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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成26ワ20319 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成27ワ28698 特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成27ワ28468 特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成27ワ22491 損害賠償請求事件 判例 特許
平成27ワ11434 特許権侵害行為の差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 27年 (ワ) 5869号 特許権侵害行為差止等請求事件

原告キョーワ株式会社
同訴訟代理人弁護士 福田あやこ
同 辻村和彦
同訴訟代理人弁理士 森下八郎
被告前田工繊株式会社
同訴訟代理人弁護士 田中成志
同 板井典子
同 杉本賢太
同 沖達也
同訴訟復代理人弁護士 岡ア紳吾
同補佐人弁理 士白崎真二
同 阿部綽勝
同 勝木俊晴
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2016/11/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載1A,同1B及び同2ないし同4の袋型根固 1 め工法用袋材を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,前項の袋型根固め工法用袋材を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,6935万円及びこれに対する平成27年6月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「水中構造物の洗掘防止材と洗掘防止工法」とする特許権を有する原告が,被告による別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の製造販売行為が上記特許権に対する間接侵害(特許法101条1号)に当たると主張して,被告に対し,同法100条1項に基づき被告製品の製造販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵害による不当利得返還請求及び不法行為に基づく損害賠償請求として,合計6935万円(平成21年3月21日から平成24年6月14日までに発生した損失額1235万円及び平成24年6月15日から平成27年6月15日までに発生した損害額5700万円の合計)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年6月20日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない) (1) 当事者 ア 原告は,建築及び土木資材等の製造販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は,建築資材,土木資材及び各種繊維を原料とした産業資材の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権 原告は,以下の特許(以下,「本件特許」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」といい,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
登録番号 特許第3696389号 2 出願日 平成9年10月31日(特願平9-336254) 公開日 平成11年5月18日(特開平11-131447) 登録日 平成17年7月8日 発明の名称 水中構造物の洗掘防止材と洗掘防止工法 特許請求の範囲 【請求項1】 編成した網地により形成された網糸の線径Mと網目の長辺Nが式3≦N/M≦20の関係を満たす袋体と,該袋体の開口部近傍の網目に挿通した無端状の吊りロープと,吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと袋体に充填した塊状物とからなり,袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である,水中構造物の洗掘防止材。
(3) 本件発明の構成要件の分説 本件発明の構成要件は,次のとおり分説することができる。
A 編成した網地により形成された網糸の線径Mと網目の長辺Nが式3≦N/M≦20の関係を満たす袋体と, B 該袋体の開口部近傍の網目に挿通した無端状の吊りロープと, C 吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと D 袋体に充填した塊状物とからなり, E 袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である, F 水中構造物の洗掘防止材。
(4) 被告の行為 3 ア 被告は,平成11年6月から,製品名を「ボトルユニット」,タイプを「UB-125(2t用)」及び「UB-225(4t用)」とする袋型根固め工法用袋材の製造を原告に委託し,その販売を開始し,平成13年12月,同製品について財団法人土木研究センターの建設技術審査証明を得た。
イ 被告は,平成15年12月から,別紙被告製品目録記載1Aの袋型根固め工法用袋材(以下「被告製品1A」という。)の製造販売を開始し,平成16年10月,同製品について財団法人土木研究センターの建設技術審査証明を得た。
ウ 被告は,平成18年12月頃から,被告の袋型根固め工法用袋材を群体とする場合の連結用補助具として「保留環」を使用した別紙被告製品目録記載1B(以下「被告製品1B」という。)の製造販売を開始した。
エ 被告は,平成19年3月21日,原告との間で, 特許通常実施許諾契約書(甲7)に基づく本件発明についての実施許諾契約を締結し,被告製品1Aなどの本件発明の実施のみ用いる袋材製品の製造販売及び同製品を用いた洗掘防止工法の使用について,原告から通常実施権の許諾を受けた。なお,同契約では,契約日までの本件発明の実施対価として,被告が原告に450万円を支払うことが約されている。
オ 被告は,平成20年12月15日,原告に対し,上記特許通常実施許諾契約につき,同契約に定められた要件を充たした契約期間終了の申出を行い,同契約は平成21年3月20日の経過をもって期間満了によって終了した。
カ 被告は,平成22年頃から,別紙被告製品目録記載4の袋型根固め工法用袋材(以下「被告製品4」という。)の製造販売を開始した。
キ 被告は,平成24年10月頃,被告製品1Aの口絞り紐5の位置を吊り紐4の下方の網目から上方の網目に変更した別紙被告製品目録記載2の袋型根固め工法用袋材(以下「被告製品2」という。)を導入した。
なお,被告は,被告製品2の販売開始前から,被告製品2と同様の構成(口絞り紐5の位置)を有する別紙被告製品目録記載3の袋型根固め工法用袋材(以下「被 4 告製品3」という。)を製造販売していた。
ク 被告は,現在も,被告製品1B,同2及び同4を製造販売し,その在庫を保有している。
(5) 被告製品の構成 被告製品1A,同1B及び同2ないし同4の構成及び各製品を顧客が使用するときの状態は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,これを構成要件に分説すると別紙中詰め材充填後の被告製品の構成要件一覧のとおりである(ただし,被告製品1Bについては,それぞれ,下線部部分について争いがある。)。
(6) 被告製品の構成と本件発明の構成要件との対比 ア 被告製品1Aは,本件発明の構成要件AないしD,Fを充足し,また顧客が使用するときの状態は構成要件Eを充足する。
イ 被告製品1Bは,本件発明の構成要件A,B,D,Fを充足し,また顧客が使用するときの状態は構成要件Eを充足する。
ウ 被告製品2ないし同4は,本件発明の構成要件A,B,D,Fを充足し,また顧客が使用するときの状態は構成要件Eを充足する。
2 争点及び当事者の主張 (1) 被告製品1Bは構成要件Cを充足するか(原告の主張) ア 本件発明の構成要件Cは,「吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと」であるところ,これに対応する被告製品1Bの構成は,別紙中詰め材充填後の被告製品の構成要件一覧記載の2-c「吊り紐4を通した網目より下方の網目に挿通した保留環6に括り付けられた袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5と,」である。
すなわち,被告製品1Bにおいては,吊り紐4を通した網目より下方の網目に「保留環6」が挿通され,「口絞り紐5」が「保留環6」に括り付けられている。
そして,「保留環6」に括り付けられた「口絞り紐5」はロープ様の部材であって, 5 袋体本体1の開口の閉鎖に用いられ,「口絞り紐5」が括り付けられた「保留環6」が袋体本体1の網目に挿通されることで,「口絞り紐5」の一端の固定が容易かつ確実となって,袋体本体1の開口部3の閉鎖作業の効率性及び閉鎖の確実性の向上が図られている。
したがって,被告製品1Bの「口絞り紐5」及び「保留環6」は,全体として構成要件Cの「口絞りロープ」に該当し,被告製品1Bの構成2-cは,本件発明の構成要件Cを充足する。
イ 被告は,「口絞り紐5」と「保留環6」は別部材であり,前者は袋体に挿通されていないし,後者は「口絞りロープ」ではなく,「口絞り紐5」と協働して開口部を閉じるものではない上,「口絞り紐5」と「保留環6」を全体として見ても,網目の一つに挿通されただけであって,構成要件Cの「挿通」ではないなどと主張する。
しかし,本件明細書には,本件発明の「口絞りロープ」の部材の点数を限定する記載は一切なく,また袋体の開口の閉鎖がロープ様の部材で行われることを除いては,その態様を限定する記載も一切ない。
そして,口絞り紐5が挿通された保留環6は,袋体本体1の網目に挿通され,口絞り紐5を括り付ける際の固定された始点として機能することでも,口絞り紐5と協働して,袋体1の開口部3の閉鎖の作業の効率性と閉鎖の確実性に寄与している。
加えて,本件明細書中の「絞る」と「縛る」も使い分けによって,構成要件Cの「網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープ」が,網目に1回通すだけの場合を排除することになるわけではない。
被告製品1Bのように,ロープ様の部材と袋体の網目の間に別部材が介在し,当該別部材が袋体の網目に挿通されている場合であっても,当該ロープ様の部材が袋体の開口の閉鎖に用いられており,かつ当該別部材が袋体の網目に挿通されることで,袋体の開口の閉鎖の作業の効率性と閉鎖の確実性の向上が図られている限りは,当該ロープ様の部材と当該別部材とで構成される「口絞りロープ」が網目に挿通さ 6 れており,本件発明の構成要件Cを充足しているものといって何ら差し支えない。
(被告の主張) 別紙被告製品説明書の被告製品1Bについての(2)の製品の説明欄中,下線を付した部分は,「吊り紐4が挿通された網目の1つに挿通された保留環6が設けられている。その保留環6に,口絞り紐5が通されている。」と,被告製品1Bの顧客による使用の態様は,「顧客により中詰め材が投入されたときに,保留環6に挿通されている口縛り紐5を,袋体本体1の周囲の網目を通すことなく,保留環6の位置付近で袋体本体1の開口部を数回巻いて縛って閉じる。」と特定すべきである。
本件発明の構成要件Cは,「吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと」であるが,被告製品1Bにおいては,「網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープ」が存しない。
すなわち,原告は「口絞り紐5」と「保留環6」を全体として「口絞りロープ」と見るが,これらは別部材であり,前者は袋体に挿通されていないし,後者は「口絞りロープ」ではないし,「口絞り紐5」と協働して開口部を閉じるものではない。
また,「口絞り紐5」と「保留環6」を全体として見ても,網目の一つに挿通されただけであって,構成要件Cの「挿通」の要件を満たさない。
したがって,被告製品1Bは,本件発明の構成要件Cを充足しない。
(2) 被告製品2ないし同4の使用状態は本件発明と均等であるか(原告の主張) 被告製品2ないし同4の口絞り紐5が吊り紐4を通した網目より「やや上方」の複数の網目に挿通されているとの相違部分で本件発明の構成要件Cを充足しないとしても,顧客による使用時において本件発明とは均等であるから,被告製品2ないし同4は,本件特許権の間接侵害品である。
ア 非本質的部分性(第1要件) 被告製品2ないし同4の口絞り紐5が吊り紐4を通した網目より「やや上方」の複数の網目に挿通されているとの相違部分は,洗掘の防止,現場に応じたきめこま 7 やかな施工作業の実現及び時間・労力・費用の節減(本件明細書の【0003】参照)といった本件発明の課題解決とは全く無関係であり,本件発明の本質的部分ではない。
したがって,被告製品2ないし同4は,均等の第1要件を充足する。
置換可能性=作用効果の同一性(第2要件) 上記相違部分は,本件発明の課題解決とは全く無関係であるから,本件発明の口絞りロープが吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通されるという位置関係を,被告製品2ないし同4のように,口絞り紐5が吊り紐4を通した網目より「やや上方」の網目に挿通されるという位置関係に置き換えても,「水流抵抗が小さく,設置部に対する形状適応性に優れ,作業時に袋の開口が発生しない」(本件明細書の【0023】)との本件発明と同一の作用効果を奏し,本件発明の目的を達することができることは明らかである。
したがって,被告製品2ないし同4は均等の第2要件を充足する。
置換容易性(第3要件) 上記の位置関係の置き換えは,当業者であれば容易に想到できたものであるから,被告製品2ないし同4は均等の第3要件を充足する。
エ 想到非容易性(第4要件) 本件発明が新規性及び進歩性を認められて登録に至っていることに照らせば,被告製品2ないし同4も,本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,均等の第4要件を充足する。
意識的除外等の特段の事情(第5要件) 本件特許の出願経過において,被告製品2ないし同4の口絞り紐5が吊り紐4を通した網目より「やや上方」の複数の網目に挿通されているとの構成が,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情は存しない。
なお,当初明細書(甲14の1)の吊りロープを通した網目「の近傍の網目」に挿通したとの文言を,吊りロープを通した網目「と同じか,又はそれより下方の網 8 目」に挿通したと補正した平成16年10月6日付け手続補正(甲14の3)による補正(以下「本件補正」という。)は,平成16年8月4日付け拒絶理由通知(甲14の2)の後になされたものであるが,本件補正時において,吊りロープを挿通する網目と口絞りロープを挿通する網目との位置関係は拒絶理由の解消とは全く無関係であったから,本件補正が拒絶理由の解消のためになされたものでなく,当初明細書記載の「近傍」との文言の意味内容を明確化するために行われたにすぎないのであって,本件補正によって被告製品2ないし同4の構成3-cを,特許請求の範囲から意識的に除外したものではない。
以上のとおりであるから,本件特許の出願経過には,被告製品2ないし同4の口絞り紐が吊り紐4を通した網目より「やや上方」の網目に挿通されているとの相違部分を,特許請求の範囲から意識的に除外した等の特段の事情はなく,均等の第5要件を充足する。
(被告の主張) ア 非本質的部分性(第1要件) 本件発明の特許請求の範囲の記載の補正の経緯,本件明細書の開示事項,本件発明の袋体に塊状物を充填し洗掘防止材の製作法は,いずれも吊りロープが上,口絞りロープが下という上下関係を前提とするものであり,これは,本件発明の非本質的部分とはいえない。時間・労力・費用の削減という本件発明の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分は,吊りロープが上,口絞りロープが下という二つのロープの上下関係である。
これに対し,被告製品2ないし同4の構成は,吊りロープが下,口絞りロープが上という二つのロープの上下関係となっており,本件発明の構成と,発明の本質的部分において異なるものである。
したがって,被告製品2ないし同4は,非本質的部分性の均等要件(第1要件)を充足しない。
置換可能性=作用効果の同一性(第2要件) 9 「吊りロープと,吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープ」という本件発明による水中構造物の洗掘防止材という最終製品を実際に製作する方法において,被告製品2ないし同4のように,吊り紐を下にして,口絞り紐を上にする構成を採ろうとしても,本件発明の本来の目的を達成することはできず,しかも同一の作用効果も奏し得ないので,この部分の置換をすることはできない。
したがって,被告製品2ないし同4は,置換可能性均等要件(第2要件)を充足しない。
置換容易性(第3要件) 吊り紐を下にして,口絞り紐を上にするという上下の位置関係の置き換えは,当業者であれば容易に想到できたものではない。
特開2008-75398号公報(甲24)の実施例1において,吊りロープが下で口縛りロープが上という構成が開示されているからといって,直ちに本件発明を出発点として,吊り紐を下にして口絞り紐を上にするという上下の位置関係の置き換えを,当業者が容易に想到できたことにはならない。
吊りロープが下で口縛りロープが上という構成のものが従来からあったとしても,それを本件発明に適用し置き換えることは通常は行わないことである。
それは,開口部の確実な閉鎖を容易にすることで時間・労力・費用を節減することを目的とする本件発明を出発点とした場合,単純に吊り紐を下にして口絞り紐を上に置き換えてしまうと,吊りロープが障害となって開口部の閉鎖が困難となることから,当業者はあえてこのような置き換えは行わないからである。
製品の販売されるときの状態,最終的な水中構造物の洗掘防止材の状態及び設置者による操作(本件明細書においても袋体の構成よりも設置の方法について多くの説明がなされている。)からみれば,本件発明と,吊り紐を下にして口絞り紐を上にしたものとは別のものである。
したがって,被告製品2ないし同4は,置換容易性均等要件(第3要件)を充 10 足しない。
意識的除外等の特段の事情(第5要件) (ア) 本件明細書には,吊り紐を下にして,口絞り紐を上にする構成は何ら記載されていないから,あえてこれを記載しなかったことは,技術的範囲から除外するという表示に他ならない。
(イ) 原告は,平成16年8月4日付の拒絶理由通知書(甲14の2)に接して,拒絶理由を回避するため,平成16年10月6日付手続補正書(甲14の3)により,平成14年3月12日付手続補正書(乙4)の特許請求の範囲の「近傍の網目に」という文言を,「と同じか,又はそれより下方の網目に」という文言に手続補正したが,この補正がなければ登録はされなかった。
また,少なくとも出願人は旧請求項1では特許登録を得られないと考えて口絞りロープと吊りロープとの位置関係を特定した旧請求項6及び旧請求項7を含めた形に補正したのであるから,いずれにせよ,発明を限定したものであって,その限定によってはずされた部分について後になってから技術的範囲に属すると主張するのは禁反言の原則に反し,許されない。
(ウ) したがって,被告製品2ないし同4は,意識的除外ではないことの第5要件を充足しない。
(3) 本件特許には特許法29条1項1号又は2号違反の無効理由があるか(被告の主張) 以下のとおり,本件特許出願前に,小浜製鋼株式会社によって洗掘防止材であるOBネットユニットが製造販売され,本件発明の構成要件を充足する態様で使用されていたから,本件発明は公知,又は公然と実施されていたといえる。
したがって,本件特許は,特許法29条1項1号又は2号に反して特許されたものであり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項により,原告が本件特許権を行使することはできない。
ア OBネットユニットの製造販売 11 小浜製鋼株式会社は,本件特許の出願日より前である平成8年10月17日以前から,OBネットユニットとの製品名の洗掘防止材を製造販売していた。
イ OBネットユニットの護岸工事根固工の工事への使用 OBネットユニットは,本件特許出願前である平成8年3月6日から平成9年3月20日の間に実施された東京都江戸川区の上篠崎緊急用船着場新設工事 (以下「上篠崎護岸工事」という。),及び平成8年3月16日から平成9年3月31日の間に実施された千葉県市川市高谷三丁目先の工事(以下「高谷護岸工事」といい,上篠崎護岸工事とあわせて「両護岸工事」という。)において,根固工の工事に使用され,その袋体に詰石やコンクリート片などの中詰め材を充填して袋体の開口部を口絞り紐によって絞って閉めて,袋体を吊り上げ,これを設置場所に設置するという作業が公然となされた(乙2の写真10の写真P1210957)。その際,袋体に充填した詰石やコンクリート片などの中詰め材の量は,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成されているOBネットユニットの底から口絞り紐までの高さのおよそ60%が中詰め材の存在しない錐体状の空所となっていた。
ウ OBネットユニットの使用態様と本件発明の構成要件との対比 (ア) 構成要件Aについて 両護岸工事に用いられたOBネットユニットの網糸の線径は2mmであり,網目の長辺は25mmであるから,OBネットユニットのN/Mは,N/M=25/2=12.5である。
したがって,OBネットユニットの構成は,構成要件Aの「編成した網地により形成された網糸の線径Mと網目の長辺Nが式3≦N/M≦20の関係を満たす袋体と」という構成を有する。
(イ) 構成要件Bについて OBネットユニットは,袋体の開口部近くの網目に,吊りロープが挿通されており,これは無端状となっている。
したがって,OBネットユニットは,構成要件Bの「該袋体の開口部近傍の網目 12 に挿通した無端状の吊りロープと」という構成を有する。
(ウ) 構成要件Cについて OBネットユニットは,吊りロープを挿通した網目より2個下の網目に,開口部を閉じるための口絞りロープが挿通されている。
したがって,OBネットユニットは,構成要件Cの「吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと」という構成を有する。
(エ) 構成要件Dについて OBネットユニットは,両護岸工事の工事現場において,顧客によって,袋体に詰石やコンクリート片などの中詰め材が充填されて使用されており,構成要件D「袋体に充填した塊状物とからなり」という使用態様を有する。
(オ) 構成要件Eについて 両護岸工事に用いられたOBネットユニットは,その顧客による使用に当たり,工事現場において,中詰め材を充填して吊り上げると,開口部からの底部までの高さの約60%が中詰め材の存在しない空所となっていた。
したがって,OBネットユニットの使用態様は,構成要件Eの「袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である」との構成を充足する。
(カ) 構成要件Fについて OBネットユニットは,「根固工」に用いられるものである。
したがって,両護岸工事に用いられたOBネットユニットは,顧客により工事現場で使用されたときは,「水中構造物の洗掘防止材」であるといえ,構成要件Fを充足する。
(キ) 以上によれば,両護岸工事に用いられたOBネットユニットの形状は,本件発明の構成要件AないしCを満たし,OBネットユニットの顧客による使用によっ 13 て工事現場で設置される状態は,本件発明の構成要件DないしFを満たす。
エ 公知又は公然実施 両護岸工事の根固工の工事におけるOBネットユニットを用いた洗掘防止材の設置作業は,OBネットユニットの製造元である小浜製鋼株式会社の従業員,多数の工事従業者のほか,発注者である建設省江戸川工事事務所の関係者が見ている中でされた。また,工事現場の安全柵の外側からも,不特定の第三者が見ることはできた。
しかも,両護岸工事において設置されたOBネットユニットを用いた洗掘防止材は,浅瀬であることから,現在も,現実に手に取り,目視することが可能であり,寸法も,中に入れられている中詰め材の量を確認することもできる状態にある。
オ 以上のとおり,本件特許出願前に製造販売されていたOBネットユニットの使用態様は本件発明の構成要件を充足し,その使用態様は,公知であり,又は公然と実施されていたものであるから,本件特許は,特許法29条1項1号及び2号に反して特許されたものであり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項により,原告が本件特許権を行使することは許されない。
(原告の主張) ア OBネットユニットの製造販売について 本件特許の出願前に,被告主張に係る形状のOBネットユニットを製造販売していたとの事実は否認する。
イ OBネットユニットの護岸工事根固工の工事への使用について OBネットユニットが被告主張に係る両護岸工事の根固工の工事に使用されたとの事実は否認する。
その証拠とされる工事現場の写真は,撮影日時,撮影場所等が不明確で信用できず,また写真から,本件発明の構成要件がすべて認識されることもないから証拠価値はない。
14 ウ 公知又は公然実施について 被告主張の構成に係るOBネットユニットが,仮に本件特許出願以前に製造販売されていたとしても,それだけでは中詰め材投入後の吊り上げ時の空所率などは知り得ないから,その製造販売をもって本件発明は公知又は公然実施されたことにならない。
本件発明が公然実施されたといえるためには,不特定の者が発明の内容を知り得る状態で実施することが必要であるところ,両護岸工事の工事従事者は特定の者に限られており,護岸工事実施時は,工事従事者以外の不特定の者の現場への立ち入りは安全面への配慮等から制限されていたから,被告主張の構成に係るOBネットユニットが主張に係る時期の両護岸工事で使用されたとしても,工事従事者以外の不特定の第三者が,本件発明の構成要件AないしFの全て(構成要件Aの3≦N/M≦20の関係式や構成要件Eの塊状物を充填して吊り上げた時の空所率などを含む。)を知り得る状態で実施されたものとはいえず,本件発明が公知又は公然実施されたとはいえない。
そして,被告主張に係る構成のOBネットユニットが中詰め材を投入されて護岸等に設置された後は,水に沈んだ状態になって見えなくなり,干潮時にたまたま姿を現すことがあったとしても,その際に製品構成等が検証されることは通常想定され得ないから,設置された状況が継続していることをもって公知又は公然実施ということはできない。また,設置された状況が継続しているというだけでは,中詰め材投入後の吊り上げ時の空所率などは知り得ないから,本件発明が公知又は公然実施されたということはできない。
以上のとおりであるから,本件発明が公知又は公然実施されたとはいえず,本件特許に特許法29条1項1号又は2号の規定に基づく無効理由は存しない。
(4) 本件特許には特許法29条の2違反の無効理由があるか(被告の主張) 本件発明は,本件特許の出願日前の他の特許出願であって本件特許の出願後に, 15 出願公開がされた特開平10-114926号の公開特許公報(以下,この公報を「乙3公報」という。)に記載された発明と同一であるため,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。
構成要件Aについて 本件発明の構成要件Aは,「編成した網地により形成された網糸の線径Mと網目の長辺Nが式3≦N/M≦20の関係を満たす袋体と,」である。
ここで,乙3公報において,図2には,ふとん篭の側面図が示されており,この図の拡大図(乙3公報の末尾に参考図として添付)から,線径が約5mmであり,長辺が約96mmであることが分かる。
そして,これらの値を「N/M」に当てはめると,19.2となり,この値は,上記式に当てはまる。
したがって,本件発明の構成要件Aは,乙3公報に記載されているといえる。
更に,この点について言及すると,例えば,実開昭59-51818号公報(乙11。以下「乙11公報」という。)の「蛇かご」においては,「ポリエチレンテレフタレートを用い,溶融紡糸,延伸を施して直径2.7mmのモノフィラメントを製造した。このフィラメントを菱形網加工機により目合5cmの菱形網目ができるように織成して網状化し,〜」(第6頁第14-18行目)と記載されている。
そして,本件発明の「線径M」,「長辺N」は,乙11公報の「直径2.7mm」,「目合5cm」にそれぞれ相当するから,「N/M」にこれらの値を当てはめると,18.5となる。
したがって,乙11公報記載の蛇かごは,上記式を満たす。
また,「キョーワ式フィルターユニットT型」についての平成7年11月財団法人土木研究センター作成に係る民間開発建設技術の技術審査・証明事業認定規程に基づく土木系材料技術・技術審査証明報告書(乙10。以下「乙10報告書」という。)には,キョーワ式フィルターユニットT型の網目が25mm目(第11頁,表U-1.1『キョーワ式フィルターユニットT型』の標準仕様)であることが記 16 載されており,更に,キョーワ式フィルターユニットT型の網地により形成された網糸の拡大写真(第77(1)頁)が掲載されている。
この拡大写真によれば,網糸の線径が約1.5mm(16mm(実測値)/10.6(倍))であることが明確である。
そして,本件発明の「線径M」,「長辺N」は,乙10報告書記載の「線径が約1.5mm」,「網目が25mm目」にそれぞれ相当するから,「N/M」にこれらの値を当てはめると,16.7となる。
したがって,乙10報告書記載のキョーワ式フィルターユニットT型も,上記式を満たす。
このように,乙11公報及び乙10報告書の記載から,線径Mと,長辺Nとを,上記式3≦N/M≦20を満たすように設定することは,出願時では周知であり,技術常識であったともいえる。
構成要件Bについて 本件発明の構成要件Bは,「該袋体の開口部近傍の網目に挿通した無端状の吊りロープと,」である。
ここで,乙3公報には,「篭体10は,その上部開口部16に〜(略)〜吊上げ用ロープ40を備えている。〜(略)〜吊上げ用ロープ40を口封じ用ロープ30と同様に網目13に通し,〜(略)」(乙3,段落【0009】)と記載されている。
また,その図1の記載は,吊り上げ用ロープが無端状であることを示している。
そして,本件発明の「吊りロープ」が,乙3公報の「吊り上げ用ロープ」に相当することは明らかであるから,結局,本件発明の構成要件Bは,乙3公報に記載されているといえる。
構成要件Cについて 本件発明の構成要件Cは,「吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと」である。
17 ここで,乙3公報には,「篭体10は,その上部開口部16に口封じ用ロープ30〜(略)〜を備えている。〜(略)〜上部開口部16に沿って並んでいる網目13に口封じ用ロープ30を通し〜(略)」(乙3,段落【0009】)と記載されている。
また,その図3の記載は,口封じ用ロープが吊り上げ用ロープよりも下方で,網目に挿通されていることを示している。
そして,本件発明の「口絞りロープ」は,乙3公報の「口封じ用ロープ」に相当することは明らかであるから,結局,本件発明の構成要件Cは,乙3公報に記載されているといえる。
構成要件Dについて 本件発明の構成要件Dは,「袋体に充填した塊状物とからなり,」である。
ここで,乙3公報には,「篭体10の中に所定量の石材(充填材)50を投入」(乙3,段落【0010】)することが記載されている。
そして,本件発明の「袋体」,「塊状物」は,乙3公報の「篭体」,「石材(充填材)」にそれぞれ相当するから,結局,本件発明の構成要件Dは,乙3公報に記載されているといえる。
構成要件Eについて, 本件発明の構成要件Eは,「袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である,」である。
ここで,乙3公報において,図4には,ふとん篭の側面図が示されており,この図から錐体状に形成されるふとん篭の高さの約62.5%が石材の存在しない空所となっていることは明らかである。
したがって,本件発明の構成要件Eは,乙3公報に記載されているといえる。
更に,この点について言及すると,乙10報告書には,袋体を吊りロープで吊り上げ,錐体状に形成されたキョーワ式フィルターユニットT型の写真(第49頁, 18 d)吊り上げ)が記載されており,この写真から,約59%が,塊状物の存在しない錐体状の空所となっていることが分かる(キョーワ式フィルターユニットT型の写真(第49頁,d)吊り上げの拡大図参照(乙10の末尾に参考として添付))。
このように,乙3公報及び乙10報告書の記載から,塊状物の存在しない錐体状の空所を25%〜80%とすることは出願時では周知であり,技術常識であったともいえる。
構成要件Fについて 本件発明の構成要件Fは,「水中構造物の洗掘防止材。」である。
ここで,乙3公報には,ふとん篭を「根固めとして海中に設置した」(乙3,段落【0015】)ことが記載されている。
このことから,乙3公報記載のふとん篭は,水中構造物の洗掘防止を目的とするものであるから,本件発明の「水中構造物の洗掘防止材」に相当する。
したがって,本件発明の構成要件Fは,乙3公報に記載されているといえる。
キ 以上より,乙3公報には,「編成した網地により形成された網糸の線径Mと網目の長辺Nが式3≦N/M≦20の関係を満たす袋体と(構成要件A),該袋体の開口部近傍の網目に挿通した無端状の吊りロープと(構成要件B),吊りロープを通した網目と同じか,又はそれより下方の網目に挿通した袋体の開口を閉じる口絞りロープと(構成要件C),袋体に充填した塊状物とからなり(構成要件D),袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である(構成要件E),水中構造物の洗掘防止材(構成要件F)」が記載されているから,本件発明は,乙3公報に記載されているものである。
なお,構成要件A及び構成要件Eは出願時において周知であり,技術常識でもあった。
(原告の主張) ア 本件発明と乙3公報の記載事項との対比についての認否 19 構成要件B,C,D,Fについて認める。
構成要件Aについて,乙11公報に被告主張の記載があること及び乙10報告書に被告主張の記載及び写真の掲載があることは認め,その余は否認する。
構成要件Eについて,乙3公報の図4にふとん篭の側面図が示されていること及 び乙10報告書に被告主張の写真の掲載があることは認め,その余は否認する。
構成要件Aについて 被告は,乙3公報の図2の拡大図から,網糸の線径が5mmであり,網目の長辺が96mmであることが分かると主張している。
しかしながら,乙3公報記載の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には,乙3公報記載の発明において用いられる網地の網糸の線径及び網目の長辺の長さに関する記載は一切ない。
また,被告の主張する図2についても,段落【0008】において,「この篭体10は,長方形の結節網(菱目)を二つ折りにし,その折り部に対向する縫合わせ部15をひも状物14によって縫合して円筒状にした後,筒体17の下端部を,図2のように,外側に折り返して底部開口部12を2重構造にし,この底部開口部12に沿って並んでいる網目13に固縛用ロープ18を複数回,例えば,3回,サークル状に通してから固縛用ロープ18をきつく絞りながら縛ることにより形成された巾着状の底部11を有している。」と記載されているにすぎない。
すなわち,図2は,「筒体17の下端部を外側に折り返して底部開口部12を二重構造にして,この底部開口部12に沿って並んでいる網目13に固縛用ロープ18を複数回,例えば,3回,サークル状に通してから固縛用ロープ18をきつく絞りながら縛ることにより形成された巾着状の底部11」という構成を説明するために作成された模式図にすぎないから,同図から,網糸の線径と網目の長辺の長さを導き出すこと自体に無理があるといわなければならない。
また,図2の拡大図から網糸の線径が5mmであるとする根拠も不明である。仮に図2の拡大図の実線の太さで測定するならば,網糸の線径は概ね3〜4mm程度 20 であり,網目の長辺が96mmであるとすれば,N/Mの値は24〜32となり,構成要件Aの数値範囲外となる。
以上のとおりであるから,乙3公報には,本件発明の構成要件Aは一切記載されていない。
また,被告は,乙11公報及び乙10報告書の記載から,網糸の線径Mと網目の長辺Nとを,3≦N/M≦20を満たすように設定することは,出願時では周知の技術常識であったと主張しているが,そもそも,僅かに乙11公報と乙10報告書の記載のみをもって,上記を周知の技術常識などということはできない。被告は,技術審査報告書である乙10報告書は教科書的な役割を果たすもので,業界に広く知れ渡ることになるから,乙10報告書に記載があることのみをもって周知技術といえる,と主張している。
しかしながら,技術審査報告書は,あくまで各社の個別の技術を記載したものにすぎず,その意味では特許出願明細書と異ならないのであって,当業界における一般的な技術が記載されたハンドブックのような教科書的な意味をもつものではない。
新技術についての試験項目に限れば,その後に申請のあった同種技術において,同様の試験項目が用いられる傾向があるという面はあるかもしれないが,具体的な製品仕様については,各社各様であり,技術審査報告書に掲載された具体的な製品仕様が教科書的な役割を果たすわけではない。
なお,仮に乙10報告書記載の技術審査報告書の内容が,ある程度知られていたと仮定しても,そもそも乙10報告書には網目の線径Mの数値すら記載されておらず,構成要件Aの規律する網目の長辺Nと網目の線径Mの関係が広く業界に周知されていたなどとは到底いえない。
また,被告は,OBネットユニットが3≦N/M≦20の関係式を満たす袋体であると主張するが,仮に被告の主張どおりであるとしても,これは一企業が本件発明の出願の少し前に採用した仕様にすぎず,周知技術であるということはできない。
構成要件Eについて 21 被告は,乙3公報の図4から,錐体状に形成される布団篭の高さの約62.5%が石材の存在しない空所となっていることが明らかであると主張している。
しかしながら,乙3公報記載の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には,構成要件E(袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である)に関する記載は一切ない。
また,被告の主張する図4についても,段落【0010】において,「そして,篭体10の中に所定量の石材(充填材)50を投入したのち,図4のように,口封じ用ロープ30の結び目31を引いて篭体10の上端部を縛ると,篭体10の上部開口部16が巾着状に閉じられたふとん篭1ができる。この,ふとん篭1の周囲から吊上げ用ロープ40を均等にループ状に引き出して図示しないクレーンのフックに掛けて所定の場所に設置する。」と記載されているにすぎない。
すなわち,図4は,篭体10の中に石材50を投入した後に,口封じ用ロープ30で篭体10の上端部を縛ることによって形成される,篭体10の上部開口部16が巾着状に閉じられたふとん篭1の形状の模式図を示したものであるとはいえても,これを,吊上げ用ロープ40で吊り上げたときのふとん篭1の形状を図示したものであるとする根拠は全くない。むしろ,吊上げ用ロープが放射状に引き出される形で描かれていることに照らせば,図4は,口封じ用ロープ30で縛り,吊上げ用ロープ40を均等にループ状に引き出したときの,ふとん篭1の形状を示す模式図にすぎず,吊り上げたときのふとん篭1の正確な形状を示したものではないというべきである。
以上のとおりであるから,乙3公報には,本件発明の構成要件Eは一切記載されていない。
また,被告は,乙10報告書の記載から,塊状物の存在しない錐体状の空所を25%〜80%とすることは,出願時では周知の技術常識であったと主張している。
しかしながら,そもそも,乙3公報と乙10報告書の記載のみをもって,上記を 22 周知の技術常識ということはできない。
また,乙10報告書記載の原告の旧製品は,2本の補強ロープが,袋体の開口部の1つの始点から袋体の底部を通過して開口部の反対側の終点まで,開口部に対して略垂直方向に網目に挿通されて,袋体の底部で交差しており,袋体はこの補強ロープによって吊り上げられるという構成である。
これに対して,本件発明は,吊りロープを袋体の開口部近傍の網目に挿通された無端状のものとする構成である。
この構成の違いは,吊り上げたときの袋体の底部の伸びや形成される錐体の形状など,空所率に関連する要素に直接影響を及ぼすものである。
本件発明における空所率の範囲は,あくまで本件発明の構成を前提にして,袋体を水中に配設したときの形状等を考慮の上で規定されたものであるから,これとは異なる構成の乙10報告書記載の袋体における空所率をもって,周知の技術的事項であるということはできないというべきである。
被告は,乙10報告書添付の写真からも,構成要件Eが周知技術であることは明らかであると主張するが,同写真をもって空所率が25%〜80%に収まっているということはできないし,仮に被告の主張どおりであるとしても,同写真は,一企業が本件発明の出願の少し前に実施した工事写真にすぎないのであるから,これをもって周知技術であるということはできない。
エ 以上のとおり,本件発明の少なくとも構成要件A及び構成要件Eについては,乙3公報には記載されておらず,本件発明と乙3公報に記載された発明とは同一ではないから,特許法29条の2の規定に基づく無効理由は存しない。
(5) 本件特許には明確性要件違反の無効理由があるか(被告の主張) 構成要件Eは「袋体に充填する塊状物の量が,袋体を吊りロープで吊り上げたとき,錐体状に形成される洗掘防止材の高さの25%〜80%が塊状物の存在しない錐体状の空所となる量である」とあるが,これに当たるか否かによって,錐体状に 23 形成される洗掘防止材として,袋体の構成には何らの差異も見当たらない。
物の発明についての本件特許に係る特許請求の範囲において,構成要件Eで示される袋体の使用方法は,当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明技術的範囲をどのような方法で使用される物に限定しているのかが不明である。
そのため本件特許の特許請求の範囲等の記載を読む者は,当該発明の内容を明確に理解することができず,特許権者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測することができなくなっているから,本件特許には明確性の要件(特許法36条6項2号)に反する無効理由があり,本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものである。
(原告の主張) 本件特許においては,「袋体」の「使用方法」として構成要件Eの空所率が記載されているわけではなく,「洗掘防止材」の物のクレームにおいて,構成要件Eの空所率の限定によりその構造が特定されているのであり,その特性についても本件明細書の【0013】の記載から明らかである。
被告は,空所率の限定によっても「袋体」の構成に差異が見当たらないことを論難しているが,上記のとおり,本件特許は「洗掘防止材」の物のクレームにおいて,構成要件Eの空所率の限定を付しているのであるから,空所率の限定によって「袋体」の構成に差異が見当たらないのは当然のことである。
「洗掘防止材」の物のクレームとして見た場合,構成要件Eの空所率の限定によって,本件発明の内容が明確に理解できないなどということはないから,本件特許が明確性要件に反しないことは明らかである。
(6) 原告の損失額及び損害額 (原告の主張) 平成21年から平成26年の各年の被告製品1A,同1B及び同2ないし同4の年間売上高は1億9000万円を下らないところ,これにより原告は以下のとおり 24 の損失及び損害を受けている。
ア 原告の損失額(不当利得返還請求) 被告は,原告との間の特許通常実施許諾契約が終了した平成21年3月21日以降も,本件特許権の間接侵害品となる被告製品1A,同1B及び同2ないし同4を製造販売しているが,この間,実施料の支払相当額の支払を免れ,その利益を受けている。
本件発明にかかる相当な実施料率は2%を下らないから,平成21年3月21日から平成24年6月14日までの間の3年3か月間で被告が受けた利益は,以下の計算式のとおり,少なくとも1235万円である。
(計算式) 1億9000万円/年×2%×3.25年=1235万円 そして,原告は,これにより同額の損失を被っているから,同額が被告の不当利得による損失額となる。
イ 原告の損害額(特許法102条2項) 被告が,上記期間に受ける利益は,売上の10%を下らない。
したがって,被告は,平成24年6月15日から平成27年6月15日までの3年間で,被告製品1A,同1B及び同2ないし同4の製造販売によって少なくとも5700万円の利益を得ているから,特許法102条2項の適用により,同額が原告の受けた損害の額と推定される。
(被告の主張) 原告の主張は否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(3)(本件特許には特許法29条1項1号又は2号違反の無効理由があるか)について 本件事案に鑑み,争点(3)から検討する。
(1) 被告は,本件特許の出願前に,小浜製鋼株式会社によって洗掘防止材である 25 OBネットユニットが製造販売され,本件発明の構成要件を充足する態様で使用されていたから,本件発明は公知であり,又は公然と実施されていたとして,本件特許には,特許法29条1項1号又は2号に反して特許された無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項により,原告が本件特許権を行使することは許されない旨主張する。
(2) 証拠(乙1)によれば,遅くとも平成8年頃に小浜製鋼株式会社がOBネットユニットとの製品名の洗掘防止材の製造販売を開始し,OBネットユニットは,平成8年3月6日から平成9年3月20日の間に実施された上篠崎護岸工事及び平成8年3月16日から平成9年3月31日の間に実施された高谷護岸工事において,根固工の工事に使用された事実が認められる。
(3) そして,証拠(乙1,乙2,乙23)によれば,以下のとおり,OBネットユニットが両護岸工事の際に使用された態様は,本件発明の構成要件をすべて充足するものと認められる。
構成要件Aについて 上篠崎護岸工事に使用されたOBネットユニットの網目の長辺は25mm,線径は2.03mm(乙23の別紙3)であり,高谷護岸工事に使用されたOBネットユニットの網目の長辺は25mm,線径は2.04mm(乙2写真11-1)である。
そうすると,OBネットユニットの網目の長辺N/網糸の線径Mは,上篠崎護岸工事に使用されたOBネットユニットについては,12.31(25÷2.03=12.3152)となり,高谷護岸工事に使用されたOBネットユニットについては12.25(25÷2.04=12.2549)となる。
したがって,両護岸工事において使用されたOBネットユニットの構成は,本件発明の構成要件Aを充足する。
構成要件Bについて 両護岸工事において使用されたOBネットユニットの吊りロープは,同ネットユ 26 ニットの袋体の開口部近傍に挿通されており(乙2の写真10-2(P1210964),乙23の写真(DSCF0057,同0062),また,両護岸工事のいずれにおいても,OBネットユニットの吊りロープを介して,クレーンで吊り上げられているから(乙1別紙4(16A),別紙7の11,12),このことからすると,OBネットユニットの吊りロープは無端状であることが認められる。
したがって,両護岸工事において使用されたOBネットユニットの構成は,本件発明の構成要件Bを充足する。
構成要件Cについて 両護岸工事において使用されたBネットユニットの口括りロープは,吊りロープを通した網目よりも下方に挿通されている。(乙2の写真10-2(P1210964),乙23(DSCF0057,同0062)) したがって,両護岸工事において使用されたOBネットユニットの構成は,本件発明の構成要件Cを充足する。
構成要件Dについて 両護岸工事において使用されたOBネットユニットの袋体には,中詰め材が充填されている。(乙2,乙23) したがって,両護岸工事において,OBネットユニットは,いずれも本件発明の構成要件Dを充足する態様で使用されたと認められる。
構成要件Eについて 上篠崎護岸工事,高谷護岸工事それぞれにおいて,OBネットユニットが吊り下げられた状況が撮影された写真が残されているが(上篠崎護岸工事につき乙1別紙7-11,高谷護岸工事につき乙1別紙4-16A),各写真の画像上,確認できるところによれば,上篠崎護岸工事のそれでは,OBネットユニットの絞り部から最下端までの高さは11.5p,OBネットユニットの絞り部から中詰め材までの高さは7.5pであること,高谷護岸工事のそれでは,OBネットユニットの絞り部から最下端までの高さは7.7p,OBネットユニットの絞り部から中詰め材ま 27 での高さは4.6pであることが認められる。
そうすると,吊り下げられたOBネットユニットの袋体の高さのうち,中詰め材が存しない部分の高さは,上篠崎護岸工事では約65%(7.5/11.5=0.652)となり,高谷護岸工事では約60%(4.6/7.7=0.597)ということになる。
なお,原告は,報告書(甲25)を提出して,同様の状況を撮影した乙1別紙8-14Aの写真について,吊り下げられたOBネットユニットを斜め下から撮影していることから,写真により確認できる空所率の算出の仕方に問題がある旨指摘しているが,その問題点の指摘を踏まえて上篠崎護岸工事の写真(乙1別紙7-11)及び高谷護岸工事の写真(乙1別紙4-16A)について検討してみても,その空所率が80パーセントを上回ることがないことは優に確認できるところである。
したがって,両護岸工事において,OBネットユニットは,いずれも本件発明の構成要件Eを充足する態様で使用されていたと認められる。
構成要件Fについて 上篠崎護岸工事は,工事名「上篠崎緊急船着場新設工事」,工種「根固工」とされており(乙1別紙1-18A),高谷護岸工事は,工事名「高谷堤防耐震対策工事」,工種「根固工」とされているから(乙1別紙3-11A),両護岸工事は,水中構造物である船着場の根固め,すなわち「水・泥流や波浪による洗掘から河床や堤防の基礎部などを防護する」工事であると認められる。
したがって,両護岸工事において江戸川河川敷に設置された中詰め材を充填した状態のOBネットユニットは,水中構造物の洗掘防止材として機能しているものであり,OBネットユニットはいずれも本件発明の構成要件Fを充足する態様で使用されている。
キ 以上によれば,両護岸工事において使用されたOBネットユニットの構成は,本件発明の構成要件D,E,F以外をすべて充足し,両護岸工事において,構成要件D,E,Fを充足する形で使用されたものと認められる。
28 (4) そこで,さらに上記使用が,特許法29条1項2号の「公然実施をされた」といえるか検討するに,「公然実施をされた」というためには,発明の内容を秘密にする義務を負わない人が発明内容を知り得る状態で使用等の実施行為が行われたことが必要である。
しかるところ,公然実施の対象となるOBネットユニットは,小浜製鋼株式会社によって製造され市販されていた商品にすぎないし,また証拠(乙1)からうかがわれる両護岸工事の実施状況や工事内容,工事場所が公共の場であることなどからすれば,OBネットユニットの設置作業に従事した現場作業員が,OBネットユニットの構造について小浜製鋼株式会社から守秘義務を課せられていたことをうかがわせる事情はなく,かえって,工事使用前に,その構造を確認する機会も十分あったものと認められるから,OBネットユニットの本件発明の構成要件D,E,Fを除く構成要件は,それら工事関係者に十分認識されていたといえる。
そして,前記(3)で認定したとおり,そのOBネットユニットが,両護岸工事において本件発明の構成要件D,E,Fを充足する態様で使用されたというのであるが,その工事現場には,上記のとおりOBネットユニットの構成を確認した工事関係者が立ち会って,その使用態様を現認したものと推認できるから(なお,構成要件Eを充足する使用対象事態を撮影した写真は僅かであるが,その使用態様が特殊なものとはいえない以上,両護岸工事現場で写真として記録が残っていないOBネットユニットであっても,多くは同様の態様で使用され,工事関係者らによって,その使用態様が現認されていたものと推認できる。),これらにより,本件発明は,公然と実施されたものと認めて差し支えないというべきである。
なお,原告は,上記の認識の限度であれば,本件発明の構成要件Aの「式3≦N/M≦20」の数値限定,あるいは構成要件Eの「25%〜80%」の数値限定が認識されないと主張するが,公然実施されたOBネットユニットの使用態様が上記限定された数値内,すなわち本件発明の下位概念に一致するのであれば,これをもって本件発明が公然実施されたといって差し支えないから,この点についての原告 29 の主張は失当である。
(5) したがって,本件発明は,特許法29条1項2号により特許を受けることができないものに当たり,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項により原告が本件特許権を行使することはできないというべきである。
(6) なお,原告は,上記認定に用いた各証拠(乙1,乙2,乙23)の信用性について争っているのでこの点について付言するに,まず上掲の証拠によれば,両護岸工事の行われた時期及び場所そのものは確実に認定できる事実であると認められる上,原告の指摘にかかわらず,その後に同じ場所で同種の工事が行われた事実は認められないから,被告が,本件訴訟提起後において両護岸工事が実施された現場で確認したOBネットユニット(乙2,乙23)は,本件特許出願前にされた両護岸工事において使用されたものであることは明らかである。
そして,これに中詰め材を充填して釣り上げた状況(上篠崎護岸工事につき乙1別紙7-11,高谷護岸工事につき乙1別紙4-16A)についても,これら写真の撮影時が両護岸工事の最中であることは,各写真の遠景に写り込んでいる建造物等の位置関係から明らかであるから,これらにより上記(2),(3)のとおり十分認定できるものであり,これに反する原告の主張は失当である。
2 以上の次第で,その余の争点につき検討するまでもなく,原告の請求にはいずれも理由がないことから,これらすべてを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。
追加
30 裁判官田原美奈子裁判官大川潤子31 (別紙)被告製品目録1A製品名ボトルユニットタイプSBU-10(1t用)SBU-20(2t用)SBU-30(3t用)SBU-40(4t用)1B製品名ボトルユニットタイプSBU-10(1t用)SBU-20(2t用)SBU-30(3t用)SBU-40(4t用)2製品名ボトルユニットタイプFBU-10(1t用)FBU-20(2t用)FBU-30(3t用)FBU-40(4t用)3製品名ボトルユニット平滑タイプタイプSBU-10(c)(1t用)SBU-20(c)(2t用)SBU-30(c)(3t用)SBU-40(c)(4t用)4製品名パワフルユニットタイプFPU-10(1t用)FPU-20(2t用)32 FPU-30(3t用)FPU-40(4t用)FPU-60(6t用)FPU-80(8t用)33 (別紙)被告製品説明書1被告製品1Aについて(1)製品名ボトルユニットタイプSBU-10(1t用)SBU-20(2t用)SBU-30(3t用)SBU-40(4t用)(2)製品の説明河川護岸や橋脚等の水中構造物の袋型根固め工法用袋材である。
袋体本体1は,網地2で編成されており,中詰め材投入前において,側面視で下端を頂点とする略逆三角形状の袋体で,同略逆三角形の1辺を構成する上端が上方向に開放されて開口部3を形成する一方,下端が閉鎖されている。
網地2は,2本の網糸を下記模式図の二重線部分で結合することで,略六角形状の網目が連続する亀甲状に構成されている。
各網目の略六角形状は,2本の網糸が結合された略同じ長さの1対の対辺と1本の網糸でなる4辺によって形成される。
略六角形状の各網目の大半においては,略同じ長さの1本の網糸でなる4辺が,2本の網糸が結合された1対の対辺よりも長く,網目の長辺を形成しており,網糸の線径M及び同網目の長辺Nは,下表のとおりである。
34 編糸の線径M(mm)網目の長辺N(mm)SBU-10(1t用)224SBU-20(2t用)224SBU-30(3t用)321SBU-40(4t用)321開口部3の近傍の吊り紐4及び口絞り紐5を挿通するための各1列の網目及びこれに隣接する列の網目はやや大きめに形成されている。
中詰め材が投入された袋体本体1を吊り上げるための吊り紐4は,開口部3の近傍の網目の複数箇所に挿通されて開口部3近傍の網目を一周し,無端状に形成されている。
中詰め材が投入された袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5は,吊り紐4が挿通された網目よりもやや下方の複数の網目に挿通されて,吊り紐4が挿通された網目のやや下方の網目を一周し,やはり無端状に形成されている。
(3)顧客が使用するときの状態所定重量の中詰め材が投入された袋体本体1を,口絞り紐5で絞った状態で,吊り紐4で吊り上げたとき,口絞り紐5による絞り部以下に,底面に丸みを帯びた錐体状の根固め工法用材が形成される。このとき,錐体状に形成された根固め工法用材の上部には,やはり錐体状の中詰め材のない空所が存する。所定重量の中詰め材が投入された場合の口絞り部から中詰め材までの空所の高さは,口絞り部から丸みを帯びた底面の最下部までの根固め工法用材の高さの40%〜70%の範囲に収まる。
(4)図面の説明第1図は中詰め材料投入前の側面図,第2図は顧客が使用するときの状態についての側面図である。
35 (5)図面第1図開口部3吊り紐4口絞り紐5袋体本体1網地2第2図口絞り紐5吊り紐436 2被告製品1Bについて(1)製品名ボトルユニットタイプSBU-10(1t用)SBU-20(2t用)SBU-30(3t用)SBU-40(4t用)(2)製品の説明河川護岸や橋脚等の水中構造物の袋型根固め工法用袋材である。
袋体本体1は,網地2で編成されており,中詰め材投入前において,側面視で下端を頂点とする略逆三角形状の袋体で,同略逆三角形の1辺を構成する上端が上方向に開放されて開口部3を形成する一方,下端が閉鎖されている。
網地2は,2本の網糸を下記模式図の二重線部分で結合することで,略六角形状の網目が連続する亀甲状に構成されている。
各網目の略六角形状は,2本の網糸が結合された略同じ長さの1対の対辺と1本の網糸でなる4辺によって形成される。
略六角形状の各網目の大半においては,略同じ長さの1本の網糸でなる4辺が,2本の網糸が結合された1対の対辺よりも長く,網目の長辺を形成しており,網糸の線径M及び同網目の長辺Nは,下表のとおりである。
編糸の線径M(mm)網目の長辺N(mm)SBU-10(1t用)224SBU-20(2t用)224SBU-30(3t用)321SBU-40(4t用)32137 開口部3の近傍の吊り紐4及び保留環6を挿通するための各1列の網目及びこれに隣接する列の網目はやや大きめに形成されている。
中詰め材が投入された袋体本体1を吊り上げるための吊り紐4は,開口部3の近傍の網目の複数箇所に挿通されて開口部3近傍の網目を一周し,無端状に形成されている。
中詰め材が投入された袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5は,吊り紐4が挿通された網目よりもやや下方の網目の1つに挿通された保留環6に括り付けられている。
(3)顧客が使用するときの状態所定重量の中詰め材が投入された袋体本体1を,口絞り紐5で絞った状態で,吊り紐4で吊り上げたとき,口絞り紐5による絞り部以下に,底面に丸みを帯びた錐体状の根固め工法用材が形成される。このとき,錐体状に形成された根固め工法用材の上部には,やはり錐体状の中詰め材のない空所が存する。所定重量の中詰め材が投入された場合の口絞り部から中詰め材までの空所の高さは,口絞り部から丸みを帯びた底面の最下部までの根固め工法用材の高さの40%〜70%の範囲に収まる。
(4)図面の説明第1図は中詰め材料投入前の斜視図,第2図は顧客が使用するときの状態についての側面図である。
38 (5)図面第1図開口部3保留環6吊り紐4袋体本体1口絞り紐5網地2第2図吊り紐4保留環6口絞り紐539 3被告製品2ないし同4について(1)製品名被告製品2:ボトルユニット被告製品3:ボトルユニット平滑タイプ被告製品4:パワフルユニットタイプ被告製品2:FBU-10(1t用)FBU-20(2t用)FBU-30(3t用)FBU-40(4t用)被告製品3:SBU-10(c)(1t用)SBU-20(c)(2t用)SBU-30(c)(3t用)SBU-40(c)(4t用)被告製品4:FPU-10(1t用)FPU-20(2t用)FPU-30(3t用)FPU-40(4t用)FPU-60(6t用)FPU-80(8t用)(2)製品の説明河川護岸や橋脚等の水中構造物の袋型根固め工法用袋材である。
袋体本体1は,網地2で編成されており,中詰め材投入前において,側面視で下端を頂点とする略逆三角形状の袋体で,同略逆三角形の1辺を構成する上端が上方向に開放されて開口部3を形成する一方,下端が閉鎖されている。
網地2は,2本の網糸を下記模式図の二重線部分で結合することで,略六角形状の網目が連続する亀甲状に構成されている。
40 各網目の略六角形状は,2本の網糸が結合された略同じ長さの1対の対辺と1本の網糸でなる4辺によって形成される。
略六角形状の各網目の大半においては,略同じ長さの1本の網糸でなる4辺が,2本の網糸が結合された1対の対辺よりも長く,網目の長辺を形成しており,網糸の線径M及び同網目の長辺Nは,下表のとおりである。
編糸の線径M(mm)網目の長辺N(mm)FBU-10(1t用)224FBU-20(2t用)224FBU-30(3t用)322FBU-40(4t用)322SBU-10(c)(1t用)224SBU-20(c)(2t用)224SBU-30(c)(3t用)322SBU-40(c)(4t用)322FPU-10(1t用)957FPU-20(2t用)957FPU-30(3t用)938FPU-40(4t用)938FPU-60(6t用)1245FPU-80(8t用)1245開口部3の近傍の吊り紐4及び口絞り紐5を挿通するための各1列の網目及びこれに隣接する列の網目はやや大きめに形成されている。
中詰め材が投入された袋体本体1を吊り上げるための吊り紐4は,開口部3の近傍の網目の複数箇所に挿通されて開口部3近傍の網目を一周し,無端状に形成されている。
顧客により製品の使用時に中詰め材が投入されたときに用いられる,袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5は,吊り紐4が挿通された網目よりもやや上方の複数の網目に挿通されて,吊り紐4が挿通された網目のやや上方の網目41 を一周し,やはり無端状に形成されている。
(3)顧客が使用するときの状態所定重量の中詰め材が投入された袋体本体1を,口絞り紐5で絞った状態で,吊り紐4で吊り上げたとき,口絞り紐5による絞り部以下に,底面に丸みを帯びた錐体状の根固め工法用材が形成される。このとき,錐体状に形成された根固め工法用材の上部には,やはり錐体状の中詰め材のない空所が存する。所定重量の中詰め材が投入された場合の口絞り部から中詰め材までの空所の高さは,口絞り部から丸みを帯びた底面の最下部までの根固め工法用材の高さの40%〜70%の範囲に収まる。
(4)図面の説明第1図は中詰め材料投入前の側面図,第2図は顧客が使用するときの状態についての側面図である。
42 (5)図面第1図開口部3口絞り紐5吊り紐4袋体本体1網地2第2図吊り紐4口絞り紐5以上43 (別紙)中詰め材充填後の被告製品の構成要件一覧1被告製品1Aについて1-a2本の網糸が結合された略同じ長さの1対の対辺と1本の網糸でなる4辺で形成される略六角形状の網目で亀甲状に編成された網地2によって形成され,略六角形状の各網目の大半において,略同じ長さの1本の網糸でなる4辺が,2本の網糸が結合された1対の対辺よりも長く,網目の長辺を形成しており,網糸の線径M及び同網目の長辺Nが下表のとおりである,袋体本体1と,編糸の線径M(mm)網目の長辺N(mm)SBU-10(1t用)224SBU-20(2t用)224SBU-30(3t用)321SBU-40(4t用)3211-b袋体本体1の開口部3近傍の複数の網目に挿通した袋体本体1を吊り上げるための無端状の吊り紐4と,1-c吊り紐4を通した網目より下方の複数の網目に挿通した袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5と1-d袋体本体1に充填した中詰め材とからなり,1-e袋体本体1に所定重量の中詰め材を充填し,袋体本体1を口絞り紐5を絞った状態で吊り紐4で吊り上げたときに,口絞り紐5による絞り部以下に,底面に丸みを帯びた錐体状に形成される根固め工法用材が形成されるとともに,同根固め工法用材の上部に中詰め材の存しない錐体状の空所が形成され,所定重量の中詰め材が投入された場合の口絞り部から中詰め材までの空所の高さが,口絞り部から丸みを帯びた底面の最下部までの根固め工法用材の高さの40%〜70%の範囲に収まる,44 1-f水中構造物の根固め工法用材。
2被告製品1Bについて2-a2本の網糸が結合された略同じ長さの1対の対辺と1本の網糸でなる4辺で形成される略六角形状の網目で亀甲状に編成された網地2によって形成され,略六角形状の各網目の大半において,略同じ長さの1本の網糸でなる4辺が,2本の網糸が結合された1対の対辺よりも長く,網目の長辺を形成しており,網糸の線径M及び同網目の長辺Nが下表のとおりである,袋体本体1と,編糸の線径M(mm)網目の長辺N(mm)SBU-10(1t用)224SBU-20(2t用)224SBU-30(3t用)321SBU-40(4t用)3212-b袋体本体1の開口部3近傍の複数の網目に挿通した袋体本体1を吊り上げるための無端状の吊り紐4と,2-c吊り紐4を通した網目より下方の網目に挿通した保留環6に括り付けられた袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5と,2-d袋体本体1に充填した中詰め材とからなり,2-e袋体本体1に所定重量の中詰め材を充填し,袋体本体1を口絞り紐5を絞った状態で吊り紐4で吊り上げたときに,口絞り紐5による絞り部以下に,底面に丸みを帯びた錐体状に形成される根固め工法用材が形成されるとともに,同根固め工法用材の上部に中詰め材の存しない錐体状の空所が形成され,所定重量の中詰め材が投入された場合の口絞り部から中詰め材までの空所の高さが,口絞り部から丸みを帯びた底面の最下部までの根固め工法用材の高さの40%〜70%の範囲に収まる,2-f水中構造物の根固め工法用材。
45 3被告製品2ないし同4について3-a2本の網糸が結合された略同じ長さの1対の対辺と1本の網糸でなる4辺で形成される略六角形状の網目で亀甲状に編成された網地2によって形成され,略六角形状の各網目の大半において,略同じ長さの1本の網糸でなる4辺が,2本の網糸が結合された1対の対辺よりも長く,網目の長辺を形成しており,網糸の線径M及び同網目の長辺Nが下表のとおりである,袋体本体1と,編糸の線径M(mm)網目の長辺N(mm)FBU-10(1t用)224FBU-20(2t用)224FBU-30(3t用)322FBU-40(4t用)322SBU-10(c)(1t用)224SBU-20(c)(2t用)224SBU-30(c)(3t用)322SBU-40(c)(4t用)322FPU-10(1t用)957FPU-20(2t用)957FPU-30(3t用)938FPU-40(4t用)938FPU-60(6t用)1245FPU-80(8t用)12453-b袋体本体1の開口部3近傍の複数の網目に挿通した袋体本体1を吊り上げるための無端状の吊り紐4と,3-c吊り紐4を通した網目よりやや上方の複数の網目に挿通した袋体本体1の開口部3を閉じるための口絞り紐5と3-d袋体本体1に充填した中詰め材とからなり,3-e袋体本体1に所定重量の中詰め材を充填し,袋体本体1を口絞り紐5を絞った状態で吊り紐4で吊り上げたときに,口絞り紐5による絞り部以下に,底面に丸みを帯びた錐体状に形成される根固め工法用材が形成されるとともに,同根固め工法用材の上部に中詰め材の存しない錐体状の空所が形成され,所定重量の中詰め材が投入された場合の口絞り部から中詰め材46 までの空所の高さが,口絞り部から丸みを帯びた底面の最下部までの根固め工法用材の高さの40%〜70%の範囲に収まる,3-f水中構造物の根固め工法用材。
以上47
裁判長裁判官 森崎英二