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関連審決 異議2001-70554
関連ワード 改良発明 /  物の発明 /  製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 433号 特許取消決定取消請求事件
原告 東亜機工株式会社
訴訟代理人弁理士 山内康伸
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 安藤勝治
同 高木進
同 涌井幸一
同 田中弘満
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2001-70554号事件について平成13年8月20日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする 2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ウエットシート収納箱およびその製造方法」とする特許第3078527号の特許(平成10年9月8日出願(以下「本件出願」という。同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲第6号証は,登録時のその内容を示す特許公報である。登録後,後記本件訂正により,請求項1及び5の文言の訂正及びこれに伴う発明の詳細な説明の記載の訂正がなされている。),平成12年6月16日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は5である。)の特許権者である。
平成13年2月21日,本件特許に対し,すべての請求項につき特許異議の申立てがなされた。特許庁は,これを異議2001-70554号事件として審理した。原告は,審理の過程で,請求項1及び5の文言の訂正を含む,本件明細書の訂正(以下「本件訂正」という。本件訂正の内容は,甲第7号証(訂正請求書)記載のとおりである。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成13年8月20日,「訂正を認める。特許第3078527号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年9月7日,その謄本を原告に送達した。
2 本件訂正後の特許請求の範囲(別紙1ないし8参照) (1) 請求項1 ウエットシートの集積物を収納し,その上面に下取出口を形成した,柔軟で気密性のある収納袋と, 該収納袋を収納し,その上面に開口を形成した,形状保持性を有する紙製箱と, 該紙製箱の開口の周囲表面とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に,接着剤によって,その裏面が接着された,合成樹脂製であり,わずかな変形のみ許容する剛性の開閉蓋ユニットとからなり, 該開閉蓋ユニットは,略中央に上取出口が形成された取付板と,該取付板にヒンジを介して開閉自在に取付けられた蓋とからなり, 前記紙製箱の開口は,前記収納袋の下取出口より大きく,前記開閉蓋ユニットの上取出口は前記収納袋の下取出口とほぼ同じか又はより小さい大きさであり, 前記開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合されている ことを特徴とするウエットシート収納箱。
(2) 請求項2 前記開閉蓋ユニットは,取付板と蓋の双方に係合部を形成して,蓋を取付板に形成した上取出口の周囲を塞ぐように閉じたり,開けたりできるようにしたことを特徴とする請求項1記載のウエットシート収納箱 (3) 請求項3 前記開閉蓋ユニットは,蓋と取付板との間に,蓋を開放方向に付勢するゴム片を介在させ,かつ蓋と取付板の係合部同士の係合を外すように取付板を変形させるために該取付板に形成した押ボタン部を有する ことを特徴とする請求項2記載のウエットシート収納箱。
(4) 請求項4 前記開閉蓋ユニットの上取出口に,該上取出口を繰り返して開閉できる開閉ラベルが貼付された ことを特徴とする請求項1,2または3記載のウエットシート収納箱。
(5) 請求項5 ウエットシートの集積物を収納し,その上面に下取出口を形成した収納袋を,その上面に前記下取出口より大きい開口を形成した紙製箱に収容し, 該紙製箱の開口の周囲とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に接着剤を塗布し, その上に,上取出口を形成した取付板にヒンジを介して蓋を取付けた開閉蓋ユニットの取付面の裏面を接着し, 前記開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面を,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接合する ことを特徴とするウエットシート収納箱の製造方法
(判決注・下線部が本件訂正による追加訂正部分である。以下,請求項1記載の発明を「本件発明1」と,請求項2記載の発明を「本件発明2」と,請求項3記載の発明を「本件発明3」と,請求項4記載の発明を「本件発明4」と,請求項5記載の発明を「本件発明5」と,それぞれいう。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1及び2は,特開平9-2547号公報(異議手続の甲第1号証・刊行物1,本訴甲第1号証である。
以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開平8-244861号公報(異議手続の甲第2号証・刊行物2,本訴甲第2号証である。以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明3は,引用発明1,引用発明2及び特開平9-39996号公報(異議手続の甲第3号証・刊行物3,本訴甲第3号証である。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明4は,引用発明1,引用発明2,引用発明3及び実公平6-353号公報(異議手続の甲第5号証・刊行物4,本訴甲第4号証である。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明5は,引用発明1と同一のものである,とするものである。
4 決定が認定した,引用発明1の内容,本件発明1と引用発明1との一致点・相違点 (1) 引用発明1の内容(別紙9,10参照) 「「ウエットティッシュの積層体を収納し,その上面部にウエットティッシュ取出口を形成した,柔軟で気密性のある封入袋と,該封入袋を収納し,その上面部に型材を嵌合させるためのかなり大きな開口部を形成した,形状保持性を有する紙箱と,該紙箱の開口縁部上面とともに,前記封入袋のウエットティッシュ取出口周囲上面部に,接着剤によって,その下面が接着された,紙箱とともに外装体を構成するプラスチック製の型材とからなり,該型材は,略中央に開口部が形成された枠体と,該枠体に,これを中心にして上下に弧回動開閉し得る薄肉状の連結部で連結された蓋板とからなり,前記紙箱の開口部は,前記封入袋のウエットティッシュ取出口より大きく,型枠の開口部は,前記封入袋のウエットティッシュ取出口より大きいウエットティッシュ包装体」及び「ウエットティッシュの積層体を収納し,その上面部にウエットティッシュ取出口を形成した封入袋を,その上面部に前記ウエットティッシュ取出口より大きい開口部を形成した紙箱に収納し,該紙箱の開口縁部とともに,前記封入袋のウエットティッシュ取出口周囲上面部に,接着剤によって,その上に,開口部が形成された枠体に,これを中心にして上下に弧回動開閉し得る薄肉状の連結部で蓋板を連結した型材の枠体の下面を接着するウエットティッシュ包装体の製造方法。」」(決定書5頁27行目〜6頁6行目) (2) 本件発明1と引用発明1との一致点 「ウエットシートの集積物を収納し,その上面に下取出口を形成した,柔軟で気密性のある収納袋と,該収納袋を収納し,その上面に開口を形成した,形状保持性を有する紙製箱と,該紙製箱の開口の周囲表面とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に,接着剤によって,その裏面が接着された,合成樹脂製である開閉蓋ユニットとからなり,該開閉蓋ユニットは,略中央に上取出口が形成された取付板と,該取付板にヒンジを介して開閉自在に取付けられた蓋とからなり,前記紙製箱の開口は,前記収納袋の下取出口より大きく,開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合されているウエットシート収納箱」(決定書7頁25行目〜34行目) (3) 本件発明1と引用発明1との相違点 「a.開閉蓋ユニットは,本件発明1では,わずかな変形のみ許容する剛性のものであるのに対し,刊行物1に記載された発明(判決注・引用発明1)では,そのような限定がない点。
b.開閉蓋ユニットの上取出口は収納袋の下取出口と,本件発明1では,ほぼ同じか又はより小さい大きさであるのに対し,刊行物1に記載された発明では,より大きい大きさである点。」(決定書7頁36行目〜8頁2行目) (以下,それぞれ「相違点a」,「相違点b」という。)
原告の主張の要点
決定は,本件発明1の特許性の判断において,引用発明1の認定を誤って本件発明1と引用発明1との相違点を看過し(取消事由1),本件発明1と引用発明1との相違点を看過し(取消事由2),決定自身が認定した相違点の一つ(相違点b)についての判断を誤ったものであり(取消事由3),これにより,本件発明1の進歩性の判断を誤り,同時に同発明の従属発明である本件発明2ないし4の進歩性の判断も誤った。また,引用発明1の認定を誤った結果,本件発明5の新規性の判断も誤っている。
したがって,決定は,すべての請求項につき,違法として取り消されるべきである。
1 請求項1ないし4についての取消事由1(引用発明1の認定の誤りによる相違点の看過) (1) 決定は,引用発明1の型材及びその枠体が,本件発明1の開閉蓋ユニット及びその取付板に相当する,と認定している。しかし,引用発明1の型材及びその枠体は,本件発明1の開閉蓋ユニット及びその取付板に相当するものではない。
(2) 本件発明1の開閉蓋ユニットの取付板は,「板」と表現されている。そして,「板」は,通常,平坦な形状のものを意味するものとして用いられる語である。そうである以上,本件発明1の開閉蓋ユニットの取付板も,平坦な板状部材であるものと解するべきである(特許法施行規則24条に定める様式29の備考参照)。
これに対し,引用発明1の型材3の枠体31は,裏面に環状突出部35が存在しており,平坦な部材ではない。
(3) 本件発明1は,裏面が平坦な板状部材である取付板を用いているため,接着剤を一度に塗ることができるだけでなく,押圧動作という,正確な位置決めを要しない簡単な動作で開閉蓋ユニットを紙製箱に取り付けることができることにより,簡単な機械で自動生産することが可能である。
これに対し,引用発明1は,環状突出部35を紙箱の開口に嵌合して取り付ける。嵌合には,正確な位置決めが必要となるため,複雑な機構を有する機械を用いることが必須となり,機械化が困難である(甲第9号証及び第10号証)。
本件発明1の開閉蓋ユニットの裏面が平坦であることには,上記のとおり重大な意義がある。このように裏面が平坦であることに重要な意義がある本件発明1の開閉蓋ユニットと,平坦な板状部材ではない引用発明1の型材あるいは枠体とを同一視することはできない。
2 請求項1ないし4についての取消事由2(引用発明1と本件発明1との相違点の看過) (1) 引用発明1は,紙箱2,型材3及び封入袋4から構成されている。しかし,これら三つの部材の接合は,接着剤のみにより行われているものではない。引用発明1では,型材3の裏面に形成された環状突出部35が紙箱2の上面に形成された開口部21aに差し込まれ,型材3の外周縁部下面と型紙2の開口縁部上面とが接着され,そして,型材3の環状突出部35の下面と封入袋4の上面部41とが接着剤7で接着されているのである。
これに対し,本件発明1は,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の接合を,接着剤のみによって行っている。本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)には,接着剤のみによって接合を行う,という文言はない。しかし,接合のために,嵌合等の手段を採用しないことは,訂正明細書全体の記載から明らかである。
(2) 引用発明1においては,上記環状突出部35が介在するため,上記三つの部材の接合に,以下のような問題がある。
第1に,型材3の環状突出部35を紙箱2の開口部21aに差し込む工程が必要となる。前記のとおり,これは,正確な位置決めを要するため,機械によりこれを自動的に行う場合,複雑な装置が必要となる。
第2に,接着剤の塗布面が型材3の外周縁部と環状突出部35の下面の二箇所に増えており,工数が増える。
第3に,紙箱2と封入袋4とは互いに接合されていないので,接合強度が弱く,封入袋(本件発明1の収納袋に相当する。)の密封性が損なわれるおそれがある。
(3) 本件発明1は,取消事由1において述べたとおり,取付板の裏面が平坦であるから,紙製箱の大きい開口の周囲が取付板の裏面に接着し,収納袋の下取出口は,紙製箱の開口より小さいから,紙製箱の開口の内側で取付板の裏面に接着する。
このため,接着剤の塗布箇所が一箇所で済み,かつ,一度押圧するだけで,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の三つの部材の接合が完了する,という特徴を有する。
取付板の裏面が平坦であり,接着剤の塗布箇所が一箇所で済むことについては,例えば,訂正明細書の, 「【0012】つぎに,接着剤40を説明する。図3(A)に示すように,紙製箱20の開口21の周囲表面に,接着剤40が塗布される。すると,紙製箱20の開口21の周囲表面だけでなく,収納袋10の下取出口11の周囲表面にも,接着剤40が塗布されるが,その効果については後述する。
図3(B)に示すように,紙製箱20の上面に,開閉蓋ユニット30を押圧して接着する。すると,開閉蓋ユニット30を接着剤40によって紙製箱20を取り付けることができるのである。」(甲第8号証8頁8行目〜16行目) 等の記載に現れている。
(4) 本件発明1は,その作用効果として,「(開閉蓋ユニットを紙製箱に接合する)作業は,外から押圧するだけの作業であり,位置決めもさほどの正確性を要しないので,完全自動化が容易であり,生産性を大きく向上させることができる。」(甲第8号証6頁11行目〜13行目),「開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が紙製箱の開口の周囲だけでなく収納袋の下取出口の周囲にも接着されているので,開閉蓋ユニットが収納袋に対しても強固に接合できる。
そして,上取出口と下取出口との間にある紙製箱の開口が上取出口および下取出口の内縁より外方にあるので,ウエットシートのもつ湿気によって,素材である紙が弱くなったり劣化することがなく,ウエットシートを全部使用するまでの間,紙製箱の形が崩れることがない。」(同号証6頁14行目〜19行目)というものを有する。
引用発明1は,上記の看過された相違点に係るその構成(紙箱,型材,封入袋の接合に,接着剤だけでなく,型材の紙箱への嵌合をも要すること)が妨げとなって,上記作用効果を達成することができない。上記相違点は重要なものである。
(5) 被告は,引用発明1においては,紙箱2にかなり大きな開口部21aが形成されるため,位置決めの正確性にさほど厳密さが要求されることはない,と主張する。
しかし,問題となるのは,開口部21aの大きさ自体ではなく,それと,型材3の環状突出部35との間の隙間の大きさである。引用発明1では,紙箱2の開口部21aの内部に沿わせて環状突出部35の側面を挿入し,かつ封入袋4の取出口の上面に環状突出部35の座面を当接させなければならない。このような作業ができる機械が,高度な組立挿入機構を備えるものとなることは,明らかである。
3 請求項1ないし4についての取消事由3(引用発明1と引用発明2との組合せの困難性) 引用発明2は,容器10(本件発明1の紙製箱に相当)と蓋装置20(本件発明1の開閉蓋ユニットに相当)と密閉袋40(本件発明1の収納袋に相当)の三つの部材を,嵌合等の手段により物理的に結合するものであり,本件発明1のように接着剤を使用するものではない(別紙11及び12参照)。
本件発明1において,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の,それぞれの開口部の大小関係を規定しているのは,接着剤を用い,一度の押圧だけで,これら三つの部材の接合を完了させるためである。
引用発明2において,容器10,蓋装置20及び密閉袋40の各開口部の大小関係が,本件発明1のそれと同じであったとしても,引用発明2は,接着剤を用いない以上,接着剤を用いる発明と同じ技術思想を有しているということはできない。
引用発明1と引用発明2とは,このように同じ技術思想を有するものでない以上,両者を組み合わせること自体に困難性がある。
4 請求項5についての取消事由(本件発明5の新規性についての判断の誤り) 本件発明5は,物の発明である本件発明1の製法に関する発明である。本件発明1が上述したとおりのものである以上,本件発明5は,引用例1及び引用例2のいずれにも開示されていない構成(開閉蓋ユニットの小さい上取出口と,紙製箱の大きな開口と,収納袋の小さい下取出口の大小関係,開閉蓋ユニットと紙製箱と収納袋の接着剤による一体接合)によって,高い生産性と強度を有するウエットシート収納箱の製造を実現することができる。
引用発明1は,上記構成及び作用効果を有していない点で,本件発明と全く異なるから,これが本件発明1と同一であるとした決定は,明らかに誤っている。
被告の反論の要点
1 請求項1ないし4についての取消事由1(引用発明1の認定の誤りによる相違点の看過)に対して (1) 「板」とは,普通の意味において,「平たいもの」のことであることは認める。しかし,表裏面が粗面のものも,波形のものも,「板」と呼ばれている。
「板」を,凹凸のない平坦な板状部材である,と限定して解すべき理由はない。
(2) 本件発明1における「取付板」は,単に,取付けに用いられる板状部材を意味するだけで,それ以上に,その形状や構成に限定はない,と解するのが相当である。
訂正明細書には,「【0015】取付板31は,その裏面が,前記紙製箱20の上面に接着剤40によって接着される板である。この取付板31の表面における略中央には,楕円状の下密閉リブ31Cが形成されている。取付板31において,下密閉リブ31Cの内側領域の中央部には,上取出口34が形成されている。」(甲第8号証8頁28行目〜9頁3行目),「【0016】そして,下密閉リブ31Cの外側前部には,押しボタン部31Bが形成されている。下密閉リブ31Cの内側前部には,掛合部31Aが形成されている。」(同号証9頁6行目〜8行目)と記載されており,さらに,訂正明細書の図1,図4ないし図8には,取付板31が外周に突出部を有するものとして記載されている。
以上のとおりであるから,本件発明1の取付板も,突出部のあるものも含むことが明らかであり,これを平坦な板状部材に限られると解することはできない。
2 請求項1ないし4についての取消事由2(引用発明1と本件発明1との相違点の看過)に対して (1) 引用発明1の環状突出部35は,型材3の裏面に形成されており,その一部である。
この環状突出部35は,紙箱2の上面に形成された開口部21aに差し込まれるものの,型材3の開口部32を形成した環状の枠体31の外周縁部の下面と紙箱2の上面部21の開口縁部上面とは接着剤で接着され,枠体31の環状突出部35の全周にわたって接着剤で封入袋4の上面部41が接着されているのであるから,紙箱2,型材3及び封入袋4の三つの部材の接合は,接着剤によってなされている。この接合の態様は,本件発明1の紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の接合のそれと同じである。
本件発明1と引用発明1との間に,原告が指摘するような相違点はない。
(2) 本件発明1において,接着剤の塗布箇所は,紙製箱の開口の周囲表面と,収納袋の下取出口の周囲表面との二箇所である。本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)には,紙製箱と開閉蓋ユニットと,収納袋と開閉蓋ユニットとが,それぞれ接着剤で接合されるとの記載はあるものの,紙製箱と収納袋とが接着剤により接合されるとの構成は記載されていない。
紙製箱と収納袋と開閉蓋ユニットという三つの部材が,すべて互いに接着剤で接合されている,ということを前提に,本件発明1と引用発明1との相違点の看過をいう原告の主張は,その前提において既に誤っている。
(3) 引用発明1において,紙箱2に型材3を差し込む工程が存在することは事実である。しかし,紙箱2にかなり大きな開口部21aが形成されることからすれば,位置決めの正確性にさほど厳密さが要求されるとは考えられない。この差し込む工程の存在により,引用発明1の製造が,本件発明1のそれに比較して困難になる,ということはできない。
(4) 原告は,本件発明1が,接着剤の塗布箇所が一箇所で済み,かつ,一度押圧するだけで,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の三つの部材の接合が完了する,という特徴を有する,と主張する。
しかし,この主張は,本件発明1の取付板の裏面が平坦であることを前提にするものである,その前提が誤っていることは,取消事由1に対する反論において既に述べたとおりである。
本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の文言中には「取付板の裏面が,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合される」との部分があるにすぎない(なお,本件発明5に係る特許請求の範囲(請求項5)の文言中には「該紙製箱の開口の周囲とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に接着剤を塗布し」との部分があるものの,接着剤を塗布する箇所が一箇所であることを意味する文言は含まれていない。)。
原告の主張は,特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載に基づかないものであって,失当である。
3 請求項1ないし4についての取消事由3(引用発明1と引用発明2との組合せの困難性)に対して (1) 引用発明2に記載された発明は,引用発明1と同様,ウエットシート収納箱の技術分野に属している。前者の技術を後者に適用することができることは当然である。
(2) 訂正明細書は,収納袋の下取出口,紙製箱の開口,開閉蓋ユニットの上取出口の開口の大小関係に係る構成の目的及び作用効果について,明確に述べることをしていない。原告は,接着剤で接合する際に一度押圧するだけでこれら三つの部材の接合を完了させることができるという作用効果がある,と主張する。しかし,そのような作用効果を開示する記載はない。
本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)に記載された接合,すなわち「開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が,紙製箱の開口の周囲および収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合されている」,「紙製箱の開口の周囲表面とともに,収納袋の下取出口の周囲表面に,接着剤によって,その裏面が接着された,合成樹脂製であり,わずかな変形のみ許容する剛性の開閉蓋ユニット」という記載からは,接着剤で接合する際に一度押圧するだけで,三つの部材の接合を完了させることができる,ということは当然には導き出されない。
本件発明1には,引用発明2にない技術思想が開示されていることを前提にする原告の主張は,その前提自体が存在せず,失当である。
(3) 本件発明1が,原告の主張するような技術思想を有しているとしても,そのことは,引用発明1と引用発明2の組合せに何ら影響しない。
本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)に記載されたような接合ができるのは,紙製箱の開口が収納袋の下取出口より大きい,と特定されていることによるものである。開閉蓋ユニットの上取出口と収納袋の下取出口との大小関係という構成(相違点bに係る構成)は,上記接合とは全く関係がない。
訂正明細書の「【発明の効果】請求項1のウエットシート収納箱によれば,開閉蓋ユニットの上取出口はわずかな変形しか許容しない剛性を有しているので,ウエットシートを取り出すとき適度な抵抗をウエットシートに与え,1枚ずつ取り出すとき2枚目の引きずり出しを防止するので,確実に1枚ずつ取り出すことができる。」(甲第8号証11頁22行目〜26行目)との記載によれば,剛性の開閉蓋ユニットの上取出口を,柔軟な収納袋の下取出口とほぼ同じか,またはより小さくするという構成の奏する作用効果は,ウエットシートを取り出すとき,確実に1枚ずつ取り出すことができる,というものであると認められる。
そして,この作用効果は,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の三つの部材が,接着剤で接合しているか否かとは関係がない。
引用発明2が,接着剤による接合を前提にしていないとしても,この接合に関係のない構成により,本件発明1と同じ作用効果を奏するものである以上,これを引用発明1と組み合わせることに何ら困難はない。
4 請求項5についての取消事由(本件発明5の新規性についての判断の誤り)に対して 本件発明5により製造されるウエットシート収納箱の構成と本件発明1のウエットシート収納箱の構成とは,すべてが共通しているというわけではない。本件発明5に係る特許請求の範囲(請求項5)は,開閉蓋ユニットの小さい上取出口と紙製箱の小さい開口という大小関係について何ら言及しておらず,したがって,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の三つの部材の開口部の大小関係については,何ら規定していないことになる。そのため,その大小関係を前提とする接着の仕方も,構成要件となっていない。
構成要件でない構成を前提にして同一性を否定する原告の主張は,失当である。
当裁判所の判断
1 請求項1ないし4についての取消事由1(引用発明1の認定の誤りによる相違点の看過)について (1) 原告は,引用発明1の型材は,その裏面に環状突出部35が存在するため,平坦な板状部材であるとはいえず,本件発明1の開閉蓋ユニット及びその取付板に該当しない,と主張する。
(2) 原告のこの主張は,引用発明1が,環状突出部35を構成要件とすることを当然の前提とするものである。しかし,そもそも,この前提自体に誤りがあるというべきである。引用例1に環状突出部35を構成部分とするものが記載されているのは確かであるものの,同引用例には,そうでないものも記載されており,決定が,後者を引用発明1(引用例1に記載された発明)として認定した発明から除外していると考えるべき理由も見出せないからである。
ア 引用例1には,以下のような記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】内部にウエットティッシュ(6)の積層体(5)を収納し且つ上面部(41)にウエットティッシュ取出口(43)を形成した気密性と耐水性を有する封入袋(4)と,該封入袋(4)の外側を被覆する外装体(1)とを備えたウエットティッシュ包装体であって, 前記外装体(1)は,上面部(21)と底面部(22)と少なくとも対向する一対の側面部(23,23)とを有する紙箱(2)と,該紙箱(2)の上面部(21)に取付けられたプラスチック製の型材(3)とを備え,該型材(3)は封入袋(4)のウエットティッシュ取出口(43)に対応する開口部(32)を形成した環状の枠体(31)と該開口部(32)を密閉する蓋板(33)とを有するとともに,前記封入袋(4)の上面と前記枠体(31)の下面とを接着剤(7)で環状に接着させた,ことを特徴とするウエットティッシュ包装体。」 (イ) 「【0016】又,紙箱の上面部には,型材の枠体部分を嵌入させる開口部が形成されており,該紙箱の開口部に枠体部分を嵌入させた状態で枠体の外周部と紙箱上面部の開口縁部とを例えば接着剤によって接着して,紙箱と型材とを一体化させている。枠体内の開口部は,蓋板で開閉されるようになっている。そして,蓋板を閉じた状態では枠体の開口部が密閉され,他方,蓋板を開いた状態では開口部から封入袋のウエットティッシュ取出口が露出するようになっている。」 (ウ) 「【0017】封入袋の上面と枠体の下面とは,接着剤で環状に接着させて,該封入袋の上面部を枠体の下面に固定させている。又,封入袋上面と枠体下面との接着部分は,全周に亘って連続させることが好ましいが,小間隔を隔てて間欠的(例えば点線状)に接着させてもよい。尚,接着剤による接着を小間隔を隔てて間欠的に行った場合には,ウエットティッシュ取出口の上部空所(枠体で囲まれる部分)を完全に気密保持させることができないが,封入袋上面と枠体下面間の非接着部分はほぼ接触状態となり,その間にはほとんど空気が流通しない。」 イ 引用例1の特許請求の範囲の請求項1の文言の記載から明らかなとおり,同引用例に記載されている発明は,環状突出部35を構成要素とするものに限られているわけではない。
同引用例に記載されている発明は,枠体の下面と紙箱上面とを接着剤で一体化すること,及び,枠体の下面と封入袋の上面とを接着剤で一体化することを意図するものと把握できるものである。そして,紙箱の紙が,一般的に,さほど厚さのあるものとも,剛性の高いものとも理解できないことからは,環状突出部がないからといって,上記各接着が不可能となると認めることはできないから,上記(イ)の記載や,実施例の記載にかかわらず,引用例1に接した当業者が,そこに記載された発明として,環状突出部を有しない型材を用いるものをも把握することは,むしろ当然のことというべきである。
(3) 本件発明1が,開閉蓋ユニットの取付板の裏面が凹凸のない平面である,ということを必須の構成としている,ということもできない。
ア 原告は,本件発明1の開閉蓋ユニットの取付板の裏面は,凹凸のない平面である,と主張し,その根拠として,本件発明1は,その製造が,取付板を紙製箱の開口部に嵌合するという,複雑な工程を要しないものであること,接着剤を塗布する箇所が一箇所で済み,塗布作業が簡単になるのみならず,接合も強固となること,を挙げる。
イ 本件発明1の構成要件は, 「ウエットシートの集積物を収納し,その上面に下取出口を形成した,柔軟で気密性のある収納袋と, 該収納袋を収納し,その上面に開口を形成した,形状保持性を有する紙製箱と, 該紙製箱の開口の周囲表面とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に,接着剤によって,その裏面が接着された,合成樹脂製であり,わずかな変形のみ許容する剛性の開閉蓋ユニットとからなり, 該開閉蓋ユニットは,略中央に上取出口が形成された取付板と,該取付板にヒンジを介して開閉自在に取付けられた蓋とからなり, 前記紙製箱の開口は,前記収納袋の下取出口より大きく,前記開閉蓋ユニットの上取出口は前記収納袋の下取出口とほぼ同じか又はより小さい大きさであり, 前記開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合されている ことを特徴とするウエットシート収納箱。」 というものである。
取付板の裏面に凹凸がないことも,開閉蓋ユニットを紙製箱に取り付ける動作として,嵌合が排除されていることも,少なくとも明示的には記載されていない。接着剤による接合についても,「該紙製箱の開口の周囲表面とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に,接着剤によって,その裏面が接着された,合成樹脂製であり,わずかな変形のみ許容する剛性の開閉蓋ユニット」,「前記開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合されている」との記載はあるものの,どこにどの程度接着剤を塗るか,何箇所に塗るかなどについては,何も記載されていない。
訂正明細書中には,例えば 「【0008】請求項1の発明によれば,・・・また,紙製箱の開口の周囲表面に接着剤を塗布して,開閉蓋ユニットの裏面を接着させているので,開閉蓋ユニットを紙製箱に強固に接合できる。しかも,この作業は外から押圧するだけの作業であり,位置決めもさほどの正確さを要しないので,完全自動化が容易であり,生産性を大きく向上させることができる。」(甲第8号証6頁5行目〜13行目)(【0029】【発明の効果】にも同旨の記載がある。) との記載がある。しかし,これは,【発明の詳細な説明】中の記載にすぎない。また,接合のための押圧動作において,位置決めの正確性を要しないということは,その前段階の作業となり得る嵌合の作業を,必ずしも排斥するものではない。
訂正明細書には, 「【0012】つぎに,接着剤40を説明する。図3(A) に示すように,紙製箱20の開口21の周囲表面に,接着剤40が塗布される。すると,紙製箱20の開口21の周囲表面だけでなく,収納袋10の下取出口11の周囲表面にも,接着剤40が塗布されるが,その効果については後述する。
図3(B) に示すように,紙製箱20の上面に,開閉蓋ユニット30を押圧して接着する。すると,開閉蓋ユニット30を接着剤40によって紙製箱20を取り付けることができるのである。」(甲第8号証8頁8行目〜16行目) 「【0023】つぎに,ウエットシート収納箱の製造方法を説明する。
実施形態のウエットシート収納箱を製造するには,第1に,紙製箱20に収納袋10を入れる。
第2に,紙製箱20の開口21の周囲表面に接着剤40を塗布する。
すると,その下側の収納袋10の下取出口11の周囲表面にも接着剤40の層を形成できるので,開閉蓋ユニット30を紙製箱20だけでなく収納袋10に対しても強固に接合できるという効果を奏する。
第3に,接着剤40が塗布された開口21の周囲表面に,開閉蓋ユニット30を押圧して接着すると,製造が完了する。」(同号証10頁13行目〜22行目) との各記載がある。これらの記載は,接着剤を,紙製箱の開口部の周囲表面に塗布し,これにより,収納袋の下取出口の周囲表面にも接着剤が塗布されることになる,との工程を開示するものと理解することができる。
しかし,これらは,訂正明細書の【発明の実施の形態】中の記載にすぎず,これをもって本件発明1の構成要件を示すものとすることはできない。
発明の詳細な説明中の,紙箱の開口周囲表面に接着剤を塗布し,それにより自動的に収納袋の下取出口の周囲表面に接着剤を塗布するという作業を採用するならば,開閉蓋ユニットの取付板の裏面が,凹凸のない平面であるか否かによって,接着剤塗布作業の難易が変わるものではないことは明らかである。
押圧による接着の強度についていえば,上記取付板の裏面に環状突出部が存在したとしても,その環状突出部の上面を,接着剤が塗布された収納袋に接触させ,押圧するというのであるから,その接触面積にもよるものの,環状突出部は,突出している分,収納袋により強く押圧されることになるから,本件発明1にいう「強固に接合できるという効果」は奏し得る。
要するに,訂正明細書発明の詳細な説明の記載における,接着剤の塗布態様を前提にすると,接着剤の塗布作業の難易や,接合の強度に関する限り,環状突出部があるか否かで差があるとは認められない。
カ 以上のとおりであるから,本件発明1の開閉蓋ユニットの取付板の裏面が,凹凸のない平面である,という前提自体も,採用できない。
(4) 引用発明1の型材を,環状突出部35を有するものと理解するとしても,これを「板」ととらえることに何ら問題はない。
「板」とは,「@木材を薄く平たく切ったもの,A薄く平たいもの」(大辞林)という意味である。しかし,程度問題ではあるものの,一切の突起物,凹凸がないもののみが,「板」と表現されている,というわけではない。このことは,本件発明1の取付板も,31Cの下密閉リブ(突起物である,ということができる。)を有していること,引用発明2の「上板27」(「薄板27」とも呼称されている。)においても,例えば立方体の一面におけるような,完全な平面状ではなく,かつ,その一部に凹部27aが形成されていることからも,明らかである。
そして,少なくとも引用例1の「【0031】・・・枠体31の下面には,適宜小深さ(例えば3〜5mm程度)だけ下向きに突出する略矩形の環状突出部35が一体形成されている。」(5頁右欄2行目〜10行目)との記載や,図2(別紙10参照)からは,同引用例の実施例において開示されている型材の環状突出部は,上記型材を「板」ではないと評価させるほどに,突出したものでも,大きなものでもない,と認めることができる。
取付「板」という語の定義から,引用発明1の型材が,本件発明1の取付板に相当するとはいえない,とする原告の主張は,採用できない。
2 請求項1ないし4についての取消事由2(引用発明1と本件発明1との相違点の看過)について (1) 原告は,本件発明1において,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の接合は,嵌合等の手段を用いずに,接着剤のみによって行われており,この点で引用発明1と異なる,と主張する。
(2) 本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載には,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の接合を,接着剤「のみ」によって行う,との限定を意味する記載はない。本件発明1が嵌合等の手段を排斥していると解することはできない。他方,引用発明1についてみても,前記のとおり,嵌合のための環状突出部のないものもそこに含まれている。両者の間に原告主張の相違がないことは,まずこのことから明らかである。
(3) 引用発明1における紙箱,型材及び封入袋の接合は,前記のとおり,「該紙箱の開口部に枠体部分を嵌入させた状態で枠体の外周部と紙箱上面部の開口縁部とを例えば接着剤によって接着して,紙箱と型材とを一体化させている。」,「封入袋の上面と枠体の下面とは,接着剤で環状に接着させて,該封入袋の上面部を枠体の下面に固定させている。」となっており,これは,本件発明1の,「該紙製箱の開口の周囲表面とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に,接着剤によって,その裏面が接着された,合成樹脂製であり,わずかな変形のみ許容する剛性の開閉蓋ユニット」,「前記開閉蓋ユニットの上取出口の周囲における取付板の裏面が,前記紙製箱の開口の周囲および前記収納袋の下取出口の周囲に接着剤で接合されている」という,紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の接合関係と,同一である。
原告の主張が,紙製箱と収納袋も,互いに直接接着剤で接合されているということをいうのであれば,そのような構成は訂正明細書に開示も示唆もされていないから,失当である。
(4) さらに,引用発明1は,上記接合関係により,「【0022】【発明の効果】上記のように,本願請求項1の発明では,枠体内の開口部を蓋板で密閉し,且つ封入袋の上面と枠体の下面とを接着剤で環状に接着させているので,閉蓋状態ではウエットティッシュ取出口をほぼ気密状態に維持させることができ,外装体の主体部を紙箱で形成したものであっても,封入袋内の水分が外部に蒸発しなくなってウエットティッシュとしての機能低下を防止できる,という効果がある。」(甲第1号証4頁右欄29行目〜37行目),との記載により示される効果を奏する。
この作用効果と,本件発明1の「(紙製箱の)上取出口と(収納袋の)下取出口との間にある紙製箱の開口が,上取出口および下取出口の内縁より外方にあるので,ウエットシートのもつ湿気によって,素材である紙が弱くなったり劣化することがなく,ウエットシートを全部使用するまでの間,紙製箱の形が崩れることがない。」(甲第8号証12頁4行目〜7行目)との作用効果とは,封入袋ないし収納袋内の湿気が紙箱ないし紙製箱の紙に到達することはない(気密状態を保つことができる。),という点で,同一のものであると認められる。しかも,この気密状態を保ち得るのは,専ら接着剤による接着のためであり,嵌合(これが行われないものも引用発明1に含まれることは前記のとおりである。)はこれに全く寄与していないと認められるのである。
したがって,本件発明1の紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の接合関係と,引用発明1の紙箱,型材及び封入袋の接合関係とは,接着剤を使用することにより同一の効果を上げることができるという点でも,同じく,接着剤により接合されている,いうことができる。
(5) 以上のとおりであるから,この点についての原告の主張も,理由がない。
3 請求項1ないし4についての取消事由3(引用発明1と引用発明2の組合せの困難性)について (1) 原告の主張は,引用発明2は,容器10(本件発明1の紙製箱に相当)と蓋装置20(本件発明1の開閉蓋ユニットに相当)と密閉袋40(本件発明1の収納袋に相当)の三つの部材が嵌合等の手段により物理的に結合されたものであり,接着剤で結合されたものではない点で,接着を前提とする発明とは異なるから,上記三つの部材の開口の大小関係が,それらに対応する本件発明1の三つの部材(紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋)の開口の大小関係と同じであったとしても,接着を前提とする発明と同じ技術思想を開示するものとはいえず,これと,接着を前提とする引用発明1とを組み合わせることには困難がある,というものである。
(2) 引用例2には,以下のような記載がある。
ア「【0015】図1乃至図3において,ウェットティッシュ用容器10は,密閉袋40により密閉されたウェットティッシュ41(図3参照)を収納する上方開口型の容器本体11と,容器本体11に嵌込まれる蓋装置20とを備えている。容器本体11の開口周縁には,下部周縁突部12が設けられ,この下部周縁突部12は,後述する蓋装置20側の上部周縁突部34内に嵌込まれるようになっている。」(甲第2号証3頁左欄17行目〜24行目) イ「【0019】また,図1乃至図3に示すように,薄板27は取出口24に向って下方へ傾斜しており,後述のように薄板27上の水分が取出口24側へ流下するようになっている。さらに,薄板27の取出口24周縁には,薄板27から下方へ降下する連結部35が設けられ,この連結部35の下端には水平方向に外方へ延びる延長部36が設けられている。そしてこの延長部36上に,密閉袋40の上端に形成された連結口40a(図5参照)が係合し,このようにして密閉袋40の連結口40aが薄板27の取出口24に連結される。」(同号証3頁左欄43行目〜右欄2行目) ウ「【0020】なお,連結部35および延長部36として,図3に示す構造の他に,図4に示す構造を用いてもよい。すなわち,図4(a)(b)に示すように,連結部35と延長部36が一体に形成されるとともに,これら連結部35と延長部36が薄板27と別体に構成されている。また薄板27側に凹部27aが設けられ,一方連結部35に凹部27aに係合する凸部35aが設けられ,薄板27の取出口24周縁に凹部27aと凸部35aとを係合させて連結部35が嵌込まれている。」(同号証3頁右欄3行目〜11行目) 引用例2のこれらの記載から分かるとおり,引用発明2において,容器10,蓋装置20及び密閉袋40の三部材は,嵌合関係によって結合されており,接着剤によって結合されてはいない。
(3) しかし,引用例2には,蓋装置20の取出口24による作用効果に関して, 「【0034】・・・蓋本体21の取出口24からウェットティッシュ41を指で摘んで上方へ引張る。その後,連続して,ウェットティッシュ41を引張ることにより,第1番目のウェットティッシュ41を容器本体11内から取出すことができる。この場合,第2番目のウェットティッシュ41の上半分41aが,第1番目のウェットティッシュ41の下半分41bによって引張られる。そして,第2番目のウェットティッシュ41の上半分41aが,取出口24の周縁部に引掛かった時点で,第2番目のウェットティッシュ41が停止する。」(甲第2号証4頁右欄14行目〜25行目) という記載がある。
引用例2の上記の記載からは,引用発明2における,蓋装置20の取出口24の周縁部に第2番目のウェットティッシュが引っ掛かることにより得られる,第1番目のウェットティッシュを引っ張り出すことができる,という作用効果は,容器10と蓋装置20と密閉袋40との3部材が,接着剤で結合されていなくとも,発揮されるものであることが明らかである。引用発明2から抽出する,容器10と蓋装置20と密閉袋40との間の大小関係に関する構成が,紙箱,蓋材(引用発明1の型材)及び収納袋の三つの部材の接合が接着剤によって行われることは関係のないものである以上,この接合に係る技術思想を引用発明2が有していないことは,同発明の上記構成(容器10と蓋装置20と密閉袋40の開口部の間の大小関係)だけを抽出して引用発明1に適用することに,何らの困難性をももたらすものではない。
そして,引用発明1と引用発明2とは,ウェットティッシュの容器(発明の名称は,前者は「ウエットティッシュ包装体」,後者は「ウェットティッシュ用容器)に係る発明である,という点で共通する。そればかりでなく,引用発明2は,「【従来の技術】・・・【0003】また蓋装置には,容器本体内のウェットティッシュを取出すための取出口が形成され,この取出口からウエットティッシュを一枚ずつ取出している。」(甲第2号証2頁左欄38行目〜45行目)という従来技術の改良発明(電子レンジにより適切に加熱できるウェットティッシュ用容器)を開示するものであるから,このウェットティッシュを1枚ずつ取り出し得る構成を,同じく,ウェットティッシュを次々と確実に取り出すことができるという効果を達成しようとする引用発明1(「【作用】本願請求項1の発明では,・・・このようにウエットティッシュを引き出したときには,封入袋内の後続のウエットティッシュの一部がウエットティッシュ取出口から上部に露出するようになり,次のウエットティッシュ引き出し作業が容易となる。」(甲第1号証4頁左欄16行目〜30行目)とされている。)に適用することに当業者が想到することは容易であることが明らかである。
この点についての原告の主張も,失当である。
4 取消事由(本件発明5の新規性についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明5は物の発明である本件発明1の製法に関する発明である,と主張する。
本件発明5は,それを特定する特許請求の範囲(請求項5)の記載から,基本的には本件発明1の構成を前提とするものである,ということができる。しかし,本件発明5は,本件発明1が有する,開閉蓋ユニットがわずかな変形のみ許容する剛性のものである,との構成と,開閉蓋ユニットの上取出口が,収納袋の下取出口とほぼ同じかより小さい大きさかである,との構成を欠いている。したがって,本件発明1と引用発明1とが同一であるとする決定の判断を,収納袋の下取出口と開閉蓋ユニットの開口の大小関係を前提に争う原告の主張は,前提において既に失当である。
また,前記のとおり,本件発明1における紙製箱,開閉蓋ユニット及び収納袋の三つの部材の接合関係と,引用発明1における紙箱,型材及び封入袋の三つの部材の接合関係とは,同一である。これに関して本件発明5と引用発明1の同一性を否定する主張も,採用できない。
(2) しかし,本件発明5は,本件発明1にはない(特定されていない),「紙製箱の開口の周囲とともに,前記収納袋の下取出口の周囲表面に接着剤を塗布し」との構成を有している。そして,原告は,この構成によって,生産性の向上と,高い強度を有するウエットシート収納箱の製造とを実現することができる,と主張しているものと理解することができる。
(3) 引用例1には,型材の裏面と,紙箱及び収納袋とを接着させることについての記載はあるものの,そのどちらに接着剤を塗布するかについての記載はない。
そうすると,この点で,本件発明5と引用発明1とは異なり,決定にはこの点について相違点の看過がある,とみるべき余地がある。
しかし,部材同士の接着を実行する場合に,相互に接着される部材のいずれに接着剤塗布を行うか(あるいは双方に行うか)は,一般にどの技術分野においても,必要に応じて適宜選択されるものである,ということができる。
本件においても,開閉蓋ユニット(引用発明1の型材がこれに相当する。)の裏面に接着剤を塗布する場合でも,被接着側である前記紙製箱と収納袋の対応箇所とを覆うように塗布される以上,塗布作業の難易についての作用効果は,紙製箱と収納袋の側に接着剤を塗布する場合と同等のものを期待し得る。後者に限って格別な作用効果があるものということはできない。また,紙製箱と収納袋の側に接着剤を塗布する方が,開閉蓋ユニットとの接着がより強固になる,とも認められない。
引用発明1の型材には,その裏面に環状突出部がないものも含まれることは,既に述べたとおりである。したがって,引用発明1にはこの環状突出部があることを前提に,本件発明1では塗布作業及び接着時の押圧作業がより簡単になる,ということもできない。しかも,押圧に関していえば,前記のとおり,環状突出部があるか否かで,作業の難易や接着強度に差が生じると理解することはできない。
(4) そうすると,接着剤を塗布する箇所の特定は,必要に応じて適宜選択される範囲の事項であり,製造作業の簡易化や接着の強度の向上に特段意義を有しない以上,これを,本件発明5と引用発明1との間の相違点(引用発明1との関連において,本件発明5に特許要件の一つとしての新規性を与える相違点)ということはできない。その他にも,本件発明5と引用発明1との間に相違点がある,と認めることはできない。
決定の判断は,結論として相当である。
5 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,決定には取消の原因となる誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久