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関連審決 異議2001-73486
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12817損害賠償等請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  均等 /  置き換え /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 426号 特許取消決定取消請求事件
原告 イビデン株式会社
訴訟代理人弁護士 木下洋平
同 弁理士 小川順三
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 出口昌哉
同 神崎潔
同 大野克人
同 高橋泰史
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/06/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2001-73486号事件について平成14年7月2日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「電子回路部品搭載用基板」とする特許第3181193号発明(平成7年6月19日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成13年4月20日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許について,特許異議の申立てがされ,異議2001-73486号事件として特許庁に係属し,原告は,平成14年6月11日,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等について訂正(以下「本件訂正」という。)を求める訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。
特許庁は,同事件について審理した結果,同年7月2日,「訂正を認める。
特許第3181193号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。
2 本件訂正に係る本件明細書の特許請求の範囲記載の発明の要旨 【請求項1】スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において, 前記ベース基板の第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成されるとともに,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなることを特徴とする電子回路部品搭載用基板。
【請求項2】スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において, 前記ベース基板の両面には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群及び第2の接続端子群は,それぞれ該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成されるとともに,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子及び第2の接続端子群を構成する各接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなることを特徴とする電子回路部品搭載用基板。
(以下,【請求項1】,【請求項2】の発明を「訂正発明1」,「訂正発明2」という。) 3 決定の理由 決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,訂正発明1,2は,いずれも,特開昭56-114361号公報(審判第1引用例・本訴甲3,以下「第1引用例」という。),特開平6-275959号公報(審判第2引用例・本訴甲4,以下「第2引用例」という。)及び特開平5-235546号公報(審判第3引用例・本訴甲5,以下「第3引用例」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,訂正発明1,2に係る本件特許は,拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであって,平成6年法律第116号附則14条の規定に基づく,平成7年政令第205号4条2項の規定により,取り消すべきものとした。
原告主張の決定取消事由
決定は,第1引用例記載の発明(以下「第1引用例発明」という。)の認定を誤り(取消事由1),訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由2),訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断を誤り(取消事由3),また,訂正発明2の進歩性の判断を誤った(取消事由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(第1引用例発明の認定の誤り) (1) 決定は,第1引用例(甲3)について,「第1引用例の第1図に示されている,半導体容器(2)の絶縁体層の表面(上面)には,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群が形成されているとみるべきであって,その形成の態様は,第3図に示されている配置状態からみて,『密集した状態』といえるし,同様に,半導体容器(2)の絶縁体層の裏面(下面)側の『少なくとも外周部』に,上記イでいう『各外部リード端子』(214)を接続するための『接続端子群』が形成されている」(決定謄本4頁「ヘ」の項),「同じく第1図では,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群のうちの,中央部に位置する接続端子は実質上スルーホールを介して内層の導体層と接続され,外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」(同4頁「ト」の項)と認定したが,誤りである。
(2) 上記認定ヘについて,第1引用例の第3図は,第2図の拡大図であって,第1図とは無関係であり,第3図に示されているものが密集しているからといって,第1図の端子(11)も密集していることにはならない。また,第1図は,外周部分が省略された図面であり,「少なくとも外周部」に接続端子が形成されているかどうかが全く不明である上,第1図に開示されている3本のピンのうち裏面側の2本が,半導体装置(1)の直下にあり,外周に存在しているものとはいえない。
(3) また,上記認定トについて,第1引用例の第1図からは,訂正発明1の第1接続端子群に相当するもののうち,基板中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子への接続を,ビルドアップ樹脂絶縁層の外表面に形成されている,基板外周部に向って延びる外層導体層に接続することによって果たすという構成を読み取ることはできない。半導体装置(1)よりも外側のピンにつながる配線の引き回しは,いったん内側へ寄せて,再び外側へ引き出されている。すなわち,最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されており,ピンの一つの位置が,たまたま半導体装置(1)の直下から外れているからといって,直ちに,接続端子群が外周にあることにはならない。
(4) さらに,第1引用例の第1図記載の半導体容器の基板は,セラミック基板であることを必須の要件としているから,そのセラミック基板を含んだ半導体容器の基板と樹脂絶縁層とを同時に高温焼成することになるが,その結果として,当然,樹脂絶縁層は焼失してしまうため,厚い樹脂絶縁層を採用した場合に層数を少なくすることができ,小型化を実現できるとともに,外層導体層のはく離を防止することができるという訂正発明1の効果を得ることはできないから,第2引用例及び第3引用例に開示されたビルドアップ多層配線層の形成手法に適用する阻害要因を有するものである。決定は,第1引用例が,上記適用阻害要因,すなわち,セラミック基板であることを必須の要件としていることを看過したものである。
2 取消事由2(訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤り) (1) 決定は,訂正発明1と第1引用例発明とを対比し,「第1引用例の・・・『複数の絶縁体層』(211)及び『絶縁体面に選択的位置を占めて形成された導電体層』(212)は,『スルーホールを通して両面の導電体層(212)間を接続する接続部』(213)が設けられているところから,本件発明(注,訂正発明1)でいう『スルーホールを有するベース基板』に相当する」(決定謄本4頁最終段落〜5頁第1段落)とした上,両者の一致点として,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなる電子回路部品搭載用基板」(同5頁<一致点>)である点を認定したが,誤りである。
(2) 訂正発明1のベース基板は,層間絶縁層をビルドアップするための樹脂製の土台であるからこそ「ベース基板」なのである。しかし,第1引用例(甲3)の第1図に示されているものは,導体層を印刷した複数枚のセラミック製グリーンシートを積層して一体に成形し,これを1600℃から1900℃という高温で焼成したものであるから,ビルドアップ配線層を形成するためのベース基板が存在しているということはできない。また,第1引用例の基板は,セラミックから成るものであって,訂正発明1のような樹脂製のベース基板上にビルドアップ配線層を形成したものとは明らかに区別されるものである。なお,第1引用例においては,絶縁体としてセラミック板を使用しているため,絶縁体層と導体との接触面には粗化層を設けないで焼き付けるのであるから,そもそも訂正発明1のような粗化の必要性は全くない。
また,第1引用例は,第1の接続端子群が密集した状態で形成されているものではなく,中央部しか図示していない第1図において,「その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され」ているということはできない。このような違いは,そもそも第1引用例のものは,ベース基板がない一体焼結したセラミック配線板であるから,絶縁性に優れ,もともと薄いものであることによる。
したがって,訂正発明1のような樹脂基板の場合に問題となる,小型化しなければならないという課題が生じない。少なくとも,第1引用例の第1図のものでは,訂正発明1の前提である,「第1接続端子群が密集した状態で形成され」,「少なくとも外周部に第2の接続端子群」との構成があるということはできず,外周への配線の引き回しの必要もなく,すなわち,これを薄くすべき課題がないのであるから,配線の引き回しのためのビルドアップ層を増やす必要もない。
3 取消事由3(訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り) (1) 決定は,訂正発明1と第1引用例発明との相違点として認定した,「本件発明(注,訂正発明1)では,ベース基板の第1の接続端子群を設ける側に,『内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層』が形成され,第1の接続端子群は,『該ビルドアップ多層配線層の最外層』に形成されると共に『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』るのに対して,第1引用例(注,甲3)の上記イ[注,「従来のこの種の半導体装置を収容した容器構成の概要を第1図に示してある。この第1図において,(1)は半導体装置を示し,(11)はこの半導体装置(1)に設けられた各端子である。また,(2)は半導体容器を示し,(211)は通常,セラミックからなる複数の絶縁体層,(212)はこの絶縁体面に選択的位置を占めて形成された導電体層,(213)はこの絶縁体層(211)のスルーホールを通して両面の導電体層(212)間を接続する接続部,(214)は各外部リード端子である」との甲3の1頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落の記載]及び第1図では,『ビルドアップ多層配線層』を形成することに関する言及や記載はなく,したがって,第1引用例記載の発明では第1の接続端子群が『該ビルドアップ多層配線層の最外層』に形成されることや,『第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され』ることについての言及がない点」(決定謄本5頁<相違点>)について,「第1引用例の上記ハ[注,「第2図および第3図において,前記第1図と同一符号は同一又は相当部分を示しており,この実施例では,従来と同様に一層からなる絶縁体層(211),導電体層(212),接続部(213)および外部リード端子(214)によるモジュール基板部分(21)と,この基板部分(21)上に形成された絶縁体層(221),導電体層(222)およびスルーホールを通した接続部(223)による多層配線部分(22)とによって半導体容器(2)を構成させ,半導体装置(1)は多層配線部分(22)上の導電体層(222)に接続配置したものである」との甲3の2頁左上欄最終段落〜右上欄第1段落の記載]における『多層配線部分(22)』に関する記載は,ベースとなる基板(『モジュール基板部分(21)』)に対して,本件発明(注,訂正発明1)における『ビルドアップ多層配線層』に対応するものを形成することを示唆したものといえる」(同5頁最終段落〜6頁第1段落)と認定した上,「第1引用例記載の発明(注,第1引用例発明)における,半導体容器基板の表面に,上記のような周知の技術事項に基づいた『ビルドアップ』による多層配線層を形成することは格別困難とはいえない」(同6頁第2段落)と判断したが,誤りである。
(2) 上記ハでいう第2図,第3図というのは,第1図の従来例の発明とは異なり,第1引用例発明に係る特許請求の範囲記載のように,「モジュール基板部とこの基板部分上により低温で形成され,かつ絶縁体層面に用途に合わせパターンの導電体層をもつ多層配線層部分」で構成されたものである。この記載から分かるように,形成温度が異なる以上,モジュール基板と多層配線層部分とは別々に作る必要がある。また,発明の効果から考えても,モジュール部分は共通で大量生産しておき,多層配線層を用途に合わせてモジュール基板上に作るのであるから,モジュール基板と多層配線層部分は別々に作らなければならない。一方,第1図の従来例の基板とは,「(211)は通常セラミックからなる複数の絶縁体層」と記載していることから,グリーンシートを一体成形して多層化したものであり,一体成形品といえるものである。すなわち,第1図のものには,訂正発明1及び上記第2図,第3図のような,ビルドアップ配線層を形成する方法を適用することはできないから,第2図,第3図及びその説明は,第1図の基板に適用できるという根拠にはならない。しかも,第2図のものは,「表面平滑度が良好」であることが望まれており,平滑であれば,はく離しやすいから,外周に向かって延びる外層導体回路は形成することができず,現に,第2図のものには,外周に向かって延びる外層導体が存在しない。第1引用例発明において,セラミック基板上にポリイミド絶縁層を形成した場合に,ポリイミド絶縁層に良好な表面平滑度が要求される理由は,セラミック基板は,樹脂に比して誘電率や誘電正接が大きく,そのセラミック基板に高周波信号を伝播させると伝播遅延が発生し,また,高周波信号は,導体の表面近傍だけに伝播して,導体内部には伝播しないことが知られている(表皮効果)ので,導体表面に凹凸が存在すると,セラミック基板で遅延した信号が更に遅延するという問題が生じてしまうためであると考えられる。第1図のものは,焼結して一体に製造するから外周に向かって延びる外層導体を形成できるのである。
(3) また,第1引用例(甲3)の第1図の基板は,セラミック,すなわち,高温焼成品であり,焼結品であるから,外層導体を焼き付け形成できるが,このような高温焼成品の基板に樹脂のビルドアップ法を適用すれば,絶縁層の樹脂が燃焼してしまうことになるから,上記第1図の基板に樹脂のビルドアップ法を適用することはできない。
4 取消事由4(訂正発明2の進歩性の判断の誤り) 決定は,訂正発明2について,「本件発明(注,訂正発明1)と同様に,上記第1〜第3引用例(注,甲3〜5)に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものといえる」(決定謄本7頁第2段落)と判断したが,上記のとおり,決定の訂正発明1についての進歩性の判断は誤りであるから,これを前提とする訂正発明2についての進歩性の判断も誤りである。
被告の反論
決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(第1引用例発明の認定の誤り)について (1) 第1引用例(甲3)の第1図においては,中央部の端子(11)よりも外側に位置する両端の端子(11)が直接接する導電体層(212)は,基板である半導体容器(2)の外周に向かって延びていることから,同図には,「中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されて」(決定謄本5頁<一致点>)いることが明確に示され,また,同図において,基板上部に配置された半導体素子(1)の端子(11)の端子間間隔と,基板下方に設けられた外部リード端子(214)の端子間間隔とを比較すると,明らかに後者の端子間間隔の方が大きくなっていることからも,半導体素子(1)の端子(11)のうち,外側に位置する端子が,基板外周に向かって延びる外層導体層に接続されていると読み取ることができる。また,第1引用例には,「第2図および第3図において,前記第1図と同一符号は同一または相当部分を示しており,この実施例では,従来と同様に・・・半導体容器(2)を構成させ,半導体装置(1)は多層配線部分(22)上の導電体層(222)に接続配置したものである」(2頁左上欄最終段落〜右上欄第1段落)と記載されるとともに,第1図においても,第2図及び第3図と同一の符号「(1)」により半導体装置が示されているところから,半導体装置自体の態様は,第1図に示されているものと第2図及び第3図に示されているものとの間で基本的に相違していないとみるべきである。そして,半導体装置の接続端子(電極)群は,通常は「密集した状態」で設けられるから,当該「半導体装置の接続端子群」と対応関係にある半導体容器(2)側の接続端子群も,同様に「密集した状態」となることは明らかである。
(2) 第1引用例(甲3)の第1図において,図中の最も左に位置する外部リード端子(214)は,リード端子接続面への半導体装置(1)の投影面の外部である外周部に位置していること,及び基板上部の半導体素子(1)の端子(11)の端子間間隔と,基板下部の外部リード端子(214)の端子間間隔とを比較すると,明らかに後者の端子間間隔の方が大きくなっていることから,第1引用例の第1図においても,スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成されている構成の開示があることは明らかである。
ビルドアップ樹脂絶縁層について,決定は,第1引用例の第1図の記載のみから,ビルドアップ樹脂絶縁層に関する上記構成を読み取れるとしているわけではない。
原告は,上記第1図の最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されており,ピンの一つの位置が,たまたま半導体装置(1)の直下から外れているからといって,直ちに,接続端子群が外周にあることにはならないとも主張するが,基板下部の外部リード端子(214)の端子間間隔が,基板上部の半導体素子(1)の端子(11)の端子間間隔よりも明らかに大きくなっている以上,接続端子群の少なくとも一部は,基板外周部に存在することが明らかである。
(3) 原告は,第1引用例発明に第2引用例及び第3引用例に開示されたビルドアップ多層配線層の形成手法を適用すると,セラミック基板を含んだ半導体容器の基板と樹脂絶縁層とを同時に高温焼成する結果,樹脂絶縁層は焼失してしまうことになり,上記適用には阻害要因がある旨を主張する。しかしながら,セラミック基板に樹脂絶縁層を設ける場合は,セラミック部分はあらかじめ焼成しておけばよいのであるから,セラミック基板を使用することが樹脂絶縁層適用の阻害要因となることはない。
2 取消事由2(訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,第1引用例(甲3)の第1図は,セラミック基板しか開示しておらず,ベース基板は存在しないと主張するが,セラミック基板の表面に多層配線層を形成する場合,当該セラミック基板がべース基板となることは明らかである。原告は,第1引用例の基板は,セラミックから成るもので,訂正発明1のような樹脂製のべース基板とは明らかに区別されるものであり,セラミック基板では訂正発明1のような粗化の必要性は全くないとも主張するが,訂正発明1のベース基板が樹脂製であることは特許請求の範囲に記載がなく,第1引用例の基板は,セラミックから成るものであるとしても,その表面に形成される多層配線層が樹脂製であれば,樹脂表面の粗化が必要となり得るから,上記主張は根拠がない。半導体容器を構成する基板の素材としては,セラミック系材料と樹脂系材料のいずれを用いることも慣用されており,誘電率や加工条件等の差異を考慮して,一方を他方に変更することは,通常の設計変更ということができ,第1引用例のモジュール基板21は,ビルドアップのための基台となる基板以上の格別のものを想定しているわけではないから,当該基板の素材として樹脂系の材料を採用することは,困難なことではない。
また,原告は,第1引用発明のものは,小型化しなければならないという課題が生じないし,外周への配線引きまわしの必要もないと主張する。しかしながら,装置小型化という技術課題は,あらゆる技術分野において普遍的なものというばかりでなく,半導体容器のような電子部品等では,その材質等にかかわらず,小型化や薄型化の要請が特に強いものであることが,よく知られている。また,第1引用例の第1図に,少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成されている構成の開示があることは,上記1(2)のとおりである。
3 取消事由3(訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 第1引用例(甲3)の第2図及び第3図において,半導体容器(2)を構成している一方のモジュール基板部分(21)は,従来例と同様の手段で形成されること,すなわち,第1図に示されているようなセラミックを基体とするものに,ポリイミド等の絶縁体層(221)を含む多層配線部分(22)が設けられることがに明記されているから,訂正発明1及び上記第2図,第3図のようなビルドアップ配線層を形成することができる。
原告は,第1引用例に,多層配線部分の絶縁体層(221)の材料として,表面平滑度が良好なポリイミドが挙げられていることをもって,表面が粗化された樹脂絶縁層の表面に外層導体層が形成された基板を想到することはできない旨の主張をするが,ポリイミドは,単に有機物の一例として挙げられているにすぎないから,他の樹脂を用いてもよいことは明らかであり,仮に,ポリイミドに限定するとしても,表面が平滑であるからこそ,導体等に対する接着性を改善するために,表面粗化の必要があるともいえるのであって,事実,そのような目的のために,ポリイミド絶縁層の表面を粗化することは当該技術分野において周知の技術である。
(2) 原告は,引用発明1のセラミック基板に樹脂のビルドアップ法を適用すれば,樹脂が燃焼する旨主張するが,理由がないことは上記1(3)のとおりである。
4 取消事由4(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について 上記のとおり,決定の訂正発明1についての進歩性の判断に誤りはないから,その誤りを前提とする取消事由4は,理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第1引用例発明の認定の誤り)について (1) 原告は,第1引用例(甲3)の第3図は,第2図の拡大図であって,第1図とは無関係であり,第3図に示されているものが密集しているからといって,第1図の端子(11)も密集していることにはならず,また,第1図は,外周部分が省略された図面であり,「少なくとも外周部」に接続端子が形成されているかどうかが全く不明である上,第1図に開示されている3本のピンのうち裏面側の2本が,半導体装置(1)の直下にあり,外周に存在しているものとはいえないから,第1引用例について,「第1引用例の第1図に示されている,半導体容器(2)の絶縁体層の表面(上面)には,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群が形成されているとみるべきであって,その形成の態様は,第3図に示されている配置状態からみて,『密集した状態』といえるし,同様に,半導体容器(2)の絶縁体層の裏面(下面)側の『少なくとも外周部』に,上記イでいう『各外部リード端子』(214)を接続するための『接続端子群』が形成されている」(決定謄本4頁「ヘ」の項)とした決定の認定は誤りであると主張する。
第1引用例(甲3)には,第1図に示される「従来例による半導体容器」,及び第2図とその拡大斜視図である第3図に示される「この発明に係わる半導体容器」に関して,「従来のこの種の半導体装置を収容した容器構成の概要を第1図に示してある。この第1図において,(1)は半導体装置を示し,(11)はこの半導体装置(1)に設けられた各端子である」(1頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落),「第2図および第3図において,前記第1図と同一符号は同一または相当部分を示しており」(2頁左上欄第4段落)との記載があり,これらの記載によれば,第1引用例の第1図ないし第3図においては,いずれも同一符号が同一又は相当部分を示すのであるから,第1図の半導体装置(1)と第3図の半導体装置(1)は同一又は相当な装置であるということができ,これらが異なる構成の装置であると理解すべき理由はない。そして,半導体容器(2)上面の端子は,半導体装置(1)の端子(11)に対応して設けられるものであり,半導体装置の接続端子(電極)群は,通常は「密集した状態」で設けられるものであるところ,第3図に示されている配置状態からみて,「密集した状態」ということができる。また,第1図の半導体装置1の下面側に設けられる,外部リード端子を接続するための接続端子群の配置については,第1引用例には明確な記載はないが,第1引用例の半導体容器(2)は,半導体装置(1)の端子の密集して配置された状態を緩和して,外部リードに引き出すものであることは,図面の記載及び技術常識に照らして明らかである。また,第1図及び第2図には,半導体容器(2)の下面に外部リードが均等に配置されていることが図示されているから,第1引用例発明の半導体容器の下面側に配置される接続端子群は,下面一面に均等に配置されているものと認められる。したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(2) 原告は,第1引用例(甲3)の第1図からは,ビルドアップ樹脂絶縁層の外表面に形成されている外層導体層に接続するという構成を読み取ることができず,また,同図の最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されており,ピンの一つの位置が,たまたま半導体装置(1)の直下から外れているからといって,直ちに,接続端子群が外周にあることにはならないから,「同じく第1図では,半導体装置(1)の各端子(11)と対応関係にある接続端子群のうちの,中央部に位置する接続端子は実質上スルーホールを介して内層の導体層と接続され,外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」(決定謄本4頁「ト」の項)とした決定の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,決定が,同図に示される半導体容器にビルドアップ樹脂絶縁層が存在すると認定したものではないことは,その説示に照らして明らかであるから,ビルドアップ樹脂絶縁層に関する原告の主張は理由がない。また,第1引用例の第1図には,半導体装置(1)の端子(11)のうち,左外側にある端子は,半導体容器(2)の上面に設けられる導電体層(212)のうち,左側に延びる導電体層に接続され,右外側にある端子は,同じく導電体層(212)のうちの右側に延びる導電体層に接続されることが示されている。さらに,第1図の最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって右側に延びる導電体層に接続された後,左側に延びる導電体層に接続されているが,同図は断面図であり,その図示自体から,上記左側に延びる導電体層が内側に延びているということはできず,同図の上記図示から,原告主張のように,最も右側に位置する接続端子は,外周導体によって外側へ引き出された後,再び内側に戻されていることを読み取ることはできない。したがって,「外側に位置する接続端子は外周に向かって延びる外層導体層に接続されることが示されている」とした上記決定の認定に原告主張の誤りはない。
(3) さらに,原告は,第1引用例(甲3)の第1図記載の半導体容器の基板は,セラミック基板であることを必須の要件としているから,そのセラミック基板を含んだ半導体容器の基板と樹脂絶縁層とを同時に高温焼成することになるが,その結果として,当然,樹脂絶縁層は焼失してしまうため,厚い樹脂絶縁層を採用した場合に層数を少なくすることができ,小型化を実現できるとともに,外層導体層のはく離を防止することができるという訂正発明1の効果を得ることはできないから,第2引用例(甲4)及び第3引用例(甲5)に開示されたビルドアップ多層配線層の形成手法に適用する阻害要因を有すると主張する。しかしながら,第1引用例の第2図及び第3図に,「従来例と同様の手段でセラミックを基体とする絶縁体層(211)に導電体層(212)および接続部(213)を配し」(2頁右上欄第2段落)たモジュール基板部分に多層配線部分を形成した半導体容器が図示されていることから示唆されるように,あらかじめ焼成したセラミック基板を用いれば,樹脂絶縁層を焼成する必要はないから,原告の上記主張が理由のないことは明らかである。
(4) 以上のとおりであるから,第1引用例発明の認定の誤りをいう原告の取消事由1の主張は,理由がない。
2 取消事由2(訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,訂正発明1のベース基板は,層間絶縁層をビルドアップするための樹脂製の土台であるからこそ「ベース基板」なのであるが,第1引用例(甲3)の第1図に示されているものは,導体層を印刷した複数枚のセラミック製グリーンシートを積層して一体に成形し,これを1600℃から1900℃という高温で焼成したものであるから,ビルドアップ配線層を形成するためのベース基板が存在しているということはできないと主張する。
そこで,訂正発明1の「ビルドアップ多層配線層」と「ベース基板」について検討すると,訂正発明1に係る特許請求の範囲の【請求項1】は,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板において(注,以下,上記部分を「第1段落」という。),前記ベース基板の第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり,前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成されるとともに,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子は,バイアホールを介して前記ビルドアップ多層配線層の内層導体層と電気的に接続され,前記第1の接続端子群の中央部に位置する接続端子よりも外側に位置する接続端子は,基板外周部に向かって延びる外層導体層に接続されてなることを特徴とする電子回路部品搭載用基板(注,以下,上記部分を「第2段落」という。)と記載されている。これによれば,「スルーホールを有するベース基板」は,第1段落では,「一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる」と特定されるのに対し,第2段落では,「第1の接続端子群が形成される側には,内層導体層と粗化面が形成された樹脂からなる絶縁層とが交互に積層され,内層導体層同士がバイアホールにて電気的に接続され,また内層導体層がスルーホールと電気的に接続されたビルドアップ多層配線層が形成されてなり」,「前記第1の接続端子群は,該ビルドアップ多層配線層の最外層に形成される」と特定されるものである。
決定は,訂正発明1と第1引用例発明とを対比して,「スルーホールを有するベース基板の一方の面の所定箇所に第1の接続端子群が密集した状態で形成され,その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され,第1の接続端子群と第2の接続端子群とがスルーホールを介して電気的に接続されてなる電子回路部品搭載用基板」(決定謄本5頁<一致点>)である点で一致するとしたものであるから,上記第1段落の特定事項を一致点として認定したことは明らかである。他方,原告主張に係る,訂正発明の「ベース基板」が,ビルドアップ多層配線層を形成するために必要なものであって,第1引用例の第1図に記載のものが,訂正発明1のような,上にビルドアップ多層配線層を設けたものとは異なるとの点は,上記第2段落の特定事項に基づくものであるところ,決定は,この点を相違点として認定しているのであるから,原告の上記主張は,決定を正解しないものというほかなく,採用の限りではない。
(2) 原告は,第1引用例(甲3)の第1図に示されているものは,セラミック製グリーンシートを積層して一体に成形し,焼成したものであるから,ビルドアップ配線層を形成するためのベース基板が存在しているということはできず,訂正発明1のような樹脂製のベース基板上にビルドアップ配線層を形成したものとは明らかに区別されるものであると主張するので,第1引用例発明の半導体容器の基体(絶縁体層と導電体層からなる構成)が,その上に多層配線層を形成可能なベース基板になり得るものであるかについて検討する。
第1引用例(甲3)には,決定が第1引用例発明として認定した第1図に図示される半導体容器の改良として,第2図及び第3図に示される半導体容器が記載され,これは,「この実施例では,従来と同様に一層からなる絶縁体層(211),導電体層(212),接続部(213)および外部リード端子(214)によるモジュール基板部分(21)と,この基板部分(21)上に形成された絶縁体層(221),導電体層(222)およびスルーホールを通した接続部(223)による多層配線部分(22)とによって半導体容器(2)を構成させ」(2頁左上欄最終段落),「モジュール基板部分(21)は,特に用途に限定されることなしに,従来例と同様の手段でセラミックを基体とする絶縁体層(211)に導電体層(212)および接続部(213)を配し」(同頁右上欄第2段落),「この多層配線部分(22)の絶縁体層(221)は,表面平滑度が良好でしかも低温形成可能なポリイミドなどの有機物でも,あるいは比較的高温ではあるが後につづく熱処理に安定な低融点ガラスなどの無機物でもよく」(同),「モジュール基板部分(21)について,絶縁体層(211)が一層の場合を述べたが,従来例でのように絶縁体層(211),導電体層(212)を多層構造としてもよい」(2頁左下欄第2段落)というものである。これによれば,従来例である第1引用例発明と同様の手段で形成されたセラミックを基体とするモジュール基板部分の上に樹脂絶縁層を有する多層配線部分を形成した半導体容器が開示されており,これは,その上に多層配線層を形成可能なベース基板になり得るものであることが明らかである。
また,訂正発明1のベース基板が樹脂製であることは,訂正発明1に係る特許請求の範囲【請求項1】に記載がなく,ビルドアップ配線層を形成する点については,上記(1)のとおりであり,これらの点に係る原告の主張も理由がない。
(3) 原告は,第1引用例は,第1の接続端子群が密集した状態で形成されているものではなく,中央部しか図示していない第1図において,「その反対側の面の少なくとも外周部に第2の接続端子群が形成され」ているということはできないと主張するが,第1引用例発明の認定ヘ,トに誤りがないことは,上記1(1),(2)のとおりである。また,原告は,第1引用例の第1図のものは,これを薄くすべき課題がないのであるから,配線の引き回しのためのビルドアップ層を増やす必要もないとも主張するが,装置小型化という技術課題は,あらゆる技術分野において普遍的なものというばかりでなく,半導体容器のような電子部品等では,その材質等にかかわらず,小型化や薄型化の要請が特に強いものであることが,よく知られているというべきである。
(4) 以上のとおりであるから,訂正発明1と第1引用例発明との一致点の認定の誤りをいう原告の取消事由2の主張は,理由がない。
3 取消事由3(訂正発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,第1引用例(甲3)の第2図及び第3図において,モジュール基板と多層配線層部分は別々に作らなければならず,第1引用例発明である第1図の従来例とは異なるから,ビルドアップ配線層を形成する方法を適用することはできないと主張する。
しかしながら,第1引用例(甲3)には, 「前記半導体容器(2)を構成している一方のモジュール基板部分(21)は,特に用途に限定されることなしに,従来例と同様の手段でセラミックを基体とする絶縁体層(211)に導電体層(212)および接続部(213)を配し,かつ外部リード端子(214)を引き出して形成され,例えば数種類の用途に亘って共通なパターンを有するようにして,通常の印刷法などで形成される」(2頁右上欄第2段落),「この多層配線部分(22)の絶縁体層(221)は,表面平滑度が良好でしかも低温形成可能なポリイミドなどの有機物でも,あるいは比較的高温ではあるが後につづく熱処理に安定な低融点ガラスなどの無機物でもよく」(同),「モジュール基板部分(21)について,絶縁体層(211)が一層の場合を述べたが,従来例でのように絶縁体層(211),導電体層(212)を多層構造としてもよいことは勿論である」(同頁左下欄第2段落)と記載されている。第1引用例の第2図及び第3図に図示される半導体容器は,第1図の半導体容器を改良するために発明されたものであるから,第1図の半導体容器,すなわち,第1引用例発明の絶縁体層上に,樹脂絶縁層と内部導体層から成る多層配線層を形成したり,あるいは,絶縁体層自体を,ベース基板上に樹脂絶縁層と内部導体層を交互に積層した多層配線層を有する基体に置き換えることが示唆されているというべきである。そして,粗化面が形成された樹脂から成る絶縁層を積層するビルドアップによる多層配線層の形成手法は,周知の技術事項であることを考慮すれば,第1図のものが,グリーンシートを一体成形したものであるとしても,ビルドアップ配線層を形成する方法を適用することに何ら阻害要因はない。
(2) 原告は,第1引用例(甲3)の第2図のものは,「表面平滑度が良好」であることが望まれており,平滑であれば,はく離しやすいから,外周に向かって延びる外層導体回路は形成することができないと主張するが,基板表面の粗化は,周知の技術であり,これを適用すればよいのであるから,理由がない。
(3) また,原告は,第1引用例(甲3)の第1図の基板に樹脂のビルドアップ法を適用すれば,絶縁層の樹脂が燃焼してしまうことになるとも主張するが,理由がないことは上記1(3)のとおりである。
(4) 以上のとおりであるから,相違点についての決定の判断に,原告主張の誤りがあるということはできない。
4 取消事由4(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について 上記のとおり,決定の訂正発明1についての進歩性の判断に誤りはないから,その誤りを前提とする取消事由4は,理由がない。
5 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,訂正発明1,2の進歩性を否定した決定の判断に誤りはなく,他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴