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事件 平成 25年 (行ケ) 10200号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/05/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年5月29日判決言渡

平成25年(行ケ)第10200号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年4月22日

判 決



原 告 株式 会社 J− オ イル ミルズ



訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫

同 橋 口 尚 幸

同 齋 藤 誠 二 郎

訴訟代理人弁理士 中 嶋 伸 介



被 告 日清オイリオグループ株式会社



訴訟代理人弁護士 阿 部 隆 徳

訴訟代理人弁理士 平 田 忠 雄

同 岩 永 勇 二

主 文

1 特許庁が無効2011−800073号事件について平成25年5月29日

にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 前提事実

1 特許庁における手続の経緯




A 原告は,発明の名称を「菜種ミールの製造方法」とする特許第39709

17号(請求項の数は5である。以下「本件特許」という。)の特許権者で

ある。
B 被告は,平成23年4月28日,請求項1ないし5のすべてについて本件

特許を無効にするとの無効審判を請求した(無効2011−800073

号)。原告は,同年7月21日,訂正請求をした。特許庁は,平成24年3

月28日,「訂正を認める。特許第3970917号の請求項1ないし5に

係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。
C 原告は,上記審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴えを提起する

とともに,訂正審判を請求した(訂正2012−390085号)。知的財

産高等裁判所は,平成24年9月20日,事件を審判官に差し戻すため,上

記審決を取り消す旨の決定をした。
D 原告は,平成24年10月12日,訂正請求をした(以下「本件訂正」と

いう。)。特許庁は,平成25年5月29日,「平成24年10月12日付

け訂正請求において,明細書(訂正事項10,11,18,19),特許請

求の範囲(請求項3に係る訂正事項3)を認める。特許第3970917号

の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決を

し,同年6月13日,その謄本を原告に送達した。

2 特許請求の範囲の記載
A 本件訂正前の特許請求の範囲の記載

本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,本件訂

正前の明細書(甲38)を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】

菜種粕を 32〜60 メッシュのいずれかの篩にかけて,粒径が前記メッシュ

篩上の粗粒度菜種ミールと,粒径が前記メッシュ篩下の細粒度菜種ミールと

に分画することからなる,菜種ミールの製造方法




【請求項2】

菜種粕を 48〜60 メッシュの篩にかけて得られる,窒素含量 6.53%以上

7.27%以下の粒径 48〜60 メッシュ篩下の細粒度菜種ミール。

【請求項3】

35〜48 メッシュ以下の画分を含まない苦みの改善された菜種ミール。

【請求項4】

菜種粕を 35〜48 メッシュのいずれかの篩にかけて得られる,苦みの改善

された粒径 35〜48 メッシュ篩上の粗粒度菜種ミール。

【請求項5】

菜種粕を 32〜60 メッシュのいずれかの篩にかけることからなる,菜種

ミールの窒素含量の調整方法。」
B 本件訂正後の特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(下線は訂正部

分。以下,本件訂正後の明細書(甲39)を「訂正明細書」という。)。

「【請求項1】

菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用

いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜

55.6%である前記菜種粕をそのまま 32〜48 メッシュのいずれかの篩にかけ

て,粒径が前記メッシュ篩上の粗粒度菜種ミールと,粒径が前記メッシュ篩

下の細粒度菜種ミールとに分画することからなる,菜種ミールの製造方法

【請求項2】

菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用

いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜

55.6%である前記菜種粕をそのまま 48〜60 メッシュの篩にかけて得られ

る,窒素含量 6.64%以上 7.27%以下の粒径 48〜60 メッシュ篩下の細粒度菜
種ミール。




【請求項3】

菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用

いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜

55.6%である前記菜種粕の 35〜48 メッシュ以下の画分を含まない,35〜48

メッシュ以下の画分を含む菜種ミールよりも苦みの改善された菜種ミール。

【請求項4】

菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用

いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜

55.6%である前記菜種粕をそのまま 35〜48 メッシュのいずれかの篩にかけ

て得られ,窒素含量 4.90%以上 5.80%以下であり,かつ前記菜種粕に比べ

て苦みの改善された粒径 35〜48 メッシュ篩上の粗粒度菜種ミール。

【請求項5】

菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用
いて抽出して得られる菜種粕をそのまま 32〜48 メッシュのいずれかの篩に

かけて,粒径が前記メッシュ篩上で窒素含量を前記菜種粕の窒素含量に対し

て 0.95〜0.986 倍に調整する粗粒度菜種ミールと,粒径が前記メッシュ篩下

で窒素含量が前記菜種粕の窒素含量に対して 1.125〜1.199 倍に調整する細

粒度菜種ミールとに分画することからなる,菜種ミールの窒素含量の調整方

法。」

3 審決の理由
A 審決の理由は,別紙審決書写し記載のとおりであり,原告主張の取消事由

との関係において,その要点は次のとおりである。

ア 訂正事項1,2,4〜9,12〜17に係る訂正の適否について

訂正事項1は,訂正前の請求項1に「菜種粕を 32〜60 メッシュのいず

れかの篩にかけて」とあるのを,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧

搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる菜種粕であっ




て,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜55.6%である前記菜種粕をそのまま

32〜48 メッシュのいずれかの篩にかけて」と訂正するものである。訂正事

項2,4,5,6,8,12,14は,いずれも訂正事項1と同様の訂正

であり,訂正事項7,9,13,15〜17は,訂正事項1,2,4又は

5と整合させるための訂正である。

上記各訂正事項は,いずれも「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾

粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られた菜種粕」を「その

まま」篩にかけることを含むものであるところ,「そのまま」という記載

は本件明細書には存在せず,実施例1〜4で用いられた「菜種粕」が,

「そのまま」に該当する「菜種粕」であるか不明であり,「そのまま」の

技術的意義が不明であるから,「そのまま」を含む訂正後の記載は,明瞭

であった記載をむしろ不明瞭とするものである。

よって,上記各訂正事項は,「特許請求の範囲減縮」及び「明りょう

でない記載の釈明」のいずれにも該当せず,平成23年法律第63号改正

附則2条18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特

許法134条の2第1項ただし書に掲げるいずれの事項を目的とするもの

でもないので,認められない。

イ 無効理由について

本件特許は,特許法29条1項3号及び同条2項の規定に違反してされ

たものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであ

る。
請求項1,2,4,5について

請求項1,2,4,5に係る訂正事項1,2,4,5は認められな

い。本件訂正前の請求項1,2,4,5記載の各発明(以下,順次「本

件発明1」のようにいう。また,本件訂正前の請求項1ないし5記載の

各 発 明 を ま と め て 「 本 件 発 明 」 と い う 。 ) は , “ Fractionation of




oleaginous seed meals by screening and characterization of the

products”(「スクリーニングによる油性種子ミールの分別及び製品の

特 徴 」 ) ,Qual Plant Plant Foods Hum.Nutr.,vol.33(1983),p153-160

(甲1。以下「甲1文献」という。)に記載された発明に基づいて当業

者が容易に発明をすることができたものであり,また,本件発明1及び

本件発明4は,特公昭55−1783号公報(甲2。以下「甲2公報」

という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすること

ができたものである。さらに,本件発明1は,甲第4号証の文献に記載

された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ

り,また,本件発明1は,甲第5号証の文献に記載された発明である。
~ 請求項3について

請求項3に係る訂正事項3は認められる。本件訂正後の請求項3記載

の発明(以下「訂正発明3」という。)は,甲1文献に記載された発明

(審決のいう甲1発明B。以下「甲1発明」という。)に基づいて当業

者が容易に発明をすることができたものであり,また,訂正発明3は,

甲2公報に記載された発明(審決のいう甲2発明C。以下「甲2発明」

という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ

る。
B 訂正発明3の容易想到性判断について

ア 甲1文献を主引例とした判断について

審決が認定した甲1発明の内容,甲1発明と訂正発明3との一致点及び

相違点は,次のとおりである。
甲1発明の内容

(0)粉砕無しの工業用ミール(以下「サンプル(0)」という),(1)シ

リンダー粉砕ミール(Socam,クリアランス:0.6mm。以下「サンプル

(1)」という。),(2)シリンダー粉砕ミール(Socam,クリアランス:




0.2mm 。 以 下 「 サ ン プ ル (2) 」 と い う 。 ) , (3) 石 臼 粉 砕 ミ ー ル

(Zellweger。以下「サンプル(3)」という。),(4)衝撃式粉砕ミール

(Law,3000rpm。以下「サンプル(4)」という。)又は(5)衝撃式粉砕

ミール(Law,1500rpm。以下「サンプル(5)」という。)それぞれを,粒

径 63μm 未満,63〜80μm,80〜100μm,100〜120μm,120〜160μm,

160 〜 200μm , 200 〜 250μm , 250 〜 315μm , 315 〜 400μm , 400 〜

500μm,500〜630μm,630〜800μm,800〜1000μm,1000〜2000μm,

2000μm 以上が分画できる網目の篩にかけ,粒径がより小さな網目の篩

では通過しないがより大きな網目の篩では通過する粒径に対応する,上

記各菜種ミール画分。
~ 一致点

篩分前の菜種ミールを篩にかけて得られる,篩分後の菜種ミール。
相違点

a 相違点1

篩分前の菜種ミールが,

訂正発明3では,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残

された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる」「32 メッシュ篩下

の含量が 38.8〜55.6%である」「菜種粕」を篩分けの原料として用い

るのに対し,

甲1発明では,サンプル(0),サンプル(1),サンプル(2),サンプ

ル(3),サンプル(4)又はサンプル(5)であり,これら篩分前の菜種

ミールを粉砕する前の原料である粉砕無しの工業用ミールの製造方法

は明らかでない点。

b 相違点2

篩分前の菜種ミールを篩にかけて分画することが,

訂正発明3では,いずれか一つの篩の上下二分割し,篩上の粗粒度




菜種ミールに分画するのに対し,

甲1発明では,粒径 63μm 未満,63〜80μm,80〜100μm,100〜

120μm,120〜160μm,160〜200μm,200〜250μm,250〜315μm,

315 〜 400μm , 400 〜 500μm , 500 〜 630μm , 630 〜 800μm , 800 〜

1000μm,1000〜2000μm,2000μm 以上が分画できる網目の篩,すな

わち,14種類の篩を使用し分画して15種類の菜種ミール画分に分

級している点。

c 相違点3

用いる篩の種類及び取得する画分,並びに,分画された画分の味

が,

訂正発明3では,篩の種類が,35〜48 メッシュのいずれかで,その

篩上の画分である粗粒度菜種ミールを取得するものであり,画分の味

が,篩分前の菜種ミールに比べて苦みが改善されたものであるのに対

し,

甲1発明では,目開きが,63,80,100,120,160,200,250,

315,400,500,630,800,1000,2000μm である篩の全てであり,そ

の篩上の画分である粗粒度菜種ミールを取得するものではなく,画分

の味が,菜種ミールに比べて苦みが改善されたものかも明らかでない

点。

イ 甲2公報を主引例とした判断について

審決が認定した甲2発明の内容,甲2発明と訂正発明3との一致点及び

相違点は,次のとおりである。
甲2発明の内容

菜種に対し通常の圧抽法によって採油を行い,菜種粕(粗蛋白含量

38.6%,粗繊維含量 14.4%。いずれも無水物換算。以下同様)を得,奈

良式衝撃式粉砕機にかけて,表皮部と実部とをはずし,次いで,48 メッ




シュ(目開 0.297m/m)のスクリーンにより両者を分離し,48 メッシュ

上の繊維分に富む油粕,48 メッシュ下の蛋白分に富む油粕をそれぞれ得

る方法によって得られる,48 メッシュ上の繊維分に富む油粕。
~ 一致点

篩分前の油粕を篩にかけて得られる,篩上の粗粒度菜種ミール。
相違点

a 相違点1

篩分前の油粕が,
訂正発明3では,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残

された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる」「32 メッシュ篩下

の含量が 38.8〜55.6%である」「菜種粕」を篩分けの原料として用い

るのに対し,

甲2発明では,菜種に対し通常の圧抽法によって採油を行い得られ

たものを奈良式衝撃式粉砕機にかけて表皮部と実部とをはずしたもの

であり,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分

を有機溶剤を用いて抽出して得られる」「32 メッシュ篩下の含量が

38.8〜55.6%である」「菜種粕」に該当するか明らかでない点。

b 相違点2

篩の種類が,

訂正発明3では,35〜48 メッシュのいずれか一つであるのに対し,

甲2発明では,目開きが 297μm の篩である点。

c 相違点3

篩上の粗粒度菜種ミールが,

訂正発明3では,篩分前の菜種粕に比べて苦みの改善されたもので

あるのに対し,

甲2発明では,篩分前の油粕に比べて苦みの改善されたものか明ら




かでない点。

第3 原告主張の取消事由

審決には,訂正事項1,2,4〜9,12〜17に係る訂正の適否に関する

判断の誤り(取消事由1),甲1文献を主引例とする訂正発明3の容易想到性

判断の誤り(取消事由2),甲2公報を主引例とする訂正発明3の容易想到性

判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼす

ものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。

1 取消事由1(訂正の適否に関する判断の誤り)

審決は,「そのまま」の技術的意義が不明であるから,「そのまま」を含む

訂正後の記載は,明瞭であった記載をむしろ不明瞭とするものであるとして,

「そのまま」を含む訂正事項1,2,4〜9,12〜17は,「特許請求の範

囲の減縮」及び「明りょうでない記載の釈明」のいずれにも該当しないと判断

した。

しかし,「そのまま 32〜48 メッシュのいずれかの篩にかけて,」との訂正

は,本件明細書の【0021】の「2段階の搾油工程を経てできた菜種粕は,

搾油工程で一部が造粒されることにより,特徴のある粒度分布を持つようにな

る。これを篩で篩う」との記載に基づくものである。すなわち,本件明細書に

は,「2段階の搾油工程を経てできた菜種粕」が篩分けの対象であることが明

記されており,この菜種粕は「搾油工程で一部が造粒されることにより,特徴

のある粒度分布を持つ」ので,この「特徴ある粒度分布」を破壊するような粉

砕処理をすることなく,篩にかけることが,「そのまま・・・篩にかけて」の意

味である。「そのまま・・・篩に」かけることは,本件明細書の【0021】

の記載において,機械粉砕するとは記載されていないこと,また,すべての実

施例の篩分けの記載において,機械粉砕して篩分けするとはされていない点か

ら明らかである。

本件訂正前の請求項1の記載自体では,篩にかける「菜種粕」が,機械粉砕




したものと,しないものを包含すると解釈することが可能であったから,機械

粉砕を加えずに篩にかける発明に限定することは,「特許請求の範囲減縮

又は「明りょうでない記載の釈明」に該当する。

2 取消事由2(甲1文献を主引例とする訂正発明3の容易想到性判断の誤り)
A 訂正発明3の要旨認定について

訂正発明3の篩分けの対象は,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾

粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる菜種粕であって,32

メッシュ篩下の含量が 38.8〜55.6%である前記菜種粕」である。「菜種を圧

搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出し

て得られる菜種粕」は,圧搾と有機溶剤による抽出という2段階の搾油工程

(以下「2段階搾油工程」という。)を経て得られる菜種粕(以下「2段階

搾油菜種粕」という。)であるところ,2段階搾油工程においては,通常,

@圧搾→A有機溶剤抽出→B乾燥とガム質添加→C整粒工程,という工程に

より,菜種粕が取り出されることが多い。Bのガム質添加とCの整粒工程

は,2段階搾油菜種粕を得るための必須の工程ではないが,これらの工程を

経たとしても,訂正発明3の意図する篩分け前の菜種粕の「特徴ある粒度分

布」を実質的に変更するものではないから,Bのガム質添加とCの整粒工程

を経て得られる菜種粕は,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」に含

まれる。これに対し,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した

ものは,訂正発明3の意図する篩分け前の菜種粕の「特徴ある粒度分布」を

変更するものであるから,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」には

含まれない。
B 相違点1について

審決は,相違点1について,特開2000−316472号公報(甲1

3。以下「甲13公報」という。)に2段階搾油工程の記載があることを引

用して,篩分前の菜種ミールの製造方法として,2段階の搾油工程は,本件




特許の出願前から良く行われていた方法であると認定した上,甲1発明にお

いて,篩分前の菜種ミールとして,本件特許の出願前から良く行われていた

方法である2段階の搾油工程による方法により製造された「32 メッシュ篩下

の含量が 38.8〜55.6%である」ものを用いることは,当業者が適宜なし得た

ことであると判断した。

しかし,甲13公報には,菜種粕を篩分けすることにつき何の示唆もな

い。他方,甲1文献は,サンプル(3)又はサンプル(4)のように高度に機械粉

砕された菜種粕が篩分けに好ましいとしているのであるから,機械粉砕せず

に篩分けすることによって,かえって優れた特徴を有する菜種粕画分が得ら

れることは,容易に想到されるものではない。
C 相違点3について

ア 篩の種類及び取得する画分について

審決は,甲1発明において,粗繊維含量が高い画分を得る目的で,高粗

繊維・低蛋白質含量の画分である,粒径が小さくない菜種ミール画分を得

ようとして,篩分けに用いる篩の目開きを,グレイディングできる 250〜

630μm の中から,周知の Tyler 篩で目開きが小さくない領域に着目し,そ

の領域の具体的な一つとして,300μm である 48 メッシュ〜425μm である

35メッシュの篩を選択すること,及び,取得する画分として,粒径が大

きい画分である篩上画分の粗粒度菜種ミールを選択することは,当業者が

容易になし得たことであると判断した。

しかし,訂正発明3において原料となる菜種粕は,「32 メッシュ篩下の

含量が 38.8〜55.6%である」ものである。この粒度分布は,整粒工程が含

まれるとしても,数 mm ないし数 cm に達するような大きな粒子が残存して

いる場合に,これらの大粒子に限り適度に粒径を調整するものであって,

圧搾工程後の有機溶剤抽出段階で自然に細粒化した粒子が大部分を占め

る。これに対し,甲1文献では,明らかに粒度分布が大きな粒径側に偏っ




ているサンプル(0),サンプル(1),サンプル(2),サンプル(4)及びサンプ

ル(5)が開示されている。蛋白質含量などが記載されているサンプル(3)及

びサンプル(4)は,粒径が小さな側に大きく偏っている。サンプル(1),サ

ンプル(2)及びサンプル(5)については,詳細が記載されていないが,全体

的に機械粉砕されている点で訂正発明3の菜種粕とは異なる。しかも,篩

分けに適する材料ではないとされている。

そうすると,甲1文献に接した当業者であれば,菜種粕を篩分けして使

用するに当たり,十分な粉砕をして,少なくともサンプル(3)又はサンプ

ル(4)の状態にして篩分けをすることは動機付けられるが,サンプル(1),

サンプル(2)又はサンプル(5)のように粒度分布がサンプル(3)などより大

きな粉砕品について篩分けをする動機を生じないはずである。また,反芻

動物用飼料としても,630μm に近い範囲の画分であれば,粗繊維の含有量

が高いので,使用する価値があるが,それより大きな粒径範囲について

は,元の菜種ミールと組成の相違が明確でないのであるから,粉砕を行っ

てサンプル(3)又はサンプル(4)のようにして利用するのでなければ意味が

ないと理解する。

これに対し,訂正発明3は,粒度分布が甲1文献のサンプル(3)及びサ

ンプル(4)より顕著に大粒径側に偏った菜種ミールを,単一の篩で篩分け

することにより得られる細粒度画分と粗粒度画分が,それぞれ篩分け前の

菜種ミールよりも顕著に有用性を増すことを見出したものであり,甲1文

献から容易に想到される内容ではない。

イ 分画された画分の味について

審決は,訂正発明3の「菜種ミール」は,甲1文献において反芻動物飼

料として分画すべきことが既に動機付けされており,その動機付けに基づ

いて得られた「菜種ミール」が結果として「苦みが改善された」もので

あったにすぎないと判断した。




しかし,訂正発明3は,粗粒度画分につき繊維分の割合が高いことを特

徴とするものではなく,むしろ栄養分については篩分け前より大きくは低

下しないものであるとし,苦みの改善の点を特徴としている。2段階搾油

菜種粕を,そのまま,一つの篩で分画し,その粗粒度画分を反芻動物用飼

料とすることが,周知技術(甲13公報)ないし公知技術(甲1公報)か

容易に想到されるという判断は誤りである。
D 訂正発明3の効果について

審決は,訂正発明3における苦みの改善は甲1文献の記載事項から予測さ
れる範囲内のものであり,格別顕著なものでないと判断した。しかし,菜種

ミールを分画することにより,苦みを調整できることについて記載している

公知文献は皆無である。審決の判断は誤りである。

3 取消事由3(甲2公報を主引例とする訂正発明3の容易想到性判断の誤り)
A 相違点1について

審決は,相違点1について,甲13公報に2段階搾油工程の記載があるこ

とを引用して,篩分前の菜種ミールの製造方法として,2段階搾油工程は,

本件特許の出願前から良く行われていた方法であると認定した上,甲2発明

において,篩分前の菜種ミールとして,本件特許の出願前から良く行われて

いた方法である2段階の搾油工程による方法により製造された「32 メッシュ

篩下の含量 38.8〜55.6%である」ものを用いることは,当業者が適宜なし得

たことであると判断した。

しかし,前記2Bのとおり,甲13公報には,菜種粕を篩分けすることに
つき何の示唆もない。他方,甲2公報は,菜種粕に強い機械粉砕を行って篩

分けすることによって有用な画分が得られることを教示しているのであるか

ら,機械粉砕をせずに篩分けすることによって,かえって優れた特徴を有す

る菜種粕画分が得られることは,容易に想到されるものではない。
B 相違点3について




ア 篩の種類及び取得する画分について

審決は,甲2公報における「本発明の目的は,含油種子から蛋白分に富

む油粕と繊維分に富む油粕とを効率的に製造し以つて,動物の飼料等とし

てそれぞれ有効な用途を持つた油粕を提供することである。」との記載

(甲2・1頁2欄29行〜32行。審決のいう摘示2a)を根拠として,

動物飼料として分画すべきことが既に動機付けられていると判断した。

しかし,上記記載は,表皮部と実部を分離する手段を講じた上で分離し

た,繊維分に富む油粕を提供することを意味しているのであって,採油工

程から得られた菜種粕をそのまま篩分けして分離することを教示している

のではなく,かえって,分離手段を講じないまま分画することは無意味で

あることを示唆しているものである。

したがって,甲2公報に,表皮部と実部の分離していない菜種粕から粗

粒度画分を得ることの動機付けがあるとの審決の判断は誤りである。

イ 分画された画分の味について

前記2Cイのとおり,訂正発明3は,粗粒度画分につき繊維分の割合が

高いことを特徴とするものではなく,むしろ栄養分については篩分け前よ

り大きくは低下しないものであるとし,苦みの改善の点を特徴としてい

る。2段階搾油菜種粕を,そのまま,一つの篩で分画し,その粗粒度画分

を反芻動物用飼料とすることが,周知技術(甲13公報)ないし公知技術

(甲2公報)から容易に想到されるという判断は誤りである。
C 訂正発明3の効果について

審決は,苦みの改善は甲2公報の記載事項から予測される範囲内のもので

あり,格別顕著なものでないと判断した。しかし,菜種ミールを分画するこ

とにより,苦みを調整できることについて記載している公知文献は皆無であ

る。審決の判断は誤りである。

第4 被告の反論




1 取消事由1(訂正事項1,2,4〜9,12〜17に係る訂正の適否に関す

る判断の誤り)について

「そのまま」という記載は本件明細書には存在せず,本件明細書の実施例1

ないし4で用いられた「菜種粕」も,「そのまま」に該当する「菜種粕」であ

るか不明である。本件明細書や技術常識参酌しても,「そのまま」の技術的

意義は不明であるから,「そのまま」を含む訂正後の記載は,明瞭であった記

載をことさら不明瞭とするものであり,「そのまま」篩にかけることを含む訂

正事項1は,「特許請求の範囲減縮」にも「明瞭でない記載釈明」にも該

当しないことは明らかである。

2 取消事由2(甲1文献を主引例とする訂正発明3の容易想到性判断の誤り)

について
A 訂正発明3の要旨認定について

訂正発明3の特許請求の範囲の文言は,「菜種を圧搾機により搾油し,続

いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られた菜種粕」で

あって,「32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜55.6%である前記菜種粕」と規

定されているのみである。また,訂正明細書には,「そのまま篩分け」して

などの記載は存在しない。

また,整粒工程は,機械粉砕する必要がない細かい粒子をあらかじめ除く

ことにより,機械粉砕の効率を上げたものであり,結果として全体を機械粉

砕したものと同様の粒度分布を持つ菜種粕が得られるものであるから,整粒

工程と機械粉砕工程とは,菜種粕の製造工程において,実質的に区別できる

ものではない。また,整粒工程と機械粉砕工程のいずれの工程においても,

粉砕手段としてハンマーミルが用いられるから,機械粉砕によって造粒粒子

が破砕されるのであれば,整粒工程においても造粒粒子は破砕されるはずで

ある。

したがって,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」には,2段階搾




油工程の後整粒工程を経たにとどまるもののみならず,2段階搾油工程の後

菜種粕全体に機械粉砕を施したものも含まれる。
B 相違点1について

ア 周知の2段階搾油菜種粕を甲1発明に適用し,訂正発明3に到達するこ

とは当業者が容易になし得たことである

イ 2段階搾油菜種粕を,機械粉砕などをせずにそのまま篩分ける技術は当

業者にとって周知であり(甲1,3,20),菜種粕を,高蛋白質・低繊

維の画分と低蛋白質・高繊維の画分とに分画するという目的をもつ当業者

が,甲1文献の図1及び図2の記載を見れば,2段階搾油菜種粕を一定以

下の篩幅で篩い分けるという訂正発明3に容易に想到することができる。

ウ 甲1発明は,機械粉砕された菜種粕を篩い分けるものであるが,整粒工

程と機械粉砕工程は,菜種粕の製造工程において実質的に区別できないも

のであるから,甲1発明において,機械粉砕された菜種粕に代えて,整粒

された市販の菜種粕を篩い分ける動機付けがある。

エ 甲1文献には,篩分けという手段によって,元の菜種粕よりも付加価値

を有する菜種粕が製造できると記載されており,2段階搾油菜種粕は最も

入手容易な菜種粕であり,市販の菜種粕は整粒された2段階搾油菜種粕で

あるから,甲1発明において,付加価値のある菜種粕を得るため,機械粉

砕された菜種粕又は未粉砕の菜種粕に代えて,最も入手容易な整粒された

市販の2段階搾油菜種粕を篩い分ける動機付けがある。

オ 甲1文献のサンプル(1),サンプル(2)は,シリンダー粉砕機を用いて粉

砕が行なわれたものであるが,それぞれ,クリアランス 0.6mm 未満,

0.2mm 未満の大きさの画分については,ほとんど機械粉砕されていないか

ら,全体的に機械粉砕されているとはいえない。

カ 甲1文献では,有用な画分を得るための原料として,高度に機械粉砕さ

れたサンプル(3)及びサンプル(4)のほか,弱く機械粉砕されたサンプル




(1)サンプル(2)及びサンプル(5)も,機械粉砕されていないサンプル(0)

も,特に排除されてはおらず,いずれのミールも篩分けする動機付けがあ

る。
C 相違点3の分画された画分の味の点及び訂正発明3の効果について

ア 原告が市販している2段階搾油菜種粕を 48 メッシュで篩分けし,篩上

の粗粒度画分の苦味を確認したところ,全く変化は見られなかった(甲1

2,表4)。また,原告製の2段階搾油菜種粕(1.8 点),及び,それと

同程度の粒度分布となるように弱く機械粉砕した被告製の2段階搾油菜種

粕(2.0 点)のいずれにおいても,原告が主張するような,官能評価によ

る苦味改善効果は得られなかった。したがって,原告が主張するような苦

味の改善効果はない。

イ 35〜48 メッシュ(297〜420μm)で篩分けすることは,甲1文献で格付

け可能とされている 250〜630μm の範囲内であり,この範囲が粗繊維含量

が多い粗粒度画分を得るために行う篩分けに使用できることは当業者に自

明なことであり,この範囲で篩分ければ,結果として,比較的大きな造粒

粒子の割合が高い粗粒度画分が得られるのであり,粗粒度画分の蛋白質含

量が大きく低下することもないから,栄養価を大きく低下させず,苦味が

改善された菜種粕の粗粒度画分は,当業者が容易に到達できる発明の結果

として当然に得られるものにすぎない。

ウ 馬やウサギなどの草食動物や,牛などの反芻動物は,苦味に対して強く

反応しない(乙6,7)ため,対象となる同一飼料資源(例えば菜種粕)

において,篩処理前の苦味成分と,篩処理後の篩上部に得られた画分の苦

味成分の差は,草食動物に感じられる差とは考えられないから,訂正発明

3の効果の一つとして主張されている菜種粕飼料の苦味の低減効果は,仮

にあるとしても,意味のない効果である(乙7)。
また,菜種ミールが配合された飼料を給与される家畜は,菜種ミールに




含まれるタンニンを経験し,タンニンの苦味に耐性がついており,菜種

ミールに含まれる程度のタンニンの苦味であれば,家畜の嗜好性に影響が

ない。

さらに,飼料に配合される菜種ミールの割合は,多くとも 10%程度にす

ぎないから,配合飼料全体によって,菜種ミールの持つ苦味がマスキング

されてしまい,菜種ミール自体の苦味は問題とならない。

3 取消事由3(甲2公報を主引例とする訂正発明3の容易想到性判断の誤り)

について
A 相違点1について

ア 周知の2段階搾油菜種粕を甲2発明に適用し,訂正発明3に到達するこ

とは当業者が容易になし得たことである。

イ 甲2発明の物理的衝撃によって表皮部が破壊されることはほとんどな

く,甲2発明においては,実部だけでなく表皮部をも破壊するような物理

的な衝撃は必要ないから,菜種粕に強い機械粉砕を行う必要もない。

ウ 甲2公報には,「この油粕を表皮部,即ち繊維分の多い部分と実部,即

ち蛋白分の多い部分とに分離すれば,前者は乳牛の如く粗繊維が利用でき

る動物の飼料に好適である」と記載されており,この記載から粗粒度画分

を得る動機付けが得られる。
B 相違点3の分画された画分の味の点及び訂正発明3の効果について

上記2のCと同じ。

第5 当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由があるものと判断する。そ

の理由は以下のとおりである。

1 取消事由1(訂正の適否に関する判断の誤り)について
A 訂正事項1について

ア 訂正事項1は,訂正前の請求項1に「菜種粕を 32〜60 メッシュのいず




れかの篩にかけて」とあるのを,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧

搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる菜種粕であっ

て,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜55.6%である前記菜種粕をそのまま

32〜48 メッシュのいずれかの篩にかけて」と訂正するものである。

訂正事項1は,@訂正前の請求項1において,「菜種粕を・・・篩にか

けて」として,篩分けの対象を「菜種粕」とのみ特定していたところを,

「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を

用いて抽出」するという2段階搾油工程を経て得られる菜種粕(2段階搾

油菜種粕)であって,その粒度分布が所定の「32 メッシュ篩下の含量が

38.8〜55.6%である」ものに限定し,Aその菜種粕を「そのまま・・・篩

にかけて」と限定し,これにより,篩分けの対象が,@によって限定され

た「菜種粕」にさらに何らかの処理を施したものではなく,@によって限

定された「菜種粕」そのものであることを強調し,明瞭にするとともに,

B訂正前の請求項1において,用いる篩について「32〜60 メッシュのいず

れか」と特定していたところを,「32〜48 メッシュのいずれか」に限定す

るものである。

したがって,訂正事項1は,特許請求の範囲減縮及び明瞭でない記載

釈明を目的とするものと認められる。また,訂正事項1は,実質上特許

請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。

イ 被告の主張について

被告は,上記アのA「そのまま・・・篩にかけて」の部分について,審

決の判断と同様に,「そのまま」という記載は本件明細書には存在せず,

本件明細書の実施例1ないし4で用いられた「菜種粕」も,「そのまま」

に該当する「菜種粕」であるか不明であり,本件明細書や技術常識参酌

しても,「そのまま」の技術的意義は不明であるとして,「そのまま」を

含む訂正後の記載は,明瞭であった記載をことさら不明瞭とするものであ




り,特許請求の範囲減縮にも,明瞭でない記載釈明にも該当しないと

主張する。そこで,本件明細書の記載内容を確認すると,以下のとおりで

ある。

本件明細書(甲38)には,以下の記載があることが認められる。
「【発明を実施するための最良の形態】

【0020】

以下に,発明の菜種ミールの製造方法の一実施の形態を説明する。本

発明の製造方法の原料として用いる菜種粕は,菜種から搾油した残渣を

意味する。・・・

【0021】

菜種からの搾油は,通常,2工程に分かれている。まず,菜種を圧搾

機により搾油し,続いて,圧搾粕に残された油分をn−ヘキサンなどの

有機溶剤を用いて抽出し,上記圧搾油と抽出油を合わせて精製する。2

段階の搾油工程を経てできた菜種粕は,搾油工程で一部が造粒されるこ

とにより,特徴のある粒度分布を持つようになる。これを篩で篩うこと

で,画分に応じて特徴のある菜種ミールを得ることができる。・・・

【0022】

上記菜種粕を 32〜60 メッシュ,好ましくは 35〜60 メッシュ,さらに

好ましくは 35〜48 メッシュ,特に好ましくは 35〜42 メッシュのいずれ

かの篩にかけて,粒径が前記メッシュ篩上の粗粒度菜種ミールと,粒径

が前記メッシュ篩下の細粒度菜種ミールとに分画する。これにより,篩

上と篩下とで菜種ミールの性状が異なるものが得られる。・・・」
~ 「【実施例】

・・・

【0031】

篩分けの結果を観察すると,12 メッシュ上には,皮と子葉および胚軸




部とが一度はがれた後に造粒されたものが大部分を占めた。12 メッシュ

以下では,造粒物が減少した。20〜32 メッシュでは,皮部分が最も多く

なった。菜種ミール通常品(篩分け無し) ,粗粒度菜種ミールおよび

細粒度菜種ミールを粉砕機により粉砕し,色差計(製品名: カラー

リーダーCR-10,コニカミノルタ(株)製)を用いて色目評価を行っ

た。図1 に菜種ミールの色調の測定結果を示す。特に 35 メッシュ下の

画分において,白色および黄色が強く,明るい色調となっていた。・・

・」

一方,本件明細書には,本件発明の篩分けの対象が,訂正事項1所定の

粒度分布を持つ2段階搾油菜種粕に,さらに機械粉砕など何らかの処理を

施したものであることを示唆する記載はなく,本件明細書の実施例(【0

030】(実施例1),【0043】(実施例2),【0045】(実施

例3))のいずれについても,篩分けの対象が,上記所定の粒度分布の2

段階搾油菜種粕に,さらに機械粉砕など何らかの処理を施したものである

ことを示す記載はない。

本件明細書の上記記載内容に照らせば,2段階搾油菜種粕は,搾油工程

で一部が造粒されることにより,特徴のある粒度分布を持つようになるこ

と,そのため,2段階搾油菜種粕にさらに機械粉砕など何らかの処理を施

すことなく,2段階搾油菜種粕をそのまま篩にかけることにより,画分に

応じて特徴のある菜種ミールを得ることができ,篩上と篩下とで性状が異

なる菜種ミールが得られることが記載されているものと認められる。

そうすると,「そのまま・・・篩にかけて」とは,訂正事項1所定の粒

度分布を持つ2段階搾油菜種粕に,さらに機械粉砕など何らかの処理を施

すことなく,上記所定の粒度分布を持つ2段階搾油菜種粕そのものを篩に

かけることを意味するものであることは明らかであり,「そのまま」の技

術的意義が不明であるとの被告の主張は理由がない。




ウ したがって,訂正事項1に係る審決の判断は誤りである。
B 訂正事項2,4〜9,12〜17について

訂正事項2,4,5,6,8,12,14は,いずれも訂正事項1と同様

の訂正であり,訂正事項7,9,13,15〜17は,訂正事項1,2,4

又は5と整合させるための訂正である。

したがって,訂正事項1に係る審決の判断が誤りである以上,上記各訂正

事項に係る審決の判断も誤りである。
C 小括

よって,原告主張の取消事由1は理由がある。

2 取消事由2(甲1文献を主引例とする訂正発明3の容易想到性判断の誤り)

について
A 訂正発明3の要旨認定について

訂正発明3は,「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油

分を有機溶剤を用いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の

含量が 38.8〜55.6%である前記菜種粕の 35〜48 メッシュ以下の画分を含ま

ない,35〜48 メッシュ以下の画分を含む菜種ミールよりも苦みの改善された

菜種ミール。」というものである。

訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕,すなわち「菜種を圧搾機により

搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出して得られる

菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜55.6%である前記菜種

粕」の意義について,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕

が含まれることは,当事者間に争いがない。問題は,2段階搾油工程の後,

菜種粕全体に機械粉砕を施したものが,訂正発明3の篩分けの対象である菜

種粕に含まれるか否かであり,原告は含まれないと主張し,被告は含まれる

と主張する。

2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものが,訂正発明3




の篩分けの対象である菜種粕に含まれるか否かについては,特許請求の範囲

の記載において一義的に明確であるとはいえない。

そこで,以下では,まず,2段階搾油菜種粕の一般的な製造工程と整粒の

意義について確認した上,訂正明細書の記載を参酌し,訂正発明3の篩分け

の対象である菜種粕の意義について検討する。

ア 2段階搾油菜種粕の一般的な製造工程と整粒の意義について
2段階搾油菜種粕の一般的な製造工程

証拠(甲8,10,13)によれば,2段階搾油菜種粕は,菜種粕と
して一般的なものであり,2段階搾油菜種粕を得るには,通常,訂正発

明3において明示的に特定される,「菜種を圧搾機により搾油し,続い

て圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出」するという,2段階

搾油工程そのもののほかに,同工程の前後において各種の処理,例え

ば,有機溶剤を用いた抽出の後,脱溶剤,乾燥,冷却が行われ,さらに

整粒が行われることが認められる。
~ 整粒について

整粒とは,篩により分級された菜種粕を適当な粒度に粉砕し,再び篩

により分級することを繰り返すものをいう(甲9)ところ,「食用油製

造の実際」と題する文献(甲11,36)には,菜種粕の粒度につい

て,日本では12目全通と指定されていることが記載され,また,同文

献の表2.20には,各社の製品には,粒度が8〜10 メッシュよりも大

きな粒子が一定量存在することが示されている。これらの記載に照らせ

ば,整粒とは,菜種粕を篩により分級し,篩上となる粒度が概ね8〜10

メッシュよりも大きな粒子を適当な粒度に粉砕し,これを再び篩により

分級することを繰り返すことをいうものと認められる。

そうすると,整粒においては,菜種粕に含まれる粒子のうち,粒度が

小さな粒子は,そのまま篩を通過し,機械粉砕されることなく篩下とな




るが,粒度が大きな粒子は,上記のとおり,適当な粒度に機械粉砕され

た後,篩を通過して篩下となるから,結局,最終的に得られる菜種粕

は,機械粉砕されていない粒子と機械粉砕された粒子との混合物となる

ものと解される。

訂正明細書の記載

訂正明細書(甲39)には,以下の記載があることが認められる。
「【技術分野】

【0001】
本発明は,菜種ミールの製造方法に関し,より詳細には,産業的利用

価値の高い菜種ミールの製造方法に関する。」
~ 「【背景技術】

【0002】

菜種から油分を搾り取った後に残る菜種粕は,現在,菜種ミールとし

て飼料や肥料用途へ利用されている。しかし,菜種ミールは,大豆ミー

ルと比べると,蛋白質含量が低い,栄養価が低い,動物の嗜好性が悪

い,色が悪いなどの点で劣っている。この原因は,菜種ミールが繊維質

や苦味物質を多く含み,蛋白質分が比較的少ないことにある。

【0003】

菜種ミールに含まれる窒素分やミネラルは,栄養源として飼肥料用途

に重要な成分であるが,その含有量は,菜種種子そのものの組成に影響

され,収穫時期や品種によってばらつきが生じる。・・・

【0004】

菜種ミールの持つ栄養分の量をコントロールする方法として,加熱の

度合いによって水分を調節する方法がある。しかし,菜種ミールは,水

分が高くなく,調整幅が狭い。したがって,加熱は根本的な解決法と

なっていない。




【0005】

菜種ミール中の蛋白質分を調整する施策として,・・・(・・・非特

許文献1)や・・・(・・・非特許文献2)では,菜種を脱皮してから

搾油した際の菜種ミールの栄養価が評価されている。

【0006】

・・・(・・・特許文献1)には,菜種胚芽を機械的に砕き,風力分

級機や篩によって菜種胚芽のみを得る方法が記載されている。また,・

・・(・・・特許文献2)には,菜種種子などの油糧種子の特定組織を

分級する方法が記載されている。

・・・

【0007】

しかし,非特許文献1および2のように粒径の小さい菜種を脱皮して

から搾油する方法は,高コストになりやすく,産業的利用に向いていな

い。

【0008】

特許文献1の方法により菜種胚芽を分離した後,菜種ミールに利用し

ようとすると,菜種胚芽画分とそれ以外の画分とを別々に搾油する必要

がある。したがって,抽出機,原料保管用サイロなどの設備が通常の2

倍必要となり,作業の手間も増える。

【0009】

特許文献2の方法は,食品としての舌触り,保水性,懸濁保持性など

の改善が図られるものの,高蛋白質含量の菜種ミールは得られない。

【0010】

このように,従来の方法は,菜種ミールの栄養調整のために産業的利

用可能な技術とは言い難い。そこで,本発明の目的は,菜種粕から蛋白

質を代表とした栄養価を調節した菜種ミールを簡便かつ安価に製造する




方法であって,しかも廃棄部分の少ないかあるいは全く出ない製造方法

を提供することである。
「【課題を解決するための手段】

【0011】

発明者らは,上記課題を鋭意検討した結果,意外にも以下の発明に

よれば上記課題を解決できることを見出した。すなわち,本発明は,菜

種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用

いて抽出して得られる菜種粕であって,32 メッシュ篩下の含量が 38.8

〜55.6%である前記菜種粕をそのまま 32〜48 メッシュのいずれかの篩

にかけて,粒径が前記メッシュ篩上の粗粒度菜種ミールと,粒径が前記

メッシュ篩下の細粒度菜種ミールとに分画することからなる,菜種ミー

ルの製造方法を提供するものである。本明細書では,32〜60 メッシュの

いずれかの篩にかけた際に篩上と篩下とに得られる二種類の菜種ミール

を区別するために,篩上の粒度の比較的大きい菜種ミールを粗粒度菜種

ミールといい,篩下の粒度の比較的小さい菜種ミールを細粒度菜種ミー

ルという。・・・

・・・」
。 「【発明の効果】

【0016】

本発明は,搾油後の菜種粕を篩うという簡便かつ安価な操作で,細粒

度菜種ミールと粗粒度菜種ミールという粒度の揃った二種類の菜種ミー

ルを製造することができる。

【0017】

32〜60 メッシュ篩下の細粒度菜種ミールは,蛋白質含量が高い。しか

も,飼料としての利用価値の高い特定のアミノ酸を通常の菜種ミールよ

りも高い比率で含有するので栄養価も優れる。細粒度菜種ミールは,色




目も改善される。さらに,48〜60 メッシュ篩下のより細粒度の菜種ミー

ルは,窒素含量 6.64%以上 7.27%以下のより高蛋白質含量の菜種ミー

ルとなる。

【0018】

一方,32〜60 メッシュ篩上の粗粒度菜種ミールは,栄養価を維持しな

がら,嗜好性,特に苦味が改善される。これは,苦味物質が除去される

とともに,残存する苦味物質が搾油時に造粒されてマスキングされたと

考えられる。このようなものは,菜種の皮と子実部を分離した後に搾油

する従来方法では得られない。本発明の製造方法によれば,従来は苦味

物質のために製品価値が低かったものを,良質の製品に転換することが

でき,さらに,過剰な窒素分が調整されることで,飼肥料として利用し

た際の環境負荷が軽減される。このように,得られる二種類の菜種ミー

ルの産業上利用性は非常に高く,捨てる部分が少ないか全くない。した

がって,本発明の製造方法は,廃棄物を出さない点でも環境に優しい方

法といえる。

【0019】

本発明の菜種粕を 32〜60 メッシュのいずれかの篩にかけることから

なる,菜種ミールの窒素含量の調整方法によれば,菜種ミールの窒素含

量の移行が任意に調整可能である。これは,収穫時期や品種に応じて,

窒素含量および栄養価の低い原料菜種粕を得た場合に,窒素含量および

栄養価を高めるのに有用である。また,窒素含量および栄養価が高い原

料菜種粕を得た場合に,窒素含量を適正量に調整した菜種ミールおよび

それを配合した飼肥料を調製することで,環境負荷物質を発生させない

ようにするのに有用である。」
。 「【発明を実施するための最良の形態】

【0020】




・・・本発明の製造方法の原料として用いる菜種粕は,菜種から搾油

した残渣を意味する。・・・

【0021】

菜種からの搾油は,通常,2工程に分かれている。まず,菜種を圧搾

機により搾油し,続いて,圧搾粕に残された油分をn−ヘキサンなどの

有機溶剤を用いて抽出し,上記圧搾油と抽出油を合わせて精製する。2

段階の搾油工程を経てできた菜種粕は,搾油工程で一部が造粒されるこ

とにより,特徴のある粒度分布を持つようになる。これを篩で篩うこと

で,画分に応じて特徴のある菜種ミールを得ることができる。

【0022】

上記菜種粕を 32〜60 メッシュ,好ましくは 35〜60 メッシュ,さらに

好ましくは 35〜48 メッシュ,特に好ましくは 35〜42 メッシュのいずれ

かの篩にかけて,粒径が前記メッシュ篩上の粗粒度菜種ミールと,粒径

が前記メッシュ篩下の細粒度菜種ミールとに分画する。これにより,篩

上と篩下とで菜種ミールの性状が異なるものが得られる。・・・

・・・

【0027】

粗粒度菜種ミールは,タンニンのような苦味物質の含有量が篩分け無

しの通常品よりやや低い。さらに,粗粒度菜種ミールは,搾油時に苦味

物質が種皮と混ざって粒状となるため,苦味物質が含まれていても,そ

の含量から予想されるほど苦くはなくなる。この種皮と混ざって粒状と

なった部分は,粗粒度菜種ミール中において栄養価が比較的高く,この

部分の存在が粗粒度菜種ミールの栄養価の維持に役立つ。苦味の低減と

高栄養価は,家畜の嗜好性を改善し,家畜の成長促進につながる。

【0028】

粗粒度菜種ミールは,種皮が比較的多く含まれるため繊維質分が高く




なる。これは,繊維分が必要とされる牛などの飼料や,土壌改良剤用と

して好ましい。グルコシノレートは,通常品より低減される。グルコシ

ノレートは,畜産動物に対して有害であるので,本発明の製造方法によ

り低グルコシノレートの菜種ミールが得られることは有益である。上記

特性を有する粗粒度菜種ミールは,主に,鶏,牛,豚,魚の嗜好性の改

善に有効であり,また,一般に環境負荷の少ない飼肥料原料となる。」

ウ 訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」の意義について

前記アのとおり,2段階搾油工程の後整粒工程を経て最終的に得られる

菜種粕は,機械粉砕された粒子と機械粉砕されていない粒子との混合物と

なるから,搾油工程で造粒された粒子の一部は,機械粉砕によって破壊さ

れるが,その余の造粒された粒子は,機械粉砕によって破壊されることが

ない。そのため,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕で

あって,訂正事項1所定の粒度分布を有する菜種粕を篩にかけて得られる

菜種ミールは,タンニンのような苦味物質の含有量がやや低くなることに

加えて,苦み物質に対してマスキング効果を発揮する造粒粒子が含まれる

ことにより,苦み物質が含まれていても,その含有量から予想されるほど

苦くはなくなり,苦味が改善されたものになると認められる(訂正明細書

【0018】,【0021】,【0027】)。

これに対し,訂正明細書においては,2段階搾油工程の後,菜種粕全体

に機械粉砕を施したものについての記載はない。また,2段階搾油工程の

後,菜種粕全体に機械粉砕を施して得られる菜種粕においては,搾油工程

で造粒された粒子はすべて破壊されてしまっている。そのため,2段階搾

油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕であって,訂正事項1

所定の粒度分布を有する菜種粕を篩にかけて得られる菜種ミールは,訂正

発明3の菜種ミールのように,苦みが改善されたものになるとは認められ

ない。




したがって,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種

粕は,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕とは,物とし

て異なるものであり,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」には含

まれないというべきである。

エ 被告の主張について
被告は,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」には,2段階搾

油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕も含まれると主張

し,その根拠の一つとして,訂正発明3の特許請求の範囲の文言は,
「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤

を用いて抽出して得られた菜種粕」であって,「32 メッシュ篩下の含量

が 38.8〜55.6%である前記菜種粕」と規定されているのみであり,訂正

明細書にも,「そのまま篩分け」してなどの記載は存在しないことを挙

げる。

しかし,特許請求の範囲あるいは訂正明細書において,2段階搾油工

程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものが訂正発明3の篩分けの対

象に含まれることを示す記載がないこと,及び,2段階搾油工程の後,

菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕が,2段階搾油工程の後整粒工程

を経たにとどまる菜種粕とは,物として異なるものであることは,前記

説示のとおりである。

したがって,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」に,2段階

搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものが含まれると解する

ことはできない。被告の上記主張は理由がない。
~ 被告は,整粒工程は,機械粉砕する必要がない細かい粒子をあらかじ

め除くことにより,機械粉砕の効率を上げたものであり,結果として全

体を機械粉砕したものと同様の粒度分布を持つ菜種粕が得られるもので

あるから,整粒工程と機械粉砕工程とは,菜種粕の製造工程において,




実質的に区別できるものではない,整粒工程と機械粉砕工程のいずれの

工程においても,粉砕手段としてハンマーミルが用いられるから,機械

粉砕によって造粒粒子が破砕されるのであれば,整粒工程においても造

粒粒子は破砕されるはずであるとも主張する。

しかし,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕

が,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕とは,物とし

て異なるものであることは,前記説示のとおりである。被告の上記主張

も理由がない。
B 相違点1について

審決は,篩分前の菜種ミールの製造方法として,2段階搾油工程により菜

種粕を製造する方法が,本件特許の出願前から良く行われていた方法である

ことを根拠として,甲1発明において,篩分前の菜種ミールとして,2段階

搾油工程による方法により製造された「32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜

55.6%である」であるものを用いることは,当業者が適宜なし得たことであ

ると判断した。

しかし,前記Aのとおり,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕には,

2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものは含まれないのに

対し,甲1発明の篩分けの対象であるミールについては,サンプル(0)は,

機械粉砕を施したものではないが,審決が認定しているとおり,その製造方

法は不明であり,また,その他の5種の粉砕ミールは,サンプル(0)に機械

粉砕を施したものである。そのため,甲1発明の篩分けの対象であるミール

に代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を用いる動機付けがある

といえるか否かが問題となる。

そこで,以下,甲1文献の記載を確認した上で,甲1発明の篩分けの対象

であるミールに代えて,訂正発明3の篩分けの対象である「菜種粕」を用い

る動機付けがあるか否かについて検討する。




ア 甲1文献の記載

甲1文献には,以下の記載があることが認められる(甲1)。
「要約:篩分け(サイズ スクリーニング)は,粒子サイズ(粒径)

の関数として組成にバラツキを有する油性種子ミール(油性種子ひき割

り)から異なる画分を分離する。スクリーニングの前に種々の異なる型

の粉砕機を用いた研究の結果,衝撃式粉砕機及び石臼が菜種ミール用に

ベストであることが示されている。ヒマワリ・ミールの異なる画分から

の分離の収率も試験された。篩分けは,脱皮種子ミールでより容易にな

されることができ,綿実,大豆,ピーナツ,亜麻仁,トマトの種のよう

な他のいろいろな原材料に拡張されることができる。」
~ 「前書き

油性種子の工業用ミール(油分抽出後)は,重要なタンパク源である

が,種々の理由,例えば,抗栄養因子の存在等のため軽視されている。

抗栄養因子の問題がない場合は,種子外皮残渣が他の拒絶の原因とな

る。

粉砕前に種子脱皮をすることも可能であるが,これは高価な技術であ

り,また,続いて圧搾プロセスによる油分抽出を受ける際に,場合に

よっては,材料の浸透容量の損失を来たすことがある。

プレボら(Prevot et al.)(1973)[1]は,ヒマワリ・ミールの篩

分けが,外皮残渣の部分的な排除によって,画分中のタンパク質含有量

を増加させることができることを示している。この技術は,動物飼料用

のベストな材料を提供する。現在は,人間の食料用としての潜在的価値

を向上させるため,他の油性ミールへの応用のための精密なスクリーニ

ング条件を究明する研究が行われている。」
「材料及び方法

パイロットプラント規模(5〜100kg)で加工されるミールは,製造者




が動物飼料用に供給するのと同じ工業製品であった。脱皮製品(ヒマワ

リ及びピーナツの純粋な核種)のため,ヘキサンによる直接油分抽出に

よって研究室で調製された 1〜3kg のミールのサンプルに調査がなされ

なければならなかった。

菜種ミールに関する粉砕研究のため,その研究室で利用できるパイロ

ット粉砕機が用いられ,かつ以下のものが含まれた。

衝撃式粉砕機:2段階回転スピード付き(1500 及び 3000rpm)農家用

粉砕機設計(型 0415.02,7.5H.P.−フランス,サンリス 60,ルー

ト デ クレピー 3,ロウ製)

シリンダー粉砕機:専門研究所において小麦をすり潰すために用いら

れるパイロット粉砕機(1.5H.P.−フランス,パリ 75,ルー セン

トーオノレ 225,ソキャム製)

石臼:コミュニティ・コーヒー・ミル(変更可能な嵌め合い用の隙間

を有する設計,3/4H.P.−スイス,ウスター,ゼルウイガーS.A.

製)

分類の効果に関する調査のため,ミールの粉砕が,上述のロウ粉砕機

を 3000rpm にして,又はゼルウイガー粉砕機を「9」の設定にして行わ

れた。

分画スクリーニングは,偏心砂ふるい(型ヴィトロ一夕ミス 450−

0.5H.P.−フランス,パリ 75,ルー セントークロイ デ ラ ブ

レトンネリエ 24,タミソル製)上に置かれた,メッシュサイズが 63μ

m〜8mm のステンレス鋼のふるい(直径 45cm)上で行われた。具体的な

画分の粒径は,2つの値に指定された(テキスト及び表1を参照);こ

れは,より小さな網目のふるいでは通過しないが,より大きな網目のふ

るいでは通過する粒径に対応している。





a 分離の%収率 (N 回収/N 当初)×100

b 乾燥物質基準

c 20ml 溶液中の乾燥分離 1g の OD(×20)」
。 「結果と考察

菜種ミールの粉砕と篩分けに関する研究

図 1 は,・・・(省略)。





図1 粉砕された菜種ミールの粒度分布:(0)粉砕無しの工業用

ミール;(1)シリンダー粉砕ミール(Socam,クリアランス:0.6mm)

;(2)シリンダー粉砕ミール(Socam,クリアランス:0.2mm);(3)

石 臼 粉 砕 ミ ー ル ( Zellweger ) ; (4) 衝 撃 式 粉 砕 ミ ー ル

(Law,3000rpm);(5)衝撃式粉砕ミール(Law,1500rpm)



異なる画分に関する生化学的研究によって,結果として得られる組成

は,用いる粉砕機に拘わらず,主に粒径に依存することが示された。図2

は,その格付け(グレイディング)が 250〜630μm で最適であり,タンパ

ク質含有量が 45%から 36%に減少し,かつ粗繊維含有量が 13%から 25%

に増加することを示している。0.8mm を超えると,粉砕処理は効果がな

く,かつ材料はさらなる加工を必要とすることになる。

これらの結果は,寸法分布とともに,衝撃式粉砕機及び石臼が,シリン

ダー粉砕機よりもよい結果をもたらすことを示している(選択画分,すな

わち 200μm 未満で 20〜25%の収率,47%のタンパク質含有量及び 10%の

粗繊維含有量)。

・・・

種々のミールのスクリーニング;前もって脱皮することの影響

図3は,種々の油性種子ミールに格付け(グレイディング)がなされ得

ることを示している。大豆,菜種,及びピーナツの工業用脱皮種子ミール

の画分は,より均一でより高い窒素含有量を有している。スクリーニング

は窒素含有量の低い極めて大きな粒子の少量を取り除いている。研究所に

おいてピーナツ及びヒマワリの核種から調製されたミールは,依然として

均一性が高く,この場合,大きなメッシュでのスクリーニングは,その核

種の繊維部分を取り除くために適している。

全体の種子ミール(又は,粉砕の前に十分に洗浄されなかった種子から




のミール)のために,節分けは,最高のタンパク質含有量及び最低の粗繊

維含有量を有する選択画分を生み出す。しかしながら,これは,小さなサ

イズの粒子(200μm 未満)だけのスクリーニングからしか得られず,結果

として収率も少ない。タンパク質及び粗繊維が部分的に分離された重要な

中間的画分がある。これらのプロセスを使用すると,結果として,単胃動

物又は反芻動物の飼料として当初のミールより価値の高いいくつかの画分

が得られる。






。 「結論

油性ミールの篩分けは,異なる最終用途のために種々の画分を提供す

る。例えば,最小の画分(最高のタンパク質含有量及び最低のセルロー

ス含有量)は,粉末製品又は押出製品として直接用いられることができ

る。画分は,さらに加工されて,可溶性の非タンパク質成分の除去によ

り濃縮されることができる。中間的な画分は,分離品を調製するために

用いられることができる。最も粗い画分は,セルロースの高い含有量の

ため反芻動物飼料に適する。油分抽出の前の油性種子脱皮は,タンパク

質含有量の高いミールの割合を増加するが,ミールの篩分けを排除する

ことはない。」

イ 動機付けの有無について
甲1文献の上記記載によれば,サンプル(0)は,動物飼料用に供給さ

れているものと同じ工業製品であるとされているが,具体的にどのよう

製造方法により得られたものであるのかについては,甲1文献には記




載がなく,不明であるところ,甲1文献の図1に示される粒度分布によ

れば,サンプル(0)のピークは,3000〜4000μm(3〜4mm)付近に存在

し,最大粒径は 8000μm(8mm)を大きく超えるものであることからする

と,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕とは,物として異なるもの

であることが認められる。

したがって,サンプル(0)に代えて,訂正発明3の篩分けの対象である

菜種粕を用いる動機付けがあるとはいえない。
~ また,サンプル(1)ないしサンプル(5)は,サンプル(0)全体を機械粉

砕して得られたものであるから,訂正発明3の篩分けの対象である菜種

粕とは,物として異なるものである。

すなわち,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕には,2段階搾油

工程の後整粒工程を経たにとどまるものは含まれるが,2段階搾油工程

の後,菜種粕全体に機械粉砕を施したものは含まれない。そのため,訂

正発明3の篩分けの対象である菜種粕は,整粒工程を経たものであって

も,機械粉砕された粒子と機械粉砕されていない粒子との混合物とな

り,造粒粒子(苦み物質が搾油時に種皮と混ざって粒状となり,造粒さ

れてマスキングされたもの)を含むものである。これに対し,甲1発明

の篩分けの対象である上記5種の粉砕ミールは,サンプル(0)全体を機

械粉砕して得られるものであるから,全量が機械粉砕された粒子であ

り,造粒粒子を含まないものである。

そして,甲1文献は,「スクリーニングの前に種々の異なる型の粉砕

機を用いた研究」に関するものであり,上記の5種の粉砕ミールは,こ

のような研究のために準備されたサンプルであるから,その全体を機械

粉砕せずに,粒度が大きな粒子についてのみ適度な粒度に機械粉砕する

整粒を行った上で篩にかけることは予定されていない。

したがって,上記の5種の粉砕ミールに代えて,訂正発明3の篩分け




の対象である菜種粕を用いる動機付けがあるとはいえない。
よって,甲1発明の篩分けの対象であるミールに代えて,訂正発明3

の篩分けの対象である菜種粕を用いる動機付けはない。

ウ 被告の主張について
被告は,周知の2段階搾油菜種粕を甲1発明に適用し,訂正発明3

に到達することは当業者が容易になし得たことであると主張する。

しかし,2段階搾油菜種粕が周知であるとしても,甲1発明の篩分

けの対象であるミールに代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜

種粕を用いる動機付けがないことは,前記説示のとおりである。
~ 被告は,2段階搾油菜種粕を,機械粉砕などをせずにそのまま篩分け

る技術は当業者にとって周知であり(甲1,3,20),菜種粕を,高

蛋白質・低繊維の画分と低蛋白質・高繊維の画分とに分画するという目

的をもつ当業者が,甲1文献の図1及び図2の記載を見れば,2段階搾

油菜種粕を一定以下の篩幅で篩い分けるという訂正発明3に容易に想到

することができると主張する。

なるほど,甲1文献の図2には,サンプル(0),サンプル(3)及びサン

プル(4)について,630μm 以下の粒径において,化学組成が粒径に対し

て規則的に変化することが示されている。

しかし,前記認定のとおり,サンプル(0),サンプル(3)及びサンプル

(4)は,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕とは,物として異なる

ものである。訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕についても,サン

プル(0),サンプル(3)及びサンプル(4)と同様に,630μm 以下の粒径に

おいて,化学組成が粒径に対して規則的に変化するものであるのかにつ

いては,本件特許の出願時に知られていたと認めるに足りる証拠はな

い。

そうすると,仮に,2段階搾油菜種粕を,機械粉砕などをせずにその




まま篩分ける技術が周知であったとしても,甲1発明の篩分けの対象で

あるミールに代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を用いる

ことが容易想到であるということはできない。
被告は,甲1発明は,機械粉砕された菜種粕を篩い分けるものである

が,整粒工程と機械粉砕工程は,菜種粕の製造工程において実質的に区

別できないものであるから,甲1発明において,機械粉砕された菜種粕

に代えて,整粒された市販の菜種粕を篩い分ける動機付けがあると主張

する。

しかし,2段階搾油工程の後,菜種粕全体に機械粉砕を施した菜種粕

が,2段階搾油工程の後整粒工程を経たにとどまる菜種粕とは,物とし

て異なるものであることは,前記説示のとおりである。被告の上記主張

も理由がない。
。 被告は,甲1文献には,篩分けという手段によって,元の菜種粕より

も付加価値を有する菜種粕が製造できると記載されており,2段階搾油

菜種粕は最も入手容易な菜種粕であり,市販の菜種粕は整粒された2段

階搾油菜種粕であるから,甲1発明において,付加価値のある菜種粕を

得るため,機械粉砕された菜種粕又は未粉砕の菜種粕に代えて,最も入

手容易な整粒された市販の2段階搾油菜種粕を篩い分ける動機付けがあ

ると主張する。

しかし,2段階搾油菜種粕が最も入手容易な菜種粕であるとしても,

甲1発明の篩分けの対象であるミールに代えて,訂正発明3の篩分けの

対象である菜種粕を用いる動機付けがないことは,前記説示のとおりで

ある。被告の上記主張は理由がない。
。 被告は,甲1文献のサンプル(1),サンプル(2)は,シリンダー粉砕機

を用いて粉砕が行なわれたものであるが,それぞれ,クリアランス

0.6mm 未満,0.2mm 未満の大きさの画分については,ほとんど機械粉砕




されていないから,全体的に機械粉砕されているとはいえないと主張す

る。

しかし,実際に粉砕が行われる際には,クリアランスによって形成さ

れる間隙には,クリアランス未満の大きさの粒子だけでなく,大小様々

な大きさの粒子が多数存在するのが通常であると考えられるから,その

中にクリアランスより小さい大きさの粒子が存在する場合であっても,

大小様々な大きさの多数の粒子どうしが接触することにより,結局は,

その大半が粉砕されることになると考えられる。したがって,被告の上

記主張を採用することはできない。
被告は,甲1文献では,有用な画分を得るための原料として,高度に

機械粉砕されたサンプル(3)及びサンプル(4)のほか,弱く機械粉砕され

たサンプル(1)サンプル(2)及びサンプル(5)も,機械粉砕されていない

サンプル(0)も,特に排除されてはおらず,いずれのミールも篩分けす

る動機付けがあると主張する。

しかし,前記のとおり,これらのミールは,いずれも,訂正発明3の

篩分けの対象である菜種粕とは物として異なるものであり,これらの

ミールに代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を用いる動機

付けがあるとはいえない。

エ よって,相違点1に係る審決の判断には誤りがある。
C 相違点3の分画された画分の味及び訂正発明3の効果について

ア 審決は,相違点3のうち分画された画分の味の点について,訂正発明3

は「菜種ミール」に係る発明であって,「苦みが改善された」点は当該

「菜種ミール」の属性を表現したにすぎないと判断し,また,訂正発明3

の効果は,甲1文献の記載事項から予測される範囲内のものであり,格別

顕著なものではないと判断した。

しかし,甲1発明から訂正発明3の構成に想到することが容易であると




はいえないことは前記説示のとおりである以上,それだけで審決の甲1発

明に基づく訂正発明3の容易想到性の判断は誤りとなるのであり,それ以

上に,訂正発明3の効果が,甲1文献の記載事項から予測される範囲内の

ものかどうかを論じる必要はない。

イ 被告の主張について
被告は,原告が市販している2段階搾油菜種粕を 48 メッシュで篩分

けし,篩上の粗粒度画分の苦味を確認したところ,全く変化は見られな

かったこと(甲12,表4),また,原告製の2段階搾油菜種粕(1.8
点),及び,それと同程度の粒度分布となるように弱く機械粉砕した被

告製の2段階搾油菜種粕(2.0 点)のいずれにおいても,原告が主張す

るような,官能評価による苦味改善効果は得られなかったことを理由と

して,原告が主張するような苦味の改善効果はないとか,35〜48 メッシ

ュ(297〜420μm)で篩分けすることは,甲1文献で格付け可能とされ

ている 250〜630μm の範囲内であり,この範囲が粗繊維含量が多い粗粒

度画分を得るために行う篩分けに使用できることは当業者に自明なこと

であり,この範囲で篩分ければ,結果として,比較的大きな造粒粒子の

割合が高い粗粒度画分が得られるのであり,粗粒度画分の蛋白質含量が

大きく低下することもないから,栄養価を大きく低下させず,苦味が改

善された菜種粕の粗粒度画分は,当業者が容易に到達できる発明の結果

として当然に得られるものにすぎないとか主張する。

被告の上記各主張は,いずれも訂正発明3に顕著な効果はないとの趣

旨の主張であると解される。しかし,訂正発明3の構成は,前記説示の

とおり,甲1発明から容易に想到することができるものとはいえないの

であるから,審決の判断は,この点で既に誤っており,それ以上に,訂

正発明3に顕著な効果があるかどうかを論じる必要はない。
~ 被告は,@馬やウサギなどの草食動物や,牛などの反芻動物は,苦味




に対して強く反応しない(乙6,7)ため,対象となる同一飼料資源

(例えば菜種粕)において,篩処理前の苦味成分と,篩処理後の篩上部

に得られた画分の苦味成分の差は,草食動物に感じられる差とは考えら

れないから,訂正発明3の効果の一つとして主張されている菜種粕飼料

の苦味の低減効果は,仮にあるとしても,意味のない効果である(乙

7),A菜種ミールが配合された飼料を給与される家畜は,菜種ミール

に含まれるタンニンを経験し,タンニンの苦味に耐性がついており,菜

種ミールに含まれる程度のタンニンの苦味であれば,家畜の嗜好性に影

響がない,B飼料に配合される菜種ミールの割合は,多くとも 10%程度

にすぎないから,配合飼料全体によって,菜種ミールの持つ苦味がマス

キングされてしまい,菜種ミール自体の苦味は問題とならないと主張す

る。

被告の上記主張も,訂正発明3について顕著な効果はないとの主張で

あると解される。しかし,訂正発明3の構成が甲1発明から容易に想到

し得るものではない以上,この点について判断する必要がないことは前

記のとおりである。
D 小括

以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がある。

3 取消事由3(甲2公報を主引例とする訂正発明3の容易想到性判断の誤り)

について
A 相違点1について

審決は,篩分前の菜種ミールの製造方法として,2段階搾油工程により菜

種粕を製造する方法が,本件特許の出願前から良く行われていた方法である

ことを根拠として,甲2発明において,篩分前の菜種ミールとして,2段階

搾油工程による方法により製造された「32 メッシュ篩下の含量が 38.8〜

55.6%である」であるものを用いることは,当業者が適宜なし得たことであ




ると判断した。しかし,以下のとおり,審決の判断には誤りがある。

ア 甲2公報の記載

甲2公報には,以下の記載があることが認められる(甲2)。
「特許請求の範囲

1 含油種子から採油工程を経て得られた油粕に,油脂の精製工程で

副生する油滓を添加混合したのち物理的衝撃を与えて,からみ合ってい

る表皮部と実部とを互いにはずし,次いで両者を分離採取することを特

徴とする,蛋白分に富む油粕および繊維分に富む油粕の製造法。」
~ 「発明の詳細な説明

本発明は含油種子油粕に関するものであり詳しくは含油種子から蛋白

分に富む油粕と繊維分に富む油粕とを製造する方法に係る。

含油種子から得られる従来の油粕には,表皮部と実部がそのまま含ま

れているが,表皮部と実部とでは互いに組成が異なっている。

即ち,前者は繊維分が多いが蛋白分が少なく,後者ではその逆であ

る。従って,これらの油粕を表皮部と実部とに分離することができれ

ば,それぞれ特徴ある組成の油粕が得られるので分離前の油粕に比べ

て,より有効な用途が期待される。・・・

・・・

油粕を表皮部と実部とに分離することは,従来から脱脂大豆について

は行われているが,その他の油粕例えば菜種粕や亜麻仁粕についてこれ

実施しようとしても実用的に極めて困難である。

なぜなら,脱脂大豆の場合は採油前の工程で原料大豆の脱皮を行い,

これにより表皮部の分離を達成できるが,菜種や亜麻仁は採油前の脱皮

が技術的に難しい上に,この段階で脱皮をしてしまうと後の採油工程で

種々のトラブルを生じるため工業的にみて実用性がないからである。

また,油粕としたのちに脱皮を行い表皮部と実部を分離しようとする




と,脱皮ないし分離操作の際にダストの発生が激しく,これを処理する

ために高価な集じん装置を必要とするうえ油粕のロスも大きく,しかも

表皮部と実部との分離効率が低いという種々の欠点がある。

従って,現在まで菜種,亜麻仁等の含油種子から表皮部,即ち繊維分

に富む油粕と実部,即ち蛋白分に富む油粕とを効率よく得る方法は知ら

れていない。

本発明の目的は,含油種子から蛋白分に富む油粕と繊維分に富む油粕

とを効率的に製造し以って,動物の飼料等としてそれぞれ有効な用途を

持った油粕を提供することにある。

・・・

即ち,本発明は含油種子から採油工程を経て得られた油粕に,油脂の

精製工程で副生する油滓を添加混合したのち物理的衝撃を与えて,から

み合っている表皮部と実部とを互いにはずし,次いで両者を分離採取す

ることを特徴とする蛋白分に富む油粕の製造法である。

・・・

本発明は・・・従来の方法によるよりも表皮部と実部との分離効率が

高い。・・・

・・・また,本発明の方法によれば処理の際に発生する微細な油粕粉

末が油滓に吸着されるために,ダストの発生を防止することができ,

従ってロスも少ない。

・・・

このように,本発明は従来の方法によるよりも繊維分が高い油粕と蛋

白分が高い油脂とを製造できるものであって,油粕を目的に応じて有効

に利用することができる・・・」
実施例1

菜種に対し通常の圧抽法によって採油を行い,菜種粕(粗蛋白含量




38.6%,粗繊維含量 14.4%。いずれも無水物換算。以下同様)を得た。

このものに,1重量%の抽出油滓を添加混合したのち奈良式衝撃式粉

砕機にかけて,表皮部と実部とをはずした。次いで,48 メッシュ(目開

0.297m/m)のスクリーンにより両者を分離し,48 メッシュ上の繊維分に

富む油粕,48 メッシュ下の蛋白分に富む油粕をそれぞれ得た。

比較のため対照として上記の方法において油滓を添加せず,他は同様

にして処理を行った。・・・」

イ 動機付けの有無について

甲2公報の上記記載によれば,甲2発明は,実施例1において,油滓を

添加せず他は同様にして処理を行った対照(比較例)に関するものであ

り,菜種に対し通常の圧抽法によって採油を行い,菜種粕(粗蛋白含量

38.6%,粗繊維含量 14.4%。いずれも無水物換算)を得,奈良式衝撃式粉

砕機にかけて,表皮部と実部とをはずし,次いで,48 メッシュ(目開

0.297m/m)のスクリーンにより両者を分離し,48 メッシュ上の繊維分に富

む油粕,48 メッシュ下の蛋白分に富む油粕をそれぞれ得る方法によって得

られる,48 メッシュ上の繊維分に富む油粕であることが認められる。

甲2発明においてスクリーン(篩)にかける対象である菜種粕は,菜種

粕全体を奈良式衝撃式粉砕機にかけて,表皮部と実部とをはずしたもので

あるのに対して,訂正発明3において篩分けの対象である菜種粕は,その

全体が機械粉砕されたものではなく,粒度が大きな粒子についてのみ適度

な粒度に機械粉砕する整粒を行った上で篩にかけるものであるから,両者

は物として異なるものである。そして,甲2発明は,上記のとおり,菜種

粕全体を奈良式衝撃式粉砕機にかけて,表皮部と実部とをはずしたものを

スクリーン(篩)にかけることを前提とするものであるから,このような

菜種粕に代えて,上記のような訂正発明3の篩分けの対象である菜種粕を

用いる動機付けがあるとはいえない。




ウ 被告の主張について
被告は,周知の2段階搾油菜種粕を甲2発明に適用し,訂正発明3に

到達することは当業者が容易になし得たことであると主張する。

しかし,2段階搾油菜種粕が周知であるとしても,甲2発明の篩分

けの対象である菜種粕に代えて,訂正発明3の篩分けの対象である菜

種粕を用いる動機付けがないことは,前記説示のとおりである。
~ 被告は,甲2発明の物理的衝撃によって表皮部が破壊されることはほ

とんどなく,甲2発明においては,実部だけでなく表皮部をも破壊する
ような物理的な衝撃は必要ないから,菜種粕に強い機械粉砕を行う必要

もないとか,甲2公報には,「この油粕を表皮部,即ち繊維分の多い部

分と実部,即ち蛋白分の多い部分とに分離すれば,前者は乳牛の如く粗

繊維が利用できる動物の飼料に好適である」と記載されており,この記

載から粗粒度画分を得る動機付けが得られるとか主張する。

しかし,前記説示のとおり,甲2発明は,菜種粕全体を奈良式衝撃式

粉砕機にかけて,表皮部と実部とをはずしたものをスクリーン(篩)に

かけることを前提とするものであるから,菜種粕全体を機械粉砕せず

に,粒度が大きな粒子についてのみ適度な粒度に機械粉砕する整粒を

行った上で篩にかけることは予定されていない。したがって,甲2発明

の篩分けの対象である菜種粕に代えて,訂正発明3の篩分けの対象であ

る菜種粕を用いる動機付けがあるとはいえない。
B 相違点3の分画された画分の味の点及び訂正発明3の効果について

審決は,相違点3のうち分画された画分の味について,訂正発明3は「菜

種ミール」に係る発明であって,「苦みが改善された」点は当該「菜種ミー

ル」の属性を表現したにすぎないと判断し,また,訂正発明3の効果は,甲

2公報の記載事項から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものでは

ないと判断した。




しかし,甲2発明から訂正発明3の構成を想到することが容易であるとい

えないことは前記説示のとおりである以上,それだけで審決の判断は誤りと

なるのであり,それ以上に訂正発明3の効果が,甲2公報の記載事項から予

測される範囲内のものかどうかを論じる必要はない。
C 小括

以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がある。

4 まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由があるから,審決は違法

なものとして取消しを免れない。

第6 結論

よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のと

おり判決する。

知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官 設 樂 z 一




裁判官 西 理 香




裁判官 田 中 正 哉