運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2001-35096
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10194審決取消請求事件 判例 特許
平成11ワ3012特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成17行ケ10712審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10458特許取消決定取消請求参加事件 判例 特許
平成13行ケ245特許取消決定取消請求事件 判例 特許
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  抵触 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 117号 審決取消請求事件
原告 日本ビシエイ株式会社
訴訟代理人弁理士 大熊考一
同 木内光春
被告 アルファ・エレクトロニクス株式会社
訴訟代理人弁理士 山田文雄
同 山田洋資
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2001−35096号事件について平成14年1月30日にした審決中「本件審判の請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「チツプ抵抗器」とする特許第1658620号の特許(昭和61年5月6日出願(以下「本件出願」という。同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,「訂正前明細書」という。甲第14号証は,公告時のその内容を示す特許公報である。),平成4年4月21日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である。なお,登録後,後記本件訂正により,請求項の訂正及びこれに伴う発明の詳細な説明の記載の訂正がなされている。)の特許権者である。
原告は,平成13年3月7日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した。特許庁は,これを無効2001-35096号事件として審理した。被告は,審理の過程で,平成13年6月19日,請求項の文言の訂正を含む,訂正前明細書の訂正(以下「本件訂正」という。本件訂正の内容は,甲第15号証(訂正請求書)記載のとおりである。以下,これによる訂正後のものを,「訂正明細書」という。)を請求した。特許庁は,審理の結果,平成14年1月30日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年2月8日,その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の特許請求の範囲(別紙1,2参照) 「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を,柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装したチップ抵抗器において, 前記絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびて その外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面に折返された一対の板状外部接続端子と,これらの各板状外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線と,前記外装樹脂の前記取付面に前記各板状外部接続端子と干渉しないように一体成型された凸部とを備え,前記外装樹脂の前記取付面に前記各板状外部接続端子の外部突出端と凸部との前記プリント基板に対向する部分を略同一平面上に位置させたことを特徴とするチップ抵抗器。」 (判決注・下線部が本件訂正請求による付加訂正部分である。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正を認めた上で,訂正明細書の特許請求の範囲によって特定される発明(以下「本件発明」という。)中の,「他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端」を備えた外部接続端子について,審判手続において提出された証拠には開示も示唆もなく,それらの証拠から容易に発明することができたと認めることはできない,その他,原告の主張する理由及び提出する証拠方法では,本件特許を無効とすることはできない,とするものである。
原告の主張の要点
審決は,本件発明の進歩性の判断を誤っているなど,違法であり,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は, 「7-5.本件発明の進歩性等について 本件発明と前記各証拠(判決注・BULLETIN R-700b VISHAY V53 & M53/55 SERIES BULK METALTM VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS」(審判甲第1号証・本訴甲第1号証,以下,これを「引用例1」といい,これに記載された発明を「引用発明1」という。),実願昭57-43948号(実開昭58-147233号公報)のマイクロフィルム(審判甲第2号証・本訴甲第2号証,以下,これを「引用例2」といい,これに記載された発明を「引用発明2」という。),「BULLETIN R-700d VISHAY V53 & M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS」(審判甲第3号証・本訴甲第3号証,以下,これを「甲3文献」という。),「BULLETIN R-800A Announcing Vishay's new "Super-S" precision resistor-Model S102C」(審判甲第4号証・本訴甲第4号証,以下,これを「甲4文献」といい,これに記載された発明を「甲4発明」という。),特開昭59-200448号公報(審判甲第5号証・本訴甲第5号証,以下,これを「甲5公報」といい,これに記載された発明を「甲5発明」という。),実願昭58-138762号(実開昭60-48231号公報)のマイクロフィルム(審判甲第6号証・本訴甲第6号証,以下,これを「甲6公報」といい,これに記載された発明を「甲6発明」という。),実願昭58-73496号(実開昭59-177934号公報)のマイクロフィルム(審判甲第7号証・本訴甲第7号証,以下,これを「甲7公報」という。),実願昭58-77215号(実開昭59-182926号公報)のマイクロフィルム(審判甲第8号証・本訴甲第8号証,以下,これを「甲8公報」という。),実願昭57-168482号(実開昭59-72725号公報)のマイクロフィルム(審判甲第9号証・本訴甲第9号証,以下,これを「甲9公報」という。),米国特許第3718883号明細書(審判甲第10号証・本訴甲第10号証,以下「甲10明細書」という。))とを対比すると,各証拠には,本件発明の構成要件である「他側面にその一辺のほぼ全長にわたる幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端」を備えた外部接続端子について記載されていない(判決注・以下「本件相違点」という。)。
また,各証拠には,該構成について示唆する記載もない。
本件発明は,該構成により明細書記載の「抵抗器の実装状態における抵抗値の精度を高く保つことが可能になる。」旨の作用効果を奏するものである。・・・ したがって,本件発明は,請求人の提出した各証拠から容易に発明ができたものであるとすることはできない。」(甲第11号証30頁8行目〜27行目) としている。
しかし,この判断は誤っている。
(2) 本件相違点に係る構成は,甲6公報に開示されている(別紙3参照) ア 甲6公報の第3図には,モールド樹脂の一辺の幅よりもわずかに小さい幅を有する,電極板3,4が開示されている。この電極板3,4は,絶縁性を確保できる範囲での,最大限の幅を有しており,このような幅を有する板状の外部接続端子とすることは,一対の端子を有するチップ状の電子部品における周知技術である。
イ 絶縁性基板は,モールド樹脂の内部に封止されるものであるから,モールド樹脂より小さい幅を有することは当然である(甲第1号証,第4号証,第5号証,及び第10号証)。
ウ 甲6発明において,絶縁性基板も,甲6発明の電極板3,4も,モールド樹脂の一辺の幅よりもわずかに小さい幅であれば,この電極板3,4が,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅で,当該絶縁性基板に貼着するのに十分な幅を有していることは明らかである。
この電極板3,4が,この絶縁性基板の幅方向に対して直交する方向に延びていることも明らかである。
エ 被告は,甲6発明は固体電解コンデンサに関する発明であり,引用発明1のチップ抵抗器とは異なる,と主張する。し かし,甲6発明は,チップ状の電子部品に関する発明であり,固体電解コンデンサに限定されていない。
本件発明と同一技術分野に属するチップ抵抗器(絶縁性基板上に抵抗素子が形成され,この抵抗素子と外部の部品とを電気的に接続するための複数の電極(外部接続端子)が形成されているもの)に関して,外部接続端子が絶縁性基板の一辺のほぼ全長にわたる幅で密着され,かつ,この一辺に直交する方向に延びている構成は,甲第23号証ないし第30号証にも開示されている。
オ 甲第16号証にも,板状の端子が,外装樹脂の相対する二面から引き出され,さらに,その先端が外装樹脂の底面に近接するようにL字状に折り曲げ加工された電子部品が開示されている。
(3) 引用発明1と,甲6発明とを組み合わせることは容易である。 引用発明1と甲6発明とを組み合わせると, ア 外装樹脂のプリント基板への取付面に凸部が形成され, イ 凸部と外部接続端子とのプリント基板に対向する部分が略同一平面上に位置し, ウ 外部接続端子が絶縁性基板の金属箔抵抗体を貼着した面と反対の面に貼着され, エ 外部接続端子と抵抗体とをリード線によって接続する, という金属箔抵抗器に想到でき,この金属箔抵抗器において,板状の外部接続端子が,絶縁性基板に,その一辺とほぼ等しい幅で貼着されていることについても,前記のとおり,甲6公報に開示されている。
(4) 以上のとおりであるから,本件訂正により付加された構成(本件相違点に係る構成)は,引用例1並びに甲5公報及び甲6公報等から,当業者が容易に推考できたものである。
(5) 顕著な作用効果の存在の認定の誤り ア 被告は,審判手続において,「この発明ではリードを板状として絶縁基板にできるだけ広い面積で接触するように貼り付けたから,抵抗体自身が発生する熱をこの板状のリードを通して外へ導くという効果も得られ,精度は一層向上するものである。」(甲第11号証20頁11行目〜14行目),と主張した。
イ しかし、このような作用効果は,訂正前明細書にも,訂正明細書にも全く記載されていない新規な事項であり,そもそも審判手続において考慮すべきものではない。
しかも,この作用効果は,外部接続端子が板状であり,絶縁性基板にできるだけ広い面積で貼着されているということに基づくものと解され,そのような構成及びこれにより放熱が効果的に行われることは,甲5公報に開示されている(甲第5号証2頁左欄19行目〜右欄5行目,第3図,第4図)(別紙4参照)。
したがって,上記作用効果は,当業者が当然に予想できるものであって,顕著なものとはいえない。
2 取消事由2(本件発明の特許請求の範囲の文言の不明確性) 「絶縁性基板の一辺のほぼ全長」という語は,不明確であいまいなものである。どの程度の幅が,「ほぼ」といえるのか,「ほぼ全長」である場合とそうでない場合とにおいて,作用効果に相違があるか否かについて,訂正明細書には記載がなく,審決も明らかにしていない。
訂正前明細書の第1図及び第2図には,絶縁性基板の一辺と,板状外部接続端子との幅とが一致しているもののみが開示されている。板状外部端子の幅が,絶縁性基板の一辺より狭いものや,広いものは開示されていない。
したがって,「ほぼ全長」とは,板状外部端子の幅が,絶縁性基板の一辺と一致する場合のみを意味すると解するべきである。しかし,「ほぼ」というあいまいな表現が含まれているため,本件発明の内容があいまいになってしまうのである。
3 以上のとおり,本件発明は,進歩性(特許法29条2項)を欠くか,特許請求の範囲の文言が明確でない(同法36条6項2号)から,無効とされるべきである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 本件発明が進歩性を欠くとの原告の主張は,審判において主張されていなかったものである。審決取消訴訟における訴訟物は,審決の違法性である。審判段階における請求人の主張と異なる無効事由は,訴訟における審理の対象とはならない。
(2) 引用例1,甲3文献及び甲4文献は,現実に頒布されたものか否か不明であり,「刊行物」とはいえない。
「printed」という語は,単に,印刷された,ということを意味するにすぎず,当該印刷物が頒布されたことまで表すものではない。
政府機関や出版会社の印刷物であれば,現実に頒布された蓋然性も高いといえるものの,単なる民間の一企業である原告の親会社の印刷物が,印刷された以上当然に頒布もされている,と認めることはできない。
(3) 審決は,「甲第1号証(判決注・引用例1)の発明は,「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を,柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装している」という本件発明と共通している。」(甲第11号証25頁35行目〜26頁1行目)として,引用例1に,金属箔抵抗体が開示されている,と説示している。
しかし,「bulk metal」は,直訳すると,大きなかさばった金属,という意味である。しかも,「TM」という表示があることから,VISHAY社の商標であると理解される。これを,金属箔抵抗体であると解する理由が不明である。
引用例1に記載された「is applied to a special ceramic substrate」の「applied」は,貼り付けるという意味であるとは限らず,適用する,という意味も有する。同じく,「It is set on the substrate」は,バルクメタルは基板に施される,という程度の意味である。貼り付ける,という意味に限定して解する理由はない。
(4) 甲6公報は,固体電解コンデンサ,具体的には焼結型固体タンタルコンデンサに関する発明を,実施例として開示するものである。
この種のコンデンサは,タンタル焼結体の一端からタンタル線(陽極)を進入させ,焼結体の他端側の端面及びその外周をメッキして陰極にする,という構造のものである。それには,本件発明における絶縁性基板はない。また,焼結体から外に延びる陽極は線状であるから,絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着された複数の板状外部端子も備えていない。
なお,甲第16号証ないし第22号証も,すべて,固体電解コンデンサに関するものである。本件発明の構成を開示するものではない。
(5) 甲第23ないし第30号証に開示されているチップ抵抗器も,本件発明の進歩性を判断するにおいて,何ら参考になるものではない。
すなわち,甲第23ないし第30号証の電極は,本件発明の外部接続端子とは異なり,基板の表面(端面,裏面を含む)に形成され,基板によって支持されているもので,電極だけが,基板から分離して突出しているものではないし,その形成方法も本件発明とは異なるのであって,甲第23ないし第30号証において,電極が基板の一辺のほぼ全長に亘る幅であるからといって,本件発明の容易推考性を根拠付けるための周知技術とすることはできない。また,それらの電極は,基板の端部を包むように基板に密着するものであるから,基板の一辺に直交する方向に延びることは不可能である。
(6) 原告の主張の骨子は,要するに, ア 引用発明1における棒状の外部接続端子を,板状にすることは容易であり, イ 放熱性を高めるために,板状の外部接続端子と絶縁性基板の接触面積を多くすることは周知技術であり, ウ そのため,外部接続端子を絶縁性基板の一辺の全長に近い幅で貼着することは,甲6公報に開示されている, というものである。
しかし,アの点については,引用発明1は,そもそも放熱を必要とするものではないから,その外部接続端子を板状にする必要がないのであり,ウの点については,前記のとおり,板状の外部接続端子を絶縁性基板の一辺の幅のほぼ全長に亘る幅にすることは,周知とはいえない。
板状の外部接続端子と,絶縁性基板との接触面積を増やす方法は,前者を,後者の一辺の全長に近い幅で貼着するものだけではなく,外部接続端子を絶縁性基板の長さ方向に長くするものもある。例えば,引用発明1と甲5発明とを組み合わせると,外部接続端子の幅が,絶縁性基板の一辺の半分程度にしかならないものに想到するものである(別紙5参照)。
引用発明1から,本件発明の構成に至るためには,リードを板状とすることと,板状リードの幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長にすること,の2つの変更を経る必要がある。それぞれが困難であり,かつ,この2つの変更を一度になすことには,さらに大きな困難を伴う。したがって,本件発明が容易推考なものとはいえない。
(7) 顕著な作用効果の存在の認定の誤りに対して ア 本件発明は,本件訂正により付加された構成により,より高い放熱効果が得られ,精度が一層向上する。これは,格別の作用効果である。
イ 本件発明のチップ抵抗器は,抵抗温度係数が数ppm/℃程度の,極めて高い精度の抵抗器である。この精度を保つためには,厳しい温度管理が必要となってくる。
このことは,訂正前明細書の「この種の抵抗器では,基板の線膨張係数と抵抗体の抵抗温度係数とを適合させることにより,抵抗値の温度に対する変動を抑制し,高精度な抵抗器を得ることができる。すなわち温度上昇に伴う抵抗体の抵抗値の変化を,基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることにより相殺し,抵抗温度係数を小さくするものである。」(甲第14号証1頁2欄6行目〜12行目。なお,訂正明細書にも同一の記載がある。)との記載にあらわれている。
このような技術思想は,引用例1には開示されていない。
2 取消事由2(本件発明に係る特許請求の範囲(請求項の文言)の不明確性)に対して 原告は,審判において,特許請求の範囲の文言の不明確性の主張をしていないから,訴訟において,新たにこの主張をすることは許されない。
当裁判所の判断
1 審決の説示内容について (1) 審決は,「7.当審の判断」(甲第11号証21頁20行目)中の「7-1.訂正の適否」(同頁21行目)の項において,本件訂正の適否について述べ,「7-2.本件発明」(同号証22頁12行目)の項において,本件発明の認定をし,「7-3.請求人(判決注・原告)が証拠により立証しようとした事実」(同頁24行目)の項で原告が立証しようとした事実を摘示し(この「7-3.」の記載が,審決の判断を示したものでないことは,その記載内容,特に「8.まとめ」(同号証30頁32行目)の記載との対比から明らかである。),「7-4.被請求人(判決注・被告)の主張する事項」(同号証29頁37行目)の項で被告の主張する事項を摘示し,「7-5.本件発明の進歩性等について」(同号証30頁8行目)の項で,その判断を述べている。
この「7-5」における審決の説示の内容は,「第3 原告の主張の要点」「取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)」(1)で摘示したとおりである。
(2) 審決は,引用発明1の内容,本件発明と引用発明1との一致点,相違点を,明示には認定していない。
しかし,審決は, 「7-5.本件発明の進歩性等について 本件発明と前記各証拠とを対比すると,各証拠には,本件発明の構成要件である「他側面にその一辺のほぼ全長にわたる幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端」を備えた外部接続端子について記載されていない。
また,各証拠には,該構成について示唆する記載もない。・・・ したがって,本件発明は,請求人の提出した各証拠から容易に発明ができたものであるとすることはできない。」(甲第11号証30頁8行目〜27行目) と説示している。審決は,絶縁性基板の他側面(金属箔抵抗体が貼着されていない側面)に,その一辺のほぼ全長にわたる幅で貼着されこの一辺に直交する方向に延びる外部突出端があるか否かを相違点(本件相違点)として把握し,これが容易推考ではないことを根拠として,本件発明の進歩性を肯定したと認められる。
以下では,この本件相違点についての判断の適否について検討することとする。また,審決が判断を明示していない,本件発明の金属箔抵抗体が,引用例1に開示されているか否か(引用発明1の「Etched Bulk Metal」が,本件発明の「金属箔抵抗体」に該当するか否か)について,当事者間に争いがあることから,この点についても判断を示す。
2 取消事由1(本件発明の進歩性の判断の誤り)について (1) 被告は,本件発明の進歩性は,原告が審判手続において提出していなかった主張であるから,本訴においてこれを主張することは,新たな無効事由の提出に当たり,許されないと主張する。
しかし,審決は,「2-3.具体的無効理由」(甲第11号証3頁14行目)以下で,本件発明の無効理由についての原告の主張として, 「従って,かかる訂正及び作用効果の主張は到底認められるべきものではなく,仮に,訂正請求書の通りの訂正がなされたとしても,その課題及びこれに解決する手段に特許性が認められるような斬新性が得られるものではない。」との主張を摘示し,また,「6,口頭審理における両当事者の主張の要点」(甲第11号証21頁13行目)においても, 「(3)甲第1号証に記載された発明に甲第2号証記載の事項を採用して,本件発明が容易に発明できたか否かの点については,両当事者とも争う。」(同頁18行目〜19行目) と摘示し,さらに, 「7.当審の判断 7-1. 訂正の適否」(甲第11号証21頁20行目〜21行目)以降において,本件訂正を認めるとの説示をし,本件発明の特許請求の範囲を摘示した後,「7-3.請求人が証拠により立証しようとした事実」(同号証22頁24行目)の「(2)本件発明が特許法第29条第2項に該当する発明であるとの主張」(同号証25頁27行目)以下,及び「(3)本件発明は,甲第1号証及び甲第2号証(判決注・引用例1及び引用例2)から容易に発明することができたものである旨の主張」(同号証27頁2行目〜3行目), 「従って本件発明は,その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することかできたものと認められ,特許法第29条2項に該当するもので,本件発明の特許は,同法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。」(同号証29頁33行目〜36行目), と,原告の主張を摘示している。
以上からすると,原告は,訂正が認められたとしても,本件訂正により付加された構成も含めて,本件発明が進歩性を欠くとの主張をしていた,と認めることができる。
したがって,取消事由1が,審判で提出されなかった新しい主張であるということはできない。
(2) 引用例1,甲3文献及び甲4文献の頒布の有無について ア 引用例1,甲3文献及び甲4文献の作成時期は,次のとおりであると認められる(甲第1,第3,第4号証)。
(ア) 甲3文献は,Vishay Intertechnology, inc(以下「Vishay社」という。)のVISHAY RESISTIVE SYSTEMS GROUP(以下「Vishayシステム」という。)の作成した印刷物であると認められる。
甲3文献の1枚目の末尾には,「1975 Vishay All Rights Reserved Printed in U.S.A.」との記載がある。この記載から,甲3文献は,1975年(昭和50年)に印刷されたものと認められる。
同じく,Vishayシステムが作成したと認められる甲4文献にも,その2枚目の末尾に,「Copyright 1977 Vishay Resistive Systems Group. All rights reserved. Printed in U.S.A. 」と記載されており,1977年(昭和52年)に印刷されたものと認められる。
(イ) 甲3文献の4枚目の末尾には,「10M 10/75 AN Printed in U.S.A.」との記載がある。この記載のうち「75」は,前記のとおり,甲3文献が1975年に印刷されたと認められること,「AN」には,「in the year」の意味があること(研究社 リーダーズ英和辞典初版)から,1975年を意味するものと認められる。
そうすると,引用例1の4枚目の末尾の「5M 11/74 AN Printed in U.S.A」との記載も,1974年(昭和49年)に印刷されたことを意味するものと認めることができる。
イ 頒布の有無について (ア) 引用例1,甲3文献及び甲4文献には,それぞれその一枚目の右上部に「BULLETIN」の語が,同枚目の末尾には,Vishayシステムの住所と電話番号等が記載されている(甲第1,第3,第4号証)。「BULLETIN」とは,「公報,会報,小新聞」という意味である(前記辞典)。
(イ) 引用例1,甲3文献及び甲4文献は,その表題などから見て,例えば開発に関する文書のように,限られた特定の範囲において配布され,閲覧される性質のものではなく,また,Vishayシステムの連絡先が明記され,その製品の特徴を強調する内容となっていることからすると,社外,例えば顧客等に向けて頒布されることを予定して印刷されたものであると認めることができる。そうすると,これらの文書は,特段の事情が認められない限り,その取引先等に頒布されたと推認するのが相当であり,本件においては,それらの頒布の事実を否定すべき特段の事情は認められない。
(ウ) 以上のとおりであるから,引用例1,甲3文献及び甲4文献は,その印刷後間もない時期,遅くとも本件出願時まで(おおよそ9年ないし12年の期間がある。)には,頒布されていたと認めることができる。
(3) 引用発明1のバルクメタル(Etched Bulk Metal)が,金属箔抵抗体であるか否かについて ア 被告は,引用例1の「Etched Bulk Metal」は,本件発明の「金属箔抵抗体」ではない,と主張する。
訂正明細書によれば、本件発明の金属箔抵抗体は,次のようなものと説明されている(甲第15号証)。
(ア) 「アルミナやガラス等の絶縁性基板に,ニッケル,クロームなどを含む金属箔抵抗体を貼着し,この金属箔抵抗体にフォトエッチングなどにより抵抗パターンを形成して抵抗チップとし,リード線をこの抵抗体に接続した後,全体を樹脂で外装した金属箔抵抗器・・・」(訂正明細書1頁21行目〜24行目) (イ) 「12は金属箔抵抗体であり,ニッケル,クローム,銅,アルミニウム等を含む合金を圧延して箔に仕上げ,さらに真空中(約10-6Torr)で熱処理して圧延に伴なう加工ひずみを除去し所望の抵抗温度特性を得ている。」(訂正明細書3頁5行目〜8行目) 以上の記載からは,本件発明における金属箔抵抗体は,ニッケル,クロームなどの合金からなる箔であり,絶縁性基板に貼着され,フォトエッチングなどにより抵抗パターンが形成されて抵抗チップとなり,リード線が接続されるものであると認められる。
ウ 引用例1に開示されている「Etched Bulk Metal」とは,次のようなものと説明されている。
(ア) 「その特性が知られ,制御可能な専有の「バルクメタル」は,特別なセラミック基板に貼り付けられる。その抵抗パターンは,ビシェイ社によって開発された超精密技術に基づくフォトエッチングによって形成される。(A proprietary BULK METAL of known and controllable properties is applied to a special ceramic substrate. A resistive pattern is then photoetched by an ultra-fine technique developed by Vishay.)。」(引用例1の2枚目上段左欄3行目〜8行目・「外国文献(甲第1,4,3及び11号証)翻訳文(抄訳)」と題する書面(以下「訳文」という。)1頁7行目〜9行目) (イ) 「バルクメタル(登録商標)としては,その電気的,機械的,温度的特性を得るために特別な合金が選択される。」(同2枚目上段中欄1行目〜3行目・訳文1頁11行目〜12行目) (ウ) 「バルクメタルは,特別の専有の過程によって,基板に取り付けられる。この過程においてビシェイ社の抵抗体に生じる冶金学的変化は,巻線を巻く過程,蒸着過程といった他の種類の精密抵抗器の製造過程におけるものとは異なっている。ビシェイ社の抵抗器の合金は,その製造過程において,引っ張り,巻き付け,加工硬化やストレスを受けることがないため,抵抗体は本来の外形的,物理的,電気的特性を維持している。(It is set on the substrate ・・・characteristics.)。」(同2枚目上段中欄3行目〜右欄3行目・訳文1頁12行目〜18行目) (エ) 引用例1の3枚目の上段には,「V SERIES」の製品の図があり,そのうちの中央図には,「Etched Bulk Metal」が,「Ceramic substrate」(セラミックの基板)に取りつけられ,この「Etched Bulk Metal」に「Flexible welded ribbon leads」(柔軟性のあるリード線)が溶接され,このリード線が「Tinned copper leads」(錫メッキをされた銅線)に接続されている図が示されている(訳文2頁2行目〜14行目)。
エ 以上からは,引用発明1にいう「Etched Bulk Metal」も,合金からなる箔であり(フォトエッチングにより抵抗パターンが作成されることと,前記引用例1の3枚目上段中央の図から,この「Etched Bulk Metal」は,箔といえるほど薄いものと認められる。),フォトエッチングにより抵抗パターンが形成されて抵抗チップとなり,絶縁性基板に貼着され,リード線が接続されるものであると認められる。
したがって,「bulk」,「metal」という語の辞書的な意味がどうであれ,引用発明1の「Etched Bulk Metal」が,本件発明の金属箔抵抗体に該当することは明らかである(被告は,上記引用例1の記載中「is applied to」は適用するとの意味であり,「It is set on the substrate」は,基板に施す,との意味であると主張するが、仮にそのように翻訳したとしても,「Etched Bulk Metal」が,本件発明の金属箔抵抗体に該当するとの結論が左右されるものではない。)。
(4) 外部接続端子が,絶縁性基板の他側面に,その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に直交する方向に延びている構成(本件相違点に係る構成)の容易推考性について ア 引用発明1のチップ抵抗器は,棒状の外部接続端子を採用している。そして,これら2本の外部接続端子は,同一の方向へ引き出されているため,これらを,絶縁性基板に,その一辺の全長にわたる幅で貼着するのは不可能である(別紙6参照)。そこで,まず,棒状の外部接続端子を板状とし,これらを相対する2面から引き出すようにすることの容易推考性について検討する。
(ア) 引用例2には,次のとおりの記載がある。
「従来,チツプ型電子部品の形状は第1図および第2図に示すように電子部品端子(1)を樹脂成形体(2)で外装し該成型体(2)の両端から電極端子(3)を導出し該電極端子(3)を前記成型体(2)の底面(4)に沿うように内側に折り曲げていた。」(甲第2号証1頁18行目〜2頁2行目) 「接着剤(6)が硬化するまで電子部品が安定した状態で位置する必要がある。この場合電子部品が傾いたり,転倒したりすると取付不良となることがあるためである。この理由から従来の電子部品の電極端子(3)の幅W1は樹脂成形体(2)の幅W2の1/3以上,すなわち3W 1≧W 2にする必要がある。」(同号証2頁11行目〜17行目)(別紙7参照) すなわち,引用例2には,幅広の外部接続端子が,電子部品を安定して基板に取り付けるのに好ましいことが,開示されている。
(イ) 甲6公報には,次のとおりの記載がある。
「この考案は,例えばチツプ型固体電解コンデンサのようなチツプ電子部品に関する。
従来,上記のチツプ型固体電解コンデンサには,第1図に示すようなものがあつた。同図において,1は本体部で,概略直方体状に合成樹脂によつて形成されており,その内部にはコンデンサ素子(図示せず)が埋設されている。このコンデンサ素子の陽極と陰極とには電極板3,4が本体1内において電気的に接続されている。これら電極板3,4は,本体1の端壁部5,6からそれぞれ引出され,概略L字状をなすように折曲げられ,そのL字状部の底部3a,4aが本体1の底面部7の両端部に位置せしめられている。底面部7において,電極板の底部3a,4aに挟まれた部分には突出部8が形成されており,その底面8aは電極板の底部3a,4aの底面と同一平面に位置している(甲第6号証1頁12行目〜2頁7行目)。
(ウ) 甲9公報には,次のとおりの記載がある。
「従来,絶縁性合成樹脂でモールドされる超小型の電解コンデンサ等の電子部品においては,その端面から引き出した板状端子は部品本体の端面に沿って底面方向に直角に折り曲げ,更にその中間部を部品本体の底面部に沿ってL字型に折曲している。
このようなチップ型電子部品では,プリント基板の配線導体に直接半田付けすることから,板状端子は部品本体の底面部に沿って水平に折曲されていることが望ましい。」(甲第9号証1頁17行目〜2頁6行目)(別紙8参照) (エ) 甲第16号証(実願昭47-14317号(実開昭48-90147号公報)のマイクロフィルム)には,次のとおりの記載がある。
「本考案は合成樹脂被膜モールドされたチツプ状電子部品の電極引出用端子の改良に関するものである。
混成集積回路等の印刷回路基板に直接取付けるコンデンサ,抵抗等の電子部品は一般に第1図に示す如くフエイスボンデングに適するようにリード線端子に代つて板状端子2が用いられている。
この板状端子2は平板状で一般に部品の相対する二面から引出され第1図に示す如く端子2の先端即ち基板等との接続部3が本体底面に近接するように鍵状に曲げ加工されている。」(甲第16号証1頁13行目〜2頁5行目) 「・・・端子からの熱伝導を避けることは,端子を細くすることで或る程度小さくすることはできるが,細くしたときは電子部品製造中端子上への部品素子の装着,接触が不安定不完全となり易く,また電子部品を印刷配線基板上へ装着するときの位置合せがしにくくなり,且つ基板上へ装着した後での端子強度が不足するなど別の欠点が生じた。」(甲第16号証3頁11行目〜18行目)(別紙9参照) (オ) 以上のとおり,チップ型電子部品において,外部接続端子が,ある程度幅のある板状であり,それらが同部品の相対する二面から引出され,さらに,同端子の先端が本体底面に近接するように鍵状(L字状)に折り曲げられている構成は,本件出願当時,周知なものであり,しかも,この構成は,チップ状電子部品を,プリント基板等に,安定して確実に接続することを容易にする,という効果を発揮するものと理解される。
したがって,この周知技術を,同じチップ状の電子部品である引用発明1に適用して,外部接続端子を板状にし,その外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面で,かつ相対する二面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折り曲げられている構成にすることは,当業者が容易に推考できることである,と認められる。
(カ) 甲6発明が,チップ状電子部品に係るものであり,チップ状抵抗器を含むとしても,そこに具体例として開示されているのは,固体電解コンデンサに関するものであり,被告が指摘するとおり,本件発明の金属箔抵抗体を貼着した絶縁性基板を有するチップ状電子部品について,具体的に記載されているものではない。
しかし,甲6発明から抽出し,引用発明1に適用するのは,外部接続端子を板状にすることと,部品の相対する二面から引出され,同端子の先端が本体底面に近接するように鍵状(L字状)に折り曲げること,である。そして,甲6発明のこの部分の構成は,それ自体意味を持つものであり,それだけを独立して認識し,抽出することに何ら困難はなく,さらに,チップ抵抗器である引用発明1にとっても好ましい性質(基板への安定した取付)を備えさせるものなのである。
(キ) 引用発明1において,その棒状の外部接続端子を板状にすることが,困難なものであるとは認められない。かえって,引用発明1と同じ構造の抵抗器である甲4発明では,この外部接続端子は「NEW UNIT CONSTRUCTION ("PADDLE LEADS")(幅広のリード)」となっていることからは,引用発明1の外部接続端子を,板状とすることが可能である,と認められるのである(甲第4号証)。
(ク) チップ状電子部品の相対する二面から外部接続端子が引出される構成についても,引用発明1がそれを採用することを阻害する事由の存在は見当たらない。このことは,引用発明1と同じ構造のチップ状抵抗器を開示する甲10明細書で,その第6図AないしDにおいて,外部接続端子が相対する方向から引き出される構成が開示されていることから,明らかである(甲第10号証)(別紙10,11参照)。
(ケ) 以上のとおりであって,外部接続端子を板状とし,これらを相対する二面から引き出すようにすることは,当業者が容易に推考できることである。
イ 次に,板状の外部接続端子を,絶縁性基板に,その一辺にほぼ等しい幅で貼着する構成の容易推考性について検討する。
(ア) 甲4発明は,引用発明1と同じ構造のチップ抵抗器(ただし,前記のとおり,幅広(PADDLE)の外部接続端子を採用している。)であり,甲4文献は,甲4発明の特徴として,「ビシェイ社は,その有名なS102の改良型を進歩させてきました。このS102は,世界で最も精密な抵抗器として,工業及び軍事の全体に亘って,長く知られております。」(甲第4号証1枚目左欄本文1行目〜3行目・訳文4頁5行目〜7行目),「長期的な安定-S102C抵抗器の顕著な特徴は,ビシェイのバルクメタルの技術を基礎としています。特別な合金から成る固体層は,その電気的特性,機械的特性及び熱応力特性の組み合わせに応じて選択されます。そして,不要な冶金学的又は構造的変化を導かない独特の工程によって,注意深くセラミックの基板に貼り合わされます。その後,「幅広のリード」が,抵抗器チップに溶接されます。セラミック基板と,より一層放熱効率に優れた特性を持つリード部材との組み合わせが,S102C(抵抗器)の優れた耐湿性及び耐高温放置特性と,負荷寿命耐性の向上の大きな要因となっています。」(甲第4号証1枚目左欄本文7行目〜18行目・訳文11行目〜18行目),と述べている。
すなわち,幅広のリードを用いることにより,より効率的な熱放散ができ,耐熱性が高まる,としている。
(イ) 甲5公報には, 「本発明による半導体装置は,金属板の半導体素子と反対の面に熱伝導の良い絶縁体基板を接着し,各々の外部引出しリード線の先端を絶縁体基板に装着させる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行うことができ,過渡熱抵抗を小さくすることが可能となる。」(甲第5号証2頁左欄3行目〜8行目), と記載されている。
(ウ) 甲第16号証には, 「この欠点即ち端子(判決注・板状端子2)からの熱伝導を避けることは,端子を細くすることで或る程度小さくすることはできる」(甲第16号証3頁11行目〜13行目), との記載があり,板状端子の幅と熱伝導との関連が示され,板状端子の幅を広いものにすれば,これを介する熱伝導が高くなることが開示されているといえる。
(エ) 上記の甲4文献,甲5公報及び甲第16号証からは,熱伝導の良い絶縁性基板に貼着されたリード(引用発明1の「Tinned copper lead」,本件発明の外部接続端子に該当)が,熱放散効果を上げ得ること,この熱放散効果は,リードの幅が広いほど高くなることが,本件出願当時周知の技術であり,かつ,そのような熱放散効果は,引用発明1と同構造で,棒状のリードの代わりに幅広のリードを採用する甲4発明において,好ましい性質(高い耐熱性、負荷寿命特性)をもたらすと考えられていたことを認めることができる。
引用発明1において,板状の外部接続端子を採用し,かつ,チップ抵抗器の相対する二面から,それぞれ端子を引き出す構成とすることを,当業者が容易に推考できることは,前記のとおりである。そして,当業者であれば,そのような構成を採用する場合,なるべく広い面積で絶縁性基板に接合させるため,板状の外部接続端子の幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅とすることは,熱放散が最も高くなる基本的な態様の一つとして,容易に推考できる,設計的な事項である,というべきである(それ以上幅を広くしても,接触面積を増やすという観点からは無意味であり,むしろ,部品の小型化という観点からは有害となるといえる。)。そして,その場合,外部接続端子が,絶縁性基板の一辺に直交する方向に延びている構成となることは,ごく自然なことである。
(オ) 被告は,引用発明1と甲5発明を組み合せると,別紙5の(C)のような構成が想到されるにすぎない,と主張する。しかし,外部接続端子を,チップ抵抗器の相対する2面から引き出す構成を採用する以上,別紙5の(C)のような引出し方を採用する必然性は全くない。
また,被告が主張するように,絶縁性基板と外部接続端子の接触面積を増やす方法としては,例えば,外部接続端子の幅ではなく,長さを,絶縁性基板の一辺のほぼ全長にわたる態様とすることも考えられることは事実である。しかし,可能な複数の方法が存在するとしても,本件相違点に係る構成は,それら複数の方法のうちの最も基本的なものの一つであることはいうまでもないから(前記のとおり,周知の技術思想である,接触面積を最大にし,かつ,部品の小型化に抵触しないという要請にかない,かつ,部品の安定取付にも寄与するものである。),当該構成を採用することは,当業者が容易に推考し得る設計事項の一つである,とする上記判断の妨げとなるものではない。
ウ 以上のとおりであるから,本件相違点に係る構成,すなわち,外部接続端子が,絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に直交する方向に延びているという構成は,本件出願当時,甲4文献,甲5公報及び甲第16号証に開示された周知技術に基づいて,当業者が想到することは容易であった,というべきであり,この点に関する審決の前記判断は誤りであって,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(5) 顕著な作用効果の存在の認定の誤りについて ア 被告は,本件訂正により付加された構成(外部接続端子が,絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され,この一辺に直交する方向に延びている,との構成)により,より高い放熱効果が得られ,精度が一層向上する,と主張する。
しかし,既に述べたとおり,上記構成は容易に推考できるものであり,これにより高い放熱効果が得られることは,周知技術であって,当業者が当然に予測できるものであるから,上記作用効果を特許性の根拠とすることはできない。
イ 被告は,本件発明は,引用例1には開示されていない,温度上昇に伴う抵抗体の抵抗値の変化を,基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることにより相殺し,抵抗温度係数を小さくするという技術思想を有している,と主張する。
引用発明1に,引用例2,甲4文献,甲5公報,甲6公報,甲9公報,甲第16号証に記載の周知技術を適用して,本件発明の構成に容易に想到することができることは,既に述べたとおりである。被告が主張する上記技術思想を要することなく,本件発明の構成に至ることができる以上,上記技術思想が,引用例1(ないし他の引用文献等)に開示されていないとしても,そのことは,本件発明の特許性の判断に何ら影響するものではない。
3 結論 以上のとおりであるから,原告が主張する取消事由1は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消を免れない。そこで,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久