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関連審決 無効2001-35062
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10319審決取消請求事件 判例 特許
平成20ワ25354特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成17行ケ10137審決取消(特許)請求事件 判例 特許
平成14行ケ362特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10211審決取消当事者参加事件 判例 特許
関連ワード 考案者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  参酌 /  均等 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 347号 審決取消請求事件
原告 松下電器産業株式会社
訴訟代理人弁護士 松尾和子
同 渡辺 光
訴訟代理人弁理士 大塚文昭
同 竹内英人
被告 山洋電気株式会社
訴訟代理人弁護士 大場正成
同 尾崎英男
同 嶋末和秀
訴訟代理人弁理士 西浦嗣晴
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2001-35062号事件について平成14年5月31日にした審決のうち「特許第2677265号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする 2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ヒートシンク装置」とする特許第2677265号の特許(昭和60年8月29日出願の特願昭60-190818号(以下「原出願」という。)の分割出願として出願され(特願平8-189122号,以下「本件出願」という。),平成9年7月25日設定登録。以下「本件特許」という。発明の数も請求項の数も1である。本件出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,以下「本件明細書」という。なお,登録後,後記本件訂正請求により,特許請求の範囲の訂正及びこれに伴う発明の詳細な説明の訂正がなされている。)の特許権者である。
被告は,平成13年2月15日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した。特許庁は,これを無効2001-35062号事件として審理した。
原告は,審理の過程で,平成14年1月7日,特許請求の範囲の訂正を含む,本件明細書の訂正を請求した(以下,「本件訂正請求」という。本件訂正請求の内容は,甲第3号証(訂正請求書)記載のとおりである。以下,これによる訂正後の明細書を,「訂正明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成14年5月31日,「訂正を認める。特許第2677265号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年6月13日,その謄本を原告に送達した。
2 訂正明細書に係る特許請求の範囲(別紙1参照) 略四辺形状の,一方の面に発熱素子を取付可能で機器本体内部に配置されるヒートシンク基盤と,前記ヒートシンク基盤の他方の 面に複数立設されたフィンと,前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に備えられたファンと,前記ファンを回転する駆動手段とを備え,前記フィンの内端部は前記ファンの半径方向の外端部の 少なくとも一部と直接対向するとともに前記複数のフィンは外端輪郭形状が略四角形で,前記ファンの回転により前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側の垂直方向から空気を吸い込み,前記フィンに沿って四方向に空気を吹き出すことを特徴とするヒートシンク装置。
(判決注・下線部が本件訂正請求による追加訂正部分である。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正を認めた上,訂正明細書記載の特許請求の範囲によって特定される発明(以下「本件発明」という。)は,実開昭57-140668号公報(審判甲第4号証・本訴甲第7号証,以下,審決と同じく「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と,実公昭51-21601号公報(審判甲第2号証・本訴甲第5号証,以下,審決と同じく「引用例2」という。)に記載された発明(以下,審決と同じく「引用発明2」という。)とに基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,本件特許は,特許法29条2項に違反し,無効とすべきものである,とするものである。
4 審決が認定した,引用発明1の内容,本件発明と引用発明1との一致点・相違点 (1) 引用発明1の内容(別紙2参照) 「引用例1の実願昭56-26064号(実開昭-57-140668号)のマイクロフィルムには,ペルチエ効果素子から成るマイクロクーラー等に用いられるのに適した放熱器,特にフィン型放熱器の改良に関する発明が,第1〜第3図とともに開示され,さらに,以下の事項が記載されている。
「本考案の放熱器10は,ペルチエ効果素子14の発熱面14bに接合される吸熱板16とこの吸熱板に取り付けられた複数のフイン18とから成っている。・・・複数のフイン18は,第2図に示すように,放射状に配列されて吸熱板16に・・・固着されている。
図示のマイクロクーラー12は,第1図に示すように,放熱器10の前面に取り付けられた小型ファン20を備え,この小型ファンは放熱器10のフィン前面に取り付けられた吸熱取付板22を介して取り付けられている。この吸熱取付板22は,第3図に示すように,フィンの一部が小型ファン20からの冷風に接触するようにフィンを露出する孔22aを有する。
・・・吸熱板16が被吸熱体に熱伝導関係を保って取り付けることにより,種々の物体の放熱に使用することができる。
本考案によれば,・・・取り付け位置が拘束されることがなく,特に正面からファンの冷風を受けてもこの冷風をフィンに沿って均等に放射方向に放散し,ファンの取付位置を自由に設定することができる。」(2頁16行〜4頁5行)」(審決書7頁27行目〜8頁10行目) (2) 本件発明と引用発明1との一致点 「「略四辺形状の,一方の面に発熱素子を取付可能なヒートシンク基盤と,前記ヒートシンク基盤の他方の面に複数立設されたフィンと,前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に備えられたファンと,前記ファンを回転する駆動手段とを備え,前記複数のフィンは外端輪郭形状が略四角形で,前記ファンの回転により前記ヒートシンク基盤をフィンの立設した側の垂直方向から空気を吸い込み,前記フィンに沿って四方向に空気を吹き出すヒートシンク装置」の点」(審決書11頁24行目〜30行目) (3) 本件発明と引用発明1との相違点 「(1)ヒートシンク基盤について,本件特許発明は,「機器本体内部に配置される」ものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,そのようなものか否か不明である点。
(2)フィンとファンの配置関係について,本件特許発明は,「フィンの内端部はファンの半径方向の外端部の少なくとも一部と直接対向する」ものであるのに対し,引用例1に記載された発明はそのようなものではない点。」(審決書11頁32行目〜12頁1行目) (以下,それぞれ「相違点1」,「相違点2」という。)
原告の主張の要点
審決は,引用発明2(別紙3参照)の理解を誤るなどして,相違点1及び相違点2についての判断を誤り(取消事由1及び2),あるいは引用発明1と引用発明2とを組み合わせる動機付けがないことを看過した結果,両相違点についての判断を誤った(取消事由3)ものであり,これらの誤りはそれぞれ結論に影響することが明らかであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 審決は,相違点1について, 「引用例1に記載された放熱器が,マイクロクーラーだけでなく種々の物体の放熱に使用することができること,また,箱体内部に設けた発熱体を冷却するために,発熱体に冷却のためのファンを取り付けることは,本件特許に係る出願前において普通に知られていたこと(必要ならば,請求人が提出した丙第2号証の実願昭57-67664号(実開昭58-170845号)のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第13号証),同丙第3号証の実願昭58-100667号(実開昭60-9292号)のマイクロフィルム(判決注・本訴甲第14号証)参照)を考慮すると,引用例1に記載された放熱器を機器本体内部に配置するようなことは容易に想到することができたものと認められる。」(審決書12頁4行目〜12行目) と認定判断している。
(2) 引用例1は,引用発明1を機器本体に内蔵することについて,何ら示唆も開示もしていない。それどころか,同引用例において明確に述べられているとおり,引用発明1の構成要素であるペルチェ効果素子は,マイクロクーラーにおける冷却素子として用いられるものであって,電子機器本体に配置して用いられるものではない。
当業者が,引用例1に接しても,引用発明1を機器内部に設置しようと考えることはあり得ない。
(3) 引用発明1は,甲第18号証(特開昭56-105696号公報)のマイクロクーラーの放熱器及びファンの部分の構成要素だけを取り出し,出願したものである。そして,その甲第18号証には,「電気機器又は電子機器等のケースを貫通して取付けられてケース内の電気機器又は電子機器等の部品を冷却する」(2頁左上欄14行目〜16行目)と記載されている。これによれば,引用発明1は,吸熱板を電子機器本体の壁面に設け,フィン及びファンを外側に配置するものとして開示されていることが,明らかである。
(4) 乙第1号証(「エレクトロニクス」昭和55年4月号)に記載されているマイクロクーラーが,甲第18号証に記載されているマイクロクーラーと同一であるとしても,乙第1号証中の「小型機器に組込できるOEMパーツです」との記載は,ケースを貫通して取り付ける,との趣旨にすぎない。
マイクロクーラーに関する情報を開示する乙第2号証(「パルス電子ホームページ」)及び乙第3号証(「住友軽金属ホームページ」)は,本件出願当時のものではなく,本件の参考になるものではない。
乙第2号証記載のマイクロクーラーは,それを装置内部に取り付けるのか,ケースに取り付けるのか明らかではない。乙第4号証(科学機器総覧2001/2002ホームページ)に記載されているのは,ユニットクーラーであり,マイクロクーラーではない。
乙第1号証ないし第4号証には,マイクロクーラーが機器に内蔵されるという技術常識は開示されていない。
(5) 審決が指摘するとおり,引用例1には,「種々の物体の放熱に使用することができる。」(甲第7号証3頁15行目〜16行目),との記載がある。しかし,同引用例は,放熱器を取り付ける位置については,何らの開示もしていない。
この記載は,放熱すべき物体を,引用発明1の吸熱面14aに接触させる,ということを意味するにとどまる。放熱器まで含めて,電子機器の本体内部に配置するという解釈は,上記記載からは導き出せないのである。
(6) 審決は,上記のとおり,「箱体内部に設けた発熱体を冷却するために,発熱体に冷却のためのファンを取り付けることは,本件特許に係る出願前において普通に知られていた」,と説示する。しかし,そのような構成は,引用例1には開示も示唆もない。
(7) 引用発明2は,「ロツカー外壁の構成要素となる放熱板3」(甲第5号証21頁2欄11行目〜12行目)を備えるものであり,これは,外壁の一部を構成するにすぎないから,機器内部に内蔵されるヒートシンク基盤ではない。また,引用発明2の放熱ユニットは,「放熱ユニット2は図に示すように,ロツカーの1壁部として機能し,ロツカーに取り付け自在の構成体である。」(同1頁2欄7行目〜9行目)とされており,これも,壁材の一部であるから,機器本体に内蔵されてはいない。
本件発明と引用発明2とのそれぞれの構成には,相違点1との関連において,実質的な差異がある。引用発明2にも,冷却装置を機器本体に内蔵するとの構成は開示されていない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点2について, 「引用例2におけるファン風路が,「上枠板4とガイド板5から成るファン支持体と放熱板3との間に形成され」,このガイド板5が,「吸込口4aからファン7の回転により流入する風を外側方向に放出する案内羽根の機能と共に,下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能を併せ有している」旨の記載(2欄17〜25行)と,第1図に記載された矢印とを参照すると,点線で描かれたファンは,ガイド板の陰になっているものとみるのが合理的であって,被請求人(判決注・原告)が主張するように,ファンがケースに覆われているとすると,吸込口から流入した風は再び吸込口から流出するしかないことになって,ファン風路が複雑になるから,上記主張は採用できない。」(審決書12頁22行目〜30行目) としている。
(2) 引用例2には,ガイド板5の内端部と放熱ファン7の半径方向の外端部とが直接対向している,との記載は全くない。
引用例2には,「放熱フアンの回転により外気は上枠板の吸込口からユニツト本体に流入し,下枠板に衝突してその熱を奪う」(2頁3欄3行目〜5行目)との記載があり,第1図における風の流れを示す矢印も,そのように作図されている。
このように,引用発明2では,ファンによって起こされた風は,下枠板に衝突させられるのであるから,ファンの半径方向の外周にケースがあっても何の不都合もなく,むしろ,その方が空気が拡散せずに下枠板に当たるため,効率がよいのである。そして,下枠板とケースとの間に風路を設ければ,そこから風が抜けることが可能となるから,吸込口から流入した風が,再び吸込口から流出することもない(甲第13号証ないし第15号証)。
(3) 引用例2の第1図の断面図では,ガイド板がファンを覆う部分は,ごくわずかのはずであるから,ガイド板があっても,その隙間から,ファンが見えるはずである(第3図(A)及び(B)参照)。にもかかわらず,ファンが点線で描かれているのは,ケースがあり,そのためファンが見えないからである(引用例2におけるのと同一の考案者,出願人,出願日の出願に係る公報(甲第16号証)参照)(別紙4参照)。
(4) 以上のとおり,引用例2には,ファンの半径方向の外端部にケースが設けられている構成が開示されているにすぎない。
そのころは,そのような構成が,むしろ一般的であった(甲第6号証,第13号証ないし第15号証)。
(5) 引用発明2には,本件発明のような,ファンとフィンとを特定の位置に配置することにより,フィンに,ファンのケーシングを兼ねさせて,冷却効率を上げ,装置を小型化するという技術思想もない。
この点につき,審決は, 「フィンとファンを特定の配置関係にすることは,その放熱ユニットの大きさ,すなわち放熱ユニットの厚さを決定する1つの要因となることは明らかである。そうすると,フィンとファンを特定の配置関係にすることは,電子機器全体を対象とした冷却装置の小型化という目的において,技術的な意味を持つこととなる。」(審決書13頁21行目〜25行目) としている。しかし,そのようなことは,引用例2には開示も示唆もされていない。
(6) したがって,引用発明1と引用発明2とを組み合わせても,相違点2に係る本件発明の構成,すなわち,フィンの内端部がファンの半径方向の外端部の少なくとも一部と直接対向する構成に,想到することはできない。
3 取消事由3(引用発明1と引用発明2との組合せの困難性)について 上記のとおり,引用発明1と引用発明2とを組み合わせても,本件発明の構成に想到することは困難である。この点はおくとしても,そもそも,これら両発明を組み合わせること自体,その動機付けが存在せず,困難である。
(1) 引用発明1は,特定の素子のみを冷却する装置である。引用発明2は電子機器全体を冷却する装置である。両者は,その大きさ,性能,目的がいずれも異なり,一方の技術を他方に用いることは容易でない。
電子機器全体の冷却装置(これは,特定の素子を冷却する装置より先に存在したものである。)は,機器本体内にこもった熱を外部に放出するものである。
機器本体が大きいため,それに比べて小さくなければならないとしても,なお大きさの制約は厳しくない。また,外部の冷たい空気を内部に取り込み,内部の温かい空気を外部に放出するという方法を採ることが可能である。
これに対し,特定の素子を冷却する装置は,その素子自体が小さく,しかも機器に内蔵されるため,大きさに対する制約が厳しい。しかも,換気による冷却があり得ないため,冷却方法も,素子に直接風を当てる,素子に密着させたヒートシンクに熱を吸収させた上で,このヒートシンクを送風により冷やすなどに限られることになる。
以上の点で,電子機器全体を冷却する引用発明2の構成を,素子単体の冷却を目的とする引用発明1に応用すること自体,困難である。
(2) 引用発明2は,密閉型の電子機器装置の冷却装置である。すなわち,換気により内部を冷却する構造ではないから,内部にこもった熱を効率よく吸収するため,下枠板に設ける吸熱フィンが不可欠である。引用発明2から,不可欠の構成要素である吸熱フィンを切り捨て,ファンの部分だけ取り出すことは,容易に推考できることではない。
他方,引用発明1の吸熱板は,素子に直接取り付けて密着させるため,平面にすることが求められる。引用発明2におけるような吸熱フィンは,不要であるばかりでなく,素子と密着させるためには有害である。
このような両者を組み合わせることは,容易に想到できることではない。
(3) 引用例2には,「ロツカー壁部の構成要素であるため簡単に外部からの取付取替が可能である。従つて保守点検作業が極めて有利になる」(4欄13行目〜15行目),「ユニツトとして各種の機器に同一形成のものを適用できる」(同欄17行目〜18行目)との記載がある。
引用発明2の下枠板に,発熱素子を直接取り付けると,上記のような簡単な取付取替や,同一規格のものを異なる装置間で流用することができなくなって,引用発明2の作用効果が発揮できなくなる。
(4) 引用発明1と引用発明2とを組み合わせることは,物理的にも不可能である。
引用例1の第1図ないし第3図(別紙2参照)によれば,吸熱取付板22及びフィン10が障害となって,ファンをフィンと同じ高さのところに取り付けることはできない。ファンの羽根部分だけを,フィン10と同じ高さのところに取り付けようとしても,ファンの20の外径がフィン10の内端部で形成される円よりも大きいため,やはり不可能である。
(5) 本件発明には,冷却装置の小型化・薄型化と,冷却能力の向上とを両立させるという,顕著な作用効果がある。本件発明が,このような顕著な作用効果を有することは,被告自身認めるところである(甲第17号証)。顕著な作用効果がないとして,本件発明の進歩性を否定する被告の主張は前提からして誤っている。
(6) 顕著な作用効果は,発明の進歩性を判断する一要素にすぎない。複数の技術を組み合わせることの動機付け自体が乏しければ,作用効果の顕著性を問題にするまでもなく,進歩性が認められるべきである。
(7) 発明は,もともと従来技術の寄せ集めである場合が多い。従来技術の寄せ集めである場合のすべてについて進歩性が否定されるものではないことは,いうまでもない。
被告自身認めるとおり,引用発明1と引用発明2とは,有機的関連性を持たず,これらを結び付けるための動機付けがない。そうである以上,これらを組み合わせた構成には進歩性が認められるべきである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対して (1) ペルチェ効果素子が機器本体内に配置されることはない,という原告主張の前提自体,根拠がない。
(2) 引用発明1は,その登録請求の範囲において,ペルチェ効果素子を用いることを構成要件としていない。引用発明1は,ペルチェ効果素子を取り付けて使用することを必須の構成とする放熱器ではなく,正に種々の物体の放熱に使用することができる,というものである。
「マイクロクーラー」という言葉は,一般用語として,ペルチェ効果素子を用いない装置にも用いられている(乙第2号証ないし第4号証)。
(3) 引用発明1の出願者は,出願時以前から,ペルチェ効果素子を用い,電子機器本体に内蔵される装置を,マイクロクーラーと呼んでいた(乙第1号証) (4) 引用発明1を,機器内部に配置して使用することを阻害する技術的な事情は存しない。
(5) たとい,本件発明が,機器本体内部に配置されることをその構成要件とするものであるとしても,電子機器内部の熱を吸収することを目的とするヒートシンク装置を,機器内部に設けることは,何ら特別なことではない。そのような構成に特別の技術的意味があるとする原告の主張自体が,不合理である。
(6) そもそも,本件発明において,機器本体に内蔵されるのは,ヒートシンク装置全体ではなく,ヒートシンク基盤である。引用発明2においても,ヒートシンク基盤(吸熱フィン3aを有する下枠板3)は,電子機器本体内部に配置されている,ということができる。
引用例2にも,相違点1に係る本件発明の構成は現れている。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して (1)ア 引用例2には,ファンの外周とガイド板5の内端との間に,ファンを囲むケースが存在することなど,どこにも書かれていない。
むしろ,引用例2においては,そこに記載されているどの実施例においても,放熱板3,3’,3”とファン支持体4,4’との間に風路が形成されることが,登録請求の範囲の記載から明らかである。
イ 甲第16号証(実開昭51-21603号公報)は,ファン8によりロッカー1内の空気を強制的にフィン3aに向けて流すものである。このファン8は,四角い線で明確に図示されたケーシングを施されて,フィン3aの下側に配置されている。ケーシングがあって外から見えないのであるから,点線で描かれることは当然である(第1図)(別紙4参照)。
これに対し,引用発明2のファン7には,そのようなケーシングは描かれていない(第1図)。ファン7が点線で描かれているのは,ガイド板の陰に隠れて,ファン7が側方から見えにくいためである。すなわち,引用発明2においては,ガイド板5がファン7のケーシングの役割を果たしているのであり,別途ケーシングが存在するのではない。
ウ 甲第13号証ないし第15号証には,ファンを覆う四角形のケーシングが明確に描かれている(甲第13号証につき別紙5,第14号証につき別紙6,第15号証につき別紙7参照)。
引用例2と,甲第13号証ないし第16号証とでは,図示の内容が全く異なる。甲第13号証ないし第16号証は,引用例2の図示の意味を解釈するための参考にはならない。
エ 甲第13号証ないし第15号証に記載されている冷却装置は,引用発明2のように,ファンの周囲がガイド板(板状のフィン)で囲まれている構成のものではない。
甲第6号証の冷却装置は,ファン8がヒートシンク基盤である放熱体5に埋め込まれた特殊な構造のもので,やはり引用発明2とは構造が異なる。
上記の各証拠の記載は,引用発明2を,原告が主張するように解釈する根拠とはなり得ない。
(2)ア 原告は,引用発明2には,フィンとファンとの配置関係(ガイド板の内端部をファンの半径方向の外端部の少なくとも一部と直接対向させる)により,冷却装置を小型化する技術思想はないから,引用発明1と引用発明2とを組み合わせても,相違点2に係る本件発明の構成に想到することは容易ではない,と主張する。
イ フィン(ガイド板5)をファン(ファン7)の周囲にケーシングのように配置する構成自体は,引用例2に記載されている。
他方,訂正明細書には,ファンとフィンとの配置関係が,どのように冷却効率を高め,省スペース化に役立つかについての記載がある。しかし,これは,原発明(分割出願により本件出願がなされた後も原出願に残された発明)に関して,記載されたものにすぎない。
結局,引用例2と訂正明細書とでは,相違点2に係る事項に関する限り,その開示内容について何ら異なるところはないのである。
3 取消事由3(引用発明1と引用発明2との組合せの困難性)に対して (1) 本件発明も,引用発明1も,ヒートシンク基盤の一方の面に発熱素子を取り付けることが可能なものである。そして,両者とも,特定の素子のみを冷却することを特徴とする装置であるなどとはされていないものである。また,本件発明は,電子機器全体を冷却する装置をも含むものである。
そうすると,本件発明からみれば,引用発明1と引用発明2とは,属する技術分野を同じくする装置であることが明らかである。
(2) 本件発明は,引用発明1と引用発明2とにそれぞれ開示された技術を単に寄せ集めただけのものである。寄せ集めることに何ら阻害事由はなく,寄せ集めにより格別の効果が得られるものでもない。
仮に,引用発明1と引用発明2との組合せに動機付けがないとしても,本件発明は,新規な組合せにより顕著な作用効果が得られるものではないから,進歩性が肯定されることはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用例1には,以下のとおりの記載がある。
ア「2.実用新案登録請求の範囲 吸熱板と前記吸熱板に取付けられた多数のフインとから成る放熱器において,前記複数のフインは放射状に配列されていることを特徴とする放熱器。」(甲第7号証1頁4行目〜8行目) イ「本考案は,例えばペルチエ効果素子から成るマイクロクーラー等に用いられるのに適した放熱器,特にフイン型放熱器の改良に関するものである。」(同1頁10行目〜13行目) ウ「本考案の実施例を図面を参照して詳細に述べると,第1図は本考案に係る放熱器10を備えたマイクロクーラー12を示す。このマイクロクーラー12は,扁平なペルチエ効果素子14から成つている。ペルチエ効果素子14は・・・金属複合体から成つており,この複合体に・・・電流を流すと,一方の面が吸熱され他方の面が発熱される。・・・吸熱する面を吸熱面14aとし発熱する面を発熱面14bとする。」(同2頁5行目〜15行目) エ「本考案の放熱器10は,ペルチエ効果素子14の発熱面14bに接合される吸熱板16とこの吸熱板に取付けられた複数のフイン18とから成つている。
吸熱板16はマイクロクーラー12にねじ止めすべき貫通孔16aを有する。」(同2頁16行目〜20行目) オ「図示のマイクロクーラー12は,第1図に示すように,放熱器10の前面に取付けられた小型フアン20を備え,この小型フアンは放熱器10の・・・吸熱取付板22を介して取付けられている。」(同3頁4行目〜8行目) カ「尚,上記実施例では本考案の放熱器10をマイクロクーラーに取付けて使用した場合についてのべたが,吸熱板16が被吸熱体に熱伝導関係を保つて取付けることによつて種々の物体の放熱に使用することができる。」(同3頁12行目〜16行目) (2) 以上のとおり,引用例1には,実施例として,マイクロクーラー12,フィン型放熱器10及び小型ファン20から成る放熱体が記載されているものの,上記イ中の「マイクロクーラー等に用いられるのに適した放熱器」との記載及びカの記載によれば,放熱器10は,マイクロクーラーを構成する要素ではなく,マイクロクーラーに取り付けて用いることのできる,マイクロクーラーとは独立した構成要素であるものとされており,取り付ける対象(発熱体・被吸熱体)も,マイクロクーラーに限定されないものとされていることが明らかである。
そうすると,放熱器10と小型ファン20とから成る構成単位(ユニット)は,その吸熱板16を,マイクロクーラーに限らず,種々の物体(発熱体ないし被吸熱体)に取り付けて,放熱に使用するものである,と認められる。
(3) 甲第14号証(実開昭60-9292号公報)には,その第1図(従来の冷却装置の構成を示す側面図)として,発熱体3をその側面に,ファン5をその上面に接合した放熱器4が,箱体の中に配設されたものが図示されている。また,この発熱体は,半導体等の発熱体(甲第14号証中の明細書の1頁18行目),とされている。
これからは,箱体内に配設された半導体等の発熱体を冷却する目的で,発熱体,放熱器及びファンからなる放熱組立体を箱体内に配置することは,半導体部品を備える電子機器の分野において,通常の冷却方法であったことが認められる。
(4) そうすると,引用発明1に記載されたフィン型放熱器10と小型ファン20とから成る放熱体についても,それを取り付ける発熱体を電子機器本体内部に配設された発熱素子とし,併せて電子機器本体内部に配置することは,容易に推考できる,と認められる。
(5) 原告は,ペルチェ効果素子は電子機器本体内部に配置される性質のものではないと主張する。
引用発明1のフィン型放熱器と小型ファンとから成る放熱体を取り付ける対象が,ペルチェ効果素子に限定されないことは,前記のとおりである。ペルチェ効果素子の性質いかんによって,相違点1に係る本件発明の構成の容易推考性についての判断が変わることはない。
(6) 原告は,引用例1には,「種々の物体」の具体的位置について記載がないので,引用例1のフィン型放熱器と小型ファンとから成る放熱体を機器本体内部に配置するとの解釈はできない,と主張する。
「種々の物体」の具体的な位置につき記載がないことは,むしろ,「種々の物体」の選定及びその配置位置の設定に制約がないことを示すものというべきである。そして,冷却すべき部品が機器本体内部に存在すれば(そのようなことが珍しくないことは,本件発明自体が前提としていることである。),引用発明1を機器本体内部に配置することは,当然のことというべきである。
(7) 原告は,甲第18号証(特開昭56-105696号公報)を挙げて,引用発明1も,吸熱板を機器本体の壁に取り付けて使用する構成であるから,同発明には,機器本体内部に配置する構成は開示も示唆もされていない,と主張する。
引用発明1において,吸熱板が機器本体の壁に取り付けられるのは,吸熱板が発熱素子の熱を直接吸収するのではなく,機器本体内を対流する空気を介して吸収する構成を採用する場合である。引用発明1には,被吸熱体をマイクロクーラーとするもののように,吸熱板が発熱素子の熱を直接吸収することのない構成だけでなく,発熱素子の熱を直接吸収する構成も含まれていることは前記のとおりである。被吸熱体をマイクロクーラーとするものが,吸熱板を壁に取り付けて使用する構造であるということができるとしても,そのことは,引用発明1の使用態様として,本体内部に配置されることもあるとすることの妨げとなるものでない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 引用例2には,以下の記載がある。
ア「第1図は電子機器を密封するロツカー1の頂面に本考案に係る放熱ユニツト2を取付けた構成を示している。・・・放熱ユニツト2は大きくはユニツト本体と放熱用フアン7から成り,このユニツト本体は・・・放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5から成るフアン支持体を含んで構成されており,ガイド板5は・・・放熱板3と上枠板4を連結している。上記ユニツト本体はその中央にモータ6で駆動される放熱フアン7を回転可能に内蔵している。・・・下枠板3はその外面に突起体の多数の吸熱フイン3aが突設されている。」(1頁2欄5行目〜27行目) イ「以上の構成の放熱ユニツト2は好ましくは第1図のように電子機器を内蔵した密封式ロツカー1の頂壁構成体として取付けるのが望ましい。」(1頁2欄30行目〜32行目) ウ「本考案に係る放熱ユニツトを取付けた電子機器を示す断面説明図」(1頁1欄19行目〜20行目)である第1図には,ロッカー1の頂部に放熱ユニット2を取り付けた構造が示され,放熱ユニット2の構成要素として,放熱板3(下枠板3),上枠板4,ガイド板5が実線で示されると共に,ファン7が点線で示されている。
エ「次に本考案の作用効果を説明すると,ロツカー内に密封された空気は電子機器の熱を奪つて対流し,下枠板の吸熱フインに熱を与える。次にこの熱は吸熱フイン3aにより下枠板及びガイド板5に伝導される。それと平行して(判決注・「並行」の誤記と認める。)放熱フアンの回転により外気は上枠板の吸込口からユニツト本体に流入し,下枠板に衝突してその熱を奪う他,・・・ガイド板の熱も奪いながら放出される」(1頁2欄37行目〜2頁3欄7行目) (2) 引用例2の上記アないしウの記載によれば,引用発明2の放熱ユニット2は,放熱板3,ガイド板5,吸熱フィン3a,上枠板4,ファン7及びモータ6を構成要素とし,上記エ記載の作用効果を奏するものであると認められる。上記構成要素以外の部品の存在については,引用例2には何も記載されていない。すなわち,ファンの外端部とガイド板の内端部との間に,ケーシング等の介在物が存在することは,全く記載されていない。
上記アの記載から分かるとおり,引用発明2においては,放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5が,ファン支持体を構成しているから,これとは別にファンを収納するケースは不要である。また,エの記載から分かるように,吸熱フィンからの熱は,ガイド板5にも伝導されるから,冷却のためには,ガイド板全体にファンからの風が当たるようにするのがより効果的である。ファンの側方外周を覆うケースの存在は,この風の流れを阻害しかねず,有害となる場合もある。
このように,引用発明2において,ファン7の側方外周を覆うケースは,少なくとも不必要であり,しかも有害となり得るものであるから,存在しないと理解するのが,より自然かつ合理的である。引用例2に接した当業者は,このようなケースは存在しないと理解するものと認められる。
(3) 引用例2の第1図において,ファン7は,上下枠板間に位置するように点線で描画されていること,ガイド板5は「上下枠板の連結フレーム」(2欄13行目〜15行目,19行目)であり,上下枠板間に介在していることに照らせば,ファン7とガイド板5とはファンの回転軸方向(第1図の上下方向)について,同じ高さの位置にあることが認められる。
以上から,引用例2には,引用発明2のファンの外端部とガイド板の内端部とが直接対向することが,文言によって記載されているということはないものの,そのような構成のものが記載されていると,すなわち,これに接した当業者はこのような構成のものをそこに読み取る,と認めることができる。
(4) 原告は,ファンの半径方向の外端部にケースが設けられているものを示す,甲第6号証,甲第13号証ないし第15号証を挙げ,これらの記載を参酌すると,引用例2で,ファン7が点線で描かれ,それが側面からは見えない構造と理解されるものとされているのは,ガイド板5と放熱ファン7との間にケースが存在することを示している,と解するのが合理的である,と主張する。
ア 点線描画が,通常,何かに隠れて見えない状態を表す際に用いられるものであり,かつ,ファンの半径方向の外端部にケースを設けることが,珍しくないことであるとしても,本件で,引用発明2のファン7がケーシングで覆われていると解釈することの合理性については,以下のとおり,疑問がある。
(ア) そもそも,第1図は,ロッカーの正面(同図手前)から見たガイド板の内端部の様子を忠実に表現したものとは認めることができないものである。
第1図は,「本考案に係る放熱ユニツトを取付けた電子機器を示す断面説明図」(1頁1欄19行目〜20行目)である。同図の放熱ユニットには,5個のガイド板5(正確にはその断面とみるべきである。以下同じ),上下枠板の各端部を結ぶ2本の縦線(ガイド板の端部),下枠板の端部付近の突起様物(下枠板を固定するビスと認められる。)及びファン(点線)が示されている。一方,第3図(A)には,長方形の下枠板3に放射状に延びる計12本の直線のガイド板と4個の小円が示される。小円はビス孔と見るのが相当である。
そうすると,第1図は,第3図(A)において,長辺方向の2個の小円を通る面を切断面とした断面図とみるのが自然である(すなわち,この切断面は,ファンが設置される中心部の円形領域(ガイド板の内端部を結んだ線で形成される円形領域)を通ってはいない。)。この解釈は,ガイド板の切口が5個となる点において,第1図と符合し,正しいものと認められる。しかし,ガイド板の上記切口以外の部分について第1図には表示がない。
このように,ガイド板につき上記切口以外には表示がなされていない以上,どこまでがガイド板なのかを特定することはできない。したがって,この第1図だけからは,ファン7が,ガイド板に隠れているとも,ガイド板の間隔から見えるはずだとも,どちらともいえない。
むしろ,第3図(A)のようにガイド板が配置された構成では,側方から見れば,ケースが存在しなくても,ファンはその大部分がガイド板で隠蔽され,回転軸の付近の一部分しか見えなくなるはずである。
(イ) そこに記載されている考案者,出願人及び出願日がいずれも引用例2に記載されているのと同一である甲第16号証(実公昭51-21603号公報)の第1図において,実線で描かれたケース内に,ファン8が点線で描かれている。
しかし,この第1図では,ファン8を覆うケースの存在が明示されている。ファン7については,引用発明2のファン7と同様の疑問がある。いずれにしろ,引用発明2の理解の参考になるものではない。
(ウ) 甲第13号証及び甲第15号証は,もともとケースに収納されているファンを,冷却フィンを有する取付台に取り付けることが明示されているものである。引用例2とは図が開示する内容が明らかに異なる。
(エ) 引用例2の第4図は,「図のようにガイド板を省略しても・・・」(2頁3欄23行目〜24行目)との記載から分かるとおり,下枠板のファン側にガイド板がない構成に関するものであり,この図においては,ファンは実線で図示されている。このことと対比すれば,第1図において,ファンが側方から見えないものとして図示されているのは,ガイド板が存在するためである,とするのが,むしろ自然な理解であるということができる。
イ 甲第6号証や甲第15号証の冷却装置において,ファンの側面外周を取り囲むケースが存在するからといって,引用発明2もそのような構成を有する,ということになるわけのものではない。
(5) 原告は,引用例2の第1図の矢印は,外気が吸込口から下枠板に衝突することを示すものとして,すなわち,横方向ではなく真下に向けて描かれていることから,ケースの存在は,この風の流れにとって何ら不都合なものではなく,また,外気は,ケースの下部と下枠板との間の風路から外に抜けるから,ケースが存在しても,風が再び吸込口から流出することはなく,審決の指摘するような,ファン風路が複雑になる問題もない,と主張する。
しかし,引用例2の第1図のような図示が,ケースの存在と矛盾しないからといって,そのことは,ケースの存在を積極的に認定させるものではない。
引用例2の第1図における,風の流れを示す図示は,以下のとおり,むしろ,ケースの不存在を推認させるのである。
ア 引用例2の第1図には,風の動きを示す矢印として,ファン半径方向のものも示されており,しかも,それは,吸込口からの風が,下枠板に衝突するまでにファン半径方向の成分を獲得することを示している。また,本体から放出される風にはファン軸方向(流入する風の方向と逆の方向)と同じ方向の成分があることは示されていない。そうだとすれば,ファンとガイド板との間に風路が存在すると考えるのが自然である。
イ 甲第6号証(別紙8参照)では,ケースと第1の放熱体(風の向きの観点からは,引用発明2の下枠板3に対応)との間に隙間があるとともに,放出される風は流入する風の方向とは反対方向の成分を有する。
甲第15号証においては,強制空冷ファン20と冷却フィン16が立設される基盤部との間に隙間があるとともに,放出される風も流入する風の方向とは反対方向の成分を有する(第4図)。これは,ケースが存在するときは,風が流入するのとは反対方向の成分が,放出される風に生ずることを示唆している。
これに対して,引用例2には,前記のとおり,ケースの存在を示す表示も,ケースと放熱板との間の隙間の存在を示す表示もない上に,放出される風が流入する風の方向と逆方向の成分を有することの表示もない。
甲第6号証及び甲第15号証の記載と併せ考慮すると,むしろ,引用発明2には,ファンの側方外周を覆うケースが存在しない,と考えることの合理性は,より大きくなるということができるのである。
(6) 原告は,引用発明2には,フィンとファンとの配置関係により,冷却装置を小型化する技術思想がない,と主張する。
引用例2には,その作用効果につき「放熱効率が高いので,それだけ小形ですむ」(2頁4欄12行目)との記載はあるものの,同効果が「フィンとファンの位置関係」によるものであるとの明示の記載がないことは事実である。
しかし,相違点2についての判断において検討すべきことは,引用発明1の構成のうち,フィンとファンが回転軸方向に見て離れた位置にあるというものを,引用発明2の構成(フィン(ガイド板)とファンが回転軸方向に見て同じ位置にある)で置き換えることの容易想到性である。引用発明1において,原告が主張するような技術思想そのものが示されていないとしても,そのことは,上記容易想到性の阻害要因となるとは認められないから,この点は,そもそも考慮する必要のないことというべき事項である(両者を組み合わせる動機付けについては,後記のとおりである。)。 のみならず,引用例2のガイド板とファンとの位置関係(フィンとファンが回転軸方向から見て同じ位置にあること)は,ファンをフィンの中へ埋め込んで配置することを意味するから,ファンの厚みの分だけ,小型化・薄型化に寄与する構造であることは明らかである。当業者が,引用例2からそのような技術思想を読み取ることは,容易であるというべきである。 3 取消事由3(引用発明1と引用発明2との組合わせ自体の困難性)について (1) 原告は,特定の素子のみを冷却する引用発明1に,電子機器全体を冷却する引用発明2を応用することは容易ではない,と主張する。
この容易性は,相違点2についての判断に係るものである。この判断において検討すべきことは,引用発明1におけるファンとフィンとの配置関係(フィンとファンとが回転軸方向に見て離れた位置にある)に代えて,引用発明2におけるそれらの配置関係(ガイド板(フィン)とファンとが回転軸方向に見て同じ位置にある)を採用することの,容易想到性である。
引用発明2のガイド板(フィン)とファンとの位置関係が,電子機器全体を冷却対象とする装置に特有の構造であるとは認められない。すなわち,ファンが生み出した風を,できるだけ至近距離で,放熱体にまっすぐ当てることは,空冷による冷却装置の典型的な構成ということができる。そして,引用発明1も引用発明2も,ファンにより生み出された風を用いて,熱を持った部品(引用発明1の実施例ではペルチェ効果素子14,引用発明2では放熱板3)を冷却するという点で共通するから,ファンとフィンとの位置関係に関し,引用発明2のそれを,特定の素子を冷却する装置である引用発明1に適用することに,何ら阻害理由はない。
しかも,引用発明1を,機器本体内部に設置する場合,それを小型化・薄型化することが望ましいことは,上記のとおり,当業者の常識であると認められるから,引用発明1において,引用発明2のガイド板とファンとの配置関係を採用することには,積極的な動機付けもあるということができる。
(2) 原告は,引用発明1は,吸熱板が発熱素子から熱を直接吸収する構成であり,吸熱板の取付面を平面にし吸熱板と発熱素子との接触面積を広くして冷却効果を上げるものであるのに対して,引用発明2は,吸熱フィンを必須の要素とし,これにより吸熱する部材と空気との接触面積を増やして冷却効果を上げるものであるから(2頁3欄9行目〜11行目),引用発明1と引用発明2とは,冷却効率を上げるための技術思想,構造が大きく異なるものであって,引用発明2の放熱ユニットから吸熱フィンを取り去り,発熱素子を直接取り付ける構成の引用発明1に組み合わせることは困難である,と主張する。
引用例2の,「ロツカー内に密封された空気は電子機器の熱を奪つて対流し,下枠板の吸熱フィンに熱を与える」(1頁2欄37行目〜2頁3欄1行目),「従つてこの吸熱フインによる凹凸により下枠板外面はその実表面積が飛躍的に拡張される結果,伝熱効率が極めて大きくなつている。」(1頁2欄27行目〜29行目),及び「第5,6図はガイド板を省略した別の放熱ユニット例における下枠板としての放熱板3”を示す…即ち…下枠板の内面から見れば螺旋状の送風案内溝を構成し,外面から見れば,この溝が吸熱フインとしての螺旋状突起体を構成している。」(2頁3欄26行目〜4欄6行目)の記載から分かるとおり,引用発明2において,吸熱フィンが用いられるのは,同発明が吸熱の対象としているのが,特定の発熱素子ではなく,ロッカー内全体であることから,ロッカー内を対流する空気から熱を効率的に奪おうとしてのことである。すなわち,いわば,放熱のための準備として行われていることにすぎない。この吸熱フィンが,引用発明2における,放熱板における放熱の機能に不可欠であるとは認められない。
そうすると,引用発明2において,吸熱に係る構成と放熱に係る構成とを切り離して把握し,吸熱の対象を,空気でなく発熱素子とする場合,フィンの形状をした吸熱部材を採用せず,発熱素子に容易に接合できる平面上の部材とする程度のことは,同業者が容易に想到できることが明らかである。
(3) 原告は,引用発明2において発熱素子を直接取り付けることは,引用発明2の作用効果(容易な取替交換,各種機器への同一規格のものの適用)を喪失させてしまう,と主張する。
引用例2には,「次に本考案の作用効果を説明すると,ロツカー内に密封された空気は電子機器の熱を奪つて対流し,下枠板の吸熱フインに熱を与える。次にこの熱は吸熱フイン3aにより下枠板及びガイド板5に伝導される。それと平行して放熱フアンの回転により外気は上枠板の吸込口からユニツト本体に流入し,下枠板に衝突してその熱を奪う他,ガイド板に案内されて本体の外に移動する間にガイド板の熱も奪いながら放出されるため,この放熱ユニツトは電子機器に対する冷却効果が極めて高い。」(1頁2欄37行目〜2頁3欄8行目)との記載がある。
また,このような放熱効果については,「以上のように本考案に係る放熱ユニツトは放熱効率が高いので,それだけ小形で済む。しかもロツカー壁部の構成要素であるため簡単に外部からの取付取替が可能である。」(2頁4欄11行目〜14行目)との記載からも分かるとおり,引用発明2の主位的な効果として把握されている。
本件で問題になるのは,引用発明2の放熱の機構に着目し,これと引用発明1と組み合わせることが容易に推考できることであるかどうか,である。そして,引用発明2の構成のうち,放熱の機構だけを抜き出しても,優れた放熱効果(と小形化)という重要な作用効果が保持される以上,引用発明2の放熱の機構を発熱素子に取り付けることにより,その他の引用発明2の作用効果(容易な取替交換,各種機器への同一規格のものの適用)が失われることになるとしても,そのことが容易推考性を阻害する事由になるとは認められない。
(4) 以上のとおりであるから,放熱に係る構成,すなわちファンとフィンの位置関係の限度において,引用発明2の構成を引用発明1に適用することが推考容易であるとした審決の判断に,誤りはない。
(5) 原告は,引用発明1において,ファン20をフィン10と同じ高さにすること(直接対向させること)は,吸熱取付板22の存在及びフィン10の内径が障害となり,物理的に不可能である,と主張する。
原告の主張は,引用例1の第1図上,ファンの外径が吸熱取付板の孔22a及びフィン内端部のなす円の各直径よりも大きく描かれていることを根拠とするものである。しかし,図面上の大きさは必ずしも実際の寸法を表すものではない。
そもそも,これら三つの径を互いに独立して設定することができることは明らかであって,引用発明1において,ファンの外径を,フィンの内端部のなす円の直径より大きくするとの構成が必須のものであると認めることはできない。
第1図の表示内容をもって,引用発明1と引用発明2との組み合わせの阻害事由があるとする原告の主張は,失当である。
4 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久