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関連審決 無効2013-800230
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事件 平成 27年 (行ケ) 10030号 審決取消請求事件

原告株式会社高知丸高
訴訟代理人弁理士清原義博 北本友彦 西村直也 今岡大明
被告 株式会社横山基礎工事
訴訟代理人弁護士小林幸夫 弓削田博 河部康弘 弁理士久保司 尾関眞里子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2013-800230号事件について平成27年1月9日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,有限会社河野興業及び株式会社絹田熔工によって平成8年1月18日に出願され(特願平8-6900号) 平成11年9月17日に特許権の設定登録がな ,された特許(本件特許。特許第2981164号。発明の名称「掘削装置」)の特許権者である(甲9,乙2)。
原告は,平成25年12月17日,本件特許について無効審判請求をしたところ(無効2013-800230号),特許庁は,平成27年1月9日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決(謄本)は,同月16日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし5に記載された発明(本件発明。平成16年10月7日付け訂正審判請求(甲10)による訂正後のもの)の要旨は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,例えば「本件発明1」などと表記する。分説は当裁判所が付与した。。
)【請求項1】 A 昇降可能に支持される回転駆動装置と, B 先端に掘削ビットを有し,回転駆動装置下部の回転駆動軸に一体回転可能に連結される掘削軸部材と, C 掘削軸部材に套嵌されると共に,回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結される固定ケーシングと, D 掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシング挿通孔を有するケーシング回り止め部材と,からなる E 掘削装置。
【請求項2】 F 固定ケーシングは円筒状のケーシングからなり, G この円筒状固定ケーシングの外周面に係合用突条部が長手方向全長に亘って条設されており, H ケーシング回り止め部材は,前記円筒状固定ケーシングが挿通可能な円形孔部と,この円形孔部の内周部に凹設されていて前記係合用突条部が挿通可能な係合用凹部とからなるケーシング挿通孔を備えてなる請求項1に記載の掘削装置。
【請求項3】 I ケーシング回り止め部材は,平板状に形成されていて,掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定されるようになっている請求項1または2に記載の掘削装置。
【請求項4】 J ケーシング回り止め部材は,前記支持部材の長手方向と直交する方向の分割線に沿って2分割された一対の半割板からなる請求項3に記載の掘削装置。
【請求項5】 K 前記一対の支持部材の上面には,ケーシング回り止め部材を両支持部材間の中心位置に位置決めするための複数の位置決め突起が,掘孔箇所ごとに支持部材長手方向所定ピッチで突設されており, L ケーシング回り止め部材には前記位置決め突起が係合可能な係合部が設けられている請求項3または4に記載の掘削装置。
3 審決の理由の要旨(争点と関係の薄い部分はフォントを小さく表記する。) (1) 原告の主張した無効理由の要旨 本件発明1〜5は,本件出願日前に頒布された,以下の甲1〜甲6に記載された発明(甲1発明〜甲6発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないものであり,特許法123条1項2号により無効とすべきものである。
甲1:特開昭63-219787号公報 甲2:特開昭63-219786号公報 甲3:「建設機材・工法ハンドブック」株式会社建設産業調査会(昭和47年8月15日第3版発行)の表紙,1-6頁,奥付の写し 甲4:特開昭50-9907号公報 甲5:特開平5-202687号公報 甲6:特開平2-85495号公報 (2) 甲1発明の認定 「クレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と,この回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と,この回転出力軸9の下端に設けられたボタンビット等の削孔用具10と,前記回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して嵌合されるよう前記回転駆動部8の上部から前記削孔用具部分まで下方に延びる固定スリーブ管12と,この固定スリーブ管12の下端外周に例えば互いに180°離間した位置から水平方向に延びるように設けた一対の固定アーム13と,前記固定スリーブ管12の下部に設けた掘屑吐出口14と,前記固定スリーブ管12の内周面にその上端から所定ストローク長さだけ下方に延びるよう例えば互いに180°離間した位置で内方に突出して設けた帯状突起15と,この帯状突起15の側面に係合するよう前記回転駆動部8の外周面に互いに180°離間した位置で外方に突出するように設けたストッパー16とにより構成する削孔装置7であって, 一対の固定アーム13を固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリング17の外周に固定し,このリング17の内周面に形成した凹溝18を固定スリーブ管12の下端部外 周に軸方向に設けた突出リブ19に係合することによって前記リング17が固定スリーブ管12と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在なるようにされ, 削孔前は,固定スリーブ管12の,上端側に回転駆動部8が,下端側に削孔用具10が,その間に回転出力軸9が位置し, クレーン4によってロープ6を介して削孔装置7を吊下し,削孔用具10を削孔地点に設置し,係合溝内に削孔装置7の固定アーム13を係合せしめ,この状態で回転駆動部8を駆動せしめ,この結果回転出力軸9の回転と共に回転駆動部8も一体に回転するが,回転駆動部8のストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合した状態で回転駆動部8の回動が停止し,回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになり, 削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し,固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される, 削孔装置7。」 (3) 本件発明1と甲1発明の対比(一致点)「A 昇降可能に支持される回転駆動装置と, B 先端に掘削ビットを有し,回転駆動装置下部の回転駆動軸に一体回転可能に連結される掘削軸部材と, C 掘削軸部材の外周側に位置すると共に,回転駆動装置駆動時に回転駆動装置の機枠に相対回転しない様に接続される固定ケーシングと, D ケーシング回り止め部材と,からなる E 掘削装置。」(相違点) 相違点1:固定ケーシングが,本件発明1は,掘削軸部材に「套嵌され」ると共に,回転駆動装置の機枠に「一体的に垂下連結」されるのに対し,甲1発明の固定スリーブ管12は,「削 孔前は,固定スリーブ管12の,上端側に回転駆動部8が,下端側に削孔用具10が,その間に回転出力軸9が位置し,・・・回転駆動部8を駆動せしめ・・・ストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合した状態で・・・回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになり,・・・削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し,固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される」ものである点。
相違点2:ケーシング回り止め部材が,本件発明1は,「掘削地盤上の掘孔箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材上に載設固定され,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシング挿通孔を有する」ものであるのに対し,甲1発明は,そうでない点。
(4) 相違点についての判断 ア 相違点1 甲1発明には,固定スリーブ管12を回転駆動部8に固定することに関し,動機がない。
甲1発明の固定スリーブ管12(本件発明1の「固定ケーシング」に相当するもの)は,回転駆動部8と上下方向に相対移動するものである。固定スリーブ管12を回転駆動部8と固定すると,固定スリーブ管12の内面で回転駆動部8を案内することができなくなるので,このような改変には,阻害要因がある。
仮に,甲1発明に,甲2の非回転外筒11を適用しても,部材の位置や機能に照らすと,甲2の第2図に記載されたような構成に至るだけで,この構成では,固定スリーブ管12が一体的に連結されたことにならない。
本件発明1の「固定ケーシング」は,「回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結される」のであって,本件明細書【0025】や【0028】に記載されているように,常に回転駆動装置の機枠と一体的に上下方向に移動し,削孔の進行にともなって地中に移動するものである。
甲1発明における固定スリーブ管12に,甲2の非回転外筒11と固定スリーブ 管12を適用することを考える(非回転外筒11及び固定スリーブ管12の全体が,本件発明1の「固定ケーシング」に相当するものと解する)余地もあるが,それらは全体として常に一体的に移動するものではなく,地中に移動することはないから,本件発明1の「固定ケーシング」に相当する構成ということはできない。
移動しない固定スリーブ管12は,機能的に従来のリーダに当たるといえるが,リーダを使用しないことを課題とする本件発明1において,リーダ相当の部材も含めて「固定ケーシング」と考えることは妥当ではない。
また,甲1発明〜甲6発明に基づいて,本件発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることが,当業者が容易に想到し得たということはできない。
イ 相違点2 甲1発明は,固定アーム13を斜面に設けた係合溝に固定することで,仮設桟橋等を構築する必要をなくすものなので,甲1発明に,別途,相違点2のような構造を設けることには,阻害要因がある。
また,甲1発明〜甲6発明に基づいて,本件発明1の相違点2に係る発明特定事項とすることが,当業者が容易に想到し得たということはできない。
ウ まとめ したがって,本件発明1は,甲1発明〜甲6発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 本件発明2〜5について 本件発明2〜5は,本件発明1に分説F〜Lの構成を付加して限定を付した発明であり,本件発明2〜5と甲1発明とは,少なくとも上記相違点1,2で相違する。
そして,上記(4)のように,甲1発明〜甲6発明に基づいて,本件発明1の相違点1,2に係る発明特定事項とすることが,当業者が容易に想到し得たということはできない以上,本件発明2〜5についても,甲1発明〜甲6発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
原告の主張
1 取消事由1(相違点1についての判断誤り) (1) 阻害要因の不存在 甲1には,非回転外筒が設けられてない構成(実施例2)以外に,第1図において,回転駆動部8に該回転駆動部8から所定ストローク長さだけ下方に延びる非回転外筒が設けられている構成(実施例1)も記載されている。それにもかかわらず,審決は,実施例2のみを審理判断して,甲1発明の固定スリーブ管12を回転駆動部8に固定することには,阻害要因があると判断しており,この点で誤りである。
甲1の第1図は,第2図及び第3図と一見して対応しておらず,第2図及び第3図が,第1図に示された削孔装置7の詳細を示すものとはなり得ない。したがって,第1図は,第2図及び第3図とは別の実施例に関するものである。
(注 甲1の第1図〜第3図 赤字は当裁判所が付した。) 第1図では,非回転外筒が回転駆動部8から回転出力軸9の先端まで至っているか否かが,不明である。しかしながら,実施例1の発明と同一の発明が記載されている甲2には,削孔の初期状態における回転駆動部8の下端と固定スリーブ管12 「 の上端間の距離及び前記固定スリーブ管12の内周面に形成される帯状突起15の長さが削孔の1ストロークの長さを決定する。 と記載されており, 」 現場に応じた長さの削孔を形成するため,回転駆動部8の下端と固定スリーブ管12の上端間の距離を長くするとともに,帯状突起15の長さを長くすることにより,1ストロークで形成できる削孔を長くすることは,当業者であれば適宜調整できることが理解できる。そして,第 1 図には,固定アーム13がないが,これは,第1図に開示された掘削装置7が,回転駆動部の回転時に作用する回転反力を従来技術である仮設桟橋2で受けるようにしていると解される。したがって,実施例1の非回転外筒の長さを長くすればするほど,非回転外筒が掘削中に軸方向下方へ移動できる距離が大きくなり,非回転外筒が掘削中に地中に貫入できる。そして,この場合,実施例1の非回転外筒は,掘削中に地中に貫入することにより掘削中の孔壁崩壊を防止する機能を有するから,本件発明1の固定ケーシングに相当するといえる。固定スリーブ管12は,掘削中に地中に貫入するから,リーダではない。
このように,甲1発明は,非回転外筒を備えることを予定した発明であり,非回転外筒を設けることには阻害要因はない。
(2) 甲8の斟酌について 甲8(特開昭55-78786号公報)には,オーガ機の駆動部(回転駆動装置)に固定した被覆管でスクリュウを保護したアースオーガ機が記載されている。この被覆管7は,上端部8がオーガ機の駆動部9に溶接等の所要の手段で固定され,下端部10がスクリュウ1とヘッド2の結合部5までとなるような長さである。さらに,被覆管7に保護されたスクリュウ1に連結するスクリュウヘッド2は,その外径d2にほぼ等しい径d2´の孔を削孔するが,この孔径は被覆管7の外径にやや等しいから,被覆管7の外側面は,削孔壁14を保護しながら掘進するものである。
甲8の被覆管7が掘削中に地中に貫入することにより,掘削中の孔壁崩壊を防止するという技術は,昭和55年以前から土木業界において周知の技術である。そうすると,甲8の被覆管7は,本件発明1の固定ケーシングと構成及び作用・機能が共 通しており,本件発明1における固定ケーシングに相当するといえる。
このような甲8に記載された周知技術を斟酌すると,甲1ないし甲2には,非回転外筒が固定ケーシングにもなるという相違点1に係る構成が記載されているといえる。そうすると,相違点1に係る構成を甲1発明に組み合わせることは,当業者にとって容易になし得ることである。
2 取消事由2(相違点2についての判断誤り) (1) 阻害要因の不存在 審決は,甲1発明に,別途,甲3記載の反力受桁と一対の支持部材を設けることには阻害要因があると判断した。しかしながら,甲1発明に,従来から土木現場で一般的によく使用されているH型鋼を用いて,別途,甲1の第6図に示す仮設桟橋のような構造(甲3記載の反力受桁と一対の支持部材)を設けた構造は,甲1発明にはない利点を有する一方,甲1の掘削工法は,固定スリーブ管12に設けた固定アーム13が手掘りした係合溝に固定ではなく係合しているだけであるため,掘削中の衝撃により固定スリーブ管12が動きやすいという問題点を有するから,阻害要因があるとした審決の判断は,誤りである。
甲3には,掘削機とケーシングを用いる掘削工法において,掘削すべき地盤上の掘 「削箇所を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH型鋼からなる一対の支持部材上に,反力受桁を載設固定する」構成が記載されている(図‐2参照) 甲3に 。
おいて,クレーンに吊り下げられたケーシング部材(固定ケーシング)は,反力受桁を軸方向に挿通し,下端に掘削機を連結固定しているが,掘削機の掘削力を確保するためには,ケーシング部材(固定ケーシン グ)が反力受桁により円周方向に回転しないようにする必要があるから,この反力受桁は,掘削反力を受ける機能を有する点において,甲1の固定アーム13と共通するものといえる。甲3に記載の工法を実施する株式会社奥村組の技術に関する特公昭48-39644号公報(甲17)には,甲3の反力受桁に該当する反力受止体25は,地上で固定され,挿通した排土管1を支持して掘削機の回転時の反力を受け止めることが記載されている。
甲3の掘削工法では,反力受桁に挿通されたケーシング部材(固定ケーシング)の下端に掘削機が連結固定されているため,掘削機が硬い岩盤等に当接したときの衝撃がケーシング部材を介して反力受桁に伝わるが,この反力受桁は,一対の支持部材に載設固定されているので,動いたり倒れたりすることはなく,しかも,1ストロークで形成できる削孔を長くするために,上記ケーシング部材の長さを長くしても,確実に掘削反力を受けることができるため,安定した掘削を行うことができるという利点がある。
また,甲1発明に甲3記載の一対の支持部材を適用することは,甲1発明から従来技術に単に戻ることを意味する。
したがって,甲1発明に対して,別途,甲3記載の反力受桁と一対の支持部材を適用することに阻害要因はない。
(2) 甲3発明を組み合わせる動機付け ア 甲1記載の固定アーム13と甲3記載の反力受桁は,掘削反力を受ける機能を有する点で共通している。
また,甲1記載の固定スリーブ管12と甲3記載の一対の支持部材とは,掘削反力を受ける部材を支持している点で,機能的に共通している。
したがって,甲1の「固定アーム13」と「固定スリーブ管12」に代えて,甲3の「反力受桁」と「一対の支持部材」をそれぞれ適用することにより,相違点2に係る構成とすることには,十分な動機付けがある。
イ 甲3のケーシング部材(排土管)とケーシングは,直径の大きさの点で 相違しているが,それだけでは,動機付けを否定することにはならない。
被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 阻害要因 ア 甲1には「非回転外筒」が存在しないこと 原告は,甲1に「非回転外筒」の存在が開示されていることを前提に,該「非回転外筒」が本件発明1の「固定ケーシング」に対応するとして,本件発明が当業者にとって容易想到であると主張するが,そもそも,甲1には「非回転外筒」は存在しない。
甲1の第1図は,甲1発明の削孔装置の設置状況を説明するものであるが,甲1では,第1図に関し, 「クレーン4を用い,このクレーン4のクレーンブーム5よりロープ6を介して削孔装置7を吊下し,この削孔装置7により削孔を必要とする斜面1に孔を設けるようにする。」と記載されているだけであって,削孔装置7が「非回転外筒」である旨の記載は存在しない。甲1では,(発明の実施例) 「 」として,第1図の説明に続けて,同図に示された削孔装置7の詳細が第2図及び第3図を用いて説明されており,第2図及び第3図が,第1図の削孔装置7の詳細を示すものであることは明らかである。したがって,第1図と第2図及び第3図とは,同一の実施例に関するものであって,原告が主張するように,別個の実施例を示したものではない。このことは,甲1の「(発明の実施例)」において,第4図及び第5図については「本発明の他の実施例においては」との前置きがなされているのに対し,第1図と第2図及び第3図については,このように別個の実施例であることを示した記載がないことからも明らかである。そして,甲1の第2図及び第3図によれば,「固定スリーブ管12」の内側には「回転出力軸」 (本件発明1でいう「掘削軸部材」)が存在するのみであり,「非回転外筒」は存在しない。甲1には,「非回転外筒」という用語はなく,そのような概念についての示唆もない。結局, 「非回転外筒」なる 概念は,甲1の第1図が抽象度の高いことから,原告が都合良く作り上げた創作にすぎない。
原告が甲1発明において「非回転外筒」であると主張する部分は, 「回転出力軸9」であり,甲2にのみ存在する「非回転外筒11」ではない。原告は,甲1と甲2の図が似ていることを奇貨として,本来,甲2にのみ存在する「非回転外筒」が,あたかも甲1にも示されているかのように主張しているにすぎない。
イ 「固定スリーブ管12」はケーシングではないこと 甲1には, 「固定スリーブ管12」に孔壁崩壊防止機能が存在するとの記載はないし,甲1に記載された「固定スリーブ管12」には,そのような機能はない。甲1において, 「固定スリーブ管12」は地中に貫入しないから,孔壁を保護するケーシングとはいえない。
むしろ, 「固定スリーブ管12」は,回転反力を取って,回転駆動装置を上下の方向にしか動かないようにガイドするもので,回転駆動装置に近接して設置するものであるため,従来技術でいうリーダに該当するというべきである。
(2) 甲8の参酌 甲8は,孔壁保護のための「被覆管」が昭和55年当時公知であったことを示すものであるが,甲8には, 「被覆管7」から回転反力を取ることについて,記載がない。したがって,ケーシングを地中に挿入させ孔壁の崩壊防止を行わせながら,同時に,このケーシングを回転防止のための部材として利用する技術を示すものではない。
仮に,原告が主張するとおり,ケーシングが周知であったとしても,ケーシングが周知技術であることと,リーダ機能のみを有する「固定スリーブ管12」をケーシングとしても利用するという発想が,容易に想到できるかという問題は,全く別次元の問題である。
なお,甲8において, 「被覆管7」が回転反力を受けているわけではない。スクリュウの回転反力は,リーダ等が受けることを前提に,回転反力を受ける部材につい ての記載が,図面上も本文上も省略されたにすぎない。
2 取消事由2に対し (1) 阻害要因 ア 原告は,相違点2を単なる「反力受桁と一対の支持部材」の有無の問題にすり替えている。原告の主張は, 「固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシングの回転を阻止することができるケーシング挿通孔」という構成の有無という点を欠落したものであり,不当である。
イ 甲3の図-2の施工方法図には, 「反力受桁」という文字があるが,その内容の説明文章はなく,「反力受桁」の構造や機能は不明である。
同施工方法図の「反力受桁」を指し示す矢印は,排泥ホースを一対となって囲む小さな部材を示しているが,少なくとも,一対の「反力受桁」の幅は,明らかにその下のケーシングの直径よりも狭いものとなっており, 「反力受桁」にケーシングを軸方向に挿通することは物理的に不可能である。したがって,原告が主張するように,掘削機の掘削力を確保するために,掘削機が連結固定されたケーシング部材(固定ケーシング)が, 「反力受桁」によって円周方向に回転しないようにされているか否かは明らかでなく,甲3の反力受桁と甲1の固定アーム13が,掘削反力を受ける機能の点で共通するという原告の主張は,前提を欠くものである。
ウ 甲1の掘削工法は,固定スリーブ管12に設けた固定アーム13が手掘りした係合溝に固定ではなく係合しているだけであるため,掘削中の衝撃により固定スリーブ管12が動きやすいという問題点を有するという原告の主張は,根拠を欠くものである。
エ 甲1発明に反力受桁と一対の支持部材を適用することは, 仮設桟橋等を 「構築する必要がなく」なるような構成にするという甲1発明の目的に反することとなり,本末転倒である。
(2) 甲3発明の組合せの可否等 ア 甲3の「反力受桁」は相違点2とは異なる構成であるから,仮に甲1発 明の「固定スリーブ管12」に甲3発明を組み合わせても,相違点2に係る構成に想到することはできない。甲3には, 「掘削の方法は,リバース・サーキュレーション杭と同じ原理により」行うとされているが,リバース・サーキュレーション工法で用いられるケーシングは,単に表層のみの孔壁崩壊を防止する目的で,掘削開始前に表層に打ち込まれるものであり,本件発明1の「固定ケーシング」のように,掘削が進むのと並行して降下して孔壁全体を保護するものではない。
イ 甲1記載の「固定アーム13」は, 「固定スリーブ管12」を介して「削孔装置7」が回転しないようにすることで反力を受けているが,甲3記載の「反力受桁」は何をもって掘削反力を受けているのか十分な説明がないから,甲1記載の「固定アーム13」と「固定スリーブ管12」は,甲3記載の「反力受桁」と「一対の支持部材」に機能的にそれぞれ対応しているものといえない。したがって,甲1の「固定アーム13」と「固定スリーブ管12」に代えて,甲3の「反力受桁」と「一対の支持部材」をそれぞれ適用することにより,相違点2に係る構成とすることはできない。
当裁判所の判断
1 前提事実について (1) 本件発明について ア 本件明細書(甲9,10)には,次のとおりの記載がある。
【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,基礎杭等の造成にあたって地盤を掘削する掘削装置に関する。
【0002】 【従来の技術】 この種の掘削装置として一般に使用されるアースオーガ装置では,クローラクレーンによってリーダを鉛直に立設し,このリーダに回転駆動手段たるオーガマシン を昇降可能に装備し,このオーガマシンに,先端に掘削ビットを備えた掘削軸部材を垂下連結し,しかして掘削軸部材をオーガマシンにより回転させて地盤の掘削を行うようにしている。
【0003】 【発明が解決しようとする課題】 上記アースオーガ装置のような掘削装置では,オーガマシンの駆動時の回転反力を受支するために必ずリーダが必要となる。しかして,リーダの長さが長くなると,施工現場内でのリーダの移動作業や,現場へのリーダの搬入及び現場からの搬出作業に非常な手間と時間を要する。また,傾斜地での地盤掘削にあっては,クローラクレーンの接地面とリーダの接地面との段差が大きい場合にリーダの長さを長くとれず,掘削深さが制限されることになる。
【0004】 本発明は,上記の課題に鑑み,リーダを使用せずに地盤の掘削を行うことができて作業能率を向上でき,また傾斜地での地盤掘削においてクレーンの接地面とリーダの接地面との間に可成りの段差がある場合でも,リーダを十分に長くできて必要な深さまで掘削を行える掘削装置を提供することを目的とする。
・・・ 【0006】 この掘削装置の使用にあっては,クレーンブームMから昇降操作用ワイヤーWを介して回転駆動装置1を吊支し,この回転駆動装置1の下部から固定ケーシング5及び掘削軸部材2を垂下した状態で,固定ケーシング5を,地盤上の所定箇所(掘孔箇所18)に固定されているケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8に挿入させる。こうして固定ケーシング5をケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8に挿入することにより,固定ケーシング5は,上下方向に移動可能であるがその回転が阻止される。つまり,回転駆動装置1の回転反力はケーシング回り止め部材7によって受支されることになる。しかして,昇降操作用ワイヤーWを繰り 出しつつ,回転駆動装置1を作動させて掘削軸部材2を回転させながら地盤を掘削する。
【0007】 上記のように,この発明の掘削装置は,掘削すべき地盤上の所定箇所に水平に設置され,固定ケーシング5を上下方向に自由に挿通させるが当該固定ケーシング5の回転を阻止するケーシング挿通孔8を形成してなるケーシング回り止め部材7を備えているから,このケーシング回り止め部材7によって回転駆動装置1の回転反力を受支させることができる。従って,従来装置のようにリーダを使用することなく,地盤の掘削を行うことができる。
・・・ 【0012】 【発明の実施の形態】図1は,本発明に係る掘削装置の全体を概略的に示し,図2はその一部を拡大して示している。これらの図において1は,クレーン車KのブームM先端から垂下される昇降操作用ワイヤーWによって昇降可能に吊支された回転駆動装置,2は,回転駆動装置1の下部に突出した回転駆動軸3に一体回転可能に垂下連結された掘削軸部材で,この掘削軸部材2の下部にはダウンザホールハンマー4が連設されている。5は,掘削軸部材2に套嵌されると共に,回転駆動装置1の機枠6に一体的に垂下連結された固定ケーシングであり,7は,掘削すべき地盤上の所定箇所に水平に設置されたケーシング回り止め部材で,固定ケーシング5を上下方向に自由に挿通させるが該固定ケーシング5の回転を阻止することのできるケーシング挿通孔8(図4,図7参照)を備えている。
・・・ 【0015】 前記固定ケーシング5は,円筒状のケーシングからなるもので,図1〜図3に示すように,その外周面に例えば2条の係合用突条部17,17が周方向に一定間隔でそれぞれ長手方向全長に亘って一体または一体的に条設されている。この係合用 突条部17は1条でもよいし,複数条でもよい。そして,固定ケーシング5の上端フランジ部5aが,前記機枠6下部に突設されたスカート状ブラケット9の下端フランジ部9aに接合され,それによって固定ケーシング5が回転駆動装置1の機枠6に一体的に固定される。この固定ケーシング5は,全長にわたり一体に形成された所謂1本ものでもよいが,好ましくは,地盤の掘削長さに応じて継ぎ足しできるように互いに連結可能な複数の固定ケーシング部材からなるものがよい。
【0016】 次に,ケーシング回り止め部材7について図4〜図7を参照して説明すると,ケーシング回り止め部材7は,例えば厚板状の鉄板によって形成されたもので,前記円筒状固定ケーシング5の外径よりわずかに大きい内径を有して当該ケーシング5が挿通可能な円形孔部8aと,この円形孔部8aの内周部の直径方向対向位置に凹設されて,前記両係合用突条部17,17がそれぞれ挿通可能な係合用凹部8b,8bとからなるケーシング挿通孔8を備えている。そして,このケーシング回り止め部材7は,図4及び図7に示すように,掘削地盤上の掘孔箇所18(図4参照)を挟んでその両側に水平に敷設された長尺状の横向きH形鋼からなる一対の支持部材19,19上に載設固定されるようになっている。
・・・ 【0023】 この場合,ケーシング回り止め部材7は,前記したように,その一方の半割板7bを,両支持部材19,19上の定位置に係合部24と位置決め突起23とを係合させることによりセットし,この状態から固定ケーシング5を当該半割板7bの半円状ケーシング挿通孔8部分(ケーシング挿通孔8の半分)に挿入すると共に,固定ケーシング5側の係合用突条部17を当該半割板7b側の係合用凹部8bに係合させ,しかる後に他方の半割板7aを固定ケーシング5に嵌合しながら前記一方の半割板7bに対向する定位置に前記同様に係合部24と位置決め突起23とを係合させてセットし,両半割板7a,7bにより固定ケーシング5を挟持した状態とし, そしてボルト25により両半割板7a,7bを支持部材19,19上に締結固定する。この場合,一対の支持部材19,19は,縦方向または横方向の一連の掘孔箇所18の配列方向に沿って地盤上に配置固定する。
・・・ 【0027】 以上の説明から明らかなように,この掘削装置は,掘削すべき地盤上の所定の掘孔箇所18に水平に設置され,固定ケーシング5を上下方向に自由に挿通させるが当該固定ケーシング5の回転を阻止し得るケーシング挿通孔8を形成してなるケーシング回り止め部材7を備えているから,このケーシング回り止め部材7によって回転駆動装置1の回転反力を受支させることができ,それによって従来装置のようにリーダを使用することなく,地盤の掘削を行うことができる。
・・・ 【0030】 また,ケーシング回り止め部材7は,両支持部材19,19の長手方向と直交する方向の分割線に沿って2分割された一対の半割板7a,7bからなるため,支持部材19,19上へのケーシング回り止め部材7の取り付けにあたって,一方の半割板7bを支持部材19,19上の定位置に配置した後,固定ケーシング5を当該一方の半割板7bのケーシング挿通孔8部分に挿通させ,しかる後他方の半割板7aのケーシング挿通孔8部分を固定ケーシング5に嵌合させるようにすることにより,ケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8への固定ケーシング5の挿通作業を容易に行うことができる。
・・・ 【0033】 また,ケーシング回り止め部材7としては,上述した平板状に形成されたものに限らず,ケーシング回り止め部材7を地盤上に水平に支持する支持部がこの回り止め部材7と一体に形成された構造のものでもよい。
【0034】 【発明の効果】 請求項1に係る発明の掘削装置は,昇降可能に支持される回転駆動装置と,掘削ビットを有し,回転駆動装置下部の回転駆動軸に連動連結される掘削軸部材と,掘削地盤上の所定の掘孔箇所に水平に設置され,固定ケーシングを上下方向に自由に挿通させるが当該固定ケーシングの回転を阻止するケーシング挿通孔を形成したケーシング回り止め部材とを備えているため,ケーシング回り止め部材によって回転駆動装置の回転反力を受支させることができ,それによって従来装置のようにリーダを使用することなく地盤の掘削を行うことができ,従ってリーダの使用に伴う種々の問題を解消することができる。
【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 【図6】 【図7】 イ 以上の記載によれば,本件発明は,基礎杭等の造成に当たって地盤を掘削する掘削装置に関するものであり(【0001】,従来からの,クローラクレーンで )鉛直に立設したリーダに回転駆動手段であるオーガマシンを昇降可能に装備し,このオーガマシンに掘削軸部材を垂下連結し,この掘削軸部材をオーガマシンで回転させ,掘削軸部材の先端に設けられた掘削ビットで地盤を掘削するアースオーガ装置(【0002】)では,オーガマシンの駆動時の回転反力を受支するためのリーダを必要とするが,リーダが長くなると,リーダを施工現場内で移動したり,現場へ搬入したり,現場から搬出したりする作業に非常な手間と時間を要するし,また,傾斜地で地盤を掘削する際は,クローラクレーンの接地面とリーダの接地面との段差が大きいとリーダを長くすることができず,掘削深さが制限されるという課題があったため(【0003】,この課題を解決し,リーダを使用せずに地盤を掘削する ) ことが可能で作業能率がよく,また,傾斜地で地盤を掘削する際に,従来のアースオーガ装置ではクローラクレーンの接地面とリーダの接地面との間の段差が大きくなってしまうような場合でも,必要な深さまで掘削することができる掘削装置の提供を目的とするものである(【0004】)と認められる。
そして,本件発明では,クレーンブームMから昇降操作用ワイヤーWを介して吊支した回転駆動装置1の下部から固定ケーシング5及び掘削軸部材2を垂下した状態で,固定ケーシング5を地盤上の掘孔箇所18に固定されたケーシング回り止め部材7のケーシング挿通孔8に挿入し,回転駆動装置1の回転反力をケーシング回り止め部材7で受支することによって,固定ケーシング5を上下方向に移動可能にする一方,その回転を阻止し,昇降操作用ワイヤーWを繰り出しつつ,回転駆動装置1を作動させて掘削軸部材2を回転させ,地盤を掘削する(【0006】。本件発 )明の掘削装置は,掘削すべき地盤上の掘孔箇所18に水平に設置されるところ,ケーシング回り止め部材7には,固定ケーシング5を上下方向に自由に挿通させるが,その回転を阻止するケーシング挿通孔8が形成されているから,ケーシング回り止め部材7で回転駆動装置1の回転反力を受支させることができ,そのため,従来の装置とは違って,リーダを使用しなくても地盤の掘削が可能であり,したがって,リーダの使用に伴う種々の問題を解消することができる【0007】 0034】。
( 【 , ) なお,本件発明の回転駆動装置は,昇降可能に支持され,その下部の回転駆動軸には,先端に掘削ビットを有する掘削軸部材が一体回転可能に連結されているから,地盤の掘削を始めると,掘削ビット,掘削軸部材及び回転駆動装置は,全体として下に移動する。掘削ビットは,当然,掘削中の孔の底に位置するから,掘削軸部材は,掘削が進むに連れて下の方から順次,掘削された孔の中に入って行き,固定ケーシングは,回転駆動装置の機枠に一体的に垂下連結されるから,地盤の掘削を始めると,回転駆動装置と共に下に移動し,掘削が進むに連れて,掘削軸部材と共に掘削された孔の中に入って行くこととなる。その結果,固定ケーシングは,孔壁の崩壊防止機能を果たす。
(2) 甲1発明 ア 甲1には,次のとおりの記載がある。
「2.特許請求の範囲 (1) 回転駆動部と,この回転駆動部から下方に延びる回転出力軸と,この回転出力部の下端に設けられた削孔用具と,前記回転駆動部の外周に間隙を介して嵌合される所定長さの固定スリーブ管と,この固定スリーブ管の下端外周に突出せしめた固定用突出部と,前記固定スリーブ管の内周面にその上端から下方に延びるように突出して設けた帯状突起と,この帯状突起に突出して設けたストッパーとより成ることを特徴とする削孔装置。
・・・3.発明の詳細な説明(産業上の利用分野) 本発明は,削孔装置,特に斜面に垂直に削孔することが出来る削孔装置に関するものである。
(従来装置) 従来平坦地を除く斜面状の地形部に基礎杭や山留め杭等を打ち込む目的で削孔を必要とする場合には第6図に示すように斜面1に仮設桟橋2を構築するか或いは第7図に示すように斜面1の土砂を段切り掘削してその上に回転式又は回転打撃式の削孔機3を搭載固定して削孔している。
この削孔の為の仮設工事は削孔機3の大きさ,削孔仕様等により規模の大小はあるが工事量全体の20〜30%を占める場合があり,特に1本当たりの削孔長が比較的浅い場合はこの割合が更に増加することになる。
(発明の目的) 本発明の目的は上記のような欠点を除去した削孔装置を得るにある。
・・・(発明の実施例) ・・・ 本発明においては第1図に示すようにクレーン4を用い,このクレーン4のクレーンブーム5よりロープ6を介して削孔装置7を吊下し,この削孔装置7により削甲を必要とする斜面1に孔を設けるようにする。
本発明の削孔装置7は第2図,第3図に示すようにクレーン4をロープ6より吊下される回転駆動部8と,この回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と,この回転出力部9の下端に設けられたボタンビット等の削孔用具10と,前記回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して嵌合されるよう前記回転駆動部8の上部から前記削孔用具部分まで下方に延びる固定スリーブ管12と,この固定スリーブ管12の下端外周に例えば互いに180°離間した位置から水平方向に伸びるように設けた一対の固定アーム13と,前記固定スリーブ管12の下部に設けた掘屑吐出口14と,前記固定スリーブ管12の内周面にその上端から所定ストローク長さだけ下方に延びるよう例えば互いに180°離間した位置で内方に突出して設けた帯状突起15と,この帯状突起15の側面に係合するよう前記回転駆動部8の外周面に互いに180°離間した位置で外方に突出するように設けたストッパー16とにより構成する。
本発明の削孔装置は上記のような構成であるからその使用に際しては先ず斜面1の削孔地点に固定スリーブ管12が鉛直に立つ程度のスペースを手掘りし更に固定アーム13を斜面1の等高線上で収容出来る程度の幅で係合溝を手掘りする。
次に,クレーン4によってロープ6を介して削孔装置7を吊下し,削孔用具10を削孔地点に設置し,前記係合溝内に削孔装置7の固定アーム13を係合せしめ,この状態で回転駆動部8を駆動せしめる。
この結果回転出力軸9の回転と共に回転駆動部8も一緒に回転するが,回転駆動部のストッパー16が固定スリーブ管12の帯状突起15と係合した状態で回転駆動部8の回転が停止し,回転出力軸9の回転が削孔用具10に伝達されるようになる。
削孔用具10の回転によって削孔が開始され,削孔に伴う堀屑は固定スリーブ管12の下端開口より掘屑吐出口14を介して水,泥水,又は圧気と共に吐出される。
削孔の進行によって削孔用具10と共に回転駆動部8も固定スリーブ管12に相対的に下降し,固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される。即ち固定スリーブ管12の長さ及び前記固定スリーブ管12の内周面に形成される帯状突起15の長さが削孔の1ストロークの長さを決定する。
本発明の他の実施例においては第4図,第5図に示すように一対の固定アーム13を固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリング17の外周に固定し,このリング17の内周面に形成した凹溝18を固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19に係合することによって前記リング17が固定スリーブ管12と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在なるようにする。
この実施例によれば固定アーム13を固定スリーブ管12に相対的に軸方向に所定の長さだけ移動出来るので斜面1に対する削孔装置7の初期設定が容易となる。
(発明の効果) 上記のように本発明削孔装置によれば仮設桟橋等を構築する必要がなく,又如何なる地点にも極めて容易に削孔することが出来る大きな利益がある。」 第1図 第2図 第3図 第4図 第5図 第6図 第7図 イ 以上の記載によれば,甲1発明は,仮設桟橋を構築したり,斜面の土砂を切り崩してその上に削孔機を登載固定したりすることなく,斜面に垂直に削孔することができるように,回転駆動部と,この回転駆動部から下方に延びる回転出力軸と,この回転出力部の下端に設けられた削孔用具と,前記回転駆動部の外周に間隙を介して嵌合される所定長さの固定スリーブ管と,この固定スリーブ管の下端外周に突出した固定用突出部と,前記固定スリーブ管の内周面にその上端から下方に延びるように突出して設けた帯状突起と,この帯状突起と係合するように前記回転駆動部の外周面に突出して設けたストッパーとより成ることを特徴とする削孔装置であると認められる。
そして,甲1発明において,回転駆動装置は,昇降可能に支持され,先端に掘削ビットがある掘削軸部材と,一体回転可能に連接されている。また,掘削軸部材の外周には,回転駆動装置が駆動した際に回転しないように固定ケーシングが設けられ,そのケーシングの外周面に回り止め部材であるストッパーが設けられる。削孔前は,固定スリーブ管の上端側に回転駆動部が,下端側に削孔用具が,その間に回 転出力軸が位置しているが,回転駆動部が駆動すると,ストッパーが固定スリーブ管の帯状突起と係合した状態となり,回転出力軸の回転が削孔用具に伝達される。
削孔が進行すると,削孔用具と共に回転駆動部も固定スリーブ管に相対的に下降し,固定スリーブ管の下部に回転駆動部が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了される。この際,回転出力軸は,その下端に設けられた削孔用具と共に地中に貫入される。他方,固定部材は,固定スリーブ管の下端外周に嵌合したリングの外周に,互いに180°離間した位置から水平方向に伸びるように設けた一対の固定アームを備え,斜面に手掘りした係合溝によって係合される。固定スリーブ管は,リングと相対的に軸方向に所定の長さだけ摺動自在となっているが,リングの外周にある固定アームが係合溝と係合されているため,削孔が進んだとしても所定の長さ以上,地中に貫入することはない。
(3) 対比 以上の認定事実によれば,本件発明は,上記第2の2のとおり,引用発明は,上記第2の3(2)のとおりであって,本件発明1と引用発明との相違点は,上記の第2の3(3)のとおりであると認められ,この点は,当事者間に争いがない。
2 取消事由1 (1) 阻害要因の有無 ア 原告は,甲1の第1図には,回転駆動部8から下方に延びる非回転外筒が固定スリーブ管12に挿通される構成(実施例1)が記載され,甲1の明細書及び図面には,非回転外筒が設けられない構成(実施例2)が記載され,実施例1の非回転外筒は,回転駆動部8の機枠に一体的に垂下連結され,回転出力軸9に套嵌され,固定スリーブ管12を上下方向に自由に挿通するが,円周方向の回転は阻止されるから,本件発明1の固定ケーシングに相当すると主張し,実施例2のみ審理判断して,甲1文献に記載された固定スリーブ管12を本件発明1の固定ケーシングに対応させ,阻害要因があるとした審決の判断は誤りであると主張する。
イ 確かに,甲1の第1図に示された削孔装置7と第2図に示された削孔装 置7とは,一見すると全体形状が異なっている。
しかしながら,甲1は公開特許公報であり,甲1に掲載された図は,いずれも特許出願の願書に添付された図面に描かれたものであるところ,一般に,特許出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足りる。したがって,甲1の第1図も,当業者が削孔装置7の設置状況を理解するために必要な程度の正確さしか期待できず,同図が,削孔装置7に関して極めて簡略な記載であることを考慮すると,その具体的な構成を認識することは困難である。
そして,甲1の記載によれば,第1図は,あくまでも「本発明の削孔装置の設置状況説明図」(3頁,図面の簡単な説明)であり,甲1には,上記1(2)で指摘したとおり,第1図に関し,「本発明においては第1図に示すようにクレーン4を用い,このクレーン4のクレーンブーム5よりロープ6を介して削孔装置7を吊下し,この削孔装置7により削孔を必要とする斜面1に孔を設けるようにする。(2頁左上 」欄16行ないし20行)との記載があるだけで,これ以外に第1図に関する記載はなく,非回転外筒という記載もない。そうすると,第1図は,削孔装置7の設置状況(削孔装置7がクレーン4のクレーンブーム5からロープ6を介して吊り下げられる状況)を示すものであるが,掘削装置7の具体的な構成として非回転外筒という技術思想を示すものとはいえない。
ウ しかも,甲1の記載は,第1図が第2図及び第3図と異なる実施例を示すものではないことを示している。
すなわち,甲1には,上記1(2)で指摘したとおり,上記の第1図に関する記載に続けて, 「本発明の削孔装置7は第2図,第3図に示すようにクレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と,この回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9と,この回転出力軸9の下端に設けられたボタンビット等の削孔用具10と,前記回転駆動部8の外周に若干の間隙を介して嵌合されるよう前記回転駆動部 8の上部から前記削孔用具部分まで下方に延びる固定スリーブ管12と,この固定スリーブ管12の下端外周に例えば互いに180°離間した位置から水平方向に延びるように設けた一対の固定アーム13と,前記固定スリーブ管12の下部に設けた掘屑吐出口14と,前記固定スリーブ管12の内周面にその上端から所定ストローク長さだけ下方に延びるよう例えば互いに180°離間した位置で内方に突出して設けた帯状突起15と,この帯状突起15の側面に係合するよう前記回転駆動部8の外周面に互いに180°離間した位置で外方に突出するように設けたストッパー16とにより構成する。(2頁右上欄1行ないし20行)との記載があるが,こ 」こで言及されたクレーン4は,第2図及び第3図のいずれにも示されていないから,第1図に示されたクレーン4を指すと解するほかない。そうすると,ここで言及されたロープ6及び削孔装置7は,第2図に示されたロープ6並びに第2図及び第3図に示された削孔装置7だけでなく,第1図に示されたロープ6及び削孔装置7をも指すことが,文脈上明らかである。
以上のとおり,第2図及び第3図は,いずれも第1図に設置状況が示された削孔装置7の詳細を示すものであり,第1図に示された削孔装置7と第2図及び第3図に示された削孔装置7とは,同一の実施例を示すものであって,別個の実施例を示すものではない。そして,第2図及び第3図に示された削孔装置7は,回転駆動部8,回転出力軸9,削孔用具10,固定スリーブ管12,一対の固定アーム13,掘屑吐出口14,帯状突起15及びストッパー16により構成されるから,第1図においても,非回転外筒を備えているといえないことは明らかである。
エ 甲1の他の実施例を見ても,甲1には非回転外筒についての技術思想は示されていない。
すなわち,甲1には,上記1(2)で指摘したとおり,「本発明の他の実施例においては第4図,第5図に示すように一対の固定アーム13を固定スリーブ管12の下端部外周に嵌合したリング17の外周に固定し,このリング17の内周面に形成した凹溝18を固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19に係 合することによって前記リング17が固定スリーブ管12と相対的に円周方向には回動しないが軸方向には所定長さだけ摺動自在なるようにする。(2頁右下欄10 」行ないし18行)との記載があるが,第4図及び第5図に示された他の実施例の削孔装置7は,一対の固定アーム13を固定スリーブ管12に固定する構造が第2図及び第3図に示された削孔装置7と異なるだけであるから,回転外筒を備えていないことに変わりない。
オ また,甲1と甲2は,同一出願人の同日付けの特許出願に係る公開特許公報であるが,別個の発明に関する別個の刊行物であるから,一方の公刊物に記載されているからといって,他方においても,当然にその記載があることにはならない。したがって,甲2に非回転外筒が記載されているからといって,甲1にも非回転外筒が記載されていることにはならない。
カ 以上によれば,甲1の第1図は第2図及び第3図と異なる実施例を示すものではなく,甲1には非回転外筒は記載されていないから,原告の主張はその前提において失当である。
キ そして,甲1発明の回転駆動部8は,削孔の進行によって固定スリーブ管12に相対的に下降し,回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9は,その下端に設けられた削孔用具10と共に,削孔が進むに連れて孔の中に入って行くが,固定スリーブ管12は,削孔が進んでも孔の中に入ることはない。このように甲1発明の回転駆動部8に固定スリーブ管12を固定すると,回転駆動部8は,削孔の進行によって固定スリーブ管12に相対的に下降できなくなるから,削孔が不可能になる。したがって,甲1発明において固定スリーブ管12を回転駆動部8に固定することには阻害要因があるというべきであり,これと趣旨を同じくする審決の判断に誤りはない。
(2) 甲8の斟酌 ア 原告は,本件発明1の固定ケーシングに相当する部材(甲8の被覆管7)が掘削中に地中に貫入することにより,掘削中の孔壁崩壊を防止するという技術は, 周知技術であり,甲8を斟酌すると,甲1,2は相違点1に係る構成を表したものであるといえ,これを甲1発明に組み合わせることは,当業者にとって容易になし得ることであると主張する。
イ 甲8には,オーガ機の駆動部に固定した被覆管でスクリュウを保護したアースオーガ機が記載され(特許請求の範囲),被覆管7は,上端部8をオーガ機の駆動部9に固定され,その長さは,下端部10がスクリュウ1とヘッド2の結合部5までであり(2頁右上欄最終行から左下欄3行) 被覆管7の外壁面は削孔壁14 ,を保護しながら掘進する(2頁右下欄12から16行)ものである。
しかしながら,甲8は,昭和55年当時,孔壁崩壊を防止するために「被覆管」が公知であったことを示すものであるが,甲8には,明細書にも図面にもスクリュウヘッドが削孔した場合に受ける反力を何が受けるかについての記載はない。このことは,当時,一般的であったリーダが回転反力を受けることを前提に,その記載を省略したと解されるから, 「被覆管」が反力を受ける機能を果たすことが記載されているとはいえない。
(第2図) したがって,甲8は,甲1の固定スリーブ管12に反力を受ける機能を果たす役割を付加することを,当業者に示唆するものとはいえない。
ウ そして,甲1発明の固定スリーブ管12は,掘削された孔に貫入するものではないから,本件発明1の「固定ケーシング」が有するような孔壁崩壊防止機能はない。
すなわち,上記1(2)のとおり,甲1発明では,回転駆動部8が,削孔の進行によって固定スリーブ管12に相対的に下降し,固定スリーブ管12の下部に回転駆動部8が位置されるようになって削孔の1ストロークが完了されるから,回転駆動部8の中心から下方に延びる回転出力軸9は,その下端に設けられた削孔用具10と共に,削孔が進むに連れて孔の中に入って行くことになる。しかしながら,固定スリーブ管12は,その下端部外周に嵌合したリング17の外周に一対の固定アーム13が固定されており,固定アーム13は削孔地点の係合溝内に一対の固定アーム13が係合される。そして,リング17は,固定スリーブ管12と相対的に軸方向に所定の長さだけ摺動自在になっている。したがって,リング17の内周面に形成した凹溝18が,固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19の上端に達すると,それ以上は孔の中に入ることはなく,軸方向に所定長さだけ摺動自在にされていることに伴い,同所定の長さだけ地中に貫入できるが,削孔が進んでも,無制限に孔の中に入ることはない。
エ 甲2における非回転外筒11及び固定スリーブ管12のいずれも,掘削された孔に貫入されることは予定されていないから,本件発明1の「固定ケーシング」が有するような孔壁崩壊防止機能はない。
すなわち,甲2に記載された削孔装置7は,甲1発明と同様に,クレーン4のロープ6により吊下される回転駆動部8と,その中心から下方に延びる回転出力軸9と,その下端に設けられた削孔用具10とを有し(2頁右上欄5行ないし左下欄8行,第1図ないし第3図),回転駆動部8は,削孔の進行によって固定スリーブ管12に相対的に下降し,固定スリーブ管12の上端が回転駆動部8の下端に接するようになる直前で削孔の1ストロークが完了されるから(2頁右下欄10行ないし14行)回転出力軸9及び削孔用具10は, , 削孔が進むに連れて孔の中に入って行く。
これに対し,固定スリーブ管12は,その下端部外周に一対の固定アーム13が固定されていて(2頁右上欄16行ないし19行),その一対の固定アームは,削孔地点に設けられた係合溝と係合するから(2頁左下欄9行ないし19行) リング17 ,が固定スリーブ管12の外周に固定されている場合は,係合溝による抵抗により,孔の中に入ることはないし,仮にリング17が固定されない場合であっても(2頁右下欄下2行ないし3頁左上欄7行,第4図,第5図),リング17が固定スリーブ管12と相対的に軸方向に所定の長さだけ摺動自在になっているのであり,リング17の内周面に形成した凹溝18が,固定スリーブ管12の下端部外周に軸方向に設けた突出リブ19の上端に達すると,それ以上は孔の中に入ることはなく,せいぜい上記所定の長さ分地中に貫入するだけである(2頁右下欄19行ないし3頁左上欄11行)。
(注) 第1図,第4図,第5図は甲1と共通するので,ここでは第2図と第3図のみ示す。
第2図 第3図 このように,甲2に記載された削孔装置7の固定スリーブ管12は,掘削された孔に貫入するものではなく,孔壁の崩壊を防止する機能を有しない。
また,甲2に記載された削孔装置7は,さらに,回転出力軸9の外周に若干の間隙を介して嵌合され,回転駆動部8から所定ストローク長さだけ下方に延びる非回転外筒11を有する(2頁右上欄5行ないし左下欄8行,第2図,第3図)が,甲2には,非回転外筒11が孔の中に入る旨の記載はないし,その可能性を示唆する記載もない。しかも,甲2に記載された削孔装置7は,固定スリーブ管12の下部に掘屑吐出口14が設けられ(2頁右上欄19行ないし20行,第2図),削孔に伴う掘屑が固定スリーブ管12の下端開口より掘屑吐出口14を介して吐出される(2頁右下欄6行ないし9行)から,非回転外筒11を孔の中に入るほど長くすると,回転駆動部8から下方に延びる非回転外筒11は,掘屑吐出口14より上方から掘屑吐出口14を越え,固定スリーブ管12の下端開口も越えて更に下方にまで延びることになる。この場合,非回転外筒11は,固定スリーブ管12の内側から掘屑吐出口14を覆うから,固定スリーブ管12の下端開口と掘屑吐出口14との間が非回転外筒11によって遮断され,削孔に伴う掘屑を固定スリーブ管12の外に排出することができなくなり,削孔装置7の本来の機能である削孔機能を損なうことは明らかである。そうすると,非回転外筒11は,孔の中に入ることを前提としない部材といえる。
このように,甲2に記載された削孔装置7の非回転外筒11は,掘削された孔に貫入するものではなく,孔壁の崩壊を防止する機能を有しない。
オ そうすると,甲8を斟酌しても,相違点1に係る構成が甲1,2に記載されているとはいえず,甲2発明を甲1発明に組み合わせたとしても,本件発明1の相違点1に係る構成に想到しない。
(3) 以上によれば,原告の主張は理由がない。
3 取消事由2 (1) 原告は,本件発明1は,甲1発明に甲3記載の反力受桁及び一対の支持部材)を設けたものであるが,かかる構造は甲1発明にない利点を有するし,甲1発明に甲3記載の一対の支持部材を適用することは,従来技術に単に戻ることを意味 するだけであるから,阻害要因があるとした審決の判断は誤りである等と主張する。
(2) 確かに,甲3の施工方法図(図-2)を見ると,反力受桁が示されている。
しかしながら,反力受桁を指し示す矢印は,排泥ホースを一対となって囲む小さな部材を示しており,その一対の部材(反力受桁)の幅は,明らかにその下のケーシングの直径より狭い。したがって,反力受桁にケーシングを軸方向に挿通することは,物理的に不可能である。
なお,甲3に記載されている排泥ホースは,上記反力受桁を軸方向に挿通することはできるが,明らかにケーシングとは区別して記載されているし,掘削時の回転反力を受け止める機能を果たすか否かも不明であるから,甲1発明にいう固定ケーシングに該当するとはいえない。
したがって,甲3に記載された反力受桁は,本件発明1のケーシング回り止め部材に相当するとはいえないから,甲3発明を適用しても,本件発明1の相違点2の構成を想到できない。
(3) また,甲1発明の目的は,斜面状の地形部に基礎杭や山留め杭等を打ち込む目的で削孔をする場合にも,甲1の第6図に示すような仮設桟橋の構築や第7図に示すような斜面の段切り掘削を不要にすることである。そして,甲1発明は,仮設桟橋等を構築する必要がなく,いかなる地点にも極めて容易に削孔することができるという効果を奏する。
したがって,甲1発明に甲1の第6図に示す仮設桟橋のような構造を設けることは,従来技術に戻ることを意味し,技術的に不可能ではないものの,甲1発明の目的に反し,甲1発明が奏する効果を否定することになる以上,甲1発明に甲3記載の反力受桁等を設けることは阻害される。
(4) 以上によれば,原告の主張は理由がない。
結論
以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭