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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ1105特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ11856損害賠償請求事件 判例 特許
平成14ワ5107特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成12ワ17298損害賠償等請求事件 判例 特許
関連ワード 冒認出願(冒認) /  新規性 /  守秘義務 /  公然実施(29条1項2号) /  先願の地位 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術的範囲 /  共有 /  権利の濫用(権利濫用) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 6064号 特許権侵害差止等請求事件
原告 有限会社アルファグリーン
同訴訟代理人弁護士 松坂祐輔
同 小倉秀夫
同補佐人弁理士 長門侃二
同 鳥羽みさを
同 山中純一
同 久保田和雄
被告 株式会社第一アメニティ(以下「被告足利第一アメニティ」という。)
被告 株式会社第一アメニティ(以下「被告川崎第一アメニティ」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 新保克芳
同補佐人弁理士 鈴木俊一郎
同 八本佳子
同 辻野利永子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/07/14
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告らは,「プライオグリーン」という商品名の緑化土壌安定剤を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告らは,前項記載の緑化土壌安定剤及びその半製品を廃棄せよ。
事案の概要
本件は,原告が,被告らに対し,被告足利第一アメニティが製造し,被告川崎第一アメニティが販売する「プライオグリーン」との商品名の緑化土壌安定剤(以下「被告製品」という。)が,原告において持分を有する特許権を侵害するとして,被告製品の製造等の差止め及び被告製品の廃棄等を求めた事案である。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。) (1) 当事者 原告は,緑化・土壌安定用無機質材料の製造・販売等を業とする有限会社である。
被告らは,土壌安定・浸食防止用資材及び機器の開発,製造,販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告が持分を有する特許権 ア 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その請求項3のうち,「前記灰成分が,フライアッシュである請求項1の緑化・土壌安定化用無機質材料。」との発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の持分を有している。
特許番号 特許第2935408号 出願年月日 平成6年12月8日 登録年月日 平成11年6月4日 発明の名称 緑化・土壌安定化用無機質材料,それを用いた厚層基材種子吹付け工法または土壌安定化方法 特許請求の範囲 請求項1 灰成分100重量部に対し,硫酸アルミニウム1〜20重量%,硫酸カルシウム1〜20重量%,シリカ粉末1〜20重量%,セメント成分10〜80重量%とから成る添加剤10〜50重量部を混合して成ることを特徴とする緑化・土壌安定化用無機質材料。
請求項3 前記灰成分が,フライアッシュまたは製紙スラジの焼却灰である請求項1または2の緑化・土壌安定化用無機質材料。 (別紙特許公報の写しの該当欄記載のとおり。) イ 本件特許権は,ドリム株式会社及び殖大開発株式会社が共有していたが,平成12年11月22日,原告は,ドリム株式会社の持分を取得し,平成13年1月10日にその旨特許原簿に登録された。
(3) 本件発明の構成要件の分説 本件発明の構成要件は,以下のとおりに分説できる。
A フライアッシュ成分100重量部に対し, B a 硫酸アルミニウム 1〜20重量パーセント b 硫酸カルシウム 1〜20重量パーセント c シリカ粉末 1〜20重量パーセント d セメント成分 10〜80重量パーセント とから成る添加剤10〜50重量部 C を混合して成ることを特徴とする緑化・土壌安定化用無機質材料。
(4) 被告らの行為 被告足利第一アメニティは,業として,以下の被告製品を製造し,被告川崎第一アメニティは,業として,被告製品を販売している。
商品名 プライオグリーン 構 成 フライアッシュ,硫酸アルミニウム,シリカ,セメント成分を含有する 作用効果 吹付け面全体から高発芽率で種子を発芽成長させることができる緑化・土壌用安定化無機質材料 2 争点 (1) 被告製品は本件発明の構成要件Bbを充足するか。
(2) 本件特許には明白な無効理由が存在するか。
3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(構成要件Bbの充足性の有無)について (原告の主張) ア 被告製品は,以下の構成を有する緑化土壌安定剤である。
A フライアッシュ成分100重量部に対し, B a 硫酸アルミニウム 約7重量パーセント b 硫酸カルシウム 約10重量パーセント c シリカ粉末 約15重量パーセント d セメント成分 約68重量パーセント とから成る添加剤約25重量部 したがって,被告製品は,本件発明の構成要件をすべて充足する。
イ 被告らは,被告製品の構成成分量が次のとおりであると主張する。
フライアッシュ 360キログラム 硫酸アルミニウム 12.5キログラム 硫酸カルシウム 20キログラム シリカ 10キログラム セメント 30キログラム 成分A 7.5キログラム 成分B 4キログラム しかし,被告らが開示した被告製品の構成成分量は,以下の理由から,真実に反する。
(ア) 原告製品(原告によれば,本件発明の実施品であることを前提としている。)と被告製品を対象として,@JIS M8815,ICP発光分光分析法,JIS M8217及び中和滴定法による分析(甲4),A「X線回折法」による成分同定(甲5),B元素のICP分析(甲6)を行った。原告製品と被告製品の両者に含まれる化合物と元素について,分析結果が一致したことに照らすと,被告製品は本件発明の技術的範囲に属している蓋然性が高い(甲7)。
(イ) 被告製品に含有される化合物の割合(甲4)について,フライアッシュやセメントの成分データに基づいて計算した結果,被告製品の構成成分量は,フライアッシュ100重量部に対し,硫酸アルミニウム7重量パーセント,硫酸カルシウム10重量パーセント,シリカ粉末15重量パーセント,セメント成分68重量パーセントからなる添加剤25重量部となり,本件発明の構成要件を充足する(甲15,16)。
(ウ) 被告らが開示した被告製品の構成成分量のうち,硫酸カルシウム含有率とセメント含有率は,被告製品を分析した結果と一致しない(甲17)。
(エ) 被告らが開示した被告製品の構成成分量を100分の1にして混合した合成品(以下「合成品」という。)と,被告製品及び原告製品について,強度試験を実施したところ,原告製品と被告製品は同様の強度を示すものであるのに対し,合成品は被告製品よりも強度が相当程度劣る結果となり(甲18),被告らが開示した被告製品の構成成分量は,少なくともセメント成分量については,真実に反する。
(オ) 原告の分析による被告製品の構成成分量に従って混合した被告成分推定品,合成品,被告製品及び原告製品についてEDX分析をして,セメント成分とフライアッシュ成分との含有量を相対的に検討したところ,推定品,被告製品及び原告製品の分析結果は類似するのに対して,被告製品及び合成品とは相違する(甲19)。この分析結果によれば,被告らが開示した被告製品の構成成分量は,真実に反する。
(カ) 被告らが開示した被告製品の構成成分量による硫黄の重量濃度は,被告製品の硫黄の重量濃度よりも高くなってしまうところ,被告らが開示した構成成分量を混合して,それに別の成分A及びBを加えたとしても,硫黄の重量濃度が減少することはない。したがって,被告らが開示した被告製品の構成成分量は,真実に反する(甲21)。
(被告らの反論) ア 被告製品は,以下のとおり,本件発明の構成要件Bbを充足しない。
(ア) 被告製品は,次の各成分を混合して製造される。
フライアッシュ 360キログラム 硫酸アルミニウム 12.5キログラム 硫酸カルシウム 20キログラム シリカ 10キログラム セメント 30キログラム 成分A 7.5キログラム 成分B 4キログラム (イ) 本件発明の構成要件Bにおける「添加剤」とは,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ及びセメントのみから構成される添加剤を指すというべきである。そうすると,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ及びセメントからなる添加剤の重量は,合計72.5キログラムであるから,硫酸カルシウム20キログラムは,添加剤の28重量パーセントに当たる。
仮に,「添加剤」の意義につき,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ及びセメントに加えて成分A(7.5キログラム)及び成分B(4キログラム)を含めたものを指すという解釈を前提としても,添加剤に対する硫酸カルシウムの含有割合は,23.8重量パーセントになる。
したがって,被告製品においては,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれないので,被告製品は,本件発明の構成要件Bbを充足しない。
ウ 原告は,各調査結果を理由に,被告らの開示した被告成分の混合割合は,真実に反し,被告製品は,構成要件Bbを充足すると認定すべきであると主張する。しかし,以下のとおり,被告の調査結果によっては,被告製品が構成要件Bbを充足すると認めることはできない。
(ア) 甲4ないし6について 原告は,本件発明の実施品であると主張する原告製品と被告製品の成分について,@JIS M8815,ICP発光分光分析法,JIS M8217,中和滴定法による分析(甲4),AX線回折による成分同定(甲5),B元素のICP分析(甲6)を行い,化合物と元素に関する分析結果が一致したとする。
しかし,甲4及び甲5では,いずれも定量的な測定はされていない。
また,甲6では,被告製品における各元素(Al,Ca,Cu,Fe,K,Mg,Mn,Na,P,S,Si,Ti,V,Zn)が含まれているから否か等は測定されているが,シリカ成分,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウムは測定されていない。
したがって,甲4ないし6は,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれることを示すものではない。
(イ) 甲15について 原告は,被告製品に含有される化合物の割合についての分析結果(甲4)について,フライアッシュやセメントの成分データを基礎として,被告製品中の化合物成分の含有率を算定している(甲15)。しかし,セメントや発電所からの廃棄物であるフライアッシュ中の化合物の種類及び割合は,必ずしも一定ではないのであるから,化合物の種類及び割合に大きなばらつきのあるセメント及びフライアッシュ中の化合物の含有成分を控除しても,正しい値を得ることはできない。
したがって,甲15は,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれることを示すものではない。
(ウ) 甲17について 原告は,甲17(調査報告書)を根拠として,被告らが開示した被告製品の構成成分量のうち,硫酸カルシウム含有率とセメント含有率は,被告製品を分析結果と一致しないので,真実に反すると主張する。
しかし,同調査の結果は,@定量的な分析ではないこと,A原告製品の複数の測定サンプル間に石炭灰の面積率のくい違いがあり,調査の対象に用いた原告製品や被告製品のサンプル抽出が適切ではないこと,B硫酸カルシウムの含有量について,添加剤由来のものと,フライアッシュやセメント由来のものとが区別されていないこと,C硫酸カルシウムの含有率を比較する際に用いたX線回折図の検討は,硫酸カルシウムのピークを正しく示しているかどうか疑問があること,などの点において問題点がある。
したがって,甲17の調査結果によって,被告らが開示した被告製品の構成成分量が真実に反するものということはできない。
(エ) 甲19について 原告は,甲19(調査報告書)を根拠として,EDX分析により,被告製品は,本件発明の実施品である原告製品と,元素の含有量において類似性があると主張する。しかし,同調査の結果は,@記載された11種の元素以外に,炭素や水素,その他の金属元素が含まれており,これらの存在を無視しては,各試料の正確な値を導くことはできないこと,AEDXで定量分析を行うためには,所定の方法で試料測定サンプルを作成し,標準試料と比較しながら各元素を定量すべきであるところ,前記調査の結果ではそのような手順がなく,誤差が伴うこと,Bアルミニウムとカルシウムの濃度が,他の資料(甲4)で測定されたものと大きく相違していたり,その高低が逆転しているなど,測定が杜撰であること,などの問題点がある。
したがって,甲19の調査結果によって,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれるとすることはできない。
(オ) 原告は,甲19のEDX測定結果を根拠として,被告らが開示した被告製品の構成成分量による硫黄の重量濃度は,被告製品の硫黄の重量濃度よりも高くなるので,開示された構成成分量は,真実に反するとも主張する。しかし,原告の主張は,(エ)のEDX測定値が正確であることを前提にしており,前記のとおり,その点に問題があるから,原告のこの主張には根拠がない。
(2) 争点(2)(明白な無効理由の存否)について (被告らの主張) 本件特許には,明らかな無効理由があり,本件特許権に基づく請求は,権利の濫用に当たり許されない。
ア 本件発明は,その出願日より前に出願された被告の有する特許権(特許第3073392号,平成6年5月19日出願,平成12年6月2日登録,発明の名称「緑化吹付け資材及び緑化吹付け方法」)に係る発明(以下「被告先願特許」又は「被告先願特許発明」という。)と同一であり,特許法29条の2により無効である。
(ア) 被告先願特許に係る特許公報の特許請求の範囲(請求項1)には,「植物の種子,土壌,水と混合した後,混合物を地面上に散布し,散布地面を緑化するために使用される緑化吹付け資材であって,フライアッシュ等の粒状の無機材からなる焼却灰と,カルシウム化合物である硫酸カルシウムと,酸性物質である硫酸アルミニウムと,を含み,高分子系糊剤を実質上含まないことを特徴とする緑化吹付け資材。」と記載されている。
(イ) 被告先願特許発明と本件発明とを対比すると,@被告先願特許発明では,セメント成分について特許請求の範囲で明記されていない点,A本件発明では,高分子系糊剤を実質上含まないことが明記されていないという点,B本件発明は各構成成分の割合を限定している点において相違する。
しかし,被告先願特許発明と本件発明とは,いずれも,@従前の緑化土壌安定化剤においては,含まれる糊剤の硬化速度が遅く,吹き付けた地面に安定するまでの時間が長く,硬化すると吹付け面表面が乾固状態となって発芽率が低下するという問題点があったのに対して,吹付け施工後に短時間で安定し,発芽率を高くすることを課題としている点で共通すること,A解決手段としてフライアッシュ等の粒状の無機材からなる焼却灰,硫酸カルシウム,硫酸アルミニウムを含有せしめるという点で共通する。上記の相違点は,技術的観点からは無視できる程度の相違点であるから,両発明は同一であるといえる。
(ウ) なお,原告は,被告先願特許が冒認出願であり無効であると主張するが,冒認出願とはいえないので,原告のこの点の主張は理由がない。
イ 本件発明は,その出願前に,守秘義務を負わない事業者に開示され,生産が行われていた。したがって,本件発明は,その出願前に,既に,公知となり,公然実施されていたから,新規性がなく,特許法29条1項により無効である。
(原告の反論) ア 被告先願特許は,本件発明を冒認して出願された無効なものであるから,これによって,特許法29条の2に基づく先願の地位を有しない。したがって,本件特許に無効理由はない(なお,原告は,特許庁に対し,被告先願特許が本件発明を冒認してされたものであるとして,無効審判請求をしたが,平成16年3月10日,被告先願特許の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする審決が出されている。)。
イ 本件発明に公然実施の無効理由は存在しない。
争点に対する判断
1 争点(1)(構成要件Bbの充足性の有無)について (1) 原告は,被告製品では,フライアッシュ成分100重量部に対し,@硫酸アルミニウム約7重量パーセント,A硫酸カルシウム約10重量パーセント,Bシリカ粉末約15重量パーセント,Cセメント成分約68重量パーセントとからなる添加剤約25重量部で構成される緑化土壌安定剤であり,硫酸カルシウムの添加剤全体に占める含有割合は,本件発明の構成要件Bbの1〜20重量パーセントの範囲に含まれるから,被告製品は,本件発明の構成要件Bbを充足すると主張する。
これに対して,被告は,被告製品では,硫酸カルシウムの添加剤に占める含有割合が,28重量パーセント(成分A及びBが「添加剤」に当たらないとした場合。)ないし23.8重量パーセント(成分A及びBが「添加剤」に当たるとした場合)であるから,本件発明の構成要件Bbの1〜20重量パーセントの範囲に含まれないと反論する。
(2) そこで,以下,原告の主張の当否について,各証拠を検討する。
ア 甲4について 甲4には,原告製品及び被告製品の成分(SiO2,Al 2O 3,Fe 2O 3,CaO,MgO,Na 2O,K 2O,SO 3,P 2O 5,CO 2)をJIS M8815,JIS M8217,ICP発光分光分析法及び中和滴定法により分析し,含有割合を数値で示した結果が記載されている。
しかし,同分析においては,構成要件A,Bに係るフライアッシュ,セメント成分,シリカ粉末,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム自体の含有割合等は測定されていないこと,具体的な測定条件などが示されていないことの点において問題点があり,上記分析結果により,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれることを認定することはできない。
イ 甲5について 甲5には,原告製品及び被告製品の成分(CaCO3,SiO 2,CaSO4,CaO)をX線回折法により同定した結果が記載されている。
しかし,この結果は,被告製品に上記成分が含有されていることを示すにとどまり,本件発明の構成要件A,Bに係るフライアッシュ,セメント成分,シリカ粉末,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウムの含有割合等が示されていない。
したがって,甲5により,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれることを認定することはできない。
ウ 甲6について 甲6には,原告製品及び被告製品について,ICP分析を行い,それらに含まれる元素を測定し,各元素(Al,Ca,Cu,Fe,K,Mg,Mn,Na,P,S,Si,Ti,V,Zn)ごとに,その含有割合が,「主成分」,「大変多い」,「多い」,「普通」,「少ない」,「僅かに」,「検出困難」の7段階に分類された結果が記載されている。そして,原告製品及び被告製品のいずれにも,同じ元素(Al,Ca,Cu,Fe,K,Mg,Mn,Na,P,S,Si,Ti,V,Zn)が含まれ,それらの含有量もほぼ同一であることが記載されている。
しかし,この結果は,前記各元素が含まれていること,及び,各元素の含有量の多寡が示されるにとどまり,本件発明の構成要件A,Bに係るフライアッシュ,セメント成分,シリカ粉末,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウムの含有割合等が示されるものではない。
したがって,甲6により,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれることを認定することはできない。
エ 甲7について 原告は,甲4から甲6までの分析結果によれば,原告製品(本件発明の実施品と主張する)と被告製品とは,化合物と元素の含有量において,ほぼ一致するので,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属していると推認されると主張する。
しかし,@甲4ないし甲6の分析結果において検出された化合物について,構成成分の中に含まれていた化合物であるのか,混合した後に新たに生成された化合物であるのか全く不明であるから,被告製品が,原告製品と同一の構成成分を混合したものと認定することはできないこと,A本件のような製品においては,化合物の種類によっては,複数の構成成分に含有されている可能性があり得ること(例えば,SiO2については,セメント成分,シリカ粉末及び灰成分に含まれている可能性がある。)等の点に照らすならば,原告製品と被告製品に含まれる化合物を分析し,それらの含有量が近似していたことによって,被告製品中の各構成成分の割合が,本件発明の構成成分の含有量と同一であると推認することは到底できない。
オ 甲15について 甲15には,甲4における分析結果を前提として,フライアッシュやセメントの組成が一定であるという仮定に基づいて,被告製品の各構成成分の含有量について,フライアッシュ100重量部に対し,硫酸アルミニウム7重量パーセント,硫酸カルシウム10重量パーセント,シリカ粉末15重量パーセント,セメント成分68重量パーセントからなる添加剤25重量部を混合したものであると推認できる旨が記載されている。
しかし,前記アのとおり,甲4の分析結果は被告製品の成分の含有量を正確に示したものであると認めることはできないから,甲4の分析結果に基づいた上記の結論は採用できない。
また,上記計算においては,フライアッシュの化学成分として同書証の添付資料1(改訂新版コンクリート工学ハンドブック)の平均値が用いられているが,フライアッシュの品質は,微粉炭の品質,発電所での燃焼方法,捕集方法等によって差異があり,その組成は一様ではないから,上記資料に示された種々のフライアッシュの化学組成の平均値を用いて前記の結論を導くことには合理性があるとはいえない。さらに,セメント成分についても,「普通ポルトランドセメント」が用いられたことを前提として,各種のポルトランドセメントにおける平均値が用いられているが,本件発明に係る明細書中には,「このセメント成分としては,格別限定されるものではなく,例えばポルトランドセメントや,緊急工事用の建設材料として用いられている早強セメントなどが好適である」と記載されていること(甲1,6欄33行目),セメント成分中における酸化カルシウムの含有割合は一様でないこと等の点に照らすならば,原告の採用した平均値を用いて,前記の結論を導くことには合理性があるとはいえない。
カ 甲16,17について 甲17には,原告製品及び被告製品のほか,石炭灰,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ粉末,セメント(早強セメント)について,外観観察,SEM(走査型電子顕微鏡)観察,SEM/EDX分析(走査型電子顕微鏡装置に取付けたエネルギー分散型X線分析装置を用いた元素分析),EDX元素マップ(EDX分析の結果を用いた元素マップ測定),X線回折分析を基礎として,原告製品及び被告製品のいずれも,石炭灰を主成分とし,セメント,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ成分が含まれ,粒子の形状分布,石炭灰の面積率は同一レベルにあるとの結論が記載されている。
しかし,以下のとおり,甲17によっては,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれることを結論づけることはできない。
すなわち,外観観察,SEM観察,SEM/EDX分析,X線回折分析のいずれの分析も,定性的な分析を目的とするものであるから,被告製品の構成成分の定量的な観点からの結論を得ることはできない。また,SEM/EDX分析において,原告製品,被告製品,石炭灰のX線スペクトルを対比している(5頁〜6頁)が,原告製品と被告製品にそれぞれ含まれるフライアッシュが同一の組成を有するかどうか不明であること,これと石炭灰が同一の組成を有するものかどうか不明であること等に照らすと,上記のX線スペクトルの対比によって一定の結論を導くことは相当ではない。さらに,原告は,EDX元素マップを用いて,石炭灰のほとんどがムライト成分とクオーツ成分から構成されていることを前提として,ムライト及びクオーツ成分の占有率として,石炭灰の面積率を算定している。しかし,フライアッシュ中に含まれる成分は,ムライト及びクオーツのみではなく,むしろガラス成分がかなりの組成割合を占めているのに対し(甲15の資料1,表4.15),甲17においては,この点を考慮していない点において,ムライト及びクオーツ成分のみをもって,被告製品中の石炭灰の含有量を推論することは相当ではない。
なお,甲16には,甲17における分析結果によって,被告製品における添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれる趣旨が記載されている。しかし,甲17の分析結果については,前記のとおり問題点があるので,甲16の記載の内容に同調することはできない。
(3) 以上のとおり,前記各証拠のいずれによっても,被告製品において,硫酸カルシウムの添加剤全体に占める含有割合が,本件発明の構成要件Bbの1〜20重量パーセントの範囲に含まれると認定することができないので,原告の主張は理由がないことになる。
原告は,被告らが,被告製品について開示した構成成分量は,真実に反すると主張する。被告らが,被告製品について開示した構成成分量が正確なものであるか否かが,直ちに,当裁判所の上記の結論に影響を与えるものではないが,念のため,原告が根拠とする各証拠について検討する。
ア 甲18について 甲18には,原告製品,被告製品及び合成品について,それぞれ土壌に混合してその強度を測定した結果,原告製品及び被告製品はほぼ同程度の強度を有するのに対して,被告製品及び合成品の強度には差異があることが記載されている。
原告は,土壌安定化剤を混合した土壌の強度は,土壌安定化剤中のセメントの含有量に依存するものであるとの前提に,前記の結果を当てはめて,被告らが開示した被告製品の構成成分量のうち,少なくともセメント成分量は,真実に反すると結論付けている。
しかし,@土壌の強度は,セメント含有量により影響を受ける面はあるが,セメント組成物中の鉱物組成量などによっても左右されるといえること,A被告製品に含まれるセメントと,合成品に含まれるセメントとが同種であるかは明らかではないこと,B用いたセメントの種類が異なり,それぞれのセメント中に含有される鉱物組成が異なれば,土壌の強度とセメントの含有量との相関関係は失われることなどの点に照らすならば,前記の測定結果から,被告らが開示した被告製品の構成成分量のうち,セメント成分量については,真実に反すると結論付けることは相当ではない。
イ 甲19及び甲21について 甲19には,「原告製品」「被告製品」「合成品」及び「被告成分推定品」について,EDX分析により,アルミニウム,ケイ素,カルシウム及び鉄の各元素の相対的な定量分析を行った結果,被告製品と合成品の分析結果が相違すること,被告製品と被告成分推定品の分析結果が類似することが記載されている。
原告は,セメント成分は,主成分が酸化カルシウム,二酸化ケイ素であり,これらに次いで酸化アルミニウム,酸化鉄が含有されていること,フライアッシュは,主成分が二酸化ケイ素と酸化アルミニウムであり,次いで酸化鉄及び酸化カルシウムが含有されていることから,アルミニウム,ケイ素,カルシウムの比較結果が,各試料のフライアッシュとセメント成分の構成成分量を反映し,鉄の各元素の重量濃度が比較の際の参考となり得るとして,前記分析結果から,被告らが開示した被告製品の構成成分量は真実に反すること,被告製品は,被告成分推定品と構成成分量において近似すると推論する。
しかし,@合成品に含有されているセメントと被告製品に含有されているセメントとが同種であるかは明らかではないこと,A原告は,アルミニウムがフライアッシュの含有率に依存し,カルシウムがセメントの含有率に依存することを前提としているが,アルミニウムは,フライアッシュ以外にも,セメント,硫酸アルミニウムに含まれ,カルシウムは,フライアッシュ以外にも,セメント,硫酸カルシウムに含まれることなどの点に鑑みると,原告の推論を採用することはできない。
なお,甲21では,被告製品と合成品について,それぞれに含有される硫黄の重量濃度を比較した結果,前者は後者よりも明らかに低いので,被告らが開示した被告製品の構成成分量は誤りであると指摘しているが,これによっても,前記結論が左右されるものではない。
(4) その他,本件全証拠によるも,被告製品において,添加剤全体に占める硫酸カルシウムの含有割合が1〜20重量パーセントの範囲に含まれると認定することはできない。以上のとおりであるから,被告製品は,本件発明の構成要件Bbを充足すると認められない。
2 結論 原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 山田真紀