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関連審決 無効2013-800216
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事件 平成 26年 (行ケ) 10246号 審決取消請求事件

原告株式会社サカエ
訴訟代理人弁護士 今川忠
同 白木裕一
同 山田和哉
訴訟代理人弁理士 酒井正美
同 稲岡耕作
同 安田昌秀
被告コージ産業株式会社
訴訟代理人弁護士 鎌田邦彦
同 福本洋一
同 葉野彩子
訴訟代理人弁理士 西博幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2013-800216号事件について平成26年10月10日に した審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。) 被告は,平成23年7月25日,発明の名称を「棚装置」とする特許出願(特願2011-162246号。出願日を平成18年4月27日とする特許出願(特願2006-123085号。以下「本件原出願」という。)の分割出願。)をし,平成24年1月27日,設定の登録(特許第4910097号。請求項の数は2。)を受けた(以下,この特許を「本件特許」という。。
) 原告は,平成25年11月26日,特許庁に対し,本件特許の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2013-800216号事件として審理をし,被告は,平成26年2月14日,訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。特許庁は,同年10月10日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同月20日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲(請求項の数は2である。 の請求項1及 )び2の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1及び2に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」「本件発明2」といい,これらをまとめて「本件発明」とい ,う。また,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。甲42,56)。
「【請求項1】 4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって, 前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁 のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており,前記内壁の自由端部は傾斜部になっている,棚装置。
【請求項2】 4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって, 前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており,前記棚装置における内壁の自由端部は傾斜部になっており, 前記コーナー支柱は平面視L形であり,前記棚板の外壁が前記コーナー支柱にボルト及びナットで固定されており, 前記棚装置の連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されており,隣り合った連接部が互いに突き合わさっている,棚装置。」 3 審決の理由の要旨 (1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。その要旨は,本件訂正を認めた上で,@ 本件発明1は,本件特許の出願前に頒布された実開昭55-7470号のマイクロフィルム(甲1。以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び本件特許の出願前に頒布された実開昭50-47722号のマイクロフィルム(甲2。以下「甲2文献」という。)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)並びに本件特許の出願前に頒布された刊行物等である後記(2)の甲5,甲6,甲10,甲11の各文献に記載された周知技術,当業者に周知の事項,サルバニーニ社の機械を用いれば得られるものに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない,A 本件発明は,本件原出願の当初明細書 (甲4。以下「本件当初明細書」という。)に記載された発明であり,本件特許に係る分割特許出願は,適法な分割出願であって,その特許出願日は,原出願の出願日に遡及された平成18年4月27日と認められるから,原出願の公開公報(甲12)により新規性又は進歩性を欠く発明ではない,B 本件発明1は,本件特許の出願前に頒布された実開昭和58-102628号公報(甲13。以下「甲13文献」という。)に記載された発明(以下「甲13発明」という。,甲2発明,後記(2)の )甲5,甲6,甲10,甲11,甲14,甲15,甲18ないし甲22の各文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない,C本件発明2は,本件発明1を特定するために必要な事項を全て含むものであるから,本件発明1と同様の理由から,当業者が容易に発明することができたものではない,というものである。
(2) 上記各文献について ア 甲2:実願昭48-099995号(実開昭50-47722号)公報(以下「甲2文献」という。) イ 甲5:新しい板金加工ノウハウA 曲げ金型(アマダ板金加工研究会(1980年),発行所 マシニスト出版株式会社)(以下「甲5文献」という。) ウ 甲6:精密板金入門シリーズF 曲げ金型ABC(アマダ板金加工研究会(1983年),発行所 マシニスト出版株式会社)(以下「甲6文献」という。) エ 甲10:欧州特許出願公開第0475469号明細書(以下「甲10文献」という。) オ 甲11:2004年4月19日にサルバニーニ社で撮影された写真(以下「甲11文献」という。) カ 甲14:実願昭53-182958号(実開昭55-98808号)公報(以下「甲14文献」という。) キ 甲15:特開平7-293959号公報(以下「甲15文献」という。) ク 甲18:特開平7-148039号公報(以下「甲18文献」という。) ケ 甲19:特許第2630048号公報(以下「甲19文献」という。) コ 甲20:特開平9-299150号公報(以下「甲20文献」という。) サ 甲21:実用新案登録第3085306号公報(以下「甲21文献」という。) シ 甲22:特開平10-111707号公報(以下「甲22文献」という。) ス 甲26:2004年4月19日にサルバニーニ社で撮影された写真(以下「甲26文献」という。) セ 甲31:2014年2月28日に撮影された写真(以下「甲31文献」という。) (3) 審決が認定した甲1発明,甲13発明の内容,本件発明1と甲1発明,甲13発明との一致点並びに相違点は以下のとおりである。
ア 甲1発明 (ア) 内容 「4本の支柱15と,支柱15で支持された平面視四角形で鋼板製の棚板とを備えており, 棚板は,水平状に広がる天板1と天板1の長辺側に折り曲げ形成した側板2とを備えている棚装置であって, 棚板における側板2の先端は,天板1の側へ折り返された折立片3が,折立片3と側板2との間に中空部5があくように連成部4を介して一体に形成され,折立片3の先は,側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着され, 中空部の端部口に該端部口を密閉する側蓋と中空部内へ嵌入されるコ字形の嵌入部とを一体に連成してなる止金具を嵌め,さらにその上から棚板端面全体を被包する端蓋ケースを嵌合した 棚装置。」 (イ) 本件発明1との一致点 「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板 製の棚板とを備えており, 前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の辺に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって, 前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の端部は曲げられている, 棚装置。」である点 (ウ) 本件発明1との相違点(相違点1及び2) @ 相違点1 外壁が,本件発明1は,基板の「周囲」に折り曲げ形成したものであるのに対し,甲1発明は,「天板1の長辺側に折り曲げ形成した側板2」である点。
A 相違点2 内壁の連接部と反対側の端部が,本件発明1は,「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっているのに対し,甲1発明は, 「側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着されている」点。
イ 甲13発明 (ア) 内容 「4本の支柱10と,この支柱に係合され,ボルト及びナットで固定された棚板12とを備えており, 棚板12が,水平伏に広がる基板と,この基板の周囲に折り曲げ形成した周縁18とを備えているスチール棚であって, 周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である, スチール棚。」 (イ) 本件発明1との一致点 「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており, 前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって, 棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,一体に形成されている, 棚装置。」である点 (ウ) 本件発明1との相違点(相違点3) 棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,本件発明1は, 「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており,前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」のに対し,甲13発明の周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である点。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(相違点1に関する判断の誤り(本件発明1))について (1) 甲1文献の記載によれば,甲1文献には,棚板の曲げや撓みに対する強度を高めるために,長手方向(全長)に(天板と側板と連成部及び折立部で囲まれている)角形の中空部を形成する構成が開示されているといえる。
そして,一般に,金属製の組立式棚では,棚板は,横方向のみが相当程度の長さを有しているものに限らず,縦方向についても相当程度の長さを有しているものも存在し,縦横比がたとえば3:4程度の方形の棚板も多く用いられている。縦横双方が,共に相当程度の長さを有している場合には,横方向のみならず,縦方向にも同じように補強をすることが行われており,棚板は方形基板の四つの辺を同じ構造にして補強することが当業者にとって技術常識となっている。棚板基板の縁を折り曲げて中空部を形成することは,当業者であれば基板の一つの縁で行うことができ れば,その隣の縁でも全く同じように行うことができる。
よって,甲1文献に,横方向と同じように縦方向を補強することが記載されていなくても,当業者は,適宜,棚板製造の技術に基づいて,棚板基板の四辺に補強用中空部を設けることができたことは自明であるから,甲1文献に四辺を補強すること(二重構造とすること)につき記載のみならず示唆もない旨の審決の判断には,誤りがある。
(2) 仮に,審決の認定のとおり,甲1発明に四辺を補強すること(二重構造とすること)につき甲1文献に記載も示唆もないとしても,当業者は,甲1発明と甲2文献,甲24公報,甲25公報及び甲13文献等に記載された周知技術(四辺を二重構造とすること)を組み合わせることは,容易であったというべきである。
本件発明における「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性を高め棚装置全体としてより頑丈な構造を作ること」(本願明細書の段落【0014】参照)という解決課題は,棚板全般にあてはまる課題事項であり,当業者にとって周知な技術であったといえる。また,甲2文献等に記載された上記周知技術(四辺を二重構造とすること)は,甲1発明と同一の技術分野に属する金属製棚板に関するものである。
そうすると,甲1発明において,甲2文献等に記載の周知技術を適宜適用して(組み合わせて),四辺を補強する(二重構造とする)構成にすることについて,当業者は容易に想到することができたといえる以上,相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得なかった旨の審決の判断には誤りがある。
2 取消事由2(相違点2に関する判断の誤り(本件発明1))について (1) 甲1発明は,従来の側板をコ字形に曲げる構成では強度的に弱いので側板を角形の中空部を形成するように曲げる構成を採用したものであるところ,金属板の端部を角形等の中空部を形成するように曲げる加工は, 「クロージング」加工として周知であるといえる(甲5,6)。
当業者は,甲1文献に記載された曲げ加工の形状(側板2と反対側へ延びるように曲げられ天板内面へ溶接により接着されている形状)に接した場合,通常,加工 時間及び材料費を減少させるために,溶接による接着部分を削除し,また,内壁の自由端部の幅寸法を大きくして棚板全体の強度を高めたいと考える。すなわち,溶接部分をなくすべく曲げ加工の先端部を天板内面に接着しているところまで伸ばさず,内壁の自由端部の幅を増やすために,側壁2方向に曲げ傾斜部とすることは,当業者にとって適宜選択しうる構成であるといえる。
そして,溶接による接着作業の省略や内壁の自由端部の幅寸法の大きくするといった,棚板製作において共通する一般的課題に直面した場合,当業者は,適宜,甲5文献及び甲6文献等の教科書に記載されたクロージング加工,また,サルバニーニ社の機械によって得られる形状,とりわけ,全世界のエンドユーザーに対してサンプルとして提供されている曲げ加工の形状(甲11文献及び甲31文献の写真参照)の中から,先端部を天板内面に接着しているところまで伸ばさず,側壁2方向に曲げ傾斜部とする構成を選択することは,自明であるといえる(甲29,34)。
したがって,甲1文献には,クロージング加工による曲げ形状としての甲11文献及び甲31文献に示された周知の曲げ形状を適用することの動機付けが存在する。
(2) また,クロージング加工(甲5,6)やサルバニーニ社の機械によって得られる金属板の曲げ形状(甲11,31)は,棚板外壁のものではないとしても,棚板外壁への適用が示唆されたものであることは明らかである。
(3) 審決は,甲1発明の構成を本件発明1の「自由端部」とすることにより,強度の面で不利なことも考えられると指摘するが,むしろ,自由端部にした上で,内壁の自由端部を傾斜部と幅寸法を大きくして内壁の剛性を高め,曲げやねじれに対して強度を高められることに鑑みれば,甲1発明の構成から本件発明1の自由端部がある構成にすることで棚板全体の強度が強くなるというべきである。
また,上記自由端部を設けることで仮に棚板の一部の強度が弱くなったとしても,強度低下の影響は,さほど大きいものではない。むしろ,自由端部とすることで接着作業の負担の削除などによって得られるメリットが大きくかかるメリットを優先して甲1発明に自由端部を設けることも当業者として適宜行いうることである。
(4) 仮に,審決の認定のとおり,甲1発明の構成に甲11文献,甲31文献等の曲げ加工技術を適用することの動機付けの存在が認められないとしても,当業者は,本件発明の課題や技術分野を考慮すれば,甲1発明と,甲5文献,甲6文献,甲11文献及び甲31文献等に記載された周知技術(曲げ加工技術)を組み合わせることは,容易であったというべきである。
(5) 以上によれば,甲1発明の構成に周知技術(内壁である自由端部が傾斜部となる曲げ加工)を適用することにつき,当業者は,甲5文献,甲6文献,甲11文献,甲31文献等に記載された周知技術を適宜適用して(組み合わせて)想到できたといえる以上,相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得なかった旨の審決の判断には誤りがある。
3 取消事由3(相違点1及び2に関する判断の誤り(本件発明2))について 上記1,2において主張したとおり,本件発明 1 は,先行技術により当業者が容易に発明することができたものであるから,本件発明1にさらに限定を加える本件発明2についても,同様の理由で当業者が容易に発明することができたものではない旨の審決の判断は,その前提に誤りがある。
そして,甲1発明に,甲2発明や甲31文献記載の曲げ加工等の周知技術を適用すれば,本件発明2において,上記限定となる構成を具備することになり甲1発明との相違点が解消されることになることから,甲1発明に先行技術を適用して当業者が容易に想到し得る。
したがって,本件発明2に係る審決の判断には誤りがあり,本件発明2の進歩性の有無の判断に影響を及ぼすものである。
4 取消事由4(分割要件に係る判断の誤り)について (1) 本件原出願当時,棚装置としてL形の支柱を棚板の外壁にボルトで固定したもののほか,パイプ状の支柱を棚板に固定するものや逆U字形の支柱を棚板に固定するものが,当業者にとって周知であることを裏づける客観的な資料も合理的な根拠も存在しない。
(2) また,パイプ状の支柱を棚板に固定するもの(甲36)や逆U字形の支柱を棚板に固定する構成(甲37)まで含む「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で指示された平面視四辺形で金属板製の棚板」までもが,本件当初明細書に含まれると解釈することはできない。
ア 本件当初明細書の請求項1は,「外壁の端部をコーナー支柱の側板と棚板の外側の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両側をボルトで締結する」 及び , 「前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には,位置決め突起を,他方には,前記位置決め突起がきっちり嵌る位置決め穴を設けている」を必須の構成としているから,「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」が本件当初明細書記載の範囲に含まれると解釈することはできない。
イ 本件当初明細書の背景技術の記載からも明らかなように,本件原出願の発明の対象は,L字型のコーナー支柱にボルトで棚板を締結したタイプであり,かつ,棚板の外壁をコーナー支柱と金具(ボルト及びナット)で直接に固定(締結)するタイプに限定されているから,そもそも,本件原出願の発明において,L字型のコーナー支柱にボルトで棚板を締結したタイプであり,かつ,棚板の外壁をコーナー支柱とボルト及びナットで挟み直接締結(固定)するタイプ以外の構成が含まれないことは,当業者にとって自明である。
ウ さらに,本件当初明細書の【課題を解決する手段】の段落【0008】の記載からは,本件原出願の発明の対象が外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している構成を具備しており,かつ,コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちりと嵌る位置決め穴を設けている構成を具備していることが必要不可欠な構成であることを明らかにしている。
エ 仮に,当業者にとって周知な技術であっても,本件当初明細書の請求項1の記載に明らかに反する発明(技術)や本件当初明細書の背景事情欄や解決課題欄に おいて明確に排除されている構成まで本件原出願の発明に含まれていると解釈することはできない。
「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で指示された平面視四辺形で金属板製の棚板」が,本件当初明細書の発明の範囲に含まれるとした審決の判断には誤りがある。そして,本件発明2についても,本件発明1と同様の構成を具備していることが必要不可欠である以上,審決に対する上記批判は同様にあてはまる。
(3) 以上のとおり,本件特許に係る分割特許出願は,本件当初明細書の技術的範囲に含まれない発明が含まれていることから,本件原出願との関係において「二以上の発明を包含する特許出願」から分割した「新たな出願」に該当しない不適法な分割出願と評価せざるを得ない。よって,本件特許については,出願日の遡及効(特許法44条2項)が得られず,本件特許には,新規性を欠く無効理由がある。
したがって,これに反する審決の判断には誤りがある。
5 取消事由5(相違点3に関する判断の誤り(本件発明1))について (1) 甲13発明と甲2発明の組合せについて 甲2文献の記載によれば,甲2文献に,外壁と内壁との間に中空に構成した棚板において内壁の自由端部を外壁に向って延びるように曲げている構成が開示されていることは明らかである。そして,甲2文献には,内壁の自由端部の形状について,内壁と自由端部が垂直である構造以外は含まれない旨の記載は一切認められない。
むしろ,外観の内壁の自由端部の幅寸法を大きくして棚板全体の強度を高めつつ,人の指先が周の内壁の内面に触れてもエッジで傷がつかないよう配慮を行えば,内壁と自由端部を垂直に構成するよりは,自由端部と内壁が傾斜をもって接続する構成の方が望ましい。よって,外壁と内壁との間に中空に構成した棚板において内壁の自由端部を外壁に向って延びるように曲げている構成が開示されている場合には,当業者は,適宜,傾斜部となる自由端部を設けることができるというべきである。
したがって,甲2文献には「傾斜部」に相当するものが記載されていないとの審決の認定には誤りがある。
(2) 甲13発明に曲げ加工に関する周知技術を適用することについて そもそも,曲げ加工とは,板状の材料又は棒状の材料を折り曲げて目的の形状に加工することをいうから(甲38),甲13発明の棚板についても曲げ加工そのものであるといえる。
甲5文献及び甲6文献は,板金加工全般で利用される曲げ加工の教科書的文献であって,これらに記載された技術は,曲げ加工が必要となるメーカー全般にとって当然に日々使用されるものである。また,当業者において,同じ金属板の曲げ加工技術(甲15,19,20)を適用して棚板の外壁,内壁及び傾斜部となる自由端部を作り出すことは,十分に想定されることである。
したがって,甲5文献及び甲6文献記載の曲げ加工及び甲15文献,甲19文献,甲20文献記載の曲げ加工は,棚板外壁のものでも棚板外壁への適用を示唆されたものではない旨の審決の判断は,合理性を著しく欠く。
また,甲13発明においては,棚板の周縁(外壁)を折り曲げ加工し,二重構造とすることでアングル部材(支柱)を強固に固定する方法が明確に開示されているが,この構造のままであると,周縁18が十分にアングル部材(支柱)を支えきれず,棚全体の強度が弱いばかりか,また,この周縁部の先端部(エッジ)に棚利用者の指先が触れた場合には,指が傷つくおそれが生じる。そこで,当業者においては,周縁18がアングル部材(支柱)のより安定的に固定することで棚板全体を強固にし,また,人の指先が周の内壁の内面に触れてもエッジで傷がつかない曲げ加工を選択したいとの動機が生じる。そして,当業者がこのような動機を有する場合には,外壁と内壁の間に傾斜部となる自由端部を有するような曲げ加工,例えば,ヘミング潰し構造などの曲げ加工(甲5,6,15,19,20)を適宜適用することは,自明である。
よって,甲13発明の周縁18の構成を,これらの曲げ加工変更することを示唆する記載がない旨の審決の判断内容は,事実誤認であり失当である。
さらに,少なくとも,甲2文献は,相違点3の「内壁のうち前記連接部と反対側 の自由端部は前記外側に向って延びるように曲げられており,前記内壁の自由端部は傾斜部となっている」構成をも開示しているのであるから,甲2発明と甲13発明とを組み合わせたところで本件発明の相違点3に係る構成を想到することができないという審決の判断内容も事実を誤認するものであり,失当である。
(3) 甲13発明にプレス機の形状選択を適用することについて 当業者において,甲13発明の周縁18がアングル部材(支柱)をより安定的に固定することで棚板全体を強固にし,また,人の指先が周の内壁の内面に触れてもエッジで傷つかない曲げ加工を行いたいとの動機を有する場合,適宜内壁を外壁の方に伸ばし,自由端部を作りつつ,かつ,その自由端部の幅寸法を大きくすべく傾斜した構成にする曲げ加工,すなわち,甲11文献の写真における構成をとることは当然の帰結である。
よって,甲13発明の周縁18の構成に対し,甲11文献の写真の構成にすること(曲げ加工)を起因(動機)づける記載がない旨の審決の判断は誤りである。
(4) 甲13発明と甲14文献記載の発明の組合せについて 甲14文献の第2図には,明確に相違点3と同様の構造が示されているものの,当該部分の技術的意義を明確に説明した記載はない。
しかし,甲14文献に記載された発明は,整理棚のグラツキが生じないことを主要な課題としており,第2図記載の構造(内壁,外壁の二重構造に加え,内壁の先端部と傾斜部である自由端部になっている構造)が当該課題解決を図るための構造であることは当業者において容易に把握し得る。また,棚板制作に当たり,内壁の先端(エッジ)等でエンドユーザーがけがをしないようにすることや棚板全体のグラツキを防止することは棚板一般に共通する課題であることから,甲14文献の第2図記載の構造がこれらの課題解決に向けた構造であることは,当業者であれば容易に認識し得る。よって,甲14文献の第2図記載の構造は,考案の課題や作用効果等の各文言や当業者の技術常識に鑑みれば,その技術的意義は,開示されているというべきである。
そうすると,甲14文献の第2図は,相違点3と同様の構造が示されているものの,そのように読み取れるものが図示されているにすぎないのであり,当該部分の技術的意義を説明する記載がない旨の審決の判断は誤りである。
また,甲13発明の周縁18の構成に対して,甲14文献の第2図の構成にすること(曲げ加工を行うこと)を起因(動機)付ける記載がない旨の審決の判断も誤りである。
(5) 甲13発明と甲15文献記載の発明の組合せについて 当業者において同じ金属板の曲げ加工技術が開示された甲15文献記載の曲げ加工(ヘミング潰し)を適用して,棚板の外壁,内壁及び傾斜部となる自由端部を作り出すことは,十分に想定される。
甲13文献に直面した当業者において,上記(3)と同様の動機を有するに至った場合,甲15文献記載の発明のヘミング潰し構造に変更することは当然である。
甲13発明の周縁18の構成に対して,甲15文献記載の発明のヘミング潰し構造にすることを起因(動機)付ける記載がない旨の審決の判断は誤りである。
(6) まとめ 以上によれば,本件発明1は,甲2,甲5,甲6,甲10,甲11,甲13ないし甲15,甲18ないし甲22の各文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたことは明らかであるから,これに反する審決の判断には誤りがある。
6 取消事由6(相違点3に関する判断の誤り(本件発明2))について 前記のとおり,本件発明1は,当業者が容易に発明することができたことは明らかであり,同様の理由で,本件発明2についても当業者が容易に発明することができたことが明らかであるから,これに反する審決の判断には誤りがある。
被告の主張
1 取消事由1(相違点1に関する判断の誤り(本件発明1))について (1) 甲1発明は,角形の中空部5と止金具6と端蓋ケース7を不可分一体の必須 の構成とし「端部口に止金具及び端蓋ケースを一体に嵌合して薄板鋼板の補強と取付強度の増大を図った」ものであり,このような棚板と支柱の固定方法をとらない甲2発明等の引例と組み合せるべき動機付けはない。甲1文献には,棚板一般において,補強手段として基盤の縁を折り曲げて中空部を形成することなどは開示されていない。
甲5文献,甲6文献,甲10文献,甲11文献,甲31文献等についても,棚装置に関するものではなく,甲1発明と組み合せるべき動機付けはないし,相違点1に係る構成は開示されておらず,原告のいう曲げ加工の周知の形状は存在しない。
さらに,甲1発明は,構造上も目的上も,本件発明1の「水平状に広がる基板とこの基板の周囲」すなわち四周に「折り曲げ形成した」外壁を備える構成を採ることはできないから,甲1発明を,外壁が四周に設けられた箱状の棚板に変更しようとするには阻害要因があるといえる。
よって,相違点1について,甲1発明,甲2発明と甲5文献等に記載された周知技術,当業者に周知の事項,サルバニーニ社の機械を用いれば得られるものに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,本件発明における課題は,棚板全般にあてはまる周知な課題事項である旨主張する。
しかし,上記各文献に四辺を二重構造とする周知技術が記載されているわけではないことはその記載内容等から明らかであるから,原告の主張は誤りである。
2 取消事由2(相違点2に関する判断の誤り(本件発明1))について (1) 原告のいう曲げ加工の周知の形状なるものは存在しないし,甲5文献,甲6文献,甲10文献,甲11文献,甲26文献,甲31文献等には,相違点2にかかる構成は開示されていない。さらに,前記のとおり,甲1発明において相違点2にかかる構成は採ることはできず,阻害要因があるといえる。
よって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,甲1発明の構成に甲11文献等の曲げ加工技術を適用する動機付けがあると主張する。
しかし,甲1発明は,側板を角形の中空部を形成するように曲げる構成によって側板の強度を補強しようという技術を開示するものではない。
また,甲5文献及び甲6文献に記載されているものは,そもそも棚装置の棚板の外壁と内壁の形状ではないし,単なる曲げの形状としても,相違点2にかかる構成と同様の形状のものは一切ない。甲11文献及び甲31文献にある写真は,そもそも証拠価値が低いし,示されている金属板の曲げ形状は,棚板外壁のものではなく,棚板外壁への適用が示唆されたものでないことは明らかである。
甲1発明は,折立片3の上端の折曲縁3a を天板内面に溶接により接着することで強固に固定しているのであり溶接による接着部分を削除することなどあり得ないし,折立片3の上端の折曲縁3a は天板内面への溶接と角形の中空部5への止金具6の嵌め込みのために内向きに設けられて天板に接着されているのであるから,原告の主張するように内壁の自由端部の幅寸法を大きくするようなこともあり得ない。
また,単に自由端部を設けることより甲1発明のように折立片3の上端の折曲縁3a を天板内面に溶接により接着する方が強固であることは論ずるまでもなく明らかである。さらに,甲1発明は,折立片3の上端の折曲縁3a をわざわざ天板内面に溶接により接着することで強固に固定しているのであり,溶接による接着部分を削除することなどあり得ない。
よって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,甲1発明に適宜甲11文献等の曲げ加工技術を適用し得ると主張する。しかし,甲5文献,甲6文献,甲11文献及び甲31文献が,棚装置の棚板の形状,しかも「内壁である自由端部が傾斜部となる曲げ加工」なる「周知技術」を示すものでないことは明らかであるから,原告の上記主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点1及び2に関する判断の誤り(本件発明2))について 本件発明2は,本件発明1にさらに限定を加えるものであるところ,前記のとお り,本件発明1は甲1発明等の先行技術に基づいて容易に想到し得ないものであるから,本件発明2も容易に想到し得ないものであることは明らかである。
4 取消事由4(分割要件に係る判断の誤り)について 原告は,本件当初明細書には, 「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で指示された平面視四辺形で金属板製の棚板」を含んでいると解釈することはできず,分割要件違反があると主張する。
しかし,本件当初明細書には,実施例として明記された「平面視で直交した2枚の側板を有するコーナー支柱」と「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する構成」に限られず, 「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板」を備えた棚装置において本件発明1の外壁及び内壁の構成を有するものも記載されていたといえることは明らかであり,本件発明には分割要件違反はない。
なお,本件原出願当時,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置としては,L字形の支柱を棚板の外壁にボルトで固定したものに限られず,パイプ状の支柱を棚板に固定するものや逆U字形の支柱を棚板に固定するものなども周知であった(乙1ないし3)。
よって,審決の分割要件に係る判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
5 取消事由5(相違点3に関する判断の誤り(本件発明1))について (1) 甲13発明と甲2発明の組合せについて 甲13発明と甲2発明を組み合わせるべき動機付けはないし,甲13発明において相違点3に係る構成を採用するには阻害要因がある。また,甲2発明は,相違点3に係る構成を備えておらず,仮に甲13発明と甲2発明を組み合わせたとしても,本件発明1に至ることはない。
また,甲2文献には,傾斜部に相当する構成も開示されていないので,これを前提とする原告の主張は理由がない。
(2) 甲13発明に曲げ加工に関する周知技術を適用することについて 原告の主張する曲げ加工に関する周知慣用技術なるものはその内容が曖昧で特定できない。その根拠とする甲5文献,甲6文献,甲15文献,甲19文献及び甲20文献は,そもそも棚装置に関するものではなく,当然ながら,棚装置の棚板の外壁と内壁の形状に関するものでもないから,甲13発明と組み合わせるべき動機付けもこれらの中から特定のものを選択して甲13発明と組み合わせるべき動機付けもないし,相違点3にかかる構成を備えるものでもない。
また,甲2文献,甲1文献及び甲15文献に記載されたものは,原告のいう曲げ加工に関する周知慣用技術の例ではない上に,相違点3にかかる構成を備えるものでもない。また,甲13発明と組み合わせるべき動機付けもこれらの中から特定のものを選択して組み合わせるべき動機付けもない。さらに,甲13発明において相違点3にかかる構成を採用するには阻害要因がある。
(3) 甲13発明にプレス機の形状選択を適用することについて 甲10文献,甲21文献及び甲22文献に記載されたものは,曲げ加工機等に関するもので,棚装置に関するものではない。また,その形状も,棚装置棚装置の棚板の外壁と内壁の形状に関するものでもない上に,形状としても相違点3にかかる構成に近似したものはない。
甲11文献は,公知性のある刊行物ではなく,証拠価値がなく,写真の被写体が出願以前に存在していたことも公知であったことも認めることはできない。また,甲11文献の被写体は,棚装置に関するものではなく,また,形状としても相違点3にかかる構成を備えるものではない。
甲13発明とこれらを組み合わせるべき動機付けもこれらの中から特定のものを選択して甲13発明と組み合わせるべき動機付けもまったくない。
また,甲13発明において相違点3にかかる構成を採用するには阻害要因がある。
(4) 甲13発明と甲14文献に記載された発明の組合せについて 甲14文献記載の発明は,特殊な構造の棚板であり,課題も作用効果も相違し,甲13発明と組み合せるべき動機付けはない。
また,甲14文献記載の発明は相違点3にかかる構成を備えていない。
甲14文献には,第2図のカール部の技術的意義について何の記載もなく,たまたま形状としては似ているように見えるものが図示されているにすぎず,技術的意義をもった構成が開示されているということはできない。
甲13発明において相違点3にかかる構成を採用するには阻害要因がある。
(5) 甲13発明と甲15文献に記載された発明の組合せについて 甲15文献に記載された発明は,レンジフードファンの油受けコーナーの補強構造にかかるもので,棚装置にかかるものではなく,甲13発明に組み合わせるべき動機付けはない。また,甲15文献には相違点3にかかる構成は開示されていない。
甲13発明において相違点3にかかる構成を採用するには阻害要因がある。
(6) まとめ 以上によれば,相違点3に関する審決の判断に誤りはない。
6 取消事由6(相違点3に関する判断の誤り(本件発明2))について 前記のとおり,本件発明2は,本件発明1にさらに限定を加えるものであるところ,本件発明1は甲13発明等の先行技術に基づいて容易に想到し得ないものであるから,本件発明2も容易に想到し得ないものであることは明らかである。
よって,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告の取消事由2ないし6の主張はいずれも理由がなく,取消事由1について判断するまでもなく,審決にはこれを取り消すべき違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件発明1の要旨 本件明細書によれば,本件発明1は,次のとおりである(図面については,別紙本件明細書図面目録参照)。
本件発明1は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである(【0001】。
) 従来から,物品を保管したり持ち運んだりするのに平面視四角形でオープン方式の棚装置が多用され,この棚装置の一種に,平面視四角形の棚板を平面視L形のコーナー支柱にボルトで締結したタイプがあり,このタイプでは,棚板の周囲に,コーナー支柱の内面に重なる外壁を折り曲げ形成しているが,本件発明1は,棚板の剛性を高くして全体としてより頑丈な構造となる,より改善された形態の棚装置を提供することを課題とするものである(【0002】【0008】 【0014】。
, , ) 本件発明1は,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,内壁のうち連接部と反対側の自由端部は外壁に向かって延びるように曲げられており,内壁の自由端部は傾斜部になっている,という構成により,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができるという効果を奏するものである(【0009】【0010】【0014】。
, , ) 2 取消事由4について 事案の内容に鑑み,まず取消事由4について判断する。
(1) 原出願当初明細書の記載 本件当初明細書(甲4)には次の記載がある。
「【請求項1】 複数本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており,前記コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している棚装置であって, 前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている,棚装置。
【請求項2】 前記ボルトは頭がコーナー支柱の外側に位置するように配置されており,棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており, 更に,前記コーナー支柱の側板に位置決め突起が突き出し形成され,棚板の外壁に位置決め穴が空けられている,請求項1に記載した棚装置。」 「【技術分野】 【0001】 本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。 ・ ・ 」 ・ 【0002】 物品を保管したり持ち運んだりするのに平面視四角形でオープン方式の棚装置(スチール棚)が多用されている。この棚装置の一種に,平面視四角形の棚板を平面視L形のコーナー支柱にボルトで締結したタイプがあり,このタイプでは,棚板の周囲には,コーナー支柱の内面に重なる外壁を折り曲げ形成している。」 「【0007】 ・・・より改善された形態の棚装置を提供することを課題とするものである。」 「【0011】 本願発明では,コーナー支柱と棚板とは位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる。この場合,突起及び穴とも加工は簡単であるためコストが嵩むことはない。
【0012】 また,位置決め突起と位置決め穴との間を相対動させるような外力が作用してもそれら位置決め突起が潰れたり位置決め穴の箇所か破断したりすることはないため,高いガタ付き防止機能(締結強度)を発揮することができる。・・・」 「【0013】 請求項2のように構成すると,内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができ,また,ナットは内壁と外壁との間の空間に隠れているため,体裁が良いと共にナットに物品が引っ掛かることも防止できる。また,一般に,棚装置ではコーナー支柱は棚板よりも厚いため,押し出し加工によってコーナー支柱に高い強度の位置決め突起を形成することができ,このため,棚装置の剛性を高める上で好適であると言える。」 「【0015】 (1).第1実施形態(図1〜図3) 図1〜図3では第1実施形態を示している。本実施形態はワゴンタイプの棚装置に適用しており,図1の斜視図で棚装置の概略を示している。棚装置は,平面視で直交した2枚の側板1aを有する4本のコーナー支柱1と,コーナー支柱1の群の間に配置座された上中下3段の棚板2と,各コーナー支柱1の下端に取り付けたキャスター3とから成っている。コーナー支柱1は,帯鋼板を折り曲げて製造することもできるし,市販されているアングル材を使用することも可能である。
【0016】 棚板2は,水平状に広がる平面視四角形の基板4と,基板4の各辺から上向きに立ち上がっている外壁5と,外壁5の上端に連接した内壁6とから成っており, ・ ・ 」 ・ 「【0018】 棚板2の外壁5の端部はコーナー支柱1の側板1aの内面に重なっており,両者がボルト7及びナット8で締結されている。・・・」 「【0021】 ・・・棚板2の内壁6は外壁5から離反しており,このため,外壁5と内壁6との間にはナット8及びボルト7の端部が隠れる空間が空いている。内壁6のうち外壁5に繋がる連接部11は本実施形態では略平坦状の姿勢になっている。他方,内壁6の下端部(自由端部)6aは,外壁5に向けて傾斜した傾斜部になっている。
なお,棚の連接部11の各端部は平面視で45度カットされて傾斜しており,隣り合った連接部11が互いに突き合わさっている。」 「【0025】 (3).他の実施形態(図5) 図5では棚板2の断面形状の別例を示している。このうち(A)に示す例では,内壁6の連接部11を上向き凸の半円状に形成している。」 (2) 本件当初明細書に開示された内容 上記(1)の記載によると,本件当初明細書には,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものであり 【0001】, ( ) より改善された形態の棚装置を提供することを課題として(【0007】,4本のコーナー支柱と,コーナー支柱で支持さ )れた平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており(請求項1,2,【0001】,【0015】【0016】 ,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構 , )造とするため,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており(【0013】,具体的には,棚板における外壁の先端に,基板の側 )に折り返された内壁が,内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,内壁の自由端部である下端部は外壁に向けて傾斜した傾斜部になっている(【0016】【0021】,との構成(以下「構成1」という。
, ) )とすることを技術的特徴とする発明が記載されている。
また,本件当初明細書には,コーナー支柱は平面視L形であり,棚板の外壁がコーナー支柱にボルト及びナットで固定されており,棚装置の連接部は上向き凸の半円状に形成されており,隣り合った連接部が互いに突き合わさっている 【0002】 ( ,【0015】, 【0018】, 【0021】, 【0025】, ) との構成も記載されている。
そうすると,本件発明は,前記第2,2のとおりであるから, 「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成を含む本件発明の全ての構成が本件当初明細書に記載されていると認められる。
(3) 原告の主張について 原告は,本件当初明細書の請求項1等は,「外壁の端部をコーナー支柱の側板と棚板の外側の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両側をボルトで締結する」及び「前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には,位置決め突起を,他方には,前記位置決め突起がきっちり嵌る位置決め穴を設けている」を必須の構成としているから,「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で指示された平面視四辺形で金属板製の棚板」が本件当初明細書の発明の範囲に含まれると解釈することはできない旨主張する。
確かに,本件当初明細書には,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善することを目的として(【0011】【0012】,コーナー支柱は平面視で交叉した2 , )枚の側板を備えている一方,棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している棚装置であって,コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている(請求項1,2),との構成が開示されていることが認められ,本件原出願の請求項に係る発明においては,コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えているものであること,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結しているものであること,及び,コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けているものであること(以下「構成2」という。 が, )その必須の構成となるといい得る。
しかし,本件当初明細書には,上記のとおり,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするとの作用効果を奏する構成1が記載されているのであるから,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善するための解決手段としての構成2が本件原出願の請求項に係る発明の必須の構成であるとしても,これは,本件原出願の請求項に係る発明の技術思想についてのものにすぎない。また,構成2は,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするとの作用効果を 奏するために必須の構成であるとはいえず,構成1と技術的に一体不可分な関係にあるものとも認められない。
そして,本件当初明細書には, 「複数本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており,」 (請求項1, , 2)「本願発明は,コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。 と記載 」されているとおり(【0001】,本件初明細書に記載された発明は,コーナー支柱 )の形状やコーナー支柱と棚板との締結態様について特段限定のない発明であると解される。
そうすると,本件発明が,本件原出願の請求項に係る発明(構成2)において記載されていないからといって,本件当初明細書に記載されていないということはできない。
また,本件当初明細書の記載から, 「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成について,当業者によって発明の実施形態として想定することができないということもない。
したがって,本件当初明細書には,本件発明が記載されていると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば,本件発明は,特許法44条1項所定の要件を充足するものであると認められ,分割要件違反があるとはいえないから,本件特許に係る分割出願は,適法な分割出願であって,その特許出願日は,本件原出願の出願日である平成18年4月27日に遡及すると認められるから,本件原出願の公開公報(甲12)に記載された発明又は進歩性を欠く発明であるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。
3 取消事由2,3,5及び6について 取消事由2,3,5及び6は,いずれも刊行物等に記載された発明(曲げ形状)に関するものであるところ,事案の内容に鑑み,上記取消事由を併せて判断することとする。
(1) 甲1発明について ア 甲1文献には次の記載がある(図面については,甲1文献図面目録参照)。
「2 実用新案登録請求の範囲 長方形天板の左右両側の長手方向全長に,天板と側板と連成部及び折立片とで囲まれる角形の中空部を形成し,その端部口に該端部口を密閉する側蓋と中空部内へ嵌入されるコ字形の嵌入部とを一体に連成してなる止金具を嵌め,さらにその上から棚板端面全体を被包する端蓋ケースを嵌合したことを特徴とする棚板構造。 (1 」頁3行目から同頁10行目) 「本考案はスチール製組立棚用の棚板に関し,棚板となる長方形天板の左右側板を折り曲げにより該部の長手方向に角形の中空部を形成し,端部口に止金具及び端蓋ケースを一体に嵌合して薄板鋼板の補強と取付強度の増大を図ったものである。」(1頁12行目から同頁16行目) 「1は鋼板製の長方形天板であり,その左右両側には側板2,2が折り曲げにより一体に成形される。(1頁18行目から19行目) 」 「3は左右側板2,2の下縁部に連成部4を介して内方上向きに折り曲げした折立片であり,この折立片3の上端に折曲縁3aを内向きに設けてそれを天板内面へ溶接により接着させる。このようにすると天板1の左右両側に天板1と側板2と連成部4及び折立片3とで囲まれた角形の中空部5がその全長に形成される。 (2頁 」1行目から同頁7行目) 「6は中空部5の端部口5aに嵌められる止金具であり,端部口5aを密閉する側蓋6aと中空部5内へ嵌入されるコ字形の嵌入部6bとを一体に有するよう鋼板にてつくられる。(2頁7行目から同頁10行目) 」 「7は端蓋ケースであり,前記同様鋼板にてつくられ,止金具6を嵌めた上で棚板の端部に嵌合されるものである。(2頁11行目から同頁13行目) 」 「角形中空部5の端部口5aに止金具6を嵌めると,ねじ孔8と透孔9が合致するからこれにビス10を挿通して螺締すれば端部口5aは側蓋6aで密閉されると 共に端部口5aの奥の角形中空部5はコ字形嵌入部6bの嵌合で嵌合部が2重となって補強される。さらにその上から端蓋ケース7を嵌めて透孔13よりビス14を挿通し,ねじ孔12に螺締すれば棚板と止金具及び端蓋ケースの三者が一体化する。」(3頁7行目から同頁15行目) 「従来の鋼板製棚板は側板をコ字形に曲げただけのものが一般的であったから,重量物を載せると棚板が曲がったり,撓んだりして強度的に非常に弱い欠点があり,その為これを補強する為に天板の内面にコ字形の補強材を溶接により接着することが行われているのであるが, ・・・棚板を取付ける部分の強度が弱い為に・・・欠点があった。(4頁10行目から同頁20行目) 」「本考案はこのような従来の欠点に鑑みこれを改良したものであって, ・・・天板の左右長手方向の全長に ・ 角形の中空部を形成し, ・・ その端部口に止金具を嵌め ・ ・・端蓋ケースを嵌合してなるものであるから棚板の曲げや撓みに対する強度は角形の中空部によって著しく高められると共に,その端部口に嵌めた止金具と端蓋ケースによって棚板が薄質でもねじ止めや締め付け並びに支柱に対する取付金具との係合を強固に行うことができ・・・る。(5頁1行目から同頁14行目) 」 イ 甲1文献の上記記載によれば,甲1発明は前記第2,3(3)ア(ア)のとおりであると認められる(争いがない)。
甲1発明は,側板をコ字形に曲げただけの従来の鋼板製棚板では,重量物を載せると棚板が曲がったり,撓んだりして強度的に非常に弱い欠点があり,これを補強するために天板の内面にコ字形の補強材を溶接により接着する場合,棚板を取付ける部分の強度が弱いために欠点があった,という従来の問題に鑑み,これを改良したものであり,棚板となる長方形天板の左右側板を折り曲げにより該部の長手方向に角形の中空部を形成し,端部口に止金具及び端蓋ケースを一体に嵌合することにより,薄板鋼板の補強と取付強度の増大を図ったものである。
したがって,天板,側板,連成部及び折立片で囲まれる角形の中空部,該中空部の端部口に嵌入される止金具及びその上から棚板端面全体を被包する端蓋ケースの 三つの構成は,甲1発明において,課題を解決する手段として必須の構成であるといえる。
(2) 甲13発明について ア 甲13文献には次の記載がある(図面については,別紙甲13文献図面目録参照)。
「2,実用新案登録請求の範囲 1. 各隅角部に配設した支柱(10)と,この支柱に係合する棚板(12)から成るスチ-ル棚において,各支柱の内面に上下方向に相対向する複数対の突部(14) (16)を各支柱につき同高さに設け,各対の突部間の間隔を棚板の同縁(18)の高さと同一となし各対の突部間に棚板を挿入係合させてなるスチール棚。 (1頁 」3行目から同頁10行目) 「この考案はスチール棚の改良に関し特別な金具を用いることなくスチール棚の堅固な組立てを可能とするものである。(1頁12行目から同頁14行目) 」 「従来のスチール棚は・・・スチール棚全体が正確な直角六面体の形状をとりうるよう最上部の棚板(12)と最下部の棚板(12)とをアングルに取り付ける際に棚板(12)とアングル(10)との間に三角形の金具を挿入して三角形の各頂点に対応する位置においてそれぞれ3本のビスをアングル(10),金具(11),棚板(12)と挿通して固定しているものである。この場合には・・・1つのスチール棚において16枚の金具が必要であり,又,1枚の金具あて3本のビスとナットが必要であって価格構成上これら部品の占める割合が大であって異常なコスト高につながる原因となっているのみならず,アングル(10)と棚板(12)との間に金具(11)を挟みながらビスを通す必要があり特に素人にとっては組立てが困難であった。
そこでこの考案者はこのような特別な金具を必要とすることなく迅速容易に組立てができてしかも正確な形状を出せるスチール棚を提供したものである。 (1頁1 」5行目から3頁4行目) 「第1図〜第3図において(10)は断面L字型の各隅角部に配するアングルであってアングル内面には上下方向に相対向する切起し等の突部(14) (16)が複数対設けられている・・・このようなスチ-ル棚を組立てるには4本のアングル部材(10)を隅角部に配し複数の棚板を所望の間隔をもつてアングル(10)内面の一対の突部(14)(16)間に挿入係合してアングル外部よりボルト(20)を挿入しアングル(10)の長孔(24)および棚板(12)の周縁(18)に設けた長孔(26)内を挿通してナット(21)に螺合して締めつけ固定する。第3図に示すようにアングル(10)の各面において棚板(12)の互いに直角をなす周縁(18)(18)の双方を固定する。(3頁7行目から4頁4行目) 」 「以上のようにこの考案では支柱内面に設けた複数対の突部の間に棚板を挿入係合しビス止めすることによりスチール棚の組立てが完了するものであって棚板の位置決めと同時にスチール棚全体の正確な直角形状をなすことができる。そして従来例のように特別な金具およびこれを装着するための余分なビスを必要としないので大幅なコスト減につながる。(6頁4行目から同頁11行目) 」 イ 甲13文献の上記記載によれば,甲13発明は前記第2,3(3)イ(ア)のとおりであると認められる(争いがない)。
甲13発明は,従来のスチール棚では,スチール棚全体が正確な直角六面体の形状をとりうるよう最上部の棚板と最下部の棚板とをアングルに取り付ける際に棚板とアングルとの間に三角形の金具を挿入して三角形の各頂点に対応する位置においてそれぞれ3本のビスをアングル,金具,棚板と挿通して固定していたため,コスト高となるのみならず,組立てが困難であったという問題に鑑み,特別な金具を必要とすることなく迅速容易に組立てができ,しかも正確な形状を出せるスチール棚を提供することを課題としたものである。
したがって,本件発明との相違点3に係る甲13発明の「周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である」との構成は,甲13発明において,課題を解決する手段として必須 の構成であるということはできない。
(3) 関係証拠の内容(別紙甲2文献等図面目録の各文献の図面参照) ア 甲2文献には, 「4本の隅角部の支柱1と,支柱1で支えられた平面視四角形の棚板4とを備えており,棚板4は,棚板の前後左右の縁部に,断面L字形又はロ字状の下向き屈折縁9を形成している棚装置」との発明(甲2発明)が記載されている。
イ 甲5文献には,新しい板金加工ノウハウに関して, 「板の端部を図10・1・1のようにカール状に折り曲げることをカーリングという。カーリングは,製品の外観を良くする,補強の働きをする,安全性を得る――などの利点があって,多く使われている。」 「13・1 クロージング クロージングの語源は,colse(閉じる)。図13・1・1のような閉じた製品形状の曲げをいう。」との記載がある。
ウ 甲6文献には,曲げ金型に関して,表4-2には,種々の曲げパターンが紹介されており,この中にクロージングも記載されている。
エ 甲10文献には,帯状金属板を,長手方向に曲がった梁材と同じように,孔あけ,引き抜き加工,横方向に曲がった梁材に,電子プログラム化できる断面図により,自動的に変形させるに適した機械に関し,「図16は,・・・この発明に係る機械を使用して作ったサンプルを集めたものである。」との記載がある。
オ 甲11文献には,別紙甲2文献等図面目録記載の甲11文献の写真のとおりの曲げ加工がされたサンプル(断面形状の加工例)が撮影されている。なお,甲26文献についても同様である。
カ 甲14文献には,整理棚における棚板の取付構造に関し, 「第1図は逆U字状に折曲された鋼製パイプよりなる支柱1,1’の間に上下2段に鋼板製の棚板2,3を配し・・・。前記上下棚板2,3は側面視で第2図に示すような形状をしており・・・」との記載がある。
キ 甲15文献には,レンジフードファンにおけるコーナーの補強構造に関する記載があり,図7には,フード体Aが,側板部1と,油受け6と,ヘミング潰し7 とを含み,油受け6が,外側立面6aを有し,ヘミング潰し7が,中空部7a,折曲端7b,下側湾曲外面7a’を有することが記載されている。
ク 甲18文献には,収納ラックに関し,【0017】また,棚板6には,その 「下端が内方に折曲されて補強用の折り返し片61が形成されており,その左右両端近傍には,ナットnが溶着されている(図2参照)」との記載があり,図2には, 。
折り返し片61がコ字形の部材として記載されている。
ケ 甲19文献には,デスクに関し,第5図及び第7図に,補強桟部15がロ字形の部材として記載されている。
コ 甲20文献には,机に関し,図9に,ロ字形の箱形フレーム15が記載されている。
サ 甲21文献には,曲げ加工装置に関し, 「【0001】考案の属する技術分野】 【本発明は,パネル曲げ加工機として当業界で既知のプログラム汎用板材曲げ加工のための曲げ加工装置に関するものである。【0002】・・・この曲げ加工ユニットによりブランクの各側辺に対して可変の寸法,角度及び方向の多数の曲げ加工を行うことができる。」との記載がある。
シ 甲22文献には,作業領域操作方法及びベンディングプレス機に隷属するロボットに関し,【0016】 「 ・・・曲げ加工を仕上げた仕上げメタルシート112のアンローディングユニット107を設け,この仕上げたメタルシート112の特別な実施例を図3に示し,この実施例では矩形形状をなす。」との記載があり,図3には,矩形形状のメタルシート112が示されている。
ス 甲31文献には,別紙甲2文献等図面目録記載の甲31文献の写真のとおりの曲げ加工がされたサンプル(断面形状の加工例)が撮影されている。
セ 特許第3437988号公報(甲25。以下「甲25文献」という。)には,金属板製棚及び金属板製ワゴンに関し,【0018】図5に示された棚板1は平板 「11を底とし,縁片12,13を側壁とする浅い箱状を呈している。折り返し片16,17の幅yは縁片12,13の幅xよりも僅かに小さくされているから,縁片 12,13に沿って外側へ折り返された折り返し片16,17は,縁片12,13の少なくとも上半分を覆っており,折り返し片16,17の下端は縁片12,13の下端より僅か上方に位置している。」との記載がある。
(4) 相違点2及び相違点3について ア 本件発明1と甲1発明との相違点2は,前記のとおり,内壁の連接部と反対側の端部が,本件発明1は,「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているのに対し,甲1発明は,「側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着されている」点であり,また,本件発明1と甲13発明との相違点3は,前記のとおり,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,本件発明1は, 「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており,前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」のに対し,甲13発明の周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である点である。
イ 前記認定の本件発明の技術的特徴によれば,本件発明は,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするため,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,具体的には,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,内壁の自由端部である下端部は外壁に向けて傾斜した傾斜部になっている,との構成を採用していることが認められるのであるから,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているとの各相違点に係る構成は,課題の解決や本件発明の効果を奏するために必須の構成であるということができる。
したがって,本件発明1と甲1発明及び甲13発明との各相違点に係る構成が当業者にとって容易想到であったというためには,少なくとも,内壁の連接部と反対側 の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっている構成が公知文献に開示又は示唆されていなければならない。
そこで,まず,上記構成を開示又は示唆する文献等があるかを検討するに,前記(3)認定のとおり,甲1,甲2,甲5,甲6,甲10,甲11,甲13ないし甲15,甲18ないし甲22,甲25,甲26,甲31の各文献のいずれにも,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっているとの構成が,開示ないし示唆されているとはいえるものは見当たらない(別紙各図面目録参照)。
すなわち,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっているとの構成に比較的近い形状を示すものと考えられる発明について具体的に検討しても,前記のとおり,甲11文献,甲15文献及び甲31文献には,内壁の連接部と反対側の端部が「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっている構成が開示されていることが認められるものの,傾斜部」 「 の先端から外壁に沿って伸びる部分が存在し,当該部分が外壁と重なることで,内壁の連接部と反対側の端部は「自由端部」になっていないことが認められる。また,仮に, 「傾斜部」の先端から外壁に沿って伸びる部分が外壁と重なっていないために内壁の連接部と反対側の端部は「自由端部」であると認め得るとしても,その「自由端部」は「傾斜部」とはいえないことが認められる。
したがって,上記各公知文献には,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているとの構成が開示又は示唆されているということはできない(なお,甲11文献及び甲31文献については,本件特許に係る出願の出願日(本件原出願の出願日)における公知性ないし周知性についても当事者間に争いがある。。
) さらに,甲5文献及び甲14文献には,外壁の先端が内側にカールしている構成が開示されていることが認められるのみであるから,上記各文献についても,内壁 の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっている構成が開示ないし示唆されているということはできない。
以上によれば,原告が提出した全ての公知文献(各証拠)によっても,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっているとの各相違点に係る構成が開示ないし示唆されていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,甲1発明及び甲13発明の棚板の壁部の構成をあえて異なる構成に変更する動機付け等が存在するかどうかについて判断するまでもなく,甲1発明及び甲13発明の棚板の壁部の構成を,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているとの構成に変更して,相違点2及び相違点3に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとはいい難い。
(5) 原告の主張について ア 相違点2に関する主張について (ア) 原告は,溶接による接着作業の省略や内壁の自由端部の幅寸法を大きくするといった解決課題は,棚板製作において共通する一般的課題ということができ,かかる課題に直面した場合,当業者は,適宜,全世界のエンドユーザーに対してサンプルとして提供されている曲げ加工の形状(甲11,甲31)の中から,先端部を天板内面に接着しているところまで伸ばさず,側壁2方向に曲げ傾斜部とする構成を選択することは,自明である旨主張する。
原告の上記主張は,甲11文献,甲15文献,甲31文献に記載された「傾斜部」の先端から外壁に沿って伸びる部分を設けないようにすることは自明である,というものであると解される。
しかし,原告の上記主張を認めるに足りる客観的な証拠はなく,また,あえて当該部分を設けないようにすることの理由ないし動機付け及び技術的意義も明らかで はないから,甲1発明及び甲13発明の棚板の壁部の構成を,甲11文献等の壁部の構成に変更するに際して当該部分を設けないようにすることは当業者が容易に想到し得たということはできない。
なお,前記認定の甲1発明の技術的特徴を考慮すると,甲1発明の「棚板における側板2の先端は,天板1の側へ折り返された折立片3が,折立片3と側板2との間に中空部5があくように連成部4を介して一体に形成され,折立片3の先は,側板2と反対側へ延びるように曲げられ,天板内面へ溶接により接着され」る構成を異なる構成に変更することは,甲1発明において,課題を解決する手段としての必須の構成を変更することとなるため,甲1発明にそのような変更をする動機付けがあると認めることはできない。
したがって,仮に,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっている構成を開示ないし示唆する証拠が存在するとしても,少なくとも甲1発明の棚板の壁部の構成を相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 原告は,クロージング加工(甲5,6)やサルバニーニ社の機械によって得られる金属板の曲げ形状(甲11,31)は,棚板外壁のものではなく,棚板外壁への適用が示唆されたものはない旨の審決の判断は誤りである旨主張する。
確かに,相違点2及び相違点3に係る本件発明の構成は,金属板の端部の曲げ加工に関する技術であるが,当該構成の容易想到性を検討する際には,棚板に関する技術のみならず,広く一般的に金属板の端部の曲げ加工に関する技術を開示するものを参酌することは許されるというべきであるから,単に棚板に関する技術でないことのみをもって,当該技術が棚板外壁への適用を示唆したものではないとした審決の判断は妥当ではないといわざるを得ない。
しかし,前記のとおり,原告が提出した全ての公知文献(各証拠)によっても,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,外壁に向かって延びるように」 「 曲げられており, 「傾斜部」になっているとの構成が開示ないし示唆されていることを認めるに足りる証拠はないのであるから,結局,原告の上記主張は採用することができないといわざるを得ない。
(ウ) 原告は,仮に,審決の認定のとおり,甲1発明の構成に甲11文献,甲31文献等の曲げ加工技術を適用することの動機付けの存在が認められないとしても,当業者は,甲1発明と甲5文献,甲6文献,甲11文献及び甲31文献等に記載された周知技術(曲げ加工技術)を組み合わせることは,容易であったというべきである旨主張する。
しかし,前記のとおり,原告が提出した全ての公知文献(各証拠)によっても,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,外壁に向かって延びるように」 「曲げられており, 「傾斜部」になっているとの構成が開示ないし示唆されていると認めるに足りる証拠はないのであるから,結局,原告の上記主張は採用することができない。
イ 相違点3に関する主張について 原告は,甲2文献等には,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっているとの構成が開示又は示唆されている,また,甲13発明に甲2文献等の各文献に記載の発明を組み合わせて適宜適用する動機付けがあるなどと主張する。
確かに,前記認定の甲13発明の技術的特徴を考慮すると,甲13発明の「周縁18は,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と,外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造である」との構成は課題を解決するために必須のものであるとはいえないから,この構成以外に当該構成よりも有利な壁部の構成あるいは周知の壁部の構成(前記のとおり棚板であることを要しない。)が存在すれば,その異なる構成に変更する動機付けがあると認められ得る。
そうすると,仮に,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり, 「外壁に向かって延びるように」曲げられており, 「傾斜部」になっている構成を開示ないし 示唆する文献等があれば,甲13発明の棚板の壁部の構成を相違点3に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たといえる可能性も否定することはできない。
しかし,前記のとおり,原告が提出した全ての公知文献(各証拠)によっても,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,外壁に向かって延びるように」 「曲げられており, 「傾斜部」になっているとの構成が開示ないし示唆されていることを認めるに足りる証拠はないのであるから,結局,原告の上記主張は採用することができない。
(6) 小括 以上のとおりであるから,甲1発明について,原告が提出した各公知文献から相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということはできないとの審決の判断,及び甲13発明について,原告が提出した各公知文献から相違点3に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということはできないと審決の判断は,結論において誤りはなく,本件発明2は,本件発明1にさらに限定を加えるものであるから,同様にその容易想到性を否定した審決の判断にも誤りはない。
よって,原告主張の取消事由2,3,5及び6はいずれも理由がない。
4 なお,原告は,訂正請求を認めた審決の判断についても,独立特許要件を充たさないことを理由に争うとも主張する。しかし,そもそも本件発明は独立特許要件(進歩性を有するもの)を充たすものであるから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由2ないし6はいずれも理由がなく,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 大寄麻代
裁判官 岡田慎吾