運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2002-35093
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術的特徴 /  参酌 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  具体的態様 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 550号 審決取消請求事件
原告 株式会社ダイフク
同訴訟代理人弁理士 森本義弘
同 板垣孝夫
同 笹原敏司
被告 中西金属工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 日比紀彦
同 岸本瑛之助
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2002―35093号事件について平成14年9月18日にした審決を取り消す。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯(甲1,甲2の1,弁論の全趣旨) 原告は,発明の名称を「移動体使用の搬送設備」とする特許第3170578号(平成5年7月16日出願,平成13年3月23日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成14年3月13日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2002―35093号)ところ,特許庁は,平成14年9月18日,「特許第3170578号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲(甲2の2) 【請求項1】床側に設けた左右一対のレールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を,連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した三本以上のフレーム体により形成し,これらフレーム体は,一定経路の方向に長い四角状体からなるとともに,その側面を受動面に形成し,各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,その上部においてフレーム体に対して左右両側に突出する一個の被搬送物支持部と,前記左右一対のレールに支持案内される前後一対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,前記レールに支持案内される被案内装置を有し,前記本体は,左右一対のレール間の上方に位置するとともに,その前後端を当接部に形成して,先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成し,前記一定経路中に,前記受動面を挟持する送りローラを有する送り装置を設けたことを特徴とする移動体使用の搬送設備。(以下,この発明を「本件発明1」という。) 【請求項2】床側に設けた左右一対のレールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を,連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した三本以上のフレーム体により形成し,これらフレーム体は,一定経路の方向に長い四角状体からなるとともに,その側面を受動面に形成し,各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,その上部においてフレーム体に対して左右両側に突出する一個の被搬送物支持部と,前記左右一対のレールに支持案内される前後一対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,前記レールに支持案内される被案内装置を有し,前記本体は左右一対のレール間の上方に位置し,前記本体の前後端の一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成し,前記一定経路中に,前記受動面を挟持する送りローラを有する送り装置を設けたことを特徴とする移動体使用の搬送設備。(以下,この発明を「本件発明2」という。) 【請求項3】本体は三本のフレーム体からなり,中間のフレーム体に被搬送物支持部と一対の被案内装置とを設けたことを特徴とする請求項1または2記載の移動体使用の搬送設備。(以下,この発明を「本件発明3」という。) 3 本件審決の理由の要旨(甲1) 本件審決は,次のとおり,本件発明1ないし3は,実願昭56-15975号(実開昭57-130759号)のマイクロフィルム(甲4)及び米国特許第5,067,414号明細書(甲7)に記載された各発明(以下,順に「引用発明1,2」という。)並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるとした。
(1) 本件発明1について ア 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点 <一致点> A)床側に設けた左右一対のレールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を,連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した三本のフレーム体により形成し, B)これらフレーム体は,一定経路の方向に長い四角状体からなるとともに,その一部を駆動力作用部として用い, C)各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,その上部においてフレーム体に対して左右両側に突出する一個の被搬送物支持部と,前記左右一対のレールに支持案内される前後対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,軌道に支持案内される被案内装置を有し, D)前記本体は,左右一対のレール間の上の位置に位置するとともに,その前後端を押圧力受部に形成して,先行移動体の後端押圧力受部に対して後続移動体の前端押圧力受部を当接可能に構成し, E)前記一定経路中に,前記駆動力作用部に駆動力を与える装置を設けた F)移動体使用の搬送設備。 <相違点> イ.移動体に駆動力を与えるための態様について,本件発明1では,「フレーム体の側面を受動面に形成し」となっているのに対し,引用発明1では,「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)のうちの主桁12の下面に係合子24を設け」となっている点(以下,「相違点イ」という。) ロ.フレーム体と被案内装置の態様について,本件発明1では,「各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,前記左右一対のレールに支持案内される前後一対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,前記レールに支持案内される被案内装置を有し」となっているのに対し,引用発明1では,「各補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)のうち補助桁14,15(前後部のフレーム体)を除く主桁12(中間部のフレーム体)は,前記左右一対のレール4,4(左右一対のレール)に支持案内される横桁20,20を介しての前後一対の車輪22,22,22,22(被案内装置)とを有するとともに,補助桁14,15(残りの前後部の両フレーム体)は,ガイドレール16に支持案内されるトロリー17(被案内装置)を有し」となっている点(以下,「相違点ロ」という。) ハ.押圧力受部の態様について,本件発明1では,「前記本体は,左右一対のレール間の上方に位置するとともに,その前後端を当接部に形成して,先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成し」となっているのに対し,引用発明1では,「前記一定経路方向の桁(本体)は,左右一対のレール4,4(左右一対のレール)間の上側に位置するとともに,その前後端をストッパ19に形成して,先行台車11(移動体)の後端ストッパ19に対して後続台車11(移動体)の前端ストッパ19を当接し得るように構成し」となっている点(以下,「相違点ハ」という。) ニ.駆動力作用部に駆動力を与える装置の態様について,本件発明1では,「前記一定経路中に,前記受動面を挟持する送りローラを有する送り装置を設けた」となっているのに対し,引用発明1では,「前記一定経路中に,前記係合子24と係合してドッグ10を有するコンベア9を設けた」となっている点(以下,「相違点ニ」という。) イ 相違点イについて 一定経路上を移動自在な移動体群を外部より駆動して移動体に保持された物品を搬送する搬送設備における移動体の駆動手段として,従来より,一部の移動体にのみ外部よりローラ駆動力を与え,該移動体が隣接した移動体を後押しすることにより移動体群全体を駆動するもの(以下,「ローラ型駆動」という。)は,周知の技術的事項である(例えば,特開平2-102865号公報(乙1),特開昭61-166768号公報(乙2),米国特許第2,488,907号明細書(甲6)参照)。
また,移動体に外部よりローラ駆動力を与える際,平面視において移動体の中心線に近い箇所を受圧面とすることも周知の技術的事項である(例えば,乙1,2,甲6参照)。 さらに,このようなローラ型駆動は,移動体を一定経路に沿って配設したチェーンと係合して駆動すること(以下,「チェーン型駆動」という。)に比べて,チェーンの配設等による煩雑な点がないといった特徴を有することも周知の技術的事項である(例えば,乙1及び特開平3-42367号公報(乙3)の「従来の技術」及び「課題を解決するための手段」の項参照)。 そうすると,引用発明1に接した当業者にとって,チェーンの配設等による煩雑な点を回避する等の必要に応じて,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を,周知のローラ型駆動と置換することに格別な困難性はないというべきである。 そして,引用発明1をみると,外部より駆動力を受けているのは,移動体の中心線に近い箇所に配設された「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)のうちの主桁12」であるから,当業者にとって,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,この「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)」をローラ型駆動の受圧部とすることは,ごく自然なことというべきである。 してみると,相違点イに係る本件発明1の構成要件は,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。 なお,原告は,引用発明1の補助桁14,15の端面のストッパ19の大きさが補助桁14,15をローラ型駆動の受圧部とすることを妨げる旨主張しているが,引用発明1において補助桁14,15の端面のストッパ19の大きさを補助桁の横幅よりも幅広にすることが必須のことでないばかりか,ローラ型駆動のローラと緩衝しない程度の大きさにすることを妨げる特段の事情もないので,このような主張は失当である。 ウ 相違点ロについて 引用発明1において,左右一対のレール4,4とは別にガイドレール16を設けていること及び前後一対の車輪22,22,22,22を横桁20,20を介して設けていることの理由は,その実施例として,左右一対のレール4,4の間隔が広い態様を採用しているためと解される。 ところが,引用発明2についてみると,本件発明1の「左右一対のレール」に相当する「一対のチャンネルをその開口を互いに向かい合わせて形成したフリー軌道(16)」は,左右一対のレールの間隔が狭いものであって,このような間隔が狭い左右一対のレールに本件発明1の「前後一対の被案内装置」に相当する「前後一対のトロリ(5)および(6)」が支持案内されている。 また,引用発明1にこのような引用発明2のレールと被案内装置に係る技術思想の適用を妨げる特段の事情も見当たらない。 そうすると,引用発明1に引用発明2の上記技術思想を適用することは,両者の技術分野が同じであることからみても,当業者にとって格別困難なことではないというほかない。
そして,引用発明1に引用発明2の上記技術思想を適用すると,左右一対のレール4,4とは別にガイドレール16を設ける必要がなく,左右一対のレール4,4にガイドレール16の機能を持たせることが可能であることは,当業者にとって容易に予測できる程度のことにすぎない。 してみると,相違点ロに係る本件発明1の構成要件は,引用発明1に引用発明2の上記レールと被案内装置に係る技術思想を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。 エ 相違点ハについて 一定経路上を移動自在な移動体群を外部より駆動して移動体に保持された物品を搬送する搬送設備として,従来より,一部の移動体にのみ外部よりローラ駆動力を与え,該移動体が隣接した移動体を後押しすることにより移動体群全体を駆動すること(「ローラ型駆動」)が周知の技術的事項であること,引用発明1に接した当業者にとって,その必要に応じて,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を,周知のローラ型駆動と置換することに格別な困難性がないこと,及び,当業者にとって,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,この「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)」をローラ型駆動の受圧部とすることがごく自然であることは,前示(相違点イの検討参照)のとおりである。
そして,ローラ型駆動において,移動体が隣接した移動体を後押しする箇所が一定であれば,安定して移動体に押圧力を加えて搬送することができることは,当業者にとって容易に予測できることであり,また,引用発明1においても,常時ではないにしても複数の移動体(台車11)が当接し,該当接の箇所(ストッパ19)が一定であるから,当接時においては,安定して移動体に押圧力を加えることは,当業者にとって容易に予測できることである。また,甲6の当接部材(107)の態様からみて,ローラ型駆動を用いた搬送装置において,予め当接部を形成しておくことは,周知の技術的事項と認めることができる。 そうすると,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,引用発明1の当接の箇所であるストッパ19を敢えて排除する必要性がなく,むしろ,該箇所(ストッパ19)をローラ型駆動における当接部とすることがきわめて自然というべきである。 してみると,相違点ハに係る本件発明1の構成要件は,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用する際,上記当接部に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。 オ 相違点ニについて 一定経路上を移動自在な移動体群を外部より駆動して移動体に保持された物品を搬送する搬送設備として,従来より,一部の移動体にのみ外部よりローラ駆動力を与え,該移動体が隣接した移動体を後押しすることにより移動体群全体を駆動すること(「ローラ型駆動」)が周知の技術的事項であること,引用発明1に接した当業者にとって,その必要に応じて,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を,周知のローラ型駆動と置換することに格別な困難性がないこと,及び,当業者にとって,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,この「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)」をローラ型駆動の受圧部とすることがごく自然であることは,前示(相違点イの検討参照)のとおりである。
してみると,相違点ニに係る本件発明1の構成要件は,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。 カ 作用効果等について 本件発明1が奏する効果は,引用発明1,引用発明2及び上記周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に予測できる範囲を超えるものではない。 なお,原告は,本件発明1と引用発明1の目的や作用・効果が明らかに相違するとして,引用発明1を基にした容易想到性を否定する旨主張しているので,以下,検討する。 確かに,引用発明1の目的は,「レールが上下に起伏している場合,又は,レールが横方向に彎曲している場合に,前方の台車の主桁と後続して進行して来た台車の主桁とが干渉し合って,一台又は複数の台車が脱線することを防止すること」と認められるが,これは,前方の台車の主桁と後続して進行して来た台車の主桁とが当接することを前提とするものであって,ただ,従来のものにおいては,レールが上下に起伏している場合,又は,レールが横方向に彎曲している場合に,当接位置が一定でないために当接に係る押圧力の分力が台車に対してレールの方向と異なる方向に大きく働いて,これが台車の脱線の原因となることに着眼し,レールが上下に起伏している場合,又は,レールが横方向に彎曲している場合にも,当接位置が一定となるようにして,当接に係る押圧力の分力が台車に対してレールの方向と異なる方向に大きく働かないようにするものと解される。 そして,当接に係る押圧力の分力が台車に対してレールの方向と異なる方向に大きく働かないことは,当接に係る押圧力が台車に対してレールの方向に働くことにほかならず,このような状態であれば,当接に係る押圧力が台車に対して有効な押圧力になることは明らかである。 これに対し,本件発明の目的を見るに,本件特許に係る明細書(甲2の2,以下「本件明細書」という。)の記載「…一定経路が平面視において湾曲しているカーブ経路部(ターン経路部など)や,側面視において水平経路部から上昇経路へ移るカーブ経路部や,水平経路部から下昇経路へ移るカーブ経路部などにおいては,前後の可動体が成す相対角度が鋭角になって後押しが円滑に行えず,特に可動体が長尺であるほど相対角度は鋭角になる。…複数個のキャリア(可動体)を連結しかつ後押し移動させる…場合,カーブ経路においては,…変位した後押し力によりキャリアが傾斜するなどし,以てカーブ経路においては安定した移動を行えない。本発明の目的とするところは,可動体の本体を細長くコンパクトに形成し得,しかもカーブ経路部を有する一定経路でも,可動体群の密状(列車状)の移動を円滑に確実にかつ安定して行える可動体使用の搬送設備を提供する点にある。」(【0006】〜【0008】)からみて,「レールが上下に起伏している場合,又は,レールが横方向に彎曲している場合に,当接位置が一定でないために当接に係る押圧力の分力が台車に対してレールの方向と異なる方向に大きく働いて,これが台車の円滑な移動の行えないことに着眼し,レールが上下に起伏している場合,又は,レールが横方向に彎曲している場合にも,当接位置が一定となるようにして,当接に係る押圧力の分力が台車に対してレールの方向と異なる方向に大きく働かないようにする」限度において,本件発明と引用発明1の目的は実質的に同じと解され,両者の目的や作用・効果が明らかに相違するということができない。 また,本件明細書に例示される特開昭61-166768号公報(乙2)の記載「単一の長いキャリアを使用する場合に比べ,キャリア列を用いた場合には,キャリア列の可撓性が比較的大きいので,トラックの曲線部の曲率を比較的大きくすることが出来る。」(2頁左下欄13〜16行目)からみて,「キャリア構成部材が一定経路方向において複数箇所で可撓的に連結されている方がそうでないものに比べて,トラックの曲線部において有利である」ことが,周知の作用・効果と認めることができる。 これらを総合すると,原告の上記「本件発明1と引用発明1の目的や作用・効果が明らかに相違するとして,引用発明1を基にした容易想到性を否定する」旨の主張は,失当であるというべきである。 キ 結論 したがって,本件発明1は,引用発明1,引用発明2及び周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。 (2) 本件発明2について ア 本件発明2と引用発明1との一致点及び相違点 <一致点> A)床側に設けた左右一対のレールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を,連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した三本のフレーム体により形成し, B)これらフレーム体は,一定経路の方向に長い四角状体からなるとともに,その一部を駆動力作用部として用い, C)各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,その上部においてフレーム体に対して左右両側に突出する一個の被搬送物支持部と,前記左右一対のレールに支持案内される前後対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,軌道に支持案内される被案内装置を有し, G)前記本体は,左右一対のレール間の上の位置に位置し,前記本体の前後端の一方に前後方向力受部を形成するとともに,他方に前後方向力受部を形成して,前後方向力の受けることができるように構成し, E)前記一定経路中に,前記駆動力作用部に駆動力を与える装置を設けた F)移動体使用の搬送設備。 <相違点> イ.移動体に駆動力を与えるための態様について,本件発明2では,「フレーム体の側面を受動面に形成し」となっているのに対し,引用発明1では,「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)のうちの主桁12の下面に係合子24を設け」となっている点(以下,「相違点イ’」という。) ロ.フレーム体と被案内装置の態様について,本件発明2では,「各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,前記左右一対のレールに支持案内される前後一対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,前記レールに支持案内される被案内装置を有し」となっているのに対し,引用発明1では,「各補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)のうち補助桁14,15(前後部のフレーム体)を除く主桁12(中間部のフレーム体)は,前記左右一対のレール4,4(左右一対のレール)に支持案内される横桁20,20を介しての前後一対の車輪22,22,22,22(被案内装置)とを有するとともに,補助桁14,15(残りの前後部の両フレーム体)は,ガイドレール16に支持案内されるトロリー17(被案内装置)を有し」となっている点(以下,「相違点ロ’」という。) ハ.前後方向力受部の態様について,本件発明2では,「前記本体は左右一対のレール間の上方に位置し,前記本体の前後端の一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成し」となっているのに対し,引用発明1では,「前記一定経路方向の桁(本体)は,左右一対のレール4,4(左右一対のレール)間の上側に位置するとともに,その前後端をストッパ19に形成して,先行台車11(移動体)の後端ストッパ19に対して後続台車11(移動体)の前端ストッパ19を当接し得るように構成し」となっている点(以下,「相違点ハ’」という。) ニ.駆動力作用部に駆動力を与える装置の態様について,本件発明2では,「前記一定経路中に,前記受動面を挟持する送りローラを有する送り装置を設けた」となっているのに対し,引用発明1では,「前記一定経路中に,前記係合子24と係合してドッグ10を有するコンベア9を設けた」となっている点(以下,「相違点ニ’」という。) イ 相違点イ’について 該相違点イ’は,本件発明1と引用発明1との対比における相違点イと実質的に同じである。してみると,相違点イ’に係る本件発明2の構成要件は,相違点イについて検討したと同様の理由により,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。 ウ 相違点ロ’について 該相違点ロ’は,本件発明1と引用発明1との対比における相違点ロと実質的に同じである。してみると,相違点ロ’に係る本件発明2の構成要件は,相違点ロについて検討したと同様の理由により,引用発明1に引用発明2の上記レールと被案内装置に係る技術思想を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。
エ 相違点ハ’について 一定経路上を移動自在な移動体群を外部より駆動して移動体に保持された物品を搬送する搬送設備として,従来より,一部の移動体にのみ外部よりローラ駆動力を与え,該移動体が隣接した移動体を後押しすることにより移動体群全体を駆動すること(「ローラ型駆動」)が周知の技術的事項であること,引用発明1に接した当業者にとって,その必要に応じて,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を,周知のローラ型駆動と置換することに格別な困難性がないこと,及び,当業者にとって,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,この「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)」をローラ型駆動の受圧部とすることがごく自然であることは,前示(相違点イの検討参照)のとおりである。
もっとも,本件発明2は,一部の移動体にのみ外部よりローラ駆動力を与え,該移動体と係合した後続の移動体を引くことにより移動体群全体を駆動するというものであるが,ローラ駆動部を通過した移動体を切り離さない限り,先行する移動体を次々と後押しするものであることは明らかであって,この点は,原告も答弁書において認めている。 また,複数の移動体を係合して連結し,一部の移動体にのみ駆動力を与え,該移動体と連結した後続の移動体を引くことは,列車やトロッコの例を挙げるまでもなく周知の技術的事項である。 そして,ローラ型駆動において,後押しする場合と引っ張る場合があっても,移動体が隣接した移動体に駆動力を授受する箇所が一定であれば,安定して移動体に駆動力を授受して搬送することができることは,当業者にとって容易に予測できることであり,また,引用発明1においても,常時ではないにしても複数の移動体(台車11)が当接し,該当接の箇所(ストッパ19)が一定であるから,当接時においては,安定して移動体に駆動力を加える可能性があることは,当業者にとって容易に予測できることである。 そうすると,引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,引用発明1の当接の箇所であるストッパ19の位置を敢えて変更する必要性がなく,むしろ,該箇所(ストッパ19)をローラ型駆動における駆動力の授受部とすることがきわめて自然というべきである。 さらに,連結の脱着を行なう手段として,一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成することは,実願昭56-36733号(実開昭57-151321号)のマイクロフィルム (甲3)及びドイツ特許第1,247,218号明細書(甲8)に見られるように,周知の技術的事項にすぎない。 してみると,相違点ハ’に係る本件発明2の構成要件は,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用する際,当業者が甲第3号証及び甲第8号証に見られるような周知の技術的事項を参酌して容易に想到することができたものというべきである。
オ 相違点ニ’について 該相違点ニ’は,本件発明1と引用発明1との対比における相違点ニと実質的に同じである。してみると,相違点ニ’に係る本件発明2の構成要件は,相違点ニについて検討したと同様の理由により,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。 カ 効果について 本件発明2が奏する効果は,引用発明1,引用発明2及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に予測できる範囲を超えるものではない。 キ 結論 したがって,本件発明2は,引用発明1,引用発明2及び周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。 (3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1又は2の構成要件を全て含むものであって,しかも,本件発明1又は2において,「三本以上のフレーム体」及び「前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体」を,それぞれ,「三本のフレーム体」及び「中間のフレーム体」に限定するものであって,本件発明1又は2の検討において,限定された「三本のフレーム体」及び「中間のフレーム体」を構成要件とした発明について検討しているから,本件発明1又は2の検討と同様の理由により,引用発明1,引用発明2及び周知の技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。
原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,本件発明1について,相違点イないしニについての判断を誤り,また,引用発明1との目的・作用効果の相違を看過した結果,進歩性の判断を誤り(取消事由1),本件発明2について,相違点イ’ないしニ’についての判断を誤った結果,進歩性の判断を誤り(取消事由2),同様に,本件発明3についても進歩性の判断を誤った(取消事由3)ものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1の進歩性判断の誤り) (1) 相違点イの判断の誤り 本件審決は,「引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,引用発明1の「補助桁14,15及び主桁12(フレーム体)」をローラ型駆動の受圧部とすることは,ごく自然なことというべきである。」と判断した(15頁)が,誤りである。
ア 引用発明1の複式チェーンコンベアにおいて,「補助桁14,15」は,トロリー17を付設したステー18を支持すると共にその端部にストッパ19を付設させる部材として,また,「主桁12」は,その上面に横桁20を組付けると共にその下面に係合子24を付設させる部材として,機能するものであり,これら部材は,その面をローラ型駆動の受圧部にするとの意図をもって構成されたものではないから,「補助桁14,15及び主桁12」が一定経路の方向に長い四角状体に形成されているからといって,これら部材の面をローラ型駆動の受圧部にすることは,当業者が容易に想到できることではない。
イ また,引用発明1において,補助桁14,15の端面に設けられるストッパ19は,「チェーン型駆動」の搬送設備において必要とされるもので,前・後台車の衝突時における「押圧力受け止め部」として機能するものであるから,その大きさは,補助桁14,15の横幅よりも幅広とされている。かかるストッパ19の大きさは,引用発明1の従来例(第1図)にも示されているように,引用発明1の基本的な構成であり,これを変更することはあり得ない。したがって,引用発明1の補助桁14,15の端面のストッパ19が,補助桁14,15よりも幅広であることは,補助桁14,15をローラ型駆動の受圧部とすることの阻害要因となる。なお,この点に関して,本件審決は,「引用発明1において補助桁14,15の端面のストッパ19の大きさを補助桁の横幅よりも幅広にすることが必須のことでないばかりか,ローラ型駆動のローラと緩衝しない程度の大きさにすることを妨げる特段の事情もない」と説示する(16頁)が,誤りである。
(2) 相違点ロの判断の誤り 本件審決は,「引用発明2においては,間隔が狭い左右一対のレールに前後一対のトロリが支持案内されており,引用発明1に引用発明2の上記技術思想を適用することは,適用を妨げる特段の事情も見当たらず,両者の技術分野も同じであるから,当業者にとって格別困難なことではない。」旨判断した(16頁)が,誤りである。
ア 引用発明1において,左右一対のレール4,4とは別にガイドレール16を設け,また,前後一対の車輪22,22,22,22を横桁20,20を介して設けた理由は,パワー軌道となるコンベア9とフリー軌道となる左右一対のレール4,4とを同一の床面上に並設させている関係から,左右一対のレール4,4は,コンベア9とこれに隣接するガイドレール16の両者を跨ぐことができる幅広の間隔を備える必要があるからであって,単に,左右一対のレール4,4の間隔が広い態様を採用しているためではない。
したがって,引用発明1において,左右一対のレールの間隔を狭くすると,左右一対のレール4,4間に,パワー軌道となるコンベア9とガイドレール16とを設置するための幅スペースが確保できないから,引用発明1に引用発明2を適用することはできない。
イ なお,引用発明2においては,「一対のチャンネルをその開口を互いに向かい合わせて形成したフリー軌道16」に,「前後一対のトロリ(5)および(6)」が支持案内されるが,床面に設けたパワー軌道15上にフリー軌道16を載置させているから,フリー軌道16を形成する左右一対のレールの間隔が狭くても差し支えない。
(3) 相違点ハの判断の誤り 本件審決は,「引用発明1の移動体に駆動力を与えるための手段であるチェーン型駆動を周知のローラ型駆動と置換する際,引用発明1の当接の箇所であるストッパ19を敢えて排除する必要性がなく,むしろ,該箇所(ストッパ19)をローラ型駆動における当接部とすることがきわめて自然というべきである。」と判断した(17頁)が,誤りである。
ア 後記(5)アのとおり,本件発明1は,移動体群の円滑な密状移動を可能とするために,先行移動体の後遊端部分の当接部に対して後続移動体の前遊端部分の当接部を当接自在とする構成,すなわち「先行移動体に後続移動体をむしろ積極的に当接させ,先行移動体を後続移動体により後押し移動させるようにする」点に主眼を置いたものであるのに対し,引用発明1は,「先行台車の主桁と後続台車の主桁とが干渉し合って,一台又は複数の台車が脱線することを防止する」点に主眼を置いたものである。
イ 引用発明1は,係合子24とドッグ10の係合を介して台車を一定のピッチ間隔で搬送するものであり,係合子24とドッグ10とは,1対1の関係に置かれているから,先行台車の押し留めを解除した後においても,通常の搬送形態で,先行台車を後続台車が後押しするようなことはあり得ない。引用発明1において,両台車の当接状態が起こるのは,甲4の第8図に示されるように,先行台車が人手による押し留めによって停止している時に,後続台車が追突した場合である。
ウ したがって,本件発明1の「当接部」と引用発明1の「ストッパ19」とは,共に前後方向の押圧力を受ける機能を有する「押圧力受部」の限度においては一致するものの,両者は,本来の作用・機能や主眼点を全く異にするものであるから,引用発明1の「ストッパ19」を本件発明1の「当接部」にすることは,当業者といえども想到できるものではない。
(4) 相違点ニの判断の誤り 本件審決は,「相違点ニに係る本件発明1の構成要件は,引用発明1にローラ型駆動に係る周知の技術的事項(相違点イで検討済み)を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。」旨判断した(17頁)が,誤りである。
すなわち,本件発明1の「駆動力作用部」は,各フレーム体の側面であるところ,引用発明1において,これに相当するのが,「補助桁14,15及び主桁12」の側面ではなく,主桁12の下面に付設された係合子24であることは,明らかである。そうすると,駆動力作用部に駆動力を与える装置の態様は,駆動力作用部の仕様に自ずから左右されるものである以上,引用発明1において,駆動力作用部に駆動力を与える装置の態様としては,ドッグ10を付設したコンベア9によるチェーン型駆動しかあり得ない。したがって,引用発明1にローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用することはできない。
(5) 本件発明1と引用発明1との目的,作用効果の相違の看過 本件審決は,「本件発明1と引用発明1とは,目的や作用・効果が明らかに相違するとはいえない。」旨判断した(18〜19頁)が,誤りである。
ア 本件発明1と引用発明1の目的は異なる。
本件発明1は,通常の搬送において前方台車に後続台車をむしろ積極的に当接させ,前方台車を後続台車により後押し移動させるようにする点に主眼を置き,通常の搬送における“台車の円滑な移動を行える”ようにすることを目的としたものである。
一方,引用発明1は,前方台車が人手により進行停止させられたような場合に,前方台車に後続台車が当接するところ,この当接の際,線路のカーブ部位等において,前方台車の主桁と,後続して進行して来た台車の主桁とが干渉し合わないようにし,一台又は複数の台車が“脱線することを防止し得る”ようにすることを目的とするものである。
イ 本件発明1と引用発明1の作用機能も異なる。
引用発明1において,補助桁14,15は,ガイドレール16に支持案内されるトロリー付き逆L形ステー18の直立部分によって,ガイドレール16面との間隔をほぼ一定にするよう保持されており,トロリー17による支持位置は,補助桁14,15の真下ではなく,逆L形ステー18の水平部分の長さ分だけ台車11の進行方向に対して直角の方向に偏倚した位置にある(甲4,第5〜7図)。
この補助桁支持構造では,水平経路部から上昇経路へ移るカーブ経路部において,上昇経路に位置する先行台車の後部補助桁に,水平経路部から上昇しようとする後続台車の前部補助桁が当接後押しすると,後続台車のトロリー付き逆L形ステー18の水平部分に曲げモーメントが生じ,逆L形ステー18の直立部分と水平部分の連結部に最大の変形が生じ,当接時における台車同士の前後微動に起因して,逆L形ステー18の水平部分に“上下振動”が発生し,また,直立部分下端部におけるトロリー17の支承部位に“こじれ現象”が起こる。
そのため,先行台車の後部補助桁に対する後続台車の前部補助桁の安定した当接が行われず,安定して先行台車に押圧力を受渡すことができなくなり,また,トロリー17のスムーズ走行ができなくなる。
したがって,引用発明1の補助桁支持構造は,本件発明1のように「先行移動体に後続移動体をむしろ積極的に当接させ,先行移動体を後続移動体により後押し移動させる」作用機能を果たし得ず,「移動体群の密状(列車状)の移動を円滑に確実にかつ安定して行える移動体使用の搬送設備を提供する」ことはできない。
ウ 本件発明1と引用発明1の効果も異なる。
本件発明1においては,中間部のフレーム体に設けられる前後一対の被案内装置と,前後部の両フレーム体に設けられる被案内装置とを,すべて同一の案内レールにより支持案内させ,これらの被案内装置の走行軌跡を案内レールの中心を通る同一軌跡としているため,水平カーブ経路部における案内レールに対する“ずれ”は最小限となっていることから,外周レールと内周レールの曲率半径の差に起因する問題は起こらず,スムーズな旋回走行が可能となる。
一方,引用発明1においては,水平カーブ経路部に差し掛かった時,台車本体の右側車輪と左側車輪を案内する左右一対のレールの曲率半径が大きく異なることから,いずれかの車輪がレールの軌跡から偏移する横滑り現象が生じ,これによるレール側面への押し圧力は,何台もの先行台車群を密状に後押しする場合は非常に大となってしまい,「移動体群の密状(列車状)の移動を円滑に確実にかつ安定して行える移動体使用の搬送設備を提供する」ことはできない。
したがって,本件発明1は,引用発明1には存在しない特有の効果を奏するものである。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性判断の誤り) (1) 相違点イ’,ロ’,ニ’の判断の誤り 本件発明2と引用発明1との相違点イ’,ロ’及びニ’は,本件発明1と引用発明1との相違点イ,ロ及びニと実質的に同じである。したがって,前記1(1),(2),(4)と同様に,本件審決の相違点イ’,ロ’及びニ’についての判断は,誤りである。
(2) 相違点ハ’の判断の誤り 本件審決は,「相違点ハ’に係る本件発明2の構成要件は,引用発明1に上記ローラ型駆動に係る周知の技術的事項を適用する際,当業者が甲3及び甲8に見られるような周知の技術的事項(連結の脱着を行なう手段として,一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成すること)を参酌して容易に想到することができたものである。」旨判断した(22頁)が,誤りである。
すなわち,引用発明1において,通常の搬送態様で,先行台車を後続台車が後押しすることはあり得ないことは,前記1(3)イのとおりであるから,前方台車と後続台車を係合して連結することもあり得ない。したがって,「連結の脱着を行う手段として,一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成すること」が,周知の技術的事項にすぎないとしても,連結機構を全く必要としない引用発明1に同周知技術が適用されることはあり得ない。
3 取消事由3(本件発明3の進歩性判断の誤り) 本件発明3は,本件発明1又は2の構成要件をすべて含むものであるから,前記1,2のとおり,本件審決の,本件発明1又は2についての進歩性の判断が誤りである以上,本件発明3についての進歩性の判断も誤りである。
被告の反論の要点
本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(本件発明1の進歩性判断の誤り)について (1) 相違点イの判断の誤りについて ア 甲6,乙1,2のように,ローラ型駆動において,移動体に外部よりローラ駆動力を与える際,平面視において移動体の中心線に近い箇所を受動面とすることは,周知の技術的事項である。また,乙1,3のように,ローラ型駆動は,チェーン型駆動に比べて,チェーンの配設等による煩雑な点がないといった特徴を有することも周知の技術的事項である。
これら周知の技術事項からすれば,引用発明1につき,台車の駆動形式として,チェーン型駆動に換えてローラ型駆動を採用することは,当業者であれば容易に想到し得るものであり,かつ,その置換に際して,主桁12の下面の係合子24を廃し,一定経路の方向に長い四角状体を形成する「補助桁14,15及び主桁12」の両側面をローラ型駆動の受動部にするというようなことは,ごく自然に思い付くことである。
イ なお,引用発明1におけるチェーン型駆動形式を,ローラ型駆動形式に置換するに際し,ストッパ19の大きさをローラ型駆動のローラと干渉しない程度の大きさにすべきことは当然である。
(2) 相違点ロの判断の誤りについて 引用発明1,2は,いずれもパワーアンドフリーコンベアであるところ,前者は,フリー軌道とパワー軌道とを同一床面上に並設した実施形態を採用しているため,左右一対のレール4,4の間隔が広く,後者は,フリー軌道とパワー軌道とを上下に設けた実施形態を採用しているため,左右一対のレール16の間隔が狭いにすぎない。
いずれにしても,引用発明1におけるチェーン型駆動形式をローラ型駆動形式に置換すれば,パワー軌道となるコンベア9は当然不必要となるから,引用発明1に引用発明2の技術思想を適用することには全く支障がない。
(3) 相違点ハの判断の誤りについて 引用発明1では,脱線防止のためとはいえ先行台車の後端ストッパ19と後続台車の前端ストッパとを当接させるものであるから,引用発明1におけるチェーン型駆動形式をローラ型駆動形式に置換する際,その当接する箇所を後押し移動用の当接部とするということは,甲6における予め取り付けられた後押し移動用の当接部材107を参酌し,当業者が容易に思い付く程度のことである。
(4) 相違点ニの判断の誤りについて 引用発明1において,台車の駆動形式として,チェーン型駆動に換え,周知のローラ型駆動を採用するに際し,主桁12の下面の係合子24を廃し,一定経路の方向に長い四角状体を形成する「補助桁14,15及び主桁12」の両側面をローラ型駆動の受動部にするというようなことは,ごく自然に思い付くことであるから,必然的に駆動力作用部に駆動力を与える装置の態様は,引用発明1の「補助桁14,15及び主桁12」の両側面を挟持する送りローラを有する送り装置を一定経路中に設ける態様とならざるを得ない。
(5) 本件発明1と引用発明1との目的,作用効果の相違の看過について ア 本件明細書及び甲4における課題(目的),作用効果の記載からすると,カーブ経路部における問題の発生は,本件発明1及び引用発明1ともに,台車全体が剛体であったことに起因すること,そして,この問題を解決するために,台車(移動体)の主桁(中間部のフレーム体)の両端部にユニバーサルジョイント(連結装置)を介して補助桁(前後部のフレーム体)を回動自在に連結し,かつ,補助桁(前後部のフレーム体)にガイドレール(レール)に従って走行するトロリー(被案内装置)を付設したという共通の構成を採用し,共通の作用効果を奏し得るものである。
イ 引用発明1における台車を後押し移動させる台車として採用した場合に不都合が生じる原因として原告が指摘する2点,すなわち,@補助桁14,15は,ガイドレール16に支持案内されるトロリー付き逆L形ステー18の直立部分によって,ガイドレール16面との間隔をほぼ一定にするよう保持されている点と,A改良台車11は,主桁12から左右に突出した横桁20の下面側に改良台車11の本体を支持案内する車輪22,22,22,22とこれに対応する左右一対のレール4,4を設けている点は,いずれも,本件審決において,本件発明1との相違点ロとして検討されており,引用発明2の技術思想を適用することにより,本件発明1の構成とすることに当業者が容易に想到することができたものである。
原告の主張は,引用発明1における台車を,そのまま後押し移動用に使用することを想定したものであって,失当である。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性判断の誤り)について (1) 相違点イ’,ロ’,ニ’の判断の誤りについて 前記1(1),(2),(4)のとおり,本件審決の相違点イ,ロ,ニの判断に誤りはなく,したがって,相違点イ’,ロ’,ニ’の判断にも誤りはない。
(2) 相違点ハ’の判断の誤りについて 引用発明1につき,台車の駆動形式として,チェーン型駆動に換え,ローラ型駆動を採用することが当業者にとって容易に想到し得るものであるから,その置換に際して,引用発明1の当接の箇所であるストッパ19の位置をローラ型駆動における駆動力の授受部とし,連結の脱着を行う手段として,周知の技術事項のように,「一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成する」程度のことは,当業者であれば容易に想到し得るものである。
3 取消事由3(本件発明3の進歩性判断の誤り)について 前記1,2のとおり,本件発明1及び2についての本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張は,その前提を欠き,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の進歩性判断の誤り)について (1) 相違点イの判断の誤りについて ア 原告は,「引用発明1の「補助桁14,15及び主桁12」は,その面をローラ型駆動の受圧部にするとの意図をもって構成されたものではないから,これらの部材が一定経路の方向に長い四角状体に形成されているからといって,これら部材の面をローラ型駆動の受圧部にすることは,当業者が容易に想到できるとはいえない。」旨主張する。
(ア) 証拠(甲6,乙1〜乙3)によれば,一定経路上を移動自在な移動体群を外部より駆動して移動体に保持された物品を搬送する搬送設備における移動体の駆動手段として,一部の移動体にのみ外部よりローラ駆動力を与え,該移動体が隣接した移動体を後押しすることにより移動体群全体を駆動すること(以下「ローラ型駆動」という。)や,その際,移動体に対する駆動力の伝達は,一対の回転ローラを,移動体の経路方向に延びる受圧面に対して押圧することによって行うことは,周知の技術的事項であることが認められる。
また,証拠(乙1及び乙3)によれば,ローラ型駆動は,チェーンの配設等による煩雑な点がないことから,一定経路上を移動自在な移動体群を外部より駆動して移動体に保持された物品を搬送する搬送設備における移動体の駆動手段として,移動体を一定経路に沿って配設したチェーンと係合して駆動すること(以下「チェーン型駆動」という。)に代わるものとして採用されていることが認められる。
(イ) チェーン型駆動とローラ型駆動のいずれの駆動方式を採用するにしても,物品を保持しながら軌道に沿って移動する移動体を必要とすることに変わりはなく,駆動方式の相違により,移動体の被駆動部の形状,構造を変更する必要があるものの,移動体のその他の部分の形状,構造については,汎用性を有するものであれば,そのまま採用され得ることは明らかである。
そして,上記(ア)のとおり,周知のローラ型駆動において,移動体に対する駆動力の伝達は,一対の回転ローラを,移動体の経路方向に延びる受圧面に対して押圧することによって行うものであるところ,引用発明1の台車は,台車の骨格をなす構造部材として,経路方向に延びる主桁12,補助桁14,15を有しているから,これらの主桁12,補助桁14,15が,回転ローラの受圧面となり得ることは,当業者に容易に理解される。
(ウ) このように,チェーン型駆動をローラ型駆動に変更することは,従来から広く行われていること,また,移動体における,汎用性のある形状,構造部分については,駆動方式を変更したとしても,当業者がその採用を検討し得るものであること,さらに,引用発明1の主桁12,補助桁14,15からなる台車構造は,回転ローラの受圧面となり得るものと当業者に容易に理解されるものであることによれば,引用発明1のチェーン型駆動に代えて上記周知のローラ型駆動を採用するに際して,引用発明1の主桁12,補助桁14,15からなる台車構造を,ローラ型駆動の回転ローラの受圧面とすることは,当業者ならば容易に想到できることというべきである。したがって,原告の上記主張は理由がない。
なお,引用発明1の主桁12,補助桁14,15は,その構造からすると,ローラ型駆動の受圧部となり得るものであることは客観的に明らかである以上,これらの部材が,その面をローラ型駆動の受圧部にする意図をもって構成されたものではなくても,上記容易想到性の判断を何ら左右するものでない。
イ また,原告は,「引用発明1の補助桁14,15の端面のストッパ19が,補助桁14,15よりも幅広であることは,補助桁14,15をローラ型駆動の受圧部とすることを妨げる。」旨主張する。
確かに,甲4の第5図,第7図等には,ストッパ19の横幅を,補助桁14,15の横幅よりも幅広としたものが示されている。しかしながら,甲4には,ストッパに関して,「補助桁14,15の一方の端面にはそれぞれストッパ19が設けてある。」(明細書3頁19行〜4頁1行)と記載されているだけであり,ストッパ19の横幅を,補助桁14,15の横幅よりも幅広とすべき積極的理由が示されているわけではないから,引用発明1において,ストッパ19を図示のものに限定する必然性はないといえ,必要があればストッパ19の形状等について設計変更は可能というべきである。したがって,甲4において,ストッパ19が,補助桁14,15の横幅よりも幅広に図示されているとしても,そのことが,引用発明1の台車構造を,ローラ型駆動に採用することを阻害するとはいえない。したがって,原告の上記主張も理由がない。
(2) 相違点ロの判断の誤りについて 原告は,「引用発明1において,左右一対のレールとは別にガイドレールを設け,また,前後一対の車輪を横桁を介して設けた理由は,左右一対のレールが,コンベアとこれに隣接するガイドレールの両者を跨ぐことができる幅広の間隔を備える必要があるためである。したがって,引用発明1において,左右一対のレールの間隔を狭くすると,左右一対のレール間に,パワー軌道となるコンベアとガイドレールとを設置するための幅スペースが確保できないから,引用発明1に引用発明2を適用することはできない。」旨主張する。
ア 甲4には,「第5ないし8図はこの考案の一実施例を示す図である。…12は台車11の主桁で,両端部にはユニバーサルジョイント13を介して補助桁14,15が回動自在に連結され,該補助桁の端部付近にはガイドレール16に従って走行するトロリー17を付設したステー18がそれぞれ取付けてあり,また補助桁14,15の一方の端面にはそれぞれストッパ19が設けてある。20は主桁12に組付けた横桁で,該横桁の上面の両端寄りには車体等を載置係止するための車体受け21が設けてあり,且つ横桁20の下面にはレール4上を走行する車輪22を有する一対の脚23が取付けられている。」(明細書3頁13行〜4頁5行),「本考案においては,さらに2本のレール4と同じ面上で且つ該レールに平行に設けられたガイドレール16に従ってトロリー17が走行して,補助桁とレール面までの間隔を常にほぼ一定に保っているため,例えば第8図に示すようにレール4が上下に起伏している場合でも,連続して進行している後続の台車の前部補助桁のレール面までの高さと,前方の台車の後部補助桁のレール面までの高さがほぼ同じであるため,それぞれの台車のストッパがほぼ同じ高さで当接し得る位置にあって,一方の台車の補助桁が他方の台車の補助桁を突き上げるような状況は生じない。また,レール4が第4図に示すように横方向に彎曲している場合でも補助桁は前述と同様にユニバーサルジョイント13によって屈曲自在にレール4の彎曲に沿い,且つガイドレール16とトロリー17とによって補助桁とレール面との間隔がほぼ一定に保たれるため,従来例のような前,後部の台車の補助桁が干渉し合う状況は生じ難い。」(明細書4頁9行〜5頁8行)と記載されている。
イ 甲4の上記各記載及び第5ないし第8図によれば,引用発明1においては,@補助桁14,15は,ユニバーサルジョイント13によって主桁12に回動自在に連結されていることと,A補助桁14,15の端部に設けたトロリー17が,同一の走行レール(ガイドレール16)を走行することとが相俟って,前,後台車の補助桁の端部同士が,水平及び垂直方向において,レールからの距離をほぼ一定に保つことができること,そして,そのことにより,前後の台車の補助桁14,15同士が,常に,互いに当接できるようになり,一方の台車の補助桁が他方の台車の補助桁を突き上げる状況(第3図に示されたレールが上下に起伏する場合)や,前,後台車の補助桁が干渉し合う状況(第4図に示されたレールが湾曲する場合)が生じないことが認められる。
ウ そうすると,引用発明1の技術的特徴は,上記@Aの構成を採用したことにより,前後の台車の補助桁の端部同士を,水平,垂直方向において,トロリー17の走行レールからの距離を一定に保ちながら移動させることにあるというべきであり,上記トロリーの走行経路を,ガイドレール16とするかどうかは,引用発明1の本質的部分ではないというべきである。引用発明1において,仮に,ガイドレール16を採用せず,レール4にトロリー17を走行させる構成としても,前後の台車の補助桁の端部同士を,水平,垂直方向において,トロリー17の走行レールからの距離を一定に保ちながら移動させるという上記作用を達成することができることは明らかであるが,そのような構成を採用すると,ステー18の水平部を長く伸ばす必要があることから,ガイドレール16を別途設けたにすぎないものと解される。すなわち,引用発明1においては,パワー軌道となるコンベア9とフリー軌道となる左右一対のレール4,4とを同一の床面上に並設させ,フリー軌道としてレール4,4間が広いものを,また,パワー軌道としてチェーン型駆動を採用しているという,駆動方式の具体的態様に合わせて,別途,ガイドレール16を設け,このガイドレール16にトロリー17を走行させるようにしたにすぎないものというべきである。
本件審決の「引用発明1において,左右一対のレール4,4とは別にガイドレール16を設けていること及び前後一対の車輪22,22,22,22を横桁20,20を介して設けていることの理由は,その実施例として,左右一対のレール4,4の間隔が広い態様を採用しているためと解される。」との説示(16頁)は,上記と同旨のものと解され,相当である。
エ そして,甲7によれば,引用発明2は,一対のチャンネルをその開口を互いに向き合わせて形成した,間隔の狭い左右一対のレールからなるフリー軌道(16)を有し,この間隔の狭い左右一対のレールに,前後一対のトロリ(5)及び(6)を支持案内するものと認められるところ,フリー軌道は,移動体の支持案内のために設けられるものであり,必要に応じて設計変更されるものであるから,引用発明1のレール4,4(フリー軌道)に代えて,引用発明2のフリー軌道(間隔の狭い左右一対のレールにトロリを支持案内するようにしたフリー軌道)を採用することは,当業者ならば容易に想到できるものである。その際,上記のように間隔の狭い左右一対のレールを用いれば,前後の台車の補助桁に設けたトロリーを,このレールに案内させれば足り,ガイドレール16を別途設けずに省略することができるのは明らかである。なぜなら,上記ウのとおり,トロリーの走行経路をガイドレール16とするかどうかの点は,引用発明1の本質的部分ではなく,ガイドレール16を採用しなくても,トロリーを同一のレールに走行させれば,「前後の台車の補助桁の端部同士を,水平,垂直方向において,トロリー17の走行レールからの距離を一定に保ちながら移動させる」という作用を達成することができるからである。本件審決の「引用発明1に引用発明2の上記技術思想を適用すると,左右一対のレール4,4とは別にガイドレール16を設ける必要がなく,左右一対のレール4,4にガイドレール16の機能を持たせることが可能であることは,当業者にとって容易に予測できる程度のことにすぎない。」との説示(16頁)は,上記と同旨のものと解され,相当である。
オ したがって,相違点ロに係る本件発明1の構成は,引用発明1に引用発明2を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものというべきである。
カ これに対し,原告は,「引用発明1において,左右一対のレールの間隔を狭くすると,左右一対のレール間に,パワー軌道となるコンベアとガイドレールとを設置するための幅スペースが確保できないから,引用発明1に引用発明2を適用することはできない。」旨主張する。しかしながら,上記のとおり,トロリーの走行経路をガイドレール16とするかどうかの点は,引用発明1の本質的部分でなく,引用発明1に引用発明2を適用する際に,ガイドレール16を省略することができることは明らかである。また,パワー軌道としてコンベアに代えてローラ型駆動を採用することが容易であることは,前記(1)で検討済みである。したがって,コンベアとガイドレールの設置を前提とする原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(3) 相違点ハの判断の誤りについて 原告は,「本件発明1の「当接部」は,先行移動体に後続移動体をむしろ積極的に当接させ,先行移動体を後続移動体により後押し移動させるようにするためのものであるのに対し,引用発明1の「ストッパ19」は,先行台車の主桁と後続台車の主桁とが干渉し合って,一台又は複数の台車が脱線することを防止するためのものである。引用発明1では,通常の搬送形態で,先行台車を後続台車が後押しするようなことはあり得ない。したがって,両者は,共に前後方向の押圧力を受ける機能を有する点においては一致するものの,本来の作用・機能や主眼点を全く異にするから,引用発明1の「ストッパ19」を本件発明1の「当接部」にすることは,当業者といえども想到できるものではない。」旨主張する。
ア 本件発明1に係る請求項は,当接部に関して,「前記本体は,左右一対のレール間の上方に位置するとともに,その前後端を当接部に形成して,先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成し,」と規定するのみであるから,先行移動体を後続移動体により後押し移動させる作用のために採用されている構成は,先行移動体の後端当接部と後続移動体の前端当接部とが当接自在というものでしかない。そして,この「当接自在」とは,本件発明1の「床側に設けた左右一対のレールに支持案内されて一定経路上を移動自在な移動体の本体を,連結装置を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した三本以上のフレーム体により形成し,…各フレーム体のうち前後部のフレーム体を除く中間部のフレーム体は,その上部においてフレーム体に対して左右両側に突出する一個の被搬送物支持部と,前記左右一対のレールに支持案内される前後一対の被案内装置とを有するとともに,残りの前後部の両フレーム体は,前記レールに支持案内される被案内装置を有し,」という構成によって,達成されるものと認められる。
イ 一方,前記(2)のとおり,引用発明1においても,台車(移動体の本体)を,ユニバーサルジョイント(連結装置)を介して上下方向ならびに左右方向で相対回動自在に連結した主桁12,補助桁14,15(三本のフレーム体)により形成しているところ,この台車(移動体の本体)を,間隔の狭い左右一対のレールに支持案内されるようにすると共に,補助桁14,15(前後部の両フレーム体)のトロリ(被案内装置)を,上記左右一対のレールに案内させるようにし,「前後の台車の補助桁の端部同士を,水平,垂直方向において,トロリー17の走行レールからの距離を一定に保ちながら移動させる」という作用を行わせることは,当業者が容易に想到できるものである。そして,そのような構成を採用すれば,引用発明1の台車におけるストッパ19も,「先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成」されるようになることは,上記アの判示から明らかである。そうであれば,このストッパ19を介して,先行移動体に後続移動体をむしろ積極的に当接させ,先行移動体を後続移動体により後押し移動させる作用を果たすようにすることが可能であることも明らかである。
ウ したがって,引用発明1の「ストッパ19」を,本件発明1の「当接部」の構成とし,同様の作用を果たすようにすることは,当業者であれば容易に想到できることというべきであり,原告の上記主張は理由がない。
エ なお,原告は,「本件発明1の「当接部」は,先行移動体に後続移動体をむしろ積極的に当接させ,先行移動体を後続移動体により後押し移動させるようにするためのものであるのに対し,引用発明1の「ストッパ19」は,先行台車の主桁と後続台車の主桁とが干渉し合って,一台又は複数の台車が脱線することを防止するためのものである。」旨主張するが,後記(5)のとおり,むしろ,両者は,極めて類似した技術課題(目的)を達成するための構成というべきである。
(4) 相違点ニの判断の誤りについて 原告は,「引用発明1において,駆動力作用部は,主桁12の下面に付設された係合子24であるところ,駆動力作用部に駆動力を与える装置の態様は,駆動力作用部の仕様に左右されるから,駆動力を与える装置の態様としては,ドッグ10を付設したコンベア9によるチェーン型駆動しかあり得ない。」旨主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,引用発明1のチェーン型駆動に代えて上記周知のローラ型駆動を採用するに際して,引用発明1の主桁12,補助桁14,15からなる台車構造を,ローラ型駆動の回転ローラの受圧面とし,同台車をローラ型駆動の移動体として用いることは,当業者ならば容易に想到できることである。そうすると,引用発明1の台車には,チェーン型駆動しか採用できないということはできず,原告の上記主張は理由がない。
(5) 本件発明1と引用発明1との目的,作用効果の相違の看過について 原告は,「本件発明1と引用発明1とは,目的や作用・効果が明らかに相違している。」旨主張する。
ア 本件明細書(甲2の2)には,「【発明が解決しようとする課題】上記した従来の構成によると,剛体化(一体化)した台車形式の可動体であることから,たとえば長尺の被搬送物を取り扱う可動体の場合,全体が大型化,重量化することになる。」(段落【0005】),「また可動体に送り装置を作用させるとき,一定経路が直線状であるときには支障なく行えるが,一定経路が平面視において湾曲しているカーブ経路部(ターン経路部など)や,側面視において水平経路部から上昇経路へ移るカーブ経路部や,水平経路部から下昇経路へ移るカーブ経路部などにおいては,前後の可動体が成す相対角度が鋭角になって後押しが円滑に行えず,特に可動体が長尺であるほど相対角度は鋭角になる。したがって,このようなカーブ経路部を有する一定経路に採用できない。」(段落【0006】)と記載されており,これらの記載からすると,本件発明1は,剛体化(一体化)した台車形式の可動体においては,上下,左右方向でのカーブ経路部において,前後の可動体が成す相対角度が鋭角となってしまう欠点を解消しようとしたものである。
イ 一方,引用発明1には,「従来の台車にあっては台車が全体として剛体構造であるため,例えば第3図に示すようにレールが上下に起伏している場合,特に図で前方の台車が人手により進行停止させられたような場合この台車に連続して進行して来た後続の台車の主桁の先端が前方の台車の主桁の後端部を突き上げて前方の台車を脱線させるような状態が生じたり,あるいは第4図に示すようにレールが横方向に彎曲している場合において,特に図で前方の台車の進行が停止されたようなときには前方の台車の主桁と後続して進行して来た台車の主桁とが干渉し合って,一台又は複数の台車が脱線する状況も生じることがあるという問題点があった。この考案はこのような従来の問題点に着目してなされたもので,従来の台車の主桁よりも短い主桁の両端にユニバーサルジョイントを介してそれぞれ補助桁を回動自在に取付け,且つ補助桁にはガイドレールに従って走行するトロリーを付設して構成した台車とすることにより,上記問題点を解決することを目的としている。」(明細書2頁11行〜3頁11行)と記載されており,この記載からすると,引用発明1は,剛体構造である台車であると,レールが上下に起伏している場合に突き上げが生じ,また,左右に彎曲している場合に干渉が生じてしまうという欠点を解消しようというものである。
ウ 上記ア,イによれば,本件発明1と引用発明1とは,いずれも,剛体構造の台車にあって,曲線経路における,前後台車の当接不良の解消を技術的課題とするものであり,両者は,極めて類似した技術課題(目的)を有するものというべきである。
エ また,原告は,第3,1(5)イ及びウのとおり,引用発明1の「トロリー付き逆L形ステー18」や「間隔の広い左右一対のレール4,4」の構成では,本件発明1の「移動体群の密状の移動を円滑に確実にかつ安定して行える」という作用効果は得られない旨主張する。しかしながら,前記(2)で検討したとおり,引用発明1において,フリー軌道として,引用発明2のような間隔の狭い左右一対のレールを採用し,また,このレールにトロリー(被案内装置)を走行させることが容易である以上,上記作用効果は,引用発明1及び2から当業者が容易に予測できるものにすぎないというべきである。したがって,上記作用効果の存在は,本件発明1の進歩性の判断を何ら左右するものではない。
オ したがって,原告の上記主張は理由がない。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性判断の誤り)について (1) 相違点イ’,ロ’,ニ’の判断の誤りについて 原告は,「本件審決の相違点イ,ロ,ニの判断と同様に,本件審決の相違点イ’,ロ’,ニ’の判断も誤りである。」旨主張する。
しかしながら,本件審決の相違点イ,ロ,ニの判断に誤りがないことは,前記1(1),(2),(4)のとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(2) 相違点ハ’の判断の誤りについて 原告は,「引用発明1において,通常の搬送態様で,先行台車を後続台車が後押しすることはあり得ないから,そのような引用発明1に,前方台車と後続台車を係合して連結するための連結手段に関する周知技術を適用することはあり得ない。」旨主張する。
ア 前記1(3)イのとおり,引用発明1のストッパ19を「先行移動体の後端当接部に対して後続移動体の前端当接部を当接自在に構成」し,引用発明1の台車を,先行台車を後続台車により後押し移動させるようにすることは,当業者が容易に想到できることである。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
イ なお,連結の脱着を行う手段として,一方に係合部を形成するとともに,他方に被係合部を形成して,上下方向で係脱自在に構成することは,甲3,甲8に見られるように,周知であると認められる。また,前記1(3)イのとおり,引用発明1の台車(移動体の本体)を,間隔の狭い左右一対のレールに支持案内されるようにすると共に,補助桁14,15(前後部の両フレーム体)のトロリ(被案内装置)を,上記左右一対のレールに案内させるようにすることにより,「前後の台車の補助桁の端部同士を,水平,垂直方向において,トロリー17の走行レールからの距離を一定に保ちながら移動させる」という作用を行わせることは,当業者であれば容易に想到できることである。したがって,前後の台車の補助桁の当接が良好な上記構成を採用する際,上記周知技術を適用して,引用発明1におけるストッパ19に代えて,「上下方向で係脱自在に構成された係合部,被係合部」という本件発明2の相違点ハ’に係る構成とすることは,当業者であれば容易に想到できることというべきである。したがって,相違点ハ’についての本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明3の進歩性判断の誤り)について 原告は,「本件発明3は,本件発明1又は2の構成要件をすべて含むものであるから,本件審決の,本件発明1又は2についての進歩性の判断が誤りである以上,本件発明3についての進歩性の判断も誤りである。」旨主張する。
しかしながら,前記1,2のとおり,本件審決の,本件発明1又は2についての進歩性の判断に誤りはない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 沖中康人