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関連審決 訂正2002-39219
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事件 平成 15年 (ワ) 4361号 特許権侵害差止等請求事件
原告 アッサ・アブロイ・フィナンシャル・サービスィズ・アクティエボラグ(ピーユービーエル)
原告 インターロック・グループ・リミテッド
原告ら訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 茂木鉄平
同 高安秀明
同 西村直樹
原告ら補佐人弁理士 河宮治
被告 中西金属工業株式会社
訴訟代理人弁護士 谷口由記
補佐人弁理士 日比紀彦
同 岸本瑛之助
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/07/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、原告アッサ・アブロイ・フィナンシャル・サービスィズ・アクティエボラグ(ピーユービーエル)(以下「原告アッサ」という。)に対し、別紙イ号物件目録記載の物件(以下「イ号物件」という。)及び別紙ロ号物件目録記載の物件(以下「ロ号物件」という。)を製造し、販売し、又はそれらの販売の申出をしてはならない。
2 被告は、その占有に係るイ号物件及びロ号物件(以下、これらを併せて「被告物件」という。)並びにそれらの半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告アッサに対し、金800万円及びこれに対する平成15年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告インターロック・グループ・リミテッド(以下「原告インターロック」という。)に対し、金1300万円及びこれに対する平成15年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、被告による被告物件の製造、販売及び販売の申出が、原告アッサが有する後記特許権及び原告インターロックが許諾を受けているその独占的通常実施権侵害するとして、原告アッサが被告に対し、特許権に基づく被告物件の製造、
販売及び販売の申出の差止め並びに被告物件の廃棄、特許権の侵害による不法行為に基づく損害賠償800万円及び不法行為の後である平成15年5月22日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告インターロックが被告に対し、独占的通常実施権侵害による不法行為に基づく損害賠償1300万円及び不法行為の後である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 基礎となる事実 (1) 当事者 ア 原告アッサは、スウェーデンに本社を有する会社で、アッサ・アブロイグループの会社に対する知的財産権のライセンス及び金融サービスの提供を主な業務としている。(当事者間に争いがない。) イ 原告インターロックは、窓、戸用金物及び関連金属部品のデザイン及び製造、販売を主な業務としている。(当事者間に争いがない。) ウ 被告は、ボール、ローラーベアリング保持器の製造、販売、及び建築用金物の製造、販売等を業とする株式会社である。(当事者間に争いがない。) (2) 特許権 原告アッサは、別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」(特許公報は甲第2号証)、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された特許発明を「本件特許発明」という。)を、その設定登録時の特許権者から譲り受け、平成14年8月28日、移転登録を受けた。(甲第1号証。原告アッサが本件特許権の特許権者であることは、当事者間に争いがない。) (3) 独占的通常実施権 原告インターロックは、原告アッサから、本件特許権につき独占的通常実施権の許諾を受け、本件特許発明実施品を我が国において販売している。(甲第3、第4号証、検甲第2号証の1、2、弁論の全趣旨) (4) 本件特許発明構成要件 本件特許発明構成要件に分説すると、次のとおりである。
(A-1) フレーム取付け板と、
(A-2) サッシ取付け板と、
(A-3) 第1及び第2枢支軸を介してその両端が前記フレーム取付け板とサッシ取付け板とにそれぞれ連結した短アームと、
(A-4) 第3及び第4枢支軸を介してその両端が前記フレーム取り付け板とサッシ取り付け板とにそれぞれ連結した長アームとからなり、
(B) 窓用支柱が閉止位置にあると、長アームをサッシ取付け板に枢動自在に連結している前記第4枢支軸が、前記フレーム取付け板を前記短アームに枢動自在に連結している第1枢支軸と、前記サッシ取り付け板を前記短アームに枢動自在に連結している第2枢支軸との間に配置されており、
(C) 前記短アームには、該短アームの長さ方向に沿って前記第1及び第2枢支軸の間において段部を備えており、
(D) この段部が前記短アームの幅を横切る方向に延在していると共に、
(E) 前記第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在していることを特徴とする (F) 窓用支柱。
(5) 被告物件の製造、販売等 ア イ号物件 被告は、業として、平成12年3月からイ号物件(ただし、後記(6)ア(ア)のとおり、その構成を別紙イ号物件目録記載のとおり特定することについては一部争いがある。)の販売の申出をし、同年8月から平成13年8月まで、イ号物件の製造、販売、販売の申出をしていた。(被告がイ号物件の製造、販売、販売の申出を行っていた期間については、この限度において当事者間に争いがない。この点に関し、原告らは、遅くとも平成12年3月から、被告がイ号物件の製造、販売、販売の申出をしていたと主張するが、その事実を認めるに足りる証拠はない。) イ ロ号物件 被告は、業として、遅くとも平成14年4月からロ号物件(ただし、後記3(1)のとおり、その構成を別紙ロ号物件目録記載のとおり特定することについては一部争いがある。)の製造、販売、販売の申出をしている。(当事者間に争いがない。) (6) 被告物件の構成 ア イ号物件 (ア) 構成 イ号物件の構成は、別紙イ号物件目録記載のとおりである。(構成(c)以外は当事者間に争いがない。構成(c)について、原告らは、別紙イ号物件目録記載のとおりであると主張するのに対し、被告は、同目録の記載の後に「かつ、アームCの厚みはアームA及びアームBの厚みの1.5倍の厚みを有しており、」という記載を付加すべきであると主張する。しかし、イ号物件の特定としては、同目録記載のとおりで足りると認められる。) (イ) 分説 イ号物件の構成を分説すると、次のとおりである。
(a-1) 窓枠フレームを取り付けるべきフレーム@と、
(a-2) サッシを取り付けるべきアームBと、
(a-3) リベットI及びリベットGを介してその両端が前記フレーム@とアームBとにそれぞれ枢動自在に連結した、アームAに比べ短いアームCと、
(a-4) リベットH及びリベットFを介してその両端が前記フレーム@とアームBとにそれぞれ枢動自在に連結した、アームCに比べ長いアームAとからなり、
(b) イ号物件が閉止位置にあると、アームAをアームBに枢動自在に連結しているリベットFが、窓枠フレームに取り付けられるべきフレーム@をアームCに枢動自在に連結しているリベットIと、アームBをアームCに枢動自在に連結しているリベットGとの間に配置されており、
(c) 前記アームCには、リベットIとリベットGの間において直線状の段部Jを備えており、
(d) この直線状の段部Jが前記アームCの全幅を横切って延在していると共に、
(e) リベットIとリベットGの間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している、
(f) 窓用支柱 イ ロ号物件 (ア) 構成 ロ号物件の構成は、別紙ロ号物件目録記載のとおりである(ただし、
ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)、(d)の特定については、後記3(1)のとおり争いがある。)。
(イ) 分説 ロ号物件の構成のうち当事者間に争いのない部分は、次のとおりである。
(a-1) 窓枠フレームに取り付けられるべきフレーム@と、
(a-2) サッシに取り付けられるべきアームBと、
(a-3) リベットJ及びリベットGを介してその両端が前記フレーム@とアームBとにそれぞれ枢動自在に連結した、アームAに比べ短いアームCと、
(a-4) リベットH及びリベットFを介してその両端が前記フレーム@とアームBとにそれぞれ枢動自在に連結した、アームCに比べ長いアームAとからなり、
(b) ロ号物件が閉止位置にあると、前記リベットFが、前記リベットJとリベットGとの間に配置されており、
(e) 窓用支柱(ただし、被告の主張では構成(d)) (7) 構成要件充足性 ア イ号物件 (ア) イ号物件の構成(a-1)は本件特許発明構成要件(A-1)を、構成(a-2)は構成要件(A-2)を、構成(a-3)は構成要件(A-3)を、構成(a-4)は構成要件(A-4)を、それぞれ充足する。(当事者間に争いがない。) (イ) イ号物件の構成(b)は本件特許発明構成要件(B)を充足する。(当事者間に争いがない。) (ウ) イ号物件の構成(d)は本件特許発明構成要件(D)を充足する。(弁論の全趣旨) (エ) イ号物件の構成(e)は本件特許発明構成要件(E)を充足する。(弁論の全趣旨) (オ) イ号物件の構成(f)は本件特許発明構成要件(F)を充足する。(当事者間に争いがない。) イ ロ号物件 (ア) ロ号物件の構成(a-1)は本件特許発明構成要件(A-1)を、構成(a-2)は構成要件(A-2)を、構成(a-3)は構成要件(A-3)を、構成(a-4)は構成要件(A-4)を、いすれも充足する。(当事者間に争いがない。) (イ) ロ号物件の構成(b)は本件特許発明構成要件(B)を充足する。(当事者間に争いがない。) (ウ) ロ号物件の構成(e)(被告の主張では構成(d))は本件特許発明構成要件(F)を充足する。(当事者間に争いがない。) 3 争点 (1) ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)、(d)の特定 (2) 構成要件充足性 ア イ号物件の構成(c)は本件特許発明構成要件(C)を充足するか。
イ ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)は本件特許発明構成要件(C)を充足するか。
ウ ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)、(d)は本件特許発明構成要件(D)、(E)を充足するか。
(3) 明白な無効理由 ア 明細書の記載不備の有無 イ 進歩性の有無 (4) 自由技術の抗弁 (5) 損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(ロ号物件の構成の特定)について (1) 原告らの主張 ロ号物件の構成は、別紙ロ号物件目録記載のとおり、次のように特定すべきである。
ア 構成(c-1) 前記アームCは、リベットJ及びリベットGの間に位置する、下面がくぼむように形成された上方突状部Kを備え、
イ 構成(c-2) その突状部Kの周縁部分は、アームCの幅を横切る方向に延在する一対の直線状の部分Lと、アームCの長さ方向に延在する略直線部分Mとで平面視略コ字形を構成し、
ウ 構成(d) 上記幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、いずれもリベットJ及びリベットGの間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している、
エ 構成(e) 窓用支柱 (2) 被告の主張 原告らの主張は争う。ロ号物件の構成は、次のように特定すべきである。
ア 構成(c-1) 原告ら主張の構成(c-1)の文言(前記(1)ア)の後に、「かつ、アームCの厚みはアームA及びアームBの厚みの1.5倍の厚みを有しており、」という記載を付加すべきである。
イ 構成(c-2) 突状部Kの周縁部分は、アームCの一側縁に開口した平面視略コ字形である、
ウ 構成(d) 窓用支柱 2 争点(2)ア(イ号物件の構成(c)による本件特許発明構成要件(C)の充足性) (1) 原告らの主張 ア 本件特許発明 (ア) 段部の長さ a 「一定の方向に沿って」という文言は、一般的には、「その方向と平行に」という意味で用いられる。しかし、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」における「長さ方向に沿って」という文言の意味は、構成要件(D)の「短アームの幅を横切る方向に延在している」という文言との関係から、「短アームの長さ方向に平行」という意味ではない。
構成要件(C)の「長さ方向に沿って」という文言の意味は、構成要件(C)と(D)を合わせて読むことにより明らかになり、「短アーム上の長さ方向の第1及び第2枢支軸の間に存在していること」を意味するにすぎない。
本件特許発明に対応する米国特許においては、「短アームの長さ方向に沿って」の部分は、“in the length of short arm”となっており、正確な翻訳の困難な英文であるが、「短アームの長い方向に」というような意味であり、まさに上記の意味と同義である。原告らは、外国対応特許の文言をもって本件特許発明を解釈することを主張するものではないが、少なくとも出願人において、本件特許発明を「段部が短アームの全長にわたって形成されているもの」に限定する意図がなかったことは明らかであるし、本件明細書中の発明の詳細な説明にそのような主張の根拠が認められるべきでないことも明らかである。
b 本件特許発明構成要件には、段部が短アームの全長にわたって形成されなければならないという要件は記載されていない。本件明細書の実施例には、短アームの両端のリベットを結ぶ仮想線の長さに対して、段部の長手方向(同仮想線の方向)の長さが約70%の段部が開示されているが、この段部は、短アームの全長にわたっていない。
明細書に記載された実施例は特許出願人が最良と考えた一例にすぎず、特許発明技術的範囲を限定するものではないし、特許権者や実施権者による実施品の形状に、特許発明技術的範囲を限定する効果はない。
c 被告は、本件特許発明において、「段部が短アームの全長にわたっって形成されなければならない」と主張するが、その「全長」の意味は明確でない。
また、段部によって短アームの強度を向上させるという効果を奏するために、段部が短アームの長さ方向の成分を有することが必要であるとしても、
直ちに、本件特許発明が、段部を短アームの全長に設ける構成に限定されることはない。当業者は、短アームの長さ、幅、形状、他のアームとの重なり、リベットとの干渉、荷重等に応じて、任意の角度、位置、個数の段部を短アームに設けて本件特許発明実施することが可能である。
d 本件明細書の特許請求の範囲の請求項3には、請求項1に記載の窓用支柱にして段部が短アームの全幅を横切って延在している窓用支柱がクレームされており、このことから、請求項1には、全幅を横切るに至らない段部が含まれていることは明らかである。このような全幅を横切るに至らない、短アームの両端のリベットを結ぶ仮想線に対して傾斜した直線状の段部は、短アームの全長にわたることはあり得ない。
e 以上によれば、段部が短アームの全長にわたっていなくても、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」という構成を充足する。
(イ) 段部の断面形状 本件特許発明において、段部を横切る断面が短アームのどの部分でもZ字形状でなければならないということはない。
(ウ) 段部の傾斜 本件特許発明において、段部は、第1及び第2枢支軸を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在していれば足りる。
イ イ号物件 (ア) 段部の長さ イ号物件のアームCは、リベットIとリベットGとの間において直線状の段部Jを備えている。
(イ) 段部の断面形状 イ号物件の段部を横切る断面の形状は、ほぼZ字形状である。
(ウ) 段部の傾斜 イ号物件の段部Jは、短アームCの両端のリベットI及びリベットGを結ぶ仮想線に対して約50°の角度で傾斜しているから、仮想線に対して傾斜方向に延在している。イ号物件において、段部は、被告主張のように仮想線に対して垂直にほぼ近い傾斜方向に延在しているとは到底いえない。
(エ) 作用効果 被告は、当初イ号物件を設計し、販売を予定していたが、原告インターロックから警告書の送付を受けて、ロ号物件に設計変更した。イ号物件の短アームに設けられた段部に、強度特性を与える効果がなく、先行技術における短アームの段部を第2枢支軸に近い部分から短アームの中間部に移しただけであるとすれば、争いを避けるためには、単に段部を第2枢支軸に近い部分に戻し、第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して垂直な方向にすればよかったはずであるが、被告は、そのようなことをせず、ロ号物件に設計変更した。このことから、イ号物件の段部は、「重なり形状を有し、ほぼ90°の開度まで操作できる四本バー式窓用支柱において、短アームに加えられた強い力に耐え得る構造とする」という本件特許発明の目的を有していたことが明らかである。
短アームの厚みを長アームやサッシ取付け板より厚くした四本バー式窓用支柱は、本件明細書記載の実施例にも開示されており、短アームの強度特性をアームの厚みで補完していたとしても、イ号物件の構成要件該当性は否定されず、
本件特許発明の作用効果を生ずることも否定されない。
そうであるとすれば、イ号物件は本件特許発明の作用効果を奏する。
ウ 充足性 したがって、イ号物件の構成(c)は、本件特許発明構成要件(C)を充足する。
(2) 被告の主張 ア 本件特許発明 (ア) 段部の長さ a 本件特許発明において、段部が短アームの長さ方向(仮想線の方向と解される。)の成分を有することだけを要件とするのであれば、「仮想線に対して傾斜する方向」という構成のみを記載すれば足りるはずであり、それにもかかわらず「短アームの長さ方向に沿う方向」という構成を加えているのは、この構成をもって、「仮想線に対して傾斜する方向」を更に限定したものであると解される。
「短アームの長さ方向に沿う方向」とは、普通は、短アームの長さ方向と平行な方向と解され、仮に傾斜していた場合を含むとしても、短アームの長さ方向に近い方向をいうと解される。
b 本件特許発明の目的は、十分な強度特性を有する短アームを提供することにあり(本件明細書【0007】参照)、コンパクトな寸法構成内で屈曲係数(及び慣性モーメント)を最大にするように材料を十分利用できるとするものであり(同【0009】参照)、短アームの折曲部は、短アームに加えられた強い力、特に、支柱が大型の重い側部つりサッシを支持するのに用いられる時の大きい力に耐え得る高い慣性モーメントの構成が得られ、枢支軸受及び支柱部品の高い内部負荷を減じるための簡単で、かつ、コスト面での有効な手段となるものである(同【0031】参照)。
このような本件特許発明の目的及び作用効果を達成するために、本件特許発明の段部は、短アームの全長にわたって形成されていなければならない。
c 短アームに、仮想線に対して傾斜する方向に延在する段部が形成された窓用支柱は、乙第1号証(国際出願公開第WO88/00638号明細書。以下、同明細書に記載された発明を「乙1発明」という。)に記載されているように公知技術であるから、本件特許発明は、そのような公知技術を含まないように、段部が短アームの全長にわたって形成されている構成として解釈されなければならない。
d 本件明細書の図8に示された短アームにおいて、段部は、段部を形成できる部分又は段部を形成する意味のある部分の全長にわたって形成されているから、段部は短アームの全長にわたって形成されているといえる。
e 仮想線に対して傾斜した直線状の段部が、短アームの全幅を横切らず短アームの全長にわたる例は存在する。
f 以上によれば、本件特許発明においては、段部が短アームの全長にわたっていなければならない。
(イ) 段部の断面形状 本件特許発明は、本件明細書の図1のとおり、短アームの段部(折曲線)は長さ方向の全長に沿って、短アームの幅を横切っており、段部を横切る断面は、短アームのどの部分でもZ字形状でなければならない。
(ウ) 段部の傾斜 本件特許発明においては、本件明細書の図8に記載されたとおり、段部が短アームの全長にわたって形成され、かつ、第1及び第2枢支軸を結ぶ仮想線に対してほぼ斜め方向に延在していなければならない。
イ イ号物件 (ア) 段部の長さ イ号物件は、アームCの中間の一箇所に直線状の段部Jが長さ方向に対してやや斜めに形成されているが、リベットI(第1枢支軸)とリベットG(第2枢支軸)の距離は約7.5cmであるのに対して、段部の長手方向の長さは約1cmにすぎないし、段部Jの長さは、短アームCの段部を形成できる部分(段部を形成する意味のある部分)の長さの約30%にすぎないから、段部が短アームの全長にわたって形成されているものではない。
イ号物件の段部Jは、折り畳んだ際にアームCがリベットF(長アームとサッシとの枢支軸)に当たることを防ぐ目的で設けられている。
段部Jは、窓が閉じている(折り畳んだ状態にある)ときに窓ガラス全体の荷重を段部を介して分散させる効果もあるが、段部のリベットI及びリベットGを結んだ仮想線方向の長さは短く、荷重を分散させるのに十分なだけ延在していない。
イ号物件の段部Jの構成は、本件特許発明の段部ではなく、公知技術である乙1発明における段部に近いものである。イ号物件は、この先行技術における短アームの段部を、第2枢支軸に近い部分から短アームの中間部に移しただけのものであり、作用効果も先行技術と変わらない。
(イ) 段部の断面形状 イ号物件は、段部JがアームCの長手方向の全長にわたっていないから、アームCの中間に位置する段部Jの断面形状はほぼZ字形状であるが、アームCのその他の部分の断面形状はZ字形状ではない。
(ウ) 段部の傾斜 イ号物件の段部Jは、リベットI(第1枢支軸)及びリベットG(第2枢支軸)を結ぶ仮想線に対してほぼ垂直に近い傾斜方向に延在しているにすぎず、本件特許発明のように短アームの全長にわたり形成されて、第1及び第2枢支軸を結ぶ仮想線に対して斜め方向に延在しているとはいえない。
仮に、イ号物件において、段部が仮想線に対してほぼ斜め方向に延在しているといえるとしても、本件特許発明においては、段部で荷重を分散させなければならないため、段部は短アームの長さ方向、すなわち仮想線の方向に、荷重を分散させるに十分なだけ延在していなければならないが、イ号物件において、段部Jは、仮想線方向の長さは短く、荷重を分散させるに十分なだけ延在していない。
(エ) 作用効果 イ号物件において、短アームの段部Jは、長さ方向の一箇所に形成されているが、長さ方向の全長にわたっておらず、短アームに十分な強度特性を与えるものではなく、本件特許発明の作用効果を奏しない。
本件特許発明は、短アームを厚くしなくても十分な強度特性を得ることができるが、イ号物件のアームCは、曲げ及びたわみに対する強度が高くないので、アームを厚くして強度を得ており、アームA(長アーム)とアームB(サッシ取付け板)の厚さが2mmであるのに対して、アームCの厚さは3mmであり、
1.5倍の厚さとされている。短アームを厚くして強度を高める技術は公知技術であり、イ号物件は、本件特許発明の「支柱のコンパクトな幅と厚さを犠牲にしないで十分な『重なり』を得ることができる」(本件明細書【0009】)という効果を奏しない。
短アームの強度について、段部Jを備えたイ号物件のアームCと、段部がなく平坦なアームとを比較した場合、イ号物件のアームCは、段部Jを備えるものの、段部がなく平坦なアームと強度的にはほとんど変わらない。
ウ 充足性 したがって、イ号物件の構成(c)は、本件特許発明構成要件(C)を充足しない。
3 争点(2)イ(ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)による本件特許発明構成要件(C)の充足性) (1) 原告らの主張(構成(c-1)、(c-2)は、原告ら主張の特定(前記1(1))による。) ア ロ号物件において、アームCは、リベットJ及びリベットGの間に位置する、下面がくぼむように形成された上方突状部Kを備え(構成(c-1))、その突状部Kの周縁部分は、アームCの幅を横切る方向に延在する一対の直線状の部分Lと、アームCの長さ方向に延在する略直線部分Mとで平面視略コ字形を構成する(構成(c-2))。本件特許発明構成要件(C)に記載された段部とは、当該部位を境としてその前後(又は左右)で高低の差異が設けられている部位を意味するところ、ロ号物件の突状部Kは、周囲に比べて盛り上がって高くなっている部分であるから、その突状部を形成する周縁部分は段部を構成する。そして、リベットJ及びリベットGは、それぞれ本件特許発明の第1枢支軸及び第2枢支軸に該当し、アームCの長さ方向の両端に位置しているから、その間に位置する突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、それぞれアームCの長さ方向に沿って備えられている段部を構成する。
本件特許発明には、短アームの全幅を横切るに至らない段部を設けた短アームを有する四本バー式窓用支柱が含まれる。しかし、段部が短アームの幅方向の途中で突如として消滅する形状は通常は想起し難く、途中で長さ方向に方向を変えるなどして、段部としては連続し、結局はアームの外縁部まで至るのが通常の形状と考えられ、このような形状には、いったん長さ方向に方向を変えた後、再度方向を幅方向に転換して連続する段部が含まれると考えられるから、段部が短アームの全幅を横切るに至らない段部の構造として、このように複数の段部を組み合せたものも含まれるというべきである。
したがって、ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)は、本件特許発明構成要件(C)を充足する。
イ 被告は、当初イ号物件を設計し、販売を予定していたが、原告インターロックから警告書の送付を受けて、ロ号物件に設計変更した。イ号物件の短アームに設けられた段部に、強度特性を与える効果がなく、先行技術における短アームの段部を第2枢支軸に近い部分から短アームの中間部に移しただけであるとすれば、
単に段部を第2枢支軸に近い部分に戻し、第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して垂直な方向にすればよかったはずであるが、被告は、そのようなことをせず、ロ号物件に設計変更した。このことから、ロ号物件のアームCに形成された突状部Kの幅方向の一対の周縁部分Lが、「重なり形状を有し、ほぼ90°の開度まで操作できる四本バー式窓用支柱において、短アームに加えられた強い力に耐え得る構造とする」という本件特許発明の目的を有していたことが明らかである。
短アームの厚みを長アームやサッシ取付け板より厚くした四本バー式窓用支柱は、本件明細書記載の実施例にも開示されており、短アームの強度特性をアームの厚みで補完していたとしても、ロ号物件の構成要件該当性は否定されず、本件特許発明の作用効果を生ずることも否定されない。
(2) 被告の主張(構成(c-1)、(c-2)は、被告主張の特定(前記1(2))による。) ア(ア) 本件特許発明は、短アームの段部は長さ方向の全長に沿って、短アームの幅を横切っており、断部を横切る断面は、短アームのどの部分でもZ字形状である。
(イ) これに対し、ロ号物件は、アームCのどの部分の断面を取ってみても、Z字形状ではない。
ロ号物件の突状部Kは、折り畳む際に、窓枠フレームに取り付けられたフレーム@の取付けねじのワッシャがアームCに当たるのを防ぐためのくぼみを形成する目的で設けられたものであり、短アームに十分な強度特性をもたせるためのものではないし、短アームの全長にわたって形成されているものではない。
イ ロ号物件のアームCは、本件特許発明のような段部を設けていないから、段部が第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在しているという構成でもない。
ウ ロ号物件の突状部Kは、折り畳み時において、本件特許発明のサッシ取付け板に該当するアームBに接触しておらず、アームBと本件特許発明のフレーム取付け板に該当するフレーム@との間で窓ガラスの荷重を支持するものでもなく、
ロ号物件の構成及び作用効果は、本件特許発明の出願前の先行技術と変わらない。
したがって、ロ号物件のアームCは本件特許発明の短アームの構成と相違しており、かつ、本件特許発明の作用効果を奏するものではない。
ロ号物件のアームCは、曲げ及びたわみに対する強度が本件特許発明のように高くないので、アームを厚くして強度を得ており、アームA(長アーム)とアームB(サッシ取付け板)の厚さが2mmであるのに対して、アームCの厚さは3mmであり、1.5倍の厚さとされている。したがって、ロ号物件は、本件特許発明の「支柱のコンパクトな幅と厚さを犠牲にしないで充分な『重なり』を得ることができる」(本件明細書【0009】)という効果を奏しない。
エ したがって、構成(c-1)、(c-2)は、構成要件(C)を充足しない。
4 争点(2)ウ(ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)、(d)による本件特許発明構成要件(D)、(E)の充足性) (1) 原告らの主張(構成(c-1)、(c-2)、(d)は、原告ら主張の特定(前記1(1))による。) ア アームCに備えられた突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、
いずれもアームCの幅を横切る方向に延在している。同周縁部分Lを横切る断面の形状は、ほぼZ字形状である。そして、本件特許発明において、段部は、短アームの全幅を横切ることまでは必要でない。
したがって、ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)は、本件特許発明構成要件(D)を充足する。
イ アームCに備えられた突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、
アームC両端のリベットJ及びリベットGを結ぶ仮想線に対して、それぞれ約80°の角度で傾斜しているから、いずれも本件特許発明の第1枢支軸及び第2枢支軸を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している。
したがって、ロ号物件の構成(d)は、本件特許発明構成要件(E)を充足する。
(2) 被告の主張(構成(c-1)、(c-2)は、被告主張の特定(前記1(2))による。) 構成(c-1)、(c-2)は、構成要件(D)、(E)を充足しない。
すなわち、ロ号物件は、本件特許発明のように短アームの段部が短アームの幅を横切る方向に延在しているという構成ではなく、また、段部が第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在しているという構成でもないから、構成要件(D)、(E)を充足しないものである。
5 争点(3)ア(明細書の記載不備の有無) (1) 被告の主張 ア 本件明細書の本件特許発明の効果に関する記載中の「慣性モーメント」(本件明細書【0009】、【0031】)の意味は不明であり、その結果、短アームに段部を設けたことによる効果が不明である。
イ 本件特許発明において、「短アームの長さ方向に沿った方向」と「短アームの幅を横切る方向に延在すると共に、仮想線に対して傾斜方向に延在する方向」との関係が不明である。
ウ 「短アームに設けられた段部が、短アームの長さ方向に沿い、かつ、短アームの幅を横切る方向に延在すると共に、仮想線に対して傾斜方向に延在していること」により本件特許発明の効果が生じる理由が不明である。
エ 以上のとおり、本件明細書の特許請求の範囲の記載は不明瞭であり、発明の詳細な説明に当業者が容易にその実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。したがって、本件特許は、出願当時の特許法36条4項、5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、無効理由があることが明らかである。
(2) 原告らの主張 ア 「慣性モーメント」という用語が、主として動力学上の問題に関連した「質量の慣性モーメント」と、主として静力学上の問題に関連した「面積の慣性モーメント」の両方を包含することは周知であるところ、本件特許発明は、サッシの下方への静的なたわみを最小限にするものであるから、本件特許発明の効果に関して記載された「慣性モーメント」という技術用語は、前述の主として静力学上の問題に関連した「面積の慣性モーメント」を意味するものであり、このことは、本件明細書の記載(本件明細書【0003】、【0004】、【0009】、【0031】)に照らしても明白である。
イ 本件特許発明の短アームに設けられた段部の構成について、「短アームの長さ方向に沿って」という記載に続く、「前記短アームの幅を横切る方向に延在していると共に、前記第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している」という記載は、「段部」を更に規定するものであり、両記載の関係は十分に明瞭であって、特許庁も、平成14年12月17日付けの訂正拒絶理由通知において同様の判断を示している。
6 争点(3)イ(進歩性の有無) (1) 被告の主張 本件特許出願前に外国で頒布された刊行物である乙第1号証には、本件特許発明の段部に相当するクランク部30が短アームに相当する短い第3リンク部材13の長さ方向に沿っていない点で、段部が短アームの長さ方向に沿っている本件特許発明と異なっている以外は、本件特許発明と同じ構成の発明が記載されている。そして、この乙第1号証に記載された乙1発明のクランク部30は、それを介して窓ガラスの荷重を分散させるという本件特許発明と同じ効果を奏するものであり、しかも、仮想線に対して傾斜方向に延在するものである。乙1発明のクランク部30の仮想線に対する傾斜方向を仮想線の方向に近づけて、段部を短い第3リンク部材13の長さ方向に延在させる程度のことは、乙第1号証の記載に基づいて、
当業者が容易になし得るものである。
本件特許発明の「短アームに加えられた強い力に耐え得る構成を得る」という課題は、短アームに共通又は自明の課題であり、乙第1号証記載の発明も、この課題を解決するための技術的手法を用いている。乙第1号証記載のクランク部30の位置を移動することは、乙第18号証(「新機械工学便覧」新機械工学便覧編集委員会編、1977年(昭和52年)4月20日縮刷第9版発行)及び乙第19号証(竹園茂男著「基礎材料力学」朝倉書店発行、1984年4月初版第1刷)等に記載された公知技術(周知技術)から、当業者が容易に想起できた。ところが、
本件特許発明の審査過程において、このような公知技術(周知技術)や技術常識等は考慮されていなかった。
したがって、本件特許発明は、乙第1号証に基づいて容易に発明をすることができた。
(2) 原告らの主張 乙第1号証には、本件特許発明と共通する課題や、段部によって短アームの強度が高められるという技術思想は開示又は示唆されていない。乙第1号証に接した当業者が、同書証記載のクランク部30の位置を移動することを想起するのは容易とはいえなかった。また、乙第1号証は、本件特許発明及び本件特許発明に対応する米国特許の各審査過程において、先行技術文献として審査の対象とされ、その上で、我が国及び米国において、特許が付与された。
したがって、本件特許発明は、乙1発明に基づいて容易に発明をすることはできず、本件特許発明進歩性を欠如していることが明らかであるとはいえない。
7 争点(4)(自由技術の抗弁) (1) 被告の主張 短アームの一箇所に段部を形成する技術、曲げ及びたわみの荷重に対する強度を高める手段として短アームに厚みを付ける技術は、いずれも本件特許発明の出願前の公知技術であり、被告物件は、短アームの構成及び効果において、本件特許発明の出願前の公知技術と同一であり、また、仮に公知技術と同一でないとしても、当業者が公知技術から容易に推考することができたものである。特許権の効力は、出願前の公知技術と同一又は当業者がこれから容易に推考できたものには及ばない。
(2) 原告らの主張 被告の主張は争う。
8 争点(5)(損害額) (1) 原告らの主張 原告アッサが被った損害の額は、被告の平成14年8月28日以降の被告物件の売上額5000万円の10%に当たる実施料相当額500万円、及び弁護士費用300万円の合計800万円である。
原告インターロックが被った損害の額は、被告が被告物件を販売したことに伴い原告インターロックの売上が減少したことによる逸失利益1000万円、及び弁護士費用300万円の合計1300万円である。
(2) 被告の主張 原告らの主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(ロ号物件の構成の特定)について (1) 構成(c-1)について 原告らは、構成(c-1)について、「前記アームCは、リベットJ及びリベットGの間に位置する、下面がくぼむように形成された上方突状部Kを備え、」と主張し、被告は、その後に、「かつ、アームCの厚みはアームA及びアームBの厚みの1.5倍の厚みを有しており、」という記載を付加すべきであると主張するが、本件特許発明の特許請求の範囲の記載に照らすと、本件特許発明構成要件と対比すべきロ号物件の特定としては、原告ら主張のとおりで足りると解される。
(2) 構成(c-2)について 検乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、構成(c-2)は、「突状部Kの周縁部分は、幅方向の一対の直線状周縁部分Lと、周縁部分Lを結ぶ周縁部分Mにより構成され、」とするのが相当と認められる。
(3) 構成(d)について 検乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、構成(d)は、「幅方向の一対の直線状部分Lは、いずれもリベットJ及びリベットGの間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している、」とするのが相当と認められる。
2 争点(2)ア(イ号物件の構成(c)による本件特許発明構成要件(C)の充足性)について (1) 構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」という文言の意義について ア 本件特許発明構成要件(C)は、「前記短アームには、該短アームの長さ方向に沿って前記第1及び第2枢支軸の間において段部を備えており、」というものである。そこで、上記構成要件にいう「短アームの長さ方向に沿って」の意義について検討する。
イ 上記のように、本件特許発明の「段部」は、構成要件(C)において「短アームの長さ方向に沿って」、「第1及び第2枢支軸の間において」短アームに備えられているものであるとともに、構成要件(D)においては、「短アームの幅を横切る方向に延在している」とされ、さらに、構成要件(E)において「第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している」ものとされている。このように、本件特許発明の「段部」は、その位置関係等が構成要件(C)ないし(E)において規定されているから、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」の文言も、特許請求の範囲の記載全体との関係において解釈する必要がある。
ところで、一般に、「アーム」とは、腕木のような棒状部材をいうから、「短アーム」とは、短い腕木のような棒状部材を意味すると解される。また、
「短アームの長さ方向」とは、「長さ方向」という文言からして、短い棒状部材について最も長い寸法を計測し得る方向を意味するものと解される。
本件特許発明は、四本バー式の窓用支柱に関する発明であり、短アームは、その両端がフレーム取付板とサッシ取付板とに連結されるものであるが(甲第2号証)、その性質上、上記のような棒状ないし板状の部材であって、両端部の第1及び第2枢支軸を結ぶ線の方向が、上記の意味での長さ方向をいうことは明らかである。本件明細書の実施例及び図面に記載された短アームは、細長い単純な長方形状のものではないが、その形状に照らして、両端の第1及び第2枢支軸を結ぶ方向が「長さ方向」であると明確に観念できるものである。そして、本件特許発明の「段部」は、短アームの長さ方向に「沿って」いなければならないが、「沿う」とは、一般に、長く連なるものから離れずにいることを意味するから、上記のような意味で「長さ方向」に「沿って」いることを要するものというべきである。この「沿う」の語義からすると、「長さ方向に沿う」とは、「ある程度の長さにわたって、所定の方向(長さ方向)の向きに延びている」という意味に理解するのが自然であるといえる。もっとも、上記のとおり、本件特許発明の「段部」は、構成要件(D)及び(E)において「短アームの幅を横切る方向に延在し…第1及び第2枢支軸の間を結ぶ仮想線に対して傾斜方向に延在している」ものであるから、長さ方向に「沿う」といっても、長さ方向に平行なものであれば、構成要件(D)及び(E)を充足しないことになる。したがって、これらからすると、段部が「短アームの長さ方向に沿って」とは、(短アームの全長にわたってかどうかはともかくとして)ある程度の長さにわたって、短アームの長さ方向の向き(長さ方向と平行ではなく)に延びているような状態にあることを意味すると解すべきである。そして、短アームの長さ方向の直線との間に形成される角度が余りに大きい場合には、
その長さ方向の向きに延びているといい難いから、短アームの長さ方向の向きに延びているとは、言い換えれば、その方向の直線との間に形成される角度が余り大きくならないことを意味すると解される。
なお、この点に関し、甲第16号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、原告アッサは、平成14年10月15日、本件明細書について、明瞭でない記載釈明を理由に訂正審判を請求し(訂正2002-39219号)、本件特許発明構成要件(C)の「該短アームの長さ方向に沿って前記第1及び第2枢支軸の間において段部を備えており」を「前記第1及び第2枢支軸の間で、アームの長さ方向に位置する段部を備えており」と訂正することなどを求め、その理由として、
訂正前の「(短アームの)長さ方向に沿って」という記載が「短アームの長さ方向に沿った(平行な)もの」と解する余地があり、特許請求の範囲の後続する記載(構成要件(D)、(E)の部分)との間で矛盾が生じることとなるおそれがあると主張していたこと、これに対し、特許庁は、平成14年12月17日付けで、本件訂正審判請求について、「(短アームの)長さ方向に沿って」という記載が「短アームの長さ方向に沿った(平行な)もの」と解される余地は皆無であるとして、
上記訂正は明瞭でない記載釈明を目的とするものとはいえず、訂正は認められないという趣旨の理由により、訂正拒絶理由通知を行ったこと、この特許庁の判断を受けて、原告アッサは、平成15年1月10日付けで本件訂正審判請求を取り下げたことが認められる。以上のような、訂正審判請求に対する特許庁の判断も、本件特許発明構成要件(C)における「(段部が)短アームの長さ方向に沿って」の意義を、段部について更に規定した構成要件(D)及び(E)をも含めて解釈しているものといえる(もっとも、上記訂正拒絶理由通知は、本件特許発明の「長さ方向に沿って」との文言がどのような意義であるかについては触れておらず、特許庁が、上記訂正請求後の記載(第1及び第2枢支軸の間で、アームの長さ方向に位置して)のように解していたものとは必ずしもいえない。)。
ウ 前記のとおり、「短アームの長さ方向に沿って」とは、構成要件の文言からすると、ある程度の長さにわたって、短アームの長さ方向の向きに延びているような状態にあることを意味すると解され、言い換えれば、短アームの長さ方向の直線との間に形成される角度が余り大きくならないことを意味すると解される。
しかしながら、それだけでは、「短アームの長さ方向に沿って」という構成要件の意味が一義的に明確であるとはいえないから、その意味を明らかにするために、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によって、構成要件(C)のように、短アームに設けた段部を短アームの長さ方向に沿うものとしたことの技術的な意義を検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、次のような記載がある(甲第2号証)。
(ア) 【産業上の利用分野】の項には、次のとおり記載されている。
「本発明は、窓の支持構造に関し、詳述すれば、窓用支柱に関する。」(本件明細書【0001】) 「いわゆる四本バー式窓用支柱は、一対のアームより互いに連結される1本ないし複数のフレーム取付け板と、1枚ないし複数のサッシ取付け板とにより構成されている。代表的には、一方のアームは、他方のアームよりかなり短い。 ……一般に、アームを取付け板に連結する枢支継手又は軸受は摩擦式であるので、窓サッシは所望の開度に調節することができる。」(同【0002】) 「このような四本バー式支柱は、摺動部材がなく、部品の数も少ないので、窓枠に窓サッシを調節自在に取り付けるに当たり、頑丈で、複雑ではなく、寿命も長い。しかしながら、清掃の際にガラスの外面に接近しやすくするために90°の開度にわたって開く大型で重い側部つりサッシ ……、即ち、観音開き窓に、この四本バー式支柱をうまく利用するのは難しい。特に、低コスト及び/又はコンパクトサイズの小型支柱を、このような窓に用いると、サッシが脱落したり、たわんだりする傾向がある。また、支柱の作動寿命も不十分となる。」(同【0003】) 「清掃の際にガラスの外面に十分接近できるようにするためには、比較的長い「短アーム」が要求される。しかし、このような短アームは、重いサッシを支持する場合その内部に高い屈曲モーメントを生じる。そのため、観音開き窓に採用すると、このような短アームは下方にたわんでサッシの脱落又はたわみを生じる傾向がある。また、清掃の際の接近性を充分得るためにサッシを90°の開度にわたって開閉できるためには、四本バー式支柱としては、短アームとフレーム板との枢支点と、短アームとサッシ板との枢支点の間に、長アームとサッシ板の枢支点が必要になってくる。このため、いわゆる「重なり(オーバーラップ)」が生じるが、これは、通常、構成上、短アームを犠牲にして達成される。」(同【0004】) (イ) 【発明が解決しようとする課題】の項には、次のとおり記載されている。
「本発明は、重なり形状を有し、ほぼ90°の開度まで操作できるにもかかわらず、十分な強度特性を示す短アームを有する四本バー式の窓用支柱を提供することをその目的とするものである。」(同【0007】) (ウ) 【課題を解決するための手段】の項には、次のとおり記載されている。
「広義的には、本発明は、支柱の閉止位置において、長アームのサッシ板への枢支点が、フレーム板の短アームへの枢支点と、サッシ板の短アームへの枢支点との間に位置する四本バー式窓用支柱にして、短アームに、その両枢支点の間においてアームの長さ方向に沿って位置し、これらの枢支点の間を結ぶ仮想線に対してほぼ斜め方向に延在する折曲部を設けたことを特徴としている。」(同【0008】) 「短アームに折曲部を設けることで、結果として、該折曲部を横切る断面を取ると、ほぼ“Z字形”断面形状を有する短アームが得られる。このような構成は、現在一般に用いられているフランジ付の、別々に屈曲させたアームよりも製作が容易である。本発明の短アームの構成によれば、支柱のコンパクトな幅と厚さを犠牲にしないで十分な『重なり』を得ることができる。本発明の結果として、コンパクトな寸法構成内で屈曲係数(及び慣性モーメント)を最大にするように材料を十分利用できる。その結果、本発明により、サッシのたわみ又は、脱落を最小限にすることができるのである。」(同【0009】) (エ) 【発明の効果】の項には、次のとおり記載されている。
「従って、本発明によれば、短アームの折曲部は、短アームに加えられた強い力、特に、支柱が大型の重い側部つりサッシを支持するのに用いられる時の大きい力に耐え得る高い慣性モーメントの構成が得られる。また、フレーム取付け板を角度を付けて位置決めすることにより従来の形状のフレーム取付け板を用いて、片寄り軸受の幾何学的構成が達成できる。しかも、上記構成は、枢支軸受及び支柱部品の高い内部負荷を減じるための簡単で、かつ、コスト面での有効な手段となる。」(同【0031】) (オ) 【実施例】の項には、次のとおり記載されている。
「本発明によれば、短アーム12は、図3で更に明瞭に見られるように、折曲線20に沿って対角方向に折曲されている。この折曲線20は、枢支軸受14と15がそれぞれ挿通される孔21と22の中心の間を結ぶ線L1に対して角度をなしている。従って、折曲線20は、短アーム12の幅を横切って斜めに延在しているものといえる。」(同【0018】) そして、図面(図1ないし3、8)には、上記説明にあるように、短アームの長さ方向(第1枢支軸と第2枢支軸を結んだ線の方向)の辺に対してほぼ対角線となる方向に存在する折曲線によって短アームが折曲されて段部が設けられている実施例が示されている。
(カ) 上記のような本件明細書の記載によれば、本件特許発明の作用効果の一つは、短アームにその長さ方向に沿って、断面形状がほぼZ字形になる段部を設けることにより、高い慣性モーメント(断面2次モーメント)を得ることにあると認められる。そして、短アームに設ける段部は、短アームの長さ方向(最も長い寸法を計測し得る方向)と平行に設けることにより、高い慣性モーメントを得られるものであることは、周知の技術常識であるといえる。また、乙第18号証(新機械工学便覧編集委員会編「新機械工学便覧」理工学社発行、1977年4月縮刷第9版)及び乙第19号証(竹園茂男著「基礎材料力学」朝倉書店発行、1984年4月初版第1刷)によれば、本件特許出願前に頒布された基本的解説書において、
断面略Z字形の「はり」(梁)は断面長方形状のものより断面2次モーメントが大きいことが示されている。
一方、本件特許発明においては、四本バー式窓用支柱の短アームは、
両端がそれぞれフレーム取付け板とサッシ取付け板に枢支軸を介して連結されており、窓用支柱が閉止位置にあるときに、長アームとサッシ取付け板との枢支軸が短アームの両枢支軸の間に位置する関係から、上記枢支軸と短アームが「重なり」を生じることになるが、この重なり部分において短アームが枢支軸に当たるのを防ぐべく短アームに段差を設けるため、短アームの段差は、短アームの両枢支軸を結ぶ仮想線に対して傾斜し、短アームの幅を横切る方向に延在させる必要があるものと解される。
以上によれば、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」にいう「沿って」といえるか、すなわち短アームの長さ方向の向きに延びているといえるかどうかを判断するに際しては、短アームの長さ方向の直線との間に形成される角度の大きさとともに、段部を短アームの長さ方向に平行に設けた場合に得られる慣性モーメントと対比して、本件特許発明が目的とする効果を奏するといえる程度の慣性モーメントが得られているか否かを斟酌する必要があるものというべきである。
(2) 上記判断を前提に、イ号物件が、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」という構成を充足するかについて検討する。
ア 検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
イ号物件において、アームCは、本件特許発明の短アームに該当し、リベットI及びリベットGは、本件特許発明の第1及び第2枢支軸に該当する。
イ号物件において、アームCについて最も長い寸法を計測し得る方向の直線は、リベットIとリベットGを結ぶ直線とほぼ重なる。
イ号物件の段部Jは、リベットIとリベットGを結ぶ直線と約50°の角度をなしている。リベットIとリベットGの間隔は約7.5cmであり、別紙アームC図面の「b」の長さ、すなわち、イ号物件において、アームCのうちで段部Jが形成されている部分を通る範囲での上記リベットIとリベットGを結ぶ直線の長さは約1.3cmであって、「b」の長さは、リベットIとリベットGの間隔の約17%に当たる。
以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
イ ところで、前記アの認定事実によれば、イ号物件において、アームCについて最も長い寸法を計測し得る方向の直線は、リベットIとリベットGを結ぶ直線とほぼ重なっており、段部Jは、リベットIとリベットGを結ぶ直線と約50°の角度をなしているから、段部Jは、アームCについて長さ方向に対し直線と約50°の角度をなしていることとなる。そうであるとすると、段部Jは、同直線との間に形成される角度が小さい範囲にとどまるとはいえず、その角度の大きさからして、同直線と平行に準じる状態というようなものではなく、短アームの長さ方向に向いて段部が延びているような状態にはないから、構成要件(C)にいう「短アームの長さ方向に沿って」といえるようなものとはいい難い。
ウ さらに、乙第20号証の1ないし5によれば、アームの長さ方向に平行に近い向きに段部が設けられた場合には、アームのたわみを抑制する効果は大きいことが認められるが、イ号物件の段部と同様に、アームの一部に、同直線と大きな角度を成し、同直線と平行又は平行に準じる状態にあるとはいえない段部が設けられたにすぎない場合には、たわみを抑制する効果は余り認められず、段部を同直線と平行に設けた場合のような高い慣性モーメントを得られるとは認められない。
上記認定事実に照らせば、イ号物件の段部Jによって、リベットIとリベットGを結ぶ直線と平行に近い角度で段部を設けた場合のような高い慣性モーメントを得られるとは認められない。そうすると、イ号物件の段部Jによって、本件特許発明が段部を短アームの長さ方向に沿って設ける構成としたことによって奏する効果と同様な高い慣性モーメントを得られると認めることはできない。
エ 以上によれば、イ号物件において、段部JがアームCの長さ方向に沿って設けられているとはいえないから、イ号物件は、本件特許発明構成要件(C)を充足しない。
(3) したがって、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件は、本件特許発明技術的範囲に属さないというべきである。
3 争点(2)イ(ロ号物件の構成(c-1)、(c-2)による本件特許発明構成要件(C)の充足性)について (1) ロ号物件が、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」という構成を充足するかについて検討する。
ア 検乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ロ号物件において、アームCは、本件特許発明の短アームに該当し、リベットJ及びリベットGは、本件特許発明の第1及び第2枢支軸に該当する。
ロ号物件において、アームCについて最も長い寸法を計測し得る方向の直線は、リベットJとリベットGを結ぶ直線とほぼ重なる。
ロ号物件の突状部Kは、下面がくぼむように形成されてアームCの面から上方に突出しており、その周縁部分はアームCの一側縁に開口した平面視略コ形になっており、周縁部分は、幅方向の一対の直線状周縁部分Lと、一対の周縁部分Lを結ぶ周縁部分Mとからなり、周縁部のうち幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、リベットJとリベットGを結ぶ直線と約80°の角度をなしている。
以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
イ 原告らは、ロ号物件の突状部Kは周囲に比べて盛り上がって高くなっている部分であるから、その突状部を形成する周縁部分は段部を構成するものであり、アームCの長さ方向の両端に位置するリベットJ及びリベットGの間に位置する突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、アームCの長さ方向に沿って備えられている段部を形成する旨主張する。
しかし、2(1)で判示したところからすれば、アームCの長さ方向の中間に段部があることをもって、段部が長さ方向に沿っているとはいえない。前記アの認定事実によれば、ロ号物件において、アームCについて最も長い寸法を計測し得る方向の直線、すなわちアームCの長さ方向は、リベットJとリベットGを結ぶ直線とほぼ重なっているところ、突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、リベットJとリベットGを結ぶ直線と約80°の角度をなしているから、同周縁部分Lは、アームCの長さ方向に対し、直角に近い約80°の角度をなしていることとなる。この事実によれば、同周縁部分Lは、アームCの長さ方向に沿うものとはいえない。
なお、上記アのとおり、ロ号物件の突状部Kの周縁部分としては、幅方向の一対の直線状周縁部分Lのほかに、周縁部分Lを結ぶ周縁部分Mも存在する。
しかし、周縁部分Mは、アームCの幅を横切る方向に延在しているとはいえないから、本件特許発明構成要件(D)を充足せず、本件特許発明の段部に該当するとは認められない(原告らも、周縁部分Mが本件特許発明構成要件(C)ないし(E)に係る「段部」に当たるとは主張していない。)。
ウ 甲第18号証及び第19号証の各1、2によれば、ロ号物件のアームCと同様の形状のアームについて、突状部Kが形成された場合は、そのような突状部が形成されなかった場合に比べて、アームのたわみを抑制する効果が高まることが認められる。しかし、突状部Kは、周縁部分Lのほかに、短アームの長さ方向に近い向きの周縁部分Mを有しており、段部を短アームの長さ方向と平行に設けることにより高い慣性モーメントが得られることが周知の技術常識であることからすると、アームのたわみを抑制する効果は、周縁部分Mの存在によるところが大きいと推認され、このことを考慮すると、上記証拠により、原告らが本件特許発明の段部に相当すると主張する周縁部分Lが存在することによって短アームの強度が高められていることが認められるとはいえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、ロ号物件の突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、それによって、アームCの長さ方向に平行な段部が設けられた場合と同様の高い慣性モーメントを得られるとは認められず、同周縁部分Lは、本件特許発明が段部を短アームの長さ方向に沿う構成としたことにより奏する効果と同様の効果を奏しているとは認められない。
エ 以上によれば、突状部Kの幅方向の一対の直線状周縁部分Lは、構成要件(C)の「短アームの長さ方向に沿って」という構成を充足するとは認められない。
(2) したがって、その余の点について判断するまでもなく、ロ号物件は、本件特許発明技術的範囲に属さないというべきである。
4 結論 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、棄却する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美