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関連審決 不服2014-1168
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事件 平成 29年 (行ケ) 10005号 審決取消請求事件

原告X
被告 特許庁長官
同 指 定代理人板谷一弘 池渕立 小川進 富澤哲生 板谷玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2014-1168号事件について平成28年11月25日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,特許法36条6項1号要件(サポート要件)並びに同条4項1号要件(実施可能要件及び委任省令要件)の判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成17年2月26日に出願した特願2005-89737号の一部を,名称を「電流循環装置」として平成21年7月20日に新たな特許出願とし(特願2009-169642号。乙1) 平成24年7月2日付け及び平成25年1月6 ,日付けで手続補正をしたが(乙4,7),同年10月10日付けで拒絶査定を受けた(乙8)。
原告は,平成26年1月6日,拒絶査定不服審判請求をし(不服2014-1168号。以下,「本件審判請求」という。乙10),平成27年5月7日付け及び同年11月6日付けで手続補正をした(乙14,18。以下,平成27年11月6日付け手続補正を,「本件補正」という。。
) 特許庁は,平成28年11月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年12月17日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりである(乙18)。
「ソーラーパネルを備え,自動車の金属製のボディー又は自動車の導電性を有する部品上の互いに距離を置いた任意の2点の電気伝導部にソーラーパネルの+極と-極を直接接続させることにより,前記ソーラーパネルが発電中,前記自動車の塗装が施された上に,自動車用コーティング剤が塗布され,又は,自動車用洗浄剤で洗浄され,若しくは,自動車用コーティング剤及び自動車用洗浄剤がまだ塗布されていない自動車の外装の最表面を形成する金属製のボディー又は自動車の導電性を有する部品に,電気を流す電流循環装置。」 3 審決の理由の要点 (1) 特許法36条6項1号が規定する要件について ア 本願発明が解決すべき課題は, 「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになること」 (課題@), 「間 接的に燃費の向上に貢献すること」 (課題A),及び, 「一驚するほどの安い低公害車を作ること」(課題B)である。
イ 課題@について (ア) 車のボディーの汚れが取れやすいことと車のボディーの輝きが増加することとは,「車のボディの汚れが取れ易くな」ることにより,「20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになる」関係にあるといえる。
「自動車の金属製のボディーと自動車部品が汚れ難い」, 「汚れにくさ」とは,磨かなければ,汚れは付着したままで,必ずしも綺麗になっていないことも含まれ,あくまで汚れが取れやすいことであるといえる。
(イ) 本願発明の明細書の発明の詳細な説明における課題解決の理由(作用・機序)の説明について 本願発明の明細書(以下,「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載をみると, 【0028】, 【0029】 及び , 【0054】には, 「電気防食現象を起こし,自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる。と記載されている。
」 そして,「電気防食現象」については,【0009】に「金属などは,電気の供給や電気の流れがある状態では金属材質や合金の配合にもよるが多くのケースで金属が錆び難くなったり,金属表面が汚れ難くなる,さらには,金属表面に汚れがのっかっていてもこびりつきにくくなるという特徴を持っている。この特徴の実際の応用例は,海水中に浮かぶ船がイオン化傾向の異なる二種の金属を電極棒に見たて海水中に付け,イオンの交換を利用して船体に発生すべき錆を食い止め,錆の進行を遅らせているという工夫や,構造物建設業界で使われる微弱な電気を建設中の建材や補助の役割をする建材に流すことで腐食を遅らせたり,錆の発生をあまりさせないようにする電気防食と言われる方法が実際に利用されている。と記載されている 」のみで,前記課題@を解決するための理由(作用・機序)の説明はされていない。
この「電気防食」を説明するために,請求人(原告)が提出する株式会社東京興業貿易商会のホームページ及び「公益社団法人土木学会土木学会誌」を記録したCD-Rによると,外部電源方式,流電陽極方式は,防食させる鋼材と,補助陽極,又は,鉄よりもイオン化傾向の高い(卑)金属からなる陽極,との間に電流(防食電流)を流して電気防食するものであって,外部電源方式では,防食対象である鋼材は直流電源装置の一方の極である-極のみに接続され,流電陽極方式では,防食対象である鋼材は外部電源装置に接続されない。
本願発明は,自動車の金属製のボディー又は自動車の導電性を有する部品上の互 「いに距離を置いた任意の2点の電気伝導部にソーラーパネルの+極と-極を直接接続させ」ているものであって,ソーラーパネルは直流電源装置であるから,本願発明が電気防食を利用するものであれば,流電陽極方式ではなく外部電源方式である。
しかし,本願発明では,ソーラーパネルは+極も-極も防食される鋼材,すなわち,防食させる金属である車のボディーに接続されているから,-極のみが鋼材に接続される外部電源方式ではない。
そうすると,本願発明は,電気防食現象を利用したものとはいえず,前記課題を解決するための理由(作用・機序)を,電気防食現象として説明することは,その前提において無理があるというべきである。
広義には,電気防食には,陽極防食法があるが,陽極防食法も直流電源装置の一方の極のみを防食させたい不動態化する金属に接続するものであって,本願発明はこの陽極防食法を利用していない。
仮に,車のボディーの表面に水分の膜が存在し,本願発明が電気防食を利用する形態であったとしても,防食作用は-極側だけに限られ,+極側では腐食されると考えられるので,車全体でみると防食されているとはいえないし,防食とは,金属が腐食する(金属が変質破壊する)ことを防止するものであるから,そもそも汚れの取れやすさの向上に関係するものではなく,電気防食を「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今 までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになる」ことの裏付けとすることには無理があるというべきである。
したがって,電気防食により,本願発明が「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになる」という課題を解決することができるとはいえない。
念のため,請求人(原告)が,意見書2において,前記理由(作用・機序)と同次元のものと主張するサーモス社の洗浄法についても検討する。
サーモス社の洗浄法は,「水に溶けると過酸化水素を発生する過酸化水素発生剤」である酸素系漂白剤が溶けた水溶液に電圧を印加することで水酸化ラジカルが発生するものである。
一方,本願発明は,酸素系漂白剤も水に溶けると過酸化水素を発生する過酸化水素発生剤も使用しないから,電圧をかけても水酸化ラジカルは発生することはなく,サーモス社の洗浄法とは異なるものであるので,請求人(原告)の主張は採用することができない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明が「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過すぎて今までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになる」という課題を解決し得ることを明らかにする理由(作用・機序)は実質的に記載されていない。
その他,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者の本願出願時の技術常識に照らしても, 「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きが18ぐらいになる」という課題を解決できると認められる説明は見当たらない。
(ウ) 本願明細書の実施例の記載について 第1実施例(図2),第2実施例(図3)及び第3実施例(図4)は,そのいずれもがソーラーパネル装置を自動車バッテリーに対して並列につないでいるから,本願発明の実施例には当たらない。
一方,図6に記載された装置は, 「常時接続の ・ ソーラーパネルが発電中, (・ ・)自動車の(・・・)端と(・・・)端に接続された接地点の間の車ボディや部品に対し電気が循環し,流れている。( 」【0054】)と記載されているから,本願発明の実施例であるということができる。この図6の装置に関し, 「ソーラーパネルが発電し,自動車ボディや部品や自動車ボディ保護剤に電気の流れを循環と放流させ電気防食現象を起こし,自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる。( 」【0054】)と記載されてはいるものの,電気防食に関しては,前記(イ)のとおり,本願発明の作用・機序であるということはできないから,この記載は,実際の実験結果の記載とはいえず,結局,この課題が解決し得ることを客観的な事実によって裏付けているものは,本願明細書の発明の詳細な説明及び図面のいずれにも見当たらない。
(エ) よって,本願明細書には,上記課題が解決する理由(作用・機序)も,客観的事実も,実質的に示されていないというほかない。
(オ) 請求人(原告)の平成27年5月7日受付の意見書(以下,「意見書1」という。)及び同年11月6日受付の意見書(以下, 「意見書2」という。)で説明された実験について a ボンネット板の腐食について 本願発明は電気防食を利用したものではない。このことは,ソーラーパネルを接続した試験片も接続していない試験片も,ボンネット板の切断面が同じように腐食していることが看取されることと整合する。
仮に,請求人(原告)が主張するように, 「ソーラーパネルのある実験片と無い実験片で比べて,ボルト用の穴のボンネット板の錆び具合でソーラーパネルのあるほ うが遅」いとしても,このことは,塗装膜の除去の不均一に起因し,たまたま,ソーラーパネルのある方のボンネットに塗装膜が腐食を防止できる程度に残存して,ボルト周辺が絶縁され,塗装膜によって防食された結果であると推認される。
b 汚れのとれやすさについて ソーラーパネルを取り付けると「汚れのこびりつきは明らかに変わり,こびりつき方は弱くなる」と請求人(原告)は,意見書2において主張する。
しかし,実験期間中,例えば,両方の試験片が共に手入れされていないことは何ら保証されていないから,客観的な結果が得られる実験がされていると認定することは困難であり,仮に,客観的な結果をもたらす実験であったとしても,この汚れのこびりつきに関し,ソーラーパネルを取り付けた試験片が「つるっとして」,付けていない試験片が「もさっとし」 ソーラーパネルを取り付けた試験片の方が汚れが ,取れやすいとの請求人(原告)の主張を裏付ける客観的な測定結果は何も示されていない。
しかも,平成27年4月15日のカーシャンプー直後の照度(輝度)の測定結果をみると,平成27年3月18日から初めてカーシャンプーをした同年4月15日のカーシャンプーによって,3月18日以降の汚れは,同じように取れているといえる。すなわち,測定に使用した照度計(LX-1010B)の精度が±5%程度であることを考慮すると,ソーラーパネルが接続されているか否かに関係なく,板照度(輝度)が実質的に同じであるとみてよく,カーシャンプーによって汚れが同じように取れているといえるから,ソーラーパネル装置に接続されることにより「車のボディの汚れが取れ易くな」っているとはいえず, 「汚れが取れやすく」なるとの課題を解決できているとはいえない。
ウ 課題Aについて 「間接的に燃費の向上に貢献すること」が課題として解決されるためには,本願明細書の発明の詳細な説明の【0028】及び【0054】のとおり, 「自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き 目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる」ことが前提となるが,本願発明において,この前提が達成されていないことは,上記イのとおりである。
仮に,本願発明において,この前提が達成されているとしても, 「車が汚れていないほど,自動車はボディ・アースの構造を成しているため電気抵抗になるものが少なくなり,ガソリンエンジン車などではスパークプラグでの発火は綺麗で強くなり,燃費の向上すること」を裏付ける説明(作用・機序)や客観的な事実は何ら示されていないし,これらが技術常識であると認めるに足りる証拠もない。
したがって,本願発明は, 「間接的に燃費の向上に貢献すること」という課題を解決するものではない。
エ 課題Bについて 「一驚するほどの安い低公害車を作る」という課題は,燃費の向上が前提であると解されるが,前記ウのとおり,本願発明は, 「間接的に燃費の向上に貢献すること」という課題を解決するものではないから,前提が成り立たない。
また, 「一驚するほどの安い低公害車を作る」という課題は,単に,エンジンで走る従来の車を安いコストで簡単に改造することを意味するとも解されるが,本願明細書の記載から,本願発明によって燃費が向上するとはいえないし,また,本願明細書には,本願発明によってエンジンから排出される二酸化炭素や窒化物,硫化物について排出量が減っており,低公害車が得られると言い得る記載もない。
以上から,本願発明は, 「一驚するほどの安い低公害車を作る」という課題を解決するものではない。
オ 以上から,本願発明の解決すべき課題を,課題@〜Bのいずれと認定しても,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明がこの課題を解決できることを示す理由(作用・機序)や客観的な事実が何ら記載されておらず,当業者において本願発明が課題を解決できると認識することができないから,本願発明は明細書の発明の詳細な説明に裏付けられて(サポートされて)いるとはいえない。
(2) 特許法36条4項1号の要件適合性について ア 前記(1)に加え,例えば,マフラーやエンジンのどこか2点にソーラーパネルの+極と-極を接続させたときは,+極と-極の最短距離に電気が流れるのであって,自動車ボディーには事実上,電気は流れないから,本願発明の効果は奏されないと解される。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が課題を解決できると認識することができないものであり,目的とする技術効果を奏する発明として実施することができないことは明らかである。
よって,本願明細書は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件に適合するものではないということができる。
イ また,仮に,自動車ボディー,マフラー,エンジンのどこか2点にソーラーパネルの+極と-極を接続して電流を流すことが可能であるという意味で実施可能であるということができるとしても,当業者は,その態様の実現を,目的とする技術効果を奏するものとして認識することはできない。したがって,本願明細書の記載は,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりされたものであるということはできない。
よって,本願明細書は,特許法36条4項1号に規定する委任省令要件(特許法施行規則24条の2)に適合するものではないということができる。
原告主張の審決取消事由
原告の審決取消事由は,添付「訴状」記載のとおりであるが,その要旨は以下のとおりである。
1 本願発明の課題は,課題@及びAであるが,課題@を分かりやすくいうと,「車を磨く頻度を減らし,少しの力で磨けること」である。
2 電気が流れていると物質の変性が遅れる場合がある。電気が流れていればそこに磁界が発生し,物質が分子レベルで一定方向を向こうとする現象が起きる。本願発明は電気防食の原理の一角であり,物質の変性を遅らせることがこびりつきを弱めるのである。サーモス社の洗浄法は,電気を流した漂白剤溶液の効き目が増したということなので,本願発明と概念は同じである。
3 原告は,本願発明によって課題@及びAを解決したことを,審判官に対してビデオと写真で見せた。切ったばかりの生の金属は錆び始めるし,実験片の隅には電気の流れは及んでいないから,錆びだすのは自然である。平成27年4月20日に雨水がついている試験片に指で触れると,ソーラーパネルをした試験片は「つるっとし」 そうでない試験片は , 「もさっとして」いたことは,ビデオに収めてはいて,客観的に表現できない。ボンネット板の塗装膜はほぼ同じ程度に除去されていた。
連続実験中に照度計の精度が0.3%〜5%誤差を生じることはない。
4 ソーラーパネルと自動車のボディを接続する配線に逆流防止半導体を付けた際に自動車のハンドルからびりびりした感触がきて嫌になったという報告があり,虫,生物,カビが自動車に寄り付かないことは明らかであるから,防汚効果がある。
5 自動車業界では,自動車が汚れていないほどスパークプラグでの発火は綺麗で強くなることは常識である。
6 自動車の排気管マフラーに電流を流すことにより,触媒の温度が上昇するから,燃費が向上する。また,フォンブリンを含むポリマー掛けをすると,自動車のボディの電気抵抗が小さくなり,自動車は俊敏に起動できる。
被告の主張
1 課題@について (1) 課題@と審決が認定した課題との関係 本願明細書の記載を参酌して把握される,課題@の「車を磨く頻度を減らし,少しの力で磨ける」ことの技術的な意味は,本願発明を使用しない場合と比べて,洗車後所定の日数が経過しても,ボディーの汚れの程度が前回の洗車時ほどには汚れていないように見えるので,磨く頻度を減らすことができ,磨く力を減らすことができる,と感じるということであり,本願発明の課題を,磨く頻度と磨く力の二つの観点から表したものであると解される。
審決の検討事項である,本願発明が「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今までの通常の輝きが 10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになること」を解決し得るか,には,文言上, 「汚れにくく」なっていると感じることに対応する内容は明示的には含まれていない。しかし,ソーラーパネルを搭載した場合に,洗車の際に汚れが取れやすくなったように感じられ,洗車後に輝きが「18」程度の「異常に車がピカピカに」なったように見えたのであれば,洗車により汚れが落ちる度合いがソーラーパネルを搭載しない場合よりも向上したと感じられたのであるから,その分,洗車後にある程度の日数が経過しても,ボディーの汚れの程度が前回の洗車時ほどには汚れていないと認識し,「汚れにくく」なっていると感じることになるといえる。
また,仮に,汚れが取れやすくなるのであれば,付着した汚れのこびりつきが弱く,一時的に堆積するだけで汚れが定着しにくいために「汚れにくく」なるということもできる。
そうすると,課題@と審決が認定した課題とに実質的な差異はないといえる。
(2) 「特許法36条6項1号(サポート要件)の認定判断の誤り」及び「特許法36条4項1号(実施可能要件並びに委任省令要件)の認定判断の誤り」について 本願明細書等から把握される,課題@に関する本願発明の技術的意義は,自動車の金属製のボディー又は自動車の導電性を有する部品上の互いに距離を置いた任意の2点の電気伝導部にソーラーパネルの+極と-極を直接接続させることで,ボディーに電気の流れがある状態とすることにより,腐食を遅らせたり錆の発生をあまりさせないようにしたりする現象である電気防食現象下に置かれる結果,カーシャンプーをする頻度を20日おきよりも延ばすことができ,車のボディーへの汚れのこびりつき方を弱くすることができる,ということであるものと解される。
しかし,本願発明は,電気防食現象を利用したものとはいえず,課題@を解決するための理由(作用・機序)を,電気防食現象として説明することは,その前提において無理がある。
その理由は,本願発明のソーラーパネルは直流電源装置であることから,本願発 明が電気防食を利用しているとすれば,外部電源方式に該当するはずであるところ,本願発明では,ソーラーパネルは+極も-極も防食される鋼材,すなわち,防食させる金属である車のボディーに接続されている点で,それには該当しないからである。
しかも,仮に,車のボディーの表面に水分の膜が存在し,本願発明が電気防食を利用する形態であったとしても,防食作用は-極側だけに限られ,+極側では腐食されると考えられるので,車全体でみると防食されているとはいえないし,防食とは,金属が腐食する(金属が変質破壊する)ことを防止するものであるから,そもそも汚れの取れやすさの向上に関係するものではない。
さらに,自動車のボディーの状態は客観的には特定困難であるところ,本願発明によって,ボディーの状態を,「JIS(日本工業規格)」や,その他,業界が定める何らかの規格が定める水準に到達させることができるといった客観的な事実が存するならば,課題@が解決されているとする余地もあるが,審判手続においてそのような事情は何らうかがえなかった。
課題@に関して,発明の詳細な説明の記載によっては,本願発明が真に上記の技術的意義を有するといえる根拠が明らかでなく,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから,サポート要件に適合しないものである。
また,その結果,本願明細書は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件及び委任省令要件(特許法施行規則24条の2)のいずれにも適合するものではない。
(3) 第3,2〜4の主張について ア 第3,2の主張について 原告は,本件審判請求の意見書1において, 「電気が流れるとボディ保護剤の加わったペイント塗装面が表面に付着した埃も含めて,分子レベルで一様に立っている可能性があり,これが輝きの一因かもしれない。」と主張している(乙15)。しか し, 「分子レベルで一様に立っている」ことが何を意味するのか不明であり,どうして,それが「輝きの一因」であるといえるのかも不明であって,本願明細書の記載に基づく主張でないばかりか,証拠に基づいた主張でもなく,何らかの技術常識を参照することで理解できる主張ともいえない。
原告は,「物質の変性を遅らせることがこびりつきを弱めている」と主張するが,証拠に基づいておらず,原告独自の主張であって,失当である。
本願発明は,サーモス社の洗浄法に必要な,酸素系漂白剤,過酸化水素発生剤を,いずれも使用するものではなく,当該洗浄法で発生する水酸化ラジカルは発生し得ないため,本願発明は当該洗浄法に相当する現象を利用するものではない。
イ 第3,3の主張について (ア) 審決は,本願明細書に課題@の解決のための作用・機序が記載されているか否かについての検討,及び,本願発明において当該課題が解決していることを示す客観的な事実が発明の詳細な説明に記載されているか否かについての検討に基づき,本願明細書にはそれらが示されていないと結論付けたものであるところ,この点は,本願明細書の記載外における,原告による,実験車及びそのビデオ,写真が存在するとの指摘や,面接時にこれらを示して説明したとの指摘によって左右されるものではない。
(イ) 本件審判請求における意見書1(乙15)及び意見書2(乙19)で説明された実験について 甲6-2のDVDに収録された「B03_005_impression420」とのタイトルの動画では,原告が,ソーラーパネルを接続した試験片は「つるっとし」,そうでない試験片は「もさっとしている」と発言する音声や,ソーラーパネルを接続した試験片と接続していない試験片との違いを客観的に表現できない旨の音声が記録されているが,それら以外に「違いをビデオに納めてはいて」との文言に対応する音声はなく,映像でも「違い」があるようには見えない。
甲6-1-23〜26(ソーラーパネルに接続したと主張されている実験片の写 真)と甲6-1-27〜31(ソーラーパネルに接続していないと主張されている実験片の写真)を見る限り,切断面とボルト周辺において,腐食の進行に,ソーラーパネルに起因する差があることは把握できないが,仮に,ソーラーパネルのある実験片とソーラーパネルがない実験片とを比べて,ボルト用の穴のボンネット板の錆び具合がソーラーパネルのあるほうが遅いとしても,その点は,ソーラーパネルを接続することによって電気防食が起こっていることの裏付けにならない。実験結果から,錆の進行が遅くなることにソーラーパネルが寄与した,といえるには,それ以外の一切の要因が排除されていることが必要であるが,例えば,ソーラーパネルのある方のボンネットにおいて塗装膜が腐食を防止できる程度に残存した可能性が排除できないから,ソーラーパネルが寄与したとはいえない。
ソーラーパネル有りの1560ルクスという数値と,ソーラーパネルなしの1580ルクスという数値には,測定に使用した照度計の「±5%程度」の精度が影響している可能性があるが,仮にそれらがいずれも正確であるとしても,前者は後者より1%程度小さいにすぎないから,両数値は実質的に同じといわざるを得ない。
人間の視覚で1560ルクスと1580ルクスとの差異を識別することができるのか,甚だ疑問である。課題@は,本願発明を使用しない場合との比較で,洗車後に輝きが「18」程度の「異常に車がピカピカに」なったように見えるものであるとの事項を含むところ,カーシャンプー直後の照度計数値において,ソーラーパネル有りの方がソーラーパネルなしよりも20ルクス下回ったことは,洗車後の輝きが「18」程度の「異常に車がピカピカに」なったものとはいえないから,当該数値は課題@が解決されていることを示すものではない。さらに,カーシャンプーによって汚れが同じように取れているともいえるから,当該数値は,ソーラーパネル装置に接続されることにより車のボディーの汚れが取れやすくなっていることを示すものではなく,課題@が解決できていることを示していない。
ウ 第3,4の主張について 本願発明によって,電流が流れ,虫や生物,カビが自動車に付着しないようにな るとの事項は,本願明細書には記載されておらず,本件審判請求における意見書1(乙15),意見書2(乙19)及び原告の平成28年8月17日受付の意見書(乙22)のいずれにも記載されていないから,審決で検討対象とはならない。したがって,上記主張は課題@に関して審決に誤りがあることの根拠とはならない。
2 課題Aについて (1) 「特許法36条6項1号(サポート要件)の認定判断の誤り」及び「特許法36条4項1号(実施可能要件並びに委任省令要件)の認定判断の誤り」について 本願明細書等から把握される,課題Aに関する本願発明の技術的意義は,自動車の金属製のボディー又は自動車の導電性を有する部品上の互いに距離を置いた任意の2点の電気伝導部にソーラーパネルの+極と-極を直接接続させることで,自動車が汚れ難くなる(課題@が解決される)結果,スパークプラグでの発火が綺麗で強くなることから,間接的に燃費を向上させることができる,ということであるものと解される。
しかし,課題Aが解決されるためには, 「自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる」ことが前提となるが,本願発明において,この前提は達成されておらず,課題@が解決されるとはいえない。
また,仮に,本願発明において,上記の前提が達成されているとしても, 「車が汚れていないほど,自動車はボディ・アースの構造を成しているため電気抵抗になるものが少なくなり,ガソリンエンジン車などではスパークプラグでの発火は綺麗で強くなり,燃費の向上すること」を裏付ける説明(作用・機序)や客観的な事実は何ら示されていないし,これらが技術常識であると認めるに足りる証拠もない。
したがって,課題Aに関して,発明の詳細な説明の記載によっては,本願発明が真に上記の技術的意義を有するといえる根拠が明らかでなく,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるとはいえないから,サポート要件に適合しない。
その結果,本願明細書は,特許法36条4項1号に規定する実施可能要件及び委任省令要件(特許法施行規則24条の2)のいずれにも適合するものではない。
(2) 第3,5及び6の主張について ア 第3,5の主張について 車が汚れていないほど燃費が向上することを裏付ける証拠はないから,それが常識であるとの主張は原告独自のものであって,失当である。
イ 第3,6の主張について 本願発明により触媒の温度が上がることから本願発明を使用しない場合よりも燃費が向上する点は,本願明細書には記載されていない。
フォンブリンによって燃費が向上すること等については,本願発明の発明特定事項ではないし,本願明細書にも記載されておらず,また,証拠による裏付けがなく,原告独自の主張である。
当裁判所の判断
1 本願明細書には,次の記載がある(乙1)。
【技術分野】 【0001】本発明は自動車,主にガソリンエンジンの乗用車の電気防食に関する。
【背景技術】・・・【0007】この車に電気を取り込む改造が必要と判断し,ソーラーパネルをバッテリーに対し並列つなぎでつけ,逆流防止のため半導体ダイオードをソーラーパネルとバッテリーの回路の中にいれた。逆流防止の半導体ダイオードは,ソーラーパネルに対し順方向接続とした。この初めて,使用したソーラーパネルは現在の最終型より遥かに小さなもので0.3W出力だった。車内のフロントガラス窓際に設置した。小さいにもかかわらず,十分な効果があった。電気不足による乗り難さも違和感もぱったり無くなった。昼間の小さなソーラーパネルからの充電分は充電のない夜間走行でも乗り心地の悪さを起こさせなかった。また,若干ではあったが燃費向上もこのソーラーパネルは起こしてくれた。この後,燃費向 上をさらに狙い,車内リアガラス窓際にも小さなソーラーパネルを設置した。このことで,フロントガラス窓際もしくは車内リアガラス窓際のソーラーパネルに一定量の日光が日中ならば,安定して差し込み,効果的に燃費向上と車の安定走行を実現した。2ヵ所の配置は,1ヵ所配置の2倍以上の効果を示した。
【0008】この小さなソーラーパネルを搭載した時点で,いろんな発見があった。[0008-1]車の運転疲れが激減した。[0008-2]発明者は,車のボディ保護にワックスではなく,フッ素系のポリマーを使っていたことと,20日置きに車にカーシャンプーをしていたので,次のことに気付いた。車のボディとあらゆる部品等が従来より汚れにくくなっていた。また,汚れていても,こびりつき方が弱く,汚れが取れ易くなっていた。従来は20日置きのカーシャンプーでやや満足というか,もうちょっと頻度を上げたほうがいいかなという感じだったが,ソーラーパネルを搭載した時点から,20日置きのカーシャンプーでは,もはやカーシャンプーの頻度が多過ぎで異常に車のボディがピカピカになった。この異常にピカピカなボディはいままでのメンテナンスとカー・ケアでは起こったことが無く,非常に驚いた。フッ素系のポリマー,カーシャンプーを使用した上で車のボディとあらゆる部品等が汚れにくくなっていたことに気付いたと述べたが,これは金属に対し電気の流れがある状態では概ねの金属表面が汚れ難くなる現象を車両用コーティング剤が全く無い場合には気付き難いことを意味している。例えると,ごく普通の乗用車に今回の発明を搭載していない状態から今回の発明を搭載したとする,そして,この車は本来すべき定期的ワックス等の防水塗装とカーシャンプーをしていなかったとし,水道水による洗車だけ行っていたとすると自動車のボディ表面が汚れ難くはなり,車のボディも輝きは増すがこの変化にはかなり気付き難い,明らかという程度ではなく,なんとなくボディ表面が汚れ難いかなという程度になり,輝きはそんなに変わっているかどうかわからない程度だ。そんなふうでも,汚れのこびりつきは明らかに変わり,こびりつき方は弱くなる。今回の発明を搭載していない普通の乗用車に定期的にワックス等の防水塗装とカーシャンプーをしていて,ある 日から突然,今回の発明をこの車に搭載したとする。そうした場合,明らかな違いに多くの人間が気付く。車のボディとあらゆる部品等が汚れにくくなること。また,汚れていても,こびりつき方が弱く,洗浄の際に汚れが取れ易くなっていること。
20日置きのカーシャンプーでは,もはやカーシャンプーの頻度が多過ぎで異常に車がピカピカになり,今までの通常の輝きが10とでも例えるなら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになる。ところで,この異常にピカピカなボディはいままでのメンテナンスとカー・ケアでは起こったことが無いし,こんなに輝いている自動車を一般公道上で見た記憶は発明者にもまた発明者を取り巻く人々にも,光に対し反射性の強い塗装を二重塗装した場合の車以外に,見たことがなかった。みんな,この異常ピカピカ現象には非常に驚いた。
[0008-3]各部品が汚れ難くなったことで,車へのメンテナンスのための労力を減らすことが出来た。発明者がこれを製作した当時はこういった[0008-1] [0008-2]のような現象が起きた理由が分からなかった。太陽光発電に関する文献を見たが,レシプロエンジンを動力の主体とする機械にソーラーパネルを付けるという話は出てこなかった。
太陽光発電に関する文献には,こういった「物が汚れにくくなる」という記載は見当らなかった。
【0009】これらの事象に対し,現在のテクノロジーで,断言できる理由として, [0008-1]に関しては,ソーラーパネルにより十分な電気が供給され,アイドリング時を含め電気が多いことを自動車のエンジン制御手段が判断し,その結果によりエンジンの回転数が少なくなり,また,燃費が良くなったことつまりエンジンの回転数が少なくなったことに伴い回転系の部品の回転数が少なくなり,さらに回転運動ではないレシプロエンジンのピストンの上下運動はドライバーにとっては回転系の部品の回転運動より遥かに不自然な動きであるから,上下運動が減れば明らかにドライバーの肉体への負担は楽になる,これらから,ドライバーへの不愉快さと自動車疲れが減り,ドライバーには車の運転疲れが激減したということを,技術的根拠としていえる。
[0008-2]に関しては,金属などは,電気の供給や 電気の流れがある状態では金属材質や合金の配合にもよるが多くのケースで金属が錆び難くなったり,金属表面が汚れ難くなる,さらには,金属表面に汚れがのっかっていてもこびりつきにくくなるという特徴を持っている。この特徴の実際の応用例は,海水中に浮かぶ船がイオン化傾向の異なる二種の金属を電極棒に見たて海水中に付け,イオンの交換を利用して船体に発生すべき錆を食い止め,錆の進行を遅らせているという工夫や,構造物建設業界で使われる微弱な電気を建設中の建材や補助の役割をする建材に流すことで腐食を遅らせたり,錆の発生をあまりさせないようにする電気防食と言われる方法が実際に利用されている。自動車ボディと部品自体が,電気防食現象下に入り,汚れ難くなった。その上,車両用コーティング剤自体も,今回の発明により電気の流れを浴び,電気防食現象下に置かれ,コーティング剤自体と電気防食現象が相乗効果を起こし,従来をまさる輝きを放ち,通常を超える長期間に渡って車両を保護しようとしたと思う。[0008-3]において,各部品が汚れ難くなったことも,各部品までも電気防食現象下に入ったこととエンジンの回転数が少なくなったことで各部品が従来の状態より稼動しなくて済んだため汚れ難くなったと思われる。
【0020】段落[0009]のところで今回の発明を載せた車は電気防食現象下に置かれボディや部品等汚れ難くなったと述べたが,当業者なら知っていることであるが, 「車全体の汚れが少なければ,出来れば全く無ければ,プラグの綺麗な発火は起きる。自動車ボディが全く汚れていなく,その他部品と車内が概ね汚れてない場合にはプラグでのスパークが人体に不愉快な影響を与えるようなときは殆ど無いし,その他機器類も正常に綺麗に回り,運転手の肉体疲労も少ないし,場合によっては運転手をより元気にしてしまうときもある。電気防食現象下に自動車を置い 」てしまう今回の発明は車を汚し難くしているのでこのことも,ドライバーの肉体疲労を減らすことと確実に関係していることが推測される。以上の話は,確実に言葉にして表現出来る範囲のもので,現在の知識と言葉からではまだ表現しきれない体を楽にして自動車疲れを減らしてくれている要素があるかもしれない。スパークプ ラグ業界の方を当業者とすれば,電気が圧倒的にある状況下は綺麗な発火をプラグがしてくれ人体への負担を激減させていると当業者なら常識的に判断する。
【課題を解決するための手段】【0028】・・・図1のγは図6で示す装置である。図6の装置は,常時接続のソーラーパネルが発電中,自動車ボディや自動車ボディ保護剤に電気の流れを循環と放流させ,電気防食現象を起こし,自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる。図6の装置は,直接には燃費の向上に貢献できないが,車が汚れ難ければ,より車が汚れていないことになる。車が汚れていないほど,電気抵抗になるものが少なくなり,ガソリンエンジン車などではスパークプラグでの発火は綺麗で強くなり,このことは燃費の向上に関わる。
このようにして,図6の装置は間接的に燃費の向上に貢献する。・・・ 【発明の効果】 【0029】請求項1の発明によれば,ソーラーパネルを利用した今回の発明で自動車のボディ・部品・自動車ボディに塗布した車両用コーティング剤はこの装置が日光などの光を受ける間,電気の循環と放流を受けられる。これによって自動車ボディ金属自体や金属部品,自動車ボディに塗布した車両用コーティング剤,その他を電気防食現象下に置き,自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる。
【発明を実施するための形態】 ・・・ 【0054】 ・・・図6の装置は,常時接続の(符号5・1)ソーラーパネルが発電中,自動車の(符号5・3)端と(符号5・4)端に接続された接地点の間の車ボディや部品に対し電気が循環し,流れている。
(符号5・1)ソーラーパネルの大きさは例えば2V250mAとでもしておく。
(符号5・2)オン・オフスイッチは電気が流れているのが嫌なら接続を解除出来るように付けた。この回路内に半導体ダイオードを記してない理由は,理屈から言って,半導体ダイオードはあってもなくてもよい,それで付けてみたところハンドルから伝わる感触が悪かったことである。半導体ダイオードを回路内にいれてもい いと思うが発明者は勧めない。
(符号5・1)ソーラーパネルが発電し,自動車ボディや部品や自動車ボディ保護剤に電気の流れを循環と放流させ電気防食現象を起こし,自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる。図6の装置は,直接には燃費の向上に貢献できないが,車が汚れ難ければ,より車が汚れていないことになる。車が汚れていないほど,自動車はボディ・アースの構造を成しているため電気抵抗になるものが少なくなり,ガソリンエンジン車などではスパークプラグでの発火は綺麗で強くなり,このことは燃費の向上に関わる。このようにして,図6の装置は間接的に燃費の向上に貢献する。
【符号の説明】【0056】[図1]α フロント窓側ソーラー装置β リア窓側ソーラー装置γ 電気防食現象専用ソーラー装置 ・・・ [図6]5・1 電気防食現象専用ソーラーパネル5・2 オン・オフスイッチ5・3 自動車のボディの端にソーラーパネルからの導線を接地5・4 自動車のボディの端にソーラーパネルから5・3とは別の極(5・3が+極ならば,5・4は-極)の導線を接地 【図1】 【図6】 2 特許法36条6項1号が規定する要件(サポート要件)について (1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,サポート要件の存在は,特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解する のが相当である。知的財産高等裁判所平成17年11月11日判決, ( 平成17年(行ケ)10042号,判例時報1911号48頁参照)。
(2)ア 本願発明の課題は,原告の主張によると,課題@「車のボディの汚れが取れ易くなり,20日置きのカーシャンプーではカーシャンプーの頻度が多過ぎて今までの通常の輝きが10なら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになること」 つまり, , 「車を磨く頻度を減らし,少しの力で磨けること」 及び, , 課題A「間接的に燃費の向上に貢献すること」である。
イ 課題@が本願発明で解決される原理については,本願明細書において,「自動車ボディと部品自体が,電気防食現象下に入り,汚れ難くなった。その上,車両用コーティング剤自体も,今回の発明により電気の流れを浴び,電気防食現象下に置かれ,コーティング剤自体と電気防食現象が相乗効果を起こし,従来をまさる輝きを放ち,通常を超える長期間に渡って車両を保護しようとしたと思う。 【0 」 (009】)と,電気防食現象によるものであると説明されている。
課題Aについては,本願明細書において, 「図6の装置は,常時接続のソーラーパネルが発電中,自動車ボディや自動車ボディ保護剤に電気の流れを循環と放流させ,電気防食現象を起こし,自動車と自動車部品を汚れ難くし,自動車ボディ保護剤の効き目をより強力にし,また,効き目を長くし,自動車ボディ保護剤の輝きを増させる。図6の装置は,直接には燃費の向上に貢献できないが,車が汚れ難ければ,より車が汚れていないことになる。車が汚れていないほど,電気抵抗になるものが少なくなり,ガソリンエンジン車などではスパークプラグでの発火は綺麗で強くなり,このことは燃費の向上に関わる。このようにして,図6の装置は間接的に燃費の向上に貢献する。( 」【0028】)と,電気防食現象によって自動車が汚れ難く,電気抵抗になるものが少なくなることによって解決されるものであると説明されている。
電気防食とは,電流の作用で金属の電位を変化させて腐食を防止することであって,そのうち,外部電源法は,防食の対象となる金属に外部電源の陰極のみを接続 することにより,金属の電位を不活性域まで卑方向(電気がマイナスになる方向)へ移動させた状態を保って腐食を防止するものである(甲3)本願発明においては, 。
自動車の金属製のボディー等に電気の流れを循環させているので,防食の対象となる金属製ボディー等の電位が卑に保てないため,電気防食作用を示すことができないものと考えられる。
ウ 本願明細書【0008】には,本願発明を実施することにより,課題@が解決されたことが, 「車のボディとあらゆる部品等が従来より汚れにくくなっ (ア)ていた。また,汚れていても,こびりつき方が弱く,汚れが取れ易くなっていた。
従来は20日置きのカーシャンプーでやや満足というか,もうちょっと頻度を上げたほうがいいかなという感じだったが,ソーラーパネルを搭載した時点から,20日置きのカーシャンプーでは,もはやカーシャンプーの頻度が多過ぎで異常に車のボディがピカピカになった。 ,(イ)「20日置きのカーシャンプーでは,もはやカー 」シャンプーの頻度が多過ぎで異常に車がピカピカになり,今までの通常の輝きが10とでも例えるなら今回の発明を搭載した後は輝きは18ぐらいになる。ところで,この異常にピカピカなボディはいままでのメンテナンスとカー・ケアでは起こったことが無いし,こんなに輝いている自動車を一般公道上で見た記憶は発明者にもまた発明者を取り巻く人々にも,光に対し反射性の強い塗装を二重塗装した場合の車以外に,見たことがなかった。」と記載されている。
上記(ア)については,汚れにくくなったり,汚れが取れやすくなったと判断した根拠は,カーシャンプーの頻度が,従来は20日おきでやや満足であったのに対し,本願発明を実施した後は20日おきでは頻度が多過ぎることである旨記載されているが,自動車の汚れは,自動車の周囲の環境や走行距離等によって異なってくるから,それらについて何らの記載がない以上,適切に比較ができているとは認め難い。
したがって, 「汚れにくくなっていた」こと及び「汚れが取れ易くなっていた」ことについての客観的な裏付けがあるということはできない。
上記(イ)については,車の輝きが,本願発明を実施しない従来の場合には10で本 願発明を実施した場合は18ぐらいである旨記載されているが,上記の10や18が輝きのどのような指標であるのか明らかでない上,仮に輝きに差があるように見えたとしても,発明者が,本願発明を実施しなかった従来の場合の車を見た過去の記憶と,本願発明を実施した場合の車を見た記憶とを比較しているにすぎないから,比較の条件が適切に設定されているといえず,客観性に欠けるものである。また,「発明者を取り巻く人々」が,こんなに輝いている自動車を見たことがなかったとの記載に関しても,具体的に第三者がどのように車の輝きを評価したのか記載されていないから,やはり客観性に欠けるものである。
したがって, 【0008】の記載から,本願発明によって課題@が解決されたものと当業者が理解できるとはいえない。
エ そして,他に,本願明細書には,本願発明によって課題@が解決されたものと当業者が理解できる記載があるとは認められず,また,そのような技術常識があるとも認められない(かえって,前記イのとおり,電気防食作用についての技術常識に反するものである。。
) (3) 以上のとおり,当業者は,本願発明によって,課題@が解決されることを理解することができず,そうすると,電気防食現象により自動車が汚れ難く,電気抵抗になるものが少なくなることによって課題Aが解決されると理解することができるともいえないから,本願発明の特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するということはできない。
3 特許法36条4項1号が規定する要件(実施可能要件)について 前記2のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が課題を解決できると認識することができないものであるから,発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載しているとはいえず,当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない。
4 原告の主張について (1) 第3,2の主張について ア 原告は,電気が流れると物質の変性が遅れる場合がある,電気が流れていればそこに磁界が発生し,物質が分子レベルで一定方向を向こうとするなどと主張する。しかし,当業者の技術常識からそのように理解できると認めるに足りる証拠はない。
イ 原告は,サーモス社の洗浄法は,本願発明と同じ概念を用いている,と主張する。
しかし,証拠(甲4,甲7-1-5〜8)によると,サーモス社の洗浄法は, 「過酸化水素発生剤を金属容器内の水に溶かして過酸化水素水を発生させるとともに,金属容器の金属部に負電極を,金属容器内の上記過酸化水素発生剤を溶かした洗浄液に正電極をそれぞれ設けて電圧を印加することによって洗浄液を電気分解して水酸化ラジカルを発生させ,水酸化ラジカルによって金属容器内の汚れ物質を分解して洗浄する。」というものであると認められる。したがって,水酸化ラジカルを用いない本願発明と原理が共通するものとはいえない。
(2) 第3,3の主張について ア 発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度の開示がなく,出願時の当業者の技術常識参酌しても,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できない場合に,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足して,サポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない(前記知的財産高等裁判所平成17年11月11日判決参照) 前記2のとおり, 。 本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度の記載がされているとは認められず,また,技術常識参酌しても同様であるから,本願出願日以降の実験データを,明細書の発明の詳細な説明の記載内容を補足するものとして参酌することはできない。
イ 念のため,原告が行った実験等について判断すると,これらを参照しても,以下のとおり,本願発明が課題@及びAを解決したと認めることはできない。
(ア) 実車による照度の比較(甲5-1-4〜8,甲5-2)について 証拠(甲5-1-4〜8,甲5-2,乙10の6頁,7頁,乙15の7頁〜9頁)によると,原告は,本願発明に係る装置を装着したと主張する自動車(スズキ・セルボモード)と,装着していないと主張する自動車(トヨタ・デュエット)との照度を比較していることが認められる。しかし,両車両は,色,車種等が異なっているから,これらの照度を比較しても,本願発明が課題@及びAを解決したか否かを判定することができるとはいえない。
(イ) 試験片による照度の比較実験(甲6-1-9〜35,甲6-2)について 証拠(甲6-1-9〜35,甲6-2,乙15の12頁〜15頁,乙17の4頁,乙19の7頁)によると,原告は,1枚のボンネット片を切断し,ソーラーパネルを接続した試験片(以下,「本件試験片」という。)と,接続していない試験片(以下,「対照試験片」という。)を同一環境で放置し,6日目,7日目,16日目,29日目に照度を測定し,29日目に,両試験片にカーシャンプーを施した後,照度を測定したところ,29日目の照度測定結果は,本件試験片が2280ルクス,対照試験片が1990ルクスであり,カーシャンプーを施した後の照度測定結果は,本件試験片が1560ルクス,対照試験片が1580ルクスであったことが認められる。
上記実験結果によると,29日目にカーシャンプーを施した後の照度はほぼ同じであり,使用された照度計の精度である±5%の範囲(甲6-1-35)に収まっているから,29日間の汚れの落ちやすさが同程度であったことを示している。したがって,課題@の解決が示されているということはできない。また,上記カーシャンプーを施す前の29日目の測定結果は,上記照度計の精度を考慮しても,本件試験片の方が照度が高いと評価できるが,課題@を解決しているといえる程の有意な差であるとは認められない。
また,原告は,上記比較実験においてカーシャンプーをした5日後(34日目), 雨水がついている試験片に指で触れて,本件試験片は「つるっとして」おり,対照試験片は「もさっとして」いると述べている(甲6-2,乙17の4頁)。この発言は,両試験片に触れたときの主観的な感想にすぎず,本件試験片及び対照試験片の汚れの程度などを客観的に示したものとはいえない。
そうすると,上記比較実験の結果を参照しても,本願発明が課題@を解決できることが理解できるとはいえない。したがって,自動車が汚れ難くなることによって課題Aを解決できることが理解できるともいえない。
(ウ) 原告が行ったその他の実験等を参照しても,本願発明が課題@を解決できることが理解できるとはいえない。したがって,自動車が汚れ難くなることによって課題Aを解決できることが理解できるともいえない。
(3) 第3,4の主張について 本願発明によって,電流が流れ,虫,生物,カビが自動車に付着しないようになるとの事項は,本願明細書には何ら記載されていない。また,本願発明における電流により,虫や生物,カビが自動車に付着しないことが技術常識であることを認めるに足りる証拠もない。したがって,原告の主張は,採用することができない。
(4) 第3,5の主張について 前記2のとおり,本願発明により自動車が汚れにくくなるとはいえないから,仮に,自動車が汚れていないほどスパークプラグでの発火は綺麗で強くなるとしても,本願発明によってスパークプラグでの発火が綺麗で強くなるとはいえない。
(5) 第3,6の主張について 本願明細書には,自動車が汚れにくくなることによって,燃費が向上すると記載されているのであって,触媒の温度が上昇することによって燃費が向上することは記載も示唆もされていない。また,本願明細書には,フォンブリンについては全く記載されていない。したがって,これらに関する主張は,何ら前記3の判断を左右するものではない。
(6) まとめ 以上のとおり,原告の主張を勘案しても,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるものとはいえず,本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
結論
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 永田早苗
裁判官 古庄研