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事件 平成 25年 (ワ) 4878号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2014/05/29
権利種別 特許権
判例全文
判例全文
平成26年5月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(ワ)第4878号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論の終結の日 平成26年4月7日

判 決

東京都新宿区<以下略>

(商業登記簿上の本店所在地 東京都新宿区<以下略>)

原 告 吉佳エンジニアリング株式会社

同訴訟代理人弁護士 田 中 成 志

平 出 貴 和

板 井 典 子

山 田 徹

杉 本 賢 太

同 補 佐 人 弁 理 士 江 藤 聡 明

高 橋 修 平

東京都青梅市<以下略>

被 告 KJSエンジニアリング株式会社

同訴訟代理人弁護士 安 江 邦 治

安 江 裕 太

同 補 佐 人 弁 理 士 高 橋 敏 邦

主 文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,HDプレート(上部プレート:HDP−50U,HDP−75U)

及びHDネットを販売してはならない。

1
2 被告は,原告に対し,2333万6720円及びこれに対する訴状送達の日

の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法に関する特許権を有する

原告が,被告による斜面保護工事施工業者への資材の販売等がその特許権を侵

害するものとみなされると主張して,特許法100条1項に基づき,前記資材

の販売行為の差止めを求め,上記主張のほか,特許発明実施による施工業者

の特許権侵害を教唆又は幇助したと主張して,不法行為による損害賠償請求権

に基づき,原告が受けた損害の額と推定される被告がその侵害の行為により受

けた利益の額121万5200円及び共同行為者である施工業者がその侵害

行為により受けた利益の額2000万円に弁護士費用相当損害金212万15

20円を加えた合計2333万6720円並びにこれに対する不法行為の後で

ある訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支

払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の

全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告の特許権

ア 原告は,発明の名称を「斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法」と

する特許権(特許番号第4256545号。以下「本件特許権」といい,

この特許を「本件特許」という。)を有している。本件特許は,平成11

年8月18日に特許出願がされ,願書に添付した明細書についての平成2

0年8月11日付手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を

経て,平成21年2月6日に特許権の設定の登録がされた。本件補正は,

別紙「当初の請求項1の記載」のとおり記載されていた特許請求の範囲

請求項1を本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の該当項

のとおり補正するという内容を含むものである。

2
イ 原告は,平成25年8月20日,特許請求の範囲減縮及び明りょうで

ない記載の釈明を目的として,本件特許出願の願書に添付した明細書(以

下「本件明細書 」という。) の訂正審判 を請求した(以 下,この訂正 を

「本件訂正」という。)。本件訂正は,本件公報の該当項のとおり記載さ

れていた特許請 求の範囲の請 求項1を別 紙「訂正後の請 求項1の記載 」

(訂正部分に下線を付す。)のとおり訂正するという内容を含むものであ

る。

(甲2,16)

(2) 本件特許に係る発明

本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,本件公報の該当項記載

のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。

(3) 被告らの行為

ア 被告は,業として,HDネット工法と称する斜面保護工法(以下「被告

方法」という。)を広告,宣伝し,被告方法のための製品であるとして,

別紙「被告製品説明書」記載の各製品を販売している。

イ ユウテック株式会社は,業として,三重県紀伊長島加田地区において,

被告が販売した上部プレート(HDP−50U),下部プレート(HDP

−50L,HDP−75L),HDボルト(D19,D22),球座ナッ

ト(D19,D22)及びキャップナット(KRS−D19,KRS−D

22)を用いて,被告方法による斜面保護工事を施工した。

(甲3,4,7,8,21,22)

(4) 被告方法と本件発明の構成要件との対比

ア 本件発明の構成要件の分説

本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した

構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。

A 引張り強度が400〜2000N/?であるワイヤーで製作した金網

3
を,

B 保護すべき斜面に展設し,

C この金網の上面から受圧板を所定間隔において点在状態に配置し

D 前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受

圧板を地山に固定し,

E 前記アンカーを用いた受圧板の固定は,前記受圧板により金網全体に

ほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること

F を特徴とする斜面保護方法。

イ 被告方法の構成

被告方法は,HDネットを,斜面に展設し,上部プレートを,HDネッ

トの上面から,HDネットの下に所定間隔において点在状態に配置されH

Dボルトを用いて地山に固定された下部プレートの上に配置し,前記上部

プレート設置箇所に相当して地山に固設されるHDボルトを用いて上部プ

レートを地山に置かれた下部プレート上に固定することを特徴とする斜面

保護方法である。

(甲7,8,21,22)

2 争点

(1) 被告の行為が本件特許権を侵害するものであるか(争点(1))

(2) 本 件 特 許 が特 許 無 効 審判 に よ り 無 効と さ れ る べ きも の と 認 めら れ る か

(争点(2))

(3) 本件訂正により無効理由が解消されるか(争点(3))

3 争点に関する当事者の主張

(1) 争点(1)(被告の行為が本件特許権を侵害するものであるか)について

ア 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか。

(ア) 原告

構成要件

4
HDネットは,素線径3.2o,引張り強度が1000N/?を有

する亜鉛メッキ鋼線に飽和ポリエステル塗装を施した鋼線を格子状の

ネット様に編んだ金網であるから,被告方法は構成要件Aを充足する。

構成要件

HDネットは,保護すべき斜面に展設されるから,被告方法は構成

要件Bを充足する。

構成要件

上部プレートは,地山に押しつけられて固定されている下部プレー

トの設置位置,すなわち,約1ないし2mの間隔で所定間隔をおいて

点在状態に固定されるとともに,地山斜面に固定される。また,上部

プレートの構成要素である傾斜した脚部は,HDネットの網目を挿通

し,かつ,HDネットと接触して,HDネットが上方に浮き上がらな

いように上部から押さえ付けている。地山斜面に凹凸があって,HD

ネットはほとんどの部分で地山に接し,HDネット全体にほぼ均等

土圧による張力が働くから,上部プレートは「受圧板」に当たる。

上部プレートはHDネットの上面から所定間隔において点在状態に

配置されているから,被告方法は構成要件Cを充足する。

構成要件

HDボルトは,「アンカー」であり,下部プレート及び上部プレー

ト設置箇所に相当して地山に固設されるHDボルトを用いて上部プレ

ートを地山に置かれた下部プレートに固定するから,被告方法は構成

要件Dを充足する。

構成要件

上部プレートの上面部は,脚部が外側に広がるように傾斜させて形

成されているから,上面部がHDネットに触れる前に脚部が必ずHD

ネットを構成する線材に触れ,上側から線材を押さえ付けるように機

5
能し,地山からHDネットに対してかかる土圧は,上部プレートによ

って受けられる。そして,上部プレートは,敷設されたHDネットの

全体にわたってほぼ等間隔に点在設置されていることから,HDネッ

トは,上部プレートの抑止によって,地山からの土圧をほぼ均等に受

ける。そうすると,被告方法において,HDボルトを用いた上部プレ

ートの固定は,前記上部プレートによりHDネット全体にほぼ均等

土圧による張力が働くように押さえ付けて行われるから,被告方法は

構成要件Eを充足する。

(イ) 被告

構成要件

「引張り強度が400〜2000N/?であるワイヤーで製作した

金網」は,本件発明の目的,作用効果である地山を押さえ付ける目的,

作用効果を有する金網を意味するが,被告方法のHDネットは,地山

を押さえ付ける目的,作用効果を有しないから,被告方法は構成要件

Aを充足しない。

構成要件

「保護すべき斜面に展設」は,金網全体にほぼ均等に土圧による張

力が働くように地山を押さえ付けて保護すべき斜面に展設することを

意味するが,被告方法のHDネットは,その全体にほぼ均等に土圧に

よる張力が働くように地山を押さえ付けて保護すべき斜面に展設され

たものではないから,被告方法は構成要件Bを充足しない。

構成要件

「受圧板」は,底面が平坦なもの又は本件明細書の特許請求の範囲

の請求項4に記載された椀状又は皿状の中空殻体構造のものを意味す

るが,上部プレートの上面部は,底面に4本の脚部を有して,地山と

は接触せず,上部プレートの上面部と下部プレートとの間には空間が

6
あって,HDネットはその空間に展設され,HDネットの一部が地山

に接触することがあるとしても,ほとんどの部分で接触することがな

いのであるから,上部プレートは,金網全体にほぼ均等に土圧による

張力が働くように金網を押さえ付けるという効果を奏さない。そうで

あるから,上部プレートは「受圧板」に該当せず,被告方法は構成要

件Cを充足しない。

構成要件

上部プレートは,「受圧板」に該当せず,被告方法には「受圧板」

に相当する部材がないから,「前記受圧板配置箇所に相当して地山に

固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に固定」するという構成が

ない。そうであるから,被告方法は構成要件Dを充足しない。

構成要件

被告方法には「受圧板」がないから,「前記アンカーを用いた受圧

板の固定は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力

が働くように押え付けて行われる」という構成がない。そうであるか

ら,被告方法は構成要件Eを充足しない。

イ 被告が別紙「被告製品説明書」記載1(1)の上部プレート(HDP−5

0U,HDP−75U)及び2のHDネット(以下「被告製品」という。)

を販売することが本件特許権を侵害するものとみなされるか。

(ア) 原告

被告製品を使用する工法は被告方法のみであるから,被告製品は被告

方法にのみに用いる物である。そうでないとしても,本件発明の特徴的

技術手段は,均質な高強度の金網を地山からの圧力を主体的に受けるた

めに用いる点にあるから,被告製品は,本件発明の課題の解決に不可欠

であり,また,被告は,平成10年ころから原告との業務上の関係があ

って,本件発明を実施するための製品を原告に納入したこともあるから,

7
本件発明が特許発明であること及び被告製品が本件発明の実施に用いら

れることを知っていた。

(イ) 被告

原告の主張する事実は否認する。

ウ 被告が被告方法の実施による施工業者の本件特許権侵害を教唆又は幇助

したか。

(ア) 原告

被告は,被告方法を広告,宣伝し,ユウテックに対し,そのための製

品として別紙「被告製品説明書」記載の各製品を販売したのであり,こ

れにより,ユウテックが被告方法を実施して本件特許権を侵害したので

あるから,被告はユウテックを教唆した者又はこれを幇助した者である。

(イ) 被告

被告が被告方法を広告,宣伝し,ユウテックに対し上記各製品を販売

したことは認めるが,その余の事実は否認する。

(2) 争点(2)(本件特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認めら

れるか)について

新規事項の追加(特許法17条の2第3項)について

(ア) 被告

願書に最初に添付した明細書及び図面には,「前記アンカーを用いた

受圧板の固定は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張

力が働くように押え付けて行われる」ことについての記載はないから,

本件補正のうち,上記の補正は,願書に最初に添付した明細書及び図面

に記載された事項の範囲内においてしたものではない。

(イ) 原告

願書に最初に添付した明細書及び図面には,「前記アンカーを用いた

受圧板の固定は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張

8
力が働くように押え付けて行われる」ことが記載されているから,上記

の補正は,願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範

囲内においてしたものである。

明確性要件(特許法36条6項2号)について

(ア) 被告

当業者は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の「受圧板の固定

は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くよう

に押え付けて行われる」ようにするための具体的な受圧板の固定方法を

理解することができないから,特許を受けようとする発明が明確ではな

い。

(イ) 原告

本件明細書の記載及び図面や技術常識を考慮すれば,当業者は,本件

明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載内容を理解することができる

から,特許を受けようとする発明は明確である。

実施可能要件(特許法36条4項1号)について

(ア) 被告

本件明細書の発明の詳細な説明には,「受圧板により金網全体にほぼ

均等に土圧による張力が働くように」する方法の記載がなく,また,何

により「受圧板」を押さえ付けるのかについての記載がないから,本件

明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程

度に明確かつ十分に記載したものでない。

(イ) 原告

受圧板の固定が受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が

働くように押さえ付けて行われることの技術的手段は,本件明細書に記

載されているから,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実

施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

9
新規性又は進歩性の欠如(特許法29条1項1号ないし3号,2項)に

ついて

(ア) 被告

本件特許出願前に頒布された「落石対策便覧」(乙2),特開平7−

42158号公報(乙3),地山補強土工法に関するシンポジウム発表

論文中の「補強工詳細図」(乙4),「第二東名高速道路長大切土のり

面設計施工指針(案)」(乙5)には,「所定の引張り強度を有するワ

イヤーで製作した金網を,保護すべき斜面に展設し,この金網の上面か

ら受圧板を所定間隔において点在状態に配置し,前記受圧板配置箇所に

相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に固定し,金

網は金網全体に土圧による張力が働くように受圧板で押え付けて展設さ

れることを特徴とする斜面保護方法。」に係る発明が記載されている。

そして,本件特許出願前に頒布された落石防護網カタログ「複式ロッ

クネット」,鉄鋼関係JIS要覧「G3543」及び「G3547」に

よれば,引張り強度が400ないし1270N/?であるワイヤーで製

作した金網が存在しており,また,斜面の表層の滑り,崩壊を防止する

ことは所定間隔を開けて点在する受圧板により得られる効果として公知

のものであった。

そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に公然知られた発明で

あるか,公然実施をされた発明であるか,刊行物に記載された発明であ

り,そうでないとしても,日本国内において頒布された刊行物に記載さ

れた上記発明に基づいて当業者が容易に発明することができた。

(イ) 原告

被告が掲げる刊行物は,いずれも本件発明の構成要件の全てを開示す

るものではなく,本件発明は,本件特許出願前に公然知られた発明であ

るとか,公然実施をされた発明であるとか,刊行物に記載された発明で

10
あるということはできない。そして,本件発明は,金網が主体となって

表層の滑り,崩壊の防止機能を発揮するための構成を採っているから,

被告が主張する従来技術とは構成,効果において有意な差があり,それ

らを組み合わせたとしても当業者が容易に本件発明に想到することはで

きない。

(3) 争点(3)(本件訂正により無効理由が解消されるか)について

ア 原告

本件特許出願時のJIS規格が定める金網は,軟鋼線(一般の鉄線)を

用いて作成されたもので「硬鋼製のワイヤー」を用いて製作されたもので

はないから,本件訂正後の発明は,本件特許出願前に公然知られた発明で

あるとか,公然実施された発明であるとか,刊行物に記載された発明であ

るということはできないし,被告が主張する従来技術を組み合わせたとし

ても当業者が容易に発明することはできない。

そして,HDネットは,素線径3.2o,引張り強度が1000N/?

を有する亜鉛メッキ鋼線に飽和ポリエステル塗装を施した鋼線を格子状の

ネット様に編んだ金網であるから,被告方法は,本件訂正後の「引張り強

度が400〜2000N/?である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」と

構成要件を充足し,また,HDボルトの設置固定に加えて,HDネット

の展設及び上部プレートによる押さえ付けによって,地山の斜面の表層の

滑り,崩壊を防止するためのものであるから,被告方法は,本件訂正後の

「斜面の表層の滑り,崩壊を防止するための」との構成要件を充足する。

そして,その余の構成要件は,本件発明の構成要件と同じであるから,被

告方法は,これらを充足する。

イ 被告

「硬鋼製のワイヤー」は炭素成分を含んだ鉄によって作られたワイヤー

のことであって,かかるワイヤーにより製作された金網は公知のものであ

11
るから,本件訂正後の発明は,本件特許出願前に公然知られた発明である

か,公然実施された発明であるか,刊行物に記載された発明であり,そう

でないとしても,日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に

基づいて当業者が容易に発明することができた。

「引張り強度が400〜2000N/?である硬鋼性のワイヤーで製作

した金網」は,地山を押さえ付ける目的,作用効果を有する金網を意味す

るところ,被告方法のHDネットは,地山を押さえ付ける目的,作用効果

を有していないし,被告方法は,HDネットの展設及び上部プレートによ

る押さえ付けによって,地山斜面の表層の滑り,崩壊を防止するものでは

ない。そして,斜面保護方法であることを除き,被告方法がその余の構成

要件を充足しないことは,先に述べたとおりである。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(被告の行為が本件特許権を侵害するものであるか)について

(1) 証拠(甲2)によれば,(ア) 本件発明は,斜面保護方法,特に地山の

斜面や法面の表層の滑り,崩壊を防止するための方法に関する,(イ) 比較

的浅い,例えば1ないし2mの深さの表層が剥離して滑り落ちるような斜面

の安定化法として,金網などの網体で斜面を覆い,この網体の上面に所定の

間隔で多数のコンクリートブロックを配置し,この配置箇所の地山に固定的

に設置されるアンカーを用いてコンクリートブロックを網体に押し付け,こ

れら網体を地山に定着する方法があり,さらに,使用される網体が地山から

受ける圧力によって破断して保護機能を失ってしまうことがあることから,

その対策として,網体にPC鋼線を編み込んで,網体の引張り強度を高める

方法が提案されているが,多数のコンクリートブロックを並べ,連続したコ

ンクリートの枠の状態として網体を上面から押さえる方法や梁状のコンクリ

ート体となるようにコンクリートの打設を行うものでは,法面形状の経時的

な変化による網体とコンクリートブロックとの接触,押圧関係の変化が非常

12
に大きなものとなる,すなわち,上記のようなコンクリートブロックなどに

よる網体の押さえ状態は安定性に欠け,地山から網体に対する圧力である土

圧による網体の破損の可能性が増加し,また,網体の補強のためにPC鋼線

の編み込みを行った箇所で専ら地山からの圧力を強く受け止めることになり,

それ以外の網体部分との間に圧力受け止め作用に大きな差異が生じ,斜面全

体に均一で十分な保護効果を及ぼすという点で改善の余地があった,(ウ)

本件発明は,斜面全体にわたって土圧が金網に均一かつ確実に及ぼされるよ

うにし,効果的な斜面保護ができるようにする方法を提供すること,さらに,

これに加えて,受圧板と金網と地山とがより密着し,受圧板の押圧作用がよ

り的確に地山に伝達されるようにした方法を提供することを目的として,特

請求の範囲の請求項1の構成を採用した,(エ) 本件発明は,金網を点在

する受圧板で固定することによって,斜面を金網で均等に押さえるという作

用を容易に達成する,すなわち,地山から及ぼされる圧力を金網全体でほぼ

均等に受け持つようにすることができ,また,受圧板の設置作業は,比較的

簡単で短時間の作業で行うことができ,さらに,保護斜面において,金網の

領域に対して受圧板の占める領域が従来のブロックに比して極めて小さくな

り,金網の厚さが確保されていることから,保護斜面の植生が向上するとい

う効果が得られる,以上の事実が認められる。

上記認定の事実によれば,受圧板は,地山の土圧を受ける板,すなわち,

地山を押圧する板で,地山と金網に密着して,地山と金網を押さえ付けるも

のであると認められる。そして,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の

記載によれば,受圧板は,保護すべき斜面に展設した金網の上面から所定間

隔をおいて点在状態に配置し,その配置箇所に相当して地山に固定されるア

ンカーを用いて地山に対して固定し,この固定は金網全体にほぼ均等に土圧

による張力が働くように押さえ付けて行われるものである。

(2) 被告方法は,上部プレートを,斜面に展設したHDネットの上面から所

13
定間隔をおいて点在状態に配置されてHDボルトを用いて地山に固定された

下部プレートの上に配置し,その配置箇所に相当して地山に固定されるHD

ボルトを用いて地山に置かれた下部プレートの上に固定するものであり,被

告方法において,地山の土圧を受ける部材,すなわち,地山を押圧する部材

は,下部プレートであり,上部プレートは,下部プレートに固定されて,地

山に対して固定されるものではなく,地山を押圧するものではない。また,

証拠(甲3,4,21,22,乙11,19,20)によれば,上部プレー

トは,HDネットの上面から地山に対して固定された下部プレートに固定さ

れていて,HDネットが上部プレートの脚部と下部プレートの間に挟まれて

いることが認められるから,これによれば,上部プレートはHDネットを押

圧するものではなく,上部プレートの下部プレートへの固定がHDネット全

体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押さえ付けているということは

できない。

そうであるから,被告方法には受圧板がないものといわざるを得ない。

(3) 原告は,上部プレートは,下部プレートに固定されるとともに地山斜面

に固定され,上部プレートの脚部は,HDネットと接触して上部から押さえ

付け,HDネット全体にほぼ均等に土圧による張力が働くと主張する。しか

しながら,地山に対して固定されるのは下部プレートであって,上部プレー

トは下部プレートに固定されて,地山に対して固定されるものではなく,上

部プレートの脚部がHDネットに接触することがあるとしても,下部プレー

トの間に挟んでいるだけで,HDネットを押圧するものではなく,上部プレ

ートの下部プレートへの固定はHDネット全体にほぼ均等に土圧による張力

が働くように押さえ付けているということはできない。

原告の上記主張は,採用することができない。

(4) したがって,被告方法は,本件発明の構成要件CないしEを充足しない。

2 以上のとおりであって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するとは認

14
められないから,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,い

ずれも理由がない。

よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部




裁判長裁判官 高 野 輝 久




裁判官 藤 田 壮




裁判官 宇 野 遥 子



(特許公報は省略)




15
(別紙)

当初の請求項1の記載

引張り強度の高いワイヤーで製作した金網を,保護すべき斜面に展設し,その上

面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して

地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に固定することを特徴とする斜面

保護方法。




16
(別紙)

訂正後の請求項1の記載

引張り強度が400〜2000N/?である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を,

保護すべき斜面に展設し,この金網の上面から受圧板を所定間隔において点在状態

に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板

を地山に固定し,前記アンカーを用いた受圧板の固定は,前記受圧板により金網全

体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする

斜面の表層の滑り,崩壊を防止するための斜面保護方法。




17
(別紙)

被告製品説明書

1 HDプレート

(1) 上部プレート(HDP−50U,HDP−75U)

鋳鉄製であり,外表面に亜鉛メッキ塗装がなされており,略正方形の形状の

上面部を有し,該上面部の四隅から下方に広がって傾斜した4本の脚部を有し

ているもの,又は4本の直立の脚部が更に各2本ずつに分岐して合計8本の脚

部を有するものが存在する。また,上部プレートの略正方形部分の中央に貫通

孔が設けられており,貫通孔には,地山に埋設固定されたHDボルトの突出し

た先端が挿通され,その先端部にキャップナット及び球座ナットによりHDボ

ルト,下部プレートを地山斜面に固定するとともに,HDネットを固定する。

(2) 下部プレート(HDP−50L,HDP−75L)

鋳鉄製であり,外表面に亜鉛メッキ塗装がなされており,略正方形の形状を

有し,表面に複数の貫通孔が設けられている。中央の貫通孔には,上部プレー

トと同じく,地山に埋設されたHDボルトの地上に突出した先端が挿通される。

2 HDネット

高強度の金網であり,素線径3.2o,引張り強度1000N/?を有する亜

鉛メッキ鋼線に飽和ポリエステル塗装を施した鋼線を網目63o×63oの格子

状のネット様に編んだ状態で構成される。

3 結合コイル

HDネットを結合するためのコイルであり,HDネットと同様の素線径3.2

o,引張り強度1000N/?を有する亜鉛メッキ鋼線に飽和ポリエステル塗装

を施した銅線からなる。

4 HDボルト(D19,D22,D25)

鋳鉄製の棒状部材であり,軸はネジ溝を有している。また,表面には,亜鉛メ

ッキ,飽和ポリエステルによる塗装が施されている。HDボルトの直径は,19.

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1o〜25.4o,長さは2m〜6m程度であり,施工する地山の斜面の状態に

より,選択される。

5 球座ナット(D19,D22,D25)

貫通孔が設けられている一側面が球形状に形成されたナットである。

6 キャップナット(KRS−D19,KRS−D22,KRS−D25)

貫通孔の設けられている反対方向の一側面にキャップ状の凸部が形成された

ナットである。




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