ての「乳」について同じ技術が適用可能であると認識するとは到底考えられない。むしろ,引用例1の【0005】と【0007】の記載を整合的に理解するのであれば,「酸性蛋白食品」は,原料として豆乳発酵物を使用することは除外しないものの,それ自体が豆乳発酵飲料の香味を有する場合は除外されていると理解すべきであり,酸性蛋白食品を豆乳発酵飲料に置き換えることには阻害事由が存在する。
d 以上より,引用発明1-1から相違点1-4に係る本件発明1の構成に想到することは容易ではない。
(オ) 小括 以上のとおり,仮に相違点1-1〜1-4の認定に誤りがないとしても,引用発明1-1から上記各相違点に係る本件発明1の構成に想到することは容易でない。
ウ 本件発明1の効果について(ア) 本件各発明の効果 本件明細書の記載によれば,本件各発明においては,「豆乳発酵飲料において,pHが4.5未満であり,かつ7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであり,ペクチン及び大豆多糖類を含む」という構成を採用することにより,ペクチン及び大豆多糖類の添加によって高くなった粘度が,(上記構成の範囲内で)ペクチン及び大豆多糖類の割合を多少変えた場合でも粘度の急激な低下を生じることなく,ほぼ一定の粘度を保つことができるようになり,良好な分散状態を保つことができ,ひいてはタンパク質成分等の凝集が抑制されるという効果が奏される。
また,本件明細書の記載によれば,本件各発明においては,@ペクチンの添加量 22 を20〜60質量%とした場合,酸味が抑制される効果を奏するとともに,後味がより優れるという効果を奏する,Aペクチンの添加量を30〜60質量%とした場合,上記@の効果に加え,口当たりが優れるという効果を奏する,Bペクチンの添加量を30〜50質量%とした場合,上記Aの効果に加え,特に酸味が抑制される,という効果が奏される。
(イ) 本件発明1の構成を採用することにより,タンパク質成分等の凝集が抑制され,粘度が安定化することに加え,酸味の抑制効果及び後味に優れるという効果を奏する(上記@)。このうち,特に酸味の抑制及び後味に優れるという効果は,蛋白質成分の凝集の抑制とは異質の効果であり,また,引用例1その他の証拠にそのような記載はない。
したがって,本件発明1は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果を奏するものである。
エ 小括 以上より,本件発明1は進歩性が認められるというべきである。
〔被告の主張〕 ア 原告の主位的主張について (ア) 原告は,審判段階において本件審決の相違点の認定につき争っていない。
すなわち,主位的主張は,本件審判段階で審理の対象とされたものではないことから,審決取消訴訟において審決の違法事由として主張することは認められない。
(イ) 審決取消訴訟の対象である特許発明と引用発明との相違点の認定については,「発明の技術的課題の解決の観点」を考慮し,「まとまりのある構成を単位として認定」することが相当である。特に,「発明の技術的課題の解決の観点」から「技術的意義が同一であるとはいえない」構成については,「まとまりのある構成」であるとはいえない。
本件においては,以下のとおり,本件明細書の開示に鑑みても,相違点1-1〜1-4に係る構成は,「技術的意義が同一であるとはいえない」構成であるから, 23 「まとまりのある構成」とはいえない。
本件明細書の実施例では,pH,粘度,及びペクチンと大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量は別々のパラメータとして取り扱われ,これらのパラメータは豆乳発酵飲料の組成として個別に記載がされており,それぞれの寄与するメカニズムも異なるものと考えられている。そうすると,これらのパラメータの組合せが「発明の技術的課題解決の観点から,まとまりのある構成」であるとは認められない。
そもそも,本件発明1による課題の解決との関係からは,これらのパラメータについて特許請求の範囲に記載された数値範囲に限定することに技術的意義はない。
すなわち,本件明細書によれば,豆乳発酵飲料のpHとして本件発明1の構成を採用したことによる効果として,タンパク質成分等の凝集が抑制されているとはいえないし,本件発明1の範囲外のpHの場合でも,粘度は本件発明1の範囲内にあるものがあることなどから,本件発明1の構成において「粘度が5.4〜9.0mPa・sであ」ると数値範囲を選択していることの技術的意義も認められない。そうすると,これらのパラメータの組合せをもって「発明の技術的課題解決の観点から,まとまりのある構成」であるとは認められない。
加えて,実施例のサンプルはいずれも豆乳発酵飲料であり,豆乳発酵飲料でない場合に本件発明1の効果が得られないことは示されていない。ペクチンと大豆多糖類によるタンパク質成分等の凝集抑制の効果は,あくまで成分たるタンパク質に対するものであり,その効果が確認されるのは豆乳発酵物に限定されるものではない。
したがって,豆乳発酵飲料であることについても,上記各パラメータとの組合せが,まとまりのある構成であるとはいえない。
(ウ) 仮に,相違点1-1〜1-4を1つのまとまりのある構成と見たとしても,上記のとおり,本件発明1は技術的意義に乏しく,そもそも保護の必要性に欠ける。
イ 予備的主張について (ア) 相違点1-1について 24 a 本件明細書記載の官能評価試験の方法は,本件明細書によれば,「訓練されたパネル」による「Visual Analogue Scale 法」によるものと理解できる。
しかし,「酸っぱい風味」,「後に残る酸味」及び「口当たりの滑らかさ」といった異なる官能評価項目について,それぞれ Visual Analogue Scale 法における評価の基準については記載がなく,また,評価に当たりパネル間で判断基準を共通にするなどの手順が踏まれたことや各パネルの個別の評点についても記載されていない。このため,本件明細書からは,原告が実施した各官能評価項目の評価方法が合理的であったと認めることはできない。
そうすると,本件明細書記載の官能評価試験の結果からは,「酸味が抑制される効果」,「後味がより優れるという効果」,「口当たりが優れるという効果」及び「特に酸味が抑制される」といった効果が得られることが裏付けられているとはいえない。
b 仮に,本件明細書記載の官能評価試験の結果が合理的な評価方法に基づくものであったとしても,Visual Analogue Scale 法における評点の基準が明らかにされていない以上,当該数値範囲内にあることで酸味が抑制されていると理解することはできない。また,原告の主張するペクチン添加割合の範囲内で認められる評価項目の評点は,それらのペクチンの添加割合の範囲内にない場合でも同様のスコアが示されている。このため,原告が主張するペクチンの添加割合の範囲内とすることにより風味や味,口当たりに対する効果が奏されているとは認められない。
c また,pH4.5未満の全域で効果が認められる必要がないとしても,実施例にはpH4.3の場合でさえ有利な効果が示されているとはいえず,pH4.5未満(例えばpH4.4)の場合に,原告が主張する有利な効果が得られていることの根拠としては不十分である。同様に,仮に技術常識から限定される豆乳発酵飲料としてあり得るpHの下限が4.1であったとしても,pH4.5未満である場合に有利な効果が得られていることの根拠としては不十分である。
さらに,原告は「酸味の抑制効果等はpHが0.1程度変動することで大きく変 25 わることも考えにくい」とするが,具体的な根拠は示されていない。むしろ,当業者の技術常識からすればpHが0.1低下することは酸味抑制に強く影響を与えることが推測されるし,原告自身,本件明細書ではpHが0.2変動することで粘度の急激な低下が起こる旨を説明しており,pHの変動に関して自己に都合の良いように矛盾した主張をしている。
加えて,そもそも,豆乳発酵飲料の酸味や味は,発酵させる豆乳の種類・濃度,使用する乳酸菌の種類,用いるペクチンや大豆多糖類の種類等,様々な要因によって変動するところ,本件明細書記載の実施例では,試験例1で製造された特定の豆乳発酵飲料のみが用いられている。このような特定の豆乳発酵飲料において,仮に原告が主張する「酸味が抑制され,後味に優れる」との効果が得られるとしても,そのような効果が本件発明1の構成を組み合わせて採用されたあらゆる豆乳発酵飲料において得られると理解することはできない。
(イ) 相違点1-2について 消費者の嗜好に従い飲料の粘度が変化することがあるとしても,一般的に,同一のブランド名での製品として販売する以上は「粘度が顕著に変更されたとは考え難い」とすることが当業者の技術常識である。
したがって,本件審決が,本件特許出願日前から測定時まで同一のブランド名で販売されている製品である甲13及び17記載の粘度を根拠として本件特許出願時の市販飲料が採用している粘度の数値範囲を認定したことは適切である。
また,甲13及び56の測定結果からは,蛋白飲料の粘度測定の結果自体,その特性としてある程度幅のある値が得られるものと考えられる。このことに鑑みれば,本件発明1の粘度の数値範囲の値は,消費者に受け入れられる飲料の粘度の数値範囲として普通のものであり,当業者が消費者に受け入れられる飲料とするために適宜なし得る設計事項にすぎない。
(ウ) 相違点1-3について 本件審決が容易想到性の判断の根拠としたのは引用例1の明細書中の記載であり, 26 当該明細書に記載された数値範囲からペクチンと大豆多糖類の数値の下限同士,上限同士の組合せを選択した結果ではない。当該明細書の記載からは,当業者であれば,本件審決が判断したようなペクチン及び大豆多糖類の組合せを認識するのであり,ペクチン及び大豆多糖類の数値範囲のそれぞれの上限と下限の組合せを当業者があえて選択することを示唆する記載は認められない。
また,引用例1の実験例2は脱脂粉乳であるが,引用発明1-1は「粘度感を生じさせることなしに酸性蛋白食品における蛋白質粒子の凝集,沈殿,相分離などの欠点を防止する」という課題を解決する酸性蛋白食品に関するものであり,この酸性蛋白食品には,脱脂乳や,豆乳を含む動植物性蛋白を乳酸菌発酵させた発酵乳を原料として製造されたものが含まれる。引用発明1-1の酸性蛋白食品において,その原料である動植物性蛋白が脱脂乳であるか,豆乳を乳酸菌発酵させたものであるかという違いは課題解決に影響するものではなく,引用発明1-1の酸性蛋白食品は,脱脂乳を用いた酸性飲料のみならず豆乳発酵飲料をも含むことは,当業者であれば容易に理解できる。
さらに,甲6記載のとおり,ペクチンと大豆多糖類によるタンパク質成分等の凝集抑制の効果はあくまで成分たるタンパク質に対するものであり,その効果が確認される点では脱脂粉乳も豆乳発酵物も同じである。
加えて,引用例1には,「HMペクチンと大豆多糖類を『併用』する」ことを示唆した上で,ペクチンと大豆多糖類の添加量に関してそれぞれ特定した記載があることから,引用発明1-1は当然にペクチン及び大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量をコントロールしているものである。
また,甲6に示されているように,タンパク質を含む酸性飲料において,HMペクチンと大豆多糖類の配合割合を調整することによってタンパク質の安定化に対する相乗効果が得られることは,本件特許出願日以前に公知であった。
(エ) 相違点1-4について 引用例1【0005】,【0007】の記載からは,「動植物性蛋白」には豆乳 27 を発酵させた発酵乳が含まれること,「酸性蛋白飲料」は豆乳を発酵させた発酵乳が含まれる「動植物性蛋白」を原料としていることは,文言上明らかである。これに対し,何ら根拠なく「発酵乳」の記載を分類し,引用例1に記載のない「通常の発酵乳」という概念を取り入れ,同様に豆乳の発酵物の風味の違いを根拠として「酸性蛋白食品」には含まれないなどとする原告の主張は,引用例1の記載に基づくものでない。
ウ 本件各発明の効果について 前記ア(イ)のとおり,豆乳発酵飲料のpHとして本件発明1の構成を採用したことによる効果としてタンパク質成分等の凝集が抑制されているとはいえず,また,本件発明1に係る粘度の範囲についても,その数値範囲の選択に技術的意義は認められない。本件明細書記載の官能評価試験の結果も,酸味抑制効果,後味がより優れるという効果,口当たりが優れるという効果,特に酸味が抑制されるといった効果を裏付けるものとはいえない(前記イ(ア))。
? 取消事由1-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 主位的主張 (ア) 前記?〔原告の主張〕アと同様の理由から,本件発明1と引用発明2-1の相違点は,以下の相違点2-Aである。
相違点2-A:本件発明1では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであり,かつ,ペクチンに加え大豆多糖類を含み(但し,ペクチン及び大豆多糖類が,ペクチンと大豆多糖類とが架橋したものである豆乳発酵飲料を除く。),ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%であるのに対して,引用発明2-1では,粘度が不明であり,また,大豆多糖類を含まない点。
(イ) 引用発明2-1が本件発明1に至るには,大豆多糖類を添加し,ペクチンの添加量を所定の割合に調整し,最終的な粘度を所定の範囲内に限定しなければな 28 らない。上記各構成を容易に想到し得なかったことは,前記?〔原告の主張〕ア(ウ)と同様である。
また,そもそも引用例2は,豆乳の乳酸菌による発酵,飲料等への利用及び豆乳製品に使用するフレーバーに関して述べられた文献であり,酸味の抑制という課題ないし効果の発想が存在しないし,pHの範囲の限定,粘度の限定,ペクチン及び大豆多糖類の添加量の比率の調整といった各構成を同時に適用することで酸味を抑制するという効果が生じることについても,一切記載はない。
そうすると,引用発明2-1につき相違点2-Aに係る本件発明1の構成を同時に採用することは,容易でなかったというべきである。
イ 予備的主張 仮に相違点2-1及び2-2の認定に誤りがないとしても,以下のとおり,引用発明2-1から各相違点に係る本件発明1の構成に想到することは容易でない。
(ア) 相違点2-1について 前記?〔原告の主張〕イ(イ)と同様である。
(イ) 相違点2-2について a 引用発明2-1は,発酵豆乳入りウォータータイプ処方例として記載された清涼飲料水であり,そもそも沈殿防止(安定性向上)の要求はそれほど高くない。
しかも,引用発明2-1は,2%HMペクチン溶液15%の添加により充分な安定性効果を発揮できていると考えられるため,更なる安定性向上を図るという課題は存在しない。
また,引用例1にはHMペクチンと水溶性大豆多糖類を併用することが記載されているが,併用したことによる効果として,酸性乳飲料の糊状感が改善されると共に沈殿,上澄みが生じないことが記載されているのみである。他方,引用発明2-1は糊状感という課題はなく,更なる安定性向上を図るという課題もない。このため,引用発明2-1につき,引用例1を参酌して,2%HMペクチン溶液をHMペクチンと水溶性大豆多糖類の併用に置き換える動機付けは存在しない。
29 さらに,引用例1からはHMペクチンと水溶性大豆多糖類を併用するという思想が読み取れるだけであり,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量をコントロールするという思想は読み取れない。
したがって,引用発明2-1につき,引用例1を参酌することは考えられない。
b 甲4には,ペクチン及び大豆多糖類を併用した酸性豆乳飲料の例が記載され,その効果として風味を損なうことなく優れた品質安定化をもたらすことが記載されている。他方,引用発明2-1は,風味が損なわれていることをうかがわせる記載も,更なる安定性向上を図るという課題もない。このため,引用発明2-1につき,甲4を参酌して,2%HMペクチン溶液をHMペクチンと水溶性大豆多糖類の併用に置き換える動機付けは存在しない。
また,甲4記載の発明はpH4.5〜5.2に調整した酸性豆乳飲料を前提とするものであり,当該文献に記載された技術手段もその前提に沿って理解する必要があることから,仮に甲4の製品20及び21を参照してペクチン及び大豆多糖類を併用した場合,pHも4.5〜5.2に調整するのが自然である。ところが,その場合,本件発明1の「pHが4.5未満である」との構成を満たさなくなるため,本件発明1の構成に想到することはない。
さらに,甲4からは,「pHが4.5未満である」との構成を維持したままペクチン及び大豆多糖類を併用することや,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量に対するペクチンの添加量をコントロールするという思想も読み取れない。
c 甲6には,酸乳飲料で大豆多糖類とHMペクチンを併用したことで安定化効果が向上すること(沈殿率が低下すること)が記載されている。他方,引用発明2-1には更なる安定性向上を図るという課題はない。このため,引用発明2-1につき,甲6を参酌して,2%HMペクチン溶液をHMペクチンと大豆多糖類の併用に置き換える動機付けは存在しない。
また,甲6には大豆多糖類とHMペクチンの割合を振った試験結果が示されているものの,割合によって安定化効果の程度に差があることなどが読み取れるだけで 30 ある。他方,引用発明2-1には,更なる安定性向上を図るという課題がなく,酸乳飲料でもない。このため,引用発明2-1につき,甲6を参酌してHMペクチンと大豆多糖類の割合をコントロールする動機付けはないし,そもそもHMペクチンと大豆多糖類の併用に置き換える動機付けが存在しない。
d 本件審決は,引用例2の「ペクチン以外では,アルギン酸エステルなども使用される。」との記載が,ペクチン以外の安定剤を用いる示唆であるとする。
しかし,ある発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である。また,周知技術又は公知技術であるからといって,当然に,引用発明に周知技術を適用することで容易性が認められるわけでもない。
引用例2の上記記載は,ペクチンに代わってアルギン酸エステルが安定剤として用いられ得ることは示すものの,大豆多糖類が安定剤として用いられ得るとの記載はなく,大豆多糖類を用いたはずだといえる示唆はない。また,上記記載は,ペクチンの「代わりに」アルギン酸エステル等が用いられることが指摘されているものの,ペクチンとアルギン酸エステル等が「併用」されることについては記載しておらず,ペクチンと他の安定剤を「併用」したはずだといえる示唆もない。
以上より,ペクチンと大豆多糖類を併用することが周知技術として存在するか否かにかかわらず,引用発明2-1から本件発明1に至ることが容易とはいえない。
e 甲1,4及び6には,ペクチンと大豆多糖類の各添加量に関する記載はあるものの,これらの記載には,単にペクチンと大豆多糖類の添加量をそれぞれ変化させることがあり得ること以上の示唆はない。すなわち,これらの記載から,必ずしも「ペクチンの添加量をペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%」とする構成を想到することが容易といえることにはならない。
31 原告は,pHを4.5未満に限定する構成を採用することを前提に,「ペクチンの添加量をペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%」とすることで,「粘度の急激な低下を生じることなく,ほぼ一定の粘度を保つことができる」,「20〜60質量%の範囲であれば,酸味を抑制するとともに,後味が優れる」との発見があったことから,「20〜60質量%」との構成に想到した。他方,引用例2にも,引用例1,甲4及び6にも,そのような発見に関する記載は存在しない。
以上より,引用例1,甲4及び6の記載を参照しても,引用発明2-1について,「ペクチンの添加量をペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%」とする構成に想到することは容易でない。
ウ 当業者が予測できない異質な効果 前記?〔原告の主張〕ウのとおり。
エ 小括 以上より,引用例2-1との関係でも,本件発明1は進歩性が認められる。
〔被告の主張〕 ア 主位的主張について 前記?〔被告の主張〕アと同様である。
イ 予備的主張について(ア) 相違点2-1について 前記?〔被告の主張〕イ(イ)と同様である。
(イ) 相違点2-2について 引用例2記載の表3の発酵豆乳入りウォータータイプ処方例は,発酵豆乳を使用した酸性飲料の風味を検討した処方例として記載されているのであって,完成品の処方ではなく,添加物や安定性,殺菌条件等について検討の余地のある処方である。
したがって,引用発明2-1は,「更なる安定性向上を図るという課題は存在しない」といったものではなく,むしろ種々の検討を加えることを許容するものであ 32 り,甲1,4及び6記載の事項を参酌する動機付けは十分に存在している。
また,酸性飲料の安定性についての課題を有する引用例2において,ペクチン以外の安定剤の使用が示唆され,かつ,安定剤の使用例としてペクチンと大豆多糖類の併用やその効果が記載された甲1,4及び6の記載に接した当業者であれば,安定剤として単独でのペクチンの使用に代えてペクチンと大豆多糖類の併用という構成を採用することの示唆があると判断する。
? 取消事由1-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 主位的主張 (ア) 前記?〔原告の主張〕アと同様の理由から,本件発明1と引用発明3の相違点は,以下の相違点3-Aである。
相違点3-A:本件発明1では,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであり,かつ,ペクチンに加え大豆多糖類を含み(但し,ペクチン及び大豆多糖類が,ペクチンと大豆多糖類とが架橋したものである豆乳発酵飲料を除く。),ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%であるのに対して,引用発明3では,粘度が不明であり,また,ペクチンを含まない点。
(イ) 引用発明3が本件発明1に至るには,ペクチンを添加し,ペクチンの添加量を所定の割合に調整し,最終的な粘度を所定の範囲内に限定しなければならない。
上記各構成を容易に想到し得なかったことは,前記?〔原告の主張〕ア(ウ)と同様である。
また,そもそも引用例3は,一定の乳酸菌を用いて豆乳を発酵させることにより,豆臭・えぐみ・総合的な味が改善すること及び保存期間を長くすることができることについての発明が記載されたものであるが,酸味の抑制という課題ないし効果の発想が存在しないし,pHの範囲の限定,粘度の限定,ペクチン及び大豆多糖類の添加量の比率の調整といった各構成を同時に適用することで,酸味を抑制するとい 33 う効果が生じることについても,一切記載はない。
そうすると,引用発明3につき相違点3-Aに係る本件発明1の構成を同時に採用するということは,容易でなかったというべきである。
イ 予備的主張 (ア) 仮に相違点3-1及び3-2の認定に誤りがないとしても,以下のとおり,引用発明3から各相違点に係る本件発明1の構成に想到することは容易でない。
a 相違点3-1について 前記?〔原告の主張〕イ(イ)と同様である。
b 相違点3-2について 前記?〔原告の主張〕イ(イ)と同様である。
ウ 本件発明1の効果 前記?〔原告の主張〕ウと同様である。
〔被告の主張〕 ア 主位的主張について 前記?〔被告の主張〕アと同様である。
イ 予備的主張について(ア) 相違点3-1について 前記?〔被告の主張〕イ(イ)と同様である。
(イ) 相違点3-2について 前記?〔被告の主張〕イ(イ)と同様である。
2 取消事由2(本件発明2についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由2-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 本件発明2は本件発明1の従属項であり,本件発明1の進歩性は認められるべきであることから,本件発明2も進歩性の点で欠けることはない。
〔被告の主張〕 34 本件発明1について進歩性が認められないことから,本件発明2も進歩性は認められない。
? 取消事由2-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 前記?〔原告の主張〕と同様である。
〔被告の主張〕 前記?〔被告の主張〕と同様である。
? 取消事由2-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 前記?〔原告の主張〕と同様である。
〔被告の主張〕 前記?〔被告の主張〕と同様である。
3 取消事由3(本件発明3についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由3-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明3は本件発明1又は2の従属項であるところ,本件発明1及び2の進歩性は認められるべきであることから,本件発明3も進歩性の点で欠けることはない。
イ 相違点1-6について 前記1?〔原告の主張〕イ(エ)のとおり,豆乳を発酵させる場合,大豆特有の渋味,豆臭,青臭み等の違和感が増幅され,発酵乳と比較して風味が決定的に劣るということは,本件特許出願時における当業者の技術常識であった。そうである以上,引用例1に「動植物性蛋白」を乳酸菌を用いて発酵させる手法が形式上示されていたとしても,当業者が,発酵豆乳の上記課題を解決し得るものでない引用発明1-1において,「動植物性蛋白」を豆乳に置き換え,豆乳を乳酸菌で発酵させることに想到することは,容易になし得たものではない。
35 したがって,相違点1-6に係る本件発明3の構成を採用することは,容易に想到し得るものではない。本件発明3の進歩性は認められるべきである。
〔被告の主張〕 本件明細書においては,風味,味等に関しては「酸っぱい風味」,「後に残る酸味」及び「口当たりの滑らかさ」を検討しているのみであり,大豆特有の渋味,豆臭,青臭み等についての効果は何ら検討,確認されておらず,これらの点と本件各発明の効果とは関係がない。
また,仮に本件各発明が大豆特有の渋み,豆臭,青臭み等についての効果を奏するとしても,甲4には,豆乳に微生物を作用させて得られる発酵豆乳は豆乳の呈味改善効果を有することが記載されており,豆乳に微生物を作用させて豆乳の呈味改善効果を得ること自体は公知であった。
よって,当業者が,引用発明1-1において,「動植物性蛋白」を豆乳に置き換え,豆乳を乳酸菌で発酵させることに想到することは,容易になし得たことである。
? 取消事由3-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 本件発明3は,本件発明1の従属項であるところ,本件発明1の進歩性は認められるべきであるから,本件発明3も進歩性の点で欠けることはない。
〔被告の主張〕 引用例2には,乳酸菌を用いて発酵豆乳を得ることが記載されているから,引用発明2-1において,豆乳を乳酸菌により発酵させて発酵豆乳を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。
? 取消事由3-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 前記?〔原告の主張〕と同様である。
〔被告の主張〕 引用例3には乳酸菌を用いて発酵乳を得ることが記載されているから,相違点3 36 -4は実質な相違点ではない。
4 取消事由4(本件発明4についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由4-1:引用発明1-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明4は本件発明3の従属項であるところ,本件発明3の進歩性は認められるべきであるから,本件発明4も進歩性の点で欠けることはない。
イ 当業者が予測できない異質な効果 本件明細書によれば,本件発明4の構成を採用することで豆乳臭が十分に低減され,かつ爽やかな風味を有する豆乳発酵飲料を提供することができる。このような効果は,引用発明1-1の効果(粘度感を生じさせることなしに酸性蛋白食品におけるタンパク質粒子の凝集,沈殿,相分離等の欠点を防止する等)とは異質であるとともに,引用例1その他の証拠にも,豆乳に乳酸菌としてラクトバチラス・ブレビス類を用いることによる効果に関する記載はない。
このように,本件発明4は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果を奏することから,その進歩性は肯定されるべきである。
〔被告の主張〕 ラクトバチラス・ブレビス自体は,本件特許出願日前に豆乳を発酵させる乳酸菌として周知な菌株であり,また,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170についても,いずれも本件特許出願日前に公知であった菌株である。
また,前記3?〔被告の主張〕のとおり,本件明細書においては,豆乳臭や爽やかな風味についての効果は検討,確認されておらず,本件発明4の効果とは何ら関 37 係がなく,これらの点に関して異質な効果も認められていない。
? 取消事由4-2:引用発明2-1に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明は,本件発明1の従属項であるところ,本件発明1の進歩性は認められるべきであるから,本件発明4も進歩性の点で欠けることはない。
イ 前記?〔原告の主張〕イと同様である。
〔被告の主張〕 前記?〔被告の主張〕と同様である。
? 取消事由4-3:引用発明3に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 相違点の認定の誤り 本件発明4は,発酵に用いる乳酸菌を特定しているため,引用発明3が乳酸菌を用いているのであれば,当該乳酸菌が引用発明3の構成要素として新たに特定されるべきである。引用例3によれば,そのような乳酸菌として,ラクトバチルス・アシドフィルス,ラクトバチルス・カゼイ及びストレプトコッカス・サーモフィルスを用いていることがわかる。
そうすると,相違点3-5は,正しくは以下の相違点3-5’と認定されるべきである。
相違点3-5’:本件発明4では,「前記乳酸菌が,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含む」のに対して,引用発明3は,乳酸菌として,ラクトバチルス・アシドフィルス,ラクトバチルス・カゼイ及びストレプトコッカス・サーモフィルスを用いている点。
38 イ 相違点3-5’について (ア) そもそも,本件発明4は本件発明3の従属項であるところ,本件発明3の進歩性は認められるべきであるから,本件発明4も進歩性の点で欠けることはない。
(イ) 引用発明3から相違点3-5’に係る本件発明4の構成に至ることは,容易ではない。
すなわち,甲16には,「ラクトバチラス・ブレビスは古くから発酵食品に利用されている乳酸菌の一種である」との記載がある。
しかし,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である。また,周知技術又は公知技術であるからといって,当然に,引用発明に周知技術を適用することで容易性が認められるわけでもない。
引用発明3は,従来技術であるビフィドバクテリウム族に属する乳酸菌を用いて豆乳を発酵させる場合,酢酸臭を発生させるため嗜好性に悪影響を及ぼすという問題点があること,従来の発酵豆乳は貯蔵過程で豆臭が発生する問題があり,これを解決するために熱処理により菌を破壊しても,製品の凝析や不快な味の発生といった問題点が生じることを克服することが課題である。そして,引用例3によれば,ラクトバチルス・アシドフィルスと,ラクトバチルス・カゼイ及びストレプトコッカス・サーモフィルスを採用することは,引用発明3の課題達成のため必須の構成として採用されているといえ,これらの乳酸菌を,ラクトバチルス・ブレビスその他のものに置き換えることについての示唆はない。また,引用例3に接した当業者は,引用発明3の効果は「ラクトバチルス・ブルガリクスとラクトバチルス・アシドフィルスからなる群から選択される菌株1種と,ラクトバチルス・カゼイ及びストレプトコッカス・サーモフィルスを豆乳に接種して発酵させること」でようやく達成できるものと認識するのであり,これをラクトバチラス・ブレビスで置き換え 39 られるとは認識しない。
以上より,引用例3には,本件発明4の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在したとはいえないから,相違点3-5’に係る本件発明4の構成につき容易想到性は認められない。
(ウ) 当業者が予測できない異質な効果 前記?〔原告の主張〕イと同様である。
〔被告の主張〕 前記?〔被告の主張〕と同様である。
5 取消事由5(本件発明5についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由5-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 主位的主張 (ア) 前記1?〔原告の主張〕ア(ア)と同様の理由から,本件発明5と引用発明1-2の相違点は,以下の相違点1-Bである。
相違点1-B:本件発明5は,pHが4.5未満で,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sで,豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程を有し,当該豆乳発酵物に添加するペクチンの添加量がペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%であり,「食品」が「豆乳発酵飲料」であるのに対し,引用発明1-2は,pHが2.5〜5.0で,粘度不明で,豆乳発酵物を得る工程がなく,ペクチンと大豆多糖類の比率が不明であり,「食品」が酸性蛋白食品である点。
(イ) 前記1?〔原告の主張〕ア(ウ)と同様に,仮に,「pHを4.5未満」とする構成,「7℃における粘度を5.4〜9.0mPa・s」とする構成,「ペクチンの添加量をペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%」とする構成,及び「豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程」を有する構成を採用することが,それぞれ個別には容易であり得たとしても, 40 全ての構成を同時に採用することの動機付けは存在しない。
したがって,本件特許出願時点で引用発明1-2につき相違点1-Bに係る本件発明5の構成を採用することは,容易でなかったというべきである。
イ 予備的主張 仮に相違点1-9の容易想到性を個別に判断するとしても,前記1?〔原告の主張〕イ(エ)のとおり,引用例1に,豆乳発酵飲料も引用発明1-2を適用する対象としているかのような記載が形式上あったとしても,当業者が,引用発明1-2において,あえて豆乳発酵物を得る工程を追加し,「酸性蛋白食品」を「豆乳発酵飲料」に置き換える動機付けはないし,そもそも,引用例1に接した当業者が「酸性蛋白食品」を豆乳発酵飲料に置き換えられると理解しない。
ウ 当業者が予測できない異質な効果 前記1?〔原告の主張〕ウ(ア)のとおり,本件発明5の構成を採用することにより,タンパク質成分等の凝集が抑制され,粘度が安定化することに加え,酸味の抑制効果及び後味に優れるという効果を奏するところ,特に酸味の抑制及び後味に優れるという効果は,蛋白質成分の凝集の抑制とは異質の効果であるとともに,引用例1その他の証拠にも,そのような記載はない。
したがって,本件発明5は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果を奏する。
エ 以上より,本件発明5は進歩性を認められるべきである。
〔被告の主張〕 ア 主位的主張について 前記1?〔被告の主張〕アと同様である。
イ 予備的主張について 相違点1-9につき,前記1?〔被告の主張〕イ(エ)と同様である。
? 取消事由5-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 41 ア 主位的主張 (ア) 前記?〔原告の主張〕ア(ア)と同様の理由から,本件発明5と引用発明2-2の相違点は,以下の相違点2-Bである。
相違点2-B:本件発明5は,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sで,豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程を有し,添加する工程がペクチン及び大豆多糖類を添加する工程であって,ペクチン及び大豆多糖類を混合物として,又はそれぞれ別々に添加する工程であり,当該豆乳発酵物に添加するペクチンの添加量がペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%であるのに対し,引用発明2-2は,粘度不明で,殺菌発酵豆乳ハピネスHFST-100を用い,大豆多糖類を添加する工程を備えない点。
(イ) 前記?〔原告の主張〕ア(ウ)と同様に,本件特許出願時点で引用発明2-2から相違点2-Bに係る本件発明5の構成を採用することは容易でない。
イ 予備的主張 仮に相違点2-6〜2-9の認定に誤りがないとしても,前記1?〔原告の主張〕イと同様に,引用発明2-2から上記各相違点に係る本件発明5の構成に想到することは容易でない。
ウ 当業者が予測できない異質な効果 前記?〔原告の主張〕ウと同様である。
〔被告の主張〕 ア 主位的主張について 前記1?〔被告の主張〕アと同様である。
イ 予備的主張について(ア) 相違点2-7及び2-8について 前記1?〔被告の主張〕イ(イ)と同様である。
(イ) 相違点2-9について 前記1?〔被告の主張〕イ(ア)と同様である。
42 6 取消事由6(本件発明6についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由6-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明6は本件発明5の従属項であるところ,本件発明5の進歩性は認められるべきであるから,本件発明6にも進歩性の点で欠けることはない。
イ 相違点1-12について 仮に相違点1-12の容易想到性を個別に判断するとしても,相違点1-12に係る本件発明6の構成は,pHを4.5未満に限定する構成を採用することを前提に,「両者の総添加量に対するペクチンの添加量を調整すれば,粘度の急激な低下を生じることなく,ほぼ一定の粘度を保つことができる」,「20〜60質量%の範囲であれば,酸味を抑制するとともに,後味が優れる」とともに,「ペクチンの質量%を30〜60に限定した場合には,20〜60の場合の効果に加えて,口当たりが滑らかになる」という効果の発見に伴い特定されたものである。これに対し,引用例1にはこのような効果に関する記載はなく,ペクチンの添加量をコントロールするという発想もない。
よって,引用発明1-2につき,相違点1-12に係る本件発明6の構成を採用することは,容易に想到し得るものではない。
ウ 当業者が予測できない異質な効果 前記1?〔原告の主張〕ウ(ア)と同様に,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対してペクチンの添加量を30〜60質量%と設定した場合,タンパク質成分等の凝集が抑制され,粘度が安定化することに加え,仕上がる豆乳発酵飲料の酸味が抑制される,後味に優れる,及び口当たりが滑らかになるという効果を奏する。このうち,特に酸味の抑制効果,後味に優れるという効果,及び口当たりが滑らかになるという効果は,蛋白質成分の凝集の抑制とは異質の効果であるとともに,引用例1その他の証拠にもそのような記載はない。
したがって,本件発明6は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果 43 を奏することから,その進歩性は肯定されるべきである。
エ したがって,引用発明1-2との関係において,本件発明6は進歩性が認められる。
〔被告の主張〕 相違点1-12につき,前記1?〔被告の主張〕イ(ウ)と同様である。
? 取消事由6-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明6は本件発明5の従属項であるところ,本件発明5の進歩性は認められるべきであるから,本件発明6も進歩性の点で欠けることはない。
イ 相違点2-10についても,前記1?〔原告の主張〕イ,前記?〔原告の主張〕イ及びウのとおり,容易に想到できない。
ウ したがって,引用発明2-2との関係において,本件発明6は進歩性が認められる。
〔被告の主張〕 相違点2-10につき,前記5?〔被告の主張〕イ(ア)と同様である。
7 取消事由7(本件発明7についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由7-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明7は本件発明5又は6の従属項であるところ,本件発明5及び6の進歩性は認められるべきであるから,本件発明7も進歩性の点で欠けることはない。
イ 相違点1-13について 仮に相違点1-13の容易想到性を個別に判断するとしても,相違点1-13に係る本件発明7の構成は,pHを4.5未満に限定する構成を採用することを前提に,「両者の総添加量に対するペクチンの添加量を調整すれば,粘度の急激な低下を生じることなく,ほぼ一定の粘度を保つことができる」,「30〜60質量%の範囲であれば,酸味の抑制効果,後味が優れるという効果,および口当たりがなめ 44 らかになる効果を奏する」とともに,「ペクチンの質量%を30〜50に限定した場合には,ペクチンの質量%が30〜60の場合の効果に加えて,酸味抑制効果がさらに顕著になる」という効果の発見に伴い特定されたものである。これに対し,引用例1にはこのような効果に関する記載はなく,ペクチンの添加量をコントロールするという発想もない。
したがって,引用発明1-2につき,相違点1-13に係る本件発明7の構成を採用することは,容易に想到し得るものではない。
ウ 当業者が予測できない異質な効果 前記1?〔原告の主張〕ウ(ア)のとおり,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対してペクチンの添加量を30〜50質量%と設定した場合,タンパク質成分等の凝集が抑制され,粘度が安定化するということに加え,仕上がる豆乳発酵飲料の酸味が顕著に抑制される,後味に優れる,及び口当たりが滑らかになるという効果を奏し,特に,ペクチンが30〜60質量%の場合に比べ,より酸味が抑制されるという効果を奏する。このうち,特に酸味の抑制効果,後味に優れるという効果,及び口当たりが滑らかになるという効果は,蛋白質成分の凝集の抑制とは異質の効果であるとともに,引用例1その他の証拠にも,そのような記載はない。
したがって,本件発明7は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果を奏することから,その進歩性は肯定されるべきである。
〔被告の主張〕 相違点1-13につき,前記1?〔被告の主張〕イ(ウ)と同様である。
? 取消事由7-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明7は本件発明5又は6の従属項であるところ,本件発明5及び6の進歩性は認められるべきであるから,本件発明6も進歩性の点で欠けることはない。
イ 相違点2-11についても,前記1?〔原告の主張〕イ,前記?〔原告の主 45 張〕イ及びウのとおり,容易に想到できず,また,当業者が予測できない異質な効果を奏する。
ウ したがって,引用発明2-2との関係において,本件発明7は進歩性が認められる。
〔被告の主張〕 相違点2-11につき,前記5?〔被告の主張〕イ(ア)と同様である。
8 取消事由8(本件発明8についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由8-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明8は本件発明5〜7の従属項であり,本件発明5〜7の進歩性は認められるから,本件発明8も進歩性の点で欠けることはない。
イ 当業者が予測できない異質な効果 本件明細書によれば,本件発明8の製造方法実施することで,豆乳臭が十分に低減され,かつ爽やかな風味を有する豆乳発酵飲料を提供することができる。このような効果は引用発明1-2とは異質であるとともに,引用例1その他の証拠にも,豆乳に乳酸菌としてラクトバチラス・ブレビス類を用いることによる当該効果に関する記載はない。
したがって,本件発明8は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果を奏することから,その進歩性は肯定されるべきである。
〔被告の主張〕 前記4?〔被告の主張〕と同様である。
? 取消事由8-2:引用発明2-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 前記?〔原告の主張〕と同様である。
〔被告の主張〕 前記?〔被告の主張〕と同様である。
46 9 取消事由9(本件発明9についての進歩性判断の誤り) ? 取消事由9-1:引用発明1-2に基づく進歩性判断の誤り 〔原告の主張〕 ア 本件発明9は本件発明5〜8の従属項であり,本件発明5〜8の進歩性は認められるから,本件発明9も進歩性の点で欠けることはない。
イ 当業者が予測できない異質な効果 本件明細書の記載によれば,本件発明9の製造方法実施することで,より一層豆乳臭が低減され,かつより一層爽やかさのある風味の良い豆乳発酵飲料を提供することができる。このような効果は,引用発明1-2とは異質であるとともに,引用例1その他の証拠にも,豆乳に乳酸菌としてラクトバチラス・ブレビス類を用いることによる当該効果に関する記載はない。
したがって,本件発明9は,本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果を奏することから,その進歩性は肯定されるべきである。
〔被告の主張〕 前記4?〔被告の主張〕と同様である。
? 取消事由9-2:引用発明2-2に基づく容易想到性判断の誤り 〔原告の主張〕 前記?〔原告の主張〕と同様である。
〔被告の主張〕 前記?〔被告の主張〕と同様である。
当裁判所の判断
1 本件各発明について ? 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりである。また,本件明細書には,以下の記載がある(なお,図面及び表は別紙図面等目録記載1を参照)。
ア 技術分野 47 本発明は,豆乳発酵飲料及びその製造方法に関する。(【0001】) イ 背景技術 大豆を加工して製造される豆乳は,低カロリー,低コレステロールであることに加え,大豆に由来する栄養成分を豊富に含んでおり,健康食品として知られている。
(【0002】) また,乳酸菌で豆乳を発酵させた豆乳発酵飲料も知られている。(【0003】) 豆乳を酸性領域に調整すると,タンパク質成分等の凝集を生じやすい。この凝集を抑制する技術手段に関し,例えば,特許文献1(判決注:引用例3)には,上記3種の乳酸菌により発酵された豆乳に沈殿防止安定剤をさらに添加すること,並びに沈殿防止安定剤が,水溶性大豆多糖類,微結晶セルロース,及びペクチンから選択された1種以上であることが記載されている。また,特許文献2(判決注:甲4)には,安定剤としてペクチンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有し,そのpHが4.5〜5.2に調整されたことを特徴とする苦味および渋味の抑制された酸性豆乳飲料が記載されている。(【0004】) ウ 発明が解決しようとする課題 しかしながら,特許文献1及び2等に記載の技術手段では,タンパク質成分等の凝集抑制が不十分であるという問題があった。(【0006】) そこで,本発明は,タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料の提供を目的とする。本発明はまた,当該豆乳発酵飲料の製造方法の提供も目的とする。
(【0007】) エ 課題を解決するための手段 本発明は,pHが4.5未満であり,かつ7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sである,豆乳発酵飲料を提供する。(【0008】) 本発明の豆乳発酵飲料は,タンパク質成分等の凝集が抑制されている。(【0009】) 上記豆乳発酵飲料は,以下?〜?…により決定される沈殿量が0cm超かつ11 48 cm未満であることが好ましい。(【0011】) 沈殿量が上記範囲内にあることにより,タンパク質成分等の凝集がより抑制される。(【0012】) 上記豆乳発酵飲料は,豆乳を乳酸菌により発酵させたものであってもよい。当該乳酸菌は,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERMBP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含むものであってもよい。(【0013】) また,上記豆乳発酵飲料は,ペクチン及び大豆多糖類を含んでいてもよい。
(【0016】) 本発明はまた,豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程と,豆乳発酵物に,ペクチン及び大豆多糖類を添加する工程と,豆乳発酵飲料のpHが4.5未満になるようにpH調整する工程と,を備え,上記ペクチンの添加量が,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,20〜60質量%である,豆乳発酵飲料の製造方法を提供する。(【0017】) 上記製造方法によれば,タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料を製造することができる。(【0018】) 上記製造方法において,上記ペクチンの添加量は,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜60質量%であることが好ましい。これにより,後に残る酸味が低減され,かつ口当たりが滑らかな豆乳発酵飲料を製造することができる。(【0019】) 上記製造方法において,上記ペクチンの添加量は,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して,30〜50質量%であることが好ましい。これにより,後に残る酸味が低減されるとともに,酸っぱい風味が抑制され,また口当た 49 りがより一層滑らかになる。(【0020】) 上記製造方法において,乳酸菌は,ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillusbrevis)に属する乳酸菌を含むことが好ましい。ラクトバチラス・ブレビスに属する乳酸菌を発酵菌として用いることにより,豆乳臭が充分に低減され,かつ爽やかな風味を有する豆乳発酵飲料を提供することができる。(【0021】) 上記製造方法において,乳酸菌は,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの乳酸菌を発酵菌として用いることにより,より一層豆乳臭が低減され,かつより一層爽やかさのある風味の良い豆乳発酵飲料を提供することができる。
(【0022】) 本発明はまた,上記製造方法により得られる豆乳発酵飲料を提供する。当該豆乳発酵飲料は,タンパク質成分等の凝集が抑制されている。また,ラクトバチラス・ブレビスは,古くから発酵食品に利用されている乳酸菌の一種であり,生体への安全性が充分に確立されている。(【0023】) オ 発明の効果 本発明によれば,タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料の提供が可能となる。(【0024】) カ 発明を実施するための形態 〔豆乳発酵飲料〕 本発明の豆乳発酵飲料は,pHが4.5未満であり,かつ7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sである。(【0028】) 豆乳発酵飲料の粘度は,…5.9mPa・s以上であることが好ましく,6.4 50 mPa・s以上であることがより好ましく,6.9mPa・s以上であることが更に好ましい。また,粘度は,8.5mPa・s以下であることが好ましく,8.0mPa・s以下であることがより好ましい。(【0029】) 上記豆乳発酵飲料は,沈殿量が0cm超かつ11cm未満であることが好ましい。
…沈殿量は,8.5cm以下であることがより好ましく,6cm以下であることが更に好ましい。(【0030】) 〔pH調整工程〕 pH調整工程は,最終的に得られる豆乳発酵飲料のpHが4.5未満となるように,pHを調整する工程である。…pH調整工程では,目的とする豆乳発酵物のpHを達成するように,pH調整剤を添加すればよい。(【0058】) pH調整材としては,食品に添加できる酸又はアルカリを用いることができる。
具体的には,例えば,リン酸,塩酸,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,酢酸,コハク酸等の酸,並びに水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。(【0059】) キ 実施例 [試験例1:豆乳発酵飲料の製造] 豆乳(おいしい無調整豆乳,キッコーマン株式会社製)93.66質量%に砂糖2質量%,異性化糖2質量%,アルギニン0.15質量%を添加して混合し,95℃3秒間の加熱処理により殺菌した。(【0065】) 殺菌後,45℃まで冷却し,…酵素処理終了後…酵素失活処理を行った。(【0066】) 加熱処理後,30℃温度まで冷却し,発酵基質を得た。この発酵基質にSBL88乳酸菌(ラクトバチラス・ブレビスSBC8803)を3×10 6 cfu/gとなるように添加し30℃で15時間発酵させ豆乳発酵物を得た。(【0067】) 得られた豆乳発酵物に,果糖ぶどう糖液糖…,ペクチン及び大豆多糖類の混合物,並びにイオン交換水を配合し,リン酸でpHを4.2,4.3,4.5又は4.7 51 に調整した。各成分(原材料)の配合割合は下記表1に示すとおりである。(【0068】) なお,ペクチン及び大豆多糖類の混合物は,下記表2に示す割合でペクチン…及び大豆多糖類…を混合して調整した。(【0069】。なお,赤枠は本件発明1のpH及びペクチン添加量に係る構成の範囲内に属するものとして,裁判所が付したものである。) [試験例2:豆乳発酵飲料の粘度及び沈殿量の評価] 〔粘度の評価〕 pHを4.2,4.3,4.5又は4.7に調整した豆乳発酵飲料について粘度を評価した。(【0071】) 〔沈殿量の評価〕 pHを4.3又は4.5に調整した豆乳発酵飲料について以下の手順 (i)〜(iii)を順に行うことにより沈殿量を評価した。
(i)豆乳発酵飲料50mLを50mL遠沈管…に入れ,遠心分離機…にて,20℃,1631.5×gで10分間遠心分離した。
(ii)遠沈管の底部に得られた沈殿の長径(容器外周の最下部を通り,最大となる径)及び短径(容器外周の最下部を通り,最小となる径)をメジャーで測定した。
(iii)沈殿の長径及び短径を足し合わせ,得られた値を沈殿量とした。
なお,遠心分離の前に凝集による沈殿が生じ,上記沈殿量が測定できなかった場合は0cmとした。(【0072】) 粘度の評価結果を表3及び図2に示す。(【0073】。なお,表3の赤枠はpH,ペクチン及び大豆多糖類の添加量の割合並びに粘度が本件発明1の特定する範囲内にあるものを示し,青枠はそれ以外で粘度のみ本件発明1の範囲内のものを示すものとして,裁判所が付した。) ペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加していないサンプルNo.1との比較から明らかなように,ペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加することによって,粘 52 度が高くなった(表3及び図2)。また,驚くべきことに,ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が90質量%〜20質量%(サンプルNo.3〜No.10)の範囲では,豆乳発酵飲料のpHが4.5以上である場合,pHが4.5未満である場合と比較して,粘度の急激な低下が認められた(特に,図2参照)。
一方,pHが4.5未満の場合はペクチンの割合が上記範囲内にある場合ほぼ一定の粘度を有していた(表3及び図2)。(【0074】) 沈殿量の評価結果を表4及び図3に示す。(【0075】。なお,表4の赤枠はpH,ペクチン及び大豆多糖類の添加量の割合並びに沈殿量が本件発明1の特定する範囲内にあるものを示し,青枠はそれ以外で沈殿量のみ本件発明1の範囲内のものを示すものとして,裁判所が付した。) ペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加していないサンプルNo.1では,遠心分離前に凝集が生じ,沈殿量は測定できなかった(沈殿量を0cmとした。)。ペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加することにより,凝集が抑制されたが,pH4.5の場合,ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が20質量%未満(サンプルNo.11及び12)では凝集が生じ,沈殿量は測定できなかった(表4及び図3)。(【0076】) 豆乳発酵飲料のpHが4.5未満では,ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が20質量%以上(サンプルNo.2〜10)の場合に沈殿量にほとんど変化がなく,良好な分散状態を保っていた(表4及び図3)。(【0077】) [試験例3:豆乳発酵飲料の官能評価] pHを4.3に調整した豆乳発酵飲料に対して官能評価を実施した。官能評価は,7名の訓練されたパネルにより,「酸っぱい風味」,「後に残る酸味」及び「口当たりの滑らかさ」について,Visual Analogue Scale 法により,0〜10点の間で点数を付け,その平均値を評点とした。「酸っぱい風味」については,評点が高い程,酸っぱい風味が強いことを意味し,「後に残る酸味」については,評点が高い程,後に残る酸味が強いことを意味し,「口当たりの滑らかさ」については,評点 53 が高い程,口当たりが滑らかであることを意味する。(【0078】) 官能評価の結果を表5及び図4〜6に示す。(【0079】。なお,表5の赤枠は本件発明1の特定するペクチン及び大豆多糖類の添加量の割合の範囲内のサンプルに関する結果を示し,青枠は,上記範囲外のサンプルのうち,評価項目「酸っぱい風味」及び「後に残る酸味」については赤枠内の数値の上限値を下回る数値を,「口当たりの滑らかさ」については赤枠内の数値の下限値を上回る数値を示すものとして,裁判所が付した。) ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が60質量%〜0質量%(サンプルNo.6〜No.12)の範囲では,「酸っぱい風味」の評点が低く,酸味が抑制されていた(表5及び図4)。特に,ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が50質量%〜20質量%(サンプルNo.7〜No.10)の範囲でこの評点が低かった(表5及び図4)。(【0080】) ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が60質量%〜0質量%(サンプルNo.6〜No.12)の範囲では,「後に残る酸味」の評点が低く,後味がより優れていた(表5及び図5)。(【0081】) ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が60質量%〜30質量%(サンプルNo.6〜No.9)の範囲では,「口当たりの滑らかさ」の評点が高く,口当たりが優れていた(表5及び図6)。(【0082】) ? 本件各発明の技術的意義 大豆を加工して製造される豆乳は,低カロリー,低コレステロールであることや大豆に由来する栄養成分を豊富に含むことから,健康食品として知られており,豆乳を乳酸菌で発酵させた豆乳発酵飲料も知られていた(【0002】,【0003】)。豆乳を酸性領域に調整すると,タンパク質成分等の凝集を生じやすいという技術課題があり,この凝集を抑制する技術手段として,乳酸菌で発酵させた豆乳に,水溶性大豆多糖類,微結晶セルロース,及びペクチンから選択された1種以上の沈殿防止安定剤を添加する方法等が知られていた(【0004】)。
54 しかし,従来の方法では,タンパク質成分等の凝集抑制が不十分との問題があった(【0006】)。
そこで,本件各発明は,タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料を提供すること等を目的として(【0007】),豆乳発酵飲料のpHを4.5未満,7℃における粘度を5.4〜9.0mPa・sに 規定するとともに(【0008】),ペクチン及び大豆多糖類を併用し,ペクチンの添加量をペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%と規定したものである(【0016】,【0017】。なお,より好ましいペクチン添加量の割合の範囲として,30〜60質量%(【0019】),30〜50質量%(【0020】))。
その効果としては,具体的には,タンパク質成分等の凝集が抑制される(【0009】,【0012】,【0018】,【0023】,【0024】)ほか,ペクチン添加量の割合によっては,後に残る酸味が低減され(【0019】,【0020】),酸っぱい酸味が抑制され(【0020】),かつ口当たりが滑らかな(【0019】,【0020】)豆乳発酵飲料を製造でき,また,製造方法として,乳酸菌のうちラクトバチラス・ブレビスに属する乳酸菌,とりわけラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP-10632),ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP-10630),ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP-10631),ラクトバチラス・ブレビスJCM1061,ラクトバチラス・ブレビスJCM1065,及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種を発酵菌として用いることで,豆乳臭が充分に低減され,かつ爽やかな風味を有する豆乳発酵飲料を提供することができるという効果を奏する(【0021】,【0022】)。
2 取消事由1-1について ? 引用例1の記載及び引用発明1-1 55 ア 引用例1の記載 引用例1には,以下の記載がある(なお,表2は本件図面等目録記載2を参照)。
(ア) 特許請求の範囲 請求項1 分散剤として水溶性大豆多糖類を含有することを特徴とする酸性蛋白食品。
請求項2 ハイメトキシルペクチン,カルボキシメチルセルロースナトリウム及びアルギン酸プロピレングリコールエステルから選ばれた糊料を含む請求項1の酸性蛋白食品。
(イ) 従来の技術及び発明が解決しようとする課題 従来から,酸性の蛋白食品の製造に際しては,蛋白質粒子の凝集,沈澱を防止する目的で,ハイメトキシルペクチン(HMペクチン)…等の糊料(シックナー)を使用するのが普通である。しかしこれら何れの糊料においても,蛋白質粒子の凝集や沈澱を完全に防止するのは困難であって,ともすれば相分離,沈澱などの現象を生じ易い。勿論,この現象は糊料の添加量を増やして粘度を高めれば抑制できるが,今日の嗜好の傾向として,ネクター状の糊状感のある食感は嫌われる傾向がある。
そこで,より低粘度で沈澱,相分離など防止するための工夫が種々凝らされているが,未だ満足できる域には達していない。(【0002】) 以上の実情に鑑み,本発明は,粘度感を生じさせることなしに酸性蛋白食品における蛋白質粒子の凝集,沈澱,相分離などの欠点を防止するための手段ないしは該欠点を防止した酸性蛋白食品を提供することを目的とする。(【0003】) (ウ) 課題を解決するための手段 a 概要 本発明者等は,…酸性蛋白食品における分散剤として,水溶性大豆多糖類を単独で,又は,水溶性大豆多糖類と,ハイメトキシルペクチン,カルボキシメチルセルロースナトリウム及びアルギン酸プロピレングリコールエステルから選ばれた糊料とを併用することにより,上記課題を解決し得ることを見出した。(【0004】) 56 b 定義 本発明において,“酸性蛋白食品”という語は,乳酸菌飲料(生菌,殺菌タイプを含む),発酵乳(固状又は液状),乳製品を酸性にした酸性乳飲料,酸性の冷菓,酸性デザート及び牛乳,豆乳などの蛋白飲料にみかん搾汁その他の果汁又は有機酸若しくは無機酸を添加してなる酸性飲料等の酸性を帯びた蛋白食品を意味する。また,“動植物性蛋白”とは,牛乳,山羊乳,脱脂乳,豆乳;これらを粉末化した全脂粉乳,脱脂粉乳,粉末豆乳;これらに糖を添加した加糖乳;これらを濃縮した濃縮乳;これらにカルシウム等のミネラル,ビタミン類等を強化した加工乳及び発酵乳を云う。なお,後者の発酵乳は,上記動植物性蛋白を殺菌後,乳酸菌スターターを加えて発酵させた発酵乳を指すが,所望により,更に粉末化し又は糖等を加えたものであってもよい。(【0005】) c 水溶性大豆多糖類 本発明の食品において,安定剤として用いる水溶性大豆多糖類(以下SSPSと略す)は,ラムノース,フコース,アラビノース,キシロース,ガラクトース,グルコース及びウロン酸からなる多糖類であ…る。(【0006】) d 酸性蛋白食品の製造 酸性蛋白食品を製造する場合,原料として,糖類,SSPS,動植物性蛋白,酸,香料,清水及び必要に応じて果汁,果肉等を用いる。本食品の一般的な製法を酸性乳飲料について述べると,原料として動植物性蛋白,SSPS,酸類,香料,着色料,必要に応じて果汁,果肉等が用いられ,これらの諸原料に水を加えて,混合,溶解させた後,必要に応じ均質化及び/又は殺菌することにより酸性蛋白飲料が得られる。(【0007】) e 分散剤及び糊料の使用量 SSPSの使用量としては,標準的に最終製品に対し0.1〜10%,好ましくは0.2〜2%程度でよいが,この使用量は本発明の範囲を制限するものではない。
(【0008】) 57 本発明の実施に際しては,SSPSの他に,糊料としてハイメトキシルペクチン(HMペクチン)…などを併用する。これらの標準使用量は概ね下記の通りであるが,勿論発明範囲とは関係のないものである。但し,対象食品が糊状感を呈する程の量であってはならないことは当然である。(【0009】) HMペクチン:最終製品に対して0.05〜1.0%,好ましくは0.1〜0.5%… 酸類としては,クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,乳酸,フマール酸,リン酸その他の可食性酸が用いられる。一般に,酸性蛋白食品のpHは5.0〜2.5の範囲が好ましいが,場合によりこの範囲を外れることもある。(【0010】) (エ) 実施例 a 実験例1 下記の工程に従って酸性蛋白食品試料(酸性乳飲料)を製造した。@脱脂粉乳3部を常温水20部に加え,攪拌,溶解させる。A砂糖7部を常温の水20部に加え,攪拌,溶解させる。BSSPS0.1〜10部に水約20部を加え,80℃で10分間攪拌して溶解させた後,約7℃まで冷却する。C以上@〜Bの各液を混合した後,10〜20℃にて攪拌しつつ,50W\W%クエン酸水溶液を滴下してpHを4.5に調整した後,水を加えて全量を100部とする。(【0012】) 表1より,均質化しないものは均質化したものより沈澱物及び上澄みが多く,安定性の悪いことが認められる。均質化した場合,SSPSは0.1%以上の添加量で試料を安定化し,0.1〜2%までは全く糊状感がないことが判った。
(【0015】) b 実験例2 実験例1に準じて酸性飲料試料を作りテストした。但し,試料のpH4.0に調整して均質化すると共に,85℃にて30分殺菌した。かつ,安定剤として,HMペクチン,CMC-Na,PGA及びSSPSの各単独以外に,SSPSとHMペクチン及びCMC-Naの各併用についても試験した。結果を下表2に示す。
58 (【0016】) 表2より,HMペクチン,CMC-Na及びPGAの三者は,0.4%添加区では,糊状感が強く,沈澱と上澄みを生じ,0.3%添加区では,沈澱物も上澄みも多く生じるが糊状感が少ない。これらのHMペクチン,CMC-Na及びPGA0.3%添加区にSSPSを0.1%併用すると,糊状感が改善されると共に,沈澱,上澄み共に生じないという好結果が得られた。(【0018】) c 実施例3 下表5の配合に従って,発酵乳入り飲むヨーグルトを製造した。
表5(原料配合表) ------------------- 配合原料 重量部 ------------------- 発酵乳 40.0 2W/W% SSPS溶液 20.0 2W/W% HMペクチン溶液 10.0 砂糖 7.0 清水 23.0 ------------------- 合計 100.0(【0025】) 以上の4種の溶液を冷時,発酵乳40部,2W/W%SSPS溶液20部,2W/W%ペクチン溶液10部,砂糖液30部の割合で混合し,pH3.8に50%乳酸溶液で調整した後,均質化を行い…,瓶に充填冷蔵庫に2週間保存した。この飲むヨーグルトは,沈澱,上澄み共になく,糊状感もない優れた品質を保持していた。
(【0027】) イ 引用発明1-1 引用例1に本件審決認定に係る引用発明1-1(前記第2の3?ア(ア))が記載 59 されていることは,当事者間に争いがない。
? 本件発明1と引用発明1-1の一致点・相違点 ア 一致点 本件発明1と引用発明1-1の一致点が本件審決認定に係る一致点1-1(前記第2の3?ア(ア)a)のとおりであることは,当事者間に争いがない。
イ 相違点 (ア) 前記認定に係る引用発明1-1及びこれと本件発明1との一致点1-1を踏まえると,本件発明1と引用発明1-1との相違点は,本件審決認定に係る相違点1-1〜1-4(前記第2の3?ア(ア)b)と認めるのが相当である。
(イ) 被告の主張について 被告は,原告の主位的主張につき,審判段階で審理の対象とされたものではなく本件審決の違法事由として主張できない旨主張する。
特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった公知事実を主張することは許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁),審判において審理判断された公知事実に関する限り,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが許されないとすることはできない。
本件特許の特許権者である原告は,もとより審判で審理判断されなかった公知事実を無効原因として主張するものではなく,審判において審理判断された公知事実と審判の対象とされた発明との相違点について本件審決と異なる主張をするにすぎないものであって,これを許されないものとすべき事情はない。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 原告の主位的主張について a 原告は,本件各発明の本質は,豆乳発酵飲料について,pHが4.5未満で 60 あり,ペクチンの添加量の割合がペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して20〜60質量%の範囲にあり,かつ,粘度が5.4〜9.0mPa・sの範囲にあるという構成を採用する場合に,タンパク質成分等の凝集の抑制と共に,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果が得られるところにあるから,相違点1-1〜1-4に相当する構成は互いに技術的に関連しており,これらを1つの相違点1-Aとして認定すべきであるなどと主張する。
b しかし,本件明細書によれば,本件各発明は,タンパク質成分等の凝集を抑制するという効果を奏する点では共通するものの,ペクチンの添加量の割合が30〜60質量%の場合(本件発明6)はこれに加えて「後に残る酸味が低減され,かつ口当たりが滑らかな」ものとなるとの効果を奏し(【0019】),30〜50質量%とされた場合(本件発明7)は「後に残る酸味が低減されるとともに,酸っぱい風味が抑制され,また口当たりがより一層滑らかになる」との効果を奏すること(【0020】)が記載されている。また,こうした記載が先行するにもかかわらず,【発明の効果】としては,「タンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料の提供が可能」,「タンパク質等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料の製造が可能」といった点が挙げられるにとどまる(【0024】)。これらの記載に照らすと,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果は,本件各発明に共通する効果とは必ずしも位置付けられていないものということができる。
他方,官能評価試験の結果,「ペクチン及び大豆多糖類の混合物中のペクチンの割合が60質量%〜0質量%」の範囲では,「酸っぱい風味」及び「後に残る酸味」の評点がいずれも低く,「酸味が抑制されていた。」,「後味がより優れていた。」との評価がされている(【0080】,【0081】)。これらの記載によれば,上記各効果は本件各発明に共通し,そのうち特に優れた効果を奏するものを本件発明6及び7として取り上げたと理解する余地はあり得る。もっとも,試験結果に係る上記分析は,本件明細書の記載上,本件各発明の効果の記載(【0024】)には反映されていない。そして,本件明細書において各評価項目の評価基準,評価手 61 法等が明らかにされていないことや,試験結果の数値のばらつきを考慮すると,前記のような理解の合理性ないし客観性には疑問がある。
このように,本件各発明の効果に関しては,本件明細書の内部において不整合があるといわざるを得ず,原告の上記主張はその前提自体に疑問がある。
c その点を措くとしても,タンパク質成分等の凝集抑制の効果について,本件明細書によれば,請求項2,【0011】及び【0072】に記載された試験方法により沈殿量を評価した場合の沈殿量が0cm超かつ11cm未満にある場合,タンパク質成分等の凝集がより抑制されると説明されている(【0011】,【0012】)。また,表4及び図3には,pH4.3及び4.5それぞれの場合においてペクチン添加量の割合を変化させた豆乳発酵飲料の沈殿量を示す実験結果が記載されているところ,沈殿量が0cm超かつ11cm未満を満たさないものはペクチン及び大豆多糖類を共に含まないサンプルNo.1(pH4.3及び4.5),大豆多糖類のみを含むNo.12(pH4.3及び4.5),ペクチンを10質量%で含むNo.11(pH4.3及び4.5)に止まり,ペクチンを20〜100質量%で含むNo.2〜No.10は,pHの高低に依拠することなくタンパク質成分等の凝集の抑制効果を奏することが示されている。
この点に鑑みると,タンパク質成分等の凝集の抑制効果につき,ペクチン添加量の割合が20〜60質量%の範囲内にあることやpHの高低との関連性を見出すことは,必ずしもできない。
また,本件明細書によれば,pH4.5の場合でも,No.2〜No.10ではペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加することによりタンパク質成分等の凝集の抑制効果があるとされているところ(【0076】),このうちペクチンを50〜20質量%含むNo.7〜No.10は,7℃における粘度が5.4mPa・s未満である(表3及び図2)。この点に鑑みると,タンパク質成分等の凝集の抑制効果と5.4〜9.0mPa・sの粘度範囲との間に何らかの関連性を見出すことはできない。
62 以上によれば,タンパク質成分等の凝集の抑制効果は,ペクチン添加量,pH及び粘度の全てが請求項に規定された範囲にある場合に初めて奏する効果であるとは認められない。
d 酸っぱい風味,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさの効果について,pHを4.3で固定した場合である表5及び図4の実験結果によると,酸っぱい風味は,ペクチンと大豆多糖類を併用したサンプルのうち,おおむね,ペクチンのみを含むNo.2で酸っぱい風味が強く,大豆多糖類の量が増えるに従いこれが低減される傾向がうかがわれ,No.6〜No.12(ペクチンの割合が60〜0質量%)につき「酸味が抑制されていた」との評価がされ,中でもNo.7〜No.10(ペクチンの量が50〜20質量%)で特に抑制されているとの評価がされている(【0080】,図4)。他方,ペクチンを60質量%含むNo.6は,大豆多糖類のみを含むNo.12やペクチンを10質量%含むNo.11よりも酸っぱい風味が強いとの評価がされている(【0080】)。
また,後に残る酸味の点では,ペクチンを60〜0質量%で含むNo.6〜No.12がより優れていると評価され(【0081】,表5,図5),口当たりの滑らかさの点では,ペクチンを60〜30質量%で含むNo.6〜No.9が優れていると評価されている(【0082】,表5,図6)。もっとも,ペクチンのみを含むNo.2も,後に残る酸味及び口当たりの滑らかさの両面でこれらの範囲内にある評点を得ている。また,口当たりの滑らかさの点では,ペクチンを20質量%含むNo.10は口当たりの滑らかさの評点が低く,逆に,大豆多糖類のみを含むNo.12は口当たりの滑らかさで優れているとされる上記サンプルの数値の範囲内に含まれる。
このように,pH4.3の場合の官能評価の結果からも,酸味の抑制,後に残る酸味の低減,口当たりの滑らかさに係る効果は,ペクチンと大豆多糖類を併用しない場合やペクチンの添加量が20〜60質量%から外れる場合でも得られることが示されているから,これらの効果は,pH,粘度及びペクチン添加量の全てが請求 63 項に規定された範囲にある場合に初めて奏する効果であるとは認められない。
e このほか,本件明細書には豆乳発酵飲料以外の豆乳飲料や酸性乳飲料を比較対象とした実験結果が記載されていないことも考慮すると,本件明細書からは,本件各発明につき,相違点1-1〜1-4に係る構成を組み合わせ,一体のものとして採用したことで,タンパク質成分等の凝集の抑制と共に,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果を奏するものと把握することはできない。
したがって,この点に関する原告の主位的主張は採用できない。
? 各相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性 ア 相違点1-1について (ア) 引用例1には,酸性蛋白食品のpHとして「5.0〜2.5の範囲が好ましい」(【0010】)との記載があるとともに,実験例1ではpH4.5に,実験例2ではpH4.0に調整されたものを使用した旨記載され(【0012】,【0016】),また,実施例3ではpH3.8に調整された発酵乳入り飲むヨーグルトを使用した旨が記載されている(【0027】)。
そうすると,引用発明1-1の酸性蛋白食品のpHを4.5未満に設定することは,当業者が容易に想到し得るものといえる。
(イ) 原告の主張について 原告は,豆乳発酵飲料としてあり得るpHの範囲は技術常識から当然限定されるものであり,これは4.1程度から4.5の範囲であるところ,pH4.3についてのみ官能評価による効果確認がされていることをもって,酸味の抑制効果等を認めるには十分であるなどと主張する。
この点,引用例3の実施例としてpH4.1及び4.2の例が示されているものの(表2,表3),引用例2の発酵豆乳入りウォータータイプ処方例の清涼飲料水(表3)ではpHは3.4とされていることに鑑みると,豆乳発酵飲料のpHの下限が4.1程度であることを認めるに足りない。なお,甲4【0006】には,「豆乳を原料とする食品には,…大豆特有の苦味や渋味等の違和感を覚える風味が 64 残ってしまう問題があ」り,pH3.5〜4.2の範囲において「大豆特有の苦味や渋味」が「より強調されるために,豆乳を酸性食品に利用することが妨げられる傾向にある。」とされているところ,この記載は,未発酵の豆乳を原料とする食品に関するものと理解されることから,甲4をもって豆乳発酵飲料のpHの下限が4.1程度であることを裏付ける証拠ということはできない。
また,一般に,酢酸等の有機酸によりpH値が調製される場合,有機酸の量が増えてpH値が低くなると「酸味」が強くなることが予想され,少なくとも,pH4.3やpH4.5付近において,pHが0.1程度変動することで酸味の抑制効果等は大きく変わらないとは必ずしもいえず,これを裏付けるに足りる証拠もない。
以上より,この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 相違点1-2について (ア) 平成22年3月に,キッコーマングループにより「カルシウムの多い豆乳飲料」及び「豆乳飲料いちご」が販売されていたこと(甲10),本件特許出願日より前の同年5月24日にキッコーマン飲料株式会社により「カルシウムの多い豆乳飲料」が販売されていたこと(甲11),同じく本件特許出願日より前の平成24年3月12日に,同社により「豆乳飲料 グレープフルーツ」が販売されていたこと(甲12)が認められる。
平成27年3月3日付け「豆乳飲料の性状確認試験」(甲13)は,上記3製品(ただし,製造日はいずれも平成27年2月)につき,本件明細書記載の方法により粘度,沈殿量及びpHを測定したものであるところ,粘度については,「豆乳飲料 グレープフルーツ」が7.0mPa・s,「豆乳飲料いちご」が8.5mPa・s,「カルシウムの多い豆乳飲料」が7.8mPa・sであったことが記載されている。この測定結果につき,その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はない。
平成28年9月9日付け「発酵乳入り清涼飲料水の測定」(甲17)は,市販の発酵乳入り清涼飲料(発酵乳入り清涼飲料水。同年8月25日購入)について,本件明細書記載の方法で粘度,沈殿量及びpHを測定したものであるところ,粘度は 65 5.74mPa・sであったことが記載されている。この測定結果につき,その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はない。
これらによれば,消費者の受け入れられる飲料という観点から見た場合,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sであることは,そのような飲料として普通の範囲内に属すると認められる。なお,甲13及び17の測定対象となった製品はいずれも本件特許出願日後に製造されたものと見られるところ,消費者の嗜好が変動し得ることを考慮しても,平成25年3月の本件特許出願後の2年ないし3年の間に,この点につき有意な粘度条件の変動があったとは考え難く,また,これをうかがわせる具体的な事情もない。
なお,平成30年7月6日付け「実験成績証明書」(甲55)によれば,現在販売されている4つの豆乳発酵飲料(甲51〜54)につき,本件明細書記載の方法で粘度(mPa・s)を測定したところ,いずれも10.0以上との測定結果が示されている。しかし,測定対象とされる商品の製造時期その他の条件により,同一銘柄の商品であっても測定結果に差異を生じ得るから(後記(エ)),これをもって直ちに,本件特許出願日において5.4〜9.0mPa・sの粘度範囲を設定することを阻害するに足りる事情ということはできない。
(イ) 粘度につき,本件明細書には,「5.9mPa・s以上であることが好ましく,6.4mPa・s以上であることがより好ましく,6.9mPa・s以上であることが更に好ましい。また,…8.5mPa・s以下であることが好ましく,8.0mPa・s以下であることがより好ましい。」(【0029】),「ペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加していないサンプルNo.1との比較から明らかなように,ペクチン及び大豆多糖類の混合物を添加することによって,粘度が高くなった(表3及び図2)。」(【0074】)との記載がある。また,表3及び図2によれば,サンプルNo.2〜No.6においては,pHを問わず粘度が5.4〜9.0mPa・sの範囲に含まれており,上記範囲の下限に最も近い粘度のものはpH4.5の場合のNo.6,上限に最も近いものはpH4.2の場合のNo. 66 2である。
これらの記載からは,「5.4〜9.0mPa・s」との粘度範囲の特定は,ペクチン及び大豆多糖類を添加した結果としての粘度を特定したという意義を有するにとどまると解され,必ずしもpHとの関連性を見出すことはできない。
(ウ) 引用例1には,ハイメトキシルペクチン(HMペクチン)等の糊料(シックナー)の添加量を増やせば酸性蛋白食品の粘度を高められること( 【0002】),HMペクチンと水溶性大豆多糖類を併用すると,糊状感の改善,つまりHMペクチンによる粘度上昇を抑制できること(【0018】,【0027】)が記載されている。このことから,引用発明1-1の酸性蛋白食品の粘度は,HMペクチンと水溶性大豆多糖類を併用し,それらの添加量を操作することで調整可能なことは,当業者に明らかである。
そして,7℃における粘度が5.4〜9.0mPa・sである豆乳飲料や発酵乳飲料は,一般に販売され,消費者に受け入れられていた粘度範囲であり(上記(ア)),その下限値である5.4mPa・sも,本件各発明の課題であるタンパク質等の凝集の抑制と何らの関係も有しない(前記?イ(イ)c)。
そうすると,当業者は,豆乳飲料や発酵乳飲料等を包含する引用発明1-1の酸性蛋白食品の粘度の範囲として「5.4〜9.0mPa・s」の範囲を採用することを容易に想到し得たものといえる。
(エ) 原告の主張について 原告は,甲13及び17の測定結果は相違点1-2の粘度範囲の構成が「普通」であるか否かの判断資料とはなり得ず,粘度範囲は飲料ごとに適した範囲が存在し,豆乳発酵飲料につき本件特許出願時において「普通」だった粘度範囲を確認するためには,あくまで,その当時の豆乳発酵飲料の粘度を調査しなければならないこと,現在販売されている豆乳発酵飲料及び豆乳飲料の粘度測定の結果からは,豆乳発酵飲料について「5.4〜9.0mPa・s」の範囲が消費者に受け入れられる飲料の粘度として「普通の範囲」とする根拠はないなどと主張する。
67 しかし,甲13及び17の測定結果をもとに本件特許出願時に普通の範囲内であった豆乳発酵飲料の粘度範囲を判断し得ることについては,前記(ア)のとおりである。
また,平成30年7月6日付け「実験成績証明書」(甲56)の表2には,豆乳飲料10製品の粘度が記載されているところ,うち2製品は10mPa・sを超えるものの,1製品が「6.07mPa・s」であり,「5.4〜9.0mPa・s」の範囲内にあり,その他の製品も,その上限をやや超える9.07〜9.60mPa・sの範囲内に5製品,その下限をやや下回る4.14mPa・s,4.55mPa・sのものが各1製品という分布となっている。しかも,このうち,「キッコーマン カルシウムの多い豆乳飲料」は,甲13記載の測定においても対象とされた製品であるところ,甲56においては「9.34mPa・s」という結果であるのに対し,甲13では「7.8mPa・s」となっており,銘柄が同一の商品でも,飲料の製造時期や粘度の測定条件等により1.5mPa・s程度の差異が生じ得るものであることが理解できる。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件特許出願日において「5.4〜9.0mPa・s」の範囲を外れる粘度の豆乳飲料や発酵乳飲料が販売されていた事実は否定し得ないとしても,その範囲内の粘度の豆乳飲料や発酵乳飲料は一般に販売され,消費者に受け入れられていたものと解するのが相当である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 相違点1-3について (ア) 引用例1においては,酸性蛋白食品におけるタンパク質粒子の凝集,沈殿を防止する目的で,HMペクチンと水溶性大豆多糖類を併用することが記載されており(【0002】〜【0004】),その使用量につき,水溶性大豆多糖類は標準的に最終製品に対し0.1〜10%,好ましくは0.2〜2%程度がよく,HMペクチンは最終製品に対し0.05〜1.0%,好ましくは0.1〜0.5%とされている(【0008】,【0010】)。上記好ましい使用量のうち,HMペク 68 チンが0.1%,水溶性大豆多糖類が0.2%の場合,HMペクチン及び水溶性大豆多糖類の添加量総量におけるHMペクチンの割合は33.3%であり,HMペクチン0.5%,水溶性大豆多糖類2%の場合は,HMペクチンの割合は20%である。
また,実験例2には,HMペクチンと水溶性大豆多糖類を,0.3%と0.1%,0.2%と0.2%,0.1%と0.3%の添加量で併用した場合,良好な結果が得られたことが記載されている(【0016】,表2)。これをペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対するペクチンの添加量の割合に換算すると,それぞれ,75質量%,50質量%,25質量%となる。他方,同実験例において,安定剤としてHMペクチンを単独で使用し,水溶性大豆多糖類を併用しなかった場合は必ずしも良好な結果を得られなかったのに対し,水溶性大豆多糖類を単独で使用し,HMペクチンその他の安定剤と併用しなかった場合は,上記併用した場合と同様に良好な結果を得られたことが記載されている。
さらに,実施例3の2W/W%のSSPS(水溶性大豆多糖類)溶液20.0%,2W/W%のHMペクチン溶液10.0%(【0025】)は,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対するペクチンの添加量に換算すると33質量%となるところ,この場合も沈殿等の点で「優れた品質を保持していた。」と評価されている。
これらの記載を総合的に考慮すると,引用例1には,酸性蛋白食品の粘度につき,ペクチン及び水溶性大豆多糖類の添加量総量100%質量に対するペクチンの添加量を75〜20質量%とすることにより良好な結果を得られることが示されているということができる。そうすると,引用発明1-1において,酸性蛋白食品の粘度が所望の値となるように,ペクチン及び大豆多糖類の添加量を最適化し,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対するペクチン添加量として上記範囲内に含まれる20〜60質量%を選定することは,当業者が容易に想到し得たものということができる。
69 (イ) 原告の主張について 原告は,引用例1につき,上記HMペクチンと水溶性大豆多糖類の各質量%の組合せが好ましい旨の記載はない,実験例2は脱脂粉乳の実験結果を示したものである,HMペクチンと水溶性大豆多糖類を「併用」するという思想が読み取れるだけであり,ペクチンの添加量をコントロールするという思想は読み取れないなどと主張する。
しかし,上記引用例1の実験例2及び実施例3の記載は,いずれもHMペクチンを糊料として用い,その使用に伴う糊状感の改善効果,蛋白質粒子の凝集,沈殿,相分離等の防止効果を奏するために,引用例1の水溶性大豆多糖類及びペクチンの双方の添加量をコントロールするという技術思想を示すものと理解される。
また,ペクチン及び大豆多糖類を併用した例として,甲4には,酸性豆乳飲料にペクチン0.3質量%,大豆多糖類0.2質量%を添加した処方(ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対してペクチンが60質量%),ペクチン0.3質量%,大豆多糖類0.4質量%を添加した処方(ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対してペクチンが43質量%)が記載されている(【0057】〜【0059】,表7)。さらに,甲6には,「大豆多糖類とペクチンの併用により,酸乳飲料の安定性が相乗的に上昇すること…が分かった。\@酸乳飲料の安定化効果\酸乳飲料の処方を表1に示す。安定剤の添加量を0.4%に固定し,大豆多糖類とHMペクチンの配合割合を変更させて,酸乳飲料を調整した。…室温保存の場合,HMペクチンと大豆多糖類を5:3(テスト4)-3:5(テスト6)の配合比率で併用すると,大豆多糖類単独使用…およびHMペクチン単独使用…に比べて沈でん率が低下し,併用効果が認められた。」(39頁第4段1行目〜24行目)との記載がある。ここでは,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対して38質量%及び63質量%のペクチンを添加した処方が記載されていることが分かる。
そうすると,引用例1の実験例2及び実施例3におけるペクチンの添加量は,脱 70 脂粉乳に対する特別な添加条件であるとは解されない。
以上より,この点に関する原告の主張は採用できない。
エ 相違点1-4について (ア) 引用例1の「本発明において,“酸性蛋白食品”という語は,…発酵乳(固状又は液状)…等の酸性を帯びた蛋白食品を意味する。また,“動植物性蛋白”とは,牛乳,山羊乳,脱脂乳,豆乳;…及び発酵乳を云う。なお,後者の発酵乳は,上記動植物性蛋白を殺菌後,乳酸菌スターターを加えて発酵させた発酵乳を指す…。」(【0005】),「酸性蛋白食品を製造する場合,原料として,…動植物性蛋白…を用いる。」(【0007】)との記載によれば,発酵乳において,植物性蛋白を栄養成分とする豆乳の発酵乳のみが除外されているとはいえない。また,酸性蛋白食品の例として「発酵乳(固状又は液状)」が挙げられていることから,引用発明1-1の酸性蛋白食品が豆乳発酵飲料を包含することは,当業者に明らかである。
そうすると,引用発明1-1の酸性蛋白食品を豆乳発酵飲料とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(イ) 原告の主張について 原告は,引用例1の酸性蛋白食品には豆乳の発酵物を含む飲料又は食品までは含まれない,【0005】及び【0007】の記述を整合的に理解すると,「酸性蛋白食品」は,原料として豆乳発酵物を使用することは除外しないものの,それ自体が豆乳発酵飲料の香味を有する場合は除外されていると理解すべきであるなどと主張する。
しかし,引用例1【0005】は,酸性蛋白食品につき,「発酵乳(固状又は液状)」のほか,多様な「酸性を帯びた蛋白食品」を列挙して定義し,「動植物性蛋白」についても,「発酵乳」のほか「牛乳,山羊乳,脱脂乳,豆乳」その他多様な乳を列挙して定義するとともに,「後者の発酵乳は,上記動植物性蛋白を殺菌後,乳酸菌スターターを加えて発酵させた発酵乳を指す」などとして,「発酵乳」につ 71 き補足的な説明を加えたものである。ここで,「後者の発酵乳」につき,「酸性蛋白食品」に挙げられる「発酵乳」と「動植物性蛋白」として挙げられる「発酵乳」との意義を異なるものとして理解すべきことを明示する記載はない。
そして,この定義を受けて,【0007】は,「酸性蛋白食品の製造」に用いる原料として「糖類,SSPS,動植物性蛋白,酸,香料,清水及び必要に応じて果汁,果肉等」を挙げている。「動植物性蛋白」に「豆乳」の「発酵乳」も含まれることは上記定義から明らかであるから,「酸性蛋白食品」に豆乳の発酵乳を原料とするものが含まれることも明らかである。したがって,これにより製造された「酸性蛋白食品」とはすなわち豆乳の発酵乳を含む「発酵乳(固状又は液状)」であることは,引用例1の記載から容易に理解できる。
なお,「動植物性蛋白」として挙げられたもののうち,「牛乳,山羊乳,脱脂乳,豆乳」と「発酵乳」以外は,いずれも,いかなる加工が施された乳であるかの説明が付加されている。そして,当該段落の「後者の発酵乳は」以下の記載は,その内容から,これと同旨の説明を付加する趣旨で置かれたものと理解されるのであって,「酸性蛋白食品」として列挙された「発酵乳」を「前者」と位置付け,両者が異なるものとすることを意図したものとは解されない。
また,引用発明1-1の解決しようとする課題は,「粘度感を生じさせることなしに酸性蛋白食品におけるタンパク質粒子の凝集,沈殿,相分離などの欠点を防止するための手段ないしは該欠点を防止した酸性蛋白食品を提供すること」にあり,食品の「渋み,豆臭,青臭み等」ないし「香味」といった風味に直接関わるものではない。そうである以上,豆乳の発酵物が,豆乳と比べても大豆特有の渋み,豆臭,青臭み等の点で劣っているとしても,その一事をもって,引用発明1-1の「酸性蛋白食品」の範囲に含まれないと解すべき理由はない。
以上より,引用例1には,「酸性蛋白食品」として豆乳を発酵させた発酵乳を原料とする豆乳発酵飲料が示唆されているといえ,この点に関する原告の主張は採用できない。
72 ? 本件発明1の効果 ア 前記?イ(ウ)bのとおり,本件明細書の記載によれば,本件各発明は,タンパク質成分等の凝集を抑制するという効果を奏する点では共通するものの,酸味が抑制され,後に残る酸味が少なく後味が優れるという効果が本件各発明に共通の効果としてよいかは,本件明細書の記載の内部的な不整合から,疑問があるといわざるを得ない。
イ その点を措くとしても,引用発明1-1は酸性蛋白食品におけるタンパク質粒子の凝集,沈殿を防止する目的でHMペクチンと水溶性大豆多糖類を用いるものであり(【0002】〜【0004】,【0006】),引用例1の実験例2及び実施例3には,ペクチンと大豆多糖類を併用した場合に沈殿や上澄みの生じない結果が得られることが記載されている(【0012】〜【0018】,【0025】,【0027】)。このことから,タンパク質成分等の凝集の抑制効果は,引用例1の記載に基づき当業者が予測できたものといえる。
また,粘度の安定については,本件明細書によればpHが4.5未満の条件でペクチンと大豆多糖類を併用した際に観察されるものであるところ(【0074】),引用例1の実験例2及び実施例3に記載される酸性蛋白食品は,pH4.0及びpH3.8でそれぞれペクチンと大豆多糖類を併用した処方である。そうすると,粘度の安定に係る効果も,引用例1の記載に基づき当業者が容易に予測できたものといえる。
一方,酸味の抑制,後に残る酸味の低減及び口当たりの滑らかさといった味覚面の効果は,豆乳発酵飲料のpHを4.3に固定し,「7名の訓練されたパネルにより,「酸っぱい風味」,「後に残る酸味」及び「口当たりの滑らかさ」について,Visual Analogue Scale 法により,0〜10点の間で点数を付け,その平均値を評点とした」官能評価に基づき検討されたものである(【0078】)。しかるに,その結果を子細に検討すると,ペクチンと大豆多糖類を併用しない場合やペクチンの添加量が20〜60質量%から外れる場合,すなわち本件発明1の構成を満たさ 73 ない場合でも,ペクチンの添加量が20〜60質量%の場合と同程度の味覚面の効果が得られていることが理解できる(表5)。また,豆乳発酵飲料の酸味や味は,発酵させる豆乳の種類・濃度,使用する乳酸菌の種類,用いるペクチンや大豆多糖類の種類等の様々な要因によっても変動し,また,pHの相違によっても酸味の変動は生じ得るものであることは明らかである。これらの事情を踏まえると,本件発明1に上記味覚面の効果があるとしても,これをもって,本件発明1の構成によってこそ導かれ,本件発明1の構成から外れた場合には得られない効果であるとはいい難い。
そもそも,本件明細書には,味覚面の効果の各評価項目におけるパネルの個別の評点は明記されておらず,各評価項目における7人のパネルの評点に係る詳細は不明である上,各パネル及び各評価項目で,加点又は減点が適正に行われることを担保するための評価基準及び評価手法や,評点が分散した場合の統計上の措置等も明らかでない。このことに鑑みると,本件明細書記載の官能評価試験の結果をもって,本件発明1の奏する効果に基づく進歩性を評価するに足りる程度の客観性ないし信頼性を備えた実験結果であるとは認められない。
以上より,本件明細書記載の本件発明1の効果(タンパク質成分等の凝集の抑制,粘度の安定,酸っぱい風味の抑制,後に残る酸味の低減,及び口当たりの滑らかさ)により本件発明1の進歩性を肯定することはできない。
これに反する原告の主張は採用できない。
? 小括 以上のとおり,引用発明1-1及び引用例1記載のその他の事項に基づき,当業者は相違点1-1〜1-4に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たものであり,また,本件発明1の効果も,当業者が容易に想到し得る範囲内にとどまり,格別なものとは認められない。この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事由1-1は理由がない。
3 取消事由2-1について 74 ? 本件発明2と引用発明1-1との一致点・相違点 本件発明2と引用発明1-1とを対比すると,両者は,一致点1-1で一致し,相違点1-1〜1-4で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-5(前記第2の3?イ(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-1〜1-4については,前記2のとおりである。
イ 相違点1-5について 本件明細書の記載(【0007】,【0011】,【0012】,【0077】)によれば,相違点1-5に係る本件発明2の構成は,本件各発明の課題であるタンパク質成分等の凝集が抑制された豆乳発酵飲料を沈殿量の観点から特定するとともに,その沈殿量の値を得る手順をも特定したものと認められる。もっとも,本件明細書の表4によると,ペクチンを20〜100質量%で含むNo.2〜No.10は,pHの高低や大豆多糖類の存否に関わりなく,本件発明2で規定される沈殿量を満たす。
他方,引用発明1-1は,HMペクチンと水溶性大豆多糖類とを含有することによりタンパク質粒子の凝集,沈殿を防止することを解決しようとする課題とするものであり,引用例1では,実施例として,HMペクチンを75質量%,50質量%,25質量%,33質量%という異なる割合でHMペクチン及び水溶性大豆多糖類を組み合わせた場合の沈殿物の有無ないし量等の試験結果を示している。
そうすると,相違点1-5に係る本件発明2の沈殿量は,引用発明1-1との関係では,そもそも実質的な相違点とならないともいい得るし,少なくとも,これらの混合物の含有量を調整して凝集,沈殿を抑制することは,当業者が容易になし得ることといえる。
以上より,引用発明1-1及び引用例1記載の事項に基づき,当業者は,相違点1-5に係る本件発明2の構成を容易に想到し得たものである。原告も,相違点1-5の容易想到性に係る本件審決の判断の誤りについては具体的に主張していない。
75 したがって,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2-1は理由がない。
4 取消事由3-1について ? 本件発明3と引用発明1-1との一致点・相違点 本件発明3と引用発明1-1とを対比すると,両者は,一致点1-1で一致し,相違点1-1〜1-4で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-6(前記第2の3?ウ(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-1〜1-4については,前記2のとおりである。
イ 相違点1-6について 引用例1には,発酵乳を得るに当たり動植物性蛋白に乳酸菌を加えて発酵させることが記載されている。また,引用例3には,【背景技術】の項に,豆乳を発酵させる方法として,ビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌を用いる方法及びこれに他の乳酸菌を混合させる方法が4つの特許文献において提示されているとした上で,同文献記載の発明として,ビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌の使用を排除し,他の乳酸菌の混合菌株を豆乳に接種させて得られる豆乳発酵乳酸菌飲料が示されている。さらに,甲16(特開2012-36158号公報)には,「ラクトバチラス・ブレビスは,古くから発酵食品に利用されている乳酸菌の一種であり,生体への安全性が確立されている。」(【0009】)との記載がある。本件明細書にも,同様の記載(【0023】)がある。
これらの記載に鑑みると,豆乳の発酵において乳酸菌を用いることは,本件特許出願時における技術常識といってよい。
そうである以上,引用発明1-1及び技術常識に基づき,当業者は,相違点1-6に係る本件発明3の構成を容易に想到し得たものであり,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張は採用できない。取消事由3-1は理由がない。
5 取消事由4-1について 76 ? 本件発明4と引用発明1-1との一致点・相違点 本件発明4と引用発明1-1とを対比すると,両者は,一致点1-1で一致し,相違点1-1〜1-4及び1-6で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-7(前記第2の3?エ(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-1〜1-4については前記2のとおりであり,相違点1-6については前記4のとおりである。
イ 相違点1-7について (ア) 甲16(特開2012-36158号公報)には,前記4?イの【0009】の記載のほか,「ラクトバチラス・ブレビスSBC8803菌株は,2006年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター…に寄託された,受託番号がFERM BP-10632の菌株である。」(【0008】)との記載がある。
そうすると,ラクトバチラス・ブレビスSBC8803を発酵食品に用いることに困難性は認められない。すなわち,引用発明1-1及び甲16記載の事項(さらに,引用例1その他の文献から認められる前記4の技術常識)に基づき,当業者は,相違点1-7に係る本件発明4の構成を容易に想到し得たといえる。
(イ) 原告は,本件発明4の構成を採用することで,豆乳臭が十分に低減され,かつ爽やかな風味を有する豆乳発酵飲料を提供することができるところ,これは本件特許出願時に当業者が予測できない異質な効果であるなどと主張する。
しかし,本件明細書には,本件発明4の構成により「より一層豆乳臭が低減され,かつより一層爽やかさのある風味の良い豆乳発酵飲料を提供することができる。」(【0022】)との記載こそあるものの,そのような効果の存在及びこれが特定の乳酸菌の菌株を用いたことで得られることを示す実施例の記載は見当たらない。
そうである以上,これをもって本件発明4の進歩性を認めるに足りる異質な効果と認めることはできない。
77 したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 以上のとおり,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事由4-1は理由がない。
6 取消事由5-1について ? 引用発明1-2,本件発明5と引用発明1-2との一致点・相違点 ア 引用発明1-2 引用例1に本件審決認定に係る引用発明1-2(前記第2の3?ア(イ))が記載されていることは,当事者間に争いがない。
イ 本件発明5と引用発明1-2との一致点・相違点 本件発明5と引用発明1-2とを対比すると,両者は,本件審決認定に係る一致点1-2(前記第2の3?オ(ア)a)で一致し,相違点1-8〜1-11(前記第2の3?オ(ア)b)で相違することが認められる。
この点につき,原告は,主位的主張として,相違点1-8〜1-11に係る本件発明5の構成は1つのまとまりのある構成として,相違点1-Bが認定されるべきである旨主張する。
しかし,この主張が採用し得ないことは,前記2?イ(ウ)と同様である。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-8,1-10及び相違点1-11は,それぞれ相違点1-1〜1-3と実質的に同じである。したがって,前記2?ア〜ウと同様に,これらの相違点に係る構成は当業者が容易に想到し得たものといえる。
イ 相違点1-9について 前記2?エのとおり,引用例1には,豆乳を発酵させた発酵乳を原料とする豆乳発酵飲料が示唆されているとともに,【0005】には,動植物性蛋白に乳酸菌を用いて発酵させた発酵乳を得ることが記載されている。
したがって,引用発明1-2において,酸性蛋白食品を「豆乳発酵飲料」とすること,「豆乳を乳酸菌で発酵させて豆乳発酵物を得る工程」によって原料となる豆 78 乳発酵物を得て,これにペクチン及び大豆多糖類を添加することは,当業者が容易に想到し得るものといえる。
ウ 原告の主張について 原告は,当業者が,引用発明1-2において,あえて豆乳発酵物を得る工程を追加する動機付けはなく,そもそも「酸性蛋白食品」を豆乳発酵飲料に置き換えられると理解しないなどと主張する。
しかし,上記原告の主張は,引用例1の「酸性蛋白食品」に含まれないなどとする主張(前記第3の1?〔原告の主張〕イ(エ))を前提とするものであるところ,前記2?エのとおり,その前提となる主張自体採用できない。
また,原告は,本件発明5により,酸味の抑制及び後味に優れるという異質な効果を奏するなどとも主張する。
しかし,この点に関する原告の主張が採用できないことは,前記2?と同様である。
エ 以上より,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事由5-1は理由がない。
7 取消事由6-1について ? 本件発明6と引用発明1-2との一致点・相違点 本件発明6と引用発明1-2を対比すると,両者は,一致点1-2において一致し,相違点1-8〜1-10で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-12(前記第2の3?カ(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-8〜1-10については,前記6?と同様である。
イ 相違点1-12について (ア) 前記2?ウのとおり,引用例1には,HMペクチンと水溶性大豆多糖類の添加量を目的に応じて設定するという技術思想が示されていることから,ペクチン及び大豆多糖類の添加量総量100質量%に対してペクチンの添加量を30〜60 79 質量%とすることは,引用発明1-2においても想定される範囲内のことといえるとともに,甲4には,ペクチンを60質量%,43質量%で用いること,甲6には,ペクチンを38質量%-63質量%で用いることが記載されている。
したがって,引用発明1-2及び引用例1記載のその他の事項(さらに,甲4及び6記載の事項)に基づき,当業者は,相違点1-12に係る本件発明6の構成を容易に想到し得たものといえる。
(イ) 原告の主張について 原告は,相違点1-12に係る本件発明6の構成は,pHを4.5未満に限定する構成を前提に,粘度の安定や酸味の抑制,後味が優れるとの効果に加え,ペクチンの添加量の割合が20〜60質量%の場合の効果に加えて口当たりが滑らかになるという効果の発見に伴い特定されたものであるのに対し,引用例1にはこのような効果に関する記載はなく,ペクチンの添加量をコントロールするという発想もない,また,上記効果は当業者が予測できない異質な効果であるなどと主張する。
しかし,引用例1に,ペクチンと大豆多糖類の添加量を目的に応じて設定するという技術思想が示されていることは,上記のとおりである。また,原告主張に係る上記効果の点については,前記2?と同様である。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 以上より,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事由6-1は理由がない。
8 取消事由7-1について ? 本件発明7と引用発明1-2との一致点・相違点 本件発明7と引用発明1-2を対比すると,両者は,一致点1-2において一致し,相違点1-8〜1-10で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-13(前記第2の3?キ(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-8〜1-10については,前記6?と同様である。
80 イ 相違点1-13については,前記7?イと同様である。
ウ 以上より,引用発明1-2及び引用例1記載のその他の事項(さらに,甲4及び6記載の事項)に基づき,当業者は,相違点1-13に係る本件発明7の構成を容易に想到し得たものといえるから,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張は採用できない。取消事由7-1は理由がない。
9 取消事由8-1について ? 本件発明8と引用発明1-2との一致点・相違点 本件発明8と引用発明1-2を対比すると,両者は,一致点1-2において一致し,相違点1-8〜1-11で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-14(前記第2の3?ク(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-8〜1-11については,前記6?のとおりである。
イ 相違点1-14について 前記4?イ及び5?イ(ア)のとおり,発酵食品へのラクトバチラス・ブレビスの利用は,本件特許出願時の技術常識であったことが認められる。
したがって,引用発明1-2並びに引用例1及び甲16記載の事項に基づき,当業者は,相違点1-14に係る本件発明8の構成を容易に想到し得たといえる。
これに対し,原告は,本件発明8は本件特許出願時に当事者が予測できない異質な効果を奏するなどと主張する。
しかし,この点に関する原告の主張を採用できないことは,前記5?イ(イ)と同様である。
ウ 以上のとおり,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事由8-1は理由がない。
10 取消事由9-1について ? 本件発明9と引用発明1-2との一致点・相違点 本件発明9と引用発明1-2を対比すると,両者は,一致点1-2において一致 81 し,相違点1-8〜1-11で相違するとともに,本件審決認定に係る相違点1-15(前記第2の3?ケ(ア))で相違することが認められる。
? 相違点に係る構成の容易想到性について ア 相違点1-8〜1-11については,前記6?のとおりである。
イ 相違点1-15については,前記5?イ(ア)と同様である。
ウ したがって,引用発明1-2及び甲16記載の事項に基づき,当業者は,相違点1-1に係る本件発明8の構成を容易に想到し得たといえるから,この点に関する本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張は採用し得ない。取消事由9-1は理由がない。
11 結論 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 杉浦正樹
裁判官 片瀬亮