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事件 平成 23年 (ワ) 19435号 特許権侵害行為差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平 成25年2月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(ワ)第19435号,同第19436号 各特許権侵害行為差止等請求

事件

口頭弁論の終結の日 平成24年10月18日

判 決

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主 文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1(1) 主位的請求

ア 被告日新製薬は,別紙製剤目録記載1ないし4の各製剤を,被告高田製

薬は,同目録記載5ないし8の各製剤を,被告富士フイルムファーマは,

同目録記載9ないし12の各製剤を,被告サンドは,同目録記載13及び

14の各製剤を,被告第一三共エスファは,同目録記載15ないし18の

各製剤を,被告テバ製薬は,同目録記載19ないし22の各製剤を,被告

日医工は,同目録記載23ないし26の各製剤を,被告辰巳化学は,同目

録記載27ないし30の各製剤を,被告小林化工は,同目録記載31ない

し34の各製剤を,被告持田製薬は,同目録記載35及び36の各製剤を,

それぞれ製造し,販売し又は販売の申出をしてはならない。

イ 被告日新製薬は,別紙製剤目録記載1ないし4の各製剤について,被告

高田製薬は,同目録記載5ないし8の各製剤について,被告富士フイルム

ファーマは,同目録記載9ないし12の各製剤について,被告サンドは,

同目録記載13及び14の各製剤について,被告第一三共エスファは,同

目録記載15ないし18の各製剤について,被告テバ製薬は,同目録記載

1
1 9ないし22の各製剤について,被告日医工は,同目録記載23ないし

26の各製剤について,被告辰巳化学は,同目録記載27ないし30の各

製剤について,被告小林化工は,同目録記載31ないし34の各製剤につ

いて,被告持田製薬は,同目録記載35及び36の各製剤について,それ

ぞれ健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出をせよ。

ウ 被告日新製薬は,別紙製剤目録記載1ないし4の各製剤を,被告高田製

薬は,同目録記載5ないし8の各製剤を,被告富士フイルムファーマは,

同目録記載9ないし12の各製剤を,被告サンドは,同目録記載13及び

14の各製剤を,被告第一三共エスファは,同目録記載15ないし18の

各製剤を,被告テバ製薬は,同目録記載19ないし22の各製剤を,被告

日医工は,同目録記載23ないし26の各製剤を,被告辰巳化学は,同目

録記載27ないし30の各製剤を,被告小林化工は,同目録記載31ない

し34の各製剤を,被告持田製薬は,同目録記載35及び36の各製剤を,

それぞれ廃棄せよ。

(2) 予備的請求

ア 被告日新製薬は,別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬品と組み合わ

せて糖尿病の予防・治療用医薬として使用される別紙製剤目録記載1ない

し4の各製剤を,被告高田製薬は,上記と同様に使用される同目録記載5

ないし8の各製剤を,被告富士フイルムファーマは,上記と同様に使用さ

れる同目録記載9ないし12の各製剤を,被告サンドは,上記と同様に使

用される同目録記載13及び14の各製剤を,被告第一三共エスファは,

上記と同様に使用される同目録記載15ないし18の各製剤を,被告テバ

製薬は,上記と同様に使用される同目録記載19ないし22の各製剤を,

被告日医工は,上記と同様に使用される同目録記載23ないし26の各製

剤を,被告辰巳化学は,上記と同様に使用される同目録記載27ないし3

0の各製剤を,被告小林化工は,上記と同様に使用される同目録記載31

2
な いし34の各製剤を,被告持田製薬は,上記と同様に使用される同目録

記載35及び36の各製剤を,それぞれ自己又は第三者のために製造し,

販売し又は販売の申出をしてはならない。

イ 被告日新製薬は,別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬品と組み合わ

せて糖尿病の予防・治療用医薬として使用される別紙製剤目録記載1ない

し4の各製剤を,被告高田製薬は,上記と同様に使用される同目録記載5

ないし8の各製剤を,被告富士フイルムファーマは,上記と同様に使用さ

れる同目録記載9ないし12の各製剤を,被告サンドは,上記と同様に使

用される同目録記載13及び14の各製剤を,被告第一三共エスファは,

上記と同様に使用される同目録記載15ないし18の各製剤を,被告テバ

製薬は,上記と同様に使用される同目録記載19ないし22の各製剤を,

被告日医工は,上記と同様に使用される同目録記載23ないし26の各製

剤を,被告辰巳化学は,上記と同様に使用される同目録記載27ないし3

0の各製剤を,被告小林化工は,上記と同様に使用される同目録記載31

ないし34の各製剤を,被告持田製薬は,上記と同様に使用される同目録

記載35及び36の各製剤を,それぞれ廃棄せよ。

ウ 被告日新製薬は,別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬品と組み合わ

せて糖尿病の予防・治療用医薬として使用するとの効能効果を備えた別紙

製剤目録記載1ないし4の各製剤を,被告高田製薬は,上記効能効果を備

えた同目録記載5ないし8の各製剤を,被告富士フイルムファーマは,上

記効能効果を備えた同目録記載9ないし12の各製剤を,被告サンドは,

上記効能効果を備えた同目録記載13及び14の各製剤を,被告第一三共

エスファは,上記効能効果を備えた同目録記載15ないし18の各製剤を,

被告テバ製薬は,上記効能効果を備えた同目録記載19ないし22の各製

剤を,被告日医工は,上記効能効果を備えた同目録記載23ないし26の

各製剤を,被告辰巳化学は,上記効能効果を備えた同目録記載27ないし

3
3 0の各製剤を,被告小林化工は,上記効能効果を備えた同目録記載31

ないし34の各製剤を,被告持田製薬は,上記効能効果を備えた同目録記

載35及び36の各製剤を,それぞれ自己又は第三者のために製造し,販

売し又は販売の申出をしてはならない。

エ 被告日新製薬は,別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬品と組み合わ

せて糖尿病の予防・治療用医薬として使用するとの効能効果を備えた別紙

製剤目録記載1ないし4の各製剤を,被告高田製薬は,上記効能効果を備

えた同目録記載5ないし8の各製剤を,被告富士フイルムファーマは,上

記効能効果を備えた同目録記載9ないし12の各製剤を,被告サンドは,

上記効能効果を備えた同目録記載13及び14の各製剤を,被告第一三共

エスファは,上記効能効果を備えた同目録記載15ないし18の各製剤を,

被告テバ製薬は,上記効能効果を備えた同目録記載19ないし22の各製

剤を,被告日医工は,上記効能効果を備えた同目録記載23ないし26の

各製剤を,被告辰巳化学は,上記効能効果を備えた同目録記載27ないし

30の各製剤を,被告小林化工は,上記効能効果を備えた同目録記載31

ないし34の各製剤を,被告持田製薬は,上記効能効果を備えた同目録記

載35及び36の各製剤を,それぞれ廃棄せよ。

オ 被告日新製薬は,別紙製剤目録記載1ないし4の各製剤の添付文書,包

装その他の媒体に,被告高田製薬は,同目録記載5ないし8の各製剤の添

付文書,包装その他の媒体に,被告富士フイルムファーマは,同目録記載

9ないし12の各製剤の添付文書,包装その他の媒体に,被告サンドは,

同目録記載13及び14の各製剤の添付文書,包装その他の媒体に,被告

第一三共エスファは,同目録記載15ないし18の各製剤の添付文書,包

装その他の媒体に,被告テバ製薬は,同目録記載19ないし22の各製剤

の添付文書,包装その他の媒体に,被告日医工は,同目録記載23ないし

26の各製剤の添付文書,包装その他の媒体に,被告辰巳化学は,同目録

4
記 載27ないし30の各製剤の添付文書,包装その他の媒体に,被告小林

化工は,同目録記載31ないし34の各製剤の添付文書,包装その他の媒

体に,被告持田製薬は,同目録記載35及び36の各製剤の添付文書,包

装その他の媒体に,それぞれ別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬品と

組み合わせて糖尿病の予防・治療用医薬として使用するとの効能効果の記

載をしてはならない。

カ 被告日新製薬は,別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬品と組み合わ

せて糖尿病の予防・治療用医薬として使用するとの効能効果の記載をした

別紙製剤目録記載1ないし4の各製剤の添付文書,包装その他の媒体を,

被告高田製薬は,上記効能効果の記載をした同目録記載5ないし8の各製

剤の添付文書,包装その他の媒体を,被告富士フイルムファーマは,上記

効能効果の記載をした同目録記載9ないし12の各製剤の添付文書,包装

その他の媒体を,被告サンドは,上記効能効果の記載をした同目録記載1

3及び14の各製剤の添付文書,包装その他の媒体を,被告第一三共エス

ファは,上記効能効果の記載をした同目録記載15ないし18の各製剤の

添付文書,包装その他の媒体を,被告テバ製薬は,上記効能効果の記載を

した同目録記載19ないし22の各製剤の添付文書,包装その他の媒体を,

被告日医工は,上記効能効果の記載をした同目録記載23ないし26の各

製剤の添付文書,包装その他の媒体を,被告辰巳化学は,上記効能効果の

記載をした同目録記載27ないし30の各製剤の添付文書,包装その他の

媒体を,被告小林化工は,上記効能効果の記載をした同目録記載31ない

し34の各製剤の添付文書,包装その他の媒体を,被告持田製薬は,上記

効能効果の記載をした同目録記載35及び36の各製剤の添付文書,包装

その他の媒体を,それぞれ廃棄せよ。

2 被告らは,各自1500万円並びにうち500万円に対する訴状送達の日の

翌日から,うち1000万円に対する平成24年6月20日付「訴えの追加的

5
変 更申立書」送達の日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支

払え。

第2 事案の概要

本件は,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療用医薬に関する特許権を有

する原告が,被告らがピオグリタゾン製剤を製造,販売する行為が原告の特許

権を侵害するか,又はこれを侵害するものとみなされると主張して,被告らに

対し,(1) 主位的に,それぞれのピオグリタゾン製剤の製造,販売及び販売

の申出の差止めと廃棄を,予備的に,別紙医薬品目録記載1,2又は3の医薬

品と組み合わせて糖尿病の予防・治療用医薬として使用されるそれぞれのピオ

グリタゾンの製造,販売及び販売の申出の差止めと廃棄,上記糖尿病の予防・

治療用医薬として使用するとの効能効果を備えたそれぞれのピオグリタゾンの

製造,販売及び販売の申出の差止めと廃棄並びに添付文書等への上記効能効果

の記載の差止めと廃棄を求めるとともに,(2) 民法709条に基づく損害賠

償金として,それぞれ1500万円及びうち500万円に対する不法行為の後

である訴状送達の日の翌日から,うち1000万円に対する不法行為の後であ

る平成24年6月20日付「訴えの追加的変更申立書」送達の日の翌日から各

支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で

ある。

1 前提事実(争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認める

ことができる。)

(1) 本件特許権

原告は,次の各特許(以下「本件第1特許」,「本件第2特許」といい,

併せて「本件各特許」という。)に係る特許権(以下「本件第1特許権」,

「本件第2特許権」といい,併せて「本件各特許権」という。)を有してい

る。

ア 本件第1特許権

6
特 許番号 第3148973号

発明の名称 医薬

出願日 平成8年6月18日

国内優先権主張日 平成7年6月20日

登録日 平成13年1月19日

イ 本件第2特許権

特許番号 第3973280号

発明の名称 医薬

出願日 平成9年12月26日

原出願日 平成8年6月18日

国内優先権主張日 平成7年6月20日

登録日 平成19年6月22日

(2) 本件各発明

ア 本件第1特許の願書に添付した明細書(以下「本件第1明細書」とい

う。)の特許請求の範囲の請求項1及び5の記載は,次のとおりである

(この記載は,平成22年7月27日付けの訂正請求による訂正後のもの

である。以下,この請求項1に係る発明を「本件第1発明1」と,この請

求項5に係る発明を「本件第1発明2」といい,併せて「本件第1発明」

という。)。

「【請求項1】(1)ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩

と,(2)アカルボース,ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα

−グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併

症の予防・治療用医薬。」

「【請求項5】α−グルコシダーゼ阻害剤がボグリボースである請求項

1記載の医薬。」

イ 本件第2特許の願書に添付した明細書(以下「本件第2明細書」とい

7
う 。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3及び7の記載は,次のとおり

である(この記載は,平成22年7月27日付けの訂正請求による訂正後

のものである。以下,この請求項1に係る発明を「本件第2発明1」,こ

の請求項2に係る発明を「本件第2発明2」,この請求項3に係る発明を

「本件第2発明3」,この請求項7に係る発明を「本件第2発明4」とい

い,併せて「本件第2発明」という。)。

「【請求項1】ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,

ビグアナイド剤とを組み合わせてなる,糖尿病または糖尿病性合併症の予

防・治療用医薬。」

「【請求項2】ビグアナイド剤がフェンホルミン,メトホルミンまたは

ブホルミンである請求項1記載の医薬。」

「【請求項3】ビグアナイド剤がメトホルミンである請求項1記載の医

薬。」

「【請求項7】0.05〜5mg/kg体重の用量のピオグリタゾンま

たはその薬理学的に許容しうる塩と,グリメピリドとを組み合わせてなる,

糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。」

(3) 被告らは,いずれもピオグリタゾン塩酸塩錠又はピオグリタゾン塩酸塩

口腔内崩壊錠である別紙製剤目録記載の各ピオグリタゾン錠(以下「被告ら

各製剤」という。)につき,それぞれ薬事法に基づく製造販売承認を受けて,

これらの製造販売を開始した。また,被告ら各製剤については健康保険法に

基づく薬価基準への収載が行われた。

被告ら各製剤の添付文書には,次の記載がある。(甲9,10,12ない

し20)

「【効能・効果】

2型糖尿病

ただし,下記のいずれかの治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗性

8
が 推定される場合に限る。

1.@食事療法,運動療法のみ

A食事療法,運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用

B食事療法,運動療法に加えてα−グルコシダーゼ阻害剤を使用

C食事療法,運動療法に加えてビグアナイド系薬剤を使用

2.食事療法,運動療法に加えてインスリン製剤を使用

【用法・用量】

1.食事療法,運動療法のみの場合及び食事療法,運動療法に加えてスル

ホニルウレア剤又はα−グルコシダーゼ阻害剤若しくはビグアナイド

系薬剤を使用する場合

通常,成人にはピオグリタゾンとして15〜30mgを1日1回朝食前

又は朝食後に経口投与する。なお,性別,年齢,症状により適宜増減

するが,45mgを上限とする。

2.食事療法,運動療法に加えてインスリン製剤を使用する場合

通常,成人にはピオグリタゾンとして15mgを1日1回朝食前又は朝

食後に経口投与する。なお,性別,年齢,症状により適宜増減するが,

30mgを上限とする。」

(4) 被告ら各製剤は,本件第1発明及び本件第2発明(以下,併せて「本件

各発明」という。)の「ピオグリタゾンの薬理学的に許容しうる塩」に該当

する。

2 争点

(1) 被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが本件各特許権を侵害する

か否か(争点1)

ア 被告らが医療関係者や患者の行為を利用,支配して本件各発明を実施

ているといえるか否か(争点1−1)

イ 被告らが医療関係者を教唆して本件各発明を実施しているといえるか否

9
か (争点1−2)

(2) 被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが特許法101条2号に掲

げる行為に該当するか否か(争点2)

ア 被告ら各製剤が「その物の生産に用いる物」に当たるか否か(争点2−

1)

イ 被告ら各製剤が「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当

たるか否か(争点2−2)

ウ 被告ら各製剤が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たる

か否か(争点2−3)

エ 被告らが「その発明が特許発明であること及びその物の発明実施に用

いられることを知りながら」被告ら各製剤の生産等をしていたか否か(争

点2−4)

(3) 本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか

否か(争点3)

ア 本件各発明が「産業上利用することができる発明」に該当しないか否か

(争点3−1)

イ 本件各発明が新規性を有しないか否か(争点3−2)

(ア) 本件各発明が別紙引用例目録記載1の刊行物(以下「引用例1」と

いう。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と同一であ

るか否か(争点3−2−1)

(イ) 本件各発明が同目録記載2の刊行物(以下「引用例2」という。)

に記載された発明(以下「引用発明2」という。)と同一であるか否か

(争点3−2−2)

(ウ) 本件第1発明及び本件第2発明4が同目録記載3の刊行物(以下

「引用例3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」とい

う。)と同一であるか否か(争点3−2−3)

10
( エ) 本件第2発明1ないし3が同目録記載4の刊行物(以下「引用例

4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。)と同

一であるか否か(争点3−2−4)

(オ) 本件第2発明4が同目録記載5の刊行物(以下「引用例5」とい

う。)に記載された発明(以下「引用発明5」という。)と同一である

か否か(争点3−2−5)

ウ 本件各発明が進歩性を有しないか否か(争点3−3)

(ア) 本件各発明は引用発明1,2又は3に基づき当業者が容易に発明

ることができたか否か(争点3−3−1)

(イ) 本件第2発明1ないし3は引用発明4,5又は同目録記載6の刊行

物(以下「引用例6」という。)に記載された発明(以下「引用発明

6」という。)に基づき当業者が容易に発明することができたか否か

(争点3−3−2)

(ウ) 本件第2発明4は引用発明4,5又は同目録記載7の刊行物(以下

「引用例7」という。)に記載された発明(以下「引用発明7」とい

う。)に基づき当業者が容易に発明することができたか否か(争点3−

3−3)

エ 本件各発明において,明確性要件,実施可能要件又はサポート要件を充

足しないか否か(争点3−4)

オ 本件各特許につき補正要件を充足しないか否か(争点3−5)

(4) 原告が差止めを請求することができるか否か(争点4)

(5) 原告が薬価基準収載品目削除願の提出を請求することができる か 否 か

(争点5)

(6) 原告が廃棄を請求することができるか否か(争点6)

(7) 原告の損害額(争点7)

3 争点に関する当事者の主張

11
(1) 争点1(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが本件各特許権を

侵害するか否か)

ア 争点1−1(被告らが医療関係者や患者の行為を利用,支配して本件各

発明を実施しているといえるか否か)について

(原告)

医療現場においては,ピオグリタゾン製剤とα−グルコシダーゼ阻害剤,

ビグアナイド剤又はスルフォニル尿素剤(以下「SU剤」という。これら

3種を併せて「本件各併用薬」という。)の併用治療を必要とする極めて

多数の患者が存在するところ,被告らが被告ら各製剤を医療機関及び保険

薬局に対して販売した場合,医師は,2型糖尿病患者の症状等を勘案し,

@ ピオグリタゾンとα−グルコシダーゼ阻害剤との併用投与,A ピオ

グリタゾンとSU剤(グリメピリド)との併用投与,又はB ピオグリタ

ゾンとビグアナイド剤との併用投与の必要があると判断したときは,患者

に対して当該処方せんを交付しなければならないが(医師法22条柱書),

医師が上記各併用を実施する方針を決定し,当該併用の実施に係る処方せ

んを作成,発行して,患者に対して当該併用に係る服薬の指導をした後は,

これに基づいて薬剤師が患者に対してピオグリタゾンと本件各併用薬とを

用意して併せまとめて交付し,これにより,患者はピオグリタゾンと本件

各併用薬とを服用するという因果の流れをたどることになる。このように,

医療現場においては,ピオグリタゾンと本件各併用薬との併用投与による

治療が必要な症状を有する患者が多数存在する限り,医師,薬剤師,患者

の自由意思によらず,当然に本件各発明の実施行為が招来される。そして,

被告らは,被告ら各製剤が原告の製造販売するピオグリタゾン製剤「アク

トス」と同様の実態で使用されることを十分に認識し,そのような実態を

利用することで利益を得ている。

被告らは,医療現場の実態に加え,ピオグリタゾンと本件各併用薬との

12
併 用投与による治療を必要とする患者の症状等の制約に起因して,自由意

思によらずに本件各発明を実施する医師,薬剤師,患者の行為を道具とし

て利用し,これを支配することによって,本件各発明の実施を招来せしめ

ているから,被告らは,被告ら各製剤を製造販売することにより,他者

(医師,薬剤師,患者)をして,本件各発明を実施していると規範的に評

価することができる。

(被告ら)

ピオグリタゾンと他の経口糖尿病薬を準備して,それらを併せまとめる

行為は,そもそも,本件各発明の実施行為(生産等)に当たらない。

医療現場において,医師は,患者を診断し,個々に相違する患者の年齢,

性別,体格,体質,病歴等に応じ,自らの裁量に基づいて最良と判断する

治療方針に基づいて処方薬剤等を決定するのであり,この極めて高度で専

門的な判断について,製薬会社が医師を道具として利用,支配していると

いうことはあり得ない。また,薬剤師,患者の行為は,医師の処方に基づ

くものであって,医師が道具として認められないときに,薬剤師や患者を

道具として観念する余地はない。しかも,ピオグリタゾン単剤の処方や本

件各発明と関係のない併用処方が多様な組合せで数多くされているのであ

って,常に本件各発明の実施行為が招来されるということもない。

イ 争点1−2(被告らが医療関係者を教唆して本件各発明を実施している

といえるか否か)について

(原告)

被告らは,ピオグリタゾンと本件各併用薬とが数多く併用されている実

態を認識した上で,被告ら各製剤のみならず本件各併用薬をもそれぞれ医

療機関や保険薬局に継続的かつ大量に供給し,また,被告ら各製剤の添付

文書その他の情報提供文書において,本件各発明に係る効能,効果を明記

し,【用法・用量】欄に併用時の具体的用量を明記することによって,医

13
師 に対して本件各発明に係る処方が可能であることを積極的に情報提供し

ている。さらに,被告らは,医療関係者に対して被告ら各製剤と自身が販

売する本件各併用薬を併せて購入し,これらを組み合わせて併用投与を行

うよう積極的に推奨している。

このように,被告らは,医療関係者に対し,@ 被告ら各製剤と被告ら

が製造する本件各併用薬を購入すること,A 被告ら各製剤と被告らが製

造する本件各併用薬の併用投与が可能であること,B 併用する際には,

被告ら各製剤と被告らが製造する本件各併用薬の併用が望ましいと考えて

いることについて,それぞれ積極的に情報提供し,働きかけているのであ

り,このような併用投与の教唆行為は,それ自体として本件各特許権の直

侵害を構成する。

(被告ら)

そもそも,積極的に教唆行為を行った場合に,これが特許権の侵害行為

を構成することの法的根拠はない。

また,被告らが被告ら各製剤を販売するに当たり,本件各併用薬との併

用使用を薦めたり促したりする事実はないし,被告ら各製剤の添付文書の

記載も,あくまでピオグリタゾンが有する効能,効果等についての客観的

な情報や使用についての注意事項を述べたものであって,本件各併用薬と

の2剤併用の形で使用することを推奨,助長するものではなく,被告ら各

製剤を単剤で使用するか,併用するかは,個々の患者を前にして,医師が

その裁量によって判断をするもので,当該医師の高度な裁量判断が添付文

書の記載内容によって左右されるものではない。

(2) 争点2(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが特許法101条

2号に掲げる行為に該当するか否か)

ア 争点2−1(被告ら各製剤が「その物の生産に用いる物」に当たるか否

か)について

14
( 原告)

(ア) 「その物」の意義と該当性について

特許発明に係る「物」及び特許発明と対比されるべき対象は,いずれ

も特許製品(直接侵害品)に具現化された技術的思想としての「物」で

あり,有形物それ自体ではない。

これを本件各発明のような組合せ医薬発明についてみれば,特許請求

の範囲及び明細書によって特段の限定がされていない限り,本件各発明

技術的思想は,有形物それ自体の存在形態に左右されるものではなく,

物理的に別々の製剤形態をとっていたとしても,同一対象に投与する目

的で併せまとめられたり,各製剤の組合せによって患者の体内において

所定の薬効が実現されたりして技術的思想が具現化されたものとして把

握できるのであれば,そのような組合せ態様は,当該技術的思想を具現

化した特許発明に係る「物」及び特許発明と対比されるべき対象に該当

する。

本件各発明は,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを「組み合わせてな

る」医薬として規定されているが,本件各発明に係る特許請求の範囲

「組み合わせてなる」とは,文字どおり,ピオグリタゾンと本件各併用

薬とを組み合わせて一つのまとまりのある医薬が作出される状態を意味

するのであって,その文言形式上,組合せ態様を具体的に限定していな

いし,配合剤やキット製品であることを要求するものでもない。

また,本件第1明細書及び本件第2明細書(以下,併せて「本件各明

細書」という。)の発明の詳細な説明に,「有効成分を別々に製剤化し

た場合,別々に製剤化したものを使用時に希釈剤などを用いて混合して

投与することができるが,別々に製剤化したものを,別々に,同時に,

または時間差をおいて同一対象に投与してもよい。」(【0035】)

と記載されていることからすれば,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを

15
組 み合わせる態様としては,@ ピオグリタゾン(有効成分)と本件各

併用薬に係る他の有効成分とを医薬組成物とする態様(医薬組成物類

型)のみならず,A 別々に製剤化したピオグリタゾン製剤と本件各併

用薬製剤とを使用時に希釈剤などを用いて混合する態様(混合類型)や

B 別々に製剤化したピオグリタゾン製剤と本件各併用薬製剤とを別々

にしたままで同一対象に投与するために単に併せまとめる態様(併せと

りまとめ類型)が含まれる。

そして,各製剤の組合せによって患者の体内において所定の薬効を実

現する医薬であれば,技術的思想が具現化したものとして把握すること

ができるのであって,そのような組合せ態様も,技術的思想を具現化し

特許発明に係る「物」及び特許発明と対比されるべき対象に該当する。

(イ) 「生産」の意義と該当性について

a 特許製品の「生産」とは,一般的に,特許発明実施物を作出する

ことを意味し,実施物を作り出したか否かについては,当該物に当該

発明の技術的思想が具現化し,当該発明の作用効果を奏し得る状況に

達しているか否かを本来的な基準として判断すべきであって,特許製

品が物理的一体性をもって作出されている場合に限定する必要はない。

本件各発明は,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを組み合わせるこ

とによって,「糖尿病時の高血糖に対して優れた低下作用を発揮」

(本件各明細書の発明の詳細な説明の【0045】)するという効果

を実現するものであるから,ピオグリタゾンと本件各併用薬とが体内

でそれぞれ薬効を発揮する結果,血糖値の低下作用という本件各発明

の効果が実現することをもって,「生産」と捉えることができる。端

的にいえば,薬効が発揮されて発明の効果が実現されていれば,「生

産」がされたといえる。すなわち,前記(ア)記載のいかなる態様によ

ってであれ,ピオグリタゾンと本件各併用薬とが組み合わせられさえ

16
す れば,本件各発明の技術的範囲に属する医薬が「生産」されたとい

うことができる。

b 医師は,2型糖尿病患者を診察し,その治療のためにピオグリタゾ

ンと本件各併用薬との併用投与の必要があると判断したときは,当該

併用の実施に係る処方せんを作成,発行して,当該患者に対して,当

該併用に係る指導をする。患者は,医師から処方せんを受領し,薬局

でこれを薬剤師に提示し,薬剤師は,患者から提示された処方せんに

従い,患者に対して,別々に製剤化されたピオグリタゾンと本件各併

用薬とを用意して併せまとめて交付し,薬剤の使用に関する情報提供

をする。患者は,このようにして受領したピオグリタゾン及び本件各

併用薬を,医師及び薬剤師の指導に従い服用する。

こうした流れにおいては,以下に述べるとおり,薬剤師,患者及び

医師のいずれを本件各発明の実施行為者ととらえても,「組み合わせ

てなる医薬」の「生産」がされているということができる。

(a) 薬剤師による「生産」

別々に製剤化したピオグリタゾンと本件各併用薬とを別々の製剤

のまま同一対象に投与するために併せまとめる態様(併せとりまと

め類型)が本件各発明の技術的範囲に含まれることは,前記のとお

りであり,薬剤師が,同一の患者に交付するために,被告ら各製剤

と本件各併用薬の双方を用意し,これらの各薬剤を併せまとめる行

為は,薬剤師を実施行為者として,本件各発明の技術的範囲に属す

る医薬を「生産」するものと解することができる。また,別々に製

剤化したピオグリタゾンと本件各併用薬とを同一対象に投与するこ

とは,本件各発明の医薬の「使用」に該当するところ,予め「生

産」された医薬が投与(使用)されると解することが自然であるこ

とからすると,投与(使用)される前提として,本件各発明として

17
の 組み合わせてなる医薬が予め「生産」されるということもできる。

(b) 患者による「生産」

患者が薬剤師から被告ら各製剤と本件各併用薬を受領し,これら

を同時又は異時に経口服用することによって,患者の体内において

「組み合わせてなる医薬」が生産され,これにより本件各発明の薬

効や治療上の効果(作用効果)が実現される。すなわち,個々の医

薬(有効成分)を組み合わせた集合体としての医薬自体は,必ずし

も配合剤(医薬組成物)として一体製剤化されていないとしても,

個々の医薬(有効成分)を組み合わせて順次所定の投与量,投与間

隔にて患者に投与されることによって,規範的,概念的に特許発明

に係る医薬が生み出され,その結果として特許発明が所定する薬効

や治療上の効果が実現され,「生産」がされたものと評価すること

ができる。これは,ソフトウェアをパソコンにインストールする行

為が特許法101条2号所定の「生産」に該当するのと同様である。

本件において患者がピオグリタゾンと本件各併用薬とを服用し,

体内でそれぞれ薬効を発揮する結果,血糖値の降下作用が発生し,

本件各発明の効果が実現することをもって,患者を実施行為者とし

て,特許請求の範囲の「組み合わせてなる医薬」が「生産」された

と認められるというべきである。

(c) 医師による「生産」

医師が,ひとたび被告ら各製剤と本件各併用薬との併用処方方針

を決定して,当該処方にかかる処方せんを作成し,患者に当該併用

に係る服薬の指導をすれば,薬剤師は,必然的に,患者に対してピ

オグリタゾンと本件各併用薬とを併せまとめて交付し,患者は,必

然的に,それらを同時又は異時に服用する。

そうすると,医師は,「組み合わせてなる医薬」の生産を物理的

18
に 自ら直接行うわけではないが,規範的に見れば,医師は,薬剤師

又は患者による「組み合わせてなる医薬」の「生産」の行為主体で

あると評価することができる。

(被告ら)

(ア) 「その物」の意義について

被告らによる被告ら各製剤の製造,販売等について間接侵害が認めら

れるためには,被告ら各製剤を用いて生産される物が,本件各発明の構

成要件を充足し,本件各発明の技術的範囲に属する「物」と認められる

ことが必要である。そして,特許発明技術的範囲は,願書に添付した

特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず(特許法70条

項),特許発明技術的範囲を定める場合には,願書に添付した明細書

の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を

解釈すべきものとされている(同条2項)。

本件各発明に係る「物」は,いずれも2種の有効成分を「組み合わせ

てなる」「予防・治療用医薬」という「物」であるから,文理上,社会

的に1個の医薬として観念できる有体物ないしは有体物と観念できるも

のでなければならないし,組合せに用いられる医薬とは別個の医薬と認

識することができるものでなければならない。そうすると,両成分が

別々に製剤化されたものを,別々のままで同時に又は時間を置いて同一

対象に投与する場合には,1個の「医薬」を観念することはできない。

(イ) 「生産」の意義について

a 「生産」とは,その社会通念上の意味に照らし,特許発明の対象た

る物を何らかの加工,組立て等の行為により新たに作り出す行為を指

し,素材の本来の用途に従って使用するに過ぎない行為は含まれない

と解すべきである。

被告ら各製剤は,そのまま譲渡されたり使用(投与)されたりする

19
こ とこそあれ,それを素材として新たな物を作り出す行為には用いら

れないから,被告ら各製剤を譲渡したり使用したりする行為があると

しても,これはあくまでも被告ら各製剤そのものの「譲渡」ないしは

「使用」という行為に該当するにすぎず,これを素材とした新たな物

の「生産」には該当しない。

b 医師は2つの単剤を単剤のまま服用するように患者に処方し,薬剤

師は2つの単剤を単剤のまま患者に交付し,患者は2つの単剤を単剤

のまま服用するのであり,この一連の行為において新たな医薬品は何

も生産されない。医薬品メーカーにおいて既に医薬品として別々に生

産されて,別々の販売名を付された2つの単剤を,それぞれ単剤のま

ま患者が服用するだけの過程である。この一連の過程に,「組み合わ

せてなる医薬」は存在しないし,「生産」という実施行為もなく,医

師の処方に従って薬剤師が交付した2つの単剤を患者が服用するとい

う「方法の使用」だけが認められるのであって,併用療法は,「物の

発明」に該当せず,本件各発明の技術的範囲に含まれない。

(a) 薬剤師が,処方せんに従い患者のために調剤する過程で複数の

薬剤を取り揃えて寄せ集めるなど,複数の薬剤を「併せまとめる行

為」は,「生産」の通常の意味からしても,独立して一体的・商業

的に譲渡の対象となるような新たな「物」を作り出す行為ともいえ

ないことからしても,社会通念上,「生産」に該当しない。

(b) 患者の服用行為は,特許法の定める「使用」行為以外の何物で

もなく,「生産」行為ではあり得ないし,患者の体内においては,

いかなる医薬も「組み合わされて」いないし,組み合わされた状態

に「なる」こともない。

(c) 医師等が複数の医薬を併用投与することは投薬行為であり,医

師等の処方により複数の医薬が併せまとめられた状態は,投薬行為

20
の 結果そのものであって,この段階ではいまだ医師等の投薬行為の

結果そのものと明確に区別し得る対象物の存在を観念することがで

きず,本件各発明に係る「医薬」が「生産」されたと評価すること

はできない。

イ 争点2−2(被告ら各製剤が「日本国内において広く一般に流通してい

るもの」に当たるか否か)について

(被告ら)

「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,汎用の部品や

材料が,特許発明侵害する製品の製造に用いられたとしても,間接侵害

とならないように設けられた規定であるから,これに該当するのは,特注

品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可

能な状態にある規格品,普及品を指すと解すべきである。

被告ら各製剤は,ピオグリタゾン塩酸塩錠若しくはピオグリタゾン塩酸

塩口腔内崩壊錠であるが,これらは日本薬局方で明確に規格が規定されて

いるから,明らかに規格品に該当する。また,ピオグリタゾン製剤は,本

件各併用薬と併用されるものではあるが,他方で,単剤としても多く使用

され,本件各併用薬以外の糖尿病予防・治療薬との併用に用いることも可

能であって,そうした処方が実に7割を占め,多様なバリエーションで使

用可能な汎用性を有している。そして,被告ら各製剤は,医師が処方せん

を作成すれば,一般に入手することが可能である。

したがって,被告ら各製剤は,特注品ではなく,他の用途にも用いるこ

とができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品であ

るから,「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たる。

(原告)

「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,典型的には,

ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及

21
し ている一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いる

ことができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を

意味するが,その趣旨は,規格品,普及品のようなものについてまで広く

間接侵害の成立を認めることになれば,市場において一般に入手可能な製

品を業として製造販売している者にとって,いつ何時特許権侵害を主張さ

れるか予想できず,取引の安定性を害することになるから,これらを対象

外としたものであると解される。

ピオグリタゾンは,2型糖尿病患者が医療機関を受診した結果,医師が,

インスリン抵抗性改善の治療効果を得る必要があると判断した患者に限り

作成する処方せんに基づいて,初めて入手可能となる処方せん医薬品であ

るから,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品である

ということはできないし,その用途も,2型糖尿病の予防・治療の用途し

かなく,単剤使用やインスリン製剤との併用を除けば,本件各併用薬との

組み合わせてなる医薬としての用途しかないから,およそ汎用品というこ

ともできない。

したがって,ピオグリタゾンが「日本国内において広く一般に流通して

いるもの」に当たるとはいえない。

ウ 争点2−3(被告ら各製剤が「その発明による課題の解決に不可欠なも

の」に当たるか否か)について

(原告)

(ア) 本件各発明が解決しようとする課題は,糖尿病予防・治療薬におい

て,個々の単剤を投与する場合に比して,より優れた薬効を備えるとと

もに,可及的に副作用を低減させた組合せ医薬を開発することにあると

ころ,ピオグリタゾンは,これを用いることにより,初めて本件各発明

が上記課題を解決することができる重要な成分であり,これがなければ,

本件各併用薬との組合せという従来技術には見られない特徴的技術手段

22
を もたらすことはできず,これを他の有効成分に置き換えることもでき

ないから,当該手段を特徴付ける特有の成分(組み合わせてなる医薬の

薬効成分)を直接もたらす特徴的な部材である。

ピオグリタゾンが本件各発明の課題の解決に不可欠なものであること

は明らかであり,被告ら各製剤は,有効成分としてピオグリタゾンを含

んでいるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当す

る。

(イ) 「その発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,字義どおり,

発明が解決した課題との関係において,当該課題の解決に不可欠である

と評価できるものを意味し,間接侵害品がその発明によって新たに開示

されたものであることを必要としないから,当該「もの」が従来(公

知)技術である場合がこれに当たらないと解すべき根拠はない。そうで

あるから,ピオグリタゾンがたとえ公知の部材であったとしても,これ

が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当することを否定

する理由はない。

仮にそうでないとしても,本件各発明との関係において新たに見出さ

れたピオグリタゾンの物質属性は,ピオグリタゾンが単剤として存在し

ていたことによって当然に公知となっていたものではなく,原告は,本

件各発明を完成するに当たり,ピオグリタゾンを他の糖尿病治療薬と組

み合わせるまでは発揮されなかったところの従来技術(ピオグリタゾン

単剤)に見られない物質属性を新たに見出したのであるから,ピオグリ

タゾンは,本件各発明に係る「組み合わせてなる医薬」との関係におい

て,それ(ピオグリタゾンが他の糖尿病治療薬と組み合わされるまでは

発揮されなかった物質属性)を用いることにより初めて発明が解決しよ

うとする課題が解決されるような部品,道具,原料等に該当し,組み合

わせてなる医薬発明にとって些末な部品等ではなく,重要な部品等であ

23
る ことが明らかである。また,ピオグリタゾンが他の糖尿病治療薬と組

み合わされるまで発揮されなかった物質属性は,組み合わせてなる医薬

発明が新たに開示する,従来技術に係る医薬には見られない特徴的技術

手段(ピオグリタゾンと本件各併用薬との組合せ)について,当該技術

事項を特徴付けている特有の成分を直接もたらすものであり,ピオグリ

タゾンが他の糖尿病治療薬と組み合わされるまでは発揮されなかった物

質属性は,本件各発明の解決した「課題の解決に不可欠なもの」に該当

する。

(被告ら)

(ア) 特許発明実施対象となる物を生産するための物品のうち,特許発

明による課題解決を前提とした特有の技術的特徴を有する物品は,たと

特許発明実施以外の他用途が存在するとしても,特許発明実施

用いられる蓋然性が極めて高いから,当該物品の生産,譲渡等の差止

を認めることに合理性があるが,これに対して,特許発明の技術的課題

とは関係なく,従来技術との関係でも一般に用いられる物品は,特許発

明の実施以外の用途でも使用される可能性が高いから,間接侵害の成立

を認めるのは妥当ではない。

特許法101条2号の「発明による課題の解決に不可欠なもの」は,

特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異な

る概念で,当該発明の構成要素以外の物であっても,物の生産や方法の

使用に用いられる道具,原料などを含むが,他方,特許請求の範囲に記

載された発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題

とは無関係に従来から必要とされていたものはこれに当たらない。すな

わち,それを用いることにより,初めて「発明の解決しようとする課

題」が解決されるような部品,道具,原料等が「発明による課題の解決

に不可欠なもの」に該当するものというべきであり,言い換えれば,従

24
来 技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示す

る,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付

けている特有の構成ないし成分を直接もたらす特徴的な部材,原料,道

具等が,これに該当するのである。これに対し,特許請求の範囲に記載

された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開

示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明

による課題の解決に不可欠なもの」に該当しないし,当該部品,道具,

原料等が特許出願前から公知であったときには,その部品等そのものが

特許発明による従来技術への貢献ということはあり得ないから,その発

明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたもの

は,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。

本件各発明は,本件各明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】

ないし【0004】に記載されているように,いずれもピオグリタゾン

に代表されるインスリン感受性増強剤を従来技術とし,個々の薬剤の単

独投与においては,症状によっては十分な効果が得られないこと等の

種々の問題を解決するために,他の作用機序を有する他の糖尿病予防・

治療薬を組み合わせたことを特徴的技術手段とする発明である。

これに対し,被告ら各製剤は,本件各発明において従来技術とされて

いる公知物質のピオグリタゾンであり,その有効成分は,その発明が解

決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたもので,そ

れ自体では,本件各発明の特徴的技術手段である,他の作用機序を有す

る他の糖尿病治療・予防薬との組合せを有しないし,当該組合せに特徴

的な部材,原料,道具等でもない。

したがって,被告ら各製剤は,「発明による課題の解決に不可欠なも

の」に該当しない。

(イ) 本件各発明は,個々の糖尿病予防・治療薬を単独で投与した場合に

25
生 じる問題を,ピオグリタゾンと本件各併用薬を組み合わせることで解

決するとするものであって,本件各発明がその解決手段として新たに開

示したのは,本件優先日前から公知であったピオグリタゾン自体ではな

く,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを「組み合わせる」ことであるか

ら,ピオグリタゾン製剤自体は,本件各併用薬との「組合せ」という本

件各発明の特徴的技術手段とはいえない。

また,ピオグリタゾン単剤に見られない物質属性が発揮されるために

は,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを「組み合わせる」という技術的

解決手段こそが不可欠である。

エ 争点2−4(被告らが「その発明が特許発明であること及びその物の発

明の実施に用いられることを知りながら」被告ら各製剤の生産等をしてい

たか否か)について

(原告)

被告らが,訴状送達の日以降に本件各発明が特許発明であることを認識

したことは明らかであるが,被告らを含めた後発医薬品メーカー合計27

社が平成23年1月に薬事法に基づく製造承認を受け,原告が,被告らに

対し本件各発明を明記した文書を送付しているから,被告らは,少なくと

も同月以降は,本件各発明が特許発明であることを認識している。

(被告ら)

被告ら各製剤は,現場の医師の裁量の下で,各患者にそれぞれ適合した

個別的な判断に基づき,様々な方法で患者に投与されるものであり,被告

らは,被告ら各製剤が医療現場で現実にどのように用いられるかを知る立

場になく,もとより何らかの医薬品の「生産」やその後の実施に用いられ

るという認識もないから,被告ら各製剤が「その発明の実施に用いられる

こと」を認識していない。

(3) 争点3(本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認め

26
ら れるか否か)

ア 争点3−1(本件各発明が「産業上利用することができる発明」に該当

しないか否か)について

(被告ら)

本件各発明に係る物は,いずれも2種の有効成分を「組み合わせてな

る」医薬であるところ,患者に対し,いつどのような方法によりどの薬剤

を投与するかの決定は,医師の専権に属する事項であり,別々に製剤化し

た2種の薬剤を患者に投与する場合に,その2種の薬剤が「組み合わせて

なる」医薬に該当するとすれば,その2種の薬剤を組み合わせた医師が本

件各発明を実施することになるから,仮に,原告が主張するように,両有

効成分が別々に製剤化されたものを別々のままで同時に又は時間を置いて

同一対象に投与する行為が本件各発明の技術的範囲に含まれるというので

あれば,本件各発明は,実質的には医療方法に関する発明となり,「産業

上利用することができる発明」に該当しないこととなる。

したがって,原告の主張を前提にすると,本件各発明は,特許法29条

1項に違反する。

(原告)

本件各発明は,あくまでも医薬という物の発明であり,医療方法の発明

ではないから,およそ産業上の利用可能性の問題は生じない。

イ 争点3−2(本件各発明が新規性を有しないか否か)

(ア) 争点3−2−1(本件各発明が引用発明1と同一であるか否か)に

ついて

(被告ら)

a 引用例1には,インスリン抵抗性改善剤としてピオグリタゾン(A

D−4833)等があること,α−グルコシダーゼ阻害剤としてアカ

ルボース,ミグリトール及びボグリボースがあること,SU剤の一種

27
と してグリメピリドがあることの記載や,これらの薬剤の効果効用に

ついての記載があるほか,これらの併用投与に関し,次の記載がある。

「糖尿病状態になれば,病状と分泌不全と抵抗性とのバランスによ

り,以下の薬剤の組み合わせが試みられる(図6)。」

「空腹時血糖が110mg/dlから139mg/dlであれば,空腹時の肝

糖産生抑制するために就寝前にスルフォニール尿素剤の経口投与,あ

るいはインスリン抵抗性改善剤やビグアナイド剤の投与が試みられる

が,やはりそれらとα−グルコシダーゼ阻害剤の併用が好ましい。次

に空腹時血糖が140mg/dlから199mg/dlであれば,スルフォニー

ル尿素剤単独投与,スルフォニール尿素剤とインスリン抵抗性改善薬

との併用が試みられる。しかし同様にα−グルコシダーゼ阻害剤の併

用という3者併用療法が好ましい。」

「やはりα−グルコシダーゼ阻害剤の併用による食後過血糖のより

効果的な是正が好ましい。さらに必要に応じてインスリン抵抗性改善

薬との併用によりインスリン需要量の軽減が期待される。」

そして,別紙「図6 NIDDMの新薬と新しい治療プラン」には,

インスリン抵抗性改善薬と,α−グルコシダーゼ阻害剤,ビグアナイ

ド剤,又はSU剤との併用についての記載がある。

b(a) 本件第1発明について

引用例1には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

の記載,アカルボース,ボグリボース及びミグリトールから選ばれ

るα−グルコシダーゼ阻害剤の記載,両者の併用投与についての記

載があるところ,併用療法に適した複数の医薬を併用投与する場合

に,その一態様として,両剤を組み合わせた医薬とすることが可能

であることは技術常識であるから,引用例1にいう薬剤の「併用」

の態様の中には,組合せ医薬であることも含有される。

28
し たがって,本件第1発明は,引用発明1と同一又は実質的に同

一である。

(b) 本件第2発明1ないし3について

本件第2発明1ないし3は,ピオグリタゾンとビグアナイド剤と

を組み合わせてなる糖尿病薬に係る発明であるから,本件第2発明

1ないし3は,引用発明1と同一又は実質的に同一である。

(c) 本件第2発明4について

引用例1には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

の記載,グリメピリドの記載,両者の併用投与についての記載があ

るところ,組合せ医薬が引用例1にいう「併用」に含まれることは

前記(a)記載のとおりである。

もっとも,本件第2発明4は,「0.05〜5mg/kg体重」との

限定があるが,これは,体重60kgの患者の場合に3mg〜300mg

というピオグリタゾンの有効成分量としては極めて広範な用量を定

めるもので,本件第2明細書の発明の詳細な説明に,「例えばイン

スリン感受性増強剤は,成人1人当たり経口投与の場合,臨床用量

である0.01〜10mg/kg体重(好ましくは0.05〜10mg/

kg体重,さらに好ましくは0.05〜5mg/kg体重),非経口的に

投与する場合は0.005〜10mg/kg体重(好ましくは0.01

〜10mg/kg体重,さらに好ましくは0.01〜1mg/kg体重)の

範囲で選択でき」(【0039】)と記載されていることからして

も,上記限定は,臨床用量に比しても幅広く,実質的にみて技術的

な意味はないから,引用例1の記載をもって,本件第2発明4の

「0.05〜5mg/kg体重の用量のピオグリタゾンまたはその薬理

学的に許容しうる塩と,」との要件についても同一又は実質的に同

一の記載があるといえる。

29
し たがって,本件第2発明4は,引用発明1と同一又は実質的に

同一である。

(原告)

a 薬効の増大,副作用の低減といった課題を解決するために,2以

上の医薬成分を組み合わせることは,本件各発明が属する医薬の分

野において通常行われることであるが,医薬の特性上,現実に使用

してみなければ実際の併用効果の有無は分からないということも,

当該分野で周知の事実である。

本件各特許の国内優先権主張日当時,ピオグリタゾンはまだ臨床

試験中で,市場にはインスリン感受性増強剤自体存在せず,同じチ

アゾリジン系インスリン感受性増強剤であるトログリタゾン(CS

−450)では,SU剤やメトホルミンとの併用で,単独投与と差

異がないとの報告がされていた(甲90,乙丙共2−7)のであり,

本件各特許によりピオグリタゾンの併用効果(相乗効果)が実証さ

れる以前は,ピオグリタゾンが異なる作用機序を有する血糖降下剤

との併用により併用効果を発揮するとの予測可能性は極めて低かっ

た。

被告らが挙げるいずれの文献においても,インスリン感受性増強

剤と他の経口血糖降下剤との併用効果は開示されていない。なお,

ここにいう併用効果とは,各薬剤を単独で使用する場合と比較して,

併用により優れた効果が得られるか否かの問題である。被告らが主

張しているのは,ある薬剤では十分な効果が得られない患者に対し,

別な薬剤を追加投与した場合に効果があるか否かという臨床上の併

用の有用性の問題であるに過ぎず,これが認められるのみでは併用

医薬は特許されないのである。

b 引用例1には,ピオグリタゾンと,アカルボース,ボグリボース

30
及 びミグリトールから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤,ビグア

ナイド剤並びにグリメピリドを併用することにより,実際に糖尿病

治療が行われたことは一切記載されていないし,その併用について

糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認したことの記載もない。

しかも,ピオグリタゾンは,インスリン抵抗性改善剤の例示として

記載されているだけで,特にその中からピオグリタゾンに着眼し,こ

れを選択し,これとアカルボース,ボグリボース及びミグリトールか

ら選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤,ビグアナイド剤並びにグリメ

ピリドとの組み合わせにより,併用治療を行うことについての記載や

示唆は全くない。

(イ) 争点3−2−2(本件各発明が引用発明2と同一であるか否か)に

ついて

(被告ら)

a 引用例2には,ピオグリタゾン,α−グルコシダーゼ阻害剤,ビグ

アナイド剤(BG剤)及びグリメピリドの効用効果について記載があ

るほか,これらの併用投与に関し,次の記載がある。

「2)併用療法の可能性と危険性

血糖降下に対する併用療法については,インスリン製剤とSU剤,

SU剤とBG剤との併用が古くから提唱され,症例によっては用いら

れている。とりわけ,前者に関してはSU剤の二次無効例にインスリ

ン治療への切り換え前に一時的に用いることが多い。後者については,

両剤の作用メカニズムが異なることから理論的には,各単独に比べて

より良い効果は十分期待できるので,乳酸アシドーシスと低血糖に注

意して,処方を試みてもおもしろい。

しかし,新しい作用メカニズムをもった経口血糖降下剤が登場する

ことになれば,各薬剤間での併用療法にも新しい展開がみられること

31
が 十分予測されるところである。その可能性を示せば図3となる。イ

ンスリン作用増強剤は,インスリン治療下の患者以外で十分効果が期

待できるのに対し,糖質吸収阻害剤はあらゆる治療法との併用が可能

である。ただし,インスリン製剤およびSU剤との併用にさいしては,

厳に低血糖に注意することが肝要である。ここでいう糖質吸収阻害剤

は,ブドウ糖以外の糖質を意味し,万が一糖質吸収阻害剤で低血糖発

作が出現したさいには,その解消はブドウ糖のみであることを忘れて

はならない。」

そして,別紙「図3 1990年代の経口血糖降下剤による治療−

併用療法−」には,インスリン作用増強剤と糖質吸収阻害剤(α−グ

ルコシダーゼ阻害剤)との併用,インスリン作用増強剤とBG剤(ビ

グアナイド剤)との併用,インスリン作用増強剤とSU剤との併用が

記載されている。

b(a) 本件第1発明について

引用例2には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

の記載,α−グルコシダーゼ阻害剤としてアカルボース及びボグリ

ボースの記載,両者の併用投与についての記載があるところ,組合

せ医薬が引用例2にいう「併用」に含まれることは,前記(ア)(被

告ら)b(a)に記載のとおりである。

したがって,本件第1発明は,引用発明2と同一又は実質的に同

一である。

(b) 本件第2発明1ないし3について

引用例2には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

の記載,ビグアナイド剤の記載,両者の併用投与についての記載が

あるところ,組合せ医薬が引用例2にいう「併用」に含まれること

は前記(a)と同様である。そして,引用例2には,単に「ビグアナ

32
イ ド剤」との記載しかないが,本件第2発明に係る国内優先権主張

日(平成7年6月20日)当時,ビグアナイド剤としては,フェン

ホルミン,メトホルミン及びブホルミンが広く知られていたから,

引用例2に記載された「ビグアナイド剤」がこれらを意味すること

は当業者に自明であり,引用例2には,「フェンホルミン,メトホ

ルミンまたはブホルミン」ないし「メトホルミン」の記載があると

いうことができる。

したがって,本件第2発明1ないし3は,引用発明2と同一又は

実質的に同一である。

(c) 本件第2発明4について

引用例2には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

の記載,グリメピリドの記載,両者の併用投与についての記載があ

るところ,組合せ医薬が引用例2にいう「併用」に含まれることは

前記(a)と同様である。そして,本件第2発明4の「0.05〜5

mg/kg体重」との限定に技術的な意味がないことについては,前記

(ア)(被告ら)b(c)に記載のとおりである。

したがって,本件第2発明4は,引用発明2と同一又は実質的に

同一である。

(原告)

引用例2には,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを併用することによ

り,実際に糖尿病治療が行われたことについて一切記載されていないし,

その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認したことの記

載もない。

しかも,ピオグリタゾンは,インスリン作用増強剤の例示として記載

されているだけで,特にその中からピオグリタゾンを選択し,これに着

目し,これとアカルボース,ボグリボース及びミグリトールから選ばれ

33
る α−グルコシダーゼ阻害剤,ビグアナイド剤並びにグリメピリドとの

組み合わせにより,併用治療を行うことについての記載や示唆は全くな

い。

(ウ) 争点3−2−3(本件各発明が引用発明3と同一であるか否か)に

ついて

(被告ら)

a 引用例3には,ピオグリタゾン(AD4833),α−グルコシダ

ーゼ阻害剤であるアカルボース,ボグリボース及びミグリトール,グ

リメピリド(HOE490)の効果効用の記載があるほか,これらの

併用投与につき,「新たな治療薬の参入によって今後のNIDDMの

薬物治療の在り方も変わってゆくものと思われる(図3)。」として,

別紙「図3 将来のNIDDM薬物療法のあり方」が記載されている。

b(a) 本件第1発明について

引用例3には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

の記載,アカルボース,ボグリボース及びミグリトールから選ばれ

るα−グルコシダーゼ阻害剤の記載,両者の併用投与についての記

載があるところ,組合せ医薬が引用例3にいう「併用」に含まれる

ことは,前記(ア)(被告ら)b(a)に記載のとおりである。

したがって,本件第1発明は,引用発明1と同一又は実質的に同

一である。

(b) 本件第2発明1ないし3について

本件第2発明1ないし3は,ピオグリタゾンとビグアナイド剤と

を組み合わせてなる糖尿病薬に係る発明であり,引用発明3と同一

又は実質的に同一である。

(c) 本件第2発明4について

引用例3には,ピオグリタゾン又はその薬理学的に許容しうる塩

34
の 記載,グリメピリドの記載,両者の併用投与についての記載があ

るところ,組合せ医薬が引用例3にいう「併用」に含まれることは

前記(a)と同様であって,本件第2発明4の「0.05〜5mg/kg

体重」との限定に技術的な意味がないことについては,前記(ア)

(被告ら)b(c)に記載のとおりである。

したがって,本件第2発明4は,引用発明3と同一又は実質的に

同一である。

(原告)

引用例3には,ピオグリタゾンと,アカルボース,ボグリボース及び

ミグリトールから選ばれるα−グルコシダーゼ阻害剤,ビグアナイド剤

並びにグリメピリドとを併用することにより,実際に糖尿病治療が行わ

れたことについて一切記載されていないし,その併用について糖尿病治

療に係る薬理効果を実際に確認したことの記載もない。

しかも,ピオグリタゾンは,インスリン作用増強薬の一つとして記載

されているだけで,特にその中からピオグリタゾンに着眼し,これを選

択し,これと本件各併用薬との組み合わせにより,併用治療を行うこと

についての記載や示唆は全くない。

(エ) 争点3−2−4(本件特許発明B−1ないし3が引用発明4と同一

であるか否か)について

(被告ら)

a 引用例4

引用例4には,チアゾリジンジオン類が,既にSU剤やメトホルミ

ンで治療中の患者の併用療法において,インスリン感受性増強剤とし

て有用な役割を果たす可能性が高い旨の記載やそのようなチアゾリジ

ンジオン類のうち,研究が進められているものとしてピオグリタゾン

があることが記載されている。

35
b 引 用例4には,ピオグリタゾンとメトホルミンとのNIDDM治療

のための併用についての記載があり,本件特許発明Bに係る国内優先

権主張日当時において,メトホルミンがビグアナイド剤であることは

技術常識として知られていた。そして,組合せ医薬が引用例4にいう

「併用」に含まれることは,前記(ア)(被告ら)b(a)に記載のとお

りである。

したがって,本件第2発明1ないし3は,引用発明4と同一又は実

質的に同一である。

(原告)

引用例4は,単に,チアゾリジンジオン類がメトホルミン又はSU剤

で治療中の患者の併用療法において一定の役割を果たす可能性があると

記載しているだけであって,ピオグリタゾン,ビグアナイド剤とを併用

することにより,実際に糖尿病治療が行われたことは一切記載されてい

ないし,その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認した

ことの記載もない。

しかも,ピオグリタゾンは,インスリン感受性増強剤の例示として記

載されているだけで,特にインスリン抵抗性改善剤の中からピオグリタ

ゾンを選択し,これに着目し,これとビグアナイド剤との組み合わせに

より併用治療を行うことについての記載や示唆は全くない。

(オ) 争点3−2−5(本件第2発明4が引用発明5と同一であるか否

か)について

(被告ら)

a 引用例5には,ピオグリタゾン(AD−4833)とSU剤との併

用につき,SU剤(グリベンクラミド又はグリクラジド)を使用中の

NIDDMにピオグリタゾンを併用し,SU剤の血中濃度推移への影

響,血糖,IRIの推移について検討したところ,空腹時血糖(FP

36
G )は194→173mg/dlと21mg/dl低下し,血糖日内変動でも

15〜52mg/dlの低下を認めた旨や,SU剤とピオグリタゾンの併

用投与により,SU剤の血中濃度に大きな影響及び副作用は認めず,

危惧すべき相互作用は見られなかった旨,軽度の血糖改善を認めたが,

十分な効果を得るには,より長期の投与が必要と判断された旨が記載

されている。

b 引用例5には,ピオグリタゾンと,SU剤であるグリベンクラミド

やグリクラジドとを,NIDDM(インスリン非依存型糖尿病)患者

に併用投与した試験についての記載があり,グリベンクラミド等の作

用機序はグリメピリドと同じであるから,本件第2発明4は,引用発

明5と同一又は実質的に同一である。

(原告)

引用例5には,グリベンクラミド又はグリクラジドを使用中のNID

DM入院患者10例に,ピオグリタゾンの30mg/日を7日間投与した

臨床試験の結果が記載されているが,ピオグリタゾンとグリメピリドと

を併用することにより実際に糖尿病治療が行われたことは一切記載され

ていないし,その併用について糖尿病治療に係る薬理効果を実際に確認

したことの記載もない。

ウ 争点3−3(本件各発明が進歩性を有しないか否か)

(ア) 争点3−3−1(本件各発明は引用発明1,2又は3に基づき当業

者が容易に発明することができたか否か)について

(被告ら)

a 本件各発明の国内優先権主張日当時における技術常識等について

当業者の一般的知見として,同じ効果を発現する薬剤の併用ないし

組合せについては,作用点の同一のものは相加的に作用し,作用点の

異なるものは相乗的に作用することが知られているから,2以上の医

37
薬 成分を組み合わせた医薬につき,薬効の増大,副作用の低減といっ

た課題を解決するために複数の医薬成分の組合せを最適化することは,

当業者であれば誰もが当然に動機付けられる。

2型糖尿病の治療の基本は血糖値を管理することにあり,また,糖

尿病の病態は複雑であるため,経口血糖降下剤を用いる治療にあって

は,その作用機序の特性に応じて,患者の病状に適した薬剤を選択す

ることになる。2型糖尿病において,血糖値を管理する手段としては,

@ 糖質が腸管から吸収される速度の抑制,A 糖が肝臓で生産され

る率の抑制,B インスリンの作用の増強,C インスリンの分泌の

促進等があるが,ピオグリタゾンはB,α−グルコシダーゼ阻害剤は

@,ビグアナイド剤は@及びA,SU剤はCの各手段により血糖値の

コントロールを図るものであって,それぞれ作用機序を異にする。作

用機序の異なる薬剤を複数併用すれば,それぞれの機序に従った効果

が生じ,単独投与の場合よりも効果的な血糖コントロールが期待でき

るため,2型糖尿病の治療では,薬効増大や副作用低減のために,作

用機序の異なる複数の糖尿病治療薬を併用投与することが一般的に試

みられていた。具体的には,SU剤とビグアナイド剤,α−グルコシ

ダーゼ阻害剤とSU剤,ピオグリタゾンと同じくインスリン抵抗性改

善剤であるトログリタゾンとSU剤やビグアナイド剤,ピオグリタゾ

ンとSU剤といった各併用療法が行われ,その効果が文献上も確認さ

れていた。とりわけ,2型糖尿病治療薬においては,組合せの対象と

なり得るような有効な医薬の数は限られ,ピオグリタゾンが新規に開

発された時点では,例えばα−グルコシダーゼとしてアカルボース,

ボグリボース,ミグリトール,SU剤としてグリベンクラミド,グリ

メピリド,ビグアナイド系薬剤としてフェンホルミン,メトホルミン,

ブホルミンといった医薬が知られている程度であったから,本件各発

38
明 に係る併用,組合せについても,ピオグリタゾンという新たな薬剤

の開発に伴い,当業者において,当然に併用等が試行されるべきもの

に過ぎなかった。そして,作用機序が異なる医薬を併用する場合,通

常は,薬剤同士が拮抗するとは考えにくいから,当業者において,併

用する薬剤がそれぞれの機序によって作用し,それぞれの効果が個々

に発揮され,少なくともいわゆる相加的効果が得られるであろうこと

までは当然に想定するものであった。

そうであるから,当業者には,ピオグリタゾンと本件各併用薬との

併用投与を行う強い動機があったといえ,本件各発明に係る構成は,

当業者が容易に想到できたものである。

b 本件各発明に格別顕著な効果が見られないことについて

本件各発明に格別顕著な効果があるというためには,単剤投与の場

合よりも当該組合せによる投与の方が効果的な血糖効果作用が得られ

るというだけでは足りず,他の組合せによっても得られることのでき

ない格別に顕著な効果を得られることが必要であり,このことが明細

書に記載されていなければならない。

本件各明細書には,実験例1として,遺伝性肥満糖尿病ウイスタ

ー・ファティ・ラットにピオグリタゾンとボグリボースとの併用投与

の場合と各々を単独で投与した場合の作用効果の比較実験結果が記載

されているに過ぎず,実験例2は,ピオグリタゾンとグリベンクラミ

ドとの併用投与の場合のものであり,そもそもピオグリタゾンとボグ

リボース以外の本件各併用薬との組合せの場合についての効果につい

ては全く記載がなく,実験例1も,薬剤投与時から血液採取時までの

時間が記載されていないことなどから,顕著な効果が発生していると

の根拠とはならない。そして,他の刊行物等の記載を考慮しても,本

件各発明において,格別顕著な効果があるとは認められず,その効果

39
は 当業者が予測可能な範囲のものにとどまっている。

c したがって,仮に,引用例1ないし3に併用についての薬理効果を

実際に確認したことの記載や,ピオグリタゾンと本件各併用薬とを組

み合わせてなる糖尿病治療薬の記載がないことなどをもって,本件各

発明と引用発明1ないし3が相違すると解するにしても,本件各発明

は,当業者が引用発明1,2又は3に基づいて容易に想到することが

できたものであって,格別顕著な効果があるともいえない。

(原告)

a 本件第1発明について

(a) 医薬の特性上,現実に使用してみなければ実際の併用効果の有

無は分からないし,仮に効果があるにしても,それが相加的か相乗

的かを予測することはできない。とりわけ,同じ血糖効果作用を有

する薬剤を併用すれば,当該効果が向上する可能性があると同時に,

効果が予想以上に増強されて低血糖を招く危険もあるのである。

引用例1ないし3は,将来の可能性や期待として,経口糖尿病治

療薬の併用を漠然と記載したもので,本件第1発明の構成や効果を

何ら具体的に開示するものではなく,被告らの引用例を含めたあら

ゆる公知文献において,インスリン抵抗性改善剤とα−グルコシダ

ーゼ阻害剤とを実際に組み合わせて使用したとの記載はなく,併用

医薬特許の特許性において問題とすべき併用効果については記載も

示唆もない。むしろ,国内優先権主張日当時,チアゾリジン系イン

スリン感受性増強剤については,他の血糖降下剤であるSU剤やメ

トホルミンとの併用に関して単独投与と差異がないことを報告した

論文があったから,ピオグリタゾンとα−グルコシダーゼ阻害剤と

の併用による血糖効果作用における優れた効果(相乗的効果)は,

当業者が容易に予測することはできなかった。

40
( b) 本件第1発明の構成を採用することにより,ピオグリタゾンと

本件各併用薬とをそれぞれ単独で使用する場合に比較して,少量で

優れた血糖効果作用(相乗的効果)が得られ,それゆえ副作用を低

減し得るという作用効果が達成される。

本件第1明細書の発明の詳細な説明の実験例1には,「遺伝性肥

満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおける

塩酸ピオグリタゾンとα−グルコシダーゼ阻害剤との併用効果」と

して,遺伝性肥満糖尿病ラットに塩酸ピオグリタゾンあるいはα−

グルコシダーゼ阻害剤であるボグリボースをそれぞれ単独あるいは

併用して14日間経口投与し,その結果,血漿グルコース及びヘモ

グロビンA1が併用投与による場合の方が単独投与の場合よりも著

しく低下したことが記載されている(段落【0043】)が,この

効果は相乗的なものである。

そして,本件第1特許の審査過程等で原告が提出した実験データ

においても相乗的効果が認められていることや,他の多くの経口糖

尿病治療薬との併用が可能なピオグリタゾンは,併用により優れた

相乗効果を示すことが実使用でも確認されて商業的に大きな成功を

収めていることからしても,本件第1発明に係る医薬が顕著な効果

を有することは明らかである。

b 本件第2発明について

(a) 引用例1ないし3や他の公知文献の大半には,本件第2発明の

具体的構成の記載はなく,将来の可能性や期待として,経口糖尿病

治療薬の併用を漠然と記載したもので,具体的な併用の態様や併用

の効果について何ら具体的に開示しない。トログリタゾンとビグア

ナイド剤やSU剤との併用につき具体的な記載のある文献において

も,単に臨床上の併用の有用性が記載されているに過ぎず,本件の

41
よ うな併用医薬特許の特許性において問題とすべき併用効果につい

ては記載も示唆もない。むしろ,医薬の特性やチアゾリジン系イン

スリン感受性増強剤とSU剤やメトホルミンとの併用に関して単独

投与と差異がないことを報告した論文が存在したこと,特に本件第

2発明4に関しては,SU剤が膵β細胞からのインスリン分泌を促

進することで強い血糖効果作用を発揮する薬剤であり,重大な副作

用として低血糖が知られているために,インスリン抵抗性を改善し

て血糖効果作用を示すピオグリタゾンとSU剤とは,無条件に併用

可能なものとは考えられておらず,両者の併用は肥満のリスクを高

めることからして通常避けるべき組合せであるといえたことからす

ると,ピオグリタゾンとビグアナイド剤やグリメピリドとの併用に

よる血糖効果作用における優れた効果(相乗的効果)は,当業者が

容易に予測することはできなかった。

(b) 本件第2発明は,ピオグリタゾンとビグアナイド剤又はグリメ

ピリドとを組み合わせることにより,それぞれ単独で使用する場合

に比較して,少量で優れた血糖値降下作用が得られ,それゆえ副作

用を低減し得るという顕著な効果を有する。

本件第2発明1ないし3については,本件第2特許の審査過程等

で原告が提出した実験データにおいても併用投与による場合の方が

単独投与の場合よりも血漿グルコース濃度が著しく低下する相乗的

効果を示したことが実証されている。また,本件第2発明4につい

ては,本件第2明細書の発明の詳細な説明の実験例2に,「遺伝性

肥満糖尿病ウイスター・ファティー(Wistar fatty)ラットにおけ

る塩酸ピオグリタゾンとインスリン分泌促進剤との併用効果」とし

て,塩酸ピオグリタゾンと,構造的にも機能的にもグリメピリドと

類似するSU剤グリベンクラミドとを用いた遺伝性肥満糖尿病ラッ

42
ト による経口ブドウ糖負荷試験結果が記載され,併用投与による場

合の方が単独投与の場合よりも血漿グルコース濃度が著しく低下し

たことが記載されている上,本件第2特許の審査過程等で原告が提

出した塩酸ピオグリタゾンとグリメピリドとを用いた同様の試験に

おいても血漿グルコース濃度の低下において相乗的効果が認められ

た。

そして,ピオグリタゾンが商業的に大きな成功を収めていること

からしても,本件第2発明に係る医薬が顕著な効果を有することは

明らかである。

(イ) 争点3−3−2(本件第2発明1ないし3は引用発明4,5又は6

に基づき当業者が容易に発明することができたか否か)について

(被告ら)

a 引用例4にはピオグリタゾンとメトホルミンとのNIDDM治療の

ための併用の構成が明記され,引用例5及び6には,ピオグリタゾン

と他の経口血糖降下剤とのNIDDM治療のための併用やビグアナイ

ド剤と他の経口血糖降下剤とのNIDDM治療のための併用について

の記載がある。本件各発明の国内優先権主張日当時における技術常識

は, 前 記(ア )( 被告 ら) a 記載 の とお り であ り ,特 に ,「 A pilot

clinical trial of a new oral hypoglycemic agent, CS-045, in

patients with non-insulin dependent diabetes mellitus 」

(Diabetes Research and Clinical Practice Vol.11・147〜1

53頁。1991年刊行。甲90,乙丙共2−7)には,インスリン

感受性増強剤とビグアナイド剤とを実際に併用投与した臨床試験の結

果が記載されていた。

そうすると,当業者であれば,引用発明4,5又は6に基づき,本

件第2発明1ないし3を容易に構成することができたものである。

43
b そ して,本件第2明細書に,本件第2発明1ないし3に係る実施

の記載はなく,これらの作用効果を具体的に認識することができるよ

うな開示はないから,本件第2発明1ないし3は,引用発明5と比較

して顕著な効果を奏するとはいえない。

c したがって,ピオグリタゾンとビグアナイド剤との組合せが開示さ

れており,本件第2発明1ないし3は,当業者が引用発明4,5又は

6に基づき容易に想到することができたものであって,格別顕著な効

果があるともいえない。

(原告)

引用例4には,本件第2発明1ないし3の具体的構成の記載はなく,

将来の可能性や期待として,経口糖尿病治療薬の併用を漠然と記載した

もので,引用例5には,ピオグリタゾンとビグアナイド剤とを併用する

ことにより実際に糖尿病治療が行われたことは一切記載されていないし,

引用例6にも単に臨床上の併用の有用性が記載されているに過ぎず,併

用医薬特許の特許性において問題とすべき併用効果については記載も示

唆もない。そうであるから,本件第2発明1ないし3は,当業者が引用

発明4,5又は6に基づいて容易に発明をすることができたとはいえな

い。

(ウ) 争点3−3−3(本件第2発明4は引用発明4,5又は7に基づき

当業者が容易に発明することができたか否か)について

(被告ら)

a 引用例4にはインスリン感受性増強剤とSU剤との組合せの記載が

あり,引用例5にはピオグリタゾンとSU剤とのNIDDM治療のた

めの併用の記載があり,引用例7には,ピオグリタゾンと同じチアゾ

リジン薬の一種であるトログリタゾン(CS−045)と,SU剤と

の併用につき,SU剤を投与しても血糖コントロールが不十分であっ

44
た 患者に対し,トログリタゾンを投与することにより,血糖コントロ

ールを改善する効果があり,特に問題となる副作用が存在しないとい

う発明(引用発明7)が記載されている。

ピオグリタゾンとSU剤との組合せにつき記載する引用発明4又は

5 に , 前 記 ( ア ) ( 被 告 ら ) a 記 載 の 技 術 常 識 や 前 記 「 A pilot

clinical trial of a new oral hypoglycemic agent, CS-045, in

patients with non-insulin dependent diabetes mellitus」 を 参 照

すれば,当業者であれば,本件第2発明4を容易に構成することがで

きた。また,30mg/日の用量のピオグリタゾンとグリメピリドとの

NIDDM治療のための構成につき記載する引用発明3や技術常識

参照することで,糖尿病治療目的で使用可能なピオグリタゾンとSU

剤とのNIDDM治療のための併用についての技術的思想を開示する

引用発明5から本件第2発明4に係る構成を容易に想到することがで

きた(本件第2発明4におけるピオグリタゾンの用量の限定は単なる

設計事項に過ぎない。)。さらに,引用発明7は,ピオグリタゾンと

同じ機序を持つトログリタゾンとSU剤との併用につき開示している

から,トログリタゾンを同じチアゾリジン系薬であるピオグリタゾン

に代えることは,当業者にとって容易に想到することができたところ

である。

b そして,本件第2明細書には,本件第2発明4の具体的な製造例や

薬理効果についての記載はなく,本件第2発明4が公知技術に比して

顕著な効果を奏するとはいえない。

c したがって,本件第2発明4は,当業者が引用発明4,5又は7に

基づいて容易に想到することができたもので,格別顕著な効果がある

ともいえない。

(原告)

45
引 用例7の記載内容は,CS−045(トログリタゾン)とSU剤と

の併用試験が行われたことを示すにとどまり,引用例4,5及び7のい

ずれにもピオグリタゾンとグリメピリドを併用することにより実際に糖

尿病治療が行われたことについての記載はなく,その併用につき糖尿病

治療に係る薬理効果を実際に確認したことの記載もないのであって,併

用医薬特許の特許性において問題とすべき併用効果は記載も示唆もない。

そうであるから,本件第2発明4は,当業者が引用発明4,5又は7に

基づいて容易に想到することができたとはいえない。

エ 争点3−4(本件各発明において,明確性要件,実施可能要件又はサポ

ート要件を充足しないか否か)について

(被告ら)

(ア) 本件各発明について

本件各発明の特許請求の範囲における「組み合わせてなる」との文言

が,原告が主張するように,一般的にある物とある物とをまとめること

を意味し,その具体的な態様について何らの指定をするものではないと

いうのであれば,本件各発明は,具体的解決方法が示されていないこと

になり,特許法2条1項にいう「発明」に該当せず,特許・実用新案審

査基準の「発明を特定するための事項の技術的意味が理解できず,さら

に,出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足し

ていることが明らかである場合」として,本件各発明の特許請求の範囲

の記載は,特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確

であること」との要件(以下「明確性要件」という。)を充足しないし,

また,例えばピオグリタゾンを投与した3か月後に本件各併用薬を投与

する場合のように,本件各発明における課題を解決し得ないものも包含

することになるから,本件各明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本

件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと

46
い うことはできず,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法

36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」という。)を充

足しない。

(イ) 本件第1発明について

医薬の発明では,医薬用途を裏付ける実施例として,薬理試験結果の

記載が求められるが,本件第1明細書には,ピオグリタゾンとα−グル

コシダーゼ阻害剤のうちのボグリボースとの組合せの薬理試験しか記載

がなく,アカルボース又はミグリトールとの組合せについては試験をし

ていない。ボグリボース,アカルボース及びミグリトールは,それぞれ

作用する酵素が異なり,本件第1明細書に記載のないアカルボースやミ

グリトールとピオグリタゾンとの組合せを実施することは,当業者にと

って困難であるというべきであるから,本件第1明細書の発明の詳細な

説明の記載は,実施可能要件を充足しないし,また,本件第1発明の特

請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載したものということは

できず,特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」

という。)を充足しない。

(ウ) 本件第2発明について

本件第2明細書には,ピオグリタゾンとビグアナイド剤やグリメピリ

ドとの組合せについての実施例の記載はなく,その効果は何ら確認され

ていない。本件第2明細書に,薬理データ又はそれと同視すべき程度の

記載が一切ないから,本件第2明細書の発明の詳細な説明の記載は,実

施可能要件を充足しないし,また,本件第2発明の特許請求の範囲の記

載は,サポート要件を充足しない。

(原告)

(ア) 本件各発明について

原告は,「組み合わせてなる」の具体的態様について,何らの指定を

47
す るものではないといった主張をしていないし,本件各明細書の記載に

鑑みれば,ピオグリタゾンを投与して3か月後に本件各併用薬を投与す

るといった極端な事例にまで本件各発明の権利範囲が及ばないことは明

らかであるから,本件各明細書の記載は,明確性要件や実施可能要件

充足している。

(イ) 本件第1発明について

アカルボース及びミグリトールは,ボグリボースと同じα−グルコシ

ダーゼ阻害剤であり,構造及び機能が酷似しているから,ボグリボース

と同様の併用効果が期待できる。そうであるから,本件第1明細書の記

載は,実施可能要件やサポート要件を充足している。

(ウ) 本件第2発明について

a 医薬発明においてサポート要件を充足するかどうかは,明細書の発

明の詳細な説明に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がある

か否かのみによって判断されるものではなく,発明の詳細な説明の記

載と特許請求の範囲とを対比した上で,出願時の技術常識に照らして,

発明の詳細な説明の記載により当該発明の課題を解決できると当業者

が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ

る。

また,医薬発明において実施可能要件を充足するかどうかは,発明

の解決課題や解決手段等技術的意義を理解した上で,出願時に当業者

が発明を実施できるか否かを一切の事情に照らして判断すべきもので

あって,やはり薬理データがあるか否かのみによって判断されるもの

ではない。

b 本件第2明細書には,ピオグリタゾンという特定のインスリン感受

性増強剤に着眼すれば,それと相互補完的な作用機序を有する他の血

糖降下剤と組み合わせることにより,併用による効果の増強をし得る

48
と いう知見が開示されているのであって,これに基づけば,当業者は,

ピオグリタゾンとビグアナイド剤との併用によっても,実施例1と同

様に効果の向上と副作用の低減を図ることができるだろうと認識でき

るから,本件第2発明1に係る本件第2明細書の記載は,サポート要

件及び実施可能要件を充足し,本件第2発明2,3は,それぞれビグ

アナイド剤の種類を限定したものに過ぎないから,本件第2明細書の

記載は,同様にサポート要件及び実施可能要件を充足する。

c また,本件第2明細書には,グリベンクラミドを用いた実施例2な

どの記載があり,グリメピリドとグリベンクラミドは,いずれもSU

剤であって,構造と機能が類似し,共通の作用効果を発揮することが

知られていたので,当業者は,ピオグリタゾンとグリメピリドとの併

用によっても,効果の向上と副作用の低減を図ることができるだろう

と認識できるから,本件第2発明4に係る本件第2明細書の記載は,

サポート要件及び実施可能要件を充足する。

オ 争点3−5(本件各特許につき補正要件違反があるか否か)について

(被告ら)

第3世代SU剤であるグリメピリドは,第2世代SU剤であるグリベン

クラミドと作用機序が異なるため,両者は区別されている。本件第2明細

書においては,各種SU剤の一つとしてグリメピリドの記載があるのみで,

実施例においてピオグリタゾンとグリメピリドとの併用の効果を開示する

記載はない。原告は,請求項にグリメピリドを新たに加える補正をしたが,

これは,新規事項の追加として特許法17条の2第3項の規定に違反する。

(原告)

本件第2発明4に係る出願当時の特許請求の範囲には,インスリン感受

性増強剤とインスリン分泌促進剤とを「組み合わせてなる医薬」が記載さ

れ,当初明細書には,インスリン分泌促進剤の一種としてグリメピリドが

49
記 載されていたから,本件第2発明4に係る補正は,新規事項の追加に当

たらない。

(4) 争点4(原告が差止めを請求することができるか否か)について

(原告)

被告らが被告ら各製剤を製造販売する行為は,本件各特許権を侵害するも

のとみなされるから,原告は,被告らそれぞれに対し,被告ら各製剤の製造,

販売及び販売の申出の差止めを請求することができる。

特許法101条が定める間接侵害制度は,専用品型(1号,4号)であれ,

中用品型(2号,5号)であれ,不特定又は多数の直接侵害者を捕捉するこ

とが困難な場合について,それらに原料や部品を供給する特定少数の間接侵

害者を捕捉することを通じて,特許権の実効的な保護を図るために設けられ

たものであるから,特許権者が中用品の製造販売の差止めを求めるに当たっ

て,当該物品の現実の用途を逐一立証する必要はないと解すべきである。

また,差止めの対象となる間接侵害物品の用途の不確実性は,中用品型の

間接侵害においては常に生じる問題であるが,そのリスクを特許権者側が負

わなければならないとすると,特許法が専用品型に加えて中用品型の間接侵

害制度を置いた実益が失われることになるから,直接行為者による将来用途

が非侵害であることは,執行段階において間接侵害者の側が明らかにすべき

事情として扱うべきである。すなわち,まず,特許法101条2号の要件を

満たす被告ら各製剤について差止請求を認容し,それによる不都合は,被告

らが執行段階において請求異議の訴えを提起し,強制執行の不許を求めるこ

とにより除去すべきである。

さらに,特許法100条1項によれば,間接侵害が現在化する前段階での

予防請求をすることができるのであるから,被告らが被告ら各製剤を譲渡す

る相手方である医師や薬剤師が,それを本件各併用剤とともに使用するかど

うかが未確定な時点でも,そのおそれがある場合には,予防請求として,被

50
告 ら各製剤の生産と譲渡を差し止めることができる。

(被告ら)

差止請求権には,第三者の既存の利益を害するような過剰執行は許されな

いという内在的制約が存在するのであり,特許法101条2号間接侵害

おいて,対象となる部材等を侵害用途とは無関係の他用途に使用する者の利

益を害するような無条件の差止めは許されない。本件においては,供給され

たピオグリタゾンのせいぜい30%程度が本件各併用薬と併用され,それ以

外の70%は単剤で使用されるか本件各併用薬以外の医薬と併用されるとい

うのであり,この場合に事前の一括差止めを認めると,本来パブリックドメ

インに属するような用途を含めて全てが制限されることになって不当である。

将来の具体的な用途が明らかではない段階で,一括差止めを認めることは,

上記70%が適法に使用されるものであることを考えれば,明らかに過剰な

差止めである。

なお,全面的な差止請求を認容する確定判決の問題点は,判決に,本来差

止めが許容されるべき範囲と許容されない範囲が含まれることにあるが,確

定判決についての請求異議の事由は,口頭弁論の終結後に生じたものに限ら

れる(民事執行法35条2項)から,請求異議の訴えにより上記問題点は解

決しない。

(5) 争点5(原告が薬価基準収載品目削除願の提出を請求することができる

か否か)について

(原告)

被告らが被告ら各製剤について健康保険法に基づく薬価基準への収載が行

われた場合,厚生労働省が定める通達上,収載された日から3か月以内に対

象医薬品を製造販売して医療機関に対する供給を開始するとともに,以降も

継続して供給しなければならない。そうであれば,被告らに対し,被告ら各

製剤の製造販売等の差止めを命じたとしても,被告らは,医療機関に対する

51
被 告ら各製剤の供給を即座に停止することなく,継続的に供給するおそれが

極めて高いのであって,この場合には,原告の被害及び損害は一層拡大し甚

大なものとなるから,原告は,被告らに対し,特許法101条1項所定の差

止請求をするに際し,健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出と

いう公法上の意思表示をすることを請求することができるというべきである。

(被告ら)

特許法100条2項にいう「侵害予防に必要な行為」とは,特許発明

内容,現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様及び特許権

者が行使する差止請求権の具体的内容等に照らし,差止請求権の行使を実効

あらしめるものであって,かつ,それが差止請求権の実現のために必要な範

囲内のものであることを要する。

薬価基準への収載及び薬価基準からの削除は,厚生労働大臣が健康保険法

に基づき行うものであるが,薬価基準への収載及び薬価基準からの削除につ

いて,製造販売業者からの申請に関する定めはなく,厚生労働大臣は,製造

販売業者からの申請の有無にかかわらず,収載又は削除を行うことができる

ところ,行政上の取扱いとして,厚生労働省医政局長及び保険局長が発した

通知により,製造販売業者から薬価基準収載希望書を提出させているが,薬

価基準からの削除については行政庁の発する通知すらない。そうであるから,

法令上の根拠がなく,行政庁の発する通知による根拠もない薬価基準収載品

目削除願の提出を命ずる意味はなく,差止請求権の実現のために必要な範囲

内のものであるとはいえず,薬価基準収載品目削除願の提出は,「侵害の予

防に必要な行為」に当たらない。

(6) 争点6(原告が廃棄を請求することができるか否か)について

(原告)

被告らは,平成23年6月以降にそれぞれ被告ら各製剤の製造販売を開始

し,極めて多くの数量に上る在庫を保有するものと考えられる。このような

52
被 告ら各製剤を廃棄することが,被告らによる本件各特許権の侵害の予防に

必要な行為であることは明らかであるから,原告は,特許法101条2項

基づき,被告らそれぞれに対し,被告ら各製剤の廃棄を請求することができ

る。

(被告ら)

特許法101条2号間接侵害において,製造者が管理する部材等につい

ては,他用途に使用することができるものであるから,その廃棄を命ずるこ

とは,過剰な廃棄を命ずるものとして許されない。

(7) 争点7(損害額)について

(原告)

原告は,本件を解決するために専門家である弁護士に委任して,被告らに

対し訴訟を提起せざるを得なかったところ,本件における差止等請求の経済

的利益及び本件が特許事件という困難な事件であること等を考慮すると,上

記委任事務に係る委任報酬等は,少なくとも各被告らにつきそれぞれ500

万円を下回ることはない。これらの費用の出捐は,被告らの本件各特許権侵

害に係る不法行為相当因果関係のある損害に当たる。

また,被告らが被告ら各製剤を販売したことによって,平成24年4月に

原告の製剤の薬価が引き下げられて,その売上高が減少し,これにより,原

告が受けた損害は少なくとも1億8000万円を下らない。

(被告ら)

争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが本件各特許権を侵害

するか否か)について

(1) 争点1−1(被告らが医療関係者や患者の行為を利用,支配して本件各

発明を実施しているといえるか否か)について

53
被 告らは,被告ら各製剤を製造販売しているが,さらに進んで,これと本

件各併用薬とを組み合わせてなる医薬を生産等したことを認めるに足りる証

拠はない。

原告は,被告らが,自由意思によらずに本件各発明を実施する医師,薬剤

師,患者の行為を道具として利用し,これを支配することによって,本件各

発明の実施を招来せしめているのであり,被告らは,被告ら各製剤を製造販

売することにより,医師,薬剤師,患者をして本件各発明を実施していると

規範的に評価することができると主張する。

しかしながら,医師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をど

のように使用するかについては,その裁量によって決するものであり,また,

薬剤師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように調剤す

るかについては,医師の処方せんによらなければならないものであるし,さ

らに,患者が被告ら各製剤と本件各併用薬とを服用するのは,医師や薬剤師

の指示や指導に従って行うに過ぎないから,これらをもって,被告らが医師,

薬剤師,患者の行為を道具として利用したとか,これを支配したということ

はできない。

原告の上記主張は,到底採用することができない。

(2) 争点1−2(被告らが医療関係者を教唆して本件各発明を実施している

といえるか否か)について

教唆をする者は,自らが発明を実施するわけではないし,前記(1)に判示

したところに照らせば,被告らが,医師や薬剤師等の医療関係者を教唆した

ということもできない。

(3) したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,本件各特

許権を侵害しない。

2 争点2(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが特許法101条2号

に掲げる行為に該当するか否か)について

54
(1) 特許法101条2号における「発明による課題の解決に不可欠なもの」

とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異

なる概念で,発明の構成要素以外にも,物の生産に用いられる道具,原料な

ども含まれ得るが,発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとす

る課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,これに当たらない。

すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」

が解決されるようなもの,言い換えれば,従来技術の問題点を解決するため

の方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技

術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接も

たらすものが,これに該当すると解するのが相当である。そうであるから,

特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当

該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないも

のは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。

(2) 証拠(甲5,7の1・2)によれば,本件各明細書の発明の詳細な説明

には,次の記載があることが認められる。

ア 発明の属する技術分野

「本発明は,インスリン感受性増強剤とそれ以外の作用機序を有する他の

糖尿病予防・治療薬とを組み合わせてなる医薬に関する。」(【000

1】)

イ 従来の技術

「近年,糖尿病の病態の解明が進み,それに対応する薬物の開発が進め

られた結果,次々と新しい作用機序をもった薬物が臨床の場に登場してき

た。なかでも,インスリン感受性増強剤は,インスリン作用が障害を受け

ている受容体の機能を正常化する作用,すなわち,インスリン抵抗性解除

剤とも言われるもので,脚光を浴びつつある。このインスリン感受性増強

剤としては,ピオグリタゾンに代表される優れたインスリン感受性増強剤

55
が 開発されている〔…〕。ピオグリタゾンは,障害を受けているインスリ

ン受容体の機能を元に戻すことによって,糖輸送担体の細胞内局在性を正

常化したり,グルコキナーゼ等の糖代謝の中心となる酵素系あるいはリポ

蛋白リパーゼ等の脂質代謝関連酵素系を正常化する。その結果,インスリ

ン抵抗性は解除され,耐糖能が改善されるのみならず,中性脂肪や遊離脂

肪酸も低下する。このピオグリタゾンの作用は比較的緩徐であり,長期投

与においても殆ど副作用がなく,肥満を伴うインスリン抵抗性の強いと思

われる患者には極めて有効である。また,インスリン感受性増強剤である

CS−045,チアゾリジン誘導体または置換チアゾリジン誘導体とイン

スリンとを併用した報告がある(…)。しかしながら,本発明の特定の組

み合わせを有する医薬については知られていない。」(【0002】)

ウ 発明が解決しようとする課題

「糖尿病は慢性の病気であり,かつその病態は複雑で,糖代謝異常と同

時に脂質代謝異常や循環器系異常を伴う。その結果,病状は多種の合併症

を伴って進行してゆく場合が多い。従って,個々の患者のそのときの症状

に最も適した薬剤を選択する必要があるが,個々の薬剤の単独での使用に

おいては,症状によっては充分な効果が得られない場合もあり,また投与

量の増大や投与の長期化による副作用の発現など種々の問題があり,臨床

の場ではその選択が困難な場合が多い。」(【0003】)

エ 課題を解決するための手段

「本発明者らは上記した状況に鑑み,薬物の長期投与においても副作用

が少なく,且つ多くの糖尿病患者に効果的な糖尿病予防・治療薬について

鋭意研究を重ねた結果,インスリン感受性増強剤を必須の成分とし,さら

にそれ以外の作用機序を有する他の糖尿病予防・治療薬を組み合わせるこ

とでその目的が達成されることを見いだし,本発明を完成した。」(【0

004】)

56
「 本発明に用いられるインスリン感受性増強剤は,障害を受けているイ

ンスリン受容体機能を元に戻し,インスリン抵抗性を解除し,その結果イ

ンスリンの感受性を増強する薬剤の総称であって,その具体例としては,

例えば前記した一般式(T)で表される化合物またはその薬理学的に許容

しうる塩が挙げられる。」(【0005】)

「一般式(T)で示される化合物の好適な例としては,例えば…(一般

名:ピオグリタゾン)…などが挙げられる。一般式(T)で示される化合

物は,特に好ましくはピオグリタゾンである。」(【0025】)

「一般式(U)で示される化合物は,好ましくは一般式(V)で示され

る化合物…であり,さらに好ましくはピオグリタゾンである。」(【00

26】)

「…前記した一般式(V)で示される化合物の薬理学的に許容し得る塩

は,好ましくは無機酸との塩であり,さらに好ましくは塩酸との塩である。

特にピオグリタゾンは塩酸塩として用いることが好ましい。」(【002

7】)

「本発明において,前述のインスリン感受性増強剤と組み合わせて用い

られる薬剤としては,α−グルコシダーゼ阻害剤,…ビグアナイド剤…が

挙げられる。α−グルコシダーゼ阻害剤は,アミラーゼ,マルターゼ,α

−デキストリナーゼ,スクラーゼなどの消化酵素を阻害して,澱粉や蔗糖

の消化を遅延させる作用を有する薬剤である。該α−グルコシダーゼ阻害

剤の具体例としては,例えばアカルボース,N−(1,3−ジヒドロキシ

−2−プロピル)バリオールアミン(一般名:ボグリボース),およびミ

グリトールなどが挙げられ,なかでもボグリボースが好ましい。…ビグア

ナイド剤は,嫌気性解糖促進作用,抹消でのインスリン作用増強,腸管か

らのグルコース吸収抑制,肝糖新生の抑制,脂肪酸酸化阻害などの作用を

有する薬剤である。該ビグアナイド剤の具体例としては,例えばフェンホ

57
ルミン,メトホルミン,ブホルミンなどが挙げられる。」(【003

0】)

「本発明において,一般式(U)で示される化合物またはその薬理学的

に許容し得る塩と組み合わせて用いられる薬剤としては,インスリン分泌

促進剤および/またはインスリン製剤が挙げられる。インスリン分泌促進

剤は,膵β細胞からのインスリン分泌促進作用を有する薬剤である。該イ

ンスリン分泌促進剤としては,例えばスルフォニル尿素剤(SU剤)が挙

げられる。該スルフォニル尿素剤(SU剤)は,細胞膜のSU剤受容体を

介してインスリン分泌シグナルを伝達し,膵β細胞からのインスリン分泌

を促進する薬剤である。SU剤の具体例としては,例えば…グリベンクラ

ミド(グリブリド)…グリメピリド(Hoe490)等が挙げられる。

…」(【0033】)

「本発明において,特に一般式(U)で示される化合物またはその薬理

学的に許容しうる塩とインスリン分泌促進剤とを組み合わせてなる医薬が

好ましい。ここにおいて,一般式(U)で示される化合物またはその薬理

学的に許容しうる塩は,特に好ましくはピオグリタゾンであり,インスリ

ン分泌促進剤は,特に好ましくはグリベンクラミドである。」(【003

4】)

「本発明の,インスリン感受性増強剤とα−グルコシダーゼ阻害剤,ア

ルドース還元酵素阻害剤,ビグアナイド剤,スタチン系化合物,スクアレ

ン合成阻害剤,フィブラート系化合物,LDL異化促進剤およびアンジオ

テンシン変換酵素阻害剤の少なくとも一種とを組み合わせてなる医薬;お

よび一般式(U)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩と

インスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせなる

医薬は,これらの有効成分を別々にあるいは同時に,生理学的に許容され

うる担体,賦形剤,結合剤,希釈剤などと混合し,医薬組成物として経口

58
ま たは非経口的に投与することができる。このとき有効成分を別々に製剤

化した場合,別々に製剤化したものを使用時に希釈剤などを用いて混合し

て投与することができるが,別々に製剤化したものを,別々に,同時に,

または時間差をおいて同一対象に投与してもよい。上記医薬組成物として

は,経口剤として,例えば顆粒剤,散剤,錠剤,カプセル剤,シロップ剤,

乳剤,懸濁剤等,非経口剤として,例えば注射剤(例,皮下注射剤,静脈

内注射剤,筋肉内注射剤,腹腔内注射剤等),点滴剤,外用剤(例,経鼻

投与製剤,経皮製剤,軟膏剤等),坐剤(例,直腸坐剤,膣坐剤等)等が

挙げられる。これらの製剤は,製剤工程において通常一般に用いられる自

体公知の方法により製造することができる。…」(【0035】)

「本発明の医薬は,毒性も低く,哺乳動物(例,ヒト,マウス,ラット,

ウサギ,イヌ,ネコ,ウシ,ウマ,ブタ,サル等)に対し,安全に用いら

れる。本発明の医薬の投与量は,個々の薬剤の投与量に準ずればよく,投

与対象,投与対象の年齢および体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,

薬剤の組み合わせ等により,適宜選択することができる。例えばインスリ

ン感受性増強剤は,成人1人当たり経口投与の場合,臨床用量である0.

01〜10mg/kg体重(好ましくは0.05〜10mg/kg体重,さらに好

ましくは0.05〜5mg/kg体重)の範囲で選択でき,…それらと組み合

わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も,それぞれ臨床上用いられる用

量を基準として適宜選択することができる。投与回数は,一日1〜3回が

適当である。」(【0039】)

「本発明の医薬において,薬剤の配合比は,投与対象,投与対象の年齢

および体重,症状,投与時間,剤形,投与方法,薬剤の組み合わせ等によ

り,適宜選択することができる。…本発明の医薬は,各薬剤の単独投与に

比べて著しい増強効果を有する。例えば,遺伝性肥満糖尿病ウイスター・

ファティー(Wistar fatty)ラットにおいて,2種の薬剤をそれぞれ単独

59
投 与した場合に比較し,これらを併用投与すると高血糖あるいは耐糖能低

下の著明な改善がみられた。したがって,本発明の医薬は,薬剤の単独投

与より一層効果的に糖尿病時の血糖を低下させ,糖尿病性合併症の予防あ

るいは治療に適用しうる。また,本発明の医薬は,各薬剤の単独投与の場

合と比較した場合,少量を使用することにより十分な効果が得られること

から,薬剤の有する副作用(例,下痢等の消化器障害など)を軽減するこ

とができる。」(【0040】)

オ 発明の効果

「本発明の医薬は,糖尿病時の高血糖に対して優れた低下作用を発揮し,

糖尿病の予防及び治療に有効である。また,該医薬は高血糖に起因する神

経障害,腎症,網膜症,大血管障害,骨減少症などの糖尿病性合併症の予

防及び治療にも有効である。さらに,症状に応じて各薬剤の種類,投与法,

投与量などを適宜選択すれば,長期間投与しても安定した血糖低下作用が

期待され,副作用の発現も極めて少ない。」(【0045】)

(3) 以上の本件各明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,2型糖尿病に

対しては,個々の患者のそのときの症状に最も適した薬剤を選択する必要が

あるが,個々の薬剤の単独使用においては,症状により十分な効果が得られ

なかったり,投与量の増大や長期化により副作用が発現する等の問題があり,

臨床の場でその選択が困難であったこと,本件各発明は,これを解決するた

めに,インスリン感受性増強剤であり副作用のほとんどないピオグリタゾン

と消化酵素を阻害して澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有するα−グル

コシダーゼ阻害剤(アカルボース,ボグリボース,ミグリトール),嫌気性

解糖促進作用等を有するビグアナイド剤(フェンホルミン,メトホルミン,

ブホルミン),膵β細胞からのインスリン分泌を促進するSU剤であるグリ

メピリドのいずれかとを組み合わせ,これにより,薬物の長期投与において

も副作用が少なく,かつ多くの2型糖尿病患者に効果的な糖尿病の予防や治

60
療 を可能にしたことが認められる。これによると,本件各発明が,個々の薬

剤の単独使用における従来技術の問題点を解決するための方法として新たに

開示したのは,ピオグリタゾンと本件各併用薬との特定の組合せであると認

められる(ピオグリタゾンや本件各併用薬は,それ自体,本件各発明の国内

優先権主張日より前から既に存在して2型糖尿病に用いられていたのであり,

本件各発明がピオグリタゾンや本件各併用薬自体の構成や成分等を新たに開

示したということができないのは当然である。)。

そうすると,ピオグリタゾン製剤である被告ら各製剤は,それ自体では,

従来技術の問題点を解決するための方法として,本件各発明が新たに開示す

る,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けて

いる特有の構成ないし成分を直接もたらすものに当たるということはできな

いから,本件各発明の課題の解決に不可欠なものであるとは認められない。

(4) 原告は,ピオグリタゾンが公知であったとしても,これが「その発明に

よる課題の解決に不可欠なもの」に該当することを否定すべき理由はないし,

ピオグリタゾンは,これを用いることによって本件各発明の課題を解決する

ことができる重要な成分であり,ピオグリタゾンがなければ本件各併用薬と

の組合せという従来技術には見られない特徴的技術手段をもたらすことはで

きず,これを他の有効成分に置き換えることもできないから,当該手段を特

徴付けている特有の成分に当たると主張する。

しかしながら,本件各発明は,ピオグリタゾンと本件各併用薬という,い

ずれも既存の物質を組み合わせた新たな糖尿病予防・治療薬の発明であり,

このような既存の部材の新たな組合せに係る発明において,当該発明に係る

組合せではなく,単剤としてや,既存の組合せに用いる場合にまで,既存の

部材が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当すると解すると

すれば,当該発明に係る特許権の及ぶ範囲を不当に拡張する結果をもたらす

との非難を免れない。このような組合せに係る特許製品の発明においては,

61
既 存の部材自体は,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から

必要とされていたものに過ぎず,既存の部材が当該発明のためのものとして

製造販売等がされているなど,特段の事情がない限り,既存の部材は,「そ

の発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しないと解するのが相当で

ある。

被告ら各製剤の添付文書には,前記前提事実のとおり,【効能・効果】,

【用法・用量】欄に,食事療法と運動療法,又は,食事療法と運動療法に加

え,本件各併用薬等を使用する治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗

性が推定される2型糖尿病に対して被告ら各製剤が効能,効果を有すること

やそれらの場合における被告ら各製剤の用量や投与回数及び時期等について

の記載があるほか,薬剤の併用投与の場合の注意事項等についての記載はあ

るが,本件各併用薬との併用投与を推奨するような記載や被告ら各製剤が本

件各併用薬との組合せのためのものであるとの趣旨の記載はないから,添付

文書の記載内容をもって,被告ら各製剤が本件各発明のためのものとして製

造販売等されているということはできず,その他,特段の事情があることを

認めるに足りる証拠はない。

原告の上記主張は,採用することができない。

(5) また,原告は,本件各発明により,ピオグリタゾンを他の糖尿病治療薬

と組み合わせるまでは発揮されなかったところの従来技術(ピオグリタゾン

単剤)に見られない物質属性を新たに見出したものであると主張する。

しかしながら,ピオグリタゾン自体は,本件各発明が解決しようとする課

題とは無関係に従来から必要とされていたものであり,これが本件各発明の

ためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情があることは認

められないから,被告ら各製剤は,「その発明による課題の解決に不可欠

もの」であるということはできない。

原告の上記主張も,これを採用することはできない。

62
(6) したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,特許法1

01条2号に掲げる行為に該当しない。

3 以上によれば,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,全

て理由がない。

4 よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部



裁判長裁判官 野 輝 久




裁判官 三 井 大 有




裁判官 志 賀 勝




63
別紙

当 事者目録
大 阪市<以下略>

両 事 件 原 告 武田薬品工業株式会社

(以下「原告」という。)

上記平成23年(ワ)第19435号事件訴訟代理人弁護士

国 谷 史 朗

長 澤 哲 也

重 冨 貴 光

古 賀 大 樹

高 田 真 司

黒 田 佑 輝

同訴訟復代理人弁護士 長谷部 陽 平

上記平成23年(ワ)第19436号事件訴訟代理人弁護士

室 谷 和 彦

面 谷 和 範

山形県天童市<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

日新製薬株式会社

(以下「被告日新製薬」という。)

東京都台東区<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

高田製薬株式会社

(以下「被告高田製薬」という。)

富山市<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

64
日医工株式会社

(以下「被告日医工」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士 新 保 克 芳

高 崎 仁

近 藤 元 樹

洞 敬

井 上 彰

酒 匂 禎 裕

東京都港区<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

富士フイルムファーマ株式

会社

(以下「被告富士フイルムファーマ」という。)

同訴訟代理人弁護士 笹 本 摂

同訴訟代理人弁理士 福 本 積

同訴訟復代理人弁護士 向 多 美 子

同補佐人弁理士 田 坂 一 朗

東京都港区<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

サンド株式会社

(以下「被告サンド」という。)

同訴訟代理人弁護士 三 村 まり子

古 島 ひろみ

椙 山 敬 士

曽 根 翼

片 山 史 英

65
同補佐人弁理士 森 本 敏 明

東京都中央区<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

第一三共エスファ株式会社

(以下「被告第一三共エスファ」という。)

同訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫

橋 口 尚 幸

齋 藤 誠二郎

名古屋市<以下略>

旧商号大洋薬品工業株式会社

平成23年(ワ)第19435号事件被告

テバ製薬株式会社

(以下「被告テバ製薬」という。)

同訴訟代理人弁護士 吉 原 省 三

小 松 勉

三 輪 拓 也

上 田 敏 成

同補佐人弁理士 石 井 良 夫

後 藤 さなえ

佐 川 冴 子

金沢市<以下略>

平成23年(ワ)第19435号事件被告

辰巳化学株式会社

(以下「被告辰巳化学」という。)

同訴訟代理人弁護士 久 保 精一郎

福井県あわら市<以下略>

66
平 成23年(ワ)第19435号事件被告

小林化工株式会社

(以下「被告小林化工」という。)

同訴訟代理人弁護士 飯 田 秀 郷

栗 宇 一 樹

大 友 良 浩

隈 部 泰 正

和 氣 満美子

戸 谷 由布子

辻 本 恵 太

林 由希子

森 山 航 洋

東京都新宿区<以下略>

平成23年(ワ)第19436号事件被告

持田製薬株式会社

(以下「被告持田製薬」という。)

同訴訟代理人弁護士 飯 塚 卓 也

齋 藤 浩 貴

辰 野 嘉 則




67
別紙

製 剤目録
以 下の各販売名を有する製剤。

(被告日新製薬)

1 ピオグリタゾン錠15mg「NS」

2 ピオグリタゾン錠30mg「NS」

3 ピオグリタゾンOD錠15mg「NS」

4 ピオグリタゾンOD錠30mg「NS」

(被告高田製薬)

5 ピオグリタゾン錠15mg「タカタ」

6 ピオグリタゾン錠30mg「タカタ」

7 ピオグリタゾンOD錠15mg「タカタ」

8 ピオグリタゾンOD錠30mg「タカタ」

(被告富士フイルムファーマ)

9 ピオグリタゾン錠15mg「FFP」

10 ピオグリタゾン錠30mg「FFP」

11 ピオグリタゾンOD錠15mg「FFP」

12 ピオグリタゾンOD錠30mg「FFP」

(被告サンド)

13 ピオグリタゾン錠15mg「サンド」

14 ピオグリタゾン錠30mg「サンド」

(被告第一三共エスファ)

15 ピオグリタゾン錠15mg「DSEP」

16 ピオグリタゾン錠30mg「DSEP」

17 ピオグリタゾンOD錠15mg「DSEP」

18 ピオグリタゾンOD錠30mg「DSEP」

68
( 被告テバ製薬)

19 ピオグリタゾン錠15mg「タイヨー」

20 ピオグリタゾン錠30mg「タイヨー」

21 ピオグリタゾンOD錠15mg「テバ」

22 ピオグリタゾンOD錠30mg「テバ」

(被告日医工)

23 ピオグリタゾン錠15mg「日医工」

24 ピオグリタゾン錠30mg「日医工」

25 ピオグリタゾンOD錠15mg「日医工」

26 ピオグリタゾンOD錠30mg「日医工」

(被告辰巳化学)

27 ピオグリタゾン錠15mg「TCK」

28 ピオグリタゾン錠30mg「TCK」

29 ピオグリタゾンOD錠15mg「TCK」

30 ピオグリタゾンOD錠30mg「TCK」

(被告小林化工)

31 ピオグリタゾン錠15mg「MEEK」

32 ピオグリタゾン錠30mg「MEEK」

33 ピオグリタゾンOD錠15mg「MEEK」

34 ピオグリタゾンOD錠30mg「MEEK」

(被告持田製薬)

35 ピオグリタゾン錠15mg「モチダ」

36 ピオグリタゾン錠30mg「モチダ」




69
別紙

医 薬品目録
1 ア カルボース,ボグリボース又はミグリトールを含む医薬品

2 ビグアナイド剤を含む医薬品

3 グリメピリドを含む医薬品




70
別紙

引 用例目録
1 「 経口糖尿病薬−新薬と新しい治療プラン−」(綜合臨牀vol.43,no.1

1・2615〜2621頁。平成6年11月刊行。乙丙共2−4,乙G4,丙

11)

2 「経口血糖降下剤の選択と用い方」(糖尿病UP−DATE 10・68〜

77頁。平成6年4月刊行。乙A4,乙B9,乙E8,丙15)

3 「NIDDMの新しい治療薬」(Therapeutic Research vol.14 no.1

0・4122〜4126頁。平成5年10月刊行。乙丙共2−3,乙G3,丙

10)

4 「 Using the Oral Hypoglycemic Agents 」 ( The Endocrinologist Vol. 3

no.5・321〜329頁。1993年刊行。乙B8,乙C24,乙D14,

乙E13)

5 「インスリン感受性改善剤,AD−4833(pioglitazone)のSU剤との

併用試験(糖尿病 第37巻臨時増刊号・413頁。平成6年4月刊行。乙A

11,乙B7,乙C15,乙E9,丙16)

6 「新しい経口血糖降下剤CS−045のインスリン非依存性糖尿病患者に対

する初期第U相治験成績」(臨床医薬9巻Suppl.3・3〜18頁。平成5年7

月刊行。乙C25,乙D16,乙G12)

7 「新しい経口血糖降下薬CS−045のインスリン非依存糖尿病患者に対す

るSU剤との併用投与における臨床評価−プラセボを対照薬とした二重盲検比

較試験−」(臨床医薬第9巻Suppl.3・95〜126頁。平成5年7月刊行。

乙A7,乙B11,乙C19,丙18)




71
別紙




72
別紙




73
別紙




74