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関連審決 不服2014-23454
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事件 平成 28年 (行ケ) 10188号 審決取消請求事件

原告 吉佳エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁理士 江藤聡明 高橋修平
被告特許庁長官
指定代理人大島祥吾 小野寺務 守安智 長馬望 板谷玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2014-23454号事件について平成28年6月28日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性判断(一致点・相違点の認定,相違点の判断)である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「既設管補修工法」とする発明について,平成19年10月23日にした特許出願(特願2007-275471号)を原出願として,平成25年4月8日に原出願を分割出願(特願2013-80227号,本願,請求項の数4)し(甲3),平成26年7月28日,本願の特許請求の範囲及び明細書の記載を補正する手続補正をしたが(甲6) 同年8月14日付けで本願につき拒絶査定を受けた ,(甲7)。
原告は,同年11月18日,上記拒絶査定に対する不服審判請求(不服2014-23454号)をするとともに(甲8),同日,特許請求の範囲及び明細書の記載を補正する手続補正(本願補正)をした(甲2)。
特許庁は,平成28年6月28日,本願補正を却下した上で,本件審判の請求は, 「成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月12日,原告に送達された。
2 本願発明及び本願補正発明の要旨 上記平成26年7月28日付けでされた手続補正により補正された本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)及び本願補正後の同請求項1に係る発明(本願補正発明)は,次のとおりである(以下,本願補正後の本願の明細書及び図面を「本願明細書」という。。なお,下線部は,補正個所である。
) (1) 本願発明「 補修対象の既設管内に新たな更生管を導入して前記既設管の補修が行われ る既設管補修工法において, 前記既設管内への更生管の導入前に, 少なくとも押圧力を受けて変形する変形性及び外部からの水の浸入許容性 と,前記既設管と前記更生管との隙間のサイズよりも厚い厚さを有し,前記更生 管の導入後において前記更生管と前記既設管との間で押圧されて変形した状態で 前記間隙を充満するサイズと,を有する硬化性充填材を含浸させない円筒状中間 部材を前記既設管内に設置する中間部材設置工程と, 該中間部材設置工程後に,前記更生管を導入する更生管導入工程と,を有し, 前記更生管導入工程は, 前記既設管内に設置された円筒状中間部材の中に,一体形の硬化性管状ライニ ング材を挿入し, 該挿入した管状ライニング材を拡径して前記円筒状中間部材を前記既設管 内側面に押し付けて厚さ方向に変形させ,その押し付け状態で硬化されて行われ ることを特徴とする既設管補修工法。」 (2) 本願補正発明「 補修対象の既設管である下水管内に新たな更生管を導入して前記既設管であ る下水管の補修が行われる下水管補修工法において, 前記既設管である下水管内への更生管の導入前に, 少なくとも押圧力を受けて変形する変形性及び外部からの泥粒を含む水の浸入 許容性と,前記既設管である下水管と前記更生管との隙間のサイズよりも厚い厚 さを有し,前記更生管の導入後において前記更生管と前記既設管である下水管と の間で押圧されて変形した状態で前記間隙を充満するサイズと,を有する,硬化 性充填材を含浸させない円筒状中間部材を前記既設管である下水管内に設置する 中間部材設置工程と, 該中間部材設置工程後に,前記更生管を導入する更生管導入工程と,を有し, 前記更生管導入工程は, 前記既設管である下水管内に設置された円筒状中間部材の中に,一体形の硬化 性管状ライニング材を挿入し, 該挿入した管状ライニング材を拡径して前記円筒状中間部材を前記既設管 である下水管内側面に押し付けて厚さ方向に変形させ,その押し付け状態で硬化 されて行われることを特徴とする下水管補修工法。」 3 審決の理由の要点 (1) 目的要件について 本願補正に係る補正事項は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲減縮を目的とするものであり,また,新規事項を追加するものではない。
(2) 独立特許要件について ア 引用発明 特開平8-258152号公報(甲1,引用文献)には,次の引用発明が記載されている。
「 軟質で引張強度の高い耐内圧ライナーである管状不織布又は管状織布と,硬化 性樹脂を含浸し高い曲げ弾性を有する耐外圧ライナーとで多層に構成される管ラ イニング材を内圧管内に導入し,該管ライニング材を,その耐外圧ライナーが最 内層に位置する状態で内圧管の内壁に押圧し,その状態を保ったまま,耐外圧ラ イナーに含浸された硬化性樹脂を硬化させる内圧管補修工法において,前記耐内 圧ライナーを内圧管内に引き込み,該耐内圧ライナーの内部に前記耐外圧ライナ ーを流体圧によって反転挿入するものである内圧管補修工法。」 イ 一致点の認定 本願補正発明と引用発明とを対比すると,両者は次の点で一致する。
「 補修対象の既設管内に新たな更生管を導入して前記既設管の補修が行われる既 設管補修工法において, 前記既設管内への更生管の導入前に, 硬化性充填材を含浸させない円筒状中間部材を前記既設管に設置する中間部材 設置工程と, 該中間部材設置工程後に,前記更生管を導入する更生管導入工程と,を有し, 前記更生管導入工程は, 前記既設管内に設置された円筒状中間部材の中に,一体形の硬化性管状ライニ ング材を挿入し, 該挿入した管状ライニング材を拡径して前記円筒状中間部材を前記既設管内側 面に押し付けて厚さ方向に変形させ,その押し付け状態で硬化されて行われる既 設管補修工法。」 ウ 相違点の認定 本願補正発明と引用発明とを対比すると,両者は次の点で相違する。
【相違点1】 中間部材に関し,本願補正発明においては, 「少なくとも押圧力を受けて変形する変形性及び外部からの泥粒を含む水の浸入許容性と,前記既設管である下水管と前記更生管との隙間のサイズよりも厚い厚さを有し,前記更生管の導入後において前記更生管と前記既設管である下水管との間で押圧されて変形した状態で前記間隙を充満するサイズと,を有する」と特定するのに対して,引用発明においては,この点についての特定がなく「軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布」とする点。
【相違点2】 既設管に関して,本願補正発明においては, 「下水管」と特定するのに対して,引用発明は,この点を特定しない点。
相違点の判断 (ア) 相違点1 引用発明の「管状不織布又は管状織布」は,当業者の技術常識から, 「少なくとも押圧力を受けて変形する変形性」及び「外部からの泥粒を含む水の浸入許容性」を有する。
また,引用発明においても「耐外圧ライナーが最内層に位置する状態で内圧管の内壁に押圧し,その状態を保ったまま,耐外圧ライナーに含浸された硬化性樹脂を硬化させ」ていて,耐内圧ライナーである「管状不織布又は管状織布」は圧縮された状態で設置されているから,引用発明の「管状不織布又は管状織布」も, 「既設管である下水管と前記更生管との隙間のサイズよりも厚い厚さを有し,前記更生管の導入後において前記更生管と前記既設管である下水管との間で押圧されて変形した状態で前記間隙を充満するサイズと,を有する」ものといえる。
したがって,相違点1は,実質上の相違点ではない。
(イ) 相違点2 引用発明は,ガス管や水道管等の内圧管を対象とするものであって,従来技術の記載ではあるが,引用文献に下水管の例示もあることから,内圧管として下水管を選択することは,当業者において想到容易である。
そして,引用発明の対象を下水管とすることにより格別の効果が奏されるものとも認められない。
オ 小括 以上から,本願補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
(3) 本願発明について 本願発明は,本願補正発明における「既設管である下水道管」及び「泥粒を含む水の浸入許容性」について,前者について「下水管」との限定をなくし,後者について「泥粒を含む」との限定をなくしたものに相当する。
そうすると,本願発明と引用発明を対比すると,両者は,全ての点で一致し,相違点はない。
そうすると,本願発明は,引用文献に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り) (1) 一致点及び相違点1 審決は,引用発明の「耐内圧ライナー」並びに「対外圧ライナー」が,それぞれ,本件補正発明の「中間部材」並びに「『一体形の硬化性管状ライニング材』及び『更生管』」に相当すると認定するが,次のとおり,それらの認定は誤りである。
ア 「耐内圧ライナー」 (ア) 引用発明は,ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管を対象とするものであるところ,この場合,ライニング材(補修対象の管の内側に補修のために設置される管材)として,従来から,軟質で引張強度の高い材質が用いられており,引用発明の「耐内圧ライナー」は,軟質で引張強度の高い材質が用いられているから,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当する。
(イ) 引用発明の「耐内圧ライナー」は,内圧管内に高圧の流体が流れることによる内圧に対抗するものであり(引用文献の【0004】 【0005】,内圧管 )内を流れる流体の流体圧によって「耐外圧ライナー」が変形,破裂などの損傷を受けることに対抗する役割,すなわち,内圧に対抗する役割を果すための部材である。
そのため, 「耐内圧ライナー」は,強い引張強度と高い引張弾性係数を有していなければならないが,そのためには,強い材質と緻密な構造を有しなければならず,不織布では,その要求性能を満たし得ない。
また, 「耐内圧ライナー」は,内圧管が損傷した時に,内部のガスや水からの圧力を受け止め得るよう気密性や水密性を有していなければならない。これは,そうではない場合,既設管と軟質ではない材質の「耐外圧ライナー」とが地震などで同時に折損した場合,耐内圧ライナー」 「 が水漏れ等を防げないことになり,引用発明が,水密性,気密性を有する軟質で引張強度の高い部材だけを設置する従来の補修方法よりも信頼性がなくなってしまうことからみて,明らかな矛盾である。仮に,引用発明において,「管状不織布又は管状織布」を用いる場合の「耐内圧ライナー」が,プラスチックフィルムによる被膜や接着剤の含浸を行わなくてもよいとしても,その場合は, 「管状不織布又は管状織布」は,空隙のない密な構成のものであることが要求される。
一方,本願補正発明の「中間部材」は,変形性や泥粒を含む水の浸入許容性を有するものであるから,耐内圧という機能はない。
そうすると,引用発明の「耐内圧ライナー」が,本願補正発明の「中間部材」に相当することはない。
(ウ) 引用発明に係る特許の出願時において,「耐内圧強度の高い材質,つまり,軟質で引張強度の高い材質」(引用文献の【0004】)である管ライニング材として,織布が選択された場合であっても,その織布は,変形性又は泥粒を含む水の浸入許容性を有するものではなかった。
すなわち,@特開昭61-143129号公報(甲18)には,内張り工法の内張り材について, 「薄い柔軟なプラスチックチューブ,織布または不織布を筒状形状にし,その外面に気密・水密性の被覆を形成させた繊維質内張り材等,種々のものが提案されている」 (2頁右上欄下から2行〜左下欄4行目)と記載されており,甲18に記載された発明の補修材も,合成樹脂製の「気密性筒状材」と引っ張り強度を確保するための「織布」によって構成され,その「織布」には,その表面側(合成樹脂被膜の形成されていない側)に接着剤が含浸されており(4頁右上欄10行〜13行目,右下欄4行〜9行目,6頁左上欄下から3行〜右上欄1行目,6頁右下欄下から3行〜7頁右上欄5行目),また,A特公昭60-1178号公報(甲19)には,発明の内張り基材として,繊維を筒状にした「筒状布7」とその外面に形成され,ポリエステル系弾性体である「柔軟な気密性の被膜8」から成るもので(3頁左欄30行〜右欄23行目,図2)「筒状布7」の「被膜8」の貼られてい ,ない側から接着剤が塗布されて「被膜8」まで含浸されているものが記載されている(5頁左欄12行〜右欄3行目)。
このように,引用発明に係る特許出願時において,ガス管や水道管のような高圧の流体が流れる内圧管を補修するために用いられていた管ライニング材は,設置された状態では布製であっても,その筒状体の表裏面に確実に樹脂層が存在しており,水密性,気密性を有していた。
イ 「耐外圧ライナー」 (ア) 本願補正発明では,ライニング材として,「一体形の硬化性管状ライ ニング材」を用いた場合においては,下水管と更生管の間の隙間の発生,これによる漏水や強度の低下(本願明細書の【0009】 【0010】,地下水の浸入(本願 )明細書の【0002】)などの課題があったため,これを解決するために,「一体形の硬化性管状ライニング材」の外側に,変形性や水の浸入許容性の機能を備える「中間部材」を補助的に設けている。すなわち,「中間部材」は,補助部材である。
一方,引用発明では,ライニング材として, 「軟質で引張強度の高い材質」で構成された「耐内圧ライナー」だけを設置していた場合においては,「耐内圧ライナー」の管内側への剥がれ落ちなどの課題があったため,これを解決するため, 「耐内圧ライナー」の内側に,硬化性の「耐外圧ライナー」を補助的に設けている。すなわち,「耐外圧ライナー」は,補助部材である。
そうすると,引用発明の「対外圧ライナー」は,本願補正発明の「中間部材」に相当する。
(イ) 引用発明の「耐外圧ライナー」は,ポンプの起動や停止時における管路内の負圧の発生による管の内外圧の差としての外圧に対抗するための部材である(引用文献の【0005】。
) 一方,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」は,下水管を補修するものであるところ,下水管は,高低差で水が流れる管であり,通常は負圧になる状況はなく,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」には,引用発明にいう「耐外圧」の機能はない。
そうすると,引用発明の「耐外圧ライナー」が,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当することはない。
(2) 相違点2 審決は,本願補正発明においては「下水管」と特定するのに対して,引用発明はこの点を特定しない点が相違すると認定する。
しかしながら,引用発明の補修工法の対象は,既設管の中でも「内圧管」 さらに, ,その中でも, 「ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管」に特定されて いる(引用文献の【0004】【0005】。
) 一方,本願補正発明の「下水管」は,下水を重力で自然流下させる下水管を対象としている(本願明細書の【0002】 【0023】 【0054】,図12)「既設管 。
である下水管の外部から浸入してくる細かい泥粒を含む水によって,その部材の目が埋められ防水性を発揮する状況となる」【0014】 ( )との作用は,既設管が内圧管である下水管の場合には,その亀裂から泥粒を含む水が浸入していくとは想定し得ないから,内圧管である下水管には発揮させる必要性はないし,また,内圧管の補修として耐内圧機能を有する補修材を用いている場合には,泥粒を含む水がその補修材に浸入したときに補修材が軟質性等の性質を失い,かえって,その耐内圧機能を阻害してしまう。
したがって,引用発明は,既設管に関して対象を特定していないのではなく, 「下水管」とは相容れない「ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管」にその補修対象を積極的に特定しているものであり,審決の相違点2の認定には,誤りがある。
(3) 小括 以上のとおり,審決は,本願補正発明と引用発明との対比を誤っており,その一致点及び相違点の認定にも,誤りがある。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 相違点1の判断 ア 審決は,引用発明の「管状不織布又は管状織布」は,当業者の技術常識から, 「押圧力を受けて変形する変形性」 「外部からの泥粒を含む水の浸入許容性」 やを有すると判断する。
しかしながら,引用発明の「管状不織布又は管状織布」は,破損したときに中の流体が外に噴出することを防ぐことのできる耐内圧性を有していなければならない(引用文献の【0026】,図4)。引用発明の「耐内圧ライナー」は,従来の補修管である軟質で引張強度の高い材質のライナーであり,これを,内側から補完する ために「耐外圧ライナー」を設けたのが引用発明であるから, 「耐内圧ライナー」が気密性や水密性を有しないとすれば,「耐外圧ライナー」を設けるとしたがために,大きな地震等の発生時の安全性が従来よりも低下することになる。そして,引用発明の「管状不織布又は管状織布」は,プラスチックフィルムなどでの被覆が必須の要件とはされていない(引用文献の【0019】)。引用発明の「管状不織布又は管状織布」は,その表裏面にシールのためのフィルムなどが貼られていないとすれば,その耐内圧機能を確保するために,繊維が密でなければならず,また,簡単に変形するような材質ではない非変形性が求められる。
したがって,引用発明の「管状不織布又は管状織布」が「変形性」や「泥粒を含む水の浸入許容性」を有するとした審決の上記判断は,誤りである。
イ 審決は,引用発明の「耐内圧ライナー」は,更生管と既設管である下水管との間で押圧されて変形した状態で間隙を充満していると判断する。
しかしながら,引用発明の「耐内圧ライナー」は,上記のとおり,本願補正発明の「中間部材」のように,厚さ方向に押圧されて変形する性質はない。また,引用発明の「耐内圧ライナー」が,その内側に挿入される「耐外圧ライナー」によって押圧された程度で変形するような柔らかいものであれば,耐内圧という機能を奏し得ない。
ウ 以上のとおり,審決の相違点1の判断には,誤りがある。
(2) 相違点2の判断 ア 審決は,引用文献に下水管の例示があると判断する。
しかしながら,引用文献における下水管の例示(引用文献の【0002】)は,引用発明の従来技術として記載されたものではない。すなわち,下水管を含む記載である引用文献の【0001】〜【0003】は,引用発明が対象とする内圧管についての従来の技術を記載したのではなく,内圧管の従来技術の対比として,下水管などの一般的補修について記載したものである。引用発明の従来技術が記載されているのは,引用文献の【0004】である。この【0004】の記載が,引用発明 が対象とする内圧管が,ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管あることを明示し,次の【0005】において,この高圧の流体が流れる内圧管の補修部材として「軟質で引張強度の高い材質が選定」されることに起因する特有の問題点が,引用発明が解決しようとする課題とされているのである。この課題は,下水管の分野では相容れない。
また,ガス管や水道管のような高圧の流体が流れる内圧管は,一般的には,直径が20mm〜600mm 程度の管であるが,下水管は,一般的には,直径200mm〜3,000mm の管であり,両管路の形態は異なる。
以上から,引用文献に下水管の例示があるとはいえない。
イ 審決は,引用発明において,内圧管として下水管を選択することは,当業者において容易想到であると主張する。
(ア) しかしながら,内圧管と下水管は,損傷や経年劣化などが生じた場合における状況が,真逆の関係にある。すなわち,高低差で水を流している下水管においては,下水管内に地下水が浸入していく状況となるが(本願明細書の【0002】,ガス管や水道管の様な高圧の流体が流れる内圧管では,内部の圧力の掛かっ )ている流体(ガスや水)が外へ噴出する状況となる。そのために,ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管では,更生管として,軟質で引張強度の高いものが用いられ,下水管では,更生管として,硬く強度のあるものが用いられてきたのである。
また,後記に被告が主張するように,下水管の中に内圧管である下水管が存在することは,原告も否定しない。しかしながら,内圧管である下水管は特殊な下水管であり,我が国における全延長下水管路の中で,わずか0.7%(3000km 弱)にすぎない(甲22,23)。したがって,当業者は,「下水管」との用語に接した場合に内圧管である下水管を意識することはせず,通常,引用発明のような高圧の流体を流す上水管やガス管についての課題を想定することはない。
(イ) 同じ「反転挿入」での補修といっても,下水管と上水管の補修は明確 に区別されている。ガス管や水道管のような高圧の流体が流れる内圧管においては,軟質で引っ張り強度の高い管ライニング材が用いられるが (引用文献の 【0004】, )下水管の補修においては,このような管ライニング材が求められる状況にはない。
(ウ) 以上のとおり,ガス管や水道管の様な高圧の流体が流れる内圧管と下水管とは,互いの技術に基づいて発明を想起するには阻害要因を有する。
ウ 審決は,引用発明において,その補修工法の対象を下水管とすることにより格別の効果が奏されるものではないと判断する。
しかしながら,本願補正発明は,硬化性のライニング管(更生管)の外側に「中間部材」を設置し,その「中間部材」に「変形性」と「泥粒を含む水の浸入許容性」を持たせることで,下水管とライニング管(更生管)との隙間を充填するとともに,地下水などの下水管への浸入を,この「中間部材」の目を詰まらせることによって食い止めようとするものである(本願明細書の【0014】【0037】。これは, )引用発明の補修方法とは全く異なる作用に基づくものであり,原告の種々の試行錯誤と経験から導かれたことであって,自明なことではない。
エ 以上のとおり,審決の相違点2の判断には,誤りがある。
被告の主張
1 取消事由1に対して (1) 一致点及び相違点1 ア 「耐内圧ライナー」 (ア) 本願補正発明の「中間部材」は,補修管となる部材を挿入する前に補修する管に設置される点で,引用発明の「管状不織布又は管状織布」とその機能において変わらない。
また,本願補正発明の「中間部材」の「泥粒を含む水の浸入許容性」は,本願明細書の【0014】の記載からみて,防水性を発揮するためのものであって,通常の不織布等に比して特別な条件が必要とされるものではないから,引用発明における「耐内圧ライナー」である「管状不織布又は管状織布」とその機能において変わ らない。
そうすると,引用発明における「耐内圧ライナー」が,本願補正発明の「中間部材」に相当するとした審決の判断には,誤りはない。
(イ) 引用発明の解決課題は,内圧管に高い負圧が発生しても,硬化した管ライニング材が内圧管の内壁から剥れるのを防ぐことができる内圧管補修工法の提供であり(引用文献の【0008】,既設管の損傷に対する対応が目的ではないか )ら,地震などで内圧管等の損傷が発生した場合の対応は,引用発明の課題解決手段とは無関係である。また,引用発明に係る従来技術は,一層の管ライニング材であるから,このような管ライニング材により補修された内圧管が,地震等により折れて引用文献の図4のような状態となった場合にも,やはり,内圧管内を流れるガス等が外部に漏れ出ることになるから,引用発明に係る従来技術と引用発明とで,その危険度に差があるわけではない。
(ウ) 甲18及び甲19に記載の発明の織布又は不織布において,防水性を担保しているのは,甲18に記載の発明においては,合成樹脂皮膜 「 (気密性筒状体)」であり,甲19に記載の発明においては, 「柔軟なゴム又はプラスチックの皮膜」であって,接着剤を塗布する目的は,両発明とも,織布又は不織布を接着することにしかなく,接着剤を塗布された織布又は不織布を水密にすることではない。
したがって,引用発明に係る特許出願時において,内圧管を補修するために用いられた補修管は,設置された状態では布製の筒状体の表裏面に接着剤などの樹脂層が存在していた場合があるものの,このような樹脂層を必ず設けることが技術常識であったとはいえない。
イ 「耐外圧ライナー」 「耐内圧ライナー」として軟質の硬化性樹脂を含浸させない管状不織布又は管状織布を用いている引用発明において,管内の流体が管外へ流出するのを防ぐのは,硬化性樹脂を含浸した「耐外圧ライナー」であると当業者は認識する。
また,引用文献の【0024】の記載によると,引用発明の「耐外圧ライナー」 が内圧管の外側からの何らかの力に対抗するものであって,硬くて高い曲げ弾性を有するものであるといえるから,引用発明の「耐外圧ライナー」の機能は,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」の機能と変わらない。
そうすると,引用発明における「耐外圧ライナー」が,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」に相当するとした審決の判断には,誤りはない。
(2) 相違点2「下水管」とは,用途による分類であり, 「内圧管」とは流れる流体の性質による分類である。審決は,引用発明の用途が特定されていないことを,相違点2として認定したものである。下水管は,内圧ゼロで自然に下水を流すものに限られず,内圧管である下水管も存在するから,下水管と,ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管とが相容れないものとはいえない。
(3) 小括 以上のとおり,審決の一致点及び相違点の認定には,誤りはない。
2 取消事由2に対して (1) 相違点1の判断 ア 原告は,引用発明の「管状不織布又は管状織布」が「変形性」や「泥粒の浸入許容性」を有するとした審決の上記判断は,誤りであると主張する。
引用発明の「耐内圧ライナー」は,内圧管に作用する内圧を分担して受けることができるものであればよく(引用文献の【0013】,気密性の高いプラスチック )フィルムや軟質の硬化性樹脂を含浸させない「軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布」も例示されている(同【0019】。また,引用発明において,管路 )内すなわち耐外圧ライナー内を流れる流体は,硬化性樹脂が含浸された耐外圧ライナーによって,外部に漏れ出ることが防止されている。さらに,不織布の定義(乙9)からみて,引用発明における「軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布」は,変形性及び外部からの泥流を含む水の浸入許容性を有するとみるのが相当である。したがって,引用発明の「耐内圧ライナー」は,気密性や水密性を必須の要件 とはしておらず,審決のそのようなものとして,引用発明を認定した。
一方,本願補正発明の「中間部材」は,「不織布などの繊維性部材が好適」(本願明細書の【0014】)とされているから,引用発明の「管状不織布」と機能的な差異はない。
なお,引用文献に接した当業者は,気密性の高いプラスチックフィルムで「耐内圧ライナー」を被覆したものにおいては,図4(【0026】)に示される状態になったときでも,内圧管を流れるガス等が外部に漏れ出ることがないと認識するが,これは,引用文献に記載された発明の1実施態様による場合を示したものであり,気密性の高いプラスチックフィルムで被覆していない場合においても,上記同様のことが当てはまるものとは認識しない。すなわち,図4に示される状態は,引用文献に記載された発明の中で,管状不織布又は管状織布の内外周面を気密性の高いプラスチックフィルムで被覆した,又は,軟質な硬化性樹脂を含浸させた場合などの特定の条件を満たした場合にだけ生じる副次的な作用効果と認識する。
イ 原告は,変形性を有するような柔らかいものでは,引用発明の「耐内圧ライナー」に求められる機能を奏し得ないと主張する。
しかしながら,引用発明の課題は,管内に高い負圧が発生したり,外部から高い外圧が作用しても,管ライニング材が,内壁から剥がれたり,又は,変形することがないようにすることである(引用文献の【0024】。そうすると,不織布又は )織布を用いた「耐内圧ライナー」であっても, 「耐外圧ライナー」により内圧管に押圧されるように設けられて既設管である内圧管と一体性が生じ,既設管との間に空隙が生じないことから,外部から高い外圧が作用した場合,この高い外圧を「耐外圧ライナー」でも受けることができ,また,管路が高い外圧を受けても変形することがないようになる。
したがって,引用発明の「耐内圧ライナー」は, 「耐外圧ライナー」が内圧管の内壁に押圧されたときに, 「耐外圧ライナー」と既設管とに一体性が生じる程度に押圧されて変形した状態となる。
(2) 相違点2の判断 ア 原告は,引用文献には下水管の例示があるとはいえないと主張する。
引用発明の「内圧管」の用途としては,ガス管や水道管が例示されているのみであるものの,引用文献の【0002】 【0003】には,下水管に関する記載もある。
また,引用発明の属する管の補修工法の対象として,当業者は,一般に,水道管,下水管,ガス管等を特に区別することなく,既設管としての管を補修工法の対象の管として認識しており,また,内圧管や下水管などの埋設管の種類に応じて補修工法を変えることは行われていなかった。
したがって,本願補正発明の下水管は,内圧管である下水管を包含するものであり,引用発明の内圧管の用途を下水管とすることに困難性はない。
イ 原告は,ガス管や水道管の様な高圧の流体が流れる内圧管と下水管とは,技術を異にすると主張する。
(ア) しかしながら,次の文献に記載のとおり,下水道の管路施設には,内圧ゼロで自然に下水を流すものを包含する自然流下式のほかに,真空式,圧力式・圧送式の下水道の管路施設が存在し,圧力式・圧送式の下水道の管路施設には,内圧管が利用されている。したがって,単に「下水管」とする場合に,このことから直ちに,内圧ゼロで自然に下水を流す下水管と特定されるわけではない。
@ 「水質環境工学 下水の処理・処分・再利用」 (技報堂出版,1993年3月31日発行)の「第14章 小規模下水処理システム」の779頁〜783頁(乙1) A 特開平9-286820号公報(乙2)の【0001】【0014】【0015】) そして,本願補正発明についても,本願明細書の記載(【0002】【0008】【0054】)を参酌しても,下水管の種類を特定しているとはいえず,また,下水管を流れる流体の圧力等を示唆する事項も記載されていないから,本願補正発明の「下水管」 内圧管も含む下水管全般を対象としていると解するのが自然である。
は, (イ) また,次の文献に記載のとおり,内周面にライニング材を施して管路を補修する技術に関する当業者は,補修対象の管路として,水道管,下水管,ガス管等の区別をしているわけではないから,引用発明に係る内周面にライニング材を施す管路の補修工法の対象についても,管の種類(水道管,下水管,ガス管等)が特に区別されるものではない。
@ 特開平3-47730号公報(乙3)の「従来の技術」欄 A 特開平1-259927号公報(乙4)の「産業上の利用分野」欄及び「従来の技術」欄 B 実願昭63―3508号(実開平1-108719号)のマイクロフィルム(乙5)の実用新案登録請求の範囲及び「産業上の利用分野」欄 C 特開平1-123725号公報(乙6)の「産業上の利用分野」欄及び「従来の技術」欄 D 特開昭61-283529号公報(乙7)の 1 頁右欄2行〜6行目 E 「下水道管きょ更生工法の選定比較マニュアル」 (近代図書,1997年9月20日発行)の「表-4.1 更生工法選定表」の「IV 反転工法」「5.2 , 改築工法の比較表」の「5.2.1 反転工法」(乙8) (ウ) そして,引用発明の解決課題(【0005】 ( )は,ポンプ等を用いて,既設管を流れる流体を圧送するときに発生する課題であって,ガス管や水道管といった用途に限定された課題ではないから,引用発明の内圧管をガス管や水道管等のような高圧の流体が流れる内圧管に限定的に解釈することは妥当でない。
(エ) 以上からみて,本願補正発明の「下水管」と引用発明の「内圧管」とが,全く異なる補修対象の管であるとはいえず,引用発明の内圧管の補修工法であっても,内圧ゼロで自然に下水を流す下水管に適用することは,当業者にとって容易想到といえる。
ウ 原告は,本願補正発明の補修方法は,引用発明の補修方法とは異なる作用に基づくものであると主張する。
しかしながら,引用発明による既設管の補修後に,既設管の老朽化等を原因として,既設管内部に泥粒を含む地下水等が侵入した場合には,引用発明の「耐内圧ライナー」である管状不織布又は管状織布の中に,これら地下水等が浸入できることは自明であり,これは,補修する対象の管の種類によって変わるものではない。
当裁判所の判断
1 認定事実 (1) 本願補正発明について 本願明細書(甲2,3)によると,本願補正発明は,次のとおりのものと認められる。
ア 技術分野 下水管補修工法,特に,補修対象の既設管である下水管内に新たな更生管を形成することによって当該既設管である下水管の補修を行う下水管補修工法に関する。
(【0001】) イ 背景技術 下水管渠などの地中に埋設される管については,設置からの年数の経過による様々な変形が生じることは不可避であり,既設管である下水管は所定の時期に何らかの補修が必要となる。下水管路再生補修技術として,非開削で管の内部から管内面を補修する作業方法があるが,この中で,補修対象の既設管の中に新たな管(更生管)を設置して管を補修,更生する工法が知られている。
この工法として,補修対象の既設管にガラス繊維等によって形成した芯材に未硬化樹脂を含浸させてできた工場生産の硬化性の管状ライニング材を,既設の下水道管に導入し,加圧空気等を用いてこれを拡径し,既設管に密着させた状態で,硬化させて既設管中に新管を形成する方法などが知られている。
(【0002】〜【0005】) ウ 解決課題 上記の管状ライニング材の導入とその硬化作業によって更生管を形成する方法を とった場合でも,最終段階での硬化時に収縮して,既設管である下水管との間に隙間ができるおそれがあり,また,硬化性管状ライニング材の挿入時に,硬化性管状ライニング材と既設管である下水管の間の隙間に硬化性充填材を送り込みつつ作業を行うことは,煩雑かつ困難な作業であり,完全に隙間のない施工を行うことは困難である。このような,更生管と既設管である下水管との間の空洞の残存は,更生管と既設管である下水管との完全な一体性を害することとなり,当初の設計通りの強度が得られず,また,漏水や座屈の原因となるおそれもある。
本願補正発明の目的は,補修対象の既設管である下水管と更生管との間の間隙を簡単且つ確実になくすことができ,既設管である下水管に対する更生管の安定した良好な設置状態を確保することのできる下水管補修工法を提供することにある。
(【0009】〜【0011】) エ 課題解決手段 前記第2,2(2)の構成により,硬化性の管状ライニング材は,あらかじめ挿入されている円筒状中間部材の中に,反転挿入又は引き込み挿入等によって挿入された上で拡径され,その外側面で円筒状中間部材を既設管である下水管の内側面側に押圧するため,円筒状中間部材は,やや押しつぶされた状態となって既設管である下水管と更生管との間の間隙が埋め,簡単かつ確実に管状ライニング材と既設管との間の隙間を埋めることができる。【0016】 ( 【0017】) オ 発明の効果 補修対象の既設管である下水管と更生管との間の間隙を簡単かつ確実になくすことができ,下水管に対する更生管の安定した良好な設置状態が確保され,補修後の管の完成度が向上して強度の増加が図られ,既設管である下水管補修工事の信頼性が高められる。【0021】 ( ) カ 実施形態 (ア) 下水道本管10には,円筒状中間部材12が挿入されている。この円筒状中間部材12は,不織布などの繊維性部材をそのまま設置する。この挿入され た円筒状中間部材12の中に,硬化性の管状ライニング材20が挿入される。この管状ライニング材20は,熱可塑性材料(例えば,ポリ塩化ビニル等)にて形成されており,挿入作業は,牽引ロープ21を管状ライニング材20の先端に取り付け,挿入方向に引き込む。【0040】〜【0042】 ( ) (イ) 引込みが行われる際の管状ライニング材20の状態は,Ω状に畳まれている(図7)。この状態で所定の加熱が行われ,軟化されて引き込まれる。また,このように曲げることで,外径が小さくなり,引込み動作がより円滑なものとなり,さらに,この状態から拡径作業を行うことも容易である。【0043】 ( ) (ウ) 管状ライニング材20の円筒状中間部材12への引き込み動作が終了すると,次に,畳まれた管状ライニング材20を本来の円筒状に復元させる拡径動作が行われる。例えば,管状ライニング材20内への加圧蒸気の吹き込みにより拡径(復元)する。このとき,管状ライニング材20の両端部は蓋部材22-1,22-2でそれぞれ閉栓されており,一方の蓋部材22-1の注入口22aから加圧蒸気を注入する。これにより,管状ライニング材20は加温され,蒸気により内側から押し広げられる。【0045】 ( ) (エ) 管状ライニング材20の復元動作がほぼ終了した状態では,円筒状中間部材12も下水道本管10の内側面に押し付けられ,かつ,下水道本管10の内側面と管状ライニング材20との間の間隙を完全に充満させている。【0046】 ( ) (2) 引用発明について 引用文献(甲1)によると,引用発明は,次のとおりのものと認められる。
ア 産業上の利用分野 ガス管や水道管等の内圧管を補修するため,管ライニング材を用いて施工される内圧管補修工法に関する。 【0001】 ( ) イ 従来の技術 地中に埋設された下水管等の管路が老朽化した場合,該管路を地中から掘出することなく当該管路を補修する管路補修工法として,外周面が気密性の高いフィルムで被覆された可撓性の管状樹脂吸収材に硬化性樹脂を含浸せしめて成る管ライニング材を流体圧によって管路内に反転させながら挿入するとともに,管路の内周面に該管ライニング材を押圧し,その状態を保ったまま管ライニング材を加温等してこれに含浸された硬化性樹脂を硬化させることによって,管路の内周面にライニングを施す工法が知られている。【0002】 ( 【0003】) ガス管,水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管のライニングに供される管ライニング材としては,耐内圧強度の高い材質,つまり,軟質で引張強度の高い材質が選定されなければならない。【0004】 ( ) ウ 解決課題 ガス管や水道管等の内圧管おいては,例えば,ポンプの起動・停止時に高い負圧が発生する場合があり,場所によってはキャビテーションが発生して高い負圧が発生する。このように高い負圧が発生する内圧管に対して軟質で引張強度の高い管ライニング材を用いてライニングを施工した場合,管ライニング材が高い負圧に引かれて内圧管の内壁から剥れ,内圧管の流路を塞いでしまうという問題が発生する。
そこで,従来は,内圧強度を犠牲にして,ある程度の外圧強度を有する管ライニング材を用いて内圧管のライニングを行わざるを得なかった。
引用発明の目的は,十分な内圧強度と外圧強度を兼備する管ライニング材を提供すること,及び,内圧管に高い負圧が発生しても,硬化した管ライニング材が内圧管の内壁からの剥れるのを防ぐことができる内圧管補修工法を提供することにある。
(【0005】〜【0008】) エ 解決手段 軟質で引張強度の高い耐内圧ライナーと,硬化性樹脂を含浸し高い曲げ弾性を有する耐外圧ライナーとで多層に構成される管ライニング材を内圧管内に導入し,管ライニング材を,その耐外圧ライナーが最内層に位置する状態で内圧管の内壁に押圧し,その状態を保ったまま,耐外圧ライナーに含浸された硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする内圧管補修工法において,耐内圧ライナーを内圧管内に引き込み,耐内圧ライナーの内部に前記耐外圧ライナーを流体圧によって反転挿入することを特徴とする内圧管補修工法である。【請求項2】 ( 【請求項4】 【0010】 【0012】) オ 作用 外圧強度が高く,内圧管に発生する高い負圧に対しても変形しない耐外圧ライナ ーが最内層に位置するため,内圧管に高い負圧が発生しても,管ライニング材が負圧によって内圧管の内壁から剥れて内圧管の流路を塞ぐことはない。また,内圧管に作用する内圧と外圧は耐内圧ライナーと耐外圧ライナーによってそれぞれ分担して受けられる。【0014】 ( ) カ 実施例 (ア) 管ライニング材1は,耐内圧ライナー2の外側に耐外圧ライナー3を重ねて2層構造に構成されている。耐内圧ライナー2は,高い内圧強度を有するものであって,これは軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布,あるいは,管状不織布又は管状織布の内外周面を気密性の高いプラスチックフィルムで被覆したもの又はこれに軟質な硬化性樹脂を含浸させたもの,熱可塑性樹脂都織布又は不織布から成るホース等で構成されている。耐外圧ライナー3は,硬化性樹脂を含浸し,この硬化性樹脂が硬化した後には,高い曲げ弾性を示すものであって,これは管状不織布に3aに硬化性樹脂を含浸させ,その外周面を気密性の高いプラスチックフィルム3bで被覆して構成されている。【0018】〜【0020】 ( ) (イ) 地中に埋設されたガス管等の内圧管10内に,管ライニング材1が流体圧によって反転しながら挿入される。管ライニング材1の内圧管10への反転挿入が終了すると,耐外圧ライナー3が内側に,耐内圧ライナー2が外側に位置するが,管ライニング材1の内部に流体圧をそのまま作用させて管ライニング材1を内圧管10の内壁に押圧したまま,耐外圧ライナー3に含浸された硬化性樹脂を硬化させる。【0022】 ( 【0023】) 管ライニング材1を流体圧によって内圧管10内に反転挿入するのに代えて,耐内圧ライナー2を内圧管10内に引き込み,内圧管10内に引き込まれた耐内圧ライナー2の内部に耐外圧ライナー3を流体圧によって反転挿入するようにしてもよい。【0027】 ( ) (ウ) 内圧管10の内周面は,硬化した管ライニング材1によってライニングされて補修されるが,管ライニング材1は,軟質で引張強度の高い耐内圧ライナー2と硬くて高い曲げ弾性を有する耐外圧ライナー3の2層で構成されるため,管ライニング材1は,内圧及び外圧のいずれに対しても十分な耐久性を発揮する。
すなわち,内圧管10に高圧の圧力流体が流れるために管ライニング材1に高い内圧が作用しても,管ライニング材1の耐内圧ライナー2は,高い引張強度を有するため,管ライニング材1は,内圧に対して高い耐久性を発揮する。また,内圧管10が外部から高い外圧を受け受ける場合には,管ライニング材1の耐外圧ライナー3は,硬くて高い曲げ弾性を有するため,これに高い外圧が作用しても変形することがなく,高い外圧に十分耐え得る。
さらに,内圧管10に接続されたポンプの起動・停止時に内圧管10に高い負圧が発生し,または,内圧管10の曲がり部分にキャビテーションが発生してその部 分に高い負圧が発生した場合であっても,耐外圧ライナー3が内側に位置してこれが高い負圧を受けても変形しないため,管ライニング材1が内圧管10の内壁から剥れることがなく,内圧管10が管ライニング材1によって塞がれるという問題が発生することがない。【0024】 ( 【0025】) 2 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)について (1) 相違点1 ア 「耐内圧ライナー」 (ア) 検討 上記1(2)で認定のとおり,引用発明の「耐内圧ライナー」は,軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布からなり,対外圧ライナーを流体圧によって反転挿入する前に内圧管内に引き込み,耐外圧ライナーが最内層に位置する状態で内圧管の内壁に押圧し,その状態を保ったまま,耐外圧ライナーに含浸された硬化性樹脂を硬化させることにより,内圧管と耐外圧ライナーの間に配置される。また,上記「耐内圧ライナー」について,引用文献の【0019】には,@「軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布」,A「(軟質で引張強度の高い)管状不織布又は管状織布の内外周面を気密性の高いプラスチックフィルムで被覆したもの」,B「(軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布に)軟質な硬化性樹脂を含浸させたもの」が並列して例示されていることからみて, 「管状不織布又は管状織布」とは,内外周面をプラスチックフィルムで被覆しない,又は,硬化性樹脂を含浸しないような,管状不織布又は管状織布そのものを意味するといえ,このことが,引用発明における「耐内圧ライナー」の技術的意義にも合致することは,後記(イ)bのとおりである。
一方,本願補正発明の「中間部材」は,押圧力を受けて変形する変形性及び外部からの泥粒を含む水の浸入許容性を有し,硬化性充填材を含浸させないものであって,一体形の硬化性管状ライニング材を挿入する前に,既設管である下水管内に設置されるものであり,更生管の導入後において更生管と既設管である下水管との間で押圧され,管状ライニング材が拡径し硬化した際に既設管である下水管内側面に 押し付けられるものである。
以上からすると,引用発明の「耐内圧ライナー」は,材質,設置方法,設置位置,設置態様の共通性からみて,本願補正発明の「中間部材」に相当するものといえる。
そして,引用発明の「耐内圧ライナー」が, 「軟質で引張強度の高い管状不織布又は管状織布」と特定されるのに対し,本願補正発明の「中間部材」は, 「押圧力を受けて変形する変形性及び外部からの泥粒を含む水の浸入許容性」を有し, 「既設管である下水管と前記更生管との隙間のサイズよりも厚い厚さ」であって,更生管の導入後に更生管と既設管である下水管との間で押圧された際に「変形した状態で前記間隙を充満するサイズ」を有し,厚さ方向に変形」 「 する性質を備えるものであるから,これらの点で相違するといえるが,その余の点では一致する。
以上によると,引用発明の「耐内圧ライナー」が本願補正発明の「中間部材」に相当するとした審決の対比に誤りはない。もっとも,審決が,引用発明の「耐内圧ライナー」と本願補正発明の「中間部材」とが, 「厚さ方向に変形」されている点でも一致するとしたことは相当ではないが,審決は, 「前記更生管の導入後において前記更生管と前記既設管である下水管との間で押圧されて変形した状態で前記間隙を充満するサイズ」を有する点を相違点としており,この部分と「厚さ方向に変形」されている点は,実質的に同一の特定事項をいうものであるから,上記相違点に掲げた点については判断を加えている以上,上記誤りがあるとしても,審決の結論を左右するものとはいえない。
(イ) 原告の主張について a 原告は,ガス管や水道管等のように高圧の流体が流れる内圧管を対象とする場合のライニング材は,軟質で引張強度の高い材質が用いられるから,軟質で引張強度の高い材質が用いられている引用発明の「耐内圧ライナー」は,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当すると主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,引用発明の「耐内圧ライナー」は,本願補正発 明の「中間部材」に相当するものであって,引用発明の「耐内圧ライナー」が軟質で引張強度が高い材質であるからといって,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当するとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
b 原告は,引用発明の「耐内圧ライナー」は,強い材質と緻密な構造を有し,気密性や水密性がなければならず,不織布はその要求性能を満たし得ない,仮に,プラスチックフィルムによる被膜や接着剤の含浸を行わない不織布又は管状織布であったとしても,空隙のない密な構成のものであることが要求され,変形性や泥粒を含む水の浸入許容性を有するものではないと主張する。
しかしながら,引用文献には, 「管ライニング材1に高い内圧が作用しても,該管ライニング材1の耐内圧ライナー2は高い引張強度を有するため,管ライニング材1は内圧に対して高い耐久性を発揮する。又,内圧管10が外部から高い外圧を…受ける場合には,管ライニング材1の耐外圧ライナー3は硬くて高い曲げ弾性を有するため,これに高い外圧が作用しても変形することがなく,高い外圧に十分耐え得る。【0024】,更に…内圧管10に高い負圧が発生した…場合であっても, ( 」 )「耐外圧ライナー3が内側に位置してこれが高い負圧を受けても変形しないため,管ライニング材1が内圧管10の内壁から剥れることがなく…」 (【0025】 との記 )載があり,耐外圧ライナーが最内層にあるから,引用発明において,内圧管に発生した内圧や高い負圧を直接受け止めているのは,硬化性樹脂を含浸し高い曲げ弾性を有する耐外圧ライナーであって,耐内圧ライナーは,耐外圧ライナーが高い内圧を受け止めた際に,その外側で耐外圧ライナーを弾性的に受け止めてその膨張を抑えることで,内圧管を保護するものである。そのために,耐内圧ライナーは,柔軟で引張強度が高いという性質が求められているものであり,内圧を受け止めるために,耐内圧ライナーが強い材質と緻密な構造を有しなければならないとか,水密性や気密性を有しなければならないということはできない。そうすると,軟質で引張強度の高いものであれば,内外周囲をプラスチックフィルムで被膜したり,硬化性 樹脂を含浸しない「不織布」であっても,引用発明の「耐内圧ライナー」に当たるということができる。
そして,不織布は,多孔性のシートであり,ストレッチ性,柔軟性等の性質を有するから(乙9) 引用発明の , 「耐内圧ライナー」である管状不織布又は管状織布が,押圧力を受けて変形する変形性や外部からの泥粒を含む水の浸入許容性を有することは明らかである。
なお,原告は, 「耐内圧ライナー」が気密性や水密性を有していない場合には,従来の補修方法よりも信頼性がなくなる旨主張するが,上記のとおり,引用発明においては,「耐外圧ライナー」が内圧を受け止めるから,「耐内圧ライナー」が気密性や水密性を有していないとしても,従来の補修方法よりも信頼性がなくなるということはない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
c 原告は,引用発明に係る特許出願時における管ライニング材は,織布であったとしても,変形性又は泥粒を含む水の浸入許容性を有するものではなかったと主張する。
しかしながら,原告の提出する甲18,19をもってしては,引用発明に係る特許出願時における管ライニング材が,変形性又は泥粒を含む水の浸入許容性を有しないもののみであるとの技術常識を認めるには足りず,引用発明の「耐内圧ライナー」の技術的意義は上記bのとおりである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 小括 以上のとおりであるから,引用発明の「耐内圧ライナー」が,本願補正発明の「中間部材」に相当するとした審決の認定には,誤りはない。
イ 「耐外圧ライナー」 (ア) 検討 引用発明の「耐外圧ライナー」は,硬化性樹脂を含浸し高い曲げ弾性を有し,耐 内圧ライナーの内部に流体圧によって反転挿入し,最内層に位置する状態で内圧管の内壁を押圧し,その状態を保ったまま,含浸された硬化性樹脂を硬化させて設置するものであり,反転挿入後は拡径された状態となる。
一方,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」は,円筒状中間部材の中に挿入され,挿入された後は,拡径して円筒状中間部材を既設管に押し付けて,その押し付け状態で硬化されるものであり,また, 「一体形の硬化性管状ライニング材」によって更生管が形成される。
以上からすると,引用発明の「耐外圧ライナー」は,材質,設置方法,設置位置,設置態様からみて,本願発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」と一致する。
したがって,引用発明の「耐外圧ライナー」が本願発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当し,両者が一致するとした審決の認定には,誤りはない。
(イ) 原告の主張について a 原告は,引用発明の「耐外圧ライナー」と本願補正発明の「中間部材」は,いずれも補助部材であるから,両者が相当する部材であると主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,引用発明の「耐外圧ライナー」は,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当するものであって,「補助部材」というあいまいな概念で両者の共通性を論じることは相当ではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
b 原告は,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」には,引用発明にいう「耐外圧」という機能はないから,引用発明の「耐外圧ライナー」が,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」に相当することはないと主張する。
しかしながら,引用発明の「耐外圧ライナー」は,管路内の負圧の発生による外圧に対抗するための機能を有するが(引用文献の【0025】,外部からの外圧を ) 受けるための機能をも有するのであり(引用文献の【0024】 ,外部からの外圧 )を受ける本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」及び「更生管」と機能において相違するということはできない。また,本願補正発明の「下水管」は,後記(2)イのとおり,高低差で水が流れる管のみに限られないから,原告の上記主張は,前提を誤るものであって,失当である。
(ウ) 小括 以上のとおりであるから,引用発明の「耐外圧ライナー」が,本願補正発明の「一体形の硬化性管状ライニング材」 「更生管」 及び に相当するとした審決の認定には,誤りはない。
(2) 相違点2 ア 検討 本願補正発明の補修工法は, 「下水管補修工法」であり,その補修対象である「下水管」とは「既設管である下水管」である。これに対し,引用発明の補修工法は,「内圧管補修方法」であるところ,補修の対象である「内圧管」は既設管であるから,その補修対象は,(既設管である)内圧管」である。したがって,両者は,補 「修対象を「既設管」とする点で共通する。
一方で,用途に関しては,引用発明の「内圧管」は限定がない一方,本願補正発明では,「下水管」に特定されているから,両者は,この点で相違する。
したがって, 「既設管に関して,本願補正発明においては『下水管』と特定するのに対して,引用発明はこの点を特定しない点。 を相違点2として認定した審決の認 」定には,誤りはない。
イ 原告の主張について 原告は,相違点2を,本願補正発明においては「下水管」であるのに対し,引用発明では「高圧の流体が流れる内圧管」と認定すべきと主張するが,「内圧管」は,管内を流れる流体の性質による分類であり, 「下水管」は,管の用途による分類であるから,両者は直接対比できるものではない。
また,本願補正発明は,補修の対象となる既設管を「下水管」と特定しているところ,後記3(2)アのとおり,下水管は内圧管の用途の一つである。もっとも,本願補正発明では,中間部材が「泥粒を含む水の浸入許容性」を有し, 「硬化性充填剤を含浸させない」ものと特定され,更に本願明細書には, 「繊維性部材を用いた場合でも,…既設管である下水管の外部から浸入してくる細かい泥粒を含む水によって,その部材の目が埋められ防水性を発揮する状況となる」 (【0014】)との記載があるが,前記(1)ア(イ)b,cのとおり,引用発明における「耐内圧ライナー」は,外部からの泥流を含む水の浸入許容性を有するから,内圧管であるからといって,中間部材に相当する部材の水の浸入許容性がないとはいえない。そうすると,上記記載は,本願補正発明の対象が自然流下式の下水管のみを対象とすることを明らかにするものではなく,そのほかに原告が主張する記載(本件明細書の【0002】 【0023】【0054】,図12)も,背景技術や実施例などの記載であって,同様である。したがって,本願補正発明の補修工法の対象となる「下水管」は,特許請求の範囲及び明細書の記載からは,内圧管である下水管も含むものといえる。
本願補正発明の補修工法も内圧管を対象とする以上,引用発明の補修工法の対象が内圧管であることは,本願補正発明との相違点を構成しないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) まとめ 以上のとおりであり,審決の一致点及び相違点の認定には,誤りはない。
したがって,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 相違点1の判断について ア 検討 前記2(1)ア(イ)bで説示したとおり,引用発明の「耐内圧ライナー」である管状不織布又は管状織布は,押圧力を受けて変形する変形性や外部からの泥粒を含む水の浸入許容性を有する。
また,このように「耐内圧ライナー」が変形性を有し,引用発明は, 「耐外圧ライナー」が内圧管の内壁に押圧し,その状態を保ったまま,耐外圧ライナーに含浸された硬化性樹脂を硬化させるのであるから, 「耐内圧ライナー」である管状不織布又は管状織布は, 「対外圧ライナー」によって押し付けられて,圧縮された状態になることは自明である。そうすると,「耐内圧ライナー」は,「既設管である下水管と前記更生管との隙間のサイズよりも厚い厚さを有し,前記更生管の導入後において前記更生管と前記既設管である下水管との間で押圧されて変形した状態で前記間隙を充満するサイズ」であり,「押し付け」られて,「厚さ方向に変形」していると認められる。
そうすると,相違点1は,実質的な相違点ではない。
イ 原告の主張について (ア) 原告は,引用発明の「耐内圧ライナー」である管状不織布又は管状織布は,気密性,水密性及び非変形性を有すると主張する。
しかしながら,上記主張を採用することができないことは,前記2(1)ア(イ)b,cで説示したとおりである。
なお,原告は,引用文献の【0026】,図4に記載された作用は,引用発明が持つ作用であると主張するところ,上記部分には,次の記載がある。
「 地盤沈下や地震等のために内圧管10及び管ライニング材1の耐外圧ライナ ー3の一部が図4に示すように折損した場合であっても,柔軟で引張強度の高 い耐内圧ライナー2は折損することがないため,内圧管10内を流れるガス等 が外部に漏れ出ることがなく,高い安全性が確保される。( 」【0026】) しかしながら,上記のとおり,耐内圧ライナーが気密性や水密性を有することは, 引用発明にとって必須の事項といえないから,内圧管及び「耐内圧ライナ―」が折損した場合であっても, 「耐内圧ライナー」のみでガス等の漏出を防止できるとする記載は, 「耐内圧ライナー」が気密性や水密性を有する場合の実施態様においてのみ生じる副次的な効果をいうものにすぎないと認められる。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 原告は,引用発明の「耐内圧ライナー」は,厚さ方向に押圧されて変形する性質はないと主張するところ,これは,引用発明の「耐内圧ライナー」が上記(ア)において原告が主張するような性質を有することを前提とする主張であり,その前提を認めることができないのは上記(ア)において説示するとおりである。
ウ 小括 以上のとおりであるから,審決の相違点1の判断には,誤りはない。
(2) 相違点2の判断 ア 検討 引用発明の補修工法の補修対象である「内圧管」の用途が特定されていない点が,本願補正発明の補修工法と相違するとしたのが相違点2であるところ,下水管が内圧管の用途の一つであることは,原出願の出願時の周知の事項と認められる(甲23,乙1。なお,甲23の発行は原出願の出願後であるが,その内容は,同出願前の事項に係るものである。 。
) そうすると,引用発明の内圧管補修工法を下水管の用途に用いる内圧管に適用することは,単なる技術の具体的な適用にすぎず,当業者にとって容易であると認められる。
イ 原告の主張について (ア) 原告は,引用文献に下水管の例示があるとはいえないと主張する。
しかしながら,当業者は,引用文献に開示又は示唆されるまでもなく引用発明の内圧管補修工法を下水管の用途に用いる内圧管に適用するといえるから,原告の上記主張は,審決の結論を左右する事項について主張するものではない。
(イ) 原告は,内圧管と下水管との技術は相互に転用できるようなものではないと主張する。しかしながら,本願補正発明が容易に想到できるか否かは,内圧管の技術を自然流下式の下水管に適用することが容易であるか否かではなく,内圧管の技術を内圧管である下水管に適用することが容易であるか否かであるから,その主張は,前提を誤るものであり,失当である。
なお,原告の主張によっても,内圧式下水管は,全国に3000km 弱は存するというのであり,これは,膨大な長さとなる国内の下水管総延長と対比すればわずかであるとしても,絶対量としてわずかなものとはいい難く,当業者が,内圧管である下水管を想起し得ないとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 原告は,本願補正発明の構成は,格別の効果を奏すると主張するが,内圧管の補修工法である引用発明の補修工法を,内圧管である下水管に適用しても,その奏する効果は同等であるから,当業者において予測可能なことにすぎない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 小括 以上のとおりであるから,審決の相違点2の判断には,誤りはない。
(3) まとめ 以上から,審決の相違点の判断に誤りはなく,取消事由2は,理由がない。
結論
上記のほかに原告が主張するところによっても,取消事由はいずれも理由がない。
また,原告は,本願発明に関する審決の判断は,争わない。
したがって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。