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事件 平成 25年 (行ケ) 10346号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/10/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年10月9日判決言渡

平成25年(行ケ)第10346号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年9月9日

判 決



原 告 京 セ ラ ク リ ス タ ル

デ バ イ ス 株 式 会 社



訴訟代理人弁護士 片 山 英 二

同 本 多 広 和

訴訟代理人弁理士 加 藤 志 麻 子

同 岩 田 耕 一



被 告 有 限 会 社 ピ エ

デ ッ ク 技 術 研 究 所



訴訟代理人弁理士 須 磨 光 夫

主 文

1 特許庁が無効2012−800211号事件について平成25年11月18

日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。)




被告は,平成15年1月14日(優先日平成14年1月11日),発明の

名称を「水晶発振器と水晶発振器の製造方法」とする特許出願(特願200

3−040391号)をし,平成20年2月8日,設定の登録(特許第40

74935号。請求項の数は3である。)を受けた(以下,この特許を「本

件特許」という。)。

原告は,平成24年12月26日,本件特許の請求項1ないし3に係る発

明について,特許無効審判を請求した(無効2012−800211号)。

被告は,平成25年3月25日,訂正請求をした(以下「本件訂正」とい

う。)。特許庁は,同年11月18日,「請求のとおり訂正を認める。本件

審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月28日,その謄本を原

告に送達した。

原告は,同年12月26日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起し

た。

2 特許請求の範囲の記載

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以

下,請求項1の発明を「本件特許発明」といい,その明細書を「本件特許明

細書」という。)。

「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水

晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,

前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを具

えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上面と

下面と側面とを有し,

第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,第2音叉腕

の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,

溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置さ

れた電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2




電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように

溝と電極を形成する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する工

程と,を少なくとも有し,

第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の内,

1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置さ

れた電極と第2音叉腕の両側面に配置された電極から構成され,且つ,上下

面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両側面に配置さ

れた前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両側面に配置さ

れた電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置され

た電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極と上下面の少なく

とも一面に形成された溝に配置された前記電極とが接続されていて,

前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比

r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モード振

動のフイガーオブメリットM 1が高調波モード振動のフイガーオブメリット

Mnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,

前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,前記音叉形屈曲水

晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,前記音

叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,−9000P

PM〜+5000PPMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整

されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以

下,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明」という。下線部は,本

件訂正によって追加された部分を示す。)。

「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水




晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,

前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを具

えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上面と

下面と側面とを有し,

第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前

記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.0

4mmより小さくなるように溝を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少

なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が

0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるよう

に溝を形成する工程と,

溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置さ

れた電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2

電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように

溝と電極を形成する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する工

程と,を少なくとも有し,

・・・(中略)・・・構成されていて,

前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,前記音叉形屈曲水

晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,前記音

叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,−9000P

PM〜+5000PPMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整

されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」

3 審決の理由の要旨

審決の理由は,別紙審決書記載のとおりであり,要するに,@本件訂正

は,特許請求の範囲減縮を目的とするものと認められ,本件特許明細書に




記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲

拡張し,又は変更するものでもないから,特許法134条の2第1項ただし

書,及び同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合

するものである,A本件訂正発明は,その出願基準日前に公用された物件で

ある製造番号NSHCC041469のシャープ株式会社製ムーバSH25

1i(以下「公用物件」という。)が具備する水晶発振器から一義的に導き

出せる工程を具備する製造方法(以下「公用製造方法」という。)に基づ

き,当業者が容易に発明をすることができたものではない,というものであ

る。

本件訂正は,次の訂正事項1ないし3のとおりである。

ア 訂正事項1

本件特許発明の「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する

工程」を,「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してそ

の両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の

溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正す

るもの。

イ 訂正事項2

本件特許発明の「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する

工程」を,「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してそ

の両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の

溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正す

るもの。

ウ 訂正事項3

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するもの。

審決が認定した公用製造方法,本件訂正発明と公用製造方法との一致点及

び相違点は,以下のとおりである。




ア 公用製造方法

「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される

水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,

前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを

具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上

面と下面と側面とを有し,

第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,

第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,

溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置

された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極であ

る2電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動する

ように溝と電極を形成する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型のユニットに収納する工程と,を少

なくとも有し,

第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の

内,1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に

配置された電極と第2音叉腕の両側面に配置された電極から構成され,且

つ,上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両側

面に配置された前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両

側面に配置された電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成され

た溝に配置された電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極

と上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極とが接続

されていて,

前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量

比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モー




ド振動のフイガーオブメリットM 1 が高調波モード振動のフイガーオブメ

リットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,

前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,音叉形屈曲水晶

振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,ユニッ

トを形成するケース内に収納される前,及び,ケース内に収納した後で

ケースと蓋とが接合される前に,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数

が前記基準周波数に対して,周波数が調整されることを特徴とする水晶発

振器の製造方法。」

イ 一致点

「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される

水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,

前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを

具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上

面と下面と側面とを有し,

第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に溝

を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残

してその両側に溝を形成する工程と,

溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置

された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極であ

る2電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動する

ように溝と電極を形成する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,

音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する

工程と,を少なくとも有し,

第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の

内,1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に




配置された電極と第2音叉腕の両側面に配置された電極から構成され,且

つ,上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両側

面に配置された前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両

側面に配置された電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成され

た溝に配置された電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極

と上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極とが接続

されていて,

前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量

比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モー

ド振動のフイガーオブメリットM 1 が高調波モード振動のフイガーオブメ

リットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,

前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,音叉形屈曲水晶

振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,前記音

叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,周波数が調

整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」

ウ 相違点

相違点1

本件訂正発明は,第1音叉腕に溝を形成する工程が,「第1音叉腕の

上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を

含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mm

より小さくなるように溝を形成する工程」であるのに対して,公用製造

方法は,「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」

である点。

相違点2

本件訂正発明は,第2音叉腕に溝を形成する工程が,「第2音叉腕の

上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を




含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mm

より小さくなるように溝を形成する工程」であるのに対して,公用製造

方法は,「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」

である点。

相違点3

本件訂正発明は,周波数の調整が,「前記音叉形屈曲水晶振動子の発

振周波数が前記基準周波数に対して,−9000PPM〜+5000P

PMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で」調整される周波数の調整で

あるのに対して,公用製造方法は,許容範囲の数値範囲が特定されてお

らず,また,ケース内に収容する前の周波数の調整が水晶ウエハ内か否

か不明である点。

第3 原告主張の取消事由

審決には,本件訂正の適法性に係る判断の誤り(取消事由1)並びに相違点

1及び2の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)があり,これらの誤り

は審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消され

るべきである。

1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り)

審決は,要旨次のとおり述べて,訂正事項1及び2の追加は新規事項の追

加に当たらないと判断しているが,このような判断手法自体誤りである。

すなわち,審決は,本件特許明細書の【0041】に記載された,中立線

を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W 7 は

0.05mmより小さく,又,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなる

ように構成する態様,及び【0043】に記載された,水晶発振器に用いら

れる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比r 1 を2次高

調波モード振動の容量比r 2より小さくなるように構成する態様は,それぞ

れが独立した態様であって,両方の構成を有する態様については直接的には




記載されていないが,【0041】に記載された態様には,「M1をMnより

大きくする事ができる」という作用効果があり,【0043】に記載された

態様には,「同じ負荷容量CLの変化に対して,基本波モードで振動する屈

曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の

周波数変化より大きくなる。即ち,基本波モード振動の方が2次高調波モー

ド振動より周波数の可変範囲を広くとることができる」という作用効果があ

り,両方の作用効果を期待するならば,両方の構成を有するような態様とす

ることは当業者であれば自然であり,当業者が本件特許明細書をみれば,そ

れぞれの構成を有する態様のみならず,両方の構成を有する態様について

も,実質的に記載されていると解釈するというべきであると述べている。

しかし,新規事項の追加に当たらない適法な訂正とは,「当初明細書に記

載された事項」及び「当初明細書等の記載から自明な事項」の範囲の訂正で

あるところ,「当初明細書等の記載から自明な事項」とは,これに接した当

業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らか

であって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項

であることが必要である。しかるに,審決が引用した【0041】の記載

と,【0043】の記載は,審決も認めるとおり「独立した態様」であるか

ら,これを組み合わせるという,進歩性判断と同様の思考を必要とするので

あれば,このような組み合わせによって得られる態様は,「これに接した当

業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らか

であって,その事項がそこに記載されているのと同然」というものでないこ

とは明らかである。

訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たる。

すなわち,本件特許発明は,「前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動

子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より

小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリットM 1 が高調波モー




ド振動のフイガーオブメリットM nより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具え

て構成されていて,」という要件を含むものであるから,訂正事項1及び2

の追加は,本件特許発明を,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含

めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小

さくなるように溝が形成されており,かつ,r 1 <r 2 ,M 1 >Mn である」

という要件を含むものに訂正することになる。そうすると,訂正事項1及び

2の追加が新規事項の追加に当たらないといえるには,本件特許明細書にお

いて,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05

mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形

成されており,かつ,r 1 <r 2 ,M1 >Mn である」という要件を満たす発

明が記載されていることが必要である。しかるに,本件特許明細書には,

「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmよ

り小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた

場合における,基本波モード振動の容量比r 1と2次高調波モード振動の容

量比r2の関係については一切記載されていない。したがって,訂正事項1

及び2の追加は,新規事項の追加に当たる。

2 取消事由2(相違点1及び2の容易想到性に係る判断の誤り)

審決は,相違点1及び2は容易想到ではないと判断し,その理由として,要

旨,国際公開第2000/44092号の国際公開公報(甲32。以下「甲3

2公報」という。)には,振動細棒(本件訂正発明の「第1音叉腕」,「第2

音叉腕」に相当する。)の上下に2つずつ溝を設けることは記載されている

が,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本の溝とした場合に,r 1

とr2の大小関係及びM1とMnの大小関係がどのようになるかは不明であり,

公用製造方法において,相違点1及び2における本件訂正発明の構成を採用す

ることの積極的な動機付けがないというべきであると述べている。

しかし,そもそも審決は,本件訂正の適法性に係る判断においては,「音




叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線

を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmよ

り小さくなるように溝を形成」した場合において,基本波モード振動の容量

比r 1と2次高調波モード振動の容量比r 2がr1 <r 2 という関係を満たす

か否かについて本件特許明細書に一切の記載がされておらず,また,フイ

ガーオブメリットMに関しても,単に「このような構成により,M1をMnよ

り大きくする事ができる」との一行記載があるにすぎないにもかかわらず,

このような構成を採用することは「当業者であれば自然」と判断しているの

であって,このような判断を前提とすれば,r1とr2の大小関係やM1とM

n の大小関係がどのようになるか不明というだけでは,相違点1及び2の容

易想到性を否定する理由にはならないはずである。

また,以下のとおり,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本と

した場合に,M1>Mn及びr1<r2となることは予測し得ることである。

ア M1>Mn及びr1<r2であることの技術的意義の観点から

@本件特許明細書の図面に具体的に記載されている音叉型水晶振動子

は,その「音叉形状と溝と電極の寸法」において,従来技術における音叉

型水晶振動子とほとんど変わりはなく,また,何より,本件特許明細書に

は,M1 >Mn及びr 1 <r2 の関係を満たさない具体的な音叉型水晶振動

子について全く記載されていないこと,A本件特許明細書においては,M

1>Mnと「高調波モード振動を抑制して,基本波モード振動の周波数が安

定して得られ,高い周波数安定性(すぐれた時間精度)が実現される」と

いう作用効果の因果関係,及び,r 1<r2と「同じ負荷容量CLの変化に

対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調

波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなる」という

作用効果の因果関係については,何ら具体的な裏付けがないこと,BM1

>Mn の関係については,従来技術における音叉型水晶振動子が有してい




た属性を述べたものでしかないこと(甲45)からすれば,M1>Mn及び

r1<r2とすることは,音叉型水晶振動子に常識的な形状の溝を形成し,

かつ,逆相振動する電極を形成するというごく普通の設計をすれば自ずと

満足するとしか考えられないから,公用製造方法において,音叉腕に設け

る溝を2本とした場合に,M1 >Mn 及びr 1 <r2 となることは予測し得

ることである。

イ 甲32公報の記載内容及び当業者の技術常識から

M1>Mnの関係について

甲32公報によれば,音叉腕における溝の形成によって,直線的かつ

平行な電界が生成することが,等価直列抵抗(CI値あるいはR)を小

さくするという作用効果に寄与していることが明らかであるから,等価

直列抵抗(CI値あるいはR)を小さくするという作用効果について

は,溝を2本形成した場合でも,溝を1本形成した場合と同等の効果が

得られると理解できる。

そして,MとRの間には,「M1/Mn =Rn/R1×ωn/ω1」の関

係が成り立つことが知られており(ωは,機械共振周波数。),かつ,

ωn/ω1の値は,常に1以上である(甲7,甲55)。また,甲32公

報から得られる技術的知見からすると,2本溝にした場合におけるR n

/R1 の値は,同じ外形を有する音叉型水晶振動子に1本溝を形成した

場合の値とほぼ同じになる。そうすると,2本溝を形成した場合におけ

るM1/Mn は以下のように表すことができる。

M1/Mn(2本溝)=Rn/R1(2本溝)×ωn/ω1

≒Rn/R1(1本溝)×1以上の数

そして,甲9の表1に示されるように,公用物件においては,溝を1

本形成した場合におけるRn/R1(1本溝)の値は,1以上である。そ

うすると,公用物件において,溝を2本とした場合においても,M 1/




Mnの値が1よりも大きくなること,すなわち,M1>Mnの関係が担保

されることは,当業者であれば予測し得ることである。

r1<r2の関係について

本件特許明細書には,r1<r2を達成するための具体的な設計につい

て全く記載がされていない。したがって,r1<r2の関係についても,

通常の設計をすれば,自ずと満足する程度の関係であるとしか解されな

い。そうすると,r1<r2の関係を満たす公用製造方法において,溝を

2本とした場合においても,r1<r2の関係が担保されることは,当業

者が予測し得ることである。

部分幅及び溝幅の要件の容易想到性

本件特許明細書には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた

部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さく

なるように溝を形成する」との数値限定技術的意義については,一切記載

されていない。

また,本件特許明細書には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を

含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより

小さくなるように溝を形成する」との要件を満たすことと,r1<r2の関係

を満足させることとの関係については,一行記載を含めて全く記載がない。

のみならず,上記部分幅及び溝幅の数値限定がオープンエンドであることか

らすると,上記溝寸法の規定には,溝の形状,寸法も含めて非常に広範な態

様が含まれているから,上記部分幅及び溝幅の寸法要件と,r1<r2の関係

を満足させることとの因果関係についてはますます不明である。したがっ

て,上記部分幅及び溝幅の寸法の要件は,r1<r2の関係を満足させること

との関係で技術的意義を有するとは解されない。

さらに,甲32公報の記載からすると,「中立線を残してその両側に,前

記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.0




4mmより小さくなるように溝を形成する」との要件を満たすことと,M1

>Mnの関係を満足させることとの因果関係にも疑義がある。すなわち,本

件訂正発明においては,基準周波数を1次の発振周波数である32.768

kHzとすることを前提としているところ,ωn/ω1は,公用製造方法と同

様に常に1以上となり,結局のところ,M 1 >M n の関係に関与しているの

は,R1とRnということになる。そして,甲32公報で説明されているとお

り,溝付きの音叉型水晶振動子において,Rの値を決定付けるのは,電界の

存在,すなわち,溝が形成されているということそのものである。このよう

な甲32公報の知見と本件訂正発明の前提からすれば,M1>Mnの関係は,

平行かつ直線的な電界が付与できるような溝を音叉に付与した結果達成され

ているといえるから,部分幅の寸法や,溝幅の寸法自体が,M1>Mnの関係

を満たすか否かを決定付けているかのように説明する本件特許明細書の記載

内容については,疑念を持たざるを得ない。

以上によれば,本件訂正発明における「中立線を含めた部分幅が0.05

mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなる」という要件

は,特段の技術的意義を有しないものであり,当業者が適宜採用しうる程度

のものにすぎないというべきである。

第4 被告の主張

1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り)について

審決は,本件特許明細書の記載と当業者の技術常識に基づいて,本件訂正

の適法性を判断したものであり,その判断に誤りはない。

「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mm

より小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設け

た場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の

容量比r2の関係が,r1<r2となることは,以下のとおり,本件特許明細

書に記載されているに等しい。




すなわち,本件特許明細書の【0041】には,「中立線を残してその両

側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅

が0.04mmより小さくなるように溝」を設ける場合にも,M1をMnより

大きくすることができることが記載されている。

一方,【0026】には,「フイガーオブメリットM iは屈曲水晶振動子

の品質係数Q i 値と容量比r i の比(Q i /r i )によって定義される。即

ち,Mi=Qi/r1で与えられる。」ことが記載されており,これは,基本

波モード振動のフイガーオブメリット,品質係数,容量比を,それぞれM

1 ,Q1,r1とし,2次高調波モード振動のフイガーオブメリット,品質係

数,容量比を,それぞれM2,Q2,r2とすると,M1=Q1/r1,M2=Q

2/r2の関係にあることを意味している。

そして,音叉形水晶振動子においては,一般的に,基本波モード振動の品

質係数Q1が2次高調波モード振動の品質係数Q2よりも小さいことは,当業

者によく知られていることである(甲46)。

そうすると,M 1=Q 1/r1 ,M 2=Q2/r2 の関係にあり,かつ,音叉

形水晶振動子においては一般的にQ 1<Q2の関係にあるのであるから,M 1

>M2の場合には,必然的にr1<r2となる。

したがって,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が

0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるよう

な溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1 と2次高調波

モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特許明細書

に記載されているに等しいといえる。

2 取消事由2(相違点1及び2の容易想到性に係る判断の誤り)について

原告は,相違点1及び2の容易想到性に係る審決の判断は,本件訂正に係

る審決の判断と矛盾するかのように主張する 。

しかし,訂正要件充足性の判断の基準は特許明細書であるのに対し,容易




想到性の判断の基準は公知発明であり,両者は異なる判断なのであるから,

本件特許明細書の記載からみて自明な技術的事項であっても,公知発明から

容易に想到することができない技術的事項が存在するのは当然であり,審

決の判断に矛盾はない。

原告は,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本とした場合に,

M 1>Mn 及びr 1<r 2 となることは予測し得ることであると主張する(前



しかし,M 1 とM n の大小関係については,音叉型屈曲水晶振動子におい

て,基本波モード振動の等価直列抵抗R 1と高調波モード振動の等価直列抵

抗Rnとは,常にR1<Rnの関係にあるとはいえないから,公用物件におい

てR1<Rnの関係となっているからといって,公用物件における1本の溝を

2本に変更した場合にもR1<Rnの関係が維持されるとはいえず,そうする

と,公用物件において,溝を2本形成した場合においてもM1>Mnの関係が

成り立つとは,必ずしもいえない。また,r1とr2の大小関係についても,

原告の主張は,合理的な根拠を欠くものである。したがって,原告の上記主

張は誤りである。

原告は,本件訂正発明における部分幅及び溝幅の要件は容易想到であると

主張する 。

しかし,「中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の

幅が0.04mmより小さくなる」という要件には,M1をMnより大きくす

ることができるという技術的意義があり,M 1 >M n の場合にはr 1 <r2 の

関係が充足される。したがって,原告の上記主張は誤りである。

第5 当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2について判断

するまでもなく,審決は違法であり,取消しを免れないものと判断する。その

理由は以下のとおりである。




1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り)について

原告は,本件訂正の適法性に係る審決の判断は,その判断手法自体誤りであ

り,訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たると主張する(前記第

3の1)ので,以下,検討する。

本件訂正の内容について

訂正事項1及び2は,本件特許発明における第1音叉腕及び第2音叉腕に

溝を形成する工程について,それぞれ,「中立線を残してその両側に,前記

中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04

mmより小さくなるように溝を形成する」との構成を付加するものであると

ころ,本件特許発明は,「前記水晶発振器は前記音叉型屈曲水晶振動子の基

本波モード振動の容量比r 1 が2次高調波モード振動の容量比r 2 より小さ

く,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1 が高調波モード振動の

フイガーオブメリットMnより大きい音叉型屈曲水晶振動子を備えて構成さ

れていて」との構成を有するものであるから,訂正事項1及び2は,本件特

許発明の構成に,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅

が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるよ

うに溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1 が2次高

調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオ

ブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」

という事項(以下「本件追加事項」という。)を追加することになる。

本件訂正の適否の判断方法について

特許法134条の2第1項ただし書は,特許無効審判の被請求人による訂

正請求は,@ 特許請求の範囲減縮,A 誤記又は誤訳の訂正,B 明瞭

でない記載の釈明,C 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他

の請求項の記載を引用しないものとすること,を目的とするものに限ると規

定している。そして,同法134条の2第9項において準用する同法126




条5項は,「第1項の明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添

付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内にお

いてしなければならない。」と規定している。ここでいう「願書に添付した

明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,

「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」の全ての記載を総合す

ることにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる

技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると

きは,当該訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記

載した事項の範囲内において」するものということができる。

そこで,以下,本件追加事項の追加が,本件特許の出願に係る「願書に添

付した明細書,特許請求の範囲又は図面」(以下「本件特許明細書等」とい

う。)に記載した事項の範囲内においてしたものといえるか否か,すなわ

ち,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事

項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検

討する。

本件特許明細書の記載について

本件特許明細書(甲47)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。

ア 「【0001】

【発明の属する技術分野】

本発明は屈曲モードで振動する音叉腕と音叉基部を具えて構成される音叉

形状の水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成され

る水晶発振器とその製造方法に関する。・・・」

イ 「【0003】

【発明が解決しようとする課題】

音叉型屈曲水晶振動子では,電界成分Exが大きいほど等価直列抵抗R 1

が小さくなり,品質係数Q値が大きくなる。しかしながら,従来から使用




されている音叉型屈曲水晶振動子は,図10で示したように,各音叉腕の

上下面と側面の4面に電極を配置している。そのために電界が直線的に働

かず,かかる音叉型屈曲水晶振動子を小型化させると,電界成分Exが小

さくなってしまい,等価直列抵抗R 1が大きくなり,品質係数Q値が小さ

くなるなどの課題が残されていた。・・・それ故,基本波モードで振動す

る超小型で,等価直列抵抗R 1の小さい,品質係数Q値が高くなるような

新形状で,電気機械変換効率の良い溝の構成と電極構成を有する音叉形状

の屈曲水晶振動子を具え,出力信号が基本波モード振動の周波数で,高い

周波数安定性(高い時間精度)を有し,消費電流の少ない水晶発振器が所

望されていた。」

ウ 「【0004】

【課題を解決するための手段】

本発明は,以下の方法で従来の課題を有利に解決した屈曲モードで振動す

る音叉形状の水晶振動子を具えた水晶発振器とその製造方法を提供するこ

とを目的とするものである。

【0005】

即ち,本発明の水晶発振器の製造方法の第1の態様は,水晶振動子と増

幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振回路を具え

た水晶発振器の製造方法で,・・・前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶

振動子の基本波モード振動の容量比r 1が2次高調波モード振動の容量比

r2より小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高

調波モード振動のフイガーオブメリットM n より大きい音叉形屈曲水晶振

動子を具えて構成されていて,・・・周波数が調整される水晶発振器の製

造方法である。」

エ 「【0009】

【本発明の実施の形態】




以下,本発明の実施例を図面に基づき具体的に述べる。

図1は本発明の水晶発振器を構成する水晶発振回路図の一実施例である。

・・・」

「【0015】

図3は本発明の第1実施例の水晶発振器に用いられる屈曲モードで振動す

る音叉形状の屈曲水晶振動子10の外観図とその座標系を示すものであ

る。・・・本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10は音叉腕20,音叉

腕26と音叉基部40とから成り,音叉腕20と音叉腕26は音叉基部4

0に接続されている。また,音叉腕20と音叉腕26はそれぞれ上面と下

面と側面とを有する。更に,音叉腕20の上面には中立線を挟んで,即

ち,中立線を含むように溝21が設けられ,又,音叉腕26の上面にも音

叉腕20と同様に溝27が設けられるとともに,さらに,音叉基部40に

溝32と溝36とが設けられている。・・・又,音叉腕20,26の下面

にも上面と同様に溝が設けられている。

【0016】

図4は,図3の音叉形状の屈曲水晶振動子10の音叉基部40のD−D′

断面図を示す。図4では図3の水晶振動子の音叉基部40の断面形状並び

に電極配置について詳述する。音叉腕20と連結する音叉基部40には溝

21,22が設けられている。同様に,音叉腕26と連結する音叉基部4

0には溝27,28が設けられている。更に,溝21と溝27との間には

更に溝32と溝36とが設けられている。又,溝22と溝28との間にも

溝33と溝37とが設けられている。そして,溝21と溝22には電極2

3,24が,溝32,33,36,37には電極34,35,38,39

が,溝27と溝28には電極29,30が配置され,音叉基部40の両側

面には電極25,31が配置されている。詳細には,溝の側面に電極が配

置され,前記電極に対抗して極性の異なる電極が配置されている。」




「【0018】

更に,電極25,29,30,34,35は一方の同極に,電極23,2

4,31,37,38,39は他方の同極になるように配置されていて,

2電極端子構造E−E′を構成する。即ち,z軸方向に対抗する溝電極は

同極に,且つ,x軸方向に対抗する電極は異極になるように構成されてい

る。今,2電極端子E−E′に直流電圧を印加(E端子に正極,E′端子

に負極)すると電界Exは図4に示した矢印のように働く。電界Exは水

晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により電極に垂直に,即

ち,直線的に引き出されるので,電界Exが大きくなり,その結果,発生

する歪の量も大きくなる。従って,音叉形状の屈曲水晶振動子を小型化さ

せた場合でも,等価直列抵抗R 1の小さい,品質係数Q値の高い屈曲モー

ドで振動する音叉形状の水晶振動子が得られる。

【0019】

図5は図3の音叉形状の屈曲水晶振動子10の上面図を示すものである。

図5では溝21,27の配置及び寸法について特に詳述する。音叉腕20

の中立線41を挟むようにして溝21が設けられている。他方の音叉腕2

6も中立線42を挟むようにして溝27が設けられている。更に,本実施

例の音叉形状の屈曲水晶振動子10では,音叉基部40の,溝21と溝2

7との間に挟まれた部分にも溝32と溝36とが設けられている。それら

溝21,27及び溝32,36を設けたことで,音叉形状の屈曲水晶振動

子10には,先に述べたように,電界Exが図4に示した矢印のように働

き,電界Exは水晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により

電極に垂直に,即ち,直線的に引き出され,特に音叉基部の電界Exが大

きくなり,その結果,発生する歪の量も大きくなる。このように,本実施

例の音叉形状の屈曲水晶振動子10の形状と電極構成とは,音叉型屈曲水

晶振動子を小型化した場合でも電気的諸特性に優れた,即ち,等価直列抵




抗R1の小さい,品質係数Q値の高い水晶振動子が実現できる。

【0020】

更に,部分幅W1,W3と溝幅W2とすると,音叉腕20,26の腕幅Wは

W=W 1+W 2+W 3で与えられ,通常はW 1 とW 3の一部又は全部がW 1≧

W 3 または,W 1 <W 3 となるように構成される。又,溝幅W 2 はW 2 ≧W

1,W3を満足する条件で構成される。更に具体的に述べると,本実施例で

は,溝幅W2と音叉腕幅Wとの比(W2/W)が0.35より大きく,1よ

り小さくなるように,好ましくは,0.35〜0.95で,溝の厚みt 1

と音叉腕の厚みt又は音叉腕と音叉基部の厚みtとの比(t 1 /t)が

0.79より小さくなるように,好ましくは,0.01〜0.79となる

ように溝が音叉腕に形成されている。このように形成することにより,音

叉腕の中立線41と42を基点とする慣性モーメントが大きくなる。即

ち,電気機械変換効率が良くなるので,等価直列抵抗R1 の小さい,Q値

の高い,しかも,容量比の小さい音叉形状の屈曲水晶振動子を得る事がで

きる。」

「【0026】

更に詳述するならば,音叉形状の屈曲水晶振動子の誘導性と電気機械変換

効率と品質とを表すフイガーオブメリットM iは屈曲水晶振動子の品質係

数Qi値と容量比riの比(Qi/ri)によって定義される。即ち,Mi=

Qi/riで与えられる。但し,iは音叉形状の屈曲水晶振動子の振動次数

を表し,i=1のとき基本波モード振動,i=2のとき2次高調波モード

振動,i=3のとき3次高調波モード振動である。また,音叉形状の屈曲

水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f 8と並列容量

に依存する直列共振周波数frの周波数差ΔfはフイガーオブメリットMi

に反比例し,その値Miが大きい程Δfは小さくなる。従って,Miが大き

い程,音叉形状の屈曲水晶振動子の共振周波数は並列容量の影響を受けな




いので,屈曲水晶振動子の周波数安定性は良くなる。即ち,時間精度の高

い音叉形状の屈曲水晶振動子が得られる。

【0027】

さらに詳細には,前記音叉形状と溝と電極とその寸法の構成により,基本

波モード振動のフイガーオブメリットM 1が高調波モード振動のフイガー

オブメリットMnより大きくなる。即ち,M1>Mnとなる。但し,nは高

調波モード振動の振動次数を表し,n=2,3のとき,2次,3次高調波

モード振動のフイガーオブメリットである。一例として,基本波モード振

動の周波数が32.768kHzで,W2/W=0.5,t1/t=0.3

4,l1/l=0.48のとき,製造によるバラツキが生ずるが,音叉形

状の屈曲水晶振動子のM 1 ,2 はそれぞれM 1 >65,M 2 <30となる。

即ち,高い誘導性と電気機械変換効率の良い(容量比r1 と等価直列抵抗

R1の小さい),品質係数の大きい基本波モードで振動する屈曲水晶振動

子を得ることができる。その結果,基本波モード振動の周波数安定性が2

次高調波モード振動の周波数安定性より良くなると共に,2次高調波モー

ド振動を抑圧することができる。従って,本実施例の屈曲水晶振動子から

構成される水晶発振器は基本波モード振動の周波数が出力信号として得ら

れ,かつ,高い周波数安定性(優れた時間精度)を有する。・・・」

「【0040】

以上,図示例に基づき説明したが,この発明は上述の例に限定されるもの

ではなく,上記第1実施例から第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉

形状の屈曲水晶振動子では,音叉腕又は音叉腕と音叉基部に溝を設けてい

るが,例えば,音叉腕に貫通穴(t 1=0)を設けてもよい。即ち,貫通

穴は溝の特別の場合で,本発明の溝は前記貫通穴をも包含するものであ

る。又,上記実施例では,音叉腕は2本で構成されているが,本発明は3

本以上の音叉腕を包含するものである。この場合,少なくとも2本の音叉




腕が逆相で振動するように電極が構成されていれば良い。

【0041】

更に,本実施例では,溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられ

ているが,本発明はこれに限定されるものでなく,中立線を残して,その

両側に溝を形成しても良い。この場合,音叉腕の中立線を含めた部分幅W

7 は0.05mmより小さくなるように構成される。又,各々の溝の幅は

0.04mmより小さくなるように構成され,溝の厚みt 1と音叉腕の厚

みtの比は0.79以下に成るように構成される。このような構成によ

り,M1をMnより大きくする事ができる。」

「【0043】

更に,第1実施例〜第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲

水晶振動子の基本波モード振動での容量比r 1は2次高調波モード振動の

容量比r 2 より小さくなるように構成されている。このような構成によ

り,同じ負荷容量C L の変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶

振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波

数変化より大きくなる。・・・」

本件訂正の適否について

本件特許明細書には,【0041】に,中立線

を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W 7 は

0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくな

るように構成する態様,及び,このような構成により,M1をMnより大きく

することができることが記載されている。また,【0043】には,溝が中

立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている第1実施例〜第4実施

の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動で

の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成

されていること,及び,このような構成により,同じ負荷容量C L の変化に




対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波

モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載さ

れている。

しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,

それぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立し

た技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち,

「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmよ

り小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成され

た場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の

容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高

調波モード振動のフイガーオブメリットM n より大きい」という事項が記載

されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全て

においても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技

術的事項であるということもできない。

そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総

合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項

を導入するものというべきである。

したがって,訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たり,「願

書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にお

いて」するものということはできない。

被告の主張について

ア 被告は,審決は,本件特許明細書の記載と当業者の技術常識に基づい

て,本件訂正の適法性を判断したものであり,その判断に誤りはないと主

張する 。

審決は,【0041】と【0043】に記載する構成の態様が,それぞ

れ独立したものであり,両方の構成を有する態様については直接的には記




載されていないとしながら,両方の作用効果を期待するならば,両方の構

成を有するような態様とすることは当業者であれば自然であり,当業者が

本件特許明細書をみれば,それぞれの構成を有する態様のみならず,両方

の構成を有する態様についても,実質的に記載されていると解釈すると判

断している(審決書19ないし20頁)。

審決の上記判断は,要は,【0041】と【0043】の記載に接すれ

ば,【0041】に記載されている構成と,【0043】に記載されてい

る構成の,両方の構成を有する態様については明示的な記載がなくても,

当業者であれば,両方の構成を有する態様に想到するから,両方の構成を

有する態様である本件追加事項は本件特許明細書に記載されているに等し

いというものである。

しかし,仮に,本件特許明細書の記載内容を手掛かりとして,当業者が

本件追加事項に想到することが可能であるとしても,そのことと,本件特

許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関

係において,本件追加事項が新たな技術的事項を導入しないものであるか

どうかとは,別の問題である。そして, 中立線を残し

てその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各

々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合にお

いて,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2

より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM 1 が高調波

モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項について

は,本件特許明細書等に記載があるとは認められず,また,審決の上記説

明振りに照らしてみても,本件追加事項が自明な事項とはいえず,本件特

許明細書等の記載の範囲を超えるものであることは明らかというべきであ

る。

イ 被告は,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が




0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるよ

うな溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高

調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特許

明細書に記載されているに等しいと主張し,その根拠として,甲第46号

証を挙げ,音叉型屈曲水晶振動子においては,一般的に,基本波モード振

動の品質係数Q1が2次高調波モード振動の品質係数Q2よりも小さいこと

は,当業者によく知られていると主張する 。

しかし,甲第46号証(本件訂正発明の発明者作成の陳述書)は,本件

特許明細書に記載された一例について,Q1<Q2の関係が得られることを

示しているものの,同号証の記述によって,音叉型屈曲水晶振動子におい

て,一般的に,Q1<Q2の関係にあることまでを認めるには足りない。ま

た,同号証の他に,音叉型屈曲水晶振動子において,一般的に,Q 1<Q2

の関係にあることが当業者によく知られているとの事実を認めるに足りる

証拠はない。

したがって,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅

が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなる

ような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1 と2次

高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特

許明細書に記載されているに等しいとの被告の上記主張は,その前提を欠

き,採用することができない。

2 まとめ

以上のとおり,訂正事項1及び2の追加は,特許法134条の2第1項ただ

し書及び同条9項が準用する同法126条5項に違反し,不適法であるから,

原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2について判断するまでもな

く,審決は違法であり,取消しを免れない。

第6 結論




よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のと

おり判決する。

知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官 石 井 忠 雄




裁判官 西 理 香




裁判官 田 中 正 哉