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事件 平成 27年 (行ケ) 10205号 審決取消請求事件

原告X
訴訟代理人弁護士 三木浩太郎
訴訟代理人弁理士 松波祥文
被告 株式会社ビートソニック
訴訟代理人弁理士 三宅始
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/04/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2014-800193号事件について平成27年8月24日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。) 被告は,平成20年5月26日,発明の名称を「車両用ルーフアンテナ」とする特許出願(特願2008-136177号)をし,平成23年8月12日,設定の登録(特許第4798721号)を受けた(以下,この特許を「本件特許」という。。
) 原告は,平成26年11月21日,特許庁に対し,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2014-800193号事 件として審理をした結果,平成27年8月24日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年9月3日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲(請求項の数は3。)の請求項1ないし3の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1ないし3に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。甲12)。
「【請求項1】 内部にコイルアンテナを配設した合成樹脂製のカバーを,車両のルーフパネルに装着するようにした車両用ルーフアンテナにおいて, 前記カバーの底面開口の周縁部に形成した接合面を,両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けて該カバーを前記ルーフパネルに装着するとともに, 保持筒を前記カバーの天井部から下向きに突設し,前記コイルアンテナの下端部が,前記底面開口より上部に位置するように前記保持筒で前記コイルアンテナを保持したことを特徴とする車両用ルーフアンテナ。
【請求項2】 前記コイルアンテナの下端に接続するブースターアンプ又はアンテナケーブルを係止する係止突部を,前記底面開口より上部に位置するように前記カバーの内側壁部に一体成形したことを特徴とする請求項1に記載の車両用ルーフアンテナ。
【請求項3】 前記カバーは,車両の前方部及び天井部に向かって先細りに形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用ルーフアンテナ。」 3 審決の理由の要旨 (1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。その要旨は,@本件発明1は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である特開2006-310954号公報(甲1。以下「甲1文献」という。 に記載された発明 ) (以下「甲1発明」という。) 並びに後記(2)の甲2ないし6,8ないし10の各文献等に記載された先行技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない,A本件発明2及び3は,甲1発明並びに後記(2)の甲2ないし10の各文献等に記載された先行技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたとはいえない,Bしたがって,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものではなく,同法123条1項2号に該当しないから,本件特許を無効とすることはできない,というものである。
(2) 上記各文献について ア 甲2:特表2008-515304号公報 イ 甲3:特開平7-240616号公報(以下「甲3文献」という。) ウ 甲4:特開2000-269714号公報(以下「甲4文献」という。) エ 甲5:実願平4-64311号(実開平6-23312号)のCD-ROM(以下「甲5文献」という。) オ 甲6:特開2001-237626号公報(以下「甲6文献」という。) カ 甲7:特開平10-276021号公報 キ 甲8:電子技術情報による2007年10月7日の公知技術情報(URL:http://minkara.carview.co.jp/userid/318926/car/224432/1031547/parts.aspx)(以下「甲8文献」という。) ク 甲9:特許審決公報無効2011-800054 ケ 甲10 次のアドレスをプリントアウトした電子的技術情報 : (URL http:// :minkara.carview.co.jp/userid/318926/car/224432/1031547/parts.aspx) (3) 審決が認定した甲1発明の内容,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
ア 甲1発明 「自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置であって,該魚鰭式アンテナ装置は自動車ラジオの無線電波受信回路の前に使用されて,ラジオの無線周波数信号を受信す るのに用いられ,自動車のルーフトップに螺子止めされる,該魚鰭式アンテナ装置は, 内部に内部空間が形成された魚鰭状カバーと, 該魚鰭状カバーの底面の開口の周縁部が結合されて自動車のルーフトップに螺子止めされる金属ベースと, 該魚鰭状カバーの突出する内部空間中の上部に設置される磁心捲線式コイルのAMアンテナと, 該金属ベースの上方に配設されて該AMアンテナに接続されたAM信号増幅回路,FM共振アンテナ回路,及びFM信号増幅回路が配設された信号増幅回路板と, を具え,該FM共振アンテナ回路は複数のインダクタとFM信号増幅回路でFM共振回路を形成し,該金属ベースにより該FM共振アンテナ回路の無線周波数帯の信号受信能力が強化されたことを特徴とする,自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置。」 イ 本件発明1との一致点 「内部にコイルアンテナを配設したカバーを,車両のルーフパネルに取り付けるようにした車両用ルーフアンテナにおいて, 前記カバーの底面開口の周縁部に形成した面を用いて,該カバーを前記ルーフパネルに取り付けるとともに, 前記コイルアンテナの下端部が,前記底面開口より上部に位置するように前記コイルアンテナが保持されている,車両用ルーフアンテナ。」 ウ 本件発明1との相違点 (ア) 相違点1 上記カバーが,本件発明1では,合成樹脂製であるのに対して,甲1発明では,材質について明記されていない点。
(イ) 相違点2 前記カバーの底面開口の周縁部に形成した面を用いたカバーのルーフパネルへの 取り付けについて,本件発明1では, 前記カバーの底面開口の周縁部に形成した面が接合面であり,接合面の両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けられるのに対して,甲1発明では,魚鰭状カバーの底面の開口の周縁に金属ベースを結合し,この金属ベースが自動車のルーフトップに螺子止めされる点。
(ウ) 相違点3 コイルアンテナの保持が,本件発明1では,保持筒を前記カバーの天井部から下向きに突設し,前記保持筒で前記コイルアンテナを保持するのに対して,甲1発明では,魚鰭状カバーの突出する内部空間中の上部に設置されるものの,どのように保持されるか明らかではない点。
原告主張の取消事由
以下のとおり,審決の判断には誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り) (1)ア 甲1発明の認定の誤り 審決は,甲1発明について,要するに,「魚鰭状カバー」は,「金属ベース」を受け皿としてその上に載置されるものであるから,魚鰭状カバーの底面開口部の周縁 「部」は「金属ベース」にのみ接合して自動車のルーフトップには接合されないものであり,専ら該「金属ベース」が自動車のルーフトップに接合されるものであると認定したものと理解できる。
しかし,甲1文献の記載(請求項1,段落【0013】)によれば,「魚鰭状カバー」と「金属ベース」がどのように「結合」されるかについては何ら特定されていない。また,甲1文献の【図2】には, 「魚鰭状カバー」と「信号増幅回路板」と「金属ベース」が図示されているが,同図からは, 「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部外周が「金属ベース」の外周より小さく「金属ベース」の上に載置されるのか,または「魚鰭カバー」の底面開口の周縁部内周が「金属ベース」の外周より大きく「金属ベース」を覆い尽くしてこれを内包するのか,一義的に明らかではない。
そもそも,甲1発明は,自動車のルーフトップに設置される自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置であり,その内部にアンテナや信号増幅回路等を内蔵するものであるから,該アンテナ装置の内部に雨水や洗浄水が浸入することを防止する必要があり,そのためには,「魚鰭状カバー」の底面外周を「金属ベース」の外周より小さくして「金属ベース」を受け皿としてその上に載置するよりも, 「魚鰭カバー」の底面内周が「金属ベース」の外周より大きく「金属ベース」を覆い尽くしてこれを内包する方が遙かに防水対策として有効であることは当業者において自明である。
また,審決が認定したとおり, 「魚鰭状カバー」が「金属ベース」を受け皿としてその上に載置され,該「金属ベース」の底面がルーフパネルに直接接合されると仮定した場合,該「金属ベース」とルーフトップを含む自動車の車体全部がインピーダンス(抵抗)となり,無線電波受信回路に過大な負荷を生じさせることになるから,「本実施例の抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる」(甲1文献の段落【0013】)などいうことはあり得ない。すなわち,甲1発明は,「FM共振アンテナ回路」が「金属ベース」により無線周波数帯の信号受信が強化されたものであるところ(甲1文献の【請求項1】),該「FM共振アンテナ回路」は該「金属ベース」によって整合を取っている(入力抵抗と出力抵抗を等価にする)ものであるから,該金属ベースをルーフトップと密着した場合にはその整合が取れなくなり,アンテナ利得や指向特性が大きく変化し,逆に信号受信感度が低下することは明らかである。
したがって,甲1発明においては,該「金属ベース」を車両のルーフトップに密着させることは甲1発明の作用効果を阻害するものであるから,このような態様は想定されておらず,一定の距離を保って配置されるものと解すべきである。
以上によれば,甲1発明においては,「金属ベース」は「魚鰭カバー」の内部の中空に設置されているものと理解するのが正しい。甲1発明は, 「魚鰭カバー」の底面開口の周縁部内周が「金属ベース」の外周より大きく「金属ベース」を覆い尽くしてこれを内包するものであり,したがって, 「魚鰭カバー」の底面開口の周縁部と 「金属ベース」の双方が自動車のルーフトップに接合されると理解すべきである。
そして,その場合,甲1発明の作用効果を奏するために,また「本実施例の抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる」ためには,「魚鰭カバー」に内包された「金属ベース」の底面はルーフトップに直接接合されず, 「魚鰭カバー」内部の中空位置に設置されているものと解すべきである。
イ 相違点2の認定,判断の誤り 甲1発明を上記のとおりに理解すれば,本件発明1と甲1発明は,いずれもカバーの底面開口の周縁部に形成した面が接合面である点において一致し,本件発明1では接合面の両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けられるのに対して,甲1発明では(カバー内部の中空位置に設置された)金属ベースにより車両のルーフトップに螺子止めされる点において相違するものである。
この場合,車両のルーフトップへの接合手段として,甲1発明における金属ベースを用いた螺子止め手段を,本件発明1におけるカバー底面開口周縁部の両面粘着テープを用いる手段に置き換える場合に金属ベースを取り外すことに何ら阻害要因はないから,当業者において甲1発明から本件発明1を着想することは容易であるといえる。
また,甲1発明における「FM共振アンテナ回路」と「金属ベース」による信号強化手段を,本件発明における「ブースターアンプ」によって信号増幅手段に置き換えることもまた当業者であれば容易に想到し得るものである。
(2) 相違点3の判断の誤り 審決は,甲1発明の構成からみても,甲1発明と周知技術及び甲6文献に記載された発明(以下「甲6発明」という。)との間におけるアンテナの利用分野の違いからみても,動機づけがあるとは認められず,甲1発明において相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項ということはできない,また,コイルの巻き数や断面積でAMアンテナの長さを調整できるとしても,そのことと甲1発明において相違点3に係る構成とする動機づけの有無との間に,因果関係がある とは認められない,と判断した。
しかし,甲6発明のアンテナは, 「その軸線方向が車両の床面に対して直角になるように配置することで,アンテナの数や送信出力を増やすことなく,通信可能範囲(特に起動信号の送受信可能範囲)を格段に広い適正なもの(全体としてもれの少ないもの)とする」ものであり,アンテナの数や送信出力を増やすことなく機能を向上させるのであるから,まさにアンテナ自身の送受信感度を高めるものである。
一方,本件発明1では,審判において,被告(被請求人)は「保持筒を下向きに突設することで,カバーをルーフパネルに設置したときコイルアンテナがルーフパネルから立ち上がるようにすることで,受信感度を高めています。」としている。
したがって,利用分野が異なるにしても,共通の課題である「コイルアンテナの受信感度を向上する」ために,甲1発明に甲6発明を適用しようとする動機は十分に存在し,前記の審決の判断は誤りである。そして,甲6発明を適用するに当たって,コイルアンテナを固定するために,コイルアンテナを筒状の保持筒で保持するとの周知技術を適用することは,当業者が容易に想到し得た事項であり,この点の審決の判断は誤りである。
また,上記の動機に基づき,垂直方向にコイルアンテナをカバーの内部に固定するのに際して,固定するための空間の大きさを考慮し,空間内に収めるために,コイルの巻き数や断面積でAMアンテナの長さを調整することは,単なる設計事項であり,構造上の問題点とはならない。アンテナとカバーとの寸法上の調整が,単なる設計事項で行えるため,アンテナの感度を向上させるために,垂直方向にコイルアンテナをカバーの内部に固定してみようとする,すなわち,カバーの寸法に制限があっても,寸法を調整して納めてみようとする動機付けが生ずるものであり,動機付けとの因果関係が存在するものである。
したがって,コイルの巻き数や断面積でAMアンテナの長さを調整できるとしても,そのことと甲1発明において相違点3に係る構成とする動機付けの有無との間に,因果関係があるとは認められないとの審決の判断にも誤りがある。
(3) 以上によれば,審決の相違点2及び相違点3の判断には誤りがあるから,本件発明1は,甲1発明と先行技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないとした審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本件発明2,3に係る容易想到性の判断の誤り) 審決は, 「本件発明2,3は,本件発明1を含むものであり,無効理由1に関して述べたのと同様の理由により,甲1発明において,相違点2及び相違点3に係る構成とすることは当業者が容易になし得たものであるということはできない。と判断 」した。しかし,前記のとおり,審決の相違点2及び相違点3の判断には誤りがあるから,本件発明1に係る容易想到性の判断は誤りであり,この判断と同様の理由による本件発明2,3に係る容易想到性の判断にも誤りがある。
被告の主張
1 取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り)について (1)ア 甲1発明の認定 甲1文献の【請求項1】,段落【0013】及び【図2】の記載だけからでは, 「魚鰭状カバー」と「金属ベース」がどのように「結合」されるかについて特定することは困難である。しかし, 【図1】には「魚鰭状カバー21」の底面開口の外周部に沿うように「金属ベース25」の外周部が実線で図示されている。仮に, 「魚鰭状カバー21」の底面開口の周縁部内周が「金属ベース25」の外周より大きく「金属ベース25」を覆い尽くしてこれを内包するのであれば, 【図1】の斜視図において,「金属ベース25」が外観に現れることはない。【図1】の表示から,「魚鰭状カバー21」の底面開口の周縁部外周が「金属ベース25」の外周より小さく「金属ベース25」の上に載置されているのは,明白である。
原告は, 「本実施例の抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる」などということはあり得ないとし,その根拠として, 「金属ベース」の底面がルーフパネルに直接接合されると仮定した場合,該「金属ベース」とルーフパネルを含む自動車の車体全部がインピーダンス(抵抗)となり,無線電波受信回路に過大な負荷を生じさせ ることになることを挙げている。しかし, 「50オーム」の抵抗マッチング値がどのような測定方法によって得られた値なのか,甲1文献には明記されていない。
原告が主張するように,ルーフアンテナをルーフパネルに直接接合して測定する場合,車種によって車体の大きさもルーフパネルの形状も異なるので,ルーフアンテナを取り付ける車種によって測定値が異なると考えられる。ルーフアンテナを取り付ける車種が様々であることに鑑みれば,車種による測定値の違いが生じないように測定するため,ノイズの影響を受けない実験室にルーフアンテナ単体を置いて測定するのが普通である。そのようにして測定されたとすれば,ほぼ50オームという抵抗マッチング値はあり得ないものとはいえない。
以上のとおり,原告の甲1発明の認定についての主張は根拠を欠くものであり,審決の甲1発明の認定に誤りはない。
イ 相違点2の判断 甲1発明に甲8文献に記載された発明(以下「甲8発明」という。)を適用することには阻害要因がある。
甲1発明に甲8発明を適用することにより,金属ベースの開口部の周縁部に両面粘着テープを貼り付け,この両面粘着テープでカバーをルーフパネルに貼り付けた場合,ルーフパネルは緩やかであっても湾曲しているため,貼り付けた当初においては,金属パネルがルーフパネルの湾曲面に沿って湾曲していても,湾曲した金属パネルの元の形態に戻ろうとする復元力が両面粘着テープに継続して作用する。金属パネルの復元力は軟質プラスチックのそれとは異なり,強力であり,復元力以外の外力が作用しなくても,やがて金属パネル及びこれと一体のカバーが金属パネルの強い復元力でルーフパネルから剥がれ落ちてしまうであろうことは,当業者なら容易に予測できる。換言すれば,金属パネルに貼り付けた両面粘着テープでカバーをルーフパネルに装着した場合,耐久寿命上の欠点が伴うことは,当業者にとって自明のことである。
また,甲8文献にも,金属ベースをルーフパネルの曲面に沿う様な接合面を形成 することは全く記載されておらず,示唆されてもいない。
したがって,甲1発明に甲8発明を組み合わせることには阻害要因があり,甲1発明において相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得た事項ということはできないとの審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点3の判断 原告は,利用分野が異なるにしても,共通の課題である「コイルアンテナの受信感度を向上する」ために,甲1発明に甲6発明を適用しようとする動機は,十分に存在すると主張する。また,原告は,垂直方向にコイルアンテナをカバーの内部に固定するのに際して,固定するための空間の大きさを考慮し,空間内に収めるために,コイルの巻き数や断面積でAMアンテナの長さを調整することは,単なる設計事項であり,構造上の問題点とはならないと主張する。
しかし,甲1発明は「自動車用のAMアンテナ」に関するものであるのに対し,甲6発明は「車両のエントリーシステム及びエンジン始動システムの制御装置のアンテナ」に関するものであって,甲1発明と甲6発明は「コイルアンテナ」という構成要素を備える点で共通するだけで,全く利用分野が異なる。それだけでなく,甲6発明には「コイルアンテナの軸線を床面に垂直に設ける」ということは記載されているが,本件発明1のように「保持筒をカバーの天井部から下向きに突設し, ・・・保持筒でコイルアンテナを保持する」こと,すなわちコイルアンテナをカバーの天井部から下向きに突設することは,全く記載されておらず,示唆されてもいない。
よって,甲1発明に甲6発明を適用する動機付けは存在しない。
また,甲1発明ではアンテナ感度を高める方法としてコイルアンテナを長くし,長いコイルアンテナを信号増幅板と干渉しないようにカバー内に収めるため,コイルアンテナをカバーの天井部に沿って配置する構成を採用している。甲1発明は,上記構成を採用することによりアンテナ感度を高めるという課題を解決しているのであり,仮に甲1発明に甲6発明を適用することによってカバーの天井部からコイ ルアンテナを下向きに突設するように構成できたとしても,かかる構成を採用した場合,コイルアンテナと信号増幅板との干渉という新たな課題が生ずることになり,甲1発明に甲6発明を適用する上での阻害要因となる。
以上によれば,審決の相違点3の判断に誤りはない。
(3) 本件発明1は,甲1発明等の先行技術に基づいて容易に想到し得ないものであるから,本件発明1についての審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件発明2,3に係る容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2,3は,本件発明1を含むものであり,前記のとおり,本件発明1は甲1発明等の先行技術に基づいて容易に想到し得ないものであるから,本件発明2,3も容易に想到し得ないものであることは明らかである。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由は理由がなく,審決にはこれを取り消すべき違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件発明の要旨 本件明細書によれば,本件発明は,次のとおりである(図面については,別紙本件明細書図面目録参照)。
本件発明は,内部にアンテナを配設した合成樹脂製のカバーを,車両のルーフパネルに装着するようにした車両用ルーフアンテナに関するものである(【0001】。
) 従来の車両用ルーフアンテナは,カバー部材の内部に配設されるアンテナやアンテナモジュール等の電子部品に対する防水対策が施されており,カバー部材の底面開口をボトムプレートで塞ぐとともに,該ボトムプレートの周囲を覆うガスケットを配置してカバー部材の密閉性を確保するようにしているが,そのためには,多くの部品が必要であるとともに,部品加工の精度を高める必要があり高価となったり,カバー部材の内部と外部の温度差に基づく気圧変化が生じ,内部気圧が低くなると隙間から雨水や洗浄水が浸入する恐れがあった。そして,一旦内部に侵入した水分 が,その防水対策のため排水されないでカバー部材内に残ると,湿度が高まって電子部品が破壊されたり,半田付け部分に錆が発生したり,アンテナケーブルが腐食したりする等の問題点が生じていた(【0002】ないし【0004】。
) そこで,本件発明は,上記の問題点を解決するためになされたもので,防水対策の必要がなく構成が簡易で部品点数が少ない安価な車両用ルーフアンテナを提供することを目的とし(【0005】 ,内部にコイルアンテナを配設した合成樹脂製 )のカバーを,車両のルーフパネルに装着するようにした車両用ルーフアンテナにおいて,前記カバーの底面開口の周縁部に形成した接合面を,両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けて該カバーを前記ルーフパネルに装着するとともに,保持筒を前記カバーの天井部から下向きに突設し,前記コイルアンテナの下端部が,前記底面開口より上部に位置するように前記保持筒で前記コイルアンテナを保持するように構成したことで(請求項1),保持筒に保持されるコイルアンテナの底面開口より上部に位置する下端部が,カバーとルーフパネルとの隙間から浸入し,ルーフパネルに沿ってカバー内を流れる雨水等と接触することがないから,カバーの底面開口を開放したままで,ゴムシートやシール剤を用いてカバー内部を密閉する防水対策の必要がないという効果を奏するものである(【0009】。
) また,コイルアンテナの下端に接続するブースターアンプ又はアンテナケーブルを係止する係止突部を,底面開口より上部に位置するようにカバーの内側壁部に一体成形したことで(請求項2),コイルアンテナの下端部及びブースターアンプ又はアンテナケーブルが,雨水等と接触することがないから,上記と同様の防水対策の必要がなく(【0010】 ,さらに,カバーが,車両の前方部及び天井部に向か )って先細りに形成されていることで(請求項3),高速走行時の風切り音を低減することができるという効果を奏するものである(【0011】。
) 2 取消事由1(本件発明1に係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 甲1発明について ア 甲1文献には次の記載がある(図面については,甲1文献図面目録参照)。
「【特許請求の範囲】 【請求項1】 自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置であって,該魚鰭式アンテナ装置は自動車ラジオの無線電波受信回路の前に使用されて,ラジオの無線周波数信号を受信するのに用いられ,該魚鰭式アンテナ装置は, 内部に内部空間が形成された魚鰭状カバーと, 該魚鰭状カバーに結合されて自動車の車体に螺子止めされる金属ベースと, 該魚鰭状カバーの内部空間中に設置されるAMアンテナと, 該金属ベースの上方に配設されてAMアンテナに接続されたAM信号増幅回路,FM共振アンテナ回路,及びFM信号増幅回路が配設された信号増幅回路板と, を具え,該FM共振アンテナ回路は複数のインダクタとAM信号増幅回路でFM共振回路を形成し,該FM共振アンテナ回路が該金属ベースにより無線周波数帯の信号受信が強化されたことを特徴とする,自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置。」「【技術分野】【0001】 本発明は一種の自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置に係り,特に,自動車のAM/FMラジオに使用される魚鰭式アンテナ装置であって,自動車のルーフトップに設置され,ラジオの無線電波周波数信号の受信能力を増強するアンテナ装置に関する。」「【背景技術】【0002】 無線電波技術の進歩により,多くの製品はワイヤレス化され,無線電波技術中,最も困難であるのはアンテナ設計であり,アンテナと無線電波の周波数,方向及び電波強度は関係があり,一般にアンテナの設計はいずれも無線電波により1/4λを計算して一定長さの金属製長棒形態とされ,相当に空間を占有し,またこれにより自動車のラジオのAM/FMアンテナは長棒状伸縮型に設計され,且つAM及び FMで一つのアンテナを共用し,起動時に伸出させ,切断時に縮入させる。しかし長く使用すると故障が発生して伸縮不能となりやすく,相当に不便である。
【0003】 ゆえに業者は螺旋状アンテナを開発し,それは長棒金属を螺旋状に曲げてなるが,螺旋状アンテナの無線電波受信能力は理想的でなく,これによりいわゆるガラスアンテナの設計が提供され,それは軟性導電材料を自動車のガラスに貼り付けてなり,このようなガラスアンテナはAMとFMの共用のアンテナ設計とされる。しかし,その材質は相当に高価である。また,プリント回路板上にレイアウトされた特殊曲げ度の平面アンテナが提供され,このような平面アンテナの非常に大きな欠点は,金属面を有する物質を接近させられないことであり,なぜなら金属が無線電波を吸収するためであるが,自動車のボデーは金属製であるため,平面アンテナは信号を受信できない。」「【発明が解決しようとする課題】【0004】 本発明は上述の自動車用ラジオの無線電波アンテナの有する不便と欠点を解決するため,一種の自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置を提供するものであり,それは,自動車のルーフトップに取り付け可能で,ルーフトップに新規な美観を与えるのみならず,ラジオの無線電波周波数信号受信能力を高められるものとする。
【0005】 本発明の自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置は無線電波受信回路の前に接続されて少なくとも一つの無線電波周波数帯の信号を受信し,該アンテナ装置は,魚鰭状カバー,AMアンテナ,信号増幅回路板,該信号増幅回路板に設けられたFM共振アンテナ回路,及び金属ベースを具え,そのうちAMアンテナとFM共振アンテナ回路が分離設計であり,FM共振アンテナ回路が複数のインダクタで共振回路を形成し,並びに該金属ベースに接続され,該金属ベースによりFM共振アンテナ回路の信号受信能力が強化され,自動車用ラジオの無線電波周波数帯上,最良の信 号受信能力を達成する。」「【発明の効果】【0007】 本発明は上述の自動車用ラジオの無線電波アンテナの有する不便と欠点を解決する自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置を提供し,それは,自動車のルーフトップに取り付け可能で,ルーフトップに新規な美観を与えるのみならず,ラジオの無線電波周波数信号受信能力を高められる。」「【発明を実施するための最良の形態】【0008】 図1は本発明の自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置の実施例の外観立体図である。図2は図1の立体分解図である。本発明の魚鰭式アンテナ装置20は自動車ラジオの無線電波受信回路の前に使用されて,ラジオの無線周波数信号を受信するのに用いられる。図1のように,魚鰭式アンテナ装置20の造形は魚鰭に酷似し,車体上に取り付け可能で,車体を美化し,また自動車のラジオの信号受信を強化し,伝統的な伸縮式アンテナ或いはガラスアンテナに代わって用いられる。
【0009】 図2に示されるように,本発明の魚鰭式アンテナ装置20は魚鰭状カバー21,磁心捲線式コイルのAMアンテナ22,信号増幅回路板23,信号増幅回路板23上に位置するFM共振アンテナ回路24,及び金属ベース25が組み合わされてなる。
【0010】 図1に図3及び図4を併せて参照されたい。図3は本発明の回路ブロック図,図4は本発明の実施例電気回路図である。図3に示されるように,本発明の魚鰭式アンテナ装置20は無線電波受信回路51のアンテナ信号入力端に接続され,該AMアンテナ22は魚鰭状カバー21の内側に取り付けられ,並びに魚鰭の突出する内部空間の上部に置かれる。
・・・【0013】 また図2に示されるように,本発明の魚鰭式アンテナ装置20の底部に金属ベース25が取り付けられ,その機能は魚鰭式アンテナ装置20を自動車のルーフトップに螺子止めするのに供されることのほか,FMアンテナと結合され,FMアンテナの信号受信能力を該金属ベース25の補助により強化することにある。本発明の魚鰭式アンテナ装置20は無線電波受信回路51と極めて良好な抵抗マッチングを形成し,本実施例の抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる。
【0014】 本発明の体積は小さく,ゆえに自動車のルーフトップに取り付けられて造形が優美な魚鰭式アンテナを形成し,魚鰭状カバー21がAMアンテナ22と信号増幅回路板23を被覆し,魚鰭状カバー21が車体のルーフトップに取り付けられ,外観が美しいアンテナ造形を形成し,本発明のアンテナの美観を増す。
・・・【0016】 本発明の周波数応答のグラフは図7に示されるようであり,図中に示される周波数範囲は30KHzから300MHzの間であり,本発明の実施例は540K〜1600KHz及び88〜108MHzのAM及びFMラジオの周波数帯部分で,抵抗マッチング値50オーム(駐波比≦2)の波形を形成し,ラジオアンテナ設計のマッチングの要求に符合する。」 イ 上記アによれば,甲1発明の概要は,次のとおりである。
甲1発明は,自動車のAM/FMラジオに使用される魚鰭式アンテナ装置であって,自動車のルーフトップに設置され,ラジオの無線電波周波数信号の受信能力を増強するアンテナ装置に関する(【0001】。
) 従来,自動車のラジオのAM/FMアンテナは,長棒状伸縮型に設計され,AM及びFMで一つのアンテナを共用し,起動時に伸出させ,切断時に縮入させていた が,長く使用すると故障が発生して伸縮不能となりやすく,相当に不便であった【0 (002】。そのため,長棒金属を螺旋状に曲げた螺旋状アンテナが開発されたが, )その無線電波受信能力は理想的ではなく,軟性導電材料を自動車のガラスに貼り付けるガラスアンテナもその材質が相当に高価であり,また,プリント回路板上にレイアウトされた特殊曲げ度の平面アンテナも,金属が無線電波を吸収するため,金属製である自動車のボデーに接近させられないという欠点があった(【0003】。
) そこで,甲1発明は,上記の自動車用ラジオの無線電波アンテナの有する不便と欠点を解決するため,自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置を提供するものであり,自動車のルーフトップに取り付け可能で,ルーフトップに新規な美観を与えるのみならず,ラジオの無線電波周波数信号受信能力を高められる(【0004】,より具 )体的には,魚鰭式アンテナ装置は,無線電波受信回路の前に接続されて少なくとも一つの無線電波周波数帯の信号を受信し,魚鰭状カバー,AMアンテナ,信号増幅回路板,該信号増幅回路板に設けられたFM共振アンテナ回路,及び金属ベースを具え,そのうちAMアンテナとFM共振アンテナ回路が分離設計であり,FM共振アンテナ回路が複数のインダクタで共振回路を形成し,並びに該金属ベースに接続され,該金属ベースによりFM共振アンテナ回路の信号受信能力が強化され,自動車用ラジオの無線電波周波数帯上,最良の信号受信能力を達成するものである 【0 (005】。
) (2) 甲1発明の認定 ア 審決は,甲1発明を「自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置であって,該魚鰭式アンテナ装置は自動車ラジオの無線電波受信回路の前に使用されて,ラジオの無線周波数信号を受信するのに用いられ,自動車のルーフトップに螺子止めされる,該魚鰭式アンテナ装置は,内部に内部空間が形成された魚鰭状カバーと,該魚鰭状カバーの底面の開口の周縁部が結合されて自動車のルーフトップに螺子止めされる金属ベースと,該魚鰭状カバーの突出する内部空間中の上部に設置される磁心捲線式コイルのAMアンテナと,該金属ベースの上方に配設されて該AMアンテナに接 続されたAM信号増幅回路,FM共振アンテナ回路,及びFM信号増幅回路が配設された信号増幅回路板と,を具え,該FM共振アンテナ回路は複数のインダクタとFM信号増幅回路でFM共振回路を形成し,該金属ベースにより該FM共振アンテナ回路の無線周波数帯の信号受信能力が強化されたことを特徴とする,自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置。」と認定したのに対し,原告は,甲1発明における「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部内周は,「金属ベース」の外周より大きく,「金属ベース」を覆い尽くして内包するものであって,@「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部と「金属ベース」の双方が自動車のルーフトップに接合される,あるいは,A「金属ベース」は, 「魚鰭状カバー」内部の中空位置に設置されているものと解すべきであるのに,審決は,この点を看過して甲1発明を認定したから誤りがある旨主張する。
イ 甲1文献の【図1】には,甲1発明にかかる実施例の外観立体図が記載されているところ,当該図面によれば, 「魚鰭状カバー21」の下部には,その周囲を取り囲むように「金属ベース25」が実線で記載され,ある程度の厚みをもって図示されているから,「金属ベース25」は,「魚鰭状カバー21」の底面開口の周縁部の下に配置されていることが理解できる。
そして,甲1文献の【発明を実施するための最良の形態】に, 「魚鰭式アンテナ装置20の底部に金属ベース25が取り付けられ」ること(【0013】,魚鰭式アン )テナ装置20が, 「金属ベース25」の上方に位置する「魚鰭状カバー21」と組み合わせて構成されていること(【0009】【図2】 , )が記載されていることからも,「金属ベース25」は, 「魚鰭状カバー21」の底部である底面開口の周縁部の下に配置されていると理解するのが自然である。
そうすると,甲1発明における「金属ベース」は, 「魚鰭状カバー21」の底面開口の周縁部の下に配置されているといえ,@「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部と「金属ベース」の双方が自動車のルーフトップに接合される,あるいは,A「金属ベース」は, 「魚鰭状カバー」内部の中空位置に設置されているということはでき ない。
したがって,審決の甲1発明の認定に誤りはない。
ウ 原告の主張について (ア) 原告は,甲1発明は,自動車のルーフトップに設置される自動車用ラジオの魚鰭式アンテナ装置であって,アンテナ装置の内部に雨水や洗浄水が浸入することを防止する必要があり,そのためには, 「魚鰭状カバー」の底面外周を「金属ベース」の外周より小さくして「金属ベース」を受け皿としてその上に載置するよりも, 「魚鰭状カバー」の底面内周が「金属ベース」の外周より大きく「金属ベース」を覆い尽くして内包する方がはるかに防水対策として有効であることは当業者において自明であるから,審決の甲1発明の認定には誤りがあると主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,甲1発明は, 「螺旋状アンテナ」, 「ガラスアンテナ」,「平面アンテナ」等の無線電波受信能力が理想的でないことや,材質が高価であることなどを従来技術の欠点とし,自動車のルーフトップに取り付け可能で,ルーフトップに新規な美観を与えるのみならず, 「金属ベース」を備えることで,ラジオの無線電波周波数信号受信能力を高められる魚鰭式アンテナ装置を提供することを課題とするものであって,魚鰭式アンテナ装置の「防水対策」を課題とするものではない。
また,そもそも,「魚鰭状カバー」の底面内周が,「金属ベース」の外周より大きく, 「金属ベース」を覆い尽くして内包する構成が,甲1文献に開示されていないことは前記認定のとおりである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 原告は,甲1文献に記載された「魚鰭状カバー」が「金属ベース」を受け皿としてその上に載置され, 「金属ベース」の底面がルーフパネルに直接接合されると仮定した場合, 「金属ベース」とルーフパネルを含む自動車の車体全部がインピーダンス(抵抗)となり,無線電波受信回路に過大な負荷を生じさせることになるから,「本実施例の抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる」(甲1【0013】)こ とはあり得ないし,甲1発明は, 「FM共振アンテナ回路」が「金属ベース」によって無線周波数帯の信号受信が強化されるものであるところ,FM共振アンテナ回路」 「は「金属ベース」によって整合を取っており,金属ベースをルーフパネルと密着した場合にはその整合が取れず,信号受信感度が低下することは明らかであるから,甲1発明において, 「金属ベース」を車両のルーフパネルに密着させることは,甲1発明の作用効果を阻害するものであって,上記態様は想定されておらず,一定の距離を保って配置されるものと解すべきであるから,金属ベース」「魚鰭状カバー」 「 はの内部の中空に設置されているものと理解するのが正しいなどと主張する。
しかし,甲1文献には,「抵抗マッチング値」について,「本発明の魚鰭式アンテナ装置20は無線電波受信回路51と極めて良好な抵抗マッチングを形成し,本実施例の抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる。 ( 」【0013】, )「本発明の周波数応答のグラフは図7に示されるようであり,図中に示される周波数範囲は30KHzから300MHzの間であり,本発明の実施例は540K〜1600KHz及び88〜108MHzのAM及びFMラジオの周波数帯部分で,抵抗マッチング値50オーム(駐波比≦2)の波形を形成し,ラジオアンテナ設計のマッチングの要求に符合する。( 」【0016】)と記載されているのみであって, 「FM共振アンテナ回路」と整合を取る「金属ベース」の具体的な面積や厚さは,図面等にも何ら記載されていない。また, 「抵抗マッチング値」の測定方法についても,実際に魚鰭式アンテナ装置を自動車のルーフトップに取り付けて測定した値であるのか,その場合の,ルーフトップを含めた金属部分の大きさや形状,いかなる自動車に取り付けているのかなど,甲1文献には何ら記載されていない。
そうすると,甲1文献の上記記載は,具体的な「金属ベース」及び「自動車」の構成が不明であるばかりではなく, 「抵抗マッチング値」の測定方法も不明であるから,「抵抗マッチング値はほぼ50オームとされる」との記載は,「金属ベース」の底面が,ルーフパネルに一定の距離を保って配置されることの根拠にはなり得ず,当該記載をもって,「金属ベース」が,「魚鰭状カバー」の内部の中空に設置されて いるということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点 審決は,本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点について,前記第2,3(3)イ,ウのとおり認定した。
これに対し,原告は,相違点2について,本件発明1と甲1発明とは,いずれもカバーの底面開口の周縁部に形成した面が接合面である点において一致し,本件発明1では接合面の両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けられるのに対して,甲1発明では(カバー内部の中空位置に設置された)金属ベースにより車両のルーフトップに螺子止めされる点において相違するから,審決の相違点2の認定には誤りがある旨主張する。
しかし,前記(2)のとおり,甲1発明における「金属ベース」は,「魚鰭状カバー21」の底面開口の周縁部の下に配置されており,甲1発明において, 「魚鰭状カバー」 (カバー)の底面開口の周縁部に形成した面が,ルーフパネルとの接合面であるとはいえないから, 「カバーの底面開口の周縁部に形成した面が接合面である」ことは,本件発明1と甲1発明の一致点であるということはできない。
したがって,審決の相違点2の認定に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,審決の本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
(4) 相違点2の判断 本件発明1と甲1発明の相違点2は,前記カバーの底面開口の周縁部に形成した 「面を用いたカバーのルーフパネルへの取り付けについて,本件発明1では, 前記カバーの底面開口の周縁部に形成した面が接合面であり,接合面の両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けられるのに対して,甲1発明では,魚鰭状カバーの底面の開口の周縁に金属ベースを結合し,この金属ベースが自動車のルーフト ップに螺子止めされる点。」である。
原告は,審決の相違点2の判断に誤りがある旨主張するので,以下検討する。
ア 審決は,甲8発明について,以下のとおり認定した(当事者は,この認定について積極的に争わない。。
) 「流線型でフカヒレ形状に成形され,装着される車両の前方に相当する一端方が先細りの形態を有し,アンテナを有するカバーを,車両のルーフに装着された純正のロッドアンテナの台座に被せるとともに,前記アンテナのアンテナ端子を前記台座に形成した純正のロッドアンテナのねじ穴に接続し,前記カバーの底面を,前記ルーフに両面テープにより装着し,既設の純正のロッドアンテナと交換できるようにした交換用アンテナ。」 そして,甲8文献には, 「取り付けは,いたって簡単(^^; 純正のねじ込み式のロッドアンテナを手でクルクル回して外し,フカヒレのアンテナ端子を取り外したねじ穴を利用してねじ止め… 後は,フカヒレを底面の両面テープを剥がして上から押し付けて… おしまい(^^) ものの5分で出来上がります(^^;」「類似品がオー ,クションなどに出回っていますが,単にカバーの役目しかない物も見受けられます。, 」「アンテナの台座みたいなやつの上から被せる形ですね。(3/6頁)などと 」記載されているから,甲8発明は,交換用アンテナのカバーの底面開口の周縁部に,両面テープを貼り付けることによって,簡便に車両のルーフに装着できることが認められる。
他方,前記のとおり,甲1発明の「魚鰭式アンテナ」は, 「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部の下に「金属ベース」が配置されており,当該「金属ベース」を介して,自動車のルーフトップに螺子止めされるものである。
そうすると,甲1発明と甲8発明は,ともに車両のルーフに設置するアンテナであって,その形状も同様に流線型であるといえるから,当業者であれば,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置を車両のルーフに装着する手段として,車両のルーフとの接合面である「金属ベース」を螺子止めすることに代えて,より簡便な甲8発明の両 面テープを採用しようと試みる可能性はあるといえる。
しかし,仮に,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置と車両のルーフトップとを両面テープを使用して装着する場合,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置は,「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部の下に「金属ベース」が配置されているから, 「金属ベース」が接合面となり,「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部が接合面となることはない。
そして,甲1発明は, 「自動車のルーフトップに取り付け可能で,ルーフトップに新規な美観を与えるのみならず,ラジオの無線電波周波数信号受信能力を高められる」(甲1文献【0004】)魚鰭式アンテナ装置を提供することを課題とする発明であるから,甲1発明の魚鰭式アンテナ装置とルーフトップとを両面テープで装着する場合,当業者であれば,甲1発明の課題を解決するために必須の構成である「金属ベース」を除外ないし改変することにより, 「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部を露出させて接合面とすることは想定し難く,むしろ, 「金属ベース」のルーフトップ側の面を接合面として装着しようとするのが自然であるといえる。
また,甲1文献には, 「金属ベース」や「魚鰭状カバー」の大きさを変更するなどして, 「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部を露出させて接合面とする構成については記載も示唆もされておらず,その他,原告が甲1発明との相違点2に係る本件発明1の構成に至ることを理由付ける根拠となる技術として提出する公知文献によっても,上記構成とすることが,本件特許の出願時における当業者の周知技術であったとも認められない。
したがって,甲1発明において,相違点2に係る構成を採用することは,当業者であっても容易に想到し得たということはできない。
イ 原告の主張について 原告は,甲1発明における「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部内周は, 「金属ベース」の外周より大きく, 「金属ベース」を覆い尽くして内包するものであって,@「魚鰭状カバー」の底面開口の周縁部と「金属ベース」の双方が自動車のルーフトップに接合される,あるいは,A「金属ベース」は, 「魚鰭状カバー」内部の中空位 置に設置されているものと解すべきであることを前提に,本件発明1では接合面の両面粘着テープにより車両のルーフパネルに貼り付けられるのに対して,甲1発明では(カバー内部の中空位置に設置された)金属ベースにより車両のルーフトップに螺子止めされる点において相違するものであり,この場合,車両のルーフトップへの接合手段として,甲1発明における金属ベースを用いた螺子止め手段を,本件発明1におけるカバー底面開口周縁部の両面粘着テープを用いる手段に置き換える場合に金属ベースを取り外すことに何ら阻害要因はないから,当業者において甲1発明から本件発明1を着想することは容易であるといえる旨主張する。
しかし,甲1発明における「金属ベース」は, 「魚鰭状カバー21」の底面開口の周縁部の下に配置されているといえ, 「魚鰭状カバー」 @ の底面開口の周縁部と「金属ベース」の双方が自動車のルーフトップに接合される,あるいは,A「金属ベース」は, 「魚鰭状カバー」内部の中空位置に設置されているということはできないのは前記認定のとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠くものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない(原告は,その他,審決の甲1発明の認定を前提とした相違点2の判断の誤りについては主張していない。) ウ 以上のとおり,甲1発明において,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るものとはいえないから,審決の相違点2の判断に誤りはない。
(5) 相違点3の判断 本件発明1と甲1発明の相違点3は,コイルアンテナの保持が, 「 本件発明1では,保持筒を前記カバーの天井部から下向きに突設し,前記保持筒で前記コイルアンテナを保持するのに対して,甲1発明では,魚鰭状カバーの突出する内部空間中の上部に設置されるものの,どのように保持されるか明らかではない点。」である。
原告は,審決の相違点3の判断が誤っている旨主張するので,さらに検討することとする。
周知技術の認定 (ア) 甲3文献ないし甲5文献には,それぞれ,次の記載がある(図面については別紙甲3文献ないし甲5文献図面目録参照)。
@ 甲3文献「【0003】図12,図13において,1はコネクタで,コネクタ1は大径部2とその大径部2の先に設けられた小径部3を有している。4は線状体を螺旋型に加工して形成されたアンテナ素子で,アンテナ素子4は小径部3に嵌入されている。
5はアンテナ素子4を覆う様に設けられたカバーで,カバー5は一方の開口を塞いだ筒型形状を有している。」 A 甲4文献 「【0003】図4(a) (b)はその1例を示すもので, (a)はホイップアンテナを無線機筐体外に引き出した状態を, (b)は同アンテナを筐体内に収納した状態を示している。ホイップアンテナ引出し時には,図4(a)に示すように無線入出力部整合回路は給電接点5を経て直線状アンテナ3の下端部33に接続され,直線状アンテナ3に給電されるが,樹脂部2を介するコイルアンテナ10には給電されない。・・・」 B 甲5文献 「【0012】 【実施例】 以下,この考案の一実施例を添付図面を参照しながら説明する。図1にはアンテナ1がハウジング2内に収納されている状態が示されており,・・・【0013】 アンテナ1には4分の1波長コイルアンテナが用いられている。すなわち,このアンテナ1は同コイルアンテナ素子1aを非磁性体からなる円筒状のケース1b内に収納したものからなる。」 (イ) 甲3文献ないし甲5文献の上記記載によれば,本件特許の出願時,保持筒でコイルアンテナを保持することは周知技術であったと認められる。
なお,審決は,甲3文献ないし甲5文献に基づき, 「無線通信機においてコイルアンテナを筒状の保持筒で保持すること」を周知技術として認定した。しかし,コイルアンテナは,例えば,本件発明1と同様のラジオ放送を受信する「魚鰭式アンテナ装置」で用いられることもあれば(甲1文献(【0009】)「車両のキーレスエ ),ントリーシステム」で用いられることもあるといったように(甲6文献(【0021】)携帯電話機などの無線通信機といった技術分野に限られず広く用いられる汎 ),用的な技術であることが認められる。また,保持筒でコイルアンテナを保持する目的はコイルアンテナの保護や美観の向上などであると解されるから,保持筒でコイルアンテナを保持することも無線通信機の技術分野に特有の技術であるとはいえない。
そうすると,甲3文献ないし甲5文献の対象とする技術分野が,無線通信機の技術分野に属するものであるとしても, 「保持筒でコイルアンテナを保持すること」自体は,それ以外の技術分野も含め,コイルアンテナを用いて電波を送受信する技術分野で広く用いられる技術であると認められるから,無線通信機の技術分野に限定して上記周知技術を認定することは適切ではなく,技術分野を問わず,保持筒でコイルアンテナを保持することが周知技術であったと認定するのが相当である。
イ 検討 甲1発明は,魚鰭状カバーの突出する内部空間中の上部に設置される磁心捲線式 「コイルのAMアンテナ」を備えているところ,具体的には, 「AMアンテナ」は,甲1文献の記載(【0010】及び【図2】)によれば, 「魚鰭状カバー」の魚鰭の突出する内部空間の上部に沿って設置されていることが認められる。また,甲1文献には,AMアンテナ22を魚鰭状カバー21の魚鰭の突出する内部空間の上部に沿って設置する理由は記載されていないものの, 【図2】によれば,AMアンテナ22の軸方向を信号増幅回路板23と垂直方向にして設置すると,AMアンテナ22は,信号増幅回路板23に当接あるいは接近して設置されることになるから,魚鰭状カバー21内に設置できない,あるいは信号増幅回路板23と干渉するなどの問題が 発生するためであると理解することができる。
しかし,甲3文献に「・・・固有周波数の調整は,アンテナ素子6のコイルピッチCP及びコイル長さCL,コイル径CK等を調整する事によって行い, ・ ( ・ ・」 【0010】【図1】【図2】)との記載があり,同様に甲4文献には,「・・・アンテナ収納時に使用するコイルアンテナの帯域を確保するためにはコイルの電気長として1/4波長程度の長さに見合った巻数が必要であり,・・・」【0004】 ( )との記載があるように,一般的に,コイルアンテナは,コイルピッチ,コイル長,コイル径,巻数などを調整することにより,所望の無線周波数信号を受信することが可能であることが認められる。
そうすると,当業者であれば,甲1文献の【図2】において,魚鰭状カバー21の魚鰭の突出する内部空間の上部に沿って設置されているAMアンテナ22について,コイルピッチ,コイル径,巻数などを調整することによって,その全体の長さを短く設計することができるから,AMアンテナ22を,その軸方向を信号増幅回路板23と垂直方向にして設置したとしても,魚鰭状カバー21内に設置できない,あるいは信号増幅回路板23と干渉するなどの問題を回避するように構成することは可能であると認められる。
そして,魚鰭状カバー21の魚鰭の突出する内部空間に設置されているAMアンテナ22を,上部に沿って設置するか(甲1発明。
【図2】,その軸方向を信号増幅 )回路板23と垂直方向にして設置するか(本件発明1。甲12【図2】)など,どのような方向で設置するかは,自動車用ラジオの電波の受信感度や内部空間の広さ等に応じて適宜決定し得る設計的な事項であるといえる。
また,保持筒でコイルアンテナを保持することは周知技術であるから,甲1発明において, 「AMアンテナ」を,その軸方向を信号増幅回路板と垂直方向にして設置する際に,魚鰭状カバーの上面から突設された保持筒で保持するように構成することに格別の困難性はなく,相違点3に係る本件発明1の構成は,当業者であれば容易に想到し得るものであると認められる。
ウ 被告の主張について 被告は,甲1発明ではアンテナ感度を高める方法としてAMアンテナを長くし,長いAMアンテナを信号増幅回路板と干渉しないように,魚鰭状カバー内に収めるため,AMアンテナを魚鰭状カバーの上部に沿って配置する構成を採用しており,かかる構成を採用することによりアンテナ感度を高めるという課題を解決しているのであり,仮に甲1発明に甲6発明を適用することによって魚鰭状カバーの上部からAMアンテナを下向きに突設するように構成できたとしても,かかる構成を採用した場合,AMアンテナと信号増幅回路板との干渉という新たな課題が生ずることになり,甲1発明に甲6発明を適用する上での阻害要因となると主張する。
しかし,甲1文献には,被告が主張するように,アンテナ感度を高めるために,AMアンテナを長くするとともに,信号増幅回路板と干渉しないように,魚鰭状カバーの上部に沿って配置することについては何ら記載されていない。
そして,前記のとおり,甲1発明において, 「AMアンテナ」の全体の長さを短く設計することにより,その軸方向を「信号増幅回路板」と垂直方向にして設置したとしても,信号増幅回路板」 「 との干渉を回避するように構成することは可能である。
そうすると,審決における甲6発明の認定の当否や,甲1発明に甲6発明を適用する際の阻害要因の有無は,相違点3に係る本件発明1の構成の容易想到性の判断に影響を及ぼすものではないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
エ まとめ 以上のとおり,相違点3は,甲1発明及び周知技術に基づいて,当業者であれば容易に想到し得るものであるから,審決の相違点3の判断には誤りがある。
(6) 審決は,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ると判断しているところ,上記審決の判断について,当事者間に争いはない。
しかし,前記のとおり,甲1発明において,相違点2に係る本件発明1の構成と することは,当業者であれば容易に想到し得るものとはいえない。
そうすると,本件発明1は,甲1発明に基づいて,当業者であれば容易に想到し得るものとはいえないから,審決の本件発明1に係る容易想到性の判断は結論において誤りはなく,これを取り消すべき違法があるということはできない。
したがって,原告の主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本件発明2,3に係る容易想到性の判断の誤り)について 審決は,本件発明2,3は,甲1発明との間に,少なくとも本件発明1と甲1発明との相違点1ないし相違点3を有するものであり,甲1発明において,相違点2及び3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものであるということはできないから,同様の理由により,本件発明2,3も,当業者が容易に想到し得るものであるということはできないと判断した。
前記のとおり,甲1発明において,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るものとはいえないから,審決の上記判断は,結論において誤りはない。
したがって,審決の本件発明2,3の判断には誤りはなく,原告の主張する取消事由2は理由がない。
4 まとめ 以上によれば,少なくとも,甲1発明を主たる引用発明とし,本件発明1と対比して抽出された相違点2に係る構成については,当業者にとって容易想到であったということはできない(なお,当然ながら,本判決は甲1発明以外のものを主たる引用発明とした場合について判断するものではない。。
) よって,審決における本件発明と甲1発明との相違点に係る容易想到性に関する判断は,その結論において相当である。そうすると,審決の相違点3の判断に誤りがあるものの,当該誤りは審決の結論を左右するものではないから,原告の主張する各取消事由はいずれも理由がない。
結論
以上のとおり,原告の各取消事由の主張はいずれも理由がなく,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 中島基至
裁判官 岡田慎吾