運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 26年 (行ケ) 10150号 審決取消請求事件

原告村田機械株式会社
訴訟代理人弁護士富岡英次
同 高石秀樹
訴訟代理人弁理士弟子丸健
同 山本泰史
被告特許庁長官
指定代理人栗田雅弘
同 石川好文
同 窪田治彦
同 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/05/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2013−7295号事件について平成26年5月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない事実又は文中掲記の証拠により容 1 易に認定できる事実) 原告は,発明の名称を「オーバーヘッドホイスト搬送車」とする発明について,平成23年10月21日を出願日とする特許出願(特願2011-231707号。
ただし,2003年3月20日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年6月19日,2002年10月11日米国〕を国際出願日として出願した特願2004-515615号を原々出願として,平成23年5月23日に分割出願した特願2011-115010号を原出願とする分割出願〔甲3〕。以下「本件出願」という。)をしたが,平成25年1月10日付けで拒絶査定を受けたため,同年4月19日付けで,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2013-7295号事件として審理した結果,平成26年5月2日, 「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし, 」 その謄本を,同月19日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲 本件出願の特許請求の範囲の記載(請求項の数は1。ただし,平成26年1月10日付け手続補正書による補正後のもの。甲17)は,以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。また,上記補正後の本願の明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。。
) 「【請求項1】 オーバーヘッドホイストを搭載したオーバーヘッドホイスト搬送車であって, 前記オーバーヘッドホイストは,移動ステージ及びこの移動ステージの下方に取り付けられカセットポッドを把持するホイスト把持部を有し, 前記オーバーヘッドホイスト搬送車は,所定経路を画定する懸架軌道に沿って吊り下げられて移動し,且つ,前記オーバーヘッドホイストを前記懸架軌道よりも下方位置に搭載し, 前記移動ステージは,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と,前記ホイスト把持部に把持さ 2 れたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で,前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ, 前記ホイスト把持部は,前記第1の位置から前記オーバーヘッドホイスト搬送車の直下に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置し,且つ,前記第2の位置へ移動した後に第2の位置からその直下の前記第1の位置からの下降位置とは異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置するオーバーヘッドホイスト搬送車」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。その要旨は,本件発明は,特開平10-45213号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)及び国際公開第2002/035583号(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された事項(以下「刊行物1事項」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件出願は拒絶されるべきである,というものである。
4 審決の認定した刊行物2発明の内容,本件発明と刊行物2発明との一致点及び相違点並びに刊行物1事項の内容は,以下のとおりである。
(1) 刊行物2発明の内容 「昇降部3cを搭載した走行部3aであって, 前記昇降部3cは,物品Bを把持する把持具3dを有し, 前記走行部3aは,走行経路を画定する案内レール1に沿って吊り下げられて移動し,且つ,前記昇降部3cを前記案内レール1よりも下方位置に搭載し, 前記把持具3dは,前記走行部3aの直下に下降して物品Bを移載し,且つ,その直下の下降位置とは異なる高さの位置に下降して物品Bを移載する走行部3a」 (2) 本件発明と刊行物2発明との一致点 「オーバーヘッドホイストを搭載したオーバーヘッドホイスト搬送車であって, 3 前記オーバーヘッドホイストは,被移載物品を把持するホイスト把持部を有し, 前記オーバーヘッドホイスト搬送車は,所定経路を画定する懸架軌道に沿って吊り下げられて移動し,且つ,前記オーバーヘッドホイストを前記懸架軌道よりも下方位置に搭載し, 前記ホイスト把持部は,前記オーバーヘッドホイスト搬送車の直下に下降して被移載物品を取り上げ又は配置し,且つ,その直下の下降位置とは異なる高さの位置に下降して被移載物品を取り上げ又は配置するオーバーヘッドホイスト搬送車」 (3) 本件発明と刊行物2発明との相違点 (相違点1) 「本件発明では,「下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し,前記移動ステージは,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で,前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ,前記ホイスト把持部は,前記第1の位置及び第2の位置から異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」ように構成しているのに対し,刊行物2発明では,移動ステージを有していない点。」 (相違点2) 「本件発明では,被移載物品が「カセットポッド」であるのに対し,刊行物2発明では,被移載物品について特に限定していない点。」 (4) 刊行物1事項の内容 「下方にグリッパが取り付けられた伸長可能アームを有し,前記伸長可能アームは,前記グリッパに把持されたウェハキャリアがキャリア搬送車内に位置する一方の位置と,前記グリッパに把持されたウェハキャリアの全部がキャリア搬送車の外に位置する他方の位置との間で,前記グリッパを水平方向に移動させ,前記グリッパは,前記一方の位置及び他方の位置から異なる高さの位置に下降してウェハキャ 4 リアを取り上げ又は配置することができる構造」
原告主張の取消事由
審決には,以下のとおりの認定判断の誤りがあるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(刊行物2発明の認定の誤り及びこれに基づく本件発明との一致点・相違点の認定の誤り) (1) 刊行物2発明の認定の誤りについて 審決は,刊行物2の段落【0019】【0020】【0022】を引用して刊行 , ,物2発明を認定した。しかし,刊行物2の段落【0021】の記載によれば,刊行物2発明においては,@物品載置台11は,水平揺動自在の移動棚であり,Aこの物品載置台11が,移動体3の走行経路に進出する状態と,走行経路の側脇に引退する状態とに切り換えられ,物品載置台11は,通常,走行経路の側脇に引退する状態に維持し,移動体3の昇降部3cの昇降を許容してステーションSTに対する物品移載を許容するものである。これらの事項は,本件発明と対比するに当たって重要な構成であり,審決がこれらの事項を刊行物2発明の内容として認定しなかったのは,誤りである。
(2) 審決の一致点・相違点の認定の誤りについて ア 前記(1)のとおり,審決は刊行物2発明の認定を誤っており,また審決の認定する一致点のうち, 「前記ホイスト把持部は、…その直下の下降位置とは異なる高さの位置に下降して」との部分は、下降を開始する位置が記載されていないので不正確である。正しい認定に基づけば,一致点は以下のとおりと認定されるべきである。
「オーバーヘッドホイストを搭載したオーバーヘッドホイスト搬送車であって、
前記オーバーヘッドホイストは、被移載物品を把持するホイスト把持部を有し、
前記オーバーヘッドホイスト搬送車は、所定経路を画定する懸架軌道に沿って吊り下げられて移動し、且つ、前記オーバーヘッドホイストを前記懸架軌道よりも下方位置に搭載し、
前記ホイスト把持部は、前記オーバーヘッドホイスト搬送車の真下に下降して被移 5 載物品を取り上げ又は配置するオーバーヘッドホイスト搬送車。
」 イ また,前記(1)のとおりの刊行物2発明の認定によれば,相違点1は,以下のとおりと認定されるべきである(下線部分が審決の認定と異なる部分)。
「本件発明は、下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し、
前記移動ステージは、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で、前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ、前記ホイスト把持部は、
前記第1の位置から前記オーバーヘッドホイスト搬送車の真下に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置し、且つ、第2の位置へ移動した後に第2の位置からその真下の前記第1の位置からの下降位置とは異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する、ように構成しているのに対し、
刊行物2発明は、移動ステージを有しておらず、前記把持具3dは、物品載置台11が走行経路の側脇に引退した状態で、前記走行部3aの真下に位置する加工装置5のステーションSTへ下降して物品Bを移載し、且つ、走行部3aの位置から、
物品載置台11が走行経路に進出した状態で、前記加工装置5のステーションSTより高い位置にある前記物品載置台11へ下降して物品Bを移載するように構成している点。」 (3) 審決は正しい相違点についての容易想到性を判断しなかったものであり,同誤りは審決の結論に影響を与えるから,審決は取り消されるべきである。
2 取消事由2(刊行物1事項の認定の誤り及びこれに基づく相違点1の容易想到性の判断の誤り) (1) 刊行物1事項に関する認定の誤り ア グリッパの昇降動作について 審決は,刊行物1事項について,刊行物1に記載された伸長可能アームは, 「摘記事項オの記載からみて・・上記一方の位置でも,グリッパを上昇及び下降させてウ 6 ェハキャリアを持ち上げ及び載せている」旨を認定した。
(ア) しかし,まず,審決が認定の根拠とした摘記事項オは,「他方の位置(キャリア移載車外の位置)」におけるグリッパ(ウィンチ及びロープ)の昇降動作を示したものであり,上記「一方の位置」 (キャリア移載車内の位置)におけるグリッパの昇降動作を説明したものではない。次に,刊行物1のFIG1bには,審決のいう「他方の位置」 (キャリア移載車外の位置)にグリッパの昇降動作が上下方向の矢印で表示されているのに対し,「一方の位置」(キャリア移載車内の位置)に対応するFIG1aには,グリッパの昇降動作を示す上下方向の矢印は表示されていない。
さらに,刊行物1には,グリッパ(ウィンチ及びロープ)がキャリア移載車21内の位置(一方の位置)で上昇及び下降する旨の記載は存在しない。
したがって,刊行物1事項の「一方の位置」ではグリッパは上昇及び下降するものではなく,審決の認定は誤りである。
(イ) なお,技術常識として,面上に配置された物品を横方向に移動させる際,面同士の摩擦を低減させるために,物品を微小高さだけ持ち上げて浮かし,横方向に移動させることがあり, 「一方の位置」において,ウェハキャリア1のコネクタとグリッパとの着脱の際にグリッパが僅かに上下動することがあるとしても,これは,本件発明の「第2の位置へ移動した後に第2の位置から…固定棚へ下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」と規定した昇降動作とは異なる。本件発明にいう垂直移動とは, 「物品の出入れに不可欠な微小移動は含まない」と解するべきであり,特許庁は,無効2012-800048号審決(甲20)ではそのような判断をしている。
イ 伸長可能アームの位置について 審決は,刊行物1事項の伸長可能アームが, 「懸架軌道(ベイ間レールトラック10及びベイ内レールトラック20)よりも上方位置に搭載され」ていることを認定していない点で,誤っている。
被告は,水平方向にウェハキャリアを移動可能な機構は,レールトラック10及び 7 20の上方にあっても下方にあっても,水平移動機能については同様の動作を行うことが可能であると主張する。しかし,刊行物1の設備においては,伸長可能アーム23をレールトラック20の下方に配置したのでは,ウェハキャリアを水平移動させることができないのであり,同主張は,刊行物1に開示されている構成の技術的意義を無視したものであり,誤りである ウ 「キャリア搬送車」について 刊行物1事項の設備においては,物品の搬送を車両11に,物品の移載をキャリア移載車21に分担させているので, 「キャリア搬送車」の認定は誤りであり, 「合流した状態の車両11とキャリア搬送車21」と認定すべきである。
(2) 相違点1についての審決の判断方法及び個別の判断に関する誤り 審決は,相違点1の相違点が一つに過ぎないかのように認定した上で,この相違点について刊行物1事項を刊行物2発明とを組み合わせることにより,本件発明に容易に想到するかのように判断した。しかし,相違点1は,以下のとおり具体的には二つの相違点を含むものであり,審決は,それぞれの相違部分について個別に検討することなく容易想到性を判断したから,その判断方法には誤りがある。
また,審決は,二つの相違点について,以下のとおり判断を誤ったから,その点からも審決の判断は誤りである。
ア 相違点1-1「下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し、
前記移動ステージは、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で、前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ」るが、刊行物2発明では、
移動ステージを有さず、且つ、物品載置台が水平揺動して走行経路に進出するようになっているので、ホイスト把持部が第1の位置から第2の位置へ水平方向に移動することはない点」について(ア) 審決は,刊行物1事項の「キャリア搬送車」「キャリア移載車」 ( )が本件発明 8 の「オーバーヘッドホイスト搬送車」に相当すると認定した。しかし,前記(1)ウのとおり,本件発明の「オーバーヘッドホイスト搬送車」に相当するものは,刊行物1事項に記載された, 「車両11及びキャリア移載車21の両者が合流した状態のもの」であるから,審決の認定は誤りである。
(イ) また,前記(1)イのとおり,刊行物1事項のキャリア搬送車21は,ホイストアームがベイ内レールトラック20よりも上方位置に搭載されており,この点も,本件発明と相違するから,審決の認定は誤りである。
(ウ) したがって,刊行物2発明に刊行物1事項を適用しても相違点1は解消しないから,審決のいう本件発明の進歩性欠如の論理付けは成り立たない。
イ 相違点1-2「本件発明では, 「前記ホイスト把持部は、前記第1の位置及び第2の位置から異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」ように構成しているが、刊行物2発明では、把持具3dが、物品載置台11が走行経路の側脇に引退した状態で、走行部3cの位置(「第1の位置」に相当する)から、走行部3aの真下に位置する加工装置5のステーションSTへ下降して物品Bを移載し、且つ、走行部3aの位置(「第1の位置」に相当する)から、物品載置台11が走行経路に進出した状態で、加工装置5のステーションSTより高い位置にある物品載置台11へ下降して物品Bを移載する点」について (ア) 審決は,刊行物1には, 「ホイスト把持部を一方の位置(第1の位置)から下降してカセットポットを取り上げ又は配置することができる構造」が記載されていると認定した。
(イ) しかし,前記(1)アのとおり,刊行物1発明は,第1の位置(一方の位置)において,グリッパが昇降動作するものではないから,これを適用しても相違点1-2に係る構成は得られず,審決の判断は誤りである。
(3) 刊行物2発明への刊行物1事項の適用困難性について ア 審決は, 「刊行物2発明における,把持具3dが下降し,移動体3の走行経路に進出した物品載置台11に載置された物品Bへ到達して物品Bを取り出すことができ 9 るようになっていることに代えて、物品載置台11が移動体3の横幅方向に固定された構造のものであれば、当然ながら横幅方向へ移動可能な保持部用移載手段を採用することは容易に想到することができ、また、垂直方向移動と横幅方向移動を兼ね備えたものも容易に想到し得る」旨判断した。
(ア) しかし,いきなり「物品載置台11」を「移動体3の横幅方向に固定された構造に代える」ことを想定することは, 「後知恵」によるものというほかない。
(イ) また,刊行物2においては,物品を垂直(昇降)移動させるとともに水平移動させる必要がある垂直移動タイプの設備(刊行物2発明である図1の第1実施形態や,図16等の実施形態。物品の昇降移動のためにホイスト機能が必要な形式)と,物品を水平移動のみすればよい水平移動タイプの設備(図12のその他の実施形態。物品を昇降動作させるホイスト機能が不要な形式)とが記載されているが,これらはその前提構造が全く異なっており,明確に区別されて記載されている(知財高判平成26年9月25日・平成25年(行ケ)第10272号も同旨) 。したがって,このように前提構造の異なる二つのタイプの実施形態の発明について,同じ文献中に記載されていることのみをもって,直ちに両タイプに固有の構造部分を組み合わせることが容易であるということはできず,垂直移動タイプである刊行物2発明において,当業者が,水平移動タイプの屈曲アーム20bのような横方向へ移動可能な保持部移載手段を設けようと試みることはない。
さらに,刊行物2には,上記物品を垂直(昇降)移動するとともに水平移動する必要がある垂直移動タイプの設備においては, 「物品保持部に保持する物品を移動体横幅方向に移動させるための補助的な手段」 (物品載置台11を水平揺動させるためのリンク機構10等)が必要となる旨が明記されているから(段落【0012】,刊行 )物2発明から,垂直方向移動と横幅方向移動を兼ね備えた保持部移載手段は容易に想到し得ない。
(ウ) さらに,刊行物2発明は,物品を側方にある棚に移載するために,新たに物品移動手段MS(物品載置台を揺動するリンク機構10等)を設けることにより,既存 10 技術であった単一の物品移載手段BMを使用して,保持部用移載手段BCとステーション用移載手段SCとを兼用できるという点に最も技術的特徴及び利点がある。このため,刊行物2発明について,上記物品移動手段MSに代えて,図12等の屈曲アーム20bを採用すると,上記物品移動手段MSと物品移載手段BMとの組合せが不要となり,利点及び技術的特徴が失われてしまうから,当業者がこのような手段を採用することはない。
(エ) 被告は,刊行物2発明において,@物品載置台11が移動体3の真下に移動(揺動)してきて,それに向かって把持具3dが垂直方向に降下することと,A物品載置台11が移動体3の側方に存在し,それに向かって把持具3dが水平方向に移動することとは,「二者択一」であるから,刊行物2発明において後者を採用することは,当業者が容易に想到すると主張する。しかし,刊行物2発明は@の構成である以上,あえてこれをAの構成に変更することの容易想到性を判断しなければ結論に至らないのであり,@又はAの二者択一ではないから,被告の論理は失当である。
イ また,審決は,「刊行物2発明の『昇降部3c』について,刊行物1事項の構造を適用して,刊行物2発明の昇降部3cを把持具3dとともに水平方向移動させる構造として,本件発明における上記<相違点1>に係る発明特定事項とすることは,当業者に容易に想到し得るものである」と認定した。
(ア) しかし,刊行物1事項において,伸長可能アーム23を用いたのは,車両11の上面にあるウェハキャリア1をキャリア移載車21の側方の加工装置30のロードポートの上方位置まで水平移動させるためである。したがって,オーバーヘッドホイスト搬送車の側方の位置にカセットポッド(物品)を配置するために使用される本件発明の移動ステージとは,使用目的や昇降動作が異なっているから,刊行物1事項の伸長可能アームを,刊行物2発明に適用する動機付けがない。
(イ) また,刊行物1事項には,刊行物2発明における物品を一時的に保持するための物品載置台11のようなものが存在せず,加工装置のロードポートのみに物品を移載するので,物品を物品載置台11及び加工装置5のステーションSTの両方に移 11 載する刊行物2発明とは,前提となる基本的な構成(レイアウト)が異なっている。
したがって,刊行物1事項と刊行物2発明とは,物品を水平方向に移動させる目的・用途が異なり,適用する動機付けがない。
(ウ) 審決は,刊行物2の段落【0007】の記載事項を根拠として刊行物1事項を刊行物2発明に適用することが容易想到であると認定しているが,同記載は,保持部用移載手段を物品保持部に備えるよりは,移動体側に設けることが好ましいことを述べているものであって,それ以上のものではない。そして,刊行物2発明においては,既に保持部用移載手段を移動体側に設けているので,さらに,図12の他の実施形態における横方向へ移動可能な保持部用移載手段(屈曲アーム20b)を適用する必要性がない。さらに,刊行物2発明は,保持部用移載手段として把持具の昇降動作を利用し,そのため移動棚(物品載置台11)を用いることが必要であるが,図12の他の実施形態は,把持具の昇降動作は不要で且つ固定の荷台20aを用いているので,両者はその基本機能が異なっている。そのため,固定の荷台20aを用いることを前提としている図12の他の実施形態の横方向へ移動可能な保持部用移載手段を,移動棚を使うことが必須である刊行物2発明に適用しようとする当業者はおらず,また,これを適用することはできない。
(4) 以上のとおり,審決は,相違点1についての判断を誤っており,この誤りは審決に影響を与えるから,審決は取り消されるべきである。
被告の反論
1 取消事由1(刊行物2発明の認定の誤り及びこれに基づく本件発明との一致点・相違点の認定の誤り)について (1) 刊行物2発明の認定の誤りについて 原告は,刊行物2発明の構成の一部が認定されていないと主張する。この点,審決は,本件発明の特定事項に沿うように整理して抽出することで刊行物2発明を記載しており,原告の主張する構成については,審決の記載上は必ずしも明らかにはなっていない。しかし,被告も,原告の主張する刊行物2発明の物品載置台の構造 12 は十分認識しており,相違点1の記載では,「本件発明では,・・・移動ステージを有し,・・・刊行物2発明では,移動ステージを有していない」と記載しているし,原告の主張する構成を前提に判断をしている。また,刊行物2発明に原告の主張する各構成を明記しても本件発明との一致点及び相違点が変わることはないので,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
(2) 審決の一致点・相違点の認定の誤りについて ア 原告が本件発明について相違点と認定すべきと主張している前記第3の1(2)イの下線部分の構成のうち,「前記第1の位置から前記オーバーヘッドホイスト搬送車の真下に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置し,且つ,前記第1の位置からの下降位置とは異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」という部分については,刊行物2発明と本件発明は一致するものであり,審決もそのように認定している。そして,原告が,本件発明について相違点と認定すべきと主張している上記下線部分の構成のうち,ホイスト把持部が「第2の位置へ移動した後に第2の位置からその真下に」下降する点については,相違点1で, 「刊行物発明2では,移動ステージを有していない」点を明示して対比することにより,刊行物2発明との相違点となることを示唆している。
イ また,原告が,刊行物2発明について相違点と認定すべきと主張している前記第3の1(2)イの下線部分の構成のうち,「前記把持具3dは,物品載置台11が走行経路の側脇に引退した状態で,前記走行部3aの真下に位置する加工装置5のステーションSTへ下降して物品Bを移載し,且つ,走行部3aの位置から,物品載置台11が走行経路に進出した状態で,前記加工装置5のステーションSTより高い位置にある前記物品載置台11へ下降して物品Bを移載する」構成を有することは,相違点に明記されていなくとも,被告は当然認識している。しかし,当該構成を刊行物2発明が有する相違点として明記したからといって,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3) したがって,原告の取消事由1の主張には根拠がない。
13 2 取消事由2(刊行物1事項の認定の誤り及びこれに基づく相違点1の容易想到性判断の誤り)について (1) 刊行物1事項の認定の誤りについて ア グリッパの昇降動作について ウェハキャリアは,半導体ウェハのような精密加工を施される材料を内部に保持するものであるから,運搬手段(車両)11上を引きずりながら移動させるようなことは行わず,引きずらないよう確実に持ち上げてから水平方向移動させることは技術常識である。また,刊行物1の段落【0033】の「後者の運搬手段(車両)は,ウェハキャリア1を持ち上げたキャリア搬送車(移載車)21bから解放され,」という記載からも,運搬手段(車両)上でウェハキャリアがキャリア搬送車(移載車)のホイストアームで持ち上げられるものであることが理解できる。したがって,キャリア移載車21内の位置で運搬手段(車両)11にウェハキャリア1を移載するときにも,当然ウインチ及びロープを昇降動作させるものである。
イ 伸長可能アームの位置について 刊行物1事項の「伸長可能アーム23」は,確かに「レールトラック20」に対して上方位置に搭載されているが,このような水平方向にウェハキャリアを移動可能な機構は,レールトラック10及び20の上方位置にあっても下方位置にあっても,水平方向移動機能について同様の動作を行うことが可能であることは明らかで,レールトラック10及び20に対する位置にかかわらずその機能を発揮することは,当業者であれば理解できる。したがって,刊行物1事項を認定する際に,この点まで認定する必要はない。
ウ 「キャリア搬送車」について 伸長可能アームの構造を刊行物2発明の昇降部3cに適用することを検討するにあたり,伸長可能アームの伸縮作動によるグリッパの位置を定めるには,キャリア搬送車(キャリア移載車)を基準として当該キャリア搬送車(キャリア移載車)の内及び外を明確にすれば足りるから,審決の認定に誤りはない。仮に,原告の主張 14 するように, 「キャリア搬送車」について「合流した状態の車両11とキャリア搬送車21」と認定を変えたとしても,審決の結論が変わることはない。
(2) 相違点1についての審決の判断の理由の一部不記載及び個別の判断に関する誤りについて原告の主張する相違点1-1及び1-2については,全て審決が認定した相違点1に含まれ,相違点として検討されている事項である。仮に原告の主張する各相違点に分け得るとしても,以下のとおり,審決の認定及び判断に誤りはない。
ア 相違点1-1について (ア) 運搬手段(車両)とキャリア搬送車(移載車)とが合流した後は,両者を一体のものと解してなんら差し支えないから,その意味で,刊行物1事項の「キャリア搬送車」が本件発明の「オーバーヘッドホイスト搬送車」に相当すると判断することに誤りはない。
(イ) 原告が主張する点は,後記のとおり,刊行物1事項を刊行物2発明に適用することを妨げる事情とはならないし,審決の結論に影響を与えるものでもない。
イ 相違点1-2について前記(1)アのとおり,刊行物1事項の伸長可能アーム23が有するグリッパは,第1の位置においても昇降動作をするものであるから,刊行物1事項の伸長可能アーム23を刊行物2発明に適用すれば,相違点1-2を得ることができる。
(3) 刊行物2発明への刊行物1事項の適用困難性についてア 刊行物2の段落【0001】ないし【0003】の記載によれば,刊行物2においては,物品保持部が搬送用空間にあること,その物品保持部に物品を移載することが最重要で,物品を移載するための具体的な手段として,各請求項や「発明の詳細な説明」に開示された種々の例が採用できることがわかる。
刊行物2発明のような,走行する移動体3から把持具3dを下降させて物品載置台11上の物品Bへ到達させる物品移載手段BMがあり,該把持具3dに対して物品載置台11が移動体3の走行経路の両脇に位置するレイアウト構造を有するもの 15 において,移動体3の真下に位置する把持具3dを,移動体3の走行経路脇の下方に位置する物品載置台11上に載置された物品Bに到達させるには,移動体3と物品載置台11を接近させること,相対的に移動させることが肝要であるから,物品載置台11の物品載置部分側を移動体3の把持具3dの真下に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを下降させるか,又は反対に,移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを降下させるかの二者択一的な動作を選択することで可能となることは,機械設計技術を勘案した当業者ならば当然着想する技術思想である。
そして,刊行物2発明のように物品載置台11の物品載置部分側を横幅方向に移動させる構造の物品移載手段BMではなく,反対に移動体3の把持具3d側を物品載置台11の真上に位置するよう横幅方向に移動させる構造の物品移載手段とした場合には,物品載置台11の横幅方向の移動機能が不要になるため,横幅方向に固定された構造の物品載置台にできることも,当業者には自明の事項にすぎない。したがって,物品載置台11を移動体の横幅方向に固定された構造に代える」 「 ことは,当業者が容易に想到する事項である。
また,刊行物2には,実施形態は複数示されており,それぞれが異なった構造を有しているが,それらはいずれも刊行物2の特許請求の範囲に記載された発明に含まれるいくつかの実施態様であって,別発明として区別されるようなものではない。
例えば,刊行物2の段落【0012】には,物品を移動体横幅方向へ移動させて前記物品の移載を行うように構成された物品移載手段を有する刊行物2の請求項11に係る発明について, 「移動体の物品移載手段は,物品を移動体横幅方向へ移動させて物品の移載を行うので,物品収容能力を大きくするために物品保持部を,収納スペースの確保が容易な,案内レールに対する移動体横幅方向の位置に設けた場合に,物品を昇降移動させて移載する形式では,物品保持部に保持する物品を移動体横幅方向に移動させるための補助的な手段が必要となる場合があるのに対して,そのような補助的な手段を必要としない」と記載されているところ,同記載は,刊行物2 16 の図1に示された移動体3(刊行物2発明)に,物品を移動体横幅方向へ移動させる当該物品移載手段を備えさせて,請求項11に係る発明のように構成すれば, 「物品を昇降移動させて移載する形式(図1の実施形態1)では,物品保持部(物品載置台11)に保持する物品を移動体横幅方向に移動させるための補助的な手段(リンク機構10)が必要となるのに対して,そのような補助的な手段を必要としない」簡素な構成とすることができるという効果も述べているのであって,個別の実施形態によって奏する効果が区別されるものではない。このように,刊行物2には,刊行物2発明において,移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させることの示唆がある。
さらに,刊行物2には,横幅方向に移動させる例も具体的に記載されていることも(図12),刊行物2発明において,移動体3の把持具3d側を上記のとおり横幅方向に移動させることの示唆である。この図12に記載された設備は,別の実施例ではあるものの,屈曲アーム20bは物品Bをわずかであっても上昇(垂直移動)させてから水平移動させ下降(垂直移動)させるものであるから,物品Bの垂直移動機能を有する搬送設備として,関連する技術として示されているものである。そして,このように物品を垂直移動とともに水平移動させる搬送設備(図12)が,刊行物2発明である物品を垂直移動させる搬送設備(図1)と関連する技術として示されていることからも,刊行物2発明に刊行物1事項を適用して水平移動させる機能を付加することの動機付けがある。
イ 原告は,刊行物1事項の伸長可能アームは,本件発明の移動ステージとは,昇降動作や使用目的が異なるため,これを刊行物2発明に適用する動機付けがない,また,刊行物1事項と刊行物2発明とは,前提構成が異なるとともに物品を水平方向に移動させる目的・用途が異なるため,適用する動機付けがないと主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,伸長可能アームは,被移載物を走行経路の位置と走行経路脇の位置との間で,持ち上げて移載する装置である点で,刊行物2発明と目的及び用途が一致し,昇降及び水平移動といった被移載物の動作も同じである。
17 また,伸長可能アームは,被移載物であるウェハキャリアを走行経路の横幅方向に移載させる目的のものであるから,刊行物2発明のように,物品Bを,走行経路直下の加工装置5のステーションSTと走行経路側脇の物品載置台11との間を,走行経路の横幅方向に移載することを目的とするものへの適用に,十分な動機付けを有するものである。
そして,刊行物2発明と刊行物1に開示された具体的な構造との間に相違するところがあるとしても,適用を困難にするほどの事情ではない。
さらに,刊行物2には,物品の移載手段を移動体に備えることが構成の簡素化のために好ましいことも記載されており(段落【0007】【0008】,この点か , )らも,刊行物2発明に刊行物1事項を適用することに動機付けがある。原告は,段落【0007】の記載は,刊行物2に記載された実施形態に適用した場合のみの効果であると主張している。しかし,刊行物2の段落【0007】の記載は, 【請求項4】記載の構成を備える発明について述べており,実施形態の構成のみに限定されるものではなく, 「移動体に,物品保持部との間で,物品を移載するための保持部用移載手段が設けられている」構成を有するものが対象となるべきものである。
(4) したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張に根拠はない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由1には理由がないが,取消事由2には理由があり,審決にはこれを取り消すべき違法があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由1(刊行物2発明の認定の誤り及びこれに基づく本件発明との一致点・相違点の認定の誤り)について (1) 本件発明について まず,本願明細書(甲3,8,17)の記載によれば,本件発明の要旨は,以下のとおりのものと認められる。
18 ア 本件発明は,集積回路チップ類の製造に使用される自動化マテリアル取扱システムにおいて,吊り下げられたトラックに沿って走行し,半導体ウエファを貯蔵する複数の仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)並びに集積回路チップ製造工場の床に設置された各種ワークステーション及び処理機械に半導体ウエファ類を搬送するオーバーヘッドホイスト搬送車に関する(【0001】ないし【0003】。
) 従来のオーバーヘッドホイスト搬送車は,仕掛品パーツ類(半導体ウエファ)が入ったカセットポッドを,仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)のインプットポートにおろしたり,アウトプットポートから引き上げたりするものである 【0003】 ( ,【0015】【0016】。そして,従来,仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)内 , )部の多軸ロボットアームが,カセットポッドを仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)へ移し入れたり,移し出したりするようになっているところ(【0003】【001 ,6】,一般的にデリケートな品質を有する半導体ウエファを扱うロボットアームの )加速には厳格な制約があるのが通常であるため,ロボットアームの複雑な動きでロボットアームがインプットポート/アウトプットポート内にあるカセットポッドに近付くのに時間を要し,これによって,自動化マテリアル取扱システム全体の効率に限界があり,したがって,マテリアル取扱効率を上げるためには,仕掛品貯蔵ユニットのインプットポート及びアウトプットポートの数を増やし,オーバーヘッド搬送車が同時に多数のインプットポート及びアウトプットポートに達するようにすることが必要であるが,これには,仕掛品貯蔵ユニットのコストが大幅に高くなるという課題があった(【0004】。
) イ 本件発明は,このような課題を解決し,高能率のマテリアル自動化取扱システムのオーバーヘッドホイスト搬送車を提供するものであり,特許請求の範囲記載のとおり,オーバーヘッドホイスト搬送車が,移動ステージ及び移動ステージに取り付けられて移動ステージによって水平方向に移動させられるホイスト把持部とを備え,懸架軌道(トラック)に沿って吊り下げられて移動し,水平移動したホイスト把持部が,トラックに沿ってオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2 19 の位置からその直下の高さの位置にある棚又はコンベヤ等へ下降して,カセットポッドを直接取り上げたり,カセットポッドを配置したりすることを特徴とし,これにより,ロボットアームを要さずに,仕掛品の仕掛品貯蔵ユニット(ストッカー)への出入れが行えるようにするものである(特許請求の範囲, 【0001】【000 ,7】【0009】。
, ) (2) 刊行物2発明について ア 次に,刊行物2(甲2)の記載によれば,刊行物2記載の発明の要旨は,以下のとおりのものと認められる。
刊行物2記載の発明は,搬送用空間と,その搬送用空間とは別の空間とが上下に並ぶ状態で設けられ,前記搬送用空間に,案内レールと,その案内レールに案内されて走行する移動体とが設けられ,前記移動体が,複数のステーション間で物品を搬送するように構成されている物品搬送設備に関する(【0001】)。
従来,複数のステーション間で物品を搬送する物品搬送設備に関して,物品搬送のための案内レールや移動体を配置する「搬送用空間」は,物品搬送という目的以外に使用する「別の空間」と上下に並ぶ状態で設けられ,この「搬送用空間」を上下方向で一定の領域に限定することで,可及的に前記「別の空間」の容積の拡大を図っていたところ,このような物品搬送設備においては,各ステーションに搬送される物品又は各ステーションから搬送されてきた物品を一時的に保持する設備は,搬送用空間とは「別の空間」内に保管棚として設けられ,具体的には,天井側の空間を搬送用空間,床面側の空間を前記「別の空間」として設定する場合には,物品の保管棚を床面上に立設するのが一般的であった(【0002】)。しかし,このような従来構成では,「別の空間」(床上の空間)に物品の保管棚の設置スペースが必要となるという問題点があり,改善が望まれていた(【0003】)。
そして,刊行物2記載の発明は,上記課題を解決する手段として,@物品を一時的に保持する物品保持部を,搬送用空間に配置する構成とすることによって(【請求項1】 , ) 「別の空間」におけるスペースを可及的に低減することを可能とし 【0 ( 20 004】),Aさらに,物品保持部の構成として,移動体と物品保持部及び移動体とステーションとの間の物品の各移載手段をいずれも移動体側に設けることにより(【請求項4】,【請求項5】),そのような移載手段を物品保持部側又はステーション側に設ける場合に比べて,設備全体として設ける移載手段の数が少なくて済むものとし(段落【0007】,【0008】),かつ,B上記移動体の保持部移載手段とステーション用移載手段とを,単一の物品移載手段で兼用する状態で設けられているものとすることにより(【請求項6】),設備全体として一層の構成の簡素化を図ることができるものとし(【0008】),C上記Bの物品移載手段を,物品を昇降移動させて移載を行う構成とすることにより(【請求項7】),ステーションを床面側の「別の空間」に配置することが可能となり,ステーションと「別の空間」との間の物品移送に要する設備が不要となり,又は小型なもので済むようにして,構成の簡素化を図ることができるものとし(【0009】),D又は,上記Bの物品移載手段を,物品を移動体横幅方向へ移動させて移載を行う構成(【請求項11】)とすることにより,物品保持部を案内レールに対する移動体横幅方向の位置に設けた場合に,物品を昇降移動させて移載する構成では必要となる物品保持部に保持する物品を移動体横幅方向に移動させるための補助的な手段を,必要としないか,設けるにしても簡素な構成とすることができる(【0012】)とするものである。
イ 刊行物2には,発明の実施の形態として,第1実施形態,第2実施形態及びその他の別実施形態が記載されており,そのうち,第1実施形態として,以下の記載がある(図1は,別紙のとおり)。
「【0016】 【発明の実施の形態】 ・ ・ ・ 〔第1実施形態〕物品搬送設備TSは,複数の工程で加工処理されて完成品となる物品Bの製造設備において,各工程間でその物品Bを搬送する設備である。この搬送のために,設備の全体レイアウト図である図7に示すように,6個のループ状の案内レール1と,それらの案内レール1間で物品Bを搬送するためのループ状の連絡用案内レール2とが備えられており, 21 各案内レール1では複数台の移動体3が案内されて物品Bを一定方向(例えば反時計周り方向)に搬送し,連絡用案内レール2においても複数台の連絡用移動体4が案内されて物品Bを一定方向(例えば時計周り方向)に搬送する。
【0017】 各案内レール1は,床面FLと天井CLとによって区画される作業用空間において,図1に示すように,天井CLの下側に取り付けられ,天井CLの下側の,案内レール1,移動体3及び後述する物品保管部BSが存在する空間が,物品Bの搬送するための搬送用空間TAを形成し,その搬送用空間TAの下側に位置する床面FL上側の空間が搬送用空間TAとは別の空間OAを形成し,前記別の空間OAに,案内レール1に沿って床面FL上に並ぶ状態で複数台の加工装置5が設置されている。移動体3は,図3に示す各加工装置5の物品受入れ部5a及び物品払出し部5bに対して物品Bの受け渡しを行うので,厳密には,図3に示すように,各加工装置5の物品受入れ部5a及び物品払出し部5bにおける移動体3との物品移載位置が案内レール1における移動体3のステーションSTとなる。・・・」 「【0019】 以下,上記した各部分について概略説明する。案内レール1を走行する移動体3は,図1及び図2に示すように,上記の案内レール1によって上下方向並びに左右方向での位置が規制される図示しない走行輪を備えた走行部3aと,走行部3aにおいて巻き取り駆動される索状体3bにて吊下げ支持されて昇降自在の昇降部3cと,昇降部3cの下端から下方に延びる物品把持用の把持具3dとが備えられて構成され,リニアモータ(例えば移動体3側に駆動用コイルを備えたLDM)にて走行駆動される。・・・ 【0020】 この移動体3とステーションSTとの間の物品Bの移載は,図1及び図2に示すように,昇降部3cの昇降作動と把持具3dの把持作動とにより,案内レール1の直下に位置する加工装置5の物品受入れ部5a及び物品払出し部5bとの間で,物品Bを昇降移動させて行うものであり,後述するように物品保持部BSにおいても,昇降部3cの昇降距離が異なるものの同様の移載動作を行う。従って,物品保持部BSとの間で物品Bの移載を行う保持部用移載手段BCと,ステ 22 ーションSTとの間で物品Bの移載を行うステーション用移載手段SCとは,索状体3b,昇降部3c及び把持具3dを主要部とする単一の物品移載手段BMにて構成されている。
【0021】 ・・・物品保持部BSには,図1,図2及び図7に示すように,天井CL近くの移動体移動経路の両側に配置され,一端側を天井CLに揺動自在に取り付けられたリンク機構10と,そのリンク機構10の他端側が揺動自在に取り付けられて水平揺動自在の物品載置台11と,伸縮端12aがリンク機構10に取り付けられた油圧シリンダ12とが備えられており,油圧シリンダ12の駆動力により,物品載置台11が,移動体3の走行経路に進出する状態と,走行経路の側脇に引退する状態とに切り換えられる。物品載置台11は,通常,走行経路の側脇に引退する状態を維持し,移動体3が案内レール1に沿って走行するのを許容すると共に,移動体3の昇降部3cの昇降を許容して,ステーションSTに対する物品移載を許容する。・・・ 【0022】 物品載置台11が移動体3の走行経路に進出する状態では物品載置台11に載置される物品Bが,移動体3の昇降部3cの直下の移載用位置に位置し,この位置で,移動体3と物品の受け渡しを行う。すなわち,物品保持部BSに保持される物品Bを移動体3に移載するときは,移動体3の昇降台3cを降下させて,把持具3dにて物品Bにおける移動体前後方向の上端部を把持した後,昇降部3cを上昇端まで上昇させる。移動体1は,物品Bをその上昇位置で保持する状態で搬送する。移動体3が保持する物品Bを物品保持部BSに移載するときは,上記とほぼ逆の動作となる。従って,リンク機構10及び油圧シリンダ12を主要部として,案内レール横幅方向に保持する複数個(具体的には2個)の物品Bの夫々を,移動体3との移載用位置に位置させる物品移動手段MSが構成されている。」 ウ 上記記載によれば,刊行物2の第1実施形態(図1)としては,以下の発明が記載されていると認められるから(下線は,審決の認定と異なる部分である。, )刊行物2発明は,以下のとおりのものと認定される。
23 「昇降部3cを搭載した走行部3aであって, 前記昇降部3cは,物品Bを把持する把持具3dを有し, 前記走行部3aは,走行経路を画定する案内レール1に沿って吊り下げられて移動し,且つ,前記昇降部3cを前記案内レール1よりも下方位置に搭載し, 前記把持具3dは,水平揺動自在な物品載置台11が走行経路の側脇に引退する状態で,前記走行部3aの真下に位置する加工装置5のステーションSTへ下降して物品Bを移載し,且つ,物品載置台11が走行経路に進出する状態で,前記加工装置5のステーションSTより高い位置にある前記物品載置台11へ下降して物品Bを移載する,走行部3a。」 (3) 原告の主張する刊行物2発明の認定の誤り及び一致点 相違点の認定につい ・て ア 上記(2)ウの認定事実によれば,原告が主張するとおり,審決の刊行物2発明の認定は,@物品載置台11が水平揺動自在の移動棚であること及びA物品載置台11の水平揺動と把持具3dの昇降動作との関係を認定しなかった点で,誤っているというべきである。
イ これに対し,被告は,原告の主張する上記@及びAの物品載置台の構造は十分認識しており,相違点1の記載では, 本件発明では,・ 移動ステージを有し,・ 「 ・・ ・・刊行物2発明では,移動ステージを有していない」と記載しているし,審決は,原告の主張する構成を前提に判断をしている,と主張する。
しかし,本件発明においては,ホイスト把持部が第1の位置から下降してカセットポッドを取り上げ又は配置し,さらに水平方向に移動して搬送車の外に位置する第2の位置から異なる下降位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置するというカセットポッドの各位置での移載のための具体的な構成が特許請求の範囲に規定されているのであるから,本件発明の特定事項に沿うように刊行物2発明を認定する際にも,把持具3dによる物品の移載のために必要な一体的構成を認定すべきであり,審判官が刊行物2発明の物品載置台の構造を認識していたとしても,こ 24 れを刊行物2発明の内容として認定しない理由とはならない。
したがって,被告の主張は採用することができない。
ウ 以上によれば,審決の刊行物2発明の認定は誤りであり,これに起因して,相違点1に係る刊行物2発明の構成として,前記ア@及びAの構成を認定しなかった点は誤りである。
なお,原告は,審決の一致点の認定も誤りであると主張するが,ホイスト把持部が、オーバーヘッドホイスト搬送車の直下に下降して物品を取り上げ又は配置し,かつ,その直下の下降位置とは異なる高さの位置に下降して物品を取り上げ又は配置することが一致点であるとの認定自体が誤りであるとは認められず,同主張は採用することができない。
以上によれば,前記第2の4(3)記載の相違点1は,以下のとおりとなる(下線部分が,審決と異なる部分)。
「本件発明では,下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し, 前記移動ステージは,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と,前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で,前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ, 前記ホイスト把持部は,前記第1の位置及び第2の位置から異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」のに対し, 刊行物2発明は,移動ステージを有しておらず, 前記把持具3dが加工装置5のステーションSTへ下降するのは,水平揺動自在な物品載置台11が走行経路の側脇に引退する状態であり,前記加工装置5のステーションSTより高い位置にある前記物品載置台11へ下降するのは,物品載置台11が走行経路に進出する状態であるものの,下降開始の位置は異ならない点。」 エ もっとも,本件においては,上記ウのとおり,相違点1に係る刊行物2発明の構成の認定はされていないものの,これに対応する本件発明の構成は相違点1と 25 して挙げられており,これについての容易想到性の判断がされている。そうすると,刊行物2発明の認定の誤り及びこれに起因する相違点1の認定の誤り自体が直ちに審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。
したがって,原告の主張する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(刊行物1事項の認定の誤り及びこれに基づく相違点1の容易想到性判断の誤り)について (1) 刊行物2発明に,把持具を水平方向に移動する構成を適用することについて 審決は,刊行物2発明の昇降部3cについて,刊行物1事項の構造を適用し,把持具3dと共に水平方向に移動させる構造(本件発明の移動ステージに相当する構成)とすることは,当業者が容易に想到し得ると判断したものである。
ア しかし,前記1(2)ア及びイのとおり,刊行物2記載の発明は,物品保持部を,搬送用空間に配置することで,搬送用空間以外の「別の空間」における物品保持スペースを可及的に低減させることを可能とするだけではなく,移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段をいずれも移動体側に備え,さらに,これら双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用することにより,設備全体として一層の構成の簡素化を図ることができるとするものである。
そして,第1実施形態(刊行物2発明)は,移動体と物品保持部との間及び移動体とステーションとの間の物品の移載手段を兼用する単一の物品移載手段BMを,物品を「昇降移動」させて移載を行う構成とし,移動体3と加工装置5との間の物品の移載は,加工装置5(ステーション)を床面に設置して,物品移載手段BMで物品Bを移動体3の直下の加工装置5の物品受入れ部5a 及び物品払出し部5bに昇降移動させることにより行うとともに,移動体3と物品載置台11との間の物品の移載は,加工装置5との間の物品の移載の際には移動体3の走行経路の側脇に引退している状態にある物品載置台11を移動体3の直下に揺動移動させて,物品移載手段BMで物品Bを移動体3の直下の物品載置台11に昇降移動させることによ 26 り行うというものである。
なお,刊行物2には,第1実施形態以外に複数の実施例が記載されているが,いずれも,移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段をいずれも移動体側に備え,これら双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用するものである。上記実施例のうち,物品移載手段が物品を移動体横幅方向に移動させて移載を行う構成とする実施例(段落【0035】 図12, ,13。図12,13は,別紙のとおり)においては,物品Bを保持して移動体3が走行する案内レール1の一方の脇(移動体横幅方向の位置)にステーションSTが,ステーションSTの設置個所を除く案内レール1の両脇(移動体横幅方向の位置)に物品保持部BSが配置され,移動体とステーションSTとの間での移載及び移動体と物品保持部BSとの間での移載を,昇降動作(物品Bの上下方向への移動)ではなく,物品Bの移動体3の横幅方向への移動により行う実施形態も記載されているが,双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用するという点では,第1実施形態(刊行物2発明)と共通である。
イ 以上によれば,刊行物2発明は,移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段を,単一の昇降移動手段で兼用し,構成の簡素化を図ることをその技術的意義とするものである。一方,相違点1に係る本件発明の構成は,オーバーヘッド搬送車からその真下に位置する処理加工治具ロードポートへは,オーバーヘッド搬送車の移動ステージ下方に取り付けられて物品を把持するホイスト把持部が下降して,物品を移送するが,オーバーヘッド搬送車の側方に配置される固定棚へは,ホイスト把持部が移動ステージによって固定棚の上方へ水平方向に移動させられてから下降して,物品を移送するものであり,移動体側に物品の昇降移動と横幅移動の双方の手段を兼ね備え,ロードポートと固定棚への物品移載手段を互いに異なる動作で行うものであり,単一の昇降移動手段で兼用しているものではない。
そうすると,刊行物2発明において,把持具が昇降移動する構成に加えて,水平 27 方向に移動する構成を適用し,物品載置台及び加工装置へ異なる移動手段で物品を移載するという相違点1に係る構成とすることは,刊行物2発明の技術的意義を失わせることになる。そして,そもそも刊行物2発明においては,物品載置台11が揺動移動する構成となっており,移動体3の直下に位置することが可能であるため,物品移載手段BMの把持具3dは昇降移動のみで物品載置台11との間の物品の移載が可能となるにもかかわらず,あえて把持具3dを水平方向に移動させる構成を追加する必要性がなく,そのような構成に変更する動機付けがあるとは認められない。
ウ(ア) 以上に対し,被告は,刊行物2発明のような,把持具3dを下降させて物品載置台11へ物品を移載する物品移載手段BMがあり,該把持具3dに対して物品載置台11が移動体3の走行経路の両脇に位置するレイアウト構造を有するものにおいては,@物品載置台11の物品載置部分側を把持具3dの真下に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを下降させるか,又は,A移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを降下させるかは,単に二者択一的な動作を選択することで,当業者ならば当然着想する技術思想であり,上記Aの構造とした場合には,物品載置台11の横幅方向の移動機能が不要になるため,これを固定式の物品載置台にできることも,当業者には自明の事項にすぎないと主張する。
しかし,前記イのとおり,刊行物2発明においては,把持具3dが,物品載置台だけではなく,加工装置との間でも単一の移載手段(昇降手段)を兼用することで構成を簡素化することを技術的意義とするものであり,上記@の構成をあえてAの構成に変更することの動機付けはないから,刊行物2発明において上記Aの構成が上記@の構成と二者択一的とはいえないし,結局のところ同主張は後知恵的な発想であり,採用することができない。
(イ) また,被告は,@刊行物2の請求項11に係る発明についての段落【0012】には,刊行物2発明において把持具3d側を横幅方向に移動させることの示唆 28 がある,A刊行物2に物品を横幅方向に移動させる実施形態(図12)が具体的に記載されていることも,刊行物2発明の把持具3dを横幅方向に移動させることの示唆であり,この実施形態の屈曲アーム20bは物品Bをわずかであっても上昇(垂直移動)させてから水平移動させ,下降(垂直移動)させるものであるから,刊行物2発明の把持具3dに水平移動させる機能を付加することの動機付けがあると主張する。
しかし,上記@については,前記1(2)アのとおり,請求項11に係る発明は,移動体の保持部移載手段とステーション用移載手段とを兼用する単一の物品移載手段(【請求項6】)を,物品を昇降移動させて移載を行う構成(【請求項7】)とする代わりに,物品を移動体横幅方向へ移動させて移載を行う構成としたものであり,段落【0012】は,そのような構成とすることにより,物品を昇降移動させて移載を行う構成においては必要とされる物品保持部を横幅方向に移動させるための補助的な手段が不要等となる旨を記載したものであって,請求項11の記載も段落【0012】の記載も,移動体の物品保持部への移載手段とステーションへの移載手段とは単一の物品移載手段で兼用するということを前提とするものである。したがって,段落【0012】は,物品を昇降移動させる単一の物品移載手段で保持部移載手段とステーション用移載手段とを兼用している刊行物2発明に,保持部移載手段についてのみ,請求項11に係る発明のような物品を移動体横幅方向へ移動させる物品移載手段を備えさせることを示唆するものとはいえない。
上記Aについても,前記アのとおり,図12の実施例は,移動体とステーションST(加工装置)との間及び移動体と物品保持部BSとの間での物品の移載を,いずれも移動体3の横幅方向への移動により行う実施形態であるが,双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用するという点では,刊行物2発明と共通であり,同実施例をもって,刊行物2発明に,保持部移載手段についてのみ,物品を移動体横幅方向へ移動させる物品移載手段を備えさせることを示唆するものとはいえない。
また,図12の実施形態における移動体3は,第2実施形態における連絡用移動 29 体4と同一構成であるところ(刊行物2の段落【0035】,刊行物2には,同移 )動体は,その本体部上面側に荷台20aを取り付けている屈曲アーム20bを有しており,物品を載置する荷台20aは,屈曲アーム20bの伸縮動作によって移動体の移動方向の左右両側に荷台を出退自在であるとともに,屈曲アーム20b自体 「の昇降動作によって,物品Bを僅かに昇降させることができる」 (段落【0032】)ことが記載されている。しかし,物を横方向(水平方向)に移動させるときに,移動を円滑にするために,またその物自体やその物が置かれる場所を傷付けないために,その物を持ち上げて,引きずらないようにすることは一般常識であるし,刊行物2記載の発明のように工場内で搬送される物品においては,物品が精密機器であることも当然想定されるから,物品Bを移動体横幅方向に移動させるときにその物品Bを持ち上げて引きずらないようにすることは,技術常識である。そうすると,物品を移動体横幅方向に移動させて物品保持部及びステーションとの間の物品Bの移載を行う単一の物品移載手段を有する構成の図12の実施形態において,屈曲アーム20bが物品Bを「僅かに」昇降させることができるものとされているのは,物品Bを移動体横幅方向に移載するために必要な限りでそうなっているのであって,物品Bを垂直方向に移動させて物品Bの移載を行うことを意図するものであるとは認められず,上記段落【0032】の記載をもって,物品を移動体横幅方向に加えて垂直方向への移動手段により移載する物品移載手段を備えさせることを示唆するものとはいえない。
したがって,被告の主張は採用することができない。
エ 以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,刊行物2発明に,把持具を水平方向に移動する構成を適用し,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(2) 刊行物1事項について 上記(1)によれば,刊行物2発明への適用が問題となる副引用例である刊行物1事項の認定,判断について検討するまでもなく,刊行物2発明を主引用例とする審決 30 の相違点1の判断は理由がない。なお,事案に鑑み,審決の刊行物1事項の認定方法について述べる。
審決は,@刊行物1の記載によれば,刊行物1には,前記第2の4(4)のとおりの事項(刊行物1事項)が記載されていると認定した上,A相違点1について検討するため,刊行物1事項を本件発明と対比すると,刊行物1事項の「グリッパ」「伸 ,長可能アーム」「ウェハキャリア」「キャリア搬送車」は,それぞれ本件発明の「ホ , ,イスト把持部」「移動ステージ」「カセットポッド」 「オーバーヘッドホイスト搬 , , ,送車」に相当し,また,刊行物1事項の「一方の位置」及び「他方の位置」は,本件発明の「第1の位置」及び「第2の位置」と言い換えることも特段困難性があるものではないとして,同解釈に基づく刊行物1事項の構造を再度認定(再解釈)した上,B同再度認定した後の刊行物1事項の構造を,刊行物2発明に適用可能か否かを検討したものである。
しかし,上記再度認定した構造は,刊行物1事項の具体的な構成を,本件発明の構成に相当するものと言い換えて得られたものであるから,刊行物1事項を包含する上位概念というべきものであり,刊行物1事項そのものではない。このような認定方法は,刊行物1事項の刊行物2発明への適用の容易想到性を検討する前に,刊行物1に記載された具体的な構成を捨象して,適用対象となる事項を認定するものであり,結果として容易想到性の判断の誤りをもたらす危険性が高く,相当ではないというべきである。
3 結論 以上のとおり,原告の主張する取消事由2には理由があり,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一