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事件 平成 30年 (ネ) 10059号 特許権侵害による損害賠償債務不存在確認等請求控訴事件

控訴人株式 会社ヒラノテクシード
同訴訟代理人弁護士 中井康之 青海利之 飯島奈絵 板崎遼
同補助参加人 エスケーシー コーロン ピー アイ インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 門口正人 上田裕康 城山康文 後藤未来 塩越希
被控訴人株式会社カネカ
同訴訟代理人弁護士 平野惠稔 1黒田佑輝 手代木啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決のうち,被控訴人が,控訴人及び控訴人補助参加人に対し,控訴人が控訴人補助参加人に原判決別紙1機械装置目録記載の各機械装置を製造販売し,控訴人補助参加人が上記各機械装置を使用して原判決別紙2製品目録記載の各製品を製造販売したことにより,原判決別紙3特許権目録記載の各特許権を侵害したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認するとの訴えを却下した部分を取り消す。
2 前項の部分につき,本件を東京地方裁判所に差し戻す。
3 その余の本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用のうち第1項の請求を除くその余の請求に係る部分は,補助参加により生じたものを含め,第1,2審を通じて控訴人及び控訴人補助参加人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
追加
第2事案の概要等1事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)本件は,控訴人が,下記(1)ないし(3)のとおり主張して,被控訴人に対し,@被控訴人が控訴人及び控訴人補助参加人に対し,本件各特許権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めるとともに,A控訴人が平成5年12月2日(本件通常実施権の許諾の日)から現在に至るまで被控訴人との間で締結した本件実施許諾契約に基づき控訴人補助参加人に対して本件各機械装置を使用させることができる地位にあったことの確認を求める事案である。なお,2 控訴人補助参加人は,原審において,控訴人のために補助参加した。
原審は,確認の利益がないとして本件訴えを却下したところ,控訴人補助参加人が控訴した。
(1)本件各特許権(原判決別紙3特許権目録記載の各特許権。以下,同目録記載1の特許権を「本件日本特許権」といい,本件各特許権に係る各発明を「本件各発明」という。なお,同目録記載2の特許権は本件米国特許権である。)の特許権者である被控訴人は,控訴人との間で,本件実施許諾契約を締結し,控訴人に本件通常実施権を許諾した。
(2)その後,控訴人は,本件各機械装置を製造し,これを控訴人補助参加人に販売し,控訴人補助参加人が,本件各機械装置を使用して本件各製品を製造し,これを販売した。
(3)被控訴人は,控訴人補助参加人に対し,米国において,控訴人補助参加人の行為が本件米国特許権を侵害するとして損害賠償請求訴訟(別件米国訴訟)を提起した。
2前提事実原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
3争点確認の利益の有無(1)被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(2)被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(3)控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益第3争点に関する当事者の主張1原判決の引用3 争点に関する当事者の主張は,下記2のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における当事者の主張〔控訴人及び控訴人補助参加人の主張〕(1)被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(争点(1))控訴人による本件各機械装置の製造・販売による本件各特許権に係る発明の実施と,控訴人補助参加人による本件各機械装置の使用による本件各特許権に係る発明の実施は表裏一体の関係にある。そして,被控訴人が控訴人補助参加人に対して別件米国訴訟を追行していることは,控訴人による控訴人補助参加人に対する本件各機械装置の販売が違法であることを根拠としており,実質的には,被控訴人が控訴人に対しても本件各特許権の侵害に基づく請求権があるとの権利主張をしているに等しい。控訴人補助参加人に対する本件各特許権の侵害に基づく損害賠償請求権の行使が維持されている限り,控訴人の権利ないし法的地位は危険・不安にさらされ続けている。
したがって,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は認められるべきである。
(2)被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(争点(2))控訴人が,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める実質的な対象は,本件実施許諾契約における販売禁止特約の存否である。そして,被控訴人は,現に当該販売禁止特約の存在を主張して別件米国訴訟を追行することで,控訴人の権利ないし法的地位に危険・不安を生じさせている。
したがって,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とす4 る損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は認められるべきである。
(3)控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益(争点(3))ア控訴人は,本件実施許諾契約の下で,本件各機械装置を製造し,控訴人補助参加人その他の者に販売して使用させることのできる権利(実施権)ないし法的地位を有していた。本件実施許諾契約には,控訴人による本件各特許権の実施範囲につき,地域,販売先等を限定する定めは一切ない。
なお,控訴人は,控訴人補助参加人に対し,控訴人補助参加人が本件各機械装置を使用することに関して,第三者から特許権行使により損害を被った場合には,その全ての損害を補償する旨合意している。
イ確認対象の当否上記権利(実施権)ないし法的地位を有していたことの確認は,過去の法律関係の確認ではあるが,それを確定することが,紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められるから,確認の利益が認められる。すなわち,被控訴人は控訴人補助参加人に別件米国訴訟を提起しているところ,仮に本件訴訟で,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることが認められたとすれば,その後,被控訴人が控訴人補助参加人に対して権利行使することは,控訴人のかかる法的地位を侵害するものになることは明らかである。したがって,仮に別件米国訴訟で被控訴人が勝訴したとしても,控訴人は,被控訴人に対して,被控訴人の不当な権利行使によって生じた損害として,控訴人が控訴人補助参加人に支払った求償金等の賠償を請求できることになる。その結果として,被控訴人の別件米国訴訟は事実上無意味なものに帰することになるから,被控訴人の権利行使を抑制する効果を有するものと考えられる。したがって,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認は,日米にまたがる三者間の本件紛争について,直接かつ抜本的な解決をもたらすものである。
5 ウ即時確定の利益控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認は,本件紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要な請求であるから,当然,即時確定の利益も認められる。
なお,被控訴人は,これまで控訴人に対して損害賠償請求をしておらず,本件訴訟手続における和解手続の中でも控訴人に対して今後も損害賠償請求をしないことを表明している。しかし,このような被控訴人の態度は,将来にわたって確実に損害賠償請求をしないことを保証するものではなく,既に係属している別件米国訴訟における控訴人補助参加人に対する請求を放棄するものでもない。被控訴人の上記態度は,本件実施許諾契約に基づき,控訴人補助参加人に本件各機械装置を使用させることができる控訴人の地位に対する危険,不安を何ら解消するものではない。
エしたがって,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益は認められるべきである。
(4)後記〔被控訴人の主張〕(4)について控訴人は,原判決後,被控訴人に対し,被控訴人による別件米国訴訟について,不当訴訟として不法行為に当たる,又は,本件実施許諾契約の債務不履行に当たるとして損害賠償請求訴訟を提起し,控訴人補助参加人は,原判決後,被控訴人に対し,被控訴人による別件米国訴訟について,不当訴訟として不法行為に当たるとして損害賠償等請求訴訟を提起した(以下「別件大阪訴訟」という。)。
しかし,そもそも,控訴人補助参加人による別件大阪訴訟の既判力や争点に関する判断について生じた効力は,控訴人には及ばない。
また,控訴人による別件大阪訴訟と本件訴訟の訴訟物が別個であることは明らかである。そして,争点の一部が関連する確認訴訟と給付訴訟が係属しても,当該確認訴訟における確認の利益が否定されることはない。さらに,控訴人が控訴人補助6 参加人に本件各発明に係る特許を実施させることができる地位が確認されれば,本件紛争について直接かつ抜本的な解決をもたらす。
したがって,控訴人らが別件大阪訴訟を提起したことをもって,本件訴訟について確認の利益を欠くに至ったということはできない。なお,被控訴人は,本件訴訟の存在を理由に控訴人による別件大阪訴訟について訴権の濫用であると主張しており,被控訴人のかかる応訴態度は訴訟上の信義則に反するものである。
(5)小括以上によれば,本件不存在確認請求及び本件地位確認請求に係る訴えは,いずれも確認の利益がある。
〔被控訴人の主張〕(1)被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(争点(1))被控訴人は,控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使しない旨明確にしている。控訴人と被控訴人との間で,本件各特許権の侵害をめぐる紛争は現に存在しないから,控訴人の確認の訴えは,即時確定の利益を欠く。
したがって,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は認められない。
(2)被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(争点(2))仮に,被控訴人の控訴人補助参加人に対する,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の不存在が判決で確認されても,その既判力は控訴人補助参加人には及ばない。よって,控訴人が控訴人補助参加人から求償権を行使されるおそれを除去することはできない。
したがって,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は認められない。
(3)控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装7 置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益(争点(3))ア現在の上記地位の確認を求める訴えについては,本件各特許権が既に存続期間の満了により消滅している以上,即時確定の利益を欠く。
イ過去の上記地位の確認を求める訴えについては,被控訴人は控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使しない旨明確にしている。これに反して被控訴人が控訴人に対して損害賠償請求権を行使すれば,控訴人は信義則違反等の抗弁により当然に防御できるから,控訴人の権利又は法律上の地位に危険・不安は生じていない。
また,仮に,被控訴人・控訴人間で,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることが確認されても,被控訴人・控訴人補助参加人間の別件米国訴訟には影響を与えないから,何ら紛争の抜本的な解決につながらない。
よって,控訴人の過去の法律上の地位を確定する必要性はない。
ウしたがって,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益は認められない。
(4)別件大阪訴訟について控訴人及び控訴人補助参加人は,本件訴訟と同様に,別件大阪訴訟においても販売禁止特約の有無が争点になると主張している。確認訴訟である本件訴訟よりも,給付訴訟である別件大阪訴訟の方が,紛争解決手段としてより適切であるから,本件訴訟について,確認を求める利益は認められない。
(5)小括以上によれば,本件不存在確認請求及び本件地位確認請求に係る訴えは,いずれも確認の利益がない。
第4当裁判所の判断当裁判所は,被控訴人が控訴人及び控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害8 を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益(争点(1)及び(2))はあるが,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益(争点(3))はないと判断するものである。
その理由は,以下のとおりである。
1本件各特許権及び本件実施許諾契約(1)証拠(甲1,によれば,2)本件各特許権について,次の事実が認められる。
ア本件日本特許権に係る発明のうち,請求項1に記載された発明は,樹脂フィルムの製造方法に関するものであって,物を生産する方法の発明である。請求項2ないし4に記載された発明は,樹脂フィルムの製造装置及び製造設備に関するものであって,物の発明である。
イ本件米国特許権に係る発明のうち,クレーム1ないし3に記載された発明は,樹脂フィルムの製造方法に関するものであって,物を生産する方法の発明である。
クレーム4ないし6に記載された発明は,樹脂フィルムの製造装置及び製造設備に関するものであって,物の発明である。
ウ本件各特許権は,いずれも平成22年までに存続期間の満了により消滅した。
(2)証拠(甲3)によれば,本件実施許諾契約に関する契約書には,本件実施許諾契約について,下記のとおり,記載されていることが認められる。なお,「甲」は被控訴人,「乙」は控訴人,「本特許権」は本件各特許権等を意味する。
記甲は,本特許権についてその範囲全部にわたる独占的通常実施権を乙に許諾する。但し甲及び甲の関係会社である米国法人アライドアピカル株式会社は,第三者からの本特許権の請求範囲に含まれる装置及び設備の購入も含め無条件で本特許権を実施できるものとする。
2争点(1)(被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益)について9 (1)前提事実(引用に係る原判決第2の1(5))のとおり,被控訴人は,別件米国訴訟において,控訴人補助参加人に対し,控訴人補助参加人が本件各製品を製造販売した行為について,本件米国特許権の侵害を理由として損害賠償請求をしているものである。そして,前提事実(引用に係る原判決第2の1(3)及び(4))のとおり,本件各製品の製造のために用いられた本件各機械装置を製造し,これを控訴人補助参加人に販売したのは控訴人である。
また,当審第1回口頭弁論期日において,被控訴人が,被控訴人は控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有する旨陳述したことは,当裁判所に顕著である。
そうすると,控訴人と被控訴人との間に本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の存否について争いがあり,控訴人は,被控訴人から,上記損害賠償請求権を行使されるおそれが現に存在するというべきである。したがって,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める訴えは,即時確定の利益を有する。
(2)被控訴人の主張についてア被控訴人は,控訴人による本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を行使しない旨明確にしているから,上記損害賠償請求権の不存在を確認する訴えは,即時確定の利益を欠くと主張する。
しかし,被控訴人が,本件訴訟の提起前に,控訴人に対し,控訴人による本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を主張し,又はこれを行使したことはなく,さらに,原審第4回弁論準備手続期日において,被控訴人は控訴人に対し,上記損害賠償請求権を将来にわたって主張及び行使しない旨の一部和解に応じられる旨述べていたとしても,控訴人と被控訴人の間では,上記損害賠償請求権の存否については争いが存在するものである。また,被控訴人は,上記のとおり述べたとしても,これにより上記損害賠償請求権を行使しないことについて法的義務を負うに至ったものではなく,将来にわたって確実に権利行使をしないことを保証するものとはい10 えない。
したがって,前記損害賠償請求権の不存在を確認する訴えについて即時確定の利益を欠くとの被控訴人の前記主張は,採用できない。
イ被控訴人は,控訴人らが,別件大阪訴訟を提起したから,本件訴訟は確認の利益を欠く旨主張する。
しかし,別件大阪訴訟は,控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人補助参加人による本件米国特許権の侵害を理由として別件米国訴訟を提起したことについて,不法行為又は本件実施許諾契約の債務不履行に当たるとして損害賠償金の支払等を求めるものである(乙4,5)。一方,本件訴訟の争点(1)に係る部分は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人による本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めるものである。両訴訟の訴訟物が相違するだけではなく,審理の対象となる不法行為ないし債務不履行行為の内容も,全く異なる。
よって,控訴人らが原判決後に別件大阪訴訟を提起したからといって,本件訴訟の確認の利益が失われることはなく,被控訴人の上記主張は,採用できない。
(3)以上によれば,被控訴人が控訴人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は,存するというべきである。
3争点(2)(被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益)について(1)確認対象の適否ア控訴人は,被控訴人に対し,第三者である控訴人補助参加人が本件各特許権を侵害しておらず,被控訴人に対し不法行為に基づく損害賠償債務を負わない旨の確認,すなわち,被控訴人と第三者との間の権利法律関係の確認を求めている。控訴人が,かかる損害賠償請求権の不存在の確認を求める趣旨は,本件通常実施権を有する控訴人が本件各機械装置を製造販売したから,もはや本件各特許権の効力は,控訴人補助参加人による本件各機械装置の使用及び本件各製品の製造販売には及ば11 ず,本件各特許権を侵害しない旨の確認を求めようとするにあるものと認められる。
そして,本件において,訴訟物たる被控訴人の控訴人補助参加人に対する本件各特許権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の存否について判決の主文を導き出すためには,@控訴人補助参加人による本件各機械装置の使用及び本件各製品の製造販売が,本件各発明の実施行為等に当たるとの主要事実に係る認定及び法律判断に加えて,A本件通常実施権を有する控訴人が本件各機械装置を製造販売したことにより,本件各特許権の効力が,控訴人補助参加人による本件各機械装置の使用及び本件各製品の製造販売には及ばないとの主要事実に係る認定及び法律判断も,必要なものということができる。
ここで,上記@及びAの認定及び判断は,控訴人の被控訴人に対する権利法律関係を導き出すに当たっても必要なものということができる。すなわち,控訴人は,本件各機械装置を販売する際,少なくともその一部については,控訴人補助参加人との間で,控訴人補助参加人が本件各機械装置を使用することに関して,第三者から特許権行使により損害を被った場合には,控訴人がその全ての損害を補償する旨合意しているところ(甲32〜34),別件米国訴訟の第一審では,控訴人補助参加人による本件米国特許権の侵害を理由として,控訴人補助参加人に対し損害賠償を命ずる判決が言い渡されているから(引用に係る原判決第2の1(5))控訴人は,,控訴人補助参加人に,損害を補償しなければならない可能性が高い。そこで,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人補助参加人に対し別件米国訴訟を提起したことにより,控訴人が補償することになる損害金相当額について,本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求ができる旨主張するところ,かかる権利法律関係を導き出すに当たっては,本件訴訟の判決の理由中における上記@及びAの認定及び判断と同様の認定及び判断が必要になる。今後,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件日本特許権の侵害を理由とする損害賠償請求を提起した場合にも,同様のことがいえる。
イまた,上記Aの認定及び判断に当たっては,本件実施許諾契約の解釈が不可12 欠であるところ,販売禁止特約の有無を含む本件実施許諾契約の具体的な内容の主張立証については,控訴人補助参加人よりも,契約当事者である控訴人の方が,これを充実して行うことができるものである。
さらに,被控訴人は,控訴人補助参加人に対して,本件米国特許権の侵害を理由として別件米国訴訟を提起したのであるから,販売禁止特約の有無を含む本件実施許諾契約の具体的な内容という,別件米国訴訟の結論にも影響し得る争点について,現時点で,主張立証を求められることになっても,やむを得ないものである。
ウこのような本件における各事情を考慮すれば,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人補助参加人が本件各特許権を侵害しておらず,被控訴人が控訴人補助参加人に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない旨の確認を求めることは,控訴人の被控訴人に対する権利法律関係を明らかにし,控訴人の地位の不安を除去するために,有効適切なものということができる。
(2)即時確定の利益被控訴人は控訴人補助参加人に対し,控訴人補助参加人による本件米国特許権の侵害を理由として別件米国訴訟を提起し,その第一審では,控訴人補助参加人による本件米国特許権の侵害を理由として,控訴人補助参加人に対し損害賠償を命ずる判決が言い渡されている。また,その結果,控訴人は,控訴人補助参加人に,損害を補償しなければならない可能性が高い。そうすると,被控訴人が控訴人補助参加人に別件米国訴訟を提起したことにより,控訴人が補償することになる損害金相当額について,控訴人が,被控訴人に対し,本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求等を求め得る権利法律関係を有するか否かについて,控訴人には現実の不安が生じているというべきである。被控訴人は別件米国訴訟を提起しており,今後,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件日本特許権の侵害を理由とする損害賠償請求を提起する可能性も充分に認められるから,本件日本特許権についても,同様のことがいえる。
そうすると,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,13 本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める訴えについて,即時確定の利益があるというべきである。
(3)被控訴人の主張についてア被控訴人は,被控訴人の控訴人補助参加人に対する,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の不存在が判決で確認されても,その既判力は控訴人補助参加人には及ばないから,控訴人が控訴人補助参加人から求償権を行使されるおそれを除去することはできない旨主張する。
しかし,本件訴訟の判決の理由中における前記@及びAの認定及び判断は,控訴人が控訴人補助参加人から損害の補償を求められるおそれを除去できるか否かについてのみ影響するものではない。前記のとおり,控訴人の被控訴人に対する,本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権の存否を導き出すに当たっては,本件訴訟の判決の理由中における前記@及びAの認定及び判断と同様の認定及び判断が必要になるものである。控訴人の権利法律関係を明らかにし,その地位の不安を除去するため,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人と第三者である控訴人補助参加人との間の権利法律関係の確認を求めることが有効適切か否かを決するに当たり,当該確認判決の既判力のみを考慮すべきものとはいえない。
よって,控訴人補助参加人に判決の既判力が及ばないことのみをもって確認の利益を否定する被控訴人の上記主張は採用できない。
イ前記2(2)イと同様に,被控訴人は,控訴人らが被控訴人に対し,別件大阪訴訟を提起したから,本件訴訟は確認の利益を欠く旨主張する。
しかし,別件大阪訴訟は,控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて,不法行為又は本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償金の支払等を求めるものである。一方,本件訴訟の争点(2)に係る部分は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,控訴人補助参加人による本件各特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求めるものである。両訴訟の訴訟物が相違するだけではなく,審理の対象となる不14 法行為ないし債務不履行行為の内容も,全く異なる。本件訴訟が別件大阪訴訟の補充的なものということもできない。
よって,控訴人らが原判決後に別件大阪訴訟を提起したからといって,本件訴訟の確認の利益が失われることはなく,被控訴人の前記主張は採用できない。
(4)小括以上によれば,被控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求める利益は,存するというべきである。
4争点(3)(控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益)について(1)本件各特許権が消滅した日までにおける地位の確認を求める利益控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件通常実施権の許諾の日から本件各特許権が消滅した日まで,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあったことの確認を求める訴えは,過去の法律上の地位の確認を求めるものである。
そして,前記2及び3のとおり,控訴人の被控訴人に対する権利法律関係を明らかにし,控訴人の地位の不安を除去するために,控訴人は,被控訴人に対し,控訴人及び控訴人補助参加人が本件各特許権を侵害したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を被控訴人が有しない旨の確認を求めることができる。したがって,上記のとおり,過去の法律上の地位の確認を認める必要はないというべきである。
よって,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件通常実施権の許諾の日から本件各特許権が消滅した日まで,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあったという,控訴人の過去の法律上の地位は,確認対象として適切ではないというべきである。
15 (2)なお,本件各特許権が存続期間の満了により消滅した日以降については,本件各機械装置の使用について,本件各特許権の侵害はあり得ず,被控訴人もこれを自認している。
したがって,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件各特許権が消滅した日から現在に至るまで,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める訴えも,即時確定の利益を欠く。
(3)控訴人及び控訴人補助参加人の主張について控訴人及び控訴人補助参加人は,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることを確認することは,日米にまたがる三者間の本件紛争について,直接かつ抜本的な解決をもたらす旨主張する。
しかし,控訴人が控訴人補助参加人に本件各機械装置を使用させることができる地位にあったことが確認されたとしても,控訴人補助参加人による本件各製品の製造販売行為(本件各発明のうち物を生産する方法の発明の実施行為)等についても本件各特許権の侵害行為に当たらないことが確認されなければ,本件紛争の解決には至らない。なお,上記地位の確認が,控訴人補助参加人による本件各機械装置の本来の用法に従う使用による本件各製品の製造及びその販売行為が,本件各特許権の侵害行為に当たらないことの確認をいうものと解することは,困難である。
したがって,上記地位の確認により,本件紛争が直接かつ抜本的に解決に至る旨の控訴人及び控訴人補助参加人の上記主張は,採用できない。
(4)小括以上によれば,控訴人が控訴人補助参加人に対し,本件実施許諾契約に基づき本件各機械装置を使用させることができる地位にあることの確認を求める利益は,存しないというべきである。
5結論よって,被控訴人が控訴人及び控訴人補助参加人に対し,本件各特許権の侵害を16 理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認するとの訴えには,確認の利益があるから,原判決のうち,この訴えを却下した部分を取り消し,当該部分につき本件を東京地方裁判所に差し戻すこととし,また,本件控訴のうちその余の部分は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官高部眞規子裁判官杉浦正樹裁判官片瀬亮17