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関連審決 審判2012-800026
無効2014-800126 審判2008-800209
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事件 平成 26年 (行ケ) 10262号 審判請求書却下決定取消請求事件

原告X
訴訟代理人弁護士木下健治
補佐人弁理士唐木浄治
被告特許庁長官
指定代理人三崎仁
同 尾崎淳史
同 窪田治彦
同 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/07/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2014−800126号事件について平成26年10月24日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
前提事実(争いがない事実又は文中掲記の証拠により容易に認定できる事実)
1 本件特許について 四国計測工業株式会社(以下「四国計測」という。)は,平成14年9月4日,発明の名称を「有精卵の検査法および装置」とする発明について特許出願をし(特願2002-259297号),同出願は,平成16年4月2日,出願公開され(甲5 1 の1。特開2004-101204号。以下,この出願公開公報を「本件公開公報」という。,平成19年7月5日付けで特許請求の範囲の補正がされ,同年8月17 )日,特許権の設定登録がされた(甲5の2。特許第3998184号。以下「本件特許」といい,本件特許に係る請求項1ないし9の発明を併せて「本件特許発明」という。。
) 2 特許庁における手続の経緯等 原告は,平成26年7月24日,本件特許発明についての特許を無効とするとの審決を求める特許無効審判請求をし,特許庁は,これを無効2014-800126号事件として受理した。特許庁長官により指定された審判長は,平成26年9月5日,原告に対し,同月4日付け手続補正指令書(甲6の2。以下,同指令書による指令を「本件補正指令」という。)を発送した。原告は,同年10月1日付け手続補正書(甲6の3。以下「本件補正書」といい,同補正書による補正を「本件補正」という。)を提出したが,審判長は,同月24日付けで,「本件審判の請求書を却下する。」との決定をし,その謄本を,同年11月4日,原告に送達した。
3 無効審判請求書の記載 原告が提出した平成26年7月24日付け無効審判請求書(甲6の1。以下「本件審判請求書」という。)は,その別紙に「請求の理由」が記載されており,そのうち「(3) 特許無効審判の根拠」欄には,特許法(以下単に「法」ということがある。)29条1項1号,同項2号及び38条が無効の根拠条文として記載され,「(4) 本件特許を無効にすべき理由」欄には,以下の記載がされていた(なお,引用に際し,書証番号は,すべて本件訴訟において付された書証番号に置き換えた。以下,審判段階の書証に言及する場合について同じ)。
(1) 「理由1:本件特許発明は,いわゆる公知の発明である。」 ア 「本件特許出願は,平成14年9月4日付で出願されたものであり,その出願日以前の平成14年5月28日に公開されている特開2002-153262号の「公開特許公報」で公開されている発明(鶏卵の処理方法及び処理装置)の「発 2 明の詳細な説明」によって開示された発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである。(以下「無効理由1の1」という。
」 ) なお,特開2002-153262号の公開特許公報(乙5の5)とは,出願人を澁谷工業株式会社及び財団法人阪大微生物病研究会,出願日を平成12年11月20日,公開日を平成14年5月28日とし,発明の名称を「鶏卵の処理方法および処理装置」とする発明(請求項の数2)に係る公開特許公報(全6頁)である(以下「引用公報」という。。
) イ 「また,本件特許出願人が広告宣伝用の冊子「有精卵の検査方法」において使用されている「自動検卵機」 (乙5の8)の「装置概要説明」に特開2004-101204(2004年4月2日公開)と明記されており,この公開されている発明は本件出願の公開特許公報(乙5の9)に記載されている発明と同一の発明である。(以下「無効理由1の2」という。
」 ) なお,乙5の8は,四国計測作成の「自動検卵機」という表題の広告宣伝用の文書(全1頁)と,四国計測の従業員作成に係る「有精卵の検査手法」と題する研究論文(全9頁)の二つの書面を一括して綴ったものである(以下「乙5の8文書」という。。
) (2) 「理由2:本件特許発明は,いわゆる公用の発明である。」 「本件特許発明の「自動検卵機」 (乙5の8)は,2004年4月2日に公開された特開2004-101204(判決注:本件公開公報)と同一の発明であり,しかも,本件請求人が公開した「自動検卵機」とも全く同一の装置である。
すなわち,乙5の6によって熊本アイディーエム鰍ゥら坪井種鶏孵化場のX社長に報告されている「検卵機開発経過報告書」乙5の6) ( に記載されている開発経過,打合せ議事録,設定見積仕様書などによって明らかにされている。
(・・略・・)この設備見積仕様書に基づいて,坪井種鶏孵化場において直ちに試作品を製造するとともに,乙5の7に示されている各孵化工場で何回かのテストを繰り返して市場化が開始されている。(以下「無効理由2」という。
」 ) 3 なお,乙5の6は,株式会社熊本アイディーエム(以下「熊本アイディーエム」という。)作成の「検卵機開発経過報告書」と題する原告宛ての文書であり,同社が原告から依頼を受けて設計したとする「自動検卵機」の開発経過について記載した報告文書(2枚)及びその添付書面として,同文書中に引用されている打合せ議事録(1枚),検卵装置の構想図及び当初設計図(2枚),下請会社からのファックス文書(1枚),検卵装置の全体図及びライトガイド外観図(各1枚),平成14年10月8日付の同社作成に係る「坪井種鶏孵化場」宛の設備見積仕様書(全11枚)が添付されたものである(以下併せて「本件報告書」という。。乙5の7は,株式 )会社坪井種鶏孵化場へのアクセス情報等が記載されたインターネットサイトを印刷した書面及び同社の履歴事項全部証明書である。
(3) 「理由3:本件特許発明は,いわゆる共同開発による共同出願である。」 「本件特許出願は,発明者を追加補正するとともに共同発明に補正して認められた特許権である。
よって,この追加発明と共同発明発明者を補正しながら特許を受ける権利承継することを証明する書面(譲渡書等)の提出をされていないのに,担当審査官がこの補正を職権でこの補正を認めていることは,無効な手続による補正であるから本件特許出願は無効な特許出願と解すべきである。
すなわち,特許法に違反する特許出願の手続であるから,特許無効の審判請求によって無効な特許と解すべきである。(以下「無効理由3」という。
」 ) なお,原告が本件審判請求書とともに提出した書証である本件特許に係る出願についての平成15年1月31日受付の手続補正書(乙5の10)及び同年2月3日受付の手続補足書(乙5の11)によれば,本件特許の発明者は,出願後の補正により,出願時の2名(いずれも四国計測内の者)から,6名(四国計測内の者4名,財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所内の者2名)に変更されている。
4 本件補正指令の内容 審判長は,本件審判請求書の無効理由1ないし3についての記載は,以下のとお 4 りの理由により,いずれも法131条2項で規定される記載要件を満たすものではなく,請求の理由が正しく記載されていないので,請求の理由の欄を正確に記載した書面を提出するよう命じた。
(1) 無効理由1について ア 無効理由1の1は,発明の詳細な説明」 「 の記載から,との指摘があるのみで,引用公報の具体的記載事項を何ら特定していないことから,当該指摘のみでは,本件特許発明が引用公報のどこに記載されているのかや,それらの対応関係が理解できず,引用公報の「発明の詳細な説明」のどこの記載から,本件特許発明が公知の発明であると主張しているのか不明である。したがって,法131条2項で規定する要件を満たすものといえない。
イ また,無効理由1の1には, 「発明の詳細な説明」によって開示された発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである,との記載があるが,当該記載と本件特許発明が法29条1項1号に該当するものであるとする根拠となる関係も明らかでない。同記載による主張は,法29条1項3号に該当し,あるいは,法29条1項3号(判決注:法29条2項の誤記であると解される。)の規定による無効を主張しようとしているとも解される。いずれにしても,特許を無効にする根拠となる事実が明確とはいえない。
ウ さらに,無効理由1の2にも,本件特許発明と「自動検卵機」 (乙5の8文書)により公開されているという発明との関係については何ら記載されておらず,両者の関係について具体的に説明をしていないのであるから,これをもって,法131条2項で規定した記載をしたものということもできない。
なお,乙5の8文書の記載内容からすれば,その記載は本件特許出願日より後である平成16年(2004年)4月2日以降のものであるとも考えられるのであるが,それにもかかわらず,乙5の8文書を証拠に本件特許発明が公知の発明であるとする具体的な理由についても何らの言及もない。
(2) 無効理由2について 5 ア 無効理由2の記載からは,原告が,本件特許発明が公知の発明であるとする事実として,どの証拠に記載の「自動検卵機」が本件特許出願日前に公然実施をされていたものであることを主張しようとしているのかが特定できない。
イ さらに,無効理由2の記載のみからは,乙5の8文書中に綴られた二つの書面である「自動検卵機」と題する書面と「有精卵の検査手法」と題する書面との関係,乙5の8文書のどの書面のどの記載事項から乙5の8文書の「自動検卵機」が本件特許発明といえるのか,乙5の8文書から具体的にどのような事実が立証され,それにより本件特許発明が出願前に公然実施をされていたものといえるのかについて具体的にどのような主張をしようとしているのかが不明である。
ウ また,本件報告書は,複数の書面が一括して綴られたものであり,一方,無効理由2の記載においては,本件報告書の具体的記載事項を何ら特定して説明をしていないことから,当該記載のみからは,本件特許発明が本件報告書のどの書面のどこに具体的に記載されているのかや,原告が明らかにされているとする事実と本件報告書の各書面の対応関係が理解できず,本件報告書のどの書面のどこの記載から,どのような事実を立証し,それにより本件特許発明が出願前に公然実施をされていたものといえるかについて具体的にどのような主張をしようとしているのかが不明である。
(3) 無効理由3について 原告は,担当審査官が職権で補正を認めていることは,無効な手続による補正であるから,本件特許に係る出願は無効な特許出願と解すべきである旨を主張している。しかし,発明者を追加する補正を認めることと,法38条の規定とは直接関連するものではないから,これらの証拠と法38条共同出願の規定に違反するとの主張との関係が不明である。
5 本件補正の内容 原告が行った本件補正の内容は,以下のとおりである(甲6の3)。
(1) 無効理由1について 6 ア 無効理由1の1について 本件審判請求書の無効理由1の1に関する記載の末尾に「それは別紙2-1と2によって明らかである。」との一文を加え,別紙2-1・2を新たに提出した。別紙2-1(乙6の3)は,本件特許の出願時の請求項(本件公開公報記載の請求項)と,特許時の請求項(特許公報記載の請求項)とを対比したものであり,別紙2-2(乙6の4)は,引用公報と本件公開公報記載の請求項や発明の要約等を対比したものである。別紙2-2の引用公報についての「発明の要約」欄には,引用公報記載の発明に係る課題及び解決手段が記載されていた。
イ 無効理由1の2について 本件審判請求書の無効理由1の2に関する記載の末尾に,その論拠は次のとおり 「である。」と追加した上,その1及び2として,前記アの別紙2-2に記載された引用公報記載の発明に係る課題,解決手段,請求項と同様の内容を摘示し,さらに,「その具体的な内容は, 『発明の詳細な説明』に明記されている『発明が属する技術分野』(0001)と『従来の技術』(0002〜4)と『発明が解消しようとする課題』 (0005)と『課題を解決するための手段(0007と8)と『発明の実施の形態』(0009〜28)と『発明の効果』(0030)とによって明記されているとおりである。(別紙2-2参照), 』「その3は,図面の簡単な説明欄に記載されているように, 『検卵処理装置』の基本的な構成図(引用公報等の『図面の簡単な説明』参照)は同一図面と解する。それは本件特許発明(公開特許発明)と,本件特許公報とは発明者が財団法人阪大微生物病研究会の研究者だからである。 との記 」載を追加した。
(2) 無効理由2について 本件審判請求書の無効理由2に関する記載のうち,しかも本件請求人が公開した 「『自動検卵機』とも全く同一の装置である。」という文中の「本件請求人」を「本件被請求人」と補正し,同文の末尾に,(別紙4-1の装置概要に赤文字で記入され 「ているのと,それに添付されている「有精卵の検査方法」の冊子によって明らかで 7 ある。(判決注:別紙4-1〔乙6の7〕とは,本件報告書の添付文書のうちの設 」備見積仕様書である。)との記載を加えた。
また, ・ 「・ ・各孵化工場で何回かのテストを繰り返して市場化が開始されている」との文の次に, 「ので,本件特許発明は,特許出願前に公然実施されていた発明と解するべきである。(別紙2-1と2参照)」との記載を追加する補正をした。
(3) 無効理由3については,補正はされなかった。
6 却下決定の理由 却下決定の理由は,別紙却下決定写しに記載のとおりである。その要旨は,以下のとおりの理由により,本件補正によっても,補正を命じた本件審判請求書の請求の理由の不備は解消されず,したがって,原告は当該不備に関する補正をしていないことになるので,法133条3項の規定により,本件審判請求書を却下すべきものとする,というものである。
(1) 無効理由1について 本件審判請求書の別紙2-2では,引用公報と本件公開公報との書誌的事項,発明の要約,特許請求の範囲,審査結果を並記しているが,本件特許発明に対して引用公報の対比を行うべきであり,同別紙の記載事項から,本件特許発明が引用公報のどこに記載されているとする理由が明らかになるものではない。また,その他の補正内容は,引用公報の【要約】の欄等の記載を摘記するものであるが,それは本件公開公報に記載されている発明が引用公報に記載されていることを示そうとしたものとしか解されず,本件特許発明が引用公報に記載されていることを説明するものでもない。
そうすると,本件補正された請求の理由によっても,本件特許発明が,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるとの無効理由について,特許権者が対応することができる程度に具体的に事実を特定して記載しているということはできず,法131条2項で規定する要件を満たすものとすることはできない。
(2) 無効理由2について 8 本件補正のうち, 「別紙4-1の装置概要に赤文字で記入されている」ものが不明であり,また,それに添付されている「有精卵の検査方法」の冊子についても不明である。なお,乙5の8文書として「有精卵の検査手法」があることから,上記冊子がこの乙5の8文書の「有精卵の検査手法」であるとしても,本件特許発明が公知の発明であるとする事実として,当該追加された記載から,原告が,どの証拠のどのような記載事項に基づいて,本件特許発明の出願日前に公然実施をされていたものであることを主張・立証しようとするものであるのかを具体的に特定することができない。
また,本件補正のうち, 「本件特許発明は,特許出願前に公然実施されていた発明と解するべきである。(別紙2-1と2参照)」との記載についても,別紙2-1・2を参照しても,本件特許発明が出願日前に公然実施をされていたものであることについて,具体的に特定することができない。
そうすると,本件補正された請求の理由によっても,本件特許発明は特許出願前に日本国内において公然実施された発明であるから,法29条1項2号の規定に該当するとの無効理由について,特許権者が対応することができる程度に具体的に事実を特定して記載しているということはできないため,法131条2項で規定する要件を満たすものとすることはできない。
(3) 無効理由3について 無効理由3については,補正されていないことから,依然として,法131条2項で規定する要件を満たすものとすることはできない。
原告主張の取消事由
本件審判請求書及び本件補正書の記載によれば,原告は,無効理由1ないし3について,本件特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものといえる。特許庁の法131条2項の運用解釈は誤っている。
したがって,本件補正指令は違法であるし,却下決定は,法131条2項の解釈 9 を誤った違法な処分であるから,取り消されるべきである。
被告の反論
本件審判請求書の請求の理由の記載は,法131条2項で規定する要件を満たしていないから,却下決定は適法なものである。
1(1) 法131条2項の記載要件は,平成15年法律改正(平成15年法律第47号)により追加されたものである。同改正の背景には,請求の根拠となる事実が具体的に特定されていない,あるいは,無効理由と根拠との関係が不明瞭な審判請求書が提出されると,被請求人としては,不明確な点について請求人による釈明を待たなければ有効な反論をなすことができず,被請求人に無意味な負担を課し,かつ審理の遅延をもたらすことになるという問題があった。また,事実と証拠との関連が不明確な審判請求書の伝達を受けた被請求人は直ちに有意義な反論をすることができず,本来回避できたはずの求釈明手続や再反論を繰り返さなければならないという問題があった。
そこで,請求を十分に根拠づけるよう請求の理由を構成する事実を具体的に特定し,かつ,いずれの証拠によって個々の事実を立証するのか明らかにすることを要求したものである。そして,それに違反する審判請求書は,法133条1項による補正命令の対象とすることとし,これにより,早期の段階で請求書の不備を正し,請求書の副本を送達するときには被請求人が有意義な反論をすることができる状態にして,審理の迅速化及び被請求人の負担の軽減をはかったものである。
本条項は上述した問題を除去することを目的とするものであるから,本条項に規定する記載要件は,被請求人が審判請求書の副本を受領した後,直ちに有効な反論をすることが可能な程度に請求の理由を構成する事実が特定され,それぞれの立証に用いる証拠との関係が記載されている場合に充足されることとなる。
(2) 例えば,法29条1項3号に規定する新規性欠如に基づく無効理由の場合において,新規性欠如の主張の根拠となる事実の一つとして出願前に頒布された刊行物特許発明が記載されている事実を主張するときは,その発明の内容を具体的に 10 記載し(発明の特定),それがいつ(先行の事実の特定),どこで(刊行場所の特定)発行されたどの刊行物(刊行物の特定)のどの頁のどこにどのような事項が(記載の具体的特定)記載されているのかが具体的に記載されていなければならず,先行技術として文献名のみを挙げてそれが存在することのみを事実として記載しただけの場合は,特許権者が対応することができるように具体的に事実を特定しているとはいえないため,記載要件を満たさないものとして取り扱われることとなる。
したがって,文献名のみを事実として記載しつつ,その文献を証拠として添付している場合においても,その証拠文献の内容を精査しなければ審判請求人の主張する主要事実を推し量ることができないときは,やはり「請求の理由」において特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定したものとはいえないから,記載要件を満たさないこととなる。
請求の理由の記載要件がこのように解されること,及び,その具体的な運用については,特許庁審判部編「改訂14版 審判便覧」 (平成24年3月21日 改訂14版発行)51-04「特許(登録)無効審判の請求の手続」のとおりである。
2 本件審判請求書の請求の理由について (1) 本件審判請求書記載の無効理由1の1は,法29条1項1号を根拠条文として主張しているのに対して,提示されている証拠は,文書としての公開特許公報のみであるから,単に文書が提示され,そこでの記載事実が示されたとしても,請求人が公然知られた事実としてどのような事実を主張しようとしているのか,すなわち,いかなる発明がいかなるように公然知られたのかが明らかであるとはいえず,法29条1項1号に規定する発明に該当することを根拠づける具体的事実として何を主張しようとしているのかが理解できない。理由2及び理由3についてもその点は同様である。
本件のような無効理由を主張する場合には,請求人は,より具体的に請求人の主張する事実と証拠の関係を明らかにしなければ,被請求人の対応負担は大きいものとなる。もっとも,例えば,請求人が,法29条1項3号を理由とする無効理由を 11 主張し,その具体的事実として「本件特許発明が本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明である」として,その証拠として公開公報や刊行物を摘示している場合には,その証拠が大部なものでなければ,審判請求人が主張する事実は理解することができるものとはいえるが,上述したように本件審判請求書の請求の理由が法29条1項1号であるのに対して,示された証拠が直接に公然知られた事実を根拠付けるものとはいえないのであるから,このような場合に当てはまるものでもない。
(2) さらに,本件無効審判は,本件特許について原告から請求された3回目の無効審判であり,本件無効審判で提示された証拠のうち,乙5の7( (株)坪井種鶏孵化場の各農場の地図及び(株)坪井種鶏孵化場の登記簿)以外の証拠については,すでに1回目及び2回目の無効審判事件(無効審判2008-800209号,無効審判2012-800026号。以下,それぞれ「先行審判事件1」「先行審判事 ,件2」という。)において審理され,各審決は確定している。
ア すなわち,原告は,無効理由1の1として,引用公報に基づき本件特許発明が法29条1項1号に該当すると主張しているが,先行審判事件1の確定審決においては,本件特許発明は,引用公報記載の発明に対して法29条1項3号に該当しないこと,及び,同公報記載の発明に基づき容易な発明でなく,同条2項の規定により特許を受けることができないものではないことが判断されている。
したがって,本件における無効理由1の1について,本件特許発明が,引用公報から,法29条1項3号及び同条2項の規定に該当するとの主張であると善解することは適切ではなく,請求人が同条1項1号に該当するという主張事実を明らかにすることなく本案審理に入ることは,法131条2項の立法趣旨を没却することとなり,被請求人に無用な負担を強いる。仮に善解するとしても,先行審判事件1との関係に照らせばより詳細に記載すべきところ,本件補正を勘案してもなおその趣旨は判然としないままであって,到底受容できない。
イ 無効理由2についても同様であり,本件報告書は,本件特許に係る先行審判 12 事件1において同一の書証が提出され,本件特許発明が同書証から公用であったかどうか既に審理がなされ,その審決が確定している。
そうすると,本件無効審判で新証拠(乙5の7)が追加されたことにより,先行審判事件1で主張した事実と異なる新たな具体的な事実を基に本件特許発明が公用であったのかを主張しようとしているのかを明らかにすべきであるにもかかわらず,本件審判請求書の請求の理由の記載では,その点が不明であって,特許権者が対応することができる程度に具体的に事実を特定して記載されているとはいえない。
ウ 無効理由3についても,本件特許に係る特許出願が法38条共同出願の規定に違反しているかどうかについては,先行審判事件2で既に審理がされ,その審決が確定しており(乙6の15),本件無効審判において,それと異なるどのような新たな具体的な事実を基に同条の規定に違反していることを主張しようとしているのかが明らかにされていなければ,本案審理へと進むべきではない。
エ 以上のような事情のある本件無効審判請求において,その理由と証拠について追って補充することが許されるべきではない。
本件補正指令においては,このような事情に鑑み,本件無効理由1ないし3は,先行審判事件1及び2で既に審決として判断されていることと同一事実,同一証拠に基づく審判請求の恐れがあることから,上記記載要件についての補正と同時に,補正書の中で今回の審判請求で無効理由として主張する内容と上記各審判事件における無効内容との関係についても釈明されたいことを付記したが,これについては,原告は何らの釈明もしてこなかったものである。
3 以上のとおりであるから,本件審判請求書の請求の理由の記載は,立法趣旨や具体的な運用に照らして,法131条2項で規定される記載要件を満たしているとはいえないことは明らかである。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告の取消事由の主張には理由があり,却下決定にはこれを取り消すべき違法があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
13 1 法131条1項は,審判請求書の必要的記載事項として,審判を請求する者は,当事者及び代理人の氏名等及び住所等(1号),審判事件の表示(2号)並びに請求の趣旨及びその理由(3号)を記載しなければならない旨を定め,同条2項は,「特許無効審判を請求する場合における前項第3号に掲げる請求の理由は,特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない。」と定めている。そして,審判長は,請求書が法131条の規定に違反しているときは,請求人に対し,相当の期間を指定して,補正をすべきことを命じなければならず(法133条1項),同期間内に補正がされないとき,又はその補正が法131条の2第1項(要旨変更の禁止)に違反するときは,決定をもってその手続を却下することができるものとされている(法133条3項)。一方,不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないものについては,被請求人に答弁書を提出する機会を与えないで,審決(合議体による判断)をもってこれを却下することができるとされており(法135条),また,請求人の請求に理由があるとは認められないときには,請求不成立の審決がされることになる(法157条)。
131条2項にいう「特許を無効にする根拠となる事実」とは,無効理由を基礎付ける主要事実をいうものと解されるから,同項は,請求人が主張する無効理由を基礎付ける主要事実を具体的に特定し,かつ,そのうち立証を要する事実については,当該事実ごとに証拠との関係を記載することを記載要件とするものと解される。しかし,同記載要件を欠くことを理由とする法133条3項に基づく却下決定は,合議体による主張内容自体についての判断(請求が不適法であるかどうかの判断を含む。)ではなく,審判長による単独の決定として,形式的な事項のみを審査して,審理を行うことが可能な程度に主張が特定されているかどうかを判断して行うものであるから,無効理由を基礎づける主要事実が具体的に特定されていないことを理由とする審判請求書の却下は,審判請求書の無効理由の記載(補正を含む。を, )その記載全体及び提出された書証により容易に理解できる内容を併せ考慮して合理 14 的な解釈をしても特定を欠くことが明らかな場合にされるべきであるし,請求人が主張する無効理由が証拠上認められないということをもって同項の特定を欠くとはいえないことはもちろんのこと,請求人が主張する無効理由が,法定された無効原因についての独自の見解ないし法解釈に基づくものであるため,審判体において無効理由としては失当又は不十分な事実の記載であると思料する場合であったり,また,請求人が主張する無効原因が一事不再理違反に当たるなどの理由により,請求が不適法である場合であっても,このことのみをもって同項の特定を欠くということはできないというべきである。
2 以上を前提として,本件審判請求書の記載について検討する。
(1) 無効理由1について ア 無効理由1の1について (ア) 本件審判請求書の記載によれば,原告は,無効理由1の1については,法29条1項1号を根拠条文として挙げ,本件特許発明は,いわゆる公知の発明であると主張している。同号違反による無効の根拠となる事実とは,特許発明同一の発明が存すること及び当該発明が特許出願前に日本国内又は外国において公然知られたことであるところ,原告は,本件審判請求書において,自己の主張の根拠となる発明として本件特許に係る出願日よりも前の平成14年5月28日を公開日とする引用公報記載の発明を挙げ,その引用公報を書証として提出している。そして,引用公報は,全6頁と比較的短いものであり,基本的な発明の実施の形態としては一つしか記載されていない上(乙5の5),原告は,本件補正の際に,別紙2-2(乙6の4)を提出し,引用公報記載の発明の要約として,その実施形態の要約を「解決手段」として記載している。
そうすると,原告の上記主張は,引用公報記載の発明を具体的に特定した上で,本件特許発明は,出願前に公然知られていた引用公報記載の発明と同一の発明であり,したがって,本件特許に係る出願は法29条1項1号に反し,無効であるとの主張をするものであると理解することができ,これらの事実を立証する証拠として 15 引用公報を提出したものであるから,法131条2項の「特許を無効とする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したもの」との記載要件を満たすものといえる。
(イ) なお,無効理由1の1についての本件審判請求書の記載には,「本件特許出願は, ・引用公報記載の発明から容易に発明することができた特許発明と解すべき ・である」という部分があり,原告は,本件補正指令においてこの点についての釈明を求められたにもかかわらず,同記載を補正していないことからすると,同主張部分は,法29条2項による無効をも主張するかのように解する余地はある。しかし,原告(代理人弁理士)が,明確に同条1項1号を根拠条文として挙げ,本件特許発明は, 「いわゆる公知の発明である」と主張しているという無効理由1の1の記載全体からみれば,同記載部分は,単なる誤記であると解するのが相当であり,同記載部分があることをもって,法29条1項1号違反の主張が特定されていないということはできない。
また,原告は,本件補正の際に提出した別紙2-2(乙6の4)において,引用公報記載の発明と,本件公開公報記載の発明(出願時の発明)とを対比しており,本件特許時の請求項ではなく,本件公開公報の公開時の請求項に係る発明と同一であることをもって,本件特許に係る出願に無効理由があるとの主張をしているものと解される。この点,無効原因の判断をする際には,本件特許に係る特許された請求項の記載と,引用公報記載の発明とを対比すべきであることは,却下決定においても指摘されているとおりであるから,原告の主張は,独自の見解にたつものである。しかし,原告の主張自体は理由がないとしても,前記のとおり,同別紙の記載事項から,原告が無効原因として主張する引用公報記載の発明は特定されているといえる以上,同主張が,法131条2項にいう特定を欠いているということはできない。
イ 無効理由1の2について (ア) 本件審判請求書の記載によれば,原告は,無効理由1の2についても,法2 16 9条1項1号を根拠条文として挙げ,本件特許発明はいわゆる公知の発明であると主張しているところ,その具体的な理由として,乙5の8文書のうち広告宣伝用の冊子の「自動検卵機」の「装置概要」に「特開2004-101204」と明記されている発明が,本件特許発明(ただし,本件公開公報記載の発明)と同一の発明であるとの主張をしている。そして,乙5の8文書の広告宣伝用の文書の「装置概要」と題する部分には, 「特開2004-101204(2004年4月2日公開)」「本装置は,インフルエンザワクチン用有精卵を良卵と死卵に選別する装置です。
専用トレイ(36個詰)に乗せられた卵を装置に供給すると,トレイ毎に画像判定を行い死卵を抜き取り,良卵をトレイに残して排出します。排出したトレイは死卵のところが空席になっています。手詰めで36個詰めに直します。死卵は,回収用の空トレイに乗せて排出します。と記載されていることが認められる 」 (乙5の8)。
本件審判請求書の記載自体からは,原告が本件特許発明と同一であると主張する発明が,「特開2004-101204」(本件公開公報)記載の発明自体をいうのか,乙5の8文書の広告宣伝用の文書に記載されている上記装置をいうのかが一見して明らかではないが,本件公開公報(乙5の3)記載の発明は,有精卵内部のカラー画像を撮像し,その情報に基づいて正常卵を判定する有精卵の検査法及びそのような検査法を実現するための検査装置に関するものであることからすれば,原告が本件特許発明と同一であると主張する発明は,乙5の8文書の広告宣伝用の文書に記載されている上記装置が本件公開公報記載の発明を備えるものであるとして,これと本件特許発明との同一性を主張しているものと善解することができる。そうすると,原告の上記主張は,乙5の8文書記載の発明の内容を具体的に特定した上で,同発明と本件特許発明は,同一の発明であり,したがって,本件特許発明は,特許法29条1項1号に反し,無効であるとの主張をするものと理解することができ,これらの事実を立証する証拠として乙5の8文書及び本件公開公報を提出したものであるから,法131条2項の「特許を無効とする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したもの」との記載要 17 件を満たすものといえる。
(イ) なお,原告は,本件補正において,無効理由1の2の末尾に,「その論拠は次のとおりである。」として,別紙2-2記載の引用公報記載の発明の課題,解決手段等についての記載を加えている。上記のとおり,無効理由1の2は,乙5の8文書記載の発明を理由とするものであるから,これと相矛盾する内容の本件補正による記載の意味するところは不明であるといわざるを得ない。もともと,同記載は,原告が主張する発明と本件特許発明とが同一であることの論拠を追加しようとするものにすぎず,その論拠の追加の意味するところが不明な場合なのであるから,無効理由1の2の根拠となる発明の特定自体を左右する趣旨のものであるとは解されず,本件補正によって,法131条2項の特定を欠くことになったとはいえない。
(2) 無効理由2について ア 本件審判請求書の記載によれば,原告は,無効理由2については,法29条1項2号を根拠条文として挙げ,本件特許発明は,いわゆる公用の発明であると主張している。同号違反による無効の根拠となる事実とは,特許発明同一の発明が存すること及び当該発明が特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされたことであるところ,原告は,本件特許発明は,原告が公開した「自動検卵機」と同一の装置であると主張して,本件報告書を書証として提出している。本件報告書は,報告文書及びその添付書面という複数の書面から構成されているが,これらの添付書面は,原告から依頼を受けて熊本アイディーエムが設計した「自動検卵機」の一連の開発経緯を説明するための資料であり,報告文書の記載からすれば,その最終的な開発結果として平成14年10月8日付の設備見積仕様書が添付されているのであるから,原告は,同設備見積仕様書記載の装置が本件特許発明と同一であると主張しているものと理解できる上,原告は,本件補正の際に,本件特許発明と同一の装置であることは上記設備見積仕様書の「装置概要」の記入によって明らかである旨の記載及びこの設備見積仕様書に基づいて製造された試作品でテストを繰り返して市場化が開始されたことをもって公然実施と解するべきであるとの記載も 18 加えている。そして,同設備見積仕様書の「装置概要」には, 「卵トレーを,装置内にセットし,そのトレーを1個毎に搬送させ,整列・検卵・不良取出しを行うもので,検卵部でライトアップを行い,目視によって,良否判定を行い,次工程で不良品を自動的に取り出す装置です。」との記載がされている(乙5の6)。
そうすると,原告の上記主張は,本件特許発明(ただし,原告の主張によれば,本件公開公報記載の発明)と同一の発明であると主張する発明を,上記設備見積仕様書に記載されたものと具体的に特定した上で,同仕様書に基づいて製造した試作品を原告の孵化工場でテストを繰り返して市場化が開始されたことをもって,本件特許出願前の公然実施を主張するものと理解することができ,これらの事実を立証する証拠として本件報告書等を提出したものであるから,法131条2項の「特許を無効とする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したもの」との記載要件を満たすものといえる。
イ なお,無効理由2についての本件審判請求書には, 「本件特許発明の「自動検卵機」 (乙5の8)は,2004年4月2日に公開された特開2004-101204(判決注:本件公開公報)と同一の発明であり,」という記載部分もあるが,同部分は,無効理由1の2と同じ記載を繰り返したものであり,別個の無効理由を主張したものとは解されない(同文に続く「すなわち」以下の記載からすれば,無効理由2は,原告が公開した自動検卵機との同一性に基づく無効理由の主張であると解される。。
) また,無効理由2の末尾には (別紙2-1と2参照) との記載があり, 「 」その意味するところは不明であるが,参照との記載にすぎないことからすれば,同記載をもって,法131条2項の特定を欠くとはいえない。
また,無効理由2について原告がした本件補正のうち,本件請求人が公開した 「 『自動検卵機』とも全く同一の発明である。」という文中の「本件請求人」を「本件被請求人」と補正した点は,同文に続く「すなわち」以下の文章からすれば,補正の方が誤記であると合理的に理解できる。
本件補正のうち,「別紙4-1の装置概要に赤文字で記入されているのと,」に続 19 く,「それに添付されている「有精卵の検査方法」の冊子によって明らかである。」という部分は,そもそも本件補正書にはそのような冊子は添付されていないから,その意味するところが明らかではないが,前記のとおり,本件審判請求書の記載から,本件特許発明同一の発明であると主張する発明は,本件報告書の設備見積仕様書に記載されたものと理解することができるのであるから,上記冊子の内容が不明であるとしても,無効理由2について法131条2項の特定を欠くとはいえない。
さらに,本件補正指令及び却下決定は,本件特許発明が出願日前に公然実施されたものであることについて具体的に特定することができないと指摘している(第2の4(2)イ,6(2))。しかし,原告は,上記のとおり,上記設備見積仕様書に基づいて製造した試作品によるテスト等が本件特許出願前に公然と実施された旨を主張しているものと理解することができ,その主張自体は特定されているということができるから,具体的な日時等を主張していないとしても,法131条2項の特定を欠くとはいえない。
(3) 無効理由3について 本件審判請求書の記載によれば,原告は,無効理由3については,法38条を根拠条文として挙げている。そして,原告が主張する無効理由3についての具体的な理由は,原告が提出した書証(乙5の10,11)を併せて読めば,本件特許発明は四国計測内の社員及び財団法人阪大微生物病研究会内の社員が共同発明者である共同発明であるのに,出願時には四国計測の社員のみが発明者とされ,四国計測が単独出願をしていたものであり,その後,四国計測が,特許を受ける権利承継することを証明する書面(譲渡書等)の提出をしていないのに,担当審査官が共同発明として発明者を追加する補正を認めたことは違法であり,このような手続違背があることをもって無効な出願と解すべきであるとの主張をするものと解することができる。この点,法38条違反は,特許を受ける権利共有に係るときに,各共有者が共同で特許出願をしなかった場合が該当するものであり,補正についての瑕疵があっても同条違反に該当するとは解されないから,原告の主張は同条についての 20 独自の理解を前提とするものであり,失当であるというべきであるが,原告の主張する無効理由自体は特定されているというべきであるから,このことをもって,法131条2項の特許を無効にする根拠となる事実が特定されていないということはできない。
そうすると,無効理由3についての記載は,法131条2項の「特許を無効とする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したもの」との記載要件を満たすものといえる。
(4) その他の記載について なお,原告は,本件審判請求書において,特許庁作成の審判請求書の様式見本で定められている「請求の理由の要約」欄については記載をしておらず,却下決定は,本件補正指令において同欄を正しく記載するように命じられたにもかかわらず,原告がこれを補正しなかったことも摘示している。しかし,そもそも「請求の理由の要約」欄自体を記載することは,法131条2項の記載要件ではないから,この点をもって本件審判請求書が同項の記載要件を欠くということもできない。
また,却下決定は,本件補正指令においては,証拠方法についても正しく記載するように命じたにもかかわらず,原告がこれを補正しなかったことも摘示している。
しかし,証拠の提出方法(一括して提出するか,別文書として区別して提出するか)や証拠説明書の記載内容(文書作成日や公開日等を記載する,証拠の標目を正しく記載するか)は,これらが適切な審理を行う上で有用であり,これらを欠くことにより証拠の内容が不明となり,立証が足りないものとして,原告が主張する無効理由が認められない不利益を被ることはあるとしても,これらに不備があることをもって審判請求書の必要的記載事項を欠くということはできない。
3 被告の主張について (1)ア 被告は,本件審判請求書の無効理由1の1について,単に文書が掲示され,そこでの記載事実が示されたとしても,いかなる発明がいかなるように公然知られたのかが明らかであるとはいえず,法29条1項1号に規定する発明に該当するこ 21 とを根拠づける具体的事実として何を主張しようとしているのかが理解できないし,このような無効理由を主張する場合には,より具体的に請求人の主張する事実と証拠の関係を明らかにしなければ被請求人の対応負担は大きいと主張する。
しかし,前記のとおり,原告は,引用公報を掲示したのみならず,本件補正において引用公報記載の発明の要旨をも記載して,本件特許発明と同一であると主張し,発明の内容を特定している。そして,公知であるというためには,現に第三者に発明の内容が知られている必要があるとの解釈を採るとしても,特許公開公報は,単なる刊行物と異なり,刊行により当然に多数の企業関係者等の目に触れることとなり,その内容が公然と知られるものと一般的に理解されていることからすれば,原告は,このような引用公報の公開自体をもって,同公報記載の発明が公然知られたということを主張しているものと理解される。また,そのような無効理由の主張がされることにより,法29条1項3号に該当するとの主張をされた場合と比して,被請求人の対応負担が大きいものともいえない(なお,被告は,審判便覧の記載を引用し,法29条1項3号に規定する新規性欠如に基づく無効理由の場合において,具体的に事実が特定されているというためには,発明の内容を具体的に記載し,それがいつ,どこで発行されたどの刊行物のどの頁のどこにどのような事項が記載されているのかが具体的に記載されていなければならないと主張し,文献名のみを事実とし,その文献を証拠として添付している場合においても,その証拠文献の内容を精査しなければ主要事実を推し量ることができないときには,特許権者が対応することができるように具体的に事実を特定しているとはいえない旨を主張する。しかし,特許公開公報については,その性質上,いつ,どこで発行されたどの刊行物であるかは,主張中に引用されている公報自体の記載から明らかであるし,原告は,引用公報記載の発明も,発明の要約として特定しているのであるから,引用公報の内容を精査しなければその主張事実を理解できないとはいえない。。
) したがって,被告の主張は採用することができない。
イ 被告は,無効理由2についても同様であり,本件特許発明が法29条1項2 22 号に規定する発明に該当することを根拠づける具体的事実として,原告が何を主張しようとしているのかが理解できない旨主張する。しかし,原告の無効理由2についての主張は,前記のとおり,本件特許発明と同一であると主張する発明の内容を具体的に特定した上で,公然実施の態様を主張するものといえるから,被告の主張は採用することができない。
ウ 被告は,無効理由3についても同様であり,原告が共同出願違反であるとするどのような事実を具体的に主張するものであるのかが全く理解することができない旨主張する。しかし,原告が主張する内容が客観的には法38条違反に該当するものではないとしても,前記のとおり,原告が同条違反に該当すると主張する内容自体は理解することが可能であり,原告が無効の根拠とする事実は具体的に特定されているといえるから,被告の主張は採用することができない。
(2) 被告は,無効理由1ないし3については,同一の証拠に基づく無効理由について判断した先行審判事件の審決が既に確定しており,本件無効審判で新証拠(乙5の7)が追加されたことなどにより,先行審判事件で主張した事実と異なるいかなる新たな具体的な事実を基に本件特許発明が公用等であったのかを主張しようとしているのかなどが明らかにされていなければ,特許権者が対応することができる程度に具体的に事実を特定して記載されているとはいえないなどと主張する。
確かに,同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由について判断した先行無効審判の審決が確定したときは,先行無効審判と主張した事実又は証拠と異なる新たな具体的な事実又は証拠に基づかなければ,審判請求はいわゆる一事不再理(法167条)違反により不適法となることは被告の主張するとおりである。そして,証拠(乙4,乙6の11,乙6の15)によれば,本件と同一の当事者間の先行審判事件1において,本件特許発明が,引用公報に基づいて法29条1項3号に該当するとの無効理由及び本件報告書等に基づいて法29条1項2号に該当するとの無効理由についての判断がされていること,先行審判事件2において,本件特許出願は,四国計測の従業員4名と阪大研究会の研究員2名との共同発明であるから,法38 23 条により四国計測のみで単独出願できないものである旨の無効理由について判断がされていることが認められ,これらは本件における無効理由1の1,無効理由2及び3と同一の事実関係に基づくものといえるから(無効理由1の1は法29条1項1号に基づくものであるが,公知発明である根拠として引用公報の発行という同項3号と同一の事実しか主張していないから,同一の事実に基づくものといえるし,無効理由3は,直接的には発明者を追加する補正の瑕疵を理由として法38条違反を主張するものであるが,主張の仕方は異なっているとしても,基礎となる事実は同一であるといえる。,特段の事情がない限り,これらの無効理由に基づく審判請 )求は,一事不再理違反として不適法となるといえる。
しかし,そのような場合には,合議体による審決により審判請求を却下するべきなのであり(法135条。被請求人に答弁書を提出する機会を与えないこともできる。,当該無効理由自体について,特許を無効にする根拠となる事実が具体的に特 )定され,かつ,証拠との関係が記載されているのであれば,法131条2項違反となるものではなく,また,先行審判事件で主張した事実と違う事実を主張するものでなければ法131条2項の特定を欠くともいえない。なお,そのように無効理由自体として特定されているのであれば,無効審判請求の被請求人としては,対応することが困難であるともいえない。したがって,本件審判請求書記載の無効理由1ないし3について,先行審判事件で主張した事実との違いが明らかにされていなければ,法131条2項の特定を欠くとの被告の主張は,同項を正解しないものであって,採用することができない。
結論
以上のとおりであり,原告の主張する取消事由は理由があり,これが却下決定の結論を左右することは明らかである。したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。